(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262445
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】水蒸気選択透過膜を使用する全熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28F 21/06 20060101AFI20180104BHJP
F28D 9/00 20060101ALI20180104BHJP
F24F 3/147 20060101ALN20180104BHJP
【FI】
F28F21/06
F28D9/00
!F24F3/147
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-91872(P2013-91872)
(22)【出願日】2013年4月25日
(65)【公開番号】特開2014-214949(P2014-214949A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】390003333
【氏名又は名称】新晃工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111442
【弁理士】
【氏名又は名称】小原 英一
(72)【発明者】
【氏名】村田 寧
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一輝
【審査官】
庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−178189(JP,A)
【文献】
特開2011−002171(JP,A)
【文献】
特開平07−204451(JP,A)
【文献】
特開2003−251133(JP,A)
【文献】
特開2005−255006(JP,A)
【文献】
特開2004−333021(JP,A)
【文献】
実開昭49−076346(JP,U)
【文献】
米国特許第04040804(US,A)
【文献】
特開2008−014623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 21/00
F28D 9/00
F24F 3/147,7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気の供給および室内気の排気を併行して行うために外気を導入する供給ダクトと、室内気の排気ダクトとを独立的に形成し、両端部に前記供給ダクトと排気ダクトとが夫々接続された所定長さのケーシング内に、熱および水分子を透過する薄膜を貼付した複数の開口部を有する平板で、該平板は金属あるいはプラスティックの厚さは0.1mm以上で平板にパンチングが施されるか又は金網であって、前記ケーシング内が該平板によって層状に区画され、交互に第一流路と第二流路とからなる多数の層状の流路が形成されるとともに、前記第一流路と第二流路とが各流路の空気を相互に対向して流通させるか又は並行して流通させるようにした対向流型あるいは並行流型の流路構成とされるとともに、前記の熱および水分子を透過する薄膜を介して高温側の空気から低温側の空気へ熱を移動させつつ、高湿側の空気から低湿側の空気へ水分子を移動させ全熱交換作用を促進させる構成を有する全熱交換器において、前記薄膜は、ガラス繊維あるいはセルロース繊維あるいはそれらの混合繊維から構成される紙または布の両面に吸湿性を有する樹脂の粒子を担持し、かつ、その厚さは0.5mm以下であることを特徴とする全熱交換器。
【請求項2】
請求項1に記載の全熱交換器において、前記平板に設置される開口部の形状は矩形状であり、その単独の大きさは、幅30cm以下、長さ50cm以下であることを特徴とする全熱交換器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の全熱交換器において、平板の開口部に貼付される薄膜は、開口部周囲の平面部に塗布された接着剤により固定されていることを特徴とする全熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は住居、事務所、商業施設、体育館、イベント会場、工場、自動車などの室内空間を衛生的で快適な温度・湿度状態に保つ全熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の傾向が顕著となり、その対策として主たる温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を削減すべく化石燃料の高効率使用(省エネルギー活動)が進められている。
【0003】
特に民生分野(家庭、業務)の空調設備は現在も導入件数ならびに使用頻度が増加しつつあり、エネルギー使用量は拡大しつつあるため、その使用量削減に向けた空調機器・システムの効率改善は喫緊の課題である。
【0004】
例えば、エアコンによる室内空調では、空気を露点以下に冷却除湿した後に再度加熱して相対湿度調整を実施するなど効率の悪い空調機運用が見られる。
【0005】
特に、省エネルギー対策の一環として実施される住宅やオフィスビルの高気密化に起因するシックハウス症候群の対策として換気強化が義務化されているが、換気強化は室内空調負荷とりわけ除湿や加湿などの潜熱負荷増大を招くことから省エネルギーに逆行してしまう。
【0006】
このような状況に対し、近年、水蒸気透過膜を介して一方の面を通過する空気から熱と水分を他方の面を通過する空気に与える全熱交換器が市販され、大いに省エネルギーに貢献している。
【0007】
しかしながら、水蒸気を透過する膜の構成上、水蒸気とともに二酸化炭素やアンモニアガスのような汚染要因も透過させてしまう特性があり、流通空気の混合問題(コンタミ)が発生するため、潜熱交換(水蒸気交換)性能が低いという欠点があった。
【0008】
この問題点を解決するために、例えば下記特許文献1には、吸湿剤(デシカント)を金属板などの表面に担持させて水蒸気を吸着し、加湿対象の空気へ水蒸気を移動させるデシカント換気システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4341924号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1記載のデシカント換気システムでは、高湿度空気から水蒸気を吸湿したデシカント材を低湿度空気へ移動させる駆動装置が必要となるなど、コストや寸法面からの制約から広く普及する状況にはない。
【0011】
このような状況を解決するため、本発明の主たる課題は、特許文献1に示されるようなデシカント換気システムの運転に必要な可動部を排除し、装置をコンパクト化することと製造コストを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
外気の供給および室内気の排気を併行して行うために外気を導入する供給ダクトと、室内気の排気ダクトとを独立的に形成し、前記供給ダクトと排気ダクトとが夫々両端部に接続された所定長さのケーシングを設置し、その内部に、熱および水蒸気を透過する薄膜を貼付した複数の開口部を有する金属あるいはプラスティックの平板、パンチングおよび金網を層状に配置して、室内気と外気が流通する流路を層状に区画することで、交互に第一流路と第二流路とからなる多数の層状流路を形成したので、前記第一流路と第二流路とを通過する各空気間で前記の熱および水蒸気を透過する薄膜を介して高温側の空気から低温側の空気へ熱が、高湿側の空気から低湿側の空気へ水蒸気が移動する全熱交換器が形成され、特に、前記薄膜は、ガラス繊維あるいはセルロース繊維あるいはそれらの混合繊維から構成される紙または布の両面に吸湿性を有する樹脂の粒子(除湿材)を担持したことで、吸湿樹脂の間を水蒸気が水分子として移動可能となった上に、膜厚さが0.5mm以下であるにも関わらず、水蒸気以外の気体の通過が制限され、かつ、熱の移動が極めて良好な全熱交換器が提供される。
【0013】
上記請求項1記載の本発明は、多数の薄膜によって、交互に第一流路と第二流路とからなる多数の流路が層状に区画され、前記第一流路と第二流路とに仕切る薄膜の両面に吸湿性を有する樹脂(除湿材)の粒子を高密度に担持したので見掛け上、水蒸気のみを透過する膜が形成されると共に、高湿度の空気が通過する一方の面で発生する除湿材の水分吸着に伴う吸着熱は、他方の面に伝わり、水蒸気が低湿度の空気に向けて放散される際の再生熱として消費されるので見掛け上の水蒸気移動が活発化できる構成となる。
【0014】
さらに本発明では、用いられる金属あるいはプラスティックの平板の厚さを0.1mm以上として、平板の強度を確保すると共に、設置される開口部の形状を矩形状として、各開口部の大きさを、幅30cm以下、長さ50cm以下としたので、開口部に貼付された薄膜が通過する空気流の圧力差で破損する危険性を排除できる全熱交換器の提供が可能となった。上記平板のかわりにパンチングあるいは金網を使用しても同様の効果を得られる。
すなわち、平板の強度が確保できれば金属あるいはプラスティックの平板にパンチングを施すか、金属の平板状の金網であってもよい。
【0015】
また本発明では、金属あるいはプラスティック平板の開口部に貼付される薄膜を固定するために、金属あるいはプラスティック平板の開口部周囲の平面部に接着剤を塗布した後に薄膜を固定したので、薄膜側に接着剤を塗布する必要が無く、平板開口部に露出する薄膜の全域にわたって熱と水蒸気の移動が可能となる全熱交換器の提供が可能となった。上記平板のかわりにパンチングあるいは金網を使用しても同様の効果を得られる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したとおり本発明によれば、外気を室内へ導入すると共に室内気を室外へ排出する際の室内気の保有する顕熱(温熱または冷熱のための空調負荷)ならびに潜熱(加湿または除湿のための空調負荷)を高効率に導入外気へ転嫁するデシカント全熱交換器において、吸着材の行う吸湿・再生作用を同時かつ同一部分で発生させることが可能となり、流路切り替えや全熱交換器の回転などに伴う複雑な配管構成や駆動システムを省略することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るデシカント全熱交換器の構成概要図
【
図2】本発明に係るデシカント全熱交換器内部の構成説明図
【
図3】本発明の重要技術である薄膜を通過する水蒸気の状態説明図
【
図4】本発明に係るデシカント全熱交換器を通過する夏季の外気ならびに室内気の湿度・温度変化概要図
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第一形態例〕
図1は、本発明の第1形態例に係るデシカント全熱交換器の構成概要図を示している。
図2は、本発明の第1形態例に係るデシカント全熱交換器の内部の構成概要を示している。
図3は、本発明の重要技術である薄膜を介して、熱と水蒸気が通過する機能を示したイメージ図である。
図4は、本発明の第1形態例に係るデシカント全熱交換器を通過する夏季の外気(A点)ならびに室内気(B点)がデシカント全熱交換器を通過する際の温度・相対湿度変化を湿り空気線図上に模擬的に表したものである。
【0019】
本発明の第1形態例に係るデシカント全熱交換器は、
図1に示されるように室外1から外気を、室内2へ導く供給ダクト3−1,3−2と室内2から室内気を室外1へ排出する排気ダクト4−1,4−2 ならびに、デシカント全熱交換器5、図示していないが各空気ダクトに設置されている通気ファン6などから構成される。
【0020】
デシカント全熱交換器5は、その内部に流路を形成する平板7、平板7の一部で両面が流路に開放された開口部に保持される薄膜9などから構成されている。
また、平板は強度が確保できれば金属あるいはプラスティックの平板にパンチングを施すか、金属の平板状の金網であってもよく、この場合は平板を軽量にできる。
【0021】
また、デシカント全熱交換器5は、供給ダクト3−1,3−2と排気ダクト4−1,4−2とに対して、夫々通過空気の出入り口10にて接続されている。
【0022】
デシカント全熱交換器5の両端面は、端板5−9にて密閉されており、流路を形成する平板7とはエアータイトな状態で固定される。
【0023】
このように、デシカント全熱交換器5は、出入り口10にて空気ダクト3,4とエアータイトに接続されているので、薄膜9を介して熱と水蒸気が常に両空気から高効率に移動し、室内には連続して調湿された外気が供給される。
【0024】
次に
図3を用いて、本発明によるデシカント全熱交換器の全熱交換性能の優れた点について説明する。
【0025】
平板7の開口
部の流路に開放された両面に吸湿性を有する樹脂の粒子(
吸湿剤)を担持させた薄膜9を設置しているので、薄膜を介して水蒸気が移動可能であり、かつ、膜厚さも0.5mm以下としているので、高い熱交換性が確保されている。
【0026】
薄膜9は、繊維構造を有する紙または布の表面に、吸湿性を有する樹脂を薄くほぼ均等に担持しているので、見掛け上は平面状で連続する薄膜が形態され気体通過は防止されている。
【0027】
一方、
図3に示すように、水蒸気は高湿度側で吸湿性を有する樹脂に吸湿され、樹脂内に水分として取り込まれる。取り込まれた水分は樹脂内を低湿度側へ移動し、低湿度の空気中へ蒸散する。
【0028】
このような水蒸気の移動メカニズムを有する薄膜であることから、見掛け上は水蒸気のみが通過し、他の気体は通過できない膜となる。また、0.5mm以下の薄膜であることから、従来の和紙を用いた膜に比して熱の通過は良好となる。
【0029】
デシカント全熱交換器の運転状態
本発明によるデシカント全熱交換器は、給気または排気のためのダクトが独立的に形成されることにより、外気の供給と室内気の排気が併行して行われるようになっている。
【0030】
夏季運転の場合、
図4の湿り空気線図に示すように、全熱交換器内を通過する両空気は、外気(A点)と室内気(B点)でのA点が示す(高温度、高湿度)とB点が示す(低温度、低湿度)によって囲まれる矩形内部を移動して、夫々の出口状態(通過外気の出口C点、通過室内空気の出口D点)に到達する。
【0031】
基本的に通過する外気と室内気の流量は同一であるから、A点とC点のエンタルピー差と、B点とD点のエンタルピー差は等しく、それらの値に対するA点とB点のエンタルピーの比率が全熱交換率となる。
【符号の説明】
【0032】
1・・・室外および外気、
2・・・室内および室内気、
3・・・給気側の空気ダクト(3−1,3−2も同様)
4・・・排気側の空気ダクト(4−1,4−2も同様)
5・・・デシカント全熱交換器、
7・・・平
板、
9・・・紙または布の両面に吸湿性を有する樹脂の粒子
(吸湿剤)を担持した薄膜、
10・・・デシカント全熱交換器の両端部に設置されている通過空気の出入り口、