特許第6262862号(P6262862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6262862相分離を用いた熱電素材、熱電素材を用いた熱電素子及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262862
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】相分離を用いた熱電素材、熱電素材を用いた熱電素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/16 20060101AFI20180104BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20180104BHJP
   H01L 35/32 20060101ALI20180104BHJP
   B60H 1/32 20060101ALI20180104BHJP
   C01B 19/04 20060101ALI20180104BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   H01L35/16
   H01L35/34
   H01L35/32 Z
   B60H1/32 621G
   C01B19/04 A
   C22C28/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-542742(P2016-542742)
(86)(22)【出願日】2015年1月19日
(65)【公表番号】特表2017-510970(P2017-510970A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】KR2015000520
(87)【国際公開番号】WO2015108380
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2016年6月22日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0006529
(32)【優先日】2014年1月20日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】502032105
【氏名又は名称】エルジー エレクトロニクス インコーポレイティド
(73)【特許権者】
【識別番号】512236892
【氏名又は名称】ユニバーシティ−インダストリー コーポレーション グループ オブ キョンヒ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】リ チョンソ
(72)【発明者】
【氏名】ソン ユチャン
【審査官】 鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0248386(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/094598(WO,A1)
【文献】 特開2004−335796(JP,A)
【文献】 特開2013−161989(JP,A)
【文献】 特開2000−164940(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/005423(WO,A1)
【文献】 SHEN Jun-Jie, ZHU Tie-Jun, YU Cui, YANG Sheng-Hui, ZHAO Xin-Bing,Influence of Ag2Te Doping on the Thermoelectric Properties of p-type Bi0.5Sb1.5Te3 Bulk Alloys,Journal of Inorganic Materials,中国,2010年,Vol.25 No.6,p.583-587,DOI:10.3724/SP.J.1077.2010.00583
【文献】 P.A.Sharma, J.D.Sugar, D.L.Medlin,Influence of nanostructuring and heterogeneous nucleation on the thermoelectric figure of merit in AgSbTe2,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,米国,2010年,Volume 107, Issue 11,p.113716,DOI:10.1063/1.3446094
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/16
H01L 35/00−37/04
B60H 1/00− 3/06
C01B 15/00−23/00
C22C 5/00−25/00
C22C 27/00−28/00
C22C 30/00−30/06
C22C 35/00−45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電素材であって、
化学式
(TI)x(Bi0.5Sb1.5-xTe3-y1-x
の組成を有し、
TIは、Ag2Teを含む位相幾何学的不導体であ
前記化学式において、0.1≦x≦0.4、0<y≦0.5であり、
前記熱電素材は、Bi0.5Sb1.5-xTe3-yにより表される素材で構成される第1のグレイン、及び位相幾何学的不導体で構成される第2のグレインを含む二重相の構造を有する、熱電素材。
【請求項2】
前記化学式において、x=0.1または0.2である、請求項1に記載の熱電素材。
【請求項3】
理論密度の70%〜100%に相当する密度を有する、請求項1に記載の熱電素材。
【請求項4】
X線回折(XRD)によって測定されたように、TI相とBi0.5Sb1.5Te3相が混在している二重相構造を有する、請求項1に記載の熱電素材。
【請求項5】
前記第2のグレインは、表面が金属性を帯びる位相的な金属状態である、請求項に記載の熱電素材。
【請求項6】
Teは化学量論上の欠乏がある、請求項1に記載の熱電素材。
【請求項7】
Sbは化学量論上の欠乏がある、請求項1に記載の熱電素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相分離を用いた熱電素材、熱電素材を用いた熱電素子及び熱電素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電現象(thermoelectric effect)は、熱と電気との間の可逆的で且つ直接的なエネルギー変換を意味する。熱電現象は、材料内部の電荷キャリア(charge carrier)、すなわち、電子と正孔の移動によって発生する現象である。
【0003】
ゼーベック効果(Seebeck effect)は、温度差が電気に直接変換されることを意味し、熱電素材の両端の温度差から発生する起電力を用いて発電分野に応用される。ペルチェ効果(Peltier effect)は、回路に電流を流すとき、上部接合(upper junction)で熱が発生し、下部接合(lower junction)で熱が吸収される現象であって、外部から印加された電流によって形成された両端の温度差を用いて冷却分野に応用される。一方、ゼーベック効果及びペルチェ効果は、熱力学的に可逆的な点でそうでないジュール加熱(Joule heating)と異なる。
【0004】
現在、熱電素材は、受動型冷却システムでは発熱問題の解決が難しい半導体装備及び他の電子機器の能動型冷却システムに適用されており、DNA研究に応用される精密温度制御システムなどの既存の冷媒ガス圧縮方式のシステムでは解決が不可能な分野での需要が拡大されている。熱電冷却は、環境問題を誘発する冷媒ガスを使用しない無振動及び低騒音の環境にやさしい冷却技術である。高効率の熱電冷却材料の開発で冷却効率を向上させると、商業用及び家庭用冷蔵庫、エアコンなどの汎用冷却分野にまで応用の幅を拡大することができる。また、自動車エンジン部、産業用工場などで熱が放出される部分に熱電素材を適用すると、材料の両端に発生する温度差による発電が可能であり、熱電素材は新再生エネルギー源の一つとして注目されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した必要性を充足させるために提案されるものであって、電気伝導度の損失なしでゼーベック係数を増加させ、熱電性能を向上させ得る熱電素材、熱電素材を用いた熱電素子及び熱電素材の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明で達成しようとする技術的課題は、以上で言及した技術的課題に制限されることなく、言及していない他の技術的課題は、下記の記載から本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者に明確に理解され得るだろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、化学式(TI)x(Bi0.5Sb1.5-xTe3-y1-xの組成を有する熱電素材を提供し、該式において、前記TIは、位相幾何学的不導体(Topological Insulator)である。
【0008】
また、前記目的を達成するために、本発明は、所定素材で構成される第1のグレイン、及び位相幾何学的不導体(Topological Insulator)で構成される第2のグレインを含む二重相の構造を有する熱電素材を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る移動端末機及びその制御方法の効果に対して説明すると、下記の通りである。
【0010】
本発明の各実施例のうち少なくとも一つによると、ゼーベック係数及びパワーファクターが増加し、熱電性能を向上させた熱電素材を提供できるという長所がある。
【0011】
本発明で得られる効果は、以上で言及した効果に制限されることなく、言及していない他の効果は、下記の記載から本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者に明確に理解され得るだろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1a】熱電素材の性能指数ZTを向上させるための従来技術に係る熱電素材の微細構造を示す図である。
図1b】熱電素材の性能指数ZTを向上させるための従来技術に係る熱電素材の微細構造を示す図である。
図1c】熱電素材の性能指数ZTを向上させるための従来技術に係る熱電素材の微細構造を示す図である。
図2】本発明の一具現例に係る、異種の位相不導体のそれぞれによって界面が形成されたナノ複合体熱電素材の微細構造を示す図である。
図3】本発明の一具現例に係るBi0.5Sb1.5Te3に相分離されたAg2Te相のX線回折(X―ray diffraction)結果を示す図である。
図4】本発明の一具現例に係るBi0.5Sb1.5Te3に相分離されたAg2Te相の高倍率透過電子顕微鏡(TEM)結果を示す図である。
図5a】本発明の各具現例(x=0.1〜0.4、xは、Ag2Teのモル比)及び比較例に係る熱電素材(Bi0.5Sb1.5Te3)の温度による電気伝導度(electrical conductivity)、ゼーベック係数(Seebeck coefficient)、パワーファクター(Power factor)、熱伝導度(Thermal Conductivity)及び性能指数(ZT)を測定した実験結果グラフである。
図5b】本発明の各具現例(x=0.1〜0.4、xは、Ag2Teのモル比)及び比較例に係る熱電素材(Bi0.5Sb1.5Te3)の温度による電気伝導度、ゼーベック係数、パワーファクター、熱伝導度及び性能指数(ZT)を測定した実験結果グラフである。
図5c】本発明の各具現例(x=0.1〜0.4、xは、Ag2Teのモル比)及び比較例に係る熱電素材(Bi0.5Sb1.5Te3)の温度による電気伝導度、ゼーベック係数、パワーファクター、熱伝導度及び性能指数(ZT)を測定した実験結果グラフである。
図5d】本発明の各具現例(x=0.1〜0.4、xは、Ag2Teのモル比)及び比較例に係る熱電素材(Bi0.5Sb1.5Te3)の温度による電気伝導度、ゼーベック係数、パワーファクター、熱伝導度及び性能指数(ZT)を測定した実験結果グラフである。
図5e】本発明の各具現例(x=0.1〜0.4、xは、Ag2Teのモル比)及び比較例に係る熱電素材(Bi0.5Sb1.5Te3)の温度による電気伝導度、ゼーベック係数、パワーファクター、熱伝導度及び性能指数(ZT)を測定した実験結果グラフである。
図6a】Bi0.5Sb1.5Te3とAg2Te相分離複合体の断面をイオンビームでエッチング(etching)してAFMで撮った表面形状映像(topographic image)を示す図である。
図6b】複合体の伝導性AFMイメージ(conductive AFM image)を示す図である。
図6c】Ag2Te相と考えられる部分のIV特性曲線であって、IV曲線において、Ag2Te相は、半導体的な特性を示し、小さいエネルギーギャップを有している。
図6d】Bi―Sb―Te相と推定される部分のIV特性曲線であって、Bi―Sb―Te相は、Ag―Te相より大きいエネルギーギャップを有している半導体特性を示す。
図7】本発明の一実施例に係る熱電素材を備える車両用冷蔵庫を備える自動車の構造を示す図である。
図8】本発明の一実施例に係る熱電素子を用いるグローブボックス(G)に挿入可能な冷温蔵庫の断面図である。
図9】本発明の一実施例に係る熱電素子を含む車両用冷暖房ユニットの構造を説明するための側断面図である。
図10】本発明の一実施例に係る熱電素子を適用した浄水器の構成図である。
図11】本発明の一実施例に係る熱電素子を適用した具体的な冷温モジュールの斜視図である。
図12】本発明の一実施例に係るパッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
常温(300K)付近で冷却またはヒートポンプ(heat pump)の用途で使用される熱電素材の組成は、一般に、(BiaSb1-a2(TecSe1-c3であり、多結晶バルク材料の性能指数(ZT)は、300Kで約1である。熱電素材の性能は、無次元性能指数(dimensionless figure of merit)と呼ばれる数式1のように定義される性能指数(ZT)値を通じて示すことができる。
【0014】
【数1】
【0015】
数式1において、Sはゼーベック係数(1℃当たりの温度差によって発生する熱起電力(thermoelectric power)を意味する)、σは電気伝導度、Tは絶対温度、κは熱伝導度である。S2σはパワーファクターを構成する。数式1に示したように、熱電素材の性能指数(ZT)を増加させるためには、ゼーベック係数(S)と電気伝導度(σ)、すなわち、パワーファクター(S2σ)は増加させ、熱伝導度(κ)は減少させなければならない。しかし、ゼーベック係数と電気伝導度は互いに交換相殺関係にあり、キャリアである電子または正孔の濃度の変化に従って一つの値が増加すると、他の一つの値は小さくなる。例えば、電気伝導度が高い金属のゼーベック係数は低く、電気伝導度が低い絶縁物質のゼーベック係数は高い方である。このようなゼーベック係数と電気伝導度の交換相殺関係は、パワーファクターを増加させるのに大きな制約になる。
【0016】
図1a〜図1cは、熱電素材の性能指数ZTを向上させるための従来技術に係る熱電素材の微細構造を示す図である。
【0017】
熱電素材の性能指数ZTを向上させるために、超格子薄膜(superlattice thin film)、ナノワイヤ、量子点(quantum dot)などのナノ構造を形成し、量子拘束効果(quantum confinement effect)によってゼーベック係数を増大させたり、PGEC(Phonon Glass Electron Crystal)概念によって熱伝導度を低下させる試みがなされている。
【0018】
第一に、量子拘束効果は、ナノ構造によって材料内のキャリアのエネルギーの状態密度(density of states:DOS)を大きくすることによって有効質量を増大させ、ゼーベック係数を上昇させる概念である。このとき、電気伝導度とゼーベック係数との相関関係が崩れ、ゼーベック係数が増加しても電気伝導度は大きく変化しない。
【0019】
第二に、PGEC概念は、熱伝逹を担当するフォノン(phonon)の動きは遮断し、電荷キャリア電子(charge carrier electron)の移動は妨害しないようにし、電気伝導度の低下なしで熱伝導度のみを低減させる概念である。すなわち、熱電素材の高温側面から低温側面に熱を伝達させるフォノン及び電荷キャリア電子のうち、フォノンの進行のみが障壁にぶつかって(フォノン散乱、phonon scattering)妨害され、電荷キャリア電子は円滑に進行される。したがって、フォノン散乱によって熱伝導度は低減するが、電荷キャリア電子による電気伝導度は低減しないという効果を有することができる。
【0020】
このような従来技術に対して、熱電素材の微細構造を示す図面を参照して具体的に説明する。
【0021】
図1aは、ナノ複合体型熱電素材10の微細構造を示す図である。ナノ複合体型熱電素材10では、熱電素材のグレイン11のサイズを低減させることによってZTの値を向上させることができる。グレイン11は、20ナノメートル〜100ナノメートルの直径を有することができる。
【0022】
フォノンが粒界(grain boundary、結晶粒界)12を通過するとき、フォノン散乱現象が発生するので、グレイン11のサイズを低減させるほど熱伝導度を低下させ得るという効果が発生する。その一方、電荷キャリア電子の移動は、粒界12を通過するときに受ける影響が相対的に小さいので、電気伝導度の変化は最小化させることができる。これによって、図1aに示したように、ナノ複合体構造を有する熱電素材では、PGEC概念によって熱電素材のZT値を向上させることができる。
【0023】
図1bは、粒界12上への所定物質21の析出を通じて、ZTの値を向上させた析出型熱電素材20の微細構造を示す図である。
【0024】
粒界12上に析出された物質21は、フォノン散乱を発生させると同時に、電気伝導度を向上させるという効果を有し、全体の析出型熱電素材20のZT値を向上できるようになる。
【0025】
図1cは、工程多変化を通じた階層構造(hierarchical structure)熱電素材30の微細構造を示す図である。
【0026】
階層構造とは、グレイン11の内部に他のグレインを形成させることによって、大きいグレイン11を通じて大きいフォノンに対するフォノン散乱を誘発させ、小さいグレイン31を通じて小さいフォノンに対するフォノン散乱を誘発させる。このように誘発されたフォノン散乱を通じて、熱電素材の熱伝導度を低下させることができる。
【0027】
以上では、図1a〜図1cを通じて、従来技術を通じてZT値を上昇させるための熱電素材の微細構造を説明した。上述した従来技術に係る微細構造によると、共通的に熱伝導度を低下させるための構造に焦点が合わせられている。このように、熱伝導度のみを制御することによってZT値に変化を与える方法においては、ZT値の変化値が微々たるものになるしかないという限界が存在する。
【0028】
PGEC概念を具現させるために、更に他の具体的方法において、PbTe上にPbSeTe層を超格子に作ったり、Bi2Te3とSb2Te3を積層して超格子に作ると、ZTが非常に大きく向上することが実験的に明らかになったことがある。しかし、このように超格子を作ることは、人工的に薄膜工程を用いなければならないので、高価な施設が必要なだけでなく、薄膜を厚くするとしてもその厚さが数百nm水準に過ぎないので、熱電素材は、実際に熱電発電及び冷却素子に使用するには適していない。
【0029】
したがって、本発明の一具現例で提案する熱電素材の微細構造は、ナノ構造を通じて熱伝導度を低下させ得るだけでなく、電気伝導度及びゼーベック係数も向上させ得る構造を提案する。
【0030】
熱伝導度低減の主要戦略のうち一つとして、ナノ構造化を通じて熱伝逹を担当するフォノンを効果的に散乱できる微細構造を具現することは、図1aを通じて説明した通りである。粒界12は、フォノン(phonon)散乱に効果的な界面であって、粒子サイズを小さくすることによって粒界12の密度を増加させると、格子熱伝導度を低減させることが可能になる。最近、このような素材開発戦略として、ナノ粒子、ナノワイヤ、ナノプレートなどのナノサイズの熱電素材粒子を製造する技術が台頭している趨勢でもある。
【0031】
一方、電気伝導度とゼーベック係数は、上述したように交換相殺関係にあるので、二つの数値を一度に向上させることは難しい課題である。ゼーベック係数と電気伝導度との間の交換相殺関係が表れる理由は、ゼーベック係数と電気伝導度物性が試料バルク材料で同時に調節しにくいためである。しかし、ゼーベック係数と電気伝導度の発生チャンネルを2元化させ得るなら、これらの交換相殺関係を崩すことができる。すなわち、電気伝導度が試料の表面から出ると共に、ゼーベック係数がバルク材料から高い値として与えられると、高いゼーベック係数と電気伝導度を同時に具現することができる。
【0032】
本発明の一具現例では、高いゼーベック係数と電気伝導度を同時に具現するために、位相幾何学的不導体(Topological Insulator(TI)、以下、位相不導体と称する)を用いるように提案する。位相不導体は、強いスピン―軌道結合と時間反転対称性によってバルク(bulk)材料は不導体であるが、試料の表面は位相的に変わらない金属を帯びる物質をいう。すなわち、電子が試料の表面を通じてのみ動けることを意味し、このように不導体の試料の表面が金属性を帯びる現象を「Topological metallic state」と称する。電子の移動が位相不導体の表面に形成される金属層を通じると、熱電素材の電気伝導度を向上させることができる。以下では、本発明の一具現例に係る具体的な熱電素材の微細構造を説明する。
【0033】
図2は、本発明の一具現例に係る異種の位相不導体のそれぞれによって界面が形成されたナノ複合体熱電素材の微細構造である。
【0034】
図2に示したナノ複合体熱電素材の微細構造は、第1の物質のグレイン200(以下、第1のグレインと称する)及び第2の物質のグレイン201(以下、第2のグレインと称する)の相分離(phase separation)を通じて形成することができる。本発明の一具現例に係る微細構造の製造方法は、以下で詳細に説明することにする。
【0035】
本発明の一具現例に係るナノ複合体熱電素材をなす第1及び第2の物質のうち少なくとも一つは、例えば、Bi―Te系、Pb―Te系、Co―Sb系、Si―Ge系、またはFe―Si系の物質を少なくとも一つ含むことができる。Pb―Te系の熱電素材は、PbとTeを全て含み、他の元素を含む物質であり得る。Co―Sb系の熱電素材は、Co及びFeのうち一つの元素とSbを含む物質であり得る。Si―Ge系の熱電素材は、SiとGeを全て含む物質であり得る。より具体的な例を挙げると、物質は、Bi0.5Sb1.5Te3、Bi2Te3合金、CsBi4Te6、CoSb3、PbTe合金、Zn4Sb3、Zn4Sb3合金、NaxCoO2、CeFe3.5Co0.5Sb12、Bi2Sr2Co2y、Ca3Co49、またはSi0.8Ge0.2合金からなり得る。しかし、熱電素材がこれら物質に限定されることはない。
【0036】
本発明の一具現例の第1及び第2の物質のうち少なくとも一つは位相不導体を含むことができる。
【0037】
2011年の中国科学院のPhysical Review Letters vol.106、p.156808(2011)論文によると、β―Ag2Teに位相不導体特性が存在すると開示している。以下では、本発明の一具現例として、p―タイプの熱電素材であるBi0.5Sb1.5Se3を母材としてAg2Teを相分離させることによって形成された位相不導体の微細構造及び製造方法に対する具体的な内容を説明することにする。
【0038】
本発明の一具現例の第1及び第2の物質のうち少なくとも一つは、エネルギーギャップ(energy gap)の大きい半導体を含むことができる。
【0039】
本発明の一具現例に係る熱電素材は、熱伝導度、電気伝導度及びゼーベック係数のそれぞれを制御できるという点で著しいZT値の上昇につながり得る。
【0040】
第一に、本発明の一具現例に係る熱電素材は、ナノ構造を通じて熱伝導度を低下させることができる。図1aのナノ複合体微細構造で上述したように、ナノ構造は、粒界12でフォノン散乱を誘発させ得るので、熱伝導度を低下させるのに効果的である。本発明の一具現例に係る熱電素材は、第1及び第2のグレインのそれぞれで形成されたナノ構造を通じて熱伝導度を低下させることができる。
【0041】
第二に、本発明の一具現例に係る熱電素材は、位相不導体の「Topological metallic state」を通じて電気伝導度を増加させることができる。位相不導体の表面と言える粒界12では、高い移動度を有する金属状態が形成されるので、熱電素材の電気伝導度が非常に大きく増加し得る。
【0042】
最後に、本発明の一具現例では、エネルギーギャップの大きい物質を試料バルク材料として使用することによってゼーベック係数を向上させることができる。ゼーベック係数が向上すると、高いパワーファクターを期待することができる。ゼーベック係数は、第1及び第2のグレインをそれぞれ形成している第1及び第2の物質のエネルギーギャップが大きいほど高くなるので、第1及び第2の物質が不導体からなる場合、ゼーベック係数の値は向上し得る。なぜなら、不導体がエネルギーギャップの大きい物質であるためである。
【0043】
上述する特徴を有する複合体を形成するために、本発明の一具現例では、熱電素材であるBi0.5Sb1.5Te3母材(第1の物質)内に異種の熱電素材または位相不導体(第2の物質)を相分離して界面位相保存性を発現させることによって、下記の化学式1の組成を有する熱電素材を提供する。
【0044】
【化1】
【0045】
化学式1において、TIは、「Topology Insulator」、すなわち、位相不導体特性を有する任意の物質であって、AgSbTe2及びAgTe2のうち少なくとも一つを含むことができる。xは、TIのモル比である。
【0046】
本発明の一具現例によると、Teには、化学量論上の欠乏が存在し得る。
【0047】
本発明の一具現例によると、Sbには、化学量論上の欠乏が存在し得る。
【0048】
本発明の一具現例によると、化学式1の組成で作られた化合物は、X線回折(XRD)によって測定されたように、TI相とBi0.5Sb1.5Te3相が混在している二重相構造を有することができる。
【0049】
本発明の一具現例によると、熱電素材は、理論密度の70%〜100%に該当する密度を有することが好ましい。
【0050】
製造方法の実施例
【0051】
1)溶融相分離(Melting phase separation)
【0052】
Ag、Bi、Sb、Teをモル比率どおりに定量測定して石英管に入れ、10-5torrの真空度で真空密封する。Ag2Teの融点が960℃であるので、真空密封された石英管を電気炉に入れ、1,050℃まで温度を徐々に上げ、1,050℃で12時間維持した後で冷却させる。このように合成された化合物をすり鉢で1時間以上すり潰して粉末に作り、この粉末を直径12.8mmの穴を有する炭素モールドを用いて50MPaの圧力、350℃の温度で1時間焼結する。
【0053】
図3は、本発明の一具現例に係るBi0.5Sb1.5Te3に相分離されたAg2Te相のX線回折(X―ray diffraction、XRD)結果である。図4は、本発明の一具現例に係るBi0.5Sb1.5Te3に相分離されたAg2Te相の高倍率透過電子顕微鏡(TEM)結果である。
【0054】
圧力焼結をする前の試料においては、AgSbTe2とBi0.5Sb1.5Te3の相が分離された結果を確認することができる。しかし、図3を参照すると分かるように、350℃で圧力焼結をした試料のXRDでは、AgSbTe2相の各ピークは消え、微細なAg2Te相が見える。これは、AgSbTe2相が360℃付近でAg2Te相とSb2Te3相に再び相分離されたためである。結果的に、図4に示すように、高倍率透過電子顕微鏡から、溶融合成と圧力焼結によってAg2Te相とBi0.5Sb1.5Te3相が分離された試料を確認することができる。
【0055】
2)粉末冶金
【0056】
Ag2TeとBi0.5Sb1.5Te3化合物を別途に合成して粉末に作り、互いに一定比率で混合した後、圧力焼結を通じて二つの相が混合された複合体を作る。
【0057】
Ag2Teの合成は、図4を参考にして説明する。モル比率どおりにAg、Teを石英管に入れて真空密封し、電気炉で温度を1,050℃まで上げた後、1,050℃で24時間維持してから500℃までゆっくり冷却させる。その後、500℃で一定時間維持した後、水で急速冷却させる。このように合成されたAg2Teを潰し、ボールミル装備とジェットミルを用いて数十マイクロンのサイズを有する粉末に作る。
【0058】
また、Bi0.5Sb1.5Te3は、モル比率どおりにBi、Sb、Teを石英管に入れて真空密封し、電気炉で温度を850℃に上げた後、850℃に24時間維持してから冷却させる。合成されたBi0.5Sb1.5Te3を潰し、ジェットミルを用いて数百ナノメートルのサイズを有する粉末に作る。
【0059】
このように作られた粉末をそれぞれ一定比率どおりに混合する。混合時には、少量のAg2Teを均一に分散させるために、ボールミル装備を用いる方法と有機溶媒中で粉末を混合する方法とをそれぞれ用いた。混合された粉末を炭素モールドに入れ、50MPaの圧力及び350℃の温度で1時間圧力焼結をする。
【0060】
特性評価
【0061】
図5a〜図5eは、本発明の各具現例(x=0.1〜0.4、xはAgのモル比)及び比較例に係る熱電素材(Bi0.5Sb1.5Te3)の温度による電気伝導度(electrical conductivity)、ゼーベック係数(Seebeck coefficient)、パワーファクター(Power factor)、熱伝導度(Thermal Conductivity)及び性能指数(ZT)を測定した実験結果グラフである。各熱電性能は、300K〜600Kの温度範囲で測定された。電気伝導度の測定には直流4端子方法(dc 4―probe method)を用い、ゼーベック係数の測定には静的温度差方法(static temperature difference method)を用い、熱伝導度にはレーザーフラッシュ方法(laser flash method)を用いた。このとき、電気伝導度、ゼーベック係数及び熱伝導度は、全て加圧方向に対して垂直な方向に測定した。
【0062】
図5a〜図5eを参照すると、電気伝導度は、各具現例(x=0.1〜0.4)において、比較例に係る熱電素材(Bi0.5Sb1.5Te3)に比べて、全体の温度範囲で著しい数値の向上が存在し、特に低い温度で電気伝導度の数値が大きく向上したことを確認することができる。ゼーベック係数に対する実験結果である図5bを参照すると、本発明の各具現例のゼーベック係数は、ほとんどの温度範囲で比較例に比べて低い値を有する。しかし、400Kから徐々に数値の差が減少し、550K以上ではゼーベック係数の値が逆転することを見ることができる。さらに、本発明の具現例のうち、x=0.2である場合は、ゼーベック係数の値が最も高い数値を有することを確認することができる。
【0063】
パワーファクターに対する実験結果である図5cを見ると、ほとんどの温度範囲で本発明の各具現例のパワーファクター値が、比較例の値より大きいことが確認される。特に、本発明の具現例のうち、x=0.1及び0.2である場合は、最も高い値を有することを確認することができる。
【0064】
電気伝導度に対する実験結果である図5dを見ると、同様に、ほとんどの温度範囲で本発明の各具現例の電気伝導度値が比較例の値より低いことが確認される。特に、本発明の具現例のうち、x=0.2である場合は、最も良い性能を有することが確認される。
【0065】
最後に、熱電素材の性能指数であるZTの実験結果を示す図5eを参照すると、ほとんどの温度範囲で本発明の各具現例の数値が比較例の値より高い値を有することが確認される。特に、熱電素材の可用区間はZTの値が1より大きい区間と定義できるが、可用区間は、x=0.2である場合、約380Kから600K以上であることが確認される。
【0066】
図6aは、相分離複合体の断面をイオンビームでエッチング(etching)し、AFM(Atomic Force Microscope)で撮った表面形状映像(topographic image)である。図面において、暗い部分と比較的明るい部分としてエッチング程度が異なる部分が見えるが、これは、本発明の一具現例に係る相分離複合体にAg2Te相とBi―Sb―Te相が混在して構成されていると分析することができる。
【0067】
図6bは、複合体の伝導性AFMイメージ(conductive AFM image)である。白い部分が電気伝導度の高い部分で、茶色部分が電気伝導度の低い部分である。すなわち、図6bを参照すると、本発明の一具現例に係る相分離複合体においては、電気伝導度が異なる異種の相が複合的に混在していることを確認することができる。
【0068】
図6cは、Ag2Te相と考えられる部分のI―V特性曲線である。I―V特性曲線を参照すると、Ag2Te相は半導体的な特性を示し、相対的に小さいエネルギーギャップを有しているという特性を確認することができる。
【0069】
図6dは、Bi―Sb―Te相と推定される部分のI―V特性曲線である。図6dのI―V特性曲線を参照すると、図6cを通じて分析したAg―Teより相対的に大きいエネルギーギャップを有している半導体特性を確認することができる。
【0070】
上述した本発明の一実施例に係る熱電素材は、多様な産業分野での活用可能性が高い。以下、このような熱電素材が実際に適用される各装置の構造に対して説明する。
【0071】
図7は、本発明の一実施例に係る熱電素材を備える車両用冷蔵庫を備える自動車の構造を示す図である。
【0072】
一般に、自動車には、簡単な飲料水缶や少量の食物を保管するために冷温蔵庫を設置しており、この冷温蔵庫は、図1に示したように、主に助手席の前に位置したグローブボックス(G)や、前席の中央部に位置したコンソールボックス(C)または後席の中央に位置したアームレスト(A)などの内部空間に設置される。
【0073】
最近は、冷温蔵庫に熱電素子を多く用いる趨勢である。このような熱電素子を用いる冷温蔵庫は、一側が開放された貯蔵室と、貯蔵室の開放部を開閉するカバーと、貯蔵室の下部に設置される熱電素子モジュールと、熱電素子モジュールの外部に設置され、熱電素子モジュールに熱を吸入したり、または熱電素子モジュールから熱を排出するダクトとからなる。熱電素子モジュールに供給される電流の流れ方向に沿って冷蔵庫機能と温蔵庫機能を選択的に使用できるようになる。
【0074】
図8は、本発明の一実施例に係る熱電素子を用いるグローブボックス(G)に挿入可能な冷温蔵庫の断面図である。
【0075】
図8に示したように、ドア1によって開閉されると同時に、内部ケース21及び外部ケース22からなるケース2の外部ケース22の一側に設置された熱電素子モジュール3により、内容物は冷たくまたは暖かく保管するようになっている。この熱電素子モジュール3は、電流の流れ方向に沿って、一側は吸熱作用をし、他側は発熱作用をするように構成されることによって、内容物の冷蔵及び温蔵作用を行うことができる。熱電素子モジュール3の一側には、外部ケース22と内部ケース21との間に設置されると同時に、内部ケース21の内部に露出するように第1の熱伝達体4であるブロックが設置されることによって、内部ケース21の内部に収納される内容物を冷たくまたは暖かく保管することができ、熱電素子モジュール3の他側には第2の熱伝達体5であるアルミニウム製放熱板が設置される。そして、この第2の熱伝達体5に隣接してこれを強制的に冷却させ得るように、冷却ファン6が独立的にさらに設置される。
【0076】
以下、図9を参照して、熱電素子を含む冷暖房ユニットの構造を説明する。
【0077】
図9は、本発明の一実施例に係る熱電素子を含む車両用冷暖房ユニットの構造を説明するための側断面図である。
【0078】
図9に示したように、冷暖房ユニット920には、多数の熱電素子922が一定の間隔で上下に配列されており、それぞれの熱電素子922の上下部には第1の遮断板928が設置されている。熱電素子922の上部に位置した上部基板924では発熱現象が発生し、下部基板926では吸熱現象が発生すると仮定する。これは、暖房のための作動時に該当する。
【0079】
一方、熱電素子922の後尾には第2の遮断板929が設置されるが、第2の遮断板929の上端部は熱電素子922の中間または上部に隣接して連結され、下端部は下部に位置した他の第1の遮断板928の表面と連結される。
【0080】
このような構造により、吸気口910を介して空気が流入すると、流入する空気は、大きく二つの流れを構成しながら移動する。すなわち、上部基板924と接触しながら通過する空気は、発熱現象によって加熱された後で吐出口912を介して排出される。しかし、下部基板926と接触しながら通過する空気は、吸熱現象によって冷却され、第2の遮断板929によって遮断される。したがって、冷却された空気は吐出口912を介して排出されない。
【0081】
冷却された空気は、図面においてxで表示されたように、側面に移動しながら排気口960を介して外部に排出される。排気口960は、車両の外部と連通するように設置することが好ましい。図面には詳細に示していないが、第2の遮断板929は、側面に空気通路が形成され、この空気通路は排気口960と連結されるように構成することによって、冷気と熱気を分離して排出させることができる。図面には、2個の熱電素子922が表示されたが、上下に積層する方式で必要な個数だけ熱電素子を増加させ得ることは明らかである。
【0082】
以下では、浄水システムで食水を暖めたり冷却させるための本発明の一実施例に係る熱電素子の活用に対して説明する。
【0083】
図10は、本発明の一実施例に係る熱電素子を適用した浄水器の構成図である。図11は、本発明の一実施例に係る熱電素子を適用した具体的な冷温モジュールの斜視図である。図12は、本発明の一実施例に係るパッドの断面図である。以下、本発明の一実施例に係る熱電素子の構成成分を図10図12を共に参照して説明する。
【0084】
図示したように、本実施例に係る浄水器は、水を濾過して浄水を生成させるフィルターモジュール50と、フィルターモジュール50で浄化された浄水の一部を熱電現象によって冷却させると同時に、浄水の残りを熱電現象によって加熱させる冷温モジュール60と、フィルターモジュール50及び冷温モジュール60に浄水を循環させる循環モジュール70と、循環モジュール70の浄水を吐出コック100に排出させる排出配管80とを含む。
【0085】
フィルターモジュール50は、多様なフィルターを組み合せて使用することができ、本実施例では、沈澱フィルター52、前処理カーボンフィルター53、逆浸透圧フィルター54及び後処理カーボンフィルター55を含む。
【0086】
ここで、フィルターモジュール50を構成する沈澱フィルター52、前処理カーボンフィルター53、逆浸透圧フィルター54及び後処理カーボンフィルター55の技術的構成及び作動過程は、当業者にとって一般的な事実であるので、それについての詳細な説明は省略する。
【0087】
冷温モジュール60は、印加された電流によって一側面では冷却効果が発生し、他側面では加熱効果が発生する熱電素子で構成された複数の熱電半導体62と、各熱電半導体62の間に密着して配置され、フィルターモジュール50で浄化された浄水を冷却させるクーリングパッド64と、熱電半導体62の各外側面に密着して配置され、フィルターモジュール50で浄化された浄水を加熱させるヒーティングパッド66とを含む。
【0088】
熱電半導体62は、ペルチェ効果を用いて作動する熱電素子(thermoelectric element)で構成されたものであって、熱電素子は、n、pタイプの熱電対(Thermo couple)を電気的には直列になり、熱的には並列になるように連結したモジュールの形態で構成されており、直流電流を流したときは熱電効果によってモジュールの両面に温度差が発生し、一側面は冷却され、反対側面は加熱される。このような熱電半導体は、冷媒を循環させるために圧縮機を稼動させる既存の冷却方式に取って代わる環境にやさしい冷却方式であって、印加された電流によって常温の対象物に対して−30℃〜180℃まで冷却と加熱を同時に行うことができ、温水と冷水を同時に使用する浄水器に適している。
【0089】
ここで、熱電半導体62は2個使用され、複数の熱電半導体62の間で冷却がなされる。ここで、本実施例では、熱電半導体62が2個使用されたが、浄水量に応じて4個、6個に拡張されて使用されても構わなく、クーリングパッド64及びヒーティングパッド66のサイズ及び形態も浄水量に応じて変更可能である。
【0090】
クーリングパッド64は、各熱電半導体62の間に密着して配置され、両側に配置された各熱電半導体62によって冷却される。
【0091】
そして、ヒーティングパッド66は、熱電半導体62を基準にしてクーリングパッド64の反対側に配置され、一つの熱電半導体62を通じて加熱される。
【0092】
したがって、熱電半導体62に電流が印加される場合、熱電半導体62の一側面で冷却がなされることによってクーリングパッド64が冷却され、他側面で加熱がなされることによってヒーティングパッド66が加熱され、2個のヒーティングパッド66、1個のクーリングパッド64及び2個の熱電半導体62は一体にモジュール化されて構成される。
【0093】
ヒーティングパッド66及びクーリングパッド64は同一の構造で構成されるので、本実施例では、クーリングパッド64を例に挙げて説明する。
【0094】
クーリングパッド64は、浄水の流動経路を提供するパッドボディー65aと、パッドボディー65aにフィルターモジュール50で浄化された浄水が流入する流入口65bと、パッドボディー65aの浄水を排出させる流出口65cとを含む。
【0095】
パッドボディー65aには流入口65b及び流出口65cが形成され、内部に多数の隔壁65dが形成され、隔壁65dによって浄水の移動流路が形成される。ここで、パッドボディー65aは、本実施例においてアルミニウム材質で形成され、本実施例とは異なり、熱伝導度の高い他の金属材質で形成されてもよい。
【0096】
循環モジュール70は、冷温モジュール60によって冷却または加熱された浄水が使用されない間、浄水器の内部で浄水を循環させるためのものであって、フィルターモジュール50で浄化された浄水を冷温モジュール60に供給する供給配管71と、供給配管71とパッドボディー65aとを連結させ、パッドボディー65aで冷却または加熱された浄水を循環させる循環配管73と、供給配管71に設置され、循環配管73と連結され、パッドボディー65a及び循環配管73のうち一つに浄水の流路を変更させる3方向バルブ74と、循環配管73に設置され、循環配管73内の浄水を一側方向に循環させる循環ポンプ72とを含む。
【0097】
3方向バルブ74は、供給配管71を分岐して循環配管73と連結させる。ここで、吐出コック100から浄水の排出がない場合、3方向バルブ74は、循環配管73側に流路を開放することによって浄水を循環させ、吐出コック100から浄水が排出される場合、冷温モジュール60側に流路を開放することによって浄水を供給する。
【0098】
循環ポンプ72は、正方向及び逆方向に浄水を流動させることができ、本実施例では、循環配管73を経て冷温モジュール60側に浄水が流動した後、3方向バルブ74を経て循環されるように浄水を流動させる。
【0099】
一方、本実施例では、循環配管73に設置された温度センサー75と、温度センサー75からデータを受信し、冷温モジュール60の温度を制御する温度調節器76とをさらに含む。
【0100】
併せて、排出配管80は、吐出コック100と循環配管73とを連結させ、吐出コック100が開放される場合、温度が調節された循環配管73内部の浄水は排出配管80を経て吐出コック100に移動する。
【0101】
一方、循環モジュール70は、クーリングパッド64と連結され、冷却された浄水を循環させるクーリング循環モジュール78と、ヒーティングパッド66と連結され、加熱された浄水を循環させるヒーティング循環モジュール79とを含んで構成することができる。
【0102】
フィルターモジュール50で浄化された浄水は、供給配管71及び3方向バルブ74を経て冷温モジュール60に供給され、浄水は、冷温モジュール60のクーリングパッド64及びヒーティングパッド66のうちいずれか一つに供給される。
【0103】
ここで、浄水は、クーリング循環モジュール78及びヒーティング循環モジュール79のうち浄水が不足する側のみに供給される。
【0104】
その後、浄水器の制御部(図示せず)は、熱電半導体62に電源を印加し、クーリングパッド64またはヒーティングパッド66を冷却または加熱させ、冷却されたクーリングパッド64またはヒーティングパッド66は、熱伝導によって内部を流動する浄水を冷却または加熱させるようになる。前記のように、本発明を例示した図面を参照して説明したが、本発明は、本明細書に記載した実施例と図面に限定されることなく、本発明の技術思想が保護される範囲内で多様な組み合わせを通じて当業者によって応用可能である。
【0105】
したがって、前記の詳細な説明は、全ての面で制限的に解釈してはならなく、例示的なものとして考慮しなければならない。本発明の範囲は、添付された請求項の合理的解釈によって決定しなければならなく、本発明の等価的範囲内での全ての変更は本発明の範囲に含まれる。
図1a
図1b
図1c
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図5d
図5e
図6a
図6b
図6c
図6d
図7
図8
図9
図10
図11
図12