特許第6262561号(P6262561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262561
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体基板の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
   C30B29/38 D
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-29763(P2014-29763)
(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公開番号】特開2015-151331(P2015-151331A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】住田 行常
(72)【発明者】
【氏名】錦織 豊
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−155108(JP,A)
【文献】 特開2012−193069(JP,A)
【文献】 特開2002−367909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象の基板に、前記基板の第1の面から前記基板の厚さ方向に伸び、前記基板に形成された転位と繋がり、かつ、前記第1の面における開口の直径Diが100nm≦Di≦500nmであり、アスペクト比(=深さDe/開口の直径Di)が3≦De/Di≦100を満たす縦長ピットを含むピットを複数形成するピット形成工程と、
前記ピット形成工程の後、前記縦長ピットの数をカウントすることで、前記第1の面に貫通する転位の数をカウントする解析工程と、
を有するIII族窒化物半導体基板の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載のIII族窒化物半導体基板の評価方法において、
前記ピット形成工程では、前記直径Diが100nm≦Di≦250nmを満たす前記縦長ピットを複数形成するIII族窒化物半導体基板の評価方法。
【請求項3】
請求項1に記載のIII族窒化物半導体基板の評価方法において、
前記ピット形成工程では、前記ピットの中の前記縦長ピットの割合が70%以上となるように、複数の前記ピットを形成するIII族窒化物半導体基板の評価方法。
【請求項4】
請求項1に記載のIII族窒化物半導体基板の評価方法において、
前記ピット形成工程では、前記ピットの中の前記縦長ピットの割合が95%以上となるように、複数の前記ピットを形成するIII族窒化物半導体基板の評価方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体基板の評価方法において、
前記ピット形成工程は、
前記基板の前記第1の面上にSiO膜又はSiN膜である保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記保護膜形成工程の後、TMGaを供給しながらの加熱処理により、前記保護膜にピットを形成し、次いで、当該ピットの底に露出した前記基板にピットを形成することで、前記基板及び前記保護膜の積層方向に伸び、前記保護膜及び前記基板に跨るとともに、前記保護膜の表面に開口を有するピットを形成する熱処理工程と、
を有し、
前記解析工程では、前記保護膜の表面の前記開口の数をカウントするIII族窒化物半導体基板の評価方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体基板の評価方法において、
前記ピット形成工程は、
前記基板の前記第1の面上にSiO膜又はSiN膜である保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記保護膜形成工程の後、TMGaを供給しながらの加熱処理により、前記保護膜にピットを形成し、次いで、当該ピットの底に露出した前記基板にピットを形成することで、前記基板及び前記保護膜の積層方向に伸び、前記保護膜及び前記基板に跨るとともに、前記保護膜の表面に開口を有するピットを形成する熱処理工程と、
前記熱処理工程の後、前記保護膜を除去する除去工程と、
を有し、
前記解析工程では、前記基板の表面の開口の数をカウントするIII族窒化物半導体基板の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体基板の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、硫酸・リン酸の混酸を用いてGaN単結晶基板をエッチングすることで、GaN単結晶基板の表面に転位に由来した(対応した)ピット(エッチピット)を形成し、その後、ピットの数をカウントすることで、転位の数を計測する転位解析方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−117530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のように転位に由来した(対応した)ピットの数をカウントすることで転位の数を計測する場合、1つの転位に1つのピットを対応させることが望ましい。完全に1つの転位に1つのピットが対応している場合、ピットの数をカウントすることで、転位の数を特定することができる。また、高い確率で1つの転位に1つのピットが対応している場合、ピットの数をカウントすることで、高精度に(小さい誤差で)転位の数を推定することができる。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術のように、混酸を利用したエッチングでピットを形成する手段の場合、ピットの開口が大きくなってしまう。特許文献1に記載のように、当該手段の場合、一般的には、開口の径が数μm程度となる。なお、特許文献1に記載の発明の場合、開口が10μm〜数十μmになることが記載されている。
【0006】
当然、ピットの開口が大きくなるほど、1つのピットに複数の転位が対応してしまう確率が高くなる。例えば、ピットの開口が大きくなるほど、互いに異なる転位に由来して形成された隣接するピット同士が一体化し、外見上1つのピットになる確率が高くなる。結果、1つのピットに複数の転位が対応してしまう。
【0007】
本発明は、複数の転位に対応するピットが形成される不都合を軽減し、転位解析の精度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
評価対象の基板に、前記基板の第1の面から前記基板の厚さ方向に伸び、前記基板に形成された転位と繋がり、かつ、前記第1の面における開口の直径Diが100nm≦Di≦500nmであり、アスペクト比(=深さDe/開口の直径Di)が3≦De/Di≦100を満たす縦長ピットを含むピットを複数形成するピット形成工程と、
前記ピット形成工程の後、前記縦長ピットの数をカウントすることで、前記第1の面に貫通する転位の数をカウントする解析工程と、
を有するIII族窒化物半導体基板の評価方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の転位に対応するピットが形成される不都合を軽減し、転位解析の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態のIII族窒化物半導体基板の評価方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図2】縦長ピットが形成された下地基板の一例を示す断面模式図である。
図3】本実施形態のピット形成工程の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図4】保護膜が形成された下地基板の一例を示す断面模式図である。
図5】保護膜及び下地基板に繋がる縦長のピットが形成された状態の一例を示す断面模式図である。
図6】本実施形態の作用効果を示すSEM像である。
図7】本実施形態の作用効果を示すSEM像である。
図8】本実施形態の作用効果を示すCL像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のIII族窒化物半導体基板の評価方法の実施形態について図面を用いて説明する。なお、図はあくまで発明の構成を説明するための概略図であり、各部材の大きさ、形状、数、異なる部材の大きさの比率などは図示するものに限定されない。
【0012】
図1は、本実施形態のIII族窒化物半導体(AlGa1−x−yInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1))基板の評価方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。図示するように、本実施形態のIII族窒化物半導体基板の評価方法は、ピット形成工程S10と、解析工程S20とを有する。
【0013】
ピット形成工程S10では、評価対象の基板10に複数の縦長ピット20を形成する。図2に、縦長ピット20を形成された基板10の一例を示す。図2は、基板10の一部の断面模式図である。なお、ピット形成工程S10により、縦長ピット20以外のピットが基板10に形成されてもよい。しかし、ピット形成工程S10で基板10に形成されたピットのうち、70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくはほぼ100%(=99%以上)が、縦長ピット20となる。
【0014】
基板10は、例えば、GaN基板、AlN基板、GaNonサファイア基板、GaNonSiC基板、GaNonSi基板などの、窒化物半導体基板等とすることができる。基板10の厚さは、例えば100μm以上1000μm以下である。基板10には、転位30が形成されている。基板10は、例えば、表面(成長面)にIII族窒化物半導体を成長させるための下地基板であってもよい。
【0015】
縦長ピット20は、基板10の第1の面11から基板10の厚さ方向(図2における上下方向)に伸びている。そして、縦長ピット20は、基板10に形成された転位30と繋がっている。「縦長ピット20と転位30が繋がる」とは、転位30の終端(第1の面11よりの終端)が縦長ピット20と接した状態を意味する。
【0016】
縦長ピット20は、深さDeが1000nm≦De≦10000nmを満たす。深さDeは、縦長ピット20の開口(基板10の第1の面11と面一となる開口。以下同様。)から縦長ピット20の底部までの長さである。
【0017】
また、縦長ピット20は、開口の直径Diが100nm≦Di≦500nm、好ましくは100nm≦Di≦250nmを満たす。開口の直径Diは、縦長ピット20の開口の径の中の最も長い径である。
【0018】
また、縦長ピット20は、アスペクト比(=深さDe/開口の直径Di)が、3≦De/Di≦100を満たす。
【0019】
なお、複数の縦長ピット20の中には、互いに深さDeが異なる縦長ピット20が混在してもよい。また、複数の縦長ピット20の中には、互いに開口の直径Diが異なる縦長ピット20が混在してもよい。さらに、複数の縦長ピット20の中には、互いにアスペクト比(=深さDe/開口の直径Di)が異なる縦長ピット20が混在してもよい。
【0020】
また、縦長ピット20と繋がらず、基板10の第1の面11まで貫通している転位30の数をM、縦長ピット20と繋がった転位30の数をNとすると、N/(M+N)は、0.7以上、好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上、さらに好ましくは0.95以上、さらに好ましくはほぼ1.0(=0.99以上)とすることができる。すなわち、縦長ピット20を形成する前に基板10の第1の面11まで貫通していた転位30の70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくはほぼ100%(=99%以上)が、縦長ピット20と繋がっている。
【0021】
また、転位30と繋がっていない縦長ピット20の数をPとすると、N/(P+N)は、0.7以上、好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上、さらに好ましくは0.95以上、さらに好ましくはほぼ1.0(=0.99以上)とすることができる。
【0022】
すなわち、本実施形態によれば、縦長ピット20と繋がらず、基板10の第1の面11まで貫通している転位30の数M、及び、転位30と繋がっていない縦長ピット20の数Pを十分に小さな値、好ましくは0に近い値にすることができる。また、本実施形態によれば、高確率で1つの縦長ピット20に1つの転位30のみを繋げることができ、1つの縦長ピット20に複数の転位30が繋がる不都合を効果的に軽減することができる。
【0023】
縦長ピット20の断面形状(開口の平面形状)は特段制限されないが、以下の実施例で示すように六角形となり易い。また、縦長ピット20の形状は六角柱状になり易い。
【0024】
ここで、このような特徴的な縦長ピット20を形成する方法について説明する。図3は、ピット形成工程S10の処理の流れの一例を示すフローチャートである。図示するように、ピット形成工程S10は、保護膜形成工程S11と、熱処理工程S12とを有する。
【0025】
保護膜形成工程S11では、図4に示すように、縦長ピット20を形成する前の基板10の第1の面11上に、保護膜50を形成する。保護膜50は、SiO膜又はSiN膜である。保護膜50は、例えばプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて生成することができる。保護膜50の膜厚は、10nm以上300nm以下、好ましくは15nm以上100nm以下である。基板10には、第1の面11まで到達する転位30が存在する。
【0026】
図3に戻り、熱処理工程S12では、基板10に対して以下の条件で熱処理を行うことで、基板10に複数の縦長ピット20を形成する。
【0027】
「熱処理温度」:1000℃以上1250℃以下、好ましくは1150℃以上1190℃以下
「熱処理時間」:10分以上600分以下、好ましくは180分以上360分以下
「TMGa(トリメチルガリウム)流量」:1ccm/min以上50ccm/min以下、好ましくは5ccm/min以上15ccm/min以下
「NH流量」:1slm/min以上30slm/min以下、好ましくは4slm/min以上12slm/min以下
「H流量」:0slm/min以上15slm/min以下、好ましくは10slm/min以上15slm/min以下
「N流量」:0slm/min以上15slm/min以下、好ましくは0slm/min以上5slm/min以下
【0028】
なお、NHの供給は、NHを熱処理の間同じ流量で連続的に供給するのでなく、所定流量での供給と停止(流量:0)を繰り返す。供給する時間は10sec〜60sec、好ましくは5sec〜15secであり、停止する時間は1sec〜15sec、好ましくは2sec〜5secである。熱処理の間、このような時間間隔で、NHの供給及び停止のサイクルを繰り返す。以下、このようにNHを断続的に供給する理由について説明する。
【0029】
上記条件で熱処理を行うと、TMGa由来のGaと、保護膜50のSiとが反応してピットが形成される。特に、保護膜50の表面のうち、基板10の転位30の終端部に接する部分が選択的に破壊され(当該部分のSiとGaが反応)、当該部分にピットが形成される。保護膜50にピットが形成された後、ピットの底に露出した基板10が分解することで縦長ピット20が形成される。このようなメカニズムで縦長ピット20が形成されるので、転位30を十分な確率で縦長ピット20と繋げることができる。
【0030】
熱処理の間、NHを供給することで、TMGaの供給に起因した金属Gaの析出により炉内が汚染される不都合を軽減することができる。また、NHの供給により、SiとGaの反応を調整(抑制)することができる。NHを供給せずに上記条件で熱処理を行うと、TMGa由来のGaと保護膜50のSiとの反応が過剰となり、保護膜50の表面のうち、基板10の転位30の終端部に接していない部分も破壊され、当該部分にもピットが形成されてしまう。結果、そのピットの底に露出した基板10の成長面の良質な領域(転位30が存在しない領域)にもピットが形成されてしまう。また、NHを供給せずに上記条件で熱処理を行うと、形成されるピットの径が大きくなることを本発明者は確認している。NHを適切に供給することで、SiとGaの反応を適切に調整(抑制)し、保護膜50の表面のうち、基板10の転位30の終端部に接する部分のみに選択的にピットを形成することが可能となる。また、NHを適切に供給することで、形成されるピットの径が大きくなる不都合を軽減することができる。
【0031】
上述のように、保護膜50の所望の位置に所望の大きさのピットを形成するためには、NHを適切に供給する必要がある。NHの流量が少なすぎると、TMGa由来のGaと保護膜50のSiとの反応が過剰となり、保護膜50の意図せぬ位置にもピットが形成されてしまったり、ピットの径が大きくなり過ぎたりという不都合が生じる。一方、NHの流量が多すぎると、ピットの形成が抑制されすぎ、基板10の転位30の終端部に接する部分にもピットが形成されないという事態が生じ得る。
【0032】
本発明者は、以下の実施例で示すように、上記流量でのNHの供給と、NHの供給の停止とを繰り返し、断続的にNHを供給しながら熱処理を行うことで、保護膜50の所望の位置に、所望の大きさのピットを形成できること、また、金属Gaの析出を抑制できることを見出した。なお、本発明者は、上記流量でNHを連続的に供給し続けながら熱処理を行った場合、ピットの形成が抑制されすぎ、基板10の転位30の終端部に接する部分にもピットが形成されないという事態が生じることを確認している。すなわち、「NHの供給が過剰」となることを確認している。また、本発明者は、NHの供給を停止し続けながら熱処理を行った場合、TMGa由来のGaと保護膜50のSiとの反応が過剰となり、保護膜50の表面のうち、基板10の転位30の終端部に接していない部分も破壊され、当該部分にもピットが形成されてしまうこと、形成されるピットの径が大きくなり過ぎること、また、金属Gaが析出することを確認している。すなわち、「NHの供給が不足」となることを確認している。
【0033】
上述のように、本実施形態では、「NHの供給が過剰」となる状態、及び、「NHの供給が不足」となる状態を所定の時間間隔で繰り返しながら、熱処理を行う。以下の実施例で示すように、このような条件でNHの供給及び停止を繰り返し、断続的にNHを供給しながら熱処理を行うことで、図5に示すように、所望の位置(転位30に対応する位置)に、基板10及び保護膜50の積層方向に伸び、保護膜50及び基板10に跨るとともに、保護膜50の表面に開口を有し、径が所望の値となる縦長のピットが形成される。また、金属Gaの析出を抑制できる。この縦長のピットのうち、基板10部分が縦長ピット20となる。
【0034】
熱処理工程S12の後、任意の手段で保護膜50を除去する(除去工程)ことで、図2に示すような状態の基板10が得られる。なお、本実施形態では、除去工程の後、すなわち図2に示すように保護膜50を除去した後に解析工程S20に進んでもよいし、除去工程の前、すなわち図5に示すように保護膜50を残した状態で解析工程S20に進んでもよい。
【0035】
解析工程S20では、縦長ピット20の数をカウントすることで、第1の面11に貫通する転位30の数をカウントする。縦長ピット20の数のカウントは、保護膜50を除去した後の基板10(図2参照)の第1の面11における開口の数をカウントすることで行われてもよい。または、縦長ピット20の数のカウントは、保護膜50を除去する前の基板10(図5参照)の当該保護膜50の表面における開口の数をカウントすることで行われてもよい。開口のカウントの手段は特段制限されず、従来のあらゆる手法を利用することができる。
【0036】
<<実施例>>
<縦長ピット20の形成>
評価対象の基板10として、厚さ400μmのGaN自立基板(基板10)を用意した。このGaN自立基板の成長面(第1の面11)に、プラズマCVD法を用いて、膜厚15nmのSiO膜(保護膜50)を成膜した(図4の状態)。
【0037】
次に、成長面にSiO膜を成膜したGaN自立基板に対して、以下の条件で熱処理を行った。そして、熱処理後、SiO膜を除去した。
【0038】
「熱処理温度」:1160℃
「熱処理時間」:300分
「TMGa流量」:5ccm/min
「NH流量」:8slm/min
「H流量」:10.5slm/min
「N流量」:4.5slm/min
「NHの供給・停止サイクル」:供給(8slm/min)を10秒、停止(0slm/min)を5秒の繰り返し
【0039】
図6に、熱処理後にGaN自立基板の成長面を観察したSEM像を示す。当該図では、縦長ピット20が黒点として示されている。図6の(2)は、図6の(1)の一部を拡大したものである。図6の(2)に示すように、開口の平面形状が六角形である縦長ピット20が観察できた。SEM像内で縦2.9μm×横4.3μmの大きさで任意の観察エリアを決定し、観察エリア内の縦長ピット20を観察したところ、観察エリア内の複数のピットの中のほぼ100%(=99%以上)が、開口の直径Diが100nm≦Di≦500nm、さらには100nm≦Di≦250nmである縦長ピット20であった。
【0040】
また、ここではSEM像を示さないが、熱処理後にGaN自立基板の断面をSEM像で観察すると、図5に示すように、GaN自立基板及びSiO膜に跨り、SiO膜の表面に開口を有する縦長のピットが複数確認された。
【0041】
断面SEM像内で幅25μmの大きさで任意に決定した観察エリア内の複数のピットの中のほぼ100%(=99%以上)は、深さDeが1000nm≦De≦10000nmを満たす縦長ピット20であった。また、当該観察エリア内の複数のピットの中のほぼ100%(=99%以上)は、アスペクト比(=深さDe/開口の直径Di)が3≦De/Di≦100を満たす縦長ピット20であった。なお、直径Diは断面SEM像に現れた縦長ピット20の開口部の幅とした。
【0042】
次に、図7に熱処理後にGaN自立基板の成長面を観察した他のSEM像を、図8に熱処理後にGaN自立基板の成長面を観察したCL像を示す。これらの図では、転位30が黒点として示され、縦長ピット20が白点として示されている。当該SEM像及びCL像内で縦42μm×横42μmの大きさで任意に観察エリアを決定し、当該観察エリア内で、縦長ピット20と繋がらず、基板10の第1の面11まで貫通している転位30の数M、すなわち白点で周囲を囲まれていない黒点の数をカウントした。また、当該観察エリア内で、縦長ピット20と繋がった転位30の数N、すなわち白点で周囲を囲まれた黒点の数をカウントした。結果、N/(M+N)は、ほぼ1.0(=0.99以上)であった。また、当該観察エリア内で、転位30と繋がっていない縦長ピット20の数Pをカウントすると、N/(P+N)は、はほ1.0(=0.99以上)であった。また、当該観察エリア内で、複数の転位30が繋がった縦長ピット20の数、すなわち、複数の黒点を内包する白点の数をカウントすると、ゼロであった。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、転位30に由来するピットとして、直径Diが100nm≦Di≦500nmを満たすほど開口が小さい縦長ピット20を形成することができる。このため、1つの縦長ピット20に複数の転位30が対応してしまう不都合を軽減できる。また、互いに異なる転位30に由来して形成された隣接する縦長ピット20同士が一体化し、外見上1つのピットになる不都合を軽減できる。このため、各々少なくとも1つの転位と対応した複数のピットが一体化して1つのピットとなることで、複数の転位に対応したピットが形成されてしまう不都合を軽減できる。結果、本実施形態によれば、縦長ピット20の数をカウントすることで、転位30の数を特定及び高精度に(小さい誤差で)推定することができる。
【0044】
以下、参考形態の例を付記する。
1. 評価対象の基板に、前記基板の第1の面から前記基板の厚さ方向に伸び、前記基板に形成された転位と繋がり、かつ、前記第1の面における開口の直径Diが100nm≦Di≦500nmを満たす縦長ピットを含むピットを複数形成するピット形成工程と、
前記ピット形成工程の後、前記縦長ピットの数をカウントすることで、前記第1の面に貫通する転位の数をカウントする解析工程と、
を有するIII族窒化物半導体基板の評価方法。
2. 1に記載のIII族窒化物半導体基板の評価方法において、
前記ピット形成工程では、前記直径Diが100nm≦Di≦250nmを満たす前記縦長ピットを複数形成するIII族窒化物半導体基板の評価方法。
3. 1に記載のIII族窒化物半導体基板の評価方法において、
前記ピット形成工程では、前記ピットの中の前記縦長ピットの割合が70%以上となるように、複数の前記ピットを形成するIII族窒化物半導体基板の評価方法。
4. 1に記載のIII族窒化物半導体基板の評価方法において、
前記ピット形成工程では、前記ピットの中の前記縦長ピットの割合が95%以上となるように、複数の前記ピットを形成するIII族窒化物半導体基板の評価方法。
5. 1から4のいずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の評価方法において、
前記ピット形成工程は、
前記基板の前記第1の面上にSiO膜又はSiN膜である保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記保護膜形成工程の後、加熱処理により、前記基板及び前記保護膜の積層方向に伸び、前記保護膜及び前記基板に跨るとともに、前記保護膜の表面に開口を有するピットを形成する熱処理工程と、
を有し、
前記解析工程では、前記保護膜の表面の前記開口の数をカウントするIII族窒化物半導体基板の評価方法。
6. 1から4のいずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の評価方法において、
前記ピット形成工程は、
前記基板の前記第1の面上にSiO膜又はSiN膜である保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記保護膜形成工程の後、加熱処理により、前記基板及び前記保護膜の積層方向に伸び、前記保護膜及び前記基板に跨るとともに、前記保護膜の表面に開口を有するピットを形成する熱処理工程と、
前記熱処理工程の後、前記保護膜を除去する除去工程と、
を有し、
前記解析工程では、前記基板の表面の開口の数をカウントするIII族窒化物半導体基板の評価方法。
【符号の説明】
【0045】
10 基板
11 第1の面
20 縦長ピット
30 転位
40 III族窒化物半導体層
50 保護膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8