(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262959
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金部品の製造方法およびアルミニウム合金板のプレス成形装置
(51)【国際特許分類】
B21D 22/20 20060101AFI20180104BHJP
B21D 5/01 20060101ALI20180104BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20180104BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20180104BHJP
C22F 1/05 20060101ALN20180104BHJP
C22F 1/057 20060101ALN20180104BHJP
C22F 1/053 20060101ALN20180104BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20180104BHJP
【FI】
B21D22/20 E
B21D22/20 H
B21D5/01 A
C22F1/04 A
C22C21/00 N
B21D5/01 K
B21D22/20 Z
!C22F1/05
!C22F1/057
!C22F1/053
!C22F1/00 602
!C22F1/00 623
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 685A
!C22F1/00 691A
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691Z
!C22F1/00 694B
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-172833(P2013-172833)
(22)【出願日】2013年8月23日
(65)【公開番号】特開2015-39719(P2015-39719A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂根 雄斗
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 勇人
【審査官】
石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−205244(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/059233(WO,A1)
【文献】
特開平10−068054(JP,A)
【文献】
特開2013−086097(JP,A)
【文献】
特開平08−071652(JP,A)
【文献】
特開2010−227954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/20
B21D 5/01
C22F 1/00−3/02
C22C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時効硬化処理された、0.5〜4.0質量%のLiを含有するアルミニウム合金板を加熱する工程と、
加熱された前記アルミニウム合金板に対して、時効析出物の実質的な固溶が開始する前にプレス成形を行う工程と、
前記プレス成形後のアルミニウム合金板を冷却する工程と、
を含む、アルミニウム合金部品の製造方法。
【請求項2】
前記プレス成形は、前記アルミニウム合金板に曲げ加工を施すものである、請求項1に記載のアルミニウム合金部品の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム合金板を、通電加熱または誘導加熱により加熱する、請求項1または2に記載のアルミニウム合金部品の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム合金板を、50〜150℃/secの昇温速度で加熱する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金部品の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム合金板を加熱する工程では、前記アルミニウム合金板を200℃±20℃の成形温度に加熱する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形によりアルミニウム合金部品を製造する方法、およびこの製造方法に好適に用いられるアルミニウム合金板のプレス成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウム合金板に対してプレス成形を行うことによりアルミニウム合金部品を製造することが行われている。例えば、特許文献1には、円形状のアルミニウム合金板にプレス成形により曲げ絞り加工を施すことにより、原板よりも縮径されたハット状の部品を製造する方法が開示されている。
【0003】
具体的に、特許文献1に開示された方法では、時効硬化処理されたアルミニウム合金板(熱処理型アルミニウム合金板)を時効析出物が固溶するように部分的に加熱した後に、アルミニウム合金板に対してプレス成形を行っている。アルミニウム合金板を加熱することで、時効硬化処理により劣化した加工性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−227954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、時効析出物が固溶するようにアルミニウム合金板を加熱した場合には、アルミニウム合金板の強度が低下する。時効硬化処理はアルミニウム合金板に高い強度を付与するためのものであるので、時効硬化処理されたアルミニウム合金板を原板として用いる場合は、アルミニウム合金板の強度を維持したままでアルミニウム合金部品を製造することが望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、時効硬化処理されたアルミニウム合金板を原板として用いながら、原板と同等の強度を有するアルミニウム合金部品を得ることができる製造方法、およびこの製造方法に好適に用いられるアルミニウム合金板のプレス成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明のアルミニウム合金部品の製造方法は、時効硬化処理されたアルミニウム合金板を加熱する工程と、加熱された前記アルミニウム合金板に対して、時効析出物の実質的な固溶が開始する前にプレス成形を行う工程と、前記プレス成形後のアルミニウム合金板を冷却する工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0008】
ここで、「時効析出物の実質的な固溶」とは、時効析出物が10%以上固溶することをいう。
【0009】
上記の構成によれば、プレス成形の前後において時効析出物の実質的な固溶が防止される。これにより、アルミニウム合金板の強度を維持したままでアルミニウム合金部品を製造することができる。
【0010】
例えば、前記プレス成形は、前記アルミニウム合金板に曲げ加工を施すものであってもよい。
【0011】
例えば、前記アルミニウム合金板は、質量%で、0.1〜4.0%のLiを含有してもよい。
【0012】
前記アルミニウム合金板を、通電加熱または誘導加熱により加熱してもよい。この構成によれば、アルミニウム合金板を急速に加熱することができる。
【0013】
例えば、前記アルミニウム合金板を、50〜150℃/secの昇温速度で加熱してもよい。
【0014】
また、本発明のアルミニウム合金板のプレス成形装置は、アルミニウム合金板が載置される載置面を有するダイと、前記アルミニウム合金板を押圧する、前記ダイに対して進退可能なパンチと、前記アルミニウム合金板を加熱するための加熱器と、前記加熱器を前記パンチと前記ダイの間の加熱位置と前記パンチと重ならない退避位置との間で移動させる移動機構と、を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、時効硬化処理されたアルミニウム合金板を原板として用いながら、原板と同等の強度を有するアルミニウム合金部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は1つの具体例に係るアルミニウム合金板のプレス成形装置の平面図、(b)は同プレス成形装置の側面図である。
【
図2】(a)および(b)は、
図1(a)および(b)に示すプレス成形装置の動作を示す図である。
【
図3】(a)は変形例のプレス成形装置の平面図、(b)は同プレス成形装置の側面図である。
【
図4】(a)は別の変形例のプレス成形装置の平面図、(b)は同プレス成形装置の側面図である。
【
図5】さらに別の変形例のプレス成形装置の側面図である。
【
図6】(a)および(b)は、それぞれ局所加熱用の加熱器の側面図および背面図である。
【
図7】(a)および(b)は、それぞれ全体加熱用の加熱器の側面図および背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<製造方法>
本発明のアルミニウム合金部品の製造方法は、時効硬化処理されたアルミニウム合金板を原板として用いてアルミニウム合金部品を製造するものであり、加熱工程、プレス工程および冷却工程を含む。以下では、まず原板として用いられるアルミニウム合金板について説明し、その後に各工程を詳細に説明する。
【0018】
(アルミニウム合金板)
時効硬化処理されるアルミニウム合金板としては、2000系(Al−Cu系)、6000系(Al−Mg−Si系)および7000系(Al−Zn−Mg系)の熱処理型アルミニウム合金板がある。また、Liを含有する8000系のアルミニウム合金板も、時効硬化処理される。なお、2000系のアルミニウム合金板にもLiを含有するものがある。
【0019】
日本工業規格JIS H0001によれば、アルミニウム合金の熱処理区分には、概してT1〜T10までの10種類の時効硬化処理がある。中でも、アルミニウム合金板を室温よりも高い所定の時効温度(例えば、100〜220℃)で一定時間保持する人工時効硬化処理を行うものは、T5〜T10である。人工時効硬化処理を行う「一定時間」は、数十分程度(例えば、30〜90分)であってもよいし、数時間または数十時間程度(例えば、3〜36時間)であってもよい。本発明の製造方法において、原板として用いられるアルミニウム合金板は、自然時効硬化処理(T1〜T4)されたものであってもよいし、人工時効硬化処理(T5〜T10)されたものであってもよい。
【0020】
2000系のアルミニウム合金板は、ベース成分として、質量%で(以下同じ)、Cu:1.0〜6.0%、Fe:0.01〜1.5%、Si:0.01〜1.3%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる。さらに、2000系のアルミニウム合金板は、必要に応じて添加される追加成分として、Li:0.1〜4.0%、Mn:0.01〜1.2%、Mg:0.01〜1.8%、Cr:0.01〜0.1%、Zn:0.01〜0.25%、Ti:0.01〜0.5%のうちの少なくとも1種を含有してもよい。Liの含有量は、好ましくは0.5〜3.0%である。
【0021】
6000系のアルミニウム合金板は、ベース成分として、Mg:0.35〜1.2%、Si:0.30〜1.3%、Fe:0.01〜1.0%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる。さらに、6000系のアルミニウム合金板は、必要に応じて添加される追加成分として、Cu:0.1〜0.40、Mn:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜0.35%、Zn:0.01〜0.25%、Ti:0.01〜0.15%のうちの少なくとも1種を含有してもよい。
【0022】
7000系のアルミニウム合金板は、ベース成分として、Zn:0.8〜8.4%、Mg:0.01〜3.1%、Fe:0.01〜0.50%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる。さらに、7000系のアルミニウム合金板は、必要に応じて添加される追加成分として、Si:0.01〜0.40%、Cu:0.01〜2.6%、Mn:0.01〜0.7%、Cr:0.01〜0.35%、Ti:0.01〜0.06%のうちの少なくとも1種を含有してもよい。
【0023】
Liを含有する8000系のアルミニウム合金板は、ベース成分として、Li:2.2〜2.8%、Cu:1.0〜2.2%、Mg:0.50〜1.3%、Zr:0.04〜0.16%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる。さらに、Liを含有する8000系のアルミニウム合金板は、必要に応じて添加される追加成分として、Fe:0.01〜0.3%、Si:0.01〜0.2を含有してもよい。
【0024】
人工時効硬化処理されたアルミニウム合金板は、時効析出物を含む。Liを含有しない2000系のアルミニウム合金板では、代表的な時効析出物はAlCu
2であり、6000系のアルミニウム合金板では、代表的な時効析出物はMg
2Siであり、7000系のアルミニウム合金板では、代表的な時効析出物はMgZn
2である。
【0025】
Liを含有する2000系のアルミニウム合金板では、代表的な時効析出物はAl
2CuLiであり、Liを含有する8000系のアルミニウム合金板では、代表的な時効析出物はAl
3Liである。このように、Liを含有するアルミニウム合金板では、時効析出物にLiが含まれる。
【0026】
Liを含有するアルミニウム合金板は、1980年代に第二世代としてA2090、A2091、A8090、A8091などが開発されており、2000年代には第三世代としてA2196、A2098、A2099などが開発されている。さらに、近年では、第四世代として、A2060が開発されている。A2060の組成は、Cu:3.4〜4.5%、Mn:0.10〜0.50%、Mg:0.6〜1.1%、Zn:0.30〜0.50%、Zr:0.05〜0.15%、Li:0.6〜0.9%、Ag:0.05〜0.50、残部:Alおよび不可避的不純物である。
【0027】
(加熱工程)
本発明の製造方法において最初に行われる本工程では、時効硬化処理されたアルミニウム合金板を所定の成形温度に加熱する。人工時効硬化処理されたアルミニウム合金板を原板として用いる場合、成形温度は、時効析出物の固溶を防止するという観点からは人工時効硬化処理が行われた時効温度以下であることが望ましいが、加熱工程から冷却工程までの時間が比較的に短い場合は時効温度以上であってもよい。成形温度の下限は、後述するプレス成形においてアルミニウム合金板が破損することなく変形する程度、換言すればアルミニウム合金板が所望のプレス成形に応じた伸び可能率を有する程度であればよい。
【0028】
例えば、7000系のアルミニウム合金板を用いた場合は、成形温度をおよそ160℃±20℃としてもよいし、Liを含有するアルミニウム合金板を用いた場合は、成形温度をおよそ200℃±20℃としてもよい。
【0029】
アルミニウム合金板を加熱する方法は特に限定されない。例えば、バーナやレーザなどを用いてアルミニウム合金板を加熱してもよい。ただし、アルミニウム合金板を急速に加熱でき、かつ、温度を容易に制御できるという観点からは、アルミニウム合金板を、通電加熱または誘導加熱により加熱することが望ましい。アルミニウム合金板を急速に加熱する場合の昇温速度は、例えば50〜150℃/secである。アルミニウム合金板を急速に加熱することにより、加熱工程の時間を短くでき、時効析出物の固溶を効果的に抑制できる。
【0030】
通電加熱または誘導加熱によりアルミニウム合金板を加熱する場合は、非接触温度計によりアルミニウム合金板の表面温度を計測し、その計測値に基づいて通電加熱または誘導加熱を行う加熱器への出力を制御すればよい。この場合、アルミニウム合金板の表面に、スプレーなどにより黒色塗料を塗布してもよい。
【0031】
なお、アルミニウム合金板の加熱完了から後述するプレス成形を行うまでに要する時間は数秒以内であることが望ましい。このような観点からは、通電加熱または誘導加熱を行う加熱器は、プレス成形を行うプレス成形装置へ組み込まれていることが望ましい。
【0032】
(プレス工程)
本工程では、加熱されたアルミニウム合金板に対して、時効析出物の実質的な固溶が開始する前にプレス成形を行う。プレス成形は、アルミニウム合金板に、絞り加工を施すものであってもよいし、曲げ加工を施すものであってもよいし、曲げ絞り加工を施すものであってもよい。
【0033】
例えば、アルミニウム合金部品として、航空機胴体のスキンとフレームの間に介在する、90度に折れ曲げられたシェアタイ(shear tie)を製造する場合、プレス成形によりアルミニウム合金板に曲げ加工が施される。
【0034】
プレス成形を行うプレス成形装置は、通常、アルミニウム合金板が載置されるダイと、ダイに対して進退可能なパンチを備える。加熱されたアルミニウム合金板からダイへの放熱を抑制するために、ダイが予め加熱されてもよいし、アルミニウム合金板とダイの間に断熱構造(例えば、断熱シート)が設けられていてもよい。
【0035】
(冷却工程)
本工程では、プレス成形後のアルミニウム合金板を冷却する。アルミニウム合金板を冷却する方法は特に限定されない。例えば、成形温度が低い場合や、プレス成形後のアルミニウム合金板をそのまま放置しても時効析出物の固溶が開始しないと想定される場合は、自然冷却によりアルミニウム合金板を冷却してもよい。
【0036】
また、プレス成形装置のパンチに、送風機や内部冷却水循環などの冷却機構を設けておいて、プレス成形後にアルミニウム合金板を強制的に冷却してもよい。あるいは、プレス成形後のアルミニウム合金板を低温環境下に移送して強制的に冷却することも可能である。
【0037】
以上の工程では、プレス成形の前後において時効析出物の実質的な固溶が防止される。これにより、アルミニウム合金板の強度を維持したままでアルミニウム合金部品を製造することができる。すなわち、時効硬化処理されたアルミニウム合金板を原板として用いながら、原板と同程度の強度を有するアルミニウム合金部品が得られる。さらには、時効析出物の実質的な固溶が防止されるために、耐食性が損なわれることもない。
【0038】
<プレス成形装置>
次に、
図1(a)および(b)ならびに
図2(a)および(b)を参照して、本発明のアルミニウム合金部品の製造方法に好適に用いられるアルミニウム合金板のプレス成形装置1を示す。このプレス成形装置1は、アルミニウム合金板Wに曲げ加工を施すプレス成形を行うものである。
【0039】
具体的に、プレス成形装置1は、アルミニウム合金板Wが載置される水平な載置面を有するダイ2と、ダイ2に対して進退可能な(すなわち、上下方向に昇降可能な)、アルミニウム合金板Wを押圧するパンチ3を備える。さらに、プレス成形装置1は、誘導加熱によりアルミニウム合金板Wを加熱するための加熱器4と、加熱器4をパンチ3とダイ2の間の加熱位置とパンチ3と重ならない退避位置との間で移動させる移動機構5を備える。
【0040】
ダイ2は、図略の支持部材(例えば、フレーム)に固定された固定部21と、固定部21に対して上下方向に摺動可能な可動部22を含む。固定部21の上面および可動部22の上面は、同一高さに位置してダイ2の載置面を構成する。パンチ3が下降すると、
図2(a)に示すように、ダイ2の可動部22がアルミニウム合金板Wの上からパンチ3により押し込まれる。これにより、アルミニウム合金板WがL字状に折り曲げられる。パンチ3が上昇すると、可動部22の上面が再び固定部21の上面まで移動し、L字状に折り曲げられたアルミニウム合金板Wがダイ2の載置面上に持ち上げられる。
【0041】
加熱器4は、本実施形態では、アルミニウム合金板Wにおける折り曲げ加工が施される部分を局所的に加熱するように構成されている。具体的には、
図6(a)および(b)に示すように、加熱器4は、電流が流される導線41と、導線41におけるアルミニウム合金板Wに沿って直線状に延びる部分をアルミニウム合金板Wと反対側から覆うコア42を含む。
【0042】
ただし、加熱器4は、アルミニウム合金板Wを全体的に加熱するように構成されていてもよい。例えば、
図7(a)および(b)に示すように、導線41は、アルミニウム合金板Wに沿って渦巻き状に巻き回されてコイルを形成していてもよい。
【0043】
また、本実施形態では、ダイ2上に載置されたアルミニウム合金板Wを上方から加熱するように加熱器4が配置されているが、例えばロボットなどによりアルミニウム合金板Wをハンドリングする場合は、アルミニウム合金板Wがダイ2から上方に離間した状態で、加熱器4がアルミニウム合金板Wを下方から加熱してもよい。
【0044】
以上説明したようなプレス成形装置1は、通常のプレス成形装置に加熱器4および移動機構5を付帯させるだけで実現することができる。すなわち、急速加熱を行う加熱器4を用いることにより、通常のプレス成形装置の生産速度を維持したままでアルミニウム合金部品を製造することができる。これにより、アルミニウム合金部品を量産することができる。
【0045】
(変形例)
プレス成形装置1は、実行するアルミニウム合金部品の製造方法に応じて種々の変形が可能である。
【0046】
例えば、絞り成形する場合、ダイ2として可動部を有さない単なる金型を用いてもよい。この場合、プレス成形装置1は、アルミニウム合金板Wにおける加工されない部分をダイ2と挟持する固定治具を備えていてもよい。
【0047】
また、誘導加熱を行う加熱器4に代えて、
図3(a)および(b)に示すように、通電加熱によりアルミニウム合金板Wを過熱する加熱器として、一対の電極6が採用されてもよい。
図3(a)および(b)に示す例では、アルミニウム合金板Wにおけるダイ2の固定部21と可動部22の境界上に位置する部分を局所的に加熱するように、アルミニウム合金板Wの長さよりも短い長さの電極6がアルミニウム合金板Wの幅方向の両端部に配置されている。これらの電極6も、移動機構5により加熱位置と退避位置との間で移動されてもよい。
【0048】
あるいは、
図4(a)および(b)に示すように、アルミニウム合金板Wを全体的に加熱するように、アルミニウム合金板Wの幅と等しい長さの電極6が、アルミニウム合金板Wの長手方向の両端部に配置されていてもよい。さらには、
図5に示すように、一対の電極6は、ダイ2の可動部22における固定部21側のコーナー部およびパンチ3の固定部21側のコーナー部に埋め込まれていてもよい。
【0049】
通電加熱用の一対の電極6を用いる場合は、アルミニウム合金板Wとダイ2の間に絶縁シートを挿入するか、ダイ2の少なくとも載置面をセラミックスなどの絶縁材料で構成することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、種々の形状のアルミニウム合金部品を製造する際に有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 プレス成形装置
2 ダイ
21 固定部
22 可動部
3 パンチ
4 加熱器
6 電極(加熱器)
5 移動機構