(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本願発明の実施形態の説明]
図1に示す、この発明の実施形態に係る限流器10は、一次コイル11と、二次コイル12とを備える。二次コイル12は、一次コイル11の中心軸を囲むとともに一次コイル11と重なるように配置され、両端部が短絡されている。一次コイル11は第1の超電導線材により構成されている。二次コイル12は、第2の超電導線材により構成されている。第2の超電導線材における非超電導時の電気抵抗値は、第1の超電導線材における非超電導時での電気抵抗値より高い。
【0011】
このようにすれば、二次コイル12において一次コイル11と同じ特性の超電導線材を用いる場合より、限流動作時での二次コイル12における発熱を低減できるため、結果的に定常状態(超電導状態)への復帰時間を短縮することが可能な限流器10を実現できる。
【0012】
上記限流器10において、第1の超電導線材はビスマス系の超電導導体を含んでいてもよく、第2の超電導線材はイットリウム系の超電導導体を含んでいてもよい。ここで、ビスマス系の超電導導体とは、Bi(ビスマス)−Sr(ストロンチウム)−Ca(カルシウム)−Cu(銅)−O(酸素)で構成される酸化物超電導体であり、たとえば(Bi,Pb)
2Sr
2Ca
2Cu
3O
Xという化学式で表わされる酸化物超電導体をいう。また、イットリウム系の超電導導体とは、YBa
2Cu
3O
xという化学式で表わされる酸化物超電導体を言う。なお、第2の超電導線材としては、HoBCO(ホルミウム系超電導材料;HoBa
2Cu
3O
X)、GdBCO(ガドリニウム系超電導材料:GdBa
2Cu
3O
X)などのレア・アース系酸化物超電導材料を用いてもよい。このようにすれば、入手が可能な超電導導体を用いて本実施形態に係る限流器10を構成することができる。この構成の場合、イットリウム系超電導体の常電導転移における抵抗値の時間変化がビスマス系超電導体の常電導転移における抵抗値の時間変化よりも速いためR
2が急激に大きくなり、限流速度も速くなる。
【0013】
上記限流器10は、
図4に示すように、第1の支持部材13aと第2の支持部材13bとを備えていてもよい。第1の支持部材13aは、中心軸15に沿った方向に延びるように構成されていてもよい。第2の支持部材13bは、中心軸15から見て第1の支持部材13aの外周を囲むように配置され、筒状の形状を有していてもよい。第1の超電導線材は、第1および第2の支持部材13a、13bの外周上にそれぞれ巻回されることで一次コイル11a、11bを構成してもよい。第2の超電導線材は、第1および第2の支持部材13a、13bの外周上であって第1の超電導線材と重なるようにそれぞれ巻回されることで二次コイル12a、12bを構成してもよい。第1の支持部材13aの外周上における第1および第2の超電導線材の巻回方向は、第2の支持部材13bの外周上における第1および第2の超電導線材の巻回方向と逆であってもよい。
【0014】
この場合、第1の支持部材13aの外周上に位置する超電導線材に電流が流れることにより発生する磁束の向きと、第2の支持部材13bの外周上に位置する超電導線材に電流が流れることにより発生する磁束の向きとは逆方向となる。そのため、第1の支持部材13aの内周側では、これらの逆方向の磁束が互いに打ち消しあう。この結果、第1の支持部材13aの内周側に、さらに別の限流器を配置するといったことが可能になる。たとえば、3相の電流成分のそれぞれに対して第1〜第3の限流器を適用する場合、これらの限流器をそれぞれ上記のような構成とすることで、第1の限流器の内周側に第2の限流器を配置し、第2の限流器の内周側にさらに第3の限流器を配置する、といった構成を実現できる。このため、限流器をコンパクト化することができる。
【0015】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態の詳細を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態である限流器10を示す模式図である。
図1を参照して、本発明による限流器10を説明する。
【0017】
図1を参照して、本発明の実施形態である限流器10は、電源1や負荷2などを含む系統側の回路に接続された一次コイル11と、一次コイル11と同軸に配置された二次コイル12とを備える。二次コイル12の両端部は短絡されている。一次コイル11および二次コイル12は共に超電導線材を巻回することにより構成されている。但し、二次コイル12を構成する超電導線材の非超電導時における電気抵抗値は、一次コイル11を構成する超電導線材における非超電導時での電気抵抗値より高くなっている。この結果、二次コイル12において、限流器10が動作したときに流れる電流値は、一次コイル11を構成する超電導線材と同じ線材を用いて二次コイル12を形成した場合と比べて小さくなるため、ジュール熱の発生量を相対的に少なくすることができる。この結果、一次コイル11を構成する超電導線材と同じ超電導線材を二次コイル12に用いた場合に比べて、限流動作からの復帰をより迅速に行なうことができる。
【0018】
一次コイル11を構成する超電導線材としては、たとえばビスマス系の超電導導体を用いることができる。また、二次コイル12を構成する超電導線材としては、イットリウム系の超電導導体を含む線材を用いることができる。
【0019】
図2には、限流器10(
図1参照)における一次コイル11と二次コイル12とを配置する場合の構成例を示す。
図2を参照して、限流器10においては、筒状の支持部材13の外周表面上に一次コイル11と二次コイル12とが配置されている。具体的には、筒状の支持部材13の外周表面上に一次コイル11が配置されている。異なる観点から言えば、支持部材13の中心軸と一次コイル11の中心軸はともに
図2の中心軸15となっている。また、支持部材13の外周表面上を中心軸15を中心として周回するように超電導線材が巻回されることにより一次コイル11が構成されている。一次コイル11には外部系統と接続するための端子14が接続されている。2つの端子14は、それぞれ一次コイル11の一方端部または他方端部に接続されている。
【0020】
そして、一次コイル11の外周上に超電導線材を巻回することにより二次コイル12が配置されている。二次コイル12を構成する超電導線材の両端部は図示しないが短絡されている。このような構成により、
図1に示した限流器10を実現できる。
【0021】
ここで、一次コイル11を構成する超電導線材としては、ビスマス系の超電導線材を用いることができる。たとえば、一次コイル11を構成する超電導線材として、たとえば住友電気工業株式会社製のDI−BSCCO(登録商標) Type Hといった超電導線材を用いることができる。このようなビスマス系の超電導線材としては、銀または銀ベース合金のシース材料中にビスマス系の超電導体からなるフィラメントが複数本配置されたテープ状の超電導線材を用いることができる。
【0022】
また、二次コイル12を構成する超電導線材としては、たとえばイットリウム系の超電導線材を用いることができる。このようなイットリウム系の超電導線材としては、たとえば
図3に示すように配向性基板31と、当該配向性基板31の上に形成された中間層32と、この中間層32上に形成された超電導層33と、この超電導層33上に配置された安定化層34と、これらの配向性基板31、中間層32、超電導層33および安定化層34の外周を囲むように配置された絶縁膜35とからなる超電導線材を用いることができる。
【0023】
配向性基板31としては、たとえば配向性を有する金属基板や、無配向性の金属基板表面に配向性を示す表面を有する配向層を形成したものなど任意の構造の基板を用いることができる。中間層32としては、たとえばAl
2O
3などの酸化物を単層あるいは複数層形成してもよい。また、超電導層33としては、YBa
2Cu
3O
7-xといった超電導層を用いてもよい。
【0024】
安定化層34としては、たとえば銀や銅などの金属層を形成してもよい。この安定化層34は、
図3に示すように超電導層33の上部表面上にのみ形成してもよいが、超電導層33、中間層32および配向性基板31の外周を覆うように安定化層34を形成してもよい。そして、絶縁膜35としては、ポリイミドなどの任意の樹脂を用いることができる。
【0025】
上述した限流器10の変形例として、
図4に示すように支持部材として第1の支持部材13aと第2の支持部材13bとを用いてもよい。具体的には、中心軸15に沿って延びる筒状の第1の支持部材13aを準備する。この第1の支持部材13aの外周側に配置するための、第1の支持部材13aの外径よりも大きな内径を有する筒状の第2の支持部材13bを準備する。そして、一次コイルを構成する超電導線材を第1の支持部材13aの外周上に巻回することにより内周側の一次コイル11aを形成する。また、第2の支持部材の外周上に一次コイルを構成する超電導線材を巻回することにより、外周側の一次コイル11bを形成する。内周側の一次コイル11aと外周側の一次コイル11bとは電気的に接続されている。この内周側の一次コイル11aおよび外周側の一次コイル11bのそれぞれには端子14が接続されている。
【0026】
そして、内周側の一次コイル11aの外周上には、二次コイルを構成する超電導線材を巻回することにより内周側の二次コイル12aが形成されている。同様に、外周側の一次コイル11b上には、超電導線材を巻回することにより外周側の二次コイル12bが形成されている。内周側の二次コイル12aと外周側の二次コイル12bとは閉回路を構成するように両端部同士が短絡されている。
【0027】
このような構造の限流器によっても、
図1および
図2に示した限流器と同様の効果を得ることができる。さらに、第1の支持部材13aの外周上における超電導線材の巻回方向と、第2の支持部材13bの外周表面上におよび超電導線材の巻回方向とは逆方向になっている。このため、
図5に示すように、第1の支持部材13aの外周表面上におけるコイルを流れる電流の向きと、第2の支持部材13bの外周表面上におけるコイルを流れる電流の向きとは逆方向になっている。したがって、第1の支持部材13aの内周側の領域23においては、第1の支持部材13aの外周上におけるコイルを流れる電流によって発生する磁束の向き(矢印21により示される方向)と第2の支持部材13bの外周上におけるコイルを流れる電流によって発生する磁束の向き(矢印22により示される方向)とが逆方向になる。このため、領域23ではこれらの磁束が互いに打ち消される。従って、たとえば三相交流などの電流のそれぞれの相に対応した限流器を同軸構造とするといった構成が可能になる。
【0028】
(実験例1)
本発明の実施形態である限流器の効果を検討するため、二次側コイルを構成する超電導線材が異なる小型ソレノイド構造の変圧器磁気遮蔽型限流器を2種類作製し基礎特性を検討した。
【0029】
<試料>
図6および
図7に示すように、樹脂製の支持部材13の外周に一次コイル11と二次コイル12とを配置した小型ソレノイド構造の変圧器磁気遮蔽型限流器を2種類(本発明の実施例と比較例)作製した。
図6の右側が比較例の限流器であり、左側が実施例の限流器である。
図7に示すように、これらの限流器において支持部材13の断面形状における中心軸から外周表面までの距離(半径)は55mmであった。2つの限流器において、一次コイル11を構成する超電導線材としては、ビスマス系の超電導線材(住友電気工業株式会社製 DI−BSCCO(登録商標)Type Hti−CA)を用いた。このビスマス系の超電導線材の温度77Kにおける1μV/cm基準の平均臨界電流Icは140Aであった。実施例としての限流器においては、二次コイルを構成する超電導線材としてイットリウム系の超電導線材を用いた。このイットリウム系の超電導線材の温度77Kにおける1μV/cm基準の平均臨界電流Icは160Aであった。一方、比較例としての限流器について、二次コイルを構成する超電導線材は、一次コイル11を構成する超電導線材と同様にビスマス系の超電導線材を用いた。以下、表1にビスマス系の超電導線材のデータを、表2にイットリウム系の超電導線材のデータを示す。
【0032】
なお、表1のCAとは銅合金を意味する。CAはビスマス系の超電導線材の両面に半田で取り付け、線材強度を強くする機能を有する。また、表2のSUS316L layerはイットリウム系の超電導線材の母材であり、その上に形成する配向層の強度を維持する機能を有する。また、Copper layerは、SUS316L layer上の配向形成層であり、Nickel layerは、配向を維持しながらCopper layerの酸化を防止する。Silver layerは超電導層の保護層であり、Copper layerは過電流通電時の電流をバイパスさせるための安定化層である。
【0033】
支持部材13の中心軸15に沿った方向の長さは400mmとし、一次コイル11および二次コイル12の中心軸15に沿った方向の長さを300mmとした。また、これらの限流器の比較例(限流器1)および実施例(限流器2)のデータを表3に示す。
【0035】
<実験内容>
実験では、ボルトスライダー(60Hz)、電磁スイッチ、上述した限流器(FCL)、負荷リアクトルからなる回路において、電磁スイッチを閉じることで故障電流を流した。スライダックの電圧を徐々に増加させて故障電流を増大させつつ、FCL端子端電圧、FCLに流れる電流を計測した。
【0036】
そして、各実験についてFourier解析により基本波を計算すれば、概ねの限流インピーダンスを求めることができる。Fourier解析する範囲は電磁スイッチを閉じて3サイクル目としたが、若干温度上昇の影響があると考えられる。また、このとき二次コイルの抵抗およびジュール熱についても評価した。
【0037】
<結果>
図8に、実施例および比較例の限流器におけるインピーダンス特性(限流インピーダンス特性)を示す。
図8のグラフの横軸は電流値を示し、縦軸はインピーダンスを示す。
図8の白丸が実施例の限流器のリアクタンスを示し、白抜き三角が実施例の限流器のレジスタンスを示す。また、
図8の黒丸が比較例の限流器のリアクタンスを示し、黒三角が比較例の限流器のレジスタンスを示す。
図8からもわかるように本発明の実施例の限流器の方が大きなリアクタンス成分が得られることがわかる。
【0038】
次に、実施例および比較例のそれぞれの限流器における二次コイルの抵抗およびジュール熱についての測定結果を
図9および
図10に示す。
図9および
図10において横軸は電流値を示し、
図9の縦軸は抵抗値を、
図10の縦軸はジュール熱を示す。
図9および
図10のそれぞれでは、白丸が実施例の限流器のデータを示し、黒丸が比較例の限流器のデータを示す。
図9および
図10からわかるように、二次コイルにおける抵抗値は本発明の実施例における限流器(すなわちイットリウム系の超電導線材を用いた二次コイル)の方が大きくなっている。すなわち、本発明の実施例における限流器の方が、リアクタンス成分が発生しやすい一方、
図10に示すようにジュール熱の発生は比較例に比べて抑制されている。したがって、同じ限流動作を行なった後の復帰動作において、本発明の実施例による限流器の方がより迅速に復帰できると考えられる。
【0039】
(実験例2)
図3に示した限流器と同様の構造を有する変圧器磁気遮蔽型限流器を作製し、そのインピーダンス特性を測定した。
【0040】
<試料>
図11および
図12に示すような構造の限流器を作製した。この限流器において、一次コイルは実施例1における実施例の限流器と同様にビスマス系の超電導線材を用い、二次コイルについてはイットリウム系の超電導線材を用いた。中心軸から、内周側に位置する第1の支持部材13aの外周表面までの半径は
図12に示すように141.5mmであり、第2の支持部材13bの外周表面までの半径は155mmとした。第1の支持部材13aおよび第2の支持部材13bの中心軸15に沿った方向における長さは400mmである。また、これらの第1および第2の支持部材13a、13b上に配置されている一次コイル11a、11bおよび二次コイル12a、12bの中心軸15に沿った方向での長さは300mmである。第1の支持部材13aの外周表面上における超電導線材の巻回方向と、第2の支持部材13bの外周表面上における超電導線材の巻回方向とは互いに逆向きになっている。
【0041】
作製した限流器のデータを表4に示す。
【0043】
<実験内容>
上述した限流器について、実験例1と同様にインピーダンス測定を行なった。
【0044】
<結果>
図13に示すように、限流器のインピーダンス特性が得られた。
図13の横軸は電流値を示し、縦軸はインピーダンスを示している。
図13から分かるように、電流値が200A程度まではリアクタンス成分による限流が支配的であるが、それより大きな故障電流に対しては抵抗(レジスタンス)成分による限流が支配的になっている。
【0045】
(実験例3)
上述した実験例2において用いた限流器について、限流動作実験を行ないその特性を確認した。
【0046】
<実験内容>
図14に示す一機無限大母線二回線送電模擬電力系統において、実験例2において作製した限流器を適用し限流動作実験を行なった。具体的には、事故相(A相)にのみ上述した限流器を設置し、健全相(B相、C相)には、限流器の漏れリアクタンスと同等のリアクトルを設置した。発電機は出力が6kW程度となるように設定した。また、この実験では限流器を発電機の隣に設置し、遮断器動作中も電流が流れ続ける状態で復帰するようにした。
【0047】
実験の結果を
図15に示す。
図15のグラフが事故相であるA相のデータを示す。左側のグラフが限流器に流れる電流の時間変化を示しており、右側のグラフは発電機の電圧の時間変化を示す。グラフの横軸は時間を示し、左側のグラフの縦軸は限流器に流れる電流値を示す。また、右側のグラフの縦軸は発電機の電圧を示す。
図15の左側のグラフからわかるように、事故相であるA相の事故後第1波に着目すると、限流器がない場合には電流値が507Aであったが、限流器を設置することにより第1波の電流値を292Aまで限流できていることがわかる。一方、中段および下段に示された健全相の電流は若干平常時よりも大きな電流が流れるが発電機電圧の大きさは殆ど変化していなかった。
【0048】
今回開示された実施の形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実験例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。