(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262961
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20180104BHJP
F16J 15/3252 20160101ALI20180104BHJP
【FI】
F16J15/3204 101
F16J15/3252
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-175881(P2013-175881)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-45357(P2015-45357A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 宏紀
【審査官】
保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−107550(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/030585(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204−15/3236
F16J 15/3252
F16F 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状基板の内径部の密封空間側に、ゴム状弾性材料からなり密封空間側を向いた状態で軸の外周面に密接される主リップが設けられ、前記主リップを大気側かつ内周側から支承するバックアップリングが前記環状基板の内径部における密封空間側の面と前記主リップとの間に配置され、前記バックアップリングと前記環状基板の内径部における密封空間側の面とが、前記環状基板の内周面に連絡しない位置で互いに凹凸に嵌め込まれて係合していることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の油圧緩衝器等における往復動軸の密封手段として用いられる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の油圧緩衝器(ショックアブソーバ)に用いられる密封装置として、従来、例えば下記の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
図4は、この種の従来の密封装置を未装着状態で示すものであり、
図5は、油圧緩衝器への装着状態を示すものである。すなわち、この密封装置は、油圧緩衝器110の内部の作動油を密封対象とするオイルシール101と、外部からの異物や泥水の侵入を防止するダストシール102と、バックアップリング103とを備え、両シール101,102における金属製の環状基板101a,102aが、油圧緩衝器110におけるシリンダ111の開口端のカシメ部111aとその内側のロッドガイド112との間に挟持されている。
【0004】
オイルシール101は、環状基板101aに、密封空間側(油圧緩衝器110の内部内部空間側)を向いた状態でピストンロッド113の外周面に密接される主リップ101bと、シリンダ111及びロッドガイド112との間を密封する外周リップ101cをゴム状弾性材料で一体成形(加硫接着)したものであり、ダストシール102は、外径部同士で環状基板101aと互いに嵌合一体化される環状基板102aに、大気側を向いた状態でピストンロッド113の外周面に密接されるダストリップ102bをゴム状弾性材料で一体成形(加硫接着)したものである。また、バックアップリング103は、合成樹脂からなるものであって、オイルシール101の主リップ101bの根元近傍と、ダストシール102における環状基板102aの内周部の間に保持され、主リップ101bを大気側かつ内周側から支承し、油圧緩衝器110の内部の油圧による主リップ101bの変形を抑制するものである。
【0005】
すなわち、この密封装置は、
図5に示すように、オイルシール101の主リップ101bが、ピストンロッド113の外周面に適当な締め代で密接することによって、内部の作動油が油圧緩衝器110の外部へ流出するのを阻止するものであり、ダストシール102は、ダストリップ102bがピストンロッド113の外周面に適当な締め代で密接することによって、外部から異物が油圧緩衝器110の内部へ浸入するのを阻止するものである。また、油圧緩衝器110の内部のピストンの動作に伴って作動油の圧力が上昇すると、この油圧は、ピストンロッド113の外周面に対する主リップ101bの緊迫力を増大するように作用するが、この主リップ101bは、バックアップリング103によって大気側かつ内周側から支承されているので、緊迫力の増大が抑制され、その耐圧性が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−309263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、合成樹脂からなるバックアップリング103は、オイルシール101の主リップ101bに作用する油圧Pが高圧になるほど縮径方向への変形量が大きくなり、このため主リップ101bを支持しきれずに、
図6に示すように主リップ101bの変形量が大きくなってピストンロッド113に対する摩擦負荷が増大し、バックアップリング103自体もピストンロッド113の外周面と接触してしまう懸念がある
。
【0008】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、高圧が作用したときも主リップに対するバックアップリングの支持力を維持することの可能な密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、本発明に係る密封装置は、環状基板の内径部の密封空間側に、ゴム状弾性材料からなり密封空間側を向いた状態で軸の外周面に密接される主リップが設けられ、前記主リップを大気側かつ内周側から支承するバックアップリングが前記環状基板の内径部
における密封空間側の面と前記主リップとの間に配置され、前記バックアップリングと前記環状基板の内径部
における密封空間側の面とが、
前記環状基板の内周面に連絡しない位置で互いに
凹凸に嵌め込まれて係合
しているものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る密封装置によれば、主リップに作用する密封空間の圧力が上昇しても、この主リップを大気側かつ内周側から支承するバックアップリング
の縮径方向への変位が規制されるので、主リップの変形量の増大を抑えることができ、バックアップリング自体も軸の外周面との接触が防止されるため、摩擦負荷や摩耗の増大を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態を、軸心を通る平面で切断して示す未装着状態の片側断面図である。
【
図2】本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態を、軸心を通る平面で切断して示す分解状態の片側断面図である。
【
図3】本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態を、軸心を通る平面で切断して示す油圧緩衝器への装着状態の片側断面図である。
【
図4】従来の密封装置の一例を、軸心を通る平面で切断して示す未装着状態の片側断面図である。
【
図5】従来の密封装置の一例を、軸心を通る平面で切断して示す油圧緩衝器への装着状態の片側断面図である。
【
図6】従来の密封装置の一例において、バックアップリングの縮径方向への変形量が増大した状態を、軸心を通る平面で切断して示す装着状態の片側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態について、
図1〜
図3を参照しながら説明する。
図1は未装着状態で示すものであり、
図2は、未装着状態かつ分解状態を示すものであり、
図3は油圧緩衝器への装着状態を示すものである。
【0013】
まず
図3において、参照符号110は車両の懸架装置における油圧緩衝器であって、シリンダ111と、このシリンダ111の開口端近傍の内周に取り付けられたロッドガイド112と、このロッドガイド112の内周孔を貫通したピストンロッド113を備える。ピストンロッド113は、請求項1に記載された軸に相当するものである。
【0014】
本発明に係る密封装置は、油圧緩衝器110の内部の作動油を密封対象とするオイルシール1と、外部からの異物や泥水の浸入を防止するダストシール2と、バックアップリング3とを備える。
【0015】
詳しくは、オイルシール1は、
図1及び
図2にも示すように、取付環11と、これに一体的に設けられて
図3に示す油圧緩衝器110の内部空間である密封空間A側となる側を向いた主リップ12及び外周リップ13からなり、ダストシール2は、オイルシール1の取付環11の大気B側となる側に重合配置された環状基板21と、これに一体的に設けられて前記大気B側となる側を向いたダストリップ22からなり、オイルシール1の取付環11とダストシール2の環状基板21が互いに重合すると共に外径部同士が互いに圧入嵌着されている。
【0016】
オイルシール1の取付環11は、金属板を、軸心を通る平面で切断した形状(図示の断面形状)が略L字形をなすように打ち抜きプレス成形したものであり、すなわち円盤部11aと、その外径端から延びる外径筒状部11bからなる。
【0017】
オイルシール1における主リップ12は、取付環11の円盤部11aの内径端部に加硫接着され、軸方向一側(密封空間A側)へ向けて漸次小径になるように延びており、ピストンロッド113の外周面に摺動可能に密接されることによって、密封空間A内の作動油を密封するものである。また、オイルシール1における外周リップ13は、取付環11の円盤部11aと外径筒状部11bの間の屈曲部に加硫接着された基部から、軸方向一側(密封空間A側)へ向けて延びており、油圧緩衝器110におけるシリンダ111の内面とロッドガイド112の外周面との間に圧縮状態に介在されることによって、密封空間A内の作動油を密封するものである。主リップ12と外周リップ13の間に連続して形成され取付環11の円盤部11aの軸方向一側面に一体的に被着された弾性膜部14には、中間凸条15が形成されている。主リップ12、外周リップ13、弾性膜部14及び中間凸条15は、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で加硫成形されたものである。
【0018】
ダストシール2の環状基板21は、オイルシール1の取付環11より厚肉の金属板をドーナツ状に打ち抜いて製作したもので、オイルシール1の取付環11の円盤部11aにおける軸方向他側(主リップ12及び外周リップ13と反対側)の面に重合されると共に、外径端部21aが、前記取付環11における外径筒状部11bの内周に圧入嵌着されている。また、ダストリップ22は、ゴム状弾性材料で加硫成形されたものであって、環状基板21の内径部21bにおける軸方向他側(大気B側)に一体的に加硫接着され、オイルシール1と反対側へ向けて延びており、ピストンロッド113の外周面に摺動可能に密接されることによって、大気B中の異物や泥水等の浸入を防止するものである。
【0019】
バックアップリング3は、オイルシール1の主リップ12を支承するのに必要な適当な剛性を有し、耐摩耗性に優れると共に摩擦係数の低い合成樹脂材料からなるものであって、オイルシール1の主リップ12の根元12a寄りの背面と、ダストシール2の環状基板21の内径部との間に配置されており、主リップ12を大気B側かつ内周側から支承して、密封空間Aの油圧による主リップ12の過大な変形を防止するものである。
【0020】
バックアップリング3とダストシール2の環状基板21の内径部21bは、係合手段を介して径方向に互いに係合されている。
【0021】
詳しくは
図2に示すように、バックアップリング3とダストシール2の環状基板21の係合手段は、前記環状基板21の内径部21bにおけるオイルシール1側の面に円周方向へ連続して形成された係合凹部21cと、バックアップリング3における前記環状基板21の内径部21bとの対向面に円周方向へ連続して形成された係合凸部3aからなり、この係合凹部21cと係合凸部3aが互いに嵌め込まれて係合しているものである。
【0022】
上述の構成を備える本発明の密封装置は、オイルシール1が密封空間A側を向き、ダストシール2が大気B側を向くように配置され、互いに重合状態で一体的に嵌着されたオイルシール1の取付環11とダストシール2の環状基板21が、油圧緩衝器110におけるシリンダ111のカシメ部111aとロッドガイド112の間に挟持される。
【0023】
そして、オイルシール1における主リップ12は、ロッドガイド112の内周側で、先端近傍部がピストンロッド113の外周面に摺動可能に密接することによって、密封空間A内の作動油が軸周から外部へ漏れるのを阻止するものであり、ダストシール2におけるダストリップ22は、その先端近傍部がピストンロッド113の外周面に摺動可能に密接することによって、外部からの異物や泥水等の浸入を防止するものであり、バックアップリング3は、内周面3bがピストンロッド113の外周面と非接触に保持され、オイルシール1における主リップ12の根元12a寄りの部分を大気B側かつ内周側から支承することによって、密封空間Aの油圧Pによる主リップ12の過大な変形を防止するものである。
【0024】
また、オイルシール1における取付環11に設けられた弾性膜部14及び中間凸条15は、シリンダ111のカシメ部111aと、ロッドガイド112による取付環11及び環状基板21に対するカシメ荷重の誤差を吸収し、かつ作動油に対する密封機能を有する。
【0025】
ここで、油圧緩衝器110の内部のピストンの動作に伴って密封空間Aの油圧Pが上昇すると、この油圧Pは、ピストンロッド113の外周面に対する主リップ12の緊迫力を増大するように作用し、この主リップ12を介してバックアップリング3を縮径させる荷重として作用するが、バックアップリング3は、係合凸部3aと係合凹部21cが互いに嵌め込まれることにより構成された係合手段によってダストシール2の環状基板21と径方向に係合しているので、縮径方向への変位が規制される。このため主リップ12の変形量の増大が有効に抑制され、しかもバックアップリング3自体もピストンロッド113の外周面との接触が防止されるため、摩擦負荷の増大や摩耗の増大を有効に防止することができる。
【0026】
なお、上述した実施の形態では、主リップ12及び外周リップ13を一体に設けたオイルシール1の取付環11とダストリップ22を一体に設けたダストシール2の環状基板21を互いに嵌合一体化しているが、本発明は、主リップ12及び外周リップ13を環状基板21の軸方向一側に一体に設け、ダストリップ22を環状基板21の軸方向他側に一体に設けたものについても適用することができる。
【0027】
また、バックアップリング3とダストシール2の係合手段は、図示の例のような係合凸部3aと係合凹部21cに限らず、たとえば段差による嵌合形状とすることや、あるいは凹凸の関係を図示の例とは逆にすることもできる。
【符号の説明】
【0028】
1 オイルシール
11 取付環
12 主リップ
2 ダストシール
21 環状基板
21c 係合凹部(係合手段)
22 ダストリップ
3 バックアップリング
3a 係合凸部(係合手段)
110 油圧緩衝器
111 シリンダ
112 ロッドガイド
113 ピストンロッド(軸)