特許第6262839号(P6262839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262839
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】眼科用水性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/10 20060101AFI20180104BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20180104BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   A61K47/10
   A61K47/44
   A61K9/107
   A61P27/02
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-253899(P2016-253899)
(22)【出願日】2016年12月27日
(62)【分割の表示】特願2013-523916(P2013-523916)の分割
【原出願日】2012年7月5日
(65)【公開番号】特開2017-57226(P2017-57226A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2017年1月26日
(31)【優先権主張番号】特願2011-151652(P2011-151652)
(32)【優先日】2011年7月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】宮野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】大久保 徹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 万里代
【審査官】 今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/025539(WO,A1)
【文献】 特開2000−273061(JP,A)
【文献】 特開2003−063980(JP,A)
【文献】 食品工業,1992年 2月28日,Vol.35, No.6,p.30-37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 31/00−31/80
A61K 33/00−33/44
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にあり、目の乾きの予防及び/又は治療用である、眼科用水性組成物。
【請求項2】
植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にあり、
非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーとその他の非イオン界面活性剤とからなるものであり、目の乾きの予防及び/又は治療用である、眼科用水性組成物。
【請求項3】
前記ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーの含有割合が、前記眼科用水性組成物の総量を基準として、0.005〜0.8w/v%である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
植物油が、ゴマ油である請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
テルペノイドが、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール及びゲラニオールからなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、涙液が異常をきたし、眼が乾く、眼が疲れる等の症状を訴えるドライアイ患者が増加している。ドライアイの原因として、スティーブンス・ジョンソン症候群、シェーグレン症候群等の内因性疾患、長期連用する薬剤の副作用、パソコン等のVDT作業による瞬目回数の減少、エアコンの普及による室内湿度の低下等が考えられている。また、特にコンタクトレンズ使用者において、ドライアイの症状が増加傾向にあることもよく知られている。
【0003】
ドライアイの治療方法としては、人工涙液により不足している涙液を外部から補充する方法が知られている。また、そのほかのドライアイの治療方法としては、涙点プラグで涙点を塞ぐことにより涙小管からの涙の排出を抑制する方法や、ゴーグルタイプのドライアイ用メガネを使用することにより乾燥を予防する方法等が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの従来の方法は、ドライアイ症状の緩和効果については十分に満足のいくものではなく、更なる改善が望まれている。
【0005】
一方、眼科用水性組成物の物性を改良するため、種々の成分の配合が試みられている。例えば、特許文献1には、粘度を安定化させた眼科用水性組成物として、セルロース系粘稠化剤と、ゴマ油、オリブ油、ダイズ油、ラッカセイ油、アルモンド油、小麦胚芽油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、綿実油又はヤシ油から選ばれる少なくとも1種の植物油を含有する粘膜適用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−206598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ドライアイの予防又は治療効果に優れた眼科用組成物を提供することである。ドライアイの重要な診断基準の一つに涙液層破壊時間(tear film breakup time:BUT)があるが、本発明は、特に、BUTを効果的に延長させることができる新規な眼科用水性組成物を提供することを課題とする。尚、BUTは、瞬き後の涙液蒸発により、涙液層の表面にドライスポットと呼ばれる部分が発生するまでの時間を元に算出した指標であり、BUTが長いほど、眼の乾きが抑制されていると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドという特定の三成分を同時に含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径を特定の範囲に制御した水性組成物によれば、全く予想外に、涙液層の安定性が向上して涙液層破壊時間(BUT)を延長することができ、更に、乾燥時の角膜上皮細胞の保護効果も発揮され、これを点眼剤等として用いることによってドライアイ症状を大きく緩和できることを見出した。更に、本発明者等は、上記した三成分を含有し、エマルジョン粒子の平均粒径が特定の範囲にある水中油型エマルションからなる水性組成物によれば、該組成物に含まれる各成分が有する作用としては全く知られていない、アレルギー物質による眼表面の炎症を抑制する効果が発揮されるとも見出した。また、上記した特徴を有する水性組成物は、抗酸化力が高い為、酸化ストレスによって引き起こされる角膜上皮障害を軽減する効果も期待できることを見出した。本発明はこの様な新規な知見に基づいて更に研究を重ねた結果、完成されたものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記の眼科用水性組成物を提供するものである。
項1-1. 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある眼科用水性組成物。
項 1-2. 植物油が、ゴマ油である上記項1-1に記載の組成物。
項1-3. 植物油の含有割合が、眼科用水性組成物の総量を基準として、植物油の総量で0.001〜5w/v%である上記項1-1又は1-2に記載の組成物。
項1-4. 非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーからなる群から選ばれた少なくとも一種である上記項1-1〜1-3のいずれかに記載の組成物。
項1-5. 非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーとその他の非イオン界面活性剤とからなるものである、上記項1-1〜1-4のいずれかに記載の組成物。
項1-6. 非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含むものである、上記項1-5に記載の組成物。
項1-7. 非イオン界面活性剤の含有割合が、眼科用水性組成物の総量を基準として0.001〜5w/v%である上記項1-1〜1-6のいずれかに記載の組成物。
項1-8. 植物油の総量1質量部に対して、非イオン界面活性剤を総量で1〜30質量部含む上記項1-7に記載の組成物。
項1-9. テルペノイドが、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール及びゲラニオールからなる群から選ばれた少なくとも一種である、上記項1-1〜1-8のいずれかに記載の組成物。
項 1-10. テルペノイドがメントールである上記項1-9に記載の組成物。
項1-11. テルペノイドの含有割合が、眼科用水性組成物の総量を基準として、テルペノイドの総量で0.0001〜0.2w/v%である、上記項1-1〜1-10のいずれかに記載の組成物。
項1-12. 植物油の総量1重量部に対して、テルペノイドを総量で0.001〜100重量部含む上記項1-11に記載の組成物。
項1-13. 点眼剤又は洗眼剤である上記項1-1〜1-12のいずれかに記載の組成物。
【0010】
更に、本発明は、下記に掲げる眼科用水性組成物に涙液層を安定化させる作用を付与する方法、眼科用水性組成物に角膜保護作用を付与する方法、眼科用水性組成物にドライアイを予防若しくは治療する作用を付与する方法、眼科用組成物にアレルギー物質による眼表面のアレルギー症状を予防もしくは治療する作用を付与する方法、眼科用水性組成物に紫外線等による眼炎(雪目)等を予防もしくは治療する作用を付与する方法、又は眼科用水性組成物に眼表面の炎症を抑制若しくは軽減する作用を付与する方法を提供するものである。
項2-1. 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを眼科用水性組成物に配合し、水中油型エマルションにおけるエマルション粒子の平均粒子径を30nm〜300nmの範囲に調整することを含む、眼科用水性組成物に涙液層を安定化させる作用を付与する方法。
項2-2. 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを眼科用水性組成物に配合し、水中油型エマルションにおけるエマルション粒子の平均粒子径を30nm〜300nmの範囲に調整することを含む、眼科用水性組成物に角膜を保護する作用を付与する方法。項2-3. 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを眼科用水性組成物に配合し、水中油型エマルションにおけるエマルション粒子の平均粒子径を30nm〜300nmの範囲に調整することを含む、眼科用水性組成物にドライアイを予防若しくは治療する作用を付与する方法。
項2-4. 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを眼科用水性組成物に配合し、水中油型エマルションにおけるエマルション粒子の平均粒子径を30nm〜300nmの範囲に調整することを含む、眼科用水性組成物に眼表面の炎症を抑制又は軽減する作用を付与する方法。
項2-5. 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを眼科用水性組成物に配合し、水中油型エマルションにおけるエマルション粒子の平均粒子径を30nm〜300nmの範囲に調整することを含む、眼科用組成物にアレルギー物質による眼表面のアレルギー症状を予防もしくは治療する作用を付与する方法。
項2-6. 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを眼科用水性組成物に配合し、水中油型エマルションにおけるエマルション粒子の平均粒子径を30nm〜300nmの範囲に調整することを含む、眼科用水性組成物に紫外線等による眼炎(雪目)等を予防もしくは治療する作用を付与する方法。
【0011】
更に、本発明は、下記に掲げる涙液層を安定化させる方法、角膜を保護する方法、ドライアイを予防若しくは治療する方法、アレルギー物質による眼表面のアレルギー症状を予防もしくは治療する方法、紫外線等による眼炎(雪目)等を予防又は治療する方法、又は眼表面の炎症を抑制若しくは軽減する方法を提供するものである。
項3-1. 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある眼科用水性組成物を角膜に接触させることを含む、涙液層を安定化させる方法。
項3-2. 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある眼科用水性組成物を角膜に接触させることを含む、角膜を保護する方法。
項3-3. 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある眼科用水性組成物を角膜に接触させることを含む、ドライアイを予防若しくは治療する方法。
項3-4. 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある眼科用水性組成物を角膜に接触させることを含む、眼表面の炎症を抑制若しくは軽減する方法。項3-5. 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある眼科用水性組成物を角膜に接触させることを含む、アレルギー物質による眼表面のアレルギー症状を予防もしくは治療する方法。
項3-6. 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある眼科用水性組成物を角膜に接触させることを含む、紫外線等による眼炎(雪目)等を予防又は治療する方法。
【0012】
更に、本発明は、下記に掲げる態様の使用をも提供するものである。
項4-1 植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある、ドライアイを予防若しくは治療する作用、角膜保護作用、アレルギー物質による眼表面のアレルギー症状を予防もしくは治療する作用、紫外線等による眼炎(雪目)等を予防もしくは治療する作用、又は眼表面の炎症を抑制若しくは軽減する作用を有する眼科用水性組成物を製造するための、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドの使用。
【0013】
更に、本発明は、下記に掲げる態様の使用も提供する。
項19. ドライアイを予防若しくは治療する作用、角膜保護作用、アレルギー物質による眼表面のアレルギー症状を予防もしくは治療する作用、紫外線等による眼炎(雪目)等を予防もしくは治療する作用、又は眼表面の炎症を抑制若しくは軽減する作用を有する眼科用水性組成物としての、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある組成物の使用
項20. 組成物が、上記項1-1乃至1-13のいずれかに記載の組成物である、項19に記載の使用。
【0014】
更に、本発明は、下記に掲げる態様の組成物も提供する。
項21. ドライアイを予防若しくは治療する作用、角膜保護作用、アレルギー物質による眼表面のアレルギー症状を予防もしくは治療する作用、紫外線等による眼炎(雪目)等を予防もしくは治療する作用、又は眼表面の炎症を抑制若しくは軽減する作用を有する眼科用水性組成物としての使用のための、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある組成物。
項22. 上記項1-1乃至1-13のいずれかに記載されたものである、項21に記載の組成物。
【0015】
更に、本発明は、下記に掲げる態様の眼科用水性組成物の製造方法も提供する。
項23. 水を含む担体に、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを添加し、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内の水中油型エマルションを形成することを含む、ドライアイを予防若しくは治療する作用、角膜保護作用、アレルギー物質による眼表面のアレルギー症状を予防もしくは治療する作用、紫外線等による眼炎(雪目)等を予防もしくは治療する作用、又は眼表面の炎症を抑制若しくは軽減する作用を有する眼科用水性組成物の製造方法。
項24. 眼科用水性組成物が、上記項1-1乃至1-13のいずれかに記載の組成物である、項23に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の眼科用水性組成物は、涙液層を安定化する作用に優れ、涙液層破壊時間(BUT)を効果的に延長することができる。更に、該組成物は、角膜を乾燥から保護する作用を有し、角膜保護剤としても有用である。これらの作用に基づいて、本発明の眼科用水性組成物は、目の乾きを軽減することができ、ドライアイの予防や治療に非常に優れた効果を発揮するものである。更に、本発明の眼科用水性組成物は、製剤的にも安定であり、副作用が少なく、角膜保護剤やドライアイの予防又は治療剤等として有用性が高いものである。尚、上記角膜保護作用は、別の効果として角膜上皮細胞のバリア機能の破綻を抑制することから、アレルギー症状の増悪を抑制する効果がある。
【0017】
また更に、本発明の眼科用水性組成物は、RANTES産生抑制作用を有することから、日常的なアレルギー物質による眼表面の炎症を抑制する作用も有する。したがって、本願発明の組成物は、アレルギー物質による眼表面の炎症等のアレルギー症状の予防剤もしくは治療剤としても有用である。
【0018】
また更に、本願発明の眼科用水性組成物は、抗酸化力も高い為、酸化ストレスによって引き起こされる角膜上皮障害を軽減する効果も期待でき、それに基づく角膜保護効果をも有する。したがって、本願発明の組成物は、角膜保護作用に基づき、紫外線等による眼炎(雪目)等の予防剤もしくは治療剤としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】試験例1で求めた涙液安定性の改善効果の評価結果を示すグラフ。
図2】試験例2で求めた細胞生存率の算出結果を示すグラフ。
図3】試験例4で求めたRANTES濃度の定量結果を示すグラフ。
図4】試験例5で求めた抗酸化能(Cu還元力)の測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の眼科用水性組成物について詳細に説明する。
【0021】
尚、本明細書中、含有割合又は配合割合の単位「%」は、特に記載が無い限り、「w/v%」を意味し、「g/100mL」と同義である。
【0022】
また、本明細書では、特に記載の無い限り、略号「POE」はポリオキシエチレンを意味し、略号「POP」はポリオキシプロピレンを意味する。
【0023】
1.眼科用水性組成物
本発明の眼科用水性組成物は、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含有し、特定の平均粒子径を有する水中油型エマルションである。以下、これらの各成分及び水中油型エマルションの具体的内容について詳細に説明する。
【0024】
(1)植物油
本発明の眼科用水性組成物では、植物油(単に「(a)成分」と表記することもある。)としては、植物を原料とする油であれば特に限定なく使用できる。但し、本願で定義する植物油は、後述する「(c)成分」に該当するものを除く。
【0025】
植物油に含まれる成分としては、主に脂肪酸トリグリセリドが挙げられる。脂肪酸トリグリセリドを構成する脂肪酸としては、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に大別されるが、不飽和脂肪酸として、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、べヘン酸、リグノセリン酸、イコサン酸、ミリスチン酸、パルミトオレイン酸等の炭素数8〜24の脂肪酸からなる中鎖脂肪酸トリグリセリドからなる群より選択される一種以上を含有することが好ましく、中でも、リノール酸、オレイン酸からなる群より選択される一種以上を含有することがより好ましく、リノール酸とオレイン酸の両方を含有するものがさらに好ましい。また、植物油の脂肪酸組成として、リノール酸を含有する場合には、リノール酸が30質量%以上、好ましくは40質量%以上、またオレイン酸を含有する場合には、オレイン酸が20質量%以上、好ましくは30質量%以上であるものが好ましい。
【0026】
本発明の眼科用水性組成物に配合する植物油については、脂肪酸トリグリセリドを構成する脂肪酸全体に占める不飽和脂肪酸の含有割合が多いほど好ましく、脂肪酸全体に占める不飽和脂肪酸の含有割合が50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上のものが好適である。
【0027】
このような植物油としては、ゴマ油、ヒマシ油、ダイズ油、ラッカセイ油、アルモンド油、小麦胚芽油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、綿実油等を例示できる。これらの植物油は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
これらの植物油の中で、本発明の目的とする涙液層安定性を向上させる作用や角膜保護作用が良好である点、さらにRANTES抑制効果や抗酸化効果の点から、例えば、ゴマ油を好適に用いることができる。
【0029】
ゴマ油は、ゴマ科ゴマ属の植物(Sesamumindicum Linne(Pedaliaceae)等)の種子から得た植物油である。本発明の眼科用水性組成物に配合できるゴマ油としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。例えば、公知の搾取方法や公知の精製方法を用いて種子から得たものや、市販のものを使用することができる。特に、眼科用水性組成物の経時的な変色又は濁りの抑制効果を一層顕著に奏するという観点から、第十五改正日本薬局方の規格に適合するゴマ油が好適である。
【0030】
本発明の眼科用水性組成物における植物油の含有割合については、植物油の種類、他の配合成分の種類や含有割合、眼科用水性組成物の製剤形態等に応じて適宜設定できる。植物油の含有割合の一例として、眼科用水性組成物の総量を基準として、植物油の総量を、通常0.001〜5%、好ましくは0.001〜1%、より好ましくは0.001〜0.5%とすることができる。特に、目的とする粒径範囲のエマルション粒子を容易に形成でき、涙液層安定性を向上させ、角膜保護作用を良好とし、製剤安定性を向上させる点で、0.001〜0.1%程度とすることが好ましい。
【0031】
(2)非イオン界面活性剤
非イオン界面活性剤(単に「(b)成分」と表記することもある。)は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される非イオン界面活性剤であれば、特に制限なく使用できる。例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー付加物、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等を用いることができる。これらの非イオン界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0032】
上記した非イオン界面活性剤の具体例としては、次のような成分が挙げられる。例えば、POEソルビタン脂肪酸エステルとしては、モノラウリル酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20),モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80),POEソルビタンモノステアレート(ポリソルベート60),POEソルビタントリステアレート(ポリソルベート65)等;POE硬化ヒマシ油としては、POE硬化ヒマシ油5,POE硬化ヒマシ油10,POE硬化ヒマシ油20,POE硬化ヒマシ油40,POE硬化ヒマシ油50、POE硬化ヒマシ油60,POE硬化ヒマシ油100等;POEヒマシ油としては、POEヒマシ油3,POEヒマシ油10,POEヒマシ油20,POEヒマシ油35,POEヒマシ油40,POEヒマシ油50,POEヒマシ油60等;ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(以下、「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体」ともいう。)としては、POE(196)POP(67)グリコールのようなポロクサマー407等;エチレンジアミンrのPOE−POPブロックコポリマー付加物としては、ポロキサミン等;POEアルキルエーテル類としては、POE(9)ラウリルエーテル等;POE・POPアルキルエーテルとしては、POE(20)POP(4)セチルエーテル等;POEアルキルフェニルエーテルとしては、POE(10)ノニルフェニルエーテル等;等が挙げられる。なお、括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0033】
これらの非イオン界面活性剤の内で、本発明の効果を一層高める観点から、POEソルビタン脂肪酸エステル、POE硬化ヒマシ油、POEヒマシ油、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等が好ましく、特にPOE硬化ヒマシ油、POEヒマシ油、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーが好ましい。これらの各非イオン界面活性剤の好適な具体例としては、ポリソルベート80、POE硬化ヒマシ油60、POEヒマシ油10、POEヒマシ油35、ポロクサマー407等を挙げることができ、特に好ましくはPOE硬化ヒマシ油60、POEヒマシ油10、POEヒマシ油35、ポロクサマー407である。これらの非イオン界面活性剤は、二種以上を組み合わせて用いることがより好ましい。尚、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60としては日本における医薬品添加物規格2003の規格に適合するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が好ましく、ポリオキシエチレンヒマシ油10、ポリオキシエチレンヒマシ油35としては日本における医薬品添加物規格2003の規格に適合するポリオキシエチレンヒマシ油が好ましい。
【0034】
本発明の眼科用水性組成物では、本願発明の効果をより一層高める観点から、特に、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーと、他の非イオン界面活性剤を組み合わせて用いることが好ましい。この場合、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーと共に組み合わせて用いる他の非イオン界面活性剤としては、POE硬化ヒマシ油、POEヒマシ油等が好ましく、POE硬化ヒマシ油が特に好ましい。具体的な組み合わせとしては、ポロクサマー407とポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60との組み合わせ、ポロクサマー407とPOEヒマシ油10との組み合わせ、ポロクサマー407とPOEヒマシ油35との組み合わせが好ましく、特にポロクサマー407とポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60との組み合わせが好ましい。
【0035】
眼科用水性組成物中における非イオン界面活性剤の含有割合は、非イオン界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や含有割合、眼科用水性組成物の製剤形態等に応じて適宜設定できる。例えば、本発明の効果をより一層高め、眼に対する刺激性をより低く押さえるという観点から、眼科用水性組成物の総量を基準として、非イオン界面活性剤を総量で、通常0.001〜5%、好ましくは0.001〜1.5%、より好ましくは0.001〜1%、更に好ましくは0.005〜1%、更により好ましくは0.005〜0.8%、特に好ましくは0.01〜0.7%とすればよい。
【0036】
尚、非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーと、他の非イオン界面活性剤を組み合わせて用いる場合には、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーと、他の非イオン界面活性剤との含有比率は、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーの総量1質量部に対して、他の非イオン界面活性剤が総量で0.1〜50質量部程度、好ましくは0.2〜20質量部程度、より好ましくは0.5〜10質量部程度、更に好ましくは0.6〜5質量部程度、特に好ましくは1〜5質量部程度の範囲内とすることが望ましい。
【0037】
本発明の眼科用水性組成物では、植物油に対する非イオン界面活性剤の含有比率については、特に限定的ではないが、所定の粒径のエマルションを形成し、本発明の効果をより一層高めるためには、植物油の総量1質量部に対して、非イオン界面活性剤が総量で1〜30質量部程度、好ましくは2〜25質量部程度、より好ましくは3〜20質量部程度、特に好ましくは4〜15質量部程度の範囲内とすることが望ましい。
【0038】
(3)テルペノイド
本発明の眼科用水性組成物は、テルペノイド(単に「(c)成分」と表記することもある。)を含有する。テルペノイドの種類については、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものである限り、特に制限されない。例えば、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、シトロネロール、カルボン、アネトール、オイゲノール、リモネン、リナロール、酢酸リナリル、これらの誘導体等を用いることができる。これらの化合物はd体、l体又はdl体のいずれでもよい。また、本発明において、テルペノイドとして、上記化合物を含有する精油を使用してもよい。このような精油としては、例えば、ユーカリ油、ベルガモット油、ペパーミント油、クールミント油、スペアミント油、ハッカ油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ローズ油、樟脳油等が挙げられる。これらのテルペノイドは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0039】
これらのテルペノイドの内、本発明の効果をより一層高めるという観点から、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール等が好ましい。更に好ましくは、メントール及びカンフルであり、特に好ましくはl-メントール、dl-メントール、d-カンフル及びdl-カンフルである。本発明の効果を発現する上で最も好ましいテルペノイドは、l-メントール、dl-メントール等のメントールである。
【0040】
本発明の眼科用水性組成物では、テルペノイドの含有割合は、テルペノイドの種類、他の配合成分の種類や含有割合、眼科用水性組成物の製剤形態等に応じて適宜設定できる。例えば、テルペノイドの含有割合の一例として、本発明の効果をより一層高めるという観点から、眼科用水性組成物の総量を基準として、テルペノイドが総量で0.0001〜0.2w/v%、好ましくは0.0005〜0.1w/v%、更に好ましくは0.0005〜0.07w/v%、更により好ましくは0.001〜0.07w/v%、特に好ましくは0.005〜0.07w/v%が挙げられる。なお、テルペノイドを含む精油を使用する場合は、配合される精油中のテルペノイド含有量が上記含有割合を満たすように設定すればよい。
【0041】
前述した植物油とテルペノイドとの含有比率については、前述する各成分の含有割合を満たす限り特に制限されるものではないが、本発明の効果をより一層高めるためには、植物油の総量1重量部当たり、テルペノイドの総量が0.001〜100重量部、好ましくは0.01〜20重量部、更に好ましくは0.1〜10重量部となる比率であることが望ましい。なお、テルペノイドを含む精油を使用する場合は、配合される精油中のテルペノイド含有量が上記比率を満たすように設定すればよい。
【0042】
(4)水中油型エマルション
本発明の眼科用水性組成物は、上記した植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを必須成分として含む水中油型エマルションである。
【0043】
本発明の眼科用水性組成物における水の含有量については、通常、80w/v%以上、より好ましくは90w/v%以上、更に好ましくは95w/v%以上、特に好ましくは97w/v%以上とすればよい。本発明の眼科用水性組成物に含有される水は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであればよい。例えば、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等を使用できる。これらの定義は第十五改正日本薬局方に基づく。
【0044】
本発明の眼科用水性組成物は、上記した植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを必須成分として含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内である。特に、エマルション粒子の平均粒子径は30〜270nmの範囲内であることが好ましく、31〜270nmの範囲内であることがより好ましく、35〜265nmの範囲内が更に好ましく、35〜260nmの範囲内が特に好ましい。
【0045】
上記した三成分を含有し、且つエマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にあるという条件を同時に満足することによって、涙液層の安定性向上、角膜の乾燥からの保護等の効果が顕著に発揮されて、優れたドライアイ症状の緩和効果を発揮することができると同時に、高い製剤安定性が得られる。上記した三成分を含む組成物であって、エマルション粒子の平均粒子径が上記した範囲内にあることにより、これらの効果が格別優れたものとなり、ドライアイ症状の顕著な緩和効果や、顕著な製剤安定性が得られる。
【0046】
本発明の眼科用水性組成物は、上記した必須成分と、必要に応じて、後述する任意成分を水に添加し、十分に混合して、エマルション粒子の平均粒子径が所定の範囲となるよう水中油型エマルションを調整することによって得ることができる。
【0047】
尚、本明細書において、エマルション粒子の平均粒子径は、後述する試験例1に記載した条件に従って、動的光散乱による粒子径測定装置を用いて測定した値である。
【0048】
(5)その他の成分
本発明の眼科用水性組成物は、上記した(a)〜(c)の成分を含有し、且つエマルション粒子の平均粒子径が所定の範囲内にあるという条件を満足することが必要であり、この条件を満足する限りにおいて、必要に応じて、その他の成分を含有することができる。
【0049】
例えば、本発明の眼科用水性組成物は、上記した(a)〜(c)成分に加えて、さらにビグアニド系殺菌剤を含有することができる。
【0050】
ビグアニド系殺菌剤とは、少なくとも1つのビグアニド基[−NHC(=NH)NHC(=NH)NH−]を有するモノマー、該モノマーから構成されるポリマー、これらの塩形態等として公知の殺菌剤であり、公知の方法により製造してもよく、市販品として入手することもできる。
【0051】
本発明に用いられるビグアニド系殺菌剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に制限されないが、例えばポリヘキサニド及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。ポリヘキサニドは、ポリヘキサメチレンビグアニド又はPHMBと称されることもある。上記(a)〜(c)成分に加えてさらにビグアニド系殺菌剤を併用することによって、本発明の効果をより一層高めることが可能になる。
【0052】
本発明で使用されるポリヘキサニドについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではないが、具体的には、下記一般式(1)に示される化合物が例示される。
【0053】
【化1】

一般式(1)中、R1及びR2は、同一又は異なって、下記一般式(2)で示される基又はアミノ基を示す。好ましくはR1がアミノ基であり、且つR2が一般式(2)で示される基又はアミノ基であり、更に好ましくはR1がアミノ基であり、R2が一般式(2)で示される基である。
【0054】
【化2】

また、一般式(1)中、nは、1〜500の整数を示す。好ましくは、2〜200の整数、更に好ましくは4〜100の整数、特に好ましくは8〜20の整数を示す。
【0055】
ポリヘキサニドの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものである限り、特に制限されない。ポリヘキサニドの塩として、具体的には、塩酸、臭化水素、硫酸、ホウ酸等の無機酸塩;酢酸、グルコン酸、マレイン酸、アスコルビン酸、ステアリン酸、酒石酸、クエン酸等の有機酸塩が例示される。これらのポリヘキサニドの塩の中でも、好ましくは無機酸塩であり、更に好ましくは塩酸塩である。これらのポリヘキサニドの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0056】
本発明の眼科用水性組成物では、ビグアニド系殺菌剤の含有割合は、ビグアニド系殺菌剤の種類、他の配合成分の種類や含有割合、眼科用水性組成物の製剤形態等に応じて適宜設定できる。例えば、ビグアニド系殺菌剤の含有割合の一例として、本発明の効果をより一層高めるという観点から、眼科用水性組成物の総量を基準として、ビグアニド系殺菌剤が総量で0.00001〜0.01w/v%、好ましくは0.00002〜0.001w/v%、更に好ましくは0.00004〜0.0001w/v%となる範囲が挙げられる。
【0057】
本発明の眼科用水性組成物は、更にホウ酸又はその塩を含有することが好ましい。ホウ酸又はその塩を含有することによって、本発明の効果をより一層向上させることが期待される。ホウ酸塩としては、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等を用いることができる。また、ホウ酸又はその塩として、ホウ酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸又はその塩として、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等が例示できる。ホウ酸又はその塩は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ホウ酸又はその塩の好適な具体例として、ホウ酸とその塩の組み合わせ;好ましくはホウ酸と、ホウ酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の組み合わせ;更に好ましくはホウ酸と、ホウ酸のアルカリ金属塩の組み合わせ;特に好ましくはホウ酸とホウ砂の組み合わせが例示される。
【0058】
本発明の眼科用水性組成物においてホウ酸又はその塩を含有する場合、ホウ酸又はその塩の含有割合については、使用するホウ酸又はその塩の種類、他の配合成分の種類や量、眼科用水性組成物の用途等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、眼科用水性組成物の総量を基準として、例えば、ホウ酸又はその塩を総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜2w/v%とすればよい。
【0059】
本発明の眼科用水性組成物は、更に緩衝剤を含有してもよい。眼科用水性組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用してもよい。好ましい緩衝剤は、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤である。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、リン酸緩衝剤として、リン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);トリス緩衝剤として、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン又はその塩(塩酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0060】
本発明の眼科用水性組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されないが、眼科用水性組成物の経時的な変色又は濁りの抑制効果を一層顕著に奏し、本願発明の他の効果をも顕著に奏するという観点から、好適なpHの一例として、4〜9.5、好ましくは4.5〜9、より好ましくは、4.5〜8.5、更に好ましくは4.5〜8となる範囲が挙げられる。
【0061】
本発明の眼科用水性組成物は、更に必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調節することができる。適切な浸透圧比は、適用部位、剤型等により異なるが、通常0.7〜5、より好ましくは0.8〜3、更に好ましくは0.9〜2となる範囲である。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。なお、ここでいう浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき、286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は第十五改正日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)に準じて測定した値である。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0062】
本発明の眼科用水性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や製剤形態に応じて、常法に従い、上記成分の他に種々の薬理活性成分や生理活性成分を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの薬理活性成分や生理活性成分として、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された各種医薬における有効成分が例示できる。
【0063】
薬理活性成分又は生理活性成分としては、具体的には、次のような成分が挙げられる。
【0064】
抗ヒスタミン剤又は抗アレルギー剤:例えば、フマル酸ケトチフェン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、クロモグリク酸ナトリウム、トラニラスト、ペミロラストカリウム等。
【0065】
充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等。
【0066】
殺菌剤:例えば、アクリノール、セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等。
【0067】
ビタミン類:例えば、塩酸ピリドキシン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
【0068】
アミノ酸類:例えば、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
【0069】
消炎剤:例えば、グリチルリチン酸ニカリウム、アズレンスルホン酸ナトリウム、アラントイン、ε−アミノカプロン酸、ベルベリン、リゾチーム、プラノプロフェン等。
【0070】
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
【0071】
その他:例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、メチル硫酸ネオスチグミン等。
【0072】
また、本発明の眼科用水性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や製剤形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
【0073】
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等。
【0074】
糖類:例えば、グルコース、シクロデキストリン等。
【0075】
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
【0076】
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
【0077】
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
【0078】
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
【0079】
キレート剤:例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
【0080】
本発明の眼科用水性組成物における(a)成分、(b)成分(2種又は3種の組み合わせ)、(c)成分の好ましい組み合わせを以下に例示する。
例示1.(a)成分としてゴマ油、(b)成分としてポロクサマー407及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、(c)成分としてL-メントールの組み合わせ。
例示2.(a)成分としてゴマ油、(b)成分としてポロクサマー407、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、及びポリオキシエチレンヒマシ油10、(c)成分としてL-メントールの組み合わせ。
例示3.(a)成分としてゴマ油、(b)成分としてポロクサマー407及びポリオキシエチレンヒマシ油35、(c)成分としてL-メントールの組み合わせ。
例示4.(a)成分としてゴマ油、(b)成分としてポロクサマー407、ポリオキシエチレンヒマシ油35及びポリオキシエチレンヒマシ油10、(c)成分としてL-メントールの組み合わせ。
例示5.(a)成分としてゴマ油、(b)成分としてポロクサマー407、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60及びポリオキシエチレンヒマシ油35、(c)成分としてL-メントールの組み合わせ。
【0081】
(6)製剤形態
本発明の眼科用水性組成物の製剤形態としては、具体的には、点眼剤(コンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む)、洗眼剤(コンタクトレンズ装用中に洗眼可能な洗眼剤を含む)、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤等が挙げられる。なお、上記コンタクトレンズには、ハードコンタクトレンズ、酸素透過性ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ等のあらゆるコンタクトレンズが含まれる。
【0082】
本発明の眼科用水性組成物の包装容器としては、透明性の高いプラスチック製容器が好ましい。このようなプラスチック製容器の素材としては、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート等が例示される。特に、ポリエチレンテレフタレート製容器が好ましい。また、容器は、眼科用水性組成物を安全に使用するために、滅菌済のものを使用する事が望ましい。
【0083】
容器入り眼科用水性組成物の具体例としては、点眼剤(コンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む)、洗眼剤(コンタクトレンズ装用中に洗眼可能な洗眼剤を含む)、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤等を、少なくとも一部が光透過性の容器に充填した製品が挙げられる。
【0084】
本発明の眼科用水性組成物は、ドライアイの予防又は治療剤として有用である。更に、角膜保護剤としても有効に用いることができるため、眼病予防、紫外線等による眼炎(雪目)等の予防や治療に対し有用である。更に、アレルギー物質による炎症の抑制剤としても有用である。また、目のかゆみ、コンタクトレンズ装用時の不快感、目のかすみ等の治療に対し有用である。
【0085】
(7)製造方法
本発明の眼科用水性組成物は、エマルションの平均粒子径が所定の範囲となるよう、適宜製造方法を選択することによって得ることができる。製造方法のうち、エマルションの平均粒子径に影響を及ぼす要素としては、成分の投入順序、攪拌器の種類、攪拌時間、攪拌温度等が挙げられる。
【0086】
例えば、所定量の植物油、非イオン界面活性剤、テルペノイド、その他の疎水性成分を攪拌器にて混合した後、精製水及び他の成分を加えてさらに攪拌し、精製水にて全量を調整した後、0.2μmフィルターでろ過し、プラスチック製容器に充填する。攪拌器としては、スターラー、ホモミキサー、プロペラミキサー、攪拌式乳化機、高圧乳化機等を用いることができるが、好ましくはホモミキサーまたは攪拌式乳化機にて攪拌することにより、所定の平均粒子径のエマルションを形成し易く、本発明の効果をより一層高めることができる。
【0087】
従って、本発明は、別の観点から、水を含む担体に、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを添加し、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内の水中油型エマルションを形成することを含む、ドライアイを予防若しくは治療する作用、又は眼表面の炎症を抑制する作用を有する眼科用水性組成物の製造方法を提供するものである。
【0088】
2.ドライアイの予防又は治療効果、角膜保護効果、眼表面のアレルギー症状を予防又は治療する効果、眼表面の炎症を抑制する効果等を眼科用水性組成物に付与する方法
前述した通り、本発明の眼科用水性組成物によれば、(a)〜(c)成分を併用した上で、水中油型エマルションのエマルション粒子の平均粒子径を所定の範囲内とすることによって、眼科用水性組成物に、涙液層を安定化させる作用や角膜保護作用を付与し、ひいては、目の乾きを軽減して、ドライアイを予防又は治療する作用を付与することができる。更に、本発明は、眼科用水性組成物に角膜保護作用を付与することにより、ひいてはアレルギー物質による眼表面のアレルギー症状を予防又は治療する作用、紫外線等による眼炎(雪目)等を予防又は治療する作用を、眼科用水性組成物に付与することができる。更に、本発明の眼科用水性組成物によれば、眼科用水性組成物に、日常的なアレルギー物質による眼表面の炎症を抑制若しくは軽減する作用を付与することができる。
【0089】
従って、本発明は、別の観点から、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを眼科用水性組成物に配合し、水中油型エマルションにおけるエマルション粒子の平均粒子径を30nm〜300nmの範囲に調整することを含む、眼科用水性組成物に涙液層を安定化させる作用を付与する方法、眼科用水性組成物に角膜保護作用を付与する方法、眼科用水性組成物にドライアイを予防若しくは治療する作用を付与する方法、眼科用組成物にアレルギー物質による眼表面のアレルギー症状を予防もしくは治療する作用を付与する方法、眼科用水性組成物に紫外線等による眼炎(雪目)等を予防もしくは治療する作用を付与する方法、又は眼科用水性組成物に眼表面の炎症を抑制若しくは軽減する作用を付与する方法を提供するものである。
【0090】
本発明は、更に、別の観点から、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある、ドライアイを予防若しくは治療する作用、角膜保護作用、感染等による眼病を予防する作用、紫外線等による眼炎(雪目)等を予防もしくは治療する作用、又は眼表面の炎症を抑制若しくは軽減する作用を有する眼科用水性組成物を製造するための、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドの使用を提供するものである。
【0091】
更に、本発明は、別の観点から、ドライアイを予防若しくは治療する作用、角膜保護作用、アレルギー物質による眼表面のアレルギー症状を予防もしくは治療する作用、紫外線等による眼炎(雪目)等を予防もしくは治療する作用、又は眼表面の炎症を抑制若しくは軽減する作用を有する眼科用水性組成物としての使用のための、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある組成物を提供するものである。
【0092】
更に、本発明は、別の観点から、ドライアイを予防若しくは治療する作用、角膜保護作用、アレルギー物質による眼表面のアレルギー症状を予防もしくは治療する作用、紫外線等による眼炎(雪目)等を予防もしくは治療する作用、又は眼表面の炎症を抑制若しくは軽減する作用を有する眼科用水性組成物としての、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある組成物の使用を提供するものである。
【0093】
尚、上記した各方法において、眼科用水性組成物に配合する各成分の種類や含有割合、その他に配合される成分の種類や含有割合、該組成物の製剤形態などは、前記した本発明の眼科用水性組成物と同様である。
【0094】
3.ドライアイの予防又は治療方法、角膜保護方法、眼表面のアレルギー症状を予防又は治療する方法、眼表面の炎症を抑制する方法等
また、前述した通り、本発明の眼科用水性組成物を点眼剤、洗眼剤などとして用いて、点眼、洗眼等の方法で、該組成物を角膜に接触させることによって、涙液層を安定化させることができ、更に、角膜保護することができる。その結果、この方法によって、目の乾きを軽減して、ドライアイを予防又は治療することができる。更に、本発明の眼科用水性組成物によれば、角膜保護作用を有することにより、アレルギー物質による眼表面のアレルギー症状を予防もしくは治療することができ、紫外線等による眼炎(雪目)等を予防、抑制もしくは軽減することができる。更に、本発明の眼科用水性組成物によれば、日常的なアレルギー物質による眼表面の炎症を抑制もしくは軽減することができる。
【0095】
従って、本発明は、更に、別の観点から、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm〜300nmの範囲内にある眼科用水性組成物を角膜に接触させることを含む、涙液層を安定化させる方法、角膜を保護する方法、ドライアイを予防若しくは治療する方法、眼表面のアレルギー症状を予防もしくは治療する方法、眼炎を予防若しくは治療する方法、又は眼表面の炎症を抑制若しくは軽減する方法を提供するものである。
【0096】
これらの方法においても、眼科用水性組成物に配合する各成分の種類や含有割合、その他に配合される成分の種類や含有割合、該組成物の製剤形態などは、前記した本発明の眼科用水性組成物と同様である。
【実施例】
【0097】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0098】
〔試験例1:涙液層破壊時間(NIBUT)の安定性試験〕
NIBUTとは、非侵襲性涙液層破壊時間の略であり、BUTの中でも、染色剤等の負荷をかけずに、より自然の状態に近い方法で測定したBUTである。
【0099】
1-1.製剤の調製:
下記表1に従い、実施例1〜3、及び比較例1〜4の点眼剤をホモミキサーおよび攪拌式乳化機を組み合わせて調製し、試験液とした。尚、表1の処方中、ゴマ油、ポリソルベート80はそれぞれ第十五改正日本薬局方適合品を用い、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60は日本における医薬品添加物規格2003適合品を用い、ポロクサマー407は日本における医薬品添加物規格2003適合品を用いた。
【0100】
1-2.粒子径の測定:
調製後の各試験液について、エマルションの平均粒子径を測定した。平均粒子径の測定は、動的光散乱(光子相関法)による粒子径測定装置(FPAR-1000(大塚電子))を用いて行った。詳細な測定条件は以下の通りである。測定結果を表1に併記する。
【0101】
測定条件
温度 25℃
NDフィルター AUTO
プローブ 濃厚用
角度 160°
測定時間 180秒間
繰り返し回数 1回
ダストカット 10回(upper10%、lower100%)
光量調整
ホモダイン光量最適 30000cps MAX 50000cps MIN 10000cps
平均粒子径解析手法
キュムラント法解析
溶媒条件
屈折率 1.3313
尚、動的光散乱による粒子径測定では、試験液の粘度が測定結果に影響する可能性がある。本試験例における試験液の粘度付近では殆ど影響が無いと考えられるものの、より精密な測定結果を得るため、念のために粘度補正を行った。具体的には、音叉式粘度計(Viscometer SV-10(A&D))で試験液の粘度を測定し、その粘度測定値を粒子径測定時に入力し、結果解析の際にその補正を加えた上で結果を得た。
【0102】
1-3.NIBUTの測定:
NIBUTの測定は、インターフェロメーターDR-1(興和株式会社)を用いて開瞼維持による涙液破綻までの時間を計測することで行った。本試験の被験者としてはNIBUTが10秒以下の者から28眼を選抜した。表1に記載の8種類の点眼剤から無作為に異なる2種類を選択し、被験者の左右眼に割りつけて、各点眼剤について3例(すなわち3眼)ずつ試験を行った。尚、点眼方法としては、各点眼薬につきそれぞれ1滴ずつ単回点眼を行った。点眼直後にNIBUTを計測し、下記式に基づいて点眼液による涙液安定性の改善効果を評価した。結果を図1に示す。
【0103】
涙液安定性の改善効果 (秒)=(点眼後のNIBUT)−(点眼前のNIBUT)
【0104】
【表1】

上記表1及び図1から明らかなように、植物油、非イオン界面活性剤及びテルペノイドを含有し、エマルション粒子の平均粒子径が30〜300nmの範囲内にある実施例1〜3の試験液を点眼することによって、涙液層の破壊時間(NIBUT)が延長され、涙液安定性の改善効果が認められた。これに対して、エマルション粒子の平均粒子径が30〜300nmの範囲外にある比較例2〜4の試験液と、エマルション粒子の平均粒子径が30〜300nmの範囲内であるもののテルペノイドを含有しない比較例1の試験液を点眼した場合には、涙液安定性の改善効果が非常に少ないか、或いは、却って涙液安定性が低下した。
【0105】
〔試験例2:乾燥負荷からの角膜上皮細胞保護効果の評価試験〕
2-1.製剤の調製:
下記表2に従い、実施例4〜9及び比較例5〜8の点眼剤を常法により調製し、試験液とした。尚、表2の処方中、ゴマ油、ポリソルベート80はそれぞれ第十五改正日本薬局方適合品を用い、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレンヒマシ油10、ポロクサマー407は日本における医薬品添加物規格2003適合品を用いた。
【0106】
2-2.粒子径の測定:
試験例1と同様にしてエマルション粒子の平均粒子径を測定した。測定結果を表2に併記する。
【0107】
【表2】

2-3. 乾燥負荷からの角膜上皮細胞保護効果の評価:
角膜上皮細胞株 HCE-T(理化学研究所 バイオリソースセンター)を、96ウェルマイクロタイタープレート(コーニング)の1ウェルに対し1.0x105cell/mLとなるよう播種し、37度、5%CO2、湿度90%の条件で72時間培養した。コンフルエントまで培養されていることを確認した後、培地を除去し、表2に記載の点眼剤(試験液)を、それぞれ異なるウェルに、1ウェルあたり50 マイクロリットルずつ添加し室温で1分間インキュベートした(サンプル処置群)。また、点眼剤の代わりに、細胞培養培地を1ウェルあたり50 マイクロリットルずつ添加したものを対照群(NT)とした。1分後、サンプル処置群からは各試験液を完全に除去し(NTには処置なし)、送風計を用いて送風計からの距離約50cm、0.4 m/sの送風条件にて2分間乾燥負荷を与えた。
【0108】
乾燥付加後に、生細胞検出試薬Cell Titer-Glo(Promega)を各ウェルに対して100 μLずつ添加して、ルミノメーターGlomax(Promega)にて生細胞に反応して生成された発光値を測定した。実測値を基に、下記式を用いて対象群に対するサンプル処置群の細胞生存率を算出し、乾燥負荷からのサンプル処置による細胞保護効果を評価した。
細胞生存率(%)=100×(各サンプル処置群の発光値)/(対照群の吸光度の発光値)
以上の結果を図2に示す。上記表2及び図2から明らかなように、植物油、非イオン界面活性剤及びテルペノイドを含有し、エマルション粒子の平均粒子径が30〜300nmの範囲内にある実施例4〜9の試験液で処理した細胞は細胞生存率が高く、実施例4〜9の試験液は、乾燥負荷に対する細胞保護効果に優れたものであることが確認できた。
【0109】
〔試験例3:製剤の安定性試験〕
上記試験例1及び2で調製し平均粒子径を測定した試験液のうち、実施例2、3及び4の各試験液と、比較例3及び6の各試験液について、15mLPET製点眼容器に充填し、点眼剤とした。これらの点眼剤を50℃にて一定期間保存し、経時的な性状の変化を目視にて評価した。結果を下記表3に示す。
【0110】
尚、評価は以下の基準で行った。
4…製剤全体に透明性があり、均一である。
3…製剤全体に透明性が極僅かに低下し、又は全体の1割未満程度が分離している。
2…製剤全体に透明性が若干低下し、又は全体の1〜3割程度が分離している。
1…製剤全体の透明性が明らかに低下し、又は全体の3割以上が分離している。
【0111】
【表3】

上記表3から明らかな通り、実施例2、3及び4の各試験液は、50℃保存後も性状に目立った変化はなく、経時的に安定であった。これに対して粒子径が本発明の範囲外である比較例3の試験液は、経時的に不安定であった。またエマルション粒子の平均粒子径が30〜300nmの範囲内であるもののテルペノイドを含有しない比較例6の試験液は、経時的な安定性が実施例よりも劣る結果となった。
【0112】
〔試験例4:結膜上皮細胞におけるRANTESの産生抑制効果の評価〕
好酸球等の遊走促進作用を有するサイトカインであるRANTES産生抑制効果を以下の方法で評価した。
【0113】
4-1.製剤の調製:
下記表4に従い、実施例10及び比較例9の点眼剤を常法により調製し、試験液とした。尚、表4の処方中、ゴマ油、ポリソルベート80はそれぞれ第十五改正日本薬局方適合品を用い、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポロクサマー407は日本における医薬品添加物規格2003適合品を用いた。
【0114】
4-2.粒子径の測定:
試験例1と同様にしてエマルション粒子の平均粒子径を測定した。測定結果を表4に併記する。
【0115】
4-3.結膜上皮細胞におけるRANTES産生抑制効果の評価:
10% (v/v)ウシ胎児血清を添加したMedium199(インビトロジェン)を培養培地として用い、ヒト由来結膜上皮細胞株 1-5c-4(ATCC)を、96ウェルマイクロプレート(コーニング)の1ウェルに対し1.0x105個/200 μLとなるよう播種し、37度、5% CO2の条件で24時間培養した。
【0116】
96ウェルマイクロプレートのウェルから培地を吸引除去して、下記表4に記載の点眼剤を60μL、培養培地を140μL添加し、37度、5%CO2の条件で1時間培養した。
【0117】
続いて、培養培地を用いてRecombinant Human TNF-α(R&D Systems)を1 μg/mLの濃度に調製したものを2 μLずつウェルに添加し、37度、5%CO2の条件で24時間培養した。細胞培養上清を新しい96ウェルマイクロプレートに回収し、次の操作まで−80℃にて冷凍保存した。
【0118】
CCL5/RANTES Quantikine(R&D Systems)を準備し、冷凍保存した細胞培養上清を室温にて解凍し、キットに付属の使用説明書に従って細胞培養上清中のRANTES濃度をELISA法により定量した。その際、吸光度の測定には、測定波長を450 nm、補正波長を540 nmに設定したマイクロプレートリーダー装置(モレキュラーデバイス社製 VersaMax)を用いた(装置内温度20〜25℃)。結果を図3に示す。
【0119】
【表4】

上記表4及び図3から明らかなように、植物油、非イオン界面活性剤及びテルペノイドを含有し、エマルション粒子の平均粒子径が30〜300 nmの範囲内にある実施例10の試験液で処理した細胞は、比較例9の試験液で処理した細胞と比較して、有意なRANTES産生抑制効果を示した(n=3、p<0.001、Dunnett検定による)。この結果から、実施例10の試験液は、アレルギー物質による眼表面の炎症を抑制する作用を有すると判断できる。
【0120】
〔試験例5:抗酸化能の評価〕
5-1.製剤の調製:
下記表5に従い、実施例10、11及び比較例9の点眼剤を常法により調製し、試験液とした。尚、表5の処方中、ゴマ油はそれぞれ第十五改正日本薬局方適合品を用い、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポロクサマー407は日本における医薬品添加物規格2003適合品を用いた。
【0121】
5-2.粒子径の測定:
試験例1と同様にしてエマルション粒子の平均粒子径を測定した。測定結果を表5に併記する。
【0122】
【表5】

5-3.抗酸化能の評価
PAO抗酸化能測定キット(日研ザイル(株)日本老化制御研究所)を用い、キットに付属の使用説明書に従って表5に記載の試験液の抗酸化能を測定し、Cu還元力として算出した。その際、吸光度の測定には、測定波長を490 nmに設定したマイクロプレートリーダー装置(モレキュラーデバイス社製 VersaMax)を用いた(装置内温度20〜25℃)。
【0123】
結果を図4に示す。上記表5及び図4から明らかなように、植物油、非イオン界面活性剤及びテルペノイドを含有し、エマルション粒子の平均粒子径が30〜300 nmの範囲内にある実施例10及び実施例11の試験液は、比較例9の試験液と比較して、有意に抗酸化能が高いことを確認できた(n=2、p<0.001、Tukey-kramer検定による)。
また、実施例10と実施例11の結果を比較すると、ポロクサマーを含む実施例10の試験液の抗酸化能がより高い傾向であった。
【0124】
〔製剤例〕
下記表6に記載の処方で、眼科用水性組成物(処方例1〜10)を調製した。エマルションの平均粒子径の測定は、試験例1と同様の方法で行った。表6の処方中、ゴマ油、ポリソルベート80はそれぞれ第十五改正日本薬局方適合品を用い、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポロクサマー407は日本における医薬品添加物規格2003適合品を用いた。塩酸及び水酸化ナトリウムはpH調整に用い、眼科用水性組成物が表6に記載のpHとなるように加えた。精製水は眼科用水性組成物の全量が100mLとなるよう加えた。
【0125】
【表6】
図1
図2
図3
図4