(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記テルペン系樹脂が、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、α、βピネン共重合体、リモネン重合体、ロジン、ロジンエステル、変性ロジン、テルペンフェノール重合体、水素添加テルペン重合体、芳香族変性テルペン重合体及びロジン変性フェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であること、
を特徴する請求項1又は2に記載の導電性インク。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、(1)本発明の導電性インクの好適な一実施形態、(2)本発明の導電性インクの製造方法の好適な一実施形態、(3)本発明の導電性インクを用いた導電膜パターン及びその製造方法について詳細に説明する。なお、以下の説明では重複する説明は省略することがある。
【0016】
(1)導電性インク
本実施形態の導電性インクは、銀ナノ粒子(銀微粒子)と、分散媒と、前記銀ナノ粒子の表面に付着するか、又は、前記分散媒中に含まれる、軟化点90℃以上のテルペン系樹脂と、含むことを特徴とする。また、換言すると、銀ナノ粒子と有機成分とからなる銀ナノ粒子分散体(銀コロイド液)粒子を主成分とする固形分と、これら固形分を分散する分散媒とを含むものであり、ここに上記のテルペン系樹脂が含まれる。ただし、上記導電性インクにおいて「分散媒」は上記固形分の一部を溶解していても構わない。
【0017】
このような銀コロイド液によれば、有機成分を含んでいるため、銀コロイド液中での銀コロイド粒子の分散性を向上させることができ、したがって、銀コロイド液中の銀成分の含有量を増やしても銀コロイド粒子が凝集しにくく、良好な分散安定性を保つことができる。なお、ここでいう「分散性」とは、銀属コロイド液を調製した直後において、当該銀コロイド液中での銀ナノ粒子の分散状態が優れているか否か(均一か否か)を示すものであり、「分散安定性」とは、銀コロイド液を調整して所定の時間を経過した後において、当該銀コロイド液中での銀ナノ粒子の分散状態が維持されているか否かを示すものであり、「低沈降凝集性」乃至は「希釈性」ともいえる。
【0018】
ここで、上記の銀コロイド液において、銀コロイド粒子中の「有機成分」は、上記金属成分とともに実質的に銀コロイド粒子を構成する有機物のことである(但し、上記の「銀ナノ粒子の表面に付着するか、又は、前記分散媒中に含まれる、軟化点90℃以上のテルペン系樹脂」を除く。)。当該有機成分には、銀中に最初から不純物として含まれる微量有機物、後述する製造過程で混入した微量の有機物が銀成分に付着した有機物、洗浄過程で除去しきれなかった残留還元剤、残留分散剤等のように、銀成分に微量付着した有機物等は含まれない。なお、上記「微量」とは、具体的には、銀コロイド粒子中1質量%未満が意図される。
【0019】
本実施形態における銀コロイド粒子は、有機成分を含んでいるため、銀コロイド液中での分散安定性が高い。そのため、銀コロイド液中の銀成分の含有量を増大させても銀コロイド粒子が凝集しにくく、その結果、良好な分散性が保たれる。
【0020】
また、本実施形態における銀コロイド液の「固形分」とは、シリカゲル等を用いて銀コロイド液から分散媒を取り除いた後、例えば、30℃以下の常温(例えば25℃)で24時間乾燥させたときに残存する固形分のことをいい、通常は、銀ナノ粒子、残存有機成分及び残留還元剤、並びに上記のテルペン系樹脂等を含むものである。なお、シリカゲルを用いて銀コロイド液から分散媒を取り除く方法としては、種々の方法を採用することが可能であるが、例えばガラス基板上に銀コロイド液を塗布し、シリカゲルを入れた密閉容器に塗膜付ガラス基板を24時間以上放置することにより分散媒を取り除けばよい。
【0021】
本実施形態の銀コロイド液において、好ましい固形分の濃度は1〜60質量%である。固形分の濃度が1質量%以上であれば、導電性インクにおける銀の含有量を確保することができ、導電効率が低くならない。また、固形分の濃度が60質量%以下であれば、銀コロイド液の粘度が増加せず取り扱いが容易で、工業的に有利であり、平坦な薄膜を形成することができる。より好ましい固形分の濃度は5〜40質量%である。
【0022】
ここで、本実施形態の導電性インクは、前記銀ナノ粒子の表面に付着するか、又は、前記分散媒中に含まれる、軟化点90℃以上のテルペン系樹脂と、を含むことが好ましい。本発明者らは、かかるテルペン系樹脂を用いることにより、低温焼結性及び密着性及び分散性に優れる導電性インクを実現したものである。
【0023】
詳細は後述するが、本発明においては、テルペン系樹脂を分散媒中への後添加だけでなく、銀ナノ粒子合成前に保護分散剤として使用することで、得られる導電性インクの分散性及び密着性を同時に改良できることを、本発明者らは見出した。また、重合度や種類にも因り異なるが、テルペン系樹脂は少なくとも分子量が約800以上であれば、テルペン系樹脂が溶解するような分散媒中において分子鎖が伸び粒子同士の凝集を防ぐ立体反発効果を発現すること、そして、この立体反発効果が銀ナノ粒子を保護する役割を果たし、基材に対する密着性に寄与することを確認した。
【0024】
また、テルペン系樹脂は軟化点90℃以上であることが好ましい。「軟化点90℃以上のテルペン系樹脂」が好ましい理由は、必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のように考えている。テルペン系樹脂のガラス転移点は当該テルペン系樹脂の軟化点より約60℃程度低い温度であることはよく知られている。そうすると、例えば軟化点80℃以下のテルペン系樹脂のガラス転移点は約20℃になる。したがって、軟化点が低過ぎると、ガラス転移点も室温(例えば25℃)よりも低くなってしまい、分子の運動性が急激に上がり非常に柔らかい性質となってしまうため、基材と導電層(導電性インクを塗布して形成された層)間での密着力が維持できなくなってしまうと考えられる。即ち、基材と導電層間での密着力を維持するためには、テルペン系樹脂の軟化点をある程度の高さとすることによって、そのガラス転移点を室温(25℃)以上とし、分子の運動性を抑制して堅い性質を保持すべきと考えられるのである。
【0025】
なお、テルペン系樹脂の軟化点の上限は、おおよそ市販のテルペン系樹脂のうち最大の軟化点を有するテルペン系樹脂の軟化点程度であればよく、例えば160±5℃であればより確実に本願発明の作用効果を得ることができる。
【0026】
また、前記テルペン系樹脂が、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、α、βピネン共重合体、リモネン重合体、ロジン、ロジンエステル、変性ロジン、テルペンフェノール重合体、水素添加テルペン重合体、芳香族変性テルペン重合体及びロジン変性フェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であること、が好ましい。その理由は、各種エラストマーや有機溶媒と非常に良く相溶し、優れた粘着特性を発揮する。カロチンや天然ゴムのようなポリテルペンになると導電性を著しく阻害し、粘着特性も得難い という点にある。
【0027】
なお、本実施形態の導電性インクにおいては、前記導電性インクに含まれる前記テルペン系樹脂は、導電性を損なわない範囲で添加する必要があるという理由から、銀固形分に対して10重量%以下であること、が好ましい。下限は、1.0質量%程度であればよい。より好ましくは、1.0〜3.0質量%であればよい。
【0028】
本実施形態の導電性インクは、表面張力が22mN/m以下であるのが好ましい。表面張力を22mN/m以下と十分に下げることで、導電性インクの濡れ性を十分に担保することができる。表面張力を22mN/m以下にすることは、導電性インクの成分比を調整することによって実現できる。表面張力の下限は13mN/m程度であればよい。なお、本発明においていう表面張力とは、プレート法(Wilhelmy法)という原理で測定して得られるものであり、例えば、協和界面科学(株)製の全自動表面張力計CBVP−Z等により測定することができる。
【0029】
(1−1)銀ナノ粒子(銀ナノ粒子)
本実施形態における銀ナノ粒子分散体に含まれる銀ナノ粒子の平均粒径は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されるものではないが、融点降下が生じるような平均粒径を有するのが好ましく、例えば、1〜400nmであればよい。更には、1〜70nmであるのが好ましい。銀ナノ粒子の平均粒径が1nm以上であれば、銀ナノ粒子が良好な低温焼結性を具備すると共に銀ナノ粒子製造がコスト高とならず実用的である。また、400nm以下であれば、銀ナノ粒子の分散性が経時的に変化しにくく、好ましい。なお、本実施形態の銀ナノ粒子分散体を用いて得られる導電性インクにおいても、銀コロイド粒子(銀ナノ粒子を含む。)の平均粒径(メディアン径)はこの範囲と略同じである(近似できる)。
【0030】
なお、銀ナノ粒子分散体における銀ナノ粒子の粒径は固形分濃度によって変動し、一定とは限らず、一定でなくてもよい。また、銀ナノ粒子分散体が、任意成分として、後述する分散剤等を含む場合、平均粒径が400nm超の銀ナノ粒子成分を含む場合があるが、凝集を生じたりせず、本発明の効果を著しく損なわない成分であればかかる400nm超の平均粒径を有する銀ナノ粒子成分を含んでもよい。
【0031】
ここで、本実施形態の銀ナノ粒子分散体における銀ナノ粒子の平均粒径は、動的光散乱法(ドップラー散乱光解析)によるもので、例えば、(株)堀場製作所製動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550で測定した体積基準のメディアン径(D50)で表すことができる。具体的には、エタノール10mL中に金属コロイド液を数滴滴下し、手で振動し分散させて測定用試料を調製する。ついで、測定用試料3mLを、(株)堀場製作所製動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550、のセル内に投入し、下記の条件にて測定する。
【0032】
・測定条件
データ読み込み回数:100回
セルホルダー内温度:25℃
・表示条件
分布形態:標準
反復回数:50回
粒子径基準:体積基準
分散質の屈折率:0.200−3.900i(銀の場合)
分散媒の屈折率:1.36(エタノールが主成分の場合)
・システム条件設定
強度基準:Dynamic
散乱強度レンジ上限:10000.00
散乱強度レンジ下限:1.00
【0033】
(1−2)アミン
本実施形態の銀ナノ粒子分散体において、銀ナノ粒子の表面の少なくとも一部にはアミン(好ましくは炭素数が5以下である短鎖アミン)が付着している。なお、銀ナノ粒子の表面には、原料に最初から不純物として含まれる微量有機物、後述する製造過程で混入する微量有機物、洗浄過程で除去しきれなかった残留還元剤、残留分散剤等のように、微量の有機物が付着していてもよい。
【0034】
上記アミンとしては、種々のアミンを用いることができ、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、また、側鎖を有していてもよい。炭素数が5以下である短鎖アミンであれば特に限定されず、当該短鎖アミンとしては、例えば、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、N−(3−メトキシプロピル)プロパン−1,3−ジアミン、1,2−エタンジアミン、 2−メトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、ペンタノールアミン、アミノイソブタノール等が挙げられる。
【0035】
上記短鎖アミンは、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、エステル基、メルカプト基等の、アミン以外の官能基を含む化合物であってもよい。また、上記アミンは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加えて、常圧での沸点が300℃以下、更には250℃以下であることが好ましい。
【0036】
本実施形態の銀粒子分散体は、本発明の効果を損なわない範囲であれは、上記の炭素数が5以下である短鎖アミンに加えて、カルボン酸を含んでいてもよい。カルボン酸の一分子内におけるカルボキシル基が、比較的高い極性を有し、水素結合による相互作用を生じ易いが、これら官能基以外の部分は比較的低い極性を有する。更に、カルボキシル基は、酸性的性質を示し易い。また、カルボン酸は、本実施形態の銀粒子分散体中で、銀ナノ粒子の表面の少なくとも一部に局在化(付着)すると(即ち、銀ナノ粒子の表面の少なくとも一部を被覆すると)、溶媒と銀ナノ粒子とを十分に親和させることができ、銀ナノ粒子同士の凝集を防ぐことができる(分散性を向上させる。)。
【0037】
カルボン酸としては、少なくとも1つのカルボキシル基を有する化合物を広く用いることができ、例えば、ギ酸、シュウ酸、酢酸、ヘキサン酸、アクリル酸、オクチル酸、オレイン酸等が挙げられる。カルボン酸の一部のカルボキシル基が金属イオンと塩を形成していてもよい。なお、当該金属イオンについては、2種以上の金属イオンが含まれていてもよい。
【0038】
上記カルボン酸は、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、エステル基、メルカプト基等の、カルボキシル基以外の官能基を含む化合物であってもよい。この場合、カルボキシル基の数が、カルボキシル基以外の官能基の数以上であることが好ましい。また、上記カルボン酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加えて、常圧での沸点が300℃以下、更には250℃以下であることが好ましい。また、アミンとカルボン酸はアミドを形成する。当該アミド基も銀ナノ粒子表面に適度に吸着するため、銀ナノ粒子表面にはアミド基が付着していてもよい。
【0039】
(1−3)分散媒
本実施形態の銀ナノ粒子分散体は、種々の分散媒に銀ナノ粒子が分散したものである。かかる分散媒としては、本発明の効果を損なわない範囲で、種々のものを使用可能であり、炭化水素及びアルコール等が挙げられる。なお、この分散媒に上記のテルペン系樹脂は溶解していてもよい。
【0040】
炭化水素としては、脂肪族炭化水素、環状炭化水素及び脂環式炭化水素等が挙げられ、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。脂肪族炭化水素としては、例えば、テトラデカン、オクタデカン、ヘプタメチルノナン、テトラメチルペンタデカン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トリデカン、メチルペンタン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン等の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。環状炭化水素としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられる。更に、脂環式炭化水素としては、例えば、リモネン、ジペンテン、テルピネン、ターピネン(テルピネンともいう。)、ネソール、シネン、オレンジフレーバー、テルピノレン、ターピノレン(テルピノレンともいう。)、フェランドレン、メンタジエン、テレベン、ジヒドロサイメン、モスレン、イソテルピネン、イソターピネン(イソテルピネンともいう。)、クリトメン、カウツシン、カジェプテン、オイリメン、ピネン、テレビン、メンタン、ピナン、テルペン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0041】
また、アルコールは、OH基を分子構造中に1つ以上含む化合物であり、脂肪族アルコール、環状アルコール及び脂環式アルコールが挙げられ、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、OH基の一部は、本発明の効果を損なわない範囲でアセトキシ基等に誘導されていてもよい。
【0042】
脂肪族アルコールとしては、例えば、ヘプタノール、オクタノール(1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール等)、デカノール(1−デカノール等)、ラウリルアルコール、テトラデシルアルコール、セチルアルコール、2−エチル−1−ヘキサノール、オクタデシルアルコール、ヘキサデセノール、オレイルアルコール等の飽和又は不飽和C6−30脂肪族アルコール等が挙げられる。環状アルコールとしては、例えば、クレゾール、オイゲノール等が挙げられる。更に、脂環式アルコールとしては、例えば、シクロヘキサノール等のシクロアルカノール、テルピネオール(α、β、γ異性体、又はこれらの任意の混合物を含む。)、ジヒドロテルピネオール等のテルペンアルコール(モノテルペンアルコール等)、ジヒドロターピネオール、ミルテノール、ソブレロール、メントール、カルベオール、ペリリルアルコール、ピノカルベオール、ソブレロール、ベルベノール等が挙げられる。
【0043】
(1−4)分散剤
本実施形態の銀粒子分散体には、更に、銀ナノ粒子を分散させるために銀ナノ粒子合成後に添加される分散剤を含む。かかる分散剤を用いることで、溶媒中の銀ナノ粒子の分散安定性を向上させることができる。ここで、当該分散剤の酸価は5〜200であることがより好ましく、また、当該分散剤がリン酸由来の官能基を有することが更に好ましい。
【0044】
分散剤の酸価が5以上であるとアミンと配位し粒子表面が塩基性となっている銀への酸塩基相互作用での吸着が起こり始めるからであり、200以下であると過度に吸着サイトを有さないため好適な形態で吸着するからである。また、分散剤がリン酸由来の官能基を有することでリンPが酸素Oを介して銀と相互作用し引き合うので銀や銀化合物との吸着には最も効果的であり、必要最小限の吸着量で好適な分散性を得ることができるからである。
【0045】
なお、酸価が5〜200の高分子分散剤としては、例えば、ルーブリゾール社のSOLSPERSEシリーズではSOLSPERSE−16000、21000、41000、41090、43000、44000、46000、54000等が挙げられ、ビックケミー社DISPERBYKシリーズではDISPERBYK−102、110、111、170、190.194N、2015.2090、2096等が挙げられ、エボニック社のTEGO Dispersシリーズでは610、610S、630、651、655、750W、755W等が挙げられ、楠本化成(株)製のディスパロンシリーズではDA−375、DA−1200等が挙げられ、共栄化学工業(株)製のフローレンシリーズではWK−13E、G−700、G−900、GW−1500、GW−1640、WK−13Eを例示することができる。
【0046】
本実施形態の銀ナノ粒子分散体に分散剤を含有させる場合の含有量は、粘度などの所望の特性によって調整すれば良いが、例えば、銀ナノ粒子分散体を銀インクとして用いる場合は、分散剤の含有量を0.5〜20質量%とすることが好ましく、銀ペーストとして用いる場合は、分散剤の含有量を0.1〜10質量%とすることが好ましい。
【0047】
高分子分散剤の含有量は0.1〜15質量%であることが好ましい。高分子分散剤の含有量が0.1%以上であれば得られる銀ナノ粒子分散体の分散安定性が良くなるが、含有量が多過ぎる場合は低温焼結性が低下することとなる。このような観点から、高分子分散剤のより好ましい含有量は0.3〜10質量%であり、更に好ましい含有量は0.5〜8質量%である。
【0048】
本実施形態の銀ナノ粒子分散体は、固形分に対して10℃/分の昇温速度で熱重量分析を行ったときの100〜500℃における重量損失が15質量%以下であることが好ましい。上記固形物を500℃まで加熱すると、有機物などが酸化分解され、大部分はガス化されて消失する。このため、500℃までの加熱による減量は、ほぼ固形分中の有機物の量に相当し得る。
【0049】
上記重量損失が多いほど銀ナノ粒子分散体の分散安定性は優れるが、多過ぎると有機物が不純物として導電性インクに残留して、導電性を低下させる。特に100℃程度の低温での加熱によって導電性の高い導電膜パターンを得るためには、上記重量損失が20質量%以下であることが好ましい。一方、上記重量損失が少な過ぎるとコロイド状態での分散安定性が損なわれるため、0.1質量%以上であることが好ましい。より好ましい重量損失は0.5〜15質量%である。
【0050】
(1−5)保護剤(保護分散剤)
本実施形態の銀ナノ粒子分散体は、更に、銀ナノ粒子合成前に添加される保護剤としての酸価を有する分散剤(保護分散剤)を含んでいてもよい。ここでいう「保護分散剤」は、上記の銀ナノ粒子合成後に添加される上記の分散剤(酸価を有する分散剤)と同じ種類のものでも異なる種類のものであってもよい。
【0051】
(1−5)その他の成分
本実施形態の銀ナノ粒子分散体には、上記の成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、使用目的に応じた適度な粘性、密着性、乾燥性又は印刷性等の機能を付与するために、例えばバインダとしての役割を果たすオリゴマー成分、樹脂成分、有機溶剤(固形分の一部を溶解又は分散していてよい。)、界面活性剤、増粘剤又は表面張力調整剤等の任意成分を添加してもよい。かかる任意成分としては、特に限定されない。
【0052】
樹脂成分としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ブロックドイソシアネート等のポリウレタン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂又はメラミン系樹脂等を挙げることができ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
増粘剤としては、例えば、クレイ、ベントナイト又はヘクトライト等の粘土鉱物、例えば、ポリエステル系エマルジョン樹脂、アクリル系エマルジョン樹脂、ポリウレタン系エマルジョン樹脂又はブロックドイソシアネート等のエマルジョン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのセルロース誘導体、キサンタンガム又はグアーガム等の多糖類等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
上記有機成分とは異なる界面活性剤を添加してもよい。多成分溶媒系の無機コロイド分散液においては、乾燥時の揮発速度の違いによる被膜表面の荒れ及び固形分の偏りが生じ易い。本実施形態の銀ナノ粒子分散体に界面活性剤を添加することによってこれらの不利益を抑制し、均一な導電性被膜を形成することができる銀ナノ粒子分散体が得られる。
【0055】
本実施形態において用いることのできる界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の何れかを用いることができ、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、4級アンモニウム塩等が挙げられる。なかでも、少量の添加量で効果が得られるので、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤が好ましい。界面活性剤の含有量は少な過ぎると効果が得られず、多過ぎると被膜中で残量不純物となるため、導電性が阻害されるおそれがある。好ましい界面活性剤の含有量は、銀ナノ粒子分散体の分散媒100質量部に対して0.01〜5質量部である。
【0056】
本実施形態における銀ナノ粒子分散体においては、銀ナノ粒子の表面の少なくとも一部にアミンが付着し、更に、テルペン系樹脂が銀ナノ粒子の表面に付着しているか又は分散媒に分散(又は溶解)している。このように銀ナノ粒子の表面の少なくとも一部にアミンが付着し、かつテルペン系樹脂が何らかの形態で含まれていることで、銀ナノ粒子に種々の分散媒に対する優れた分散性と低温焼結性とを付与することができる。
【0057】
本実施形態の銀ナノ粒子分散体の粘度は、1〜100cpsの粘度範囲であることが望ましく、1〜20cpsの粘度範囲がより好ましい。当該粘度範囲とすることにより、シリコーン樹脂上に銀ナノ粒子分散体を均一かつ薄膜状に塗布することができる。塗布する方法には汎用の塗布方法を利用することができ、アプリケータ法、バーコーター法、キャピラリーコータ法、及びスピンコーティング法等を例示することができる。
【0058】
本実施形態の銀ナノ粒子分散体の粘度の調整は、固形分濃度の調整、各成分の配合比の調整、増粘剤の添加等によって行うことができる。また、粘度は、振動式粘度計(例えばCBC(株)製のVM−100A−L)により測定できる。測定は振動子に液を浸漬させて行い、測定温度は常温(20〜25℃)とすればよい。
【0059】
(2)導電性インクの製造方法
本実施形態の導電性インクを製造するためには、まず、銀ナノ粒子分散体(金属コロイド液)を調製する。ついで、この金属コロイド液と、上記各種成分とを混合することにより、本実施形態の導電性インクを得ることができる。但し、必須成分であるテルペン系樹脂は、分散媒中への後添加だけでなく、銀ナノ粒子合成前に保護分散剤として添加してもよい。
【0060】
なかでも、本実施形態の銀ナノ粒子分散体は、銀ナノ粒子を生成する工程と、前記銀ナノ粒子に、前記銀ナノ粒子を分散させるための酸価を有する分散剤を添加・混合する工程と、を有するものである。更には、還元により分解して金属銀を生成しうる銀化合物と、アミンと、の混合液を調整する第1前工程と、当該混合液中の前記銀化合物を還元することで表面の少なくとも一部にアミンが付着した銀ナノ粒子を生成する第2前工程と、を含むのが好ましい。
【0061】
上記第1前工程においては、アミンを金属銀1molに対して2mol以上添加すること、が好ましい。アミンの添加量を金属銀1molに対して2mol以上とすることで、還元によって生成される銀ナノ粒子の表面にアミンを適量付着させることができ、当該銀ナノ粒子に種々の分散媒に対する優れた分散性と低温焼結性とを付与することができる。
【0062】
なお、上記第1前工程における混合液の組成及び上記第2前工程における還元条件(例えば、加熱温度及び加熱時間等)によって、得られる銀ナノ粒子の粒径を融点降下が生じるようなナノメートルサイズとすることが好ましく、1〜200nmとすることがより好ましい。ここで、必要に応じてミクロンメートルサイズの粒子が含まれていてもよい。上記第2前工程で得られる銀ナノ粒子分散体から銀ナノ粒子を取り出す方法は特に限定されないが、例えば、その銀ナノ粒子分散体の洗浄を行う方法等が挙げられる。
【0063】
有機物(アミン)で被覆された銀ナノ粒子を得るための出発材料としては、種々の公知の銀化合物(金属塩又はその水和物)を用いることができ、例えば、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、酸化銀、酢酸銀、シュウ酸銀、ギ酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀等の銀塩が挙げられる。これらは還元可能なものであれば特に限定されず、適当な溶媒中に溶解させても、溶媒中に分散させたまま使用してもよい。また、これらは単独で用いても複数併用してもよい。
【0064】
また、上記原料液においてこれらの銀化合物を還元する方法は特に限定されず、例えば、還元剤を用いる方法、紫外線等の光、電子線、超音波又は熱エネルギーを照射する方法、加熱する方法等が挙げられる。なかでも、操作の容易の観点から、還元剤を用いる方法が好ましい。
【0065】
上記還元剤としては、例えば、ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、フェニドン、ヒドラジン等のアミン化合物;例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ヨウ素化水素、水素ガス等の水素化合物;例えば、一酸化炭素、亜硫酸等の酸化物;例えば、硫酸第一鉄、酸化鉄、フマル酸鉄、乳酸鉄、シュウ酸鉄、硫化鉄、酢酸スズ、塩化スズ、二リン酸スズ、シュウ酸スズ、酸化スズ、硫酸スズ等の低原子価金属塩;例えば、エチレングリコール、グリセリン、ホルムアルデヒド、ハイドロキノン、ピロガロール、タンニン、タンニン酸、サリチル酸、D−グルコース等の糖等が挙げられるが、分散媒に溶解し上記金属塩を還元し得るものであれば特に限定されない。上記還元剤を使用する場合は、光及び/又は熱を加えて還元反応を促進させてもよい。
【0066】
上記金属塩、有機成分、溶媒及び還元剤を用いて、有機物で被覆された銀ナノ粒子を調製する具体的な方法としては、例えば、上記金属塩を有機溶媒(例えばトルエン等)に溶かして金属塩溶液を調製し、当該金属塩溶液に保護分散剤としてのアミンや酸価をもつ保護分散剤を添加し、ついで、ここに還元剤が溶解した溶液を徐々に滴下する方法等が挙げられる。
【0067】
上記のようにして得られたアミンや酸価をもつ保護分散剤で被覆された銀ナノ粒子を含む分散液には、銀ナノ粒子の他に、金属塩の対イオン、還元剤の残留物や分散剤が存在しており、液全体の電解質濃度や有機物濃度が高い傾向にある。このような状態の液は、電導度が高い等の理由で金属粒子の凝析が起こり、沈殿し易い。あるいは、沈殿しなくても、金属塩の対イオン、還元剤の残留物、又は分散に必要な量以上の過剰な分散剤が残留していると、導電性を悪化させるおそれがある。そこで、上記銀ナノ粒子を含む溶液を洗浄して余分な残留物を取り除くことにより、有機物で被覆された銀ナノ粒子を確実に得ることができる。
【0068】
上記洗浄方法としては、例えば、有機成分で被覆された銀ナノ粒子を含む分散液を一定時間静置し、生じた上澄み液を取り除いた上で、銀ナノ粒子を沈殿させる溶媒(例えば、水、メタノール、メタノール/水混合溶媒等)を加えて再度撹枠し、更に一定期間静置して生じた上澄み液を取り除く工程を幾度か繰り返す方法、上記の静置の代わりに遠心分離を行う方法、限外濾過装置やイオン交換装置等により脱塩する方法等が挙げられる。このような洗浄によって余分な残留物を取り除くと共に有機溶媒を除去することにより、本実施形態の「短鎖アミンや酸価をもつ分散剤」で被覆された金属粒子を得ることができる。
【0069】
本実施形態のうち、銀ナノ粒子分散体(銀コロイド分散液)は、上記において得たアミンや保護分散剤(上記のテルペン系樹脂の場合を含む。)で被覆された銀ナノ粒子と、上記本実施形態で説明した分散媒と、を混合することにより得られる。かかるアミンや保護分散剤で被覆された金属粒子と分散媒との混合方法は特に限定されるものではなく、攪拌機やスターラー等を用いて従来公知の方法によって行うことができる。スパチュラのようなもので撹拌したりして、適当な出力の超音波ホモジナイザーを当ててもよい。
【0070】
還元により分解して金属銀を生成しうる銀化合物と、アミンと、の混合液を調整する第1工程と、当該混合液中の前記銀化合物を還元することで表面の少なくとも一部にアミンが付着した銀ナノ粒子を生成する第2工程により、銀ナノ粒子を製造してもよい。例えば、銀を含むシュウ酸銀等の銀化合物とアミンから生成される錯化合物を加熱して、当該錯化合物に含まれるシュウ酸イオン等の金属化合物を分解して生成する原子状の銀を凝集させることにより、アミンの保護膜に保護された銀粒子を製造することができる。
【0071】
このように、銀化合物の錯化合物をアミンの存在下で熱分解することで、アミンにより被覆された銀ナノ粒子を製造する金属アミン錯体分解法においては、単一種の分子である銀アミン錯体の分解反応により原子状銀が生成するため、反応系内に均一に原子状銀を生成することが可能であり、複数の成分間の反応により銀原子を生成する場合に比較して、反応を構成する成分の組成揺らぎに起因する反応の不均一が抑制され、特に工業的規模で多量の銀粉末を製造する際に有利である。
【0072】
また、金属アミン錯体分解法においては、生成する銀原子にアミン分子が配位結合しており、当該銀原子に配位したアミン分子の働きにより凝集を生じる際の銀原子の運動がコントロールされるものと推察される。この結果として、金属アミン錯体分解法によれば非常に微細で、粒度分布が狭い金属粒子を製造することが可能となる。
【0073】
更に、製造される銀ナノ粒子の表面にも多数のアミン分子が比較的弱い力の配位結合を生じており、これらが銀ナノ粒子の表面に緻密な保護被膜を形成するため、保存安定性に優れる表面の清浄な被覆銀ナノ粒子を製造することが可能となる。また、当該被膜を形成するアミン分子は加熱等により容易に脱離可能であるため、非常に低温で焼結可能な銀ナノ粒子を製造することが可能となる。
【0074】
また、固体状の銀化合物とアミンを混合して錯化合物等の複合化合物が生成する際に、被覆銀ナノ粒子の被膜を構成する酸価をもつ分散剤に対して、アミンを混合して用いることにより、錯化合物等の複合化合物の生成が容易になり、短時間の混合で複合化合物を製造可能となる。また、当該アミンを混合して用いることにより、各種の用途に応じた特性を有する被覆銀ナノ粒子の製造が可能である。
【0075】
(3)導電層(導電膜)パターン及びその製造方法
本実施形態の導電性インクを用いれば、上記導電性インクを基材に塗布する導電性インク塗布工程と、前記基材に塗布した前記導電性インクを140℃未満(好ましくは120℃以下)の温度で焼成して導電膜パターンを形成する導電膜パターン形成工程と、により、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に形成される導電膜パターンと、を含む導電膜パターン付基板を製造することができる。
【0076】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、前記導電性インク塗布工程での導電性インクとして、上述した本実施形態の導電性インクを用いれば、導電膜パターン形成工程において、前記基材に塗布した前記導電性インクを140℃未満の温度で焼成しても、優れた導電性を有する導電膜パターンが確実に得られることを見出した。
【0077】
本実施形態の導電性インクを転写印刷用とする場合、転写印刷法のうちの反転印刷法においては、まず、ブランケット上に転写印刷用導電性インクを塗布して導電性インク塗布面を形成する。ブランケットとしては、シリコーンからなるシリコーンブランケットが好ましい。ブランケットの表面に導電性インク塗布面を形成した後、所定時間放置することにより、低沸点溶剤が揮発およびブランケット中に吸収されることにより導電性インクの粘度が上昇する。
【0078】
上記導電性インク塗布面に所定のパターンに応じた版が形成された凸版を押圧すると、当該凸版に接触する部分の導電性インクがブランケット上から除去される。このとき、導電性インクが適度な凝集性を有することにより、導電性インクが構造破壊すること無しにブランケットからの剥離と、凸版への付着とが確実に行われ、ブランケットへの望ましくない残留が抑制される。この結果、ブランケット上に残った導電性インクにより、凸版のパターンに応じた導電性インクのパターンがブランケット上に形成される。
【0079】
ブランケット上に残ったウェット状態もしくは半乾燥状態の導電性インクを、被印刷体に転写する。この際、導電性インクが適度な凝集性を有することにより、ブランケットからの剥離と、被印刷体への付着とが確実に行われ、ブランケットへの望ましくない残留が抑制される。この結果、被印刷体には、凸版に形成されたパターンに対して反転したパターンにより導電膜パターンが形成される。
【0080】
本実施形態において用いることのできる基材としては、導電性インクを塗布して加熱により焼成して導電膜パターンを搭載することのできる、少なくとも1つの主面を有するものであれば、特に制限はないが、耐熱性に優れた基材であるのが好ましい。また、先に述べたように、本実施形態の転写印刷用導電性インクは、従来の導電性インクに比較して低い温度で加熱して焼成しても十分な導電性を有する導電膜パターンを得ることができるため、この低い焼成温度よりも高い温度範囲で、従来よりも耐熱温度の低い基材を用いることが可能である。
【0081】
このような基材を構成する材料としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ビニル樹脂、フッ素樹脂、液晶ポリマー、セラミックス、ガラス又は金属等を挙げることができる。また、基材は、例えば板状又はストリップ状等の種々の形状であってよく、リジッドでもフレキシブルでもよい。基材の厚さも適宜選択することができる。接着性若しくは密着性の向上又はその他の目的ために、表面層が形成された基材や親水化処理等の表面処理を施した基材を用いてもよい。
【0082】
上記のように塗布した後の塗膜を、140℃未満(好ましくは120℃以下)の温度に加熱することにより焼成し、本実施形態の導電膜パターン(導電膜パターン付基材)を得ることができる。焼成を行う方法は特に限定されるものではなく、例えば従来公知のギアオーブン等を用いて、基材上に塗布または描画した上記導電性インクの温度が140℃未満(好ましくは120℃以下)となるように焼成することによって導電膜パターンを形成することができる。上記焼成の温度の下限は必ずしも限定されず、基材上に導電膜パターンを形成できる温度であって、かつ、本発明の効果を損なわない範囲で上記有機成分等を蒸発又は分解により除去できる温度であることが好ましい(本発明の効果を損なわない範囲で一部が残存していてもよいが、望ましくは全て除去されるのが好ましい。)。
【0083】
本実施形態の導電性インクによれば、120℃程度の低温加熱処理でも高い導電性を発現する導電膜パターンを形成することができるため、比較的熱に弱い基材上にも導電膜パターンを形成することができる。また、焼成時間は特に限定されるものではなく、焼成温度に応じて、基材上に導電膜パターンを形成できる。
【0084】
本実施形態においては、基本的には不要であるが、上記基材と導電膜パターンとの密着性を更に高めるため、上記基材の表面処理を行ってもよい。上記表面処理方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、電子線処理等のドライ処理を行う方法、基材上にあらかじめプライマー層や導電性インク受容層を設ける方法等が挙げられる。
【0085】
このようにして本実施形態の導電膜パターン(導電膜パターン付基材)を得ることができる。このようにして得られる本実施形態の導電膜パターンは、例えば、0.1〜5μm程度、より好ましくは0.1〜1μmである。本実施形態の導電性インクを用いれば、厚さが0.1〜5μm程度であっても、十分な導電性を有する導電膜パターンが得られる。なお、本実施形態の導電膜パターンの体積抵抗値は、15μΩ・cm以下である。
【0086】
なお、本実施形態の導電膜パターンの厚みtは、例えば、下記式を用いて求めることはできる(導電膜パターンの厚さtは、レーザー顕微鏡(例えば、キーエンス製レーザー顕微鏡VK−9510)で測定することも可能である。)。
式:t=m/(d×M×w)
m:導電膜パターン重量(スライドガラス上に形成した導電膜パターンの重さを電子天秤で測定)
d:導電膜パターン密度(g/cm
3)(銀の場合は10.5g/cm
3)
M:導電膜パターン長(cm)(スライドガラス上に形成した導電膜パターンの長さをJIS1級相当のスケールで測定)
w:導電膜パターン幅(cm)(スライドガラス上に形成した導電膜パターンの幅をJIS1級相当のスケールで測定)
【実施例】
【0087】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の導電性インク及び当該導電性インクを用いた導電膜パターン(導電膜パターン付基材)の製造方法について更に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0088】
≪実施例1≫
ブチルアミン(和光純薬工業(株)製試薬一級、炭素数:4)1.7gと、ヘキシルアミン(和光純薬工業(株)製試薬一級、炭素数:6)3.5gと高分子分散剤であるSOLSPERSE21000(日本ルーブリゾール(株)製)を0.2gと、を混合し、マグネティックスターラーにてよく撹拌してアミン混合液を調製した。次いで、撹拌を行いながら、シュウ酸銀3.0gを添加した。シュウ酸銀の添加後、室温で攪拌を続けることでシュウ酸銀を粘性のある白色の物質へと変化させ、当該変化が外見的に終了したと認められる時点で撹拌を終了した(第1工程)。
得られた混合液をオイルバスに移し、120℃で加熱撹拌を行った。撹拌の開始直後に二酸化炭素の発生を伴う反応が開始し、その後、二酸化炭素の発生が完了するまで撹拌を行うことで、銀微粒子がアミン混合物中に懸濁した懸濁液を得た(第2工程)。
次に、当該懸濁液の分散媒を置換するため、メタノールとアセトンの混合溶媒10mLを加えて撹拌後、遠心分離により銀微粒子を沈殿させて分離し、分離した銀微粒子に対してアセトン10mLを加え、撹拌、遠心分離を行うことで銀微粒子を沈殿させて分離し、ジヒドロターピニルアセテート1.5gにテルペン樹脂YSレジンPX1150(ヤスハラケミカル(株)製・軟化点115±5℃)を0.04g(銀固形分に対して2.0重量%)加え混合溶解させたものに分散させ銀ナノ粒子分散体1を得た。
【0089】
[評価試験]
得られた銀ナノ粒子分散体1について、分散性、希釈性(直後、経時安定性)、体積抵抗値、密着性試験(プルオフ法)の評価を行った。なお、導電性被膜の焼成条件はいずれも120℃×30分間とした。
【0090】
(1)分散性
銀ナノ粒子分散体1を容器中に静置し、室温1日後、沈殿の有無及び上澄みの状態を目視で観察することにより、分散性を評価した。容器下に沈降物がほとんど認められない場合を「○」、沈降物が少量認められた場合を「△」、容器上下で明らかに濃度差があり、沈降物がはっきり認められる場合を「×」と評価した。結果を表1に示した。
【0091】
(2)希釈性
銀ナノ粒子分散体1を分散媒に100倍希釈したときの分散性を目視で評価した。分散した場合を「○」、一部凝集や銀鏡が見られた場合を「△」、凝集・沈殿が生じた場合を「×」と評価した。
【0092】
(3)体積抵抗値
銀ナノ粒子分散体1をスライドガラスに刷毛塗りして塗膜を形成し、ギヤオーブン中で120℃×30分間の条件で加熱・焼成することにより焼結させ、導電性被膜を形成した。この被膜の体積抵抗値を、横川メータ&インスツルメンツ(株)製の直流精密測定器「携帯用ダブルブリッジ2769」を用いて測定した。具体的には、以下の式に基づき、測定端子間距離と導電性被膜の厚みから体積抵抗値を換算した。体積抵抗値が20μΩ・cm以下の場合を「○」、30μΩ・cm以下の場合を「△」、それ以上の値の場合は「×」と評価した。結果を表1に示した。
式:(体積抵抗値ρv)=
(抵抗値R)×(被膜幅w)×(被膜厚さt)/(端子間距離L)
【0093】
(4)密着性試験
銀ナノ粒子分散体1を2.5cm角のスライドガラス上にスピンコート(2000rpm/20sec)によって塗膜を形成し、ギヤオーブン中で120℃×30分間の条件で加熱・焼成することにより焼結させ、導電性被膜を形成した。付着性試験としてプルオフ法によってガラス基板上の薄膜にセロテープを貼り付け、引き剥がした結果の破断状況で評価した。スライドガラス5枚を使い5枚の被膜付きサンプルを作製し5枚それぞれセロテープを皮膜に強くこすりつけ垂直方向に強く引き剥がして評価した。剥離枚数が0〜1枚の場合を「○」、2〜3枚の場合を「△」、4〜5枚の場合を「×」とし全剥離でなく部分的な剥離であっても剥離したものとし1枚として数えた。結果を表1に示した。
【0094】
(5)銀ナノ粒子分散液中の樹脂量測定(樹脂分測定)
銀ナノ粒子分散体1に含まれる有機成分の含有量を、熱重量分析法で測定した。具体的には、銀ナノ粒子分散体の固形分を10℃/分間の昇温速度で加熱し、200〜500℃の重量減少量として樹脂成分の含有量を高分子分散剤の重量損失分を差し引いて特定した。結果を表1に示した。
【0095】
≪実施例2≫
YSレジンPX1150の代わりに、テルペンフェノール樹脂YSポリスターT160(ヤスハラケミカル(株)製・軟化点160±5℃)を0.04g(銀固形分に対して2.0重量%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして銀ナノ粒子分散液2を調製して評価試験を行った。結果を表1に示した。
【0096】
≪実施例3≫
YSレジンPX1150の代わりに、変性テルペン樹脂YSレジンTO115(ヤスハラケミカル(株)製・軟化点115±5℃)を0.04g(銀固形分に対して2.0重量%)用いたこと以外は、実施例1と同様にして銀ナノ粒子分散液3を調製して評価試験を行った。結果を表1に示した。
【0097】
≪実施例4≫
YSレジンPX1150の代わりに、テルペン樹脂YSレジンPX1000(ヤスハラケミカル(株)製・軟化点100±5℃)を0.04g(銀固形分に対して2.0重量%)用いたこと以外は、実施例1と同様にして銀ナノ粒子分散液4を調製して評価試験を行った。結果を表1に示した。
【0098】
≪実施例5≫
YSレジンPX1150の代わりに、テルペン系淡色ロジンエステルKE−311(荒川化学工業(株)製・軟化点95±5℃)を0.04g(銀固形分に対して2.0重量%)用いたこと以外は実施例1と同様にして銀ナノ粒子分散液5を調製して評価試験を行った。結果を表1に示した。
【0099】
≪実施例6≫
KE−311の代わりに、テルペン系ロジン樹脂KE−604(荒川化学工業(株)製・軟化点129±5℃)を0.04g(銀固形分に対して2.0重量%)用いたこと以外は実施例5と同様にして銀ナノ粒子分散液6を調製して評価試験を行った。結果を表1に示した。
【0100】
≪実施例7≫
ブチルアミン(和光純薬工業(株)製試薬一級、炭素数:4)1.7gと、ヘキシルアミン(和光純薬工業(株)製試薬一級、炭素数:6)3.5gと高分子分散剤であるSOLSPERSE21000(日本ルーブリゾール(株)製)を0.2gとテルペン樹脂YSレジンPX1150(ヤスハラケミカル(株)製・軟化点115±5℃)を0.08g(銀固形分に対して4.0重量%)を加え混合し、マグネティックスターラーにてよく撹拌してアミン混合液を生成した。次いで、撹拌を行いながら、シュウ酸銀3.0gを添加した。シュウ酸銀の添加後、室温で攪拌を続けることでシュウ酸銀を粘性のある白色の物質へと変化させ、当該変化が外見的に終了したと認められる時点で撹拌を終了した(第1工程)。
得られた混合液をオイルバスに移し、120℃で加熱撹拌を行った。撹拌の開始直後に二酸化炭素の発生を伴う反応が開始し、その後、二酸化炭素の発生が完了するまで撹拌を行うことで、銀ナノ粒子がアミン混合物中に懸濁した懸濁液を得た(第2工程)。
次に、当該懸濁液の分散媒を置換するため、メタノールとアセトンの混合溶媒10mLを加えて撹拌後、遠心分離により銀ナノ粒子を沈殿させて分離し、分離した銀ナノ粒子に対してアセトン10mLを加え、撹拌、遠心分離を行うことで銀ナノ粒子を沈殿させて分離し、ジヒドロターピニルアセテート1.5gに分散させ銀ナノ粒子分散液7を得た。実施例1と同様にして評価試験を行い、結果を表1に示した。
【0101】
≪実施例8≫
配合時にSOLSPERSE21000を用いないこと以外は、実施例7と同様にして銀ナノ粒子分散液8を調製して評価試験を行った。結果を表1に示した。
【0102】
≪実施例9≫
配合時にテルペン樹脂YSレジンPX1150を0.20g(銀固形分に対して10.0重量%)用いたこと以外は、実施例7と同様にして銀ナノ粒子分散液9を調製して評価試験を行った。結果を表1に示した。
【0103】
≪実施例10≫
YSレジンPX1150を0.02g(銀固形分に対して1.0重量%)を用いたこと以外は、実施例7と同様にして銀ナノ粒子分散液10を調製して評価試験を行った。結果を表1に示した。
【0104】
【表1】
【0105】
≪比較例1≫
配合時に高分子分散剤であるSOLSPERSE21000とテルペン樹脂YSレジンPX1150を加えないこと以外は、実施例7と同様にして合成を行ったが、銀ナノ粒子分散液を得ることができなかった。
【0106】
≪比較例2≫
配合時にテルペン樹脂YSレジンPX1150を加えないこと以外は、実施例8と同様にして銀ナノ粒子分散液11を調製して評価試験を行った。結果を表2に示した。
【0107】
≪比較例3≫
ジヒドロターピニルアセテート1.5gに加える樹脂をポリエステル樹脂溶液であるアラキード7046(荒川化学工業(株)製)を固形分換算で0.04g(銀固形分に対して2.0重量%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして銀ナノ粒子分散液12を調製して評価試験を行った。結果を表2に示した。
【0108】
≪比較例4≫
ジヒドロターピニルアセテート1.5gに加える樹脂をウレタン変性アクリルポリマー溶液であるアクリット8UA−140(大成ファインケミカル(株)製)を固形分換算で0.04g(銀固形分に対して2.0重量%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして銀ナノ粒子分散液13を調製して評価試験を行った。結果を表2に示した。
【0109】
≪比較例5≫
ジヒドロターピニルアセテート1.5gに加える樹脂をテルペン樹脂YSレジンPX800(ヤスハラケミカル(株)製・軟化点80±5℃)を固形分換算で0.04g(銀固形分に対して2.0重量%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして銀ナノ粒子分散液14を調製して評価試験を行った。結果を表2に示した。
【0110】
≪比較例6≫
ジヒドロターピニルアセテート1.5gに加える樹脂をテルペン樹脂YSレジンPX300N(ヤスハラケミカル(株)製・軟化点30±5℃)を固形分換算で0.04g(銀固形分に対して2.0重量%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして銀ナノ粒子分散液15を調製して評価試験を行った。結果を表2に示した。
【0111】
【表2】
【0112】
実施例1〜6よりテルペン系樹脂であれば(ピネン重合体、テルペンフェノール樹脂、ロジン、ロジンエステル等幅広く適用可能であることがわかる。また、実施例8より高分子分散剤と併用する事が好ましいが、テルペン系樹脂を合成時に加えておけばナノ粒子を合成できることがわかる。なお、比較例1では、高分子分散剤及びテルペン系樹脂の両方が無いためナノ粒子を合成ができなかった。
また、実施例9より銀固形分に対してのテルペン樹脂配合量が10質量%以下であれば導通が可能であることがわかる。
【0113】
更に、実施例7〜9より、分散媒に後添加しなくても、ナノ粒子形成時に保護分散剤としてテルペン系樹脂を用いること(銀ナノ粒子表面に付着)でも効果が得られることがわかった。
【0114】
また、比較例2よりテルペン系樹脂を用いなかった場合はガラス基材に密着しないこと、更に、比較例3及び4よりポリエステル樹脂やアクリル樹脂等のテルペン系樹脂以外の樹脂を入れても密着性と導電性は両立しないことがわかる。比較例5及び6よりテルペン系樹脂の軟化点が90℃を下回れば密着性が発現しないこともわかる。
十分な導電性及び基板との良好な密着性を有する導電膜パターンを低温で焼成することができ、更には、取扱いが容易で分散性にも優れる導電性インクを提供する。本発明の導電性インクは、銀ナノ粒子と、分散媒と、前記銀ナノ粒子の表面に付着するか、又は、前記分散媒中に含まれる、軟化点90℃以上のテルペン系樹脂と、を含むことを特徴とする。