特許第6262757号(P6262757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6262757移動可能な磁性物体の自動認識のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262757
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】移動可能な磁性物体の自動認識のための方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/08 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
   G01V3/08 E
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-542248(P2015-542248)
(86)(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公表番号】特表2016-505813(P2016-505813A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】EP2013073656
(87)【国際公開番号】WO2014079740
(87)【国際公開日】20140530
【審査請求日】2016年8月23日
(31)【優先権主張番号】1261044
(32)【優先日】2012年11月20日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510132347
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジ アトミク エ オウ エネルジ アルタナティヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】オーソン トリスタン
(72)【発明者】
【氏名】アロワ ラベブ
(72)【発明者】
【氏名】アロワ サイフェディン
(72)【発明者】
【氏名】ジョベール ティモテ
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/076767(WO,A1)
【文献】 特開2011−101793(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/041524(WO,A1)
【文献】 特開2006−338526(JP,A)
【文献】 特開2005−207746(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0171427(US,A1)
【文献】 特開平10−019505(JP,A)
【文献】 特開平06−324128(JP,A)
【文献】 特開平10−026506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 3/08
G01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各磁石計の夫々間の既知の距離を維持するためにいかなる自由度も無く相互に機械的に接続されたN(Nは5以上の整数)の3軸の磁石計(Mij)を備える磁石計の配列の前にある移動可能な磁性物体の自動認識のための方法であって、
前記方法は、
a)前記磁性物体が前記磁石計の配列の前にあるとき、その計測軸の夫々に沿って磁界の大きさの磁石計の夫々によって計測すること(74)、
b)前記配列の3軸の磁石計の各計測値をP個の明確な磁気双極子の磁気モーメントの位置、方向及び大きさに関連付ける方程式の予め決定されたシステムを解くことにより、前記磁石計の計測値から、P個の磁気双極子の磁気モーメントの位置、方向、及び大きさを決定すること(76)、
Pは1以上かつN/2以下の整数である、
c)前記P個の磁気双極子の磁気モーメントの位置、方向、及び大きさがステップb)で決定したものと等しいときの、磁石計の計測の値の推定と、ステップa)で取得された磁石計の計測の値と、の間の差を表す誤差を計算すること(80、82、84)、
d)3軸の磁石計の各計測値をP′個の磁気双極子の磁気モーメントの位置、方向、及び大きさに関連付ける方程式の他のシステムを選択すること、
P′はPとは異なる自然数であり、該選択した他のシステムを用いてステップb)及びc)を繰り返すこと、
e)ステップc)で計算されたP個の磁気双極子のシステムにおける誤差、及び、P′個の磁気双極子のシステムにおける誤差のうち、該誤差が最小となるシステムを選択し、該選択したシステムに対してステップb)で決定した各磁気双極子の磁気モーメントの位置又は方向又は大きさから、存在する物体の少なくとも1つの弁別的特徴を計算すること(90)、
ステップc)で計算された誤差を最小化する方程式のシステムにおける磁気双極子の数が厳密に1よりも大きい場合、前記弁別的特徴は、グループから選択され、
前記グループは、
相互に関して前記P個の磁気双極子の相対位置と、
相互に関して前記P個の磁気双極子の磁気モーメントの方向と、
相互に関して前記P個の双極子の磁気モーメントの大きさ、又は前記P個の磁気双極子の磁気モーメントの相対的な大きさと、
存在する磁性物体で識別された磁気双極子の数と、からなり、
そうでなければ、前記グループは、
この磁気双極子の磁気モーメントの大きさと、存在する磁性物体で識別された磁気双極子の数と、からなり、
f)ステップe)で計算された各弁別的特徴と、対応する予め記録された弁別的特徴と、を比較すること(102)、
g)前記計算された弁別的特徴と、前記対応する予め記録された弁別的特徴と、が一致する場合、存在する磁性物体を認識すること(108)、そうでなければ、この物体の認識の欠如である、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
前記磁気双極子の数Pは、1よりは体系的に厳密に大きい、ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法であって、
前記方程式のシステムは、方程式の非線形システムを解くことができる推定アルゴリズムを実行することにより解かれる、ことを特徴とする方法。
【請求項4】
情報記録媒体(34)であって、
各ステップが電子コンピュータによって実行されたとき、請求項1乃至3のうちのいずれか1項に従った方法のステップc)乃至g)の実行のための指令を有する、ことを特徴とする情報記録媒体。
【請求項5】
移動可能な磁性物体の自動認識のための装置であって、
前記装置は、
各磁石計の夫々間の既知の距離を維持するためにいかなる自由度も無く相互に機械的に接続されたN(Nは5以上の整数)の3軸の磁石計(Mij)を有する磁石計の配列と、
電子コンピュータ(32)と、を備え、
前記電子コンピュータは、
b)前記配列の3軸の磁石計の各計測値をP個の明確な磁気双極子の磁気モーメントの位置、方向及び大きさに関連付ける方程式の予め決定されたシステムを解くことにより、前記磁石計の計測値から、P個の磁気双極子の磁気モーメントの位置、方向、及び大きさを決定し、
Pは1以上かつN/2以下の整数である、
c)前記P個の磁気双極子の磁気モーメントの位置、方向、及び大きさがステップb)で決定したものと等しいときの、磁石計の計測の値の推定と、ステップb)で使用された磁石計の計測の値と、の間の差を表す誤差を計算し、
d)3軸の磁石計の各計測値をP′個の磁気双極子の磁気モーメントの位置、方向、及び大きさに関連付ける方程式の他のシステムを選択し、
P′はPとは異なる自然数であり、該選択した他のシステムを用いてステップb)及びc)を繰り返し、
e)ステップc)で計算されたP個の磁気双極子のシステムにおける誤差、及び、P′個の磁気双極子のシステムにおける誤差のうち、該誤差が最小となるシステムを選択し、該選択したシステムに対してステップb)で決定した各磁気双極子の磁気モーメントの位置又は方向又は大きさから、存在する物体の少なくとも1つの弁別的特徴を計算し、
ステップc)で計算された誤差を最小化する方程式のシステムにおける磁気双極子の数が厳密に1よりも大きい場合、前記弁別的特徴は、グループから選択され、
前記グループは、
相互に関して前記P個の磁気双極子の相対位置と、
相互に関して前記P個の磁気双極子の磁気モーメントの方向と、
相互に関して前記P個の磁気双極子の磁気モーメントの大きさ、又は前記P個の磁気双極子の磁気モーメントの相対的な大きさと、
存在する磁性物体で識別された磁気双極子の数と、からなり、
そうでなければ、前記グループは、
この磁気双極子の磁気モーメントの大きさと、存在する磁性物体で識別された磁気双極子の数と、からなり、
f)ステップe)で計算された各弁別的特徴と、対応する予め記録された弁別的特徴と、を比較し、
g)前記計算された弁別的特徴と、前記対応する予め記録された弁別的特徴と、が一致する場合、存在する磁性物体を認識し、そうでなければ、この物体の認識の欠如である、
ように、プログラムされている、ことを特徴とする装置。
【請求項6】
複数の永久磁石(10、12)を含み、認識される磁性物体(4)と、
請求項5に記載の前記磁性物体の自動認識のための装置(6)と、を備える識別のシステムであって、
前記物体の最強の永久磁石の力と前記物体の最弱の永久磁石の力との比が5よりも小さい、ことを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動可能な磁性物体を自動認識するための方法及び装置に関するものである。本発明は、上記自動認識装置を有する識別のこの方法及びシステムを実行するための情報記録媒体に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
ここで、“磁性物体”とは、磁性材料からなる構成要素又は部分を有する物体を呼ぶ。磁性材料は、自動物体認識装置によって計測可能な磁性特性を有する材料である。
“移動可能”とは、移動させられることが可能な物体を呼ぶ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように、移動可能な磁性物体は、必ずしも認識装置の前に同一位置で存在しているわけではない。しかし、配列された各磁石計によって測定される磁界は、存在する磁性物体の位置及び方向に依存している。このように、移動可能な磁性物体の磁性シグナチュアを信頼して認識するのは非常に困難である。今まで、この問題は、例えば、RFID(無線認証)を磁性物体に取り付けることで、あるいは、その磁性物体が認識され得るように所定路に沿って磁性物体の変位を強制することで、回避されていた。
従来技術は、GB2310930A、 US7932718B1、 US6263230B1、 US2007/276218A1, US5444669A, US5337259A 及び US5831873Aからも知られる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、物体が磁性であるという事実を利用する別の解決を提供する。本発明の主題は、したがって、請求項1に従った移動可能な磁性物体の自動認識のための方法である。
上記方法では、配列された磁石計の計測値から計算された弁別的特徴は磁石計の配列に関して磁性物体の位置及び方向から独立している。このように、磁性物体は、磁石計の配列に関して、その位置とは無関係に、認識され得る。たとえ磁性物体が磁石計の配列の前を移動した場合でも、その磁性物体は認識され得る。
さらに、同一の磁性物体内に存在する複数の磁気双極子の位置、方向、及び大きさを決定するための方程式のシステムは、大きく、認識できる磁性物体の数を増加させると共に、これら物体の夫々の認識の信頼性を向上させる、ために使用され得る。
最後に、存在する物体に従って、誤差を最小化するための方程式のシステムを選択するという事実は、方法の信頼性を向上させることができ、また、磁性物体内に存在する磁気双極子の数を数えることも可能となる。
この方法の実施例は、1つ又はそれ以上の従属請求項の特徴を有している。
これら認識方法の実施例は、さらに、次の利点を提供する。
−その方法の信頼性を向上させるために使用され得る、方程式の非線形システムの解を推定するためのアルゴリズム。
本発明の主題は、各指令が電子コンピュータによって実行されたとき、上記方法のステップc)乃至g)の実行のための指令を有する情報記録媒体でもある。
本発明の主題は、請求項5に記載の磁性物体の自動認識のための装置でもある。
最後に、本発明の主題は、請求項6に記載の識別のシステムでもある。
本発明は、続く記載を読むことでより理解され、非制限の例によってだけ、及び次の図で述べることによって与えられるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】認識される物体を有する識別のシステム、および磁性物体の自動認識のための装置、の概略図である。
図2図1におけるシステムの認識装置で用いられる磁石計の配列の概略かつ部分的な図である。
図3図1におけるシステムの認識装置で用いられるデータベースの概略図である。
図4図1におけるシステムの校正で用いられる既知の磁性物体の磁気双極子の概略的な上面図である。
図5図1におけるシステムを用いている、磁性物体の自動認識のための方法のフローチャートである。 これら図において、同一の符号が同一の要素を指し示すことに用いられている。この記述の残りの部分では、当業者に対し周知の特性及び機能は詳細に記載されていない。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図1は、識別のシステム2を表している。システム2は、認識される磁性物体4と、磁性物体の自動認識のための装置6と、を有している。
物体4は、装置6内においていかなる自由度も有さずに固定されたX、Y、Zの直交関係フレーム内で自由に移動できる。ここで、X及びY方向は水平であり、Z方向は垂直である。
【0007】
典型的には、物体4は、X、Y、Z関係フレーム内にある人の手によって直接的に自由に移動可能である。この目的のために、物体4は、一般的に、10kgよりも軽い、好ましくは、1kg又は250gよりも軽い重さである。例えば、物体4の寸法は、十分に小さく、ユーザによって片手で握って移動させることができる。
物体4は、1つ又はそれ以上の計測可能な磁気双極子を有している。各磁気双極子は、地球の磁界の線を変更する強磁性体又はフェリ磁性体からなる構成要素に対応している。好ましくは、この構成要素は、永久磁石である。永久磁石は、たとえ外部の磁界が無い場合でも、0でない磁気モーメントを示す。例えば、永久磁石は、磁気材料からなり、その抗磁界は100A.m−1または500A.m−1よりも大きい。この永久磁石の力は、0.01A.m又は0.1A.mよりも大きいのが好ましい。また、永久磁石の力間、夫々、物体の最強及び最弱、の比は、10又は5より小さいことが好ましく、有利には、2又は1.5よりも小さく又は1に等しいのが好ましい。事実、これが、物体4の認識を容易化することが発見された。また、物体4に含まれる磁気双極子の数は、認識できる物体の数を増加させるために、2又は4以上であるのが好ましい。しかし、物体につき単一極子であってもよく、この場合、磁気モーメントの大きさを計測する精度が認識の信頼性を増加させる最大値となっている。
物体4の磁気双極子は、物体4内において相互に関して移動不可能である。例えば、それらは、物体4のフレームに対し、いかなる自由度も無く固定されている。例えば、このフレームは、非磁性材料からなる。非磁性材料は、装置6によって計測可能ないかなる磁気特性も示さない。磁気双極子が物体4に固定されると、これら双極子間の相対距離、および、これら双極子の磁気モーメント間の角度は一定となる。同様に、この実施例では、物体4内部における磁気双極子の大きさ及び数は、一定と仮定される。
【0008】
図1を簡略化するために、2つの磁気双極子10及び12だけが物体4内に表されている。
物体4は、例えば、複数の永久磁石が設けられた、携帯電話、携帯コンピュータ、ペンシル、あるいは、1つ又はそれ以上の磁気双極子を有する任意の物体である。携帯電話の場合、2つの磁気双極子は、夫々、電話のマイクロフォン及び拡声器によって形成されている。事実、これらの構成要素は、永久磁石を有している。
装置6は、XYZ関係フレームにおいて、物体4の磁気双極子の位置を特定するために用いることができる。位置は、ここで、XYZ関係フレームの各双極子の位置x、y、zを決定するために引用し、また、XYZ関係フレームのX、Y、及びZ軸に関して磁気双極子の夫々の磁気モーメントの方向を決定するために引用する。ここで、添え字kは、物体4の全磁気双極子間の磁気双極子を識別している。例えば、球座標に表現された、磁気双極子kの方向は、この双極子の磁気モーメントの角度θ及びφkによって表される。
【0009】
装置6は、Nの3軸の磁石計Mijの配列を有している。図1において、垂直波線が、装置6の部分が表されていないことを示している。
典型的には、Nは、5よりも大きく、16又は32よりも大きいのが好ましい。ここで、Nは64以上である。
この実施例では、磁石計Mijは、行及び列に合わせられており、マトリックスを形成している。ここでは、このマトリックスは8行及び8列を有している。添え字i及びjは、夫々、磁石計Mijが位置する交点でのこのマトリックスの行及び列を示している。図1において、1行の磁石計Mi1、Mi2、Mi3、Mi4、及びMi8のみを見ることが出来る。相互に関して磁石計Mijの位置は、図2を参照して、より詳細に記載されている。
【0010】
各磁石計Mijは、他の磁石計に対していかなる自由度も無く固定されている。この目的のために、磁石計Mijは、剛体プレート20の裏面22上にいかなる自由度も無く固定されている。この剛体プレートは、物体4に向いた表面24をを有している。プレート20は、剛性の非磁性材料からなる。例えば、プレート20は、ガラスからなる。
各磁石計Mijは、物体4によって変えられる磁界の方向及び大きさを計測する。このために、各磁石計Mijは、この磁石計の3つの計測軸上におけるこの磁石計Mijでの磁界の正投影のノルムを計測する。ここで、3つの計測軸は、相互に直交している。例えば、磁石計Mijの夫々の計測軸は、関係フレームのX、Y、Z軸に夫々平行である。磁石計Mijの感度は、例えば、410−7Tである。
【0011】
各磁石計Mijは、情報を送信するために、バス28を介して処理装置30に接続されている。
処理装置30は、図5の方法を実行できる。特に、それは、磁石計Mijの計測から、XYZ関係フレームにおける物体4の複数の双極子の位置及び方向を決定できる。例えば、装置30は、情報記憶媒体に記録された指令を実行できるプログラム可能な電子コンピュータ32を有している。装置30は、したがって、図5の方法のコンピュータ32によって実行するための必要な指令を含むメモリ34も有している。特に、同一の磁性物体に含まれるであろう磁気双極子の各数Pのために、装置30は、磁石計Mijの各計測と、XYZ関係フレームにおけるPの磁気双極子の磁気モーメントの位置、方向及び大きさと、が関係する数学モデルMを実行する。各モデルMは、第1のセットの変数がPの磁気双極子の位置及び方向、および、これら双極子の磁気モーメントの大きさを表している、方程式のシステムの形式となっている。第2のセットの変数は、磁石計Mijの計測を表している。Pの磁気双極子の磁気モーメントの位置、方向及び大きさを得るために、第1のセットの変数は、未知であり、第2セットの変数の値は既知である。このモデルは、典型的に、電磁気の物理の方程式から構成される。このモデルのパラメータは、磁石計Mij間の既知の距離によって設定される。このモデルを構成するために、各永久磁石は、磁気双極子によって近似されている。仮に、永久磁石と磁石計Mijとの距離が2Lよりも大きい、好ましくは、3Lよりも大きい、Lは20cmよりも小さく、好ましくは10又は5cmよりも小さい、場合、この近似は、ほんの少しだけの誤差しか生じない。
【0012】
ここで、モデルMは非線形である。この装置30は、解を推定するためにあるアルゴリズムを実行することで、その解を解く。例えば、使用されるアルゴリズムは、“unscented Kalman Filter”として知られているカルマンフィルタである。
各磁気双極子が、その位置を決定するための3つの変数、その方向を決定するための2つの変数、および、その磁気モーメントの大きさを決定するための1つの変数、によって特徴付けられる場合、Nの磁石計の配列によって同時に配置され得る磁気双極子の最大数は、N/2よりも小さい。従がって、数Pの値は、N/2以下であり、かつ、好ましくは、冗長な計測を有するために、N/5又はN/10又はN/20である。計測の冗長は、双極子を配置する精度を改善するために使用できる。
【0013】
この実施例で、3つの数学モデルM、M、Mのみが装置30内で実行されている。
装置30は、既知の物体の磁気特性のデータベース36と比較することで、装置6の前に出された磁性物体を認識することもできる。このデータベース36は、図3を参照してより詳細に記載されている。
図2は、装置6の磁石計Mijの部分を表している。これら磁石計Mijは、X方向に平行に、行iで並べられている。これら磁石計は、Y方向に平行に列jでも並べられており、マトリックスを形成している。行i及び列jは添え字が増加する順で配列されている。
磁石計配列によって占められる領域は、典型的に、100mより小さく、好ましくは、5m又は1m又は50cmよりも小さい。
磁石計Mijの中心は、行i及び列jの交点に位置する。磁石計の中心は、磁界がこの磁石計によって計測される点である。ここで、添え字i及びjはインターバル[1;8]にある。行iに沿った2つの隣接し連続した磁石計Mij及びMi、J+1の中心は、既知の距離di、j、j+1で分離されている。同様に、同一の列jに沿った2つの隣接し連続した磁石計Mij及びMi+1、jの中心は、既知の距離dj、i、i+1で分離されている。
【0014】
ここで述べられている特別なケースでは、行iに無関係に、距離di、j、j+1が同一である。この距離は、このように、dによって表されている。同様に、列jに無関係で、2つの磁石計間の距離dj、i、i+1は同一である。この距離は、このように、dによって表されている。
ここで、距離d及びdは両方ともdに等しい。
Pの磁気双極子の夫々を形成する各永久磁石の力が2A.m又は1A.m又は0.5A.mよりも小さく、及び、好ましくは0.1A.m又は0.2A.mよりも大きく、磁石計の感度が410−7Tであり、かつ、磁石計Mijの数が64である場合、典型的に、距離dは、1及び4cmの間である。
図3は、より詳細に、データベース36を表している。このデータベース36は、複数の既知の磁性物体の磁気特性を含んでいる。ここで、それは、テーブルの形式で表されている。
【0015】
各既知の物体のために、データベース36は、列40において、この既知の物体の識別子“m”を有している。識別子“m”は、データベース36に記録されたセットの既知の物体間で、この既知の物体を、特有に識別する。各識別子“m”は、データベース36とこの既知の物体の磁気特性とによって関連付けられている。
物体の磁気特性は、データベース36にリストされたセットの既知の物体間で、この物体を識別するための弁別的特徴を、有している。
ここで、各既知の物体“m”は、グループから選択される1つまたはそれ以上の弁別的特徴と関連している。そのグループは、既知の物体“m”に含まれる磁気双極子の数Nsと、既知の物体“m”の異なる磁気双極子間の相対距離Dsと、既知の物体“m”の異なる磁気双極子の磁気モーメントの大きさAsと、相互に関して、既知の物体“m”の異なる磁気双極子の磁気モーメントの相対方向Osと、からなる。
【0016】
上表記において、添え字“m”は、既知の物体の識別子である。
磁気モーメントの大きさ、磁気双極子の数、相対距離、および相対方向は、夫々、データベース36の列50、44、46及び48に記録されている。図3において、波線はデータベース36の部分だけが表されていることを示している。
図4は、既知の磁性物体の異なる弁別的特徴を示している。ここで、既知の磁性物体は、物体4と同一であり、かつ、それは、識別子“m”の数値“1”によって識別されてると、仮定する。
【0017】
この図4において、次の表記が用いられる。
、Oは、磁気双極子10及び12の夫々中心である。
及びmは、磁気双極子10及び12の夫々磁気モーメントに対応するベクトルである。
ここで、磁気双極子の中心は、磁気双極子に対応する永久磁石の慣性の中心又は重心と一致する、と仮定する。ベクトルm及びmの方向は、磁気双極子10及び12の夫々の磁気モーメントと平行である。これらベクトルm及びmの長さは、磁気双極子10及び12の夫々の磁気モーメントの大きさに等しい。
【0018】
ここで、弁別的特徴Dsは、対の距離d10及びd12によって形成される。d10は、中心Oと、ベクトルmに垂直でかつ中心Oを通り抜ける平面と、の間の最短距離に等しい。距離d12は、中心Oと、ベクトルmに垂直でかつ中心Oを通り抜ける平面と、の間の最短距離に等しい。
相対方向Osは、ベクトルm及びmの間の角度である。
大きさAsは、双極子10及び12の夫々の磁気モーメントの対の大きさA及びAによって形成される。
物体4の場合において、磁気双極子の数は、2に等しい。
磁性物体が2つの磁気双極子だけを有する特別な場合で丁度説明されているものは、3つ又はそれ以上の磁気双極子を有する磁性物体の場合にも容易に適用可能である。
【0019】
磁性物体が単一の磁気双極子を有する場合において、列46及び48は空となり、かつ、磁性物体は、この磁気双極子の双極子の数Nsおよび大きさAsからのみ識別され得る。
システム2の動作は、図5の方法を参照して、今、説明されるであろう。
この方法は、データベース36で複数の既知の磁性物体の磁気特性を記録し、既知の物体の識別子とこれら特性の夫々とを関連付ける、フェーズ70で始まる。
これに対し、例えば、ステップ72において、既知の物体は面24の前に配置される。このステップでは、位置または所定方向に従って、この既知の物体を位置および方向付ける必要はない。反対に、物体の位置及び方向は、全くいずれでもよい。
そして、ステップ74では、磁石計Mijは、同時に、既知の物体が存在する中で、磁界を計測する。
次に、ステップ76では、装置30は、磁石計Mijの計測から、既知の物体の磁気双極子の夫々の磁気モーメントの位置、方向及び大きさと、この既知の物体の磁気双極子の数と、を決定する。
【0020】
このために、動作78では、装置30は、1つの磁気双極子に対し、モデルMの方程式のシステムを解く。それは、この既知の物体に含まれる磁気双極子に対する、1セットの座標x、y、z、θ及びφ及び大きさAを得ることとなる。
それから、動作80において、装置30は、―磁石計によって計測され、方程式Mのシステムから及び動作78の結論で得られる位置、方向及び大きさから計算された値の推定値と、―ステップ74で取得された磁石計の計測の値と、の間の差異を表す誤差Eを計算する。
モデルを解くために使用されるアルゴリズムが拡張したカルマンフィルタである場合において、動作78における方程式のこのシステムの解は、誤差Eの推定も与える。
ステップ78及び80は、P=1からP=3に対して行われる。好ましくは、ステップ78及び80は、Pの各値に対して、平行に行われる。
【0021】
それから、動作88では、装置30は、最小誤差Eを与えるモデルMで得られた結果を選択する。このように、既知の物体が単一の永久磁石を有する場合、装置30は自動的にモデルMを選択する。既知の物体が2つ、3つの永久磁石を夫々有する場合、装置30は、そのとき、自動的に、モデルM、モデルMを夫々選択する。
このステップ76の結論で、磁性物体の磁気双極子の数、これら磁性双極子の夫々の位置、方向及び大きさは、決定される。
ステップ90において、装置30は、動作88で選択された位置、方向、及び大きさから既知の物体の弁別的特徴を計算する。これら弁別的特徴の計算は、図4を参照して与えられる説明から導き出される。
【0022】
最後に、ステップ92において、装置30は、データベース36に、ステップ90で計算された異なる弁別的特徴と関連する識別子“m”の値を、記録する。異なる記録された弁別的特徴は、そのとき、この既知の物体の磁気特性を構成する。
ステップ72から92は、既知物体が含む磁気双極子の位置、方向、及び大きさが異なる多数のその既知の物体に対して、繰り返される。
データベース36は、既知の物体の複数の磁気特性によって、その中が占められると、未知の物体の自動認識のフェーズ100が実行される。以降、説明を簡略化するために、この未知の物体は、物体4であると仮定する。
【0023】
フェーズ100は、ステップ92がステップ102から108で置き換わる以外は、フェース70と同一である。結果として、これらステップ102から108のみが、今、詳細に説明されるであろう。
ステップ102では、装置30は、物体4のために計算された弁別的特徴と、データベース36に夫々予め記録された磁気特性に含まれる弁別的特徴と、を比較する。例えば、計測された弁別的特徴と、データベース36の予め記録された弁別的特徴と、が誤差ε以内で等しい場合、これら弁別的特徴は一致している、と考えられる。例えば、誤差εのマージンは、±1%又は±5%又は±10%に等しい。
【0024】
ステップ102で、物体4がデータベース36に予め記録された磁気特性の1つに対応することが確立された場合、そのとき、ステップ104で、この特性に対応する既知の物体の識別子が記録される。ここで、認識される物体の識別子は、大きさQの列で記録される。逆に、ステップ102で、物体4がデータベース36に記録された磁気特性のいずれにも対応しないことが確立された場合、そのとき、ステップ106で、装置30は、物体4が認識されていないことに従った情報を記録する。ここで、値0が列に記録され、識別子“m”は記録されない。
ステップ72から106は、Q回繰り返される。例えば、Qは、10、20又は30以上である。
【0025】
そして、同一物体が ステップ72から106のQ繰返しの50%、75%又は95%よりも多くで、認識された場合、ステップ108で、装置30は、物体4が認識されたことを示し、かつ、典型的に、既知の物体の識別子を供給する。そうでなければ、ステップ108で、装置30は、物体4が認識されなかったことを示す。例えば、認識された物体の識別子は、マン−マシーンインタフェースを介して、ユーザに伝達される。
面24の前で、フェーズ70又は100の過程の磁性物体の存在において、磁性物体は移動不可能である必要はない。それは、フェーズ70又は100のスッテップの2つの連続的な繰返し間で移動するかもしれない。磁性物体は、また、全くいかなる位置及び方向で存在してもよい。これは、明確な特量は、磁性物体の位置及び方向に従って変化しないという事実によるものである。物体は、センサ配列の近くにとどまるのが好ましい。
多くの他の実施例が可能である。例えば、磁石計の計測は、初期に記録されてもよい。そして、ステップ76から108は、磁性物体が磁石計配列の面24の前にもはや存在しないときに、後に行われる。同様に、図5の方法は、複数の電子コンピュータに広げられてもよい。例えば、ステップ90から108は、ステップ76のみを実行するコンピュータ32から分離した、プログラム可能な電子コンピュータによって行われてもよい。
【0026】
記録することのフェーズ70は、異なって行われてもよい。例えば、弁別的特徴は、装置6以外の装置によって供給される測定値から計算される。例えば、磁気双極子の相対距離は、データベース36にそのとき記録されたルーラを用いて計測され得る。既知の物体の磁気双極子の磁気モーメントの方向及び大きさは、磁石計Mijの配列のそれら以外の磁石計を用いて、計測されてもよい。
磁性物体の認識は、弁別的特徴のうちの1つのみを用いて、あるいは、前記した弁別的特徴のうちの一部のみを用いて、実行されてもよい。例えば、大きさAs、あるいは、相対距離Dsのみが、用いられる。
弁別的特徴は、説明されたもと異なっていてもよい。例えば、この弁別的特徴は、磁気双極子間の相対的な大きさであってもよい。事実、他の弁別的特徴のように、この弁別的特徴は、磁性物体の位置及び方向に依存していない。
【0027】
相対距離、相対方向、及び磁気モーメントの大きさ、又は磁気双極子の数は、全て、時間に渡って一定である、必要はない。磁性物体の弁別的特徴の1つが時間に渡って変化する場合、この物体の特性は、時間に渡って変化しない物体4の弁別的特徴と、時間に渡って変化できず、この物体の認識のために使用される、唯一のこれらの弁別的特徴と、を有するのみである。例えば、磁気モーメントの1つの大きさは、物体4に動力が与えられ或いは物体4のスイッチがオンにされた状態と、物体4のスイッチをオフにされ或いは物体4に動力が与えられない状態と、の間の時間に渡って、変化してもよい。この場合、この磁性物体を認識するために、磁気双極子の磁気モーメントの相対距離又は相対方向のみが用いられる。後の場合で、他の解決は、データベース36に、物体のスイッチがオンにされたときのその物体の第1磁気特性と、物体のスイッチがオフにされたときの第2特性と、を記録することにある。このように、物体を認識することに加えて、これは、また、スイッチがオフにされ、あるいは、オンにされるかのいずれかを示してもよい。
弁別的特徴は、前に説明されたものとは異なって、計算されてもよい。例えば、2つの磁気双極子間の相対距離は、距離d10及びd12ではなく、これら2つの磁気双極子の中心間の最短距離の値によって表されてもよい。
【0028】
動作88では、誤差Eが所定閾値より小さくなるために使用された第1モデルMで得られた結果が選択されてもよい。
磁石計の計測値を磁性物体の双極子の位置、方向、及び大きさに結び付ける、方程式のシステムを解くために使用される推定アルゴリズムは、拡張されたカルマンフィルタ以外であってもよい。例えば、それは、LMAアルゴリズム(“レーベンバーク-マーカート アルゴリズム”)を含んでいてもよい。カルマンフィルタ以外の推定アルゴリズムの場合、誤差Eは異なって計算されてもよい。この場合、動作80は、動作80又は84によって置き換えられる(図5において点線によって表される)。
動作82において、装置30は、動作78で使用されるモデルMの直接的なモデルを解く。換言すると、この動作で、その値が既知である方程式の変数は、磁気双極子の位置及び大きさを表す変数であり、その値が未知である変数は、磁石計Mijの夫々の計測値を表す変数である。
【0029】
動作84において、装置30は、動作82で推定された計測値とステップ74で取得された計測値との差を計算する。この差の絶対値は、誤差Eを構成する。
計測された弁別的特徴と予め記録された磁気特性とを比較する多くの他の方法は、可能である。例えば、装置30は、各磁気特性に対して、計測された弁別的特徴と予め記録された弁別的特徴との差を計算し、そして、認識される物体は、この差が最小となるための既知の物体である、と考えられる。
ステップ108において、物体に対応する既知の物体を識別することから得た結果は、説明されたあるいは省略されたものとは異なって、取り除かれてもよい。取り除かれることが省略される場合、列が省略され、そして、繰返しの数Qは、例えば1に等しい。これにより、特に、認識方法は高速化される。例えば、磁石計の精度がステップ80の各繰返しで正確な認識を可能とするのに十分である場合、後の実施例が好ましい。
【0030】
最小誤差Eを示すモデルの選択は、また、省略されてもよい。例えば、1つの特別な実施例において、単一のモデルMpは、体系的に用いられる。これは、予め認識される全ての物体が磁気双極子の一定の数Pを有しているということが既知の場合に、認識装置を簡略化するために使用され得る。
磁気双極子は、永久磁石以外の何かで生成されてもよい。例えば、磁気双極子は、地球の磁界と、柔らかい磁性材料からなる認識される物体の構成要素と、の間の相互作用によって生成されてもよい。磁性材料の抗磁界が10又は1A.m−1よりも小さい場合、その磁性材料は、柔らかいと考えられる。
認識される物体の永久磁石は、この物体の動作に関与してもよい。これは、例えば、永久磁石が拡声器及びマイクロフォンの永久磁石である場合である。しかし、変形として、永久磁石は、装置6によってその認識を可能にするために、認識される物体に加えられてもよい。例えば、永久磁石は、装置6が鉛筆と消しゴムとを識別できるように、これら用具の夫々の上で異なる位置で鉛筆及び消しゴムに対して、加えてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5