特許第6262485号(P6262485)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262485
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】差圧用ドア装置
(51)【国際特許分類】
   E06B 5/16 20060101AFI20180104BHJP
   E06B 3/48 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   E06B5/16
   E06B3/48
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-206901(P2013-206901)
(22)【出願日】2013年10月2日
(65)【公開番号】特開2015-71863(P2015-71863A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000239714
【氏名又は名称】文化シヤッター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095212
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 武
(72)【発明者】
【氏名】石倉 則夫
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭48−024679(JP,Y1)
【文献】 特開2013−177803(JP,A)
【文献】 実開昭52−123098(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 5/16
E06B 3/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低圧領域と高圧領域との境界箇所に設置されたドア装置であって、ドア枠の内側に形成された開口部にドアが開閉自在に配置されている差圧用ドア装置において、
前記ドアは、幅方向の一方の側端部に取り付けられた第1ヒンジを中心に前記ドア枠に対して開閉自在となっている第1ドアと、この第1ドアの幅方向の他方の端部に第2ヒンジを中心に回動自在に取り付けられた第2ドアとからなり、これらの第1ドアと第2ドアは前記幅方向に並設されており、前記第2ドアには、前記ドア枠に案内されて前記幅方向へ移動自在となっているガイド手段が設けられているとともに、前記第2ドアはこのガイド手段を中心とする鉛直軸回りに回動自在となっており、
前記第2ドアにおける前記第1ドアとは反対側の側端部には、この第2ドアに設けられた操作部材により前記ドア枠に係脱するラッチ部材が設けられ、このラッチ部材を前記操作部材の操作で前記ドア枠から離脱させることにより、前記第2ドアは、この第2ドアにおける前記ラッチ部材が設けられている前記側端部が前記高圧領域側へ移動する開き回動可能となっており、
前記第1ドアの前記幅方向の寸法と、前記第2ドアにおける前記第2ヒンジから前記ガイド手段までの幅寸法との合計寸法は、前記第2ドアにおける前記ガイド手段から前記ラッチ部材が設けられている前記側端部までの幅寸法と同じ又は略同じになっていることを特徴とする差圧用ドア装置。
【請求項2】
請求項1に記載の差圧用ドア装置において、前記第2ドアにおける前記ラッチ部材が設けられている前記側端部は、前記ドア枠に対し前記高圧領域側へのみ移動可能となっていることを特徴とする差圧用ドア装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の差圧用ドア装置において、前記第2ヒンジについての前記第1及び第2ドアの幅方向における位置は、前記第1ドアの前記幅方向の寸法と、前記第2ドアにおける前記第2ヒンジから前記ガイド手段までの幅寸法との合計の幅寸法の半分又は略半分の位置になっていることを特徴とする差圧用ドア装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の差圧用ドア装置において、前記ガイド手段は、前記第2ドアの上部と下部の二箇所に設けられていることを特徴とする差圧用ドア装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の差圧用ドア装置において、前記第2ドアを前記第1ドアに対し閉じ方向へ常時回動付勢するための回動付勢手段を備えていることを特徴とする差圧用ドア装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の差圧用ドア装置において、前記第1ドアを前記ドア枠に対し閉じ方向へ常時回動付勢するための回動付勢手段を備えていることを特徴とする差圧用ドア装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の差圧用ドア装置において、前記第1ドアと前記第2ドアのうち、少なくとも一方には、前記第1ドアと前記第2ドアとの間の隙間を、これらの第1ドア及び第2ドアの厚さ方向と角度をなす部分を有するものとする遮蔽部が設けられていることを特徴とする差圧用ドア装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物等の構造物内で高圧と低圧の差圧が生じてもドアを開くことができる差圧用ドア装置に係り、例えば、防火区画を形成するための防火扉装置として利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
建物や地下街等の構造物内に防火区画を形成する場合には、2つの空間(第1及び第2空間)を出入り可能に仕切るために防火扉装置が設置される。これらの空間のうち、一方の空間、例えば、第1空間で火災が生じたときにはこの第1空間の煙が排煙装置で排出されるため、第1空間は低圧領域となり、第2空間は高圧領域となる。また、第1空間の煙が第2空間へ流出することを防止するために第2空間に空気供給装置で空気を送り込んだときにも、第1空間は低圧領域となり、第2空間は高圧領域となる。
【0003】
このように低圧領域と高圧領域との境界箇所に設置されるドア装置であって、ドア枠の内側に形成された開口部にドアが開閉自在に配置される差圧用ドア装置となっている防火扉装置について、低圧領域に居た人が扉を高圧領域へ開いてこの高圧領域に脱出しようとしたときに、差圧によってドアを開くことが困難になるため、下記の特許文献1には、このような問題を解決できる技術が示されている。
【0004】
特許文献1に示されている差圧用ドア装置は、ドア枠の内側の開口部に親ドアが配置され、この親ドアは、幅方向の一方の側端部に取り付けられたヒンジを中心にドア枠に対して開閉自在となっているとともに、親ドアには、幅方向の他方の側端部まで達する欠部が高さ方向の途中部に形成されており、この欠部に、子ドアが上下方向を軸方向とする中心軸を中心に回動自在に配置され、中心軸は子ドアの幅方向中央部からずれた位置に設けられている。また、子ドアには、ドア枠に対し係脱する第1ラッチ部材と、親ドアに対し係脱する第2ラッチ部材とが設けられ、子ドアに設けられている操作部材を操作すると、ドア枠と親ドアに係止していたそれぞれのラッチ部材が離脱し、このため、差圧により子ドアが中心軸を中心に回動して高圧領域の空気が低圧領域へ流出し、これにより、低圧領域と高圧領域の圧力差が小さくなり、親ドアを高圧領域側へ開くことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−259407号公報(0020段落〜0026段落、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の差圧用ドア装置によると、幅方向の一方の側端部に取り付けられたヒンジを中心にドア枠に対して開閉自在となっている親ドアに、幅方向の他方の側端部まで達する欠部を高さ方向の途中部に形成し、この欠部に、上下方向を軸方向とする中心軸を中心に子ドアを回動自在に配置しなければならず、また、子ドアに、操作部材の操作によりドア枠に対し係脱する第1ラッチ部材と、親ドアに対し係脱する第2ラッチ部材とを設けなければならず、これによると、装置全体の構造が複雑となり、組立作業に多くの手間がかかることになる。
【0007】
本発明の目的は、装置全体の構造を簡単化することができ、容易に組み立てることができるようになる差圧用ドア装置を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る差圧用ドア装置は、低圧領域と高圧領域との境界箇所に設置されたドア装置であって、ドア枠の内側に形成された開口部にドアが開閉自在に配置されている差圧用ドア装置において、前記ドアは、幅方向の一方の側端部に取り付けられた第1ヒンジを中心に前記ドア枠に対して開閉自在となっている第1ドアと、この第1ドアの幅方向の他方の端部に第2ヒンジを中心に回動自在に取り付けられた第2ドアとからなり、これらの第1ドアと第2ドアは前記幅方向に並設されており、前記第2ドアには、前記ドア枠に案内されて前記幅方向へ移動自在となっているガイド手段が設けられているとともに、前記第2ドアはこのガイド手段を中心とする鉛直軸回りに回動自在となっていることを特徴とするものである。
【0009】
この差圧用ドア装置では、第1ドア及び第2ドアの高圧領域側に向いている面には高圧の圧力による荷重が作用するが、第1ドアに対し第2ヒンジを中心に回動自在に自在となっている第2ドアは、ガイド手段を中心とする鉛直軸回りに回動自在となっているため、第2ドアのうち、ガイド手段から第1ドアとは反対側の側端部までの幅寸法内の部分に作用する高圧領域の圧力による荷重は、第2ドアを、ガイド手段を中心に第2ドアにおける第1ドアとは反対側の側端部を低圧領域側へ移動させようとする回動力となるが、第1ドアに作用する高圧領域側の圧力による荷重と、第2ドアのうち、第2ヒンジからガイド手段までの幅寸法内の部分に作用する高圧領域の圧力による荷重は、第2ドアを、ガイド手段を中心に第2ドアにおける第1ドアとは反対側の側端部を高圧領域側へ移動しようとする回動力となる。このため、第1ドア及び第2ドアの高圧領域側に向いている面に高圧の圧力が作用していても、低圧領域側に居た人が高圧領域側へ移動できるようにするために、第2ドアにおける第1ドアとは反対側の側端部を高圧領域側へ移動させて第2ドアの開き回動を開始させることを容易に行えることになり、これにより、高圧領域と低圧領域を連通させて両領域間の圧力差を小さくでき、その後に第2ドアに大きな開き回動を行わせる操作も容易に行えるようになる。
【0010】
そして、この差圧用ドア装置は、幅方向の一方の側端部に取り付けられた第1ヒンジを中心にドア枠に対して開閉自在となっている第1ドアと、この第1ドアと幅方向に並設され、第1ドアの幅方向の他方の端部に第2ヒンジを中心に回動自在に取り付けられた第2ドアと、第2ドアに設けられ、ドア枠に案内されて幅方向へ移動自在となっているガイド手段とが構成要素となって構成されており、このため、装置全体の構造が簡単化され、また、装置全体を容易に組み立てることができる。
【0011】
以上の本発明に係る差圧用ドア装置において、第2ドアにおける第1ドアとは反対側の側端部に、第2ドアに設けられた操作部材によりドア枠に係脱するラッチ部材を設け、このラッチ部材を操作部材の操作でドア枠から離脱させることにより、第2ドアを、この第2ドアにおけるラッチ部材が設けられている側端部が高圧領域側へ移動する開き回動可能としてもよい。
【0012】
これによると、ラッチ部材をドア枠から離脱させる操作を操作部材によって行うことにより、第2ドアにおけるラッチ部材が設けられている側端部が高圧領域側へ移動する開き回動を第2ドアに行わせることができるようになる。
【0013】
このように本発明に係る差圧用ドア装置を構成する場合には、第2ドアにおけるラッチ部材が設けられている側端部を、ドア枠に対し高圧領域側と低圧領域側のどちらにも移動可能としてもよく、あるいは、ドア枠に対し高圧領域側へのみ移動可能としてもよい。
【0014】
第2ドアにおけるラッチ部材が設けられている側端部を、ドア枠に対し高圧領域側へのみ移動可能とするためには、ドア枠に、このドア枠に対して高圧領域側から閉じ位置に達した第2ドアに当接する戸当り部を設けてもよく、あるいは、第2ドアに、この第2ドアがドア枠に対して高圧領域側から閉じ位置に達したときにドア枠に当接する戸当り部を設けてもよい。
【0015】
また、第1ドアの幅方向の寸法と、第2ドアにおける第2ヒンジからガイド手段までの幅寸法との合計寸法を、第2ドアにおけるガイド手段からラッチ部材が設けられている側端部までの幅寸法と同じ又は略同じにしてもよい。
【0016】
これによると、第1ドアに作用する高圧領域側の圧力による荷重と、第2ドアのうち、第2ヒンジからガイド手段までの幅寸法内の部分に作用する高圧領域の圧力による荷重との合計値と、第2ドアのうち、ガイド手段から第1ドアとは反対側の側端部までの幅寸法内の部分に作用する高圧領域の圧力による荷重とが同じ又は略同じになり、このため、ラッチ部材をドア枠から離脱させる操作を操作部材によって行い、低圧領域側からこの操作部材に殆ど押し力を作用させなくても、第2ドアに、第2ドアにおけるラッチ部材が設けられている側端部を高圧領域側へ移動させる開き回動を行わせることができる。
【0017】
また、第1ドアの幅方向の寸法と、第2ドアにおける第2ヒンジからガイド手段までの幅寸法との合計寸法を、第2ドアにおけるガイド手段からラッチ部材が設けられている側端部までの幅寸法よりも大きくしてもよい。
【0018】
これによると、第1ドアに作用する高圧領域側の圧力による荷重と、第2ドアのうち、第2ヒンジからガイド手段までの幅寸法内の部分に作用する高圧領域の圧力による荷重との合計値は、第2ドアのうち、ガイド手段から第1ドアとは反対側の側端部までの幅寸法内の部分に作用する高圧領域の圧力による荷重よりも大きくなり、このため、ラッチ部材をドア枠から離脱させる操作を操作部材によって行うことにより、自ずと第2ドアに、第2ドアにおけるラッチ部材が設けられている側端部を高圧領域側へ移動させる開き回動を行わせることができるようになる。
【0019】
また、第2ヒンジについての第1及び第2ドアの幅方向における位置は、第1ドアの幅方向の寸法と、第2ドアにおける第2ヒンジからガイド手段までの幅寸法との合計の幅寸法の半分又は略半分の位置にすることが好ましい。
【0020】
これによると、第1及び第2ドアを大きく開き回動させることができて、ドア枠の内側の開口部の開口幅を充分に大きくすることができる。
【0021】
さらに、本発明において、前記ガイド手段は、第2ドアの上部と下部のうち、一方だけに設けてもよいが、第2ドアの上部と下部の二箇所に設けることが好ましい。
【0022】
これによると、第2ドアに作用する高圧領域の圧力を二箇所のガイド手段で受けることができるとともに、ガイド手段を中心とする鉛直軸回りの第2ドアの回動を一層確実に行わせることができる。
【0023】
また、本発明に係る差圧用ドア装置には、第2ドアを第1ドアに対し閉じ方向へ常時回動付勢するための回動付勢手段を設けてもよい。
【0024】
これによると、第2ドアに、第2ドアにおけるラッチ部材が設けられている側端部を高圧領域側へ移動させる開き回動を行わせることにより、低圧領域側に居た人が高圧領域側へ移動した後に、第2ドアを回動付勢手段により第1ドアに対し自動的に閉じ方向へ回動させることができる。
【0025】
なお、上記回動付勢手段は、前記第2ヒンジをオートヒンジとすることにより、この第2ヒンジ自体を回動付勢手段とすることでもよく、あるいは、上記回動付勢手段を第1ドアと第2ドアとの間に架設されたドアクローザとしてもよい。
【0026】
また、本発明に係る差圧用ドア装置には、第1ドアをドア枠に対し閉じ方向へ常時回動付勢するための回動付勢手段を設けてもよい。
【0027】
これによると、第2ドアに、第2ドアにおけるラッチ部材が設けられている側端部を高圧領域側へ移動させる開き回動を行わせることにより、低圧領域側に居た人が高圧領域側へ移動した後に、第1ドアを回動付勢手段によりドア枠に対し自動的に閉じ方向へ回動させることができる。
【0028】
なお、上記回動付勢手段は、前記第1ヒンジをオートヒンジとすることにより、この第1ヒンジ自体を回動付勢手段とすることでもよく、あるいは、上記回動付勢手段を第1ドアとドア枠との間に架設されたドアクローザとしてもよく、あるいは、第1ヒンジをフロアヒンジとすることにより、上記回動付勢手段をこのフロアヒンジとしてもよい。
【0029】
さらに、第1ドアと第2ドアのうち、少なくとも一方には、第1ドアと第2ドアとの間の隙間を、これらの第1ドア及び第2ドアの厚さ方向と、例えば、90度や90度以外の角度をなす部分を有するものとする遮蔽部を設けてもよい。
【0030】
これによると、火災の発生時において、煙が第1ドアと第2ドアとの間の隙間を通って低圧領域側から高圧領域側へ流出することを遮蔽部により抑制することができる。
【0031】
以上説明した本発明に係る差圧用ドア装置において、高圧領域と低圧領域の圧力差は、火災で生じた煙が排煙装置で排出されたり、前述の空気供給装置で空気が供給されたりすることによって生ずる気圧差でもよく、あるいは、大雨により侵入した水又は火災を鎮火するために放水された水による水圧差でもよく、あるいは、これらの気圧差と水圧差の合計によるものでもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によると、差圧用ドア装置の装置全体の構造を簡単化することができ、また、差圧用ドア装置を容易に組み立てることができるという効果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る差圧用ドア装置の全体を示す正面図である。
図2図2は、図1の差圧用ドア装置を、ドア枠の上枠と下枠とを断面図として示した一部省略の側面図である。
図3図3は、図1の差圧用ドア装置を、壁とドア枠の左右の側枠とを断面図として示した平面図である。
図4図4は、第2ドアが開き回動を開始したときを示す図3と同様の図である。
図5図5は、第2ドアの開き回動が進行した後を示す図3と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。図1には、本発明の一実施形態に係るドア装置1の全体正面図が示されている。本実施形態のドア枠2は、上枠3と、下枠4と、左右の側枠5,6からなる四方枠となっている。本発明は、ドア枠が、下枠4が省略された三方枠となっている場合にも適用できる。
【0035】
ドア枠2の内側は人等が出入りする開口部7であり、この開口部7には、それぞれ防火性、耐火性を有している第1ドア11と第2ドア12が、左右方向である幅方向に並設されて配置されており、これらの第1ドア11と第2ドア12は、開口部7の上下寸法と対応する高さ寸法を有する。第1ドア11は、図1において、この第1ドア11の左右の側端部のうち、右の側端部に取り付けられた第1ヒンジ13によってドア枠2の側枠5に連結され、このため、第1ドア11は、第1ヒンジ13を中心にドア枠2に対して開閉自在となっている。また、第2ドア12は、第1ドア11の左右の側端部のうち、左の側端部に取り付けられた第2ヒンジ14によって第1ドア11に連結され、このため、第2ドア12は、第2ヒンジ14を中心に第1ドア11に対して開閉自在、言い換えると、回動自在となっている。
【0036】
第1ドア11と第2ドア12の合計幅寸法は、開口部7の幅寸法と対応するものになっているが、第1ドア11の幅寸法と第2ドア12の幅寸法は、同じになっておらず、第2ドア12の幅寸法は、第1ドア11の幅寸法よりも大きい。
【0037】
第2ドア12には、この第2ドア12を開閉操作する際に用いられる操作部材となっているドアノブ15と、このドアノブ15の回動操作が運動変換機構16により直線移動に変換されるラッチ部材17とが設けられており、このラッチ部材17は、第2ドア12における第1ドア11とは反対側の側端部12Aに設けられている。ドア枠2の側枠6には、ラッチ部材17が挿入、係合されて、このラッチ部材17を受けるためのラッチ受け部材18が設けられており、通常時は側枠6側へ前進しているラッチ部材17がラッチ受け部材18で受けられることにより、ラッチ部材17はドア枠2に係止され、ドアノブ15の回動操作でラッチ部材17が第2ドア12側へ後退してラッチ受け部材18から抜け出ることにより、ラッチ部材17はドア枠2から離脱する。
【0038】
なお、第2ドア12には、この第2ドア12が第2ヒンジ14を中心に第1ドア11や側枠6に対して回動することを阻止するための施錠装置を設けてもよく、ラッチ部材17は、この施錠装置を構成する部材としてもよい。
【0039】
図2は、ドア装置1について、ドア枠2の上枠3と下枠4とを断面図として示した一部省略の側面図である。この図2に示されているように、上枠3と下枠4は、内部に空間部3A,4Aが設けられたリップ付きチャンネル形状又はリップ付き略チャンネル形状の部材である。図1に示されているように、第2ドア12の上部には、この第2ドア12の幅方向両側の側端部の間において、ガイド手段30が設けられており、このガイド手段30は、図2に示されているように、上下方向を軸方向とする中心軸31と、この中心軸31に取り付けられ、第2ドア12の厚さ方向が軸方向となっている支持軸32と、この支持軸32の両端に、上下方向を回転方向にして回転自在に支持されたローラ33とを有するものである。また、図1に示されているように、第2ドア12の下部には、この第2ドア12の幅方向両側の側端部の間であって、ガイド手段30の配置位置と対応する位置において、ガイド手段40が設けられており、このガイド手段40は、図2に示されているように、上下方向を軸方向とする中心軸41と、この中心軸31に、水平方向を回転方向にして回転自在に取り付けられたローラ43とを有するものである。
【0040】
これらのガイド手段30,40のローラ33,43は上枠3、下枠4の空間部3A,4Aに収納され、このため、第2ドア12の重量はローラ33を介して上枠3によって支持されており、また、空間部3A,4Aは上枠3、下枠4の全長に渡って連続しているため、ガイド手段30,40は、上枠3、下枠4に案内されてドア枠2に対し幅方向(図1の左右方向)に移動自在となっており、これにより、第2ドア12もドア枠2に対し幅方向に移動自在となっている。また、それぞれの中心軸31,42は第2ドア12に対して回動自在となっているため、第2ドア12は、2個のガイド手段30,40の中心軸31,41を中心とする鉛直軸回りに回動自在である。
【0041】
図3は、図1のドア装置1を、このドア装置1が配置されている壁19と、ドア枠2の左右の側枠5,6とを断面図として示した一部省略の平面図である。ドア装置1は、コンクリート等で形成されている壁19と共に建物内の防火区画を形成しており、ドア装置1と壁19とで区画されている2つの空間A,Bのうち、空間Aは、例えば、建物内の通路(後述の高圧領域)であり、空間Bは、この建物内の部屋(後述の低圧領域)である。第2ドア12のドアノブ15は、2つの空間A,Bに向いている第2ドア12の両方の面に設けられている。
【0042】
図3に示されているように、ドア枠2の側枠6には、第2ドア12におけるラッチ部材17が設けられている側端部12Aが空間A側から閉じ移動したときに第2ドア12に当接することにより、側端部12Aが空間B側へ移動することを阻止するための戸当り部20が設けられ、このため、側端部12Aは、ドア枠2に対して空間A側へのみ移動できるようになっている。また、第2ヒンジ14は、ヒンジ本体の内部にばね等の弾性部材が内蔵されたオートヒンジであり、このため、第2ヒンジ14は、第2ドア12に第1ドア11に対して常時閉じ方向への回動力を付与するための回動付勢手段となっている。
【0043】
さらに、図3に示されているように、ドア枠2の側枠5には、第1ドア11が第1ヒンジ13を中心に空間B側から閉じ回動したときに第1ドア11に当接することにより、第1ドア11が第1ヒンジ13を中心に空間A側へ回動することを阻止するための戸当り部21が設けられ、このため、第1ドア11は、第1ヒンジ13を中心にドア枠2に対して空間B側へのみ開き回動を行うようになっている。
【0044】
また、第1ヒンジ13も、ヒンジ本体の内部にばね等の弾性部材が内蔵されたオートヒンジであり、このため、第1ヒンジ13は、第1ドア11にドア枠2に対し常時閉じ方向への回動付勢力を付与するための回動付勢手段となっている。
【0045】
なお、戸当り部20,21は、ドア枠2を構成する側枠5,6に取り付けた戸当り部材によるものでもよく、また、このような戸当り部は、ドア枠2を構成する上枠3に設けてもよく、さらに、ドア枠2を構成する部材ではなく、第1ドア11、第2ドア12に設けてもよい。
【0046】
また、本実施形態では、図3に示されているように、第2ヒンジ14を介して互いに幅方向に対面している第1ドア11と第2ドア12の幅方向の端部には、これらの第1ドア11と第2ドア12との間の隙間Sを、第1ドア11及び第2ドア12の厚さ方向と角度をなす部分S1を有するものとする遮蔽部11B,12Bが、第1ドア11と第2ドア12の一部として設けられている。本実施形態における隙間Sの部分S1は、第1ドア11及び第2ドア12の厚さ方向と90度の角度をなすものであり、第1ドア11の遮蔽部11Bは、2つの空間A,Bのうち、空間B側において、第2ドア12側へ突出する突出部となっており、第2ドア12の遮蔽部12Bは、2つの空間A,Bのうち、空間A側において、第1ドア11側へ突出する突出部となっており、これらの遮蔽部11B,12Bは、第1ドア11及び第2ドア12の厚さ方向に隙間Sの部分S1をあけて対面している。
【0047】
なお、このような遮蔽部11B,12Bは、第1ドア11及び第2ドア12に取り付けた部材により第1ドア11及び第2ドア12に設けてもよい。
【0048】
図3において、空間Bにおいて火災が発生すると、この空間Bから図示外の排煙装置によって煙が排出されるため、空間Bの気圧は空間Aの気圧よりも低下し、このため、空間Bは低圧領域となって、空間Aは高圧領域となる。このため、本実施形態に係るドア装置1は、これらの低圧領域と高圧領域との境界箇所に設置された防火性、耐火性を有する差圧用ドア装置となる。このため、第1ドア11及び第2ドア12の空間Aに向いている面には、高圧の圧力が作用する。
【0049】
また、前述したように、第2ドア12は、第1ドア11に対し第2ヒンジ14を中心に回動自在となっているとともに、ガイド手段30,40を中心とする鉛直軸回りに回動自在となっている。図1において、第1ドア11の幅方向の寸法と、第2ドア12における第2ヒンジ14からガイド手段30,40までの幅寸法との合計の幅寸法は、W1であり、第2ドア12におけるガイド手段30,40からラッチ部材17が設けられている側端部12Aまでの幅寸法は、W2である。
【0050】
空間Bにおいて火災が発生して、上述のようにこの空間Bが低圧領域となり、空間Aが高圧領域となったときには、幅寸法W2の部分に作用する高圧の圧力による荷重は、ガイド手段30,40を中心に第2ドア12の側端部12Aを空間B側へ移動させようとする第2ドア12の回動力となるが、幅寸法W1の部分に作用する高圧の圧力による荷重は、ガイド手段30,40を中心に第2ドア12の側端部12Aを空間A側へ移動しようとする第2ドア12の回動力となる。そして、空間Bに居た人が空間Aへ脱出するためには、この人は、第2ドア12に設けられているドアノブ15を回動操作し、第2ドア12に設けられているラッチ部材17を後退させ、このラッチ部材17をドア枠2から離脱させることを行う。
【0051】
この後に、前記人が空間Bから空間Aに脱出するためには、この人は第2ドア12の側端部12Aを空間A側へ移動させる操作を行わなければならないが、この操作は、本実施形態によると、幅寸法W1の部分に作用している上述の圧力による荷重と、幅寸法W2の部分に作用している上述の圧力による荷重との差に応じた押し力をドアノブ15に作用することによって行え、この押し力は、上述の2つの圧力による荷重の合計ではなくて、これらの圧力による荷重の差に応じた小さいのものでよいため、上述の操作を容易に行える。
【0052】
図4は、空間Bに居た人がドアノブ15に押し力を作用させることにより、第2ドア12が、この第2ドア12の側端部12Aが空間A側へ移動する開き回動を開始したときを示しており、この開き回動は、ガイド手段30,40を中心とする鉛直軸回りに第2ドア12が回動することと、ガイド手段30,40がドア枠2の上枠3、下枠4に案内されて側枠5側へ移動することと、第2ドア12が第2ヒンジ14を中心に第1ドア11に対し開き回動することと、第1ドア11が第1ヒンジ13を中心に空間B側へ開き回動することとにより、行われている。
【0053】
このように第2ドア12の側端部12Aが空間A側へ移動すると、空間Aと空間Bが連通して空間Aの空気が空間Bに流出するため、2つの空間A,Bの気圧の圧力差は小さくなり、このため、この後も、前記人がドアノブ15に小さな押し力を作用するだけにより、図5に示されているように、第2ドア12の側端部12Aを空間A側へ大きく移動させることができ、これにより、第1ドア11及び第2ドア12は大きく開き回動して、前記人は空間Bから空間Aに脱出することができる。
【0054】
以上のように前記人が空間Bから空間Aに脱出して第2ドア12に空間A側へ作用する人為的操作力がなくなると、第1ドア11と第2ドア12を連結している第2ヒンジ14は、前述した回動付勢手段となっているオートヒンジであるため、第2ドア12は第1ドア11に対して自動的に閉じ回動し、また、第1ドア11とドア枠2を連結している第1ヒンジ13も、前述した回動付勢手段となっているオートヒンジであるため、第1ドア11はドア枠2に対して自動的に閉じ回動し、これにより、第2ドア12は、ラッチ部材17が設けられている側端部12Aがドア枠2の側枠6に設けられている戸当り部20に当接する全閉状態となるとともに、第1ドア11も、第1ヒンジ13が取り付けられている側端部がドア枠2の側枠5に設けられている戸当り部21に当接する全閉状態となり、2つのドア11,12は、ドア枠2の内側の開口部7を閉じていたもとの状態に復帰する。
【0055】
この復帰は、ガイド手段30,40を中心として鉛直軸回りに第2ドア12が前述とは反対側へ回動することと、ガイド手段30,40がドア枠2の上枠3、下枠4に案内されて側枠6側へ移動することと、第2ドア12が第2ヒンジ14を中心に第1ドア11に対し閉じ回動することと、第1ドア11が第1ヒンジ13を中心に空間A側へ閉じ回動することとにより、行われる。
【0056】
このため、空間Bに居た上述の人が空間Aに脱出した後は、2つの空間A,Bは第1ドア11と第2ドア12により遮断されることになり、これにより、空間Bの煙が空間Aへ流出することを有効に防止できる。
【0057】
以上説明した本実施形態によると、ドア枠2の内側に形成されている開口部7に配置されているドアは、第1ドア11と第2ドア12であり、第1ドア11は、この第1ドア11の幅方向の一方の側端部に取り付けられる第1ヒンジ13を中心にドア枠2に対して開閉自在に取り付ければよく、第2ドア12は、第1ドア11の幅方向の他方の側端部に取り付けられる第2ヒンジ14を中心に第1ドア11に対して開閉自在に取り付ければよいため、装置全体の構造を簡単化することができ、また、容易に組み立てることもできる。
【0058】
また、第2ドア12に設けられたドアノブ15と、このドアノブ15でドア枠2に対して係脱するラッチ部材17は、一般のドア装置に設けられているものと同じでよいため、この点でも、装置全体の構造を簡単化と、組み立ての容易化を図ることができる。
【0059】
さらに、第1ドア11と第2ドア12は、開口部7の上下寸法と対応する高さ寸法を有するものとなっていて、これらのドア11,12の高さ寸法は同じであるため、この点でも、装置全体の構造が簡単化され、組み立ての容易化を実現できる。
【0060】
また、第1ドア11と第2ドア12には、これらのドア11,12の間の隙間Sを、これらのドア11,12の厚さ方向と角度をなす部分S1を有するものとする遮蔽部11B,12Bが設けられているため、空間Bでの火災による煙が隙間Sを通って空間Aへ流出することを抑制できる。
【0061】
なお、本実施形態における第1ドア11と第2ドア12の遮蔽部11B,12Bは、これらのドア11,12が図4及び図5に示されているように開き回動する際に互いに干渉することはなく、ドア11,12を所定どおり開き回動させることができる。
【0062】
第1ドア11と第2ドア12に設ける遮蔽部は、図示の遮蔽部11B,12Bに限定されず、遮蔽部を、例えば、ゴム等の弾性部材で形成されたものとし、これにより、ドア枠2の内側の開口部7が第1ドア11と第2ドア12で閉じられたときに、遮蔽部同士が互いに弾性的に密着するものでもよい。
【0063】
さらに、本実施形態では、ドア枠2に案内されて幅方向に移動自在に第2ドア12に設けられているガイド手段30,40は、第2ドア12の上部と下部の二箇所に設けられているため、第2ドア12に作用する空間Aの高圧の圧力をこれらのガイド手段30,40で有効に受けることができるとともに、ガイド手段30,40を中心とする鉛直軸回りの第2ドア12の回動を一層確実に行わせることができる。
【0064】
なお、上部のガイド手段30についても、下部のガイド手段40のローラ43と同様に、水平方向を回転方向とするローラを設けることにより、両方のガイド手段30,40に設けられた水平方向を回転方向とするローラを介して、第2ドア12に作用する空間Aの高圧の圧力をドア枠2の上枠3と下枠4で受けながら、これらのローラにより、ガイド手段30,40を、上枠3と下枠の長さ方向であって図1の左右方向でもある前述に幅方向に移動させることができる。
【0065】
また、図1で示した幅寸法W1を幅寸法W2と同じ又は略同じにしてもよく、すなわち、第1ドア11の幅方向の寸法と、第2ドア12における第2ヒンジ14からガイド手段30,40までの幅寸法との合計の幅寸法W1を、第2ドア12におけるガイド手段30,40からラッチ部材17が設けられている側端部12Aまでの幅寸法W2と同じ又は略同じにしてもよい。これによると、幅寸法W1の部分に作用する圧力による荷重と、幅寸法W2の部分に作用する圧力による荷重とが、同じ又は略同じ大きさになるため、ドアノブ15の操作によりラッチ部材17をドア枠2の側枠6のラッチ受け部材18から離脱させた後に、このドアノブ15に殆ど押し力を作用させなくても、第2ドア12に、この第2ドア12の側端部12Aが空間A側へ移動する開き回動を行わせることができる。
【0066】
さらに、図1で示した幅寸法W1を幅寸法W2よりも大きくしてもよい。これによると、幅寸法W1の部分に作用する圧力による荷重は、幅寸法W2の部分に作用する圧力による荷重よりも大きくなるため、ドアノブ15の操作によりラッチ部材17をドア枠2の側枠6のラッチ受け部材18から離脱させると同時に、自ずと第2ドア12に、この第2ドア12の側端部12Aが空間A側へ移動する開き回動を行わせることができる。
【0067】
また、第1ドア11と第2ドア12とを連結している第2ヒンジ14についての第1及び第2ドア11,12の幅方向における位置を、第1ドア11の幅方向の寸法と、第2ドア12における第2ヒンジ14からガイド手段30,40までの幅寸法との合計の幅寸法W1の半分又は略半分の位置にすることが好ましい。
【0068】
これによると、第1及び第2ドア11,12を、これらのドア11,12が図4及び図5で示されている下枠4に対して直角又は略直角になるまで開き回動させることができるようになり、このように第1及び第2ドア11,12が下枠4に対して直角又は略直角になるまで開き回動したときには、これらのドア11,12は側枠5に近づくため、ドア枠2の内側の開口部7の開口幅は大きくなり、これにより、空間B側から空間A側へ多数の人が同時に移動できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、圧力差が生ずる箇所に設置されるドア装置として利用でき、例えば、防火区画を形成するための防火扉装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 差圧用ドア装置
2 ドア枠
7 ドア枠の内側の開口部
11 第1ドア
11B 遮蔽部
12 第2ドア
12A 第2ドアにおける第1ドアとは反対側の側端部であって、ラッチ部材が設けられている側端部
12B 遮蔽部
13 回動付勢手段のオートヒンジとなっている第1ヒンジ
14 回動付勢手段のオートヒンジとなっている第2ヒンジ
15 操作部材であるドアノブ
17 ラッチ部材
18 ラッチ受け部材
30,40 ガイド手段
A 高圧領域の空間
B 低圧領域の空間
S 隙間
図1
図2
図3
図4
図5