特許第6262449号(P6262449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6262449放射性セシウム除染粒子の凝集体とその製造方法、並びに、放射性セシウムの除染方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262449
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】放射性セシウム除染粒子の凝集体とその製造方法、並びに、放射性セシウムの除染方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
   G21F9/12 501B
   G21F9/12 501J
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-105471(P2013-105471)
(22)【出願日】2013年5月17日
(65)【公開番号】特開2014-228282(P2014-228282A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】501083643
【氏名又は名称】学校法人慈恵大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100156834
【弁理士】
【氏名又は名称】橋村 一誠
(72)【発明者】
【氏名】並木 禎尚
(72)【発明者】
【氏名】上山 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴行
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−237735(JP,A)
【文献】 特表2000−506827(JP,A)
【文献】 特開2012−237738(JP,A)
【文献】 特開2012−237740(JP,A)
【文献】 特開2011−083712(JP,A)
【文献】 特開平10−081507(JP,A)
【文献】 特開平10−214710(JP,A)
【文献】 特開昭54−042387(JP,A)
【文献】 米国特許第6214234(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
G21F 9/06
B01J 20/00−20/34
B09B 1/00−5/00
B09C 1/00−1/10
C02F 1/28
C02F 1/48
B03C 1/00−1/015
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子と、放射性物質吸着成分として遷移金属元素を含むフェロシアン化物とを有する放射性セシウム除染粒子が、2つ以上集合している凝集体であって、
当該凝集体における細孔容積が0.5mL/g以上、3.0mL/g以下であり、
当該凝集体におけるBET法により求められた比表面積値が10m/g以上、350m/g以下であり、
平均粒子径(D50径)が5.1μm以上、12.9μm以下である、放射性セシウム除染粒子の凝集体。
ただし、前記細孔容積とは、水銀圧入法により求められる細孔容積の累積値であり、前記BET法とは、脱気操作を行わないBET法での測定結果である。
【請求項2】
磁性粒子を分散させたスラリーに、カチオン性ポリマーを添加して、磁性粒子上に被覆層を形成した磁性粒子のスラリーへ、遷移金属元素を含むフェロシアン化物を添加して、被覆層を形成した磁性粒子の被覆層上に、除染成分として遷移金属元素を含むフェロシアン化物が形成された除染剤スラリーをスプレードライヤーにより乾燥させ、
細孔容積が0.5mL/g以上、3.0mL/g以下であり、
BET法により求められた比表面積値が10m/g以上、350m/g以下であり、
平均粒子径(D50径)が5.1μm以上、12.9μm以下である放射性セシウム除染粒子の凝集体を得る、放射性セシウム除染粒子の凝集体の製造方法。
ただし、前記細孔容積とは、水銀圧入法により求められる細孔容積の累積値であり、前記BET法とは、脱気操作を行わないBET法での測定結果である。
【請求項3】
請求項1に記載の放射性セシウム除染粒子の凝集体を、放射性セシウムを含む被処理液体中に分散させて、当該放射性セシウムを、放射性セシウム除染粒子の凝集体へ移行させる、放射性セシウムの除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質除染粒子の凝集体とその製造方法、当該放射性物質除染粒子の凝集体を用いた汚染物質の除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物焼却場等で発生する焼却飛灰に、汚染物質として放射性物質が含有されている場合、当該放射性物質は環境規制物質であり、その処理が問題となる。
【0003】
前記放射性物質の中でも134Csや137Cs、特に137Csは半減期が30.2年と長いため、発生10年後も大部分は残存するという問題がある。この為、汚染物質は、長期にわたって環境・生態系への悪影響を及ぼすことが懸念されることから、環境からの汚染物質の速やかな除去が望まれる。
【0004】
ところが、一般廃棄物焼却場等で発生する、粒子径20〜30μmの細かい焼却飛灰には、放射性セシウムの蓄積が著しく多く、公表されている資料等には数万Bq/kgに達するものも存在している。
【0005】
このような状況の中で、本発明の発明者の一人は、放射性セシウムの除染剤として特許文献1を開示した。特許文献1に係る除染剤は、放射性物質を含む液体から効率よく放射性セシウムを除去することが出来る。さらに、特許文献1は、放射性セシウムを取り込んだ除染剤に直接触れる必要なしに分離回収することが可能な技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4932054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、除染剤に関する研究を継続した結果、乾燥などの方法により、当該除染剤から水分を除去して、除染剤に含まれる2つ以上の除染剤の粒子を集合させて凝集体にすると、磁石に対する応答性が顕著に改善されることを知見した。
【0008】
さらに、除染剤の凝集体を形成させることで、被処理対象の液体が懸濁物質によるスラリーの状態であっても、懸濁物質と除染剤の凝集体との分離を容易に行うことができるため、スラリー中の懸濁物から放射性セシウムを分離して除染剤に吸収させれば、放射性セシウムを含む廃棄物の顕著な減容化を実現出来ることも知見した。
【0009】
ところが、本発明者らのさらなる研究によると、製造される除染剤は脱水したケーキ状の状態で含水率が高いものであるが、当該ケーキ状態の除染剤から乾燥により水分を除去して凝集体とすれば、乾燥時に著しい体積収縮が起きることを知見した。
そして、当該著しい体積収縮に伴い、当該除染剤の一次粒子同士が密着して高密度で強固な凝集体を形成してしまい、水溶性セシウムを含む被処理液が当該凝集体内部に浸透することを妨げる場合があることを知見した。水溶性セシウムを含む被処理液が当該凝集体内部に浸透することが妨げられれば、除染効率が低下するおそれがある。
【0010】
本発明は、上述の状況の下でなされたものであり、除染効率に優れた放射性物質除染粒子の凝集体とその製造方法、当該放射性物質除染粒子の凝集体を用いた放射性物質の除染方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決するために研究をおこない、放射性物質除染粒子の凝集体における形態ついて検討した。その検討過程において、ケーキ状の除染剤を加熱もしくは自然乾燥させた場合、乾燥時に収縮が著しく生じることにともなって、放射性物質除染粒子の凝集体の内部に処理すべき液体が浸透しにくくなっていることを知見した。
当該知見に基づき、本発明者らは、放射性物質除染粒子の凝集体を形成する際に、当該放射性物質除染粒子の凝集体に細孔を生じさせ、凝集体内部にまで被処理液が浸透しやすい構造とすることで、放射性物質の除去処理開始から短時間であっても、優れた除染能力を発揮することを見いだし、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、上述の課題を解決する第1の発明は、
磁性粒子と、放射性物質吸着成分として遷移金属元素を含むフェロシアン化物とを有する放射性セシウム除染粒子が、2つ以上集合している凝集体であって、
当該凝集体における細孔容積が0.5mL/g以上、3.0mL/g以下であり、
当該凝集体におけるBET法により求められた比表面積値が10m/g以上、350m/g以下であり、
平均粒子径(D50径)が5.1μm以上、12.9μm以下である、放射性セシウム除染粒子の凝集体である。
ただし、前記細孔容積とは、水銀圧入法により求められる細孔容積の累積値であり、前記BET法とは、脱気操作を行わないBET法での測定結果である。
【0017】
第2の発明は、
磁性粒子を分散させたスラリーに、カチオン性ポリマーを添加して、磁性粒子上に被覆層を形成した磁性粒子のスラリーへ、遷移金属元素を含むフェロシアン化物を添加して、被覆層を形成した磁性粒子の被覆層上に、除染成分として遷移金属元素を含むフェロシアン化物が形成された除染剤スラリーをスプレードライヤーにより乾燥させ、
細孔容積が0.5mL/g以上、3.0mL/g以下であり、
BET法により求められた比表面積値が10m/g以上、350m/g以下であり、
平均粒子径(D50径)が5.1μm以上、12.9μm以下である放射性セシウム除染粒子の凝集体を得る、放射性セシウム除染粒子の凝集体の製造方法である。
ただし、前記細孔容積とは、水銀圧入法により求められる細孔容積の累積値であり、前記BET法とは、脱気操作を行わないBET法での測定結果である。
【0020】
第3の発明は、
第1の発明に記載の放射性セシウム除染粒子の凝集体を、放射性セシウムを含む被処理液体中に分散させて、当該放射性セシウムを、放射性セシウム除染粒子の凝集体へ移行させる、放射性セシウムの除染方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る放射性物質除染粒子の凝集体は、汚染物質を含む被処理液中において、処理液の浸透を早めることができたため、また、当該凝集体を構成する放射性物質除染粒子の表層に放射性物質吸着成分を結合させたことにより、単位凝集体あたりの放射性物質吸着部の比表面積を増大することができたため、短時間で効率よく被処理液中における汚染物質を除去できた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1に係る除染剤凝集体のSEM像((A)は500倍、(B)は5000倍)である。
図2】実施例1、2、および比較例に係る除染剤凝集体の粒度分布を示すグラフである。
図3】実施例2に係る除染剤凝集体のSEM像((A)は500倍、(B)は20000倍)である。
図4】実施例3に係る除染剤凝集体のSEM像((A)は500倍、(B)は20000倍)である。
図5】実施例3に係る除染剤凝集体の断面のSEM像(15000倍)である。
図6】比較例1に係る除染剤凝集体のSEM像((A)は500倍、(B)は50000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る放射性物質除染粒子の凝集体、および、その製造方法について、[1]放射性物質除染粒子の凝集体、[2]放射性物質除染粒子の凝集体の製造方法、[3]放射性物質除染粒剤を用いた被処理液体からの汚染物質除去方法、の順で詳細に説明する。
【0025】
[1]放射性物質除染粒子の凝集体
本発明にかかる放射性物質除染粒子の凝集体は、磁性粒子と、放射性物質吸着(吸収)成分とを有する放射性物質除染粒子が2つ以上集合して凝集体を形成しており、当該凝集体には細孔が存在しているものである。
さらに具体的には、少なくとも一部の前記磁性粒子の表面の少なくとも一部に、前記放射性物質吸着(吸収)成分の被覆層が存在している構造を有している。
以下、<1>磁性粒子、<2>放射性物質吸着(吸収)成分、<3>放射性物質除染粒子、<4>放射性物質除染粒子の凝集体、の順で説明する
【0026】
<1>磁性粒子
本発明に係る放射性物質除染粒子のコアとなる磁性粒子は、金属鉄および/または鉄合金の磁性粒子である。当該鉄合金とは鉄へ、鉄以外の遷移金属元素であるコバルトやニッケル等の1種以上を磁気特性の調整のために加え、および/または、珪素、アルミニウムから選択される1種以上を酸化安定性付与のために加えたものである。
【0027】
磁性粒子は、平均一次粒子径が10〜500nm、好ましくは10〜400nm、一層好ましくは30〜300nmの磁性粒子である。
平均一次粒子径が10nm以上あれば十分な磁性を有し、磁気分離の際に除染能力を担保できるので好ましい。一方、平均一次粒子径が500nm以下であれば、後述する放射性物質除染粒子に細孔を設ける構成により、除染操作をする際に被処理液体中に分散できる放射性物質除染粒子を得ることができるからである。
当該平均一次粒子径は、例えば透過型電子顕微鏡にて観察される粒子を適切な拡大倍率にて確認し、100粒子以上の径を測定した平均値で算出するとよい。
【0028】
磁性粒子の形状に関して特別な限定はないが、磁性粒子が針状やそれに類する粒子の場合は、これらを乾燥して凝集体を形成させる際に、大きな空隙が生成すると考えられるので、当該観点からは好ましいと考えられる。
なお、磁性粒子の形状が針状の場合には、上述の平均一次粒子径とは「平均長軸長」を指すものである。
【0029】
<2>放射性物質吸着(吸収)成分
放射性物質吸着(吸収)成分は、上述した磁性粒子の少なくとも一部の前記磁性粒子の表面に被覆層として存在している。そして当該放射性物質吸着(吸収)成分は、磁性粒子に対する付着安定性の観点からカチオン性を有するモノマーおよび/またはポリマーであり、当該カチオン性を有するモノマーおよび/またはポリマーは、遷移金属元素もしくは第12族元素の少なくとも一種を含むフェロシアン化物(本発明において「フェロシアン化物金属塩」と記載する場合がある。)からなるセシウム吸着成分を備えている。
以下、(1)カチオン性を有するポリマー、モノマー、(2)フェロシアン化物金属塩、について説明する。
【0030】
(1)カチオン性を有するポリマー、モノマー
上述したカチオン性モノマー、ポリマーとしては、カチオン性の基を有するモノマー、ポリマー、イオン化してカチオン性の基を与え得る基を有するモノマー、ポリマーであれば適用可能であり、特に制限されるものではない。また、本発明に適用されるカチオン性モノマー、ポリマーは、主鎖の一部がカチオン性を示すものであってもよく、また、主鎖に結合した側鎖置換基がカチオン性を示すものであってもよい。
【0031】
さらに、カチオン性モノマーを適用する場合には、1級アミノ基を有するビニルモノマー、2級アミノ基を有するビニルモノマー、3級アミノ基を有するビニルモノマー、及び4級アンモニウム塩類を有するビニルモノマー等が挙げられる。
【0032】
また、カチオン性ポリマーを適用する場合には、合成高分子にカチオン性を付加したものであってもよく、また、カチオン化セルロース、カチオン化でんぷん、カチオン化デキストラン、カチオン化グアーガム、カチオン化キトサン等の天然又は微生物由来の高分子にカチオン性を付加したものであっても良い。
上述したカチオン性モノマーやポリマーは、単独で用いても良いが混合して用いることも出来る。
【0033】
(2)フェロシアン化物金属塩
遷移金属元素もしくは第12族元素の少なくとも一種を含むフェロシアン化物としては、例えば、フェロシアン化鉄(プルシアンブルー)、フェロシアン化ニッケル、フェロシアン化銅、フェロシアン化コバルト、フェロシアン化亜鉛といった、セシウムを吸着もしくは交換性能を有する物質が挙げられる。中でも飛灰を処理する際に、被処理液体のアルカリ性が高くなるという観点からは、フェロシアン化ニッケルが好ましい。尤も、被処理液体への塩酸等の添加によりpH調整が可能な条件下であれば、安価なフェロシアン化鉄も好ましい。
【0034】
<3>放射性物質除染粒子
本発明にかかる放射性物質除染粒子は、上述した磁性粒子の表面の少なくとも一部が、カチオン性を有するモノマーおよび/またはポリマーで被覆されている。そして、当該被覆層の表面および/または内部(表層部)に、フェロシアン化物金属塩が存在する構造を有するものである。
【0035】
磁性粒子の表面に被覆層として存在するカチオン性を有するモノマーおよび/またはポリマーの量は、処理液に対する純粋なモノマーおよび/またはポリマー換算の固形分として10%以下、好ましくは5%以下、一層好ましくは2%以下である。固形分を10%以下にすることで粘度が高くなってしまうことを回避できるので、磁性粒子への被覆が均一になり好ましい。
【0036】
放射性物質除染粒子の表面に存在する除染成分であるフェロシアン化物金属塩は、フェロシアン化物イオンと遷移金属もしくは第12族元素等の化合物である。例えば、フェロシアン化ニッケルカリウム、フェロシアン化ニッケル、フェロシアン化鉄(紺青/プルシアンブルー)、フェロシアン化コバルト、フェロシアン化亜鉛などが例示できる。特に、その構成中にニッケルを含む塩とするのが好ましい。
フェロシアン化物金属塩の存在量は、(フェロシアン化鉄を除き)当該物質の遷移金属などの量をICP発光分析法、蛍光X線回折により定量し、形成されているフェロシアン化物金属塩の存在量として換算して算出することができる。
また、簡易的にはフェロシアン化物原料(フェロシアン化カリウムもしくはフェロシアン化ナトリウムの水溶液)と遷移金属原料等の添加量から算出されるフェロシアン化物金属塩の形成量と、当初に添加した磁性粉の重量との単純比較により算出することができる。
ここで、放射性物質除染粒子におけるフェロシアン化物金属塩の形成量としては、磁性粉重量に対して5倍量以下とすれば、磁気分離した際に懸濁物質と容易に分離できるようになるので好ましい。また、除染操作の作業性やコストを考慮すれば、磁性粉重量に対して少なくとも0.1倍量以上とすることが好ましい。
【0037】
<4>放射性物質除染粒子の凝集体
本発明にかかる放射性物質除染粒子の凝集体は、上述した放射性物質除染粒子が2つ以上集合して凝集体を形成しているものであり、当該凝集体表面には、外部に開口した細孔が存在する構造を有し、かつ凝集体内部にも放射性物質除染粒子同士の空隙として細孔が存在しているような凝集体である。つまり、放射性物質除染粒子が担持体等に坦持されているのではなく、2つ以上の放射性物質除染粒子自体が集合して凝集体を形成しているものであり、当該凝集体には外部に開口した細孔が存在しているということである。
こうしたスポンジ状の構造をとることで、被処理液が放射性物質除染粒子の凝集体の内部にまで浸透しやすくなる。また、凝集体を構成する放射性物質除染粒子の表層に放射性物質吸着成分を結合させたことにより、単位凝集体あたりの当該放射性物質吸着部の反応面積を増大することができる。この結果、短時間で放射性物質の除染が行えるようになる。
【0038】
本発明に係る放射性物質除染粒子の凝集体において、水銀圧入法により測定される細孔容量は、0.5mL/g以上、好ましくは0.6mL/g以上、一層好ましくは0.7mL/g以上とするのがよく、上限としては5.0mL/g以下、好ましくは4.0mL/g以下、一層好ましくは3.0mL/g以下とするのが良い。
当該細孔の容量が0.5mL/g以上であれば、その放射性物質除染粒子の凝集体は、その構造内に十分な空隙を有しており、被処理液の浸透が生じやすいものである。また、単位凝集体あたりの当該放射性物質吸着成分の反応面積が、大きなものであることから、短時間での放射性物質の除染が容易である。
一方、当該細孔の容量が5.0mL/g以下であれば、その構造中に十分量の放射性物質除染粒子が存在していることであり好ましい。
【0039】
本発明にかかる放射性物質除染粒子の、BET法により求められた比表面積値は1m/g以上、400m/g以下、好ましくは5m/g以上、一層好ましくは10m/g以上、350m/g以下である。
比表面積値が1m/g以上あれば、処理液体との接触面積が担保でき、除染効率を担保できる。
一方、比表面積値が400m/g以下であれば、放射性物質除染粒子の粒子径が担保されていることから、被処理物との共沈が生じることが無く好ましい。
但し、当該BET法により求められた比表面積値は、表面を被覆するフェロシアン化物金属塩が熱により分解するおそれがあるため、通常行われる脱気操作を行わないでBET法により測定された値である。
【0040】
さらに、本発明にかかる放射性物質除染粒子の凝集体に対する、水銀圧入法による細孔容量の累積値の測定の際に、水銀による細孔表面積も計測することができる。
当該水銀圧入法による細孔表面積は、圧力により水銀が入り込める範囲での細孔の表面積を表し、比較的大きな表面凹凸の状況を知ることができる。すなわち、「水銀圧入法による細孔表面積/BET法により求められた比表面積値」を算出すれば、放射性物質除染粒子の凝集体全体の細孔に係る比較的大きな細孔の占める割合を知ることができる。発明者らの検討によれば、当該割合が39%以上の場合、短時間で汚染物質の回収が実現できる傾向が見られた。
【0041】
[2]放射性物質除染粒子の凝集体の製造方法
本発明に係る放射性物質除染粒子の凝集体の製造方法について、<1>磁性粒子を含む原料粉末、<2>磁性粒子上への被覆層の形成、<3>磁性粒子上への放射性物質捕捉層の形成、<4>放射性物質除染粒子の凝集体化による放射性物質除染剤の製造、の順で説明する。
【0042】
<1>磁性粒子を含む原料粉末
本発明に係る放射性物質除染粒子製造のための原料粉末は、金属鉄もしくは鉄合金粒子(磁性特性の調整のため、他の遷移金属であるコバルトやニッケル等、組成調整や酸化安定性を付与するため、珪素、アルミニウム等を含んでいても良い。)を含む粉末であることが好ましいが、磁性を有する粉末であれば特に限定されず使用することができる。
【0043】
上述したように、当該原料粉末に含まれる磁性粒子の平均一次粒子径は、10〜500nm、好ましくは10〜400nm、一層好ましくは30〜300nmである。また、当該磁性粒子の有する保磁力は、100〜2000Oe、好ましくは500〜2000Oe程度である
【0044】
<2>磁性粒子上への被覆層の形成
上述した原料粉末を純水中に添加し攪拌して、原料粉末スラリーを得る。当該攪拌は、原料粉末が沈降することなく分散する程度であればよい。得られた原料粉末スラリーに対して、アンモニア水もしくは水酸化ナトリウム水溶液を添加して、当該原料粉末スラリーをアルカリ性に調整することにより、磁性体表面をアニオン性にする。
【0045】
アルカリ性に調整した原料粉末スラリーへ、上述したカチオン性を有するモノマーおよび/またはポリマーを添加して、磁性粒子表面にカチオン性を有するモノマーおよび/またはポリマーによる被覆層を形成させる。この段階での攪拌も必ずしも強攪拌である必要はなく、原料粉末(磁性粒子)が沈降することなく分散する程度であればよい。また、処理を行うスケールによっては通常の攪拌であっても、超音波処理により被覆することもできる。
【0046】
上述したカチオン性を有するモノマーおよび/またはポリマーの添加量は原料粉末重量に対する、モノマーおよび/またはポリマー換算の純固形分として10質量%以下、好ましくは5質量%以下、一層好ましくは2質量%以下とする。固形分を10質量%以下にすることで、原料粉末スラリーの粘度が高くなり過ぎることを回避でき、磁性粒子へのモノマーおよび/またはポリマー被覆層が均一になり好ましい。
【0047】
磁性粒子表面へ、モノマーおよび/またはポリマーによる被覆層を形成した後、原料粉末スラリー中に当該磁性粒子を被覆しきれなかったモノマーおよび/またはポリマーが残存することがある。当該モノマーおよび/またはポリマーが、原料粉末スラリー中に残存した場合は、磁性粒子と反応後の原料粉末スラリーとを分離することで、磁性粒子と、残存するポリマーとを分離しておくことが好ましい。分離方法としては、磁気分離、自然沈降、遠心分離などが上げられるが、後の工程に影響しないように、磁場をかけなくてもよい自然沈降や遠心分離とするのが適当である。なお、原料粉末スラリー中のモノマーおよび/またはポリマー残存量が少ない場合、この分離工程は省略することができる。
【0048】
尚、上述した一連の操作によって磁性粒子表面にモノマーおよび/またはポリマーが被覆できているか否かは、磁性粒子におけるゼータ電位を測定するか、一部の磁性粒子をサンプリングして乾燥させ、当該磁性粒子乾燥体のカーボン含有量を測定することで確認することができる。
【0049】
<3>磁性粒子上への放射性物質捕捉層の形成
分離工程を備える場合には、磁性粒子表面にカチオン性を有するモノマーおよび/またはポリマーの被覆層を形成した磁性粒子に純水を加えてスラリー化する。
当該被覆層を形成した磁性粒子のスラリーに対して、フェロシアン化物およびNi,Fe、Co、Cu、Znといった遷移金属もしくは第12族元素の少なくとも一種を含む金属成分を順に、もしくは逆の順に添加して、被覆層を形成した磁性粒子の被覆層上および/または被覆層内に除染成分を形成させる。
当該被覆層を形成した磁性粒子のスラリーに対して、フェロシアン化物や金属化合物の添加を行う際には、それぞれ水溶性の物質とするのが良い。フェロシアン化物および遷移金属もしくは第12族元素の添加・被覆段階では、粒子と生成物の接触を効率的に行いつつ被覆する必要があるので、強い剪断力を有した分散機を用いて、当該被覆層を形成した磁性粒子のスラリーへ強い剪断力を加えながら、被覆層を形成した磁性粒子を分散する。
【0050】
強い剪断力を有する分散機としては、タービン・ステータ型攪拌機として知られるプライミクス株式会社のT.K.ホモミクサー(登録商標)、IKA社のUltra−Turrax(登録商標)などが例示でき、コロイドミルとしては、プライミクス株式会社のT.K.マイコロイダー(登録商標)、T.K.ホモミックラインミル(登録商標)、T.K.ハイラインミル(登録商標)や、株式会社ノリタケカンパニーリミテドのスタティックミキサー(登録商標)、高圧マイクロリアクター(登録商標)、高圧ホモジナイザー(登録商標)等が例示できる。
【0051】
剪断力の強弱は、攪拌翼を有する装置であれば、攪拌翼の翼周速度で評価することができ、本発明において、「強い剪断力」とは、翼周速度が5.0(m/s)以上、好ましくは7.5(m/s)以上、一層好ましくは10.0(m/s)以上のものを指す。翼周速度が5.0(m/s)以上であると、溶液に対する剪断力が十分であり、フェロシアン化物金属塩の被覆層上への付着が十分に行える。この結果、製造された放射性物質除染粒子において十分なセシウム吸着量を担保出来るため、被処理液中の汚染物質除去性能が担保され好ましい。
【0052】
さらに、十分な剪断力を加えることで、フェロシアン化物金属塩を被覆層上へ強固に付着させることが出来る。フェロシアン化物金属塩が被覆層上へ強固に付着していれば、例えば、製造された放射性物質除染粒子を用いて被処理液との攪拌操作を行う際、放射性物質除染粒子の表面から放射性セシウムを含んだフェロシアン化物金属塩がはがれ落ちたりする可能性を回避できる。放射性物質除染粒子の表面から放射性セシウムを含んだフェロシアン化物金属塩がはがれ落ちないことで、後の磁気分離で被処理液中の汚染物質を効率よく回収でき、被処理液中にシアン化合物が残存するという事態も回避でき好ましい。
【0053】
上述した翼周速度は、円周率×タービン翼の直径(m)×1秒あたりの攪拌回転数(回転数)で算出することができる。例えば、タービン翼の直径が3.0cm(0.03m)で、攪拌回転数が8000rpmであれば、1秒あたりの回転数は133.3(rps)となり、翼周速度は12.57(m/s)となる。
【0054】
また、被覆層と、フェロシアン化物金属塩との密着をさらに強固とするために、例えば、マイクロミキサーまたはアルティマイザーを用いて、磁性粒子のスラリーと、フェロシアン化物や金属化合物の溶液との液同士を衝突させてもよい。当該操作を行うことによって、本発明に係る放射性物質除染粒子をスラリー状態で保管していても、フェロシアン化物金属塩が分離することを抑制することができるようになるので好ましい。
【0055】
<4>放射性物質除染粒子の凝集体化による放射性物質除染剤の製造
放射性物質除染粒子を含むスラリーから水分を除去して、放射性物質除染粒子の凝集化を行い、放射性物質除染剤を製造する。
放射性物質除染粒子を含むスラリーから水分を除去する方法としては、乾燥操作を行いながら、収縮しすぎない凝集体を形成できるような方法とすることが好ましい。すなわち、上述した凝集体表面に、放射性物質除染粒子同士の空隙である外部へ開口した細孔を形成するため、当該放射性物質除染粒子を含むスラリーから、急速に水分を除去する方法が好ましい。例えば、スプレードライ法やフリーズドライ法などといった方法が挙げられる。特に、スプレードライ法を用いた場合では、得られる放射性物質除染粒子の凝集体が球状になり易い。放射性物質除染粒子の凝集体が球状になると、放射性物質除染剤の流動性が高くなるので、除染操作を行う際の作業性が向上し好ましい。また放射性物質除染粒子の凝集体の形状を球状にすることは、放射性物質除染粒子の凝集体の反応面積の増大、除染効率の増加の観点からも好ましい。
【0056】
放射性物質除染粒子を含むスラリーから水分を除去する方法として、スプレードライ法を用いる場合には、ディスク型スプレードライヤー、ノズル型スプレードライヤーのいずれの装置も使用することができる。
例えばノズル型スプレードライヤーの場合には、スラリーの噴射圧力、スラリーの供給速度、スラリーの固形分濃度、乾燥温度や風量・風速の調整により、放射性物質除染粒子の凝集体における粒子径、細孔の容積、比表面積値、細孔表面積を調整することができる。
一方、ディスク型スプレードライヤーの場合には、スラリーの供給速度、スラリーの固形分濃度、乾燥温度や風量・風速、ディスクの回転速度等の調整により、放射性物質除染粒子の凝集体における粒子径、細孔の容積、比表面積値、細孔表面積を調整することができる。
【0057】
スプレードライヤーにおける加熱(入口)温度は、放射性物質除染粒子の表面にあるポリマー、モノマー、フェロシアン化物金属塩が分解しない温度とするのがよい。具体的には300℃以下、好ましくは275℃以下、一層好ましくは250℃以下とするのがよい。
【0058】
[3]放射性物質除染粒剤を用いた被処理液体からの汚染物質除去方法
本発明に係る放射性物質除染剤を用いた、被処理液体からの汚染物質除去方法を説明する。
尚、ここでは、放射性物質を含んだ被処理液体として、放射性セシウムを含む焼却飛灰のスラリーを用い、汚染物質として放射性セシウムを除去する方法を例示して説明する。
【0059】
まず、水に放射性セシウムを含む焼却飛灰を添加して攪拌してスラリーとすることで、放射性セシウムを水中に溶出させる。焼却飛灰を水中に懸濁させると、液のpHは強アルカリ性(おおよそ12程度)に上昇するので、放射性物質除染粒剤に含まれるフェロシアン化物金属塩の安定性を向上させるため、塩酸などの酸を用いてスラリーのpH値を調整することが好ましい。当該スラリーのpH値の調整は11以下、好ましくは10以下、一層好ましくは9以下とすれば、除染剤を添加した後における、フェロシアン化物金属塩からのシアン化合物の遊離が抑制されるので、放射性セシウム除去後のスラリー中におけるシアン化合物量を抑制することができる。水へ焼却飛灰を添加した後のスラリー攪拌の時間に関しては、放射性セシウム含有量、とりわけ易水溶性放射性セシウムの含有量によって設定するが、1分間以上、好ましくは4時間以上とするのが良い。
【0060】
焼却飛灰が懸濁したスラリー中へ、先に作製した本発明に係る放射性物質除染剤を、焼却飛灰重量に対して10質量%以下の割合で添加して攪拌を継続する。焼却飛灰に対する放射性物質除染剤の添加量を、10質量%以上としても構わないが、本発明に係る放射性物質除染剤であれば、1質量%以上の添加があれば十分にスラリー中の放射性セシウムを除去し回収することができる。
放射性物質除染剤を添加してからの処理の時間は、処理すべきスラリーの容量により前後するが、10L程度のスラリーであれば、15分間以上、好ましくは30分間以上の撹拌処理を行えばよい。
【0061】
その後、処理後のスラリーに対して磁力を加え、放射性セシウムを吸着した放射性物質除染剤を吸着し選別する。このとき用いる磁力発生手段としては、棒磁石に代表される常に磁力を帯びているものであっても、電磁石に代表される外部の設定により磁力の入りきりが可能なもの、例えば、超電導磁石であっても良い。さらに、磁気の発生を外部から制御できる手法を採用すれば、遠隔操作により放射性物質を取り込んだ放射性物質除染剤を回収することができるので好適である。回収された放射性物質除染剤は、外部に放射性物質が漏れ出ない構造を有する公知の容器に密封し、高濃度放射性物質として保管処理する。
【0062】
放射性物質除染剤を回収した後のスラリーは、フィルター等を通過させて固液分離し、懸濁した焼却飛灰を回収する。このときの固液分離は公知のいずれの方法を用いても良い。また分離回収された水は、再度飛灰を分散させる水分として循環再利用することで、処理水に関してはクローズドのシステムとすることもできる。一方、放射性セシウムが除去された洗浄後の焼却飛灰は、放射能の残存量の確認を経た後、その残存量に応じて選択される方式により埋め立て処分される。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。
まず、本発明に係る実施例、比較例における評価方法について、[1]粒子形態、[2]平均粒子径、粒度分布、[3]比表面積、[4]細孔容積の測定、[5]真比重の測定、[6]放射性物質除染剤のセシウム吸着能力確認方法、の順で説明する。
【0064】
[1]粒子形態
放射性物質除染粒子の凝集体の形態は電界放出形走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 S−4700形)像により、倍率60,000倍にて確認した。
【0065】
[2]平均粒子径、粒度分布
放射性物質除染粒子の凝集体の平均粒子径および粒度分布は、レーザー回折型粒度分布測定装置(SYMPATEC株式会社製 HELOS&RODOS−KF型)を用いて、レンズ径200mmの条件にて測定した。
【0066】
[3]比表面積
放射性物質除染粒子の凝集体のBET法により求められた比表面積は、ユアサイオニクス株式会社の4ソーブを用いて、一点法で測定した値を採用した。ただし、本試料にはシアン化合物が付着しており、加熱による脱気操作によって、シアン化合物が分解する可能性があるため、脱気操作は行わずに測定を行った。
【0067】
[4]細孔容積の測定
放射性物質除染粒子の凝集体における細孔容積は、試料0.3〜0.5gを水銀圧入法(Micrometitics Instrument Corporation社製のAutoPore IV 9500型)を用いて測定した。
【0068】
さらに特徴がより顕著に表れる、放射性物質除染粒子の表面に存在すると考えられる細孔および凝集体間の空間を表していると考えられる空隙部分をそれぞれ除いた部分を抽出して確認した。<1>細孔直径の下限値、<2>細孔直径の上限値、の順で算出方法について説明する。
【0069】
<1>細孔直径の下限値
放射性物質除染粒子の表層に存在する微細な細孔を除外し、放射性物質除染粒子同士の空隙である細孔について測定を行なう場合は、細孔直径の下限値は透過型電子顕微鏡で確認される放射性物質除染粒子の原料である磁性粒子の径(放射性物質除染粒子の原料である磁性粒子が針状などの場合には長軸長を指す。以降は単純に放射性物質除染粒子の原料である磁性粒子の径という。)よりも大きい範囲で確認する。ただし、水銀圧入法のデータ収集が断続的になっている場合には、放射性物質除染粒子の原料である磁性粒子の径よりも小さい値を下限値とする。
【0070】
例えば、データが細孔直径204nm、243nm、270nm、315nmの時の細孔容積がそれぞれ算出され、平均した放射性物質除染粒子の原料である磁性粒子の径が250nmの場合、細孔径の下限値は243nmの時の値を採用する。
【0071】
一方、水銀圧入法は圧力を加えながら、細孔に水銀を侵入させ、その量から細孔容積を算出する方法なので、細孔直径の下限値の場合に加えた圧力は最も高い圧力値を示す(したがって、細孔直径は下限値だが、累積値としては最終累積値として与えられる。)
【0072】
<2>細孔直径の上限値
放射性物質除染粒子の凝集体同士の間に存在する空隙部を除くため、細孔直径の上限値は、レーザー型粒子径測定装置で算出される放射性物質除染粒子の凝集体の平均粒子径(D50)の値よりも小さい範囲とする。ただし、下限値と同様に、水銀圧入法のデータ収集が断続的になっている場合には、その放射性物質除染粒子の凝集体の平均粒子径よりも小さい値を上限値とする。
【0073】
例えば、データが細孔直径6.6μm、5.6μm、4.5μm、3.8μmの時の細孔容積がそれぞれ算出され、D50が5.3μmの場合、細孔径の上限値は4.5μmの時の値を採用する。ただし、下限値の時と同じ理由から、細孔直径の上限値の場合に加えた圧力は最も小さい圧力値を示す(したがって、細孔直径は上限値だが、累積はこのときの値からの積算値となる。)
【0074】
[5]真比重の測定
放射性セシウム除染剤の真比重は、JIS−R−2205(1992)に記載された、「耐火れんがの見かけ気孔率、吸水率、比重の測定方法」の規定に沿って測定した。
すなわち、供試試料を300μmの篩を全通する程度に粉砕した後、110±5℃の恒温中で乾燥する。当該乾燥試料を、予め秤量した比重瓶に取って秤量後、比重瓶へ純水を添加して温浴中で静かに熱した後に標線まで純水で満たす。そして、重量を秤量し、各測定値から(1)式により算出して求めた。
真比重=(P−P)/((P−P)−(P−P))・・・・(1)
ここで、P=比重瓶の質量、P=比重瓶に試料を入れたときの質量、P=比重瓶に標線まで蒸留水を入れたときの質量、P=比重瓶に試料を入れ、蒸留水を標線まで入れたときの質量である。
【0075】
[6]放射性物質除染剤のセシウム吸着能力確認方法
放射性物質除染剤のセシウム吸着能力は、pHを10.7に調整した後に、硫酸セシウムをセシウムとして約100ppmとなるように溶解させた。溶解後の溶液100gを200mLビーカーに注ぎ、実施例等で作成された除染剤粉末0.1gを添加して、常温にて30分間250rpmの条件で攪拌した。処理後の溶液から、除染剤を磁気分離により回収した溶液におけるセシウムの残存量をICP発光分析法(日本ジャーレルアッシュ株式会社製高周波誘導プラズマ発光分析装置(IRIS/AP)を使用)により分析し(2)式にて確認した。
除去率(%)=(試験前濃度−試験後の濃度)/試験前濃度×100・・・・(2)
【0076】
さらに、放射性セシウム含有飛灰40gと水400mLを混合して、24時間攪拌することで、水溶性セシウムを飛灰から分離した。飛灰を懸濁させたまま塩酸にてpHを10.7に調整し、放射線量を測定したあと、除染剤を飛灰重量に対して1/1000になるように添加した。添加後30分間攪拌を継続して、液中の放射性セシウムを除染剤に取り込ませ、処理後の除染剤はネオジム磁石によって回収した。引き続き、除染後の放射線量を測定したのち、除染能力を(除染前の放射線量の値−除染後の放射線量の値)/除染前の放射線量の値×100で算出して、短時間での除染効率を算出した。また、除染剤添加後の処理時間を24時間として、長時間での除染効率も算出している。
【0077】
なお、除染能力については、液の放射能をNaIシンチレーター(Raytest社製 MUCHA)を用いて測定することで、除染前の放射能とした。測定後規定量の除染剤を添加して規定時間攪拌し、液中のセシウムを吸着させてから、磁気分離により除染剤を除いてから、液の放射能を操作前と同様にNaIシンチレーターを用いて測定することで、除去された放射能量を算出した。
【0078】
分配係数は、除染操作前の飛灰中に含有された放射性セシウムが、除染操作により除染剤へ分配・抽出される場合において、放射性セシウムが分配・抽出された除染剤の放射能の、除染操作前の飛灰の放射能に対する比である。従って、分配係数の値が大きければ大きいほど、放射能が除染剤に移行したことを表すものである。具体的には、(3)式により算出した。
分配係数(Kd)=[((処理前の放射能(Bq/kg)/1000)−(処理後の放射能(Bq/kg)/1000))]/[処理後の放射能(Bq/kg)×(飛灰添加量(g)/除染剤の重量(g))]・・・・(3)
【0079】
(実施例1)
1000mL容量のビーカーへ純水540gを注ぎ込み、磁性粒子を含む原料粉末としてDOWAエレクトロニクス株式会社製、平均長軸長235nmの針状鉄−コバルト合金粒子(コバルト/鉄=3.0at%)30gを添加した。そして、高速乳化・分散機(プライミクス株式会社製TKホモミクサーMarkII)を使用して、8000rpmで30分間乳化分散させ、原料粉末の分散スラリーを得た。
【0080】
原料粉末スラリーに、濃度21.3%のアンモニア水2.5gを添加して、pHを塩基性に変えた後、PDDA(ポリジアリルジメチルアンモニウム塩化物、固形分39%)を0.50g添加し、再度、上述した分散機で8000rpmにて30分間乳化分散させ、PDDAの被覆層を形成した磁性粒子のスラリーを得た。
【0081】
得られた被覆層を形成した磁性粒子のスラリーへ、0.5mol/Lのフェロシアン化カリウム水溶液160g、0.49mol/L硫酸ニッケル水溶液220gをそれぞれ添加して、再度、上述した分散機で8000rpmにて30分間乳化を継続し、PDDA付着磁性粉上にフェロシアン化ニッケルを付着させ、放射性物質除染粒子を含むスラリー(固形分濃度約10%)を得た。
【0082】
得られた放射性物質除染粒子を含むスラリーをスタクティックミキサーに装填し、5分間攪拌してスラリーを得た。得られた撹拌スラリーをマイクロミキサーに装填して、PDDA被覆磁性粉上のフェロシアン化ニッケルを、PDDA被覆層上および/または表層内へ十分に密着させる処理を行ってスラリーを得た(本発明において、当該スタクティックミキサーによる攪拌処理とマイクロミキサーによる磁性粒子への被覆処理とを総称して、「MR処理」と表記する場合がある。)。
こうして得られたMR処理後のスラリーを、ノズル型スプレードライヤー(ビュッヒ製ミニスプレードライヤー B−290型)を用いて噴霧乾燥(乾燥条件:入口温度:220℃、噴射圧力:35mmHg、スラリー供給スピード:19%(約200mL/h))し、放射性物質除染粒子の凝集体を得、実施例1に係る放射性物質除染剤を得た。
当該データを表1に記載する。
【0083】
得られた放射性物質除染剤について、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて形状を観察した。当該SEM像を、図1に示す(図1(A)は、500倍、(B)は、5000倍である)。図1より、実施例1に係る放射性物質除染粒子の凝集体は、球形で表面に凹凸構造をもっているものであることが判明した。
次に、当該放射性物質除染粒子の凝集体に対し、レーザー回折式粒度分布測定を行った結果を図2に▲でプロットして示す。図2は、横軸に凝集体の径をとり、縦軸に累積粒度分布をとったグラフである。図2に示した、実施例1に係る放射性物質除染粒子の凝集体の粒度分布から、平均凝集径(D50径)は12.9μm、(D90径)は23.5μmであり、10μm以下の凝集体の割合は34.5%と計測された。また、BET法により求められた比表面積値は63.9m/gであり、真比重値は3.55であった。
【0084】
次に、細孔容積としては、凝集体の細孔容積の累積値が0.63mL/gと算出された。また、実施例1に係る放射性物質除染粒子の凝集体の平均径(本実施例では細孔径が17.64μm)以下の範囲であって、放射性物質除染粒子の原料である磁性粒子の平均長軸長(本実施例では細孔径が243nm)以上における累積細孔容積は0.37mL/gと算出された、水銀圧入法により算出される細孔の表面積値は39.6m/gであった。
また、[水銀圧入法による細孔表面積/BET法により求められた比表面積]の百分率値は、62.0%であった。
当該データを表2に記載する。
【0085】
放射性セシウムによる除染能力確認評価では、30分間の短時間除染試験前の放射能が822.23Bq/kg、除染試験後の放射能が388.09Bq/kgであり、除染能力としては52.8%を示した。
【0086】
また、24時間の長時間除染能力確認評価試験では、除染試験前の放射能が761.93Bq/kg、除染試験後の放射能が231.58Bq/kgであり、除染能力としては69.6%を示した。すなわち、30分間での吸収分離量/24時間の吸収分離量の比率(短時間除去率)は75.9%に達し、30分間程度のわずかな時間でも十分な除染能力を有することがわかった。なお、除染処理後のスラリーを焼却飛灰と溶出液とに分離して、溶出液について放射能を測定したが、検出限界以下の値を示した。
当該データを表3に記載する。
【0087】
(実施例2)
ノズル型スプレードライ装置における噴射圧力を50mmHgとした以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る放射性物質除染剤を得た。
当該データを表1に記載する。
【0088】
得られた放射性物質除染剤について、SEMを用いて放射性物質除染粒子の凝集体の形状について観察した。当該SEM像を、図3に示す(図3(A)は、500倍、(B)は、20000倍である。)。図3より、実施例2に係る放射性物質除染粒子の凝集体は、球形で表面に凹凸構造をもっているものであることが判明した。
次に、当該放射性物質除染粒子の凝集体に対し、レーザー回折式粒度分布測定を行った結果を図2に△でプロットして示す。図2に示した、実施例2に係る放射性物質除染粒子の凝集体の粒度分布から平均凝集径(D50径)は5.1μm、(D90径)は9.8μmであり、10μm以下の凝集体の割合は91.1%と計測された。また、BET法により求められた比表面積値は62.5m/gであり、真比重値は3.38であった。
【0089】
次に、細孔容積としては、凝集体の細孔容積の累積値が0.92mL/gと算出された。
また、実施例2に係る放射性物質除染粒子の凝集体の平均径(本実施例では細孔径が5.53μm)以下であって、放射性物質除染粒子の原料である磁性粒子の平均長軸長(本実施例では細孔径が243nm)以上である範囲における累積細孔容積は、0.52mL/gと算出された。また、水銀圧入法により算出される細孔の表面積値は41.3m/gであった。
また、[水銀圧入法による細孔表面積/BET法により求められた比表面積]の百分率値は、66.1%であった。
当該データを表2に記載する。
【0090】
放射性セシウムの除染能力確認評価では、30分間の短時間除染試験前の放射能が728.7Bq/kg、除染試験後の放射能が285.1Bq/kgであり、除染能力としては60.9%を示した。また、24時間の長時間抽出試験では、除染試験前の放射能が761.93Bq/kg、除染試験後の放射能が245.59Bq/kgであり、除染能力としては67.8%を示した。すなわち、30分間での吸収分離量/24時間の吸収分離量の比率(短時間除去率)は89.8%に達し、実施例1と同様、わずかな時間でも十分な除染能力を有することがわかった。なお、除染処理後のスラリーを焼却飛灰と溶出液とに分離して、溶出液について放射能を測定したが、検出限界以下の値を示した。
当該データを表3に記載する。
【0091】
(実施例3)
放射性物質除染粒子を含むスラリーとして固形分濃度5%のものを用い、スプレードライヤーの原液供給速度を17%とし、MR処理を行わなかった以外は、実施例2と同様にして、実施例3に係る放射性物質除染剤を得た。
当該データを表1に記載する。
【0092】
実施例3に係る放射性物質除染剤に含まれる放射性物質除染粒子の凝集体の平均凝集径(D50径)は5.4μm、(D90径)は10.9μmであり、10μm以下の凝集体の割合は87.1%と計測された。また、BET法により求められた凝集体の比表面積値は58.7m/gであり、真比重値は3.18であった。また、得られた凝集体のSEM像を図4(A)倍率:500倍、(B)2000倍として示す。また、得られた凝集体の断面SEM像(倍率:15000倍)を図5に示す。これらより明らかなように凝集体の表面のみならず、内部にも細孔が存在していることがわかる。
【0093】
次に、細孔容積としては、凝集体の細孔容積の累積値が0.84mL/gと算出された。実施例3に係る放射性物質除染粒子の凝集体の平均径(本実施例では細孔径が5.53μm)以下の範囲であって、放射性物質除染粒子の原料である磁性粒子の平均長軸長(本実施例では細孔径が243nm)以上における累積細孔容積は0.48mL/gと算出された。また、水銀圧入法により算出される細孔の表面積値は23.0m/gであった。
また、[水銀圧入法による細孔表面積/BET法により求められた比表面積]の百分率値は、39.2%であった。
当該データを表2に記載する。
【0094】
放射性セシウムの除染能力確認評価では、30分間の短時間除染試験前の放射能が869.0Bq/kg、除染試験後の放射能が257.3Bq/kgであり、除染能力としては70.4%を示した。また、長時間(24時間)抽出試験では、除染試験前の放射能が886.6Bq/kg、除染試験後の放射能が208.4Bq/kgであり、除染能力としては76.5%を示した。すなわち、30分での吸収分離量/24時間の吸収分離量の比率(短時間除去率)は92.0%に達し、実施例1〜2と同様、わずかな時間でも十分な除染能力を有することがわかる。なお、処理後の飛灰と溶出液を分離して、溶出液について放射能を測定したが、検出限界以下の値を示した。
当該データを表3に記載する。
【0095】
(比較例1)
1000mL容量のビーカーへ純水720gを注ぎ込み、磁性粒子を含む原料粉末としてDOWAエレクトロニクス株式会社製、平均長軸長235nmの針状鉄−コバルト合金粒子(コバルト/鉄=3.0at%)30gを添加した。そして、高速乳化・分散機(プライミクス株式会社製TKホモミクサーMarkII)を使用して、8000rpmで30分間乳化分散させ、原料粉末スラリーを得た。
原料粉末スラリーに、濃度21.3%のアンモニア水2.5gを添加して、pHを塩基性とした後、PDDA(ポリジアリルジメチルアンモニウム塩化物、固形分39%)を0.25g添加し、再度、上述した分散機で8000rpmにて30分間乳化分散させ、PDDAの被覆膜を形成した磁性粒子のスラリーを得た。
得られた被覆膜を形成した磁性粒子のスラリーへ、0.5mol/Lのフェロシアン化カリウム水溶液82g、0.49mol/L硫酸ニッケル水溶液110gをそれぞれ添加して、再度、上述した分散機で8000rpmにて30分間乳化を継続し、PDDA付着磁性粉上にフェロシアン化ニッケルを付着させ、放射性物質除染粒子を含むスラリー(固形分濃度約5%)を得た。
【0096】
得られた放射性物質除染粒子を含むスラリーを噴霧乾燥することなく、No.5Cの硬質濾紙でろ過した後、常温で24時間窒素雰囲気下にて乾燥させて、比較例1に係る放射性物質除染粒子の凝集体とした。
当該データを表1に記載する。
【0097】
得られた放射性物質除染粒子の凝集体を、窒素雰囲気下、メノウ乳鉢を用いて解粒処理して、比較例1に係る放射性物質除染剤を得た。得られた放射性物質除染剤を窒素雰囲気下で篩わけし、径40〜63μmの凝集体をそれぞれ分取した。
【0098】
得られた放射性物質除染剤について、走査型電子顕微鏡を用いて形状を観察した。当該観察を図6に示す(図6(A)は、500倍、図6(B)は5000倍である。)。図4より、比較例1に係る放射性物質除染粒子の凝集体は、不定形で表面に凹凸構造をもっているものであることが判明した。
次に、当該放射性物質除染粒子の凝集体に対し、レーザー回折式粒度分布測定を行った結果を図2に■でプロットして示す。図2に示した、比較例1に係る放射性物質除染粒子の凝集体の粒度分布から平均凝集径(D50径)は19.4μm、(D90径)は52.0μmであり、10μm以下の凝集体の割合は31.6%と計測された。また、窒素吸着法による比表面積値は67.5m/gであり、真比重値は3.59であった。
【0099】
次に、細孔容積としては、凝集体の細孔容積の累積値が0.46mL/gと算出された。
比較例1に係る放射性物質除染粒子の凝集体の平均径(本比較例では細孔径が17.6μm)以下の範囲における細孔容積の累積値については、0.29mL/gと算出された。
【0100】
また、比較例1に係る放射性物質除染粒子の凝集体の平均径以下の範囲であって、放射性物質除染粒子の原料である磁性粒子の平均長軸長(本比較例では細孔径が243nm)以上の範囲における細孔容積の累積値は0.28mL/gであった。
また、水銀圧入法により算出される細孔の表面積値は25.3m/gであった。
また、[水銀圧入法による細孔表面積/BET法により求められた比表面積]の百分率値は、37.5%であった。
当該データを表2に記載する。
【0101】
また、30分間の短時間除染試験前の放射能が795.4Bq/kg、除染試験後の放射能が565.1Bq/kgであり、除染能力としては29.0%を示した。また、24時間の長時間抽出試験では、除染試験前の放射能が761.93Bq/kg、除染試験後の放射能が269.15Bq/kgであり、除染能力としては64.7%を示した。すなわち、30分間での吸収分離量/24時間の吸収分離量の比率(短時間除去率)は44.8%にとどまった。即ち、長時間液の処理を施すことができれば、十分な除染能力を有するが、短時間の除染操作では、除染能力は不十分であることがわかった。なお、除染処理後のスラリーを焼却飛灰と溶出液とに分離して、溶出液について放射能を測定したが、検出限界以下の値を示した。
当該データを表3に記載する。
【0102】
【表1】
【表2】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6