特許第6262777号(P6262777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262777
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】照射中の動きを管理する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
   A61N5/10 M
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-562188(P2015-562188)
(86)(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公表番号】特表2016-513510(P2016-513510A)
(43)【公表日】2016年5月16日
(86)【国際出願番号】EP2014055085
(87)【国際公開番号】WO2014140262
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】13/835,685
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513004593
【氏名又は名称】エレクタ アクチボラゲット(パブル)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リードストレム、マティアス
(72)【発明者】
【氏名】フレンチ、マルコルム
(72)【発明者】
【氏名】ゴルカ、バルトシュ
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ルイ
(72)【発明者】
【氏名】アルン、トーマス
【審査官】 宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05622187(US,A)
【文献】 特表平11−509456(JP,A)
【文献】 米国特許第07024237(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/00 − A61N 5/10
A61B 90/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療装置内の患者の、例えば癌腫瘍などの治療容積の治療に関連して照射中の前記患者の動きを監視するための装置であって、前記放射線治療装置は、放射焦点を有する外照射治療部と、患者の治療容積を前記放射線治療部の前記焦点に対し相対的に位置決めするための患者位置決め部とを備え、前記装置は
患者標識の動きが頭の動きを示すよう前記患者の鼻に取り付けられる少なくとも1つの前記患者標識と、
治療中に前記患者を固定するための患者固定用構成に対し相対的に規定された位置に位置決めされるように構成された少なくとも1つの基準標識と、
前記患者標識が前記患者の鼻に付けられているとき、前記患者標識及び前記基準標識の画像が撮影される位置に配置された光学式追跡装置であって、前記光学式追跡装置の前記位置が前記少なくとも1つの基準標識に相対的に固定された前記光学式追跡装置と、
前記光学式追跡装置で撮影された画像を基に、前記少なくとも1つの基準標識で設定された座標系に対する前記患者標識の相対位置を決定するように構成された処理モジュールとを備え、前記位置の変化は前記患者又は前記患者の一部が前記患者固定用構成に対し相対的に動いたかどうかの情報を提供し、
前記処理モジュールは、前記動きの変化が既定限界を越えている及び/或いは少なくとも既定時間継続していることが検出された場合、前記放射線治療装置に前記治療を中断させるよう指示する中断信号を提供するように構成されている、装置。
【請求項2】
前記患者標識は反射式であり、前記光学式追跡装置は赤外線放射器及び赤外線検出器を含む赤外線追跡装置である、請求項に記載の装置。
【請求項3】
前記患者標識及び前記少なくとも1つの基準標識の各々は赤外線放射器を備え、前記光学式追跡装置は赤外線検出器を備える、請求項に記載の装置。
【請求項4】
前記光学式追跡装置はカメラを備える、請求項に記載の装置。
【請求項5】
前記処理モジュールは、
前記基準標識を用いて基準点の平均位置を決定し、
前記基準点によって決定された座標系に対する前記患者標識の相対位置を決定する
ように構成されている、請求項に記載の装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの基準標識を含む基準器が、前記患者固定用構成の固定された位置即ち前記患者固定用構成に対し相対的に規定された位置に取り付けられるように構成されている、請求項に記載の装置。
【請求項7】
患者の動きを表示するように構成された表示器をさらに備える、請求項に記載の装置。
【請求項8】
前記患者固定用構成に対し相対的に規定された複数の位置に位置決めされるよう構成された少なくとも2つの基準標識を備え、前記処理モジュールは、光学式追跡装置で撮影された画像を基に、前記少なくとも2つの基準標識によって設定された前記座標系に対し前記患者標識の相対位置を決定するように構成されている、請求項からまでのいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記患者固定用構成に対し相対的に固定された位置に取り付けられるよう構成され、それぞれ前記基準標識の少なくとも1つを含む第1及び第2の基準器をさらに備える、請求項に記載の装置。
【請求項10】
前記第1及び第2の基準器は前記患者固定用構成に取り付けられるように構成されている、請求項に記載の装置。
【請求項11】
前記第1及び第2の基準器は前記患者位置決め部に取り付けられるように構成されている、請求項に記載の装置。
【請求項12】
前記第1及び第2の基準器は前記患者の頭部又は頸部の両側に取り付けられるよう構成されている、請求項から11までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記第1及び第2の基準器の少なくとも1つは少なくとも2つの基準標識を備え、前記少なくとも2つの基準標識は、前記基準器が取り付けられているとき、前記光学式追跡装置からの距離が異なるよう配置されている、請求項から12までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記患者固定用構成に取り付けられ前記患者の前記頭部を固定するよう構成され、且つ前記少なくとも2つの基準標識を含む定位固定式頭部支持枠をさらに備える、請求項に記載の装置。
【請求項15】
前記頭部支持枠が取り付けられているとき、前記少なくとも2つの基準標識は前記頭部支持枠の前記光学式追跡装置から異なる距離に配置されている、請求項14に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線治療の分野に関する。詳細には、本発明は放射線治療装置に関連して照射中の患者の動きを監視する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
手術手技の開発は長年に渡りめざましい進歩を遂げてきた。例えば、手術が必要な癌腫瘍に苦しむ患者に対し、現在、患者にごく僅かの心的外傷しか与えない非侵襲手術が利用可能である。
【0003】
そのような手術をガンマ線で行う外照射治療用の一装置が、レクセル・ガンマ・ナイフ(Leksell Gamma Knife、登録商標)の名称で販売されている。放射線が多数の固定放射線源から放射され、コリメーター即ち限られた断面の光束を得るための通路即ち導管によって収束され、確定された標的容積即ち治療容積に向けられる。治療中、各放射線源は介在する組織を損傷するには不十分な用量のガンマ線を出す。しかし、全ての放射線源からの放射線が横切る場所、即ち集中する場所では、放射線が組織破壊の基準に達し、組織破壊が起こる。この集中する点を本明細書では「焦点」と呼ぶ。このような放射線装置が、例えば米国特許第4,780,898号に紹介、記述されている。
【0004】
非侵襲手術用の別の装置が線形加速装置(LINAC:Linear Accelerator)であり、この装置は、例えば脳内の標的にガンマ・ナイフを用いて実現される手術と類似した定位固定放射線手術にも使用することができる。
【0005】
定位固定放射線手術は低侵襲の治療法であり、単一大用量の放射線を頭蓋内の特定標的に当てながら、一方で周囲の組織は温存することが可能になる。定位固定放射線手術は従来の分割放射線治療と異なり、腫瘍性病変がもつ、正常な脳よりも相対的に高い放射線感受性(治療可能比)に依拠していない、即ちこれを利用しない。その選択的破壊は、主に鋭く集光した高用量の放射線及び特定の標的周りの急峻な用量勾配に依存している。生物学的な影響には、治癒不能の細胞損傷及び高用量標的容積内の遅発性の血管閉塞がある。治療可能比を必要としないことから、元々放射線抵抗性がある病変を治療することができる。しかし破壊的な用量が用いられるため、標的容積に含まれる全ての正常構造が損傷を受け易い。
【0006】
放射線治療装置では、線形加速装置(LINAC)又はレクセル・ガンマ・ナイフ(登録商標)でそうであるように、患者の頭部は定位固定装置に固定され、頭部内の治療容積の位置が規定される。さらに患者は患者位置決め部に固定され、患者全体が動かされ、治療容積が放射線治療装置の放射部の焦点と一致するように位置決めされる。したがって、線形加速装置(LINAC)又はレクセル・ガンマ・ナイフ(登録商標)装置のような放射線治療装置では、患者位置決め部が治療容積を極めて高精度で焦点に位置決めできることが非常に重要である。また、この高精度は長時間維持されなければならない。
【0007】
したがって、治療中にできるだけ好ましい臨床効果を得、且つ周囲組織に損傷を与えないために最も重要なことは、放射線が標的、即ち治療容積に高精度で到達、命中し、そうすることによって治療容積の近傍の健常組織及び/又はそれを取り囲んでいる健常組織を温存することである。これを実現するため、施術中、患者は必ず固定されなければならず、さらに治療中の頭部又は患者の一部分の位置は、治療の間中、基準位置と同じ位置になければならない。この施術中の基準位置とは、治療計画を作るための画像が、例えばコンピューター断層撮影法(Computerized Tomography Imaging、CT撮影法)によって撮影されるときの位置である。例えば治療領域即ち治療容積が患者の頭部内組織の一部である場合、顔面マスクが用いられる。このマスクは、患者の顔(及び両肩)に被せる構成、形状をしていて、患者を位置決め装置に対して相対的にほぼ固定された位置に保持する。
【0008】
特に重要なことは、感受性組織近傍の腫瘍の放射線手術を実施している放射線治療の施術中に、患者が動かないようにすることである。
【0009】
現在使用されている種々の固定器具では、そのような患者の体部の動きを完全に無くす或いは防ぐほどに患者を固定することは不可能である。例えば、顔面及び肩マスクを用いて患者を固定しても、マスクの下の頭部が僅かに動く可能性がある。
【0010】
上記を考慮すると、放射線治療の技術には、治療中の患者及び/又は治療対象人体部の非常に僅かな動きを高精度且つ高信頼性で検出し、監視することができる照射中動作管理(IFMM:Intra−Fraction Motion Management)装置及び方法の要求がある。
【0011】
従来技術には、例えばX線撮影装置、光学撮影装置、又は侵襲的方法に基づいた照射中動作管理(IFMM)の方法が複数存在する。しかし、これら従来法には欠点がある。例えば、X線撮影装置又は光学撮影装置などの撮影法は広範囲の画像処理を必要とし、方法が複雑、高価になる場合がある。また、X線撮影装置では患者が放射線に曝され、有害な場合がある。侵襲的方法は患者には不快な場合があり、また有害な場合もある。さらに従来技術の装置は、例えば、パーフェクション(Perfexion、登録商標)装置(出願人から販売されている放射線治療装置)の内部で発生するガンマ線に耐えることに問題がある場合がある。さらに、従来技術の装置は多くの場合大型であり、そのため例えばパーフェクション(登録商標)装置と一緒に使用するのは難しい。
【0012】
別の方法は、赤外線標識をマスクに設け、赤外線追跡装置例えば赤外線カメラでその動きを検出することである。しかし、この解決法では、マスク自身の動きだけが追跡されることになるため、マスクの下の標的例えば患者の頭部の小さな動きを追跡することは不可能である。同じ理由から、C−ラド・カタリスト(C−rad catalyst)などの表面追跡型照射中動作管理(IFMM)装置は適さない。
【0013】
このように、放射線治療の技術には、照射中の動きの高精度且つ高信頼性検出を可能にして、周囲の感受性組織の望ましくない損傷の危険性を無くす、或いは少なくとも大きく低減するよう改良された装置及び方法の要求がある。これらの装置は、装置及び治療過程自身は複雑化してはいけない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4,780,898号
【特許文献2】米国特許第6,931,096号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の一つの目的は、照射中の動きを高精度且つ高信頼性で検出するための改良された装置及び方法を提供して、周囲の感受性組織の望ましくない損傷の危険性を無くす、或いは少なくとも大きく低減することである。
【0016】
本発明の別の目的は、例えばパーフェクション(登録商標)装置などの放射線治療装置との一体化或いは併用が容易な、照射中の動きを検出するための改良された装置及び方法を提供することである。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、低価格で製造可能な、照射中の動きを検出するための改良された装置及び方法を提供することである。
【0018】
本発明のさらに別の目的は、使い勝手が良い、即ち放射線治療装置を取り扱う医療従事者が容易に使用可能な、照射中の動きを管理するための改良された装置及び方法を提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、使用中に患者に快適な、照射中の動きを管理するための改良された装置及び方法を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、例えばコンピューター断層撮影法(CT撮影法)或いは円錐ビーム・コンピューター断層撮影法(Cone Beam Computerized Tomography Imaging、CBCT撮影法)などの撮影方法と互換性がある、照射中の動きを管理するための改良された装置及び方法を提供することである。
【0021】
本発明の別の目的は、照射中の動きを管理する(即ち治療中の動きを検出する)ための非電離式の装置及び方法を提供することである。
【0022】
これらの目的及び他の目的は、独立請求項に規定された特徴を有する装置及び方法を提供することによって実現される。好ましい実施例が従属請求項に規定されている。
【0023】
好ましくは、本発明による方法及び装置は、例えばパーフェクション(登録商標)装置などの放射線治療装置内の患者の癌腫瘍の治療に関連して、照射中の患者の動きを監視するために使用される。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の一側面によれば、放射線治療装置内の患者の、例えば癌腫瘍などの治療容積の治療に関連して照射中の患者の動きを監視するための方法が提供され、この放射線治療装置は、放射標的を有する放射線治療部と、患者内の治療容積を放射線治療部の放射標的に対して相対的に位置決めするための患者位置決め部とを備える。本方法は
患者の鼻に少なくとも1つの患者標識を取り付けることと、
上記患者標識及び基準標識の画像を既定の時間間隔で撮影し、これによって治療中に患者固定具に対し相対的に既定の位置に基準座標系の原点を定めることと、
光学式追跡装置で撮影された画像を基に、少なくとも1つの上記基準標識の位置を用いて最初の開始位置からの位置の相対的変化を判定して、明らかな動きを除去することとを含み、どの相対的変化も患者又は患者の一部が動いたことを示す。
【0025】
本発明の別の側面によれば、放射線治療装置内の患者の、例えば癌腫瘍などの治療容積の治療に関連して照射中の患者の動きを監視するための装置が提供され、この放射線治療装置は、放射標的を有する放射線治療部と、患者内の治療容積を放射線治療部内の放射標的に対して相対的に位置決めするための患者位置決め部とを備える。本装置は、患者に取り付けるように構成された少なくとも1つの患者標識と、局所座標系の原点を定める少なくとも1つの基準標識とを備える。好ましくは、上記少なくとも1つの基準標識は、治療中の患者を固定するための患者固定用構成に対し相対的に固定された位置に位置決めされるように構成されている。患者標識と基準標識の画像が撮影可能な位置に光学式追跡装置が配置されている。処理モジュールが、基準標識で設定された座標系内の位置の最初の開始位置からの相対的なずれを判定するように構成されている。この動きは光学式追跡装置で撮影された画像を基に判定され、どの相対的なずれも患者又は患者の一部が動いたことを示す。
【0026】
好ましくは、光学式追跡装置は、患者標識が患者の鼻に付けられているとき、患者標識及び少なくとも1つの基準標識の画像が1つの画像に撮影される位置に配置されている。この光学式追跡装置は、全ての標識が追跡容積内に入るように置かれている。追跡容積は、治療中に全標識が視野に入る位置にある。
【0027】
本発明は、患者の鼻の先端に付けられた患者標識の動きが頭部の動きを示すという考えに基づく。鼻は顔の一部であって、動かされることを意図しておらず、したがって顔の多くの他の部分のように多くの筋肉に接続されていない。鼻の動きは通常非常に小さく一時的である。即ち、普通に動かされている鼻のどの部分も、直ぐにその元の位置に戻る。さらに、本発明による動き追跡は、基準指標(好ましくは、基準標識を含む基準器)の座標系に対する患者標識の相対位置変化に基づく。この基準指標は、患者を固定する固定用構成にしっかりと取り付けられているのが好ましい。光学式追跡装置は、患者標識及び基準指標が共に1つの画像に撮影されるように配置されている。治療中、患者の動きは、光学式追跡装置による患者標識の基準指標に対する相対的位置変化の監視によって追跡される。つまり、患者(即ち患者標識)及び(例えば基準器に配置された)基準標識の画像を所定の間隔で連続的に取得し、これら画像を解析することによって患者の動きを経時的に検出し追跡することができる。
【0028】
本発明の複数の実施例によれば、患者標識及び基準標識は反射式であり、光学式追跡装置は、赤外線放射器及び赤外線検出器、例えば赤外線カメラを含む赤外線追跡装置である。即ち、放射された赤外線光は上記標識で反射され、赤外線検出器で捕らえることができる。標識は画像内で光の点として識別されるので、次にこれらの位置を用いて位置の変化を判定することができる。
【0029】
本発明の複数の実施例では、患者標識及び基準標識はそれぞれ赤外線放射器を備え、光学式追跡装置は赤外線検出器、例えば赤外線カメラを含む。よって標識から放射された光を赤外線検出器によって捕らえることができる。標識は画像内で光の点として識別されるので、次にこれらの位置を用いて位置の変化を判定することができる。
【0030】
本発明の複数の実施例によれば、光学式追跡装置はカメラを備える。この実施例では、カメラは各画像に標識を撮影する。標識は画像内で、例えば画像解析を用いて識別される。本発明の複数の実施例によれば、基準標識を含む基準器の基準座標系原点が決定される。次にこの基準点を基に、基準器によって決定された座標内の患者標識の位置が計算される。つまり、連続した患者標識位置の相対距離は、画像内の患者標識の位置及び基準座標系の位置に基づく。そうすることによって基準座標系が作られ、患者標識の3次元の追跡が可能になる。しかし例えば、追跡中にベクトルの大きさだけを用いてもよい。
【0031】
本発明の複数の実施例によれば、治療と関連して、患者にはその顔に合う形状のマスクが付けられる。治療時、このマスクは顔に置かれる。マスクには患者の鼻が開放されるような穴がある。したがってマスクが患者の顔に置かれているとき、患者の鼻はマスクで覆われず、マスクに接触せずに動くことができる。そうすることによって、患者標識を患者の鼻の先端の皮膚に容易に直接取り付けることができる。
【0032】
本発明の複数の実施例によれば、基準器は、患者固定用構成の固定の位置に取り付けられるように構成されている。基準器は、1つ又は複数の基準標識を備え(複数の実施例では、基準器は1つ、3つ、4つ、又は5つの標識を含むが、勿論6つ以上も考えられる)、患者及び患者位置決め部に対し相対的に固定された位置に位置決めされている。基準器は、患者固定用構成に台を介して取り付けられてもよい。複数の実施例では、基準器は着脱式であり、したがって、治療中に基準器が実際に使用される間は患者固定用構成に取り付け、使用しないときは取り外すことができる。他の複数の実施例では、基準器は患者固定用構成にしっかりと取り付けられている。
【0033】
本発明の一実施例によれば、第1及び第2の基準器が上記患者固定用構成に対し相対的に固定された位置に取り付けられており、各基準器は少なくとも1つの上記基準標識を含む。言い換えれば、基準器は第1及び第2の基準器部材を備え、それぞれが少なくとも1つの上記基準標識を備える。したがって、少なくとも2つの基準標識が上記患者固定用構成に対し相対的に規定された位置に位置決めされる。このようにして処理モジュールは、光学式追跡装置で撮影された画像を基に、少なくとも2つの基準標識によって設定された座標系に対する患者標識の相対位置を決定するように構成されている。1つ又は複数の基準器即ち基準器部材は、2つ以上の基準標識を備えてもよい。この2つ以上の基準標識は患者のZ方向即ち身長方向の異なる位置に、光学式追跡装置からの距離が異なるように配置されてもよい。この距離の差は、基準器の形状によって実現されてもよい。例えば、基準器が湾曲していてもよく、或いはZ方向に延びた1つ又は複数の突出部を有し、これに基準標識が取り付けられていてもよく、及び/或いは基準標識を埋め込むこと、即ち基準標識を凹み又は非貫通穴に取り付けることによって実現してもよい。また、2つ以上の基準標識はY方向の異なる位置に配置されてもよい。基準器即ち基準器部材はさらに、X方向に離間していてもよい。基準標識を2つ以上の方向に離間配置することは、患者標識の位置をより正確に決定するのに有利である。第1及び第2の基準器は、上記患者固定用構成に取り付けられるように構成されてもよい。或いは、第1及び第2の基準器は、上記患者位置決め部に取り付けられるように構成されてもよい。基準器はさらに、上記患者の頭部又は頸部の両側に取り付けられるように構成されてもよい。
【0034】
本発明の別の実施例によれば、患者の頭部はマスクの代わりに定位固定式の頭部支持枠を用いて固定される。この頭部支持枠は患者固定用構成に取り付けられるように構成されている。この実施例では、基準標識は頭部支持枠に直接固定されてもよく、即ち別の1つ又は複数の基準器を使用しない。頭部支持枠は2つ以上の基準標識を備えてもよい。この2つ以上の基準標識は患者のZ方向即ち身長方向の異なる位置に、光学式追跡装置からの距離が異なるように配置されてもよい。この距離の差は、頭部支持枠の形状によって実現されてもよい。例えば、頭部支持枠が湾曲部分を有していてもよく、或いはZ方向に延びた1つ又は複数の突出部を有して、これに基準標識が取り付けられていてもよく、及び/或いは基準標識を埋め込むこと、即ち基準標識を凹み又は非貫通穴に取り付けることによって実現してもよい。また、2つ以上の基準標識はY方向及び/又はX方向に異なる位置に配置されてもよい。基準標識を2つ以上の方向に離間配置することは、患者標識の位置をより正確に決定するのに有利である。
【0035】
本発明の複数の実施例によれば、患者標識の基準器に対する相対位置は光学式追跡装置で撮影された画像を基に決定され、この相対位置の変化は患者又は患者の一部が動いたことを示す。
【0036】
本発明の複数の実施例によれば、(患者標識の最初の位置と現在の位置の間の)相対距離は表示器に表示され、継続的に更新されて、患者が動いたことを装置の操作者が見ることができるように表示される。
【0037】
本発明の複数の実施例によれば、既定限界を越える位置変化及び/又は少なくとも既定時間継続する位置変化が検出された場合、放射線治療装置に中断信号が出されて治療が中断される。そうすることによって、治療容積、例えば癌腫瘍が最初の治療位置から許容される以上に患者が動いたら、治療を即時に中断することができ、つまり周囲組織の潜在的損傷を避けることができる。
【0038】
本発明の複数の実施例によれば、既定限界を越える位置変化及び/又は少なくとも既定時間継続する位置変化が検出された場合、警告信号が出される。そうすることによって、放射線治療装置を取り扱う医療従事者に、治療容積、例えば癌腫瘍が最初の治療位置から動いたので周囲組織が損傷するかもしれないというように患者の動きが通知される。即ち、警告信号は、医療従事者に、治療を中断して患者の位置を再度調整し、その後治療を再開しなければならないことを伝える。本発明の複数の実施例では、警告信号は可聴信号又は視覚信号及び音声でもよく、治療を中断させるための制御部への電気信号でもよい。
【0039】
本発明の複数の実施例によれば、ある期間即ち時間間隔の変化が既定限界を越える及び/或いは少なくとも既定の時間間隔だけ継続した場合に、検出変化として判定される。そうすることによって、例えば呼吸に関連した小さな動き、又は短時間のやや大きな動き(例えば患者が鼻にしわを寄せるというような、治療に影響せず周囲組織に損傷を与えない動き)を除去することができ、十分に大きい動き及び/又は継続している動きのみを検出することになる。
【0040】
複数の実施例を例示して、本発明の更なる目的及び利点を以下に述べる。
【0041】
本発明のこれらの特徴及び他の特徴、側面、及び利点は、以下の詳細な記述、添付の特許請求の範囲、及び添付図面を検討するとき、さらに完全に理解される。
【0042】
添付図面は全体に必ずしも正確な縮尺で描かれてはおらず、本発明の種々の実施例を例示的に説明しているが、これらに限定されるものではない。即ち、本発明の典型的な実施例は添付図面の図に例示的に説明されているのであって、これらに限定されない。添付図の同じ参照番号は類似の要素を示す。本記述中の「ある」実施例又は「一つの」実施例の表記は、必ずしも同一の実施例を指すのではなく、そのような参照は少なくとも1つを意味することに留意されたい。
【0043】
添付図面を参照して、本発明の好ましい実施例がより詳細に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明を用いてもよい放射線治療装置の一般原理を説明する図である。
図2図1の装置に用いられる位置決め部を説明する図である。
図3】固定接続部を保持するための係合点を含む位置決め部の一部を、より詳細に説明する図である。
図4】本発明の複数の実施例による装置を説明する図である。
図5】本発明の複数の実施例による方法の工程を説明する流れ図である。
図6a】本発明の一実施例による患者位置決め部に取り付けられた光学式追跡装置を説明する図である。
図6b】本発明の一実施例による患者位置決め部に取り付けられた光学式追跡装置を説明する図である。
図7a】本発明による装置の実施例を説明する図である。
図7b】本発明による装置の実施例を説明する図である。
図8】本発明の複数の実施例による方法の工程を説明する流れ図である。
図9a】2つの基準器が患者固定用構成に取り付けられている本発明の一実施例を説明する図である。
図9b】2つの基準器が患者固定用構成に取り付けられている本発明の一実施例を説明する図である。
図10a】複数の基準標識を含む頭部支持枠が患者固定用構成に取り付けられている本発明の一実施例を説明する図である。
図10b】複数の基準標識を含む頭部支持枠が患者固定用構成に取り付けられている本発明の一実施例を説明する図である。
図11】2つの基準器が患者位置決め部に取り付けられている本発明の一実施例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
先ず図1〜3を参照すると、本発明が適用可能な放射線治療装置が、放射線治療部即ち放射部10及び患者位置決め部20を備え、これらについて記述される。放射部10には、複数の放射線源、複数の放射線源保持器、コリメーター本体、及び外側遮蔽要素が設けられている。コリメーター本体は、当業分野で一般に知られた方法の、共通の焦点に向けられた多数のコリメーター導管を備える。
【0046】
またコリメーター本体は、コリメーター導管を経由する以外は患者に放射線を到達させない放射線遮蔽体の役割も果たす。本発明に適用可能な放射線治療装置のコリメーター構成の複数の実例が米国特許第6,931,096号に記述されており、その全体を参照して本明細書に援用する。しかし、本発明は放射線を焦点に合わせる他の構成を用いる放射線治療装置にも適用可能であり、例えば米国特許第4,780,898号に開示されたものなどがある。
【0047】
患者位置決め部20は、剛体の骨組み22、しゅう動自在即ち可動式の担体24、及び骨組み22に対して担体24を相対移動させるための原動機(図示せず)を備える。担体24には患者全体を担持し移動させる患者ベッド26がさらに設けられている。担体24の一端に固定用構成28が設けられている。固定用構成28は、患者固定部即ち接続部を直接或いはアダプター部42を介して収容し固定するためのものである(図3を参照)。
【0048】
患者固定部の座標はその座標系によって規定され、治療容積との固定した関係によって治療容積の輪郭が規定される。稼働中、患者固定部は(つまりその座標系も)、固定された放射線焦点に対し相対的に動かされ、そのため焦点は患者固定部の座標系の意図した座標に正確に位置決めされる。
【0049】
固定用構成28は2つの係合点21、23を備え、患者固定部が可動式の担体24に対して相対的に平行移動及び/或いは回転運動しないように構成されている。
【0050】
図1及び図2から解るように、記述されている実施例は、ヒト患者の頭部内の標的容積にガンマ放射線治療を施す放射線治療装置に関する。そのような治療は多くの場合定位固定放射線手術と呼ばれる。治療中、患者の頭部は固定部に固定される。この固定部は定位固定式頭部支持枠の形態をしており、放射線治療装置の係合点21、23と係合するように構成された係合点を備える。つまり、定位固定放射線手術の間、患者の頭部は定位固定式支持枠に固定され、次に係合点21、23を介して患者位置決め部に固定式に取り付けられる。患者の頭部内の治療容積が、放射線焦点に対して相対的に、図1に示した3つの直交軸X、Y、及びZに沿って動かされている間、患者全体はこれら軸に沿って動かされている。即ち、頭部支持枠と患者位置決め部20の担体24との間には相対的な動きはない。
【0051】
図4を参照すると、照射中の動きを検出、監視するための本発明による装置の一実施例が記述される。照射中の動きを検出する装置5は少なくとも1つの患者標識30を備え、この患者標識30は、患者29が位置決め装置20内に置かれているとき、患者29の鼻の上に置かれ、位置決め部20に対し相対的に位置決めされる。患者にはマスク39(図6b参照)が被せられる。このマスクは鼻部分に穴があり、患者29の鼻に標識30を置くことができるようになっている。好ましくは、患者標識30は生体適合性接着剤が付いた使い捨ての反射型パッチである。
【0052】
さらに、複数の基準標識32を備える基準器31が、患者固定用構成28及び患者位置決め部20に対し相対的に固定された位置に位置決めされている。図6a及び6bには、患者固定用構成28に固定され3つの標識32を備える基準器31が示されている。基準器31は、患者固定用構成28に台33を介して取り付けられてもよい。複数の実施例では、基準器31は着脱式であり、したがって治療中に基準器31が実際に使用されるときに患者固定用構成28に取り付け、使用しないときには取り外すことができる。他の複数の実施例では、基準器31は患者固定用構成28にしっかりと取り付けられている。
【0053】
患者標識30が患者29の鼻に乗せられているとき、患者標識30及び基準器31の基準標識32の画像が撮影されるように光学式追跡装置34が配置されている。
【0054】
図9a及び9bには代替の実施例が示されている。2つの基準標識32a−bを備える第1の基準器31a、及び2つの基準標識32c−dを備える第2の基準器31bが、患者固定用構成28に取り付けられており、患者位置決め部20に対して相対的に固定された位置にある。基準器31a−bはZ方向即ち患者の身長方向に湾曲している。言い換えれば、これらの基準器は光学式追跡装置34に向かって湾曲しているため、基準器の上部が下部よりも光学式追跡装置に近い。基準器31a−bは、患者固定用構成28の患者の頭部及び/又は頸部の両側に取り付けられている。各基準器は、その上部即ち先端に取り付けられた第1の基準標識32a、32c、及び前記基準器の下部に取り付けられた第2の基準標識32b、32dを備える。つまり、この基準器が患者固定用構成28に取り付けられているとき、第2の基準標識の方が患者位置決め部20に近い。基準器の形状が湾曲しているため、第2の基準標識よりも各基準器の第1の基準標識の方が、光学式追跡装置34に近い距離にある。図9a及び9bに示した実施例では、第2の基準標識32b、32dは、それぞれの基準器にさらに沈み込んでおり、即ち凹み又は非貫通穴に取り付けられており、そのため第1の基準標識から光学式追跡装置までの距離と第2の基準標識から光学式追跡装置までの距離の差がさらに増大するようになっている。基準器は着脱式でもよく、したがって治療中に基準器が実際に使用されるときに患者固定用構成28に取り付け、使用しないときには取り外すことができる。或いは、基準器は患者固定用構成28にしっかりと取り付けられていてもよい。患者標識30が患者29の鼻に乗せられているとき、患者標識30及び基準器31の基準標識32a−dの画像が撮影されるような位置で光学式追跡装置34が配置されている。
【0055】
図10a及び10bには別の実施例が示されている。この実施例では、患者は定位固定式頭部支持枠39を用いて患者固定用構成28に固定されている。4つの基準標識32a−dが直接頭部支持枠に対称に取り付けられている。2つの外側基準標識32a、32dは、3つの方向(X、Y、及びZ)の全てにおいて2つの内側基準標識32b、32cから離間している。2つの内側基準標識32b、32cよりも2つの外側基準標識32a、32dの方が、光学式追跡装置の近くに配置されている。患者29が位置決め装置20内に置かれているとき、少なくとも1つの患者標識30は患者29の鼻に置かれ、位置決め部20に対し相対的に位置決めされている。図10a−bで解るように、頭部支持枠は、患者標識30と光学式追跡装置34の間の光路を遮らないように構成されている。好ましくは、患者標識30は生体適合性接着剤が付いた使い捨ての反射型パッチである。患者標識30が患者29の鼻に乗せられているとき、患者標識30及び基準器31の基準標識32の画像が撮影されるような位置で光学式追跡装置34が配置されている。
【0056】
図11には、さらに別の実施例が示されている。2つの基準標識32a−bを備える第1の基準器31a及び2つの基準標識32c−dを備える第2の基準器31bが、患者位置決め部20に取り付けられている。基準器31a−bは患者固定用構成28の患者の頭部/頸部の両側に取り付けられている。各基準器は上側突出部40a、40c及び下側突出部40b、40dを備える。突出部はZ方向即ち患者の身長方向に湾曲しており、そのようにして光学式追跡装置34の方に向けられている。基準標識32a−dが各突出部の先端に取り付けられている。この突出部は、上側基準標識32a、32cより下側基準標識32b、32dの方が、光学式追跡装置34に近いように構成されている。患者標識30が患者29の鼻に乗せられているとき、患者標識30及び基準器31の基準標識32a−dの画像が撮影される位置に、光学式追跡装置34が配置されている。
【0057】
光学式追跡装置34は患者位置決め部20に対し相対的な位置に配置されている。本発明の複数の実施例では、光学式追跡装置は、例えばカメラ台35を介して患者位置決め部20に取り付け可能である。カメラ台35は、患者位置決め部20に蝶番などの接続手段41(図7b参照)を用いて取り付けられており、使用者が光学式追跡装置を所望の位置に合わせ、固定することができるようになっている(図6a、6b、7a、及び7bも参照)。本発明の複数の実施例によれば、患者標識30は反射式であり、光学式追跡装置は、赤外線放射器及び、例えば赤外線カメラのような赤外線検出器を含む赤外線追跡装置である。本発明の他の複数の実施例では、患者標識及び少なくとも1つの基準標識のそれぞれは赤外線放射器を備え、光学式追跡装置は赤外線検出器、例えば赤外線カメラを含む。本発明のさらに別の実施例によれば、光学式追跡装置はカメラを備える。適した追跡装置は、例えばNDI Recognition System Inc.によって製造されている。図7a及び7bには、本発明の複数の実施例による赤外線追跡装置34が、折り畳まれた位置(図7a)及び伸張された位置(図7b)で示されている。
【0058】
例えば撮影された画像を表すデータなどのカメラ・データが、処理モジュール37で処理される。処理モジュール37は、光学式追跡装置で撮影された画像を基に、基準器31の座標系に対する患者標識の相対位置を決定するように構成されており、その位置の変化は、患者又は患者の一部が動いたことを示す。基準器即ち少なくとも1つの基準標識を用いて座標系の原点が決定される。患者標識と基準器(即ち少なくとも1つの基準標識)は共にカメラで観察され、画像が撮影される。この画像を基に、カメラで得られた情報に対し関連する変換を実行することによって、座標系の患者標識の位置が計算される。
【0059】
処理モジュール37は、例えばパーソナル・コンピューター又はノート型コンピューターなどの外部装置38に構成されてもよく、画像データは、カメラ34から外部装置38の通信モジュール36へ無線で、例えばブルートゥースを用いて、又はケーブルを介して転送可能である。処理モジュール37は、例えばノート型コンピューター又はパーソナル・コンピューターなどのコンピューター部で実行されるよう構成されたソフトウェア・モジュールとして実装されてもよい。
【0060】
図5を参照すると、本発明による方法の一般原理が論じられる。この方法は、例えば癌の治療と関連した分割放射線治療の施術中に、照射中の動きを検出、監視するために用いられる。本方法が開始されると、好ましくは、本方法は施術の間中ずっと継続されて、その間の患者の動きを監視する。
【0061】
最初に工程S100で、患者29が患者位置決め部20に置かれ、位置決めされ、治療容積例えば癌腫瘍が、放射線治療部10内の標的容積に対し相対的に治療位置に位置決めされる。この実例では、患者にはその顔に合った形状のマスクが被せられる。マスクには穴があり、患者の鼻が開放されるようになっている。即ち、マスクが患者の顔に置かれているとき、患者の鼻はマスクで覆われないため、マスクは鼻の動きに影響せず、鼻は標的と一緒に動くようになっている。そうすることによって、患者標識を患者の鼻の先端に容易に直接取り付けることができるため、工程S110で、患者標識30が患者の鼻に取り付けられる。好ましくは、患者標識30は患者の鼻の先端に取り付けられる。患者を患者位置決め部20に対して相対的に固定する別の方法には、侵襲的固定即ち咬合阻止具を用いる固定がある。
【0062】
工程S120で、基準器31が患者固定用構成28に、患者位置決め部20に対して相対的に望ましい位置に固定されるようにしっかりと取り付けられる。基準器31が着脱式でない場合、即ち患者固定用構成28に取り付け済みであれば、この取り付けは不要である。さらに、患者標識30と基準器31の標識32の両方が1つの画像に撮影されるように、光学式追跡装置34が患者及び基準器に対する相対位置に位置決めされる(例えば伸張位置に置かれる)。
【0063】
工程S130で、治療中に患者標識30及び基準器31の基準標識の画像が既定の時間間隔で繰り返し撮影される。
【0064】
工程S140で、光学式追跡装置34で撮影された画像を基に、患者標識の最初の位置に対する相対的位置が連続的に決定される。その距離の変化が、患者又は患者の一部が患者位置決め部20に対して相対的に動いたことを示す。好ましくは、患者標識の基準器に対する相対位置は、光学式追跡装置34で撮影された画像を基に決定される。
【0065】
患者標識の動きを、治療中操作者向けに、放射線治療部10の表示器に表示することができる。
【0066】
工程S130及びS140は、施術中、施術の終了まで連続的に繰り返される。
【0067】
治療中、観察された動きが既定の限界を越えたか及び/或いは少なくとも既定時間継続したか、即ち患者標識の動きが既定の限界を越えたか及び/或いは少なくとも既定時間継続したかを確認してもよい。既定限界を越えた及び/或いは既定時間継続した動きが観察されたら、治療を中断してもよく、及び/或いは警告信号を出してもよい。
【0068】
外部装置38は放射線治療装置10に中断信号を送信し、治療を即時に中断するように指示してもよい。そうすることによって周囲組織の潜在的損傷を最少にすることができる。
【0069】
警告信号が出される場合、警告信号は可聴信号でもよく及び/又は視覚信号でもよい。そうすることによって、施術中の医療従事者に、患者が最初の治療位置から動いたので不全治療になる可能性があることが通知、警告され、適切な対策が取られる可能性がある。また、本発明によって治療を自動的に中断することもできる。
【0070】
図8を参照すると、本発明の一実施例による方法の一般原理が論じられる。この方法は、例えば癌の治療と関連した分割放射線治療の施術中に、照射中の動きを検出、監視するために用いることができる。本方法が開始されると、好ましくは、本方法は施術の間中ずっと継続されて、その間の患者の動きを監視する。
【0071】
最初に工程S200で、患者29が患者位置決め部20に置かれ、位置決めされ、治療容積例えば癌腫瘍が、放射線治療部10内の標的容積に対し相対的に治療位置に位置決めされる。この実例では、患者にはその顔に合った形状のマスクが被せられる。マスクには穴があり、患者の鼻が開放されるようになっている。即ち、マスクが患者の顔に置かれているとき、患者の鼻はマスクで覆われないため、マスクは鼻の動きに影響せず、鼻は標的と一緒に動くようになっている。そうすることによって、患者標識を患者の鼻の先端に直接取り付けることが容易にできるため、工程S210で、患者標識30が患者の鼻に取り付けられる。好ましくは、患者標識30は患者の鼻の先端に取り付けられる。患者を患者位置決め部20に対して相対的に固定する別の方法には、侵襲的固定即ち咬合阻止具を用いる固定がある。患者を患者位置決め部20に対して相対的に固定する一方法は、図10a−bに示した定位固定式頭部支持枠を使用することであり、以下にさらに詳細に説明する。
【0072】
工程S220で、基準標識が、患者固定用構成28及び/又は患者位置決め部20に対して相対的に固定された位置に位置決めされる。これは、それぞれ1つ又は複数の基準標識を含む1つ又は複数の基準器を患者固定用構成28に取り付けることによって、或いは患者位置決め部20に直接取り付けることによって実現されてもよい。基準器31が着脱式でない場合、即ち基準器31が患者固定用構成28に取り付け済みであれば、この取り付けは不要である。基準標識を位置決めする他の方法には、基準標識が配置されている定位固定式頭部支持枠を使用する方法がある。そのような頭部支持枠が取り付け済みであれば、基準標識を位置決めする追加作業は不要である。
【0073】
さらに、患者標識30と基準器31の標識32の両方が1つの画像に撮影されるように、光学式追跡装置34が患者標識及び基準標識に対する相対位置に位置決めされる(例えば伸張位置に置かれる)。
【0074】
工程S230で、治療中に患者標識30と基準標識の画像が既定の時間間隔で繰り返し撮影される。
【0075】
工程S240で、光学式追跡装置34で撮影された画像を基に、患者標識の最初の位置に対する相対的位置が連続的に判定される。その距離の変化が、患者又は患者の一部が患者位置決め部20に対して相対的に動いたことを示す。好ましくは、患者標識の基準標識に対する相対位置は、光学式追跡装置34で撮影された画像を基に判定される。
【0076】
患者標識の動きを、治療中操作者向けに、放射線治療部10の表示器に表示することができる。
【0077】
工程S230及びS240は、施術中、施術の終了まで連続的に繰り返される。
【0078】
本発明を例示的な実施例を用いてここまで記述してきたが、当業者に理解されるように、これら実施例を、添付の特許請求の範囲に規定された本発明の範囲から乖離することなく変更、改変し、及びそれらを組み合わせることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7a
図7b
図8
図9a
図9b
図10a
図10b
図11