(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262277
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】蛇紋岩土壌から単離して得るマンガン酸化細菌
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
C12N1/20 AZNA
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-75135(P2016-75135)
(22)【出願日】2016年4月4日
(65)【公開番号】特開2017-169549(P2017-169549A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2016年4月5日
(31)【優先権主張番号】105108564
(32)【優先日】2016年3月18日
(33)【優先権主張国】TW
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本微生物生態学会第30回大会ウェブサイト(http://www.microbial−ecology.jp/meeting/?p=2803)にて公開(平成27年10月6日)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本微生物生態学会第30回大会にて発表(平成27年10月17日)
【微生物の受託番号】BCRC BCRC 910722
(73)【特許権者】
【識別番号】511053012
【氏名又は名称】國立屏東科技大學
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】邱 瑞宇
(72)【発明者】
【氏名】陳 又嘉
(72)【発明者】
【氏名】陳 聖中
(72)【発明者】
【氏名】謝 季吟
【審査官】
藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】
Molecular Phylogenetics and Evolution (2013) Vol.67, pp.188-200
【文献】
World J. Microbiol. Biotechnol. (2010) Vol.26, pp.101-108
【文献】
J. Microbiol. Biotechnol. (2014) Vol.24, No.4, pp.534-544
【文献】
J. Microbiol. Biotechnol. (2011) Vol.21, No.3, pp.305-316
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台湾新竹食品工業発展研究所に受領日2016年3月15日、受託番号:BCRC910722で受託された、マッシリア菌属菌株 NPUST−01(Massilia sp. strain NPUST−01)。
【請求項2】
菌株が自然界の台湾蛇紋岩土壌から得られる、請求項1に記載のマッシリア菌属菌株 NPUST−01(Massilia sp. strain NPUST−01)。
【請求項3】
マンガン耐性濃度が2〜300ppmであり高マンガン耐性を有する、請求項1に記載のマッシリア菌属菌株 NPUST−01(Massilia sp. strain NPUST−01)。
【請求項4】
菌株は重金属汚泥処理に適用可能な、請求項1に記載のマッシリア菌属菌株 NPUST−01(Massilia sp. strain NPUST−01)。
【請求項5】
菌株はマンガン酸化物を生成でき、生成されたマンガン酸化物を収集後、3価クロムの酸化を行うことができ、工業上クロム汚泥処理に適用可能な、請求項1に記載のマッシリア菌属菌株 NPUST−01(Massilia sp. strain NPUST−01)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛇紋岩土壌から単離して得るマンガン酸化細菌、特に特殊なマンガン酸化物を生成可能なマッシリア菌属菌株 NPUST−01(Massilia sp. strain NPUST−01)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種工業的処理、採鉱及び都市廃棄物等、重金属の排出による環境への影響に関する問題は、各方面より長期にわたり強い関心が寄せられている。ある種の重金属は生物にとって必須の微量要素とはいえ、高濃度の重金属は生物にとって有毒であり、さらに重金属は生物分解性を有しないため環境中に沈殿することで長期間存在し、深刻な環境問題を引き起こす。
【0003】
現在、重金属汚染を処理する方法として固定化法による重金属の安定化、土壌洗浄による重金属の除去の二種類がある。
【0004】
I.固定化法(immobilization)は重金属の毒性を低下させる方法として最も一般的な方法である。固定化法は化学的、地質的、生物的に分けることができ、それぞれ処理方法と条件が異なる。
【0005】
a.化学的固定化:マンガン、鉄の水酸化物を好気的条件下で直接に吸着又は沈殿反応を起こさせる固定化法である。
【0006】
b.地質的吸着固定化:現場で直接行う場合には、特殊な地質環境を選択することで重金属の除去を有効に行うことができる。ここでいう特殊な地質環境とは、1961年にPerel’manが提唱した水酸化マンガン/鉄の地質バリアを指す。地質化学バリアは一般的に好気的条件下又は地表に近い場所に存在し、採鉱作業による刺激を受けある区域の主要元素が大幅に遷移、変化しマンガン、鉄が堆積沈殿した土層が形成される。
【0007】
c.生物的微生物固定化:微生物は自らのエネルギー需要又は環境の衝撃により金属を酸化還元する能力を有している。即ち、マンガン酸化細菌は2価マンガンを4価マンガンへと直接酸化できるため、既に地下水のマンガン、鉄及びヒ素の除去に応用されている。マンガン酸化細菌はマンガン酸化物を直接生成できるため、間接的に金属に吸着し、移動させ又は沈殿させることができ、生物性作用も化学的固定化よりも優れる。マンガン酸化物は活性に優れ、環境中最も強力な酸化剤と言うことができ、様々なpH下でも良好な吸着作用、酸化還元作用を有する。マンガン酸化物の作用は以下のものを含む。
【0008】
1.各種重金属の形成、移動及び生物利用性の制御。各種重金属とは例えばBa、Co、Cu、Ni、Ag、Zn、Pb、Tl、Hg等、生物に必須の又は有毒な重金属である。
【0009】
2.マンガン酸化物は各種無機又は有機化合物を分解又は酸化し毒性の低い物質、例えば3価クロム、2価コバルト、硫化水素、フミン酸、スルホン酸、芳香族炭化水素へと変化させることができる。
【0010】
3.マンガン酸化物は各種重金属に対して良好な吸着性を有する。
【0011】
II.溶洗除去法(leaching need paper still)は、現場で行うのではなくかつ溶洗回收時に採用される方法であり、化学法及び生物法に分けられる。現在、生物法による重金属の溶洗に関する研究は少なく、細菌培養とクロム酸化が同時に行われる場合の生物法の研究が多い。
【0012】
マンガン(II)をマンガン(IV)へと酸化させる微生物はマンガン酸化細菌と呼ばれる。マンガン酸化細菌は岩石の表面、土壌、水及び堆積物に広範的に存在する。現在分離されたマンガン酸化細菌には、Pseudomonas putida strain MnB1、GB−1、Lepyoyhrixdiscophpra strain SS−1等がある。
【0013】
非生物環境下で2価マンガンを酸化すると、一般的に中性pHでは片状であるphyllomanganate相のbirnessite鉱が生成され、その結晶系は三斜晶系であったり六角対称であったり、結晶角度もよく変わる。結晶性の悪いδ−Mn02から結晶性の良好なbirnessiteまで様々である。中性環境で2価マンガンを酸化可能な微生物には、Pseudomonas putida GB−1及びMnB1、Bacillus SG−1及びLeptothrix discophora SS−1があり、結晶性が悪いが結晶性と形態上においてδ−Mn02と類似するンガン酸化物が生成される。
【0014】
現在公知である生物性酸化マンガンの酸化速度は、化学性酸化マンガンよりも速い。(Tebo et al. 2004)
【0015】
蛇紋岩は台湾工業鉱物において大理石、細砂に次いで三番目に多い鉱産物である。近年、高級蛇紋岩は石材の重要原料となり、鉄鋼業に多用されている。蛇紋岩は土壌母材が特殊なため、低濃度のN、P、Kの栄養素、濃度が非常に低いカルシウム及び濃度が非常に高いマグネシウムを有し、結果的にカルシウムとマグネシウムの比重が低く重金属(Cr、Mn、Ni、Co)濃度が高いという特性を有する。台湾の蛇紋岩土壌のバックグラウンドのクロム、ニッケル濃度は3,300mg/kg及び5,800mg/kgにもなり、土壌の平均バックグラウンド値よりもはるかに高い。従ってこのような場所で作物を栽培しても、安全な土壌は危害を有する土壌に変化し、植物の成長や作物の生産力及び生態環境や人体の健康へ悪影響を及ぼすことになる。
【0016】
微生物は中性pHの好気的条件下又は嫌気的環境でもマンガン酸化物を生成できるが、酸性環境下で生成される生物性マンガン酸化物が発見されることは少ない。しかし採鉱の多くは酸性土壌で行われるため、酸性環境でマンガンを酸化・収集し、地質化学バリアを形成する概念は非常に重要である。
【0017】
以上に述べたように、次のような技術や研究が求められている。即ち、蛇紋岩中から分離されたマンガン酸化細菌の提供、そしてマンガン酸化細菌について鉱物学分析を行い、産物生成量を研究すること。
【0018】
マンガンを固定化法で除去可能で、鉛、ウラン等の有害物質も吸着できるマンガン酸化細菌の提供。
【0019】
菌株から生じるマンガン酸化物を収集しクロム汚泥からクロムを溶出させること。
【0020】
マンガン酸化物を収集しフミン酸、スルホン酸、芳香族炭化水素等の有機汚染物質を処理すること。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Sathish Mayanna a, Caroline L. Peacock b,, Franziska Schaffner a, Anja Grawunder a, Dirk Mertena, 2016, .“ Biogenic precipitation of manganese oxides and enrichment of heavy metals at acidic soil pH. Chemical Geology 402 (2015) 6-17
【非特許文献2】Tebo,B. M.,Bargar,J. R.,Clement,B. G.,Dick,G. J., Murray,K. J.,Parker,D.,Verity,R.,Webb,S. M. 2004. “ Biogenic manganese oxides: properties and mechanisms of formation.” Annu. Rev. Earth Planet Sci. 32 : 287−328.
【非特許文献3】IA Katsoyiannis, AI Zouboulis . “ Use of Iron− and Manganese−Oxidizing Bacteria for the Combined Removal of Iron, Manganese and Arsenic from Contaminated Groundwater. ” Water quality research journal of Canada 41 (2), 117−129.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上述したように、生物的マンガン酸化物の酸化効率は化学的マンガン坂物に比べ高く、蛇紋岩は土壌母材が特殊なため、重金属(Cr、Mn、Ni、Co)濃度が高い。よって、台湾蛇紋岩土壌からマンガン酸化物を生成可能なマンガン酸化細菌を分離し、バイオレメディエーションにより効率的に重金属を酸化し重金属の除去を容易にする必要がある。
【0023】
現在進められている研究の大部分は共代謝実験によるものであり、マンガン酸化細菌の培養と同時に3価クロムを酸化するが、マンガン酸化物を収集してから3価クロムを酸化することはできていない。従って工業上のクロム汚泥の処理には適用されていない。
【0024】
本発明は、マンガン酸化物を生成可能なマンガン酸化細菌を提供することを主な目的とする。このマンガン酸化細菌は重金属汚泥において環境保護的価値を有する。
【0025】
また本発明は、上記菌株から生成されるマンガン酸化物を提供することも目的とする。このマンガン酸化物は純化可能であり高いクロム酸化能力を有し、工業上のクロム汚泥の処理に適用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明はマッシリア菌属菌株 NPUST−01(Massilia sp. strain NPUST−01)を提供する。台湾新竹食品競業発展研究所に受領され、受領日は2016年3月15日、受領番号は91x1−1050218A、である。
【0027】
上記菌株は自然界の台湾蛇紋岩土壌から単離して得る。
【0028】
上記菌株のマンガンに対する耐性濃度は2〜300ppmと、高いマンガン耐性濃度を有し、高マンガン環境での汚染処理に適している。
【0029】
上記菌株は重金属汚泥の処理に応用できる。
【0030】
上記菌株はマンガン酸化物を生成でき、マンガン酸化物を収集後3価クロムの酸化を行うことが可能で、工業上のクロム汚泥の処理に適用できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の菌株は、マンガン酸化物を生成可能であり、工業重金属汚泥の処理に用いることができる。
【0032】
本発明は、菌株により生成されたマンガン酸化物を容易に直接収集することができ、重金属汚染の処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】蛇紋岩土壌のクロム酸化能力実験結果を示す棒グラフである。
【
図2】蛇紋岩土壌からマンガン酸化細菌を分離する流れを示すフローチャートである。
【
図3】マンガン酸化細菌かどうかの鑑定基準となる、TDMM指示薬を添加した培地である。
【
図4】固体培地により菌株を分離した模式図である。このうち、AとBは分離された単一マンガン酸化細菌コロニーである。A−1とB−1は分離された単一マンガン酸化細菌コロニーのうちLBB着色剤を滴入して変色したものである。
【
図6】NB培養液における本発明の菌株の増殖曲線である。
【
図7】本発明の菌株についてグラム染色基本鑑定を行った結果である。
【
図8】本発明の菌株の16S rRNA遺伝子配列である。
【
図9】本発明の菌株の16S rRNA遺伝子配列の分析結果、及び、最も近い標準菌株Massilia haematophila strain CCUG 38318との系統樹である。
【
図10】異なるマンガンイオン濃度における本発明のマッシリア菌属菌株 NPUST−01の増殖状況の比較図である。
【
図11】異なるマンガンイオン濃度におけるMnB1菌株の増殖状況を示す図である。
【
図12】異なるマンガンイオン濃度における本発明のマッシリア菌属菌株 NPUST−01とMnB1菌株の増殖状況比較図である。
【
図13】異なる初期濃度の2価マンガンを25℃液体で培養した際の本発明のマッシリア菌属菌株 NPUST−01のpH変化である。
【
図14】異なる初期濃度の2価マンガンを25℃液体で培養した際の本発明のマッシリア菌属菌株 NPUST−01のORP変化である。
【
図15】XRDを使用して本発明の菌株から生成されたマンガン酸化物を分析した結果である。
【
図16】SEMを使用して本発明の菌株から生成されたマンガン酸化物の表面形態を分析した結果である。
【
図17】本発明の菌株から生成されたマンガン酸化物をEDX分析した結果である。
【
図18】TEMを使用して本発明の菌株から生成されたマンガン酸化物を分析した結果である。
【
図19】原子吸光分析装置を使用して本発明のマンガン酸化物を分析した結果である。
【
図21】固体培地で培養したマンガン酸化物の酸化能力試験の結果である。
【
図22】本発明のマンガン酸化物の三価クロムに対する酸化能力試験の結果である。
【
図23】固体培地で培養したマンガン酸化物を収集した際の、ペトリ皿の収集前及び収集後の変化である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
蛇紋岩土壌を純水又は2価マンガン溶液に入れると少量の4価クロムが溶出し、3価クロム溶液と反応した。4価クロム濃度は顕著に上昇し、蛇紋岩土壌には3価クロムを酸化する能力を有することがわかる(
図1)。
図1に示すように、台湾石頭山の90cm以上地点の蛇紋岩土壌の酸化力が最もよく、4価クロム濃度は0.2mg/Lから0.9mg/Lへと上昇した。原因として推測するに、石頭山の90cm以上地点の蛇紋岩土壌の易還元性マンガン濃度が183mg/kgに達したため、つまり土壌自身の二酸化マンガン含量が高く、その土壌自身の二酸化マンガンを利用し3価クロムを酸化することで、4価クロム濃度が増加したと思われる。
【0036】
従って、台湾石頭山の90cm以上地点の蛇紋岩土壌はマンガン酸化細菌を有することが推測される。
【0037】
(蛇紋岩土壌からマンガン酸化細菌の分離)
【0038】
A.集積培養
東部の無毛山及び石頭山(無毛山:23°10’ 6.88”;121°15’21.18” 石頭山:22°47’35.76” ;121°09’27.52” )の蛇紋岩土壌を取得し、無毛山表面層及び石頭山10〜90cm土層からマンガン酸化細菌の分離を行い、各断面の土壌試料を50mL滅菌チューブへ収集する。そしてすぐに実験室へ送り処理を進める。その後、伝統的及び制限的な集積培養(enrichment culture)を行い、続いて鑑別培地により分離を行った。その流れを
図2に示す。以下にその内容を説明する。
【0039】
A.1 伝統的な集積培養
1gの土壌試料を取り100mL Bromfield medium (BM) 培地(表1)に加え25℃又は35℃、150rpmで3日間集積培養をし、その後上層液を取り段階希釈により菌液をBM固体培地に塗抹し、25℃又は35℃で倒置培養した。
【0040】
A.2 制限的な集積培養
30mgの土壌試料を5mL 0.1M 硫酸マンガン(MnSO
4)溶液に25℃で12日間浸し、1,900gで15分間遠心し沈殿物を取り段階希釈を行った後、菌液をBM及びATCC# 279固体培地に塗抹し、25℃で21日間倒置培養した。
【0042】
蛇紋岩土壌をBromfield(BM)培地(主要成分はMnSO
4及び酵母抽出液)によりマンガン酸化細菌を集積し、分離された細菌コロニーに0.5% Tetra methyl diamino diphenyl methane(TDDM)指示薬を添加した培地を、マンガン酸化細菌かどうかの鑑定基準とした。マンガン酸化細菌であるなら培地の色が深紫色に変わり、そうでないならば培地の色は変化しない(
図3)。
【0043】
伝統的な実験を経て分離された菌株の培地は色の変化が見られなかったため、代わりに制限的な集積培養を行った。つまり、蛇紋岩土壌を硫酸マンガン溶液に12日間浸し、ATCC# 279(主要成分はMCO
3及び酵母抽出液を含む)培地で培養した。黒い物質が現れたならば、マンガン酸化細菌の可能性があり、更にLeucoberbelin blue I(LBB)を添加しマンガン酸化産物であるか否か判断する。
【0045】
分離した培地の細菌コロニー周辺の色が濃い茶色から黒色である場合は、マンガン酸化細菌の可能性があり、マンガン酸化細菌であるか否か鑑定を行う。BM培地に0.5% Tetra methyl diamino diphenyl methane (TDDM)指示薬を加えたときに、マンガン酸化細菌である場合は培地が紫色になる。0.5% TDDM(CAS No.30135−64−9、 純度95%、景明化工股▲フン▼有限公司、台湾)は、0.5g TDDM 粉末を10%の酢酸溶液に溶かし、そのTDDM溶液をBM培地に加えたあとpH値を6に調節し、接菌を進めることで調合される(Cahyani et. al., 2009)。また、ATCC# 279で培養する際、細菌コロニー表面に黒色沈殿物が現れた場合は、培地に0.04% Leucoberbrlin blue I (LBB)を滴入し指示薬とすることもできる。培地が無色から濃い青色に変色した場合、この細菌コロニーはマンガン酸化細菌とみなすことができる。0.04% LBBは、0.04% LBB粉末を100mL 45mM 醋酸溶液に溶かし、褐色瓶に4℃で保存することで調合される(Krumbein and Altmann 1973)。
【0046】
従って、制限的培養後の単一細菌コロニーをATCC# 279固体培地により培養し、菌体表面に黒色物質が生成された場合それはマンガン酸化細菌であり、黒色物質上にLeucoberbelin blue I (LBB)を添加することでマンガン酸化産物であるか否かを判断する。
【0047】
上記LBB(N, N’−ジメチルアミン−p,p’−トリフェニルメタン−o”−スルホン酸)(CAS No.52748−86−4,純度65%,Sigma)溶液は、40mg LBB粉末を100ml 45mM酢酸溶液に溶かし、褐色瓶に4℃で冷蔵保存することで調合される。
【0048】
二価マンガン(MnCO
3)を含む培地で4〜5日間培養し、いくつかの菌株上に黒色沈殿物と思われる物が生成されていることが観察できる(
図4Aと
図4B)。また大部分は白色細菌コロニーであり、黒色沈殿物は菌株により生成されたマンガン酸化物であると推測される。よって、細菌コロニー上に少量のLeucoberbelin blue(LBB)を添加し、色が濃い青色に変色したことが観察できた(
図4A−1及び
図4B−1)。生成された黒色マンガン酸化物がLBBを酸化したことが原因である。従ってこの細菌コロニーがマンガン酸化細菌であることが確定できる。
【0049】
図4のうち、
図4A及び
図4Bは分離された単一マンガン酸化細菌コロニーである。
【0050】
LBB溶液(着色剤)を添加した後、マンガン酸化物は
図4A−1及び
図4B−1に示すように深い青色に変色した。
【0051】
B.1 ATCC#279培地での培養
【0052】
分離された100個以上の菌株から、2価マンガンを酸化できると思われる、No.16マンガン酸化細菌を選んだ。これは、炭酸マンガンを含む培地で黒色のマンガン酸化産物と思われるものを生成できLBBを青色に変化させることができる。また液体培養によっても黒色沈殿物が生成されることがわかる。
【0053】
図5に示すように、No.16菌株は炭酸マンガンを含まない培地では黒色沈殿が生成されず(a)、炭酸マンガンを含む培地では黒色沈殿が生成され(b、c)、LBBを加えると濃い青色に酸化され酸化力を有することが証明された(d)。また、炭酸マンガンを含む液体による培養でも黒色沈殿が生成された(e)。
【0054】
図6はNB培養液におけるマンガン酸化細菌No.16の増殖曲線を示す。
【0055】
マンガン酸化細菌株をNutrient Broth培地で25℃,150rpmにより振動培養を行い、分光光度計の波長を600nmに設定し、吸光度を測定する。測定時間は24時間間隔とした。Nutrient Broth培地でのマンガン酸化細菌株の増殖曲線は、3日目で対数増殖期に達した。
【0057】
分離された菌株No.16をストリーキングの方法で純化を進める。純化の効果を得るため、毎回継代培養の際に単一の細菌コロニーを選択する。
【0059】
グラム染色法によりNo.16の基礎鑑定を行う。まず、クリスタルバイオレットを用い染色し、複方ヨード・グリセリン又はグラムヨード液を加え不溶化されたクリスタルバイオレットーヨウ素複合体が形成される。続いて95%エタノールで脱色し、サフラニンで染色する(対比染色)。最後に顕微鏡検査を行う。
図7に示す。
【0061】
A. Qiagen DNeasy Plant KitによるDNA抽出
1. 400ulのAP1Bufferを加え、破砕した菌を加える
2. 4ulのRNase Aを加える
3. 65度で15分間加熱する、加熱開始から約8分経過後に一度ふるう
4. 130ul P3を加え均等に混和し、5分間氷上に置く
5. 14000rpmで5分間、遠心する
6. 上澄み液を取り除き、薄紫色チューブに加え、14000rpmで1分間遠心する
7. 下層の液体を取り出し新しいマイクロチューブに移す
8. 1.5倍容量のAW1を添加し混和し、白色のカラムに加え8000rpmで1分、遠心する
9. 下層の液体を捨て、再び1分間遠心する
10. AW2 Bufferを加え、14000rpmで1分間遠心する(2回)
11. 下層の液体を捨て、再び1分間遠心する
12. 白色のカラムを新しいマイクロチューブに移し、50ulの水(40℃)を加え、10分間置く。
13. 14000rpmで1分間遠心する
【0062】
B. PCR プライマ−:16sF1 & 16sR1
【0063】
16sF1配列:AGAGTTTGATCATGGCTCAG(配列番号2)。
【0064】
16sR1序列:GGCTACCTTGTTACGACTT(配列番号3)。
【0065】
PCR試薬とプログラム設定を表2に示す。
【0067】
菌株No.16の16S rRNA遺伝子配列の分析結果と最も類似の結果を示した標準菌株はMassilia haematophila strain CCUG 38318であり、およそ98.44%の類似度であった(
図8、配列番号1)。菌株No.16はMassilia属の菌株であり世界新種菌株となりうる潜在力を有することになる。この菌株は出願人である屏東科技大學が自ら純化鑑定した一つ目のMassilia菌株であるため、マッシリア菌属菌株 NPUST−01(Massilia sp. strain NPUST−01)と名づけた。
【0068】
マッシリア菌属菌株NPUST−01の16S rRNA遺伝子配列を
図8に示す。
【0069】
マッシリア菌属菌株NPUST−01(以下、NPUST−01と略す)の16S rRNA遺伝子配列の系統進化関係分析結果を
図9に示す。
【0071】
A.マンガン酸化細菌のマンガンイオン耐性実験
【0072】
表3に示す塩化マンガン培地を、異なるマンガン濃度(0、2、10、20、100、150、200、250、300mg/L)に調整し、それぞれの濃度において25℃、150rpmで振動培養を3回行い、0.5、1、2、4、6、8、10日に1mLを取り分光光度計(GE Healthcare,Ultrospec 10)を用い600nmにおける増殖曲線及びpH変化を測定した。
【0074】
図10に示すように、2価マンガンを含まない培養液における本発明のNPUST−01菌株は増殖が生長緩慢すぐに死滅期に入った。濃度が2〜300ppmのとき増殖状態が最も良好である。マンガンに対する耐性は良好で、高マンガンの環境において汚染を処理することに適していることがわかる。
【0075】
市販されている菌株Psuedomonous putida strain MnB1(以下、MnB1と略す)と比較する。MnB1は2ppmの低マンガン濃度では増殖できるが、マンガンの濃度増加に伴い抑制される現象が見られる。
図11に示すように100ppm以上では増殖できない。
【0076】
図12に示すように、両菌株を比較すると、本発明のNPUST−01のマンガン耐性はMnB1よりも優れている。
【0077】
B.本発明のNPUST−01の増殖時のpH変化
【0078】
本発明のNPUST−01菌株の異なる初期濃度の2価マンガンを25℃液体で培養した際のpH変化を
図13に示す。He等学者が得た結果と同様に、増殖時間は10時間ほどでpHは低下し、その後徐々にpH7まで上昇した。
【0079】
C.本発明のNPUST−01の増殖時のORP変化
【0080】
異なる初期濃度の2価マンガンを25℃液体で培養した際の本発明のNPUST−01菌株のORP変化を
図14に示す。Dhal et. al.,2013によれば、ORPが約150の場合がマンガン酸化物の生成に最も有利である。
【0081】
(マンガン酸化産物形態及び元素分析)
【0082】
固体培地上のマンガン酸化物を純水で何度も洗浄し、白金耳を用い酸化物を刮下する。続いてマイクロピペットを用い培養品上の液体を1.5mL tubeに移す。そして10,000rpmで10分間遠心したあと、上澄み液を取り除き、XRD、SEM及びEDX分析、並びに後の3価クロム酸化実験用のため黒色産物を凍結乾燥した。
【0083】
A.X線回折装置(X−ray Diffractometer;XRD)分析
【0084】
凍結乾燥をしたマンガン酸化産物に対する表面結晶相分析を行った。X線回折装置(X−ray diffractometer,D8 Advance,Brucker、ドイツ)を使用し、電圧40KV、電流40 mA、回折角度10°−80°とし、データベースと鑑定比較を行った。
【0085】
図15はXRDを使用して本発明の菌株から生成されたマンガン酸化物を分析した結果である。
【0086】
B. 走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy;SEM)分析
【0087】
凍結乾燥及び臨界点乾燥を行ったマンガン酸化物又は菌体を取り、めっき後に二種類の電子顕微鏡を用いて観察を行った。一つは環境制御形電子顕微鏡(FEI Quanta 200 Environmental Scanning Electron Microscope,FEI. ,チェコ)、もう一つは走査型電子顕微鏡(S−3000N,Hitachi、日本)である。
【0088】
図16に示すように、本発明のNPUST−01から生じた生物性マンガン酸化物に対してSEM分析を行ったところ、不規則な片状物が見られた。
【0089】
C.エネルギー分散型X線(Energy dispersive X−ray;EDX)分析
【0090】
凍結乾及び臨界点乾燥を行ったマンガン酸化物又は菌体を取り、めっき後に元素分析装置を用いて生物性マンガン酸化物表面元素の分析を行った。
【0091】
EDX分析結果を
図17に示す。大量の炭素、酸素及びマンガン元素に加え、少量のカルシウムとナトリウムを有することがわかった。
【0092】
D. 透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy;TEM)分析
【0093】
凍結乾及び臨界点乾燥を行ったマンガン酸化物を取り、包埋、超薄切片、染色等の前処理後、銅メッシュに置き、その後透過型電子顕微鏡(H−7500N,Hitachi、日本)により観察、記録を行った。
【0094】
図18はTEMを使用して本発明の菌株から生成されたマンガン酸化物を分析した結果である
【0095】
また、原子吸光分析装置を使用して本発明のマンガン酸化産物を分析したところ、マンガンと鉄の比率は約10:1であった。
【0096】
図19に示すように、本発明のマンガン酸化産物のマンガンと鉄の比率は、マンガン91%、鉄9%であった。
【0097】
(マンガン酸化産物生成量及び酸化力測定)
【0098】
A.固体培地マンガン酸化産物酸化力測定
【0099】
マイクロピペットにより測定したい固体培地のペトリ皿上に少量のLBB試薬を加え、マンガン酸化細菌に酸化力があれば濃い青色に変わり、酸化力がなければ薄い青色に変わる。
【0100】
ATCC#279上で培養し、LBB試薬を使用し酸化力を測定した。酸化力があれば青色に変わる。その結果を
図21に示す。
【0102】
収集した凍結乾燥済みのマンガン酸化産物を0.02g/50mLに研磨し、10mLを取り、10mL 0.2M NaNO
3へ加える。100μM塩化クロム(III) 5mLを加え、計25mLを24時間振動反応させ、DPC比色法を利用し4価クロムを得た。
【0103】
凍結乾燥した産物0.0216gを精秤し50mLメスフラスコに入れ計量し、超音波振動により混和し、0.02g/50mL MnO
2を得た。
【0104】
4.2003g(精秤4.2016g)のNaNO
3を秤取し、1Lメスフラスコに入れ計量し、0.2M NaNO
3を得た。
【0105】
0.0266gのCrCl
3・6H
2Oを秤取し、1Lメスフラスコに入れ計量し、0.1N HClを用いpH2.5へと調整し、100μM CrCl
3・6H
2Oを得た。
【0106】
DPC試薬、ジフェニルカルバジド(s−Diphenylcarbazide,DPC)(CAS No.140−22−7、純度99%、Lancaster,England)溶液。(1)0.4g DPC 粉末を100mL 95%エタノールに入れ、完全に溶解するまで攪拌する。(2)280mLの純水に120mL 85%濃度のリン酸を加え、(2)を(1)に加えると、DPC着色剤となる。褐色瓶に入れ4℃で冷蔵保存する必要があり、溶液が褪色したら処分し使ってはならない。
【0107】
4価クロム検量線、1ppm六価クロム保存溶液の配置
0.0566gのニクロム酸カリウム(CAS No.7789−12−,試薬級,聯工化學試藥,台湾)を純水に溶かし200mL計量し、その中から1mLを取り出し100mLを計量する。六価クロム検量線濃度範囲は0.0〜1.0ppmであった。
【0108】
三価クロムの酸化力測定結果を
図22に示す。対象群にはマンガン酸化物一同反應を添加していないため三価クロム酸化の現象は見られなかった。一方、993.8μMマンガン酸化物及び20μM三価クロムを加えた実施例の場合、24時間後の反応は三価クロムは六価クロムへ酸化されその濃度は16.57μMであり、約82%の三価クロムを酸化可能であった。現在進められている研究の大部分は共代謝実験によるものであり、マンガン酸化細菌の培養と同時に3価クロムの酸化を行うが、マンガン酸化産物を収集してから3価クロムの酸化を進めることはできていない。本願はこれまでの研究より進んでおり、本発明のNPUST−01産物は純化可能であり82%の高いクロム酸化力を有する。また工業上のクロム汚泥の処理に適用できる。
【0109】
(本発明のNPUST−01と市販のMnB1との総クロム酸化力の比較)
【0110】
まず、本発明のNPUST−01と市販のMnB1との総クロム酸化力の比較結果は表4に示す。
【0112】
MnB1の転換率は0.4343(平均)/1.0497=41.3%であった。
【0113】
NPUST−01の転換率は0.1633(平均)/1.0497=15.56%であった。
【0114】
続いて、本発明のNPUST−01と市販のMnB1を培養し、固体培地マンガン酸化細菌の産物を収集し、収集前及び収集後のペトリ皿の変化を観察した。
図23に示すように、収集前MnB1及び本発明のNPUST−01の産物は完全にペトリ皿に付着している。収集後のMnB1は産物の多くがペトリ皿に残留しているが、一方収集後のNPUST−01においてはペトリ皿に残留している産物は一部であり、多くは削り取りかつ収集することが可能である。
【0115】
これより、両菌はペトリ皿上の産物粘着方法が異なることがわかる。MnB1は寒天に埋もれ、粘着性が強く収集が困難である。
【0116】
また、両菌のマンガン酸化物収集量を比較すると、MnB1のマンガン酸化物は各皿当たり平均0.0015g収集できるが、NPUST−01のマンガン酸化物は各皿当たり平均0.0036g収集できる。さらにMnB1のマンガン酸化物の収集に必要な時間はNPUST−01に比べ3倍かかる。
【0117】
産業応用性を計算して比較する。単位時間産物のクロム酸化総能力=産物収集量×産物転換率/産物収集時間とする。
【0118】
MnB1のクロム酸化総能力=(41.3%*0.0015)/30min=2.065%となる。
【0119】
NPUST−01のクロム酸化総能力=(15.56%*0.0036)/10min=5.6016%となる。
【0120】
この結果から、本発明のNPUST−01の転換率は市販のMnB1に劣るが、その産物の収集量は高くかつ収集にかかる時間も短いため、産業利用に適している。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明により蛇紋岩から分離したマンガン酸化細菌を得ることができ、蛇紋岩中のマンガン、クロム、ニッケルの含量が高く、このような過酷な環境で存在する菌は特殊な耐性を有するように順化しているため、各種重金属環境で生存していくこと及び重金属処理の潜在能力を有する。
【0122】
また、本発明に対しマンガン耐性実験を行ったところ、300ppm2価マンガン耐性を有することがわかった。
【0123】
そして、これまでのマンガン酸化細菌の多くは海水から分離されたもので、土壌から分離されたものであってもその多くは農地土壌であり、かつ台湾ではこれまでマンガン酸化細菌が分離されたことはなかった。蛇紋岩土壌は母岩による重金属汚染区に属し、このような場所を選択し分離することは大きな意義がある。まず、台湾本土の菌株であること、さらにこの菌株は台湾気候地質に適応しやすく、台湾土壌汚染処理への高い効果が見込まれる。
【0124】
以上より、本発明の菌株はマンガン酸化物を生成可能なマンガン酸化細菌であり、工業重金属汚泥の処理に用いることができる。
【0125】
さらに本発明の菌株から生成されるマンガン酸化物を直接利用し、重金属汚染の環境処理を行うこともできる。
【0126】
ここで使用した用語及び上記の説明は、本発明の実施形態を説明するためのものであるが、本発明はこれに限定されない。本発明で開示された特殊事項のいかなる均等物も排除されるべきではない。また、本発明の請求範囲の各種変形も受け入れられると理解されなければならない。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]