特許第6263036号(P6263036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263036
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】板材の周縁加工砥石及び面取装置
(51)【国際特許分類】
   B24D 5/00 20060101AFI20180104BHJP
   B24B 9/10 20060101ALI20180104BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20180104BHJP
   B24D 5/06 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   B24D5/00 P
   B24B9/10 Z
   B24B27/06 Z
   B24D5/06
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-13915(P2014-13915)
(22)【出願日】2014年1月29日
(65)【公開番号】特開2015-139843(P2015-139843A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2017年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000212566
【氏名又は名称】中村留精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【弁理士】
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 修
(72)【発明者】
【氏名】宮本 高志
(72)【発明者】
【氏名】納谷 剛志
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−006245(JP,A)
【文献】 独国特許発明第00566538(DE,C2)
【文献】 特開昭61−005840(JP,A)
【文献】 特開平07−186023(JP,A)
【文献】 特公平05−079613(JP,B2)
【文献】 カナダ国特許出願公開第02607774(CA,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00 − 18/00
B24B 9/00 − 9/20
B24B 27/06
C03B 33/02
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心軸を中心軸とする2個の球状の砥石面を対向配置した、板材の周縁加工砥石。
【請求項2】
2個の球状の砥石面の内径端を連接する円筒砥石面を備えている、請求項1記載の周縁加工砥石。
【請求項3】
直角座標系又は極座標系における平面の面直角方向の軸回りに回転しながらワークの周縁に沿って相対移動する砥石と、当該砥石を前記面直角方向に昇降する縦送り台を備えた板材の面取装置において、当該縦送り台を被加工物である3Dパネルの周縁に沿う砥石の移動と関連づけて当該周縁の高さの変化に応じて昇降させる制御手段を備えている、板材の面取装置。
【請求項4】
前記縦送り台に軸支された砥石軸と、当該送り台に昇降可能に設けた昇降台に軸支された第2の砥石軸とを備え、前記砥石軸の下端に請求項1又は2記載の周縁加工砥石を装着し、前記第2の砥石軸の下端に周面を砥石面とした円筒状の切断砥石を装着した、請求項3記載の面取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガラス板その他の硬質脆性板の周縁を加工する砥石及び当該砥石を用いて面取加工を行う面取装置に関するもので、特に、湾曲した板面を備えたガラス板その他の硬質脆性板(以下、「3Dパネル」と言う)の周縁を加工するのに好適な上記砥石及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス板を切断する一般的な方法は、ガラスの脆性を利用するもので、ダイヤモンドの尖針やローラでガラス板の表面にスクライブ溝(引っ掻き溝)を形成し、このスクライブ溝に沿って生ずる微小な垂直クラックを熱や衝撃力で助長して切断するというものである。このような方法で切断されたガラス板の周縁には、荒れた稜線や割れによる鋭い稜線が形成される。そこで、この稜線部分を面取して、作業者の指を傷つけたり、稜線に欠けやクラックが発生するのを防止する必要がある。
【0003】
従来この面取は、面取しようとする稜線と略平行な軸回りに回転する複数の円板砥石を備えたマルチ砥石と呼ばれる砥石や、加工後のガラス板周縁の断面形状に応じた周溝を有する総形砥石と呼ばれる砥石を用いて行われている。
【0004】
図6は、従来の総形砥石30と、当該砥石によって面取されたガラス板wの部分拡大図である。総形砥石30は、円筒砥石面6と上下の円錐砥石面8、9で形成された周溝70を備えており、ガラス板の端面uは、円筒砥石面6で研削され、上下の面取面s、tは、それぞれ円錐砥石面8、9で研削される。ガラス板の表面に対する面取面s、tの面取角(傾斜角)θは、従来45度が一般的であったが、ガラス板の薄肉化に伴い、面取角が小さくなる(例えばθ=15度〜35度)傾向である。
【0005】
近時、ディスプレイパネルやそのカバーガラス、反射鏡などにおいて、パネルの3D化(3次元化)が進行している。すなわち、映像を立体的に見せることや画像の投影表面(スクリーンに相当する表面)の凹凸に応じた反射面を得るために表面を湾曲面としたガラス板を使用するというものである。このような湾曲した板面を備えた3Dパネルにおいても、前述したチッピングや欠けを除去するためにその周縁の面取加工が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、従来のガラス板の面取加工は、総形砥石やマルチ砥石を加工しようとするワークの周縁に沿って移動させることによって行われる。総形砥石の回転中心軸は、ガラスの板面に対して直角であり、マルチ砥石の回転中心軸は、ガラス板の板面に平行である。ワークの外周は、2次元平面上にあるから、直角座標系におけるX−Y平面又は極座標系におけるθ−r平面内で砥石をワークの周縁に沿って相対移動させて加工することができる。
【0007】
一方、3Dパネルの周縁加工においては、砥石をワークに対して2次元平面で相対移動させると共に、この2次元平面と直交するZ方向にも相対移動させる必要がある。このZ方向の砥石位置の制御は、砥石をその回転中心軸方向に移動させる昇降装置を設けて、3DパネルのCADデータを読み込んだNC装置でこの昇降装置を制御することにより、容易に可能である。
【0008】
しかし、総形砥石による面取加工は、砥石の外周に設けた周溝によって行われており、この周溝は、砥石の回転中心と直交する2次元平面内で回転しているため、3Dパネルの外周がZ軸方向に変化する部分では、3Dパネルの周縁の延在方向と砥石の接線方向とが交差する状態となる。従来の総形砥石の周溝は、断面台形の溝であって、更にガラス板の薄肉化に伴って面取加工に供される斜面(円錐面)は、前述したθ=15度〜35度の浅い角度になっている。そのため、面取加工しようとするワーク周縁の延在方向が砥石周溝の接線方向からずれると、砥石がワークに深く切込まれて加工形状が乱れるということが起こる。これを避けるためには、ワーク周縁の延在方向と砥石の周溝の接線方向とが平行になるように砥石の回転中心軸を傾ける必要があるが、機械構造及び制御が極めて複雑になる。
【0009】
この発明は、砥石の回転軸を傾斜させるという制御を行うことなく3Dパネルの周縁の面取加工を可能にすることを課題としており、更に3Dパネルの外周の切断と面取加工とを同一機台上で行うことができる装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の板材の周縁加工砥石は、面取面s、tを研削する砥石面4(4a、4b)、5(5a、5b)を球状として、その球状砥石面4、5を対向配置したことを特徴とする。ここで球状砥石面4、5は、球帯、回転楕円帯などの面を含み、中心が砥石の回転中心軸線上にある球ないし球と同等の面で、面全体に亘ってワークに向けて凸状となっている砥石面である。従って、この発明の砥石で面取された3Dパネルwの面取面s、tは、中凹状の曲面となる。このような中凹状の面取は、マルチ砥石による従来の面取においても行われていたものである。
【0011】
砥石の外周に円筒砥石面6を挟んで2個の球状砥石面4、5を対向させた周溝7を形成した砥石3(3a、3b)を用いれば、従来の総形砥石と同様にして、3Dパネルの端面uと上下の面取面s、tの研削を同時に行うことができる。
【0012】
砥石の回転中心軸aと平行な砥石の相対送り方向の面であって、球状砥石面4、5で研削されている面取面s、tの端面側のエッジp及び板面側のエッジqをそれぞれ含む面m、nと球状砥石面4、5との交線e、fは、図4に示すように、円や楕円などの円に近い2次曲線e、fとなり、両曲線の間隔dはほぼ一定である。
【0013】
球状砥石面4、5に板材wの周縁が斜めに接触すると、板材wと球状砥石面の接点c4、c5は、板材wと砥石3との相対移動方向の前後に移動するが、面取砥石面4、5を球状としたこの発明の砥石では、接点c4、c5の移動量gが小さく、かつその移動後の位置においても曲線e、fの間隔dが変化しないことから、面取幅bや面取角θもほとんど変化しない。
【0014】
これに対して従来のような面取砥石面を円錐面とした砥石では、曲線e、fが双曲線となるため、3Dパネルの周縁が傾斜している部分で面取幅b及び面取角θが大きく変動する。
【0015】
球状砥石面を対向させて上下の面取面s、tを同時に面取りする場合には、3Dパネルwが傾斜したとき、端面uの幅が狭くなるが、この狭くなる程度も従来構造の砥石に比べて小さく、一般的に用いられている3Dパネルの面取加工においては、ほとんど問題にならない。
【0016】
上記特徴を備えたこの発明の板材の周縁加工砥石3は、回転中心軸aを中心軸とする2個の球状の砥石面4、5を対向配置した砥石であり、より好ましくは、2個の球状の砥石面4、5の内径端に連接する円筒砥石面6を備えている砥石である。
【0017】
また、この発明の面取装置は、上記のこの発明の砥石を用いて3Dパネルの周縁の面取加工を可能にした面取装置であって、当該砥石をワークの面直角方向に昇降する縦送り台25を備え、当該縦送り台を3Dパネルの縁に沿う砥石の移動と関連づけて昇降する制御手段を備えている面取装置である。
【0018】
上記の縦送り台25に軸支された砥石軸41と、当該縦送り台に昇降可能に設けた昇降台28に軸支された第2の砥石軸47とを設け、前記砥石軸41の下端にこの発明の周縁加工砥石3を装着し、第2の砥石軸47の下端に周面を砥石面とした円筒状の切断砥石45を装着することにより、この発明の面取装置上で3Dパネルの切断と面取とを連続して行うことが可能である。
【発明の効果】
【0019】
この発明の砥石によれば、3Dパネルの周縁の面取加工において、パネル周縁の傾斜に応じて砥石軸を傾動させることなく、砥石軸を3Dパネル周縁のZ方向の位置に合わせて上下動させるという制御により、外観上及び実質上均一な面取加工を行うことができる。
【0020】
また、従来公知の面取装置に砥石軸の軸方向移動をNC制御する制御手段を付加することで、3Dパネルの面取加工が可能な面取装置を提供できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】周縁加工砥石の第1実施例の側面図
図2】周縁加工砥石の第2実施例の側面図
図3】砥石と加工された板材の要部の部分拡大図
図4】板材の周縁が傾斜したときの面取作用の説明図
図5】面取装置の模式的な正面図
図6】従来砥石と加工された板材の要部の部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、この発明の周縁加工砥石の第1実施例を示す側面図である。図2は、この発明の周縁加工砥石の第2実施例を示す側面図である。第1実施例の周縁加工砥石3aは、半球砥石面4aと、球砥石面5aと、対向するこれらの球状砥石面4a、5aの間の円筒砥石面6とを備えている。第2実施例の周縁加工砥石3bは、円筒砥石面6と、当該砥石面を挟んで対向する2個の球帯砥石面4b、5bを備えている。
【0023】
球状砥石面4(4a、4b)及び5(5a、5b)は、砥石の回転中心軸aと直交する平面との交線が砥石中心軸aを中心とする真円の凸曲面である。球状砥石面4、5の内径端、すなわち円筒砥石面6と連接する位置における球状砥石面4、5の母線と円筒砥石面の母線(回転中心軸と平行な線)とがなす角は、105度〜135度である。
【0024】
この発明の面取装置の実施例を示す図5において、1は主軸である。主軸1は、鉛直方向の中空軸で、装置フレームに固定の軸受11で回転自在に軸支されている。主軸1の上端には、ホルダ12が固定されており、このホルダの上面13は、加工するガラス板wの面に対応する曲面のワーク保持面となっている。ホルダ12上に搬送されたガラス板wは、例えば主軸の中空孔を通して供給される負圧により、真空吸着されて保持される。主軸1の下端には、主軸モータ(サーボモータ)15が連結されている。主軸モータ15は、サーボアンプ61を介してNC装置60に接続され、NC装置60の指令によって主軸1の回転角が制御されている。
【0025】
21は、主軸1の上方に位置する横送り台である。横送り台21は、装置フレームに設けた水平方向の横ガイド(図示されていない)に移動自在に案内され、横送りモータ(サーボモータ)23で回転駆動される横送りねじ24に螺合している。横送りモータ23は、サーボアンプ62を介してNC装置60に接続されており、横送り台21の移動位置がNC装置60によって制御されている。
【0026】
25は縦送り台である。縦送り台25は、横送り台21に固定した鉛直方向、すなわち主軸1と平行な方向の縦ガイド(図示されていない)に移動自在に装着され、縦送りモータ(サーボモータ)26で回転駆動される縦送りねじ27に螺合している。縦送りモータ26は、サーボアンプ63を介してNC装置60に接続されており、縦送り台21の移動位置がNC装置60によって制御されている。
【0027】
28は昇降台である。昇降台28は、縦送り台25に設けた鉛直方向のレールに摺動自在に装着されており、その上端は、縦送り台25に装着した昇降シリンダ29のロッドに連結されている。
【0028】
3(3a、3b)は周縁加工砥石である。周縁加工砥石3は、縦送り台25に軸受44で軸支された鉛直方向の、従って主軸1と平行な方向の砥石軸41の下端に装着されている。砥石軸41の上端は、歯付ベルト42により砥石モータ43に連結されている。
【0029】
45は切断砥石である。切断砥石45は、昇降台28に装着したブラシレスモータ46の回転子軸に直結された鉛直方向の切断砥石軸47の下端に装着されている。
【0030】
主軸1の軸心、砥石軸41の軸心及び切断砥石軸47の軸心は、横送り台21の移動方向と平行な同一鉛直面上に位置している。
【0031】
周縁加工砥石3でワークを加工するときは、昇降シリンダ29で昇降台28を上昇させ、切断砥石45をホルダ12に保持されたワークwと干渉しない上方位置に待避させる。一方、切断砥石45でワークwを切断するときは、昇降シリンダ29で昇降台28を下降させ、縦送り台25で切断砥石45を加工位置まで下降してワークwを切断する。このとき周縁加工砥石3は、昇降台28に対する縦送り台25の相対的な上昇により、ホルダ12で保持されたワークと干渉しない上方位置に退避している。
【0032】
いずれの加工においても、横送り台21の移動位置と主軸1の回転角とを関連付けて同期制御することにより、所望の平面形状の切断及び周縁加工を行う。
【0033】
図5に示した面取装置は、切断砥石45と周縁加工砥石3とを備えており、ホルダ12に搬入された3Dパネルを切断砥石45で所定形状に切断したあと、切断砥石45を上方に退避させて周縁加工砥石3で切断したあとの3Dパネルwの周縁を面取加工することが可能である。この場合の周縁加工砥石3は、円筒砥石面6を備えていない砥石を用いることができる。
【0034】
周縁加工砥石3として円筒砥石面6を備えた砥石を用いれば、ホルダ12上に前工程で所定形状に切断された3Dパネルが搬入されたときに、当該周縁加工砥石で3Dパネルの端面の仕上げ研削を含む面取加工を行うことが可能である。
【0035】
搬入された3Dパネルの切断と面取とを行う場合の上記面取装置の動作を次に説明する。ホルダ12に3Dパネルwが搬入されて固定されたら、昇降台28を下降して主軸1の回転と横送りモータ23の回転とをNC装置60で同期させて3Dパネルwの周縁を所定形状に切断する。
【0036】
次に切断砥石45を上方に退避し、3Dパネルwの平面形状に応じて主軸1の回転と横送りモータ23の回転とをNC装置60で同期制御すると共に、研削する部分のホルダ12上における3Dパネル周縁の高さの変化に応じて主軸1の回転角と縦送りモータ26の回転とをNC装置60で同期制御しながら主軸1を1回転させることにより、3Dパネルwの周縁の上下の面取面s、tを同時加工する。
【0037】
この面取面の研削の際に、対向する球状砥石面4、5の間に設けた円筒砥石面6で3Dパネル周縁の端面を仕上研削することができ、切断砥石45として目の粗い砥石を用いて切断速度を上げるという動作が可能である。
【符号の説明】
【0038】
3(3a、3b) 砥石
4(4a、4b) 球状砥石面
5(5a、5b) 球状砥石面
6 円筒砥石面
7 周溝
21 横送り台
25 縦送り台
28 昇降台
41 砥石軸
45 切断砥石
47 第2の砥石軸
a 砥石の回転中心軸
b 面取幅
c4、c5 板材と球状砥石面の接点
d 曲線e、fの間隔
e、f m、nと球状砥石面との交線
g 移動量
m、n aと平行なp、qを通る面
p 端面側のエッジ
q 板面側のエッジ
s、t 面取面
u 端面
w 板材(3Dパネル)
θ 面取角
図1
図2
図3
図4
図5
図6