(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6262313
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】大空間用空調システム
(51)【国際特許分類】
F24F 3/04 20060101AFI20180104BHJP
F24F 11/72 20180101ALI20180104BHJP
F24F 11/74 20180101ALI20180104BHJP
F24F 5/00 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
F24F3/04
F24F11/04 Z
F24F5/00 K
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-213457(P2016-213457)
(22)【出願日】2016年10月31日
【審査請求日】2016年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191319
【氏名又は名称】新菱冷熱工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 茂生
【審査官】
河内 誠
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−257911(JP,A)
【文献】
特開2016−148493(JP,A)
【文献】
特開2004−044858(JP,A)
【文献】
特開2012−122695(JP,A)
【文献】
特開平09−089359(JP,A)
【文献】
特開平06−221615(JP,A)
【文献】
特開2014−001892(JP,A)
【文献】
特開2010−139200(JP,A)
【文献】
特開平06−213503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 3/00−3/16
F24F 7/007、7/06、7/10
F24F 13/04、13/06、13/072
F24F 13/08
G06F 1/00
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体が設置されて所定温度に維持することの必要な空調空間と、該空調空間より上方に位置して前記所定温度に維持する必要のない空調管理外空間と、を有する天井高さの高い大空間を冷房するための大空間用空調システムであって、
前記空調管理外空間の複数箇所において、冷房用空気を強制的に上方に向けて吹き出すことで、前記空調空間から上昇した前記発熱体の廃熱を含む室内空気を前記冷房用空気に誘引混合させた後、前記空調管理外空間から自然に降下させた気流を前記空調空間に供給するように構成され、
前記空調管理外空間には、前記冷房用空気を強制的に送出する空調機と、前記空調機から送出された前記冷房用空気を所定位置に導く給気ダクトと、前記給気ダクトに配設されて前記冷房用空気を斜め上方に向けて吹き出す複数の吹出口と、が設けられており、
複数の前記吹出口を同一向き斜め上方に傾斜させた姿勢で直線状に配設された2列一対の吹出口群を同一高さで平行に並設し、一方の列の前記吹出口群の吹出口と他方の列の前記吹出口群の吹出口とはそれぞれ対向するように逆向き傾斜していることを特徴とする大空間用空調システム。
【請求項2】
前記吹出口の傾斜角度は垂直方向に対して5〜45°の範囲の同一角度に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の大空間用空調システム。
【請求項3】
前記冷房用空気は、前記吹出口から10〜35m/sの高速で斜め上方に吹き出され、前記空調空間における気流速度が0.6m/s以下の低速となるように設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の大空間用空調システム。
【請求項4】
前記大空間は、前記発熱体である機器の入れ替えや配置換えが頻繁に行われる工場に設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの請求項に記載の大空間用空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱量の多い機器が設置される天井高さの高い大空間を恒温に冷房するための大空間用空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属加工工場などの工場は、生産設備の要請により、天井高さの高い大空間となる。この種の大空間には、発熱量の多い工作機械などの機器が設置されるため、温度が一定で風速の遅い室内環境が必要とされる。したがって、従来、このよう大空間を冷房するために各種空調システムが装備されている。
【0003】
しかしながら、従来のこの種の空調システムでは、機器の廃熱により加熱された空気から熱負荷を取り除くのに時間が掛かり、長時間に亘って機器からの廃熱が空調空間を漂い、機器の性能に支障を及ぼす虞があるという問題がある。
【0004】
また、発熱量の多い機器が設置されるエリアと該機器が設置されないエリアとの間での温度ムラや、発熱量の多い機器が稼働したり停止したりする動作を不規則に行うことによる温度ムラなどが生じ易い。さらに、前記機器からの廃熱が空調空間内を水平移動することで、吸込口に向かって川の流れのように高温域が形成され易い。したがって、これらの要因により、空調空間内を恒温に保持することが難しいという問題がある。
【0005】
そこで、上記したような問題を解決するため、従来、例えば、壁面に設置した給気チャンバの給気口から空調空間内に向かって側方に吹き出される低温空気に旋回成分を与えることによって、低温空気に誘引される空気量を増加させ、空調空間の上下温度差を減少させるようにした置換換気システムが提案されている(例えば、特許文献1、2又は非特許文献1を参照)。
【0006】
また、天井に設置した送風ユニットのノズルから高速で吹き出したジェットエアの運動量を利用して見かけ上の換気回数を増やすことによって、室内の恒温環境を形成するようにしたデリベント(登録商標)式の空調換気システムも提案されている(例えば、特許文献3又は非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−372268号公報(特許第4006196号)
【特許文献2】特開2005−282892号公報(特許第4421347号)
【特許文献3】特開平07−318124号公報(特許第3339527号)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】高砂熱学工業株式会社の旋回流誘引型成層空調システムに関するウェブサイト(http://www.tte-net.co.jp/solution/systems/009.html)
【非特許文献2】日本フローダ株式会社の大空間特殊空調換気システムに関するウェブサイト(http://www.nipponfloda.co.jp/products/dv/dv.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した従来の置換換気システムでは、給気チャンバが壁面に設置されているため、空調空間内に設置された機器の配置によっては、給気チャンバの給気口から吹き出された低温空気が機器の周囲に十分に到達しない虞がある。そのため、空調空間内に温度差が生じてしまい、空調空間内を恒温に維持することが難しいという問題が生じている。
【0010】
また、壁面に設置された給気チャンバの給気口の直近では冷房用空気の風速が速いため、空調空間内での作業に支障が生じるという問題がある。
【0011】
さらに、壁面を給気チャンバの設置スペースとして利用しているため、壁際に備品等を置くことができなかったり、或いは、工場の場合には給気チャンバがフォークリフトの走行の邪魔になったりするといった問題も生じている。
【0012】
さらにまた、例えば100m四方のスペースの工場では、両側の壁に設置された給気チャンバがそれぞれ長さ50mずつの温度環境を受け持たなければならないため、空調空間内の温度環境にムラが出易くなるというように、大空間になる程、繊細な温度制御を行うことができないといった問題もある。
【0013】
一方、上記した従来のデリベント(登録商標)式の空調換気システムでは、送風ユニットのノズルの正面では気流速度が非常に速いため、空調空間内での作業に支障が生じるという問題がある。
【0014】
また、空調空間内の機器からの発熱量が多い場合や空調空間内の天井高さが高い場合には、汎用品クラスの送風ユニットのノズルの誘引気流だけでは冷房用空気を十分に撹拌することができないため、空調空間内を所定温度に保持することが難しいといった問題もある。
【0015】
さらに、ノズルの配置が工場の生産設備の配置に影響を受けるという問題や、ノズルの誘引気流が個別且つ分断的で混合効率が悪いといった問題もある。
【0016】
本発明は、上記した各種課題を解決すべくなされたものであり、空調空間内を恒温に維持することができると共に空調空間内での作業に支障を及ぼすことのない大空間用空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、発熱体が設置されて所定温度に維持することの必要な空調空間と、該空調空間より上方に位置して前記所定温度に維持する必要のない空調管理外空間と、を有する天井高さの高い大空間を冷房するための大空間用空調システムであって、前記空調管理外空間の複数箇所において、冷房用空気を強制的に上方に向けて吹き出すことで、前記空調空間から上昇した前記発熱体の廃熱を含む室内空気を前記冷房用空気に誘引混合させた後、前記空調管理外空間から自然に降下させた気流を前記空調空間に供給するように構成されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る大空間用空調システムにおいて、前記空調管理外空間には、前記冷房用空気を強制的に送出する空調機と、前記空調機から送出された前記冷房用空気を所定位置に導く給気ダクトと、前記給気ダクトに配設されて前記冷房用空気を斜め上方に向けて吹き出す複数の吹出口と、が設けられていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る大空間用空調システムは、複数の前記吹出口を同一向き斜め上方に傾斜させた姿勢で直線状に配設された2列一対の吹出口群を同一高さで平行に並設し、一方の列の前記吹出口群の吹出口と他方の列の前記吹出口群の吹出口とはそれぞれ対向するように逆向きに傾斜していることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る大空間用空調システムにおいて、前記吹出口の傾斜角度は垂直方向に対して5〜45°の範囲の同一角度に設定されているのが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る大空間用空調システムにおいて、前記冷房用空気は、前記吹出口から10〜35m/sの高速で斜め上方に吹き出され、前記空調空間における気流速度が0.6m/s以下の低速となるように設けられているのが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る大空間用空調システムにおいて、前記大空間は、前記発熱体である機器の入れ替えや配置換えが頻繁に行われる工場に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、空調空間内を恒温に維持することができると共に、空調空間内での作業環境を改善することができる等、種々の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施の形態に係る大空間用空調システムを示す概念図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る大空間用空調システムによって空調空間を冷房した時の温度分布について熱流体解析を行った結果を示す平面図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る大空間用空調システムによって空調空間を冷房した時の気流分布について熱流体解析を行った結果を示す平面図である。
【
図12】本発明の実施の形態に係る大空間用空調システムを適用可能な大空間を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る大空間用空調システムについて説明する。なお、以下の説明では、発熱体としての工作機械Mが複数台設置された金属加工工場の大空間Sに本発明に係る大空間用空調システム10を設置した場合について例示して説明する。
【0026】
大空間用空調システム10が設置される大空間Sは、天井高さが高く、所定温度に維持することの必要な空調空間Saと、空調空間Saより上方の天井レベルに位置して所定温度に維持する必要のない空調管理外空間Sbと、を備えている。
【0027】
本発明の実施の形態における一例として、大空間Sは、2000m
2(40m×50m四方)の床面積と17mの天井高さ(直天)を有しており、床上6mまでの高さの空間が空調空間Saに設定されている。この空調空間Saは平面的に10区画のゾーンに分割され、各ゾーンはそれぞれ200m
2の床面積を有している。
【0028】
空調空間Saには、発熱量の変動する工作機械Mがマットスラブ(耐圧版又はベタ基礎)上に固定されて配置されている。また、空調管理外空間Sbには、対向する壁間に生産用クレーンCが直線的に移動可能なように設けられている。
【0029】
空調空間Saでは、年間を通じて、温度を23℃±1℃、気流速度を0.6m/s以下の環境に維持することが要求されている。この環境を実現するため、本発明の実施の形態に係る大空間用空調システム10は、冷房用空気を強制的に送出する空調機11と、空調機11から送出された冷房用空気を所定位置に導く給気ダクト12と、給気ダクト12に配設されて冷房用空気を斜め上方に向けて吹き出す複数の吹出口13と、を備えて構成されている。
【0030】
空調機11、給気ダクト12、及び吹出口13はそれぞれ空調管理外空間Sbに配設されている。空調機11は、例えば、各ゾーンに1台ずつ設置され、合計で8台設置されている。また、後述するように、その他に外気処理用の空調機(外調機)が、例えば2台設置されている。各空調機11は、空気を冷却して冷房用空気を生成する冷却コイル(図示せず)と、室内の熱負荷によって冷房用空気の給気速度が10〜35m/sの間で可変となるように回転数制御されるインバータ付きの送風機(図示省略)と、を備えている。空調機11は、冷房用空気の給気温度が所定温度(例えば、16℃)になるようカスケード制御される。
【0031】
給気ダクト12は、同一高さ(例えば、床上9mの高さ)で水平且つ平行に並設される2本一対の直線ダクト14と、直線ダクト14と各空調機11との間に配設される接続ダクト15と、を備えている。
【0032】
複数の吹出口13は、それぞれ、直線ダクト14上に所定間隔で立設されるフレキシブルダクトと、フレキシブルダクトの上端に固定される100%開口のノズルと、を備えて構成されている。同一列の直線ダクト14上の複数の吹出口13はそれぞれ同一向き斜め上方に同一角度で傾斜した姿勢を成し、吹出口群を形成している。そして、一方の列の吹出口群の吹出口13と、該一方の列に対向する他方の列の吹出口群の吹出口13は、
図1において実線の矢印で示すように、それぞれ近接方向中央斜め上方に空気を吹き上げるように互いに逆向きに傾斜している。
【0033】
吹出口13の傾斜角度は、互いに対向している吹出口群間の距離や吹出口13から天井までの距離に応じて、垂直方向に対して5〜45°の範囲に設定されるのが好ましい。上記したように吹出口13はフレキシブルダクトで構成されているため、簡単に吹出口13の傾斜角度を調整することができる。また、フレキシブルダクトの外面を押圧することで、内部の開口面積を任意に変更することができ、各吹出口13からの風量を簡単に調整することができる。
【0034】
また、大空間用空調システム10は、空調空間Saに臨むように壁面16の下部に設けられる下部吸込口17と、壁面16に沿って鉛直方向に形成される吸込みチャンバー18と、吸込みチャンバー18と空調機11とを接続する還気ダクト19と、空調管理外空間Sbの上部に設けられる上部吸込口20と、を備えている。上部吸込口20は、空調機11に還気ダクト21を介して取り付けられるか、或いは、空調機11の本体に直接取り付けられている。
【0035】
図1の左側及び右側にそれぞれ示されているように、1台の空調機11に対して、下部吸込口17と上部吸込口20の両方の吸込口を設ける場合には、還気ダクト19,21にそれぞれ電動ダンパー22,23を設置し、例えば、冬期に下部吸込口17を使用して夏期に上部吸込口20を使用する等、電動ダンパー22,23を切替え制御することもできる。
【0036】
さらに、大空間用空調システム10は、特に図示しないが、空調管理外空間Sbに設置される所定台数(例えば、2台)の外気処理用の空調機(以下「外調機」と称す。)と、該外調機によって外部から取り込まれた空気を空調管理外空間Sbにおいて斜め上方に向けて吹き出す複数の給気口と、を備えている。
【0037】
次に、上記した構成を備えた大空間用空調システム10の作用について説明する。
【0038】
各ゾーンの空調機11において、所定温度(例えば、16℃)に冷却されて送出された冷房用空気は、接続ダクト15及び2本一対の直線ダクト14を通り、
図1において実線の矢印で示すように、対向する各吹出口13からそれぞれ中央斜め上方に向かって空調管理外空間Sbに吹き出される。
【0039】
このように空調管理外空間Sbに吹き出された冷房用空気は、空調空間Saから自然上昇した工作機械Mの廃熱を含む室内空気を誘引混合しながら上昇する。この時、冷房用空気は、同一列の吹出口群から同一向き斜め上方に吹き出されて面状の気流が形成されると共に、この気流の方向が工作機械Mの廃熱を含む上昇気流と同一であるため、該上昇気流を起こし易く、冷房用空気と上昇気流との混合効率を高めることができ、見かけ上の循環回数を従来と比較して大幅に削減することができる。
【0040】
このように工作機械Mの廃熱を含む室内空気と混合して均一の温度となった空気は、比重が重くなることで、空調管理外空間Sbから空調空間Saに自然に降下して空調空間Saに供給される。その後、空気は、下部吸込口17又は上部吸込口20を介して空調機11に戻され、前記冷却コイルで冷却された後、前記送風機によって空調管理外空間Sb内に吹き出され、循環気流が形成される。
【0041】
また、空調空間Saから自然上昇した室内空気を誘引混合した冷房用空気の一部分は、排風機(図示省略)を介して外部に排出される。一方、この排出された空気と同一風量の空気が該外調機を介して外部から取り込まれ、前記給気口から斜め上方に向かって空調管理外空間Sb内に供給され、空調空間Saから自然上昇した空気と混合される。
【0042】
図2〜
図6は、上記した大空間用空調システム10によって大空間Sの空調空間Saを冷房した時の温度分布について、熱流体解析(Computational Fluid Dynamics:CFD)を行った結果を示している。
図2は床上1.5mmの空調空間Saの温度分布を示す平面図であり、
図3は
図2のA−A断面図、
図4は
図2のB−B断面図、
図5は
図2のC−C断面図、
図6は
図2のD−D断面図である。これらの解析結果によれば、空調空間Sa(床上6mまでの高さの空間)のほぼすべて(約90%)の領域空間で、要求されている温度範囲(23℃±1℃)に納まるという良好な結果を得ることができた。
【0043】
また、
図7〜
図11は、上記した大空間用空調システム10によって大空間Sの空調空間Saを冷房した時の気流分布について、熱流体解析(Computational Fluid Dynamics:CFD)を行った結果を示している。
図7は床上1.5mmの空調空間Saの気流分布を示す平面図であり、
図8は
図7のA−A断面図、
図9は
図7のB−B断面図、
図10は
図7のC−C断面図、
図11は
図7のD−D断面図である。これらの解析結果によれば、空調空間Sa(床上6mまでの高さの空間)のすべて(100%)の領域空間で、要求されている気流速度範囲(0.6m/s以下)に納まるという良好な結果を得ることができた。
【0044】
上記したように本発明の実施の形態に係る大空間用空調システム10によれば、工作機械Mからの廃熱量が多い程、廃熱を含む室内空気が早い時間で上昇してしまうため、工作機械Mの廃熱が与える空調空間Saの温度への影響は少ない。また、発熱の多いエリアでは、上昇気流が多く発生する分、空調空間Saの所定温度(23℃±1℃)に保持された周辺空気が多く誘引される一方、発熱量の少ないエリアでは、空気の誘引量が少なく、空気の動きも少ない。また、発熱量の多いエリアであっても、工作機械Mが停止すると上昇気流も停止するため、発熱のないエリアと同じように空気が動かなくなる。さらに、工作機械Mからの廃熱は、誘引気流と共に上昇するため、水平移動が少なくなり、乱流を発生させることがなく、熱負荷を拡散させることがない。
【0045】
以上より、空調空間Saにおける発熱量の多いエリアの温度と発熱量の少ないエリアの温度は均衡し、両エリア間における空調環境の差異は少ない。また、加工機械Mの廃熱を含む上昇気流と吹出口13から高速で吹き出される冷房用空気を空調空間Saの上部で効果的に混合させることができるため、空調空間Saにおける給気風量を削減することができ、省エネルギー化を図ることができる。さらに、空調空間Saの上方で冷房用空気と上昇室内気流とを混合させているため、空調機11の給気温度制御を厳密に行わなくても空調空間Saの温度分布を良好に維持することが可能となり、厳密な冷水温度制御や応答性の良い電気ヒータを使用する必要がない。したがって、低コスト化と、省エネルギー化と、高品質化を同時に実現することが可能となる。
【0046】
また、高速ダクトシステムを採用し、複数の吹出口13を1列に直線状に並べることで大きな誘引気流を生成することができるため、大空間Sの柱間距離が長くても、ダクトを延長する必要がなく、施工コストの低減化及び空調設備の設置スペースの縮小化を図ることができる。
【0047】
また、空調空間Saに供給される冷房用空気は、空調管理外空間Sbからの下降気流であり、大型の工作機械Mや生産設備の周囲に確実に到達して気流の死角がなくなるため、工作機械Mの性能を高く維持することができる。また、吹出口13は、高所の空調管理外空間Sbに設置される上、斜め上方に冷房用空気を吹き出すため、吹出口13直近の風速が速くても、低層域である空調空間Sa内の気流速度を低く抑えることができ、空調空間Sa内での作業に支障が生じる虞がなく、作業環境の改善を図ることができる。
【0048】
さらに、空調機11、給気ダクト12、及び吹出口13等の空調設備は、空調管理外空間Sbにおいて、工作機械M等の生産装置の配置に無関係に配置することができるため、工作機械Mの配置換え等によって空調空間Sa内の熱負荷に変動が生じたとしても、ダクトや配管の大掛かりな改修工事を行う必要がなく、単に、吹出口13の数を増減したり、1個の吹出口13が担当するエリアを変更したりすることで比較的簡単に対応することができる。また、空調設備が空調空間Saの壁面に設置されていないため、工作機械Mの配置を自由に決定したり、変更したりすることができ、フレキシブル性を高めることができる。さらに、大空間Sの天井高さは、ある程度の高さを有していれば、天井高さの違いによって、空調空間Saの環境(温度、風速)が不利になる要素がなく、本システムを適用可能な用途を拡大することができる。
【0049】
なお、上記した本発明の実施の形態の説明では、2000m
2の床面積と17mの天井高さを有し、床上6mまでの高さの空間が空調空間Saに設定されている大空間Sに大空間用空調システム10を設置した場合について例示したが、本発明は、100m
2程度以上の床面積と6m程度以上の天井高さを有する天井高さの高い大空間Sであれば、適用可能である。また、吹出口13は、冷房用空気を強制的に上方に向けて吹き出すように設けられていれば、必ずしも、斜め上方に傾斜した姿勢で設けられていなくてもよい。
【0050】
上記したように大空間用空調システム10を適用可能な大空間Sの天井高さを6m程度に設定した根拠は、
図12に示すように、空調空間Saの天井高さHが機器を設置するために最低3m必要であり、空調管理外空間Sbの天井高さHが空調設備を設置するために最低3m必要であるからである。
【0051】
また、大空間用空調システム10を適用可能な大空間Sの床面積を100m
2程度に設定した根拠は、
図12に示すように、互いに対向する吹出口13から吹き出される上昇気流が両側にそれぞれ30°広がることから、上昇気流のための空間幅D1はそれぞれ1.2H必要であり、空調空間Saに向かう下降気流のための空間幅D2は上昇気流のための空間幅D1と同様にそれぞれ1.2H必要であるから、全体幅で最低4.8H(4.8×3=14.4m≒15m)必要となる。そして、大空間Sを備える建物の奥行き幅の1スパンは構造上6〜8mとなるのが一般的であるため、全体幅(15m)と奥行き幅(6m〜8m)とを乗じることで大空間Sの床面積が90m
2〜120m
2となるからである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の技術は、上記した金属加工工場等の各種工場の他、単位面積当たりの冷熱量よりも機器からの発熱量の方が相当大きく、室内環境を所定範囲内に維持するために機器等の発熱体からの廃熱の除去が必要となる天井高さの高い大空間を有するデータセンターなど、他の用途の建造物にも利用が見込まれるものである。
【符号の説明】
【0053】
10 大空間用空調システム
11 空調機
12 給気ダクト
13 吹出口
M 工作機械(発熱体)
S 大空間
Sa 空調空間
Sb 空調管理外空間
【要約】
【課題】 天井高さの高い大空間の空調空間内を恒温に維持すると共に空調空間内での作業に支障を及ぼすことのない環境を提供する。
【解決手段】 本発明は、発熱体Mが設置されて所定温度に維持することの必要な空調空間Saと、空調空間Saより上方に位置して前記所定温度に維持する必要のない空調管理外空間Sbと、を有する天井高さの高い大空間Sを冷房するための大空間用空調システム10であって、空調管理外空間Sbの複数箇所において、冷房用空気を強制的に上方に向けて吹き出すことで、空調空間Saから上昇した発熱体Mの廃熱を含む室内空気を前記冷房用空気に誘引混合させた後、空調管理外空間Sbから自然に降下させた気流を空調空間Saに供給するように構成されていることを特徴とする。
【選択図】
図1