特許第6263079号(P6263079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263079
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 101/02 20060101AFI20180104BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20180104BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20180104BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20180104BHJP
【FI】
   C10M101/02
   C09K5/04 C
   C10N20:02
   C10N40:30
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-89615(P2014-89615)
(22)【出願日】2014年4月23日
(65)【公開番号】特開2015-209440(P2015-209440A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2016年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勉
(72)【発明者】
【氏名】今野 聡一郎
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−249326(JP,A)
【文献】 特表2013−506731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/02、105/06
C09K 5/04
C10N 30/00、 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラフィン系鉱油からなる炭化水素系基油を冷凍機油全量基準で80質量%以上含有し、120以下の粘度指数を有し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒と共に用いられる、冷凍機油。
【請求項2】
前記炭化水素系基油が120以下の粘度指数を有する、請求項1に記載の冷凍機油。
【請求項3】
前記炭化水素系基油が10〜75の%Cを有する、請求項1又は2に記載の冷凍機油。
【請求項4】
前記1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒がトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の冷凍機油。
【請求項5】
パラフィン系鉱油からなる炭化水素系基油を冷凍機油全量基準で80質量%以上含有し、120以下の粘度指数を有する冷凍機油と、
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒と、
を含有する、冷凍機用作動流体組成物。
【請求項6】
前記炭化水素系基油が120以下の粘度指数を有する、請求項5に記載の冷凍機用作動流体組成物。
【請求項7】
前記炭化水素系基油が10〜75の%Cを有する、請求項5又は6に記載の冷凍機用作動流体組成物。
【請求項8】
前記1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒がトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒である、請求項5〜7のいずれか一項に記載の冷凍機用作動流体組成物。
【請求項9】
パラフィン系鉱油からなる炭化水素系基油を含有する組成物の冷凍機油又は冷凍機用作動流体組成物への応用であって、
前記冷凍機油は、120以下の粘度指数を有し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒と共に用いられ、
前記冷凍機用作動流体組成物は、前記冷凍機油と1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒とを含有し、
前記炭化水素系基油が、前記冷凍機油全量基準で80質量%以上含有されている、応用。
【請求項10】
パラフィン系鉱油からなる炭化水素系基油の冷凍機油又は冷凍機用作動流体組成物の製造のための応用であって、
前記冷凍機油は、120以下の粘度指数を有し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒と共に用いられ、
前記冷凍機用作動流体組成物は、前記冷凍機油と1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒とを含有し、
前記炭化水素系基油が、前記冷凍機油全量基準で80質量%以上含有されている、応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物、炭化水素系基油を含有する組成物の冷凍機油又は冷凍機用作動流体組成物への応用、及び、炭化水素系基油の冷凍機油又は冷凍機用作動流体組成物の製造のための応用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のオゾン層破壊の問題から、冷凍機器の冷媒として従来使用されてきたCFC(クロロフルオロカーボン)及びHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)が規制の対象となり、これらに代わってHFC(ハイドロフルオロカーボン)が冷媒として使用されつつある。しかし、HFC冷媒のうち、カーエアコン用冷媒として標準的に用いられているHFC−134aは、オゾン破壊係数(ODP)がゼロであるものの地球温暖化係数(GWP)が高いため、欧州では規制の対象となっている。
【0003】
このような背景の下、オゾン層への影響が少なく且つGWPが低い冷媒の開発が急務となっている。例えば特許文献1には、ODP及びGWPが低い冷媒として、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd(E))冷媒が開示されている。
【0004】
ところで、従来のCFCやHCFCを冷媒とする場合は、冷凍機油として鉱油やアルキルベンゼンなどの炭化水素油が好適に使用されてきたが、冷凍機油は、共存する冷媒の種類によって冷媒との相溶性、潤滑性、冷媒との溶解粘度、熱・化学的安定性など予想し得ない挙動を示すため、冷媒ごとに冷凍機油の開発が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2010/077898号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd)冷媒との適合性に優れる冷凍機油、及び該冷凍機油を含有する冷凍機用作動流体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、炭化水素系基油を含有し、120以下の粘度指数を有し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒と共に用いられる、冷凍機油を提供する。
【0008】
また、本発明は、炭化水素系基油を含有し、120以下の粘度指数を有する冷凍機油と、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒と、を含有する、冷凍機用作動流体組成物を提供する。
【0009】
上記の炭化水素系基油は、120以下の粘度指数を有することが好ましい。
【0010】
上記の炭化水素系基油は、10〜75の%Cを有することが好ましい。
【0011】
上記の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒は、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、炭化水素系基油を含有する組成物の冷凍機油又は冷凍機用作動流体組成物への応用であって、冷凍機油は、120以下の粘度指数を有し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒と共に用いられ、冷凍機用作動流体組成物は、冷凍機油と1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒とを含有する、応用ともいえる。
【0013】
また、本発明は、炭化水素系基油の冷凍機油又は冷凍機用作動流体組成物の製造のための応用であって、冷凍機油は、120以下の粘度指数を有し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒と共に用いられ、冷凍機用作動流体組成物は、冷凍機油と1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒とを含有する、応用ともいえる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd)冷媒との適合性に優れる冷凍機油、及び該冷凍機油を含有する冷凍機用作動流体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る冷凍機油は、炭化水素系基油を含有し、120以下の粘度指数を有し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒と共に用いられる。
【0017】
また、本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物は、炭化水素系基油を含有し、120以下の粘度指数を有する冷凍機油と、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒と、を含有する。なお、本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物には、本実施形態に係る冷凍機油と、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒と、を含有する態様が包含される。
【0018】
炭化水素系基油としては、鉱油系炭化水素油、合成系炭化水素油、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0019】
鉱油系炭化水素油は、パラフィン系、ナフテン系などの原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤精製、水素化精製、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、白土処理、硫酸洗浄などの方法で精製することによって得ることができる。これらの精製方法は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
合成系炭化水素油としては、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリα−オレフィン(PAO)、ポリブテン、エチレン−α−オレフィン共重合体などが挙げられる。
【0021】
アルキルベンゼンとしては、冷凍システムの長期信頼性の面から、下記のアルキルベンゼン(A)及び/又はアルキルベンゼン(B)であることが好ましい。
アルキルベンゼン(A):炭素数1〜19のアルキル基を1〜4個有し、かつそのアルキル基の合計炭素数が9〜19であるアルキルベンゼン(より好ましくは、炭素数1〜15のアルキル基を1〜4個有し、かつアルキル基の合計炭素数が9〜15であるアルキルベンゼン)。
アルキルベンゼン(B):炭素数1〜40のアルキル基を1〜4個有し、かつそのアルキル基の合計炭素数が20〜40であるアルキルベンゼン(より好ましくは、炭素数1〜30のアルキル基を1〜4個有し、かつアルキル基の合計炭素数が20〜30であるアルキルベンゼン)。
【0022】
アルキルベンゼン(A)が有する炭素数1〜19のアルキル基としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(すべての異性体を含む)、ブチル基(すべての異性体を含む)、ペンチル基(すべての異性体を含む)、ヘキシル基(すべての異性体を含む)、ヘプチル基(すべての異性体を含む)、オクチル基(すべての異性体を含む)、ノニル基(すべての異性体を含む)、デシル基(すべての異性体を含む)、ウンデシル基(すべての異性体を含む)、ドデシル基(すべての異性体を含む)、トリデシル基(すべての異性体を含む)、テトラデシル基(すべての異性体を含む)、ペンタデシル基(すべての異性体を含む)、ヘキサデシル基(すべての異性体を含む)、ヘプタデシル基(すべての異性体を含む)、オクタデシル基(すべての異性体を含む)、ノナデシル基(すべての異性体を含む)、エイコシル基(すべての異性体を含む)等が挙げられる。これらのアルキル基は、直鎖状であっても分枝状であってもよいが、安定性、粘度特性等の点から分枝状アルキル基であることが好ましく、特に入手可能性の点から、プロピレン、ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基であることがより好ましい。
【0023】
アルキルベンゼン(A)中のアルキル基の個数は1〜4個であるが、安定性、入手可能性の点から1個又は2個のアルキル基を有するアルキルベンゼン、すなわちモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、又はこれらの混合物が最も好ましく用いられる。
【0024】
アルキルベンゼン(A)としては、単一の構造のアルキルベンゼンだけでなく、炭素数1〜19のアルキル基を1〜4個有し、かつアルキル基の合計炭素数が9〜19であるという条件を満たすアルキルベンゼンであれば、異なる構造を有するアルキルベンゼンの混合物であってもよい。
【0025】
アルキルベンゼン(B)が有する炭素数1〜40のアルキル基としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(すべての異性体を含む)、ブチル基(すべての異性体を含む)、ペンチル基(すべての異性体を含む)、ヘキシル基(すべての異性体を含む)、ヘプチル基(すべての異性体を含む)、オクチル基(すべての異性体を含む)、ノニル基(すべての異性体を含む)、デシル基(すべての異性体を含む)、ウンデシル基(すべての異性体を含む)、ドデシル基(すべての異性体を含む)、トリデシル基(すべての異性体を含む)、テトラデシル基(すべての異性体を含む)、ペンタデシル基(すべての異性体を含む)、ヘキサデシル基(すべての異性体を含む)、ヘプタデシル基(すべての異性体を含む)、オクタデシル基(すべての異性体を含む)、ノナデシル基(すべての異性体を含む)、イコシル基(すべての異性体を含む)、ヘンイコシル基(すべての異性体を含む)、ドコシル基(すべての異性体を含む)、トリコシル基(すべての異性体を含む)、テトラコシル基(すべての異性体を含む)、ペンタコシル基(すべての異性体を含む)、ヘキサコシル基(すべての異性体を含む)、ヘプタコシル基(すべての異性体を含む)、オクタコシル基(すべての異性体を含む)、ノナコシル基(すべての異性体を含む)、トリアコンチル基(すべての異性体を含む)、ヘントリアコンチル基(すべての異性体を含む)、ドトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、トリトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、テトラトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、ペンタトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、ヘキサトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、ヘプタトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、オクタトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、ノナトリアコンチル基(すべての異性体を含む)、テトラコンチル基(すべての異性体を含む)等が挙げられる。これらのアルキル基は、直鎖状であっても分枝状であってもよいが、安定性、粘度特性等の点から分枝状アルキル基であることが好ましく、特に入手可能性の点から、プロピレン、ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基であることがより好ましい。
【0026】
アルキルベンゼン(B)中のアルキル基の個数は1〜4個であるが、安定性、入手可能性の点から1個又は2個のアルキル基を有するアルキルベンゼン、すなわちモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、又はこれらの混合物が最も好ましく用いられる。
【0027】
アルキルベンゼン(B)としては、単一の構造のアルキルベンゼンだけでなく、炭素数1〜40のアルキル基を1〜4個有し、かつアルキル基の合計炭素数が20〜40であるという条件を満たすアルキルベンゼンであれば、異なる構造を有するアルキルベンゼンの混合物であってもよい。
【0028】
アルキルベンゼンの製造方法は任意であり、何ら限定されるものでないが、一般に以下に示す合成法を用いることができる。
【0029】
原料となる芳香族化合物としては、具体的には例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、ジエチルベンゼン、及びこれらの混合物等が用いられる。またアルキル化剤としては、具体的には例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン等の低級モノオレフィン、好ましくはプロピレンの重合によって得られる炭素数6〜40の直鎖状又は分枝状のオレフィン;ワックス、重質油、石油留分、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱分解によって得られる炭素数6〜40の直鎖状又は分枝状のオレフィン;灯油、軽油等の石油留分からn−パラフィンを分離し、これを触媒によりオレフィン化することによって得られる炭素数6〜40の直鎖状オレフィン;及びこれらの混合物等が使用できる。
【0030】
アルキル化の際のアルキル化触媒としては、塩化アルミニウム、塩化亜鉛等のフリーデルクラフツ型触媒;硫酸、リン酸、ケイタングステン酸、フッ化水素酸、活性白土等の酸性触媒;等の公知の触媒が用いられる。
【0031】
炭化水素系基油の粘度指数は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒との相溶性の観点から、好ましくは120以下、より好ましくは115以下、更に好ましくは110以下、特に好ましくは105以下、最も好ましくは100以下である。潤滑性の観点から、炭化水素系基油の粘度指数は、好ましくは−50以上、より好ましくは−40以上、更に好ましくは−30以上である。
【0032】
炭化水素系基油の40℃における動粘度は、好ましくは1〜500mm/s、より好ましくは10〜120mm/s、更に好ましくは20〜80mm/sである。また、炭化水素系基油の100℃における動粘度は、好ましくは1〜30mm/s、より好ましくは2〜12mm/s、更に好ましくは5〜10mm/sである。炭化水素系基油の動粘度が上記の範囲内であると、潤滑性を維持できるため好ましい。
【0033】
本発明における40℃及び100℃における動粘度並びに粘度指数は、それぞれJIS K2283:2000「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0034】
炭化水素系基油の%Cは、冷凍機油の安定性及び潤滑性の観点から、好ましくは25〜90、より好ましくは35〜70、更に好ましくは40〜60である。
【0035】
炭化水素系基油の%CNは、冷凍機油の安定性及び相溶性の観点から、好ましくは10〜75、より好ましくは20〜70、更に好ましくは40〜60である。
【0036】
炭化水素系基油の%Cは、冷凍機油の相溶性及び安定性の観点から、好ましくは0〜45、より好ましくは1〜30、更に好ましくは5〜10である。
【0037】
本発明における%C、%C及び%Cとは、それぞれASTM D3238−95(2010)に準拠した方法(n−d−M環分析)により測定される値を意味する。
【0038】
炭化水素系基油の硫黄分は、冷凍機油の安定性の観点から、好ましくは8000質量ppm以下、より好ましくは200質量ppm以下、更に好ましくは20質量ppm以下である。本発明における硫黄分とは、JIS K2541−6:2003「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」で規定される紫外蛍光法によって測定される値を意味する。
【0039】
炭化水素系基油の窒素分は、冷凍機油の安定性の観点から、好ましくは200質量ppm以下、より好ましくは100質量ppm以下、更に好ましくは50質量ppm以下である。本発明における窒素分とは、JIS K2609:1998「原油及び石油製品−窒素分試験方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0040】
炭化水素系基油の含有量は、潤滑性、相溶性、熱・化学的安定性、電気絶縁性など冷凍機油に要求される特性に優れるためには、冷凍機油全量基準で80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。
【0041】
本実施形態に係る冷凍機油は、必要に応じて更に各種添加剤を含有していてもよい。係る添加剤としては、酸捕捉剤、酸化防止剤、極圧剤、油性剤、消泡剤、金属不活性化剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、摩擦調整剤、防錆剤などが挙げられる。なお、添加剤の含有量は、冷凍機油全量基準で、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
冷凍機油は、上記の添加剤の中でも、熱・化学的安定性をより向上させる観点から、酸捕捉剤を更に含有することが好ましい。酸捕捉剤としては、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物が例示される。
【0043】
エポキシ化合物としては、特に制限されないが、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、オキシラン化合物、アルキルオキシラン化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステル、エポキシ化植物油などが挙げられる。これらのエポキシ化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、n−ブチルフェニルグリシジルエーテル、i−ブチルフェニルグリシジルエーテル、sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ペンチルフェニルグリシジルエーテル、ヘキシルフェニルグリシジルエーテル、ヘプチルフェニルグリシジルエーテル、オクチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、デシルフェニルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ウンデシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、トリデシルグリシジルエーテル、テトラデシルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロルプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールモノグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0045】
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、グリシジルベンゾエート、グリシジルネオデカノエート、グリシジル−2,2−ジメチルオクタノエート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートを挙げることができる。
【0046】
脂環式エポキシ化合物とは、下記一般式(10)で表される、エポキシ基を構成する炭素原子が直接脂環式環を構成している部分構造を有する化合物である。
【化1】
【0047】
脂環式エポキシ化合物としては、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロペンタン、3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、エキソ−2,3−エポキシノルボルナン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)−スピロ(1,3−ジオキサン−5,3’−[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、4−(1’−メチルエポキシエチル)−1,2−エポキシ−2−メチルシクロヘキサン、4−エポキシエチル−1,2−エポキシシクロヘキサンを挙げることができる。
【0048】
アリルオキシラン化合物としては、1,2−エポキシスチレン、アルキル−1,2−エポキシスチレンを挙げることができる。
【0049】
アルキルオキシラン化合物としては、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシトリデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシペンタデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシヘプタデカン、1,1,2−エポキシオクタデカン、2−エポキシノナデカン、1,2−エポキシイコサンを挙げることができる。
【0050】
エポキシ化脂肪酸モノエステルとしては、エポキシ化された炭素数12〜20の脂肪酸と、炭素数1〜8のアルコール又はフェノールもしくはアルキルフェノールとのエステルを挙げることができる。エポキシ化脂肪酸モノエステルとしては、エポキシステアリン酸のブチル、ヘキシル、ベンジル、シクロヘキシル、メトキシエチル、オクチル、フェニルおよびブチルフェニルエステルが好ましく用いられる。
【0051】
エポキシ化植物油としては、大豆油、アマニ油、綿実油等の植物油のエポキシ化合物を挙げることができる。
【0052】
カルボジイミド化合物としては、特に制限されないが、例えばジアルキルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ビス(アルキルフェニル)カルボジイミドを用いることができる。ジアルキルカルボジイミドとしては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド等を挙げることができる。ビス(アルキルフェニル)カルボジイミドとしては、ジトリルカルボジイミド、ビス(イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(ブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(ジブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(ノニルフェニル)カルボジイミド等を挙げることができる。
【0053】
また、冷凍機油は、上記の添加剤の中でも、摩耗防止剤を更に含有することが好ましい。好適な摩耗防止剤としては、例えばリン酸エステル、チオリン酸エステル、スルフィド化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛が挙げられる。リン酸エステルの中でも、トリフェニルフォスフェート(TPP)、トリクレジルフォスフェート(TCP)が好ましい。チオリン酸エステルの中でも、トリフェニルホスフォロチオネート(TPPT)が好ましい。スルフィド化合物としては、多種あるが、冷凍機油の安定性を確保し、冷凍機器内部に多く使用されている銅の変質を抑制できる点から、モノスルフィド化合物が好ましい。
【0054】
また、冷凍機油は、上記の添加剤の中でも、酸化防止剤を更に含有することが好ましい。酸化防止剤としては、ジ−tert.ブチル−p−クレゾール等のフェノール系化合物、アルキルジフェニルアミン等のアミン系化合物などが挙げられる。特に、冷凍機油は、酸化防止剤としてフェノール系化合物を、冷凍機油全量基準で0.02〜0.5質量%含有することが好ましい。
【0055】
また、冷凍機油は、上記の添加剤の中でも、摩擦調整剤、極圧剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤を更に含有することが好ましい。摩擦調整剤としては、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族イミド、アルコール、エステル、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩などが挙げられる。極圧剤としては、硫化オレフィン、硫化油脂などが挙げられる。防錆剤としては、アルケニルコハク酸のエステル又は部分エステルなどが挙げられる。金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体などが挙げられる。消泡剤としては、シリコーン化合物、ポリエステル化合物などが挙げられる。
【0056】
冷凍機油中の基油の含有量は、潤滑性、相溶性、熱・化学的安定性、電気絶縁性など冷凍機油に要求される特性に優れるためには、冷凍機油全量基準で80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。
【0057】
冷凍機油の粘度指数は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒との相溶性の観点から、120以下であり、好ましくは115以下、より好ましくは110以下、更に好ましくは105以下、特に好ましくは100以下である。潤滑性の観点から、冷凍機油の粘度指数は、好ましくは−50以上、より好ましくは−40以上、更に好ましくは−30以上である。
【0058】
冷凍機油の動粘度は特に限定されないが、40℃における動粘度は、好ましくは3〜1000mm/s、より好ましくは4〜500mm/s、最も好ましくは5〜400mm/sとすることができる。また、100℃における動粘度は好ましくは1〜100mm/s、より好ましくは2〜50mm/sとすることができる。
【0059】
冷凍機油の体積抵抗率は特に限定されないが、好ましくは1.0×10Ω・m以上、より好ましくは1.0×1010Ω・m以上、最も好ましくは1.0×1011Ω・m以上とすることができる。特に、密閉型の冷凍機用に用いる場合には高い電気絶縁性が必要となる傾向にある。なお、本発明において、体積抵抗率とは、JIS C2101:1999「電気絶縁油試験方法」に準拠して測定した25℃での値を意味する。
【0060】
冷凍機油の水分含有量は特に限定されないが、冷凍機油全量基準で、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは300ppm以下、最も好ましくは100ppm以下とすることができる。特に密閉型の冷凍機用に用いる場合には、冷凍機油の熱・化学的安定性や電気絶縁性への影響の観点から、水分含有量が少ないことが求められる。
【0061】
冷凍機油の酸価は特に限定されないが、冷凍機又は配管に用いられている金属への腐食を防止するため、及び本実施形態に係る冷凍機油に含有されるエステルの分解を防止するため、好ましくは1.0mgKOH/g以下、より好ましくは0.5mgKOH/g以下、最も好ましくは0.1mgKOH/g以下とすることができる。なお、本発明において、酸価とは、JIS K2501:2003「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」に準拠して測定した酸価を意味する。
【0062】
冷凍機油の灰分は特に限定されないが、本実施形態に係る冷凍機油の熱・化学的安定性を高めスラッジ等の発生を抑制するため、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下とすることができる。なお、本発明において、灰分とは、JIS K2272:1998「原油及び石油製品−灰分及び硫酸灰分試験方法」に準拠して測定した灰分の値を意味する。
【0063】
上記の炭化水素系基油を含有する組成物、及び上記の炭化水素系基油と上記の各種添加剤とを含有する組成物は、120以下の粘度指数を有し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒と共に用いられる冷凍機油の構成成分として、又は当該冷凍機油と1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒とを含有する冷凍機用作動流体組成物の構成成分として好適に用いられる。
【0064】
上記の炭化水素系基油及び上記の各種添加剤は、120以下の粘度指数を有し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒と共に用いられる冷凍機油又は当該冷凍機油と1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン冷媒とを含有する冷凍機用作動流体組成物の製造に好適に用いられる。
【0065】
本実施形態に係る冷凍機油は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd)冷媒と共に用いられる。また、本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd)冷媒を含有する。1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd)は、シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd(Z))、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd(E))、及びこれらの混合物のいずれであってもよい。
【0066】
本実施形態に係る冷凍機油と共に用いる冷媒、及び本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物が含有する冷媒は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd)に加えて、飽和フッ化炭化水素冷媒、不飽和フッ化炭化水素冷媒などの公知の冷媒を更に含有していてもよい。1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd)の含有量は、冷媒雰囲気下における冷凍機油の安定性の観点からは、冷媒全量基準で、90質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましく、40質量%以下であることが特に好ましく、20質量%以下であることが最も好ましい。また、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd)の含有量は、GWP低減の観点からは、冷媒全量基準で、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることが最も好ましい。
【0067】
飽和フッ化炭化水素冷媒としては、ジフルオロメタン(HFC−32)、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、フルオロエタン(HFC−161)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、及び1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の混合物が例示される。これらの中でも、冷媒雰囲気下における冷凍機油の安定性及びGWP低減の観点から、ジフルオロメタン(HFC−32)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)が好ましい。
【0068】
不飽和フッ化炭化水素冷媒としては、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ye)、及び3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の混合物が例示される。これらの中でも、冷媒雰囲気下における冷凍機油の安定性及びGWP低減の観点から、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)が好ましい。
【0069】
冷凍機用作動流体組成物における冷凍機油と冷媒との配合割合は、特に制限されないが、冷媒100質量部に対して冷凍機油が好ましくは1〜500質量部、より好ましくは2〜400質量部とすることができる。
【0070】
本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物は、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有するルームエアコン、冷蔵庫、あるいは開放型又は密閉型のカーエアコンに好ましく用いられる。また、本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物及び冷凍機油は、除湿機、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷却装置等に好ましく用いられる。さらに、本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物及び冷凍機油は、遠心式の圧縮機を有するものにも好ましく用いられる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
基油1〜10として、以下に示す炭化水素油を用意した。基油1〜10の性状を表1,2に示す。
基油1:ナフテン原油からの減圧留出油をフルフラール抽出、水素化精製により精製した基油
基油2:パラフィン原油からの減圧留出油をフルフラール抽出により精製した基油
基油3:ナフテン原油からの減圧留出油をフルフラール抽出、水素化精製により精製した基油
基油4:パラフィン原油からの減圧留出油をフルフラール抽出、水素化分解により精製した基油
基油5:分岐型アルキルベンゼンA
基油6:分岐型アルキルベンゼンB
基油7:直鎖型アルキルベンゼン
基油8:石油系ワックスを水素化分解・異性化処理し、得られた基油
基油9:ポリα−オレフィン
基油10:パラフィン原油からの減圧留出油をフルフラール抽出、水素化精製により精製した基油
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
基油1〜10と以下に示す添加剤とを用いて、表3,4に示す組成の冷凍機油を調製した。
添加剤1:グリシジルネオデカノエート
添加剤2:トリフェニルホスホロチオエート
添加剤3:トリクレジルホスフェート
添加剤4:2,6−ジ−tert.−ブチル−p−クレゾール
【0076】
各冷凍機油について、以下に示す冷媒相溶性試験を行った。結果を表3,4に示す。
【0077】
(冷媒相溶性試験)
JIS K2211:2009「冷凍機油」の「冷媒との相溶性試験方法」に準拠して、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd(E))冷媒10gに対して冷凍機油を10g配合し、冷媒と冷凍機油とが0℃において相互に溶解しているかを観察した。表中、冷媒と冷凍機油とが−10℃において相互に溶解しているものを「相溶」、分離しているものを「分離」と記した。
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】