特許第6262893号(P6262893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6262893フェライト系ステンレス鋼および溶接構造物
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  • 特許6262893-フェライト系ステンレス鋼および溶接構造物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6262893
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼および溶接構造物
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20180104BHJP
   C22C 38/32 20060101ALI20180104BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/32
   C22C38/54
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-20375(P2017-20375)
(22)【出願日】2017年2月7日
【審査請求日】2017年10月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】今川 一成
(72)【発明者】
【氏名】齋田 知明
(72)【発明者】
【氏名】田井 善一
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−145097(JP,A)
【文献】 特開2007−247013(JP,A)
【文献】 特開平06−041695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.015質量%以下、Si:0.05質量%以上0.40質量%以下、Mn:0.20質量%以上0.40質量%以下、P:0.03質量%以下、S:0.01質量%以下、Cr:18.0質量%以上20.0質量%以下、Mo:1.0質量%以上1.5質量%以下、Ti:0.10質量%以上0.30質量%以下、Nb:0.20質量%以上0.40質量%以下、Al:0.02質量%以上0.20質量%以下、B:0.0010質量%以下およびN:0.015質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
Si−8Mn+7Al−230B+2≧0の式を満足する
ことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
Ni:0.6質量%以下およびCu:0.5質量%以下のうち少なくとも1種を含有する
ことを特徴とする請求項1記載のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
請求項1または2記載のフェライト系ステンレス鋼が溶接されて形成された
ことを特徴とする溶接構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接熱影響部の疲労特性に優れるフェライト系ステンレス鋼および溶接構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度フェライト系ステンレス鋼は、NbやTiの添加により加工性を改善し、自動車や家電機器や温水缶体等の構造体用材料として広く適用されている。
【0003】
このような構造体にステンレス鋼を適用する場合には、溶接施工が不可欠であるが、高純度フェライト系ステンレス鋼において溶接を行なうと、溶接スケールにより耐食性が劣化することが知られている。
【0004】
溶接スケールによる耐食性の劣化を解決する技術としては、例えば、特許文献1および特許文献2等のように、シールが不十分な場合においても耐食性を確保できるようにCr−Moを比較的高濃度で添加したフェライト系ステンレス鋼が知られている。
【0005】
一方、特許文献1および特許文献2等のように、耐食性を向上させるために添加するCrおよびMoは、比較的高価な元素であり、材料コストが上昇してしまう。
【0006】
そこで、CrやMoの添加量をできるだけ低減しつつ、耐食性を向上させる技術としては、特許文献3および特許文献4等のフェライト系ステンレス鋼が知られている。
【0007】
特許文献3では、CrとMoとのバランスおよびNbとTiとのバランスを調整することで、CrおよびMoの添加量を低減しつつ、溶接部の耐食性を向上している。
【0008】
また、特許文献4では、Siを鋼板表面にのみ残存させることで、Siを必要以上添加せずに、CrおよびMoの添加量を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2012/133681号
【特許文献2】特開2009−185382号公報
【特許文献3】特開2007−270226号公報
【特許文献4】特開2016−128591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば温水缶体等のような腐食環境が厳しく、溶接施工が施される用途で使用される高純度フェライト系ステンレス鋼は、耐食性を重視し、材料選定がされているが、薄肉化や溶接工法の変化により、溶接部近傍での疲労が問題となる場合が想定される。
【0011】
しかしながら、上述の特許文献1ないし特許文献4のいずれも、溶接部の耐食性を担保できても、溶接部、特に溶接熱影響部の疲労特性を十分満足するかが検討されていない。
【0012】
一般的に溶接部の疲労特性を向上させる手段としては、疲労特性と相関のある高強度化が有効であるが、高強度化を図ると加工性が低下するため、加工性が要求される用途には適用できない。
【0013】
また、用途に応じた加工度によっては、疲労特性向上のための高強度化は適用できる場合も想定されるが、溶接熱影響部に関しては、熱影響による軟化が生じ、溶接熱影響部での疲労特性向上は図ることができない。
【0014】
したがって、溶接部を含む耐食性および加工性を確保しつつ、溶接部の疲労特性に優れるフェライト系ステンレス鋼が求められていた。
【0015】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、耐食性および加工性を確保しつつ、溶接した場合の溶接部の疲労特性が良好なフェライト系ステンレス鋼、および、溶接構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載されたフェライト系ステンレス鋼は、C:0.015質量%以下、Si:0.05質量%以上0.40質量%以下、Mn:0.20質量%以上0.40質量%以下、P:0.03質量%以下、S:0.01質量%以下、Cr:18.0質量%以上20.0質量%以下、Mo:1.0質量%以上1.5質量%以下、Ti:0.10質量%以上0.30質量%以下、Nb:0.20質量%以上0.40質量%以下、Al:0.02質量%以上0.20質量%以下、B:0.0010質量%以下およびN:0.015質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、Si−8Mn+7Al−230B+2≧0の式を満足するものである。
【0017】
請求項2に記載されたフェライト系ステンレス鋼は、請求項1記載のフェライト系ステンレス鋼において、Ni:0.6質量%以下およびCu:0.5質量%以下のうち少なくとも1種を含有するものである。
【0018】
請求項3に記載された溶接構造物は、請求項1または2記載のフェライト系ステンレス鋼が溶接されて形成されたものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、所定の範囲に規定された合金組成において、Bの含有量を0.0010質量%以下とし、Si−8Mn+7Al−230B+2≧0の式を満足するため、耐食性および加工性を確保しつつ、溶接した場合の溶接部の疲労特性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)は溶接部の耐食性を評価する試験の供試材の形状を模式的に示す平面図で、(b)は金属すき間部の耐食性を評価する試験の供試材の分解状態を模式的に示す斜視図で、(c)はステンレス鋼板自体の疲労特性を評価する試験の供試材の形状を示す平面図で、(d)は溶接部を含むステンレス鋼の疲労特性を評価する試験の供試材の形状を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態の構成について詳細に説明する。
【0022】
本発明に係る一実施の形態のフェライト系ステンレス鋼は、C(炭素):0.015質量%以下、Si(ケイ素):0.05質量%以上0.40質量%以下、Mn(マンガン):0.20質量%以上0.40質量%以下、P(リン):0.03質量%以下、S(硫黄):0.01質量%以下、Cr(クロム):18.0質量%以上20.0質量%以下、Mo(モリブデン):1.0質量%以上1.5質量%以下、Ti(チタン):0.10質量%以上0.30質量%以下、Nb(ニオブ):0.20質量%以上0.40質量%以下、Al(アルミニウム):0.02質量%以上0.20質量%以下、B(ホウ素):0.0010質量%以下およびN(窒素):0.015質量%以下を含有し、残部がFe(鉄)および不可避的不純物からなる。
【0023】
また、必要に応じて、Ni:0.6質量%以下およびCu:0.5質量%以下のうち少なくとも1種を含有してもよい。
【0024】
さらに、上記合金組成の各元素の含有量の範囲において、Si、Mn、AlおよびBの含有量に基づくSi−8Mn+7Al−230B+2≧0の(1)式を満足する。なお、この(1)式の各元素記号には、そのフェライト系ステンレス鋼が含有している各元素の含有量を示し、その含有量の値(質量%)が代入され、(1)式に含まれる元素のうち無添加のものは0が代入される。
【0025】
Cは、鋼中に不可避的に含有されるが、耐粒界腐食性や加工性を低下させる元素であるため、含有量をできるだけ抑えることが好ましいが、過度に低減させると製造コストが必要以上に上昇してしまう。したがって、Cの含有量は、0.015質量%以下とする。
【0026】
Siは、溶け落ち性を向上させて低入熱での溶接を可能とするとともに、脱酸元素として作用し、これらの作用を奏するには、0.05質量%以上含有させる必要がある。一方、Siを0.40質量%を超えて含有させると、加工性が低下してしまう可能性がある。したがって、Siの含有量は、0.05質量%以上0.40質量%以下とする。
【0027】
Mnは、溶接スケール耐食性を向上させるとともに、溶接高温割れを防止する元素であり、これらの作用を奏するには、0.20質量%以上含有させる必要がある。一方、Mnを0.40質量%を超えて含有させると、溶け落ち性が低下し、腐食の起点となるMnSを生成しやすくなり、また、フェライト相を不安定化させる可能性がある。したがって、Mnの含有量は、0.20質量%以上0.40質量%以下とする。
【0028】
Pは、溶接性および加工性を低下させる元素であるため、含有量をできるだけ抑えることが好ましいが、過度に低減させると製造コストが必要以上に上昇してしまう。したがって、Pの含有量は、0.03質量%以下とする。
【0029】
Sは、腐食の起点となるMnSを生成させるため、含有量をできだけ抑えることが好ましいが、過度に低減させると製造コストが必要以上に上昇してしまう。したがって、Sの含有量は、0.01質量%以下とし、好ましくは0.006質量%以下とする。
【0030】
Crは、ステンレス鋼の耐食性を確保する上で重要な元素であり、この作用を奏するには18.0質量%以上含有させる必要がある。一方、Crを20.0質量%を超えて含有させると、加工性が低下する可能性があるとともに、材料コストが必要以上に上昇してしまう。したがって、Crの含有量は、18.0質量%以上20.0質量%以下とする。
【0031】
Moは、耐食性を向上させるために有効な元素であり、この作用を奏するには、1.0質量%以上含有させる必要がある。一方、Moを1.5質量%を超えて含有させると、加工性が低下してしまう可能性があるとともに、材料コストが必要以上に上昇してしまう。したがって、Moの含有量は、1.0質量%以上1.5質量%以下とする。
【0032】
Tiは、耐粒界腐食性を向上させる元素であり、この作用を奏するには0.10質量%以上含有させる必要がある。一方、Tiを0.30質量%を超えて含有させると、加工性が低下してしまう可能性があるとともに、硬質なTi系非金属介在物の生成に基づく製品の表面疵の発生により表面品質の低下の原因となる可能性がある。したがって、Tiの含有量は、0.10質量%以上0.30質量%以下とする。
【0033】
Nbは、耐粒界腐食性を向上させる元素であり、この作用を奏するには0.20質量%以上含有させる必要がある。一方、Nbを0.40質量%を超えて含有させると、加工性および靭性を低下させる可能性がある。したがって、Nbの含有量は、0.20質量%以上0.40質量%以下とする。
【0034】
Alは、溶け落ち性を向上させて低入熱での溶接を可能とするとともに、脱酸元素として作用し、これらの作用を奏するには、0.02質量%以上含有させる必要がある。一方、Alを0.20質量%を超えて含有させると、非金属介在物の粗大化に基づく製品の表面疵の発生により表面品質の低下の原因となる可能性がある。したがって、Alの含有量は、0.02質量%以上0.20質量%以下とする。
【0035】
Bは、熱影響部の疲労特性を大きく低下させるとともに、溶け落ち性を低下させる要因であるCrBを粒界上に生成するため、Bの含有量はできるだけ抑えることが好ましい。そして、Bの含有量を0.0010質量%以下に低減することで、溶接後の緩冷却の際におけるCrBの析出を抑制でき、その結果、熱影響部の疲労特性を向上できる。したがって、Bの含有量は、0.0010質量%以下とし、好ましくは0.0005質量%とする。
【0036】
Nは、Cと同様に加工性を低下させる元素であるため、含有量をできるだけ抑えることが好ましいが、過度に低減させると製造コストが必要以上に上昇してしまう。したがって、Nの含有量は、0.015質量%以下とする。
【0037】
Niは、0.6質量%を超えて含有させると、加工性を低下させる可能性があるとともに、フェライト組織を不安定にする可能性があり、また、必要以上に材料コストを上昇させる。したがって、Niを含有させる場合のNiの含有量は、0.6質量%以下とする。
【0038】
Cuは、0.5質量%を超えて含有させると、加工性を低下させる可能性があるとともに、フェライト組織を不安定にする可能性がある。したがって、Cuを含有させる場合のCuの含有量は、0.5質量%以下とする。
【0039】
Vは、多量に含有させると加工性を低下させる可能性があるため、Vの含有量は、例えば0.05質量%未満が好ましい。
【0040】
ここで、溶接部、特に溶接熱影響部の疲労特性に影響を及ぼす因子としては、粒界析出物であるCrBおよび溶接止端部形状が関与している。
【0041】
粒界析出物であるCrBは、溶接後の冷却の際に粒界上に生成されて、熱影響部の疲労特性を大きく低下させる。したがって、フェライト系ステンレス鋼を溶接した溶接構造物では、溶接部においてCrBが粒界析出していないことが好ましい。
【0042】
そこで、上述のようにBの含有量を0.0010質量%以下にすることで、溶接後の緩冷却においても粒界析出を抑制でき、溶接部の疲労特性を改善できる。
【0043】
なお、1200℃で0分の溶接熱影響模擬焼鈍したもの、または、溶接熱影響部を、10%シュウ酸にて0.25A/cmで30秒で電解エッチングを行なった後、400倍に拡大して結晶組織を20視野で観察し、20視野ともに粒界が現出されないものをCrBの析出が抑制されたと判断している。
【0044】
溶接止端部形状は、同一のビード幅に揃えるために溶接入熱の影響を検討した結果、SiおよびAlの含有量が多く、MnおよびBの含有量が少ない程、低入熱での溶接が可能となる。そのため、溶け落ちが生じにくくなり、溶接部の疲労特性を改善できる。
【0045】
したがって、Si、Al、MnおよびBの含有量は、溶け落ち性を向上させるという観点から、上記含有量の範囲内において、Si−8Mn+7Al−230B+2≧0の(1)式を満たすように調整される。
【0046】
そして、このように成分調整されたフェライト系ステンレス鋼を溶接することで、例えば温水缶体等の溶接構造物が形成される。
【0047】
次に、上記一実施の形態の作用および効果を説明する。
【0048】
上記フェライト系ステンレス鋼および溶接構造物によれば、各元素を上記範囲に規定することにより、加工性を確保できるとともに、例えば温水缶体のような腐食環境が厳しい用途等に対しても溶接した場合の溶接部や金属すき間部等の耐食性を確保できる。
【0049】
また、Bの含有量を0.0010質量%以下とすることにより、CrBの粒界上での析出を抑制できるため、溶接熱影響部等の溶接部の疲労特性を向上できる。
【0050】
また、Si−8Mn+7Al−230B+2≧0の(1)式を満足することで、溶け落ち性を向上できビード部の形状を制御できるため、溶接熱影響部等の溶接部の疲労特性を向上できる。
【0051】
したがって、溶接部を含む耐食性および加工性を確保しつつ、溶接した場合の溶接部、特に溶接熱影響部の疲労特性を向上できる。
【0052】
このような溶接部を含む耐食性および加工性を確保しつつ、溶接部、特に溶接熱影響部の疲労特性が良好なフェライト系ステンレス鋼および溶接構造物は、例えば、自動車用部品、家電機器用部品および温水缶体等の用途に好適である。
【実施例】
【0053】
以下、本実施例および比較例について説明する。
【0054】
まず、表1に示す組成のステンレス鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚3mmの熱延板とし、1050℃で焼鈍後酸洗し、熱延焼鈍板を得た。その後、厚さ0.6mmまで冷間圧延し、1000〜1050℃で仕上焼鈍を施し、酸洗を行った。冷延焼鈍後の冷却は、冷却時の熱変形を抑制し、溶接時の形状に起因して溶接条件が不安定になることを回避するため、水冷した銅板でステンレス鋼板を挟み込んで急冷した。なお、冷延焼鈍後空冷した際においても、表1に示す組成のステンレス鋼においては、CrBの粒界上析出がないことは別途確認している。
【0055】
この銅板で急冷後酸洗した冷延焼鈍板を用いて、以下に詳細を示す加工性、耐食性、溶接性および疲労特性を評価した。
【0056】
なお、表1において、鋼No.1〜10が上記一実施の形態の条件を満たす本実施例で、鋼No.11〜18が比較例である。
【0057】
【表1】
【0058】
加工性の評価では、表1に示す各ステンレス鋼を厚さ0.6mmの冷延焼鈍板にして供試材とし、JIS Z2201に規定されるJIS13B号試験片で、JIS Z2241に準拠した引張試験を行なった。
【0059】
そして、引張試験による伸びが30%以上の場合に加工性が良好であると評価した。この加工性の評価結果を表2に示す。
【0060】
耐食性の評価は、溶接部および金属すき間部の評価を行なった。溶接部に関しては、厚さ0.6mmの冷延焼鈍板を用い、ビードオンプレートにて、バックシールドガスを施さずにTIG溶接し、図1(a)に示すように溶接部11を含む試験片を切り出して供試材とした。金属すき間部に関しては、図1(b)に示すように、厚さ0.6mmの冷延焼鈍板の中央に穴12をあけ、SUS310製の金属ワッシャー13で挟んだのち、SUS310製のボルト14およびナット(図示せず。)で締め付けて供試材とした。
【0061】
溶接部および金属すき間部を評価する各供試材を、80℃、200ppmCl水溶液に浸漬してポテンショスタットを用いて試験片を一定電位で48時間保持し、腐食電流の有無を調べた。電位は50mV間隔で設定し、1μA以下の腐食電流の場合、腐食が発生していないとし、腐食電流が1μA以下となる上限の電位が0.3V(vs.SCE)以上の場合に耐食性が良好と評価した。溶接部およびすき間部それぞれの結果を表2に示す。
【0062】
溶接性の評価では、表1に示す各ステンレス鋼を厚さ0.6mmの冷延焼鈍板にして供試材とした。ビードオンプレートにて、溶接電流を変化させながらTIG溶接し、ビード幅が4mmとなる際の溶接電流が100A以下の場合に溶接性が良好であると評価した。この溶接性の評価結果を表2に示す。
【0063】
疲労特性の評価では、表1に示す各ステンレス鋼を厚さ0.6mmの冷延焼鈍板とし、1200℃で0分の溶接熱影響模擬焼鈍し、図1(c)に示す形状の供試材(A)とした。また、ビードオンプレートにて、ビード幅が4mmとなるようにTIG溶接したものから、図1(d)に示すように試験片の標点間中央にビード(溶接部)15中央が存在するように切り出したものを供試材(B)とした。
【0064】
これら供試材(A)および供試材(B)を用い、表面応力500MPaでの平面片振り曲げ試験を行い、破断寿命が10回以上の場合に疲労特性が良好であると評価した。この疲労特性の評価結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示すように、本実施例である鋼No.1〜10のいずれも、加工性、耐食性、溶接性および疲労特性が全て良好であった。
【0067】
一方、B≦0.0010質量%および(1)式の関係の少なくとも一方を満たしていない比較例である鋼No.12〜17は、いずれも疲労特性の基準を満たしていなかった。
【0068】
また、上記各条件のうち、Bの含有量および(1)式以外で、合金組成におけるいずれかの元素の含有量の条件を満たしていない鋼No.11および鋼No.18は、加工性または耐食性の基準を満たしていなかった。
【要約】
【課題】溶接部の疲労特性が良好なフェライト系ステンレス鋼を提供する。
【解決手段】0.015質量%以下のC、0.05質量%以上0.40質量%以下のSi、0.20質量%以上0.40質量%以下のMn、0.03質量%以下のP、0.01質量%以下のS、18.0質量%以上20.0質量%以下のCr、1.0質量%以上1.5質量%以下のMo、0.10質量%以上0.30質量%以下のTi、0.20質量%以上0.40質量%以下のNb、0.02質量%以上0.20質量%以下のAl、0.0010質量%以下のBおよび0.015質量%以下のNを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。このような合金組成の各元素の含有量の範囲において、Si−8Mn+7Al−230B+2≧0の式を満足する。
【選択図】なし
図1