【文献】
FITTIPALDI NAHUEL,VACCINE,英国,ELSEVIER LTD,2007年 4月17日,V25 N18,P3524-3535
【文献】
KOCK CHRISTOPH,VETERINARY IMMUNOLOGY AND IMMUNOPATHOLOGY,NL,ELSEVIER BV,2009年12月15日,V132 N2-4,P135-145
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis(S. suis))又はS. suisによって引き起こされる疾病に対抗する免疫応答をブタで提供することができる、ネオマイシン耐性の弱毒化S. suis株であって、ビルレント親S. suis株と対比してビルレンス遺伝子rpsL-S12(30Sリボソームサブユニットタンパク質)、ABCトランスポーターATP結合膜タンパク質(ABC-ATPBMP)、および、marR転写調節因子にアミノ酸置換を有し、前記親株が配列番号:2、6および10に示すアミノ酸配列を有する野性型タンパク質をコードする核酸を含み、配列番号:4、8および12に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列を有する、前記弱毒化株。
ビルレントS. suisのチャレンジに対抗する防御免疫応答をブタに提供する、請求項5に記載の組成物。
S. suis以外の病原体と密接に関係する少なくとも1つの追加の抗原をさらに含む、請求項5から7のいずれか1項に記載の組成物。
【背景技術】
【0002】
ストレプトコッカス・スイスはもっぱらブタで増殖するグラム陽性球菌である。成獣ブタは無症状キャリアとなるが、仔豚では、前記は致死性髄膜炎、敗血症、関節炎及び気管支肺炎を引き起こし得る。成獣ブタは通常、扁桃陰窩及び上気道でS. suisを共生生物とし保持するが、細菌はまた胃腸管及び生殖管からも単離されている。ほぼ全ての成獣ブタがS. suisの保有動物として機能し、この病原体は世界中の養豚産業に影響を及ぼす。
加えて、S. suisはまた多様な哺乳動物及び鳥類種で増殖する[Gottschalk et al., 2007]。さらにまたS. suisは重要な人獣共通伝染病因子である[Perch et al., 1968](ただしS. suisによるヒトの感染は欧州及び北アメリカでは稀である)。北アメリカおよびヨーロッパにおけるこれらの事例の大半はブタ又は豚肉製品への職業的曝露にほぼ限られる。しかしながら、S. suisによるヒトの感染の発生率はS.E.アジア及び中国ではより高い。髄膜炎がヒトではもっとも一般的な症状であるが、時に敗血症及び心内膜炎もまた認められる。
【0003】
33の公知のS. suis血清型のうち、血清型2は、北アメリカ及びヨーロッパのブタの髄膜炎及び関節炎にもっとも頻繁に付随する[Fittipaldi et al., 2009; Higgins and Gottschalk, 2006]。種々のS. suisビルレンス因子には、莢膜、フィブロネクチン/フィブリノゲン結合タンパク質、血清混濁様因子(serum opacity-like factor)、並びに細胞壁リポテイコ酸及びペプチドグリカンの改変が含まれる[Baums et al., 2006; Chabot-Roy et al., 2006; de Greeff et al., 2002; Fittipaldi et al., 2008a,b; Smith et al., 1999]。さらにまた、同じ血清型の種々の株間で共有されるビルレンス因子は幅広い変形を示す[Berthelot-Herault et al., 2005; Quessy et al., 1995; Vecht et al., 1992]。S. suisビルレンスの表現型マーカーには、溶血因子、スイリシン(
slyによってコードされる)、ムラミダーゼ放出タンパク質(MRP、136kDa、遺伝子
mrpによってコードされる)として知られるLPXTG-タンパク質及び分泌タンパク質細胞外因子(EF、110kDa、遺伝子
epfによってコードされる)が含まれる。これらビルレンスタンパク質の存在とS. suisのユーラシア株のビルレント表現型との間には強い正の相関性が存在する[Gottschalk et al., 2007; Vecht et al., 1991]。これらの大陸では、血清型2 MRP
+EF
+SLY
+株は、主として疾病の重篤な臨床徴候を示す病気のブタから単離されるが、MRP
-EF
-SLY
-株はしばしば健康なブタから単離されている[Allgaier et al., 2001; Vecht et al., 1992]。
【0004】
全細胞及び多数のS. suisタンパク質が潜在的ワクチン候補物質として研究されてきた。野生型バクテリンによる免疫は同種血清型によるチャレンジを完全に防御したが、無莢膜変異体は防御を与えることができなかった[Wisselink et al., 2002]。Liらが実施した実験では、Quil Aと組み合わせた組換え体SAO(S. suis表面タンパク質)は、ブタのS. suis血清型2の疾病を防御した。SAOによる筋肉内免疫は顕著な液性抗体応答を誘引したが、もっぱらIgG2であった。組換えSAO免疫はまたオプソニン食菌作用抗体を誘発した[Li et al., 2007]。S. suis株P1/7(血清型2)由来の精製スイリシンによる仔豚の免疫は中和抗体力価を高め、SLYが防御抗原として機能する可能性を示唆した[Jacobs et al., 1996]。しかしながら、これらの実験のいずれも、これらの抗原を用いてワクチン免疫したブタのチャレンジに異種血清型を使用しなかった。Baumsらによる研究では、S. suis血清型2のバクテリンは同種チャレンジに対抗する防御免疫を誘発した。対照的に、MAPサブユニットの防御有効性は低かったが、ただしMAP免疫はMRP及びSAOに対して高い血清IgG2力価を生じた。重要なことに、MAPではなくバクテリンによる免疫は血清型2株に対してオプソニン作用抗体力価を誘発し、これらの抗体力価は防御と相関性を示すことが見出された。しかしながら、無莢膜の同質遺伝子系変異体による吸収後、バクテリン免疫仔豚の当該血清は、好中球による殺滅を促進できず、莢膜に対する抗体はオプソニン食菌作用のために主要なものではない可能性を示した[Baums et al., 2009]。さらにまた、血清型9に対するオプソニン作用抗体の誘発はバクテリン投与グループ又はMAPワクチン投与グループでは検出されず、血清型9株に対して低い防御をもたらした。
これらワクチン免疫-チャレンジ実験のいずれもS. suis感染に対する広範囲防御をもたらさなかった。さらにまた、S. suisによる病理発生の分子レベルにおける正確な理解に関する情報は、一血清型内の複数の株間に存在する多数のビルレンス因子及び当該宿主との相互作用に関与する複雑な分子メカニズムのためにばらばらの状態である。S. suis感染に対する有効なワクチンが存在しないことは近代的養豚産業の重大な問題である。したがって、本開示の第一の目的は安全で有効なS. suisワクチンを提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は以下を提供する:微生物(例えば細菌、例えばグラム陽性細菌、例えばストレプトコッカス・スイス(S. suis))の弱毒化に関与するヌクレオチド配列及び遺伝子;前記ヌクレオチド配列によってコードされる生成物(例えばタンパク質、抗原、免疫原、エピトープ);そのようなヌクレオチド配列、生成物、微生物を製造する方法;及び前記のための使用、例えばワクチン若しくは免疫原性組成物の製造のための使用、又は免疫学的若しくは免疫応答の誘引のための使用、又はベクター(例えば発現ベクター(例えばin vitro若しくはin vivo発現ベクター))としての使用。
微生物のヌクレオチド配列及び遺伝子に導入された変異は新規かつ明確でない弱毒変異体を生じる。これらの変異体は、高度な免疫原性を有する生弱毒免疫原性組成物又は生弱毒ワクチンの製造に有用である。
これらの変異体はまた、発現生成物のin vitro発現のために、或いはヌクレオチド配列の再生若しくは複製(例えばDNAの複製)のために、及びin vivo発現生成物のために有用であり得るベクターとして有用である。
該変異の同定は、新規かつ明確でないヌクレオチド配列及び遺伝子、或いは該ヌクレオチド配列及び遺伝子によってコードされる新規かつ明確でない遺伝子産物を提供する。
そのような遺伝子産物は、抗原、免疫原及びエピトープを提供し、単離された遺伝子産物として有用である。
そのような単離された遺伝子産物、或いはそのエピトープはまた抗体(診断的応用で有用である)の生成のために有用である。
そのような(エピトープ、抗原若しくは免疫原を提供又は生成できる)遺伝子産物はまた、免疫原性又は免疫学的組成物、或いはワクチンのために有用である。
【0009】
ある特徴では、本発明はヌクレオチド配列又は遺伝子の弱毒化変異を含む細菌を提供し、ここで該変異は、遺伝子によってコードされるポリペプチド又はタンパク質の発現及び/又は生物学的活性を改変し、低下又は停止させて該細菌のビルレンスの弱毒化をもたらす。
該変異は、必ずしもコード配列又は遺伝子内に位置してその機能を破壊し弱毒化をもたらすわけではない。該変異はまた、該遺伝子の発現の調節に必要とされるヌクレオチド配列、例えば転写開始、翻訳及び転写終了を調節する領域で生じ得る。したがって、以下の配列がまた含まれる:プロモーター及びリボソーム結合領域(一般的にはこれらの調節エレメントはコード配列又は遺伝子の開始コドンの上流約60から250ヌクレオチドの間に位置する:Doree S M et al., J. Bacteriol. 2001, 183(6): 1983-9;Pandher K et al., Infect. Imm. 1998, 66(12): 5613-9;Chung J Y et al., FEMS Microbiol letters 1998, 166: 289-296)、転写ターミネーター(一般的には該ターミネーターはコード配列又は遺伝子の停止コドンの下流約50ヌクレオチド内に位置する:Ward C K et al., Infect. Imm. 1998, 66(7): 3326-36)。オペロンの場合には、そのような調節領域は遺伝子又はコード配列のさらに遠く離れた上流に存在し得る。遺伝子間領域における変異もまた弱毒化をもたらすことができる。
【0010】
コード配列又は遺伝子に付随するそのような調節配列内の変異(このヌクレオチド配列の変異は、該遺伝子によってコードされるポリペプチド又はタンパク質の発現及び/又は生物学的活性を改変、阻害又は完全停止して該細菌のビルレンスを弱毒化させる)は、本発明で同定される遺伝子又はコード配列内の変異と等価であろう。
弱毒化は、該細菌の病原性及び臨床徴候又は病巣の重篤度を軽減又は完全停止させ、該細菌の増殖速度を低下させ、該細菌による死を予防する。
特に、本発明は、動物で免疫原性応答を誘引する弱毒S. suis 株、特にブタで応答を誘引、誘発又は刺激する弱毒S. suis株及び前記を含むワクチンを包含する。
対象となる具体的なS. suis弱毒株は、野生型ビルレント親株と対比して、ビルレンスと密接に関係する遺伝子に変異を有する。開示の変異を有する株に加えて、本開示のビルレンス遺伝子に多数の変異を有する弱毒株を本発明の実施に用い得ることは理解されよう。
ある実施態様では、弱毒株は、配列番号:3、7、11に示すヌクレオチド、又はこれらの組み合わせを含む核酸配列を含む。本開示の時点で、これらの配列は、天然に存在するいずれのS. suisゲノムにおいても存在が公知ではなく、これらの配列は本発明者の変異導入方法の結果として唯一作製され、ここで該野生型遺伝子は配列番号:1、5及び9に示すヌクレオチドを含んでいた。
【0011】
別の実施態様では、弱毒S. suis株は、配列番号:4、8、12に示す配列、又はこれらの組み合わせを有するペプチドをコードする核酸を含む。さらにまた別の実施態様では、該株は、配列番号:2、6、10に示す配列又はこれらの組み合わせに関して、少なくとも1つのアミノ酸置換を有するペプチドをコードする核酸を含む。ある実施態様では、該置換は(ワクチン株について)表1に示すとおりである。
さらに別の実施態様では、弱毒S. suis株は、そのビルレント親株と対比して、特許受託番号PTA-13269としてATCCに寄託された株と同じ遺伝子に変異を有する。これらの変異は、そのビルレント親株と対比してビルレンスの低下を有する弱毒株を生じる。
具体的な実施態様では、該弱毒株は特許受託番号PTA-13269としてATCCに寄託された株である
別の特徴では、新規な弱毒S. suis株は、S. suis及びS. suisにより引き起こされる感染/疾病に対抗する安全で有効なワクチンに処方される。
ある実施態様では、該S. suisワクチンはさらにアジュバントを含む。具体的な実施態様では、アジュバントは、粘膜アジュバント(例えばキトサン、メチル化キトサン、トリメチル化キトサン、又は前記の誘導体若しくは組み合わせ)である。
【0012】
ある実施態様では、アジュバントは、細菌そのもの及び/又はウイルスそのもの(H. パラスイス(H. parasuis)、ブタインフルエンザウイルス(SIV)、ブタシルコウイルス(PCV)、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルス(PRRSV)、マンヘイミア、パスツレラ、ヒストフィルス、サルモネラ、大腸菌(Escherichia coli)、又はこれらの組み合わせ及び/又は変種を含む)を含む。いくつかの実施態様では、アジュバントは、当該動物のIgM、IgG、IgA及び/又は前記の組み合わせの産生を高める。
“抗原”又は“免疫原”とは、宿主動物で特異的な免疫応答を誘発する物質を意味する。抗原は以下を含むことができる:全生物(死滅、弱毒化又は生);ある生物のサブユニット又は部分;免疫原性特性を有する挿入物を含む組換えベクター;宿主動物に提示されたとき免疫応答を誘発できるDNA断片又はフラグメント;ポリペプチド、エピトープ、ハプテン又は前記の任意の組み合わせ。また別には、免疫原又は抗原は毒素又は抗毒素を含むことができる。
【0013】
“タンパク質”、“ペプチド”、“ポリペプチド”及び“ポリペプチドフラグメント”という用語は本明細書では互換的に用いられ、任意の長さのアミノ酸残基ポリマーを指す。該ポリマーは直鎖状でも分枝状でもよく、改変アミノ酸又はアミノ酸アナローグを含むことがあり、さらにアミノ酸以外の化学的部分によって中断され得る。前記用語はまた、天然に、又は介入(例えばジスルフィド結合の形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化)、又は任意の他の操作若しくは改変(例えば標識又は生物活性成分との複合物形成)によって改変されてあるアミノ酸ポリマーを包含する。
本明細書で用いられる“免疫原性又は抗原性ポリペプチド”という用語は、いったん宿主に投与されたら、当該タンパク質に対抗する液性及び/又は細胞性タイプの免疫応答を惹起できるという意味で免疫学的に活性なポリペプチドを含む。好ましくは、該タンパク質フラグメントは、実質的に全タンパク質と同じ免疫学的活性を有するものである。したがって、本発明のタンパク質フラグメントは、少なくとも1つのエピトープ又は抗原性決定基を含むか、本質的に前記から成るか、又は前記から成る。本明細書で用いられる“免疫原性”タンパク質又はポリペプチドには、タンパク質の完全長配列、そのアナローグ、又はその免疫原性フラグメントが含まれる。“免疫原性フラグメント”とは、1つ以上のエピトープを含み、したがって上記に記載した免疫学的応答を誘引するタンパク質のフラグメントを意味する。そのようなフラグメントは、当業界で周知の多数のエピトープマッピング技術を用いて同定できる。例えば以下を参照されたい:Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66(Glenn E. Morris, Ed., 1996)。例えば、線状エピトープは、例えば多数のペプチド(タンパク質分子の部分と一致するペプチド)を固相上で同時に合成し、当該ペプチドが支持相になお結合している間に抗体と該ペプチドを反応させることによって決定することができる。そのような技術は当業界で公知であり、例えば以下に記載されている:U.S. Pat. No. 4,708,871;Geysen et al., 1984;Geysen et al., 1986。同様に、配座エピトープは、アミノ酸の空間配座を、例えばx線結晶学及び二次元核磁気共鳴によって決定することによって容易に同定される。例えば以下を参照されたい:Epitope Mapping Protocols(上掲書)。特にT. parvaのタンパク質に利用できる方法はPCT/US2004/022605に完全に記載されている(前記文献は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。
【0014】
本明細書で考察するように、本発明は抗原性ポリペプチドの活性なフラグメント及び変種を包含する。したがって、“免疫原性又は抗原性ポリペプチド”という用語は、該ポリペプチドが機能して本明細書に定義する免疫学的応答を生じるかぎり、当該配列に対する欠失、付加及び置換を意図する。“保存的変形”という用語は、あるアミノ酸残基の生物学的に類似する別のアミノ酸残基による入替え、又はコードされるアミノ酸残基が変化しないか或いは生物学的に類似する別の残基であるような核酸配列中のヌクレオチドの入替えを指す。これに関して、特に好ましい置換は一般的に性質が保存的であろう(すなわち、アミノ酸の1つのファミリー内で生じる置換)。例えば、アミノ酸は一般的に以下の4つのファミリーに分類される:(1)酸性-‐アスパラギン酸及びグルタミン酸;(2)塩基性--リジン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性--アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;及び(4)非荷電極性--グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン。フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンは時に芳香族アミノ酸として分類される。保存的変形の例には以下が含まれる:1つの疎水性残基(例えばイソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニン)による別の疎水性残基の置換、又は1つの極性残基による別の極性残基の置換(例えばアルギニンによるリジンの置換、グルタミン酸によるアスパラギン酸の置換、又はグルタミンによるアスパラギンの置換など);又は、生物学的活性に対して大きな影響を与えない、あるアミノ酸の構造的に関連するアミノ酸による同様な保存的入替え。参照分子と実質的に同じアミノ酸配列を有するが、当該タンパク質の免疫原性に実質的に影響を及ぼさない小さなアミノ酸置換を有するタンパク質は、したがって参照ポリペプチドの定義内にある。これらの改変によって生成されるポリペプチドはいずれもこの中に含まれる。“保存的変形”という用語はまた、置換されていない親アミノ酸の代わりに置換されたアミノ酸の使用を含むが、ただし置換されたポリペプチドに対して生じた抗体が置換されていないポリペプチドとも免疫反応することを条件とする。
【0015】
“エピトープ”という用語は、特異的B細胞及び/又はT細胞が応答する抗原又はハプテンの部位を指す。前記用語はまた“抗原性決定基”又は“抗原性決定部位”と互換的に用いられる。同じエピトープを認識する抗体は、ある抗体が別の抗体の標的抗原との結合を阻止する能力を示す単純な免疫アッセイで同定できる。
組成物又はワクチンに対する“免疫学的応答”は、対象となる組成物又はワクチンに対する宿主の細胞性及び/又は抗体媒介免疫応答の発生である。通常、“免疫学的応答”には1つ以上の以下の作用が含まれる(ただしこれらに限定されない):対象となる組成物又はワクチンに含まれる1つの抗原又は複数の抗原を特異的に指向する抗体、B細胞、ヘルパーT細胞、及び/又は細胞傷害性T細胞の産生。好ましくは、宿主は、新規な感染に対する耐性が強化され当該疾患の臨床的重篤度が軽減されるように、治療的又は防御的な免疫学的応答を示すであろう。そのような防御は、感染宿主が通常示す症状又は臨床徴候の軽減又は欠如、より迅速な回復期間、及び/又は感染宿主のウイルス力価の低下によって示されるであろう。
“動物”とは哺乳動物、鳥類その他が意図される。本明細書で用いられる動物又は宿主には哺乳動物及びヒトが含まれる。該動物は、ウマ科の動物(例えばウマ)、イヌ科の動物(例えばイヌ、オオカミ、キツネ、コヨーテ、ジャッカル)、ネコ科の動物(例えばライオン、トラ、イエネコ、野生ネコ、他の大型のネコ、及び他のネコ科の動物(チーター及びオオヤマネコを含む))、ヒツジ類(例えばヒツジ)、ウシ科の動物(例えばウシ)、ブタ類(例えばブタ)、鳥類(例えばニワトリ、アヒル、ガン、シチメンチョウ、ウズラ、キジ、オウム、フィンチ、タカ、カラス、ダチョウ、エミュー、及びヒクイドリ)、霊長類(例えば原猿類、メガネザル、有尾猿類、テナガザル、無尾猿類)、フェレット、アザラシ、及び魚類から成る群から選択できる。“動物”という用語にはまた、全ての発育段階(新生児期、胚性期及び胎児期を含む)の個々の動物が含まれる。
【0016】
特段の説明がなければ、本明細書で用いられる全ての技術用語及び学術用語は、本開示が属する分野の通常の技術を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。単数用語の“a”、“an”及び“the”は、文脈が明らかにそうでないことを示さないかぎり複数の対応語を含む。同様に、“or”という語も、文脈が明らかにそうでないことを示さないかぎり“and”を含むことが意図される。
本開示及び特に特許請求項及び/又はパラグラフでは以下に留意されたい:例えば“comprises”、“comprised”、“comprising”などの用語は、米国特許法においてそれら用語が帰属する意味を有し、例えばそれら用語は“includes”、“included”、“including”などを意味することができ、さらに、例えば“consisting essentially of”、及び“consists essentially of”のような用語は、米国特許法においてそれら用語が帰属する意味を有し、例えばそれら用語は、はっきりと列挙されていない成分を許容するが、先行技術で見出されているか又は本発明の基本的若しくは新規な特徴に影響を与える成分を排除する。
【0017】
組成物
本発明は、弱毒S. suis株及び医薬的若しくは獣医的に許容できる担体、賦形剤又はビヒクルを含むことができる、動物で応答を誘引、誘発又は刺激するS. suisワクチン又は組成物に関する。
“核酸”及び“ポリヌクレオチド”という用語は、直鎖状若しくは分枝状、一本鎖若しくは二本鎖又は前記のハイブリッドであるRNA又はDNAを指す。前記用語はまたRNA/DNAハイブリッドを包含する。以下はポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子若しくは遺伝子フラグメント、エクソン、イントロン、mRNA、tRNA、rRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝状ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ及びプライマー。ポリヌクレオチドは、修飾ヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチド及びヌクレオチドアナローグ、ウラシル、他の糖及び結合基(例えばフルオロリボース及びチオレート)、及びヌクレオチド分枝を含むことができる。ヌクレオチドの配列は重合の後で、例えば標識成分との複合物形成によってさらに改変できる。本定義に含まれる他の改変のタイプは、キャップ、1つ以上の天然に存在するヌクレオチドのアナローグによる置換、ポリヌクレオチドをタンパク質、金属イオン、標識成分、他のポリヌクレオチド又は固相に結合するための手段の導入である。ポリヌクレオチドは化学的合成によって入手するか、又は微生物から誘導できる。
【0018】
“遺伝子”という用語は、生物学的機能と密接に関係するポリヌクレオチドの任意のセグメントを指すために広く用いられる。したがって、遺伝子は、ゲノム配列の場合のようにイントロン及びエクソン、又はcDNAの場合のようにまさにコード配列及び/又はそれらの発現に必要な調節配列を含む。例えば、遺伝子はまた、mRNA若しくは機能的RNAを発現するか又は特定のタンパク質をコードする核酸フラグメントを指し、前記は調節配列を含む。
“単離された”生物学的成分(例えば核酸又はタンパク質又は細胞内小器官)は、該成分が天然に存在する生物の細胞内の他の生物学的成分(例えば他の染色体及び染色体外DNA及びRNA、タンパク質並びに細胞内小器官)から分離されてあるか又は精製されてある成分を指す。“単離”された核酸及びタンパク質には、標準的な精製方法によって生成された核酸及びタンパク質が含まれる。前記用語はまた化学合成と同様に組み換え技術によって調製された核酸及びタンパク質を包含する。
“保存的変化”という用語は、あるアミノ酸残基の生物学的に類似する別のアミノ酸残基による入替え、又はコードされるアミノ酸残基が変化しないか或いは生物学的に類似する別の残基であるような核酸配列中のヌクレオチドの入替えを指す。これに関して、特に好ましい置換は、上記に記載したように一般的に性質が保存的であろう
【0019】
“組換え体”という用語は、自然界には存在しないか又は自然界では見出されない編成で別のポリヌクレオチドと連結された、半合成又は合成起源のポリヌクレオチドを意味する。
“異種”とは、目下比較されている実体の残部と遺伝的に別個の実体に由来することを意味する。例えば、あるポリヌクレオチドを異なる供給源から誘導されたプラスミド又はベクターに遺伝子操作技術によって配置することができ、前記ポリヌクレオチドは異種ポリヌクレオチドである。その自然のままのコード配列から取り出され、前記自然のままの配列以外のコード配列に機能的に連結されたプロモーターは異種プロモーターである。
本発明のポリヌクレオチドは、追加の配列、例えば同じ転写ユニット内の追加のコード配列、制御エレメント(例えばプロモーター、リボソーム結合部位、5’UTR、3’UTR、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位)、同じ若しくは異なるプロモーターの制御下にある追加の転写ユニット、クローニング、発現、同種組換え及び宿主細胞の形質転換を可能にする配列、並びに本発明の具体化を提供するために所望され得る任意の構築物を含むことができる。
【0020】
使用方法及び製造物品
本発明は以下の実施態様の方法を含む。ある実施態様では、弱毒S. suis株及び医薬的若しくは獣医的に許容できる担体、賦形剤又はビヒクルを含む組成物を動物に投与する工程を含む、動物をワクチン免疫する方法が開示される。この実施態様のある特徴では、動物はブタである。
本発明のある実施態様では、プライム-ブースト投薬スケジュールを用いることができ、前記は、少なくとも1回の基礎投与及び少なくとも1回のブースター投与を含み、少なくとも1つの共通のポリペプチド、抗原、エピトープ又は免疫原が用いられる。典型的には、基礎投与に用いられる免疫学的組成物又はワクチンは、ブースターとして用いられるものとは性質が異なる。しかしながら、同じ組成物を基礎投与及びブースター投与として用いることができることは特記される。この投与プロトコルは“プライム-ブースト”と称される。
プライム-ブースト投薬スケジュールは、少なくとも1回のプライム投与及び少なくとも1回のブースト投与を含み、少なくとも1つの共通のポリペプチド及び/又はその変種又はフラグメントが用いられる。プライム投与で用いられるワクチンは、後のブースターワクチンとして用いられるものとは性質が異なっていてもよい。プライム投与は1回以上の投与を含むことができる。同様に、ブースト投与も1回以上の投与を含むことができる。
【0021】
哺乳動物である標的種に対する組成物の用量体積(例えば、細菌抗原をベースにするブタ又はブタ類用組成物の用量体積)は、一般的に約0.1から約2.0mL、約0.1から約1.0mL、及び約0.5mLから約1.0mLである。
ワクチンの有効性は、最後の免疫後約2から4週間で、動物(例えばブタ)をS. suisのビルレント株でチャレンジすることによって試験できる。同種及び異種株の両方をチャレンジに用いてワクチンの有効性を試験する。動物は、IM又はSC注射、スプレーによって、鼻内、眼内、気管内、及び/又は経口でチャレンジできる。関節、肺、脳、及び/又は口に由来するサンプルをチャレンジの前後に収集でき、さらにS. suis特異的抗体の存在について分析することができる。
プライム-ブーストプロトコルで用いられる本発明の弱毒化細菌株を含む組成物が医薬的又は獣医的に許容できるビヒクル、希釈剤又は賦形剤中に含まれる。本発明のプロトコルは動物をS. suisから防御し及び/又は感染動物で疾病の進行を予防する。
多様な投与が好ましくは1から6週間離して実施される。好ましい時間的間隔は3から5週間、ある実施態様にしたがえば最適には4週間であり、毎年のブースターもまた想定される。動物(例えばブタ)は、最初の投与時に少なくとも3−4週齢であり得る。
本明細書の開示は例示として提供され、本発明は前記に限定されないことは当業者には理解されよう。本明細書の開示及び当業界の情報から、当業者は、各注射プロトコルで用いられる投与回数、投与ルート及び用量を一切の煩雑な実験を実施することなく決定できる。
【0022】
本発明の別の実施態様は、動物でS. suisに対する免疫学的又は防御的応答を誘引若しくは誘発する方法を実施するためのキットであり、前記キットは、弱毒S. suisの免疫学的組成物又はワクチン、及び動物の免疫応答の誘引に有効な量でデリバリーする方法を実施するための指示を含む。
本発明の別の実施態様は、動物でS. suisに対する免疫学的又は防御的応答を誘発する方法を実施するためのキットであり、前記キットは、本発明の弱毒S. suis株を含む組成物又はワクチン、及び動物の免疫応答の誘引に有効な量でデリバリーする方法を実施するための指示を含む。
本発明のさらにまた別の特徴は、上記に記載した本発明のプライム-ブーストワクチン免疫のためのキットに関する。該キットは以下の少なくとも2つのバイアルを含む:本発明のプライムワクチン免疫のためのワクチン又は組成物を含む第一のバイアル、及び本発明のブーストワクチン免疫のためのワクチン又は組成物を含む第二のバイアル。該キットは、有利には追加のプライムワクチン免疫又は追加のブーストワクチン免疫のための追加の第一又は第二のバイアルを含むことができる。
【0023】
医薬的に又は獣医的に許容できる担体又はビヒクル又は賦形剤は当業者には周知である。例えば、医薬的又は獣医的に許容できる担体又はビヒクル又は賦形剤は、0.9%NaCl(例えば食塩水)溶液又はリン酸緩衝剤であり得る。本発明の方法に用いることができる他の医薬的又は獣医的に許容できる担体又はビヒクル又は賦形剤には、ポリ-(L-グルタメート)又はポリビニルピロリドンが含まれるが、ただし前記に限定されない。医薬的又は獣医的に許容できる担体又はビヒクル又は賦形剤は、該ベクター(又は本発明のベクターからin vitroで発現されるタンパク質)の投与を促進する任意の化合物又は化合物の組み合わせであり得る。有利には、該担体、ビヒクル又は賦形剤はトランスフェクションを促進できるか、及び/又は該ベクター(又はタンパク質)の保存を改善できる。用量及び用量体積は本明細書で一般的な記述として考察され、当業者はまた、煩雑な実験を行うことなく、当業界の情報と合わせて本開示の教示から前記を決定することができる。
【0024】
本発明の免疫学的組成物及びワクチンは1つ以上のアジュバントを含むか又は本質的に前記から成り得る。本発明の実施に使用される適切なアジュバントは、(1)アクリル酸又はメタクリル酸ポリマー、無水マレイン酸及びアルケニル誘導体ポリマー、(2)免疫刺激配列(ISS)、例えば1つ以上の非メチル化CpGユニットを有するオリゴデオキシリボヌクレオチド配列(Klinman et al., 1996;WO98/16247)、(3)水中油エマルジョン、例えば文献(“Vaccine Design, The Subunit and Adjuvant Approach”(M. Powell, M. Newman, Plenum Press 1995))の147ページに記載されたSPTエマルジョン、及び同書の183ページに記載されたエマルジョンMF59、(4)第四アンモニウム塩を含む陽イオン脂質、例えばDDA、(5)サイトカイン、(6)水酸化アルミニウム又はリン酸アルミニウム、(7)サポニン、又は(8)本出願に引用され参照により組み入れられた文書のいずれかで考察される他のアジュバント、又は(9)前記の任意の組み合わせ若しくは混合物である。
ある実施態様では、アジュバントには粘膜基底層の吸収の改善を促進するものが含まれる。いくつかの実施例は、MPL、LKT63、毒素、PLG微粒子及び他のいくつかのもの(Vajdy, M. Immunology and Cell Biology (2004) 82, 617-627)を含む。ある実施態様では、アジュバントはキトサンであり得る(Van der Lubben et al. 2001; Patel et al. 2005; Majithiya et al. 2008; US Patent Serial No. 5,980.912)。
ある実施態様では、アジュバントは、不活化細菌、不活化ウイルス、不活化細菌の断片、細菌のリポ多糖類、細菌毒素、又は前記の誘導体若しくは組み合わせであり得る。
ある実施態様では、アジュバントは、全細菌及び/又はウイルス(H. パラスイス、クロストリジウム、ブタ免疫不全ウイルス(SIV)、ブタシルコウイルス(PCV)、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルス(PRRSV)、マンヘイミア、パスツレラ、ヒストフィルス、サルモネラ、大腸菌、又は前記の組み合わせ及び/又は変種を含む)を含む。いくつかの実施態様では、アジュバントは、動物のIgM、IgG、IgA及び/又は前記の組み合わせの産生を高める。
【0025】
文献
1. Allgaier, A., et al. 2001. Relatedness of Streptococcus suis isolates of various serotypes and clinical backgrounds as evaluated by macrorestriction analysis and expression of potential virulence traits. J. Clin. Microbiol. 39, 445-453.
2. Baums, C. G. , et al., 2006. Identification of a novel virulence determinant with serum opacification activity in Streptococcus suis. Infect. Immun. 74, 6154-6162.
3. Baums, C.G., et al., 2009. Streptococcus suis bacterin and subunit vaccine immunogenicities and protective efficacies against serotypes 2 and 9.Clin Vaccine Immunol. 2, 200-208.
4. Berthelot-Herault, F., et al., 2005. Dilemma of virulence of Streptococcus suis: Canadian isolate 89- 1591 characterized as a virulent strain using a standardized experimental model in pigs. Can. J. Vet. Res. 69, 236-240.
5. Chabot-Roy, G. et al., 2006. Phagocytosis and killing of Streptococcus suis by porcine neutrophils. Microb. Pathog. 41, 21-32.
6. Davidson A.L., et al., 2008. Structure, function, and evolution of bacterial ATP-binding cassette systems". Microbiol. Mol. Biol. Rev. 72, 317-364.
7. Davidson A.L., Chen J., 2004. ATP-binding cassette transporters in bacteria". Annu. Rev. Biochem 73, 241-268.
8. de Greeff, A., et al., 2002. Contribution of fibronectin-binding protein to pathogenesis of Streptococcus suis serotype 2. Infect. Immun. 70, 1319-1325.
9. Fittipaldi, N. et al., 2008a. Significant contribution of the pgdA gene to the virulence of Streptococcus suis. Mol. Microbiol. 78, 1120-1135.
10. Fittipaldi, N. et al., 2008b. D-Alanylation of lipoteichoic acid contributes to the virulence of Streptococcus suis. Infect. Immun. 76, 3587-3594.
11. Fittipaldi, N. et al., 2011. Lineage and virulence of Streptococcus suis serotype 2 isolates from North America. Emerg Infect Dis. 12, 2239-2244.
12. Gottschalk, M. et al., 2007. Streptococcus suis infections in humans: the Chinese experience and the situation in North America. Anim. Health Res. Rev. 8, 29-45.
13. Henderson D.P., Payne, S.M., 1994. Vibrio cholerae iron transport system: roles of heme and siderophore iron transport in virulence and identification of a gene associated with multiple iron transport systems". Infect. Immun 62, 5120-5125.
14. Higgins, R., Gottschalk, M., 2006. Streptococcocal diseases. In: Straw, B.E., D’Allaire, S., Mengeling, W.L., Taylor, D.J. (Eds.), Diseases of Swine. Blackwell Publishing, pp. 769-783.
15. Jacobs, A., et al., 1996. Protection of experimentally infected pigs by suilysin, the thiol-activated hemolysin of Streptococcus suis. Vet. Rec. 139, 225-228.
16. Li, Y., et al., 2007. Immunization with recombinant Sao protein confers protection against streptococcus suis infection. Clin. Vaccine Immunol. 14, 937-943.
17. McEvoy, G.K., editor. 1989. AHFS Drug information 89. Bethesda, MD: American Society of Hospital Pharmacists, 1925-1927.
18. Perch, B., et al., 1968. Group R streptococci pathogenic for man. Two cases of meningitis and one fatal case of sepsis. Acta Pathol Microbiol Scand 74, 69-76.
19. Poole, R.K., et al., 1994. The cydD gene product, component of a heterodimeric ABC transporter, is required for assembly of periplasmic cytochrome-c and of cytochrome-bd in Escherichia coli". FEMS Microbiol. Lett. 117, 217-224.
20. Poolman, B., et al., 2004. Bacterial osmosensing: roles of membrane structure and electrostatics in lipid-protein and protein-protein interactions". Biochim. Biophys. Acta 1666, 88-104.
21. Quessy, S., et al., 1995. Discrimination of virulent and avirulent Streptococcus suis capsular type 2 isolates from different geographical origins. Infect. Immun. 63, 1975-1979.
22. Smith, H.E., et al., 1999. Identification and characterization of the cps locus of Streptococcus suis serotype 2: the capsule protects against phagocytosis and is an important virulence factor. Infect. Immun. 67, 1750-1756.
23. Sinha, R.P.,1977. Acriflavine-Resistant Mutant of Streptococcus cremoris. Antimicro and Chemo 12, 383-389.
24. Vecht, U. et al., 1991. Identification of two proteins associated with virulence of Streptococcus suis type 2. Infect. Immun. 59, 3156-3162.
25. Vecht, U. et al., 1992. Virulence of Streptococcus suis type 2 strains in newborn germfree pigs depends on phenotype. Infect. Immun. 60, 550-556.
26. Wisselink, H. J., et al., 2002. Assessment of protective efficacy of live and killed vaccines based on a non-encapsulated mutant of Streptococcus suis serotype 2. Vet. Microbiol. 84, 155-168.
27. Zhou, Z.M., et al.,1998. Function of Escherichia coli MsbA, an essential ABC family transporter, in lipid A and phospholipid biosynthesis". J. Biol. Chem. 273,12466-12475.
28. George, A. M., and S. B. Levy. 1983. Gene in the major cotransduction gap of the Escherichia coli K-12 linkage map required for the expression of chromosomal resistance to tetracycline and other antibiotics. J. Bacteriol. 155:541-548
【0026】
これから以下の非限定的な例示によって本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0027】
弱毒S. suisの作製及びゲノム分析
S. suis感染に対する広範囲に防御的なワクチンを開発するために、US野外株(親株、Newport Laboratories no. 8-1433-1、配列番号:9)をブタの脳拭取り検体から単離した。該単離株は、生化学的反応及び凝集試験によりS. suis血清型2と同定された。この親株の弱毒化は、Sinhaらが記載したようにアクリフラビンヒドロクロリドを用いて化学的変異導入によって達成された。簡単に記せば、10μM/mLのアクリフラビンヒドロクロリドを補充した、5%ヒツジ血液含有トリプチカーゼ大豆ブロスでS. suis親細胞を18時間増殖させた。残存細胞をヒツジ血液寒天プレートで再単離した。20の個々のクローンを選別し、同じ液体培地で別々に増殖させた。20のうちの1つの培養を選択し、ブタに注射して(1.76x10
9細胞/mL)ビルレンスを決定した。10匹のブタに経口接種し、26日間観察した。S. suis感染に一致する臨床徴候がこの期間に認められた。高度の弱毒化に加えて、この変異株はネオマイシン耐性であった。さらにまた、当該変異体/ワクチン候補株(配列番号:10)の全ゲノムを親株(配列番号:9)も同様に完全に配列決定し、一ヌクレオチド多形性(SNP)(非ビルレント表現型を付与し得る)について分析した。
【0028】
配列決定:親株及び変異株のゲノム配列決定のために、S. suisの対数期培養をペレットにし、Qiagen DNAミニキット(Qiagen, Valencia, CA)を用いて精製した。続いてゲノムDNAライブラリーを作製し(Illumina Genomic DNA Prep Kit, Illumina, San Diego, CA)、クラスタージェネレーションステーション(Cluster Generation Station)装置(Illumina)を用いシングルエンドフローセルv4(Single End Flow Cell v4)でクラスター増幅に付し、〜600,000mm
2の未加工クラスター量を生成した。配列決定キット試薬(Illumina)を用い56サイクル用ゲノムアナライザーGAIIで配列決定を実施した。続いて配列をS. suis, P1/7(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AM946016.1)(配列番号:11)の報告されたGenBankゲノム配列と比較し、公知の規定配列との相同性を確認した。親株と変異株の両配列を比較して、それら遺伝子のコード配列に生じた一ヌクレオチド多形性を探した(ただし非コード領域もまた弱毒/非ビルレント表現型に必要なことがあることを本発明者らは認識及び想定している)。前記分析はいくつかのSNPを明らかにし、アミノ酸変化を生じたもの(非類似)を更なる検証に付した。アミノ酸変化をもたらしたSNPを、確立されたプロトコルにしたがいサンガー(Sanger)配列決定技術を用いて検証した。
【0029】
カスタムパイソン(Python)スクリプトを用いて品質について読み取りデータをフィルタリングした。最初に低品質塩基を読み取りデータの末端からトリミングし、その後で、20を超える品質を有する少なくとも40bpが存在しかつ不明瞭とされる内部塩基が存在しない場合にのみそれらを保存した。トリミングとフィルタリング工程に続いて、バーロウ-ウィーラー(Burrows-Wheeler)アライナー(BWA)バージョン0.6.1-r104(http://bio-bwa.sourceforge.net/)を用い、参照ゲノムセットに対比させて読み取りデータをマッピングした。続いて、変種に呼称を付すために、SAMツールパッケージ(http://samtools.sourceforge.net/)を用いてBWAの配列アラインメント/マップ(SAM)出力をさらに分析した。続いて、Rで記述されたカスタムスクリプト(変種はゲノム内のそれらの位置に基づいて注釈を付されている)を用いて、得られた変種呼称をさらに分析した。カバレッジの深さ、SAMツールによって報告された遺伝子型の品質に基づき、さらに親及び変異体サンプルについて分離しつつある変種に関して、変種はまたフィルタリングされた。さらにまたSAMツールを用いて、マッピング結果に基づきコンセンサス配列を作製した。この配列に参照配列を基にして注釈を付し、さらにカスタムスクリプト及びバイオパイソン(BioPython)(http://biopython.org/wiki/Biopython)を用いて、アルテミス適合性のためにGenbankファイルとしてフォーマットした。親と変異体(ワクチン)ゲノムの比較は、以下の2つの遺伝子に広がる3つのSNPをもたらした:1)rpsL-S12(30Sリボソームサブユニットタンパク質)に2つのSNP;及びABCトランスポーターATP結合膜タンパク質に1つのSNP。これら3つのSNPは標準的なサンガー配列決定方法によって確認した。
【0030】
rpsL-S12(30Sリボソームサブユニットタンパク質)の機能的意義:小さな30Sサブユニットタンパク質(S)及び大きな50Sサブユニットタンパク質(L)は、タンパク質合成機構の重要な成分である。これらのサブユニットタンパク質は、多くの抗生物質の結合部位として機能し、これらサブユニットタンパク質のいずれか1つ以上の変異は抗生物質耐性又は感受性をもたらす。小さいほうのサブユニットの単一ヌクレオチド多形性(SNP)によって引き起こされる変異は、抗生物質(例えばテトラサイクリン、スペクチノマイシン、ヒグロマイシンB及びストレプトマイシン)に対する耐性を付与し、一方、大きいほうのサブユニットの変異は、クロラムフェニコール、エリスロマイシン及びストレプグラミンBに対する耐性を付与する。S. suisワクチン株は、小さいリボソームサブユニットタンパク質(S12)のこれら2つのSNPの結果としてネオマイシン耐性(16μg/mL)であり、さらに非ビルレント表現型を有する。野生型細菌では、ネオマイシンは細菌細胞膜を貫通して能動的に輸送され、細菌リボソームの30Sサブユニット上の特異的な受容体タンパク質と結合し、mRNA(メッセンジャーRNA)と30Sサブユニットとの間の開始複合体をそこないタンパク質合成を阻害する。DNAの誤読が生じ、したがって機能しないタンパク質が生成され、ポリリボソームはばらばらに分割され、タンパク質を合成することができない[McEvoy, 1989]。
【0031】
ABCトランスポーターATP結合膜タンパク質の機能的意義:細菌のATP結合カセットトランスポーター(ABCトランスポーター)は、細胞の生存及びビルレンス又はビルレンス関連因子の輸送に必須である[Davidson et al., 2008;Henderson et al., 1994]。ABCトランスポーターは細胞の生存に極めて重要であり、それらは溶質の取り込みを媒介することによってオスモプロテクタントとして機能し、浸透圧強度の致死的上昇を防止する[Poolman et al., 2004]。さらにまた、細菌のABCタンパク質はいくつかの生理学的プロセスの調節に必要である。ABCトランスポーターはまた、細胞表面の成分(例えば莢膜多糖類、リポ多糖類、及びテイコ酸)、細菌の病理発生に必要なタンパク質(例えば溶血、ヘム結合タンパク質、及びアルカリプロテアーゼ)、ヘム、加水分解酵素、S-層タンパク質、反応能因子、毒素、抗生物質、バクテリオシン、ペプチド抗生物質、シデロフォアを押し出すことによって細菌の流出系で機能する[Davidson et al., 2008;Davidson and Chen, 2004]。それらはまた生合成経路(細胞外多糖類生合成及びチトクロームの生物発生を含む)で重要な役割を果たす [Zhou et al., 1998;Poole et al., 1994]。
marR転写調節因子の機能的意義:NCBI保存ドメイン(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Structure/cdd/wrpsb.cgi?RID=WWP257HN01N&mode=all)の分析によって、この遺伝子は、多数の抗生物質耐性に必要とされる“ヘリックス-ターン-ヘリックス”モチーフ(HTH_MARR)、
marRABオペロンの部分を含む転写調節因子をコードすることが示された。大腸菌では、
marAは抗生物質耐性応答の正の調節因子をコードするが、
marRは
marRAB転写のリプレッサーをコードし、環境シグナルに対する応答でMarAの生成を制御する(George and Levy, 1983)。本開示ワクチン株のSNPはHTH_MARRドメイン(アミノ酸30から125)内に存在する。ヘリックス-ターン-ヘリックスドメインはDNAと結合し、転写調節因子の品質証明的特性を有する。野生型のMarRタンパク質は、転写調節に必要なウィング保有ヘリックスDNA結合モチーフを含む各サブユニットのダイマーである。
総合すれば、これら3つの遺伝子の変異(表1に要約されるSNP)は、NPL S. suis株を非ビルレント及びネオマイシン(さらにおそらく他の抗生物質に対しても)耐性にする。
【0032】
【表1】
【実施例2】
【0033】
ブタにおける弱毒S. suisワクチンの有効性
有効性実験の一般的プロトコル:各ワクチン希釈物のコロニー形成単位(CFU)/mLをワクチン接種前及び接種後に決定した。
これらの実験に用いた全てのブタは以下(Midwest Research Swine, Gibbon, MN)から入手され、デリバリー時に健康かつ正常であった。この群れは、過去にストレプトコッカス・スイス感染歴をもたず、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルス(PRRSV)について陰性であり極めて健康な原群と考えられる。前記原群の仔豚は、以前の試験でS. suisチャレンジに感受性の経歴を示した。ブタは17−24日齢で受領された。ワクチン接種前に動物を観察し、疾病の兆候(咳、腹部呼吸及び/又は跛行を含む)が無い時に臨床的に正常とみなした。これらの実験では個々のブタを実験単位として用い、デリバリー前に耳タグを付けた。マイクロソフトエクセルでのランダム数作成によりブタを無作為に部屋割りし、処置グループに割り当てた。
イベントスケジュール:0日目に全てのブタにワクチン接種した。ワクチングループの各ブタに1mLの適切なワクチンを経口的に投与した。コントロール動物には1mLの滅菌食塩水を経口的に投与し、それらをプラセボとして供した。ワクチン接種後約30−35日して、全てのブタをチャレンジし、チャレンジ後11日間観察した。
チャレンジ:単離チャレンジ株は脳拭取り検体サンプルに由来する(単離株8-1433-1)。この株は、血液寒天プレートでのコロニーの外観(小さくて白く滑らかな円形コロニー)、グラム染色反応、生化学試験(アルファ-溶血性、カタラーゼ陰性、6.5%塩化ナトリウムブロスで増殖しない、さらにエスクリン陽性)からストレプトコッカス・スイス2型単離株と同定された。単離株を液体培養培地でほぼ9log/mLに増殖させ、“8-1433-1”と標識した滅菌アンプルに1mLアリコットで凍結し、-80℃で保存した。この単離株のブタにおけるビルレンスは以前の実験で示された。
チャレンジのほぼ4時間前に、ビルレントな2型ストレプトコッカス・スイス野外単離株(単離株8-1433-1)のアンプルを融解した。このアンプルを用いて新しい培地に接種し、この培養を分光光度計(600ナノメートル(nm))で約1.0の光学密度に達するまで37℃で、オービタルシェーカー上でインキュベートした。前記培養をグラム染色した。連鎖小球菌の特徴的コロニー及び単独細胞が存在しかつ純粋であった。
チャレンジ接種物の生存計測数をチャレンジ直前及び直後に決定した。各ブタに前記チャレンジ接種物の2mLを筋肉内投与した。
観察:治療の割り当てを知らされていない各人がブタを毎日観察した。跛行、起立に対する抵抗、中枢神経系(CNS)の異常、又は死亡を示す全ての動物を記録した。“S. suis DMO”は表1に列挙したSNPを含む弱毒株である(この株はATCC特許受託番号PTA-13269でブダペスト条約にしたがって寄託された)。
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
本発明の好ましい実施態様をこれまで詳細に述べてきたが、上記に規定した本発明は上記に示した具体的な細目に限定されないことは理解されよう。なぜならば前記の明白な多くの変更が本発明の趣旨又は範囲を逸脱することなく可能だからである。