特許第6263080号(P6263080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263080
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】金属空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
   H01M12/06 A
   H01M12/06 G
   H01M12/06 B
   H01M12/06 D
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-91023(P2014-91023)
(22)【出願日】2014年4月25日
(65)【公開番号】特開2015-210910(P2015-210910A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2016年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】小出 和也
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/150520(WO,A1)
【文献】 特開2010−073338(JP,A)
【文献】 特開2014−022345(JP,A)
【文献】 実開昭51−121722(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に電解液を介して対向する空気極と金属極とを備える金属空気電池において、
前記筐体内に、前記電解液が移動して電池反応を中断可能な待避部を設け、前記筐体の上下を反転した場合に、重力の作用により前記電解液が前記空気極と前記金属極との間から流出して前記待避部に流入することを特徴とする金属空気電池。
【請求項2】
筐体内に電解液を介して対向する空気極と金属極とを備える金属空気電池において、
前記筐体内に、前記金属極が移動して電池反応を中断可能な待避部を設け、前記金属極を前記待避部に向けてスライド自在に支持するスライド支持部を設けたことを特徴とする金属空気電池。
【請求項3】
前記空気極と前記金属極とを含む閉回路を選択的に形成する回路を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属空気電池。
【請求項4】
前記閉回路を流れる積算電流値を検出する積算電流検出部を設けたことを特徴とする請求項3に記載の金属空気電池。
【請求項5】
前記電解液は水系であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の金属空気電池。
【請求項6】
前記電解液の容積は、前記筐体の容積の30%以上、70%以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の金属空気電池。
【請求項7】
前記筐体内で発生したガスを排出するガス排出口が前記筐体の上部又は下部の少なくともいずれかに設置されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の金属空気電池。
【請求項8】
前記筐体内に、前記筐体の上下の反転により生じる電解液の流れの流速を下げる流速低減部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の金属空気電池。
【請求項9】
前記金属極はマグネシウム極であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気極と金属極とを備える金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
天災時や風水害時及びAC電源の入手困難な環境で、食塩水や水等を注入すると発電可能な金属空気電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、陽極を構成するMnO2空気電極と、その電極に対向され金属MgあるいはMg合金の陰極と、その陽極と陰極との間に介装されるセパレータと、空気導入多孔質シートと、水溶性紙に内蔵された電解質を有する電解質袋と、から構成される携帯用マグネシウム・空気電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−256547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の金属空気電池は、電解液を注入して反応が始まると反応を止めることができない。このため、電池容量全ては必要ないが、少しの電力が必要となった場合でも、電解液を注入して反応が始まると、反応を止めることができず、必要過多の電力が無駄になってしまう。
再び電力を取り出そうとしても、電力を使い切った後で取り出せないという事態が生じ、再び使いたいときは、新しい電池を用意しなければならなかった。
【0005】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、電池反応を中断させることができる金属空気電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明は、筐体内に電解液を介して対向する空気極と金属極とを備える金属空気電池において、前記筐体内に、前記電解液が移動して電池反応を中断可能な待避部を設け、前記筐体の上下を反転した場合に、重力の作用により前記電解液が前記空気極と前記金属極との間から流出して前記待避部に流入することを特徴とする。
この構成によれば、筐体を上下に反転させる、という容易な作業で電池反応を中断させることができる。
【0007】
また、本発明は、筐体内に電解液を介して対向する空気極と金属極とを備える金属空気電池において、前記筐体内に、前記金属極が移動して電池反応を中断可能な待避部を設け、前記金属極を前記待避部に向けてスライド自在に支持するスライド支持部を設けたことを特徴とする。
この構成によれば、金属極を容易に待避部に移動させて電池反応を容易に中断させることができる。
【0008】
前記空気極と前記金属極とを含む閉回路を選択的に形成する回路を備えるようにしても良い。この構成によれば、空気極と金属極とを含む閉回路を形成して金属空気電池の負極(金属極)表面に形成された不動態皮膜を除去し、負極(金属極)表面をリフレッシュさせることができ、電池反応を再開させ易くなる。
【0009】
前記閉回路を流れる積算電流値を検出する積算電流検出部を設けるようにしても良い。この構成によれば、金属空気電池の負極(金属極)表面に形成された不導体皮膜を除去し、負極(金属極)表面をリフレッシュできたか否かを判断可能な情報を得ることができる。この場合、前記積算電流検出部は、検出した積算電流値に応じて回路を開回路にするようにしても良い。この構成によれば、開回路に切り替えるためのユーザー操作を不要にすることができ、且つ、放電電力のロスを低減することができる。
【0010】
また、前記電解液は水系が好ましい。この構成によれば、重力を利用して容易かつ迅速に電解液を移動させることができる。
また、前記電解液の容積は、前記筐体の容積の30%以上、70%以下が好ましい。30%未満であると、マグネシウム極と反応する面積が少なくなって、取り出せる電池容量が少なくなる。また、70%より多いと、電解液が注入されない退避部の空間が少なくなって、電解液又はマグネシウム極を移動させたとしても、電池反応を中断させることができなくなる。この構成によれば、電解液を待避部に待避可能にしつつ電池の体積エネルギー密度を確保することができる。
【0011】
また、前記筐体内で発生したガスを排出するガス排出口が前記筐体の上部又は下部の少なくともいずれかに設置されるようにしても良い。この構成によれば、電池反応中や電池反応中断中にガスを排出させることができる。
また、前記筐体内に、前記筐体の上下の反転により生じる電解液の流れの流速を下げる流速低減部材を設けるようにしても良い。この構成によれば、電解液が勢い良く移動することによる金属極等の悪影響を抑えることができる。
【0012】
また、前記金属極はマグネシウム極であっても良い。この構成によれば、マグネシウム空気電池において、電池反応を中断させることが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電池反応を中断させることができる金属空気電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係るマグネシウム空気電池を示す斜視図である。
図2】上下に反転させたときのマグネシウム空気電池を示す斜視図である。
図3】マグネシウム空気電池を周辺回路と共に示した図である。
図4】マグネシウム空気電池の変形例の説明に供する図である。
図5】第2実施形態に係るマグネシウム空気電池を示す斜視図である。
図6】上下に反転させたときのマグネシウム空気電池を示す斜視図である。
図7】(A)は第3実施形態に係るマグネシウム空気電池を模式的に示した図であり、(B)はマグネシウム極を移動した状態を模式的に示した図である。
図8】(A)は抵抗放電回路を用いた変形例を示した図であり、(B)は抵抗放電回路の具体例を示した図である。
図9】変形例の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の金属空気電池の第1実施形態に係るマグネシウム空気電池10の斜視図である。
マグネシウム空気電池10は、図1に示すように、合成樹脂等の剛性材料で形成された縦長中空構造の筐体(外装体)11を備え、筐体11外に露出する空気極13と、空気極13と対向するように筐体11内に収容されるマグネシウム極(金属極)15とを備えている。本構成のマグネシウム空気電池10は、空気極13が正極として作用し、マグネシウム極15が負極として作用する一次電池である。
【0016】
図1に示す前後左右、及び、上下の各方向は、マグネシウム空気電池10を電池として使用するときの各方向に対応し、以下の説明に使用する各方向と同じである。
筐体11は、上下(鉛直方向)に延びる直方体形状であり、上下長の次に前後長が長く、左右長が最も短い箱型に形成されている。詳述すると、この筐体11は、左右一対の側板11L、11Rと、各側板11L、11Rの前縁間を塞ぐ前板11Aと、各側板11L、11Rの後縁間を塞ぐ後板11B、各側板11L、11Rの上縁間を塞ぐ上板11Cと、各側板11L、11Rの下縁間を塞ぐ底板11Dとを一体的に備える。なお、ここでは前後左右の水平方向については、後述する空気極13に連結される正極端子18と、マグネシウム極15に連結される負極端子19とが前方向に設けられている。
【0017】
側板11L、11Rは、この筐体11の中で最も大きい面を構成している。一方の側板(本構成では左側板)11Lの下側には開口部が形成されると共に、その内側にこの開口部に対応する位置に開口部16Aを有する板部材(空気極側パネル)16を介して空気極13が取り付けられ、他方の側板(本構成では右側板)11Rには、支持部材17を介してマグネシウム極15が取り付けられる。
【0018】
空気極13は、板部材16の開口部16Aからマグネシウム極15側に露出し、露出部分がマグネシウム極15と対向する。空気極13とマグネシウム極15とは、各側板11L、11Rに平行に取り付けられてその離間距離は一定に保たれている。図1に示す電池使用状態では各正・負極板13、15は垂直方向に配置されている。
【0019】
マグネシウム極15を支持する支持部材17には、右側板11Rから左側板11Lに向けて突出する一対の支持板17Aが用いられる。一対の支持板17Aは、図1に示す状態で、前後に間隔を空けて配置されるとともに上下に延びる板部材であり、マグネシウム極15の両端部を、空気極13と平行に支持する。
この一対の支持板17Aは、マグネシウム極15を、右側板11Rから離れた位置にフローティング支持することにより、マグネシウム極15を右側板11Rに接着等で直接取り付ける場合よりも空気極13に近づけて支持する。
これによって、マグネシウム極15と空気極13との離間距離が小さくなり、後述する放電反応の際に比較的高い電圧を確保し易くなる。
【0020】
また、一対の支持板17A間には上下に連続する隙間が形成されるので、筐体11内に電解液30を注入した状態で筐体11を上下に反転させた場合に、支持板17Aが電解液30の上下方向の流れを妨げない。
なお、正・負極板13、15間の離間距離が適正範囲内であれば、上記支持板17Aを用いずに、マグネシウム極15を右側板11Rに接着等で直接取り付ける構成にしても良い。
【0021】
前板11Aには、空気極13に連結される正極端子18と、マグネシウム極15に連結される負極端子19とが図示しないガスケット等を介して液密に貫通するように設けられ、これら正・負極端子18、19を介して電力が外部に出力される。
上板11Cには、上下に貫通する貫通孔部21が設けられるとともに、この筐体11を図1に示す電池使用状態から上下に反転させた姿勢(後述する図2)で立設させるための複数(本構成では4本)の足部22が設けられる。
この貫通孔部21は、筐体11内に電解液30を注入したり、後述する放電反応によって筐体11内に生じたガス(本構成では水素ガス)を排出したりするためのガス排出口等に使用され、この貫通孔部21を塞ぐ蓋体(例えば、シリコンキャップ)23が着脱自在に設けられる。
【0022】
底板11Dには、上下に貫通する貫通孔部31が設けられるとともに、筐体11を図1に示す使用状態で立設させるための複数(本構成では4本)の足部32が設けられる。
この貫通孔部31は、筐体11を図1に示す使用状態から上下に反転させた姿勢(後述する図2)のときに筐体11内に生じたガスを排出するためのガス排出口等に使用され、貫通孔部31を塞ぐ蓋体(例えば、シリコンキャップ)33が着脱自在に設けられる。
また、この貫通孔部31を、電解液30を注入するときの電解液注入口としても使用することが可能である。なお、図1に示す例では、筐体11を左右半割構造で形成し、内部に空気極13やマグネシウム極15を組み込んだ後に互いを溶着等で接合する組立構造にした場合を示している。
【0023】
空気極13は、空気極本体(不図示)と、絶縁性多孔質シート(不図示)と、網状支持体(不図示)とを積層して一体に形成され、左側板11Lに設けられた開口部16Aを有する板部材16を介して外に露出するとともに、マグネシウム極15側にも露出する。
空気極本体は、所定粘度に調整された導電材料スラリーを集電体に塗布した後に焼成して形成される。具体的には、導電材料としてケッチェンブラック粉末を用い、これに触媒として白金を担持させ、水と攪拌混合する。その後、これらをバインダーとして用いられるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水性分散液に投入し、攪拌混合することにより所定の粘度の導電材料スラリーを調合する。そして、このスラリーを厚さ1.1mmの発泡ニッケルからなる集電体に塗布した後、100℃で乾燥し、270℃で焼成して、空気極本体となる。前記空気極本体の周囲は予めコイニングされ、その一部に前方向に延出する正極端子18が接続されている。
【0024】
絶縁性多孔質シートは、酸素を透過させ、水分の透過を抑制する撥水性を備える孔径5〜40μmの多孔質膜である。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる多孔性のシートが用いられ、この絶縁性多孔質シートを2枚重ねて、焼成した空気極本体の外へ露出する一方の面に同時に圧着している。
網状支持体は、ステンレススチール製のエキスパンドメタルで形成された幅0.6mmのストランドで、縦1.7mm、横2.2mmの網目を持つ目の細かいものである。網状支持体は、圧着した絶縁性多孔質シートの外側の面に配置され、空気極本体の周囲と共にその周囲を結着材で結着される。なお、この構成に限らず、開口部を持つ2枚の合成樹脂性パネルで空気極13を挟み込む様にして取り付けても良い。これによって、空気極13は、外部の空気をマグネシウム空気電池10の内部に通気可能とし、内部の電解液30は外部に透過不能な非透水性を有する。
【0025】
マグネシウム極15は、所定の組成のマグネシウム合金、又は、マグネシウムを板状にして形成される。マグネシウム空気電池10を使用する場合には、空気極13とマグネシウム極15との間に、マグネシウム極15からマグネシウムイオンが溶出可能な水系の電解液30が充填される。
電解液30は、アニオンとして塩化物イオンを含み、カチオンとしてアルカリ金属イオン(Li,Na,K,Rb,Cs,Fr)、アルカリ土類金属イオン(Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra)の少なくとも1つを含む水溶液が用いられる。本実施形態では、電解液30として、安全性及び導電性の高い点からナトリウムイオンを含む塩化ナトリウム水溶液(濃度10%程度)が用いられるが、特にこれに限定されない。
【0026】
マグネシウム極15は、マグネシウムが96%、アルミニウムが3%、亜鉛が1%のASTM規格のAZ31、又は、AZ61、AZ91等が用いられる。なお、ASTM規格によるものに限らず、公知のMg−Al−Zn系合金を用いても良い。また、アルミニウム及び亜鉛以外の元素を添加しても良く、例えば、Si,Cu,Li,Na,K,Fe,Ni,Ti,Zr等の他の元素を添加しても良い。
【0027】
このように構成されるマグネシウム空気電池10は、空気極13では絶縁性多孔質シートを通して供給される酸素と電解液30に空気極本体が接触することにより、正極反応が進行し、マグネシウム極15では負極反応が進行し、放電が行われる。この場合の反応は以下の通りである。
【0028】
(空気極)O2+2H2O+4e−→4OH−
(マグネシウム極)
マグネシウムの発電反応:Mg+2OH−→Mg(OH)2+2e−
マグネシウムの自己放電:Mg+2H2O→Mg(OH)2+H2
【0029】
ところで、このマグネシウム空気電池10は、図1に示すように、筐体11を上下に2分割したときの一方の空間(図1中、境界Kを境にした下方空間)SA内に、空気極13及びマグネシウム極15を対向配置し、他方の空間(退避部)SBには正・負極板13、15等を配置していない。
そして、電池として使用する場合には、筐体11の容積の30%以上、70%以下に相当する量の電解液30が筐体11内に注入される。ここで、図1では、筐体11の容積の50%に相当する量の電解液30が注入された場合を示している。
このため、図1に示すように、筐体11の底板11Dに設けられた足部32を使用して筐体11を立設させた状態、つまり、空気極13及びマグネシウム極15を有する一方の空間SAが他方の空間SBより下方に位置した状態では、空気極13とマグネシウム極15とが電解液30に浸かる。これによって、上記の放電反応(電池反応)を行うことができる。
【0030】
ここで、図2は、筐体11を上下に反転させたときのマグネシウム空気電池10を示している。
上下に反転させた場合、筐体11の上板11Cに設けられた足部22を使用することによって、上下に反転した姿勢で筐体11を立設させることができる。
この場合、空気極13とマグネシウム極15が収容される一方の空間SAが、他方の空間SBよりも上方に位置するため、重力の作用により電解液30が空間SAから流出して他方の空間SB内に流入し、電解液30を空気極13とマグネシウム極15との間から待避させることができる。このため、上記の放電反応(電池反応)を行うことができなくなり、放電反応を中断させることができる。
すなわち、ユーザーがマグネシウム空気電池10を把持し、上下に反転させることによって、電解液30を、電池反応を中断可能な待避部として機能する空間SBに容易に移動させることができ、容易に電池反応を中断させることができる。
【0031】
以上の構成により、本構成のマグネシウム空気電池10は、まず、内部に電解液30が存在しない状態で保管することによって長期に渡って保管することができる。そして、ユーザーが電池として使用したいときに、電解液30を筐体11に注入することによって上記放電反応を開始させ、電力を取り出すことができる(図1の状態)。
この図1の状態では、上板11C及び底板11Dに設けられた蓋体23、33のうち、上側に位置する蓋体23を外すことによって、放電反応によって筐体11内に発生するガス(本構成では水素ガス)を上方に排出することができる。これによって、内部ガスによる正・負極板13、15や筐体11等への悪影響を回避することができる。
【0032】
ユーザーが電池容量全てを取り出す前に反応を止めたい場合には、マグネシウム空気電池10を上下に反転させることによって、図2に示すように、電解液30を空間SBに待避させ、放電反応を容易に中断させることができる。この図2の状態(電池不使用状態)では、正・負極板13、15と電解液30とが接触しないので、マグネシウム極15の自己放電や空気極13の劣化を抑えることが可能である。
なお、この図2に示す状態の場合、上下一対の蓋体23、33のうち、上側に設けられた蓋体(底板11Dに設けられた蓋体)33を外すことによって、上下反転後であっても、内部に残留するガス(水素ガス)や、正・負極板13、15間に残留する電解液30の影響で発生するガス(水素ガス)を上方に排出することができる。これによって、放電反応を中断した状態が継続しても、内部ガスによる正・負極板13、15や筐体11等への悪影響を回避することができる。
【0033】
その後、ユーザーが電池を使用したときに、マグネシウム空気電池10を上下に反転させることにより、重力の作用により電解液30が空間SBから流出して空間SA内に流入するので(図1の状態)、放電反応を容易に再開させることができる。
【0034】
このようにして、このマグネシウム空気電池10は、昼間は携帯電話等の充電に使用し、夜間は上下反転させて保管し、翌日の昼間、再び上下反転させて携帯電話等の充電に使用する、といった使い方が可能となる。
また、本構成では、図1に示すように、一対の支持板17A間に上下に連続する隙間が形成されているので、マグネシウム空気電池10を上下にひっくり返す場合に、支持板17Aが電解液30の流れを妨げない。また、マグネシウム極15及び空気極13側が垂直に配置されているので、マグネシウム空気電池10を上下にひっくり返す場合に、これら正・負極板15、13についても電解液30の流れを妨げない。従って、本構成では、空間SA、SB間の電解液30の流れを円滑化することが可能であり、空間SAに残留する電解液30を低減し、電池反応を迅速に中断させることが可能である。
【0035】
また、本構成では、図1に示すように、電池使用状態において、マグネシウム極15と底板11Dとの間に隙間ができるようにマグネシウム極15を配置したので、放電反応により生成される生成物(本構成ではMg(OH)2:水酸化マグネシウム)が底板11Dに堆積した場合でも、その影響を避けて放電反応を継続することができる。
【0036】
続いて、マグネシウム空気電池10の周辺回路を説明する。
図3は、マグネシウム空気電池10を周辺回路と共に示した図である。
図3では、複数のマグネシウム空気電池10を直列に接続し、両端のマグネシウム極15と空気極13とにDC−DC変換装置(電力変換装置)125が接続される。DC−DC変換装置125は、直流電力を異なる直流電力に変換する変換回路126を備える。これによって、電池反応により出力された直流電力は、携帯電話の充電等に適した直流電力に変換されて出力される。
【0037】
すなわち、DC−DC変換装置125は、利用側の機器に合わせた電力に変換する電力変換装置として機能する。従って、例えば、利用側の機器が、携帯電話よりも高い電流値又は電圧値を要求する機器の場合には、DC−DC変換装置125を変更することによって容易に対応可能である。また、このDC−DC変換装置125が、出力電力を様々な電力に切り替える切替機能を具備するように構成しても良い。また、電池反応により得られる電力が大きい場合には、交流電力に変換するDC−AC変換装置を具備するように構成しても良い。なお、複数のマグネシウム空気電池10を特に区別して説明する必要がない場合、組電池10Aと表記する。
【0038】
一般に、マグネシウムは反応性が高い材質であるため、自己放電が生じやすい。
本構成では、マグネシウム合金を用いることにより、電池反応で発生する酸化物(例えば、亜鉛酸化物)によって、マグネシウム極15の表面に自己放電を阻害し水素の発生を抑制する不動態皮膜(保護被膜とも言う)を形成し、自己放電反応を抑制することができる。
【0039】
しかしながら、発明者等の検討によると、不動態皮膜が電池反応(発電反応)も阻害することがあり、電池反応を中断させた後、電池反応を再開させようとしたときに、微弱な電流を取り出すことができるが、これより大きい電流を取り出すことが難しい場合があった。また、放電の際に下限電圧の設定がある場合には、対応できないおそれがある。特に、亜鉛が添加されているときに、電流を取り出せない事態が生じ易かった。
そこで、本構成では、マグネシウム極15と空気極13との間に、開閉式の短絡回路131を設けている。この開閉式の短絡回路131は、直列接続されたマグネシウム空気電池10の両端のマグネシウム極15と空気極13との間に接続され、ユーザーが手動で開閉可能な手動式のスイッチ(いわゆる手動スイッチ)に構成されている。
【0040】
この開閉式の短絡回路131を開から閉へと切り替えることにより、全てのマグネシウム空気電池10の極板15、13を含む閉回路、つまり、全てのマグネシウム空気電池10を短絡させる閉回路が形成される。これによって、各マグネシウム空気電池10に一時的に比較的大きな電流を強制的に流し、マグネシウム極15の表面に形成された不動態皮膜を電解液中に溶解させ、フレッシュな金属表面を露出させることができる。
【0041】
従って、電池反応を中断させた後に、マグネシウム空気電池10を上下にひっくり返し、開閉式の短絡回路131を開から閉へと一時的に切り替えることにより、マグネシウム空気電池10を簡単にリフレッシュさせることができ、電池反応を再開させ易い状態に戻すことができる。
このため、リフレッシュ後に短絡回路131を閉から開へと戻すことにより、電池反応を再開させることができ、十分な電流を直ぐに出力可能となる。これによって、マグネシウム空気電池10の出力側に利用側機器を接続すれば、その利用側機器の駆動や充電に適した電力を直ぐに供給することが可能になる。
なお、全てのマグネシウム空気電池10を直列接続させた状態で短絡させるため、個々のマグネシウム空気電池10毎に開閉式の短絡回路131を設ける場合に比して、大電流を流し易くなるとともに、部品点数を削減可能である。
【0042】
また、開閉式の短絡回路131は、図3に示すように、DC−DC変換装置125内に設けられている。このため、DC−DC変換装置125の外装体等を利用して短絡回路131を収容可能であり、短絡回路131専用の外装体等を不要にすることができる。また、短絡回路131は、組電池10Aのマグネシウム極15と空気極13との間に介挿される構成であるため、短絡回路131を備えない従来のマグネシウム空気電池に、短絡回路131を容易に追加可能である。
しかも、同図3に示すように、短絡回路131を、変換回路126の入力側(マグネシウム空気電池10側)に設けているので、短絡回路131を閉に切り替えた場合にできる閉回路上に変換回路が存在せず、その分、閉回路中の抵抗を小さくすることができる。従って、効率良く大電流(短絡電流)を流すことができ、マグネシウム空気電池10を効率良くリフレッシュさせることができる。
【0043】
また、DC−DC変換装置125内に短絡回路131を備えるので、DC−DC変換装置125を取り外せば、短絡回路131も取り外すことができ、短絡回路131の着脱が容易である。従って、短絡回路131の交換・点検等のメンテナンス作業も容易に行い易くなる。
【0044】
以上説明したように、このマグネシウム空気電池10では、筐体11内に、電解液30が移動して電池反応を中断可能な待避部となる空間SBを設けたので、電池反応を容易に中断させることができる。
しかも、筐体11の上下を反転した場合に、重力の作用により電解液30が空気極13とマグネシウム極15との間から流出して空間SBに流入するので、筐体11を上下に反転させる、という容易な作業で電池反応を中断させることができる。また、再び上下を反転することによって、電解液30を空間SBから空気極13とマグネシウム極15との間に容易に移動させることもでき、容易な作業で電池反応を再開させることができる。
【0045】
また、本実施形態は、通気性を有する空気極13を備えるため、電池反応を中断させた場合に、図2に示すように、空気極13が電解液30に触れないようにすることができ、電池反応により生じたガス(本構成では水素ガス)を空気極13を通して外部に排出することができる。このため、貫通孔部31の蓋体33を外さない場合でも、電池反応中断時の内圧を大気圧程度に抑えることができ、内圧上昇を原因とする保管時の不具合を抑えることができる。
また、電解液30は、水系であるため、重力を利用して容易かつ迅速に電解液30を移動させることができる。
【0046】
電解液30の容積は、図1の状態で空気極13とマグネシウム極15との間に電解液30が存在し、上下に反転した場合(図2)に、空気極13とマグネシウム極15との間に待避する条件を満たすようにすれば、電池反応の開始/停止を切り替え可能である。一方、外装体である筐体11の容積に対して電解液30が少ないと、電池の体積エネルギー密度が小さくなってしまい、好ましくない。
本構成では、上記条件を満たす範囲で、電解液30の容積を筐体11の容積の30%以上、70%以下に規定することにより、電池の体積エネルギー密度を確保することができる。
【0047】
さらに、本構成では、筐体11内で発生したガスを排出するガス排出口となる貫通孔部21、31が、筐体11の上部と下部とに設置されるので、電池反応中、及び、電池反応中断中のいずれの状態でも、ガスを排出させることができる。
また、本構成は、マグネシウム極15を支持する支持部材17(一対の支持板17A)に上下に連続する隙間を有し、且つ、マグネシウム極15及び空気極13が垂直方向に沿って配置されるため、支持部材17、マグネシウム極15及び空気極13が電解液30の流れを妨げない。従って、マグネシウム極15と空気極13との間に残留する電解液30を低減し、電池反応を迅速に中断させることが可能である。
【0048】
また、本構成では、負極を構成するマグネシウム極15と正極を構成する空気極13とを含む閉回路を選択的に形成する回路である開閉式の短絡回路131を備えるので、マグネシウム極15の不動態皮膜の影響等により電池を休止後に電池反応を再開し難くなる場合でも、電池反応を再開させ易くなるとともに、比較的大きい電流を取り出し易くなる。
しかも、この短絡回路131は、組電池10Aのマグネシウム極15と空気極13との間に設ければ良く、簡易に設けることができる。従って、部品点数の増大や装置の大型化を抑えることができ、コストアップを抑え易くなる。
また、この開閉式の短絡回路131は、手動式のスイッチで構成されるため、これによっても、簡易に構成でき、且つ、ユーザーが操作し易い。
【0049】
また、図4に示すように、このマグネシウム空気電池10の筐体11内の電解液界面付近に、孔が開いた仕切り板(流速低減部材)35を設けるようにしても良い。この仕切り板35を設けることにより、筐体11を上下に反転させた際に電解液30の流速を下げることができ、電解液30が勢い良く移動することによるマグネシウム極15の損傷等の悪影響を抑えることができる。
より具体的には、図4の例では、筐体11を上下に2分割する位置(空間SA、SBの境界位置)に、複数の孔を有する仕切り板35を延在させて配置している。これにより、筐体11を上下に反転させたときに電解液30の流れを仕切り板35で抑えながら仕切り板35の孔を通過させて他方の空間SB(退避部)に流入させ、電解液30の流速が抑えられる。
【0050】
上記構成では、電解液界面付近に、流速を下げる仕切り板35を設けているため、上下に反転した際に電解液30の全てが仕切り板35を通過し、仕切り板35により電解液30の流速を効率良く抑えることができる。また、仕切り板35に設ける孔径の調整により、電解液30の流速の調整も容易である。
なお、マグネシウム極15等への悪影響を十分に抑えることが可能な範囲で、仕切り板35を小型にしたり、仕切り板35の位置を変更したりしても良い。また、孔が開いた仕切り板35を用いる方法に限らず、電解液30の流速を下げることが可能な他の流速低減部材を広く適用可能である。
【0051】
<第2実施形態>
図5及び図6は、第2実施形態に係るマグネシウム空気電池10を示しており、図5は電池使用状態を示し、図6は上下に反転して電池反応を中断させた状態(電池不使用状態)を示している。また、第2実施形態に係るマグネシウム空気電池10も、第1実施形態と同様のDC−DC変換装置(電力変換装置)125を備えている。なお、第1実施形態と同様の構成は、同一の符号を付して重複する説明は省略する。
第2実施形態のマグネシウム空気電池10は、合成樹脂等の剛性材料で形成された横長中空構造の筐体(外装体)11を備え、筐体11外に露出する空気極13と、空気極13と対向するように筐体11内に収容されるマグネシウム極(金属極)15とが底板11Dと平行(水平)に配置されている。また、筐体11の前板11Aに、空気極13に連結される正極端子18と、マグネシウム極15に連結される負極端子19が設けられている。
【0052】
なお、空気極13は、第1実施形態と同様に、空気極本体(不図示)と、絶縁性多孔質シート(不図示)と、網状支持体(不図示)とを積層して一体に形成され、底板11Dに設けられた開口部(不図示)を有する板部材16を介して外に露出するとともに、マグネシウム極15側にも露出する。また、この空気極本体の外へ露出する一方の面に、酸素を透過させ、水分の透過を抑制する撥水性を備える絶縁性多項シートを2枚重ねて圧着して、底板11Dから漏水することがないように構成されている。
【0053】
図5及び図6に示すように、筐体11は、前後(水平方向)に延びる直方体形状であり、前後長の次に左右長が長く、上下長(鉛直方向)が最も短い箱型に形成されている。詳述すると、この筐体11は、上下一対の側板11L、11Rと、各側板11L、11Rの前縁間を塞ぐ前板11Aと、各側板11L、11Rの後縁間を塞ぐ後板11B、各側板11L、11Rの上縁間を塞ぐ上板11Cと、各側板11L、11Rの下縁間を塞ぐ底板11Dとを一体的に備える。上板11Cと底板11Dが最も大きい面を構成しており、底板11Dには、空気極13が筐体11の内外に露出するように取り付けられるとともに、支持部材17を介してマグネシウム極15が取り付けられる。
【0054】
支持部材17は、上下に延びる複数(本構成では4個)の円柱部材17Bを有し、底板11Dとマグネシウム極15の角部との間に各々介挿され、ネジ等の締結部材によって底板11Dとマグネシウム極15とに連結される。この円柱部材17Bによって底板11Dとマグネシウム極15との離間距離が決定されるので、空気極13とマグネシウム極15との離間距離を一定の設定値に容易に設定可能である。
【0055】
このマグネシウム極15の支持構造によれば、マグネシウム極15を上板17Cに接着等で直接取り付ける場合よりも空気極13に近づけて配置することができ、放電反応の際に比較的高い電圧を確保し易くなる。
また、これら円柱部材17Bは、前後左右に間隔を空けて配置されるので、水平方向(前後方向及び左右方向)に連続する隙間が形成され、電解液30の前後左右の流れを妨げない。
なお、正・負極板13、15間の離間距離が適正範囲内であれば、上記支持部材17(円柱部材17B)を用いずに、マグネシウム極15を底板17Dに接着等で直接取り付ける構成にしても良い。
【0056】
上板11Cには、上下に貫通する貫通孔部21が設けられるとともに、この筐体11を図4に示す電池使用状態から上下に反転させた姿勢(図5)で立設させるための複数(本構成では4本)の足部22が設けられる。
また、図6に示すように、底板11Dには、空気極13を避けた領域に上下に貫通する貫通孔部31が設けられるとともに、筐体11を図5に示す使用状態で立設させるための複数(本構成では4本)の足部32が設けられる。
また、貫通孔部21、31には、蓋体(例えば、シリコンキャップ)23、33が着脱自在に設けられている。
【0057】
図5に示すように、このマグネシウム空気電池10は、筐体11を上下に2分割したときの一方の空間(図5中、境界Kを境にした下方空間)SA内に、空気極13及びマグネシウム極15を対向配置し、他方の空間(退避部)SBには正・負極板13、15等を配置していない。
そして、電池として使用する場合には、筐体11の容積の30%以上、70%以下に相当する量の電解液30が筐体11内に注入される。ここで、図5では、筐体11の容積の40%に相当する量の電解液30が注入された場合を示している。
【0058】
図5に示す状態では、空気極13とマグネシウム極15とを有する空間SA内に電解液30が溜まるので、放電反応(電池反応)を行うことができる。
図5に示す状態では空気極13が下側に配置されており、空気極13が床や地面に密着すると空気の取り込みが阻害されるおそれが考えられるが、本構成では、足部32によって、空気極13が床等から離間して配置し、空気を十分に取り込めるようにしている。このため、適切に放電反応を行うことができる。
一方、図5に示す状態から上下に反転することにより、重力により電解液30が空気極13とマグネシウム極15との間から流出して空間SB(退避部)に流入する。このため、図6に示すように、電解液30が空気極13とマグネシウム極15との間(空間SA)に電解液30が存在せず、放電反応を行うことができない。
従って、図5に示す状態から上下に反転して図6に示す状態にすることにより、放電反応を中断させることができる。
【0059】
以上説明したように、第2実施形態のマグネシウム空気電池10においても、筐体11内に、上下の反転により電解液30が移動して電池反応を中断可能な待避部となる空間SBを設けたので、第1実施形態と同様に、電池反応を中断させることが可能である、といった各種の効果を得ることができる。また、このマグネシウム空気電池10も、短絡回路131を有するDC−DC変換装置125を備えるため、マグネシウム極15の不動態皮膜の影響等により電池を休止後に電池反応を再開し難くなる場合でも、電池反応を再開させ易くなる。
また、本構成では、マグネシウム極15を支持する支持部材17(円柱部材17B)に水平方向(前後方向及び左右方向)に連続する隙間を空けている。このため、筐体11が水平方向に延びる中空構造であるために支持部材17間に上下に連続する隙間を形成困難な構成であっても、上下に反転したときに支持部材17が電解液30の流れを妨げない。従って、マグネシウム極15と空気極13との間に残留する電解液30を低減し、電池反応を迅速に中断させることが可能である。
【0060】
また、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、マグネシウム空気電池10の筐体11内の電解液界面付近に、孔が開いた仕切り板(流速低減部材)35(図3参照)を設け、この仕切り板35によって、筐体11を上下に反転させた際の電解液30の流速を下げるようにしても良い。また、仕切り板35以外の他の流速低減部材を用いても良いことは勿論である。
【0061】
<第3実施形態>
図7(A)及び図7(B)は、第3実施形態に係るマグネシウム空気電池10を模式的に示した図である。また、第3実施形態に係るマグネシウム空気電池10も、上記実施形態と同様のDC−DC変換装置(電力変換装置)125を備えている。なお、上記実施形態と同様の構成は同一の符号を付して示し、重複する説明は省略する。また、図7(A)及び図7(B)に示す各方向は、図1に示す前後左右、及び、上下の各方向と同じである。
このマグネシウム空気電池10は、マグネシウム極15を下方の空間SAと上方の空間SB(退避部)との間に移動自在に支持するスライド支持部47を有している。
より具体的には、このスライド支持部47は、筐体11と同様合成樹脂等の合成樹脂で形成されており、右側板11R及び左側板11Lから筐体11内部に向けて突出する一対の支持板47Aを有し、これら支持板47Aに上下の空間SA、SBに渡って連続し、マグネシウム極15を上下にスライド自在にするスライド溝47Bが形成されている。
【0062】
このスライド構造により、図7(A)に示すように、マグネシウム極15を電解液30が貯留される下方の空間SAに移動したり、図7(B)に示すように、マグネシウム極15を電解液30が存在しない上方の空間SB(退避部)に移動したりすることができる。
なお、本実施形態では、スライド溝47Bが上方に開放する溝に形成され、マグネシウム極15がスライド溝47Bの下端に当接することにより、下方の空間SA内にマグネシウム極15を位置決めすることができる。
また、一対のスライド溝47Bには、マグネシウム極15を上方の空間SB内に仮支持するための突起状の仮支持部材49が設けられる。本実施形態では、仮支持部材49は、スライド支持部47に一体に設けられ、スライド溝47Bの幅を狭めるように突出する形状に形成されている。
【0063】
この仮支持部材49は、ネオプレン、ポリウレタン等の比較的柔らかいスポンジ状の弾性部材で形成されており、下方の空間SA内に位置するマグネシウム極15よりも上方に設けられ、マグネシウム極15を上方に移動させる場合に、弾性変形によりマグネシウム極15から待避してマグネシウム極15の空間SBへの移動を妨げない。一方、仮支持部材49は、マグネシウム極15が通過した後に弾性変形により元の形状に復元し、その上にマグネシウム極15が載置されることにより、マグネシウム極15を上方の空間SB内に保持する。
【0064】
これによって、ユーザーは、マグネシウム極15を上方に移動させるだけでマグネシウム極15を上方の空間SB内に保持させ、放電反応を中断させることができる。
なお、放電反応を再開したい場合には、ユーザーは、マグネシウム極15を下方に向けて若干強く移動させることにより、仮支持部材49が弾性変形によりマグネシウム極15から待避し、マグネシウム極15を下方の空間SAに容易に移動させることができる。これにより、放電反応を容易に再開することもできる。
【0065】
なお、本実施形態では、マグネシウム極15のタブ部15Aを上方に延ばすとともに、タブ部15Aの上方に接続され、筐体11の上板11Cに液密に貫通する負極端子19を設け、負極端子19と一体にマグネシウム極15を上下に移動させるように構成している。この負極端子19は、図示しないガスケット等を介して筐体11の上板11Cに固定されている。
【0066】
具体的には、電池反応を中断させるために、マグネシウム極15を電解液30が存在しない上方の空間SB(退避部)に移動する場合には、負極端子19をつまんで上方へ持ち上げることで、マグネシウム極15を上方に移動させることができる。
また、電池反応を再開させるために、マグネシウム極15を電解液30が貯留される下方の空間SAに移動する場合には、上方へ引き出した負極端子19の先端を下方に押し下げることで、マグネシウム極15を下方に移動させることができる。
電池反応を中断させるためにマグネシウム極15を上下に移動させる場合にユーザーが操作する操作部は、本実施形態では負極端子15を兼用しているが、これとは別に独立した専用の操作部を別途設けることが好ましい。専用の操作部として、材料を絶縁性を有する部材で形成したり、位置を操作しやすい場所に形成したりすることで、マグネシウム極15の上下動の操作性等に優れた操作部とすることが可能である。
【0067】
以上説明したように、本実施形態のマグネシウム空気電池10では、筐体11内に、マグネシウム極(金属極)15が移動して電池反応を中断可能な待避部となる空間SBを設けたので、マグネシウム極15を移動させることによって電池反応を容易に中断させることが可能である。
しかも、マグネシウム極15を空間SBに向けてスライド自在に支持するスライド支持部47を設けるようにしたので、マグネシウム極15の空間SBへの移動を容易に行うことができる。また、第1及び第2実施形態の上下に反転する構成と比べて、上板11Cに足部22(図1図2図4図6)を設ける必要がなく、底板11Dに貫通孔部31及び蓋体33(図1図2図4図6)を設ける必要がない、というメリットが得られる。
また、このマグネシウム空気電池10においても、電解液30の容積を筐体11の容積の30%以上、70%以下に規定することにより、電池の体積エネルギー密度を確保することができる。
【0068】
以上、本発明を実施するための形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
例えば、上記各実施形態において、筐体11を直方体形状に形成する場合を説明したが、筐体11の形状は適宜に変更しても良く、空気極13やマグネシウム極15の形状も適宜に変更しても良い。また、第3実施形態のスライド支持部47についても、公知のスライド機構を広く適用することができ、また、スライド機構以外の移動機構を用いて、マグネシウム極15を移動自在に設けるようにしても良い。
【0069】
また、上記第1及び第2実施形態では、ガス排出口となる貫通孔部21、31を上板11C、底板11Dに設ける場合を説明したが、ガスを排出可能な範囲で筐体11の上部、下部に設けるようにすれば良く、位置変更しても良い。また、ガス排出口を3個以上設けるようにしても良い。
【0070】
また、上記第1及び第2実施形態では、筐体11の上下を完全に反転させることによって電池反応を中断させているが、上下を完全に反転させなくても、つまり、回転角度が180度以外であっても、電池反応を中断させることができる。
例えば、150度回転させた場合も、空気極13とマグネシウム極15を有する空間SAが、他方の空間SBよりも上方になるので、電解液30を空間SBに流入させて電池反応を中断させることができる。厳密には、90度を超えて回転させれば、空間SAが空間SBよりも上方になるので、電解液30を空間SBに流入させて電池反応を中断させることができる。従って、電池反応を中断させるための筐体11の上下の反転は180度以外を含んでも良い。
【0071】
また、第1及び第2実施形態では、上下の反転により電解液30が移動して電池反応を中断させる構成を説明し、第3実施形態では、マグネシウム極15を移動させて電池反応を中断させる構成を説明したが、両構成を具備するようにしても良い。この場合、上下の反転により電池反応を中断させたり、上下を反転させずに電池反応を中断させたりすることができる。つまり、本発明は、電解液30又はマグネシウム極15の少なくともいずれかを移動して電池反応を中断可能にすれば良い。
【0072】
また、上記の各実施形態では、本発明をマグネシウム空気電池10に適用する場合を説明したが、これに限らず、筐体11内に電解液30を介して対向する空気極13と金属極とを備える公知の金属空気電池に広く適用が可能である。
例えば、金属極に亜鉛、鉄、アルミニウム等の金属又はその合金を用いることが可能である。金属極に亜鉛を用いた場合は、電解液30に水酸化カリウム水溶液を用いるようにすれば良く、金属極に鉄を用いた場合は、電解液30にアルカリ系水溶液を用いるようにすれば良い。また、金属極にアルミニウムを用いた場合は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを含む電解液30を用いるようにすれば良い。
【0073】
また、上記の各実施形態では、筐体11内に電解液30を注入する場合を説明したが、これに限らず、マグネシウム極15から金属イオン(マグネシウムイオン)が溶出可能な電解液30に含まれる電解質を、不織布又は織布からなる非水溶性の袋体に包んで筐体11内(好ましくは、電解液注入口の真下)に予め入れてあり、前記筐体11内に水を注ぎ入れることによって電池として作動するようにすることもできる。例えば、マグネシウム空気電池の場合は、好ましくは電解質に塩化ナトリウムが用いられる。
【0074】
また、上記の各実施形態では、短絡回路131をDC−DC変換装置125の組電池10A側に設ける場合を説明したが、短絡回路131をDC−DC変換装置125の出力側に設けるようにしても良いし、DC−DC変換装置125外に設けるようにしても良い。つまり、短絡回路131の位置は適宜に変更しても良い。
また、上記の各実施形態の短絡回路131については公知の構成を広く適用することができる。例えば、図8(A)に示すように、抵抗とスイッチとで構成される開閉式の抵抗放電回路133を適用し、この抵抗放電回路133のスイッチを開から閉へと一時的に切り替えることによって、組電池10Aを含む閉回路を形成するようにしても良い。
【0075】
図8(B)は、この抵抗放電回路133にサーキットプロテクタスイッチ133Sを適用した具体例を示している。サーキットプロテクタスイッチ133Sは、スイッチ133Sを開から閉と切り替えた場合にできる閉回路を流れる電流値が予め定めた閾値を超えると、スイッチ開となるスイッチであり、サーキットプロテクタとも称する。
サーキットプロテクタスイッチ133Sを使用することにより、電流値が許容電流以下に設定された所定値を超える前に自動的にスイッチ開にすることができ、回路の保護等を図り易くなる。また、スイッチ開にする操作を不要にすることができるとともに、無断に放電しなくて良いので、放電電力のロスも低減することもできる。また、サーキットプロテクタスイッチ33Sは広く流通する部品であるため、コストアップ低減にも有利である。
【0076】
なお、図8(A)及び図8(B)では、抵抗放電回路133(サーキットプロテクタスイッチ133Sを含む)を、DC−DC変換装置125の組電池10A側に設ける場合を説明したが、抵抗放電回路133をDC−DC変換装置125の出力側に設けるようにしても良いし、DC−DC変換装置125外に設けるようにしても良い。つまり、抵抗放電回路133の位置は適宜に変更しても良い。
また、上記の各実施形態において、DC−DC変換装置125を備えないようにしても良い。この場合でも、組電池10Aのマグネシウム極15と空気極13の間に、開閉式の短絡回路131(抵抗放電回路133を含む)を設けることにより、電池反応を再開させ易くなる、等の上記実施形態と同様の各種効果を得ることができる。
【0077】
また、図9に示すように、組電池10Aのマグネシウム極15と空気極13の間に、積算電流検出部135を設けるようにしても良い。積算電流検出部135は、マグネシウム空気電池10を含む閉回路を流れる電流値を積算して積算電流値を検出する機能と、積算電流値に応じて短絡回路131をスイッチ開に切り替える自動スイッチ機能とを備えている。
積算電流値を検出することにより、マグネシウム空気電池10をリフレッシュできたか否かを判断可能な情報を得ることができる。自動スイッチ機能においては、例えば、マグネシウム空気電池10をリフレッシュさせるのに十分な積算電流値に至ると、短絡回路131をスイッチ開に切り替えるように予め閾値が設定される。これによって、積算電流値が閾値に至ると自動的に開回路に切り替わり、リフレッシュ動作を終了させることができる。従って、開回路に切り替えるためのユーザー操作を不要にすることができ、且つ、放電電力のロスを低減することができる。積算電流検出部135についても公知の構成を広く適用可能である。
【0078】
また、組電池10Aのマグネシウム極15と空気極13の間に、時間検出部を設けるようにしても良い。時間検出部は、閉回路にしてからの経過時間を検出(測定)する機能と、検出した経過時間に応じて短絡回路131をスイッチ開に切り替える自動スイッチ機能とを備えている。
経過時間を検出することにより、マグネシウム空気電池10をリフレッシュできたか否かを判断可能な情報を得ることができる。自動スイッチ機能においては、例えば、マグネシウム空気電池10をリフレッシュさせるのに十分な経過時間に至ると、短絡回路131をスイッチ開に切り替えるように予め閾値が設定される。これによって、経過時間が閾値に至ると自動的に開回路に切り替わり、適切なタイミングでリフレッシュ動作を終了させることができる。従って、開回路に切り替えるためのユーザー操作を不要にすることができ、且つ、放電電力のロスを低減することができる。時間検出部についても公知の構成を広く適用可能である。
【0079】
また、上記の各実施形態では、複数のマグネシウム空気電池10を直列接続する場合を説明したが、これに限らず、並列接続しても良いし、一個のマグネシウム空気電池10に、DC−DC変換装置125、短絡回路131を適宜に設けた構成にしても良い。
また、上記の実施形態では、アルミニウムと亜鉛を添加したマグネシウム極15を備えるマグネシウム空気電池10に本発明を適用する場合を説明したが、これに限らず、少なくとも亜鉛を添加したMg−Zn系合金のマグネシウム空気電池に本発明を適用しても良い。
さらに、亜鉛を含まないマグネシウム極を備える金属空気電池や、マグネシウム以外の金属極を備える金属空気電池であっても、本発明を適用しても良い。要は、金属極の素材等により休止後に電池反応の再開が困難になるおそれのある金属空気電池に、本発明を広く適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
10 マグネシウム空気電池(金属空気電池)
11 筐体(外装体)
13 空気極(正極)
15 マグネシウム極(金属極、負極)
21、31 貫通孔部(ガス排出口、電解液注入口)
30 電解液
35 仕切り板(流速低減部材)
47 スライド支持部(スライド機構)
125 DC−DC変換装置(電力変換装置)
131 短絡回路
133 抵抗放電回路
135 積算電流検出部
SA 空間
SB 空間(待避部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9