(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263020
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】コンクリート打ち継ぎ工法、隙間形成型枠および柱構造
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20180104BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
E04G21/02 103A
E01D22/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-260063(P2013-260063)
(22)【出願日】2013年12月17日
(65)【公開番号】特開2015-117485(P2015-117485A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100129067
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 能章
(72)【発明者】
【氏名】達富 賢二
(72)【発明者】
【氏名】天野 健次
(72)【発明者】
【氏名】大田 佳紀
【審査官】
星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−277540(JP,A)
【文献】
特開平01−278660(JP,A)
【文献】
特開平05−071220(JP,A)
【文献】
特開2014−025261(JP,A)
【文献】
特開2011−094313(JP,A)
【文献】
特開平08−209630(JP,A)
【文献】
特開2001−279933(JP,A)
【文献】
特開平09−032293(JP,A)
【文献】
特開2003−113672(JP,A)
【文献】
米国特許第04846580(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D1/00−24/00
E04G21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設コンクリート躯体に新設コンクリートを打ち継ぐコンクリート打ち継ぎ工法であって、
前記既設コンクリート躯体の接合面に発熱手段を設置する工程と、
前記発熱手段が発する熱により溶解する材料により形成された隙間形成型枠を前記接合面に設置する工程と、
前記隙間形成型枠の周囲に新設コンクリートを打ち継ぐ工程と、
前記発熱手段により前記隙間形成型枠を溶解させて当該隙間形成型枠を除去する工程と、
前記隙間形成型枠を除去することにより形成された隙間に充填材を注入する工程と、を備えることを特徴とする、コンクリート打ち継ぎ工法。
【請求項2】
前記充填材が、無収縮モルタルまたは無収縮グラウトであることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート打ち継ぎ工法。
【請求項3】
既設コンクリート柱部材と前記既設コンクリート柱部材の周囲に打設される新設コンクリートとの間に配設される隙間形成型枠であって、
前記既設コンクリート柱部材の周囲に設置された発熱手段が発する熱により溶解する材料により形成されていることを特徴とする、隙間形成型枠。
【請求項4】
既設コンクリート柱部材と、
前記既設コンクリート柱部材の周囲に打設された新設コンクリートと、
前記既設コンクリート柱部材と前記新設コンクリートとの隙間に充填された充填材と、備えることを特徴とする、柱構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設コンクリート躯体に新設コンクリートを打ち継ぐコンクリート打ち継ぎ工法と、これに使用する隙間形成型枠およびこのコンクリート打ち継ぎ工法により形成された柱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の施工時の作業手順の関係や、既設コンクリート構造物の改修工事等を目的として、既設コンクリート躯体に対して新設コンクリートを打ち継ぐ場合がある。
例えば、橋梁の拡幅工事を行う場合に、既設コンクリート躯体である橋脚の周囲に新設コンクリートを打ち継ぐことにより、橋脚の断面を増加させる場合がある。
【0003】
既設コンクリート躯体に新設コンクリートを打ち継ぐ際には、既設コンクリート躯体の表面(新設コンクリートとの接合面)にチッピングやブラスト処理等の粗面処理を施すことで、既設コンクリート躯体と新設コンクリートとの付着力を増加させている。
【0004】
また、特許文献1に示すように、接合面に対して接着剤を塗布することで、既設コンクリート躯体と新設コンクリートとの付着力を増加させる場合もある。
【0005】
ところが、前記従来のコンクリート打ち継ぎ工法は、コンクリート同士の接合に必要な付着力を発揮させる一方で、新設コンクリートの外部拘束力を大きくするため、接合部においてひびわれ(外部拘束クラック)が生じやすくなるおそれがある。
ここで、本明細書における「外部拘束力」とは、新設コンクリートの乾燥収縮や温度応力による体積変化が既設コンクリート躯体により拘束されることで新設コンクリートに生じる力のことである。
【0006】
そのため、特許文献2では、コンクリートの打ち継ぎ部におけるひびわれを抑制するコンクリート打ち継ぎ構造として、既設コンクリートと新設コンクリートとの間に粘土鉱物系打ち継ぎ材層を介設することで、外部拘束力を打ち継ぎ材層により吸収するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−253884号公報
【特許文献2】特開2013−204409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2のコンクリート打ち継ぎ構造は、既設コンクリート躯体と新設コンクリートとの間に異なる材質および強度を有した異物の層が介設されることになるため、既設コンクリート躯体の拡幅工事には不向きであった。
【0009】
このような観点から、本発明は、既設コンクリート躯体の拡幅工事等において、既設コンクリート躯体に新設コンクリートを打ち継ぐ際の外部拘束力を抑制することを可能としたコンクリート打ち継ぎ工法、隙間形成型枠および柱構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明のコンクリート打ち継ぎ工法は、既設コンクリート躯体の接合面に発熱手段を設置する工程と、前記発熱手段が発する熱により溶解する材料により形成された隙間形成型枠を前記接合面に設置する工程と、前記隙間形成型枠の周囲に新設コンクリートを打ち継ぐ工程と、前記発熱手段により前記隙間形成型枠を溶解させて当該隙間形成型枠を除去する工程と、前記隙間形成型枠を除去することにより形成された隙間に充填材を注入する工程とを備えることを特徴としている。
なお、前記充填材は、無収縮モルタルまたは無収縮グラウトであることが望ましい。
【0011】
また、本発明の隙間形成型枠は、既設コンクリート柱部材と前記既設コンクリート柱部材の周囲に打設される新設コンクリートとの間に配設されるものであって、前記既設コンクリート柱部材の周囲に設置された発熱手段が発する熱により溶解する材料により形成されていることを特徴としている。
【0012】
また、本発明の柱構造は、既設コンクリート柱部材と、前記既設コンクリート柱部材の周囲に打設された新設コンクリートと、前記既設コンクリート柱部材と前記新設コンクリートとの隙間に充填された充填材と備えることを特徴としている。
【0013】
かかるコンクリート打ち継ぎ工法、隙間形成型枠および柱構造によれば、既設コンクリート躯体(既設コンクリート柱部材)と新設コンクリートとの間に隙間形成型枠が介設されているため、新設コンクリートの乾燥収縮や温度応力による体積変化を吸収することができ、ひいては、外部拘束力を抑制することが可能となる。
【0014】
また、新設コンクリートに所定の強度が発現した後、隙間形成型枠を除去して充填材を充填するため、既設コンクリート躯体と新設コンクリートとが一体となった新設コンクリート躯体を構築することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコンクリート打ち継ぎ工法、隙間形成型枠および柱構造によれば、既設コンクリート躯体に新設コンクリートを打ち継ぐ際の外部拘束力を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態のコンクリート打ち継ぎ工法により形成された橋脚を示す斜視図である。
【
図2】(a)は
図1のA−A断面図、(b)は
図2の(a)のB−B断面図である。
【
図3】(a)〜(d)は本実施形態のコンクリート打ち継ぎ工法の施工状況を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態では、
図1に示すように、道路の拡幅工事に伴い、既設橋脚(既設コンクリート躯体)1に新設コンクリート3を打ち継ぐことで、梁部および柱部が拡幅された新設橋脚2を形成する場合について説明する。
【0018】
図2の(a)および(b)に示すように、既設橋脚1を構成する既設コンクリート4と新設コンクリート3は、中間層5を介して接続されている。
本実施形態では、円柱状の柱部(既設コンクリート柱部材)を有した既設橋脚1に新設コンクリート3を打ち継ぐことで小判型断面の柱部(柱構造)を形成する。
【0019】
既設橋脚1の拡幅工事に伴うコンクリート打ち継ぎ工法は、準備工程と、蝋層形成工程と、打ち継ぎ工程と、蝋層撤去工程と、充填工程と、を備えている。
【0020】
準備工程は、
図3の(a)に示すように、既設橋脚1の(表面)接合面に電熱線(発熱手段)6を配線する工程である。
図3の(a)では、1本の電熱線6により既設橋脚1の周囲全体に配線しているが、複数本の電熱線6を配線してもよい。また、電熱線6の配線方法(配置)は限定されない。また、発熱手段は電熱線に限定されるものではなく、例えば、加熱蒸気圧送パイプや熱水循環パイプを使用してもよい。
【0021】
なお、準備工程には、ブラスト処理やチッピングを行うことで、既設橋脚1の表面(接合面)を粗面にする作業が含まれている。
既設橋脚1の表面を粗面にしておくことで、新設コンクリート3(中間層5)との付着力が向上する。なお、既設橋脚1の表面は必要に応じて粗面にすればよい。また、既設橋脚1の表面には、必要に応じてジベルを打ち込んでもよい。
【0022】
蝋層形成工程は、
図3の(b)に示すように、既設橋脚1の接合面に蝋層(隙間形成型枠)7を形成する工程である。
蝋層7は、既設橋脚1の周囲に型枠を設置した後、この型枠内に溶解した蝋を流し込むことにより形成する。蝋層7は、厚みが30mm程度になるように形成する。
【0023】
なお、蝋層7の厚さは限定されるものではないが、蝋層7の厚みが大きいと、蝋の量や充填材の注入量が増加し作業性が低下するとともに材料費が高くなる。また、蝋(蝋層7)の撤去時や充填材の注入(注入管の挿入等)時の作業効率を確保する面でも、蝋層7の厚みは20mm〜30mm程度としておくのが望ましい。
また、蝋層7は、溶解した蝋を既設橋脚1の周囲に塗布することにより形成してもよい。
【0024】
蝋層7は、電熱線6を覆うよう(内挿するように)に形成する。このとき、新設コンクリート3との付着力を増加させることを目的として、蝋層7の表面に凹凸を形成しておくのが望ましい。
【0025】
蝋層7を形成する蝋には、融解温度が70°前後のパラフィン系のワックスを使用する。なお、蝋層7に使用する蝋の材質は、融解温度がコンクリートの養生熱よりも高く、100°未満であれば限定されるものではない。
【0026】
なお、本実施形態では、隙間形成型枠(蝋層7)を形成する材料として蝋を採用したが、隙間形成型枠を形成する材料は、電熱線6(発熱手段)が発する熱で溶解し、かつ、コンクリートの養生熱では溶解しない材料であれば限定されない。
【0027】
打ち継ぎ工程は、
図3の(c)に示すように、蝋層7の外側面に新設コンクリート3を打ち継ぐ工程である。
【0028】
新設コンクリート3は、蝋層7から所定の間隔をあけて型枠(図示せず)を設置した後、この型枠内にフレッシュコンクリート(新設コンクリート3)を打設することにより打ち継ぐ。
つまり、新設コンクリート3は、既設橋脚1との間に蝋層7が介設された状態で打設する。
【0029】
蝋層撤去工程は、新設コンクリート3に所定の強度が発現した後、蝋層7を撤去する工程である。
蝋層撤去工程では、まず、電熱線6に電流を流すことで電熱線6を発熱させて蝋を溶解させる。
【0030】
蝋の溶解に伴い、蝋層7(既設橋脚1と新設コンクリート3との隙間)に温水を流し込み、既設橋脚1および新設コンクリート3の表面の洗浄を行う。
なお、洗浄に用いる温水は、蝋の融解温度よりも高温(80°前後)に温められている。
【0031】
蝋層7に温水を流し込むと、既設橋脚1および新設コンクリート3の表面に付着した蝋を取り除くことができ、さらには、溶解した蝋を浮上させて隙間の上部から除去することができる。
【0032】
なお、蝋の除去方法は限定されない。例えば、新設コンクリート3の下部等に蝋層7に通じる排出口を形成しておき、溶解させた蝋を流出させてもよいし、吸引装置を利用して蝋層7から溶解させた蝋を吸い出してもよい。
【0033】
充填工程は、
図3の(d)に示すように、蝋層7を撤去することにより形成された隙間に充填材を注入して中間層5を形成する工程である。
【0034】
本実施形態では、充填材として無収縮モルタルを採用する。なお、充填材を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、無収縮グラウト等のセメント系充填材や樹脂系充填材等を採用してもよい。
【0035】
充填材の注入は、注入管(図示せず)により、隙間の底部から行う。注入管は、充填材の注入の進行に伴って、上昇させる。
なお、本実施形態では電熱線6を埋め殺すが、電熱線6は撤去してもよい。
【0036】
充填材を隙間の底部から注入することで、隙間内の温水を充填材の注入とともに隙間の上部から排出させることができる。
なお、充填材の注入は、温水を除去してから行ってもよい。
【0037】
本実施形態のコンクリート打ち継ぎ工法によれば、新設コンクリート3の打設時に既設橋脚1と新設コンクリート3との間にコンクリートよりも変形しやすい蝋層7が介設されているため、新設コンクリート3の乾燥収縮や温度応力による体積変化を吸収することができる。すなわち、新設コンクリート3の外部拘束力が抑制される結果、新設コンクリート3に生じる外部拘束クラックを無くすあるいは最小限に抑えることができ、ひいては、高品質な新設橋脚2を形成することができる。
【0038】
また、新設コンクリート3に所定の強度が発現した後、蝋層7を撤去して無収縮モルタルからなる充填材を隙間に充填して中間層5を形成するため、既設橋脚1と新設コンクリート3とが一体となった新設橋脚2を構築することができる。
【0039】
また、蝋層7は、既設橋脚1の表面に30mm程度の厚さで形成されているため、既設橋脚1の粗面が蝋層7の表面にも現れる。そのため、新設コンクリート3の隙間側(中間層5側)の表面も粗面に形成され、新設コンクリート3と既設コンクリート4との間の付着力が高められている。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、橋脚の拡幅工事に、本発明のコンクリート打ち継ぎ工法を採用する場合について説明したが、本発明のコンクリート打ち継ぎ工法により拡幅されるコンクリート躯体は、橋脚に限定されるものではない。
【0041】
新設コンクリートを打設する際に使用した型枠を撤去するタイミングは、新設コンクリートに所定の強度が発現した後であれば限定されるものではない。例えば、蝋層の撤去前、蝋層の撤去後あるいは蝋層の撤去と並行して行ってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 既設橋脚(既設コンクリート躯体)
2 新設橋脚
3 新設コンクリート
4 既設コンクリート
5 中間層
6 電熱線
7 蝋層(隙間形成型枠)