(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凝固工程で用いる前記凝固液は、塩化カルシウムと塩化マグネシウムを含む水溶液であり、前記包装工程で用いる前記充填用凝固液は、塩化カルシウムと塩化ナトリウムを含む水溶液であり、且つ前記凝固液の塩化カルシウムの濃度が、前記充填用凝固液の塩化カルシウムの濃度よりも高いことを特徴とする請求項4又は5に記載の麺状食品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討を行ったところ、特許文献2に記載の麺状食品は、低温や常温の麺つゆ(食塩含有溶液)につけて食するような場合には、確かに軟化が抑えられ麺のコシが保たれるものの、高温の麺つゆに長時間浸漬したり、麺つゆに入れて煮込んだりすると麺のコシが失われるという問題があった。また、同文献では、破断強度が15〜20g程度でもコシは良好と判断している(同文献の[0034]参照)。しかし、実際には、この程度では消費者に受け入れられず、高温の麺つゆに長時間浸漬した場合や麺つゆに入れて煮込んだ場合でも破断強度が20gを超える程度に維持できる麺状食品が必要とされている。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、高温の食塩含有溶液に長時間浸漬した場合や食塩含有溶液に入れて煮込んだ場合でも、麺のコシが維持できる麺状食品およびその製造方法を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、原料として用いるアルギン酸として、特にM/G比が低いものを選択することにより、高温の食塩含有溶液に長時間浸漬した場合や食塩含有溶液に入れて煮込んだ場合でも麺のコシが維持できる麺状食品が得られることを見出した。具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1] M/G比が0.8以下のアルギン酸の二価金属塩を含むことを特徴とする麺状食品。
[2] 前記二価金属塩が塩化カルシウムであることを特徴とする[1]に記載の麺状食品。
[3] 90℃の1質量%食塩水に10分間浸漬した後の破断強度が20gよりも大きいことを特徴とする[1]又は[2]に記載の麺状食品。
[4] 大豆調製物及び野菜ペーストの少なくともいずれかを含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の麺状食品。
[5] 固形分及び半固形分の少なくともいずれかと、M/G比が0.8以下であるアルギン酸の一価金属塩と、分散媒とを含む混合物を麺状に成形して麺状成形体を得る麺状成形体作成工程と、前記麺状成形体を、二価金属塩を含む凝固液に接触させて凝固させる凝固工程と、を有することを特徴とする麺状食品の製造方法。
[6] 前記凝固工程において、凝固液を加熱することを特徴とする[5]に記載の麺状食品の製造方法。
[7] 前記凝固工程を、凝固条件の異なる多段階の凝固工程によって行うことを特徴とする[6]又は[7]に記載の麺状食品の製造方法。
[8] 前記凝固工程の後、凝固した前記麺状成形体を、二価金属塩を含む充填用凝固液とともに包袋に封入する包装工程を有することを特徴とする[5]〜[7]のいずれか1項に記載の麺状食品の製造方法。
[9] 前記包装工程において、前記麺状成形体及び前記充填用凝固液を封入した包袋を、加熱することを特徴とする[8]に記載の麺状食品の製造方法。
[10] 前記凝固工程で用いる前記凝固液は、塩化カルシウムと塩化マグネシウムを含む水溶液であり、前記包装工程で用いる前記充填用凝固液は、塩化カルシウムと塩化ナトリウムを含む水溶液であり、且つ前記凝固液の塩化カルシウムの濃度が、前記充填用凝固液の塩化カルシウムの濃度よりも高いことを特徴とする[8]又は[9]に記載の麺状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温の食塩含有溶液に長時間浸漬した場合や食塩含有溶液に入れて煮込んだ場合でも麺のコシが維持できる麺状食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
<麺状食品>
本発明の麺状食品は、M/G比が0.8以下のアルギン酸の二価金属塩を含むものである。以下、この麺状食品について詳細に説明する。
(アルギン酸の二価金属塩)
アルギン酸の二価金属塩は、麺状食品に含まれる分散媒をゲル化するゲル化剤として機能するものである。これにより、麺状食品に弾力性が付与され、喫食したときに程良い食感(コシ)を得ることができる。
アルギン酸二価金属塩としては、アルギン酸と二価の金属イオンとの塩であればよく、例えばカルシウム、マグネシウム等の第2族元素との塩等を挙げることができ、中でもカルシウム塩であることが好ましい。
アルギン酸の二価金属塩においてアルギン酸は、D−マンヌロン酸とL−グルロン酸とが共重合した共重合体であり、本発明ではこのアルギン酸のM/G比を0.8以下に規定する点に特徴がある。ここで本明細書中において「M/G比」とは、下記式Iで求められる値である。
【数1】
式Iにおいて、S
MMは、アルギン酸のうちマンヌロン酸同士が重合したホモポリマー部分の糖量を表し、S
GGは、アルギン酸のうちグルロン酸同士が重合したホモポリマー部分の糖量を表し、S
MGは、アルギン酸のうちマンヌロン酸とグルロン酸とが交互に重合したヘテロポリマー部分の糖量を表す。
【0012】
ここで各糖量S
MM、S
GG、S
MGは、A.Haug,B.Larsen and O.Smidsrod,Carbohyd.Res.32(1974)217−225に記載された方法によって測定する。具体的には、各糖量S
MM、S
GG、S
MGは、マンヌロン酸同士が重合したホモポリマー、グルロン酸同士が重合したホモポリマー、マンヌロン酸とグルロン酸とが交互に重合したヘテロポリマーをグルロン酸から分離、抽出し、それぞれについてフェノール硫酸法による糖の定量を行うことによって測定する。また、各ホモポリマーおよびヘテロポリマーは、以下のようにして分離抽出する。
【0013】
まず、アルギン酸の金属塩の溶液に、100倍量の0.3M塩酸溶液を注入し、100℃で2時間加熱してアルギン酸の金属塩を加水分解する。次に、この反応溶液を遠心分離して上澄みと沈殿物とに分離し、それぞれアルカリ溶液で中和する。このうち上澄みには、マンヌロン酸とグルロン酸とが交互に重合したヘテロポリマーが存在する。
次に、沈殿物に、0.025Mの塩酸溶液を注入してpHを2.8〜3.0に調整する。そして、この沈殿物の懸濁液を遠心分離し、上澄みと沈殿物とに分離し、それぞれアルカリ溶液で中和する。このうち上澄みにはマンヌロン酸同士が重合したホモポリマーが存在し、沈殿物にはグルロン酸同士が重合したホモポリマーが存在する。以上の工程により、各ホモポリマーおよびヘテロポリマーを分離抽出することができる。
【0014】
本発明で用いるアルギン酸の二価金属塩は、このようにして求められるM/G比が0.8以下のものである。
ここで、アルギン酸は、海藻を原料として製造されるが、季節、採取地域、年によって、海藻から製造されるアルギン酸のM/G比は変動し、通常は0.8より高い値である。本発明で用いるアルギン酸の二価金属塩のアルギン酸は、M/G比が0.8以下という特殊なアルギン酸である。これにより、本発明の麺状食品は、高温の麺つゆ(食塩含有溶液)に長時間浸漬した場合や麺つゆに入れて煮込んだ場合でも、軟化が抑えられ、麺のコシを確実に維持することができるという極めて優れた効果を得ることができる。
アルギン酸のM/G比は0.5〜0.8であるのが好ましく、0.5〜0.7であることがより好ましく、0.5〜0.6であることがさらに好ましい。
【0015】
M/G比が0.8以下のアルギン酸の二価金属塩は、単一のアルギン酸二価金属塩のみから構成されていてもよいし、M/G比や二価金属イオンの種類が異なる2種類以上のアルギン酸二価金属塩から構成されていてもよい。また、本発明の麺状食品は、M/G比が0.8を超えるアルギン酸二価金属塩を含んでいてもよい。但し、この場合、M/G比が0.8以下のアルギン酸二価金属塩とM/G比が0.8を超えるアルギン酸二価金属塩とを合わせた全体でのM/G比が0.8以下であることが好ましい。
【0016】
(他のゲル化剤)
本発明の麺状食品は、アルギン酸カルシウム以外のゲル化剤が添加されていてもよい。そのようなゲル化剤としては、例えばゼラチン、カラーギナン、寒天、こんにゃく粉、カードラン等を挙げることができる。他のゲル化剤を添加する場合、M/G比が0.8以下のアルギン酸の二価金属塩と他のゲル化剤との質量比率は、9:1〜6:4であることが好ましく、9:1〜7:3であることがより好ましく、9:1〜8:2であることがさらに好ましい。
【0017】
(ゲル化剤以外の材料)
麺状食品は、ゲル化剤以外の材料を含んでいてもよい。そのような材料としては、大豆調製物、おからパウダー、野菜ペースト、澱粉、食物繊維材等の食材を挙げることができる。
「大豆調製物」とは、大豆由来の液体状の調製物であり、大豆由来成分以外の成分が含まれていてもよい。本発明において使用することができる大豆調製物には、豆乳、大豆粉を水に溶かした大豆粉液、呉液などが含まれるが、これらには限定されない。この様な大豆調製物を調製する際に原料として使用する大豆は、サイズ、品種によって何ら制限されることはなく、大粒大豆、中粒大豆、小粒大豆のいずれのサイズであっても、また黄色大豆、黒大豆、青大豆、赤大豆、茶大豆などのいずれの品種であってもよい。
野菜ペーストは、野菜をすりつぶし、必要に応じて濃縮または希釈して適度な粘度に調節したものである。野菜は生のものであってもよいし、加熱調理や調味が施されたものであってもよい。また、野菜以外の成分が含まれていてもよい。
【0018】
(形状および寸法)
本発明の麺状食品の形状は、特に限定されず、細麺状、太麺状、素麺状、きしめん状、中華麺状、パスタ状、マカロニ状等のいずれの形状であってもよい。また、麺の太さや長さ等の寸法も特に制限はない。
【0019】
(加熱塩水処理後の破断強度)
本発明の麺状食品は、90℃の1質量%食塩水に10分間浸漬した後の破断強度が20gよりも大きいことが好ましく、25g〜40gであることがより好ましく、25g〜35gであることがさらに好ましい。本発明の麺状食品は、90℃の2質量%食塩水に10分間浸漬した後の破断強度も上記の好ましい範囲内にあることが望ましく、90℃の5質量%食塩水に10分間浸漬した後の破断強度も上記の好ましい範囲内にあることがより望ましい。
本明細書中において「破断強度」とは、長さ20cmのサンプルについて、レオメータの切断応力用プランジャーを用い、試料台速度を60mm/minに設定して測定されるものである。破断強度は、喫食したときの食感の指標になるものであり、この値が大きいもの程、しっかりした食感(コシ)が得られることを意味する。麺状食品では、破断強度が20g以上であることにより、麺として程良い食感を得ることができる。
【0020】
<麺状食品の製造方法>
本発明の麺状食品の製造方法は、アルギン酸の二価金属塩を含む麺状食品の製造方法であって、固形分及び半固形分の少なくともいずれかと、M/G比が0.8以下のアルギン酸塩の一価金属塩と、分散媒との混合物を麺状に成形して麺状成形体を得る工程(麺状成形体作成工程)と、麺状成形体を、二価金属塩を含有する凝固液に接触させて凝固させる工程(凝固工程)とを有する。以下、各工程について説明する。
【0021】
(麺状成形体作成工程)
麺状成形体作成工程では、固形分及び半固形分の少なくともいずれかと、M/G比が0.8以下のアルギン酸の一価金属塩と、分散媒との混合物を麺状に成形して麺状成形体を得る。
本発明の麺状食品の製造方法は、この工程でM/G比が0.8以下のアルギン酸の一価金属塩を用いる点に特徴がある。M/G比が0.8以下のアルギン酸一価金属塩は、後述する凝固工程で二価金属塩と反応し、M/G比が0.8以下のアルギン酸の二価金属塩を生成する。このため、製造された麺状食品は、前述の麺状食品と同様に、高温の食塩含有溶液に長時間浸漬した場合や食塩含有溶液に入れて煮込んだ場合でも麺のコシを確実に維持することができる。
【0022】
M/G比が0.8以下のアルギン酸一価金属塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等を挙げることができ、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
アルギン酸のM/G比の定義及び好ましい範囲は、麺状食品の欄で説明したアルギン酸のM/G比の定義及び好ましい範囲を参照することができる。
M/G比が0.8以下のアルギン酸一価金属塩の入手方法については特に制限は無く、商業的に入手してもよく、海藻から抽出したアルギン酸ナトリウムを原料として製造してもよい。商業的に入手する場合は、例えば、キミカI-1G(キミカ社製、M/G比:0.5)等を好ましく用いることができる。
【0023】
また、この場合も、M/G比が0.8以下のアルギン酸一価金属塩と組み合わせて、M/G比が0.8を超えるアルギン酸一価金属やアルギン酸一価金属塩以外の他のゲル化剤を用いることができる。M/G比が0.8以下のアルギン酸一価金属塩とM/G比が0.8を超えるアルギン酸一価金属とを組み合わせた場合のM/G比、他のゲル化剤の種類及び配合比率については、麺状食品の欄で説明したM/G比、他のゲル化剤の種類及び配合比率を参照することができる。
【0024】
半固形分とは、固形成分を含む液状食材であり、前述の麺状食品の欄で説明した大豆粉液、野菜ペースト等を挙げることができる。また、固形成分としては、これらの液状食材を乾燥させて粉末状にした加工品や、食物繊維材、必要に応じて添加される各種粉末状添加剤等を挙げることができる。固形分及び半固形分は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。また、固形分又は半固形分のいずれか一方を用いてもよいし、固形分と半固形分とを組み合わせて用いてもよい。
【0025】
分散媒としては水等を挙げることができる。分散媒として用いる水のpHは 6.5〜8.5であることが好ましく、7.0〜8.0であることがより好ましく、7.5〜8.0であることがさらに好ましい。また、水は、この工程でゲル化することを抑えるため、硬度が80以下の軟水であることが好ましい。
【0026】
また、混合物には、該混合物に粘稠性を付与する食材を添加してもよい。これにより、混合物が成形し易くなり、所望の形状及び寸法の麺状食品を容易に得ることが可能になる。そのような食材としては、澱粉、キサンタンガム、グァーガム等を挙げることができる。
【0027】
混合物の成形方法は、特に限定されず、例えば複数の吐出孔が形成されたノズルを有する麺成形器を用い、このノズルの吐出孔から材料を押し出す方法等を用いることができる。これにより、吐出孔の径と略同一の径の麺状食品を得ることができる。
【0028】
(凝固工程)
凝固工程では、麺状成形体を、二価金属塩を含む凝固液に接触させて凝固させ、麺状食品を得る。
麺状成形体に含まれるアルギン酸の一価金属塩は直鎖型の高分子であるが、凝固液に含まれる二価金属塩と接触することにより、一価金属イオンが二価金属イオンに置き換わってイオン架橋が形成され、アルギン酸の二価金属塩を生成する。このとき、アルギン酸の二価金属塩は、イオン架橋による網目構造によって麺状成形体を凝固(ゲル化)させる。その結果、コシがあり、喫食したときに程良い食感を有する麺状食品を得ることができる。また、得られた麺状食品は、生成したアルギン酸二価金属塩のM/G比が0.8以下であることにより、高温の食塩含有溶液に長時間浸漬した場合や食塩含有溶液に入れて煮込んだ場合でも軟化が抑えられ、麺のコシを確実に維持することができる。
【0029】
凝固工程は、具体的には、麺状成形体を、二価金属塩を含む凝固液中に浸漬することによって行うことができる。
凝固液としては、二価金属塩の水溶液等を用いることができる。二価金属塩としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の第2族元素との塩等を挙げることができ、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
凝固液の二価金属塩の濃度は、0.4〜1.0質量%であることが好ましく、0.4〜0.7質量%であることがより好ましく、0.5〜0.6質量%であることがさらに好ましい。
麺状成形体を浸漬する凝固液は、室温であってもよいし、加熱されていてもよい。凝固液を加熱することにより、アルギン酸一価金属塩と二価金属塩との反応を促進することができる。凝固液を加熱する場合、その加熱温度は70〜98℃であることが好ましく、75〜85℃であることがより好ましく、80〜85℃であることがさらに好ましい。
麺状成形体の浸漬時間は、凝固液の加熱温度によっても異なるが、120〜360秒間であることが好ましく、120〜240秒間であることがより好ましく、120〜180秒間であることがさらに好ましい。
【0031】
また、凝固工程は、条件が異なる多段階の凝固工程を用いて行ってもよい。これにより、得られる麺状食品の食感を精度よく制御することができる。変化させる条件としては、麺状成形体の浸漬時間を挙げることができる。すなわち、1段階目の二価金属塩を含む凝固液中に麺状成形体を浸漬する凝固工程において、凝固液の二価金属塩の濃度及び加熱する場合の加熱温度は前記条件と同様であるが、麺状成形体の浸漬時間を短くすることができる。具体的には、凝固液の加熱温度によっても異なるが、40〜100秒間であることが好ましく、50〜100秒間であることがより好ましく、50〜70秒間であることがさらに好ましい。
また、2段階目の凝固工程は、包装工程で麺状成形体と共に包袋内に封入充填される充填液として二価金属塩を含む凝固液を用いて行うことができる。この充填用の凝固液(以下「充填用凝固液」という。)の二価金属塩の濃度は、1段階目の凝固工程で用いる凝固液の二価金属塩の濃度よりも低いことが好ましい。具体的には、1段階目の凝固液の二価金属塩の濃度/充填用凝固液の二価金属塩の濃度の比は、5/1〜5/3であることが好ましく、5/1〜5/2.5であることがより好ましく 、5/1〜5/2であることがさらに好ましい。この場合、充填用凝固液の二価金属塩として塩化カルシウムと塩化マグネシウムを用いることができ、好ましくは塩化カルシウムを単独で用いるのが良い。これにより、弾力性のある麺状食品を安定的に得ることができる。
【0032】
(包装工程)
麺状食品の製造方法では、通常、凝固工程の後、得られた麺状食品を包袋で包装する包装工程が行われる。単一の凝固工程を用いる製法では、水道水が充填液として麺状成形体と共に包袋内に充填封入される。多段階の凝固工程を用いる製法においては、上記したように、塩化カルシウムと塩化マグネシウムを含む凝固液、好ましくは塩化カルシウムを含む凝固液が充填液として、1段階目の凝固工程により得られた麺状成形体と共に包袋内に充填封入される。
また、充填液に塩化ナトリウムを添加してもよい。これは、麺の破断強度が100g以上になると麺が硬くなりすぎ、又麺に縮れが生じる恐れがあり、これを防止するためである。この塩化ナトリウムの添加により、アルギン酸二価金属塩の一部において、二価の金属イオンがナトリウムイオンに再置換され、麺の強固な破断強度を緩和することができる。充填液に塩化ナトリウムを添加する場合、充填液における塩化ナトリウムの濃度は、0.1〜0.5質量%であることが好ましく、0.3〜0.5質量%であることがより好ましく、0.4〜0.5質量%であることがさらに好ましい。尚、塩化ナトリウムの濃度は上記範囲に限定されるものでなく上限を超えても良い。
特に、この包装工程で、麺状成形体と共に塩化ナトリウムを含む充填用凝固液を包袋内に封入することが好ましい。これにより、店頭での麺状食品の見た目や手触り、喫食する時点での食感を精度よく制御することができる。
【0033】
また、麺状成形体と充填液を包袋内に封入した後、加熱を行ってもよい。
加熱温度は、70〜105℃であることが好ましく、90〜105℃であることがより好ましく、95〜105℃であることがさらに好ましい。
また、加熱時間は、15〜50分間であることが好ましく、20〜40分間であることがより好ましく、25〜35分間であることがさらに好ましい。
【0034】
以上のように、本発明の麺状食品の製造方法によれば、高温の食塩含有溶液に長時間浸漬した場合や食塩含有溶液に入れて煮込んだ場合でも、麺のコシが維持され、喫食時に程良い食感が得られる麺状食品を製造することができる。
また、この製造方法は工程が簡単であるため、高い製造効率を得ることができる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0036】
<麺状食品の調製>
(実施例1)
タピオカ澱粉65gと、α化澱粉30gと、アルギン酸ナトリウム46.2gと、デキストリン7gと、増粘多糖類16gと、水1685gとを混合、攪拌して混合物を調製した。ここで、アルギン酸ナトリウムとしてキミカI−1G(キミカ社製)を使用した。キミカI−1GのM/G比は0.5であり、混合物中でのキミカI−1Gの濃度は、2.5質量%であった。また、攪拌は、ステファンカッター(商品名UM−5、ステファン社製)を使用して、大気下で、低速で2分、高速で3分行った後、真空下で、低速で3分行った。
【0037】
次に、凝固液として塩化カルシウム0.5質量%と塩化マグネシウム0.2質量%とを含む水溶液を用意し、これを80℃に加熱した。そして、調製した混合物を、麺成形器のノズルの吐出孔から押し出して凝固液に投入し、60秒間浸漬して凝固させた(麺状成形体作成工程、凝固工程)。なお、ノズルの吐出孔の孔径は1.0mmであった。続いて、凝固した麺状成形体を、長さ20cm毎に切断し、水に塩化カルシウム0.3質量%を溶解した充填用凝固液とともに包袋に封入した。この麺状成形体と充填用凝固液を封入した包袋を、98℃で30分間加熱し、その後、冷却した(包装工程)。
以上の工程により麺状食品を得た。
【0038】
(実施例2〜4)
アルギン酸ナトリウムとして、キミカI−1Gとダックアルギン(キッコーマンバイオケミファ社製)とを表1に示す配合比で混合した混合物を用いること以外は、実施例1と同様にして麺状食品を得た。ダックアルギンのM/G比は0.9である。また、キミカI−1Gとダックアルギンを合わせたM/G比を表1に示す。
【0039】
(実施例5〜10)
混合物中でのアルギン酸ナトリウム(キミカI−1G)の濃度を3.0質量%に変更し、包装工程で用いる充填用凝固液として塩化カルシウム及び塩化ナトリウムを表2に示す濃度で含む水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして麺状食品を得た。
【0040】
(実施例11)
おからパウダー(フードケミファ社製)、食物繊維材[セオラス(登録商標)ファイバーDF−17、旭化成ケミカルズ社製]、アルギン酸ナトリウム(キミカI−1G、キミカ社製)、ビストップKN(三栄源FFI社製)、グァーガム(商品名オルノーG1、キリン協和フーズ社製)及び水を表3に示す配合比で混合、攪拌して混合物を調製した。この混合物を、実施例1と同様にして麺状に成形した後、水に塩化カルシウム0.8質量%を溶解した凝固液(温度80℃)に120秒間浸漬して凝固させた。
続いて、凝固した麺状成形体を、長さ20cm毎に切断し、水に塩化ナトリウム1.5質量%を溶解した充填液とともに包袋に封入した。この麺状成形体と充填液を封入した包袋を、98℃で30分間加熱し、その後、冷却した。
以上の工程により麺状食品を得た。
【0041】
(比較例1)
アルギン酸ナトリウムとして、M/G比が0.9のダックアルギンを単独で用いたこと以外は、実施例1と同様にして麺状食品を得た。
【0042】
(比較例2)
おからパウダー(フードケミファ社製)、食物繊維材[セオラス(登録商標)ファイバーDF−17、旭化成ケミカルズ社製]、アルギン酸ナトリウム(ダックアルギン)、ビストップKN(三栄源FFI社製)、グァーガム(商品名オルノーG1、キリン協和フーズ社製)及び水を表3に示す配合比で混合、攪拌した混合物を用いること以外は、実施例11と同様にして麺状食品を得た。
【0043】
(比較例3)
おからパウダー(フードケミファ社製)、食物繊維材[セオラス(登録商標)ファイバーDF−17、旭化成ケミカルズ社製]、アルギン酸ナトリウム(ダックアルギン)、ビストップKN(三栄源FFI社製)、グァーガム(商品名オルノーG1、キリン協和フーズ社製)及び水を表3に示す配合比で混合、攪拌して混合物を調製した。この混合物を、実施例11と同様にして麺状に成形した後、水に塩化カルシウム0.5質量%を溶解した凝固液(温度80℃)に120秒間浸漬して凝固させた。
続いて、凝固した麺状成形体を、長さ20cm毎に切断し、水に塩化ナトリウム1.5質量%を溶解した充填液とともに包袋に封入した。この麺状成形体と充填液を封入した包袋を、98℃で30分間加熱し、その後、冷却した。
以上の工程により麺状食品を得た。
【0044】
<耐塩性試験>
実施例1〜10及び比較例1で製造した麺状食品を包袋から取り出し、表1、2に示す濃度の食塩水中に、98℃で10分間浸漬する塩水処理を行った。
実施例11及び比較例2と3で製造した麺状食品については、塩化ナトリウム1.5質量%を溶解した水溶液に25℃で60分間浸漬する常温による塩水処理と、塩化ナトリウム1.0質量%を溶解した水溶液で、98℃で10分間浸漬する高温による塩水処理を行った。
次に、塩水処理を行った麺状食品から、長さ20cmのサンプルを5本切り出した。そして、各サンプルについて、レオメーター(サン科学社製、商品名CR−200D)の切断応力用プランジャーを用い、試料台速度を60mm/minに設定して破断強度BSを測定した。その結果を、表1、2、4に示す。なお、破断強度は、喫食したときの食感の指標になるものであり、この値が大きいもの程、しっかりした食感(コシ)が得られることを意味する。麺状食品の好ましい破断強度は20g以上であるため、ここでは破断強度20gを基準に麺状食品の良否を判断した。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
表に示すように、M/G比が0.8以下のアルギン酸ナトリウム(キミカI−1G単独、又はキミカI−1Gとダックアルギンの混合物)を用いた実施例1〜11の麺状食品は、1質量%濃度の高温の塩水処理後においても20g以上の破断強度を有していた。特に、アルギン酸ナトリウムのM/G比が0.5である実施例1の麺状食品は、5質量%という高濃度の食塩含有溶液で処理した後にも23gの破断強度を保持していた。
これに対して、M/G比が0.9のアルギン酸ナトリウム(ダックアルギン単独)を用いた比較例1〜3の麺状食品は、塩水処理後の破断強度が20gを大きく下回っていた。
また、実施例11の麺状食品に使用したM/G比が0.5のアルギン酸ナトリウムは常温及び高温の塩水処理後でも20g以上の破断強度を有していたが、比較例2と3の麺状食品に使用したM/G比が0.9のアルギン酸ナトリウムは高温の塩水処理後はいずれも破断強度が20g以下となった。
以上の結果から、M/G比が0.8以下のアルギン酸ナトリウムを用いることにより、麺状食品の高温の食塩含有液に対する耐塩性が格段に改善されることがわかった。
なお、水の代わりに豆乳を使用した麺状豆腐、おからを配合したおから麺においても、同じ傾向の結果が得られた。
さらに、包装工程で塩化カルシウムと塩化ナトリウムを0.1質量%以上含む充填用凝固液を用いた実施例7〜10の麺状食品は、塩化ナトリウムが0.05質量%以下の充填用凝固液を用いた実施例5〜6と塩水処理後の破断強度が同等でありながら、塩水処理前の破断強度が100g以下となって緩和されており、流通時の商品として好ましいものとなっていた。