(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263072
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】業務用洗濯脱水機
(51)【国際特許分類】
D06F 37/36 20060101AFI20180104BHJP
D06F 33/02 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
D06F37/36
D06F33/02 F
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-84299(P2014-84299)
(22)【出願日】2014年4月16日
(65)【公開番号】特開2015-202302(P2015-202302A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2016年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】390027421
【氏名又は名称】株式会社東京洗染機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000073
【氏名又は名称】特許業務法人プロテック
(74)【代理人】
【識別番号】100167070
【弁理士】
【氏名又は名称】狹武 哲詩
(72)【発明者】
【氏名】三科 隆
(72)【発明者】
【氏名】杉本 淳一
(72)【発明者】
【氏名】辻村 好寛
【審査官】
大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭52−124070(JP,U)
【文献】
特開昭54−4477(JP,A)
【文献】
特開平11−276777(JP,A)
【文献】
特開昭56−161090(JP,A)
【文献】
特開2009−66295(JP,A)
【文献】
特開2010−17368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 33/02
D06F 37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗濯脱水機における洗濯ドラムを洗濯時に回転駆動する低速用モータと、
上記洗濯ドラムを脱水時に回転駆動する高速用モータと、
上記低速用モータの駆動力を上記高速用モータの回転軸に伝達すべく、上記高速用モータに繋がることが可能な第1のプーリ大と、上記第1のプーリ大にベルトにより連結される第1のプーリ小と、上記第1のプーリ小と同軸で一体的に組み合わされる第2のプーリ大と、上記第2のプーリ大にベルトにより連結され上記第1のプーリ大から遠ざかる位置に設けられ上記低速用モータに連結された第2のプーリ小とからなる動力伝達装置と、
上記動力伝達装置と上記高速用モータの回転軸との間に接離自在に介在するクラッチと、
上記低速用モータに備えた該低速用モータを駆動する電源周波数を変化させる低速用インバータと、
上記高速用モータに備えた該高速用モータを駆動する電源周波数を変化させる高速用インバータと、
上記高速用インバータに備えた該高速用モータの1つのみの回転数検知装置と、
上記高速用モータと上記高速用インバータと上記低速用モータと上記低速用インバータと上記クラッチを駆動制御する制御部と、
を有する業務用洗濯脱水機の制御方法であって、
当該業務用洗濯脱水機の使用者が、被洗物の種類、被洗物の重量、洗濯時間、脱水時間の情報を含む作業の流れに関する情報を前記制御部に入力するのを受付けて設定する入力設定工程と、
上記低速用インバータが上記低速用モータを回転駆動して、上記洗濯ドラムを高トルクで回転する洗濯工程と、
上記制御部が、上記低速用インバータから上記低速用モータの駆動電源の供給を止めるとともに、上記クラッチを切るクラッチ工程と、
上記洗濯ドラムが慣性により惰性回転し続ける回転数を上記回転数検知装置により検知するドラム回転数検知工程と、
上記回転数検知装置により上記高速用モータの実際の回転数をモニターしながら、上記洗濯ドラムの回転にブレーキがかからないよう、かつ始動トルクが過大にならないよう上記高速用インバータを制御して上記高速用モータを駆動して上記洗濯ドラムを回転する脱水工程と
を備えることを特徴とする業務用洗濯脱水機の制御方法。
【請求項2】
上記制御部は、上記クラッチ工程において、洗濯が終了して脱水への切り替えに際し低速用インバータにより低速用モータが洗濯時よりも高い回転数で洗濯ドラムを駆動してからクラッチを切ることを特徴とする請求項1に記載の業務用洗濯脱水機の制御方法。
【請求項3】
洗濯脱水機における洗濯ドラムを洗濯時に回転駆動する低速用モータと、
上記洗濯ドラムを脱水時に回転駆動する高速用モータと、
上記低速用モータの駆動力を上記高速用モータの回転軸に伝達すべく、上記高速用モータに繋がることが可能な第1のプーリ大と、上記第1のプーリ大にベルトにより連結される第1のプーリ小と、上記第1のプーリ小と同軸で一体的に組み合わされる第2のプーリ大と、上記第2のプーリ大にベルトにより連結され上記第1のプーリ大から遠ざかる位置に設けられ上記低速用モータに連結された第2のプーリ小とからなる動力伝達装置と、
上記動力伝達装置と上記高速用モータの回転軸との間に接離自在に介在するクラッチと、
上記低速用モータと高速用モータを選択的に駆動する電源周波数を変化させる1つのみの低速・高速兼用インバータと、
上記低速・高速兼用インバータに備えた該高速用モータの1つのみの回転数検知装置と、
上記高速用モータと上記低速用モータと上記低速・高速兼用インバータと上記クラッチを駆動制御する制御部と、
を有する業務用洗濯脱水機の制御方法であって、
当該業務用洗濯脱水機の使用者が、被洗物の種類、被洗物の重量、洗濯時間、脱水時間の情報を含む作業の流れに関する情報を前記制御部に入力するのを受付けて設定する入力設定工程と、
上記低速・高速兼用インバータが上記低速用モータを回転駆動して、上記洗濯ドラムを高トルクで回転する洗濯工程と、
上記制御部が、上記低速・高速兼用インバータから上記低速用モータの駆動電源の供給を止めるとともに、上記クラッチを切るクラッチ工程と、
上記洗濯ドラムが慣性により惰性回転し続ける回転数を上記回転数検知装置により検知するドラム回転数検知工程と、
上記回転数検知装置により上記高速用モータの実際の回転数をモニターしながら、上記洗濯ドラムの回転にブレーキがかからないよう、かつ始動トルクが過大にならないよう上記低速・高速兼用インバータを制御して上記高速用モータを駆動して上記洗濯ドラムを回転する脱水工程と
を備えることを特徴とする業務用洗濯脱水機の制御方法。
【請求項4】
上記制御部は、上記クラッチ工程において、洗濯が終了して脱水への切り替えに際し上記低速・高速兼用インバータにより上記低速用モータが洗濯時よりも高い回転数で上記洗濯ドラムを駆動してから上記クラッチを切ることを特徴とする請求項3に記載の業務用洗濯脱水機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被洗物を一つの大きな洗濯ドラムで洗濯して脱水する業務用洗濯脱水機において、装置を大型化することなくかつ省エネルギーで洗濯と脱水の両工程に効率よく好適に対応することができる業務用洗濯脱水機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、洗濯と脱水を同一のドラムで行う業務用洗濯脱水機において、洗濯時には洗濯液を貯えて低速回転するため大きなトルクを必要とするのに対して、脱水時にはトルクは低くても高速回転が必要となっている。このため、洗濯ドラムを回転駆動させるモータとしては、1機で洗濯と脱水の両方をまかなうとすると、高トルク出力と、高速回転の両方の性能を満足するために大型化させることが必要であった(特許文献1参照)。
しかしながら、モータを大型化すると、装置全体の大型化、製造コストの増大、そして電源容量の増大等を招くことから、これらの課題を解決するためには、
図4に示すように、大型のモータを用いることなく、低速用モータ21と高速用モータ22の2つの小型モータとプーリとクラッチ23を用いて高トルク出力と、高速回転の両方の駆動方法を適宜に切り替える洗濯脱水機が案出された。
この洗濯脱水機は、洗濯時に低速用モータ21でプーリ減速機構により低速・高トルクで洗濯ドラム24を駆動し、脱水時にクラッチ23を切り低速用モータ21を切り離し、高速用モータ22のみで洗濯ドラム24を高速回転させる構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−24580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この
図4に示す従来の洗濯脱水機は、低速用モータ21はインバータを用いて電源周波数を変化させて駆動していたが、高速用モータ22はインバータを用いずに商用電力(50/60Hz)のままで駆動しているので、低速用モータ21から高速用モータ22に切り替える際に、始動トルクも大きく始動電流がかなり大きくなっていた。そのため、大型のモータと太い電線径と容量の大きいフューズが必要になるという課題があった。また、商用電力をそのまま用いることから、電源周波数を任意に設定変更することはできなかった。
さらに、洗濯から脱水へと切り替える際に、洗濯ドラムは完全に停止せずに慣性で回転していることから、単純なインバータ回路を用いたとしても回転中の洗濯ドラムを好適に制御することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、装置を大型化することなくかつ省エネルギーで洗濯と脱水の両工程に効率よく好適に対応することができる業務用洗濯脱水機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みて鋭意研究の結果、本発明者は、洗濯用の低速用モータと脱水用の高速用モータにそれぞれインバータを備えるとともに、高速用モータ用のインバータにモータの回転数検知手段を備えて制御することを可能とすることにより大型なモータを用いることなく、洗濯と脱水の両工程に適応することができる業務用洗濯脱水機を案出するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の業務用洗濯脱水機は、洗濯脱水機における洗濯ドラムを洗濯時に回転駆動する低速用モータと、上記洗濯ドラムを脱水時に回転駆動する高速用モータと、上記低速用モータと上記高速用モータとの間に接離自在に介在するクラッチと、上記高速用モータと低速用モータとクラッチを駆動制御する制御部を備える業務用洗濯脱水機において、上記低速用モータには該低速用モータを駆動する電源周波数を変化させる低速用インバータを備え、上記高速用モータには該高速用モータを駆動する電源周波数を変化させる高速用インバータを備え、上記制御部は洗濯時に上記低速用モータが洗濯ドラムを低速で回転駆動し、洗濯が終了して脱水への切り替えに際し上記低速用モータの駆動を止め上記クラッチを切って上記高速用インバータを用いて高速用モータが上記洗濯ドラムを回転駆動することを特徴とする。
本発明によれば、洗濯から脱水へと切り替える際に、低速用モータから高速用モータへの切り替えがスムーズに行うことが可能となり、高速用モータの始動トルクと始動電流が小さくなって、モータのサイズと設定最大電流を小さくすることができる。
【0008】
また本発明の業務用洗濯脱水機は、制御部が、洗濯が終了して脱水への切り替えに際し低速用インバータにより低速用モータが洗濯時よりも高い回転数で洗濯ドラムを駆動してからクラッチを切って高速用モータが洗濯ドラムを回転駆動することを特徴とする。
これにより、洗濯ドラムの回転駆動が低速用モータから高速用モータにスムーズに切り替えすることができる。
【0009】
また本発明の業務用洗濯脱水機は、洗濯脱水機における洗濯ドラムを洗濯時に回転駆動する低速用モータと、上記洗濯ドラムを脱水時に回転駆動する高速用モータと、上記低速用モータと上記高速用モータとの間に接離自在に介在するクラッチと、上記高速用モータと低速用モータとクラッチを駆動制御する制御部を備える業務用洗濯脱水機において、上記制御部には、上記低速用モータと高速用モータを選択的に駆動する電源周波数を変化させる低速・高速兼用インバータを備え、上記制御部は洗濯時に上記低速・高速兼用インバータを用いて低速用モータが洗濯ドラムを低速で回転駆動し、洗濯が終了して脱水への切り替えに際し上記低速用モータの駆動を止め上記クラッチを切って上記低速・高速兼用インバータを用いて高速用モータが上記洗濯ドラムを回転駆動することを特徴とする。
これにより、低速用と高速用とで2つ必要であったインバータを1つにまとめることができ、装置の小型化、簡略化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の業務用洗濯脱水機の第1の実施例の動力連動を示す説明図である。
【
図2】本発明の業務用洗濯脱水機の第2の実施例の動力連動を示す説明図である。
【
図3】本発明の業務用洗濯脱水機における洗濯ドラムの回転変化を示す説明図である。
【
図4】従来の業務用洗濯脱水機の動力連動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る業務用洗濯脱水機を実施するための形態を詳細に説明する。
図1〜
図3は、本発明の実施の形態を例示する図であり、これらの図において、同一の符号を付した部分は同一物を表わし、基本的な構成及び機能は同様であるものとする。
【0012】
<構成>
図1は、本発明の業務用洗濯脱水機の第1の実施例の動力連動を示している。
業務用洗濯脱水機において被洗物を投入して洗濯・脱水する洗濯ドラム1は、減速用にベルトで連結されるプーリ大2とプーリ小3を介して高速用モータ4に連結され、この高速用モータ4は、主に脱水時に用いられ、制御部5の高速用インバータ6によって洗濯ドラム1を高速で回転駆動する。この高速用インバータ6は、高速用モータ4の実際の回転数をモニターしながら適正な回転数に駆動制御することができる。
そして高速用モータ4は、接離自在な2つのクラッチ板から構成されるクラッチ7の一方側に固定的に繋がっている。
【0013】
クラッチ7の他端側は、プーリ大8に繋がっており、このプーリ大8は、減速用にベルトによりプーリ小9に連結され、このプーリ小9はプーリ大10と同軸で一体的に組み合わされ、さらにプーリ大10はベルトによりプーリ小11に連結され、そしてプーリ小11は低速用モータ12に連結されている。低速用モータ12は、制御部5の低速用インバータ13によって回転駆動される。
【0014】
洗濯時に、制御部5の制御によりクラッチ7を「入」(駆動)にするとともに、低速用モータ12により洗濯ドラム1を駆動し(高速用モータ4は停止)、洗濯が終了して脱水工程に切り替える際に、制御部5の制御によりクラッチ7を「切」(空転)にすることにより、洗濯ドラム1の駆動を高速用モータ4に切り替える構造である。
【0015】
図2は、本発明の業務用洗濯脱水機の第2の実施例の動力連動を示している。前述した第1の実施例との相違点は、制御部に低速用インバータと高速用インバータを一体化させた低速・高速兼用インバータ14を設けたことである。
そもそも低速用インバータ13と高速用インバータ6とは、同時に動作することなく、別個に動作するものである。したがって、制御部5としてインバータを低速用・高速用の何れかに切り替えることにより、インバータ回路しては低速・高速兼用インバータ14を随時切り替えて使用すればよいものである。その他の部材については、上述した第1の実施例と同様である。
【0016】
<動作>
本発明の業務用洗濯脱水機の動作について、上記第1の実施例を例に以下に説明する。まず業務用洗濯脱水機の使用者は、洗濯工程から脱水工程への作業の流れを制御部5に入力し設定する。例えば、被洗物の種類、被洗物の重量、洗濯時間、そして脱水時間等である。
そして、制御部5の低速用インバータ13が低速用モータ12を回転駆動すると、プーリ小11、プーリ大10・プーリ小9、プーリ大8の順にベルト駆動で回転が減速され、その回転が繋がっているクラッチ7を介して非稼動の高速用モータ4、プーリ小3、プーリ大2の順にベルト駆動で回転が伝達され、最終的に洗濯ドラム1を高トルクで回転(回動、揺動)する。
【0017】
次に、制御部5で設定した洗濯時間が終了すると、制御部5は低速用インバータ13が低速用モータ12の駆動電源の供給を止め、クラッチ7を「切」(空転)にして高速用インバータ6により高速用モータ4を回転駆動する。
この際、洗濯ドラム1は、それまで低速用モータ12により駆動されていた回転を、クラッチ7が切れても慣性により惰性回転し続けている。そして、この状態で洗濯ドラム1を脱水用の高速回転で高速用モータ4を駆動させるに際して、高速用インバータ6は洗濯ドラム1の回転数(すなわち高速用モータ4の回転数)を検知した上で、洗濯ドラム1の回転にブレーキがかからないよう、かつ始動トルクが過大にならないような適正に制御して高速用モータ4を駆動するものである。
【0018】
さらに具体的に説明すると、
図3(a)に示すように、洗濯時に洗濯ドラム1は低速用モータ12の正転・反転の交互に繰り返しにより揺動している。この低速回転の加速度としては、0.5〜0.8G程度である。
そして、洗濯工程が終了して脱水工程に移行する際に、
図3(b)に示すように、脱水時のドラムの回転方向において、低速用インバータ13がその回転駆動性能を最大にして洗濯ドラム1を回転させた状態で、クラッチ7を「切」(空転)にするとともに低速用モータ12を電源断にし、それから高速用インバータ6が高速用モータ4を回転駆動するものである。
この洗濯ドラム1を低速用モータ12により比較的高速で回転させることにより、高速用モータ4での回転始動に繋げやすくするものであり、高速用インバータ6は高速用モータ4を駆動するための始動トルク及び駆動電流が少なくて済み、スムーズにモータ駆動の切り替えが行えるものである。
【0019】
以上、本発明の業務用洗濯脱水機について、具体的な実施の形態を示して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、上記実施形態における業務用洗濯脱水機の構成及び機能に様々な変更・改良を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の業務用洗濯脱水機は、業務用洗濯脱水機を製造する産業において利用することができるものである。
【符号の説明】
【0021】
1:洗濯ドラム
2:プーリ大
3:プーリ小
4:高速用モータ
5:制御装置
6:高速用インバータ
7:クラッチ
8:プーリ大
9:プーリ小
10:プーリ大
11:プーリ小
12:低速用モータ
13:低速用インバータ
14:低速・高速兼用インバータ