(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記鉄化合物担持酸化チタンが、平均短径50nm以下、平均アスペクト比(長径/短径)1.5以上の鉄化合物担持酸化チタンである請求項1記載の暗所用抗微生物剤。
前記結晶性ルチル型酸化チタンが、結晶面(110)及び結晶面(111)を有するルチル型酸化チタン、及び/又は、結晶面(110)、結晶面(111)及び結晶面(001)を有するルチル型酸化チタンである請求項1又は2記載の暗所用抗微生物剤。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の暗所用抗微生物剤は、結晶性ルチル型酸化チタンに遷移金属化合物が担持された遷移金属化合物担持酸化チタンを含む。
【0017】
[遷移金属化合物担持酸化チタン]
本発明における遷移金属化合物担持酸化チタンは、結晶性ルチル型酸化チタンに遷移金属化合物が担持されたものである。
【0018】
結晶性ルチル型酸化チタンとしては、結晶性を有するルチル型の酸化チタンであればよい。ルチル型酸化チタン粒子の主な露出結晶面としては、例えば、(110)(001)(111)(011)面等を挙げることができる。ルチル型酸化チタン粒子としては、例えば、(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子、(110)(011)面を有するルチル型酸化チタン粒子、(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子、(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子が好ましい。なお、前記(111)面と(001)面は酸化反応面であり、(110)面は還元反応面である。
【0019】
前記遷移金属化合物としては、周期表第3〜第11族元素化合物が挙げられ、なかでも周期表第8〜第11族元素化合物が好ましく、特に好ましくは鉄化合物又は白金化合物、最も好ましくは三価の鉄化合物(Fe
3+)である。三価の鉄化合物(Fe
3+)は二価の鉄化合物(Fe
2+)と比べて酸化チタンに吸着しやすいという特性を有する。
【0020】
遷移金属化合物は、例えば、遷移金属イオン、遷移金属単体、遷移金属塩、遷移金属酸化物、遷移金属水酸化物、又は遷移金属錯体の状態で担持される。遷移金属化合物の担持量(重量基準)としては、遷移金属化合物担持酸化チタン全体に対して、例えば50ppm以上、好ましくは100ppm以上、さらに好ましくは200ppm以上、特に好ましくは300ppm以上、最も好ましくは500ppm以上である。遷移金属化合物の担持量の上限は、例えば5000ppm程度、好ましくは3000ppm、さらに好ましくは2000ppmである。遷移金属化合物の担持量が上記範囲にあると、暗所において、広範囲の微生物に対し、高い抗微生物活性を発現する。遷移金属化合物の担持量は、例えば、ICP−AES法により求めることができる。
【0021】
前記遷移金属化合物は、結晶性酸化チタンの表面に面選択的に担持されることが好ましく、特に、酸化反応面に選択的に遷移金属化合物が担持されていることが好ましい。なお、遷移金属化合物が「面選択的に」担持とは、担持されている遷移金属化合物全量の50%を超える量(重量基準)(好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上)が結晶性酸化チタンの2面以上の結晶面のうち、全ての面ではなく、特定の面(例えば、特定の1面又は2面等)に担持されていることをいう。なお、面選択率の上限は100%である。面選択性は、透過型電子顕微鏡(TEM)やエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を使用し、各結晶面上の遷移金属化合物由来のシグナルを確認することで判定することができる。
【0022】
本発明における遷移金属化合物担持酸化チタンの形状、大きさは特に限定されないが、暗所における抗微生物活性の点で、形状は棒状又は針状が好ましく、平均短径は50nm以下が好ましく、平均アスペクト比(長径/短径)は1.5以上であるのが好ましい。
【0023】
遷移金属化合物担持酸化チタンの平均短径は、より好ましくは5〜40nm、特に好ましくは5〜30nm、最も好ましくは10〜25nmである。
【0024】
また、遷移金属化合物担持酸化チタンの平均アスペクト比(長径/短径)は、より好ましくは1.5〜100、さらに好ましくは1.5〜50、特に好ましくは1.5〜20、最も好ましくは2〜15である。
【0025】
なお、前記平均短径、及び平均アスペクト比は下記調製方法で得られたサンプルについて、下記測定方法で求めた値である。
<サンプル調製方法>
1.少量(耳かきサイズのスパチュラで半分程度)の遷移金属化合物担持酸化チタンを9mLのガラス製サンプル瓶に入れ、エタノールを7mL入れ、超音波洗浄器にて超音波を5分間かけてエタノール中に分散させエタノール分散液を得る。
2.得られたエタノール分散液を、SEM用試料台の上にガラス製スポイドで1滴落として自然乾燥させた後、30秒間白金蒸着を行う。
<測定方法>
電界放出型走査電子顕微鏡(商品名「FE-SEM JSM-6700F」、日本電子(株)製、加速電圧:15kV、WD:約3mm、倍率:20万倍)を使用して結晶粒子をランダムに観察し、代表的な3カ所を抽出し、抽出されたSEM写真全体の中で、見た目に極端に大きく又は小さくなく、平均的な大きさの粒子を中心に輪郭がはっきりしている粒子30個を抽出してOHPシートに写し、それらの粒子について、画像解析ソフトウェア(商品名「WinROOF Version5.6」、三谷商事(株)製)を用いて各短径(最大長径に直交する幅)を求め、それらの値を平均して平均短径とした。また、同様の方法で平均長径(最大長径)を求め、これらの比(平均長径/平均短径)を平均アスペクト比とした。
【0026】
本発明における遷移金属化合物担持酸化チタンの比表面積は、例えば10m
2/g以上である。比表面積の下限は、好ましくは30m
2/g、より好ましくは50m
2/g、特に好ましくは60m
2/g、最も好ましくは70m
2/gである。比表面積の上限は、例えば200m
2/g、好ましくは150m
2/g、より好ましくは100m
2/gである。前記遷移金属化合物担持酸化チタンの比表面積は、例えば10〜200m
2/g、好ましくは10〜150m
2/g、より好ましくは30〜150m
2/g、更に好ましくは50〜100m
2/g、特に好ましくは60〜100m
2/g、最も好ましくは60〜90m
2/gである。比表面積が上記範囲の遷移金属化合物担持酸化チタンは、高活性面の露出量が多くなるため、暗所において優れた抗微生物活性を発揮することができる。
【0027】
前記比表面積は、遷移金属化合物担持酸化チタンを100℃(真空下)で60分間脱気して得られるサンプルについて、高速比表面積・細孔径分布測定装置(商品名「NOVA-1200」、Quantachtome.Co製)を使用して下記条件下でサンプルを換えて2回測定して得られた値の平均である。
【0028】
<比表面積測定条件>
測定原理:定容法(ブランク補正型)
検出法:相対圧力(圧力トランスデューサによるサンプルセル内の吸着平衡圧力(P)と飽和蒸気圧(P0)の比)と吸着ガス量(圧力トランスデューサによる圧力検出とサーミスタによるマニホールド温度検出から理想気体での注入ガス量を計算)
吸着ガス:窒素ガス
セルサイズ:スモールペレットセル(セル容量:1.8cm
3、ステム外径:9mm)
測定項目:P/P0=0.1、0.2、0.3の吸着側3点
解析項目:BET多点法による比表面積
【0029】
本発明において、遷移金属化合物担持酸化チタンの表面に存在するハロゲン化物イオン[特に、塩化物イオン(Cl
-)]の含有量は、例えば、3000重量ppm以下、好ましくは2000重量ppm以下、より好ましくは1000重量ppm以下である。ハロゲン化物イオン含量の少ない遷移金属化合物担持酸化チタンは、所定量の遷移金属化合物が酸化チタンの表面(あるいは特定の露出面の表面)に均一に担持されている。
【0030】
[遷移金属化合物担持酸化チタンの製造]
本発明における遷移金属化合物担持酸化チタンは、例えば、下記の結晶性ルチル型酸化チタン製造工程、結晶性ルチル型酸化チタン精製工程、遷移金属化合物担持工程、遷移金属化合物担持酸化チタン精製工程を経て製造することができる。
【0031】
(結晶性ルチル型酸化チタン製造工程)
結晶性ルチル型酸化チタン製造工程は、チタン化合物から結晶性ルチル型酸化チタンを合成する工程である。結晶性ルチル型酸化チタンの製造方法としては公知乃至慣用の方法を採用することができる。例えば、前記の結晶面(110)及び結晶面(111)を有するルチル型酸化チタンや、結晶面(001)、結晶面(110)及び結晶面(111)を有するルチル型酸化チタンは、チタン化合物を水性媒体(例えば、水又は水と水溶性有機溶媒との混合液)中で水熱処理[例えば100〜220℃、2〜48時間(好ましくは2〜15時間、特に好ましくは5〜15時間)]することにより合成することができる。また、水熱処理の際にハロゲン化物を添加したり、撹拌しながら(例えば、撹拌所要動力Pv値:0.1〜1500W/m
3程度)水熱処理を施すことにより、得られる粒子のサイズ及び表面積を調整することができる。
【0032】
前記チタン化合物としては、3価のチタン化合物、4価のチタン化合物を挙げることができる。3価のチタン化合物としては、例えば、三塩化チタンや三臭化チタンなどのトリハロゲン化チタン等を挙げることができる。本発明における3価のチタン化合物としては、安価且つ入手が容易な点で三塩化チタン(TiCl
3)が好ましい。
【0033】
また、本発明における4価のチタン化合物は、例えば、下記式(1)で表される化合物等を挙げることができる。
Ti(OR)
tX
4-t (1)
(式中、Rは炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示す。tは0〜3の整数を示す)
【0034】
式(1)中のRにおける炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等のC
1-4脂肪族炭化水素基等を挙げることができる。式(1)中のXにおけるハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素原子等を挙げることができる。
【0035】
このような4価のチタン化合物としては、例えば、TiCl
4、TiBr
4、TiI
4などのテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH
3)Cl
3、Ti(OC
2H
5)Cl
3、Ti(OC
4H
9)Cl
3、Ti(OC
2H
5)Br
3、Ti(OC
4H
9)Br
3などのトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH
3)
2Cl
2、Ti(OC
2H
5)
2Cl
2、Ti(OC
4H
9)
2Cl
2、Ti(OC
2H
5)
2Br
2などのジハロゲン化ジアルコキシチタン;Ti(OCH
3)3Cl、Ti(OC
2H
5)
3Cl、Ti(OC
4H
9)
3Cl、Ti(OC
2H
5)
3Brなどのモノハロゲン化トリアルコキシチタン等を挙げることができる。本発明における4価のチタン化合物としては、安価且つ入手が容易な点で、テトラハロゲン化チタンが好ましく、特に四塩化チタン(TiCl
4)が好ましい。
【0036】
本発明において、前記チタン化合物としては、特に、少なくとも1つのハロゲン原子が結合している3価又は4価のチタン化合物が好ましい。
【0037】
本発明においては、水熱処理により得られたルチル型酸化チタンを乾燥固化させることなく、湿状態のまま遷移金属化合物担持工程に供することが好ましい。ルチル型酸化チタンを湿状態のまま遷移金属化合物担持工程に供する場合は、ルチル型酸化チタンを一旦乾燥固化し、次いで粉砕して遷移金属化合物担持工程に供する場合と比較して、分散性に優れ且つ均質な遷移金属化合物担持酸化チタンを調製することができる。このような遷移金属化合物担持酸化チタンは、分散剤を必要としないか又はその量を低減できるとともに、遷移金属化合物が酸化チタンの表面(あるいは特定の露出面の表面)に均一に担持されるため、暗所における抗微生物活性をより一層向上できる。なお、分散剤は遷移金属化合物担持酸化チタンの暗所における抗微生物活性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0038】
(結晶性ルチル型酸化チタン精製工程)
本発明においては、前記水熱処理により得られたルチル型酸化チタンを、後述する遷移金属化合物担持工程に供する前に、純度を高めるため精製することが好ましい。なかでも、前記水熱処理により得られたルチル型酸化チタンを、好ましくは乾燥固化させることなく湿状態を保持したまま、水洗処理及び/又は塩基による中和処理に付すのが好ましい。水洗処理及び/又は塩基による中和処理により、ルチル型酸化チタン粒子に付着している不純物(特に、イオン性不純物)の量を低減することができ、ルチル型酸化チタン粒子表面に所望量の遷移金属化合物を確実に且つ円滑に担持させることができる。こうして得られる遷移金属化合物担持酸化チタンはより優れた暗所抗微生物活性を示す。
【0039】
前記イオン性不純物としては、例えば、原料のチタン化合物に由来するチタンイオン、ハロゲン化物イオン(例えば、塩化物イオン、臭化物イオン等)などが挙げられる。イオン性不純物は遷移金属化合物のルチル型酸化チタンへの担持を阻害する場合が多い。
【0040】
上記水洗処理は、例えば、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等を用いて行うことができる。水洗処理は、ルチル型酸化チタン粒子を含む水分散液の上澄み液のpHが1以上(好ましくは1〜7、特に好ましくは2〜6、最も好ましくは2〜5.5)となるまで水洗を繰り返すことが好ましい。前記水懸濁液の上澄み液のpHを上記の範囲とすることにより、遷移金属化合物を高担持することができる。上記pHが1未満であると、遷移金属化合物の担持が困難となる場合がある。
【0041】
水洗処理の方法としては、例えば、前記水熱処理後の反応液又はその濃縮液若しくは希釈液を被処理液とし、水に分散−水洗(撹拌混合)−遠心分離(上澄み液の除去)という操作を、遠心分離後の上澄み液のpHが上記範囲となるまで繰り返し行う方法が挙げられる。また、濾過膜を使用し、前記水熱処理後の反応液又はその濃縮液若しくは希釈液を、濾過液(若しくは透過液)のpHが上記範囲になるまで繰り返し膜濾過する方法も好ましい。膜濾過には、全量ろ過方式とクロスフロー方式が含まれる。
【0042】
これらの中でも、クロスフロー方式による膜濾過が好ましい。以下、クロスフロー方式による膜濾過について説明する。なお、クロスフロー方式による膜濾過は、後述の遷移金属化合物担持酸化チタン精製工程でも遷移金属化合物担持酸化チタンの精製手段として好ましく用いられる。
【0043】
クロスフロー方式による膜濾過とは、濾過膜面に平行に被処理水を流し、濾滓の沈着による濾過膜汚染を防ぎながら被処理水の一部を、被処理水の流れの側方で濾過する方法である。上記水熱処理により得られたルチル型酸化チタン粒子を含む水懸濁液をクロスフロー方式による膜濾過に付す場合には、酸化チタン粒子の粉砕処理等を施す必要が無く、また濾過膜表面に圧密化された濾滓を形成することなくイオン性不純物を効率よく取り除くことができる。そのため、ルチル型酸化チタンの結晶構造を維持しつつ、イオン性不純物の含有量を極めて低く低減することができる。そして、このようなルチル型酸化チタンを用いることにより、所望量の遷移金属化合物が均一に担持された、暗所における抗微生物活性の高い遷移金属化合物担持酸化チタンを得ることがでできる。
【0044】
図1は、酸化チタン(又は、後述の遷移金属化合物担持酸化チタン精製工程においては遷移金属化合物担持酸化チタン)の懸濁液のクロスフロー方式による膜濾過の一例(循環型膜濾過方式)を示す概略図である。仕込みタンクに仕込まれた酸化チタン(又は遷移金属化合物担持酸化チタン)の懸濁液を含む供給液は、クロスフロー濾過方式で膜濾過され、濃縮された酸化チタン(又は遷移金属化合物担持酸化チタン)の懸濁液(濃縮液)が得られる。濃縮された酸化チタン(又は遷移金属化合物担持酸化チタン)の懸濁液は、再度、仕込みタンクへ循環し、希釈用の水(希釈用水)で希釈され、クロスフロー濾過方式で膜濾過される。
【0045】
クロスフロー方式による膜濾過に付すルチル型酸化チタン粒子を含む水懸濁液の濃度は、例えば0.1〜40重量%程度(好ましくは0.1〜30重量%)である。ルチル型酸化チタン粒子を含む水懸濁液の濃度が上記範囲内であると、ファウリング(目詰まり)等のトラブルを起こすことなく、しかも効率よくイオン性不純物を除去できる。
【0046】
ルチル型酸化チタン粒子を含む水懸濁液をクロスフロー方式による膜濾過に付すと、イオン性不純物が透過液と共に分離除去され、濃縮されたルチル型酸化チタンの水懸濁液が得られる。
【0047】
濃縮倍率は1〜400倍程度(なかでも1〜20倍、特に1〜10倍)に調整することが好ましい。濃縮倍率が400倍以下であることにより、膜面への付着物質の堆積を顕著に抑制でき、ルチル型酸化チタンの圧密化を防止できる。また、膜面への付着物質の堆積により濾過膜にファウリング(目詰まり)が発生することを防止でき、膜寿命を長くでき、逆洗浄を頻繁に行う必要もなく、濾過速度の低下を防止できる。一方、濃縮倍率が1以上であることにより、イオン性不純物の分離効率を向上でき、洗浄水の使用量を低減できる。
【0048】
前記濃縮倍率は、例えば、濾過圧力、酸化チタン又は遷移金属化合物担持酸化チタンの懸濁液の膜面線速(クロスフロー速度)等をコントロールすることにより調整することができる。濾過圧力は、例えば0.001〜5.0MPa程度、好ましくは0.005〜3MPa、特に好ましくは0.01〜2.0MPaである。
【0049】
また、酸化チタン又は遷移金属化合物担持酸化チタンの懸濁液を含む供給液の膜面線速は大きいほど膜面への付着物質の堆積が抑制され、高い濾過流束(フラックス)が得られる。膜面線速(クロスフロー速度)は、例えば0.02m/s以上、3m/s未満、好ましくは0.05m/s以上、1.5m/s未満である。
【0050】
クロスフロー方式による膜濾過を経て濃縮されたルチル型酸化チタンの懸濁液は、水を加えてルチル型酸化チタンの懸濁液の濃度が上記範囲となるように希釈し、再びクロスフロー方式により膜濾過する操作を繰り返すことが好ましい。それにより、ファウリング(目詰まり)等による濾過膜の負荷を軽減し、濾過膜の寿命を向上させつつイオン性不純物の含有量を極めて低く低減することができる。
【0051】
クロスフロー方式による膜濾過に使用する濾過膜としては、例えば、限外濾過膜、精密濾過膜、ナノフィルター、逆浸透膜等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、分離性能に優れる点で限外濾過膜を使用することが好ましい。
【0052】
限外濾過膜としては、平均細孔径が1〜20nm程度(好ましくは、1〜10nm)であり、分子量1000〜300000程度(好ましくは、1000〜50000)、平均粒子径が1〜10nm程度の物質を分離することができるものを使用することが好ましい。
【0053】
限外濾過膜の膜形状としては、例えば、中空糸型濾過膜、チューブラー膜、スパイラル膜、平膜等の何れであっても良いが、逆洗浄が比較的容易に行える点から、中空糸型濾過膜、又はチューブラー膜を使用することが好ましい。
【0054】
中空糸型濾過膜における中空糸膜の内径は、汚染物質の閉塞の防止、膜モジュールへの中空糸充填率の向上という観点から、0.1〜2.0mm程度(好ましくは、0.5〜1.5mm)である。
【0055】
濾過膜の材質としては、例えば、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、セラミックなどの一般的な材質を挙げることができる。本発明においては、なかでも、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリアミドが好ましい。
【0056】
中空糸型濾過膜を使用する場合、ルチル型酸化チタンの懸濁液を流す方法(濾過方式)としては、内側(中空糸膜の内側)にルチル型酸化チタンの懸濁液を含む供給液を流し、外側(中空糸膜の外側)に向けて透過水が流れる方式(内圧濾過方式)と、その逆に外側にルチル型酸化チタンの懸濁液を含む供給液を流し、内側に向けて透過水が流れる方式(外圧濾過方式)が挙げられる。本発明においては、なかでも、膜面流速を高く維持できる点で内圧濾過方式が好ましい。
【0057】
クロスフロー方式による膜濾過においては、濾過膜面への付着物質の堆積を防止して濾過膜への負担を軽減し、長期間膜濾過運転を行うため、濾過膜に対し洗浄水により間欠的な逆洗浄を施すことが好ましい。逆洗浄は圧力及び流速を制御しつつ予め定められた周期で行うことが好ましい。
【0058】
図2は、クロスフロー方式による膜濾過における逆洗浄の一例を示す概略図である。逆洗浄では、濾過膜に対し、洗浄水を濾過とは逆方向に通過させる。
【0059】
逆洗浄の圧力としては、例えば0.01〜3.0MPa程度であり、好ましくは0.01〜2.0MPa、特に好ましくは0.01〜1.0MPa、最も好ましくは0.01〜0.5MPa、さらに好ましくは0.05〜0.5MPaである。また、逆洗浄の流速としては、例えば0.01〜10kg/mim程度、好ましくは0.05〜5kg/mim、特に好ましくは0.1〜5kg/mim[或いは、例えば1×10
-7〜2×10
-4m/sec程度、好ましくは8×10
-7〜9×10
-5m/sec、特に好ましくは1×10
-6〜9×10
-5m/sec]である。逆洗浄の頻度としては、例えば0.5〜3時間に1回程度行うことが好ましい。逆洗浄の時間は0.5〜10分程度が好ましい。
【0060】
逆洗浄に用いる洗浄水としては、水(例えば、精製水、蒸留水、純水、イオン交換水等)を使用することが好ましい。逆洗浄により膜通過した洗浄水は、濃縮された酸化チタン(又は遷移金属化合物担持酸化チタン)の懸濁液の希釈用の水として再利用することが好ましい。
【0061】
上記塩基による中和処理は、例えば、前記水熱処理後の反応液又はその濃縮液若しくは希釈液に、塩基を添加することにより行われる。塩基は、ルチル型酸化チタン粒子を含む水分散液のpHが1以上(好ましくは1〜7、特に好ましくは2〜6、最も好ましくは2〜5.5)となるまで添加するのが好ましい。
【0062】
前記塩基としては、例えば、ヒドロキシルアミン又はその塩;アンモニア又はその塩;第1級〜第3級アミン又はその塩;第4級アンモニウム水酸化物;炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩;リン酸水素2ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩;酢酸ナトリウム等のアルカリ金属酢酸塩;水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物;ナトリウムメトキサイド、カリウムメトキサイド等のアルカリ金属アルコキサイド;塩基性イオン交換樹脂;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物などを挙げることができる。本発明においては、なかでも、弱塩基を使用することが好ましく、特に、アンモニア、アンモニア水等が、工業的に入手し易く、pHの調整が容易な点で好ましい。
【0063】
前記水洗処理と塩基による中和処理は、一方のみを行ってもよく、両方行ってもよい。水洗処理と塩基による中和処理を両方行う場合には、その順序は問わないが、最終的に、ルチル型酸化チタン粒子を含む水分散液のpHが1〜7、好ましくは2〜6、より好ましくは2〜5.5となるのが望ましい。
【0064】
上記精製工程で得られる結晶性ルチル型酸化チタン粒子の平均短径は、例えば50nm以下、好ましくは5〜40nm、より好ましくは5〜30nm、さらに好ましくは10〜25nmである。
【0065】
また、上記精製工程で得られる結晶性ルチル型酸化チタン粒子の平均アスペクト比(長径/短径)は、例えば1.5以上、好ましくは1.5〜100、より好ましくは1.5〜50、さらに好ましくは1.5〜20、特に好ましくは2〜15である。なお、平均アスペクト比は前記の方法により求めることができる。
【0066】
さらに、上記精製工程で得られる結晶性ルチル型酸化チタン粒子の比表面積は、例えば10m
2/g以上、好ましくは10〜200m
2/g、より好ましくは10〜150m
2/g、さらに好ましくは30〜150m
2/g、特に好ましくは50〜100m
2/g、最も好ましくは60〜100m
2/g(例えば、70〜100m
2/g)である。ルチル型酸化チタン粒子の比表面積が上記範囲を下回ると、遷移金属化合物を担持して得られる遷移金属化合物担持酸化チタンの暗所下での抗微生物活性が低下しやすくなる。
【0067】
(遷移金属化合物担持工程)
遷移金属化合物担持工程は、上記工程を経て得られた結晶性ルチル型酸化チタンに遷移金属化合物を担持して遷移金属化合物担持酸化チタンを得る工程である。遷移金属化合物の担持は、例えば結晶性ルチル型酸化チタンに遷移金属化合物を含む溶液を添加して含浸させることにより行うことができる。例えば、遷移金属化合物として三価の鉄化合物(Fe
3+)を担持した遷移金属化合物担持酸化チタンは、結晶性ルチル型酸化チタンの懸濁液に硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)等を含む溶液を添加して含浸させることにより得られる。
【0068】
遷移金属化合物を含む溶液の濃度は、例えば0.1〜40重量%程度、好ましくは1〜40重量%である。また、含浸時間としては、例えば1分〜24時間、好ましくは5分〜10時間である。
【0069】
本発明においては、ルチル型酸化チタン粒子に遷移金属化合物を担持する(特に、ルチル型酸化チタン粒子に遷移金属化合物を含浸して担持する)工程は、励起光照射下で行うことが好ましい。励起光を照射することで、遷移金属化合物担持酸化チタンの暗所における抗微生物活性をより向上させることができる。
【0070】
励起光とはバンドギャップエネルギー以上のエネルギーを有する光(例えば、紫外線)である。励起光照射手段としては、例えば、中・高圧水銀灯、UVレーザー、UV−LED、ブラックライト等の紫外線を効率よく発生させる光源を有する紫外線露光装置等を使用することができる。励起光の照射量としては、例えば0.1〜300mW/cm
2程度、好ましくは0.5〜100mW/cm
2である。
【0071】
さらに、本発明においては、含浸の際に犠牲剤を添加することが好ましい。犠牲剤を添加することにより、結晶性ルチル型酸化チタンの特定の結晶面に高い選択率で遷移金属化合物を担持することができる。犠牲剤としては、それ自体が電子を放出しやすい有機化合物を使用することが好ましく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸等のカルボン酸;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエタノールアミン(TEA)等のアミン等を挙げることができる。
【0072】
犠牲剤の添加量は適宜調整することができ、例えば、結晶性ルチル型酸化チタンの懸濁液の0.5〜20.0重量%程度、好ましくは1.0〜5.0重量%程度である。犠牲剤は過剰量を使用してもよい。
【0073】
遷移金属化合物担持工程で得られた粗遷移金属化合物担持酸化チタンは、例えば、濾過、水洗、濃縮等の方法により精製することができる。
【0074】
(遷移金属化合物担持酸化チタン精製工程)
本発明においては、前記遷移金属化合物担持工程で得られた粗遷移金属化合物担持酸化チタンを水洗処理に付して精製するのが好ましい。この水洗処理により、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子に付着している不純物(特に、イオン性不純物)の量を低減することができ、暗所における抗微生物活性の高い遷移金属化合物担持酸化チタンを得ることができる。前記イオン性不純物としては、例えば、原料のチタン化合物に由来するチタンイオン、ハロゲン化物イオン(例えば、塩化物イオン、臭化物イオン等)、遷移金属イオンなどを挙げることができる。上記水洗処理は、例えば、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等を用いて行うことができる。
【0075】
水洗処理は、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子を含む水懸濁液の上澄み液の電気伝導度が300μS/cm以下(例えば0.5〜300μS/cm、好ましくは0.5〜250μS/cm、特に好ましくは1〜200μS/cm)となるまで水洗を繰り返すことが好ましい。前記水懸濁液の上澄み液の電気伝導度を上記の範囲とすることにより、遷移金属化合物担持酸化チタン粒子に付着している不純物(原料等に由来するハロゲン化物イオンや遷移金属イオン等のイオン性不純物など)の量、特に塩化物イオン等のハロゲン化物イオンの量を低減でき、単位容積あたりの抗微生物活性を向上させることができる。
【0076】
水洗処理の方法としては、例えば、前記遷移金属化合物担持工程後の遷移金属化合物担持酸化チタンを含む水懸濁液を被処理液とし、水に分散−水洗(撹拌混合)−遠心分離(上澄み液の除去)という操作を、遠心分離後の上澄み液の電気伝導度が上記範囲となるまで繰り返し行ってもよく、また、濾過膜を使用し、前記遷移金属化合物担持酸化チタンを含む水懸濁液を、濾過液(若しくは透過液)の電気伝導度が上記範囲になるまで繰り返し膜濾過してもよい。膜濾過には、全量ろ過方式とクロスフロー方式が含まれる。
【0077】
これらの中でも、クロスフロー方式による膜濾過が好ましい。水洗処理法として、クロスフロー方式による膜濾過を採用する場合には、遷移金属化合物担持酸化チタンの結晶構造を維持しつつ、イオン性不純物の含有量を効率よく低減することができる。
【0078】
クロスフロー方式による膜濾過については、前記結晶性ルチル型酸化チタン精製工程の項で説明した通りである。前記遷移金属化合物担持工程で得られた遷移金属化合物担持酸化チタンを含む水懸濁液(水分散液)を被処理液としてクロスフロー方式による膜濾過を行うことにより、イオン性不純物(塩化物イオン等のハロゲン化物イオンなど)の含有量の少ない遷移金属化合物担持酸化チタンを得ることができる。例えば、塩化物イオン等のハロゲン化物イオンの含有量が、3000重量ppm以下、好ましくは2000重量ppm以下、さらに好ましくは1000重量ppm以下の遷移金属化合物担持酸化チタンを得ることができる。
【0079】
遷移金属化合物担持酸化チタンを水洗した後は、乾燥処理等に付すことにより、暗所における抗微生物活性に優れた遷移金属化合物担持酸化チタンを得ることができる。
【0080】
[暗所用抗微生物剤]
本発明の暗所用抗微生物剤は、少なくとも前記遷移金属化合物担持酸化チタンを含んでいる。本発明の暗所用抗微生物剤は、前記遷移金属化合物担持酸化チタンのほか、分散媒、バインダー成分、他の添加剤(塗布助剤、分散剤等)、他の抗微生物剤等を含んでいてもよい。
【0081】
前記分散媒としては、水、エタノール等のアルコール、これらの混合物などが挙げられる。前記バインダー成分としては、例えば、過酸化チタン、ケイ素系化合物(ハロゲン化シラン化合物、アルコキシシラン化合物、これらの縮合物等)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)などを挙げることができる。
【0082】
前記遷移金属化合物担持酸化チタンと、必要に応じてバインダー成分および他の添加剤等を分散媒に分散させることにより、抗微生物剤分散液とすることができる。
【0083】
前記抗微生物剤分散液の調製方法としては特に制限はなく、例えば、前記遷移金属化合物担持酸化チタンとバインダー成分(必要に応じて)とを分散媒中で混合する方法、前記遷移金属化合物担持酸化チタンとバインダー成分とをそれぞれ別個に分散媒と混合してゾル状態とし、ゾル状態の遷移金属化合物担持酸化チタンとゾル状態のバインダー成分とを混合する方法等が挙げられる。
【0084】
前記抗微生物剤分散液中の前記遷移金属化合物担持酸化チタンの含有量は、分散性、塗布性等を考慮して適宜選択できるが、通常、0.5〜50重量%、好ましくは1〜30重量%である。
【0085】
抗微生物剤分散液中における遷移金属化合物担持酸化チタンとバインダー成分の配合比率[前者:後者(重量比)]は、好ましくは、1:6〜30:1、より好ましくは1:1〜15:1である。遷移金属化合物担持酸化チタンとバインダー成分の配合比率を上記の範囲とする場合には、高い抗微生物活性が得られるとともに、被着体(基材)に対して高い接着性が得られ、しかも被着体(基材)の劣化を防止できる。
【0086】
前記抗微生物剤分散液中には、上記遷移金属化合物担持酸化チタン、バインダー成分、及び分散媒以外にも、他の成分として通常抗菌剤分散液に配合される化合物を必要に応じて適宜配合することができる、他の成分としては、例えば、塗布助剤等を挙げることができる。他の成分の配合量としては、本発明の効果を損なわない範囲内であればよく、例えば、抗微生物剤分散液全量に対して、10重量%以下(例えば、0.01〜10重量%)である。
【0087】
上記抗微生物剤分散液を被着体(基材)表面に塗布することにより、抗微生物剤層(抗微生物塗膜)を形成することができる。抗微生物剤分散液の塗布量としては、抗微生物活性が発揮される量であればよく、例えば、被着体(基材)表面における上記遷移金属化合物担持酸化チタンの量が0.01g/m
2以上(例えば、0.01〜10g/m
2程度、好ましくは0.1〜5g/m
2程度)となる量が好ましい。
【0088】
抗微生物剤分散液は、例えば、被着体(基材)表面に直接塗布してもよく、被着体(基材)表面に予めバインダー成分(特に、過酸化チタン)を含むコーティング剤を塗布することにより下塗り層を設け、その上に抗微生物剤分散液を塗布してもよい。下塗り層により被着体を保護することができる。下塗り層の厚みとしては、例えば、0.1〜1.0μm程度、好ましくは、0.2〜0.5μm程度である。
【0089】
前記被着体(基材)としては、特に限定されることがなく、各種プラスチック材料[例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のα−オレフィンをモノマー成分とするオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)等のポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル(PVC);酢酸ビニル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリアミド(ナイロン)、全芳香族ポリアミド(アラミド)等のアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等]、ゴム材料(例えば、天然ゴム、合成ゴム、シリコンゴム等)、金属材料(例えば、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス等)、紙質材料(例えば、紙、紙類似物質等)、木質材料(例えば、木材、MDF等の木質ボード、合板等)、繊維材料(例えば、不織布、織布等)、革材料、無機材料(例えば、石、コンクリート等)、ガラス材料、磁器材料等の各種の素材を挙げることができる。
【0090】
被着体(基材)への抗微生物剤分散液の塗布は、例えば、スプレー、刷毛、ローラー、グラビア印刷等により行うことができる。被着体(基材)表面に塗布した後は、乾燥(分散媒を蒸発)させることよって、速やかに塗膜を形成することができる。乾燥方法としては、室温で乾燥させてもよく、加熱して乾燥させてもよい。
【実施例】
【0091】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0092】
実施例1
(粗酸化チタン懸濁液の調製)
室温(25℃)にて、四塩化チタン水溶液(Ti濃度:16.5重量%±0.5重量%、塩素イオン濃度:31重量%±2重量%、東邦チタニウム社製)をTi濃度が5.6重量%になるように純水で希釈した。希釈後の四塩化チタン水溶液5650gを容量10Lのタンタルライニングのオートクレーブに入れ密閉した。熱媒を用い、2時間かけて上記オートクレーブ内温度を140℃まで昇温した。その後、撹拌所要動力(Pv値)220W/m
3で攪拌しつつ、温度:140℃、圧力:その温度における蒸気圧の条件下で10時間保持した後、熱媒を冷却することにより、オートクレーブを40℃以下まで冷却した。オートクレーブ内温度が40℃以下になったことを確認して、粗酸化チタン懸濁液5650gを取り出した。
【0093】
(クロスフロー方式による膜濾過処理(酸化チタンの水洗処理))
得られた粗酸化チタン懸濁液を純水で3倍に希釈、攪拌速度300rpmにて攪拌混合して、中空糸型限外濾過膜(商品名「FS03−FC−FUS03C1」、材質:PES、公称分画分子量:3万、ダイセン・メンブレン・システムズ(株)製)を用い、室温(25℃)、濾過圧力0.02MPaにて、透過液量と同量の純水を加えながらクロスフロー方式による濾過処理を行った。濾過処理を経て得られた濃縮液は再度仕込みタンクに循環し、透過液のpHが4.0になるまで繰り返し濾過処理に付した。尚、pHはpH試験紙を使用して測定した。この間、1時間に1回の割合で0.1MPaの圧力、2kg/minの流速で1分間逆洗浄を実施した。この逆洗浄により膜通過した洗浄水は仕込みタンクに循環した。その後、純水の仕込を停止し、酸化チタン濃度を濃縮させて酸化チタン懸濁液を得た。この酸化チタン懸濁液を常圧下、105℃で1時間乾燥したところ、結晶面(110)及び結晶面(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタンと、結晶面(110)、結晶面(111)及び結晶面(001)を有するロッド状ルチル型酸化チタンの混合物である酸化チタン533gを得た(
図3参照)。
【0094】
(鉄化合物担持処理)
上記方法で得られた酸化チタン懸濁液に、塩化鉄(III)水溶液(35重量%)7.5gを添加し、室温(25℃)にて30分攪拌した。その後、メタノール95g(酸化チタン懸濁液の1.7重量%)を添加し、100Wの高圧水銀ランプを用いて紫外線(UV)を12時間照射して(UV照射量:5mW/cm
2)、粗鉄化合物担持酸化チタン懸濁液を得た。
【0095】
(クロスフロー方式による膜濾過処理(鉄化合物担持酸化チタンの水洗処理))
仕込みタンク内において、100Wの高圧水銀ランプを用いて紫外線(UV)(UV照射量:5mW/cm
2)を照射しながら、上記の粗鉄化合物担持酸化チタン懸濁液を純水で2倍に希釈後、中空糸型限外濾過膜(商品名「FS03−FC−FUS03C1」、材質:PES、公称分画分子量:3万、ダイセン・メンブレン・システムズ(株)製)を用い、室温(25℃)、濾過圧力0.02MPaにて、透過液量と同量の純水を加えながらクロスフロー方式による濾過処理を行った。濾過処理を経て得られた濃縮液は再度仕込みタンクに循環し、透過液の電気伝導度が200μS/cmになるまで繰り返し濾過処理に付した。この間、1時間に1回の割合で0.1MPaの圧力、2kg/minの流速で1分間逆洗浄を実施した。この逆洗浄により膜通過した洗浄水は仕込みタンクに循環した。その後、純水の仕込みを停止し、鉄化合物担持酸化チタンを濃縮させて鉄化合物担持酸化チタン懸濁液(平均粒子径:880nm、鉄化合物担持酸化チタン濃度:10重量%、上澄み液の電気伝導度:200μS/cm、上澄み液のpH:4.9)を得た。仕込みタンク内における紫外線(UV)照射時間は累計24時間であった。
【0096】
その後、常圧下、105℃で1時間乾燥して、鉄化合物担持酸化チタン(比表面積:78m
2/g、平均短径:16nm、平均アスペクト比:3)530gを得た。得られた鉄化合物担持酸化チタンの鉄の含有量は830重量ppmであった。また、鉄化合物担持酸化チタンの表面に残存している塩化物イオン(Cl
-)は780重量ppm(mg/kg)であった。なお、鉄化合物担持酸化チタンの表面に残存している塩化物イオン(Cl
-)の量は、イオンクロマト分析により測定した。より詳細には、サンプルをIWAKI製PP容器に約0.1g秤量し、そこへ超純水10gを加えた後、1分間振とうし、超音波(1分間)を2回かけ、遠心分離機にて粒子を沈降させた後、その液(上澄み液)をODSカートリッジ及び0.2μmメンブレンフィルターにて濾過し、得られた液をイオンクロマト分析に付し、塩化物イオン(Cl
-)の量を測定した。
【0097】
得られた鉄化合物担持酸化チタンの抗微生物活性を下記の評価試験法により評価した。鉄化合物担持酸化チタン懸濁液をガラス板に塗布、乾燥させた試験片について、大腸菌に対する抗菌性を評価したところ、暗所保管で4時間後に抗菌活性値4.5であった。また、バクテリオファージQβに対する抗ウイルス性は、暗所保管で2時間後に抗ウイルス活性値5.0であった。
【0098】
<評価試験法>
(抗菌性活性、抗ウイルス性活性試験に使用する試験片の作製方法)
鉄化合物担持酸化チタン懸濁液(鉄化合物担持酸化チタン濃度:10重量%)を固形分が25mg/25cm
2となるように、ガラス板(50mm×50mm×1mm)にスプレーガンを用いて塗布し、自然乾燥したものを試験片として、抗菌性、抗ウイルス性試験に供した。
【0099】
(抗菌性活性の測定方法)
上記試験片を用いて、大腸菌の生菌数を測定することにより評価した。抗菌剤層には、予め紫外線強度が1mW/cm
2となるように(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)、ブラックライトを用いて紫外線を17時間照射し、これを抗菌性活性測定用試料とした。
次に、この抗菌性活性測定用試料を用いて、日本工業規格JIS R 1752:2013「ファインセラミックス−可視光応答形光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果」に基づく方法で暗所のみで試験を行った。すなわち、抗菌剤層に大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)の菌液(生菌数:2.0×10
5個)を接種し、被覆フィルムを載せて密着させ、これを室温(25±5℃)、暗所で4時間保存し、試料検体1個当たりの生菌数を測定した。
未塗工のガラス板についても同様の操作を行い、生菌数を測定した。なお、抗菌性測定用試験片を3つ用いて同時に行い、これら3つの生菌数の平均値で評価を行った。抗菌活性値は以下の式で求めた。抗菌活性値が2以上であれば、一般的に抗菌活性を発現しているといえる。
抗菌活性値=log(N
0/N)
N
0:未塗工のガラス板で評価を4時間行った後の生菌数の平均値
N:抗菌剤塗工ガラス板で評価を4時間行った後の生菌数の平均値
暗所保管4時間後の生菌数が少ないものほど、大腸菌の抗菌性が高いと言える。
【0100】
(抗ウイルス活性の測定方法)
上記試験片を用いて、バクテリオファージ感染価を測定することにより評価した。抗ウイルス剤層には、予め紫外線強度が1mW/cm
2となるように(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)、ブラックライトを用いて紫外線を24時間照射し、これを抗ウイルス性活性測定用試料とした。
次に、この抗ウイルス性活性測定用試料を用いて、日本工業規格JIS R 1756:2013「ファインセラミックス−可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法−バクテリオファージQβ」に基づく方法で暗所のみで試験を行った。すなわち、抗ウイルス剤層にバクテリオファージQβ(Escherichia coli phage Qβ NBRC20012)の試験液(バクテリオファージ感染価:1.0×10
6pfu)を接種し、被覆フィルムを載せて密着させ、これを室温(25±5℃)、暗所で2時間保存後、活性ファージを大腸菌に感染させることにより、試料検体1個当たりのバクテリオファージ感染価を測定した。
未塗工のガラス板についても同様の操作を行い、バクテリオファージ感染価を測定した。なお、抗ウイルス性測定用試験片を3つ用いて同時に行い、これら3つのバクテリオファージ感染価の平均値で評価を行った。抗ウイルス活性値は以下の式で求めた。抗ウイルス活性値が2以上であれば、一般的に抗ウイルス活性を発現しているといえる。
抗ウイルス活性値=log(N
0/N)
N
0:未塗工のガラス板で評価を2時間行った後のバクテリオファージ感染価の平均値
N:抗ウイルス剤塗工ガラス板で評価を2時間行った後のバクテリオファージ感染価の平均値
暗所保管2時間後のバクテリオファージ感染価が少ないものほど、抗ウイルス性、すなわち光触媒活性が高いと言える。