特許第6262904号(P6262904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262904
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】生理用品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/15 20060101AFI20180104BHJP
   A61F 13/472 20060101ALI20180104BHJP
   A61F 13/511 20060101ALI20180104BHJP
   A61L 15/44 20060101ALI20180104BHJP
   A61L 15/26 20060101ALI20180104BHJP
   A61F 13/53 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   A61F13/15 146
   A61F13/472
   A61F13/511 200
   A61L15/44 200
   A61L15/26 200
   A61F13/53 300
【請求項の数】7
【全頁数】61
(21)【出願番号】特願2017-84085(P2017-84085)
(22)【出願日】2017年4月21日
(65)【公開番号】特開2017-217455(P2017-217455A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2017年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-111622(P2016-111622)
(32)【優先日】2016年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佑佳
(72)【発明者】
【氏名】松原 繁宏
(72)【発明者】
【氏名】寒川 裕太
(72)【発明者】
【氏名】蒲谷 吉晃
【審査官】 西本 浩司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−081772(JP,A)
【文献】 特表2002−528232(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/059214(WO,A1)
【文献】 特表2009−506056(JP,A)
【文献】 特表2003−519245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15 − 13/84
A61L 15/16 − 15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌当接面側に位置する表面シート、非肌当接面側に位置する裏面シート、及び、これらに挟まれた吸収体を有する生理用品であって、
前記吸収体又は前記吸収体より肌当接面側に、
血球凝集剤を含有する血球凝集剤含有領域と、
液膜開裂剤を含有する液膜開裂剤含有領域と
が配されており、
前記血球凝集剤がカチオン性ポリマーであり、
前記液膜開裂剤の、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、0mN/mよりも大きく、
前記液膜開裂剤の、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が、20mN/m以下であり
前記液膜開裂剤含有領域と前記血球凝集剤含有領域とが平面方向において重複している、生理用品。
【請求項2】
前記液膜開裂剤の、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、15mN/m以上である、請求項1に記載の生理用品。
【請求項3】
肌当接面側に位置する表面シート、非肌当接面側に位置する裏面シート、及び、これらに挟まれた吸収体を有する生理用品であって、
前記吸収体又は前記吸収体より肌当接面側に、
カチオン性ポリマーを含有するカチオン性ポリマー含有領域と、
下記の化合物C1を含有する化合物含有領域と
が配されており、
前記化合物含有領域と前記カチオン性ポリマー含有領域とが平面方向において重複している、生理用品。
[化合物C1]
表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、15mN/m以上である化合物。
【請求項4】
肌当接面側に位置する表面シート、非肌当接面側に位置する裏面シート、及び、これらに挟まれた吸収体を有する生理用品であって、
前記吸収体又は前記吸収体より肌当接面側に、
カチオン性ポリマーを含有するカチオン性ポリマー含有領域と、
下記の化合物C2を含有する化合物含有領域と
が配されており、
前記化合物含有領域と前記カチオン性ポリマー含有領域とが平面方向において重複している、生理用品。
[化合物C2]
表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、0mN/mよりも大きく、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が、20mN/m以下である化合物。
【請求項5】
前記血球凝集剤含有領域又は前記カチオン性ポリマー含有領域は、前記表面シートより非肌当接面側に配されている、請求項1〜4の何れか1項に記載の生理用品。
【請求項6】
前記液膜開裂剤含有領域若しくは前記化合物含有領域は、前記血球凝集剤含有領域若しくは前記カチオン性ポリマー含有領域より肌当接面側に配されている、請求項1〜5の何れか1項に記載の生理用品。
【請求項7】
前記液膜開裂剤含有領域若しくは前記化合物含有領域は、前記表面シートに配されている、請求項1〜6の何れか1項に記載の生理用品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経血を吸収するために用いられる生理用品に関する。
【背景技術】
【0002】
女性の経血やおりもの等の処理には、生理用品が用いられている。生理用品は、通常、その肌当接面側に位置する表面シートと非肌当接面側に位置する裏面シートとの間に、経血等の排泄物を吸収保持し得る吸収体を設けた構成になっている。
【0003】
このような生理用品に対し、カチオン性の高分子材料を適用して、諸性能を向上させる技術が知られている。例えば特許文献1には、血液中の赤血球を塊状にするか、又は溶解する処理剤で処理された多孔性不織ウエブ材料を含む、ナプキンやタンポンなどのパーソナルケア吸収性物品が記載されている。同文献においては、この処理剤として、強く正帯電したポリマーであるポリカチオン材料を用いている。この処理剤は、血液が吸収性物品に入り込むときや通過するときに、血液中の赤血球を凝集又は溶解させる。
【0004】
また、特許文献2には、経血を吸収した後のトップシートの肌触りを改善するため、トップシートに血液改質剤を含ませたものが開示されている。この血液改質剤は、血液の粘度及び表面張力を低下させ、血球を安定化させて連銭構造を形成しにくくして、吸収体が経血を吸収しやすくしようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−528232号公報
【特許文献2】特開2013−063245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高吸収性ポリマーによる水分の吸収速度や吸収量は、水分の種類によって異なることが知られている。例えば、高吸収性ポリマーに生理食塩水と血液を吸収させる場合を比較すると、生理食塩水よりも血液の方が、吸収速度が遅く、また吸収量も少ない。そこで、生理用品の性能を高めるためには、血液に対する高吸収性ポリマーの各種吸収性能を高めることが重要である。特許文献1や特許文献2には、血液を改質する剤が開示されているが、高吸収性ポリマーの吸収性能を高め、生理用品の液戻り量を低減させるのには、不十分であった。
【0007】
また、生理用品の肌当接面側に位置する表面シートは未使用状態では通常白色であるところ、生理用品の使用者は、使用後に取り外した生理用品を表面シート側から見て、表面が白いことにより、吸収性能に対する安心感を抱く。そのため、使用後における表面白さをより優れたものにすることが求められている。特許文献1や特許文献2には、表面白さに関する記載はなく、この観点から改質した血液を生理用品中のいずれの箇所に保持するべきかの工夫がなされていなかった。
【0008】
本発明者らは、生理用品における経血の吸収容量の向上を目的として種々検討した結果、経血に含まれる赤血球が高吸収性ポリマーの表面を覆ってしまうことが、高吸収性ポリマーの経血に対する吸収性能(吸収速度、吸収量)の低下を引き起こし、延いては生理用品の液戻り量の増大を招くことを見出した。この不都合を防止するために、生理用品における、使用者が排泄した経血に対して高吸収性ポリマーよりも先に接触し得る部位に、赤血球を凝集する能力がある水溶性カチオン性ポリマーを配置することが、生理用品の液戻り量を低減することに有効であるとの知見を得た。しかしながら、水溶性カチオン性ポリマーにより赤血球の凝集塊が生理用品の表面シート側に形成される場合には、使用後における表面シート側からの外観に改善の余地があることがわかった。
【0009】
また、本発明者らは、使用後の生理用品における表面白さの向上を目的として種々検討した結果、表面シート等の不織布中で経血が繊維間に液膜を形成して留まってしまうことが、使用後の表面白さの低下の要因であることを見出した。この不都合を防止するために、使用者が排泄した経血に対し、表面シート等に、液膜を開裂する能力がある液膜開裂剤を配置することが、使用後の生理用品の表面白さを向上することに有効であるとの知見を得た。表面シート中の液膜が消失することで、液戻り量を低減する効果もあるが、更なる低減に向けて改善の余地があることがわかった。
【0010】
そこで本発明は、液戻り量を低減し、使用後にも表面白さに優れた生理用品を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、肌当接面側に位置する表面シート、非肌当接面側に位置する裏面シート、及び、これらに挟まれた吸収体を有する生理用品であって、
前記吸収体又は前記吸収体より肌当接面側に、
血球凝集剤を含有する血球凝集剤含有領域と、
液膜開裂剤を含有する液膜開裂剤含有領域とが配されている、生理用品を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、肌当接面側に位置する表面シート、非肌当接面側に位置する裏面シート、及び、これらに挟まれた吸収体を有する生理用品であって、
前記吸収体又は前記吸収体より肌当接面側に、
カチオン性ポリマーを含有するカチオン性ポリマー含有領域と、
下記の化合物C1を含有する化合物含有領域と
が配されている、生理用品を提供するものである。
[化合物C1]
表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、15mN/m以上である化合物。
【0013】
また、本発明は、肌当接面側に位置する表面シート、非肌当接面側に位置する裏面シート、及び、これらに挟まれた吸収体を有する生理用品であって、
前記吸収体又は前記吸収体より肌当接面側に、
カチオン性ポリマーを含有するカチオン性ポリマー含有領域と、
下記の化合物C2を含有する化合物含有領域と
が配されている、生理用品を提供するものである。
[化合物C2]
表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、0mN/mよりも大きく、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が、20mN/m以下である化合物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の生理用品は、液戻り量が少なく、使用後における表面白さに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の生理用品における経血の吸収機構を示す模式図である。
図2図2(a)及び図2(b)は、従来の生理用品における経血の吸収機構を示す模式図である。
図3図3は、不織布の繊維間の隙間に形成された液膜を示す模式図である。
図4図4は、本発明に係る液膜開裂剤による液膜の開裂過程の説明図であり、(A1)〜(A4)は開裂されていく液膜の模式的な側面図、(B1)〜(B4)は同液膜の上方からの模式的な斜視図である。
図5図5は、本発明の生理用品の一実施形態である生理用ナプキンの肌当接面を模式的に示す平面図である。
図6図6は、図5のI−I線断面を模式的に示す横断面図である。
図7図5に示す生理用ナプキンの表面シートのみを示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の生理用品は一般に、液保持性の吸収体を備えている。吸収体は、水分の吸収及び保持が可能なヒドロゲル材料である高吸収性ポリマーを含んでいることが好ましい。吸収体における使用者の肌当接面側には、液透過性の表面シートを配置することができる。また、吸収体における非肌当接面側には、裏面シートを配置することができる。本明細書において、「肌当接面」は、生理用品又はその構成部材における、生理用品の使用時に使用者の肌側に向けられる面、即ち相対的に使用者の肌に近い側の面である。また、本明細書において、「非肌当接面」は、生理用品又はその構成部材における、生理用品の使用時に使用者の肌側とは反対側に向けられる面、即ちショーツ等の着衣に向けられる面であり、言い換えれば、相対的に肌当接面よりも使用者の肌から遠い側の面である。
【0017】
本発明の生理用品は、後に詳述する血球凝集剤を含有する血球凝集剤含有領域と、後に詳述する液膜開裂剤を含有する液膜開裂剤領域とを有する。血球凝集剤により高吸収性ポリマーの吸収量を向上し、かつ、液膜開裂剤によって吸収体内の液拡散を制御することにより、本発明は液戻り量の低減と使用後の表面白さに優れた生理用品を提供する。
【0018】
(血球凝集剤)
高吸収性ポリマーによる水分の吸収速度や吸収量が、水分の種類によって異なる理由を本発明者が種々検討したところ、以下に述べる事実が判明した。血液は血漿等の液体成分と赤血球等の非液体成分に大別されるところ、高吸収性ポリマーに吸収される成分は血漿等の液体成分である。図2(a)に示すとおり、経血1が高吸収性ポリマー4に接触すると、経血1中の液体成分2のみが高吸収性ポリマー4に吸収され、非液体成分3である赤血球は高吸収性ポリマー4に吸収されない。高吸収性ポリマー4への液体成分2の吸収が進行すると、図2(b)に示すとおり、高吸収性ポリマー4に吸収されない非液体成分3が、高吸収性ポリマー4の表面に蓄積して被膜5を形成する。この被膜5の形成に起因して、高吸収性ポリマー4の液吸収阻害が生じ、吸収速度が低下する。また被膜5の形成に起因して、高吸収性ポリマー4の膨潤阻害も生じ、吸収量が低下する。
【0019】
図2(b)に示すとおりの現象が生じることを防止して、吸収性能の低下を阻止するための手段について本発明者が種々検討した結果、経血中の非液体成分の大半を占める成分である赤血球を、図1に示すとおり凝集させて凝集塊6を生成させることが効果的であることが判明した。赤血球の凝集塊6を生成させることで、高吸収性ポリマー4の表面に凝集塊6の被膜が生成しづらくなり、又は、凝集塊6の被膜が生成したとしても該被膜内に液体成分2が透過できる空間が残存するため、液体成分2の吸収阻害が起こりづらくなる。その結果、高吸収性ポリマー4は、本来の吸収性能を十分に発揮することができる。このように吸収性能をより高めるために、赤血球の凝集塊粒径が大きいほど好ましく、凝集塊硬さが硬いほど好ましい。
【0020】
この血球凝集剤は、典型的な排泄物である経血と接触すると、該血球凝集剤が経血中に溶出し、経血に含まれるアニオン性の赤血球を凝集させて血球凝集塊を作ることで経血を変質させる。血球凝集効果によって生じた血球凝集塊は赤血球よりも大きいため、高吸収性ポリマーの表面の一部に血球凝集塊が付着することはあっても、高吸収性ポリマーの表面の大部分が血球凝集塊で覆われるような不都合は起こり難く、そのため、高吸収性ポリマーが本来有する吸収性能が安定的に発揮されることになる。
【0021】
本発明の生理用品に用いられる血球凝集剤としては、血液中の赤血球を凝集させ得る作用を有するものが用いられる。血球凝集剤によって凝集した赤血球は凝集塊となる。血球凝集剤としては、特表2002−528232号公報に記載されている流体処理剤や、特開昭57−153648号公報に記載されている血液ゲル化剤を挙げることができるが、本発明者の知見によれば、血球凝集剤としてはカチオン性ポリマーが有用である。その理由は次のとおりである。赤血球はその表面に赤血球膜を有する。赤血球膜は、2層構造を有している。この2層構造は、下層である赤血球膜骨格と上層である脂質皮膜からなる。赤血球の表面に露出している脂質皮膜には、グリコホリンと呼ばれるタンパク質が含まれている。グリコホリンはその末端にシアル酸と呼ばれるアニオン電荷を帯びた糖が結合した糖鎖を有している。その結果、赤血球はアニオン電荷を帯びたコロイド粒子として扱うことができる。コロイド粒子の凝集には一般に凝集剤が用いられる。赤血球がアニオン性のコロイド粒子であることを考慮すると、凝集剤としてはカチオン性の物質を用いることが、赤血球の電気二重層を中和する点から有利である。また凝集剤が高分子鎖を有していると、赤血球の表面に吸着した凝集剤の高分子鎖どうしの絡み合いが生じやすくなり、そのことに起因して赤血球の凝集が促進される。更に、凝集剤が官能基を有している場合には、該官能基間の相互作用によっても赤血球の凝集が促進されるので好ましい。カチオン性ポリマーによれば、以上の作用機序によって経血中に赤血球の凝集塊を生成することが可能になる。
【0022】
(凝集塊を形成する性質)
本発明で用いられる血球凝集剤は、血液中の赤血球を凝集させ、血球が凝集した凝集塊と血漿成分が分離されるよう作用するものである。
望ましい血球凝集剤としては、例えば以下の性質を有するものが挙げられる。
即ち、擬似血液に、測定サンプル剤を1000ppm添加した際に、血液の流動性が維持された状態で、少なくとも2個以上の赤血球が凝集して凝集塊を形成するものである。
【0023】
前記の「血液の流動性が維持された状態」は、測定サンプル剤が1000ppm添加された擬似血液10gをスクリュー管瓶(株式会社マルエム製 品番「スクリュー管No.4」、口内径14.5mm、胴径27mm、全長55mm)に入れ、該擬似血液を入れたスクリュー管瓶を180度反転した際に、20秒以内で60%以上の該擬似血液が流れ落ちる状態を意味する。また、前記の「擬似血液」とは、B型粘度計(東機産業株式会社製
型番TVB−10M、測定条件:ローターNo.19、30rpm、60秒間)を用いて測定した粘度が25℃で8mPa・sになるように脱繊維馬血(株式会社日本バイオテスト研究所製)の血球・血漿比率を調整したものである。
【0024】
前記の「2個以上の赤血球が凝集して凝集塊を形成」しているか否かは、次のようにして判断される。即ち、測定サンプル剤が1000ppm添加された擬似血液を、生理食塩水で4000倍に希釈し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製 型番:LA−950V2、測定条件:フロー式セル測定、循環速度1、超音波なし)を用いたレーザー回折散乱法によって、温度25℃にて測定した体積粒径平均のメジアン径が、2個以上の赤血球が凝集した凝集塊のサイズに相当する10μm以上である場合に、「2個以上の赤血球が凝集して凝集塊を形成」していると判断する。
【0025】
本発明で用いられる血球凝集剤は、前記の性質に当てはまる単一の化合物若しくは前記の性質に当てはまる単一の化合物を複数組み合わせた混合物、又は複数の化合物の組み合わせによって前記の性質を満たす(赤血球の凝集を発現し得る)剤である。つまり血球凝集剤とは、あくまで前記定義によるところの血球凝集作用があるものに限定した剤のことである。したがって、生理用品中に適用されている化合物に、前記定義に当てはまらない第三成分を含む場合には、血球凝集剤と区別する。なお、ここでいう「単一の化合物」とは、同じ組成式を有するが、繰り返し単位数が異なることにより、分子量が異なる化合物を含める概念である。
血球凝集剤としては、国際公開第2016/093233号に記載のものを任意に用いることができる。
【0026】
血球凝集剤は、血液の凝集速度が0.75mPa・s/s以下であることが好ましい。血液の凝集速度は、血球凝集剤が血液を凝集させて凝集塊を形成する能力の尺度となるものであり、その値が小さいほど一定時間経過後の凝集塊のサイズが小さいことを表す。つまり、血球凝集剤によって血液を凝集させると、それによって生じた一定時間経過後の凝集塊のサイズが大きい場合には、生理用品の構成部材が、該凝集塊によって目詰まりを起こし、液の透過性を妨げることがあるところ、前記の凝集速度を制御することで、凝集塊に起因する液透過性の低下を引き起こすことなく、高吸収性ポリマーの吸収容量を向上させることができる。これにより、液の透過性の向上と高吸収性ポリマーの吸収容量の向上という二律背反の要求が同時に満たされる。この観点から前記の凝集速度は0.32mPa・s/s以下であることが更に好ましく、0.15mPa・s/s以下であることが一層好ましい。凝集速度の下限値は、0.001mPa・s/s以上であることが好ましく、0.01mPa・s/s以上であることが一層好ましい。
【0027】
前記の凝集速度は次に述べる方法で測定される。凝集速度の測定に用いられる血液は、上述の疑似血液である。レオメーター(Thermo Fisher Scientific, Inc.製HAAKE RheoStress 6000)を用いて、ステージ上にあらかじめ展開した200μLの血液に、あらかじめ血球凝集剤を5%溶解させた生理食塩水2μLを滴下し、35mmΦのコーンプレート(傾斜1度)、温度:30度、せん断速度:10(秒−1)で粘度変化を測定した。粘度変化を50秒測定し、得られたプロットを直線近似し、その直線の傾きから凝集速度を算出する。
【0028】
本発明で用いられる血球凝集剤としては、カチオン性ポリマーを含むものが好適なものとして挙げられる。カチオン性ポリマーは、吸収体又は吸収体より肌当接面側の任意の箇所に配されていればよいが、アニオン性を帯びている高吸収性ポリマー近傍に、反対電荷であるカチオン性ポリマーを存在させない方が、カチオン性ポリマーの経血への溶出を抑制せず、赤血球が凝集しやすくなり、高吸収性ポリマーが液を吸収する前に十分な凝集効果を得ることができ好ましい。
【0029】
カチオン性ポリマーとしては、例えばカチオン化セルロースや、塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムデンプン等のカチオン化デンプンなどが挙げられる。また、本発明で用いられる血球凝集剤は、カチオン性ポリマーとして、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物又は第4級アンモニウム塩重縮合物を含むこともできる。本発明において「第4級アンモニウム塩」とは、窒素原子の位置にプラス一価の電荷を有している化合物、又は中和によって窒素原子の位置にプラス一価の電荷を生じさせる化合物を包含し、その具体例としては、第4級アンモニウムカチオンの塩、第3級アミンの中和塩、及び水溶液中でカチオンを帯びる第3級アミンが挙げられる。以下に述べる「第4級アンモニウム部位」も同様の意味で用いられ、水中で正に帯電する部位である。また、本発明において「共重合物」とは、2種以上の重合性単量体の共重合によって得られた重合物のことであり、二元系共重合物及び三元系以上の共重合物の双方を包含する。本発明において「重縮合物」とは、2種以上の単量体からなる縮合物を重合することで得られた重縮合物である。
【0030】
本発明で用いられる血球凝集剤が、カチオン性ポリマーとして、第4級アンモニウム塩ホモポリマー及び/又は第4級アンモニウム塩共重合物及び/又は第4級アンモニウム塩重縮合物を含む場合、該血球凝集剤は、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物及び第4級アンモニウム塩重縮合物のうちのいずれか1種を含んでいてもよく、あるいは任意の2種以上の組み合わせを含んでいてもよい。また第4級アンモニウム塩ホモポリマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。同様に、第4級アンモニウム塩共重合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。更に同様に、第4級アンモニウム塩重縮合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
前述した各種のカチオン性ポリマーのうち、特に、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物又は第4級アンモニウム塩重縮合物を用いることが、赤血球への吸着性の点から好ましい。以下の説明においては、簡便のため、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物及び第4級アンモニウム塩重縮合物を総称して「第4級アンモニウム塩ポリマー」と言う。
【0032】
第4級アンモニウム塩ホモポリマーは、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体を1種用い、これを重合することで得られたものである。一方、第4級アンモニウム塩共重合物は、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体を少なくとも1種用い、必要に応じ第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体を少なくとも1種用い、これらを共重合することで得られたものである。即ち第4級アンモニウム塩共重合物は、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体を2種以上用い、これらを共重合させて得られたものであるか、又は第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体を1種以上と、第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体を1種以上用い、これらを共重合させて得られたものである。第4級アンモニウム塩共重合物は、ランダム共重合物でもよく、交互共重合物でもよく、ブロック共重合物でもよく、あるいはグラフト共重合物でもよい。第4級アンモニウム塩重縮合物は、第4級アンモニウム部位を有する単量体1種以上からなる縮合物を用い、それら縮合物を重合することで得られたものである。即ち第4級アンモニウム塩重縮合物は、第4級アンモニウム部位を有する単量体2種以上の縮合物を用い、これを重合させて得られたものであるか、又は、第4級アンモニウム部位を有する単量体1種以上と、第4級アンモニウム部位を有さない単量体1種以上からなる縮合物を用い、これを縮重合させて得られたものである。
【0033】
第4級アンモニウム塩ポリマーは、第4級アンモニウム部位を有するカチオン性のポリマーである。第4級アンモニウム部位は、アルキル化剤を用いた第3級アミンの第4級アンモニウム化によって生成させることができる。あるいは第3級アミンを酸若しくは水に溶解させ、中和で生じさせることができる。あるいは縮合反応を含む求核反応による第4級アンモニウム化によって生成させることができる。アルキル化剤としては、例えばハロゲン化アルキルや、硫酸ジメチル及び硫酸ジメチルなどの硫酸ジアルキルが挙げられる。これらのアルキル化剤のうち、硫酸ジアルキルを用いると、ハロゲン化アルキルを用いた場合に起こり得る腐食の問題が生じないので好ましい。酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、クエン酸、リン酸、フルオロスルホン酸、ホウ酸、クロム酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、グルコン酸、ギ酸、アスコルビン酸、ヒアルロン酸などが挙げられる。特に、アルキル化剤によって第3級アミン部位を第4級アンモニウム化した第4級アンモニウム塩ポリマーを用いると、赤血球の電気二重層を確実に中和できるので好ましい。縮合反応を含む求核反応による第4級アンモニウム化は、ジメチルアミンとエピクロルヒドリンの開環重縮合反応、ジシアンジアミドとジエチレントリアミンの環化反応のようにして生じさせることができる。
【0034】
赤血球の凝集塊を効果的に生成させる観点から、カチオン性ポリマーは、その分子量が2000以上であることが好ましく、1万以上であることが更に好ましく、3万以上であることが一層好ましい。カチオン性ポリマーの分子量がこれらの値以上であることによって、赤血球間でのカチオン性ポリマーどうしの絡み合いや、赤血球間でのカチオン性ポリマーの架橋が十分に生じる。分子量の上限値は1000万以下であることが好ましく、500万以下であることが更に好ましく、300万以下であることが一層好ましい。カチオン性ポリマーの分子量がこれらの値以下であることによって、カチオン性ポリマーが経血中へ良好に溶解する。カチオン性ポリマーの分子量は、2000以上1000万以下であることが好ましく、2000以上500万以下であることが更に好ましく、2000以上300万以下であることが一層好ましく、1万以上300万以下であることが更に一層好ましく、3万以上300万以下であることが特に好ましい。本発明に言う分子量とは、重量平均分子量のことである。カチオン性ポリマーの分子量は、その重合条件を適切に選択することで制御することができる。カチオン性ポリマーの分子量は後述する方法によって測定することができる。
【0035】
赤血球の凝集塊を効果的に生成させる観点から、カチオン性ポリマーは水溶性であることが好ましい。ここでいう「水溶性」とは、後述する方法によって測定される水溶解度が100g以上であるものをいう。
【0036】
カチオン性ポリマーは、主鎖とそれに結合した複数の側鎖とを有する構造のものであることが好ましい。特に第4級アンモニウム塩ポリマーは、主鎖とそれに結合した複数の側鎖とを有する構造のものであることが好ましい。第4級アンモニウム部位は側鎖に存在していることが好ましい。この場合、主鎖と側鎖とが1点で結合していると、側鎖の可撓性が阻害されにくくなり、側鎖に存在している第4級アンモニウム部位が赤血球の表面に円滑に吸着するようになる。尤も本発明において、カチオン性ポリマーの主鎖と側鎖とが2点又はそれ以上で結合していることは妨げられない。本発明において「1点で結合している」とは、主鎖を構成する炭素原子のうちの1個が、側鎖の末端に位置する1個の炭素原子と単結合していることをいう。「2点以上で結合している」とは、主鎖を構成する炭素原子のうちの2個以上が、側鎖の末端に位置する2個以上の炭素原子とそれぞれ単結合していることをいう。
【0037】
カチオン性ポリマーが、主鎖とそれに結合した複数の側鎖とを有する構造のものである場合、例えば第4級アンモニウム塩ポリマーが、主鎖とそれに結合した複数の側鎖とを有する構造のものである場合、各側鎖の炭素数は4以上であることが好ましく、5以上であることが更に好ましく、6以上であることが一層好ましい。炭素数の上限値は、10以下であることが好ましく、9以下であることが更に好ましく、8以下であることが一層好ましい。例えば側鎖の炭素数は4以上10以下であることが好ましく、5以上9以下であることが更に好ましく、6以上8以下であることが一層好ましい。側鎖の炭素数とは、該側鎖における第4級アンモニウム部位(カチオン部位)の炭素数のことであり、対イオンであるアニオン中に炭素が含まれているとしても、その炭素は計数に含まない。特に、側鎖の炭素原子のうち、主鎖に結合している炭素原子から、第4級窒素に結合している炭素原子までの炭素数が前述の範囲であることが、第4級アンモニウム塩ポリマーが赤血球の表面の表面に吸着するときの立体障害性が低くなるので好ましい。
【0038】
第4級アンモニウム塩ポリマーが、第4級アンモニウム塩ホモポリマーである場合、該ホモポリマーとしては、例えば第4級アンモニウム部位又は第3級アミン部位を有するビニル系単量体の重合物が挙げられる。第3級アミン部位を有するビニル系単量体を重合する場合には、重合前に及び/又は重合後に、第3級アミン部位をアルキル化剤によって第4級アンモニウム化した第4級アンモニウム塩ホモポリマーとなるか、重合前に及び/又は重合後に、第3級アミン部位を酸によって中和した第3級アミン中和塩となるか、重合後に水溶液中でカチオンを帯びる第3級アミンとなる。アルキル化剤や酸の例は、前述したとおりである。
【0039】
特に第4級アンモニウム塩ホモポリマーは、以下の式1で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0040】
【化1】
【0041】
第4級アンモニウム塩ホモポリマーの具体例としては、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。また、第4級アンモニウム部位を有する側鎖が、主鎖と1点で結合しているものであるポリ(2−メタクリルオキシエチルジメチルアミン4級塩)、ポリ(2−メタクリルオキシエチルトリメチルアミン4級塩)、ポリ(2−メタクリルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムエチル硫酸塩)、ポリ(2−アクリルオキシエチルジメチルアミン4級塩)、ポリ(2−アクリルオキシエチルトリメチルアミン4級塩)、ポリ(2−アクリルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムエチル硫酸塩)、ポリ(3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド4級塩)、ポリメタクル酸ジメチルアミノエチル、ポリアリルアミン塩酸塩、カチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ポリアミジンなどが挙げられる。一方、第4級アンモニウム部位を有する側鎖が、主鎖と2点以上で結合しているホモポリマーの例としては、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルアミン塩酸塩が挙げられる。
【0042】
第4級アンモニウム塩ポリマーが、第4級アンモニウム塩共重合物である場合には、該共重合物として、前述した第4級アンモニウム塩ホモポリマーの重合に用いられる重合性単量体を2種以上用い共重合して得られた共重合物を用いることができる。あるいは、第4級アンモニウム塩共重合物として、前述した第4級アンモニウム塩ホモポリマーの重合に用いられる重合性単量体を1種以上と、第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体を1種以上用い共重合して得られた共重合物を用いることができる。更に、ビニル系重合性単量体に加えて、又はそれに代えて、他の重合性単量体、例えば−SO−などを用いることもできる。第4級アンモニウム塩共重合物は、前述したとおり、二元系の共重合物又は三元系以上の共重合物であり得る。
【0043】
特に、第4級アンモニウム塩共重合物は、前記の式1で表される繰り返し単位と、以下の式2で表される繰り返し単位とを有することが、赤血球の凝集塊を効果的に生成させる観点から好ましい。
【0044】
【化2】
【0045】
また、第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体としては、カチオン性重合性単量体、アニオン性重合性単量体、又はノニオン性重合性単量体を用いることができる。これらの重合性単量体中で、特にカチオン性重合性単量体又はノニオン性重合性単量体を用いることで、第4級アンモニウム塩共重合物内において第4級アンモニウム部位との電荷相殺が起こらないので、赤血球の凝集を効果的に生じさせることができる。カチオン性重合性単量体の例としては、特定の条件下でカチオンを帯びる窒素原子を有する環状化合物としてビニルピリジンなど、特定の条件下でカチオンを帯びる窒素原子を主鎖に有する直鎖状化合物としてジシアンジアミドとジエチレントリアミンの縮合化合物などが挙げられる。アニオン性重合性単量体の例としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、及び、スチレンスルホン酸、並びに、これらの化合物の塩などが挙げられる。一方、ノニオン性重合性単量体の例としては、ビニルアルコール、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、エチレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート、プロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレートなどが挙げられる。これらカチオン性重合性単量体、アニオン性重合性単量体、又はノニオン性重合性単量体は、それらのうちの一つを用いることができ、あるいは任意の2種以上を組み合わせて用いることができる。またカチオン性重合性単量体を2種以上組み合わせて用いることができ、アニオン性重合性単量体を2種以上組み合わせて用いることができ、あるいはノニオン性重合性単量体を2種以上組み合わせて用いることもできる。カチオン性重合性単量体、アニオン性重合性単量体及び/又はノニオン性重合性単量体を重合性単量体として用いて共重合された第4級アンモニウム塩共重合物は、その分子量が、前述のとおり1000万以下であることが好ましく、特に500万以下、とりわけ300万以下であることが好ましい(以下に例示する第4級アンモニウム塩共重合物についても同様である。)。
【0046】
第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体として、水素結合をすることが可能な官能基を有する重合性単量体を用いることもできる。このような重合性単量体を共重合に用いること、それから得られる第4級アンモニウム塩共重合物を用いて赤血球を凝集させたときに、硬い凝集塊が生じやすくなり、高吸収性ポリマーの吸収性能が一層阻害されにくくなる。水素結合をすることが可能な官能基としては、例えば−OH、−NH、−CHO、−COOH、−HF、−SHなどが挙げられる。水素結合をすることが可能な官能基を有する重合性単量体の例としては、ヒドロキシエチルメタクリレート、ビニルアルコール、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートなどが挙げられる。特に、水素結合が強く働く、ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ジメチルアクリルアミドなどは、第4級アンモニウム塩ポリマーの赤血球への吸着状態が安定化するので好ましい。これらの重合性単量体は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体として、疎水性相互作用をすることが可能な官能基を有する重合性単量体を用いることもできる。このような重合性単量体を共重合に用いることで、前述した、水素結合をすることが可能な官能基を有する重合性単量体を用いる場合と同様の有利な効果、即ち赤血球の硬い凝集塊が生じやすくなるという効果が奏される。疎水性相互作用をすることが可能な官能基としては、例えばメチル基、エチル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、アルキルナフタレン基、フッ化アルキル基などが挙げられる。疎水性相互作用をすることが可能な官能基を有する重合性単量体の例としては、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート、プロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、スチレンなどが挙げられる。特に、疎水性相互作用が強く働き、第4級アンモニウム塩ポリマーの溶解性を大きく低下させない、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレートなどは、第4級アンモニウム塩ポリマーの赤血球への吸着状態が安定化するので好ましい。これらの重合性単量体は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
第4級アンモニウム塩共重合物中での、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体と、第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体とのモル比は、該第4級アンモニウム塩共重合物によって赤血球が十分に凝集するように適切に調整されることが好ましい。特に、第4級アンモニウム塩共重合物における第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体のモル比は10モル%以上であることが好ましく、22モル%以上であることが更に好ましく、32モル%以上であることが一層好ましく、38モル%以上であることが更に一層好ましい。また、100モル%以下であり、80モル%以下であることが好ましく、65モル%以下であることが更に好ましく、56モル%以下であることが一層好ましい。具体的には、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体のモル比は10モル%以上100モル%以下であることが好ましく、22モル%以上80モル%以下であることが更に好ましく、32モル%以上65モル%以下であることが更に好ましく、38モル%以上56モル%以下であることが一層好ましい。
【0049】
第4級アンモニウム塩ポリマーが、第4級アンモニウム塩重縮合物である場合には、該重縮合物として、前述した第4級アンモニウム部位を有する単量体1種以上からなる縮合物を用い、それらの縮合物を重合することで得られた重縮合物を用いることができる。具体例としては、ジシアンジアミド/ジエチレントリアミン重縮合物、ジメチルアミン/エピクロルヒドリン重縮合物などが挙げられる。
【0050】
前述した第4級アンモニウム塩ホモポリマー及び第4級アンモニウム塩共重合物は、ビニル系重合性単量体の単独重合法又は共重合法によって得ることができる。重合方法としては、例えばラジカル重合、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、リビングアニオン重合、配位重合、開環重合、重縮合などを用いることができる。重合条件に特に制限はなく、目的とする分子量、流動電位、及び/又はIOB値を有する第4級アンモニウム塩ポリマーが得られる条件を適切に選択すればよい。
【0051】
例えば、第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位は、赤血球の凝集塊を一層効果的に生成させる観点から、1500μeq/L以上であることが好ましく、2000μeq/L以上であることが更に好ましく、3000μeq/L以上であることが一層好ましく、4000μeq/L以上であることが更に一層好ましい。第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位がこれらの値以上であることによって、赤血球の電気二重層を十分に中和することができる。流動電位の上限値は13000μeq/L以下であることが好ましく、8000μeq/L以下であることが更に好ましく、6000μeq/L以下であることが一層好ましい。第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位がこれらの値以下であることによって、赤血球に吸着した第4級アンモニウム塩ポリマーどうしの電気的反発を効果的に防止することができる。
【0052】
第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位は、例えば構成しているカチオン性モノマー自体の分子量、共重合体を構成しているカチオン性モノマーとアニオン性モノマー又はノニオン性モノマーの共重合モル比を調整することで制御することができる。第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位は、スペクトリス株式会社製の流動電位測定器(PCD04)を用いて測定することができる。具体的な測定条件は次の通りである。まず市販の生理用品に対して、ドライヤーなどを用いて各部材を接着しているホットメルトを無効化し、表面シート、吸収体、裏面シートなどの部材に分解する。分解した各部材に対して、非極性溶媒から極性溶媒までの多段階溶媒抽出法を行い、各部材に用いられている処理剤を分離し、単一の組成物を含んだ溶液を得る。得られた溶液を乾燥・固化させ、H−NMR(核磁気共鳴法)、IR(赤外分光法)、LC(液体クロマトグラフィ)、GC(ガスクロマトグラフィ)、MS(質量分析法)、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)、蛍光X線などを複合して、処理剤の構造を同定する。測定対象の処理剤(第4級アンモニウム塩ポリマー)0.001gを生理食塩水10gに溶解させた測定サンプルに対して、0.001Nのポリエチレンスルホン酸ナトリウム水溶液(測定サンプルが負電荷を有する場合は、0.001Nのポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液)を滴定し、電極間の電位差がなくなるまでに要した滴定量XmLを測定する。その後、下記式により第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位を算出する。
流動電位 = (X+0.190)×1000
(※ 溶媒の生理食塩水に要した滴定量)
【0053】
また、第4級アンモニウム塩ポリマーが、赤血球の表面に首尾よく吸着するためには、該第4級アンモニウム塩ポリマーが、上述したシアル酸と相互作用しやすいことが有利である。この観点から本発明者が検討を推し進めたところ、物質の無機性値と有機性値との比率である無機性値/有機性値の値(以下「IOB(Inorganic Organic Balance)値」という。)を尺度として、シアル酸結合物とカチオン性ポリマーとの相互作用の程度を評価できることが判明した。
【0054】
一般に、物質の性状は、分子間の各種分子間力に大きく支配され、この分子間力は主に分子質量によるVan Der Waals力と、分子の極性による電気的親和力からなっている。物質の性質の変化に対して大きな影響を与えるVan Der Waals力と、電気的親和力のそれぞれを個別に把握することができれば、その組み合わせから未知の物質、あるいはそれらの混合物についてもその性状を予測することができる。この考え方は、「有機概念図論」としてよく知られている理論である。有機概念図論は、例えば藤田穆著の「有機分析」(カニヤ書店、昭和5年)、藤田穆著の「有機定性分析:系統的.純粋物編」(共立出版、1953年)、藤田穆著の「改編 化学実験学−有機化学編」(河出書房、1971年)、藤田穆・赤塚政実著の「系統的有機定性分析(混合物編)」(風間書房、1974年)、及び甲田善生・佐藤四郎・本間善夫著の「新版 有機概念図 基礎と応用」(三共出版、2008年)等に詳述されている。有機概念図論では、物質の物理化学的物性について、主にVan Der Waals力による物性の程度を「有機性」と呼び、また主に電気的親和力による物性の程度を「無機性」と呼び、物質の物性を「有機性」と「無機性」の組み合わせでとらえている。そして、炭素(C)1個を有機性20と定義し、それに対して各種極性基の無機性及び有機性の値を、以下の表1に記載のとおり定め、無機性値の和と有機性値の和を求め、両者の比をIOB値と定義している。本発明においては、これらの有機性値及び無機性値に基づき、上述したシアル酸結合物のIOB値を決定し、その値に基づきカチオン性ポリマーのIOB値を決定する。
【0055】
【表1】
【0056】
詳細には、カチオン性ポリマーとして、シアル酸結合物のIOB値と同じか、それに近似した値のIOB値を有するものを用いることが有利であることが判明した。シアル酸結合物とは、生体内でシアル酸が存在し得る形態となっている化合物のことであり、例えばガラクト脂質などの糖脂質の末端にシアル酸が結合している化合物などが挙げられる。シアル酸のIOB値は、シアル酸単体で4.25であり、シアル酸結合体で3.89である。前記シアル酸結合物とは、糖脂質における糖鎖とシアル酸が結合したものであり、シアル酸結合体は、シアル酸単体よりも有機性値の割合が高くなり、IOB値は低くなる。
そこで、第4級アンモニウム塩ポリマーのIOB値は、0.6以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましく、2.1以上であることが更に好ましく、2.2以上であることが一層好ましい。また、カチオン性ポリマーのIOB値は、4.6以下であることが好ましく、3.6以下であることが更に好ましく、3以下であることが一層好ましい。IOB値は、1.8以上3.6以下であることがより好ましく、2.1以上3.6以下であることが更に好ましく、2.2以上3以下であることが一層好ましい。
【0057】
第4級アンモニウム塩ポリマーが共重合物である場合には、共重合に用いられるモノマーのモル比に応じて以下の手順でIOB値を算出する。即ち、共重合物がモノマーAとモノマーBとから得られ、モノマーAの有機性値がORで、無機性値がINであり、モノマーBの有機性値がORで、無機性値がINであり、モノマーA/モノマーBのモル比がM/Mである場合、共重合物のIOB値は以下の数式から算出される。
【数1】
【0058】
また、本発明で用いられる血球凝集剤は、ポリカチオン(カチオン性ポリマー)以外に、第三成分、例えば、溶媒、可塑剤、香料、抗菌・消臭剤、スキンケア剤等の他の成分を1種以上含んだ組成物(血球凝集剤組成物)の形態であってもよい。溶媒としては、水、炭素数1ないし4の飽和脂肪族一価アルコール等の水溶性有機溶媒、又は該水溶性有機溶媒と水との混合溶媒などを用いることができる。可塑剤としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、1,3−ブタンジオールなどを用いることができる。香料としては、特開2007−244764号公報に記載されているグリーンハーバル様香気を有する香料、植物の抽出エキス、柑橘類の抽出エキスなどを用いることができる。抗菌・消臭剤としては、特開2004−244789号公報に記載されている抗菌性を有する金属を含むカンクリナイト様鉱物、特開2007−097953号公報に記載されているフェニル基を有する重合性モノマーから重合された多孔性ポリマー、特開2006−191966号公報に記載されている第4級アンモニウム塩、活性炭、粘土鉱物などを用いることができる。スキンケア剤としては、特開2004−255164号公報に記載されている植物エキス、コラーゲン、天然保湿成分、保湿剤、角質柔軟化剤、消炎剤などを用いることができる。
【0059】
前記血球凝集剤組成物に占めるカチオン性ポリマーの割合は、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以上であることが一層好ましい。また、99質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることが更に好ましく、60質量%以下であることが一層好ましい。前記血球凝集剤組成物に占めるカチオン性ポリマーの割合をこの範囲内に設定することで、生理用品に有効量のカチオン性ポリマーを付与することができる。
【0060】
生理用品中に含まれる血球凝集剤は、血液に溶出して確実に作用することで、大きな凝集塊を形成させる観点から、その含有量は、0.01g/m以上が好ましく、0.5g/m以上がより好ましい。また、生理用品中に含まれる血球凝集剤は、液の透過性を阻害させない観点から、その含有量は、20g/m以下が好ましく、10g/m以下がより好ましい。具体的には、生理用品中に含まれる血球凝集剤の含有量は、0.01g/m以上20g/m以下が好ましく、0.5g/m以上10g/m以下がより好ましい。
【0061】
(液膜開裂剤)
液膜開裂剤とは、液、例えば、経血等の高粘性の排泄液が不織布に触れて不織布の繊維間ないしは繊維表面に形成される液膜を開裂させたりして、液膜の形成を阻害する剤のことをいい、形成された液膜を開裂させる作用と、液膜の形成を阻害する作用とを有する。前者は主たる作用、後者は従たる作用ということができる。作用液膜の開裂は、液膜開裂剤の、液膜の層の一部を押しのけて不安定化させる作用によりなされる。この液膜開裂剤の作用により、液が不織布の繊維間の狭い領域に留まることなく通過しやすくなる。即ち、液透過性に優れた不織布となる。これにより、不織布を構成する繊維を細くして繊維間距離を狭めても、肌触りの柔らかさと液残り抑制とが両立する。また本発明においては、血球凝集剤の使用によって、高吸収性ポリマーが本来有する吸収性能が安定的に発揮され、液戻りが効果的に抑制される一方で、使用後の生理用品の表面(肌当接面)の色に関しては、未使用時に有していた表面白さが大きく低下し、血液に起因する赤色が強くなる傾向があるところ、血球凝集剤及び液膜開裂剤の併用によって、血球凝集剤に起因する表面白さの低下が液膜開裂剤の作用によって抑制されるため、液戻り量の低減と使用後の表面白さの向上とが両立され得る。
【0062】
この液膜開裂効果は、液膜が存在し得る箇所に液膜開裂剤が配されていれば、不織布の繊維間に限らず生ずるものである。例えば、フラッフパルプや高吸収性ポリマーを有する吸収体においては、フラッフパルプの繊維間や、高吸収性ポリマーの粒子間、フラッフパルプと高吸収性ポリマー粒子との間などに生ずる液膜に対しても、液膜開裂効果を生じ得る。
【0063】
本発明において、生理用品の構成材料が液膜開裂剤を含有する又は含むとは、主に該材料の表面に付着している状態をいう。ただし、例えば繊維が液膜開裂剤を含有する場合、液膜開裂剤は、繊維の表面に残存する限り、繊維内に内包しているようなものや、内添により繊維内部に存在しているようなものがあってもよい。
【0064】
本発明に係る液膜開裂剤は、生理用品中において後述する液膜開裂効果を有するためには、液膜開裂剤が体液に触れた際に液状として存在する必要がある。この点から、本発明に係る液膜開裂剤の融点は40℃以下であることが好ましく、35℃以下であることがより好ましい。さらに、本発明に係る液膜開裂剤の融点は−220℃以上が好ましく、−180℃以上がより好ましい。
【0065】
(液膜を消失させる性質)
本発明で用いられる液膜開裂剤は、液膜を消失させる性質を有しており、斯かる性質により、血漿成分を主体とする試験液に該液膜開裂剤を適用した場合に液膜消失効果を発現し得る。ここでいう液膜消失効果には、試験液から形成される多数の液膜によって空気が抱え込まれた構造体について、該構造体の液膜形成を阻害する効果と、形成された該構造体を消失させる効果との双方が含まれ、少なくとも一方の効果を発現する剤は、液膜消失効果を発現し得る性質を有していると言える。
【0066】
前記試験液は、脱繊維馬血(株式会社日本バイオテスト研究所製)から抽出された液体成分である。具体的には、100mLの脱繊維馬血を温度22℃、湿度65%の条件下で1時間静置すると、該脱繊維馬血は上層と下層とに分離するところ、この上層が前記試験液である。上層は主に血漿成分を含み、下層は主に血球成分を含む。上層と下層とに分離した脱繊維馬血から上層のみを取り出すには、例えばトランスファーピペット(日本マイクロ株式会社製)を用いることができる。
【0067】
ある剤が前記の「液膜を消失させる性質」を有するか否かは、当該剤が適用された前記試験液から形成される液膜によって空気が抱え込まれた構造体が発生しやすい状態にした場合の、該構造体即ち液膜の量の多少で判断される。即ち、前記試験液を、温度25℃に調整し、その後、スクリュー管(株式会社マルエム製 No.5 胴径27mm、全長55mm)に10g入れて、標準サンプルを得る。また、測定サンプルとして、標準サンプルと同じものに、25℃に予め調整した測定対象の剤を0.01g添加したものを得る。標準サンプル及び測定サンプルをそれぞれ、前記スクリュー管の上下方向に2往復強く振とうした後、水平面上に速やかに載置する。このサンプルの振とうにより、振とう後のスクリュー管の内部には、前記構造体の無い液体層(下層)と、該液体層の上に形成された多数の該構造体からなる構造体層(上層)とが形成される。振とう直後から10秒経過後に、両サンプルの構造体層の高さ(液体層の液面から構造体層上面までの高さ)を測定する。そして、標準サンプルの構造体層の高さに対して、測定サンプルの構造体層の高さが90%以下となった場合、測定対象の剤は液膜開裂効果を有していると判断する。
【0068】
本発明で用いられる液膜開裂剤は、前記の性質に当てはまる単一の化合物若しくは前記の性質に当てはまる単一の化合物を複数組み合わせた混合物、又は複数の化合物の組み合わせによって前記の性質を満たす(液膜の開裂を発現し得る)剤である。つまり液膜開裂剤とは、あくまで前記定義によるところの液膜開裂効果があるものに限定した剤のことである。したがって、生理用品中に適用されている化合物に、前記定義に当てはまらない第三成分を含む場合には、液膜開裂剤と区別する。なお、本明細書でいう「単一の化合物」とは、同じ組成式を有するが、繰り返し単位数が異なることにより、分子量が異なる化合物を含める概念である。
液膜開裂剤としては、国際公開第2016/098796号に記載のものを任意に用いることができる。
【0069】
以下、本発明に係る液膜開裂剤の好ましい実施形態について説明する。本発明に係る液膜開裂剤として好ましいものには、第1実施形態及び第2実施形態の2種類が存在する。
【0070】
第1実施形態の液膜開裂剤は、化合物C1である。化合物C1は、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が15mN/m以上で、水溶解度が0g以上0.025g以下の化合物である。
【0071】
第1実施形態の液膜開裂剤が有する「表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数」とは、前記のような経血等の排泄液を想定した拡張係数をいう。該「拡張係数」とは、温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で後述の測定方法により得られる測定値から、下記式(1)に基づいて求められる値である。なお、式(1)のγ及びγwoにおける「液膜」は「表面張力が50mN/mの液体」の液相を意味し、繊維間や繊維表面で膜を張った状態の液体、膜を張る前の状態の液体の両方を含み、単に液体とも言う。また、下記式(1)のγ及びγにおける「表面張力」は、液膜及び液膜開裂剤の気相との界面における界面張力を意味し、液相間の、液膜開裂剤の液膜との界面張力とは区別する。この区別は、本明細書の他の記載においても同様である。
S=γ−γ−γwo ・・・・・ (1)
γ:液膜(液体)の表面張力
γ:液膜開裂剤の表面張力
γwo:液膜開裂剤の液膜との界面張力
【0072】
前記式(1)から分かるとおり、液膜開裂剤の拡張係数(S)は、液膜開裂剤の表面張力(γ)が小さくなることで大きくなり、液膜開裂剤の液膜との界面張力(γwo)が小さくなることで大きくなる。この拡張係数が15mN/m以上であることで、第1実施形態の液膜開裂剤は、繊維間の狭小領域で生じる液膜の表面上での移動性、即ち拡散性の高いものとなる。この観点から、第1実施形態の液膜開裂剤の拡張係数は、20mN/m以上がより好ましく、25mN/m以上が更に好ましく、30mN/m以上が特に好ましい。一方、その上限は特に制限されるものではないが、前記式(1)より表面張力が50mN/mの液体を用いた場合は上限値が50mN/m、表面張力が60mN/mの液体を用いた場合は上限値が60mN/m、表面張力が70mN/mの液体を用いた場合には上限値が70mN/mといったように、液膜を形成する液体の表面張力が上限となる。そこで、本発明では、表面張力が50mN/mの液体を用いている観点から、第1実施形態の液膜開裂剤の拡張係数は50mN/m以下である。
【0073】
第1実施形態の液膜開裂剤は、水溶解度が0g以上0.025g以下であることで、水性の液体に溶解しにくく液膜との界面を形成して、前記の拡散性をより効果的なものとする。同様の観点から、第1実施形態の液膜開裂剤の水溶解度は、0.025g以下が好ましく、0.0017g以下がより好ましく、0.0001g未満が更に好ましい。また、前記水溶解度は小さいほどよく、0g以上であり、液膜への拡散性の観点から、1.0×10−9g以上とすることが実際的である。なお、前記の水溶解性は、水分を主成分とする経血等に対しても当てはまるものと考えられる。液膜開裂剤の水溶解度は後述する方法によって測定することができる。
【0074】
前記の、液膜(表面張力が50mN/mの液体)の表面張力(γ)、液膜開裂剤の表面張力(γ)及び液膜開裂剤の液膜との界面張力(γwo)は、次の方法により測定される。
【0075】
(液膜(液体)の表面張力(γ)の測定方法)
温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で、プレート法(Wilhelmy法)により、白金プレートを使用して測定することができる。その際の測定装置としては、自動表面張力計「CBVP−Z」(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いることができる。白金プレートは、純度99.9%、大きさが横25mm、縦10mmのものを用いる。
なお、前述した「表面張力が50mN/mの液体」は、前記の測定方法を用いて、脱イオン水にノニオン系界面活性物質であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(花王株式会社製、商品名レオオールスーパーTW−L120)を加えて、50±1mN/mに調整された溶液である。
【0076】
(液膜開裂剤の表面張力(γ)の測定方法)
液膜の表面張力(γ)の測定と同様に、温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で、プレート法により、同じ装置を使用して測定することができる。この測定に際し、前述のとおり、取得した液膜開裂剤が固体である場合、該液膜開裂剤の融点+5℃まで加熱して液体に相転移させ、その温度条件のまま測定を実施する。
【0077】
(液膜開裂剤の液膜との界面張力(γwo)の測定方法)
温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で、ペンダントドロップ法により測定できる。その際の測定装置としては、自動界面粘弾性測定装置(TECLIS−ITCONCEPT社製、商品名THE TRACKERや、KRUSS社、商品名DSA25S)を用いることができる。ペンダントドロップ法では、ドロップが形成されると同時に表面張力が50mN/mの液体に含まれたノニオン系界面活性物質の吸着が始まり、時間経過で界面張力が低下していく。そのため、ドロップが形成された時(0秒時)の界面張力を読み取る。また、この測定に際し、前述のとおり、取得した液膜開裂剤が固体である場合、該液膜開裂剤の融点+5℃まで加熱して液体に相転移させ、その温度条件のまま測定を実施する。
また界面張力の測定時に、液膜開裂剤と表面張力が50mN/mの液体の密度差が非常に小さい場合や、粘度が著しく高い場合、界面張力値がペンダントドロップの測定限界以下の場合には、ペンダントドロップ法による界面張力測定が困難になる場合がある。その場合には、温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で、スピニングドロップ法により測定することで、測定が可能となる。その際の測定装置としては、スピニングドロップ界面張力計(KRUSS社製、商品名SITE100)を用いることができる。また、この測定についても、ドロップの形状が安定化した時の界面張力を読み取り、取得した液膜開裂剤が固体である場合には、該液膜開裂剤の融点+5℃まで加熱して液体に相転移させ、その温度条件のまま測定を実施する。
なお、双方の測定装置で界面張力を測定可能な場合は、より小さな界面張力値を測定結果として採用する。
【0078】
第1実施形態の液膜開裂剤は、前記の拡張係数と水溶解度とを有することで、液膜の表面上で、溶解することなく広がり、液膜の中心付近から液膜の層を押しのけることができる。これにより、液膜を不安定化させて開裂する。
【0079】
ここで、第1実施形態の吸収体における液膜開裂剤の前記液膜開裂効果について、不織布に液膜開裂剤が配されている場合を例にとり、図3及び図4を参照して具体的に説明する。
【0080】
図3には、不織布を構成する繊維7どうしの隙間に液膜8が形成されている様子が示されており、また図4には、この液膜8が液膜開裂剤9によって開裂される過程が示されている。図3に示すように、繊維間の狭い領域においては、経血等の粘性の高い排泄液は、液膜8を張りやすい。これに対し、液膜開裂剤9は次のようにして液膜8を不安定化して破り、液膜8の形成を阻害して、不織布中からの排液を促す。まず、図4(A1)及び(B1)に示すように、不織布の繊維7が有していた、即ち繊維7の表面に付着していた液膜開裂剤9が、繊維7上から液膜8へと移行し、さらに液膜8との界面を保ったまま、液膜8の表面上を移行する。次いで、液膜開裂剤9は、図4(A2)及び(B2)に示すように、液膜8の一部を押しのけて液膜8の厚み方向内方へと侵入し、図4(A3)及び(B3)に示すように、液膜8を徐々に不均一で薄い膜へと変化させていく。その結果、液膜8は、図4(A4)及び(B4)に示すように、はじけるようにして穴が開き開裂される。こうして開裂された液膜8を形成していた経血等の液は、液滴となって不織布の繊維間を通過しやすくなるため、液残りが低減される。
【0081】
このような液膜開裂剤の液膜に対する開裂作用は、図3に示す如き互いに交差する繊維間の液膜に対する場合に限らず、繊維表面にまとわりついた液膜に対しても同様に発揮される。即ち、液膜開裂剤は、繊維表面にまとわりついた液膜上を移行して該液膜の一部を押しのけ、該液膜を開裂させることができる。その場合、液膜開裂剤は、繊維表面にまとわりついた液膜に対しては、該液膜開裂剤自体が該繊維表面上を該液膜へ移行せずとも、その疎水作用によっても液膜を開裂させ、形成を阻害することができる。
【0082】
第1実施形態において、液膜開裂剤は、さらに、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が20mN/m以下であることが好ましい。即ち、前記式(1)における拡張係数(S)の値を定める1変数である「液膜開裂剤の液膜との界面張力(γwo)」が20mN/m以下であることが好ましい。「液膜開裂剤の液膜との界面張力(γwo)」を低く抑えることで、液膜開裂剤の拡張係数が向上し、繊維表面から液膜中心付近へ液膜開裂剤が移行しやすくなり、前述の作用がより明確となる。この観点から、液膜開裂剤の「表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力」は、17mN/m以下がより好ましく、13mN/m以下が更に好ましく、10mN/m以下がより更に好ましく、9mN/m以下が特に好ましく、1mN/m以下がとりわけ好ましい。一方、その下限は特に制限されるものではなく、液膜への不溶性の観点から0mN/mより大きければよい。なお、界面張力が0mN/m、即ち液膜開裂剤が液膜に溶解する場合には、液膜と液膜開裂剤間での界面を形成することができないため、前記式(1)は成り立たず、剤の拡張は起きない。
拡張係数は前記式(1)からもわかるように、対象となる液の表面張力により、その数値が変化する。例えば、対象液の表面張力が72mN/m、液膜開裂剤の表面張力が21mN/m、これらの界面張力が0.2mN/mの場合、拡張係数は50.8mN/mとなる。
また、対象液の表面張力が30mN/m、液膜開裂剤の表面張力21mN/m、これらの界面張力が0.2mN/mの場合、拡張係数は8.8mN/mとなる。
いずれの場合においても、拡張係数が大きい剤ほど、液膜開裂効果は大きくなる。
本明細書では、表面張力50mN/mにおける数値を定義したが、表面張力が異なったとしても、その各物質同士の拡張係数の数値の大小関係に変化はないことから、体液の表面張力が仮に、日ごとの体調などで変化したとしても、拡張係数が大きい剤ほど優れた液膜開裂効果を示す。
【0083】
また、第1実施形態において、液膜開裂剤の表面張力は、32mN/m以下が好ましく、30mN/m以下がより好ましく、25mN/m以下が更に好ましく、22mN/m以下が特に好ましい。また、前記表面張力は小さいほどよく、その下限は特に限定されるものではない。液膜開裂剤の耐久性の観点から、1mN/m以上が実際的である。
【0084】
次に、第2実施形態の液膜開裂剤について説明する。
【0085】
第2実施形態の液膜開裂剤は、化合物C2である。化合物C2は、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が0mN/mよりも大きい、即ち正の値であり、水溶解度が0g以上0.025g以下で、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が20mN/m以下の化合物である。前記「表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力」を20mN/m以下とすることは、前述のように液膜開裂剤の液膜上での拡散性が高まることを意味する。これにより、前記「表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数」が15mN/m未満であるような拡張係数が比較的小さい場合でも、拡散性が高いため繊維表面から多くの液膜開裂剤が液膜内に分散し、多くの位置で液膜を押しのけることにより、第1実施形態の場合と同様の液膜開裂効果を奏し得る。
【0086】
なお、液膜開裂剤に関する、「表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数」、「水溶解度」及び「表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力」とは、第1実施形態で定義したものと同様のものであり、その測定方法も同様である。
【0087】
第2実施形態において、液膜開裂剤の前記作用をより効果的なものとする観点から、前記「表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力」は、17mN/m以下が好ましく、13mN/m以下がより好ましく、10mN/m以下が更に好ましく、9mN/m以下がより更に好ましく、1mN/m以下が特に好ましい。下限値については、第1実施形態と同様に特に制限されるものでなく、液膜(表面張力が50mN/mの液体)に溶解しない観点から、0mN/mより大きくするのが実際的である。
また、「表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数」は、液膜開裂剤の前記作用をより効果的なものとする観点から、9mN/m以上が好ましく、10mN/m以上がより好ましく、15mN/m以上が更に好ましい。その上限は特に制限されるものではないが、前記式(1)より液膜を形成する液体の表面張力が上限となる観点から、50mN/m以下が実質的である。
また、液膜開裂剤の表面張力及び水溶解度のより好ましい範囲は、第1実施形態と同様である。
【0088】
第1実施形態及び第2実施形態の液膜開裂剤において、合成樹脂繊維を含む不織布やセルロース繊維を含む紙や吸収性コアに、該液膜開裂剤を含ませる場合は、さらにリン酸エステル型のアニオン界面活性剤を含有することが好ましい。これにより、繊維表面の親水性が高まり、濡れ性が向上することによって、液膜と液膜開裂剤が接する面積が大きくなること、そして、血液は生体由来のリン酸基を有する界面活性物質を有することから、リン酸基を有する界面活性剤を併用することで、活性剤の相溶性に起因して、さらに血液に含まれるリン脂質との親和性もよいため、液膜開裂剤が液膜に移行しやすくなり、液膜の開裂がさらに促進される。液膜開裂剤とリン酸エステル型のアニオン界面活性剤との含有比率は、質量比で、前者:後者として、1:1〜19:1が好ましく、2:1〜15:1がより好ましく、3:1〜10:1が更に好ましい。特に、前記含有比率は、質量比で、前者:後者として、5:1〜19:1が好ましく、8:1〜16:1がより好ましく、11:1〜13:1が更に好ましい。
【0089】
リン酸エステル型のアニオン界面活性剤としては特に制限なく用いられる。例えば、その具体例としては、アルキルエーテルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル、アルキルリン酸エステルなどが挙げられる。その中でも、アルキルリン酸エステルが、これを含有する液膜開裂剤と液膜との親和性を高めると同時に不織布の加工性を付与する機能の観点から好ましい。
【0090】
次に、第1実施形態及び第2実施形態の液膜開裂剤の具体例について説明する。これらは前述した特定の数値範囲にあることで水に溶けないか水難溶性の性質を有し、液膜開裂効果を奏する。これに対し、従来の繊維処理剤として使用される界面活性剤などは実用上、水に対して溶解して使用する基本的には水溶性のものであり、本発明の液膜開裂剤ではない。
【0091】
第1実施形態及び第2実施形態の液膜開裂剤としては、重量平均分子量が500以上の化合物が好ましい。この重量平均分子量は液膜開裂剤の粘度に大きく影響する。粘度を高く保つことで、液が該構成材料を通過する際に流れ落ちにくく、液膜開裂効果の持続性を保つことができる。液膜開裂効果を十分に持続させる粘度とする観点から、液膜開裂剤の重量平均分子量は、1000以上がより好ましく、1500以上が更に好ましく、2000以上が特に好ましい。一方、液膜開裂剤が配された構成材料から液膜への液膜開裂剤の移行、即ち拡散性を保持する粘度とする観点から、50000以下が好ましく、20000以下がより好ましく、10000以下が更に好ましい。
【0092】
また、第1実施形態の液膜開裂剤としては、構造X、X−Y、及びY−X−Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を有する化合物が好ましい。ここでいう構造X、構造Yとは、具体的には下記の構造である。下記の構造中、「C」は炭素原子を示し、「<」、「>」及び「−」はそれぞれ結合手を示す。
【0093】
構造Xは、>C(A)−、−C(A)−、−C(A)(B)−、>C(A)−C(R)<、>C(R)−、−C(R)(R)−、−C(R−、>C<及び、−Si(RO−、−Si(R)(R)O−のいずれかの基本構造が、繰り返されるか、もしくは2種以上が組み合わされた構造のシロキサン鎖、又はその混合鎖を表す。構造Xの末端には、水素原子、又は、−C(A)、−C(A)B、−C(A)(B)2、−C(A)−C(R、−C(RA、−C(R、また、−OSi(R、−OSi(R(R)、−Si(R、−Si(R(R)からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する。
【0094】
前記のRやRは各々独立に、水素原子、アルキル基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。)、アリール基(炭素数6〜20が好ましい。例えば、フェニル基が好ましい。)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子が好ましい。)などの各種置換基を示す。A、Bは各々独立に、水酸基やカルボン酸基、アミノ基、アミド基、イミノ基、フェノール基などの酸素原子や窒素原子を含む置換基を示す。構造X内にR、R、A、Bが各々複数ある場合は、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。また、連続するC(炭素原子)やSi間の結合は、通常、単結合であるが、二重結合や三重結合を含んでいてもよく、CやSi間の結合には、エーテル基(−O−)、アミド基(−CONR−:Rは水素原子又は一価の基)、エステル基(−COO−)、カルボニル基(−CO−)、カーボネート基(−OCOO−)などの連結基を含んでもよい。一つのC及びSiが、他のC又はSiと結合している数は、1つ〜4つで、長鎖のシリコーン鎖(シロキサン鎖)又は混合鎖が分岐していたり、放射状の構造を有していたりする場合があってもよい。
【0095】
構造Yは、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子から選ばれる原子を含む、親水性を有する親水基を表す。例えば、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、アミド基、イミノ基、フェノール基、ポリオキシアルキレン基(オキシアルキレン基の炭素数は1〜4が好ましい。例えば、ポリオキシエチレン(POE)基、ポリオキシプロピレン(POP)基が好ましい。)、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、スルホベタイン基、カルボベタイン基、ホスホベタイン基(これらのベタイン基は、各ベタイン化合物から水素原子を1つ取り除いてなるベタイン残基をいう。)、4級アンモニウム基などの親水基単独、もしくは、その組み合わせからなる親水基などである。これらの他にも、後述するMで挙げた基及び官能基も挙げられる。なお、構造Y−X−Yのように、Yが複数の場合は、その複数のYどうしは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0096】
構造X−Y及びY−X−Yにおいて、Yは、X、又はXの末端の基に結合する。YがXの末端の基に結合する場合、Xの末端の基は、例えばYとの結合数と同数の水素原子等が取り除かれてYと結合する。
この構造において、親水基Y、A、Bを具体的に説明した基から選択して前述の拡張係数、水溶解度、界面張力を満たすことができる。こうして、目的の液膜開裂効果を発現する。
【0097】
第1実施形態の液膜開裂剤は、構造Xがシロキサン構造である化合物が好ましい。さらに、第1実施形態の液膜開裂剤において、前記の構造X、X−Y、Y−X−Yの具体例として、下記(1)〜(11)式で表される構造を、任意に組み合せたシロキサン鎖からなる化合物が好ましい。さらに、この化合物が前述した範囲の重量平均分子量を有することが液膜開裂効果の観点から好ましい。
【0098】
【化3】
【0099】
前記式(1)〜(11)において、M、L、R21、及びR22は次の1価又は多価(2価又はそれ以上)の基を示す。R23、及びR24は次の1価若しくは多価(2価又はそれ以上)の基、又は単結合を示す。
は、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、もしくはそれらを組み合わせたポリオキシアルキレン基を有する基や、エリスリトール基、キシリトール基、ソルビトール基、グリセリン基もしくはエチレングリコール基などの複数の水酸基を有する親水基(エリスリトール等の複数の水酸基を有する前記化合物から水素原子を1つ取り除いてなる親水基)、水酸基、カルボン酸基、メルカプト基、アルコキシ基(炭素数1〜20が好ましい。例えばメトキシ基が好ましい。)、アミノ基、アミド基、イミノ基、フェノール基、スルホン酸基、4級アンモニウム基、スルホベタイン基、ヒドロキシスルホベタイン基、ホスホベタイン基、イミダゾリウムベタイン基、カルボベタイン基、エポキシ基、カルビノール基、(メタ)アクリル基、又はそれらを組み合わせた官能基を示す。なお、Mが多価の基である場合、Mは、前記各基又は官能基から、さらに1つ以上の水素原子を除いた基を示す。
は、エーテル基、アミノ基(Lとして採りうるアミノ基は、>NR(Rは水素原子又は一価の基)で表される。)、アミド基、エステル基、カルボニル基、カーボネート基の結合基を示す。
21、R22、R23、及びR24は、各々独立に、アルキル基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基が好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。)、アリール基(炭素数6〜20が好ましい。例えばフェニル基が好ましい。)、フルオロアルキル基、もしくはアラルキル基、又はそれらを組み合わせた炭化水素基、又はハロゲン原子(例えばフッ素原子が好ましい。)を示す。なお、R22及びR23が多価の基である場合、前記炭化水素基から、さらに1つ以上の水素原子又はフッ素原子を除いた多価炭化水素基を示す。
また、R22又はR23がMと結合する場合、R22又はR23として採りうる基は、前記各基、前記炭化水素基又はハロゲン原子の他に、R32として採りうるイミノ基が挙げられる。
【0100】
第1実施形態の液膜開裂剤は、なかでも、構造Xとして、前記式(1)、(2)、(5)及び(10)のいずれかで表される構造を有し、Xの末端、又はXの末端とYとからなる基として、これらの式以外の前記式のいずれかで表される構造を有する化合物が好ましい。さらに、X、又はXの末端とYとからなる基が、前記(2)、(4)、(5)、(6)、(8)及び(9)式のいずれかで表される構造を少なくとも1つ有するシロキサン鎖からなる化合物が、好ましい。
【0101】
前記化合物即ち第1実施形態の液膜開裂剤の具体例として、シリコーン系の界面活性剤の有機変性シリコーン(ポリシロキサン)が挙げられる。例えば、反応性の有機基で変性された有機変性シリコーンとしては、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシ変性、ジオール変性、カルビノール変性、(メタ)アクリル変性、メルカプト変性、フェノール変性のものが挙げられる。また、非反応性の有機基で変性された有機変性シリコーンとしては、ポリエーテル変性(ポリオキシアルキレン変性を含む)、メチルスチリル変性、長鎖アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、高級アルコキシ変性、高級脂肪酸変性、フッ素変性のものなどが挙げられる。これらの有機変性の種類に応じて、例えば、シリコーン鎖の分子量、変性率、変性基の付加モル数など適宜変更することで、前記の液膜開裂作用を奏する拡張係数を得ることができる。ここで、「長鎖」とは、炭素数が12以上、好ましくは12〜20であるものをいう。また、「高級」とは、炭素数が6以上、好ましくは6〜20であるものをいう。
その中でも、ポリオキシアルキレン変性シリコーンやエポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、ジオール変性シリコーンなど、変性シリコーンである液膜開裂剤が少なくとも一つの酸素原子を変性基中に有する構造を有する変性シリコーンが好ましく、特にポリオキシアルキレン変性シリコーンが好ましい。ポリオキシアルキレン変性シリコーンは、ポリシロキサン鎖を有することで、液膜開裂剤を合成樹脂の繊維に含有させる場合、繊維の内部に浸透し難く表面に残りやすい。また、親水的なポリオキシアルキレン鎖を付加したことにより、水との親和性が高まり、界面張力が低いため、前述した液膜表面上での移動が起きやすく好ましい。そのため、前述した液膜表面上での移動が起きやすく好ましい。また、ポリオキシアルキレン変性シリコーンは、エンボス等の熱溶融加工が施されても、その部分において繊維の表面に残りやすく液膜開裂効果は低減し難い。特に液が溜まりやすいエンボス部分において液膜開裂効果が十分に発現するので好ましい。
【0102】
第1実施形態の液膜開裂剤として使用可能なポリオキシアルキレン変性シリコーンとしては、下記式[I]〜[IV]で表されるものが挙げられる。さらに、このポリオキシアルキレン変性シリコーンが前述した範囲の重量平均分子量を有することが液膜開裂効果の観点から好ましい。
【0103】
【化4】
【0104】
【化5】
【0105】
【化6】
【0106】
【化7】
【0107】
前記式[I]〜[IV]において、R31は、アルキル基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2エチル−ヘキシル基、ノニル基、デシル基が好ましい。)を示す。R32は、単結合又はアルキレン基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が好ましい。)を示し、好ましくは前記アルキレン基を示す。複数のR31、複数のR32は各々において、互いに同一でも異なってもよい。M11は、ポリオキシアルキレン基を有する基を示し、ポリオキシアルキレン基が好ましい。前記のポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、又はこれらの構成モノマーが共重合されたものなどが挙げられる。m、nは各々独立に1以上の整数である。なお、これら繰り返し単位の符号は、各式[I]〜[IV]において別々に決められるものであり、必ずしも同じ整数を示すものではなく異なっていてもよい。
【0108】
また、第1実施形態の液膜開裂剤として使用可能なポリオキシアルキレン変性シリコーンは、ポリオキシエチレン変性及びポリオキシプロピレン変性のいずれか又は双方の変性基を有するものであってもよい。また、水に溶けない、かつ低い界面張力を有するにはシリコーン鎖のアルキル基R31にメチル基を有することが望ましい。この変性基、シリコーン鎖をもつものとしては、特に制限するものではないが、例えば特開2002−161474の段落[0006]及び[0012]に記載のものがある。より具体的には、ポリオキシエチレン(POE)ポリオキシプロピレン(POP)変性シリコーンや、ポリオキシエチレン(POE)変性シリコーン、ポリオキシプロピレン(POP)変性シリコーンなどが挙げられる。POE変性シリコーンとしては、POEを3モル付加したPOE(3)変性ジメチルシリコーンなどが挙げられる。POP変性シリコーンとしては、POPを10モル、12モル、又は24モル付加したPOP(10)変性ジメチルシリコーン、POP(12)変性ジメチルシリコーン、POP(24)変性ジメチルシリコーンなどが挙げられる。
【0109】
前述の第1実施形態の液膜開裂剤の拡張係数と水溶解度は、ポリオキシアルキレン変性シリコーンにおいて、例えば、ポリオキシアルキレン基の付加モル数(ポリオキシアルキレン変性シリコーン1モルに対する、ポリオキシアルキレン基を形成するオキシアルキレン基の結合数)、下記変性率等により、所定の範囲にすることができる。この液膜開裂剤において、表面張力及び界面張力も同様にして、それぞれ、所定の範囲にすることができる。
【0110】
前記観点から、第1実施形態の液膜開裂剤として使用可能なポリオキシアルキレン変性シリコーンは、ポリオキシアルキレン基の付加モル数が1以上であるものが好ましい。界面張力を低くすることにより、拡張係数が大きくなり、液膜開裂効果を強くする観点から、付加モル数は3以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。一方、親水的になり水溶解度が高くなりすぎることを防ぐ観点から、付加モル数は、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。
【0111】
変性シリコーンの変性率は、必要な親水性を担保するため、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、20%以上が更に好ましい。また、水に溶けてしまわないようにするため、95%以下が好ましく、70%以下がより好ましく40%以下が更に好ましい。なお、前記変性シリコーンの変性率とは、変性シリコーン1分子中のシロキサン結合部の繰り返し単位の総個数に対する、変性したシロキサン結合部の繰り返し単位の個数の割合である。例えば、前記式[I]及び[IV]では(n/m+n)×100%であり、式[II]では、(2/m)×100%であり、式[III]では(1/m)×100%である。
【0112】
また、前述の拡張係数及び水溶解度は、ポリオキシアルキレン変性シリコーンにおいて、それぞれ、前記したもの以外にも、変性基を水可溶性のポリオキシエチレン基と水不溶性のポリオキシプロピレン基及びポリオキシブチレン基を併用すること、水不溶性のシリコーン鎖の分子量を変化させること、変性基としてポリオキシアルキレン変性に加えてアミノ基、エポキシ基、カルボキシ基、水酸基、カルビノール基などを導入すること等により、所定の範囲に設定できる。
【0113】
第1実施形態の液膜開裂剤として用いられるポリアルキレン変性シリコーンは、不織布に含有させる場合、繊維質量に対する含有割合として(Oil Per Unit)、0.02質量%以上8質量%以下含有されることが好ましい。該ポリアルキレン変性シリコーンの含有割合(OPU)は、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.4質量%以下が殊更好ましい。こうすることで、不織布の触感が好ましいものになる。また、該ポリアルキレン変性シリコーンによる液膜開裂効果を十分に発揮する観点から、前記含有割合(OPU)は、0.0005質量%以上がより好ましく、0.0015質量%以上が更に好ましい。
【0114】
また、不織布に限らず、生理用品中に含まれるポリアルキレン変性シリコーンは、液膜に確実に作用させる観点から、その含有量は、0.00001g/m以上が好ましく、0.0001g/m以上がより好ましく、0.0003g/m以上が更に好ましい。また、生理用品中に含まれるポリアルキレン変性シリコーンは、液の透過性を担保する観点から、その含有量は、10g/m以下が好ましく、7g/m以下がより好ましく、5g/m以下が更に好ましい。具体的には、生理用品中に含まれる第1実施形態の液膜開裂剤としてのポリアルキレン変性シリコーンの含有量は、0.00001g/m以上10g/m以下が好ましく、0.0001g/m以上7g/m以下がより好ましく、0.0003g/m以上5g/m以下が更に好ましい。
【0115】
第2実施形態における液膜開裂剤としては、後述するように、下記の構造Z、Z−Y、及びY−Z−Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を有する化合物が好ましい。ここでいう構造Z、構造Yとは、具体的には下記の構造である。下記の構造中、「C」は炭素原子を示し、「<」、「>」及び「−」はそれぞれ結合手を示す。
【0116】
構造Zは、>C(A)−、−C(A)−、−C(A)(B)−、>C(A)−C(R)<、>C(R)−、−C(R)(R)−、−C(R−、>C<のいずれかの基本構造が、繰り返されるか、もしくは2種以上が組み合わされた構造の炭化水素鎖を表す。構造Zの末端には、水素原子、又は、−C(A)、−C(A)B、−C(A)(B)2、−C(A)−C(R、−C(RA、−C(Rからなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する。
【0117】
前記のRやRは各々独立に、水素原子、アルキル基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2エチル−ヘキシル基、ノニル基、デシル基が好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。)、アリール基(炭素数6〜20が好ましい。例えば、フェニル基が好ましい。)、フルオロアルキル基、アラルキル基、もしくはそれらを組み合わせた炭化水素基、又はフッ素原子などの各種置換基を示す。A、Bは各々独立に、水酸基やカルボン酸基、アミノ基、アミド基、イミノ基、フェノール基などの酸素原子や窒素原子を含む置換基を示す。構造X内にR、R、A、Bが各々複数ある場合は、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。また、連続するC(炭素原子)間の結合は、通常、単結合であるが、二重結合や三重結合を含んでいてもよく、C間の結合には、エーテル基、アミド基、エステル基、カルボニル基、カーボネート基などの連結基を含んでもよい。一つのCが、他のCと結合している数は、1つ〜4つで、長鎖の炭化水素鎖が分岐していたり、放射状の構造を有していたりする場合があってもよい。
【0118】
構造Yは、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子から選ばれる原子を含む、親水性を有する親水基を表す。例えば、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、アミド基、イミノ基、フェノール基; 又は、ポリオキシアルキレン基(オキシアルキレン基の炭素数は1〜4が好ましい。例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、もしくはそれらを組み合わせたポリオキシアルキレン基が好ましい。); 又は、 エリスリトール基、キシリトール基、ソルビトール基、グリセリン基、エチレングリコール基、などの複数の水酸基を有する親水基; 又は、 スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、スルホベタイン基、カルボベタイン基、ホスホベタイン基、4級アンモニウム基、イミダゾリウムベタイン基、エポキシ基、カルビノール基、メタクリル基などの親水基単独; 又は、 その組み合わせからなる親水基などである。なお、Yが複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0119】
構造Z−Y及びY−Z−Yにおいて、Yは、Z、又はZの末端の基に結合する。YがZの末端の基に結合する場合、Zの末端の基は、例えばYとの結合数と同数の水素原子等が取り除かれてYと結合する。
この構造において、親水基Y、A、Bを具体的に説明した基から選択して前述の拡張係数、水溶解度、界面張力を満たすことができる。こうして、目的の液膜開裂効果を発現する。
【0120】
第2実施形態の液膜開裂剤は、前記の構造Z、Z−Y、Y−Z−Yの具体例として、下記(12)〜(25)式で表される構造を、任意に組み合せた化合物が好ましい。さらに、この化合物が前述した範囲の重量平均分子量を有することが液膜開裂効果の観点から好ましい。
【0121】
【化8】
【0122】
前記式(12)〜(25)において、M、L、R41、R42、及びR43は次の1価又は多価の基(2価又はそれ以上)を示す。
は、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、もしくはそれらを組み合わせたポリオキシアルキレン基を有する基や、エリスリトール基、キシリトール基、ソルビトール基、グリセリン基もしくはエチレングリコール基などの複数の水酸基を有する親水基、水酸基、カルボン酸基、メルカプト基、アルコキシ基(炭素数1〜20が好ましい。例えばメトキシ基が好ましい。)、アミノ基、アミド基、イミノ基、フェノール基、スルホン酸基、4級アンモニウム基、スルホベタイン基、ヒドロキシスルホベタイン基、ホスホベタイン基、イミダゾリウムベタイン基、カルボベタイン基、エポキシ基、カルビノール基、(メタ)アクリル基、又はそれらを組み合わせた官能基を示す。
は、エーテル基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボニル基、カーボネート基、又は、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、もしくはそれらを組み合わせたポリオキシアルキレン基、などの結合基を示す。
41、R42、及びR43は各々独立に、水素原子、アルキル基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基が好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。)、アリール基(炭素数6〜20が好ましい。例えばフェニル基が好ましい。)、フルオロアルキル基、アラルキル基、もしくはそれらを組み合わせた炭化水素基、又はハロゲン原子(例えばフッ素原子が好ましい。)からなる各種置換基を示す。
42が多価の基である場合、R42は、前記各置換基から、さらに1つ以上の水素原子を除いた基を示す。
なお、それぞれの構造に記載されている結合手の先には、任意に他の構造が連結しても、水素原子が導入されてもよい。
【0123】
さらに前記化合物即ち第2実施形態の液膜開裂剤の具体例として、第1に、ポリエーテル化合物及びノニオン界面活性剤、第2に、炭素原子数5以上の炭化水素化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0124】
第2実施形態の液膜開裂剤の第1の具体例であるポリエーテル化合物及びノニオン界面活性剤としては具体的には、下記式[V]のいずれかで表されるポリオキシアルキレンアルキル(POA)エーテルや、下記式[VI]で表される重量平均分子量1000以上のポリオキシアルキレングリコール、ステアレス、ベヘネス、PPGミリスチルエーテル、PPGステアリルエーテル、PPGベヘニルエーテルなどが挙げられる。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、POPを3モル以上24モル以下、好ましくは5モル付加したラウリルエーテルなどが好ましい。ポリエーテル化合物としては、ポリプロピレングリコールを17モル以上180モル以下、好ましくは約50モル付加した重量平均分子量1000〜10000、好ましくは3000のポリプロピレングリコールなどが好ましい。なお、前記の重量平均分子量の測定は、後述する測定方法で行うことができる。
【0125】
第2実施形態の液膜開裂剤として使用可能なポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤は、不織布に含有させる場合、繊維質量に対する含有割合として(Oil Per Unit)、0.1質量%以上8質量%以下含有されることが好ましい。該ポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤の含有割合(OPU)は、5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましく、0.4質量%以下が殊更好ましい。こうすることで、不織布の触感が好ましいものになる。また、該ポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤による液膜開裂効果を十分に発揮する観点から、前記含有割合(OPU)は、0.0005質量%以上がより好ましく、0.0015質量%以上が更に好ましい。
【0126】
また、不織布に限らず、生理用品中に含まれるポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤は、液膜に確実に作用させる観点から、その含有量は、0.00001g/m以上が好ましく、0.0001g/m以上がより好ましく、0.0003g/m以上が更に好ましい。また、生理用品中に含まれるポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤は、液の透過性を担保する観点から、その含有量は、10g/m以下が好ましく、7g/m以下がより好ましく、5g/m以下が更に好ましい。具体的には、生理用品中に含まれる第2実施形態の液膜開裂剤としてのポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤の含有量は、0.00001g/m以上10g/m以下が好ましく、0.0001g/m以上7g/m以下がより好ましく、0.0003g/m以上5g/m以下が更に好ましい。
【0127】
【化9】
【0128】
【化10】
【0129】
前記式[V]において、L21は、エーテル基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボニル基、カーボネート基、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、又はそれらを組み合わせたポリオキシアルキレン基、などの結合基を示す。前記式[V]及び[VI]において、R51は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、フルオロアルキル基、アラルキル基、もしくはそれらを組み合わせた炭化水素基、又はフッ素原子からなる各種置換基を示す。また、a、b、m及びnは各々独立に1以上の整数である。ここで、Cはアルキル基(n=2m+1)を表し、Cはアルキレン基(a=2b)を表す。なお、これら炭素原子数および水素原子数は、各式[V]及び[VI]において各々独立に決められるものであり、必ずしも同じ整数を示すものではなく異なっていてもよい。以下、式[VII]〜[XV]のm、m’、m’’、n、n’及びn’’においても同様である。なお、−(CO)−の「m」は、1以上の整数である。この繰り返し単位の値は、各式[V]及び[VI]において各々独立に決められるものであり、必ずしも同じ整数を示すものではなく異なっていてもよい。
【0130】
前述の第2実施形態の液膜開裂剤の拡張係数、表面張力及び水溶解度は、ポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤において、例えば、ポリオキシアルキレン基のモル数等により、それぞれ、所定の範囲に設定することができる。この観点から、ポリオキシアルキレン基のモル数が1以上70以下であるものが好ましい。界面張力を低くすることにより、拡張係数が大きくなり、液膜開裂効果を強くする観点から、観点から、モル数は5以上がより好ましく、7以上がさらに好ましい。一方、分子鎖のからみが強くなりすぎ、液膜内での拡散性が低下することを防ぐ観点から、付加モル数は、70以下が好ましく、60以下がより好ましく、50以下が更に好ましい。
また、前述の拡張係数、表面張力、界面張力及び水溶解度は、それぞれ、ポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤において、水溶性のポリオキシエチレン基と水不溶性のポリオキシプロピレン基及びポリオキシブチレン基を併用すること、炭化水素鎖の鎖長を変化させること、炭化水素鎖に分岐鎖を有するものを用いること、炭化水素鎖に二重結合を有するものを用いること、炭化水素鎖にベンゼン環やナフタレン環を有するものを用いること、又は前記を適宜組み合わせること等により、所定の範囲に設定できる。
【0131】
第2実施形態の液膜開裂剤の第2の具体例である炭素原子数5以上の炭化水素化合物について説明する。この炭化水素化合物の炭素原子数は、液体の方がより液膜表面に拡張しやすくなる観点から、100以下が好ましく、50以下がより好ましい。この炭化水素化合物は、ポリオルガノシロキサンを除くもので、直鎖に限らず、分岐鎖であってもよく、その鎖は飽和、不飽和に特に限定されない。また、その中間及び末端には、エステルやエーテルなどの置換基を有していてもよい。その中でも、常温で液体のものが好ましく単独で用いられる。この炭化水素化合物は、不織布に含有させる場合、繊維質量に対する含有割合として(Oil Per Unit)、0.1質量%以上5質量%以下含有されることが好ましい。該炭化水素化合物の含有割合(OPU)は、1質量%以下が好ましく、0.99質量%以下がより好ましく、0.4質量%以下が更に好ましい。こうすることで、不織布の触感が好ましいものになる。また、該炭化水素化合物による液膜開裂効果を十分に発揮する観点から、前記含有割合(OPU)は、0.0005質量%以上がより好ましく、0.0015質量%以上が更に好ましい。
【0132】
また、不織布に限らず、生理用品中に含まれる炭素原子数5以上の炭化水素化合物は、液膜に確実に作用させる観点から、その含有量は、0.00001g/m以上が好ましく、0.0001g/m以上がより好ましく、0.0003g/m以上が更に好ましい。また、生理用品中に含まれる炭素原子数5以上の炭化水素化合物は、液の透過性を阻害しない観点から、その含有量は、10g/m以下が好ましく、7g/m以下がより好ましく、5g/m以下が更に好ましい。具体的には、生理用品中に含まれる第2実施形態の液膜開裂剤としての炭素原子数5以上の炭化水素化合物の含有量は、0.00001g/m以上10g/m以下が好ましく、0.0001g/m以上7g/m以下がより好ましく、0.0003g/m以上5g/m以下が更に好ましい。
【0133】
第2実施形態の液膜開裂剤として使用可能な炭化水素化合物としては、油又は脂肪、例えば天然油もしくは天然脂肪が挙げられる。具体例としては、ヤシ油、ツバキ油、ヒマシ油、ココナッツ油、トウモロコシ油、オリーブ油、ひまわり油、トール油、及びこれらの混合物などが挙げられる。
また、第2実施形態の液膜開裂剤として使用可能な炭化水素化合物としては、カプリル酸、カプリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ベヘニン酸、及びこれらの混合物などの下記式[VII]で表すような脂肪酸が挙げられる。
【0134】
【化11】
【0135】
前記式[VII]中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。ここで、Cは、前記各脂肪酸の炭化水素基を示す。
【0136】
第2実施形態の液膜開裂剤として使用可能な炭化水素化合物(脂肪酸)の具体例として、直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和、置換又は非置換の多価アルコール脂肪酸エステル又は多価アルコール脂肪酸エステルの混合物が挙げられ、その例として、下記式[VIII−I]又は[VIII−II]で表すような、グリセリン脂肪酸エステルやペンタエリスリトール脂肪酸エステルが挙げられ、具体的にはグリセリルトリカプリレート、グリセリルトリパルミテート及びこれらの混合物などが挙げられる。なお、グルセリン脂肪酸エステルや、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルの混合物には、典型的には多少のモノ、ジ、およびトリエステルが含まれる。グリセリン脂肪酸エステルの好適な例としては、グリセリルトリカプリレート、グリセリルトリカプリエートの混合物などが挙げられる。また、界面張力を低下させ、より高い拡張係数を得る観点から、水不溶性を維持できる程度にポリオキシアルキレン基を導入した多価アルコール脂肪酸エステルを用いてもよい。
【0137】
【化12】
【0138】
【化13】
【0139】
前記式[VIII−I]及び[VIII−II]中、m、m’、m’’、n、n’及びn’’は各々独立に1以上の整数である。複数のm、複数のnは各々において、互いに同一でも異なっていてもよい。ここで、C、C’H’及びC’’H’’は、それぞれ、前記各脂肪酸の炭化水素基を示す。
【0140】
第2実施形態の液膜開裂剤として使用可能な炭化水素化合物(脂肪酸)の具体例として、直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和の脂肪酸が、多数の水酸基を有するポリオールとエステルを形成し、一部の水酸基がエステル化されずに残存している脂肪酸又は脂肪酸混合物が挙げられ、その例として、下記式[IX]のいずれか、下記式[X]のいずれか、又は下記式[XI]のいずれかで表すような、グリセリン脂肪酸エステルや、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルの部分エステル化物が挙げられる。具体的には、エチレングリコールモノミリステート、エチレングリコールジミリステート、エチレングリコールパルミテート、エチレングリコールジパルミテート、グリセリルジミリステート、グリセリルジパルミテート、グリセリルモノオレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジオレエート、ソルビタントリステアリル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジラウレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、及びこれらの混合物などが挙げられる。なお、グルセリン脂肪酸エステルや、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルなどの部分エステル化物からなる混合物には、典型的には多少の完全エステル化された化合物が含まれる。
【0141】
【化14】
【0142】
前記式[IX]中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。複数のm、複数のnは各々において、互いに同一でも異なっていてもよい。ここで、Cは、前記各脂肪酸の炭化水素基を示す。
【0143】
【化15】
【0144】
前記式[X]中、R52は、炭素原子数2以上22以下の、直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和の炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等)を示す。具体的には、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、ベヘニル基、オレイル基、リノール基などが挙げられる。
【0145】
【化16】
【0146】
前記式[XI]中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。複数のm、複数のnは各々において、互いに同一でも異なっていてもよい。ここで、Cは、前記各脂肪酸の炭化水素基を示す。
【0147】
また、第2実施形態の液膜開裂剤として使用可能な炭化水素化合物としては、ステロール、フィトステロール及びステロール誘導体が挙げられる。具体例としては、下記式[XII]のステロール構造を有する、コレステロール、シトステロール、スチグマステロール、エルゴステロール、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0148】
【化17】
【0149】
また、第2実施形態の液膜開裂剤として使用可能な炭化水素化合物としては、アルコールが挙げられる。アルコールの具体例としては、下記式[XIII]で表すような、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0150】
【化18】
【0151】
前記式[XIII]中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。ここで、Cは、前記各アルコールの炭化水素基を示す。
【0152】
第2実施形態の液膜開裂剤として使用可能な脂肪酸エステルの具体例としては、下記式[XIV]で表すような、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート、セチルエチルヘキサノエート、トリエチルヘキサノイン、オクチルドデシルミリステート、エチルヘキシルパルミテート、エチルヘキシルステアレート、ブチルステアレート、ミリスチルミリステート、ステアリルステアレート、コレステリルイソステアレート及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0153】
【化19】
【0154】
前記式[XIV]中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。ここで、2つのCは、同一でも異なっていてもよい。C−COO−のCは前記各脂肪酸の炭化水素基を示す。−COOCのCはエステルを形成するアルコール由来の炭化水素基を示す。
【0155】
また、第2実施形態の液膜開裂剤として使用可能な炭化水素化合物としては、ワックスが挙げられる。ワックスの具体例としては、下記式[XV]で表すような、セレシン、パラフィン、ワセリン、鉱油、流動イソパラフィンなどが挙げられる。
【0156】
【化20】
【0157】
前記式[XV]中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。
【0158】
前述の第2実施形態の液膜開裂剤の拡張係数、表面張力、水溶解度及び界面張力は、それぞれ、前記の炭素原子数5以上の炭化水素化合物において、例えば、親水的なポリオキシエチレン基を、水不溶性を維持できる程度に少量導入すること、疎水的だが界面張力を低下させることができるポリオキシプロピレン基やポリオキシブチレン基を導入すること、炭化水素鎖の鎖長を変化させること、炭化水素鎖に分岐鎖を有するものを用いること、炭化水素鎖に二重結合を有するものを用いること、炭化水素鎖にベンゼン環やナフタレン環を有するものを用いること等により、所定の範囲に設定できる。
【0159】
本発明の生理用品は、上述した液膜開裂剤を含有する液膜開裂剤含有領域を有しているところ、該液膜開裂剤含有領域又は他の領域において、上述した液膜開裂剤の他に、必要により他の成分を含有させてもよい。また、第1実施形態の液膜開裂剤、第2実施形態の液膜開裂剤は、何れか一方の剤を用いてもよく、両者の剤を組み合わせて用いてもよく、後者の場合は、一の液膜開裂剤含有領域中に両剤を混在させてもよい。この点は、第2実施形態の液膜開裂剤における上述した第1及び第2の具体例についても同じである。
【0160】
(生理用品の基本構成)
上述の通り、本発明の生理用品においては、吸収体と、その肌当接面側に表面シート、吸収体の非肌当接面側に裏面シートを配置することができる。裏面シートは、液不透過性、液難透過性又は撥水性であることができる。表面シートと吸収体との間には、セカンドシートと呼ばれる液透過性のシートを配置することもできる。生理用品が例えば生理用ナプキンである場合、該生理用ナプキンは一般に長手方向及びそれに直交する幅方向を有する縦長形状を有している。生理用ナプキンにおける肌当接面には、長手方向に延びる一対の防漏カフを、幅方向の両側部に配置することができる。防漏カフは、生理用ナプキンの着用者の肌側に対して起立性向を有するものであり、それによって生理用ナプキンの肌当接面に排泄された経血の漏れを阻止するものである。
【0161】
吸収体は、高吸収性ポリマーを含んでいることが好ましいが、これに代え、若しくは高吸収性ポリマーに加え、吸収性の繊維材料を含んでいてもよい。又は、吸収体は高吸収性ポリマーのみから構成されていてもよい。吸収体の典型的な例は、この種の生理用品に通常含まれている吸収性コアとも呼ばれる部材であり、具体的には例えば、木材パルプからなるフラッフパルプ、親水化処理された合繊繊維等の繊維材料と、粒子状の高吸収性ポリマーとを含んで構成されるものが挙げられる。斯かる構成の吸収性コアにおいて、高吸収性ポリマーは通常、湿潤状態の高吸収性ポリマーに生じる粘着力又は別途添加した接着剤若しくは接着性繊維等のバインダーを介して、繊維材料の集合体に保持されている。吸収性コアは、フラッフパルプと高吸収性ポリマーとが混合された積繊体であることができ、該積繊体中でフラッフパルプと高吸収性ポリマーとは均一に混合されていたり、偏って混合されていたり、部分的にこれらの材料の坪量が異なるものを用いてもよい。
【0162】
本発明で用いる高吸収性ポリマーとしては、自重の20倍以上の液を吸収・保持でき且つゲル化し得るものが好ましい。そのような高吸収性ポリマーの例としては、デンプンや架橋カルボキシルメチル化セルロース、アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合体又は共重合体等、ポリアクリル酸及びその塩並びにポリアクリル酸塩グラフト重合体を挙げることができる。ポリアクリル酸塩としては、ナトリウム塩を好ましく用いることができる。
【0163】
吸収体は、吸収性コアとそれを被覆するコアラップシートを有していてもよい。コアラップシートは吸収性コアの全体を包む形態のみならず、例えば吸収性コアの肌当接面側のみを覆うなど、部分的に被覆する形態でもよい。本発明において、吸収体とは吸収性コア及び任意で採用されるコアラップシートを含む概念である。コアラップシートには、クレープ紙やスパンボンド−メルトブローン−スパンボンド(SMS)不織布などを用いることができる。
【0164】
表面シートは、液透過性のシートであれば特に制限されないが、例えば、エアスルー不織布、スパンボンド不織布、スパンレース不織布など、この分野において周知の材料を任意に採用することができる。これらの不織布は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂から構成される繊維で形成されることができ、これらの繊維には親水性の繊維処理剤が適用されていることが好ましい。表面シートは、1層からなるものであってもよく、2層以上の複数層からなるものであってもよい。また、表面シートは、肌当接面又は非肌当接面が平坦なものでもよく、両面の何れか一方又は両方が凹凸を有していて平坦ではないものでもよく、繊維の坪量又は密度に種々の変化を付けたものであってもよい。表面シートが複数層からなる場合、血球凝集剤及び液膜開裂剤は、全ての層に含有されてもよく、一部に含有されてもよい。
裏面シートは、液透過性にする場合には、表面シートと同様のものを用いることができる。裏面シートを液不透過性、液難透過性又は撥水性にする場合には、スパンボンド不織布、SMS不織布、透湿性フィルムなどを用いることができ、不織布と透湿性フィルムとの積層体を用いることもできる。
【0165】
図5及び図6には、本発明の生理用品の一実施形態としての生理用ナプキン10が示されている。生理用ナプキン10は、使用者の前後方向に対応する縦方向Xとこれに直交する横方向Yとを有し、図5に示す如き平面視において、縦方向Xの最大長さが横方向Yのそれに比して長い縦長の形状をなしている。
【0166】
生理用ナプキン10は、生理用ナプキン10の肌当接面を形成する液透過性の表面シート20と、生理用ナプキン10の非肌当接面を形成する撥水性の裏面シート30と、両シート20,30間に介在された液保持性の吸収体40とを具備し、これらが接着剤等の公知の接合手段により一体化されて構成されている。表面シート20及び裏面シート30は、それぞれ、吸収体40の周縁から延出し、それらの延出部の端部において、接着剤、ヒートシール等の公知の接合手段により互いに接合されてエンドシール部50を形成している。生理用ナプキン10の肌当接面には、表面シート20と吸収体40とが一体的に凹陥してなる平面視環状の防漏溝60が形成されている。生理用ナプキン10の肌当接面における縦方向Xに沿う左右両側部には、一対のサイドシート70,70が生理用ナプキン10の縦方向Xの略全長に亘って配されている。吸収体40は、液保持性の吸収性コア41と、該吸収性コア41の肌当接面及び非肌当接面の両面を被覆するコアラップシート42とを含んで構成されている。吸収性コア41は、繊維材料と粒子状の高吸収性ポリマーとを含んで構成されている。
【0167】
図7には、生理用ナプキン10が具備する表面シート20が示されている。表面シート20は、肌当接面である第1面20A側は凹凸形状であるが、非肌当接面である第2面20B側は、平坦であるか、又は凹凸形状であるものの、第1面20A側よりも凹凸の程度が極めて小さい。第1面20A側の凹凸形状は、具体的には、複数の凸部21とこれを囲む線状の凹部22とを有する。複数の凸部21は何れも第1面20A側に隆起している。線状の凹部22は格子状に配置されており、表面シート20の第1面20Aは、この格子状に配置された凹部22によって複数の領域に区画され、その各領域に凸部21が1個配置されている。即ち、表面シート20の肌当接面である第1面20Aには、複数の凸部21が点在して配置されている。
【0168】
表面シート20は、加熱によってその長さが伸びる熱伸長性繊維を含む。熱伸長性繊維としては、例えば、加熱により樹脂の結晶状態が変化して伸びる繊維、あるいは捲縮加工が施された繊維であって加熱により捲縮が解除されて見掛けの長さが伸びる繊維等が挙げられる。表面シート20の製造中間体である、未加熱の熱伸長性繊維を主体とする繊維ウエブに対し、エンボス加工等によって格子状の凹部22を形成した後、熱風を吹き付けるエアスルー加工などの加熱処理を施すと、凹部22によって区画された各領域に存する熱伸長性繊維が伸長し、これにより各領域が凹部22よりも嵩高になる。こうして形成された嵩高部分が凸部21である。斯かる表面シート20の製造工程に起因して、凸部21は、構成繊維に満たされた中実構造であるが、繊維密度が凹部22よりも疎で嵩高い部分となっている。一方、凹部22は、表面シート20の構成繊維が圧着又は接着された圧接着部を有し、凹部22に存する熱伸長性繊維は、圧接着により熱伸長性が阻害されているため、加熱処理を経ていても非伸長の状態である。
【0169】
表面シート20は、第1面20A側の上層と、第2面20B側の下層とからなる2層構造を有する。第1面20A側の上層は、凸部21を含む凹凸形状を有する層であり、熱伸長性繊維を主体とする。この上層の全構成繊維に占める熱伸長性繊維の割合は、好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、また、好ましくは100質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。一方、第2面20B側の下層は、熱伸長性繊維を含まないか、凹凸形状を有する第1面20A側の上層よりも熱伸長性繊維の含有量が少ない。表面シート20を構成する両層は、凹部22の圧接着部で互いに接合されていることが好ましい。なお、表面シート20は、2層構造に限定されず、単層構造であってもよく、3層以上の多層構造であってもよい。
【0170】
このような凹凸形状を有する表面シート20を採用することにより、着用者の肌との接触面積が抑えられ蒸れやかぶれが効果的に防止される。また、肌に触れる凸部21は、熱伸長性繊維の熱伸長により嵩高く、柔らかい肌触りとなる。
【0171】
表面シート20は、例えば次の方法により製造することができる。まず、熱伸長性繊維を含む繊維ウエブに対して、ヒートエンボス加工によって線状の凹部22を形成する。このとき、凹部22では、熱伸長性繊維は圧着又は融着されて熱伸長されないで固定されている。次いで、繊維ウエブに対してエアスルー加工を施す。これにより凹部22以外の部分、即ち格子状の凹部22で包囲された領域に存する熱伸長性繊維が伸長して該部分が第1面20A側に隆起することで凸部21が形成され、表面シート20となる。表面シート20の構成繊維としては、熱伸長性繊維のみを用いてもよく、あるいは、熱伸長性繊維に加えてさらに非熱伸長性の熱融着性繊維を用いてもよい。表面シート20の構成繊維としては、例えば、特開2005−350836号公報の段落[0013]、[0037]〜[0040]に記載のもの、特開2011−1277258号公報の段落[0012]、[0024]〜[0046]に記載のものなどを用いることができる。
【0172】
(血球凝集剤含有領域及び液膜開裂剤含有領域)
本発明者らは、血球凝集剤を用いつつも、該生理用品に液膜開裂剤を併用することで、使用後の生理用品における表面白さを維持できることを見出した。加えて、後述するように、血球凝集剤のみを使用した場合及び液膜開裂剤のみを使用した場合よりも、これらを併用した場合の方が、著しく液戻り量が低減することを見出した。この現象について、生理用ナプキン10の構成を用いた場合を例にとって説明する。
【0173】
まず、吸収性コア41の肌当接面側に位置するコアラップシート42に、血球凝集剤含有領域を設け、液膜開裂剤含有領域を設けない生理用ナプキン(以下、生理用ナプキン10Aという)について説明する。生理用ナプキン10Aは液膜開裂剤を含有しておらず、本発明の範囲外の生理用品である。
【0174】
生理用ナプキン10Aに血液が排泄されると、コアラップシート42の血球凝集剤含有領域に達した血液が、その場で赤血球凝集塊を形成し始め、血漿成分と分離される。すると、吸収体40中の間隙で濾過されるように、赤血球凝集塊は吸収体40の肌当接面側で保持され、血漿成分が吸収体中に拡散していく。そして、血漿成分は吸収体40中の非肌当接面側まで到達して、吸収性コア41の非肌当接面側で主に保持される。ここで保持された血漿成分を含む液は、生理用ナプキン10Aに圧力がかかった場合などに、肌当接面側に戻ろうとするが、吸収体40の肌当接面側に存在する赤血球凝集塊に阻まれ、表面シート20にまで到達しにくい。これにより、液戻り量の低減が実現される。
しかしながら生理用ナプキン10Aは、表面シート20に近い位置に赤血球凝集塊が形成されるため、使用後における肌当接面側からの外観に改善の余地がある。
【0175】
次に、表面シート20に液膜開裂剤含有領域を設け、血球凝集剤含有領域を設けない生理用ナプキン(以下、生理用ナプキン10Bという)について説明する。生理用ナプキン10Bは血球凝集剤を含有しておらず、本発明の範囲外の生理用品である。
【0176】
生理用ナプキン10Bに血液が排泄されると、表面シート20の液膜開裂剤含有領域に達した血液は、液膜開裂剤が液膜の層の一部を押しのけて液膜を不安定化せる作用により、表面シート20中で液膜を形成し続けられなくなり、自重により吸収体40に流れていく。これにより、吸収体40中で、血液、より具体的には液膜開裂剤含有領域を通過した血液は、肌当接面側から非肌当接面側に向かって流れる間に、平面方向に拡散していく。結果として、吸収体40における血液の拡散面積は、肌当接面側よりも非肌当接面側の方が、大きくなる。従って、表面シート20に液を保持しない効果と、吸収体40の肌当接面側の拡散面積が小さいことが相俟って、使用後の生理用ナプキン10Bの表面白さが極めて優れたものになる。また、吸収体40から表面シート20の肌当接面側に至るまでは、液膜が存在しないことにより、液の導通路が形成されにくく、液戻り量の低減が実現される。
しかしながら、血球凝集剤を含有している生理用ナプキン10Aの方が、血球凝集剤を含有していない生理用ナプキン10Bに比して、圧力がかかった場合などに、肌当接面側に戻ろうとする血液が、吸収体の肌当接面側に存在する赤血球凝集塊により阻まれ、表層まで戻りにくいため液戻り量が少なく、生理用ナプキン10Bの血液吸収性能に改善の余地がある。
【0177】
血球凝集剤及び液膜開裂剤の何れか一方のみを含有する生理用ナプキン10A,10Bに対し、本発明の生理用品は両剤を含有する。そして、本発明の生理用品には、血球凝集剤を含有する血球凝集剤含有領域と、液膜開裂剤を含有する液膜開裂剤含有領域とが配されているところ、両領域の配置位置は何れも、吸収体又は吸収体より肌当接面側である。血球凝集剤含有領域、液膜開裂剤含有領域を吸収体よりも肌当接面側に配することで、これらの作用効果を十分に活かすことができ、液戻り量の低減、使用後の表面白さの向上効果が奏される。
【0178】
本発明の生理用品の第1実施形態として、吸収性コア41の肌当接面側に位置するコアラップシート42に、血球凝集剤と液膜開裂剤とが混合して配されたもの、即ち、血球凝集剤含有領域と液膜開裂剤含有領域とが厚み方向にも平面方向にも重複している生理用ナプキン(以下、生理用ナプキン10Cという)が挙げられる。
【0179】
生理用ナプキン10Cに血液が排泄され、その血液がコアラップシート42に到達すると、まず液膜開裂剤の効果により、血液は液膜を形成し続けられなくなり、吸収性コア41内に速やかに血液が引き込まれていく。これと同時に、血球凝集剤の効果により、徐々に赤血球凝集塊が形成されていく。形成された赤血球凝集塊はそれ以上吸収性コア41内の空隙を通過することができないため、吸収体40の厚み方向における中腹で保持されることになる。一方、血液中の血漿成分は更に吸収性コア41の非肌当接面側まで拡散し、そこで保持される。この全ての過程において、液膜開裂剤含有領域を通過した血液は、平面方向へ拡散していくことになる。結果として、吸収体40における血液の拡散面積は、肌当接面側よりも非肌当接面側の方が大きくなる。
以上の現象により、まず液戻り量に関しては、吸収体40の非肌当接面側で保持された液は、赤血球凝集塊に阻まれて、肌当接面側に移行しにくくなる。加えて、コアラップシート42には液膜が形成されないため、表面シート20に至る液の導通路が形成されにくくなる。以上の相乗効果により、生理用ナプキン10Cの液戻り量は、生理用ナプキン10A及び生理用ナプキン10Bよりも、極めて低減される。
次に、表面白さについては、赤血球凝集塊が吸収体40の厚み方向における中腹で保持されているため、表面シート20側からは透けて見えにくくなる。加えて、吸収体40の肌当接面側の拡散面積が小さいため、生理用ナプキン10Cは生理用ナプキン10Aよりも優れた白さを呈する。
【0180】
本発明の生理用品の第2実施形態として、表面シート20に液膜開裂剤含有領域が設けられ、吸収性コア41の肌当接面側に位置するコアラップシート42に、血球凝集剤含有領域が設けられた生理用ナプキン(以下、生理用ナプキン10Dという)が挙げられる。生理用ナプキン10Dにおいて、表面シート20の液膜開裂剤含有領域と、コアラップシート42の血球凝集剤含有領域とは、平面視において少なくとも一部が、好ましくは全部が重複している。
【0181】
生理用ナプキン10Dにおいては、生理用ナプキン10Cと同様の現象が起こるが、コアラップシート42のみならず、表面シート20においても液膜が形成されない点が異なる。これにより、表面シート20自体の白さが生理用ナプキン10Cよりも改善しているため、吸収体40中の赤血球凝集塊に対する隠蔽性も改善する。結果として、生理用ナプキン10Dは生理用ナプキン10Cよりも、さらに表面白さが優れたものとなる。
【0182】
本発明の生理用品において、血球凝集剤及び液膜開裂剤は、吸収体又は吸収体より肌当接面側の、いずれの箇所に配されていてもよい。しかし、吸収体に配される場合であっても、いずれの剤も、吸収体の肌当接面側や、吸収体の肌当接面側に位置するコアラップシートに配されることが好ましい。即ち、いずれの剤も、高吸収性ポリマーより肌当接面側に配されることが好ましい。これにより、高吸収性ポリマーに血液が吸収される前に、血球を凝集させることができる。また、これにより、吸収体内に血液が拡散する前に、血液の表面張力を下げることができる。
【0183】
また、本発明の生理用品において、血球凝集剤含有領域は、表面シート20には配されずに、表面シートより非肌当接面側に配されていることが、生理用品内部で赤血球をはじめとする経血中の非液体成分の凝集塊を生成させ、該非液体成分の使用者の肌への付着を防ぐ点で好ましい。生理用ナプキン10C及び10Dにおいては何れも、血球凝集剤含有領域はコアラップシート42に配されている。血球凝集剤含有領域は吸収性コア41に配されていてもよい。
【0184】
また、本発明の生理用品において、血球凝集剤含有領域と液膜開裂剤含有領域とは、生理用品の厚み方向については、生理用ナプキン10Cのように、両領域は同じ位置に配されていてもよいが、両剤の相乗効果を得やすい観点から、両領域は異なる位置に配されていることが好ましく、特に生理用ナプキン10Dのように、液膜開裂剤含有領域は血球凝集剤含有領域より肌当接面側に配されていることが好ましい。なお、ここでいう、「液膜開裂剤含有領域は血球凝集剤含有領域より肌当接面側に配されている」状態は、生理用品の平面視において両領域が重複する場合に、その重複部分どうしで成立すればよい。
【0185】
一方、生理用品の平面方向については、血球凝集剤含有領域と液膜開裂剤含有領域とは重複せずに離間していてもよいが、両剤の相乗効果を得やすい観点から、生理用ナプキン10C及び10Dのように、両領域は平面方向において重複していることが好ましい。
【0186】
また、本発明の生理用品が図5及び図6に示す如き生理用ナプキンの場合、血球凝集剤含有領域及び液膜開裂剤含有領域は、両領域の血液との接触を容易にする観点から、排泄口当接域に設けることが好ましい。排泄口当接域とは、昼用生理用ナプキンにおいては、その幅方向及び長手方向の中央部であり、夜用生理用ナプキンにおいては、該夜用生理用ナプキンを長手方向に4分割した場合における、前方側(着用者の腹側)から2番目に位置する分割領域の幅方向及び長手方向の中央部である。
【0187】
血球凝集剤含有領域における血球凝集剤の平面方向での分布パターン、及び液膜開裂剤含有領域における液膜開裂剤の平面方向での分布パターンは、それぞれ特に制限されず、任意のパターンを採用できる。
血球凝集剤含有領域を例にとると、例えば前述した生理用ナプキン10C及び10Dのように、血球凝集剤含有領域をコアラップシートに配する場合、血球凝集剤はコアラップシートの一面の全域に連続的に付着させてもよく、あるいはコアラップシートの一面の一部のみに連続的に付着させてもよい。前者の形態は、どのような位置から排泄があっても対応できるという利点を有し、後者の形態は、血球凝集剤の付着に起因するシートの柔軟性の低下を抑制できるという利点を有する。また、血球凝集剤の付着パターンは、このような、血球凝集剤の非付着部の無い連続的な付着パターンに限定されず、血球凝集剤の付着部と非付着部とが混在した非連続的な付着パターンでもよい。非連続的な付着パターンとしては、例えば、1)平面視線状の血球凝集剤の付着部がその長手方向と直交する方向に間欠配置されたストライプ状パターン、2)互いに交差する複数本の平面視線状の血球凝集剤の付着部による格子状パターン、3)平面視円形状などの所定形状をなす血球凝集剤の付着部が散点的に配置されたドット状パターンが挙げられる。前記1)のパターンは、線状の血球凝集剤の付着部の長手方向に沿って排泄液を拡散し得るという利点を有し、例えば、線状の血球凝集剤の付着部の長手方向を生理用品の縦方向(着用者の前後方向)に一致させれば、経血等の排泄液の縦方向への拡散が促進される。前記2)及び3)のパターンは共に、赤血球凝集塊の残存による表面赤さが低減されるという利点を有し、前記2)のパターンについてはさらに、血球凝集剤による作用効果の確実性が向上するという利点も有する。液膜開裂剤含有領域についても、血球凝集剤含有領域と同様の剤付着パターンを採用することができる。
【0188】
本発明の生理用品において、血球凝集剤含有領域と液膜開裂剤含有領域とは面積が異なっていても同じでもよい。
生理用品中における血球凝集剤含有領域の総面積は、広い面積で血液に接触させる観点から、30cm以上が好ましく、70cm以上がより好ましく、100cm以上が更に好ましい。また、生理用品中における血球凝集剤含有領域の総面積は、広ければ広いほどよいが、350cm以下が現実的である。
生理用品中における液膜開裂剤含有領域の総面積は、広い面積で血液に接触させる観点から、10cm以上が好ましく、30cm以上がより好ましく、50cm以上が更に好ましい。また、生理用ナプキン中における液膜開裂剤含有領域の総面積は、広ければ広いほどよいが、350cm以下が現実的である。
【0189】
(分析方法)
市販の生理用品から、血球凝集剤及び液膜開裂剤並びに第三成分を分析する方法は、下記の通りである。
まず、分析対象の生理用品に対して、ドライヤー等の加熱機器を用いて各部材を接着しているホットメルト接着剤を弱めた後、表面シート、吸収体、裏面シートなどの部材に分解する。次に、分解した各部材に対して、非極性溶媒から極性溶媒までの多段階溶媒抽出法を行い、溶媒を乾燥させて、測定対象の混合物を取り出す。取り出した物質の構成物に合わせて適切なカラム及び溶媒を選択した上で、それぞれの成分を高速液体クロマトグラフィで分画し、さらに各画分についてNMR(核磁気共鳴法)、IR(赤外分光法)、MS(質量分析法)、元素分析等を行うことで、各画分の構造を同定する。同時に、各画分の重量を測定する。高分子化合物を含む場合には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)などの手法を併用することで、構成成分の同定を行うことがより容易になる。
得られた構成成分が各測定に供するのに十分な量が無い場合は、その物質が市販品であれば調達、市販品でなければ合成することにより十分な量を取得する。
これにより、得られた構成成分が、カチオン性ポリマーである場合、又は、上述の(凝集塊を形成する性質)を有する物質である場合は血球凝集剤であると判断する。また、得られた構成成分の表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、15mN/m以上である場合、若しくは、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、0mN/mよりも大きく、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が、20mN/m以下である場合、又は、上述の(液膜を消失させる性質)を有する物質である場合は液膜開裂剤であると判断する。血球凝集剤及び液膜開裂剤のいずれにも該当しないものを第三成分と判断する。
【0190】
(分子量の測定)
カチオン性ポリマー(血球凝集剤)の分子量は、東ソー株式会社製のHLC−8320GPCを用いて測定することができる。具体的な測定条件は次のとおりである。
ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体の場合
分離カラム:ガードカラムαと分析カラムα−Mを直列でつないだもの(東ソー株式会社製)
溶離液:水に150mmol/Lの硫酸ナトリウムと1質量%の酢酸を溶解させたもの
溶媒流速:1.0ml/min
注入量:100μL
分離カラム温度:40℃
ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体以外の場合
分離カラム:ガードカラムαと分析カラムα−Mを直列でつないだもの(東ソー株式会社製)
溶離液:エタノール:水=3:7(体積比)に50mmol/Lの臭化リチウムと1質量%の酢酸を溶解させたもの
溶媒流速:0.6ml/min
注入量:100μL
分離カラム温度:40℃
検出器は、RI(屈折率)を用いる。測定サンプルとしては、溶離液1mLに対して1mgの測定対象のカチオン性ポリマーを溶解させる。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体は、溶離液10mLに対して、分子量5900のプルラン、分子量47300のプルラン、分子量21.2万のプルラン、分子量78.8万のプルラン、各2.5mg溶解させたプルラン混合物を、分子量標準として用いる。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体以外は、溶離液20mLに対して、分子量106のポリエチレングリコール(PEG)、分子量400のPEG、分子量1470のPEG、分子量6450のPEG、分子量5万のポリエチレンオキシド(PEO)、分子量23.5万のPEO、分子量87.5万のPEO、各10mg溶解させたPEG−PEO混合物を、分子量標準として用いる。
【0191】
カチオン性ポリマー以外の高分子化合物の重量平均分子量の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)「CCPD」(商品名、東ソー株式会社製)を用いて測定される。測定条件は下記のとおりである。また、換算分子量の計算はポリスチレンで行う。
分離カラム:GMHHR−H+GMHHR−H(カチオン)
溶離液:LファーミンDM20/CHCl3
溶媒流速:1.0ml/min
分離カラム温度:40℃
【0192】
(水溶解度)
本明細書において、「水溶解度」とは、脱イオン水100gに対する血球凝集剤又は液膜開裂剤の溶解可能質量である。また、本明細書において「水溶性」とは、水溶解度が10g以上であるものを言う。
温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で、100gの脱イオン水をスターラーで撹拌しながら、測定対象の化合物を徐々に溶解していき、その溶解程度を目視で観察し、該化合物が溶けなくなった時点、即ち、浮遊、沈殿、析出及び白濁のいずれか1つでも目視確認できた時点での、該化合物の溶解量を水溶解度とする。具体的には、0.0001g毎に剤を添加して測定する。その結果、0.0001gも溶けないと観察されたものは「0.0001g未満」とし、0.0001gは溶けて、0.0002gは溶けなかったと観察されたものは「0.0001g」とする。なお、測定対象の化合物が界面活性剤の場合、「溶解」とは単分散溶解とミセル分散溶解の両方を意味し、浮遊や沈殿、析出、白濁が見られた時点での溶解量が水溶解度となる。
【0193】
(製造方法)
血球凝集剤含有領域及び液膜開裂剤含有領域は、不織布を構成する合成繊維や、吸収体を構成するパルプ繊維や高吸収性ポリマーなどを、予めこれらの剤単体、又は前記剤を含む溶液に浸してから、生理用ナプキンを製造することで形成し得る。この他に、合成繊維を不織布化した後に不織布に対して、又はパルプ繊維を吸収性コアやコアラップシートに成形した後にこれらに対して、これらの単体、又は前記剤を含む溶液を塗布する方法が挙げられる。前記溶液は、例えば血球凝集剤や液膜開裂剤を溶媒で希釈した溶液などが挙げられる(以下、この溶液を剤溶液ともいう。)。なお、液膜開裂剤を含む溶液には、前述したリン酸エステル型のアニオン界面活性剤を混合していてもよい。その場合の液膜開裂剤とリン酸エステル型のアニオン界面活性剤との含有比率は前述のとおりであることが好ましい。前記溶媒としては、これらの剤を、塗工しやすいように溶媒中に適度に溶解又は分散させて乳化させることができるものを特に制限なく用いることができる。例えば、血球凝集剤を溶解させるものとしてエタノール、メタノールなどのアルコール、又は水が挙げられる。液膜開裂剤を溶解させるものとしてエタノール、メタノール、アセトン、ヘキサンなどの有機溶媒、もしくは乳化液とする場合には当然ながら水も溶媒ないしは分散媒体として用いることができ、乳化させる時に使用する乳化剤としてアルキルリン酸エステル、脂肪酸アミド、アルキルベタイン、アルキルスルホコハク酸ナトリウムなどを含む各種界面活性剤が挙げられる。血球凝集剤と液膜開裂剤とを同時に溶解させる溶媒としては、水とアルコールの混合溶媒が挙げられる。
【0194】
血球凝集剤及び液膜開裂剤を構成材料の表面に付着させる方法としては、通常用いられる各種の方法を特に制限なく採用することができる。例えば、スプレーによる塗布、スロットコーターによる塗布、浸漬等が挙げられる。不織布にこれらの剤を適用する場合は、これらの処理は、ウエブ化する前の繊維に対して行ってもよいし、繊維を各種の方法でウエブ化した後に行ってもよい。また、吸収体にこれらの剤を適用する場合は、これらの処理は、吸収体の形状にする前のフラッフパルプや吸収性ポリマーに対して行ってもよいし、吸収体の形状にした後に吸収性コアやコアラップシートに対して行ってもよい。また、必要によりこれらの剤を溶媒に溶解させた剤溶液、ないしはこれらの剤の乳化液、分散液を用いて行われる。その場合、これらの剤が表面に付着した構成材料は、例えば、熱風送風式の乾燥機により、構成材料の融点や引火点より十分に低い温度(例えば120℃以下)で乾燥されることが好ましい。
【0195】
本発明の生理用品は、生理用ナプキンに限らず、血液を吸収する可能性があるものであれば、パンティライナーなど他の生理用品にも適用できる。
【0196】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の形態を開示する。
<1>
肌当接面側に位置する表面シート、非肌当接面側に位置する裏面シート、及び、これらに挟まれた吸収体を有する生理用品であって、
前記吸収体又は前記吸収体より肌当接面側に、
血球凝集剤を含有する血球凝集剤含有領域と、
液膜開裂剤を含有する液膜開裂剤含有領域と
が配されている、生理用品。
<2>
前記血球凝集剤がカチオン性ポリマーである、前記<1>に記載の生理用品。
【0197】
<3>
前記液膜開裂剤の、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、15mN/m以上である、前記<1>又は<2>に記載の生理用品。
<4>
肌当接面側に位置する表面シート、非肌当接面側に位置する裏面シート、及び、これらに挟まれた吸収体を有する生理用品であって、
前記吸収体又は前記吸収体より肌当接面側に、
カチオン性ポリマーを含有するカチオン性ポリマー含有領域と、
下記の化合物C1を含有する化合物含有領域と
が配されている、生理用品。
[化合物C1]
表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、15mN/m以上である化合物。
【0198】
<5>
前記液膜開裂剤又は前記化合物C1の、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、15mN/m以上であり、好ましくは20mN/m以上であり、より好ましくは25mN/m以上であり、更に好ましくは30mN/m以上であり、また、50mN/m以下である、前記<1>〜<4>のいずれか1に記載の生理用品。
<6>
前記液膜開裂剤又は前記化合物C1が、下記の構造X、X−Y、及びY−X−Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を有する化合物からなる、前記<1>〜<5>のいずれか1に記載の生理用品。
構造Xは、>C(A)−〈Cは炭素原子を示す。また、<、>及び−は結合手を示す。以下、同様。〉、−C(A)−、−C(A)(B)−、>C(A)−C(R)<、>C(R)−、−C(R)(R)−、−C(R−、>C<及び、−Si(RO−、−Si(R)(R)O−のいずれかの基本構造が、繰り返されるか、もしくは2種以上が組み合わされた構造のシロキサン鎖、又はその混合鎖を表す。構造Xの末端には、水素原子、又は、−C(A)、−C(A)B、−C(A)(B)2、−C(A)−C(R、−C(RA、−C(R、また、−OSi(R、−OSi(R(R)、−Si(R、−Si(R(R)からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する。
前記のRやRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はハロゲン原子を示す。A、Bは各々独立に、酸素原子又は窒素原子を含む置換基を示す。構造X内にR、R、A、Bが各々複数ある場合は、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。
Yは、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子から選ばれる原子を含む、親水性を有する親水基を表す。Yが複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
<7>
前記液膜開裂剤又は前記化合物C1が、有機変性シリコーンであり、該有機変性が、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシ変性、ジオール変性、カルビノール変性、(メタ)アクリル変性、メルカプト変性、フェノール変性、ポリエーテル変性(ポリオキシアルキレン変性を含む)、メチルスチリル変性、長鎖アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、高級アルコキシ変性、高級脂肪酸変性、若しくは、フッ素変性から選ばれる1又は複数である、前記<1>〜<6>のいずれか1に記載の生理用品。
【0199】
<8>
前記液膜開裂剤又は前記化合物C1が、下記式[I]〜[IV]で表されるポリオキシアルキレン変性シリコーンである、前記<1>〜<6>のいずれか1に記載の生理用品。
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【0200】
<9>
前記液膜開裂剤の、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、0mN/mよりも大きく、
前記液膜開裂剤の、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が、20mN/m以下である、前記<1>又は<2>に記載の生理用品。
<10>
肌当接面側に位置する表面シート、非肌当接面側に位置する裏面シート、及び、これらに挟まれた吸収体を有する生理用品であって、
前記吸収体又は前記吸収体より肌当接面側に、
カチオン性ポリマーを含有するカチオン性ポリマー含有領域と、
下記の化合物C2を含有する化合物含有領域と
が配されている、生理用品。
[化合物C2]
表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、0mN/mよりも大きく、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が、20mN/m以下である化合物。
【0201】
<11>
前記液膜開裂剤又は前記化合物C2の、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が、0mN/mよりも大きく、好ましくは9mN/m以上であり、より好ましくは10mN/m以上であり、更に好ましくは15mN/m以上であり、また、50mN/m以下である、前記<1>、<2>、<9>又は<10>に記載の生理用品。
<12>
前記液膜開裂剤又は前記化合物C2が、下記の構造Z、Z−Y、及びY−Z−Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を有する化合物からなる、前記<1>、<2>、<9>〜<11>のいずれか1に記載の生理用品。
構造Zは、>C(A)−<C:炭素原子>、−C(A)−、−C(A)(B)−、>C(A)−C(R)<、>C(R)−、−C(R)(R)−、−C(R−、>C<のいずれかの基本構造が、繰り返されるか、もしくは2種以上が組み合わされた構造の炭化水素鎖を表す。構造Zの末端には、水素原子、又は、−C(A)、−C(A)B、−C(A)(B)2、−C(A)−C(R、−C(RA、−C(Rからなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する。
前記のRやRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、フルオロアルキル基、アラルキル基、もしくはそれらを組み合わせた炭化水素基、又はフッ素原子を示す。A、Bは各々独立に、酸素原子又は窒素原子を含む置換基を示す。
Yは、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子から選ばれる原子を含む、親水性を有する親水基を表す。Yが複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0202】
<13>
前記液膜開裂剤又は前記化合物C2が、下記式[V]のいずれかで表されるポリオキシアルキレンアルキル(POA)エーテル、又は、下記式[VI]で表される質量平均分子量1000以上のポリオキシアルキレングリコール、ステアレス、ベヘネス、PPGミリスチルエーテル、PPGステアリルエーテル、若しくは、PPGベヘニルエーテルから選ばれる1又は複数である前記<1>、<2>、<9>〜<12>のいずれか1に記載の生理用品。
【化25】
【化26】
【0203】
<14>
前記液膜開裂剤又は前記化合物C2が、下記式[VII]で表される脂肪酸、下記式[VIII−I]若しくは[VIII−II]で表されるグリセリン脂肪酸エステルやペンタエリスリトール脂肪酸エステル、下記式[IX]、下記式[X]、若しくは下記式[XI]のいずれかで表される、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、若しくはペンタエリスリトール脂肪酸エステルの部分エステル化物、下記式[XII]で表されるステロール、下記式[XIII]で表されるアルコール、下記式[XIV]で表される脂肪酸エステル、又は、下記式[XV]で表されるワックスから選ばれる1又は複数である前記<1>、<2>、<9>〜<12>のいずれか1に記載の生理用品。
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
【化33】
【化34】
【化35】
【化36】
【0204】
<15>
前記液膜開裂剤又は前記化合物C1若しくは前記化合物C2の融点は、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは35℃以下であり、また、好ましくは−220℃以上であり、より好ましくは−180℃以上である、前記<1>〜<14>のいずれか1に記載の生理用品。
<16>
前記液膜開裂剤又は前記化合物C1若しくは前記化合物C2の水溶解度は、0g以上であり、好ましくは1.0×10−9g以上であり、また、0.025g以下であり、好ましくは0.0017g以下であり、より好ましくは、0.0001g未満である、前記<1>〜<15>のいずれか1に記載の生理用品。
<17>
前記液膜開裂剤又は前記化合物C1若しくは前記化合物C2の、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力は、好ましくは20mN/m以下であり、より好ましくは17mN/m以下であり、更に好ましくは13mN/m以下であり、特に好ましくは10mN/m以下であり、殊更好ましくは9mN/m以下であり、最も好ましくは1mN/m以下であり、また、0mN/mより大きい、前記<1>〜<16>のいずれか1に記載の生理用品。
【0205】
<18>
前記液膜開裂剤又は前記化合物C1若しくは前記化合物C2の表面張力は、好ましくは32mN/m以下であり、より好ましくは30mN/m以下であり、更に好ましくは25mN/m以下であり、特に好ましくは22mN/m以下であり、また、好ましくは1mN/m以上である、前記<1>〜<17>のいずれか1に記載の生理用品。
<19>
前記液膜開裂剤又は前記化合物C1若しくは前記化合物C2の重量平均分子量は、好ましくは500以上であり、より好ましくは1000以上であり、更に好ましくは1500以上であり、特に好ましくは2000以上であり、また、好ましくは50000以下であり、より好ましくは20000以下であり、更に好ましくは10000以下である、前記<1>〜<18>のいずれか1に記載の生理用品。
<20>
前記血球凝集剤又は前記カチオン性ポリマーが、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物又は第4級アンモニウム塩重縮合物である、前記<1>〜<19>のいずれか1に記載の生理用品。
【0206】
<21>
前記血球凝集剤又は前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは2000以上であり、より好ましくは1万以上であり、更に好ましくは3万以上であり、また、好ましくは1000万以下であり、より好ましくは500万以下であり、更に好ましくは300万以下である、前記<1>〜<20>のいずれか1に記載の生理用品。
<22>
前記血球凝集剤又は前記カチオン性ポリマーが、主鎖とそれに結合した側鎖とを有する構造からなり、以下の式1で表される繰り返し単位を有する第4級アンモニウム塩ホモポリマーであるか、又は、以下の式1で表される繰り返し単位と、以下の式2で表される繰り返し単位とを有する第4級アンモニウム塩共重合物であり、前記血球凝集剤又は前記カチオン性ポリマーの前記主鎖と前記側鎖とが1点で結合しており、該側鎖が第4級アンモニウム部位を有するものである、前記<1>〜<21>のいずれか1に記載の生理用品。
【化37】
【化38】
【0207】
<23>
前記血球凝集剤又は前記カチオン性ポリマーが、流動電位が1500μeq/L以上であり、第4級アンモニウム塩ホモポリマー又は第4級アンモニウム塩共重合物からなる水溶性カチオン性ポリマーである、前記<1>〜<22>のいずれか1に記載の生理用品。
<24>
前記血球凝集剤又は前記カチオン性ポリマーの凝集速度が0.75mPa・s/s以下である、前記<1>〜<23>のいずれか1に記載の生理用品。
<25>
前記血球凝集剤又は前記カチオン性ポリマーは、無機性値と有機性値との比率である無機性値/有機性値の値が0.6以上4.6以下であり、前記血球凝集剤又は前記カチオン性ポリマーが、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物又は第4級アンモニウム塩重縮合物である、前記<1>〜<24>のいずれか1に記載の生理用品。
【0208】
<26>
前記吸収体は高吸収性ポリマーを含んでいる、前記<1>〜<25>のいずれか1に記載の生理用品。
<27>
前記吸収体は、フラッフパルプと高吸収性ポリマーとが混合された積繊体を有する、前記<1>〜<26>のいずれか1に記載の生理用品。
<28>
前記血球凝集剤含有領域若しくは前記カチオン性ポリマー含有領域及び前記液膜開裂剤領域若しくは前記化合物含有領域は、前記高吸収性ポリマーよりも肌当接面側に配されている、前記<26>又は<27>に記載の生理用品。
【0209】
<29>
前記血球凝集剤含有領域又は前記カチオン性ポリマー含有領域は、前記表面シートより非肌当接面側に配されている、前記<1>〜<28>のいずれか1に記載の生理用品。
<30>
前記液膜開裂剤含有領域若しくは前記化合物含有領域は、前記血球凝集剤含有領域若しくは前記カチオン性ポリマー含有領域より肌当接面側に配されている、前記<1>〜<29>のいずれか1に記載の生理用品。
<31>
前記液膜開裂剤含有領域若しくは前記化合物含有領域と前記血球凝集剤含有領域若しくは前記カチオン性ポリマー含有領域とが平面方向において重複している、前記<1>〜<30>のいずれか1に記載の生理用品。
<32>
前記液膜開裂剤含有領域若しくは前記化合物含有領域は、前記表面シートに配されている、前記<1>〜<31>のいずれか1に記載の生理用品。
【0210】
<33>
前記吸収体は、吸収性コアと該吸収性コアを被覆するコアラップシートとを有している、前記<1>〜<32>のいずれか1に記載の生理用品。
<34>
前記吸収性コアの肌当接面側に位置する前記コアラップシートに、前記血球凝集剤含有領域又は前記カチオン性ポリマー含有領域が配されている、前記<33>に記載の生理用品。
<35>
前記血球凝集剤含有領域若しくは前記カチオン性ポリマー含有領域及び前記液膜開裂剤領域若しくは前記化合物含有領域の一方又は両方が、前記生理用品の排泄口当接域に配されている、前記<1>〜<34>のいずれか1に記載の生理用品。
【0211】
〔実施例〕
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。なお、拡張係数、界面張力、表面張力及び水溶解度は、前述のとおり、温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で測定したものである。下記実施例における、血球凝集剤の流動電位及びIOB値、並びに、液膜開裂剤の表面張力、水溶解度及び界面張力は、前述の測定方法又は計算方法により行った。また、下記表中における、「−」は、項目名に示される剤を用いないこと、項目に該当する値を有さないこと等を意味する。液膜開裂剤のOPUは不織布全体の繊維質量に対する含有割合である。
【0212】
〔実施例1〕
図5に示す生理用ナプキン10と同様の構成を有する生理用ナプキンを常法に従って作製した。具体的には、市販の生理用ナプキン(花王株式会社2015年製「ロリエ 肌キレイガード ふつうの日用 羽つき」)からドライヤーを用いて各部材を接着しているホットメルト接着剤を弱め、分解して取り出した表面シート、裏面シート、吸収体をそれぞれ用いた。この吸収体は、フラッフパルプと高吸収性ポリマーとの混合積繊体からなる吸収性コアをコアラップシートで包んだものである(以下、吸収体Xともいう)。
吸収体Xの肌当接面側に位置するコアラップシート(肌側コアラップシート)の全体に、血球凝集剤として、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(日本ルーブリゾール株式会社製 マーコート100)(以下、剤Aともいう)を塗布した後、さらに液膜開裂剤として、ポリオキシエチレン(POE)変性ジメチルシリコーン(信越化学工業株式会社製 KF−6015)(以下、剤Gともいう)を塗布した。両剤の具体的な塗布方法は後述する。
こうして肌対向面を形成する肌側コアラップシートの全域に血球凝集剤及び液膜開裂剤が重ねて塗布された吸収体Xの該肌対向面に、表面シートを重ね合わせ、圧力をかけて両者を一体化させ、さらに吸収体Xの非肌対向面に裏面シートを重ね合わせて、実施例1の生理用ナプキンを得た。
【0213】
実施例1における剤Aの塗布方法は次のとおりである。剤Aを溶媒エタノールに溶解させ、0.06質量%の希釈液を塗工液として作製し、この塗工液を吸収体Xの肌側コアラップシートの肌当接面の全域にスプレーにより塗布し、その後、溶媒を乾燥させた。
実施例1における剤Gの塗布方法は次のとおりである。剤Gを溶媒エタノールに溶解させ液膜開裂剤の有効成分0.06質量%の希釈液を塗工液として作製し、この塗工液を吸収体Xの肌側コアラップシートの肌当接面の全域にスプレーにより塗布し、その後、溶媒を乾燥させた。剤Gは、前記構造X−YにおけるXが−Si(CHO−からなるジメチルシリコーン鎖、Yが−(CO)−からなるPOE鎖からなり、POE鎖の末端基がメチル基(CH)であり、変性率が20%、ポリオキシエチレン付加モル数が3である。
なお、前記のポリオキシエチレン(POE)変性ジメチルシリコーンの拡張係数及び界面張力を測定する際、「表面張力が50mN/mの液体」は、100gの脱イオン水にノニオン系界面活性物質であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(花王株式会社製、商品名レオオールスーパーTW−L120)をマイクロピペット(ACURA825、Socorex Isba SA社製)で3.75μL添加し、表面張力を50±1mN/mに調整した溶液を用いた。
【0214】
〔実施例2〕
液膜開裂剤の塗工液を、コアラップシート(吸収体)ではなく、表面シートに塗工した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の生理用ナプキンを得た。
【0215】
〔実施例3〜7〕
血球凝集剤を下記の剤B〜Fに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3〜7の生理用ナプキンを得た。
・剤B(実施例3):ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(ニットボーメディカル株式会社製、PAS−H−5L)
・剤C(実施例4):ポリメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムジエチル硫酸塩(メタクリル酸ジメチルアミノエチルのジエチル硫酸塩を、溶媒であるエタノールに溶解させ、油溶性のアゾ開始剤である2,2’−Azobis(2−methylpropionamidine)dihydrochloride(和光純薬株式会社製のV−65B)を加えて加熱し重合を行って、水溶性の第4級アンモニウム塩ホモポリマーを得た。)
・剤D(実施例5):ポリメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムジエチル硫酸塩/ジメチルアクリルアミド共重合体(メタクリル酸ジメチルアミノエチルのジエチル硫酸塩とジメチルアクリルアミドを、前者/後者=56:44のモル比で用い、溶媒であるエタノールに溶解させ、油溶性のアゾ開始剤である2,2’−Azobis(2−methylpropionamidine)dihydrochloride(和光純薬株式会社製のV−65B)を加えて加熱し共重合を行って、水溶性の第4級アンモニウム塩共重合物を得た。)
・剤E(実施例6):ポリメタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウム硫酸塩(センカ社製)
・剤F(実施例7):ポリメタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチル塩酸塩(メタクリル酸ジメチルアミノエチルの塩化メチル塩を、溶媒であるエタノールに溶解させ、油溶性のアゾ開始剤である2,2’−Azobis(2−methylpropionamidine)dihydrochloride(和光純薬株式会社製のV−65B)を加えて加熱し重合を行って、水溶性の第4級アンモニウム塩ホモポリマーを得た。)
【0216】
〔実施例8〜9〕
液膜開裂剤を下記の剤H〜Iに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例8〜9の生理用ナプキンを得た。
・剤H(実施例8):ポリオキシプロピレン(POP)アルキルエーテル(花王株式会社製、消泡剤No.8)
・剤I(実施例9):トリカプリル酸・カプリル酸グリセリン(花王株式会社製、ココナードMT)
【0217】
〔実施例10〕
市販の生理用ナプキン(花王株式会社2015年製「ロリエスリムガードしっかり昼用羽つき25cm」)からドライヤーを用いて各部材を接着しているホットメルト接着剤を弱め、分解して取り出した表面シート、裏面シート、吸収体をそれぞれ用いた。この吸収体は、高吸収性ポリマーを2枚のクレープ紙で挟んだシートを5枚積層させた吸収性コアを、コアラップシートで包んだものである(以下、吸収体Yともいう)。以上の点以外は、実施例1と同様にして、実施例10の生理用ナプキンを得た。
【0218】
〔参考例1〕
液膜開裂剤を塗工しなかった以外は、実施例1と同様にして、参考例1の生理用ナプキンを得た。
【0219】
〔参考例2〕
血球凝集剤を塗工しなかった以外は、実施例1と同様にして、参考例2の生理用ナプキンを得た。
【0220】
〔参考例3〕
液膜開裂剤を塗工しなかった以外は、実施例10と同様にして、参考例3の生理用ナプキンを得た。
【0221】
〔参考例4〕
血球凝集剤を塗工しなかった以外は、実施例10と同様にして、参考例4の生理用ナプキンを得た。
【0222】
〔比較例1〕
市販の生理用ナプキン(花王株式会社2015年製「ロリエ 肌キレイガード ふつうの日用 羽つき」)そのもの、即ち血球凝集剤及び液膜開裂剤の何れも含有してない生理用ナプキンを比較例1の生理用ナプキンとした。
【0223】
前記実施例、参考例及び比較例について、液戻り量、拡散面積、表面白さ(L値)をそれぞれ下記方法により評価した。その結果は下記表2〜5のとおりである。
【0224】
<液戻り量の評価方法>
評価対象の生理用ナプキンを平面状に広げて肌対向面側(表面シート側)が上を向くように水平に載置し、該ナプキンの上に、筒内径22mmφ、筒高さ50mmのアクリル製円筒部が10mmφの注液用開口部上に位置するよう一体成形されたアクリル製注液プレートを、その注液孔が該生理用ナプキンの肌対向面(表面シート側)における排泄部対向領域の中央に位置するように重ねて置き、適当な錘を載せて(注液プレート自身を含む)荷重が5g/mとなるよう調整した。前記擬似血液を10ccの注液ビーカーに3g測り取った。この血液を前記注液プレートの筒内に一気に注ぎ込んだ後、3分放置し、その後再度3gを注ぎ込み、生理用ナプキンをそのまま3分間放置した。その後直ちに、ナプキンにおける血液が注ぎ込まれた部分に、秤量済みの吸収紙(アドバンテック5A、55mmφ)10枚と、重量960gの直方体の錘とを載せて10秒静置し、10秒後の吸収紙重量より、該吸収紙が吸い取った血液の量(g)を算出した。計測は3回行い、その平均値を当該生理用ナプキンの液戻り量とした。液戻り量の値が小さいほど、当該生理用ナプキンが吸収性能に優れることを示す。
【0225】
<拡散面積の評価方法>
前記<液戻り量の評価方法>を行った直後の生理用ナプキンから、表面シート等を取り除き、吸収体の肌当接面側及び非肌当接面側のそれぞれに、OHPシート(コクヨ株式会社 再生OHPフィルム A4サイズ VF−1300N 透明)を重ね、濡れている範囲を写し取った。その後、OHPシートを、スキャナで読み込み、画像ソフト(株式会社日本ローパー製 Image−Pro6.2J)で取り込み、面積を算出した。計測は3回行い、その平均値を各拡散面積とした。
吸収体の非肌当接面側の拡散面積と吸収体の肌当接面側の拡散面積との比(後者/前者)を算出した。この比が1を超える場合、即ち非肌当接面側の拡散面積の方が肌当接面側の拡散面積よりも大きい場合は、血液(前記擬似血液)が吸収体を肌当接面側から非肌当接面側に移行する際に平面方向に拡散したことを意味し、この比が1を超えて大きくなるほど、その拡散が促進されたことを意味する。そして、斯かる血液の拡散が促進されることは、使用後の生理用品の肌当接面側を見た使用者に対して、該肌当接面側に残る血液が非肌当接面側に比して相対的に少ないことから、該生理用品の吸収性能に対する信頼感、安心感を与えることに繋がり、使用後の表面白さの向上にも繋がり得る。つまり、前記比が大きいほど、高評価となる。
【0226】
<表面白さ(L値)の評価方法>
前記<液戻り量の評価方法>を行った直後の生理用ナプキンに対し、血液(前記擬似血液)の注入箇所から、表面シート上に色差計(日本電色工業株式会社製SPECTRO PHOTOMETER NF333)をあてて測定した。計測は3回行い、その平均値をL値とした。L値が大きいほど、使用後の表面白さに優れることを示す。
【0227】
【表2】
【0228】
【表3】
【0229】
【表4】
【0230】
【表5】
【0231】
表2〜4に示すとおり、実施例1〜9は、血球凝集剤及び液膜開裂剤の両方を含有しているため、液戻り量が比較例1の1/10以下であった。実施例1は、血球凝集剤及び液膜開裂剤の両方を含有しているため、片方のみを含有している参考例1及び参考例2よりも、液戻り量が1/5以下であり、L値は参考例1より大きく白さに優れていた。また、実施例2〜9は、液膜開裂剤を表面シートに有しているため、L値は比較例1や参考例1よりも大きな値であり、非常に白さに優れていた。
また、表5に示す通り、吸収体を吸収体Xから吸収体Yに変えても、血球凝集剤及び液膜開裂剤の両方を含有している実施例10は、片方のみを含有している参考例3及び参考例4よりも、液戻り量が少なく、L値は大きい値だった。
【符号の説明】
【0232】
1 経血
2 液体成分
3 非液体成分
4 高吸収性ポリマー
5 被膜
6 凝集塊
7 繊維
8 液膜
9 液膜開裂剤
10 生理用ナプキン(生理用品)
20 表面シート
30 裏面シート
40 吸収体
41 吸収性コア
42 コアラップシート
50 エンドシール部
60 防漏溝
70 サイドシート
X 縦方向
Y 横方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7