特許第6262953号(P6262953)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262953
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】アイアン型ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20180104BHJP
【FI】
   A63B53/04 E
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-159510(P2013-159510)
(22)【出願日】2013年7月31日
(65)【公開番号】特開2015-29596(P2015-29596A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】504017809
【氏名又は名称】ダンロップスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】植田 尚良
【審査官】 鶴岡 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−061369(JP,A)
【文献】 特開平08−010359(JP,A)
【文献】 特開2013−059680(JP,A)
【文献】 特開2010−029544(JP,A)
【文献】 特開2003−062132(JP,A)
【文献】 特開平04−241882(JP,A)
【文献】 特表2011−520565(JP,A)
【文献】 米国特許第05395113(US,A)
【文献】 米国特許第05026056(US,A)
【文献】 米国特許第05011151(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールを打撃するフェースと、前記フェースの下縁からヘッド後方にのびるソールとを具えたアイアン型ゴルフクラブヘッドであって、
前記フェースと反対側のフェース背面かつ前記ソール側には、ヘッド後方に隆起したソール隆起部を含む環状の隆起部が設けられることにより、前記フェース背面には、前記隆起部で囲まれたキャビティが形成され、
前記ソール隆起部の前記キャビティ側を向く上面は、
トウ・ヒール方向にのびている第1部分と、前記第1部分よりもトウ側かつヘッド上方をトウ・ヒール方向にのびている第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを継ぐ第1接続部と、前記第2部分よりもトウ側かつヘッド上方をトウ・ヒール方向にのびている第3部分と、前記第2部分と前記第3部分とを継ぐ第2接続部とを含み、
前記第1接続部、及び、前記第2接続部は、ヘッド後方に向かってヒール側に傾いていることを特徴とするアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記第1接続部は、ヘッド重心よりもトウ側に設けられている請求項1に記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記第1接続部は、ヘッド重心よりもソール側に設けられている請求項1又は2に記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記第1接続部は、ヘッド重心を囲むように凹んでいる凹球面状である請求項1乃至3のいずれかに記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記第1部分及び前記第2部分は、それぞれ、前記フェースと直交する向きにのびる滑らかな面である請求項1乃至4のいずれかに記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
規定のライ角及びロフト角でヘッドが水平面に置かれた基準状態において、
前記ソール隆起部の前記フェースと平行な第1断面において、前記第1接続部は、第1曲率半径で湾曲する第1円弧部を有し、
前記ソール隆起部の前記フェースと直交するトウ・ヒール方向の第2断面において、前記第1接続部は、第2曲率半径で湾曲する第2円弧部とを含んでいる請求項1乃至5のいずれかに記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記第2接続部は、ヘッド重心を囲むように凹んでいる凹球面状である請求項1乃至6のいずれかに記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記第3部分は、前記フェースと直交する向きにのびる滑らかな面である請求項1乃至7のいずれかに記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
規定のライ角及びロフト角でヘッドが水平面に置かれた基準状態において、
前記ソール隆起部の前記フェースと平行な第1断面において、前記第2接続部は、第3曲率半径で湾曲する第3円弧部を有し、
前記ソール隆起部の前記フェースと直交しかつトウ・ヒール方向の第2断面において、前記第2接続部は、第4曲率半径で湾曲する第4円弧部とを含んでいる請求項1乃至8のいずれかに記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【請求項10】
前記第2接続部の前記フェースと平行なトウ・ヒール方向の最大長さは、前記第1接続部の前記フェースと平行なトウ・ヒール方向の最大長さよりも小さい請求項1乃至9のいずれかに記載のアイアン型ゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きい慣性モーメントと重心深度とを有するアイアン型ゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、打球の方向性が改善されたアイアン型ゴルフクラブヘッドが記載されている。このアイアン型ゴルフクラブヘッドは、フェース部と、フェース部の背面からヘッド後方に隆起した隆起部とを具えている。隆起部は、ヘッドのソール側で、トウ・ヒール方向にのびている。このヘッドは、ヘッド後方かつソール側に多くの質量が配分されるため、大きな重心深度及び慣性モーメントを提供することができる。
【0003】
しかしながら、近年では、より簡単にゴルフ競技を楽しむことができるよう、ユーザは、さらに優れた打球の方向性を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−59680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、フェース背面側でヘッド後方に隆起する隆起部の形状を改善することを基本として、大きな慣性モーメント及び重心深度を具えたアイアン型ゴルフクラブヘッドを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ボールを打撃するフェースと、前記フェースの下縁からヘッド後方にのびるソールとを具えたアイアン型ゴルフクラブヘッドであって、前記フェースと反対側のフェース背面かつ前記ソール側には、ヘッド後方に隆起したソール隆起部を含む環状の隆起部が設けられることにより、前記フェース背面には、前記隆起部で囲まれたキャビティが形成され、前記ソール隆起部の前記キャビティ側を向く上面は、トウ・ヒール方向にのびている第1部分と、前記第1部分よりもトウ側かつヘッド上方をトウ・ヒール方向にのびている第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを継ぐ第1接続部とを含み、前記第1接続部は、ヘッド後方に向かってヒール側に傾いていることを特徴としている。
【0007】
本発明にかかるアイアン型ゴルフクラブヘッドにおいて、前記第1接続部は、ヘッド重心よりもトウ側に設けられていることが望ましい。
【0008】
本発明にかかるアイアン型ゴルフクラブヘッドにおいて、前記第1接続部は、ヘッド重心よりもソール側に設けられていることが望ましい。
【0009】
本発明にかかるアイアン型ゴルフクラブヘッドにおいて、前記第1接続部は、ヘッド重心を囲むように凹んでいる凹球面状であることが望ましい。
【0010】
本発明にかかるアイアン型ゴルフクラブヘッドにおいて、前記第1部分及び前記第2部分は、それぞれ、前記フェースと直交する向きにのびる滑らかな面であることが望ましい。
【0011】
本発明にかかるアイアン型ゴルフクラブヘッドを規定のライ角及びロフト角で水平面に置いた基準状態において、前記ソール隆起部の前記フェースと平行な第1断面において、前記第1接続部は、第1曲率半径で湾曲する第1円弧部を有し、前記ソール隆起部の前記フェースと直交するトウ・ヒール方向の第2断面において、前記第1接続部は、第2曲率半径で湾曲する第2円弧部とを含んでいることが望ましい。
【0012】
本発明にかかるアイアン型ゴルフクラブヘッドにおいて、前記ソール隆起部の前記上面は、前記第2部分よりもトウ側かつヘッド上方をトウ・ヒール方向にのびている第3部分と、前記第2部分と前記第3部分とを継ぐ第2接続部とを含み、前記第2接続部は、ヘッド後方に向かってヒール側に傾いていることが望ましい。
【0013】
本発明にかかるアイアン型ゴルフクラブヘッドにおいて、前記第2接続部は、ヘッド重心を囲むように凹んでいる凹球面状であることが望ましい。
【0014】
本発明にかかるアイアン型ゴルフクラブヘッドにおいて、前記第3部分は、前記フェースと直交する向きにのびる滑らかな面であることが望ましい。
【0015】
本発明にかかるアイアン型ゴルフクラブヘッドの基準状態において、前記ソール隆起部の前記フェースと平行な第1断面において、前記第2接続部は、第3曲率半径で湾曲する第3円弧部を有し、前記ソール隆起部の前記フェースと直交しかつトウ・ヒール方向の第2断面において、前記第2接続部は、第4曲率半径で湾曲する第4円弧部とを含んでいることが望ましい。
【0016】
本発明にかかるアイアン型ゴルフクラブヘッドにおいて、前記第2接続部の前記フェースと平行なトウ・ヒール方向の最大長さは、前記第1接続部の前記フェースと平行なトウ・ヒール方向の最大長さよりも小さいことが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアイアン型ゴルフクラブヘッドは、ボールを打撃するフェースと、フェースの下縁からヘッド後方にのびるソールとを具えている。フェースと反対側のフェース背面かつソール側には、ヘッド後方に隆起したソール隆起部を含む環状の隆起部が設けられている。これにより、フェース背面には、隆起部で囲まれるキャビティが形成されている。このようなヘッドは、フェースの周囲かつヘッド後方に多くの質量が配分されるので、大きな重心深度及び慣性モーメントが得られる。
【0018】
ソール隆起部のキャビティ側を向く上面は、トウ・ヒール方向にのびている第1部分と、第1部分よりもトウ側かつヘッド上方をトウ・ヒール方向にのびている第2部分と、第1部分と前記第2部分とを継ぐ第1接続部とを含んでいる。従って、ソール隆起部は、トウ側により多くの質量を配分し、さらに大きな慣性モーメントを提供する。
【0019】
ソール隆起部の第1接続部は、ヘッド後方に向かってヒール側に傾けられている。このような第1接続部は、ヘッド後方に向かって、より多くの質量を配分することができる。従って、本発明のアイアン型ゴルフクラブヘッドは、より一層大きな慣性モーメント及び重心深度を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態のアイアン型ゴルフクラブヘッドの基準状態の正面図である。
図2図1の背面図である。
図3図1のA−A拡大端面図である。
図4】本実施形態のアイアン型ゴルフクラブヘッドの分解斜視図である。
図5】フェースを垂直に近づけた状態でのヘッド本体の正面図である。
図6】(a)は、ソール隆起部を部分的に取り出した上面図及び正面図、(b)は、ソール隆起部を部分的に取り出した上面図である。
図7図3のX−X断面図である。
図8図7のC−C断面図及び図7のD−D断面図である。
図9】比較例のアイアン型ゴルフクラブヘッドのソール隆起部を部分的に取り出した上面及び正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態のアイアン型ゴルフクラブヘッド1の基準状態の正面図を示している。図2は、図1の背面図を示している。図3は、図1のA−A端面図を示している。
【0022】
本明細書において、アイアン型ゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」ということがある。)1の基準状態とは、ヘッド1が規定のライ角α及びロフト角β(ロフト角βについては図3に示される。)で水平面HPに置かれた状態である。本明細書において、特に言及されていない場合、ヘッド1は、基準状態にあるものとされる。「規定のライ角」及び「規定のロフト角」とは、当該ヘッド1に定められたライ角及びロフト角を意味している。
【0023】
ヘッド1のライ角αやロフト角βは、特に限定されない。典型的には、ライ角αは、例えば50〜70度、ロフト角βは、例えば15〜70度の範囲でそれぞれ定められるのが良い。
【0024】
図1及び図2に示されるように、本実施形態のヘッド1は、ヘッド基体2及びホーゼル部3を含んでいる。
【0025】
ヘッド基体2は、フェースFと、フェース背面4と、ヘッド外周面5とで区画されている。
【0026】
フェースFは、ボールを打撃する面である。フェースFは、インパクトエリアマーキング6を除いて、実質的に単一の平面で形成されている部分である。インパクトエリアマーキング6としては、例えば、典型的には溝が採用されるが、パンチマーク等でも良い。フェースFは、ヘッド重心GからフェースFに引いた垂線の足であるスイートスポットSSを有している。
【0027】
図2に示されるように、フェース背面4は、フェースFとの反対側の面である。
【0028】
ヘッド外周面5は、フェースFとフェース背面4との間を繋いでいる。図1及び図2に示されるように、ヘッド外周面5は、トップ7、ソール8及びトウ面9を含んでいる。
【0029】
トップ7は、ヘッド上面を形成するように、フェースFの上縁からヘッド後方にのびている。ヘッドの前後方向については、フェース側が前、背面側が後とされる。ヘッドの上下方向については、水平面HPに近い方向が下側、水平面HPから遠ざかる方向が上側とされる。
【0030】
ソール8は、ヘッド底面を形成するように、フェースFの下縁からヘッド後方にのびている。
【0031】
トウ面9は、トップ7とソール8との間を繋いでいる。トウ面9は、トウ側に向かって凸となる円弧状で形成されている。
【0032】
ホーゼル部3は、筒状である。ホーゼル部3は、ヘッド基体2のヒール側に設けられている。ホーゼル部3は、底を有したシャフト差込孔3aが形成されている。シャフト差込孔3aには、図示しないシャフトが装着される。基準状態のヘッド1を得る場合、シャフト差込孔3aの軸中心線CLは、シャフトの軸中心線として用いられても良い。
【0033】
本実施形態のヘッド1は、構成部材として、ヘッド本体10と、フェース板11とを含んでいる。
【0034】
図4は、本実施形態のヘッド1の分解斜視図を示している。図3及び図4に示されるようにフェース板11は、前面がフェースFの少なくとも一部、好ましくは主要部を構成している。フェース板11は、外周面12で囲まれた板状である。外周面12は、トップ7側をのびる上縁12aと、ソール8側をのびる下縁12bと、トウ面9に沿ってのびるトウ縁12cと、トウ縁12cとは反対側のヒール縁12dとからなる。フェース板11には、金属材料が好適に用いられ、とりわけ、比強度が大きいチタン合金が好適である。チタン合金としては、Ti−5Al−1Feが望ましい。
【0035】
ヘッド本体10は、ホーゼル部3と、隆起部13とを具えている。
【0036】
ヘッド本体10には、例えば、ステンレス鋼、マレージング鋼、Ni系合金又は軟鉄等の1種又は2種以上が用いられる。図示していないが、比重が大きい金属材料からなる錘部材が、ヘッド本体10に設けられても良い。
【0037】
本実施形態の隆起部13は、前後に貫通する開口部Oの周りを環状にのびている。隆起部13の前側には、フェース板11が取り付けられるフェース取付部16が設けられている。
【0038】
図3に示されるように、フェース取付部16は、断面略ステップ状であり、開口部Oを囲むように環状に設けられている。フェース取付部16は、ヘッドの中心側を向く内向き面16aと、フェース側を向く前向き面16bとを含んでいる。内向き面16aには、フェース板11の外周面12が向き合うように設けられている。前向き面16bには、フェース板11の背面が向き合うように設けられている。
【0039】
フェース板11は、フェース取付部16に嵌め込まれ、例えば接着、圧入、かしめ、溶接又はネジ止め等の接合手段により固着されている。フェース取付部16にフェース板11が固着されて、開口部Oは閉じられる。これにより、フェース背面4には、フェース板11の背面と隆起部13とで囲まれる凹みからなるキャビティCが形成される。このようなヘッドは、大きなスイートエリア及びヘッド重心Gを通りかつフェースFと平行な水平軸周りの慣性モーメント(以下、単に、「上下の慣性モーメント」という場合がある)を提供することができる。
【0040】
図4に示されるように、隆起部13は、例えば、トップ隆起部13a、ソール隆起部13b、トウ隆起部13c及びヒール隆起部13dを含んでいる。
【0041】
トップ隆起部13aは、トップ7を形成している。ソール隆起部13bは、ソール8を形成している。トウ隆起部13cは、トウ側でトップ隆起部13aとソール隆起部13bとを接続し、トウ面9を形成している。ヒール隆起部13dは、ヒール側でトップ隆起部13aとソール隆起部13bとを接続している。ヒール隆起部13dには、ホーゼル部3が一体に形成されている。
【0042】
図3に示されるように、本実施形態のソール隆起部13bは、フェース板11の背面からヘッド後方にのびる本体17と、本体17の後側で上側にのびる背壁部18とを含んでいる。これにより、ソール隆起部13bは、背壁部18とフェース板11との間にアンダーカットキャビティを区画している。
【0043】
ソール隆起部13bの本体17は、キャビティC側を向く上面20を有している。上面20は、フェースFと直交する向きの幅と、トウ・ヒール方向の長さとを有している。上面20のトウ側は、トウ隆起部13cに接続されている。上面20のヒール側は、ヒール隆起部13dに接続されている。上面20は、背壁部18とフェース板11の背面との間をのびている。本実施形態では、上面20とフェース板11との間には、幅が小さいアンダーカット溝19が設けられている。アンダーカット溝19は、省略されても良い。
【0044】
図5は、基準状態のヘッド本体10をやや前傾させることにより、水平面HPに対して、フェースFが垂直に近づけられた状態の正面図を示している。
【0045】
図4及び図5に示されるように、本実施形態のソール隆起部13bの上面20は、ヒール側からトウ側に向かって、第1部分25、第2部分26及び第3部分27の3つの部分が、高さを違えて配置されている。理解しやすいように、図5には、上面20の傾斜状態を示す仮想線と、第1乃至第3部分25、26、27を示すための薄い着色が施されている。
【0046】
本実施形態の上面20の第1部分25は、トウ・ヒール方向にのびている。第1部分25は、ヘッド重心Gよりも低い位置をトウ・ヒール方向にのびている。第1部分25のヒール側はヒール隆起部13dに接続されている。第1部分25は、上面20のうち、ヘッド重心Gよりもヒール側の実質的な全域を形成している。図3に示されるように、第1部分25は、実質的にフェースFと直交する向きにのびる滑らかな面で形成されている。好ましくは、第1部分25の主要部は、平面で構成されている。このような第1部分25は、ヒール側において、ヘッド1の後方に行くほど低い位置に、より多くの質量を配分しうる。
【0047】
図4及び図5に示されるように、第2部分26は、第1部分25よりもトウ側かつヘッド上方をトウ・ヒール方向にのびている。好ましくは、第2部分26も、ヘッド重心Gよりも低い位置かつトウ側でトウ・ヒール方向にのびている。ソール隆起部13bの底面は、実質的に連続して水平面HPに沿ってのびている。従って、本実施形態のヘッド1は、第2部分26が設けられることにより、ソール隆起部13bは、トウ側により多くの体積を提供する。これにより、本実施形態のヘッド1のトウ側には、より多くの質量が配分され得る。
【0048】
本実施形態の第2部分26は、第1部分25と同様、実質的にフェースFと直交する向きにのびる滑らかな面で形成されている。好ましくは、第2部分26の主要部も、平面である。このような第2部分26は、ヘッド重心Gよりもトウ側において、ヘッド1の後方に行くほど低い位置に、より多くの質量を配分する。
【0049】
本実施形態の第3部分27は、第2部分25よりもトウ側に設けられており、トウ・ヒール方向にのびている。好ましくは、第3部分27も、ヘッド重心Gよりも低い位置に設けられており、そのトウ側の端部はトウ隆起部13cに滑らかに接続されている。従って、本実施形態のソール隆起部13bは、第3部分27が設けられることにより、ヘッド重心Gからトウ側に向かって、より多くの質量を配分しうる。
【0050】
第3部分27は、フェースFと直交する向きにのびる滑らかな面で形成されている。従って、第3部分27も、ヘッド1の後方に行くほど低い位置に、より多くの質量を配分する。
【0051】
従って、第2部分26及び第3部分27を含む本実施形態のヘッド1は、ホーゼル部3の質量とバランスするように、トウ側に向かうほど大きな質量を配分することができるため、ヘッド重心Gを通る垂直軸回りの慣性モーメント(以下、単に、「左右の慣性モーメント」という場合がある)が効果的に増大する。
【0052】
図6(a)には、ソール隆起部13bを部分的に取り出した上面図及び正面図が上下に並べて描かれている。ソール隆起部13bの上面20には、第1接続部28及び第2接続部29がさらに設けられている。
【0053】
第1接続部28は、第1部分25と、第1部分25よりも高く位置している第2部分26との間を接続している。第1接続部28は、傾斜した面であり、ヘッド後方に向かってヒール側に傾けられている。
【0054】
同様に、第2接続部29は、第2部分26と、第2部分26よりも高く位置している第3部分27との間を接続している。第2接続部28も、傾斜した面であり、ヘッド後方に向かってヒール側に傾けられている。
【0055】
従って、第2部分26と第1接続部28とで画定される第1ウエイト部30は、ヘッド後方に向かってヘッド重心Gの後方に近づいている。同様に、第3部分27と第2接続部29とで画定される第2ウエイト部31も、ヘッド後方に向かってヘッド重心Gの後方に近づいている。従って、本実施形態のソール隆起部13bは、より深いヘッド重心Gを提供することが可能になる。このようなヘッド1は、打撃時のブレ(振動)が小さく、優れた方向性と打球感の向上を提供する。
【0056】
第1接続部28及び第2接続部29の形状は、特に限定されるものではなく、種々の態様が採用され得る。好ましい実施形態では、第1接続部28及び第2接続部29は、ヘッド重心Gを囲むように凹んでいる凹球面状とされている。凹球面状の例は、図7及び図8に示されている。
【0057】
図7は、各接続部28、29の一例として、ソール隆起部13bのフェースFと平行な第1断面として、図3のX−X断面が示されている。図7に示される第1断面において、第1接続部28は、第1曲率半径R1で湾曲する第1円弧部28aを有している。同様に、第2接続部29は、第1断面において、第3曲率半径R3で湾曲する第3円弧部29aを有している。
【0058】
図8は、図7のC−C断面(左側に示す)及びD−D断面(右側に示す)がそれぞれ並べて描かれている。これらの断面は、フェースと直交しかつトウ・ヒール方向にのびるソール隆起部13bの第2断面である。図8に示される第2断面において、第1接続部28は、第2曲率半径R2で湾曲する第2円弧部28bを含んでいる。同様に、第2接続部29は、第4曲率半径R4で湾曲する第2円弧部29bを含んでいる。
【0059】
ヘッド重心回りの慣性モーメントは、単位質量miとヘッド重心Gからの距離riの二乗との積を全質量に亘って積分して得られる。第1接続部28及び第2接続部29が、ヘッド重心Gを囲むような凹球面状とされることにより、第1ウエイト部30及び第2ウエイト部31は、より効果的に、ヘッド重心Gから離れた位置に質量を持つ。従って、本実施形態のヘッド1は、より大きなヘッド重心G回りの慣性モーメントを提供することができる。
【0060】
さらに好ましい実施形態では、ヘッド重心Gからより遠い位置に設けられた第2接続部29の第3曲率半径R3は、第1接続部28の第1曲率半径R1よりも大きいことが望ましい。同様の観点より、ヘッド重心Gからより遠い位置に設けられた第2接続部29の第4曲率半径R4は、第1接続部28の第2曲率半径R2よりも大きいことが望ましい。これにより、ヘッド1は、さらに効果的に、大きなヘッド重心Gの回りの慣性モーメントを提供することができる。
【0061】
同時に、凹球面状の第1接続部28及び第2接続部29は、効果的に、ヘッド後方かつヘッド底部に質量をより多く配分することができるため、大きな重心深度及び低いヘッド重心を提供しうる。
【0062】
ところで、自由端を持つ背壁部18は、ボール打撃時に比較的振動しやすい。この振動は、シャフトを通して、ゴルファの手に大きな振動を与えるおそれがある。本実施形態のヘッド1では、凹球面状の第1接続部28及び第2接続部29は、ヘッド後方に向かってヒール側に傾けられていることにより、背壁部18を広い範囲でキャビティ内側から支え、上述の不快な振動を抑制することができる。従って、本実施形態のヘッド1は、ゴルファに良好な打球感を提供することができる。
【0063】
本実施形態では、第1接続部28の第1円弧部28a及び第2接続部29の第3円弧部は、ヘッド後方に向かって第1曲率半径R1及び第3曲率半径R3がそれぞれ漸減している。同様に、第1接続部28の第2円弧部28b及び第2接続部29の第4円弧部29bは、ヘッド上側に向かって第2曲率半径R2及び第4曲率半径R4がそれぞれ漸減している。これらにより、本実施形態のヘッド1は、さらに効果的にヘッド後方へ質量が配分され、大きな重心深度及び大きな上下の慣性モーメントが提供される。
【0064】
図6(a)に示されるように、ソール隆起部13bの正面視において、第1部分25と第2部分26との高さの差h1は、好ましくは、1〜10mmである。即ち、前記差h1が1mm未満の場合、トウ側に十分に質量を配分することができず、大きなヘッド重心G回りの慣性モーメントを提供することができないおそれがある。前記差h1が10mmを超える場合、ヘッド1の質量が過度に大きくなる。同様の観点より、ソール隆起部13bの正面視において、第2部分26と第3部分27との高さの差h2は、好ましくは、1〜20mmである。
【0065】
なお、ロングアイアン用のヘッド1の場合、打球を上げやすくするため低いヘッド重心とするのが望ましい。これにより、ロングアイアン用のヘッド1では、第1部分25と第2部分26との高さの差h1よりも第2部分26と第3部分27との高さの差h2が小さいのが望ましい。ショートアイアン及びウェッジ用のヘッド1の場合、より高い左右の慣性モーメントを確保し、かつ、スピン性能を向上させるため高いヘッド重心とするのが望ましい。これにより、ショートアイアン及びウェッジ用のヘッド1では、第1部分25と第2部分26との高さの差h1よりも第2部分26と第3部分27との高さの差h2が大きいのが望ましい。なお、ロングアイアン用のヘッド1は、ロフト角βが25°未満のヘッド1として定義され、ショートアイアン及びウェッジ用のヘッド1は、ロフト角βが37°以上のヘッド1として定義される。前記高さの差h1は、より好ましくは、3〜9mmである。前記高さの差h2は、より好ましくは、3〜18mmである。
【0066】
また、図6(a)に示されるように、第1接続部28のフェースFと平行なトウ・ヒール方向の最大長さw1は、好ましくは、1〜20mmである。即ち、前記最大長さw1が20mmを超える場合、ヘッド1のヒール側に質量が配分され、左右の慣性モーメントが小さくなるおそれがある。前記最大長さw1が1mm未満の場合、ヘッド後方に質量を効果的に配分することができないおそれがある。同様の観点より、第2接続部29のフェースFと平行なトウ・ヒール方向の最大長さw2は、好ましくは、1〜15mmである。
【0067】
第2接続部29の最大長さw2は、第1接続部28の最大長さw1よりも小さいのが望ましい。ここで、ヘッド重心Gから第1接続部28までのフェースFと平行なトウ・ヒール方向の距離は、ヘッド重心Gから第2接続部29までのフェースFと平行なトウ・ヒール方向の距離よりも小さい。このため、図6(b)に示されるように、上面図において、ヘッド重心Gを中心として第2接続部29を通る円弧29rの曲率半径rbは、ヘッド重心Gを中心として第1接続部28を通る円弧28rの曲率半径raよりも大きくなる。即ち、大きな左右の慣性モーメントを確保するためには、第1接続部28の円弧28rの上面20でのフェースFと平行なトウ・ヒール方向の長さLaに比して、第2接続部29の円弧29rの上面20でのフェースFと平行なトウ・ヒール方向の長さLbは小さくなる。従って、第2接続部29の最大長さw2は、第1接続部28の最大長さw1よりも小さいのが望ましい。
【0068】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されるものでなく、種々の態様に変更して実施される。例えば、第1傾斜部又は第2傾斜部は、図示されていないが、ヘッド後方に向かってヒール側に傾けられた平面であっても良いのは言うまでもない。
【実施例】
【0069】
図1〜8の基本構造を有するヘッドが、表1の仕様に基づき試作され、各ヘッドの重心深度、上下の慣性モーメント、及び、左右の慣性モーメントが測定された。図9には、比較例のヘッドのソール隆起部を部分的に取り出した上面図及び正面図が上下に並べて示される。図9に示されるように、比較例のヘッドは、第1接続部及び第2接続部が、ヘッド後方に向かって真っ直ぐにのびている。比較例のヘッドは、ソール隆起部を除いて図1の実施例のヘッドと同じである。各ヘッドの主な共通仕様は、以下の通りである。
【0070】
ヘッド:6番アイアン
ライ角:61.5°
ロフト角:27°
フェース板の材料:Ti−5Al−1Fe
ヘッド本体の材料:ステンレス鋼(SUS630)
ヘッドの質量:259g
テスト方法は、次の通りである。
【0071】
<重心深度>
重心深度として、基準状態において、ヘッド重心とスイートスポットとの垂線方向の距離GL(図3に示す)が測定された。結果は、実測値で示されている。数値が大きい程、良好である。
【0072】
<慣性モーメント>
基準状態において、上下の慣性モーメント及び左右の慣性モーメントが INERTIA DYNAMICS Inc 社製のMOMENT OF INERTIA MEASURING INSTRUMENTの MODEL NO.005-002を用いて測定された。結果は、実測値で示されている。数値が大きい程、良好である。
【0073】
【表1】
【0074】
テストの結果、実施例のヘッドは、比較例のヘッドに比べて、重心深度の大きさ、及び、両慣性モーメント、とりわけ上下の慣性モーメントが向上していることが確認できた。
【符号の説明】
【0075】
1 アイアン型ゴルフクラブヘッド
4 フェース背面
8 ソール
13 隆起部
13b ソール隆起部
20 ソール隆起部の上面
25 第1部分
26 第2部分
28 第1接続部
F フェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9