(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明において、歯の表面に付着又は堆積した微小な汚れ又は固形生成物とは、歯の表面に付着し堆積している厚み数μm未満の固形物をいい、かかる固形物は、無機物を主成分とする集合体、及び有機物を主成分とする集合体が含まれ、各集合体が層状もしくは海島状の構造であるものも含まれる。この微小な固形生成物は、主に唾液中のタンパク質やカルシウム、リン等の成分の付着によって形成し、付着物が堆積して形成されていると考えられ、加齢や唾液分泌の減少による口腔内環境の悪化等によって付着や堆積が促進されて生成されやすくなり、通常のブラッシング処理では除去することが難しいものである。本発明の歯牙美白剤によれば、黄ばみが増して光沢が失われた加齢歯に好適に作用し、短期間のうちに、白さと光沢を向上することができる。
【0014】
本発明の歯牙美白剤は、組成物(A)及び組成物(B)を分離して備え、これらの組成物を交互に歯に適用するためのものである。組成物(A)及び組成物(B)を一旦交互に歯に適用した後、さらに続けて組成物(A)及び組成物(B)を交互に歯に適用し、これを何度も繰り返すことができる。本発明の歯牙美白剤は、即効性のある美歯効果を発揮するので、短期間の使用、例えば、組成物(A)及び組成物(B)を交互に歯に適用することを複数回に亘って繰り返すのみで、歯の光沢を損なうことを防止しつつ白い歯にすることが可能である。これらの組成物を歯に適用する順序は、特に制限されず、最初に組成物(A)を歯に適用した後、組成物(B)を歯に適用してもよく、また最初に組成物(B)を歯に適用した後、組成物(A)を歯に適用してもよい。組成物(B)を歯に適用する時間を短縮し、かつ、歯の光沢を十分に確保する観点から、最初に組成物(A)を歯に適用した後、組成物(B)を歯に適用することが好ましい。また、より組成物(B)による刺激の低減の観点、及び歯の光沢低減を防止する観点から、組成物(A)と組成物(B)の適用時間は、組成物(A)の適用時間が組成物(B)の適用時間以上であることが好ましい。
【0015】
なお、本発明の歯牙美白剤において、組成物(A)及び組成物(B)を分離して備えるとは、歯に適用する前にこれらの組成物が混合されることなく、各々の組成物を順番に歯に適用し得るよう、これらの組成物が分け隔たれた態様で存在することを意味する。したがって、例えば後述するように、これらの組成物がともに練歯磨剤等の歯磨剤組成物又は洗口剤等の液体口腔用組成物である場合、互いに隔離した状態で別々の容器に充填されている態様を含み、またこれらの組成物が後述するようなシート剤である場合、各シート剤が複数層をなし、密着した状態で1つの積層状シート剤を形成している態様をも含む。また、本発明においてシート剤とは、本発明の歯牙美白剤で用いる組成物(A)及び/又は組成物(B)からなる単層又は複数層を備える剤であり、柔軟性を有する薄板状の形態を呈し、歯の表面に直接貼付して使うものをいい、貼付後に口腔内で唾液により溶解する性質又は有効成分が溶出する性質を有するものである。特に、複数層を備える剤を積層状シート剤とも称する。
【0016】
本発明の歯牙美白剤に備えられる組成物(A)は、フィチン酸又はその塩を酸換算量で0.1質量%以上30質量%以下含有する。フィチン酸又はその塩は、優れた歯の美白作用及び光沢付与作用を有し、後述する過酸化物を含有する組成物(B)と交互に歯に適用することにより、歯の表面に付着又は堆積した微小な汚れ又は固形生成物を効果的に除去して過酸化物による美白作用をも促進させ、短期間の使用によっても優れた歯への美白効果を発揮するとともに、光沢付与効果の増強を図ることができる。フィチン酸は、別名myo−イノシトール6リン酸ともいい、イノシトールリン酸エステル化合物である。種々のリン酸化合物の中で、光沢付与効果は、フィチン酸又はその塩が特に優れている。
その塩としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、味、匂いの観点からアルカリ金属塩が好ましい。
【0017】
組成物(A)におけるフィチン酸又はその塩の含有量は、微小な固形生成物除去効果による美白効果及び光沢付与効果を十分に発揮する観点から、組成物(A)中に、酸換算量で0.1質量%以上であって、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上である。組成物(A)におけるフィチン酸又はその塩の含有量は、歯の表面をより滑らかにして光沢を向上する観点及び味やきしみの観点から、組成物(A)中に、酸換算量で30質量%以下であって、好ましくは20質量%以下である。さらに組成物(A)がシート剤のように歯牙に貼付後、徐々に溶解及び希釈されて適用する形態を有する場合には、フィチン酸又はその塩の含有量は、組成物(A)中に、酸換算量で好ましくは18質量%以下であり、また組成物(A)が練歯磨剤等の歯磨剤組成物又は洗口剤等の液体口腔用組成物のような形態を有する場合には、フィチン酸又はその塩の含有量は、酸換算量で好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。そして、組成物(A)におけるフィチン酸又はその塩の含有量は、組成物(A)中に、酸換算量で0.1質量%以上30質量%以下であって、好ましくは0.2〜20質量%であり、組成物(A)がシート剤である場合には、酸換算量でより好ましくは0.2〜18質量%であり、また組成物(A)が歯磨剤組成物又は液体口腔用組成物である場合には、酸換算量でより好ましくは0.2〜5質量%であり、さらに好ましくは0.2〜3質量%である。
なお、組成物(A)中におけるフィチン酸又はその塩の含有量は、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムで中和して測定し、全量を酸に換算したものを採用する。また、組成物(A)がシート剤である場合の組成物(A)中におけるフィチン酸又はその塩の含有量は、乾燥質量での値を意味する。
【0018】
組成物(A)は、多価金属カチオンの含有量を低く抑えたものである。多価金属カチオンは、フィチン酸を不溶性にしたり固形生成物の除去効果を低下させたりするため、当該効果の低下を防止するために多価金属カチオンの含有量を低く抑える。その含有量は、ICP発光分析法(ICP発光分析装置:Perkin Elmer社 Optima 5300DV)で測定し、多価金属カチオン合計量としてフィチン酸又はその塩に対して0.1倍モル未満であり、0.02倍モル以下が好ましく、0.01倍モル以下がより好ましい。すなわち、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛等の多価金属カチオンを主に供給する剤は配合しないことが望ましく、また不可避的に混入する場合を除き、多価金属カチオンを含有しないものであってもよい。
【0019】
また、多価金属カチオン以外の、多価カチオンであるカチオン性抗菌剤のほか、ゼオライト、活性炭等の吸着剤は、フィチン酸又はその塩による固形生成物除去効果を低下させるため、組成物(A)中に0.001質量%未満であることが好ましく、さらに0.0001質量%以下であることが好ましく、不可避的に混入する場合を除き、含有しないものが好ましい。
【0020】
組成物(A)は、pHが4.5以上7以下である。このように、組成物(A)のpHを弱酸性領域内に調整することにより、当該組成物を口腔内に適用した際に、エナメル質の表面及びエナメル質の小柱間隙に至るまで、特に無機物汚れに効果的に作用して微小な固形生成物を除去し、かつ歯の表面の脱灰を抑制して即効性のある美白効果及び光沢付与効果を充分に発揮することができるとともに、組成物(B)に含有される過酸化物による美白作用の即効性をも確保して、組成物(B)による光沢減少を抑制することができる。組成物(A)のpHは、即効性のある美白効果及び光沢付与効果を奏する観点から、4.5以上であって、さらに4.8以上とすることが好ましく、組成物(A)が歯磨組成物又は液体口腔用組成物の場合には5以上とすることがより好ましい。組成物(A)のpHは、固形生成物除去による美白効果及び光沢付与効果を十分に奏する観点から、7以下であって、好ましくは6.5以下であり、より好ましくは6.2以下である。また、組成物(A)のpHは、4.5〜7であって、好ましくは4.5〜6.5であり、より好ましくは4.8〜6.2である。
【0021】
また、組成物(A)には、フィチン酸又はその塩による光沢付与効果を阻害しない範囲(含有量、剤形等)内でフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム等のフッ素イオン供給化合物、及びモノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ化物を含有してもよい。組成物(A)は、フィチン酸又はその塩による美白効果及び光沢付与効果をより高める観点から、これらのフッ化物を組成物(A)中にフッ化物のフッ素原子換算量で、好ましくは500ppm未満となる量で含有し、より好ましくは200ppm以下となる量で含有し、より好ましくは100ppm以下となる量で含有し、さらに好ましくは50ppm以下となる量で含有し、不可避的に混入する場合を除きフッ化物を含有しないことが好ましい。
【0022】
組成物(A)のpHは、25℃において測定したpHであって、例えば、練歯磨剤のように粘度の高い組成物とする場合や、かかる組成物をシート剤とする場合に正確にpHを測定できないことから、練歯磨剤等の歯磨剤組成物のように粘度の高い組成物は、当該組成物を水で4質量倍に希釈して測定したものを当該組成物のpHとしている。また、組成物(A)をシート剤とする場合には、組成物(A)からなるシート剤の表面を水平面に対して45度に傾斜させ、シート剤の表面にシート剤に穴があくほど溶解しない程度の水、例えば0.1〜0.5gを滴下した後、滴下した水を45度の傾斜を利用して速やかに回収し、例えばコンパクトpHメータ−712(株式会社堀場製作所)等によりpHを測定する。組成物(A)のpHについて、かかる測定方法により求められる値とするのは、本発明の歯牙美白剤を口腔内に適用し、組成物(A)が作用する状態を想定したものであり、組成物(A)が練歯磨剤等の歯磨剤組成物である場合には口腔内で希釈されることを考慮し、また組成物(A)がシート剤である場合には歯牙に貼付して徐々に溶解し、希釈されることを考慮したものである。
なお、シート剤においては、シート剤を形成する前の原液のpHの値と、上記のようにシート剤に精製水を滴下し、滴下した水について測定したpHの値は、概ね同じであることから、シート剤を形成する前の原液のpHを組成物(A)のpHとする。また、洗口剤や液状歯磨剤のように粘度の低い液体口腔用組成物は、原液のpHを測定した値を組成物(A)のpHとする。そして、いずれの場合にも、水は、精製水であって蒸留水又はイオン交換水を用いる。
【0023】
組成物(A)のpHを上記範囲に調整するには、pH調整剤を用いるのが好ましく、当該pH調整剤としては、フィチン酸又はその塩による美白効果及び光沢付与効果を阻害せず、歯の脱灰を抑制できる範囲で、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、酒石酸等の有機酸塩、縮合リン酸、フィチン酸及び縮合リン酸以外のリン酸、塩酸、硫酸等の無機酸塩、水酸化ナトリウム等の水酸化物、アンモニア又はアンモニア水、低級アルカノールアミン類、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸等が挙げられ、これらを1種単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのpH調整剤のうち有機酸及び無機酸(フィチン酸を除く)の含有量は、フィチン酸又はその塩の美白効果及び光沢付与効果を阻害しない観点から、フィチン酸又はその塩の酸換算量の含有量100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、さらに1質量部以下であることが好ましい。組成物(A)のpH調整剤として、縮合リン酸のアルカリ金属塩等の縮合リン酸塩を用いる場合には、フィチン酸又はその塩の光沢付与効果を阻害しない観点から、フィチン酸又はその塩の含有量に対して等モル以下であることが好ましく、0.5モル以下であることがより好ましく、フィチン酸又はその塩の酸換算量の含有量に対する質量比が(縮合リン酸塩/フィチン酸)0.5以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の歯牙美白剤に備えられる組成物(B)は、過酸化物を0.01質量%以上15質量%以下含有する。過酸化物は優れた美白作用を有しており、組成物(A)と交互に歯に適用することにより、フィチン酸又はその塩の固形生成物除去効果と相まって、有効的かつ効率的な美白作用を実現し、短期間の使用によっても優れた美白効果を発揮することができる。また、過酸化物の適用時間の短縮化を図ることが可能となるため、歯の光沢減少を抑制し、フィチン酸又はその塩による優れた光沢付与効果を良好に保持することができる。過酸化物としては、過酸化水素、過酸化尿素、過酸化カルシウム、及び過酸化カルバミドから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、短期間の使用による美白効果を確保する観点から、過酸化水素が好ましい。
【0025】
組成物(B)における過酸化物の含有量は、優れた美白効果を発揮する観点、及びフィチン酸又はその塩による美白効果をも十分に発揮させる観点から、組成物(B)中に0.01質量%以上であって、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上である。組成物(B)における過酸化物の含有量は、フィチン酸又はその塩による光沢付与効果を確保する観点、及び刺激等を抑制して使用感を高める観点から、組成物(B)中に15質量%以下であって、組成物(B)がシート剤である場合には、好ましくは12質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、好ましくは5質量%以上であり、組成物(B)が練歯磨剤等の歯磨剤組成物又は洗口剤等の液体口腔用組成物である場合には、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下である。また、組成物(B)における過酸化物の含有量は、組成物(B)中に0.01質量%以上15質量%以下であって、好ましくは0.1〜12質量%であり、より好ましくは0.2〜10質量%である。さらに、組成物(B)がシート剤である場合には、組成物(B)中に好ましくは5〜12質量%であり、より好ましくは5〜10質量%である。また、組成物(B)が練歯磨剤等の歯磨剤組成物又は洗口剤等の液体口腔用組成物である場合には、過酸化物の含有量は、組成物(B)中に好ましくは0.1〜3質量%であり、より好ましくは0.2〜2質量%である。
なお、組成物(B)がシート剤である場合の組成物(B)中における過酸化物の含有量は、乾燥質量での値を意味する。
【0026】
組成物(B)は、pHが4.5以上6.5以下である。組成物(A)と組成物(B)のpHは、組成物(A)と組成物(B)は分離されていることからもほぼ同じであってもよく、このように分離されている組成物(A)及び(B)を個々に口腔内、具体的には歯牙に適用することとなり、組成物(A)と(B)が混合されたものよりも、歯牙への美白効果が高まり、しかも歯の光沢が失われることを防止することができる。特に、組成物(A)を歯牙に適用すると、歯表面近傍に沈着又は体積した無機汚れを効果的に除去し、又は沈着又は体積した汚れのうちの無機汚れが除去されることによって、組成物(B)による汚れ除去効果を向上させ、美白効果を即効的かつ十分に発揮することができ、しかも歯へのダメージを抑え、光沢を確保することができる。
こうしたことから、本発明において、組成物(B)は、過酸化水素自らによる美白効果を発揮するだけでなく、組成物(A)の効果を促進かつ増強させる成分として機能すると考えられる。組成物(B)のpHは、組成物(A)による、即効性のある美白効果及び光沢付与効果を奏させる観点から、4.5以上であって、4.8以上とすることが好ましい。組成物(B)のpHは、組成物(A)による美白効果及び光沢付与効果を十分に奏する観点から、6.5以下であって、6以下とすることが好ましく、5.5以下とすることが好ましい。また、組成物(B)のpHは、4.5〜6.5であって、好ましくは4.5〜6であり、より好ましくは4.5〜5.5であり、さらに好ましくは4.8〜5.5である。
【0027】
組成物(B)のpHは、25℃において測定したpHであって、組成物(A)のpHと同様の測定方法により求められる値とする。また、水も、精製水であって蒸留水又はイオン交換水を用いる。なお、組成物(B)のpHを調整するためには、pH調整剤を用いるのが好ましく、当該pH調整剤としては、美白効果及び光沢付与効果を阻害せず、歯の脱灰を抑制できる範囲で、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、酒石酸等の有機酸塩、フィチン酸以外のリン酸、塩酸、硫酸等の無機酸塩、水酸化ナトリウム等の水酸化物、アンモニア又はアンモニア水、低級アルカノールアミン類、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸等が挙げられ、これらを1種単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのpH調整剤のうち有機酸及び無機酸の含有量は、美白効果を阻害しない観点から、過酸化物の含有量との質量比(有機酸及び無機酸/過酸化物)が0.5以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。
【0028】
組成物(B)は、さらにフッ化物を含有してもよい。かかるフッ化物を含有することにより、酸に溶けにくくするともに再石灰化を図ることができるので、即効性のある美白効果及び光沢付与効果とともに歯の強化を図ることもできる。なお、フッ化物は、上記組成物(A)においては、フィチン酸又はその塩による光沢付与効果を阻害しない範囲内で含有することが好ましい一方、フッ化物による効果を充分に発揮させるには、組成物(B)に含有させるのがよい。
【0029】
かかるフッ化物としては、上述のとおり、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム等のフッ化物イオン供給化合物、及びモノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ化物が挙げられる。なかでも、歯の強化を図る観点から、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、及びフッ化アンモニウムから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。組成物(B)におけるフッ化物の含有量は、フッ素取り込み量を増大させる観点から、組成物(B)中にフッ素原子換算量で、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上である。組成物(B)におけるフッ化物の含有量は、組成物(B)と交互に歯に適用する組成物(A)の効果を阻害しない観点から、組成物(B)中にフッ素原子換算量で、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下である。また、組成物(B)におけるフッ化物の含有量は、フッ素原子換算量で好ましくは0.001〜0.5質量%であり、より好ましくは0.005〜0.2質量%であり、さらに好ましくは0.005〜0.1質量%である。
なお、組成物(B)がシート剤である場合の組成物(B)中におけるフッ化物の含有量は、乾燥質量での値を意味する。
【0030】
なお、組成物(B)がフッ化物を含有する場合、組成物(B)と交互に歯に適用する組成物(A)の効果を阻害しない観点から、最初に組成物(B)を歯に適用した後、組成物(A)を歯に適用するのが好ましく、続けてこれを繰り返し交互に歯に適用することができる。
【0031】
本発明の歯牙美白剤は、組成物(A)及び組成物(B)のほか、さらにフッ化物を含有する組成物(C)を分離して備えてもよい。この際、組成物(A)及び組成物(B)を歯に適用した後、組成物(C)を歯に適用するのが好ましく、組成物(C)の効果をより高める観点からは、組成物(A)を適用した後に組成物(B)を適用し、その後に組成物(C)を適用することが好ましく、組成物(A)の効果を高める観点からは、組成物(B)を適用した後に組成物(A)を適用し、その後に組成物(C)を適用することが好ましい。また、これを続けて繰り返し歯に適用することができる。これにより、組成物(C)よりもまず先に組成物(A)を作用させることができ、フッ化物によって組成物(A)の効果が阻害されるのを効果的に低減することができる。
【0032】
組成物(C)におけるフッ化物の含有量は、フッ素取り込み量を増大させる観点から、組成物(C)中に、フッ素原子換算量で好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上である。組成物(C)におけるフッ化物の含有量は、組成物(A)の効果を阻害せず、有効に歯に適用させる観点から、組成物(C)中に、フッ素原子換算量で好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下である。また、組成物(C)におけるフッ化物の含有量は、組成物(C)中に、フッ素原子換算量で好ましくは0.001〜0.5質量%であり、より好ましくは0.005〜0.2質量%であり、さらに好ましくは0.005〜0.1質量%である。
なお、組成物(C)が、後述するようにシート剤である場合の組成物(C)中におけるフッ化物の含有量は、乾燥質量での値を意味する。
【0033】
上記組成物(A)及び組成物(B)、或いは必要に応じて用いる組成物(C)には、上記成分の他、例えば発泡剤、発泡助剤、研磨剤、湿潤剤、粘稠剤、ゲル化剤、粘結剤、甘味剤、保存料、殺菌剤、薬効成分、顔料、色素、香料等を適宜含有させることができ、また従来用いられた美白成分であるポリエチレングリコールなどを併用することもできる。
【0034】
上記組成物(A)及び組成物(B)、或いは必要に応じて用いる組成物(C)は、例えば溶液状、ゲル状、ペースト状といった剤形に調製し、潤性歯磨剤(ゲル状歯磨剤)、練歯磨剤等の形態を有する歯磨剤組成物、歯に密着させるゲルや軟膏等の塗布用組成物とすることができ、液状歯磨剤、洗口剤等の形態を有する液体口腔用組成物とすることもできる。または、これらの組成物を布や繊維等に含浸させた塗布材や、これらの組成物を含浸させたデンタルフロス等の口腔衛生具としてもよく、チューインガム、トローチ、キャンディ等の食品としてもよい。さらに、これらの組成物を含有するシート剤を形成し、各シート剤を積層してこれらを一体として備える積層状シート剤としてもよい。なお、これら組成物が有する形態は、互いに同じ形態であってもよく、また異なる形態であってもよい。例えば、組成物(A)が歯磨剤であり、組成物(B)が液状歯磨剤、又は洗口剤であってもよく、またその逆であってもよい。長時間適用する観点からは、少なくとも組成物(A)がシート剤であることが好ましく、組成物(A)及び組成物(B)がともにシート剤であることがより好ましく、組成物(A)のシート剤及び組成分(B)のシート剤双方を積層してこれらを一体として備える積層状シート剤であることがさらに好ましい。また、使いやすさの観点からは、組成物(A)、組成物(B)の双方又は一方が洗口剤又は練歯磨剤であることが好ましい。
【0035】
これらいずれの剤形においてもポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、ラクチトール等を湿潤剤或いは粘稠剤等の目的で含有させることができる。
【0036】
また、液体口腔用組成物の粘稠剤或いはゲル状組成物のゲル化剤として、歯磨組成物(ペースト状組成物)とする場合の粘結剤として、さらには液体組成物を用いてシート剤を形成する際のゲル化剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、プルラン、グアガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム等から選ばれる1種又は2種以上を含有させることができる。このうち、組成物(A)については、フィチン酸又はその塩の光沢付与効果を十分に発揮させる観点、使用感や安定性の観点から、カルボキシメチルセロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース系粘結剤、キサンタンガム、プルラン、グアガム等の非セルロース系粘結剤を含有することが好ましく、セルロース系粘結剤と非セルロース系粘結剤を併用することが好ましい。
また、例えば緩衝液系のために高塩濃度となる場合は、非イオン性のポリマー、即ちヒドロキシエチルセルロース、グアガム、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン等から選ばれる1種又は2種以上含有させることが好ましい。
【0037】
上記組成物(A)及び組成物(B)、或いは必要に応じて用いる組成物(C)のいずれかが歯磨剤組成物の場合には、十分な光沢付与効果の観点から、25℃における粘度が500〜10000dPa・sであるものが好ましく、1000〜7000dPa・sであるものがより好ましく、1200〜5000dPa・sであるものがさらに好ましい。ここで、粘度はヘリパス型粘度計(VISCOMETER TVB−10 東機産業)を用いて、測定温度を25℃とし、ロータT−C、回転数2.5r/min、1分間の測定条件により測定することができる。
【0038】
上記組成物(A)及び組成物(B)、或いは必要に応じて用いる組成物(C)のいずれかが練歯磨剤等の歯磨剤組成物である場合には、顆粒を配合することもできる。歯表面近傍に堅固に沈着又は堆積した有機物汚れに効果的に作用して微小な固形生成物を除去し、光沢形成を促進する観点から、顆粒を配合しないか又は乾燥状態で崩壊強度が10g/個以下である顆粒、好ましくは水分共存下で崩壊強度が10g/個以下である顆粒を含有することが好ましく、実質的には含有しないことが好ましい。また、本発明の光沢形成効果を阻害しない範囲で研磨剤を含有することも可能であり、例えば、含水シリカ、無水シリカ、シリカゲル等のシリカ系研磨剤等を用いることが好ましい。
なお、組成物(A)及び組成物(B)、或いは必要に応じて用いる組成物(C)のいずれかがシート剤である場合、これら各組成物中における上記各成分の含有量は、乾燥質量での値を基準として適宜選択する。
【0039】
本発明の歯牙美白剤に備えられた組成物(A)及び組成物(B)、或いは必要に応じて備えられる組成物(C)を歯に適用するには、そのまま適用してもよいし、水又は唾液等で希釈した状態で適用する場合の両者が含まれる。また、洗口剤のような液体口腔用組成物の場合には、希釈することなく歯に適用され、液体組成物からシート層を形成及び積層したシート剤の場合には、そのまま歯の表面に貼付してシート剤が溶解することにより適用される。一方、歯磨剤組成物等の場合には、歯ブラシ等による適用において、唾液により4質量倍程度まで希釈された状態で適用されていることが一般的である。
【0040】
本発明の歯牙美白剤に備えられる組成物(A)及び組成物(B)は、いずれか一方又は双方がシート剤であることが好ましく、歯の美白作用及び光沢付与作用をより短期間で効果的に得る観点から、少なくとも組成物(A)がシート剤であることが好ましい。組成物(A)がシート剤である場合、組成物(A)のシート剤の厚みは、適度な時間でシート剤を溶解させ、シート剤としての適度な柔軟性を得る観点から、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは60μm以下であり、短期間の使用によって歯の美白作用及び光沢付与作用を得る観点、及び使いやすさと製造性の観点から、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは15μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上である。組成物(B)がシート剤である場合、組成物(B)のシート剤の厚みは、適度な時間で溶解させ、シートとしての適度な柔軟性を確保する観点から、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下であり、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、さらに好ましくは7μm以上である。
なお、組成物(C)がシート剤である場合、組成物(C)のシート剤の厚みは、適度な時間で溶解させ、シート剤としての適度な柔軟性を得る観点から、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下であり、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、さらに好ましくは7μm以上である。
【0041】
本発明の歯牙美白剤に備えられる組成物(A)及び組成物(B)の双方をシート剤とする場合、シート剤を歯牙に貼付した際に、まずフィチン酸又はその塩をpH4.5以上7以下の環境下で十分に作用させ、次いで過酸化物をpH4.5以上6.5以下の環境下で十分に作用させようとする観点から、歯牙に貼付する側の面を構成するシート剤は、組成物(A)のシート剤であることが好ましい。
なお、この場合、組成物(B)のシート剤と組成物(A)のシート剤の厚みの比率(Bt/At)は、好ましくは1/10〜1/1であり、より好ましくは1/9〜1/2であり、さらに好ましくは1/8〜1/3である。
【0042】
また、組成物(A)及び組成物(B)、必要により組成物(C)をシート剤とし、これらのシート剤を積層することによってこれらを一体に備える積層状シート剤を形成する場合には、歯牙に貼付する側が先に唾液により溶解し歯牙に適用されるように、歯牙に貼付する層とは反対側の表面に、さらに難水溶性である被覆シート剤(X)を積層することによって、これらをすべて一体に備える積層状シート剤とすることが好ましい。被覆シート剤(X)を備えることによって、歯牙に歯牙美白剤を貼付した場合に、歯牙に貼付する層とは反対側の層を構成する組成物から唾液等によって溶解することを有効に防止することができる。上記の難水溶性である被覆シート剤(X)は、唾液により溶解又は分解する成分であってもよいが、組成物(A)、組成物(B)、必要により備えている組成物(C)が溶解又は分解した後にも、溶解又は分解せずに、歯牙を覆う状態で残るシート剤であるか、又は溶解や分解しないシート剤である。被覆シート剤(X)は、組成物(A)、組成物(B)、必要により備えている組成物(C)のシート剤より厚みが大きいか、又はシート剤を構成するポリマー等の成分が相違する。被覆シート剤(X)の成分としては、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルアセテート、エチルセルロース、ポリメチルメタクリレート、メタクリロイルエチルベタイン−メタクリレート共重合体、メタクリル酸共重合体及びアミノアルキルメタクリレート共重合体から選ばれる1種又は2種以上の重合体又は共重合体が挙げられ、組成物(A)、組成物(B)、必要により組成物(C)との密着性を高める観点、入手容易性の観点から、エチルセルロース、セルロースアセテートフタレートが好ましい。なお、これらの被覆シート剤(X)におけるエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート等の重合体又は共重合体の含有量は、乾燥質量で、好ましくは40〜95質量%であり、より好ましくは50〜90質量%である。被覆シート剤(X)の厚みは、シートとしての適度な柔軟性を確保する観点から、好ましくは40μm以下であって、0.5μm以上であり、1μm以上である。
【0043】
さらに、組成物(A)、組成物(B)、組成物(C)、及び被覆シート剤(X)のなかから複数のシート剤を選択して1つの積層状シートを積層する場合、シート剤とシート剤の間に中間シート剤(Y)を挟持させてもよい。かかる中間シート剤(Y)は、いずれのシート剤の間にも挟持させることができる。例えば、組成物(A)のシート剤と組成物(B)のシート剤との間に中間シート剤(Y)を有することにより、製造時においては組成物(A)と組成物(B)とが混在することなくこれらの組成物を分離して形成しやすく、保存時においては組成物(A)と組成物(B)のpHの安定性を向上させることが容易となり、使用時においては一方のシート剤が溶解して含有する成分を口腔内に放出した後、続いて他方のシート剤を溶解させて含有する成分を口腔内に放出させることが容易となる。
【0044】
中間シート剤(Y)の材質としては、他のシート剤への追随性を高める観点から、プルラン、ヒドロキシエチルセルロース、グアガム、ヒドロキシプロピルセルロース等の非イオン性のポリマー等が好ましく、例えば組成物(A)のシート剤と組成物(B)のシート剤の間に挟持させる場合、これらの組成物の分離性を高める観点から、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルアセテート、エチルセルロース、ポリメチルメタクリレート、メタクリロイルエチルベタイン−メタクリレート共重合体、メタクリル酸共重合体及びアミノアルキルメタクリレート共重合体から選ばれる1種又は2種以上の(共)重合体が好ましい。
【0045】
中間シート剤(Y)の厚みは、歯牙に貼付する側の面と反対側の面からの層の溶解を有効に防止して歯牙に貼付する側の面から優先的に溶解させる観点から、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上である。中間シート剤の厚みは、使用者の使い易さの観点から、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは30μmである。
中間シート剤(Y)は、pHが6.5〜7.0であることが好ましい。
【0046】
組成物(A)、組成物(B)、必要により組成物(C)をシート剤とし、及び被覆シート剤(X)や中間シート剤(Y)を備える積層状シート剤とする場合、いずれのシート剤についても、適度な剛性や柔軟性を付与する観点、及び良好な成形性を確保する観点から、必要に応じて可塑剤を含有することが好ましい。かかる可塑剤としては、例えばフタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステル、脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0047】
上記のように、例えば組成物(A)、組成物(B)、組成物(C)、被覆シート剤(X)及び中間シート剤(Y)のなかから選択した複数のシート剤を備える積層状シート剤とする場合、貼付した際における歯牙への追随性を高める観点、及び即効性のある美白効果及び光沢付与効果を実感する観点から、シート剤の総厚みが、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは20μm以上であり、さらに好ましくは30μm以上であり、好ましくは1000μm以下であり、より好ましくは500μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下である。
【0048】
<シート剤の製造方法>
シート剤の製造方法は、組成物(A)にさらに水を含有させた原液、及び/又は組成物(B)にさらに水を含有させた原液を調整する工程、並びにこれらの原液を坪量や厚みを勘案しつつ、離型処理等を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の基材上に塗工する工程、さらに乾燥させる工程を備える。そして、PETフィルム等の基剤を剥離することにより、シート剤を得ることができる。組成物(A)と組成物(B)の双方をシート剤とし、これらを積層して1つの積層状シート剤とする場合、2つのシート剤を各々形成し、これらを積層した後、例えば、加熱した加圧装置を用いて圧着して2層の層構成を形成する工程を備えることが好ましい。
【0049】
組成物(C)をシート剤とする場合、組成物(C)にさらに水を含有させた原液を調整する工程を備える以外、上記と同様の製造方法である。また、さらに難水溶性のシート剤を設ける場合、かかる難水溶性のシート剤を基材として上記いずれかの原液を塗工する工程を備える製造方法であってもよく、上記組成物のシート剤を形成した後、被覆シート剤(X)を積層して圧着してもよい。
また、中間シート剤を挟持させる場合、適宜シート剤とシート剤の間に中間シート剤(Y)を挟み込みこむように積層した後、例えば、加熱した加圧装置を用いて圧着する工程を備えてもよく、中間シート剤を基材としていずれかの原液を塗工する工程を経た後、他方のシート剤を積層して圧着する工程を備えてもよい。
【0050】
本発明の歯牙美白剤を用い、組成物(A)及び組成物(B)、或いは必要に応じて備えられる組成物(C)を人の口腔内に適用する。本発明の歯牙美白剤の適用時間は、組成物(A)又は組成物(B)が練歯磨剤等の歯磨剤組成物又は洗口剤等の液体口腔用組成物である場合、各組成物の適用時間が10秒以上であることが好ましく、30秒以上がより好ましく、1分以上がさらに好ましく、8分以下が好ましく、4分以下がより好ましい。また、組成物(A)及び組成物(B)が練歯磨剤等の歯磨剤組成物又は洗口剤等の液体口腔用組成物である場合、組成物(A)と組成物(B)を1回ずつ連続して適用する時間の合計は、20秒以上であることが好ましく、1分以上がより好ましく、2分以上がさらに好ましく、10分以下が好ましく、5分以下がより好ましい。組成物(A)又は組成物(B)がシート剤である場合、各組成物の適用時間は1分以上であることが好ましく、3分以上であることが好ましく、1時間以下であることが好ましく、30分以下がより好ましく、20分以下がさらに好ましい。また、いずれか一方の組成物の適用終了時からこれに続いて適用する組成物の適用開始時までの時間は、3分以内であることが好ましく、1分以内であることがさらに好ましく、30秒以内であることが好ましい。
また、組成物(A)及び組成物(B)がシート剤であって、各1層ずつ備える2層以上のシート剤である場合には、シート剤の適用時間は1分以上であることが好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましく、使用者の使い易さの観点から、90分以下であることが好ましく、60分以下がより好ましく、30分以下がさらに好ましい。
なお、シート剤の適用時間は、シート剤が全て水に溶解するまでの時間(溶解時間)としてもよい。シート剤が全て水に溶解するまでの時間とは、シート剤に0.1g/minの速度で水をかけてからシート剤に含有される成分の量が水中で増加しなくなるまでの時間を測定した値を意味する。
【0051】
このように、組成物(A)、組成物(B)、必要により組成物(C)を歯に適用することによって、歯のエナメル質表面の微小な数μm未満の固形生成物を選択的に取り除くことができるので、歯のエナメル質そのものへのダメージを抑えつつ歯のエナメル質表面を数μmレベルで滑らかにし、エナメル質表面からの反射光を増やすことが可能となり、歯そのものの自然な光沢を得ることができる。すなわち、即効性のある美白効果に加え、優れた光沢付与効果を実感することができる。また、1日に1〜5回、好ましくは1週間以上、例えば4週間以下適用すると、すなわち、長期間に亘って繰り返し使用しても、1回あたりの適用時間の短縮化を図ることができるので、歯のエナメル質表面へのダメージを抑え、より自然な艶や光沢のある歯を得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0053】
[実施例1〜2]
表1に示すように、フィチン酸又は過酸化物を含有する液体組成物の試験溶液xと液体組成物の試験溶液yとを製造した。具体的には、フィチン酸又は縮合リン酸を精製水に溶解し、pH調整剤で各試験溶液のpHに調整して製造した。いずれの試験溶液にも多価金属カチオンを配合せず、試験溶液中のマグネシウム、アルミニウム、カルシウム等の多価金属カチオンはIPC発光分析法で測定してフィチン酸に対して0.02倍モル未満であった。なお、各試験溶液のpHは、25℃、原液の測定値である。
【0054】
次いで、室温(25℃)にて、抜去歯をイオン交換水につけて洗浄し、最初に試験溶液xに2.5分間浸漬した。次に、試験溶液xから取り出した抜去歯を試験溶液yに2.5分間浸漬し、試験溶液yから取り出した抜去歯をイオン交換水で洗浄し、人工唾液に約3時間浸漬した。これを1回の処理とし、全3回の繰り返し処理を行った。なお、抜去歯はヒト歯であって研磨等による汚れを落とす処理がされていないものを用いた。人工唾液は、塩化カルシウム(1.0mM)、リン酸水素カリウム(0.9mM)、HEPES(4−(2−hydroxyethyl)−1−piperazineethanesulfonic acid)(2.0mM)を含有する水溶液であって水酸化カリウムでpH=7に調整したものを使用した。
処理後の歯(抜去歯)について、下記の方法にしたがって歯の美白化の評価と歯の表面状態の評価を行った。
【0055】
《歯の美白化の評価》
下記の方法にしたがってb*を測定することにより、上記処理後の歯(抜去歯)の白さを評価した。
具体的には、デジタルカメラD1x(ニコン製)とレンズはAi AFマイクロ・ニッコール105mm F2.8D、ストロボ発光はワイヤレス・リモート・スピードライトSB−R200(いずれもニコン製)を組み合せて設置したものを用いた。撮影された画像をAdobe Photoshop(アドビシステムズ製)を用いてL*a*b*表色系で表し、試験溶液による処理前のb*の値と処理後のb*を測定した。次いで、これら処理前と処理後のb*の差{(処理後のb*)−(処理前のb*)}としてΔb*を求めた。Δb*が小さいほど、すなわちΔb*の絶対値が大きいほど白さが増すことを意味する。
結果を表1に示す。
【0056】
《歯の表面状態の評価》
上記処理後の歯(抜去歯)について、歯の表面状態をルーペ(倍率10倍)により肉眼で観察して評価したものである。歯の表面に凹凸が認められなかった上になめらかな表面であると判断されたものを「なめらか」、歯の表面に凹凸が認められなかったものの多少なめらかさに欠けると判断されたものを「凹凸なし」、歯の表面に凹凸が認められたものを「凹凸あり」と評価した。
結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1〜4]
表1に示すように、フィチン酸及び/又は過酸化水素を含有する液体組成物の試験溶液を製造した。いずれの試験溶液にも多価金属カチオンを配合せず、試験溶液中のマグネシウム、アルミニウム、カルシウム等の多価金属カチオンはIPC発光分析法で測定してフィチン酸に対して0.02倍モル未満であった。なお、各試験溶液のpHは、25℃、原液の測定値である。
【0058】
次いで、比較例1〜3は、室温(25℃)にて、抜去歯をイオン交換水につけて洗浄し、調製した試験溶液に5分間浸漬した後、試験溶液から取り出した抜去歯をイオン交換水で洗浄し、人工唾液に約3時間浸漬した。これを1回の処理とし、3回まで繰り返し処理を行った。なお、抜去歯及び人工唾液は、実施例1と同様のものを使用した。
処理後の歯(抜去歯)について、実施例1と同様にして各評価を行った。
比較例4は、実施例1と同様にして抜去歯を用い、次いで試験溶液x及び試験溶液yについても同様の処理を行った後、処理後の歯(抜去歯)を用い、上記の方法にしたがって歯の美白化の評価と歯の表面状態の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
[実施例3]
表2に示すように、ピロリン酸、フィチン酸又は過酸化物を含有する液体組成物の試験溶液x、試験溶液y、及び試験溶液zとを製造した。試験溶液yには多価金属カチオンを配合せず、試験溶液y中のマグネシウム、アルミニウム、カルシウム等の多価金属カチオンはIPC発光分析法で測定してフィチン酸に対して0.02倍モル未満であった。なお、各試験溶液のpHは、25℃、原液の測定値である。
次いで、実施例1と同様にして抜去歯を用い、最初に試験溶液xに1.5分間浸漬し、次に試験溶液xから取り出した抜去歯を試験溶液yに2分間浸漬し、さらに試験溶液yから取り出した抜去歯を試験溶液zに1.5分間浸漬した。次に、試験溶液zから取り出した抜去歯をイオン交換水で洗浄し、人工唾液に約3時間浸漬した。これを1回の処理とし、全3回の繰り返し処理を行った。なお、抜去歯はヒト歯であって研磨等による汚れを落とす処理がされていないものを用いた。
処理後の歯(抜去歯)を用い、上記の方法にしたがって歯の美白化の評価、及び歯の表面状態の評価を行った。
結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表1〜2の結果によれば、過酸化物のみを含有する組成物を単独で適用した比較例1は、美白効果は高いものの歯の表面が凸凹となることが確認され、フィチン酸のみを含有する組成物を単独で適用した比較例2及びフィチン酸と過酸化物を含有する組成物を単独で適用した比較例3、ピロリン酸ナトリウムとフィチン酸を含有する組成物を交互に適用した比較例4は、歯の表面はおおむねなめらかであるものの、美白効果に即効性は認められなかった。これに対して、実施例1〜3は、歯の表面が滑らかでありながらこれら比較例に比して、短期間の処理で優れた歯の美白効果が確認された。
【0063】
[実施例4]
表3に示すように、過酸化物を含有する原液を調製し、プルランを配合してシートy(厚さ8μm、坪量9g/m
2)を製造した。同様に、フィチン酸を含有する原液を調製し、プルランを配合してシートx(厚さ55μm、坪量72g/m
2)を製造し、シートyの片面に積層した。さらにシートyの表面にエチルセルロース65%、ポリエチレングリコール(PEG600)35%を含有する層を積層した。いずれの原液にも多価カチオンを配合せず、原液中のマグネシウム、アルミニウム、カルシウム等の多価カチオンはIPC発光分析法で測定してフィチン酸に対して0.02倍モル未満であった。なお、各シートのpHは原液での測定値であり、シートx及びyの厚さは、貼付後10分経過した時点で全て溶解することを基準として決定した。
【0064】
次いで、室温(25℃)にて、抜去歯をイオン交換水につけて洗浄し、積層したシート剤のシートxが露出している側の面を歯に接触するように貼付し、貼付してからすぐに0.1g/minの速度で人工唾液を供給される20mm角のスポンジ(INOAC社製 連通多孔質スポンジ MAPS K001)を歯に接触する側とは反対側から接触させる。その後、残ったシート剤の残骸を軽いブラッシングで除去した後、人工唾液に約3時間浸漬した。これを1回の処理とし、3回まで繰り返し処理を行った。なお、抜去歯及び人工唾液は、実施例1と同様のものを使用した。
処理後の歯(抜去歯)について、実施例1と同様にして歯の美白化の評価、及び歯の表面状態の評価を行い、さらに下記方法にしたがって歯の光沢の評価を行った。
結果を表3に示す。
【0065】
《歯の光沢の評価》
上記処理後の歯(抜去歯)について、下記の方法にしたがって輝度を測定することにより歯の光沢を評価した。
具体的には、偏光を利用した画像解析から表面反射光強度を測定する方法を用いた。評価用画像を撮影する装置として、カメラはデジタル一カメラD2x(ニコン製)、レンズはAi AFマイクロ・ニッコール105mm F2.8D、ストロボ発光はワイヤレス・リモート・スピードライトSB−R200(いずれもニコン製)を組み合せて設置したものを用いた。スピードライトの発光部及びレンズの前にプラスチック偏光板(エドモンド製)を透過軸が30度交差するように配置して撮影した。撮影画像はAdobe Photoshop(アドビシステムズ製)を用いてハイライト部分の平均輝度を求めた。輝度は数値が大きいほど光沢が高いことを意味する。試験溶液x及びyによる処理前と処理後の後の輝度の差(処理後の輝度−処理前の輝度)を、Δ輝度として求めた。得られたΔ輝度の数値が大きいほど光沢が増したことを意味する。
【0066】
【表3】
【0067】
表3の結果より、組成物(A)及び組成物(B)を各々シート層として積層したシート剤とした場合には、即効性のある優れた歯の美白効果をもたらすことが可能であるとともに、優れた光沢付与効果をもたらすことが確認された。
【0068】
[実施例5]
表4に示すように、各成分を混合することによってフィチン酸又は過酸化物を含有する練歯磨剤x及び練歯磨剤yを製造した。得られた練歯磨剤xを口腔内に適用した後、練歯磨剤yを適用することにより、優れた歯の美白効果及び光沢付与効果が得られる。
【0069】
【表4】
【0070】
[実施例6]
表5に示すように、各成分を混合することによりフィチン酸又は過酸化物を含有する洗口液x及び洗口液yを製造した。得られた洗口液xを口腔内に適用した後、洗口液yを適用することにより、優れた歯の美白効果及び光沢付与効果が得られる。
【0071】
【表5】