(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記層状複水酸化物は、0.4mol/Lの濃度で酸化亜鉛を含む6mol/Lの水酸化カリウム水溶液中に70℃で3週間浸漬させた場合に、表面微構造及び結晶構造の変化が生じない、請求項1〜4のいずれか一項に記載の機能層。
【背景技術】
【0002】
層状複水酸化物(以下、LDHともいう)は、積み重なった水酸化物基本層の間に、中間層として交換可能な陰イオン及びH
2Oを有する物質であり、その特徴を活かして触媒や吸着剤、耐熱性向上のための高分子中の分散剤等として利用されている。
【0003】
また、LDHは水酸化物イオンを伝導する材料としても注目され、アルカリ形燃料電池の電解質や亜鉛空気電池の触媒層への添加についても検討されている。特に、近年、ニッケル亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池等のアルカリ二次電池用の固体電解質セパレータとしてのLDHの利用も提案されており、かかるセパレータ用途に適したLDH含有機能層を備えた複合材料が知られている。例えば、特許文献1(国際公開第2015/098610号)には、多孔質基材と、多孔質基材上及び/又は中に形成される透水性を有しないLDH含有機能層とを備えた複合材料が開示されており、LDH含有機能層が、一般式:M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+はMg
2+等の2価の陽イオン、M
3+はAl
3+等の3価の陽イオンであり、A
n−はOH
−、CO
32−等のn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)で表されるLDHを含むことが記載されている。特許文献1に開示されるLDH含有機能層は、透水性を有しない程に緻密化されているため、セパレータとして用いた場合に、アルカリ亜鉛二次電池の実用化の障壁となっている亜鉛デンドライト進展や、亜鉛空気電池における空気極からの二酸化炭素の侵入を阻止することができる。
【0004】
さらに、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、多孔質基材と複合化されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水s不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。この文献には、LDHセパレータは単位面積あたりのHe透過度で10cm/min・atm以下と評価される高い緻密性を有しうることも記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
LDH含有機能層及び複合材料
本発明の機能層は、層状複水酸化物(LDH)を含む層である。機能層(特に機能層に含まれるLDH)は水酸化物イオン伝導性を有しうる。本発明の機能層におけるLDHはNi、Al、Ti及びZnを含み、Zn/(Ni+Ti+Al+Zn)の原子比が0.04以上であるものである。このように、Ni、Al、Ti及びZnを含むLDHを採用し、かつ、Zn/(Ni+Ti+Al+Zn)の原子比を0.04以上とすることにより、イオン伝導度が有意に向上したLDH含有機能層を提供することができる。したがって、本発明の機能層は、アルカリ二次電池用セパレータとしての使用に適した高いイオン伝導性を呈することができる。
【0013】
本発明の機能層に含まれるLDHは、Ni、Ti、Al及びZnの合計量に占めるZnの割合、具体的にはZn/(Ni+Ti+Al+Zn)の原子比が0.04以上であり、好ましくは0.04〜0.30、より好ましくは0.04〜0.025、さらに好ましくは0.05〜0.25、特に好ましくは0.05〜0.20、最も好ましくは0.06〜0.15である。かかる範囲内であるとLDH含有機能層におけるイオン伝導度をより効果的に向上することができる。上記原子比はエネルギー分散型X線分析(EDS)により決定されるものである。すなわち、機能層表面に対してEDS分析装置(例えばX−act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて組成分析を行い、Zn/(Ni+Ti+Al+Zn)の原子比を算出すればよい。この分析は、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに2回繰り返し行い、4)合計9点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0014】
好ましくは、機能層は2.6mS/cm以上のイオン伝導率を有する。イオン伝導率が高ければ高い方が良く、その上限値は特に限定されないが、例えば10mS/cmである。このように高いイオン伝導率であると電池用途に特に適する。例えば、LDHの実用化のためには薄膜化による低抵抗化が望まれるが、本態様によれば望ましく低抵抗なLDH含有機能層を提供できるので、亜鉛空気電池やニッケル亜鉛電池等のアルカリ二次電池へ固体電解質セパレータとしてLDHの適用においてとりわけ有利となる。
【0015】
ところで、一般的に知られているように、LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。水酸化物基本層は主として金属元素(典型的には金属イオン)とOH基で構成される。機能層に含まれるLDHの中間層は、陰イオン及びH
2Oで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH
−及び/又はCO
32−を含む。ところで、LDHが適用されるアルカリ二次電池(例えば金属空気電池やニッケル亜鉛電池)の電解液には、高い水酸化物イオン伝導度が要求され、それ故、pHが14程度で強アルカリ性のKOH水溶液が用いられることが望まれる。このため、LDHにはこのような強アルカリ性電解液中においても殆ど劣化しないといった高度な耐アルカリ性が望まれる。したがって、本発明におけるLDHは後述するような耐アルカリ性評価により表面微構造及び結晶構造の変化が生じないものであるのが好ましい。また、上述したとおり、LDHはその固有の性質及び上述した組成に起因して優れたイオン伝導性を有する。
【0016】
具体的には、機能層に含まれるLDHは、0.4mol/Lの濃度で酸化亜鉛を含む6mol/Lの水酸化カリウム水溶液中に70℃で3週間(すなわち504時間)浸漬させた場合に、表面微構造及び結晶構造の変化が生じないものが、耐アルカリ性に優れる点で好ましい。表面微構造の変化の有無はSEM(走査型電子顕微鏡)を用いた表面微構造により、結晶構造の変化の有無はXRD(X線回折)を用いた結晶構造解析(例えばLDH由来の(003)ピークのシフトの有無)により、好ましく行うことができる。水酸化カリウムは代表的な強アルカリ物質であり、上記水酸化カリウム水溶液の組成はアルカリ二次電池の代表的な強アルカリ電解液に相当するものである。したがって、かかる強アルカリ電解液に70℃もの高温で3週間もの長期間浸漬させるという上記評価手法は、過酷な耐アルカリ性試験であるといえる。アルカリ二次電池用LDHには強アルカリ性電解液中においても殆ど劣化しないといった高度な耐アルカリ性が望まれる。この点、本態様の機能層は、かかる過酷な耐アルカリ性試験によっても表面微構造及び結晶構造の変化が生じないという、優れた耐アルカリ性を有するものである。そうでありながらも、本態様の機能層は、LDH固有の性質に起因して、アルカリ二次電池用セパレータとしての使用に適した高いイオン伝導性も呈することができる。すなわち、本態様によれば、イオン伝導性のみならず耐アルカリ性にも優れたLDH含有機能層を提供することができる。
【0017】
本発明の典型的な態様によれば、LDHの水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含む。Znは水酸化物基本層に含まれていてもよいし、水酸化物基本層間に含まれていてもよく、LDH内のいかなる箇所に存在していてもよい。中間層は、上述のとおり、陰イオン及びH
2Oで構成される。水酸化物基本層と中間層の交互積層構造自体は一般的に知られるLDHの交互積層構造と基本的に同じであるが、本態様の機能層は、LDHの水酸化物基本層をNi、Al、Ti及びOH基を含む所定の元素ないしイオンで構成することで、優れた耐アルカリ性を呈することができる。その理由は必ずしも定かではないが、本態様のLDHは、従来はアルカリ溶液に溶出しやすいと考えられていたAlが、Ni及びTiとの何らかの相互作用によりアルカリ溶液に溶出しにくくなるためと考えられる。そうでありながらも、本態様の機能層は、アルカリ二次電池用セパレータとしての使用に適した高いイオン伝導性も呈することができる。LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi
2+であると考えられるが、Ni
3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のAlはアルミニウムイオンの形態を採りうる。LDH中のアルミニウムイオンは典型的にはAl
3+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi
4+であると考えられるが、Ti
3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のZnは亜鉛イオンの形態を採りうる。LDH中の亜鉛イオンは典型的にはZn
2+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含んでいさえすれば、他の元素ないしイオンを含んでいてもよい。例えば、水酸化物基本層はK(典型的にはK
+)をさらに含んでいてもよい。もっとも、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti、OH基、及び場合によりZnを主要構成要素として含むのが好ましい。すなわち、水酸化物基本層は、主としてNi、Al、Ti、OH基、及び場合によりZnからなるのが好ましい。したがって、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti、OH基及び場合によりZn、K及び/又は不可避不純物で構成されるのが典型的である。不可避不純物は製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。上記のとおり、Ni、Al、Ti及びZnの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi
2+、Al
3+、Ti
4+、Zn
2+及びOH基で構成されるものと想定した場合には、対応するLDHは、一般式:Ni
2+1−x−yーzAl
3+xTi
4+yZn
2+z(OH)
2A
n−(x+2y)/n・mH
2O(式中、A
n−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、0<y<1、0.04≦z<1、好ましくは0.01≦y≦0.5、0<x+y<1、0.04≦z≦0.25、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni
2+、Al
3+、Ti
4+、Zn
2+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0018】
好ましくは、機能層は、多孔質基材上に設けられ、且つ/又は多孔質基材中に組み込まれる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、多孔質基材と、多孔質基材上に設けられ且つ/又は多孔質基材中に組み込まれる機能層とを含む、複合材料が提供される。例えば、
図1に示される複合材料10のように、機能層14は、その一部が多孔質基材12中に組み込まれ、残りの部分が多孔質基材12上に設けられてもよい。このとき、機能層14のうち多孔質基材12上の部分がLDH膜からなる膜状部であり、機能層14のうち多孔質基材12に組み込まれる部分が多孔質基材とLDHで構成される複合部であるといえる。複合部は、典型的には、多孔質基材12の孔内がLDHで充填された形態となる。また、
図2に示される複合材料10’のように、機能層14’の全体が多孔質基材12中に組み込まれる場合には、機能層14’は主として多孔質基材12及びLDHで構成されるといえる。
図2に示される複合材料10’及び機能層14’は、
図1に示される複合材料10から機能層14における膜状部(LDH膜)を研磨、切削等の公知の手法により除去することにより得ることができる。
図1及び2では多孔質基材12,12’の表面近傍の一部にのみ機能層14,14’が組み込まれているが、多孔質基材のいかなる箇所に機能層が組み込まれていてもよく、多孔質基材の全体又は全厚にわたって機能層が組み込まれていてもよい。
【0019】
本発明の複合材料における多孔質基材は、その上及び/又は中にLDH含有機能層を形成できるものが好ましく、その材質や多孔構造は特に限定されない。多孔質基材上及び/又は中にLDH含有機能層を形成するのが典型的ではあるが、無孔質基材上にLDH含有機能層を成膜し、その後公知の種々の手法により無孔質基材を多孔化してもよい。いずれにしても、多孔質基材は透水性を有する多孔構造を有するのが、電池用セパレータとして電池に組み込まれた場合に電解液を機能層に到達可能に構成できる点で好ましい。
【0020】
多孔質基材は、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましく、より好ましくはセラミックス材料及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成される。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ、ジルコニア(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ))、及びその組合せである。これらの多孔質セラミックスを用いると緻密性に優れたLDH含有機能層を形成しやすい。金属材料の好ましい例としては、アルミニウム、亜鉛、及びニッケルが挙げられる。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、親水化したフッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料はいずれも電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有するものである。
【0021】
多孔質基材は、最大100μm以下の平均気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは最大50μm以下であり、例えば、典型的には0.001〜1.5μm、より典型的には0.001〜1.25μm、さらに典型的には0.001〜1.0μm、特に典型的には0.001〜0.75μm、最も典型的には0.001〜0.5μmである。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性、及び支持体としての強度を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有機能層を形成することができる。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行うことができる。この測定に用いる電子顕微鏡画像の倍率は20000倍以上であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から近い順に上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得ることができる。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能や画像解析ソフト(例えば、Photoshop、Adobe社製)等を用いることができる。
【0022】
多孔質基材は、10〜60%の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15〜55%、さらに好ましくは20〜50%である。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性、及び支持体としての強度を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有機能層を形成することができる。多孔質基材の気孔率はアルキメデス法により好ましく測定することができる。
【0023】
機能層は通気性を有しないのが好ましい。すなわち、機能層は通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。なお、本明細書において「通気性を有しない」とは、特許文献2(国際公開第2016/076047号)に記載されるように、水中で測定対象物(すなわち機能層ないし複合材料)の一面側にヘリウムガスを0.5atmの差圧で接触させても他面側からヘリウムガスに起因する泡の発生がみられないことを意味する。こうすることで、機能層又は複合材料は、全体として、その水酸化物イオン伝導性に起因して水酸化物イオンのみを選択的に通すものとなり、電池用セパレータとしての機能を呈することができる。電池用固体電解質セパレータとしてLDHの適用を考えた場合、バルク形態のLDH緻密体では高抵抗であるとの問題があったが、本発明の好ましい態様においては、多孔質基材により強度を付与できるため、LDH含有機能層を薄くして低抵抗化を図ることができる。その上、多孔質基材は透水性及び通気性を有しうるため、電池用固体電解質セパレータとして使用された際に電解液がLDH含有機能層に到達可能な構成となりうる。すなわち、本発明のLDH含有機能層及び複合材料は、金属空気電池(例えば亜鉛空気電池)及びその他各種亜鉛二次電池(例えばニッケル亜鉛電池)等の各種電池用途に適用可能な固体電解質セパレータとして、極めて有用な材料となりうる。
【0024】
機能層又はそれを備えた複合材料は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であるのが好ましく、より好ましくは5.0cm/min・atm以下、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。このような範囲内のHe透過度を有する機能層は緻密性が極めて高いといえる。したがって、He透過度が10cm/min・atm以下である機能層は、アルカリ二次電池においてセパレータとして適用した場合に、水酸化物イオン以外の物質の通過を高いレベルを阻止することができる。例えば、亜鉛二次電池の場合、電解液中において亜鉛イオン又は亜鉛酸イオンの透過を極めて効果的に抑制することができる。こうしてZn透過が顕著に抑制されることで、亜鉛二次電池に用いた場合に亜鉛デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。He透過度は、機能層の一方の面にHeガスを供給して機能層にHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出して機能層の緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時に機能層に加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH
2分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもH
2ガスは可燃性ガスのため危険である。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、機能層が亜鉛二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。He透過度の測定は、後述する実施例の評価3に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0025】
機能層は100μm以下の厚さを有するのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことで機能層の低抵抗化を実現できる。機能層が多孔質基材上にLDH膜として形成される場合、機能層の厚さはLDH膜からなる膜状部の厚さに相当する。また、機能層が多孔質基材中に組み込まれて形成される場合には、機能層の厚さは多孔質基材及びLDHからなる複合部の厚さに相当する。なお、機能層が多孔質基材上及び中にまたがって形成される場合には膜状部(LDH膜)と複合部(多孔質基材及びLDH)の合計厚さに相当する。いずれにしても、上記のような厚さであると、電池用途等への実用化に適した所望の低抵抗を実現することができる。LDH配向膜の厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ等の機能膜として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0026】
LDH含有機能層及び複合材料の製造方法は特に限定されず、既に知られるLDH含有機能層及び複合材料の製造方法(例えば特許文献1及び2を参照)の諸条件を適宜変更することにより作製することができる。例えば、(1)多孔質基材を用意し、(2)多孔質基材に酸化チタンゾル或いはアルミナ及びチタニアの混合ゾルを塗布して熱処理することで酸化チタン層或いはアルミナ・チタニア層を形成させ、(3)ニッケルイオン(Ni
2+)及び尿素を含む原料水溶液に多孔質基材を浸漬させ、(4)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、LDH含有機能層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させ、(5)LDH含有機能層をZn含有溶液(例えば亜鉛イオン及び/又は亜鉛酸イオンを含む水溶液)に浸漬させてZnをLDHに導入することにより、LDH含有機能層及び複合材料を製造することができる。特に、上記工程(2)において酸化チタン層或いはアルミナ・チタニア層を多孔質基材に形成することで、LDHの原料を与えるのみならず、LDH結晶成長の起点として機能させて多孔質基材の表面に高度に緻密化されたLDH含有機能層をムラなく均一に形成することができる。また、上記工程(3)において尿素が存在することで、尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。上記工程(5)においてはLDH含有機能層のZn含有溶液への浸漬後に水熱処理を行ってもよい。
【実施例】
【0027】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0028】
例1(比較)
Ni、Al及びTi含有LDHを含む各種機能層及び複合材料を以下の手順により作製し、評価した。
【0029】
(1)多孔質基材の作製
ジルコニア粉末(東ソー社製、TZ−8YS)100重量部に対して、分散媒(キシレン:ブタノール=1:1)70重量部、バインダー(ポリビニルブチラール:積水化学工業株式会社製BM−2)11.1重量部、可塑剤(DOP:黒金化成株式会社製)5.5重量部、及び分散剤(花王株式会社製レオドールSP−O30)2.9重量部を混合し、この混合物を減圧下で攪拌して脱泡することにより、スラリーを得た。このスラリーを、テープ成型機を用いてPETフィルム上に、乾燥後膜厚が220μmとなるようにシート状に成型してシート成形体を得た。得られた成形体を2.0cm×2.0cm×厚さ0.022cmの大きさになるよう切り出し、1100℃で2時間焼成して、ジルコニア製多孔質基材を得た。
【0030】
得られた多孔質基材について、多孔質基材の気孔率をアルキメデス法により測定したところ、40%であった。
【0031】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ0.2μmであった。この平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から近い順に上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0032】
(2)多孔質基材へのアルミナ・チタニアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al−ML15、多木化学株式会社製)と酸化チタンゾル溶液(M−6、多木化学株式会社製)を溶液の重量比が1:1となるように混合して混合ゾルを作製した。混合ゾル0.2mlを上記(1)で得られたジルコニア製多孔質基材上へスピンコートにより塗布した。スピンコートは、回転数8000rpmで回転した基材へ混合ゾルを滴下してから5秒後に回転を止め、100℃に加熱したホットプレートへ基材を静置し、1分間乾燥させた。その後、電気炉にて150℃で熱処理を行った。こうして形成された層の厚さは1μm程度であった。
【0033】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO
3)
2・6H
2O、関東化学株式会社製、及び尿素((NH
2)
2CO、シグマアルドリッチ製)を用意した。0.03mol/Lとなるように、硝酸ニッケル六水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO
3−(モル比)=16の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0034】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(3)で作製した原料水溶液と上記(2)で作製した基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度120℃で20時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、室温で12時間放置し、乾燥させて、LDHを含む機能層を、その一部が多孔質基材中に組み込まれた形で得た。得られた機能層の厚さは(多孔質基材に組み込まれた部分の厚さを含めて)約5μmであった。
【0035】
例2〜4
例1の(1)〜(4)と同様の手順により機能層及び複合材料を作製した。得られた機能層及び複合材料に対して下記(5)の手順を行って、Znが導入された機能層及び複合材料を作製した。
【0036】
(5)Zn含有溶液への浸漬によるZn導入
7mol/Lの水酸化カリウム水溶液に酸化亜鉛を溶解させて、0.6mol/Lの濃度で酸化亜鉛を含む水酸化カリウム水溶液を得た。こうして得られた水酸化カリウム水溶液15mlをテフロン(登録商標)製密閉容器に入れた。(4)で得られた機能層を含む複合材料を機能層が上を向くように密閉容器の底に設置し、蓋を閉めた。その後、30℃で1日(約24時間)(例2)、3日(約72時間)(例3)又は7日(約168時間)(例4)保持した後、複合材料を密閉容器から取り出した。複合材料を取り出した後、イオン交換水が入った容器の中に複合材料を10秒間浸漬させ、その後、複合材料を取り出した。複合材料のイオン交換水中への浸漬をさらに2回繰り返した。取り出した複合材料を室温で1晩乾燥させた。
【0037】
<評価>
得られた機能層ないし複合材料に対して以下の各種評価を行った。
【0038】
評価1:元素分析評価(EDS)I
機能層表面に対してEDS分析装置(装置名:X−act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて組成分析を行い、Zn/(Ni+Ti+Al+Zn)の原子比を算出した。この分析は、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに2回繰り返し行い、4)合計9点の平均値を算出することにより行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0039】
評価2:イオン伝導率の測定
電解液中での機能層の伝導率を
図3に示される電気化学測定系を用いて以下のようにして測定した。複合材料試料S(LDH膜付き多孔質基材)を両側から厚み1mmシリコーンパッキン40で挟み、内径6mmのPTFE製フランジ型セル42に組み込んだ。電極46として、#100メッシュのニッケル金網をセル42内に直径6mmの円筒状にして組み込み、電極間距離が2.2mmになるようにした。電解液44として、6MのKOH水溶液をセル42内に充填した。電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタット−周波数応答アナライザ、ソーラトロン社製1287A型及び1255B型)を用い、周波数範囲は1MHz〜0.1Hz、印加電圧は10mVの条件で測定を行い、実数軸の切片を複合材料試料S(LDH膜付き多孔質基材)の抵抗とした。上記同様の測定をLDH膜の付いていない多孔質基材のみに対しても行い、多孔質基材のみの抵抗も求めた。複合材料試料S(LDH膜付き多孔質基材)の抵抗と基材のみの抵抗の差をLDH膜の抵抗とした。LDH膜の抵抗と、LDHの膜厚及び面積を用いて伝導率を求めた。結果は表1に示されるとおりであった。
【0040】
評価3:機能層の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、機能層の結晶相を測定してXRDプロファイルを得た。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載されるLDH(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定を行った。その結果、例1〜4で得られた機能層はいずれもLDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。
【0041】
評価4:元素分析評価(EDS)II
クロスセクションポリッシャ(CP)により、機能層を断面研磨した。FE−SEM(ULTRA55、カールツァイス製)により、機能層の断面イメージを10000倍の倍率で1視野取得した。この断面イメージの基材表面のLDH膜と基材内部のLDH部分(点分析)についてEDS分析装置(NORAN System SIX、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)により、加速電圧15kVの条件にて、元素分析を行った。その結果、例1で得られた機能層に含まれるLDHから、LDH構成元素であるC、Al、Ti及びNiが検出された。また、例2〜4で得られた機能層に含まれるLDHから、LDH構成元素であるC、Al、Ti、Ni及びZnが検出された。すなわち、Al、Ti及びNiは水酸化物基本層の構成元素である一方、CはLDHの中間層を構成する陰イオンであるCO
32−に対応する。Znは水酸化物基本層を構成しうると考えられるが、水酸化物基本層間に存在する可能性もある。
【0042】
評価5:耐アルカリ性評価
6mol/Lの水酸化カリウム水溶液に酸化亜鉛を溶解させて、0.4mol/Lの濃度で酸化亜鉛を含む6mol/Lの水酸化カリウム水溶液を得た。こうして得られた水酸化カリウム水溶液15mlをテフロン(登録商標)製密閉容器に入れた。1cm×0.6cmのサイズの複合材料を機能層が上を向くように密閉容器の底に設置し、蓋を閉めた。その後、70℃で3週間(すなわち504時間)保持した後、複合材料を密閉容器から取り出した。取り出した複合材料に対して、室温で1晩乾燥させた。得られた試料をSEMによる微構造観察およびXRDによる結晶構造観察を行った。このとき、結晶構造の変化を、XRDプロファイルにおいてLDH由来の(003)ピークのシフトの有無により判定した。その結果、例1〜4のいずれにおいても、表面微構造及び結晶構造に変化はみられなかった。
【0043】
評価6:He透過測定
He透過性の観点から機能層の緻密性を評価すべくHe透過試験を以下のとおり行った。まず、
図4A及び
図4Bに示されるHe透過度測定系310を構築した。He透過度測定系310は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計312及び流量計314(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ316に供給され、この試料ホルダ316に保持された機能層318の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0044】
試料ホルダ316は、ガス供給口316a、密閉空間316b及びガス排出口316cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、機能層318の外周に沿って接着剤322を塗布して、中央に開口部を有する治具324(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具324の上端及び下端に密封部材326a,326bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材326a,326bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材328a,328b(PTFE製)で挟持した。こうして、機能層318、治具324、密封部材326a及び支持部材328aにより密閉空間316bを区画した。なお、機能層318は多孔質基材320上に形成された複合材料の形態であるが、機能層318側がガス供給口316aに向くように配置した。支持部材328a,328bを、ガス排出口316c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段330で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ316のガス供給口316aに、継手332を介してガス供給管334を接続した。
【0045】
次いで、He透過度測定系310にガス供給管334を経てHeガスを供給し、試料ホルダ316内に保持された機能層318に透過させた。このとき、圧力計312及び流量計314によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1〜30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm
3/min)、Heガス透過時に機能層に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm
2)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm
3/min)は流量計314から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計312から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05〜0.90atmの範囲内となるように供給された。その結果、例1〜4の機能層及び複合材料のHe透過度はいずれも1.0cm
3/min・atm以下であった。
【0046】
【表1】
イオン伝導度が有意に向上したLDH含有機能層及びそれを備えた複合材料が提供される。本発明の機能層は、層状複水酸化物を含む層であり、層状複水酸化物は、Ni、Al、Ti及びZnを含み、エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、Zn/(Ni+Ti+Al+Zn)の原子比が0.04以上である。