(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
丸編み機により、履き口、脚部、かかと部、足部およびつま先部を一体に編成した靴下が市販されている。丸編み機による編成の際には、履き口、脚部および足部は丸編み機のシリンダを一方向に連続回転させることで筒型に形成され、かかと部およびつま先部は丸編み機のシリンダを約半周で往復動させることで椀型に形成される。
そのような丸編み機で編成された靴下として、特許文献1のように、つま先部を左右で非対称形としたり、かかと部を左右で非対称形としたりして、内側(親指側)と外側(小指側)とで非対称形な人間の足に、よりよくフィットするように形状を調整する試みもなされている。
【0003】
しかし人間の足の形状は、踵や爪先のみが内側と非対称なのではない。たとえば足の踵に近接した箇所においては、一般に親指側の側面(内側)のほうが大きく窪んでいるため、小指側の側面(外側)よりも表面積が大きくなっている。このため、従来の靴下のようにかかと部とつま先部の間の足部の形状が左右で対称形であるものは、その箇所において足の形状に合致せず、装着した際のフィット感が悪い問題がある。
【0004】
また従来の丸編み機で一体編成された靴下では、足部の裏側と脚部の後側との間にかかと部が介在することで、足部と脚部とが屈曲しているが、その足部と脚部とのなす角度は、足部の甲側から見た場合に90度を大きく超えている(鈍角である)。しかし、人間の脚と足とはほぼ直角をなしているため、この靴下の屈曲角度が足と脚とのなす角度に対応しておらず、この点でも装着した際のフィット感が悪い問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の解決すべき課題は、丸編み機で一体に編成された靴下の足部の左右の形状を、人間の足の形状に合致するようにし、これと同時に、靴下の足部と脚部との屈曲角度を、人間の足と脚とのなす角度に近づけることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の靴下では、その足部に、丸編み機のシリンダを往復動させることで編成される継ぎ足し領域を、かかと部に近接しかつかかと部から離間した箇所の足甲側および足裏側のうち足裏側にのみ設け、この継ぎ足し領域において、足部の親指側の側面の面積が、足部の小指側の側面の面積よりも大きい構成としたのである。
【0008】
靴下の足部のかかと部に近接した箇所に設けた継ぎ足し領域において、靴下の中心線から見て親指側の側面の面積を小指側の側面の面積よりも大きく編成したので、親指側の側面のほうが大きく窪んでおり小指側の側面よりも表面積が大きい人間の足の踵に近接した箇所の形状に合致し、装着した際の足の内側と外側におけるフィット感が向上する。
靴下の足部の、かかと部に近接する箇所の足甲側と足裏側のうち、足裏側にのみ継ぎ足し領域を設けたため、足部の脚部に対する足部の甲側から見た屈曲角度がより小さくなって垂直へと近づき、装着した際の足と脚との境界におけるフィット感が向上する。
【0009】
本発明の靴下の継ぎ足し領域は、足部の親指側の側面では、かかと部からつま先部に向けてウェール方向の目数が増加しており、足部の小指側の側面では、かかと部からつま先部に向けてまずウェール方向の目数が増加し次いでウェール方向の目数が減少しているのが好ましい。
【0010】
このようにすると、継ぎ足し領域の外縁がつま先方向に対して傾斜しているため、これらの外縁がつま先方向と平行である場合と比較して、足部の他の筒状に編成された部位との境界箇所が滑らかに繋がれやすい。そのため、継ぎ足し領域と足部の他の箇所との境界箇所に、凹凸や皺、襞などが発生することが防止され、装着した際のフィット感が一層向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の靴下を以上のように構成することで、足部の左右の形状が人間の足の左右形状に合致したものができ、これと同時に、靴下の足部と脚部との屈曲角度が、人間の足と脚とのなす角度に近づけることができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1および
図2のように、実施形態の靴下1は、足を挿し入れる筒形の履き口10と、脚のすねからふくらはぎにかけて全周が収まる筒形の脚部20と、を有する。
さらに実施形態の靴下1は、足のかかとが収まる椀型のかかと部30と、足の甲から足裏にかけて全周が収まる筒形の足部40と、足指が収まる扁平なつま先部50と、を有する。
【0015】
これら履き口10、脚部20、かかと部30、足部40、およびつま先部50は、丸編み機を用いて全体としてほぼ筒型になるように、一体に編成されている。
さらに、かかと部30およびつま先部50にはゴアライン31、51が形成されており、またつま先部50には開口を塞いでなるリンキングライン52が形成されている。
履き口10、脚部20、かかと部30およびつま先部50の構造については、汎用されている靴下と同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0016】
足部40は、通常の筒状の箇所と、短冊状の継ぎ足し領域41と、からなる。
継ぎ足し領域41は、足部40のかかと部30に対して間隔をあけて近接する箇所において、足甲側から足裏側にかけての全周のうち、約半周に相当する足裏側にのみ設けられている。また継ぎ足し領域41は、幅(コース方向の長さ)が狭く設けられている。
継ぎ足し領域41の幅は、特に限定されないが、足部40の全長(コース方向の長さ)の1/10〜1/5程度が例示できる。
継ぎ足し領域41とかかと部30の間には、足部40の通常の筒形に編成された箇所として、幅(コース方向の長さ)の狭いスペーサ部42が形成されている。すなわち、継ぎ足し領域41とかかと部30とは、スペーサ部42の幅に相当する間隔が空けられている。
スペーサ部42の幅は、特に限定されないが足部40の全長(コース方向の長さ)の1/10以下程度が例示できる。
【0017】
図1(a)のように、継ぎ足し領域41は、靴下1の内側(親指側)の側面においては、かかと部30からつま先部50に向けてその高さ(ウェール方向の長さ)が単調に増加している。
これにより、靴下1の内側の側面において、継ぎ足し領域41の上縁41aは直角三角形の斜辺のような外観を呈しており、つま先部50に向けて上り勾配に傾斜している。
【0018】
一方、
図1(b)のように、継ぎ足し領域41は、靴下1の外側(小指側)の側面においては、かかと部30からつま先部50に向けて、まずその高さ(ウェール方向の長さ)が単調に増加し、次いでその高さが単調に減少している。
これにより、靴下1の外側の側面において、継ぎ足し領域41の上縁41bは二等辺三角形の等辺のような外観を呈しており、つま先部50に向けて、まず上り勾配に傾斜し、次いで下り勾配に前記上り勾配とほぼ同じ傾斜角度で傾斜している。
【0019】
図1および
図2の(a)と(b)とを対比すれば明らかなように、継ぎ足し領域41は、靴下1の内側(親指側)の側面のほうが外側(小指側)の側面の面積よりも大きく形成されている。
すなわち、
図2(a)において、継ぎ足し領域41の靴下1の中心線となるラインCよりも内側の面積は、ラインCよりも外側の面積よりも大きくなっている。
継ぎ足し領域41の内側と外側との面積の差は特に限定されないが、靴下1が伸縮していない状態で、数mm
2〜数cm
2が例示できる。また、継ぎ足し領域41の内側と外側のウェール方向の編目の数の差も特に限定されないが、同一のコース上において数個〜数十個が例示できる。
【0020】
実施形態の靴下1では、足部40の足裏側に、かかと部30に近接して継ぎ足し領域41を継ぎ足したため、このような継ぎ足し領域41が存在しない場合に比べて、足部40(足部の大部分)と脚部20とのなす足部40の甲側から見た屈曲角度を小さくすることができる。
したがって、靴下1の足部40と脚部20との屈曲角度を、従来の靴下のような鈍角から人間の足の脚に対する角度である約90度へと近づけることができ、装着時における足の付け根部分のフィット感を高めることができる。
【0021】
同時に実施形態の靴下1では、その足部40のかかと部30に近接した継ぎ足し領域41は、靴下の中心線から見て内側(親指側)の側面の面積が外側(小指側)の側面の面積よりも大きいため、靴下全体においても、その足部40における内側の側面の表面積が外側の側面の表面積よりも大きい非対称形となっている。
したがって、親指側の側面が小指側の側面よりも通常は大きい人間の足の特にかかとに近接した個所の形状に近づけることができ、装着時における足の左右箇所のフィット感を高めることができる。
【0022】
ここで足部40の継ぎ足し領域41の上縁41a、41bは、内側(親指側)と外側(小指側)のいずれにおいても、つま先部50の方向に対して傾斜しているため、上縁が傾斜していない場合、すなわちつま先部50の方向と平行の場合に比べて、足部40の他の箇所との境界を繋ぎやすくなっている。
これにより、足部40の側面に意図しない凹凸、皺、襞等が形成されるのが防止され、それら凹凸等が形成されることにともなうフィット感の低下を防止することができる。
【0023】
このような実施形態の靴下1は、丸編機を用いて以下のようにして編成される。
図2に示すように、まず丸編機のシリンダcを一方向に連続回転させながら全周の編針を作動させ履き口10および脚部20を筒形に順に編成してゆく。
【0024】
脚部20の編成を終えると、
図2のシリンダcのBからCをへてDまでの範囲の編針のみを作動させ、シリンダcを約半周で往復動させて編成を続行する。
このとき、まず端部の編針を漸次休止させて、編幅を減じながら台形の編地を編成し、終点においてはBおよびCの中間箇所からCおよびDの中間箇所までの範囲で編成する。次いで端部の編針をBからCを経てDまでの範囲にいたるまで漸次再作動させて、編幅を増しながら前記台形の編地と対称形の編地を編成する。
ここで
図2に示す両台形の編地の側縁31、31同士は、連続的に編成されてゴアライン31を形成しているため、椀状のかかと部30が編成されることになる。
【0025】
かかと部30の編成を終えると、ふたたびシリンダcを一方向に連続回転させながら全周の編針を作動させて足部40を筒形に編成してゆく。
ここで、
図2の脚部20の終端21と足部40の始端43とは、連続的に編成されて連係部21、43となっている。
【0026】
足部40の編成時には、いったん上述のようにシリンダcを一方向に連続回転させてスペーサ部42を筒形に編成した後に、継ぎ足し領域41の編成へと移る。継ぎ足し領域41の編成が終わると、再び上述のようにシリンダcを一方向に連続回転させて足部40の残余の箇所を筒形に編成する。
なお、スペーサ部42と継ぎ足し領域41および足部の残余の箇所との対向縁は、
図2では、離間して図示しているが、実際には連続的に編成されているものとする。
【0027】
継ぎ足し領域41は、
図2のシリンダcのB、C、DからDとEの中間地点までの範囲の編針のみを作動させ、シリンダを約3/8周で往復動させて編成をおこなう。
ここで、足部40の内側においては、端部の編針をCからDまでの範囲から、CからDとEの中間地点までの範囲へと、漸次増加させながら編成をしてゆく、これにより、継ぎ足し領域41の全体のうち内側の半部は、台形状に編成される。
一方、足部40の外側においては、端部の編針をCからBとCの中間地点までの範囲から、CからBまでの範囲へと漸次増加させ、次いで、CからBとCの中間地点までの範囲へと漸次減少させながら編成してゆく。これにより継ぎ足し領域41の全体のうち外側の半部は、五角形状(ホームベース状)に編成される。
ここで
図2からもわかるように、継ぎ足し領域41では、同一コース上における足部40の親指側の側面のウェール方向の目数が、小指側の側面のウェール方向の目数よりも常に多くなっている。
【0028】
足部40の編成を終えると、
図2のシリンダのBからCをへてDまでの範囲の編針のみを作動させ、シリンダcを約半周で往復動させて編成を続行する。
かかと部30を編成した際と同様に、まず端部の編針を漸次休止させて編幅を減じながら台形の編地を編成し、次いで端部の編針をBからCをへてDまでの範囲へと漸次再作動させて、編幅を増しながら前記台形の編地と対称形の編地を編成する。
ここで
図2に示す両台形の編地の側縁51、51同士は、連続的に編成されて靴下1の両側部に現れるゴアライン51を形成している。
最後に、つま先部50から足部40にかけての開口縁52、44を縫い閉じることでリンキングライン52、44が形成される。
【0029】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
【0030】
靴下の継ぎ足し領域41の形状は、実施形態に限定されず、内側の側面の面積が外側の側面の面積よりも大きくなるように編成されていればよい。
たとえば、継ぎ足し領域41の上縁の形状を、両方とも
図1(a)のような直角三角形の斜辺のような形状としたり、両方とも
図1(b)のような二等辺三角形の等辺のような形状としたりして、その高さ(ウェール方向の長さ)のみが、内側の側面が外側の側面よりも大きいように形成してもよい。
継ぎ足し領域41の上縁は、継ぎ足し領域41の形状が矩形となるように、つま先部50の方向とほぼ平行に形成してもよく、またウェール方向の目数の増減を繰り返してギザギザ状に形成してもよい。
継ぎ足し領域41のウェール方向の長さは、図示したものに限定されず、シリンダcの概ね半周の範囲で編成される限り、多少の範囲の増減は許容される。特に限定されるものではないが、1/3〜5/9周が例示できる。
【0031】
実施形態では、かかと部30やつま先部50を、従来と同様に左右対称形に編成しているが、それぞれ人間の足のかかとの形状やつま先の形状に合致するように、左右非対称形に編成してもよい。つま先部50は、人間の足指に対応して分岐する足袋タイプの形状としたり、開口して足指が外に出るタイプの形状としたりしてもよい。
実施形態では、脚部20の比較的長いタイプの靴下1を例示しているが、脚部20のほとんど無いいわゆるアンクル丈のものとしてもよい。
靴下1の素材、編み方は合成繊維、天然繊維、平編、ゴム編等に特に限定されないし、部位ごとに編み方を変えたりしてもよい。