【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の一実施例の制御装置が適用された車両の要部を示す略図である。車両は、内燃機関であるエンジン10と、動力伝達装置12と、電子制御装置14とを示している。動力伝達装置12は、エンジン10に連結されたトランスアクスル16と、エンジン10によりトランスアクスル16を介して回転駆動される一対の車軸18とを備え、その一対の車軸18に連結された一対の駆動輪20に駆動力を伝達する。
【0015】
トランスアクスル16内には、入力されたトルクの変動或いは回転変動を減衰して平滑化したトルク或いは回転を伝達するダンバ装置を有するトルクコンバータ22と、前後進切換機構24と、無段変速機26と、終減速装置(差動歯車装置)28とが収容されている。無段変速機26は、その入力軸29の入力軸回転数Ninと出力軸30の出力軸回転数Noutとの間の変速比γ(=Nin/Nout)を無段階で変化させることが可能な機構を備えたものである。
【0016】
無段変速機26は、たとえば、互いに平行な一対の入力軸29よび出力軸30にそれぞれ設けられ、油圧アクチュエータ32、34により有効径がそれぞれ変更させられる一対の可変プーリ36、38と、その一対の可変プーリ36、38に巻き掛けられた伝動ベルト40とを備え、油圧アクチュエータ32、34によって一対の可変プーリ36、38の有効径を相反的に変化させることで変速比γを制御するベルト式無段変速機から構成される。
【0017】
図1において、電子制御装置14には、シフトレバー42の操作位置を検出する操作位置検出センサ44からの操作位置PSHを表す信号、イグニションキーにより操作されるイグニションスイッチ46からのイグニションキーのオン操作を表す信号、スロットルアクチュエータ48により駆動されるスロットル弁50の開度θth(%)を検出するスロットルセンサ52からのスロットル開度θthを表す信号、アクセルペダル54の開度pap(%)を検出するアクセル操作量センサ56からのアクセル開度papを表す信号すなわち運転者の出力要求量を反映する信号、エンジン10の回転速度NE(rpm)を検出するエンジン回転速度センサ58からの回転速度Neを表す信号、出力軸30の回転速度Noutに対応する車速spd(km/h)を検出する車速センサ(出力側回転速度センサ)60からの車速spdを表す信号、入力軸29の入力軸回転速度Nin(rpm)を検出する入力側回転速度センサ62からの入力軸回転速度Ninを表す信号、無段変速機26を収容するトランスアクスル16内の油圧回路の作動油温度Toil(℃)を検出する油温センサ64からの作動油温度Toilを表す信号等が、それぞれ供給されるようになっている。
【0018】
電子制御装置14は、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って入力信号処理を行うことにより、特にアクセルペダルの低開度領域において、アクセル踏込み操作時の加速のリニア感を得ながら、アクセルペダル急閉操作後の直後にアクセルペダルを急開操作したときのもたつき感が抑制されように、無段変速機26の目標入力軸回転数Nintを設定する。また、電子制御装置14は、この目標入力軸回転数Nintが得られるように、無段変速機26の変速制御弁66を制御する。
【0019】
図2は、電子制御装置14の制御機能の要部すなわち駆動力および変速比制御を説明する機能ブロック線図である。
図2において、電子制御装置14には、アクセル操作量センサ56からの信号papに対応するドライバーアクセル開度accpfbを処理するための制御用アクセル開度設定手段70と、その制御用アクセル開度設定手段70から出力された制御用アクセル開度accpfctrlに基づいて車両の駆動力を制御する駆動制御手段72とが設けられている。
【0020】
制御用アクセル開度設定手段70には、たとえば、加速要求判定手段74、加速要求時制御用アクセル開度設定手段76、アクセル戻し判定手段78、第2下限ガード値設定手段80、第2下限ガード処理手段82、上限ガード処理手段84が設けられている。
【0021】
加速要求判定手段74は、ドライバーアクセル開度accpfbの増加量および増加速度が予め設定された加速要求判定値を上まわった場合に、ドライバーの加速要求を判定する。この加速要求判定値は、アクセルペダル54の比較的急な踏込み操作を検知するために予め実験的に設定されたものである。加速要求時制御用アクセル開度設定手段76は、ドライバーの加速要求が判定されると、加減速要求時における初期加減速ショックを緩和させるために、所定のなまし率でなまし処理たとえば一時遅れ処理或いは二次遅れ処理をドライバーアクセル開度accpfbに施すことにより、ドライバーアクセル開度accpfbの立ち上がりよりも遅れて緩やかに立ち上がる加速時の制御用アクセル開度accpfctrlを設定する。
【0022】
加速要求時制御用アクセル開度設定手段76は、たとえば、第1下限ガード値設定手段86、スイープアップ手段88、下限ガード処理手段90を含む。第1下限ガード値設定手段86は、アクセル開度のダンピング量(減少量)の下限値を定めるために、ドライバーアクセル開度accpfbよりも所定値低い第1下限ガード値accpflogrdを次式(1)から算出する。スイープアップ手段88は、次式(2)に従って制御用アクセル開度の前回値accpfctrl
(i−1)に予め設定された所定増加値Δaccpfctrlを加算して今回制御サイクルの制御用アクセル開度accpfctrl
(i)を逐次算出するスイープアップ処理を行なうことで、制御用アクセル開度accpfctrlを直線的に増加させる。下限ガード処理手段90は、次式(3)にしたがって下限ガード処理を行なうことで、スイープアップ過程の制御用アクセル開度accpfctrlを、その下限値を定める第1下限ガード値accpflogrdとしてドライバーアクセル開度accpfbよりも所定値以上下回らないようにする。
accpflogrd=accpfb−所定値 ・・・(1)
accpfctrl
(i)=accpfctrl
(i−1)+所定増加値Δaccpfctrl ・・・(2)
accpflogrd≦accpfctrl ・・・(3)
【0023】
アクセル戻し判定手段78は、ドライバーアクセル開度accpfbの減少量および減少速度が予め設定された急戻し操作判定値を上まわった場合に、ドライバーの加速要求を判定する。この急戻し操作判定値は、アクセルペダル54の比較的急な戻し操作を検知するために予め実験的に設定されたものである。第2下限ガード値設定手段80は、アクセル戻し判定手段78により急戻しが判定されないうちは、次式(4)に従って、制御用アクセル開度の前回値accpfctrl
(i−1)すなわちドライバーアクセル開度accpfbの前回値を保持して減衰アクセル開度accpfdecとする設定を繰り返し実行する。しかし、第2下限ガード値設定手段80は、アクセル戻し判定手段78により急戻しが判定されると、減衰アクセル開度accpfdecの前回値accpfdec
(i−1)にから所定の減少値Δaccpfdecを差し引いて今回制御サイクルの減衰アクセル開度accpfctrl
(i)を逐次算出するスイープダウン処理を行なうことで、第2下限ガードとして機能する減衰アクセル開度accpfdecを直線的に減少させる。この減少値Δaccpfdecは、1制御サイクルでの減少量であって減少率に対応するものであり、車速、路面勾配、或いは車両重量が大きいほど小さくなるように設定される車速、路面勾配、或いは車両重量の関数である。第2下限ガード処理手段82は、(5)式にしたがって、下限ガード処理を行なうことで、スイープダウン過程の制御用アクセル開度accpfctrlを、その下限値を減衰アクセル開度accpfdecよりも下回らないようにする。したがって、第2下限ガード値設定手段80および第2下限ガード処理手段82は、アクセル戻し判定手段78により急戻しが判定されたときに急速に減少するドライバーアクセル開度accpfbに対して、その減少率よりも低い減少率で実質的に制御用アクセル開度accpfctrlを緩やかに減少させる減速要求時制御用アクセル開度設定手段83に対応している。そして、上限ガード処理手段84は、(6)式にしたがって、制御用アクセル開度accpfctrlをドライバーアクセル開度accpfbよりも上まわらないようにして、アクセル戻し状態の区間では、本来はドライバーアクセル開度accpfbの減少率よりも低い減少率で直線的に減少する制御用アクセル開度accpfctrlをドライバーアクセル開度accpfbまで引き下げる。
accpfctrl
(i)=accpfctrl
(i−1)−Δaccpfctrl ・・・(4)
accpfdec ≦ accpfctrl ・・・(5)
accpfctrl ≦ accpfb ・・・(6)
【0024】
駆動制御手段72には、たとえば、目標駆動力算出手段92、目標出力トルク算出手段94、目標エンジントルク設定手段96、エンジントルク制御手段98、目標入力軸回転速度設定手段100、変速制御手段102が、設けられている。
【0025】
目標駆動力算出手段92は、予め記憶された関係から実際の車速spdおよび制御用アクセル開度accpfctrlに基づいて、通常時、加速時、再加速時、減速時の目標(要求)駆動力FORCEDCLを逐次算出する。目標出力トルク算出手段94は、目標駆動力算出手段92によって逐次算出された上記目標駆動力FORCEDCLに車速spdを乗算することにより目標出力POWERを逐次算出する。目標エンジントルク設定手段96は、目標出力トルク算出手段94により逐次算出された目標出力POWERを現在のエンジン回転速度NE或いは上記目標入力軸回転速度算出手段96により算出された目標入力軸回転速度Nintで除算することによって、目標エンジントルクTEを逐次算出する。エンジントルク制御手段98は、目標エンジントルクTEが得られるようにスロットル弁アクチュエータ48を用いてスロットル弁50の開度θthを逐次調節し、エンジン10の出力トルクを逐次制御する。
【0026】
目標入力軸回転速度設定手段100は、車両走行中において、予め記憶された関係から実際の車速spdおよび制御用アクセル開度accpfctrlに基づいて目標入力軸回転速度Nintを逐次算出する。変速制御手段102は、目標入力軸回転速度Nintが実際の入力軸回転速度Ninと一致するように変速制御弁66を制御することにより、入力側可変プーリ36の油圧アクチュエータ32内へ供給される作動油或いはその油圧アクチュエータ32内から排出される作動油の流量を逐次制御し、ベルト式無段変速機26の変速比γを逐次調節する。上記変速制御手段102は、たとえばPIフィードバック制御式に従って、入力軸回転速度Ninが目標回転速度Nintとなるように偏差e(=Nint−Nin)に基づいてが解消されるようにベルト式無段変速機26の変速比γを制御する。目標回転速度Nintは制御用アクセル開度accpfctrlに基づいて算出されるので、変速制御手段102は、制御用アクセル開度accpfctrlに基づいてベルト式無段変速機26の変速比γを制御している。
【0027】
図3は、加速要求判定手段74によりドライバーの加速要求が判定されたときの、ドライバーアクセル開度accpfbの変化を破線で表し、制御用アクセル開度accpfctrlの変化を実線で表し、両者を対比して示すタイムチャートである。ドライバーアクセル開度accpfbは、t1時点からステップ的に増加しているのに対して、制御用アクセル開度accpfctrlは、初期加速ショックを緩和させるために、制御用アクセル開度設定手段76により、ドライバーアクセル開度accpfbの増加率よりも低い増加率で直線的に増加させられ、ドライバーアクセル開度accpfbの立ち上がりよりも遅れて緩やかに立ち上げられている。
図4は、加速要求判定手段74によりドライバーの加速要求が判定されたときの、ドライバーアクセル開度accpfbに基づいて制御されたエンジン回転速度Nebの変化を破線で表し、制御用アクセル開度accpfctrlに基づいて制御されたエンジン回転速度Nectrlの変化を実線で表し、両者を対比して示すタイムチャートである。ドライバーアクセル開度accpfbに基づいて制御されたエンジン回転速度Nebはt1時点からステップ的に増加しているのに対して、制御用アクセル開度accpfctrlに基づいて制御されたエンジン回転速度Nectrlは、駆動制御手段72により、ドライバーアクセル開度accpfbに基づいて制御されたエンジン回転速度Nebよりも緩やかに増加させられている。
図5は、加速要求判定手段74によりドライバーの加速要求が判定されたときのドライバーアクセル開度accpfbに基づいて駆動制御手段72により制御された駆動力で走行した車両spdbの車速の変化を破線で表し、制御用アクセル開度accpfctrlに基づいて駆動制御手段72により制御された駆動力で走行した車両の車速spdctrlの変化を実線で表し、両者を対比して示すタイムチャートである。制御用アクセル開度accpfctrlに基づいて駆動制御手段72により制御された駆動力で走行した車両の車速は、ドライバーアクセル開度accpfbに基づいて制御された駆動力で走行した車両の車速に対して低い増加率で増加している。
【0028】
図6は、アクセルペダル54が急戻し操作された直後に急踏込み操作された場合の作動を説明するタイムチャートである。
図6において、t1時点までの定常走行では、実線で示すドライバーアクセル開度accpfb、実線で示す制御用アクセル開度accpfctrl、実線で示す減衰アクセル開度accpfdecは相互に同じ値で推移し、第1下限ガード値accpflogrdはドライバーアクセル開度accpfbよりも所定値低い値で推移する。t1時点においてアクセルペダル54が急戻し操作されて実線で示すドライバーアクセル開度accpfbが急減すると、上限ガード処理手段84による制限があるので、制御用アクセル開度accpfctrlも共に減少し、再踏込み操作によりドライバーアクセル開度accpfbが急増したt4時点までこの状態が継続される。アクセル戻し操作以後には、第2下限ガード処理手段82によって減衰アクセル開度accpfdecがアクセル戻し直前の制御用アクセル開度accpfctrlからドライバーアクセル開度accpfbの減少率よりも低い減少率でスイープダウンされる。しかし、t1〜t4区間のアクセル戻し状態では、上限ガード処理手段84による制限があるので、減衰アクセル開度accpfdecが、制御用アクセル開度accpfctrlの下限値(第2下限値)として機能しても、再踏込み操作によりドライバーアクセル開度accpfbが急増してドライバーアクセル開度accpfbが減衰アクセル開度accpfdecを超えるt4時点までは制御用アクセル開度accpfctrlは作用できない。
【0029】
再踏込み操作によりドライバーアクセル開度accpfbが急増してドライバーアクセル開度accpfbが減衰アクセル開度accpfdecを超えるt4時点過ぎると、上限ガード処理手段84による制限が無くなるので、下限リミッタとして機能する減衰アクセル開度accpfdecで下支えられる制御用アクセル開度accpfctrlは、加速要求時制御アクセル開度設定手段76によるスイープアップにより、ドライバーアクセル開度accpfbの増加率よりも低い増加率で増加し、t5時点で定常状態に到達する。このようなアクセルペダル54の再踏込み操作時には、再踏込み操作開始時点t3からドライバーアクセル開度accpfbが減衰アクセル開度accpfdecを超えるt4時点までは、制御用アクセル開度accpfctrlは、ドライバーアクセル開度accpfbと共に急上昇するので、アクセルペダル54の再踏込み操作時において、ドライバーの意図とエンジン出力トルクとの乖離が縮小されるので、車両のもたつき感を与えることが抑制される。
【0030】
上記t4時点は、ドライバーアクセル開度accpfbを示す線と減衰アクセル開度accpfdecを示す線との交点であり、スイープダウンされる減衰アクセル開度accpfdecを示す線の傾斜が緩いほどt4時点が遅れて、t3時点とt4時点との間のドライバーアクセル開度accpfbおよび減衰アクセル開度accpfdecの急増区間が増加する。スイープダウンされる減衰アクセル開度accpfdecの傾斜に関係する減少値Δaccpfdecは、車速、路面勾配、或いは車両重量が大きいほど小さくなるように設定される車速、路面勾配、或いは車両重量の関数であって、車速、路面勾配、或いは車両重量が大きいほど小さくなるように設定されるので、車速、路面勾配、或いは車両重量が大きいほど、上記t3時点とt4時点との間のドライバーアクセル開度accpfbおよび減衰アクセル開度accpfdecの急増区間が増加させられ、車速、路面勾配、或いは車両重量に拘わらず、アクセルペダル54の再踏込み操作時におけるドライバーに意図とエンジン出力トルクとの乖離が縮小され、車両のもたつき感を与えることが抑制される。
【0031】
因みに、減速要求時制御用アクセル開度設定手段83が設けられていない場合におけるアクセルペダル54の再踏込み操作時の作動を
図7に示す。この場合には、減衰アクセル開度accpfdecをアクセル戻し直前の制御用アクセル開度accpfctrl
(i−1)からドライバーアクセル開度accpfbの減少率よりも低い減少率でスイープダウンさせ、その減衰アクセル開度accpfdecを制御用アクセル開度accpfctrlの下限ガード値として機能させる第2下限ガード処理手段82が設けられていない。このため、t3時点での再踏込み操作によりドライバーアクセル開度accpfbが急増すると、
図3に示すように、加速要求時制御アクセル開度設定手段76により、そのドライバーアクセル開度accpfbの増加率よりも低い増加率で制御用アクセル開度accpfctrlが増加させられるので、車両加速時においてドライバーの意図とエンジン出力トルクとの乖離が縮小されず、ドライバーに車両のもたつき感を与えることになる。
【0032】
図8は、電子制御装置14の制御作動の要部を説明するフローチャートであであって、メインルーチンを示している。
図8において、ステップS1(以下、ステップを省略する)では、アクセル開度papを表す信号から実際のアクセルペダル54の開度papすなわちドライバー操作に対応したドライバーアクセル開度accpfbが読み込まれる。続いて、加速要求判定手段74に対応するS2では、ドライバーアクセル開度accpfbの変化量が所定値を超えたことに基づいてドライバーの加速要求が判定される。また、第1下限ガード値設定手段86にも対応するS2では、ドライバー操作に対応したドライバーアクセル開度accpfbに対して予め設定された所定値又は所定割合小さいアクセル開度papのダンピング量(減衰量)の下限ガード値accpflogrdが、(1)式から算出される。
【0033】
次いで、スイープアップ処理手段88に対応するS3では、ドライバーアクセル開度accpfbの操作値から減衰させた値から直線的に増加させるアクセル開度pap(スロットル開度)の指令値すなわちダンピング制御による制御用アクセル開度accpfctrlを、式(2)にしたがって逐次算出するスイープアップ処理が実行される。(2)式は、制御サイクル毎に、予め設定された所定の増加量Δaccpfctrlをそれまでの前回値accpfctrl
(i−1)に加算するものである。
【0034】
次に、下限ガード処理手段90に対応するS4では、S2で求められた下限ガード値accpflogrdを用いて、式(3)を適用し、ダンピング制御による制御用アクセル開度accpfctrlを下限ガード値accpflogrdよりも小さくしない下限ガード処理が実施される。
【0035】
さらに、第2下限ガード値設定手段82に対応するS5では、アクセル戻し操作があったときの減衰アクセル開度accpfdecを逐次減少させるスイープダウン処理の後に、式(5)を適用し、ダンピング制御による制御用アクセル開度accpfctrlを減衰アクセル開度(下限ガード値)accpfdecよりも小さくしない下限ガード処理が実施される。すなわち、減衰アクセル開度(下限ガード値)accpfdecとダンピング制御による制御用アクセル開度accpfctrlとのいずれか大きい方が、目標入力軸回転速度Nintを決定するためのアクセル開度として採用される。
【0036】
次いで、上限ガード処理手段84に対応するS6では、式(6)を適用して、制御用アクセル開度accpfctrlが上限ガード値としてのドライバーアクセル開度accpfbを超えないようにする上限ガード処理が実行される。フローの最終ステップで実行されることによりこのS6の上限ガード処理が優先される。
【0037】
上記S1〜S4、S6は、従来技術の車両と同様であるが、本実施例では、S5と、
図9に示すS7〜S9からなるサブルーチンが加えられている。
図9において、アクセル戻し判定手段78に対応するにS7では、アクセルペダル54の戻し状態であるか否かが、たとえばドライバーアクセル開度accpfbが予め設定された戻し状態判定値を下回るか否かに基づいて判断される。このS7の判断が否定される場合は、S8において、制御用アクセル開度accpfctrlの前回値が減衰アクセル開度accpfdecの初期値として保持された後にS5が実行されるが、S7の判断が肯定される場合は、第2下限ガード値設定手段80に対応するS9において、S8で保持された減衰アクセル開度accpfdecから、式(4)にしたがって逐次減算するスイープダウン処理が実行される。(4)式は、制御サイクル毎に、減衰アクセル開度accpfdecの前回値accpfdec
(i−1)から所定の減少量Δaccpfdecを差し引くことで新たな減衰アクセル開度accpfdecが算出される。所定の減少量Δaccpfdecは、ドライバーアクセル開度accpfbの実際の減少率よりも小さな減少率となるように設定されている。このように設定された減衰アクセル開度accpfdecは、
図8のS5以下に用いられる。
【0038】
上述のように、本実施例の電子制御装置14によれば、アクセルペダル54の急戻し操作があったときには、その急戻し操作直前の制御用アクセル開度accpfctrl
(i−1)から急戻し操作によるドライバーアクセル開度accpfbの減少率よりも小さい所定の減少率で制御用アクセル開度accpfctrlの下限ガードである減衰アクセル開度accpfdecを減衰させるとともにその制御用アクセル開度を前記ドライバーアクセル開度accpfb以下に制限するので、アクセルペダル54の急戻し操作に続く再踏込み操作後には、ドライバーアクセル開度accpfbの急増により制限が解除された上記制御用アクセル開度accpfctrlに基づいて無段変速機26の変速比の制御が駆動制御手段72により行なわれる。このため、再踏込み操作によりドライバーアクセル開度accpfbが急増して減衰アクセル開度accpfdecにより下限ガードされた制御用アクセル開度accpfctrlを超えるまでは、急増するドライバーアクセル開度と共に急増する制御用アクセル開度accpfctrlに基づいて無段変速機26の変速比が制御されることで駆動力も急増させられるので、再踏込み操作時には、エンジントルクが増加されるので、アクセルペダル54を急開操作したときの車両のもたつき感が抑制される。
【0039】
また、電子制御装置14によれば、急戻し操作直前の制御用アクセル開度accpfctrl
(i−1)から急戻し操作によるドライバーアクセル開度accpfbの減少率よりも小さい所定の減少率で制御用アクセル開度accpfctrlを下限ガードする減衰アクセル開度accpfdecが減少させる場合に用いられる減少率は、車速、路面勾配、或いは車両重量が大きいほど小さくなるように設定される、車速、路面勾配、或いは車両重量の関数である。これにより、車速、路面勾配、車両重量が大きいほど小さくなるように制御用アクセル開度accpfctrlの減少率が小さく設定され、アクセルペダル54の急戻し操作に続く急踏込み操作時にドライバーアクセル開度accpfb以下とする制限が解除されたt4時点では、制御用アクセル開度accpfctrlは、車速、路面勾配、車両重量が大きいほどドライバーアクセル開度accpfbを大きく上まわった値とされるので、急踏込み操作時の車両のもたつき感が好適に抑制される。
【実施例2】
【0040】
図10は、本発明の他の実施例における電子制御装置14の制御作動を説明するフローチャート、すなわち
図9に示すS7〜S9からなるサブルーチンの他の例を示している。
図10では、S10からS13までが加えられている他は、
図9と同様であるので、以下ではそのS10からS13について説明し、
図9の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0041】
S10では、アクセル戻し操作があったか否かが、ドライバーアクセル開度の減少量Δaccpfbが所定値を下回ったか否かに基づいて判断される。このS10の判断が否定される場合はS11がスキップさせられるが、肯定される場合は、S12においてアクセル戻しフラグxaccpfdecがオン状態にセットされる。次いで、S12においてアクセル踏込み操作が行なわれたか否かが、減衰アクセル開度の前回値accpfdec
(i−1)が制御用アクセル開度の前回値accpfctrl
(i−1)を下回ったか否かに基づいて判断される。このS12の判断が否定される場合はS13がスキップさせられるが、肯定される場合は、S13においてアクセル戻しフラグxaccpfdecがオフ状態にクリアされる。次いで、S14では、上記アクセル戻しフラグxaccpfdecがオン状態であるか否かに基づいてアクセル戻し状態であるか否かが判断される。S7では、上記アクセル戻しフラグxaccpfdecがオン状態であるか否かに基づいてアクセル戻し状態であるか否かが判断され、このS7の判断が肯定された場合は、S9において、減衰アクセル開度accpfdecが、ドライバーアクセル開度accpfbの実際の減少率よりも小さな減少率で減少するように設定されている。このように設定された減衰アクセル開度accpfdecは、
図8のS5以下に用いられる。
【0042】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0043】
例えば、前述の実施例の無段変速機26を含む車両では、駆動制御手段72による所謂駆動力デマンド方式の制御により、エンジン10の出力トルクと無段変速機26の変速比が制御されていたが、駆動制御手段72に替えて、たとえば、車速を示す軸と目標入力軸回転速度を示す軸との二次元座標におけるアクル開度をパラメータとした車速と目標入力軸回転速度との関係が予め記憶され、その関係から、車速およびスロットル開度に基づいて目標入力軸回転速度を決定する変速制御手段を含む制御装置が用いられてもよい。
【0044】
また、前述の実施例の無段変速機26は、所謂ベルト式無段変速機であったが、それに替えて、同軸心まわりに相対回転可能に配置されて一対のコーン間に、それらコーンの回転軸心を通る面内で揺動する回転軸心まわりに回転可能に指示されたローラが挟持された所謂トラクションタイプの無段変速機が用いられたものであってもよい。
【0045】
また、前述の実施例の無段変速機26は、所謂ベルト式無段変速機であったが、それに替えて、エンジンに連結された第1回転要素(入力軸)と第1モータジェネレータに連結された第2回転要素と動力伝達軸(出力軸)を介して駆動輪に連結された第3回転要素とを有する差動歯車装置と、動力伝達軸に連結された第2モータジェネレータとを有し、エンジンの反力を受ける第1モータジェネレータを制御して変速比を調節する、所謂電気式無段変速機が、用いられてもよい。
【0046】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が加えられ得るものである。