特許第6262253号(P6262253)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262253
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】化学的に操作されるチューリングマシン
(51)【国際特許分類】
   G06G 7/42 20060101AFI20180104BHJP
   G06Q 99/00 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   G06G7/42
   G06Q99/00
【請求項の数】18
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-552052(P2015-552052)
(86)(22)【出願日】2014年1月10日
(65)【公表番号】特表2016-513299(P2016-513299A)
(43)【公表日】2016年5月12日
(86)【国際出願番号】EP2014050350
(87)【国際公開番号】WO2014108485
(87)【国際公開日】20140717
【審査請求日】2016年12月16日
(31)【優先権主張番号】13/739,332
(32)【優先日】2013年1月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510301493
【氏名又は名称】レプソル,ソシエダッド アノニマ
(73)【特許権者】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】フアン、ペレス−メルカデル
(72)【発明者】
【氏名】マルタ、デュエニャス−ディエス
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル、ケース
【審査官】 三橋 竜太郎
(56)【参考文献】
【文献】 藤枝 修子,「化学振動反応の熱的挙動」,熱測定,日本,日本熱測定学会,1996年12月16日,第24巻,第1号,p.2-11
【文献】 ALLEN HJELMFELT, EDWARD D. WEINBERGER, AND JOHN Ross,"Chemical implementation of finite-state machines",PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES USA,米国,Chemistry,1992年 1月,Vol.89,p.383-387
【文献】 D. Lebender and F. W. Schneider,"Logical Gates Using a Nonlinear Chemical Reaction",JOURNAL OF PHYSICAL CHEMISTRY USA,米国,1994年 8月,Vol.98,p.7533-7537
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 19/00
G06G 1/00−99/00
G06Q 10/00−10/10
30/00−30/08
50/00−50/20
50/26−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形化学振動反応にもとづくチューリングマシンであって、
多重状態に達することができる反応物質を含んでなる反応物質溶液を含んでなる反応器に供給する、2記号の化学的なアルファベットからの記号からなるデータ配列を提供するための入力源、
反応物質を含んでなる反応物質溶液を含んでなる反応器に選択された量の第一化学種を供給するための第一化学種源であって、第一化学種は2記号の化学的なアルファベットの第一の記号に対応するもの、
反応物質を含んでなる反応物質溶液を含んでなる反応器に選択された量の第二化学種を供給するための第二化学種源であって、第二化学種は2記号の化学的なアルファベットの第二の記号に対応するもの、
入力に応答する第一および第二化学種源からの第一および第二化学種の添加を制御することに連動する一以上のコントローラ、および
コントローラが選択された量のそれぞれ第一および第二化学種を反応器に添加する第一および第二化学種源を制御するときに、反応物質中の変化を感知するために配置された一以上のセンサ
を具備してなり、コントローラが反応物質の状態に対応する、非線形化学振動反応の振幅および周波数である、信号を受け取り、反応物質の状態を入力関数として計算された結果に関連づける、チューリングマシン。
【請求項2】
さらに前記入力をコントローラに提供するテープを具備してなる、請求項1に記載のチューリングマシン。
【請求項3】
前記一以上のセンサが酸化還元センサ、pHセンサ、温度センサ、圧力センサ、紫外−可視センサ、またはそれらの組み合わせを具備してなる、請求項1または2に記載のチューリングマシン。
【請求項4】
第一化学種が酸化剤を含んでなり、かつ、第二化学種が還元剤を含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のチューリングマシン。
【請求項5】
前記酸化剤が臭素酸イオンを含んでなる、請求項4に記載のチューリングマシン。
【請求項6】
前記還元剤がマロン酸を含んでなる、請求項4に記載のチューリングマシン。
【請求項7】
前記反応器が連続撹拌槽型反応器である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のチューリングマシン。
【請求項8】
前記センサが定期的に反応物質溶液中の色変化を検知するように構成される分光計を具備してなる、請求項1〜7に記載のチューリングマシン。
【請求項9】
第一化学種源および/または第二化学種源がビュレットまたは注射器ポンプを具備してなる、請求項1〜8に記載のチューリングマシン。
【請求項10】
前記反応物質が準安定状態または振動状態に達することができる化合物を含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のチューリングマシン。
【請求項11】
前記反応物質が遷移金属錯体を含んでなる、請求項10に記載のチューリングマシン。
【請求項12】
前記遷移金属錯体がルテニウム錯体、セリウム錯体、鉄錯体、またはコバルト錯体である、請求項11に記載のチューリングマシン。
【請求項13】
前記ルテニウム錯体がトリス(ビピリジン)ルテニウム(II)錯体である、請求項12に記載のチューリングマシン。
【請求項14】
前記入力が丸括弧を含んでなる、請求項1〜13のいずれか一項に記載のチューリングマシン。
【請求項15】
前記チューリングマシンが丸括弧チェッカーである、請求項1〜14のいずれか一項に記載のチューリングマシン。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の一以上のチューリングマシンを具備してなるプログラム可能な化学コンピュータの中央処理装置。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の一以上のチューリングマシンを具備してなるプログラム可能な化学コンピュータ。
【請求項18】
非線形化学振動反応にもとづく化学チューリングマシンの操作方法であって、
多重状態に達することができる反応物質を含んでなる反応物質溶液を含んでなる反応器に供給する、2記号の化学的なアルファベットからの記号からなるデータ配列を提供するための入力源を提供すること、
入力に応答する、第一化学種源および第二化学種源から2記号の化学的なアルファベットの第一の記号に対応する第一化学種および2記号の化学的なアルファベットの第二の記号に対応する第二化学種の添加を制御することに連動するコントローラに入力を提供すること、
コントローラが第一および第二化学種源を制御し、選択された量のそれぞれ第一および第二化学種を反応器に添加させるときに、反応器の変化を検知することであって、ここでコントローラは反応物質の状態に対応する、非線形化学振動反応の振幅および周波数である、信号を受け取る、および
反応物質の状態を入力関数として計算される結果に関連づけること、
を含んでなる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的に操作されるチューリングマシンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
普遍的なチューリングマシンは、1936年にアラン・チューリングによって考案された。これは、数学者による紙と鉛筆での作業をモデル化することを意図したものであった。チューリングマシンは演算処理モデル、すなわち、マシンの「手続き」としても知られるいくつかのアルゴリズムによって与えられる演算処理を表現し実行する方法、である。チューリングマシンは、セルオートマトン、ニューラルネットワーク、およびデジタルコンピュータ等の、他の多くの演算処理モデルと、数学的および論理的に等価である。どの演算処理モデルもチューリングマシンよりも強力ではないので、問題が「演算処理可能」であると呼ばれるときに意味するものを、チューリングマシンが具体化することが考えられている。つまり、そのアルゴリズムが記述されうるあらゆるものが、チューリングマシンによって演算処理が可能となるである。チューリングマシンは、停止性問題の決定不能性および計算不能関数の存在など、演算処理の性質および限界に関する多くの重要な考えや定理の証明を容易にしてきた。
【0003】
チューリングマシンは、思いつくあらゆる具体的なアルゴリズムを実行するために構成されてもよいが、物理的にマシンを作り、新たな問題を解くことは実現困難である。幸運にも、チューリングマシンを、別のチューリングマシンからの記述およびデータテープを入力として捉え、それ自体のテープ上にシミュレートするように構成することができる。このようなチューリングマシンは、万能チューリングマシン(UTM)として知られている。パーソナルコンピュータは、万能チューリングマシンにとても近いものである。その中で走るプログラムは特定のアルゴリズムの記述、つまり特定のチューリングマシン、である。しかしながら、パーソナルコンピュータはさらなる容量が必要になるたびにメモリを拡張することができないので、UTMには及ばない。それゆえ、チューリングマシンには、例えばパーソナルコンピュータの欠点を克服し、よりUTMに近づける技術的な要求がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様は、化学振動反応にもとづくチューリングマシンであって、反応物質を含んでなる反応物質溶液を含んでなる反応器、選択された量の第一化学種を供給するための第一化学種源、選択された量の第二化学種を供給するための第二化学種源、入力に応答する第一および第二化学種源からの第一および第二化学種の添加を制御することに連動する一以上のコントローラ、およびコントローラが選択された量のそれぞれ第一および第二化学種を反応器に添加する第一および第二化学種源を制御するときに、反応物質中の変化を感知するために配置された一以上のセンサを具備してなり、コントローラが反応物質の状態に対応する信号を受け取り、反応物質の状態を入力関数として計算された結果に関連づけるものである。
【0005】
本発明の第2の態様は、第1の態様において定義されるチューリングマシンであって、さらにコントローラに入力を提供するためのテープを具備してなるものである。
【0006】
本発明の第3の態様は、前述の態様において定義されるチューリングマシンであって、一以上のセンサが酸化還元センサ、pHセンサ、温度センサ、圧力センサ、紫外−可視光センサ、またはそれらの組み合わせを具備してなるものである。
【0007】
本発明の第4の態様は、前述の態様において定義されるチューリングマシンであって、第一化学種が酸化剤を含んでなり、かつ、第二化学種が還元剤を含んでなるものである。
【0008】
本発明の第5の態様は、第4の態様において定義されるチューリングマシンであって、酸化剤が臭素酸イオンであるものである。
【0009】
本発明の第6の態様は、第4の態様において定義されるチューリングマシンであって、還元剤がマロン酸であるものである。
【0010】
本発明の第7の態様は、前述の態様において定義されるチューリングマシンであって、反応器が連続撹拌槽型反応器であるものである。
【0011】
本発明の第8の態様は、前述の態様において定義されるチューリングマシンであって、センサが定期的に反応物質溶液中の色変化を検知するように構成される分光計を具備してなるものである。
【0012】
本発明第9の態様は、前述の態様において定義されるチューリングマシンであって、第一化学種源および/または第二化学種源がビュレットまたは注射器ポンプを具備してなるものである。
【0013】
本発明の第10の態様は、前述の態様において定義されるチューリングマシンであって、反応物質が準安定状態または振動状態に達することができる化合物を含んでなるものである。
【0014】
本発明の第11の態様は、前述の態様において定義されるチューリングマシンであって、反応物質が遷移金属錯体を含んでなるものである。
【0015】
本発明の第12の態様は、前述の態様において定義されるチューリングマシンであって、遷移金属錯体がルテニウム錯体、セリウム錯体、鉄錯体、またはコバルト錯体であるものである。
【0016】
本発明の第13の態様は、第12の態様において定義されるチューリングマシンであって、ルテニウム錯体がトリス(ビピリジン)ルテニウム(II)錯体であるものである。
【0017】
本発明の第14の態様は、前述の態様において定義されるチューリングマシンであって、上記で定義されるチューリングマシンの入力が丸括弧または丸括弧の文字列を含んでなるものである。
【0018】
本発明の第15の態様は、前述の態様において定義されるチューリングマシンであって、前記チューリングマシンが丸括弧チェッカーであるものである。
【0019】
本発明の第16の態様は、前述の態様において定義される、プログラム可能な化学コンピュータの中央処理装置としてのチューリングマシンである。
【0020】
本発明の第17の態様は、前述の態様またはそれらの適当な変形において定義される一以上のチューリングマシンを具備してなるプログラム可能な化学コンピュータの中央処理装置である。
【0021】
本発明の第18の態様は、前述の態様またはそれらの適当な変形において定義される一以上のチューリングマシンを具備してなるプログラム可能な化学コンピュータである。
【0022】
本発明の第19の態様は、化学振動反応にもとづく化学チューリングマシンの操作方法であって、反応物質溶液を含んでなる反応器、入力に応答する、第一化学種源および第二化学種源から第一および第二化学種の添加を制御することに連動するコントローラに入力を提供すること、コントローラが第一および第二化学種源を制御し、選択された量のそれぞれ第一および第二化学種を反応器に添加させるときに、反応器の変化を検知することであって、ここでコントローラは反応物質の状態に対応した信号を受け取る、および、反応物質の状態を入力関数として計算される結果に関連づけること、を含んでなる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施形態例による有限ステートマシン(FSM)の配置図である。
【0024】
図2図2および図3は、ノモグラフ(つまり、行われた計算結果および判断された結果を比較したものに対する検量線グラフ)である。
図3
【0025】
図4図4は、実施形態例によるFSMの配置図である。
【0026】
図5A図5Aおよび5Bは、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンの標準論理配置図であり、入力テープおよびヘッド、論理カウンタテープおよびヘッド、ロケータテープおよびヘッド、ならびに、出力テープおよびヘッドを含むものである。
図5B
【0027】
図6図6および7は、ノモグラフである。
図7
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示は、化学的に操作されるチューリングマシンの形態の設計、具現化、および操作を提示するものである。いくつかの形態において、化学的に操作されるチューリングマシンは、潜在的に無限の入力テープと化学反応に使用する有限ステートマシン(FSM)とを結び付ける。いくつかの形態において、ひとたび入力テープ中の情報が本発明の形態である化学的に操作されるチューリングマシンに入力されると、本発明の形態である化学的に操作されるチューリングマシンは化学エネルギー(つまり、化学反応)を、論理状態の遷移を含むその操作に関連する全ての特徴に使用し、論理演算の課程で機械的、電気的、電子的、またはその他の形の外部の介入を必要としないのである。
【0029】
いくつかの形態において、有限ステートマシンは、周知であり、広範囲で確認された、ベロウソフ/ジャボチンスキー(B/Z)反応の多状態半回分もしくは回分(例えば、間欠流)、または連続撹拌槽型反応器(CSTR)式の特性の状態動力学にもとづく。この形態において、入力テープを通してマシンに入力された情報上の「アルファベット」(例えば、2構成の(two−member)アルファベットまたは2文字(two−letter)のアルファベット)は、二種類の異なった化学種の添加に対応するので、2文字のアルファベットまたは2記号(two−symbol)のアルファベットにもとづくものである。あらかじめ決められた量の2つの異なった化学種が反応物質を含んでなる反応物質溶液(例えば、水溶液中)を含んでなる反応器に添加されている特定の順序により、B/Z反応が有限個の不連続状態に至らされる。これらの状態は感知/検出され、入力テープによって供給される特定の順序の刺激/入力に応答する、化学的に操作されるチューリングマシンによって実行される「演算処理」の結果として、判断されうる。化学的に操作されるチューリングマシンのエネルギー源は、演算処理中に起こる化学反応において消費される化学エネルギーである。
【0030】
いくつかの形態において、ここで述べる化学的に操作されるチューリングマシンの入力テープに入力される情報上の「アルファベット」は、開き丸括弧「(」および閉じ丸括弧「)」を含んでなる。そのような形態では、ここで述べるように化学的に操作されるチューリングマシンを、基本「丸括弧チェッカー」として、開きおよび閉じ丸括弧が適切に形成されている(つまり、配列において、開き丸括弧ごとがあれば、対応する閉じ丸括弧が存在する)かどうかを判断するように、構成することが可能である。実際、化学的に操作されるチューリングマシンは、いくつかの形態において、1950年代にミンスキーによって構成された一般的な標準丸括弧チェッカーの化学的な一般化である。例えば、Minsky 1967,Computation:Finite and Infinite Machines,Prentice Hallを参照されたい。Minskyのマシンは、チューリングマシンの最も簡易なものの一つとしてよく知られている。今まで、そのようなマシンは機械学、電子工学および理論上周知の化学的性質である酵素を使用することにもとづき構成されてきたが、実際のところ第一原理から物理的または化学的に実装することは達成されていない。化学的手段を使用したMinskyのようなマシン(つまり、現存する生物系の化学の利用や参照することなく、完全に機能性、操作、設計、および構成を設計者によって完全に制御するマシン)は未だ設計されていないし、実行されていないのである。
【0031】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、化学的演算処理の構想は、あらゆる無機(例えば、実在の生物と無関係である)系で行われ、そして化学振動反応にもとづいて実現されるものである。その原理は一般的であり、例えばあらゆる無機化学系またはあらゆる有機金属化学系まで、拡張されうる。本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、化学的に計画され、かつ化学的に操作される、化学にもとづくコンピュータの創出への道を開くものであり、計画された機能を実行し、操作をおこない、完全に自律的な方法で情報を取り扱うことができるものである。このような化学的なコンピュータは、化学的な刺激に対して、入力テープに記録された刺激に一意的に関連づけられて、結果が秩序づけられた化学的な応答ができるかもしれない。この応答は、いくつかの有効な手続きである化学を用いた実施の結果(つまりアルゴリズム)である。
【0032】
しかしながら、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、無機化学に限定されず、一般的な構成であって、自然発生的および人工的なものを含む生化学系においても実行されうる。生化学系が、振動性であり、少なくとも2つの基質、または1つの基質と振動目的で基質のように機能することが可能である付加的な基質を有することが条件である。化学の振動性は、本発明のいくつかの形態によるチューリングマシンによって実行される手続き(またはアルゴリズム)において非線形性の存在を処理するために必要とされる。非化学的なチューリングマシンの実行においては、オン−オフ切り替えを介して、例えば、適切に接続されると、べき級数展開としての手続きにおいて非線形展開を提供し送り込むように、なされる(Shannon 1940,A Symbolic Analysis of Relays and Switching Circuits,M.Sc.Thesis,MIT;Lloyd 1992,Phys.Lett.A 167 255−260)。本発明のさまざまな形態による化学的に操作されるチューリングマシンにおいては、フーリエ級数を使用する非線形展開によって、代わりになされるのである。化学における振動は、フーリエ級数の基本であるサインおよびコサイン関数の要素を提供する。振動反応のために、少なくとも2つの基質(または、1つの基質と振動目的で基質のように機能することが可能である付加的な基質)を必要とするのは、アルファベットの「文字」を提供するのに必要であるからであると思われる。そこでは、問題(例えば、開きおよび閉じ括弧の任意の配列)が本発明のさまざまな形態による化学的に操作されるチューリングマシンに提供される。実際、2文字のアルファベットは、おそらくコード化された形式において、任意の長さのいかなるメッセージを表現するために必要とされるアルファベットの最小の長さである。
【0033】
それゆえ、本発明のさまざまな形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、性質、起源、または特定の化学から独立している。無機および有機(どちらにおいても人工または天然を含む)の両方が、マシンを操作するであろう。2つの基質(または、1つの基質と振動目的で基質のように機能することが可能である付加的な基質)が存在する化学振動反応を利用する限り、当業者の知識を有する誰もが実現することができる。2基質の振動は、有機合成振動における無機化学(ベロウソフ/ジャボチンスキー反応の場合のように)、または生体振動子(転写制御因子の合成ネットワークのように(Elowitz and Liebler 2000,Nature 403:335−338)、または無機化学および現在の自然生物学(糖分解振動の場合のように(Sel’kov 1968,European J.Biochem.4:79−86;Hess and Boiteaux 1971、Annu Rev Biochem.40:237−258;Chance,Pye,Ghosh and Hess 1973,Biological and Biochemical Oscillators,(Academic Press);Novak and Tyson 2008,Nat Rev Mol Cell Biol.12:981−991)にもとづくことが可能である。
【0034】
「生体振動子」の一例として、フォトルミネッセンス酵素ホスホフルクトキナーゼ(PFK)が挙げられる。例えば、Tyson 2002,Biochemical Oscillations,in Fall,Marland,Wagner,Tyson,eds.,computational Cell Biology(Springer−Verlag)230−260であり、フルクトース−6−リン酸を、リン酸供与体としてアデノシン三リン酸(ATP)でリン酸化し、フルクトース−1,6−重リン酸を生成する。解糖において、ATPは、基質およびPFK阻害剤の両方であり、反応生成物であるアデノシン二リン酸(ADP)は酵素の活性化剤である。本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンおいて、ADPは第一化学種に類似しており、ATPは第二化学種に類似している。さらに、ベロウソフ/ジャボチンスキー反応無機形態においてなされた反応物質溶液の酸化還元電位の振動が観察される代わりに、ここでは、酵素PFKの蛍光発光、および一連のADPとATPの液滴がチューリングマシンに供給されるときの引き続き起こる蛍光発光の振動と振幅の変化を観察する。
【0035】
本発明による化学的に操作されるチューリングマシンは、化学振動反応にもとづくものであり、
【0036】
反応物質を含んでなる反応物質溶液を含んでなる反応器、
【0037】
選択された量の第一化学種を供給するための第一化学種源、
【0038】
選択された量の第二化学種を供給するための第二化学種源、
【0039】
入力に応答する第一および第二化学種源からの第一および第二化学種の添加を制御することに連動する一以上のコントローラ、および
【0040】
コントローラが選択された量のそれぞれ第一および第二化学種を反応器に添加する第一および第二化学種源を制御するように、反応物質中の変化を感知するために配置された一以上のセンサを具備してなり、コントローラが反応物質の状態に対応する信号を受け取り、反応物質の状態を入力関数として計算された結果に関連づけるものである。
【0041】
ここで用いられるように、用語「反応物質溶液」は、溶媒中で溶解されている反応物質を含むものであるが、これに限定されない。溶媒は、あらゆる最適な溶媒または溶媒の組み合わせを使用できる。前記溶媒を、水や、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等のC1−C4アルコールや、それらの混合物から選択することができる。例えばジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドのような共溶媒が、反応物質溶液中に存在してもよい。最終的に、酸(例えば、硫酸、硝酸、またはその他の等価な無機強酸を含んでなる酸性水溶液、またはそれらの混合物)は反応物質溶液中に存在することができる。
【0042】
いくつかの形態において、反応物質溶液を含んでなる反応器は、半回分もしくは回分(例えば、間欠流)または反応物質溶液で満たされた連続撹拌槽型反応器(CSTR)でよい。反応器は、ピコリットルサイズから、ナノリットルサイズまで、マイクロリットルサイズまで、マルチリットルサイズまで、パイロットプラント規模まで、工業規模まででさえも、あらゆる最適なサイズが可能である。当業者は反応器の適切なサイズを判断することができるであろう。
【0043】
いくつかの形態において、反応物質溶液は酸性である。反応物質溶液は硫酸、硝酸、もしくはその他の等価な無機強酸を含んでなる酸性溶液(例えば、酸性水溶液)またはそれらの混合物を使用して、酸化させてもよい。
【0044】
ここで用いられるように、用語「反応物質」は、準安定状態または振動状態(これは、2つの基質、または1つの基質と振動目的で基質のように機能することが可能である付加的な基質を有する振動系と言うことも可能である)に達することができる化合物を含むが、これに限定されない。前記化合物または振動系は、無機、有機金属、または金属(どの場合も、人工または天然)であることが可能である。
【0045】
ここで用いられるように、用語「準安定状態」は、不安定および過渡的だが、比較的長く続く化学系の状態のことを広く指す。
【0046】
上述の準安定状態または振動系を有する化合物は、限定されないが、遷移金属錯体/触媒、例えば、ルテニウム(II)錯体、ルテニウム(III)錯体、セリウム(III)錯体、またはセリウム(IV)錯体を含み、そこで遷移金属錯体/触媒は2つの酸化状態(例えば、ルテニウム(II)およびルテニウム(III))の間で振動するであろう。いくつかの形態において、遷移金属錯体の配位子は、例えばトリス(ビピリジン)ルテニウム(II)錯体においてはビピリジンである。一般的な定義において、振動系は、例えばルテニウム(II)/ルテニウム(III)、セリウム(III)/セリウム(IV)、または鉄(II)/鉄(III)によって形成されうる。本発明によるその他の可能な振動系には、組み合わせI/IOにもとづくものがある。この系は、過酸化水素の存在下で機能し(Bray 1921,JACS.43(6):1262;Liebhafsky 1969,Anal.Chem.,4:1894−1897)、さらに、マンガン(II)の存在下で機能する(Briggs and Rauscher 1973,J.Chem.Ed.50:496)。さらに、本発明による振動系は、硫黄、リン、またはコバルトを使用し、生体振動子の例には、解糖におけるホスホフルクトキナーゼ(PFK)系(Hess and Boiteaux 1973 op. cit.)が挙げられる。特別な形態において、遷移金属錯体は、第一鉄−第二鉄、またはその他の遷移金属イオンや錯体であって、それらは少なくとも2つの電子の点で異なる酸化状態を有し、1つの酸化状態から別の状態に変化するときに溶液の色が変化する。これらの触媒の混合物もまた考慮される。
【0047】
本発明のさまざまな形態によるチューリングマシンを操作するのに必要とする全てが振動反応であることをこれから明確にすべきであろう。本発明によって最適なさまざまな振動反応は文献に開示されている。例えば、Noyes and Field 1974,Journal of Chemical Physics,60(5):1877−1884,and Epstein et al.2003,Dalton Trans.1201−1217(ここで参照しているものも含まれる)は、公知の振動反応の説明および新規系統的探索のための一般的ルールを、一般的数学モデル、系を平衡状態にならないようにするための連続撹拌槽型反応器、および無機反応力学に結び付けることによって、提供している。Epstein et al.2003,Dalton Trans.1201−121によって開示されるアプローチは、次の原理にもとづくものである。
【0048】
(1)系が平衡でない状態であれば、持続的な振動は起こりうる。持続的な振動を起こすための1つの方法は、流通式反応器中で反応させることであり、これにより連続的に新たな反応物質が流入し、生成物が流出する。
【0049】
(2)流通式反応器に注がれると、自己触媒反応によって、ときに双安定挙動を示す。つまり、特定の流入濃度と流速の組み合わせで、系は、過程に依存して、それぞれ2つの固定状態に達し、それぞれが小さな摂動で安定してもよい。
【0050】
(3)双安定な系が、その系を固定状態にするために特徴的な時間に関する時間規模で、自己触媒種の濃度に影響するフィードバックにかけられると、そのフィードバックを強化し、系を特に2つのもはや安定でない固定状態で振動させることが可能となる。
【0051】
(4)自己触媒反応を選択し、流通反応器内で反応させることによって、双安定のための状態を決定し、そして、自己触媒反応において適当な種と十分にゆっくりと反応させるフィードバック種を添加することによって、上述された状況は起こりうる。流入量におけるフィードバック種の濃度を増加させることによって、系を振動状態に移行させるのである。
【0052】
このように本発明によるチューリングマシンは、上述のベロウソフ−ジャボチンスキー反応、ブリッグス−ラウシャー反応、またはブレイ−リーブハウスキー反応、および上述のアプローチや手段に続いて近年発見された仕組みなど、よく知られた振動反応で機能してもよい。さらに、唯一の方法ではないが、適切かもしれない仕組みは、有機反応(J.H.Jensen 1983,J.Am.Chem.Soc.,105:2639−2641)と同様に、硫黄(Orban and Epstein 1985,J.Am.Chem.Soc.,107:2302−2305;Fredrichs,Mlnarik,Grun and Thompson 2001,J.Phys.Chem.A,105:829−837)、リン(K.Kurin−Csorgei,M.Orban,A.M.Zhabotinsky and I.R.Epstein,2001,Faraday Discuss.,120:11−19)、コバルト(He,Kustin,Nagypal and Peintler 1994,Inorg.Chem.,33:2077−2078)およびマンガン化学(Doona,Kustin,Orban and Epstein 1991,J.Am.Chem.Soc.,113:7484−7489)にもとづくものである。それらはまた本発明によるチューリングマシンにおける化学的演算処理を実行するために計測され、使用されうる振動値の平均振幅ρ、および振動の周波数fを有する振動反応を生じさせる。
【0053】
いくつかの形態において、反応物質を含んでなる反応物質溶液を含んでなる反応器は、温度調節器を備えていてもよい。いくつかの形態において、温度調節器は反応器の温度を保持することが可能であり、温度は、好ましくは15〜25℃、より好ましくは20〜25℃で、±0.2℃の範囲内であり、B/Z反応は等温状態に近い状態で行われてもよい。その他の形態において、反応物質溶液を含んでなる反応器は、反応器内で酸化−還元電位を測定するために、酸化−還元計測器を備えていてもよい。さらに他の形態において、反応物質を含んでなる反応物質溶液を含んでなる反応器は、反応器中の溶液の吸光度変化および吸収強度を測定するために、分光光度計(例えば、UV−Vis分光光度計)を備えていていもよい。いくつかの形態において、吸光度の測定は100ミリ秒ごとに行われ、準安定状態に近づくように化学反応の変化を観察できるように選択される。このプロセスは一定状態のもとで行われるいくつかの期間のB/Z反応の振動を要し、それゆえ約100秒の間に、約1000回の吸光度測定が行われうる。
【0054】
いくつかの形態において、第一化学種源を、ビュレット、ドロップカウンタ(drop counter)、注射器ポンプ、または第一化学種を含むことができるあらゆる手段(例えば、ベシクル(vesicle))とすることが可能である。いくつかの形態において、第一化学種源をビュレットとすることが可能である。ビュレットのケースにおいて、ビュレットは、入力に応答して第一化学種源から第一化学種の添加をコントロールすることに連動するコントローラに備え付けられる。ビュレットの使用において、コントローラはいくつかの形態において、栓であってよい。いくつかの形態において、コントローラを注射器ポンプ、電磁弁、微小流体もしくは化学的に操作されるゲルバルブ等とすることができる。その他の形態において、コントローラは第一化学種が放出されうるいかなる手段であってもよく、例えば、入力に応答して第一化学種を(例えば、破断によって)放出するであろう第一化学種を含むベシクルが挙げられる。
【0055】
第一化学種源は、反応物質を含んでなる反応物質溶液を含んでなる反応器に、個別の量の第一化学種を添加することができる。いくつかの形態において、第一化学種は酸化剤を含んでなる。いくつかの形態において、その酸化剤は固体であり、好ましくは結晶の形態である。別の方法として、酸化剤は溶液である。
【0056】
ここで使用される用語「酸化剤溶液」は、溶媒に溶解している酸化剤を含むが、それに限定されない。前記溶媒は、水、C−Cアルコール、およびそれらの混合物から選択することができる。酸化剤は、臭素酸(BrO)イオン、ヨウ素酸(IO)イオン等を含むが、それに限定されない。臭素酸イオンを含んでなる酸化剤には、臭素酸リチウム、臭素酸カリウム、臭素酸ナトリウム、またはその他の可溶性のアルカリ金属のシュウ酸塩、およびそれらの混合物が挙げられるが、それに限定されない。
【0057】
いくつかの形態において、第二化学種源を、ビュレット、ドロップカウンタ、注射器ポンプ、または第一化学種を含むことができるあらゆる手段(例えば、ベシクル)とすることが可能である。いくつかの形態において、第二化学種源をビュレットとすることが可能である。ビュレットの場合、ビュレットは入力に応答して第一化学種源から第一化学種の添加を制御することに連動するコントローラに備え付けられる。ビュレットの使用において、コントローラはいくつかの形態において、栓であってよい。いくつかの形態において、コントローラを注射器ポンプ、電磁弁、微小流体もしくは化学的に操作されるゲルバルブ等とすることができる。その他の形態において、コントローラは第一化学種が放出されうるいかなる手段であってもよく、例えば、入力に応答して第一化学種を(例えば、破断によって)放出するであろう第一化学種を含むベシクルが挙げられる。
【0058】
第二化学種源は、反応物質を含んでなる反応物質溶液を含んでなる反応器に、個別の量の第一化学種を添加することができる。いくつかの形態において、第一化学種は還元剤を含んでなる。いくつかの形態において、その還元剤は固体であり、好ましくは結晶の形態である。別の方法では、酸化剤が溶液である。
【0059】
ここで使用される用語「還元剤溶液」は、溶媒に溶解している還元剤を含むが、それに限定されない。前記溶媒は、水、C−Cアルコール、およびそれらの混合物から選択することができる。還元剤は、マロン酸、アスコルビン酸、炭酸、クエン酸、コハク酸、またはその他の最適なジカルボン酸、ケトン、またはジケトン、およびそれらの混合物を含むが、それに限定されない。
【0060】
一以上のセンサは、当業者に知られているいかなる種類のセンサであってもよい。いくつかの形態において、一以上のセンサは、酸化還元センサ、pHセンサ、温度センサ、圧力センサ、UV−Visセンサ、またはそれらの組み合わせでもよい。
【0061】
当業者は、様々な種類の酸化剤、還元剤、および金属錯体を使用する、多様なB/Z反応があることを認識するであろう。それゆえ、当業者が、多様なB/Z反応の等価なチューリングマシンを構築することによって、マシンを異なった制約を処理するように適用することが可能であることが予測される。
【0062】
当業者は、反応物質を含んでなる反応物質溶液(例えば、反応物質を代えることによって、遷移金属錯体/触媒を代えることを含む)、第一化学種、および/または第二化学種を変更することによって、B/Z反応において1またはいくつかの個別反応の反応速度の変化をもたらし、振動特性の変化をもたらすかもしれない。したがって、利用可能で理想的な観察可能性に適応した理想的な応答をする化学的に操作されるチューリングマシンを設計するために、B/Z反応の変形が探索されてもよい。
【0063】
反応物質溶液中の反応物質の初期濃度は、対応する量の第一化学種の存在下、第二化学種の添加による振動モードで設定されてもよく、振動モードにおける反応をひきおこす。反応物質溶液中の反応物質および最終的な酸の濃度の設定は、化学種源における酸化剤と還元剤の濃度、および試薬溶液に加えられるべき酸化剤と還元剤のそれぞれの量(滴下量)の場合と同様に、当業者にとっては定型的な作業であろう(Noyes and Furrow 1982)。しかしながら、より具体的には、反応物質溶液における反応物質の初期濃度(例えばルテニウムまたはセリウム複合体)は、好ましくは10−5M〜10−2Mの範囲であり、より好ましくは、10−4M〜10−3Mの範囲である。試薬溶液における酸の初期濃度は、好ましくは10−2M〜1Mの範囲であり、より好ましくは、10−1M〜1Mの範囲である。さらに、酸化剤溶液中の酸化剤の濃度は、好ましくは5M〜20Mの範囲であり、より好ましくは、10M〜15Mの範囲である。一方、還元剤溶液における還元剤濃度は、好ましくは1M〜15Mの範囲にあり、より好ましくは、5M〜10Mの範囲にある。最終的には、酸化および還元溶液の滴下量は、好ましくは1.0〜0.4mLの範囲であり、より好ましくは、0.8〜0.5mLの範囲にある。
【0064】
以下に非常に詳細に述べるように、化学的に操作されるチューリングマシンは、入力テープを作成することに使用された第一および第二化学種の相対濃度を、溶媒中で希釈されることなく第一および第二化学種の固体が使用されうる量まで、変化させることによって、達成されてもよい。例えば、化学量論的に調整された第一化学種の結晶および第二化学種の結晶が第一化学種溶液および第二化学種溶液の代わりに使用されてもよい。
【0065】
入力アルファベットの定義または化学的識別でさえも、変更が可能である(例えば、閉じ丸括弧を示す臭素酸イオン、開き丸括弧を示すマロン酸)。そのような化学的に操作されるチューリングマシンのために、ノモグラフ(つまり、行われる演算処理の結果と判断された結果を比較するあらかじめ目盛りが付いたグラフ。例を参照されたい。)を関連づけることができたであろう。その中で、ノモグラフ上でいずれの演算処理段階において応答は非論理的である。
【0066】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、有限ステートマシン(FSM)および入力テープを具備してなる。FSMは、いくつかの形態において、初期状態および最終状態に加え5つの状態を有する。5つの状態は、ここで提示される例に記載される。しかしながら、FSMは、初期状態および最終状態に加え5つの状態よりも多い。
【0067】
いくつかの形態において、マシンの論理操作は、物理的ではないが化学の個別の特徴を捉え、示すことを助ける一連の4つのテープとヘッドによって記述されてもよい。FSMは、特定の化学種(つまり、第一および第二化学種)が反応器に添加されるとすぐに、多重状態に入る反応物質を含んでなる反応器として、実行される。FSM中で、2シンボルアルファベット、つまり「(」および「)」の2文字に対応する一連の2物質(つまり、第一化学種と第二化学種)の導入で、演算処理がおこる。
【0068】
順序は、入力テープ中に含まれる。FSMに反応物質が加えられると、これらの化学反応への刺激によって、同様にFSMにおいてそれに続く状態への刺激として機能する化学的な結果をもたらすように化学的に設計される。その結果は、FSMの5つ(初期に加え)の状態を構成する次の活動である化学反応の化学的な結果である。これらは、振動状態を含み、その結果は、反応物質溶液において明示されるように、色の振動の頻度の変化および色相の平均強度の変化によって、明示される。これらの変化は、肉眼により、またはいくつかの形態においては分光光度計によって、容易に判断されうる。
【0069】
いくつかの形態において、FSMは、図1で示すように、反応物質溶液102を含んでなる反応器100の形式をとることができる。図4も参照されたい。このケースでは一つ目のビュレットである第一化学種源106は、選択された量の第一化学種である臭素酸イオンを供給するために使用される。このケースでは2つ目のビュレットである第二化学種源104は、選択された量の第二化学種を供給するために使用され、今回のケースではマロン酸である。このケースでは栓であるコントローラ108は、1つは源106用でもう1つは源104用であり、入力に連動して、第一化学種源106および第二化学種源104からの第一および第二化学種の添加を制御することに連動している。センサ114(例えば、酸化還元センサ、pHセンサ、温度センサ、圧力センサ、UV−Visセンサ、またはそれらの組み合わせ)は、コントローラが第一および第二化学種源を制御して、選択された量のそれぞれ第一および第二化学種を反応器に添加するために、反応物質の変化を感知するところに配置されることができる。そこでは、コントローラが反応物質の状態を示す信号110(例えば、開き丸括弧)および112(例えば、閉じ丸括弧)を受け取り、反応物質の状態を入力関数として計算される結果に結び付ける。
【0070】
FSMが図1に示される形態において、初期状態(一番左のパネル)のFSMは、“開き丸括弧”入力(中央パネル)の後に応答し、続いて“閉じ丸括弧”入力(一番右のパネル)となる。Ru−(II)錯体は、触媒が反応し、Ru−(III)状態に変化するので、その初期状態(つまり、所定の明度のオレンジ色)のFSMの色を変え、第一状態(つまり、所定の明度の緑色)に変化させる。“閉じ丸括弧”入力の後、FSMは、所定の振動数(「f」)を有する振動および2つの特定の明度と色の間の色振動を開始する。
【0071】
FSMが「丸括弧チェッカー」である形態においては、テープ/FSMの組み合わせは、チューリングマシンに入力された一連の開き閉じ丸括弧が適合するかどうかについて、チェックする。例えば、2つの順序「(())」および「()()(())」は適合するが、順序「(()(」および「((()」は不適合である。丸括弧が適合するケースでは、化学的に操作されるチューリングマシンにおけるFSMによって実行される効果的な手順は、2つの入力の第一グループに対して、プラス(つまり、論理的)の解を与えるであろう。丸括弧が不適合なケースでは、化学的に操作されるチューリングマシンにおけるFSMによって実行される効果的な手順は、2つの入力の第二グループに対して、マイナス(つまり、非論理的)の解を与えるであろう。ここで用いられる、用語「非論理的」は、適合した開き閉じ丸括弧に対して、意味をなさない表現のことを指す。
【0072】
図1からわかるように、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンによって実行される手順は、一般的なものである。さらに、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、容易に利用可能な部品および化学物質により構成されることが可能であり、特別な備品を必要としない。しかしながら、いくつかの特定の用途においては、例えば、第一および第二化学種として知られる「アルファベット文字」が供給されるまで、ポリマービーズ(例えば、反応物質を含む樹脂ビーズ)中でのB/Z反応を行うのに必要な構成要素を組み込むことによって、特別な反応器および供給システム(つまり、化学種源)が設計され、構築されてもよく、それによって、大量の可能性のある構造が発生し、それぞれがいくつかの単純な活動を実行するために使用者/設計者によってプログラム化される。一方で、構造の集合は、同相の振動、集合の分割を含むプログラム化された新たな性質、可能性としては、化学−機械的結合がおこるような制御された自己再生またはゲル(例えば、アガロースゲル)に、導くのである。
【0073】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンを含む、あらゆるチューリングマシンの操作結果を読み取る際、マシンの出力と使用者との間のインターフェースが必要となる。例えば、標準的なチューリングマシンにおいて、出力テープ上の標準丸括弧チェッカー機械的チューリングマシンによって印刷された「1」は、「丸括弧が適合する」ことを意味すると解釈され、「0」の場合は「丸括弧が不適合である」と解釈される。このインターフェースは、ここで、本発明によるいくつかの形態におけるチューリングマシンにとって、「ノモグラフ」と言い、これは使用者に結果を理解させるように設計される。
化学的に操作されるチューリングマシンの論理操作形態の例
【0074】
一般的な化学式(「レシピ」)を含む化学的に操作されるチューリングマシンに描写された形態による演算処理の簡易的な具現化のための実行は、後述される。モニタリングシステム構築、テープの論理構造、および、化学であらわされる状態と有限ステートマシンの例についても同様である。それらの例は、本発明の実施形態を理解するために示されており、もちろんここで記載される本発明の形態に限定されるべきではない。
演算処理
【0075】
化学的に操作されるチューリングマシンによって、その状態およびテープを通して、実行される演算処理は、以下により詳細に説明する「効果的な手続き」を実装する。演算処理の例は、丸括弧チェッカー(以下参照)からなる形態によって行われる。効果的な手続きは、ここで開示される化学反応の要求を満たすように設計され、化学的に操作されるチューリングマシンに「応答」させることを可能にする。その応答は、演算処理後の反応器の状態を、参照電極または分光光度計などの標準的な化学計測器を用いて、直接的に試験することにより、容易に特定されるものである。
【0076】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンにより得られる応答{<ρ>,f}は、量
【数1】
および、臭素酸リチウムが「(」を表し、かつ、マロン酸が「)」を表すB/Z反応において含まれるRu−bpyの[Ru(II)]と[Ru(III)]の2つの状態の間の振動の周波数fに、直接的に対応する。ここで、<ρ>は、平均振動振幅値である。
【0077】
演算処理は、表1に示される濃度の反応物質溶液100mLを含む撹拌反応器中で行われる。感光性反応の反応速度に影響することを避けるため、かつ、一定の温度25゜C±0.2゜Cに保つために、反応器は光から遮断される。
【表1】
【0078】
入力テープに「書き込む」ために用いられる滴下量は、表2に示される特徴を有する。
【表2】
【0079】
高濃度の臭素酸の液滴は、市販されているLiBrOにより得ることが可能である。臭素酸リチウムおよびマロン酸は、反応容器中の溶液に溶解し、反応容器中で濃度0.1MのBrO3−および濃度0.045Mのマロン酸に変化する。これらは、全ての反応量に影響し、それゆえ、他の反応の特定の属性やFSMの状態の詳細な属性の変化と同様に両生成物に特有の化学振動を調整する。
【0080】
表1および2で与えられた割合において、上記で挙げられた試薬を使用すると、反応器は、図2で示されるように、最大で7適合丸括弧の演算処理を行うことができる。さらに丸括弧が入力されると、B/Z反応ネットワークは、定常状態、つまり非振動状態に移行する。
【0081】
非振動状態に至ることなく、より長い配列を演算処理することを可能にするための方法は、入力「アルファベット」の変化、特に、臭素酸液滴に対して、液滴中のマロン酸の濃度の増加、に依存する。濃度が変化すると、ノモグラフ(後述)は再調整をしなければならないことを忘れてはならない。しかし、所定の濃度の組み合わせについて、一旦利用可能となったノモグラフは、特有であり、試験されるあらゆる表現の解釈にとって有効である。
【0082】
図3は、液滴中の試薬の濃度が変化する例を示し、液滴が反応器に添加されると、液滴が反応器中で薄くなり、それぞれ反応器中で濃度0.045MのBrO3−および濃度0.1Mのマロン酸が変化する。図に示されるように、演算処理されうる入力配列の長さは、前述の例よりも大幅に長くなるが、表2で示された濃度で達成された変化よりも小さい振動平均や振動周波数の相対的変動を検知するために、計測器にはより精密さが求められるであろう。
【0083】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンに応答した、金属錯体振動および関連する溶液色の振動を計測するために、標準的な実験器具を使用できる。典型的には、酸化還元電位および色は、それぞれ電位計および分光光度計(例えば、波長の光の吸収をモニタリングする)に接続された参照電極(例えば、Pt作用、およびAg擬参照電極)によって計測される。B/Z反応がルテニウム触媒反応である形態において、化学振動は後述する仕組みを使って計測されてもよい。1つの例が図4に示される。これは、標準的な光学モニタリングシステムであり、公開文献において開示されている。例えば、T.Amemiyaら(2002)による文献がある。このシステム400は、ダイオードレーザ402(例えば、波長635nmの光を放出するもの)、レーザ光を調節する光チョッパー404、集束レンズ406、減光フィルタ408、反応器416中の溶液414(金属錯体やその他の試薬を含んでなる)の通過後に光412(破線)の強度を計測するためのフォトダイオード410、カラーフィルタ418、フォトダイオード410からの光電流信号を増幅させる電流前置増幅器420、さらに信号を増幅させる2相ロックイン増幅器422、信号を受け取り、解釈するコンピュータ424を具備してなる。モニタリングシステム400は、また温度送信機427に接続され、反応器416の温度を調整する温度調節器426、温度送信機429に接続され、第一および第二化学種432および430の温度を調節する温度調節器428を具備してなる。最後に、モニタリングシステム400は、導管440(その中で、第二化学種源430および反応器416と流体連結する)を経由してマロン酸の添加を調節するために連結されたポンプ制御装置434、および導管442(その中で、第一化学種源432および反応器416と流体連結する)を経由して臭素酸イオンの添加を調整するために連結されたポンプ制御装置436を具備してなる。いくつかの形態において、モニタリングシステム400は、また電位計438を具備してなる。いくつかの形態において、モニタリングシステム400は、また溶液414を撹拌するための撹拌機構444を具備してなる。
上述の化学に表されるテープと有限ステートマシンの論理構造。例1丸括弧文字列「()()」および例2丸括弧文字列「()((」により解説する。
【0084】
次の例は、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンを構成するFSM/テープの組み合わせがともにどのように機能するかを示すものである。これらの例は、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンにおいて、さまざまな状態(つまり、5つの状態)の発生を示している。
【0085】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンの上述の化学系は、少なくとも次の論理部品および状態と等価である構造を有している。留意すべきは、テープ(入力テープを除く)が概念的構成物であることであり、その役割は、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンの形態の論理操作を説明することである。
論理構造
【0086】
まず、本発明による形態の論理構造の構成を簡単に説明する。図5Aおよび5Bを参照されたい。
【0087】
入力テープと入力ヘッド:入力テープは、使用者によって供給される丸括弧の文字列を含む。これは、使用者が論理的であるか否かをチェックすることを望む文字列であり、丸括弧が過剰である場合には論理的でないとなる。ヘッドは、「読み取り専用」の装置であり、テープ上のそれぞれの記号を順番通りに読み取る。
【0088】
論理カウンタおよびそのヘッド:このテープは初期状態では単に「0」と記載されている。このテープのヘッドは、「読み書き」装置である。この構成品の目的は、対応する「)」でキャンセルされていない「(」の数の記録をすることである。常に、まだキャンセルされていない「(」の数が一変数でテープ上に表示される。
【0089】
ロケータテープおよびそのヘッド:ロケータテープは、ファイリングキャビネットとして機能する無限の2次元テープである。このテープは、適切な入力で読み取りまたは書き込みされる位置を含む。この位置はセルと呼ばれる。それぞれのセルは、<ρ>、周波数f、全入力および対になっていない「(」の総数の組み合わせに関連した対の値を含む。ヘッドは、「読み取り専用」の装置であり、異なるセルに移動し、ある時間の系を表現する値である正しい<ρ>および周波数fを見つける。このテープ上のヘッドは、それぞれのアルファベットの入力に対して、一列を伝って動き、現在の時刻までに加えられた入力総数のカウンタとして機能する。
【0090】
出力テープおよびそのヘッド:このテープの初期状態は空白である。ヘッドは「書き込み専用」装置であり、テープに、それぞれの時間での系の値である<ρ>および周波数fを書き込む。その値は、後述するロケータテープおよびそのヘッドから提供される。
【0091】
ヘッド制御:これは、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンの状態、およびヘッド制御がさまざまなテープから受け取る刺激によって特定される方向にヘッドの動きを調整する中央装置である。
【0092】
全てのテープが、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンにおいて物理的に実装されるわけではない。それらは、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンを明確に論理的な説明をするのに必要なのである。
前述の論理構成の操作
【0093】
次に、前述の構成のそれぞれの論理的な操作について簡単に説明する。
【0094】
入力テープおよびヘッド:テープは、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンの使用者によって作られる。それは、使用者が論理的であるか否かを決定したいと望む丸括弧の文字列を含む。使用者は、この文字列をテープに印字される「E」で終わらせなければならない。
【0095】
論理カウンタテープおよびヘッド:テープは、「0」を含むものを除き、全てのセルが空欄の状態で始まる。このテープおよびヘッドは、それぞれの「(」を1と印字することによって、入力テープから読み取りしている間、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンが接触する不適合な「(」の数を記録するであろう。この数字は、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンが「(」に対応する「)」を読み取るたびに、1のうちの一つを「0」で置き換えることにより、減少する。
【0096】
出力テープおよびヘッド:テープの初期状態は空白である。本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンのこの部分は、それぞれの記号が入力テープから読み取られた後に、出力を記録するであろう。その出力は、いくつかの平均振動振幅値、<ρ>、および振動の周波数fを含む集合である。これらの値は、ロケータテープ上で見られ、単に出力テープ上に複製される。入力文字列が非論理的であったことを意味するものである「X」が出力テープ上に印字されてもよい。
【0097】
ロケータテープおよびヘッドは、ファイリングキャビネットとして機能し、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、そこから引き出す。これは、平均振動振幅値、ρ、および振動周波数fを特定する組み合わせを含む二次元テープである。これらの値は、いずれかの時点までの、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンによる入力の読み込みに特有のものである。本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンのヘッドは、入力が読み込まれるたびに一つのセル分下に動く。さらに、「(」が入力テープから読み取られた場合に、ヘッドは一つのセル分右へ動き、「)」が読み取られた場合には、ヘッドが一つのセル分左へ動く。
【0098】
ロケータテープ上の上下の動きは、入力総数を数える。左右の動きは、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンによって読み取られてきた一定の開き丸括弧および一定の閉じ丸括弧に対応する、特定の集合{<ρ>,f}上にヘッドを位置させる。
【0099】
ロケータヘッドは、入力テープから読み取られる入力がないことに対応して、このテープの始まり(0,0)で始まる。このセルに関連する列は、すべての{ρ*,f*}の組み合わせを含み、ある時点において本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンによって読み込まれる開きおよび閉じ丸括弧と等価な数字に対応する。
【0100】
いくつかの入力が読みこまれたある時点において、ヘッドの位置がゼロ列から離れたセルの数は、論理カウンタテープ上に一変数で記述された数と一致する。
【0101】
ヘッドは、過剰な閉じ丸括弧が読み込まれ、丸括弧の文字列が非論理的になったときのみ、Bを示す列に到達する。ヘッドが移動したセル中の「B」を見つけると、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは停止し、入力が「非論理的」であると宣言する。
【0102】
このテープ上の空白セルは、ヘッドが絶対に移動することがないであろうセルを示す。それらの位置はトータルカウンタおよびロジックカウンタのあり得ない組み合わせに対応しているからである。
化学と等価にする有限ステートマシンの状態
【0103】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンの5つの状態は以下の通りである。
【0104】
状態‐I(初期状態):これは、マシンが開始の入力をする第一状態である。この状態は、非論理的に始まる(例えば、「))」で始まる)丸括弧の文字列を、状態Q2に送り、「非論理的」とラベル付けすることによって、すぐに取り除く。文字列が「(」で始まる場合、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは状態Q1に移行する。
【0105】
状態−Q1:この状態は、ヘッド制御に、ヘッドを論理カウンタテープ上で右に1セル移動させ、ロケータテープ上でヘッドを下に1セル、右に1セル移動させる。この状態において、マシンはロケータテープからの刺激のみに応答する。この刺激に対する応答は二部分ある。第一部分は、対応する<ρ>および周波数fの対(ロケータテープによって提供される)が出力テープに印字されることである。第二部分は、「1」が論理カウンタテープに印字されることである。ここで、マシンはこの状態からは状態Q3に移行できるのみであることに留意されたい。
【0106】
状態−Q2:入力テープ上の最初の記号が「)」となったときのみ、マシンはこの状態に移行する。この状態は、ヘッド制御に、ロケータテープ上のヘッドを1セル下に、かつ1セル左に移動させる指示をおこなう。そして、ロケータテープ上のヘッドは、このセルに書き込まれた「B」を見つけるであろう。このことによって、マシンは出力テープ上の現在のセルに「X」と印字し、停止するであろう。「X」は、入力文字列が非論理的であったことを示す。
【0107】
状態−Q3:この状態では、ヘッド制御は、入力および出力テープ上のヘッドを右に1セル移動させる。この状態において、マシンは入力テープからの刺激に応答するのみである。この刺激が「(」であるとき、マシンは状態Q1に移行する。一方、刺激が「)」であるならば、マシンは状態Q4に移行し、その応答は、論理カウンタテープ上で印字される「0」である。論理カウンタテープがテープ上にいくらかの1を有していたならば、この「0」はそれらのうちの一つと置換されるであろう。刺激が「E」であるならば、マシンは状態Q5に移行する。
【0108】
状態−Q4:この状態において、ヘッド制御は、論理カウンタのヘッドを1セル左に移動させ、ロケータテープ上のヘッドを1セル下に、1セル左に移動させる。ここで、この状態において、マシンはロケータテープからの刺激に応答するのみであることに留意されたい。刺激が「B」であれば、マシンは出力テープ上に「X」を印字し、停止する。刺激がロケータテープからの<ρ>と周波数fの対であれば、その後応答は出力テープ上にこの対を印字し、マシンは状態Q3に移行する。
【0109】
状態−Q5:この状態において、ヘッドは動かない。刺激は、対で生じ、一部分は論理カウンタテープからであり、もう一方はロケータテープからである。ロケータテープからの刺激の部分は、特定の<ρ>および周波数fの対であってよい。論理カウンタテープからの刺激の部分は、「1」または「0」であってよい。「0」の場合、マシンは現在の<ρ>および周波数fの対を出力テープ上に印字する。「1」の場合、マシンは「X」を出力テープ上に印字する(その文字列は少なくとも一つの不適合の「(」を残しているため、非論理的である)。
ノモグラフ
【0110】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンを用いて丸括弧の適合をみる例について、ノモグラフは、マシンの演算処理(化学振動およびその平均値ρからなる振動特性)を以下の4つの可能性(「はい、その結果は丸括弧適合性があります」、「いいえ、入力された表現は過剰な開き丸括弧があります」、「いいえ、入力された表現は過剰な閉じ丸括弧があります」、「いいえ、入力された表現は非論理的です」)に翻訳する。
【0111】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンに使用されたB/Z反応の化学パラメータの組み合わせを考慮すると、ノモグラフはこのマシンのあらゆる場合によって実行されるあらゆる計算を翻訳するために構築され、使用されることが可能である。ノモグラフは、反応および本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンによって解決された当面の問題のための、検量線または参照曲線と等価である。それゆえ、反応状態(例えば、反応物質濃度、第一化学種の濃度、および第二化学種の濃度)の組み合わせを考慮すると、同じノモグラフがすべての演算処理に用いられなければならない。しかしながら、反応状態が調整されると、例えば入力アルファベットとして使用される液滴のサイズまたは濃度が変化すると、そのとき、化学マシンは較正が必要になるかもしれないし、新しいノモグラフが必要になるかもしれない。行われる化学反応がB/Z反応ではなく、異なった化学反応が含まれる場合も、同様のことが言える。
【0112】
ノモグラフは、適合した(またはキャンセルする)丸括弧の対の場合にのみ、振動の平均振幅が示される階段状曲線である。ノモグラフは、実行される演算処理の結果およびそれから解釈される結果を比較するものに対して、あらかじめ較正されたグラフである。グラフは、FSMに選択された順序の丸括弧が加えられるように、時間の関数として、ρにおいて振動およびその平均値の両方を表している。より具体的には、以下を満たすように構成さている。
【0113】
適合した丸括弧の表現は、出力テープの最後に演算処理されるセルにおいて、ノモグラフ線上にちょうど印字される応答で終わり、
【0114】
過剰な開き丸括弧の表現は、出力テープの最後に演算処理されるセルにおいて、ノモグラフ線の上に印字される応答で終わり、
【0115】
過剰な閉じ丸括弧の表現は、出力テープの最後に演算処理されるセルにおいて、ノモグラフ線の下に印字される応答で終わり、
【0116】
非論理的な表現は、表現が非論理的となる対応する段階で、ノモグラフ線の下に印字される結果となり、
【0117】
奇数の入力丸括弧では、応答はノモグラフ線の上または下(それぞれ、過剰な、開きまたは閉じ丸括弧)になり、かつ
【0118】
開きまたは閉じ丸括弧がどちらも過剰でない配列においてのみ、化学系の応答は、正確にノモグラフ曲線上にある。
実際の操作の例1:丸括弧文字列「()()」のチェック
【0119】
まず、チェックされる文字列が予め入力テープに書き込まれている。さらに、テープ上に、文字列における最後の丸括弧のすぐ後ろに「E」が書き込まれている。これにより、マシンに文字列の終わりを指示するであろう。図5Aを参照されたい。
【0120】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(I)で始まり、そこでは最初の丸括弧が入力テープから読み取られる。最初の丸括弧は、開き「(」である。この時点で、臭素酸イオンが添加される。マシンは状態(Q1)に移行する。その結果、論理カウンタテープ上のヘッドは1セル右に、かつロケータテープ上のヘッドは1セル下に、1セル右に、移動する。
【0121】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、現在は状態(Q1)である。ロケータテープ上のヘッドは、現時点でのセルから、その平均振動振幅値<ρ>および振動周波数fを読み取る。これによって、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは状態(Q3)に移行する。ロケータテープからの数字の対は、出力テープの1つのセルに印字される。また、「1」が論理カウンタテープ上に印字される。さらに、入力テープおよび出力テープの両方のヘッドが右に1セル移動する。
【0122】
マシンによって記号の一種のみが読み込まれるため、出力テープに書き込まれた、またはロケータテープからの等価に複製された平均振動振幅値<ρ>および周波数は、それぞれ1および0である。
【0123】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、現在、状態(Q3)である。次の入力は、入力テープから読み込まれる。このケースでは、その入力は閉じ丸括弧「)」である。図5Bを参照されたい。マロン酸が添加される。これによって、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q4)に移行する。先に印字された「1」に置換して、論理カウンタテープ上に「0」が印字される。そして、論理カウンタテープ上のヘッドが1セル左に移動し、かつロケータテープ上のヘッドが1セル下に、1セル左に移動する。
【0124】
2つの入力「(」「)」の間の長さは、化学反応が個別に設定されている定常状態に至ることができるように十分長くされるべきである。
【0125】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは状態(Q4)である。ロケータテープ上のヘッドは、現時点のセルから、平均振動振幅値<ρ>、および振動周波数fを読み取る。これによって、マシンは状態(Q3)になる。ロケータテープからの数字の対は出力テープの1セルに印字される。入力および出力テープの両方のヘッドが1セル右に移動する。
【0126】
出力テープの上に書き込まれた、または等価にロケータテープから複製された周波数は、この時点ではゼロではない。両方の種類の入力は入力テープから読み取られているからである。平均振動振幅値<ρ>は、ノモグラフ上にある。これは、まさしくそれぞれの種類の入力が添加されているからである。図6を参照されたい。
【0127】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは状態(Q3)である。次の入力は入力テープから読み取られる。このケースにおいて、入力は「(」である(つまり、臭素酸イオンが添加される)。これによって、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q1)に移行する。論理カウンタテープ上のヘッドは1セル左に移動し、ロケータテープ上のヘッドは1セル下に、1セル左に移動する。
【0128】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q1)である。ロケータテープ上のヘッドは、現時点のセルから、その平均振動振幅値<ρ>および振動周波数fを読み取る。これによって、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンに状態(Q3)に移行する。ロケータテープからの数字の対は、出力テープの現時点のセルに印字される。また、「1」は論理カウンタテープ上に印字される。さらに、入力テープおよび出力テープの両方のヘッドは1セル左に移動する。
【0129】
周波数は増加する。平均振動振幅値は、ノモグラフの上にある。この時点で「)」よりも多くの「(」が入力テープから読み取られるからである。
【0130】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q3)である。次の入力は入力テープから読み取られる。このケースにおいて、入力は閉じ丸括弧「)」(つまり、マロン酸が添加される)。これによって、マシンは状態(Q4)に移行する。論理カウンタテープ上で印字された「0」は、前に印字された「1」と置換される。そして、論理カウンタテープ上のヘッドは、1セル左に移動し、かつロケータテープ上のヘッドは1セル下に、1セル左に移動する。
【0131】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q4)であり、ロケータテープ上のヘッドは現時点のセルから、その平均振動振幅値<ρ>、および振動周波数fを読み取る。これによって、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは状態(Q3)に移行する。ロケータテープからの数の対は、出力テープの一つのセルに印字される。入力テープおよび出力テープの両方のヘッドは、1セル左に移動する。
【0132】
再度、周波数は上昇する。平均振動振幅値は、ノモグラフ上にある。というのは、この時点で、2つのそれぞれの種類の入力(つまり2つの「(」および2つの「)」)は入力テープから読み取られる。
【0133】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q3)である。次の入力は入力テープから読み取られる。このケースにおいて、入力は「E」である。これは、丸括弧文字列が終わったことの信号であり、マシンを状態(Q5)に移行させる。状態(Q5)への移行の間は、どのテープにも印字されないし、どのヘッドも動かない。
【0134】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q5)である。論理カウンタテープ上のヘッドは、現時点のセルに印字された記号を読み取り、かつロケータテープ上のヘッドは現時点のセルから、その平均振動振幅値<ρ>および振動周波数fを読み取る。このケースにおいて、論理カウンタテープから読み取られた記号は、「0」である。これによって、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは出力テープ上にロケータテープから複製された数の対を印字させるであろう。そして、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは停止するであろう。
【0135】
この時点で、振動数および平均振動振幅は変化せずに残る。というのは、化学系にさらなる入力が導入されないからである。
【0136】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは停止している。出力テープは、ロケータテープから複製された対のリストのみを含んでいる。出力テープ上に「X」が印字されていないという事実は、入力テープ上の丸括弧の文字列が「論理的」であることを示す。また、出力テープの最後の2つのセルは、同じ数字のペアを含む。これは、もはやこれ以上の入力テープから読み取られた開きまたは閉じ丸括弧、平均振動振幅値、および周波数の変化がないままであるべきことを示す。
【0137】
周波数がゼロでないので、平均振動振幅値は、最後のセルでは、ちょうどノモグラフ上に位置し、どの点においても、ノモグラフ線の下にはない。このことは、入力の丸括弧の文字列が「論理的」であったことを示す。
【0138】
文字列「()()」の本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンのノモグラフおよびマシンの解は、図6で示される。
実際の操作の例2:丸括弧文字列「()((」のチェック
【0139】
まず、チェックされるべき文字列は、事前に入力テープに書き込まれている。さらに、「E」が、文字列における最後の丸括弧のすぐ後に書き込まれている。これは、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンに文字列の終わりであることを示す。
【0140】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(I)で始まり、最初の丸括弧が入力テープから読み込まれる。最初の丸括弧は、開き「(」であり、それゆえ、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q1)に移行する。その結果、論理カウンタテープ上のヘッドは、右に1セル移動し、かつ、ロケータテープ上のヘッドは、下に1セル、右に1セル移動する。
【0141】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q1)である。ロケータテープ上のヘッドは、現時点のセルから,その平均振動振幅値<ρ>、および振動周波数fを読み取る。これによって、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q3)に移行する。ロケータテープからの数の対は、出力テープの一つのセルに印字される。また、「1」は、論理カウンタテープ上に印字される。さらに、入力テープおよび出力テープの両方のヘッドは、1セル左に移動する。
【0142】
出力テープ上に書き込まれた、または等価にロケータテープから複製された平均振動振幅値<ρ>および周波数は。それぞれ1および0である。というのは、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンによって、一種の記号のみが読みとられるからである。
【0143】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q3)である。次の入力は入力テープから読み取られる。このケースにおいて、入力は閉じ丸括弧「)」である。これによって、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q4)に移行する。前に印字された「1」を置換して、「0」が論理カウンタテープ上に印字される。その後、論理カウンタテープ上のヘッドは、1セル左に移動し、かつ、ロケータテープ上のヘッドは、1セル下、1セル左に移動する。
【0144】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q4)である。ロケータテープのヘッドは、現時点のセルから、その平均振動振幅値<ρ>および振動周波数fを読み取る。これによって、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q3)に移行する。ロケータテープからの数の対は、出力テープの一つのセルに印字される。入力テープおよび出力テープの両方のヘッドは、1セル左に移動する。
【0145】
出力テープから読み取られた、または、等価にロケータテープから複製された周波数は、現時点では0ではない。というのは、両種類の入力が入力テープから読み込まれるからである。平均振動振幅値<ρ>は、ノモグラフ上にある。というのは、それぞれの種類の入力がちょうど加えられたからである。図7を参照されたい。
【0146】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q3)である。次の入力は入力テープから読み取られる。このケースにおいて、入力は「(」である。これによって、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q1)に移行する。論理カウンタテープ上のヘッドは、1セル左に移動し、かつロケータテープ上のヘッドは、1セル下、1セル左に移動する。
【0147】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q1)である。ロケータテープ上のヘッドは、現時点のセルから、その平均振動振幅値<ρ>、および振動周波数fを読み取る。これによって、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q3)に移行する。ロケータテープからの数の対は、出力テープの現時点のセルに印字される。また、「1」は、論理カウンタテープに印字される。さらに、入力テープおよび出力テープの両方のヘッドは1セル左に動く。
【0148】
振動数は上昇する。平均振動振幅値は、ノモグラフの上にある。というのは、この時点では、「(」は、「)」よりも入力テープから読み取られるからである。
【0149】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q3)である。次の入力は入力テープから読み取られる。このケースにおいて、入力は、開き丸括弧「(」である。これによって、マシンは状態(Q1)に移行する。論理カウンタテープ上のヘッドは、1セル左に移動し、かつ、ロケータテープ上のヘッドは、1セル下、1セル左に移動する。
【0150】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q1)である。ロケータテープのヘッドは、現時点のセルから、その平均振動振幅値<ρ>および振動周波数fを読み取る。これによって、マシンは、状態(Q3)に移行する。ロケータテープからの数字の対は、出力テープの一つのセルに印字される。また、「1」が論理カウンタテープ上に印字される。さらに、入力テープおよび出力テープの両方のヘッドは、1セル左に移動する。
【0151】
周波数は増加する。平均振動振幅値は、ノモグラフのさらに上に位置する。この時点では、2つの過剰な「(」が入力テープから読み取られているからである。
【0152】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q3)である。次の入力は入力テープから読み取られる。このケースにおいて、入力は「E」である。これは、丸括弧の文字列の終わりを知らせ、マシンを状態(Q5)に移行させる。状態(Q5)に移行する間は、どのテープにも印字されないし、どのヘッドも動かない。
【0153】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、状態(Q5)である。論理カウンタテープ上のヘッドは、現時点のセルに印字された記号を読み取り、ロケータテープ上のヘッドは、現時点のセルから、その平均振動振幅値<ρ>および振動周波数fを読み取る。このケースでは、論理カウンタテープから読み取られた信号は、「1」である。これによって、出力テープ上に、出力テープヘッドが「X」を印字する。本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、停止するであろう。
【0154】
周波数および平均振動振幅値は、変化しないままである。さらなる入力が系に導入されないからである。
【0155】
本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは停止している。出力テープはロケータテープから複製された対のリストを含む。しかしながら、最後のセルは、「X」が印字されている。このことは、入力テープ上の丸括弧の文字列が「非論理的」であることを示す。さらに、論理カウンタテープから読み取られた「1」は、丸括弧の文字列が過剰な開き丸括弧を含むことを示す。文字列全体の処理の後、そこには、閉じ丸括弧で「キャンセルされた」または「適合した」ことがない開き丸括弧が残ったのである。
【0156】
平均振動振幅値は、最後のセルのノモグラフの上にある。これは、入力文字列において「(」が過剰であることを示す。それゆえ、文字列は「非論理的」である。
【0157】
上記の例において、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、半回分方式で操作された反応器を具備してなり、入力テープを構成する第一および第二化学種源のいくつかの個別の供給が一定の時間間隔で添加され、反応器からの流出はない。いくつかの形態において、本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンは、反応器が連続的に供給を流出があるCSTRのように操作され、調整されうる。このケースにおいて、演算処理される入力文字列は、「(」および「)」を表す2つの追加の種(つまり、第一および第二化学種)のどちらかの大きな変化として固定された時間間隔(反応器における滞留時間より長い)において代表する。
【0158】
ノモグラフおよび本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンの文字列「()((」のマシンの応答は図7に示される。
【0159】
上記の例は、B/反応の振動をしようする化学的に操作されるチューリングマシンに依存しているが、B/Z反応の振動および定常状態の両方に依存する他の本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンも考慮する。
【0160】
最後に上記の例は、丸括弧チェッカーとしての本発明の形態による化学的に操作されるチューリングマシンを表現するがそれは一例に過ぎず、当業者であれば、本開示の内容を使って、あらゆる化学的に操作されるチューリングマシン、さらには万能化学チューリングマシンでさえも、構成することが予期できるであろう。
【0161】
ここで開示され、主張された発明の形態は、ここで開示された形態によって限定されない。これらの形態は開示されたいくつかの形態の説明として意図されているからである。あらゆる等価な形態は、この開示のスコープの範囲内であると意図される。実際、ここで開示されたものに加えた様々な改良形態は、当業者にとっては上述の開示から明白であろう。このような改良はまた添付の請求項で定められる範囲内であることを意図する。
【0162】
本明細書において言及された非特許文献(例えば、化学雑誌記事)、特許文献、および特許を含む全ての出版物は、それぞれ個別の特許文献および特許が具体的および個別に参照によって援用されることを示すように、参照によって援用される。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7