特許第6262771号(P6262771)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6262771正電解液においてV+4/V+5レドックス対及び補助Ce+3/Ce+4レドックス対を使用した全バナジウムレドックスフロー電池システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262771
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】正電解液においてV+4/V+5レドックス対及び補助Ce+3/Ce+4レドックス対を使用した全バナジウムレドックスフロー電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20180104BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20180104BHJP
【FI】
   H01M8/18
   H01M8/02 M
   H01M8/02 L
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-557528(P2015-557528)
(86)(22)【出願日】2013年2月14日
(65)【公表番号】特表2016-507152(P2016-507152A)
(43)【公表日】2016年3月7日
(86)【国際出願番号】IB2013051199
(87)【国際公開番号】WO2014125331
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2016年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】515160390
【氏名又は名称】ハイドラレドックス テクノロジーズ ホールディングス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スパツィアンテ、プラシド、マリア
(72)【発明者】
【氏名】ディシャン、ミカエル
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−233371(JP,A)
【文献】 特開2012−015128(JP,A)
【文献】 特開2011−233373(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/136256(WO,A1)
【文献】 特開平08−064223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックスフロー電池エネルギー貯蔵システムのレドックスフロー電気化学セルの正電解液においてV+4/V+5レドックス対及び負電解液においてV+2/V+3レドックス対を使用した当該レドックスフロー電池エネルギー貯蔵システムであって、補助レドックス対が、前記正電解液中に、前記液中で前記主レドックス対のバナジウムが実質的に完全に酸化する場合に電荷電流を支持するのに十分なモル含有率で存在し、平衡モル量の還元可能なレドックス対が、前記負電解液に存在し、前記正電解液がメタンスルホン酸を含み、前記補助レドックス対がCe+3/Ce+4であることを特徴とする、レドックスフロー電池エネルギー貯蔵システム。
【請求項2】
前記正電解液が硫酸とメタンスルホン酸溶液の混合物であり、前記補助レドックス対が前記正電解液中に少なくとも100ミリモル/リットルの量で存在する、請求項1に記載のレドックスフロー電池エネルギー貯蔵システム。
【請求項3】
少なくとも前記正電解液が、アンチモン、ホウ砂又はテルルのいずれかを含み、酸素放出過電圧を増加させる、請求項1に記載のレドックスフロー電池エネルギー貯蔵システム。
【請求項4】
2つの電解液の前記補助レドックス対及び前記平衡モル量の還元可能なレドックス対が、所定の最大制限時間での完全なバナジウム酸化を超えて電荷電流を支持するように適合されており、前記レドックスフロー電気化学セルの前記正極における不慮の酸素放出を防止する、請求項1又は2に記載のレドックスフロー電池エネルギー貯蔵システム。
【請求項5】
前記負電解液に添加されている前記平衡モル量の還元可能なレドックス対が、V+2/V+3、Cr+2/Cr+3から構成される群に属する、請求項1又は2に記載のレドックスフロー電池エネルギー貯蔵システム。
【請求項6】
前記正電解液において抗凝固剤、及び/又は流動する前記正電解液を磁界に供するのに適合した磁気的手段をさらに含む、請求項1に記載のレドックスフロー電池エネルギー貯蔵システム。
【請求項7】
前記正電解液中の前記抗凝固剤が、前記酸電解液に可溶な電子供与体のルイス塩基化合物である、請求項6に記載のレドックスフロー電池エネルギー貯蔵システム。
【請求項8】
前記正電解液中の前記抗凝固剤が、ピリジン、ビピリジン及びベンゼンから構成される群に属する、請求項6に記載のレドックスフロー電池エネルギー貯蔵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、エネルギー貯蔵のためのレドックスフロー電池(RFB:redox flow battery)システムに関し、特に、いわゆる全バナジウムRFBシステムに関する。本開示は、充電の際の炭素系の正極における予想外の酸素放出、及び過充電された正電解液中での過度の析出の問題に対処する。
【背景技術】
【0002】
RFBエネルギー貯蔵システムは、開発中のインテリジェント電力配電ネットワークの大規模なエネルギー貯蔵要件に関して特に効率的且つ柔軟な候補として認識されている。
【0003】
負電解液中でレドックス対V+2/V+3を、正電解液中でレドックス対V+4/V+5を用いた全バナジウム(V/V)RFBシステムは、おそらく、依然として最も広く研究されている有意な産業用途を有したシステムである。Fe/V、V/Br、Cr/Fe、Zn/Ce、ポリスルフィド/Brのような他の同様のRFBシステムが研究されているが、匹敵する商業的な許容を有していない。これらのシステムに共通する特徴は、支持される経済的に許容可能な電流密度のために、多孔質且つ流体透過性の電極が必要であるという点である。さらに、レドックス貯蔵システムの充放電サイクルの際のカソード分極からアノード分極への切り替えのときに保持される必要がある、電極材料の化学的不活性、並びに電解液に対して負に分極されるときに比較的高いH放出過電圧及び電解液に対して正に分極されるときに高いOH放出過電圧を有する必要性により、炭素系電極の使用が余儀なくされる。
【0004】
また、イオン透過性セル分離膜と導電性の電流分配板の表面との間に一般に挟持されている、不織布活性化炭素繊維からなる多孔質電極フェルトを通した不均一な物質輸送及び/又は電位に起因して、2つの液中のそれぞれのレドックス対の酸化可能なバナジウムイオン及び還元可能なバナジウムイオンが局所的に枯渇する場合に、寄生性のOH放出及び/又はH放出を防止することで、重要な態様が維持される。
【0005】
炭素電極における寄生性の酸素放出は、設計最大電流密度限界をある理由で上回るとき、又は充電プロセスが正電解液におけるV+5までの完全なバナジウム酸化を超えて予想外に長引くとき、予想外にも、アノード反応を支持する主電流となることがある。後者の事象においては、別の深刻な影響、とりわけ、反応:2VO+HO=V+2Hによる五酸化バナジウムの段階的な析出が顕在化し始める場合がある。
【0006】
かかる有害事象のうちの第1のものは、CO及びCOの発生による新生酸素によって炭素フェルト及び炭素ベースの集電板の急速な破壊をもたらす場合がある。この理由に関して、多くの物質が、アンチモン(Sb+3)、ホウ砂及びテルル(Te+4)のようなバナジウムRFBの典型的な硫酸電解液中の炭素アノードにおける酸素発生の被毒剤として確認されており、これらは、酸素発生過電圧を上昇させることの他に、負電解液の移動/汚染の場合にH放出も被毒するため、一般に好ましい。第2の事象は、抑制が利かないときには、特に炭素フェルト電極の細孔において改善することが特に困難である目詰まり、及び電解質の不均衡を引き起こす。周知であるように、バナジウムRFSエネルギー貯蔵セルにおける寄生性の水素発生は、炭素電極構造体に堆積する場合があるFe、Ni、Co、Pt、Pdなどのような、低い水素過電圧を有する金属による予想外の電解液汚染によって、及び/又はV+3がV+2に完全に還元されているときに(この場合、電流の循環を支持することができる唯一の電極反応は、水の電気分解となる)好まれる場合がある。
【0007】
セルにおける作業状態の特定の監視が必須であり、該監視の欠点が、犠牲の大きい失敗の原因となっていた。RFBエネルギー貯蔵システムの操作を制御する、より高機能且つ信頼性のある方法が開発された。
【0008】
同じ出願人の先行特許出願第PCT/IB2012/057342号は、公知の工業用の全バナジウムフローレドックス電池に典型的なマルチセルバイポーラスタックによっては不可能な、単一のセルレベルでの念願の検出性を付与する操作条件の信頼性のある監視システムを開示している。この先行特許出願の内容は、明確な参照により本明細書に組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】PCT/IB2012/057342号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「エネルギー変換用レドックスフローセル」のレビュー、C.Ponce de Leon、A.Frias−Ferrer、J.Gonzalez−Garcia、D.A.Szanto、F.C.Walsh、Elsevier、Journal of Power Sources 160(2006)、716〜732頁(Review of 「Redox flow cells for energy conversion」,C.Ponce de Leon,A.Frias−Ferrer,J.Gonzalez−Garcia,D.A.Szanto,F.C.Walsh,Elsevier,Journal of Power Sources 160(2006),pages:716−732)
【非特許文献2】「新規塩化バナジウム/ポリハライドレドックスフロー電池」、Maria Skyllas−Kazacos、Elsevier、Journal of Power Sources 124(2003)、299〜302頁(「Novel vanadium chloride/polyhalide redox flow battery」,Maria Skyllas−Kazacos,Elsevier,Journal of Power Sources 124(2003),pages:299−302)
【非特許文献3】「レドックスフロー電池用途のためのCe(III)/Ce(IV)レドックス対の研究」、B.Fang、S.Iwasa、Y.Wei、T.Arai、M.Kumagai、Elsevier、Electrochimica Acta 47(2002)、3971〜3976頁(「A study of the Ce(III)/Ce(IV) redox couple for redox flow battery application」,B.Fang,S.Iwasa,Y.Wei,T.Arai,M.Kumagai,Elsevier,Electrochimica Acta 47(2002),pages 3971−3976)
【非特許文献4】「レドックスフロー電池への適用のためのクロムレドックス対」、C.−H.Bae、E.P.L.Roberts、R.A.W.Dryfe,Pergamon、Electrochimica Acta 48(2002)、279〜287頁(「Chromium redox couples for application to redox flow batteries」,C.−H.Bae,E.P.L.Roberts,R.A.W.Dryfe,Pergamon,Electrochimica Acta 48(2002),pages:279−287)
【非特許文献5】「Ce3p/Ce4pレドックス反応のレドックス電位及び反応速度論並びに硫酸セリウムの硫酸溶液への溶解度」、A.Paulenovaa、S.E.Creagerb、J.D.Navratila、Y.Weic、Elsevier、Journal of Power Sources 109(2002)、431〜438頁(「Redox potentials and kinetics of the Ce3p/Ce4p redox reaction and solubility of cerium sulphates in sulphuric acid solutions」,A.Paulenovaa,S.E.Creagerb,J.D.Navratila,Y.Weic,Elsevier,Journal of Power Sources 109(2002),pages:431−438)
【非特許文献6】「新規フロー電池−可溶性鉛(II)による電解質をベースとした鉛酸電池。IV.添加剤の影響」、Ahmed Hazza、Derek Pletcher、Richard Wills、Elsevier、Article in Press、Journal of Power Sources xxx(2005)xxx−xxx(「A novel flow battery−A lead acid battery based on an electrolyte with soluble lead(II)IV.The influence of additives」,Ahmed Hazza,Derek Pletcher,Richard Wills,Elsevier,Article in Press,Journal of Power Sources xxx(2005)xxx−xxx)
【非特許文献7】「新規フロー電池−可溶性鉛(II)による電解質をベースとした鉛酸電池。III.電池性能への状態の影響」、Elsevier、Journal of Power Sources 149(2005)96−102(「A novel flow battery−A lead acid battery based on an electrolyte with soluble lead(II)III.The influence of conditions on battery performance」,Elsevier,Journal of Power Sources 149(2005)96−102)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
操作パラメータの機器監視、並びに警告を発生させる及び/又は有効な補正処置を自動的に作動させるための取得データのリアルタイム処理にもかかわらず、溶解したバナジウムがV+5に完全に転換される状態を局所的な感知においても予想外に上回る場合、RFBエネルギー貯蔵システムの正電解液におけるV+4/V+5レドックス対の使用に基づいた電気化学フローレドックスシステムの無理のない固有の自己緩衝能は、大きな価値がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施例によると、補助Ce+3/Ce+4レドックス対は、1.5Vに近づく分極電圧において、湿潤した炭素電極表面上のアノード二重層で酸化可能なV+4イオンが局所的に枯渇する場合に電荷電流を支持するのに十分なモル含有率で、RFBエネルギー貯蔵システムの該V+4/V+5レドックス対を含有する正電解液に添加されることで、該炭素電極において大量のOH放出をもたらす、あらゆるさらなる増加を制限する。
【0013】
もはや存在しない酸化可能なV+4イオンの代替物である酸化可能なC+3イオンのフラクションのかかる「緩衝」機能は、正電解液中の主レドックス対V+4/V+5のバナジウムのV+5への実質的に完全な酸化の後に最終的に継続することができ、この目的で、平衡モル量の還元可能なレドックス対もまた負電解液に添加される。当然ながら、該2種の電解液中の補助レドックス対要素の添加フラクション(濃度)は、バナジウム投入分の完全な酸化後の最小の時間間隔の関数で決定され、該システムは、不慮のランアウト充電プロセス(最大許容過充電)を停止する前に動作し続けることができる。
【0014】
負電解液においてV+2/V+3レドックス対を使用した全バナジウムRFBシステムの場合、バナジウムのV+5への完全な酸化が正電解液において達成されるときいつでも、さらに還元される平衡モル量のV+3イオンの存在の準備をするのに十分である。
【0015】
代替的には、平衡モル量の補助Cr+2/Cr+3レドックス対が、負電解液中の主V+2/V+3レドックス対にも添加されてよい。この代替は、正電解液においてCe+3の標準酸化電位(1.46V)がV+4の標準酸化電位よりも正であるということによる向上に加えて、負電解液においてCr+3の標準還元電位(−0.41V)がV+3の標準還元電位と比較してより負であるため、セル開回路電圧の向上に寄与するという利点を有する。
【0016】
さらなる実施例によると、主V+4/V+5レドックス対の溶解バナジウムを所与の量で、及び、補助Ce+3/Ce+4レドックス対の溶解セリウムをより少量で、並びに、アンチモン(Sb+3)、ホウ砂及びテルル(Te+4)を含む群の炭素アノードにおける少なくとも酸素発生被毒剤を微量で含有する典型的な硫酸正電解液の代わりに、酸溶液は、メタンスルホン酸、又は硫酸及びメタンスルホン酸の混合物のいずれかである。メタンスルホン酸の存在は、セリウムの溶解度を増加させ、これにより、セリウムの濃度が、メタンスルホン酸フラクションが添加されていない、バナジウムの標準硫酸正電解液における最大限度である100ミリモル/リットルをはるかに超えることを可能にする。メタンスルホン酸の溶液を用いることが完全に可能になるが、好ましくは、硫酸と比較して高価であるために、メタンスルホン酸フラクションは、概して5〜50重量%の間で含まれる場合がある。
【0017】
予備試験の証拠は、セリウムイオンの存在が、反応:2VO+HO=V+2Hを通した五酸化バナジウムの析出を、おそらくは、新生V分子の重合メカニズムを妨害することによって妨げることを示すようであり、これは、正電解液におけるセリウムの添加の二次的な有益な結果であるようである。
【0018】
いずれの場合にも、ピリジン、ビピリジン又はベンゼン誘導体のような、酸電解液に可溶の電子供与体であるルイス塩基化合物を添加することによる、正電解液におけるV+5イオンの緩衝は、五酸化バナジウムの析出を実用的に防止する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、バナジウムのレドックス領域及びセリウムのレドックス領域の電気化学電位の図である。
図2図2は、本開示による、正電解液中に補助セリウムレドックス対を含むバナジウムRFBシステムの個別の相の充放電に関する電気化学電位特性曲線及び開回路セル電圧を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書を通して、酸溶液中のバナジウムのイオン化状態の表記V+4は、対応する酸化物VO+2のイオン表記の代わりに、また、イオン化状態の表記V+5は、対応する酸化物VOのイオン表記の代わりに用いられる場合が多い。
【0021】
先行技術の全バナジウムレドックスフロー電池(RFB)システムにおいて用いられる典型的な電解質は、1〜2モルのバナジウム及び4〜5モルの硫酸を含有する水溶液である(とりわけ、硫酸の実際の遊離部分は、コンディショニングの際及びその後の充放電プロセスの際に変化する)。充電の際、正電解液に含有されるバナジウムがほぼ全て5価のバナジウムに酸化され、開回路セル電圧が1.50〜1.55ボルトの範囲に達するとき、正極(充電の際にアノード分極される)において生じ得る唯一の反応は、高度に有害な酸素ガス発生である。
【0022】
本開示によると、硫酸バナジウム正電解液に、少モル量のセリウムを添加する。セリウムは、該硫酸バナジウム溶液に可溶であって、レドックスイオン対Ce+3/Ce+4が、V+4/V+5レドックス対のレドックス電位よりも高い1.46Vの標準レドックス電位を有し、且つセルの炭素電極(アノード)における酸素発生の阻害剤化合物(毒)である。
【0023】
RFBの通常の操作において、添加されたセリウムイオンCe+3は、相当量のV+4イオンがV+5に酸化され続けるまで酸化され始めず、また、バナジウムがV+5に完全に酸化されるまで、かかる電極反応を妨げない。
【0024】
バナジウム分の酸化の標準電位が約1.0ボルトであることを考慮すると(V+4の濃度がV+5の濃度に等しいときの標準的手段)、V+4からV+5への酸化(すなわち、正電解液を電気的に充電する)を開始するのに必要な電位は1.0ボルトであり、酸化電位は、ネルンストの対数関係に従ってV+5対V+4の比率として徐々に増加する。実質的に全てのV+4イオンがV+5に酸化されると、酸化電位は約1.4Vに近似的に到達し、この電圧でCe+3イオンがCe+4に酸化し始める。図1は、本開示の基本的な実施例に従った、RFBシステムの正電解液における充電プロセスの酸化電位特性のグラフ表示を提供する。
【0025】
酸化電位のかかる閾値レベルにおいて、酸素放出(発生)の寄生性のアノード反応は、正電解液中の特定の添加剤によって正極における酸素過電位を増加させることにより回避され得る。
【0026】
例えば、少量の金属、例えばAu、In、Pb、Sb、Te、又はNaは、炭素電極における放電過電圧を2.0Vを優に上回って上昇させることによって酸素発生を阻害する。この点において、最も有効な添加剤は、アンチモン(Sb+5)及びホウ砂である、なぜなら、70mV超だけ酸素過電圧を上昇させる能力を有するからである。一方で、Te+4は、酸素過電圧をちょうど30mVだけ、Au+3は20mVだけ、In+3は10mVだけ上昇させる。Auの使用は、予防措置を課すことになる、なぜなら、負電解液を予想外に汚染するときに、負に分極した電極における寄生性の水素発生を促すからである。
【0027】
しかし、アンチモン、ホウ砂及び少ない程度までのテルルの間で選択肢を制限する決定的な理由は、これらが、鉛と同様に、炭素電極が同じ正電解液に対してカソード分極されることになるとき放電プロセスの際に起こり得る寄生性の水素発生に対しても同様の阻害効果を及ぼすという事実である。水素過電圧を、Sb+5は300mVだけ、ホウ砂は220mVだけ、Te+4は150mVだけ増加させるが、鉛は、強い水素発生阻害剤でもあるが、Ce+3のCe+4への酸化電位において炭素電極上でPbOとして析出する傾向がある。
【0028】
電解液における寄生性の酸素及び水素の発生のこれらの阻害剤の導入量は、溶液1リットルあたり数ミリグラムの範囲であってよく、いずれの場合にも、十分に、選択されたイオンの溶解度限界の範囲内にある。
【0029】
硫酸セリウム(Ce(SO及びCe(SO塩の両方)の溶解度は、遊離硫酸の濃度の増加によって低減し、本開示の目的のために、100ミリモル/リットル未満で維持され得る。Ce+3及びCe+4は、いずれも、硫酸との錯体を形成し、これらの錯体は、セリウムイオンを可溶化する。セリウムイオンは、負又は正の可溶性錯体イオンを作り出すSO基に多かれ少なかれ結合し得る。硫酸セリウムの析出の比較的遅い反応速度論及び複雑なメカニズムは、全バナジウムRFBシステムにおいて通常起こることと同様に、硫酸セリウムの溶解度特性の過飽和溶液領域におけるレドックス反応の操作を可能にする。
【0030】
硫酸のみによる実施の実施例によると、セリウム濃度は、約100〜500ミリモル/リットルの範囲に限定され得る。通常1500ミリモル/リットルのバナジウムが存在することを考慮すると、添加されたセリウムが電気貯蔵容量に寄与するのは、約7%〜30%に限定されるが、セリウムの現実の(主な)機能は、V+5に酸化可能なV+4イオンが予想外に全体的又は局所的に枯渇する場合の酸素イオン放出を回避する安全な緩衝状態を提供することである。添加されたセリウムは、電荷電流及びセリウムのモル含有率に関係して相当な期間にわたり電子を吸収することによって電解液に関してのアノード分極電圧を対Ce+3/Ce+4の酸化過電圧のレベルまで下げておくための緩衝剤として作用する。
【0031】
別の実施例によると、電解液に用いられる酸は、硫酸ではなく、メタンスルホン酸であってよく、メタンスルホン酸は、バナジウムの他に、最大で500ミリモル/リットル、さらにこれを超えるセリウムさえも無理なく可溶化することができる。
【0032】
この酸は、「Plurion」と呼ばれる亜鉛/セリウムにおいて(正極側のレドックス対としての)セリウムを可溶化するために、並びに、正極側のレドックス対として鉛を用いる他の提案されている準RFBシステムにおいて硫酸鉛を可溶化するために用いられている。
【0033】
さらに別の実施例は、硫酸及びメタンスルホン酸の混合物を、硫酸セリウムのより高い溶解度を可能にするのに十分な比で用いることである。硫酸に対してのメタンスルホン酸のフラクションを増加させることで、硫酸セリウムの量を増加させる溶液をもたらす。
【0034】
同じ平衡モル量のセリウムがバナジウムの負電解液にも添加されて、同様の補助Cr+3/Cr+2対を付与することができるが、これは、還元可能なV+3イオンが全体的又は局所的に枯渇する場合、又はバナジウムRFBシステムの予想外の過充電の場合に、カソード反応を支持することが可能であり、(先に示した阻害剤によって被毒された)寄生性の水素放出を防止する。しかし、負極側では、同じ平衡化が、負電解液中のバナジウムの(すなわち、主V+2/V+3レドックス対の)モル量の比例的な増分によって、好ましくは、より経済的になされる。
【0035】
例えば、0.3モル/リットルのセリウムが、1.5モル/リットルのバナジウムを含有する正電解液に添加されると、負電解液回路における同じバナジウム電解液の体積が1/5増分され得、これは、正電解液各リットルについて負電解液1.25リットルの体積比に相当する。
【0036】
図2は、充放電プロセスを通しての、セル電極における電気化学電位、及び開回路セル電圧を示す。セル電圧は、電解質が完全に放電されたとき約1.2Vであり、完全に充電されたとき約1.9ボルトである。
【0037】
同出願の上記先行出願に開示されているように、単一セル間の実セル電圧の起こり得る予想外の差、及びセル電極間の電流密度差は、全バナジウムRFBシステムの単極セル構造アプローチによる隠されたリスク状態をもはや構成せず、また、予想外の過充電に対する、並びに正炭素電極におけるアノード酸化可能なV+4イオン及び/又は負炭素電極におけるカソード還元可能なV+3イオンの、ほとんど検出可能な短命の局所的な過剰枯渇状態に対する固有の安全装置が、ガルバニック効率を増分させ且つ脱ガスの問題及び他の不都合を回避することの他に、正極の急速な劣化を防止する。
【0038】
正電解液中にセリウムを添加する、記述した付随の有益な効果は、Ce+3及びCe+4並びにメタンスルホン酸のような物質の硫酸バナジウム溶液中への導入の結果であるようである。予備実験結果は、セリウムイオンの存在並びにメタンスルホン酸の存在が、五酸化バナジウムを析出させる傾向を妨げることを示す。この効果の可能性のある説明は、五酸化バナジウムの析出が、酸化バナジウム分子の重合プロセスを通して起こっているようであるという事実に関係し得る。ポリマーの形成プロセスにおけるいずれの妨害も、該プロセスを妨げ/遅延させる。実際、セリウムイオンの存在は、酸化バナジウム分子の重合を妨害することにより、該重合を遅延させる場合がある。メタンスルホン酸の存在でさえも、VOイオンの抗凝固作用のために、遅延効果を及ぼす可能性があるようである。
【0039】
五酸化バナジウムの析出は、反応:
2VO+HO=V+2H
に従って起こる。
【0040】
高濃度のHは、50℃超の温度で最終的に顕在化し始める析出を遅らせるが防止しない。バナジウムの濃度は、この反応の反応速度論にも影響し:より低い濃度が析出を遅らせるが、80〜100℃の温度では0.1モル/リットルの濃度でさえも五酸化バナジウムの析出が存在する。
【0041】
出願人の意見によると、析出が生じるのは、VOイオンが、強酸化剤、換言すると、強い電子受容体であり、電子供与体分子によって求引されるためである。硫酸、又は、より良好にはSO−2イオンは、中強度を有する電子供与体であり、溶媒和付加物を安定にするVOの必要性をある程度まで満足するが、50℃を超える温度では、VOが、以下の反応に従って水分子の攻撃及び酸化(水分子の酸素から電子を引き抜く)を始める:
【0042】
【化1】
【0043】
酸溶液において強い電子供与体物質を付与することによって、VOが、水分子を攻撃するよりもむしろ、強い電子供与体の電子を共有する。
【0044】
Maria Kazacos教授は、圧倒的多数の電子供与体有機分子を開示しているが、その殆どは、VOの強い酸化力に耐えられない。V+4は触媒の存在下に100℃で糖を酸化するが、V+5は、いずれの触媒も用いることなく室温でいずれの弱い(脂肪族)有機化合物も酸化することが可能である。
【0045】
Larsson教授は、SuFuCellに関して改良しており、ここでは、100℃で空気を用いたV+4の酸化によって生成されたVOが、電極においてV+4にカソード還元されるセルの負極区画に流入するように当該温度で溶液中に安定して維持される必要がある。これを達成するために、Larsson教授は、非常に強い供与体化合物:ピリジンを用いた。実際に、ピリジンの有機環は非常に安定であり、VOによって酸化されない。
【0046】
ピリジンは、三酸化硫黄ピリジン錯体と同じように、ルイス塩基として作用して、ルイス酸に電子対を供与する。
【0047】
本出願人は、本開示のバナジウムRFBシステムのV+4/V+5及びCe+3/Ce+4レドックス対を含有する正電解液中にピリジン、ビピリジン又はベンゼンを添加することによって、五酸化バナジウム(VO)の析出が100℃の高温においても十分に防止されることを実験的に実証した。
【0048】
上記の種々の実施例は、組み合わされて、さらなる実施例を付与することができる。上記詳細な説明に照らして実施例に対する他の変更がなされ得る。概して、以下の特許請求の範囲において、用いられている用語は、特許請求の範囲を、本明細書及び特許請求の範囲に開示されている具体的な実施例に限定すると解釈されてはならないが、かかる特許請求の範囲に付与されている権利と等価であるものの全範囲に沿って全ての起こり得る実施例を包含すると解釈されるべきである。したがって、特許請求の範囲は、本開示によって限定されない。
図1
図2