(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加工目印形成部として、前記結合組織体を折返し加工する際の折返し目印を形成する折返し目印形成部が形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の結合組織体形成用基材。
前記加工目印形成部として、前記結合組織体を止着加工する際の止着目印を形成する止着目印形成部が形成されたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の結合組織体形成用基材。
前記基材表面に、結合組織体に突条を形成する突条形成溝が前記加工目印形成部とは別に形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の結合組織体形成用基材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献4に記載の発明は、人工的に形成した結合組織体に切断加工を施して弁体を形成するものであり、結合組織体が柔軟で変形しやすい分、結合組織体を所定の形状に正確に切断するのが比較的に難しい慎重を要する作業となりやすい。しかも、結合組織体を人工的に形成するには、多くの時間と手間を必要とするため、結合組織体を失敗することなく正確な形状に切断するための手法が求められる。
【0006】
本発明は、結合組織体を所定の形状に正確に切断加工することのできる結合組織体形成用基材、及び結合組織体の生産方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る結合組織体形成用基材は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の結合組織体を形成するためのものであり、基材表面に、結合組織体を
基材から剥離して取り出した後に加工する際の目印を形成する加工目印形成部を形成したものである。
【0008】
上記構成によれば、基材表面に加工目印形成部を形成するので、基材表面に膜状の結合組織体を形成する際に、加工目印形成部に結合組織を侵入させて目印を形成することができ、目印の位置で所定の形状に正確に加工することのできる膜状の結合組織体を形成することができる。なお、加工目印形成部としては、凹部、凸部、あるいはその組み合わせのいずれであってもよいが、基材表面の加工目印形成部を凹部とすることにより、結合組織からなる凸部で目印を構成することができ、目印を凹部で構成する場合よりも、その目印を目立たせて、膜状の結合組織体の加工をより容易にすることができる。
【0009】
ここで、「生体組織材料」とは、所望の生体由来組織を形成するうえで必要な物質のことであり、例えば、線維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞、幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の動物細胞、各種たんぱく質類(コラーゲン、エラスチン)、ヒアルロン酸等の糖類、その他、細胞成長因子、サイトカイン等の生体内に存在する各種の生理活性物質が挙げられる。この「生体組織材料」には、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物に由来するもの、又はこれと同等の人工材料が含まれる。
【0010】
また、「生体組織材料の存在する環境下」とは、動物(ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物)の生体内(例えば、四肢部、肩部、背部又は腹部などの皮下、もしくは腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において、生体組織材料を含有する人工環境内を表す。
【0011】
また、「結合組織」とは、通常は、コラーゲンを主成分とする組織であって、生体内に形成される組織のことをいうが、本明細書及び特許請求の範囲の記載においては、生体内に形成される結合組織に相当する組織が生体外の環境下で形成される場合のその組織をも含む概念である。
【0012】
加工目印形成部として、結合組織体を切断加工する際の切断線を形成する切断線形成溝を例示することができる。
【0013】
この構成によると、基材表面に切断線形成溝を形成するので、基材表面に膜状の結合組織体を形成する際に、切断線形成溝に結合組織を侵入させて切断線を形成することができ、切断線に沿って所定の形状に正確に切断加工することのできる膜状の結合組織体を形成することができる。
【0014】
また、基材表面の切断線形成溝に結合組織を侵入させて切断線を形成するので、結合組織からなる突条で切断線を構成することができ、切断線を溝状に構成する場合よりも、その切断線を目立たせて、膜状の結合組織体の切断加工をより容易にすることができる。しかも、突条の切断線を残すように、この切断線の外側に沿って結合組織体を切断した場合には、切断線を構成する突条によって、膜状の結合組織体の切断縁を補強することができる。
【0015】
また、加工目印形成部として、結合組織体を折返し加工する際の折返し目印を形成する折返し目印形成部を例示することができる。
【0016】
この構成によると、基材表面に折返し目印形成部を形成するので、基材表面に膜状の結合組織体を形成する際に、折返し目印形成部に結合組織を侵入させて折返し目印を形成することができ、折返し目印の位置で所定の形状に正確に折返し加工することのできる膜状の結合組織体を形成することができる。
【0017】
また、加工目印形成部として、結合組織体を止着加工する際の止着目印を形成する止着目印形成部を例示することができる。
【0018】
この構成によると、基材表面に止着目印形成部を形成するので、基材表面に膜状の結合組織体を形成する際に、止着目印形成部に結合組織を侵入させて止着目印を形成することができ、止着目印の位置で所定の形状に正確に止着加工することのできる膜状の結合組織体を形成することができる。
【0019】
さらに、基材表面に、結合組織体に突条を形成する突条形成溝を加工目印形成部とは別に形成するようにしてもよい。
【0020】
この構成によると、加工目印形成部とは別に突条形成溝を形成するので、結合組織体に、加工目印に加えて、これとは別に突条を形成することができ、この別の突条を、結合組織体の形状及び向きを把握して加工目印を見つけやすくするための別の目印とすることができる。
【0021】
さらに、加工目印形成部として切断線形成溝を形成する場合、基材表面に、結合組織体に突条を形成する突条形成溝を切断線形成溝とは別に形成し、その突条形成溝を、切断線形成溝と溝幅方向に並設するようにしてもよい。
【0022】
この構成によると、基材表面に形成する結合組織体に、切断線を構成する突条と溝幅方向に隣接する別の突条を形成することができ、切断線を含めて複数条の突条を形成する分、結合組織体の切断線をより見つけやすくすることができる。しかも、切断線に沿って結合組織体を切断することにより、切断縁に沿わせて別の突条を残すことができ、この残した突条で結合組織体の切断縁を補強することができる。また、切断線に代えて、別の突条に沿って結合組織体を切断することにより、結合組織体を別の大きさや形状に形成することができる。
【0023】
さらに、突条形成溝を、結合組織体を増厚補強する増厚溝とするようにしてもよい。この構成によると、増厚溝としての突条形成溝で突条を形成して結合組織体を増厚補強することができ、結合組織体の形状及び向きを把握しやすくする機能と、結合組織体を増厚補強する機能と、を備えた突条を形成することができる。
【0024】
また、本発明は、結合組織からなる膜状の結合組織体を生産する方法を提供する。具体的には、基材表面に切断線形成用溝を有する基材を生体組織材料の存在する環境下におく設置工程と、基材の周囲に結合組織を形成しつつ、この結合組織を切断線形成用溝に侵入させて切断線を形成する形成工程と、環境下から結合組織で被覆された基材を取り出す取り出し工程と、基材表面を覆う結合組織を膜状の結合組織体として剥離して取り出す分離工程と、
基材から剥離して取り出した結合組織体を切断線に沿って切断する切断工程と、を備える。
【0025】
上記構成によれば、形成工程において、結合組織を基材表面の切断線形成用溝に侵入させて、基材表面に形成する膜状の結合組織体の正確な位置に切断線を形成し、切断工程において、結合組織体を切断線に沿って切断することができ、膜状の結合組織体を所定の形状に正確に切断加工することができる。
【0026】
また、膜状結合組織体の生産方法としては、切断線を形成するだけでなく、折返し目印や止着目印などの他の加工目印を形成するようにしてもよい。
【0027】
すなわち、本発明は、結合組織からなる膜状の結合組織体を生産する方法であって、基材表面に加工目印形成部を有する基材を生体組織材料の存在する環境下におく設置工程と、前記基材の周囲に結合組織を形成しつつ該結合組織を前記加工目印形成部に侵入させて目印を形成する形成工程と、前記環境下から結合組織で被覆された前記基材を取り出す取り出し工程と、前記基材表面を覆う結合組織を膜状の結合組織体として剥離して取り出す分離工程と、
基材から剥離して取り出した前記結合組織体を前記目印の位置で加工する加工工程と、を備えたことを特徴とする結合組織体の生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0028】
上記のとおり、本発明によると、膜状の結合組織体を形成する基材表面に切断線形成溝を形成して、結合組織体に切断線を形成するようにしているので、この切断線に沿って結合組織体を切断加工することができる。これにより、人工的に形成するのに多くの時間と手間を必要とすると共に、柔軟で変形しやすい膜状の結合組織体を、失敗することなく所定の形状に正確に切断することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る結合組織体形成用基材、及び結合組織体の生産方法の第1実施形態〜第4実施形態について、図面を用いて説明する。
【0031】
[第1実施形態]
まず、本実施形態の結合組織体形成用基材及び生産方法を用いて生産する膜状の結合組織体としての人工弁について説明する。
【0032】
図1〜
図4に示すように、人工弁1は、流れ方向長さの短い部位に移植可能で、例えば、心臓2の左室3と左房4とを仕切る僧帽弁として用いるためのものであり、結合組織からなる筒状の弁体5を備え、弁体5の基端部が人工弁1を移植する部位に止着可能な止着部6とされ、弁体5の先端部の周方向における複数個所から紐状の腱索7が延設されている。
【0033】
弁体5は、基端側よりも先端側の周長を小さく設定された略円錐台形の筒状とされ、その中央穴8を通過しようとする流体の圧力によって、中央穴8を押し広げられて開弁し、中央穴8を押し潰されて閉弁するようになっている。
【0034】
止着部6は、弁体5のうちの他の部位よりも増厚されて補強され、弁体5の柔軟性を損なうことなく、心臓2などに止着するのに十分な強度を有している。
【0035】
腱索7は、紐状かつ滑らかな先細形状とされて、弁体5の先端のうちの略等間隔に設定した4箇所から1本ずつ合計4本の腱索7が先端側に延設され、人工弁1を移植する際、その腱索先端部13を弁体5よりも先端側に止着するようになっている。この腱索7を介して弁体5の先端が移植部位に留められ、さらに、4本の各腱索7の止着位置を上下に近づけ、かつ左右に離して設定することにより、弁体5が上下に押し潰し可能とされる。上下に押し潰される弁体5は、その上半分が前尖14とされると共に、下半分が後尖15とされ、前尖14及び後尖15が接触して閉弁するようになっている。
【0036】
なお、腱索7は、弁体5を構成する「結合組織」と同じ「結合組織」によって構成されたものであるが、本明細書の記載においては、「腱索」という用語をそのまま用いるものとする。
【0037】
人工弁1は、例えば、弁体5の止着部6を心臓2の左室3と左房4との間に止着し、腱索7の腱索先端部13を左室3の室壁に止着することにより、心臓2に、人工僧帽弁として移植される(
図3参照)。ここで、
図3は、心臓2の断面図であり、左室3、左房4、右室16、大動脈17及び大動脈弁18を通る鉛直面における断面を示している。
【0038】
心臓2に人工僧帽弁として移植された人工弁1は、左室3が収縮する際、血液の圧力が略円錐台形筒状の弁体5の外面に加わって中央穴8を押し潰され、前尖14及び後尖15が接触して閉弁し、左室3から左房4に向かおうとする血流を阻止する(
図4参照)。一方、血流が左房4から左室3に向かおうとする場合、その血流によって弁体5の中央穴8が押し広げられて開弁する。
【0039】
この人工弁1は、腱索7によって弁体5の先端部が留められているので、閉弁時に、血流の圧力で弁体5の先端部が左房4に押込まれるのを阻止される。さらに、左上及び左下の腱索7の止着位置を近づけ、右上及び右下の腱索7の止着位置を近づけているので、腱索7が弁体5の閉弁を阻害するのを防止される。
【0040】
次に、上記の人工弁1のような膜状の結合組織体を生産する際に用いる本発明に係る結合組織体形成用基材19について説明する。
【0041】
図5に示すように、基材19は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に、人工弁1に加工可能な膜状の結合組織体20を形成するためのものであり、基材表面に、結合組織体20を切断加工する際の切断線31としての突条を形成する切断線形成溝28と、結合組織体20に補強用の突条を形成して増厚補強する増厚溝29と、が別に形成されている。
【0042】
この基材19は、結合組織体20のうちの筒状の弁体5に加工可能な部位を形成する弁体形成部21と、結合組織体20のうちの弁体5の先端部から延設される紐状の腱索7に加工可能な部位を形成する腱索形成部22とを備え、その弁体形成部21及び腱索形成部22を中心軸方向に隣接させて、全体として柱状に構成される。
【0043】
弁体形成部21は、その基端断面が円形とされると共に、先端断面が基端断面の直径と略同一長さの対角線を有する正方形とされて、両断面の間を滑らかに連続させた形状とされ、基端側よりも先端側の周長を小さく設定されている。
【0044】
弁体形成部21の基端部には、周方向に連続する切欠23が形成されると共に、切欠23の基端側がフランジ24で塞がれて溝部25が構成される。フランジ24は、弁体形成部21の基端と略同一の直径を有する円板状とされ、その一面から突出する円形突起26を弁体形成部21の基端側に開口する嵌合穴に嵌合可能とされ、弁体形成部21の基端側に着脱自在とされている。なお、
図5において、27はフランジ24を着脱するためのツマミである。
【0045】
腱索形成部22は、断面形状が弁体形成部21の先端と同一形状かつ同じ大きさの直方体とされ、弁体形成部21の先端側に隣接して形成されている。腱索形成部22の各側面には、その表面に形成される結合組織体20に、これを腱索7に切断加工する際の切断線31としての突条を形成するための切断線形成溝28が形成されている。この切断線形成溝28は、腱索形成部22のコーナー近傍の先細の範囲を中央部から仕切るように略アーチ形に形成されている。
【0046】
弁体形成部21及び腱索形成部22の各コーナー部には、中心軸方向に連続して、基材19の表面に形成される弁体5及び腱索7のコーナー部に突条を形成して増厚補強するための増厚溝29が形成されている。この増厚溝29が弁体5及び腱索7のコーナー部を増厚補強することにより、弁体5及び腱索7のうちの弱点部となりやすいコーナー部が補強される。しかも、切断加工する前の結合組織体20については、突条によって、そのコーナー部の位置が示されて、結合組織体20の向きと切断線の位置の把握が容易になる。
【0047】
基材19の材料は、生体に埋入した際に大きく変形することが無い強度(硬度)を有しており、化学的安定性があり、滅菌などの負荷に耐性があり、生体を刺激する溶出物が無いまたは少ない樹脂が好ましく、例えばシリコーン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられるがこれに限定されるものではない。なお、基材19の外径により人工弁1の太さが決定されるため、目的の太さによってその直径を変更可能である。
【0048】
次に、上記のような結合組織体形成用基材19を用いて膜状の結合組織体としての人工弁1を生産する方法について説明する。
【0049】
図6に示すように、この生産方法は、溝部25を構成しつつ柱状の基材19を組み立てる「組立工程」と、基材表面に切断線形成用溝28を有する基材19を生体組織材料の存在する環境下におく「設置工程」と、基材19の周囲に結合組織30を形成しつつ結合組織30を切断線形成用溝28に侵入させて切断線31を形成する「形成工程」と、環境下から結合組織30で被覆された基材19を取り出す「取り出し工程」と、基材19から筒状の結合組織体20を剥離して取り出す「分離工程」と、結合組織体20のうちの腱索形成部22の表面に形成された部位を切断線31に沿って切断加工して、弁体形成部21の表面に形成された筒状の弁体5から紐状の腱索7を延設する「切断工程」とからなる。
【0050】
なお、
図6において、(a)〜(d)は側面図を示し、(e)及び(f)は、その上半分が断面図を示し、下半分が側面図を示す。
【0051】
<組立工程>
基材19の弁体形成部21の基端側の嵌合穴に円形突起26を嵌合させて、弁体形成部21の基端側にフランジ24を取り付け、基材19を組み立てる。これにより、切欠23の基端側がフランジ24で塞がれて溝部25が構成される(
図6(a)、(b))。
【0052】
<設置工程>
基材表面に切断線形成用溝28を有する基材19を生体組織材料の存在する環境下へ置く(
図6(b))。生体組織材料の存在する環境下とは、動物の生体内(例えば、皮下や腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において生体組織材料が浮遊する溶液中等の人工環境内が挙げられる。生体組織材料としては、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ヒツジなどの他の哺乳類動物由来のものや、鳥類、魚類、その他の動物由来のもの、又は人工材料を用いることもできる。
【0053】
基材19を動物に埋入する場合には、十分な麻酔下で最小限の切開術で行い、埋入後は傷口を縫合する。基材19の埋入部位としては例えば、基材19を受け入れる容積を有する腹腔内、あるいは四肢部、肩部又は背部、腹部などの皮下が好ましい。また、埋入には低侵襲な方法で行うことと動物愛護の精神を尊重し、十分な麻酔下で最小限の切開術で行うことが好ましい。
【0054】
また、基材19を生体組織材料の存在する環境下へ置く場合には、種々の培養条件を整えてクリーンな環境下で公知の方法に従って細胞培養を行えばよい。
【0055】
<形成工程>
設置工程の後、所定時間が経過することにより、基材19の周囲に膜状の結合組織30が形成される(
図6(c))。結合組織30は、溝部25に侵入し、増厚された止着部6を形成する。
【0056】
また、結合組織30が切断線形成溝28に侵入することにより、結合組織体20に突条が形成されて切断線31が構成され、結合組織30が増厚溝29に侵入することにより、結合組織体20のコーナー部に突条が形成されて増厚補強される。結合組織30は、繊維芽細胞とコラーゲンなどの細胞外マトリックスで構成される。
【0057】
<取り出し工程>
所定時間の形成工程を経て、結合組織30が十分に形成された後、基材19を生体組織材料の存在する環境下から取り出す取り出し工程を行う。生体組織材料の存在する環境下から取り出された基材19は、その両端面を含む表面の全体を結合組織30による膜で覆われている。
【0058】
<分離工程>
基材19の両端部の表面の結合組織30を除去し(
図6(d))、その後、弁体形成部21の基端側からフランジ24を取り外して、止着部6が嵌ったままの溝部25の基端側を開放し、基材19の周面を覆っている残りの結合組織30を、基材19の表面から筒状の結合組織体20として剥離して取り出す(
図6(e))。
【0059】
<切断工程>
増厚溝29によって形成された突条を目印として、結合組織体20のコーナー部の位置を把握しつつ切断線31を見つけ、この切断線31に沿って結合組織体20を切断して紐状の腱索7を形成し、これにより、弁体5から腱索7を延設した人工弁1が得られる(
図6(f))。この切断工程において、切断線31を構成する突条を残すように切断した場合には、残した突条によって切断縁を補強する効果が期待できる。
【0060】
なお、生産された人工弁1を異種移植する場合には、移植後の拒絶反応を防ぐため、脱細胞処理、脱水処理、固定処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。脱細胞処理としては、超音波処理や界面活性剤処理、コラゲナーゼなどの酵素処理によって細胞外マトリックスを溶出させて洗浄する等の方法があり、脱水処理の方法としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶媒で洗浄する方法があり、固定処理する方法としては、グルタアルデヒドやホルムアルデヒドなどのアルデヒド化合物で処理する方法がある。
【0061】
[第2実施形態]
本実施形態は、第1実施形態とほぼ同じ構成であるが、
図7に示すように、結合組織体形成用基材として、基端断面が円形で先端断面が正方形の基材19に代えて、扁平形状の基材32を採用したものである。
【0062】
基材32の弁体形成部33は、その基端断面が楕円形とされると共に、先端断面が基端断面の楕円に内接する大きさの長方形とされて、両断面の間を滑らかに連続させた形状とされ、基端側よりも先端側の周長を小さく設定されている。また、基材32の腱索形成部34は、断面形状が弁体形成部33の先端と同一形状かつ同じ大きさの直方体とされる。
【0063】
基材32の側面には、二重の溝が形成され、そのアーチ形状の内側の溝が切断線形成溝35とされて、アーチ形状の外側の溝が腱索7の側縁を増厚補強する増厚溝36とされる。これにより、切断線形成溝35と増厚溝36とが溝幅方向に並設され、結合組織体20に切断線31を含む二重の突条を形成して、結合組織体20を切断加工する際に、その切断線31を目立たせて見つけやすくするようになっている。
【0064】
基材32を用いて形成した人工弁1は、増厚溝36によって形成された突条が切断縁に沿うよう位置し、腱索7の側縁を補強している。また、アーチ形状の外側の増厚溝36が形成する増厚線を切断線とすることにより、切断線形成溝35が形成する切断線に沿って結合組織体20を切断して形成した腱索7よりも幅狭の腱索を形成することができる。
【0065】
また、人工弁1は、その腱索形成部34が断面長方形である分、腱索7を不等間隔に配置して、開弁状態における上下の腱索7の基端を上下に近づけることができ、弁体5が上下に押し潰されて閉弁する際の腱索7による抵抗をより小さくすることができる。
【0066】
[第3実施形態]
本実施形態は、第2実施形態とほぼ同じ構成であるが、人工弁の止着部を増厚することなく、止着部を他の部位と同程度の厚さに形成するものである。本実施形態では、
図8に示すように、基材19、32に代えて、弁体形成部33の基端部に溝部25を有しない基材38を用いて人工弁を形成する。
【0067】
基材38の弁体形成部33の基端部には、周方向に連続する複数条の弁体用切断線形成溝39a、39b、39c、39d、39eが形成され、結合組織体20に複数の切断線を形成するようになっている。複数の切断線のうちから、移植部位に応じて、適宜選択した切断線に沿って結合組織体20を切断することにより、弁体5の大きさを調節することができる。また、複数の切断線を目印にして弁体5を斜めに切断することにより、弁体5の止着部の開口形状を調節することもできる。
【0068】
基材38の腱索形成部34には、アーチ形状の切断線形成溝40が形成されると共に、そのアーチ形状の頂部付近が複数の分岐溝40a、40b、40c、40d、40eに分岐して形成され、結合組織体20に複数に分岐する切断線を形成するようになっている。分岐した切断線のうちから、移植部位に応じて、適宜選択した切断線に沿って結合組織体20を切断することにより、弁体5の大きさと腱索7の長さとを調節することができる。
【0069】
[第4実施形態]
本実施形態は、第1実施形態〜第3実施形態とほぼ同じ構成であるが、一端を折り返した構造の人工弁41を生産するものである。
【0070】
図9に示すように、人工弁41は、例えば、大動脈弁18などとして用いるためのものであり、結合組織50からなる外管部42と、外管部42の内側に設けられた筒状の弁体43とを備え、その弁体43内側の流路Xを開閉する複数の弁葉44を構成している。
【0071】
弁体43は、外管部42の一端を折返部45において内側に折り返した形状とされ、この弁体43が複数の弁葉44を構成するよう、弁体43が波形の止着部46において外管部42の内面に止着されている。止着部46は、弁体43をその先端部のうちの複数箇所を頂点とする波形の止着線に沿って外管部42に止着してなり、この止着部46が弁葉44の支持部を構成している。なお、外管部42への弁体43の止着方法は、特に限定されるものではなく、縫付、接着、ステープラーによる止着などを例示できる。
【0072】
弁葉44は、止着部46の1波ごとに1葉ずつ構成されて、複数の弁葉44が人工弁41の周方向に並設されている。この弁葉44は、先端側から基端側(
図9における上方から下方)に向かおうとする血流などがある場合、各弁葉44の先端部が圧力を受けて内側に撓み、複数の弁葉44が互いに接触することにより、弁体43の内側の流路Xを閉じる。一方、弁葉44は、基端側から先端側に向かう血流などがある場合、各弁葉44の先端部が圧力を受け、内側に撓んだ弁葉44が戻されて、複数の弁葉44が互いに離間することにより、弁体43の内側の流路Xを開く。
【0073】
このように、血流などの方向の反転に伴って、弁葉44が半径外内方向へ往復動することにより、弁体43の内側の流路Xを開閉するようになっており、弁体43が、例えば、3葉の弁葉を有して大動脈を血流方向に開閉する大動脈弁として機能する。
【0074】
次に、上記のような人工弁41を生産する際に用いる基材47について説明する。
【0075】
図10に示すように、基材47は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に、人工弁41に加工可能な管状の結合組織体51を形成するためのものであり、表面に管状の結合組織体51を形成する円柱状とされる。
【0076】
この基材47は、管状の結合組織体11の一端を内側に折り返すことによって外管部42の内側に筒状の弁体43を有する人工弁41を形成可能なよう、その中心軸方向長さが、人工弁41の外管部42の中心軸方向長さと弁体43の中心軸方向長さとの合計よりも長く設定されている。
【0077】
基材47の中心軸方向で中央付近には、周方向に連続する折返し目印形成部としての折返し目印形成溝48が形成され、結合組織体51を折返し加工する際の折返し目印48aを形成するようになっている。また、基材47の一端側には、止着目印形成部としての波形の止着目印形成溝49が形成され、結合組織体51を止着加工する際の止着目印49aを形成するようになっている。
【0078】
次に、上記のような基材47を用いて人工弁41を生産する方法について説明する。
【0079】
図11に示すように、この生産方法は、柱状の基材47を生体組織材料の存在する環境下におく「設置工程」と、基材47の周囲に膜状の結合組織50を形成する「形成工程」と、環境下から結合組織50で被覆された基材47を取り出す「取り出し工程」と、基材47から結合組織50を管状結合組織体51として剥離して取り出す「分離工程」と、管状結合組織体51の一端を折り返して外管部42及び弁体43を形成する「折り返し工程」と、弁体43が複数の弁葉44を構成するよう弁体43を止着目印49aに沿って外管部42に止着する「止着工程」とからなる。
【0080】
<設置工程>
基材47を生体組織材料の存在する環境下へ置く(
図11(a))。
【0081】
<形成工程>
設置工程の後、所定時間が経過することにより、基材47の周囲に膜状の結合組織50が形成されると共に、折返し目印形成溝48及び止着目印形成溝49に結合組織50が侵入して折返し目印48a及び止着目印49aが形成される(
図11(b))。
【0082】
<取り出し工程>
所定時間の形成工程を経て、結合組織50が十分に形成された後、基材47を生体組織材料の存在する環境下から取り出す取り出し工程を行う。生体組織材料の存在する環境下から取り出された基材47は、その両端面を含む表面の全体を結合組織50による膜で覆われている。
【0083】
<分離工程>
基材47の両端部の表面の結合組織50を除去した後、基材47の周面を覆っている残りの結合組織50を、基材47の表面から、折返し目印48a及び止着目印49aを有する管状の結合組織体51として剥離して取り出す(
図11(c))。
【0084】
<折り返し工程>
折返し目印48aの位置を折返し部45として、管状の結合組織体51の一端を内側に折り返し、外側部分を外管部42とすると共に、内側に折り返した部分を弁体43とすることにより、外管部42の内側に筒状の弁体43を形成する(
図11(d))。
【0085】
<止着工程>
波形の止着目印49aに沿って、外管部42の内側に折り返した弁体43を外管部42の内面に止着し、波形の止着部46を構成する。これにより、弁体43が止着部46の1波分を支持部とする複数の弁葉44を構成し、外管部42の内側に複数の弁葉44を設けてなる人工弁41が得られる(
図11(e))。
【0086】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えることができる。例えば、第1実施形態〜第3実施形態における人工弁1は、人工僧帽弁として用いるものに限らず、腱索7の本数及びその止着位置を適宜設定することにより、例えば心臓の右室と右房とを仕切る三尖弁などの他の人工弁として用いることもできる。
【0087】
また、本発明に係る結合組織体形成用基材及び生産方法は、膜状の結合組織体であれば、人工弁1に限らず、人工血管や人工角膜など、あらゆるものを生産することができる。また、基材表面に、結合組織体を増厚補強する増厚溝としてではなく、例えば、単に、結合組織体の形状を把握しやすいようにする目的だけで、結合組織体に突条を形成する突条形成溝を形成するようにしてもよい。