特許第6263047号(P6263047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6263047サーボプレス機の加速・減速方法及びサーボプレス機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263047
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】サーボプレス機の加速・減速方法及びサーボプレス機
(51)【国際特許分類】
   B30B 15/14 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
   B30B15/14 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-36955(P2014-36955)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-160229(P2015-160229A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100066061
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(74)【代理人】
【識別番号】100143340
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 美良
(72)【発明者】
【氏名】五島 紘一
(72)【発明者】
【氏名】中澤 一貴
【審査官】 石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−051965(JP,A)
【文献】 特開平06−161535(JP,A)
【文献】 特開平11−089291(JP,A)
【文献】 特開2011−224694(JP,A)
【文献】 特開2012−011449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドをサーボモータによって昇降させることによりプレス加工を行うサーボプレス機の加速・減速方法であって、
目標速度へ加速、減速を行う前の前記スライドの速度と目標速度の速度差が、上限速度差よりも更に大きな基準速度差よりも大きい場合には、予め設定された最大加速・減速時間を前記基準速度差で除した値に該速度差を乗じた加速・減速時間により、前記スライドを加速・減速させることを特徴とするサーボプレス機の加速・減速方法。
【請求項2】
記速度差が前記上限速度差よりも小さな下限速度差よりも小さい場合には、予め設定された最小加速・減速時間により前記スライドを加速・減速し、前記速度差が前記上限速度差よりも大きい場合には、前記予め設定された最大加速・減速時間により前記スライドを加速・減速し、前記速度差が前記下限速度差以上でかつ前記上限速度差以下の場合には、該速度差に所定の加速係数を乗じた加速・減速時間で前記スライドを加速・減速させることを特徴とする請求項1に記載のサーボプレス機の加速・減速方法。
【請求項3】
スライドをサーボモータによって昇降させることによりプレス加工を行うサーボプレス機であって、
記スライドの昇降速度を制御する制御手段を有し、
前記制御手段は、
目標速度へ加速、減速を行う前の前記スライドの速度と前記目標速度の速度差に基づいて前記スライドの加速・減速時間を決定し、前記速度差が下限速度差よりも小さい場合には、予め設定された最小加速・減速時間により前記スライドを加速・減速し、前記速度差が前記下限速度差よりも大きな上限速度差よりも大きい場合には、予め設定された最大加速・減速時間により前記スライドを加速・減速し、前記速度差が前記下限速度差以上でかつ前記上限速度差以下の場合には、該速度差に所定の加速係数を乗じた加速・減速時間で前記スライドを加速・減速し、
前記速度差が前記上限速度差よりも更に大きな基準速度差よりも大きい場合には、前記最大加速・減速時間を前記基準速度差で除した値に該速度差を乗じた加速・減速時間により、前記スライドを加速・減速させることを特徴とするサーボプレス機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板金加工に用いるサーボプレス機の加速・減速方法及びサーボプレス機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、板金加工の分野においてサーボモータを用いたサーボプレス機が多く使用されている。このサーボプレス機の概要を図3を参照しつつ説明する。図3(a)は、サーボプレス機1の外観斜視図であり、図3(b)は、サーボプレス機1の構成を示す概略図である。なお、図3に示したサーボプレス機1は、スライドを移動させるのにクランク機構を用いるクランクプレスである。
【0003】
クランクプレスは、図3(a)に示されるように、動力としてサーボ制御されるサーボモータ10を駆動させて、モータ軸11を回転させ、モータ軸ギヤ12をメインギヤ20と噛み合わせて回転させる。メインギヤ20の中心部には、クランク軸21が取り付けられており、メインギヤ20の回転運動を上下の昇降運動に変換する。これにより、クランク軸21に取り付けられたコンロッド22とスライド23が昇降運動する。図3(b)に示したように、スライド23には、上金型24aが取り付けられており、静止側の台であるボルスタ25には、下金型24bが搭載されていて、スライド23を下降させることにより、上金型24aと下金型24bの間に挟み込まれた成型部品をプレスする。
【0004】
サーボモータ10が回転すると、エンコーダ13は、回転方向および回転量をサーボコントローラ15にフィードバックする。サーボコントローラ15は、与えられるサーボパラメータ41に従ってサーボ制御を行う機能を有し、ドライバ14に制御信号を出力する。ドライバ14は、入力された信号を電流値に変換して、サーボモータ10に供給する。
【0005】
サーボコントローラ15に与えられるサーボパラメータ41は、操作パネル31の指定に従って設定され、記憶部40に記憶されている。また、制御部32と記憶部40は、図3(a)に示した制御盤30の中に格納されている。
【0006】
サーボプレス機1は、スライド23の位置と速度を細かく設定することができ、1行程の間に、停止や加速、減速を繰り返すことが可能である。サーボモータ10が現在速度から目標速度へ加速,減速を行う時間を「加速時間」,「減速時間」とすると、一般的に現在速度と目標速度の速度差Vxと加速時間Tは、図4(a)に示したように比例の相関関係を有している。なお、図4(a)の加速時間Tは、減速時間を含んだ意味で使用しているものとし、以下においても同様であるものとする。
【0007】
なお、サーボプレス機の上位制御装置の応答性を超える短い加速時間が設定されるのを防ぐため、また加速時間が余りに長く設定されることを防ぐため、加速時間には上下限値が設定される。すなわち、加速時間には最大加速時間Tmaxと最小加速時間Tminが設定される。この場合、図4(b)に示したように、現在速度と目標速度との速度差Vxが下限速度差Vminよりも小さい場合は最小加速時間Tminが適用され、速度差Vxが上限速度差Vmaxよりも大きい場合は最大加速時間Tmaxが適用される。また、速度差Vxが下限速度差Vminより大きく上限速度差Vmaxより小さい場合には、速度差Vxに所定の加速係数を乗じた加速時間Tが適用される。
【0008】
なお、例えば特許文献1には、ユーザの生産目的に応じたサーボプレス機の動作指定を事前に行い、サーボモータの回転数と出力トルク特性に応じて、サーボプレス機の加減速の制御を行う制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−11449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記したサーボプレス機1では、サーボモータ10の回転数を上げ、プレスの高速化を図った場合、最大加速時間Tmaxが適用される範囲では、現在速度と目標速度の速度差Vxが大きくなればなるほど、図5(a)に示したように速度Vの加速の傾きが大きくなってしまう。その結果、サーボアンプが過熱したり、サーボモータ10による許容以上の回生電力が発生し、サーボプレスシステムの不具合原因となる。また、サーボプレス機1には駆動ギヤのバックラッシュがあるため、加速,減速によってギヤ同士の叩き音(ギヤ切返し音)が発生し、急加速,急減速はギヤの叩き音増加の原因にもなる。
【0011】
これらの課題を回避するために、図5(b)に示したように最大加速時間をΔtだけ長く設定すると、現在速度と目標速度の速度差Vxが小さくなったときに、加速時間が従来より長くなってしまい、サーボプレス機1の最高速度は上がっているのに、生産性が低下してしまうという問題があった。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ハードを変更することなくスライドの最高速度を増加させた場合に、サーボアンプの発熱やギヤの叩き音の増加を抑制しつつ、生産性を向上させることが可能なサーボプレス機の加速・減速方法及びサーボプレス機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため以下の構成を有する。
【0014】
(1)スライドをサーボモータによって昇降させることによりプレス加工を行うサーボプレス機の加速・減速方法であって、
前記スライドの現在速度と目標速度の速度差が、従来の上限速度差よりも更に大きな基準速度差よりも大きい場合には、従来の最大加速・減速時間を前記基準速度差で除した値に該速度差を乗じた加速・減速時間により、前記スライドを加速・減速させることを特徴とするサーボプレス機の加速・減速方法。
【0015】
(2)スライドをサーボモータによって昇降させることによりプレス加工を行うサーボプレス機の加速・減速方法であって、
前記スライドの現在速度と目標速度の速度差が下限速度差よりも小さい場合には、所定の最小加速・減速時間により前記スライドを加速・減速し、前記速度差が前記下限速度差よりも大きな上限速度差よりも大きい場合には、所定の最大加速・減速時間により前記スライドを加速・減速し、前記速度差が前記下限速度差以上でかつ前記上限速度差以下の場合には、該速度差に所定の加速係数を乗じた加速・減速時間で前記スライドを加速・減速し、
前記速度差が前記上限速度差よりも更に大きな基準速度差よりも大きい場合には、前記最大加速・減速時間を前記基準速度差で除した値に該速度差を乗じた加速・減速時間により、前記スライドを加速・減速させることを特徴とするサーボプレス機の加速・減速方法。
【0016】
(3)スライドをサーボモータによって昇降させることによりプレス加工を行うサーボプレス機であって、
前記スライドの昇降速度を検知する検知手段と、前記スライドの昇降速度を制御する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、
前記検知手段の検知速度と目標速度の速度差に基づいて前記スライドの加速・減速時間を決定し、前記速度差が下限速度差よりも小さい場合には、所定の最小加速・減速時間により前記スライドを加速・減速し、前記速度差が前記下限速度差よりも大きな上限速度差よりも大きい場合には、所定の最大加速・減速時間により前記スライドを加速・減速し、前記速度差が前記下限速度差以上でかつ前記上限速度差以下の場合には、該速度差に所定の加速係数を乗じた加速・減速時間で前記スライドを加速・減速し、
前記速度差が前記上限速度差よりも更に大きな基準速度差よりも大きい場合には、前記最大加速・減速時間を前記基準速度差で除した値に該速度差を乗じた加速・減速時間により、前記スライドを加速・減速させることを特徴とするサーボプレス機。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ハードを変更することなくスライドの最高速度を増加させた場合に、サーボアンプの発熱やギヤの叩き音の増加を抑制しつつ、生産性を向上させることが可能なサーボプレス機の加速・減速方法及びサーボプレス機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例のサーボプレス機の速度差と加速時間の関係を示すグラフ
図2】実施例のサーボプレス機の加速時間を決定するためのフローチャート
図3】実施例及び従来例のサーボプレス機の構成を示す斜視図及び概略図
図4】従来のサーボプレス機の速度差と加工時間の関係を示すグラフ
図5】従来のサーボプレス機の時間と速度の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ以下に説明する。
【実施例】
【0020】
本実施例のサーボプレス機の制御方法を除く機械的な構成は、上述した従来のサーボプレス機1の機械的な構成と同一であるため説明を省略する。本実施例のサーボプレス機1のスライド23の加減速制御について、図1図2を参照しつつ以下に説明する。
【0021】
図1は、本実施例のサーボプレス機1の速度差Vxと加速時間Txの関係を示したグラフである。このグラフで、基準速度差Vsetとは、従来のサーボプレス機で対応が可能だった速度差Vxの最大の速度差を意味する。速度差Vxが基準速度差Vset以下の場合は、速度差Vxに基づく加速時間Tの制御は既に図4(b)で述べた従来の制御方法と同一である。
【0022】
すなわち、現在速度と目標速度との速度差Vxが下限速度差Vminよりも小さい場合は最小加速時間Tminが適用され、速度差Vxが上限速度差Vmaxよりも大きい場合は最大加速時間Tmaxが適用される。また、速度差Vxが下限速度差Vminより大きく上限速度差Vmaxより小さい場合には、速度差Vxに所定の加速係数を乗じた加速時間Tが適用される。一方、速度差Vxが基準速度差Vsetより大きい場合には、以下の式(1)に基づいて加速時間Txを決定する。
Tx=(Tmax/Vset)×Vx ・・・ 式(1)
【0023】
式(1)から分かるように、最大加速時間Tmaxと基準速度差Vsetから求められる加速時間Txの傾きを算出し、その傾きから速度差Vxに応じた加速時間Txを算出する。このように加速時間Txを決定することにより、高速化によってサーボモータ10の回転速度が基準速度差Vsetより上昇しても、加速度を変化させないように加速時間Txを調整することができる。
【0024】
[速度差Vxから加速時間Txを決定するフローチャート]
図2に、現在速度と目標速度の速度差Vxから加速時間Txを決定するためのフローチャートを示す。
【0025】
制御部32は、ステップ(以下、「S」という)101で、現在速度V1と目標速度V2の差分を計算しその絶対値を速度差Vxとする。次いで、制御部32は、S102で速度差Vxが基準速度差Vset以下であるか否かを判断する。そして、制御部32は、S102で速度差Vxが基準速度差Vset以下であると判断した場合には、S103で速度差Vxに加速係数aを乗じて加速時間Txを求める。
【0026】
そして、制御部32は、S104で加速時間Txが最小加速時間Tmin以上であるか否かを判断する。制御部32は、S104で加速時間Txが最小加速時間Tmin以上でないと判断した場合には、S106で最小加速時間Tminを加速時間TxとしS109に進む。一方、制御部32は、S104で加速時間Txが最小加速時間Tmin以上であると判断した場合には、S105で加速時間Txが最大加速時間Tmax以下であるか否かを判断する。次に、制御部32は、S105で加速時間Txが最大加速時間Tmax以下でないと判断した場合には、S107で最大加速時間Tmaxを加速時間TxとしてS109へ進む。一方、制御部32は、S015で加速時間Txが最大加速時間Tmax以下であると判断した場合にはS109へ進む。この場合には、加速時間Txは速度差Vxに加速係数aを乗じた値である。
【0027】
なお、制御部32は、S102で速度差Vxが基準速度差Vset以下でない、すなわち基準速度差Vsetより大きいと判断した場合には、S108で上述した式(1)により加速時間Txを計算し、S109に進む。
【0028】
最後に、制御部32は、S109で加速時間Txを決定する。加速時間Txは上記した流れから以下のように決定されている。
Vx≦Vset Tx<Tmin Tx=Tmin
Vx≦Vset Tmin≦Tx≦Tmax Tx=a×Vx
Vx≦Vset Tx>Tmax Tx=Tmax
Vx>Vset Tx=(Tmax/Vset)×Vx
【0029】
本発明のサーボプレス機の加速・減速方法によれば、サーボアンプの過熱、サーボモータによる許容以上の回生電力の発生、及び駆動用ギヤの叩き音の増加を抑制しつつ、スライドの動作速度を高速化することができる。
【符号の説明】
【0030】
10 サーボモータ
11 モータ軸
12 モータ軸ギヤ
13 エンコーダ
14 ドライバ
15 サーボコントローラ
20 メインギヤ
21 クランク軸
22 コンロッド
23 スライド
24a 上金型
24b 下金型
25 ボルスタ
30 制御盤
31 操作パネル
32 制御部
40 記憶部
41 サーボパラメータ
図1
図2
図3
図4
図5