特許第6263143号(P6263143)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大井電気株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6263143-周波数解析装置 図000002
  • 特許6263143-周波数解析装置 図000003
  • 特許6263143-周波数解析装置 図000004
  • 特許6263143-周波数解析装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263143
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】周波数解析装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 23/16 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
   G01R23/16 D
   G01R23/16 B
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-57630(P2015-57630)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2016-176833(P2016-176833A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2016年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204424
【氏名又は名称】大井電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 基
【審査官】 荒井 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−217901(JP,A)
【文献】 特開2006−292710(JP,A)
【文献】 特開2001−099877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 23/16−23/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なるサンプリング周波数で解析対象信号をサンプリングする複数のサンプリング部と、
前記複数のサンプリング部に対して共通に設けられ、各サンプリング部から出力されたサンプル値に対してフーリエ変換を施し、各サンプリング部に対応する周波数領域データを生成するフーリエ変換部と、
前記複数のサンプリング部に対応して得られた複数の周波数領域データに基づいて、前記解析対象信号についての周波数スペクトラムデータを生成する合成部と、を備え、
前記合成部は、
前記複数のサンプリング部に対応して得られた複数の周波数領域データにつき重複する周波数帯域について、サンプリング周波数が最も低いサンプリング部に対応して得られた周波数領域データに基づいて周波数スペクトラムデータを生成する、
ことを特徴とする周波数解析装置。
【請求項2】
異なるサンプリング周波数で解析対象信号をサンプリングする複数のサンプリング部と、
前記複数のサンプリング部に対して共通に設けられ、各サンプリング部から出力されたサンプル値に対してフーリエ変換を施し、各サンプリング部に対応する周波数領域データを生成するフーリエ変換部と、
前記複数のサンプリング部に対応して得られた複数の周波数領域データに基づいて、前記解析対象信号についての周波数スペクトラムデータを生成する合成部と、を備え、
前記複数のサンプリング部のうち、サンプリング周波数が最も低いサンプリング部に対応して、前記フーリエ変換部が1つの周波数領域データを生成すると共に、前記フーリエ変換部は、
前記複数のサンプリング部のうち、その他の高域サンプリング部については、サンプル値が得られた時間帯が異なる複数の周波数領域データを生成し、
前記周波数解析装置は、
前記高域サンプリング部について生成された前記複数の周波数領域データを統合して、1つの周波数領域データを生成する統合部を備える、
ことを特徴とする周波数解析装置。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載の周波数解析装置において、
通過周波数帯域が異なる複数のフィルタであって、各フィルタが前記解析対象信号に対してフィルタ処理を施す複数のフィルタを備え、
前記複数のサンプリング部は、前記複数のフィルタに対応して設けられ、
各サンプリング部は、前記複数のフィルタのうち、対応するフィルタによってフィルタ処理が施された前記解析対象信号をサンプリングし、
各フィルタの通過周波数帯域は、対応するサンプリング部のサンプリング周波数に基づいて定められている、
ことを特徴とする周波数解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数解析装置に関し、特に、サンプリングによって得られたサンプル値に対しフーリエ変換を施す装置に関する。
【背景技術】
【0002】
信号処理回路の動作を評価するための計測器として、スペクトラムアナライザが広く用いられている。スペクトラムアナライザは、測定対象の信号に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を施すことで、周波数スペクトラムデータを生成する。周波数スペクトラムデータは、周波数軸に対し、各周波数成分のレベルを対応付けたデータである。スペクトラムアナライザは、例えば、横軸が周波数を表し縦軸が周波数成分レベルを表す周波数スペクトラムを表示する。
【0003】
以下の特許文献1には、広帯域リアルタイム・デジタル・スペクトラム装置が記載されている。この装置は、測定対象の信号を複数の周波数帯域に分割し、各周波数帯域の信号に対し高速フーリエ変換を施す。そのため、周波数帯域の数と同数のFFT演算回路が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−292710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、高速フーリエ変換では、時間領域におけるサンプル値の個数、および周波数領域における周波数成分値の個数を表すポイント数によって周波数分解能が定まる。一定のポイント数で高速フーリエ変換を実行するという条件の下では、周波数分解能は一定である。そのため、高速フーリエ変換が施される周波数帯域内では、周波数が低い程、周波数分解能を周波数で割った周波数誤差が大きくなる。ポイント数を増加させることで周波数誤差は小さくなるが、処理すべき情報量が増加し、回路規模が大きくなってしまう場合が多い。
【0006】
本発明は、簡単な構成で周波数解析装置の周波数誤差を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、異なるサンプリング周波数で解析対象信号をサンプリングする複数のサンプリング部と、前記複数のサンプリング部に対して共通に設けられ、各サンプリング部から出力されたサンプル値に対してフーリエ変換を施し、各サンプリング部に対応する周波数領域データを生成するフーリエ変換部と、前記複数のサンプリング部に対応して得られた複数の周波数領域データに基づいて、前記解析対象信号についての周波数スペクトラムデータを生成する合成部と、を備え、前記合成部は、前記複数のサンプリング部に対応して得られた複数の周波数領域データにつき重複する周波数帯域について、サンプリング周波数が最も低いサンプリング部に対応して得られた周波数領域データに基づいて周波数スペクトラムデータを生成する、ことを特徴とする。
【0009】
本発明は、異なるサンプリング周波数で解析対象信号をサンプリングする複数のサンプリング部と、前記複数のサンプリング部に対して共通に設けられ、各サンプリング部から出力されたサンプル値に対してフーリエ変換を施し、各サンプリング部に対応する周波数領域データを生成するフーリエ変換部と、前記複数のサンプリング部に対応して得られた複数の周波数領域データに基づいて、前記解析対象信号についての周波数スペクトラムデータを生成する合成部と、を備え、前記複数のサンプリング部のうち、サンプリング周波数が最も低いサンプリング部に対応して、前記フーリエ変換部が1つの周波数領域データを生成すると共に、前記フーリエ変換部は、前記複数のサンプリング部のうち、その他の高域サンプリング部については、サンプル値が得られた時間帯が異なる複数の周波数領域データを生成し、前記周波数解析装置は、前記高域サンプリング部について生成された前記複数の周波数領域データを統合して、1つの周波数領域データを生成する統合部を備えることを特徴とする
【0010】
望ましくは、通過周波数帯域が異なる複数のフィルタであって、各フィルタが前記解析対象信号に対してフィルタ処理を施す複数のフィルタを備え、前記複数のサンプリング部は、前記複数のフィルタに対応して設けられ、各サンプリング部は、前記複数のフィルタのうち、対応するフィルタによってフィルタ処理が施された前記解析対象信号をサンプリングし、各フィルタの通過周波数帯域は、対応するサンプリング部のサンプリング周波数に基づいて定められている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡単な構成によって周波数解析装置の周波数誤差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】周波数解析装置の構成を示す図である。
図2】解析対象信号の時間波形およびサンプリングのタイミングを示す図である。
図3】各サンプリング周波数に対応する周波数スペクトラムを示す図である。
図4】解析対象信号の周波数スペクトラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1には、本発明の実施形態に係る周波数解析装置10の構成が示されている。周波数解析装置10は、入力ポート12、前段処理部14−1〜14−P、前段セレクタ22、FFT演算部24、および後段部26を備える。
【0014】
周波数解析装置10では、入力ポート12から複数の前段処理部14−1〜14−Pに解析対象信号が入力される。前段処理部14−1〜14−Pでは、異なるサンプリング周波数で解析対象信号が並列的にサンプリングされる。複数の前段処理部14−1〜14−Pに対しては共通のFFT演算部24が設けられている。前段セレクタ22によって選択された前段処理部から得られる所定個数のサンプリング値に対し、FFT演算部24は高速フーリエ変換を施し、所定個数の周波数成分値を含む周波数領域データを後段部26に出力する。後段部26は、各前段処理部に対して得られた周波数領域データに基づいて、解析対象信号についての周波数解析結果として周波数スペクトラムデータを生成し、周波数スペクトラムを表示する。
【0015】
周波数解析装置10は、計測器としてのスペクトラムアナライザに用いられてもよい。また、周波数スペクトラムデータに基づいて装置の制御を行う一般的なシステムに用いられてもよい。
【0016】
周波数解析装置10の具体的な構成および動作について説明する。前段処理部14−1〜14−Pのそれぞれは、ローパスフィルタ16−j、A/D変換器18−j、およびサンプル値メモリ20−jを備える。ただし、jは前段処理部14−j(jは1からPまでの整数)に備えられていることを示す整数である。以下の説明では、いずれの前段処理部が備えるものであるかを特定しない符号として、ローパスフィルタ、A/D変換器およびサンプル値メモリについて、それぞれ、「16」、「18」および「20」の符号を用いる。
【0017】
ローパスフィルタ16は、カットオフ周波数以下の周波数成分を通過させ、カットオフ周波数より高域の周波数成分を減衰させる低域通過特性を有する。ただし、減衰量が既定値以下、例えば、3dB以下である周波数帯域を通過周波数帯域とする。ローパスフィルタ16は、低域通過特性によって、入力ポート12に入力された解析対象信号に対してフィルタ処理を施す。
【0018】
各前段処理部では次のような処理が実行される。A/D変換器18は、信号をサンプリングするサンプリング部としての機能を有する。A/D変換器18は、ローパスフィルタ16によってフィルタ処理が施された解析対象信号を、所定のサンプリング周波数でサンプリングし、それによって得られたサンプル値をディジタル値に変換する。A/D変換器18は、時間軸上で連なるディジタルのサンプル値に変換された解析対象信号をサンプル値メモリ20に記憶させる。
【0019】
A/D変換器18−2のサンプリング周波数はA/D変換器18−1のサンプリング周波数よりも高い。A/D変換器18−3のサンプリング周波数はA/D変換器18−2のサンプリング周波数よりも高い。すなわち、A/D変換器18−kのサンプリング周波数はA/D変換器18−(k−1)のサンプリング周波数よりも高い。ここで、kは、2からPまでの整数である。
【0020】
本実施形態では、A/D変換器18−1、A/D変換器18−2、・・・A/D変換器18−k、・・・A/D変換器18−Pのサンプリング周波数は、それぞれ、fs、2fs、・・・2fs・・・2fsに設定される。すなわち、図1において上から第2段目以下に描かれているA/D変換器18のサンプリング周波数は、1つ上段に描かれているA/D変換器18のサンプリング周波数の2倍に設定される。
【0021】
各前段処理部では、ローパスフィルタ16のカットオフ周波数は、A/D変換器18のサンプリング周波数の半分以下である。本実施形態では、カットオフ周波数はサンプリング周波数の半分であるものとする。
【0022】
図2(a)には、入力ポート12に入力される解析対象信号の時間波形の例が示されている。横軸は時間tを示し、縦軸は解析対象信号のレベルを示す。図2(b−1)、(b−2)および(b−3)には、それぞれ、A/D変換器18−1、A/D変換器18−2およびA/D変換器18−3がサンプリングを行う際のタイミングが上向きの矢印によって概念的に示されている。A/D変換器18−1、A/D変換器18−2およびA/D変換器18−3のサンプリング周期は、それぞれ、τ1、τ2およびτ3であり、それぞれのサンプリング周波数の逆数に等しい。サンプリング周期τ2はτ1の半分であり、サンプリング周期τ3はτ1の4分の1である。
【0023】
図1および図2を参照して各A/D変換器が実行する処理について説明する。A/D変換器18−1は、時間t0からサンプリング時間τ1ごとに、フィルタ処理後の解析対象信号についてのサンプリング値を生成し、サンプル値メモリ20−1に記憶させる。時間t0から時間t11までの間にN個のサンプル値がサンプル値メモリ20−1に記憶される。ここで、Nは、後述の高速フーリエ変換の対象となるサンプル値の個数を表し、2以上の整数である。
【0024】
A/D変換器18−2は、時間t0からサンプリング時間τ2ごとに、フィルタ処理後の解析対象信号についてサンプリング値を生成し、サンプル値メモリ20−2に記憶させる。時間t0から時間t21までの間にN個のサンプル値がサンプル値メモリ20−2に記憶され、時間t21が経過してから時間t22までの間に、さらにN個のサンプル値がサンプル値メモリ20−2に記憶される。
【0025】
A/D変換器18−3は、時間t0からサンプリング時間τ3ごとに、フィルタ処理後の解析対象信号についてサンプリング値を生成し、サンプル値メモリ20−3に記憶させる。時間t0から時間t31までの間にN個のサンプル値がサンプル値メモリ20−3に記憶され、時間t31が経過してから時間t32までの間に、さらにN個のサンプル値がサンプル値メモリ20−3に記憶される。続いて、時間t32が経過してから時間t33までの間にN個のサンプル値がサンプル値メモリ20−3に記憶され、時間t33が経過してから時間t34までの間に、さらにN個のサンプル値がサンプル値メモリ20−3に記憶される。
【0026】
前段処理部14−1のサンプル値メモリ20−1にN個のサンプル値が記憶されると共に、前段処理部14−2のサンプル値メモリ20−2には、N個のサンプル値を含むサンプル値グループが2グループに亘って記憶される。同様に、前段処理部14−2のサンプル値メモリ20−2にN個のサンプル値が記憶されると共に、前段処理部14−3のサンプル値メモリ20−3には、N個のサンプル値を含むサンプル値グループが2グループに亘って記憶される。すなわち、前段処理部14−1のサンプル値メモリ20−1にN個のサンプル値が記憶されると共に、前段処理部14−3のサンプル値メモリ20−3には、N個のサンプル値を含むサンプル値グループが4グループに亘って記憶される。
【0027】
ここでは、3つの前段処理部について説明したが、周波数解析装置10が4つ以上の前段処理部を備える場合における4つ目以降の前段処理部についても同様である。すなわち、前段処理部14−(k−1)のサンプル値メモリ20−(k−1)でN個のサンプル値が記憶されると共に、前段処理部14−kのサンプル値メモリ20−kには、N個のサンプル値を含むサンプル値グループが2グループに亘って記憶される。
【0028】
図1を参照して引き続き周波数解析装置10の構成および動作について説明する。前段セレクタ22は、サンプル値メモリ20−1〜20−Pのうちの1つを選択し、その選択されたサンプル値メモリからFFT演算部24に至る情報経路を形成する。
【0029】
FFT演算部24は、フーリエ変換部としての機能を有し、高速フーリエ変換を実行する。FFT演算部24は、前段セレクタ22によって選択されたサンプル値メモリから、高速フーリエ変換の対象となるN個のサンプル値を読み込む。そして、N個のサンプル値に対して高速フーリエ変換を施し、M個の周波数成分値を含む周波数領域データを後段部26の後段セレクタ28に出力する。
【0030】
高速フーリエ変換は、サンプリング周期τで時間軸上に連なるN個のサンプル値を、周波数間隔1/(Nτ)で周波数軸上に連なるN個の周波数成分値に変換する処理である。Nは2以上の整数であり、高速フーリエ変換のポイント数と称される。
【0031】
高速フーリエ変換によって得られるN個の周波数成分値には、周波数軸上で重複する値が含まれる。そのため、FFT演算部24からは、周波数軸上での重複がなく、N個より少ないM個の周波数成分値が後段部26に出力されてもよい。また、M=Nとして、周波数スペクトラムの表示に必要な周波数成分値が後段部26で用いられてもよい。
【0032】
後段部26は、後段セレクタ28、周波数成分メモリ30−1〜30−P、統合部32−2〜32−P、合成部34および表示部36を備える。後段セレクタ28は、周波数成分メモリ30−1〜30−Pのうち、前段セレクタ22によって選択されたサンプル値メモリに対応するものを選択し、FFT演算部24からその選択された周波数成分メモリに至る情報経路を形成する。
【0033】
ここで、前段セレクタ22によって選択されたサンプル値メモリに対応する周波数成分メモリとは、図1の上から数えた段数が、そのサンプル値メモリと同一の周波数成分メモリをいう。例えば、周波数成分メモリ30−1は、サンプル値メモリ20−1に対応し、周波数成分メモリ30−2は、サンプル値メモリ20−2に対応する。すなわち、周波数成分メモリ30−jは、サンプル値メモリ20−jに対応する。
【0034】
前段セレクタ22は、サンプル値メモリ20−1〜20−Pのうち、N個のサンプリング値が記憶されたものがあるときは、それらN個のサンプリング値のうちの最後のサンプリング値が記憶されたタイミングに応じて、そのサンプル値メモリを選択する。それと共に後段セレクタ28は、前段セレクタ22が選択したサンプル値メモリに対応する周波数成分メモリを選択する。
【0035】
FFT演算部24は、前段セレクタ22によって選択されたサンプル値メモリから、N個のサンプル値を読み込み、高速フーリエ変換によってM個の周波数成分値を含む周波数領域データを生成する。FFT演算部24は、後段セレクタ28によって選択された周波数成分メモリに周波数領域データを出力し、周波数成分メモリに周波数領域データを記憶させる。
【0036】
これによって、サンプル値メモリにN個のサンプル値が記憶されるごとに、それらN個のサンプル値に対する高速フーリエ変換が施され、高速フーリエ変換によって得られた周波数領域データが、そのサンプル値メモリに対応する周波数成分メモリに記憶される。
【0037】
例えば、図2(b−3)に示されるように、時間t0から時間t31までの間にサンプル値メモリ20−3にはN個のサンプル値が記憶されるため、前段セレクタ22は、時間t31にサンプル値メモリ20−3を選択し、後段セレクタ28は周波数成分メモリ30−3を選択する。高速フーリエ変換によって周波数成分メモリ30−3には、時間t0から時間t31までの間に取得されたN個のサンプル値に対する周波数領域データが記憶される。
【0038】
また、時間t0から時間t21までの間にサンプル値メモリ20−2にはN個のサンプル値が記憶されるため、前段セレクタ22は、時間t21にサンプル値メモリ20−2を選択し、後段セレクタ28は周波数成分メモリ30−2を選択する。高速フーリエ変換によって周波数成分メモリ30−2には、時間t0から時間t21までの間に取得されたN個のサンプル値に対する周波数領域データが記憶される。
【0039】
さらに、時間t31が経過してから時間t32までの間にサンプル値メモリ20−3にはN個のサンプル値が記憶されるため、前段セレクタ22は時間t32に、サンプル値メモリ20−3を選択し、後段セレクタ28は周波数成分メモリ30−3を選択する。高速フーリエ変換によって周波数成分メモリ30−3には、時間t31が経過してから時間t31までの間に取得されたN個のサンプル値に対する周波数領域データが記憶される。
【0040】
このように、図2に示される例では、前段セレクタ22は、時間t31にサンプル値メモリ20−3を選択し、時間t21にサンプル値メモリ20−2を選択する。それ以降、前段セレクタ22は、時間t32、t33、t11、t22、t34に、それぞれ、サンプル値メモリ20−3、20−3、20−1、20−2、20−3を選択する。一方、後段セレクタ28は、時間t31、t21、t32、t33、t11、t22、t34に、前段セレクタ22が選択したサンプル値メモリに対応する周波数成分メモリとして、それぞれ、周波数成分メモリ30−3、30−2、30−3、30−3、30−1、30−2、30−3を選択する。後段セレクタ28によって選択された周波数成分メモリには、前段セレクタ22によって選択されたサンプル値メモリに記憶されたN個のサンプル値に対する周波数領域データが記憶される。
【0041】
なお、上記では、フーリエ変換部としてFFT演算部24が設けられ、FFT演算部24が高速フーリエ変換を実行する例について説明した。周波数解析装置10では、FFT演算部24に代えて、離散フーリエ変換を実行する演算部が設けられてもよい。高速フーリエ変換は、離散フーリエ変換において重複する処理を共通化して演算を簡略化し、離散フーリエ変換と同一の結果が得られるようにしたものである。したがって、高速フーリエ変換の代わりに、離散フーリエ変換が実行されたとしても、同一の周波数成分値が得られる。
【0042】
周波数解析装置10では、前段処理部14−1に対応して、1系列の周波数領域データが周波数成分メモリ30−1に記憶されると共に、前段処理部14−kに対応して、周波数成分メモリ30−kには、異なる時間帯に対する2k−1系列の周波数領域データが記憶される。統合部32−kは、周波数成分メモリ30−kに記憶された2k−1系列の周波数領域データを、後述の平均化等によって1系列の周波数領域データに統合する。合成部34は、周波数成分メモリ30−1に記憶された周波数領域データ、および統合部32−2〜32−Pのそれぞれから得られる周波数領域データを合成して周波数スペクトラムデータを生成し、周波数スペクトラムを表示部36に表示させる。
【0043】
周波数成分メモリ30−1に1系列の周波数領域データが記憶されると共に、周波数成分メモリ30−kに2k−1系列の周波数領域データが記憶される点について具体的に説明する。図2を参照して説明したように、サンプル値メモリ20−(k−1)にN個のサンプル値が記憶されると共に、サンプル値メモリ20−kには、N個のサンプル値を含むサンプル値グループが2グループに亘って記憶される。別の表現では、サンプル値メモリ20−1にN個のサンプル値が記憶されると共に、サンプル値メモリ20−kには、N個のサンプル値を含むサンプル値グループが2k−1グループに亘って記憶されるといえる。
【0044】
FFT演算部24は、高速フーリエ変換によって、N個のサンプル値に対し1系列の周波数領域データを出力する。したがって、1系列の周波数領域データが周波数成分メモリ30−1に記憶されると共に、周波数成分メモリ30−2には、異なる時間帯に対する2系列の周波数領域データが記憶される。また、1系列の周波数領域データが周波数成分メモリ30−1に記憶されると共に、周波数成分メモリ30−3には、異なる時間帯に対する4系列の周波数領域データが記憶される。
【0045】
すなわち、A/D変換器18−1(サンプリング部)によってサンプリング周波数fsでサンプリングされた解析対象信号に対して1系列の周波数領域データが得られると共に、A/D変換器18−k(高域サンプリング部)によってサンプリング周波数2k−1fsでサンプリングされた解析対象信号に対して2k−1系列の周波数領域データが得られる。
【0046】
統合部32−2〜32−Pは、複数系列の周波数領域データを1系列の周波数領域データに統合する。統合部32−2は、周波数成分メモリ30−2に記憶された2系列の周波数領域データについて周波数成分値ごとに平均値を求める。これによって、新たにM個の周波数成分値を求めて1系列の周波数領域データを生成する。具体的には、一方の周波数領域データに属する周波数0の周波数成分値と、他方の周波数領域データに属する周波数0の周波数成分値との平均値が、新たに周波数0の周波数成分値とされる。また、一方の周波数領域データに属する基本周波数の周波数成分値と、他方の周波数領域データに属する基本周波数の周波数成分値との平均値が、新たに基本周波数の周波数成分値とされる。さらに、一方の周波数領域データに属する2倍周波数の周波数成分値と、他方の周波数領域データに属する2倍周波数の周波数成分値との平均値が、新たに2倍周波数の周波数成分値とされる。3倍周波数より高次の周波数成分値についても同様である。
【0047】
同様に、統合部32−3は、周波数成分メモリ30−3に記憶された4系列の周波数領域データについて、周波数成分値ごとに平均値を求め、1系列の周波数領域データを生成する。
【0048】
すなわち、統合部32−kは、周波数成分メモリ30−kに記憶された2k−1系列の周波数領域データについて、周波数成分値ごとに平均値を求め、1系列の周波数領域データを生成する。これによって、周波数成分メモリ30−kに記憶された2k−1系列の周波数領域データが1つの周波数領域データに統合される。
【0049】
なお、統合部32−kは、周波数成分値ごとに平均値を求める代わりに、特定の周波数領域データに属する周波数成分値を大きく反映させる重み付け平均値を求めてもよい。また、統合部32−kは、特定の周波数領域データ、例えば、時間軸上で最後に得られた周波数領域データを1つの周波数領域データとして決定してもよい。
【0050】
合成部34は、周波数成分メモリ30−1に記憶された1系列の周波数領域データを読み込み、さらに、統合部32−2〜32−Pのそれぞれから1系列の周波数領域データを読み込む。これによって、合成部34は、サンプリング周波数fs、2fs、4fs、・・・・、2fsのそれぞれでサンプリングされた各解析対象信号について、1系列の周波数領域データを取得する。
【0051】
図3(a−1)には、サンプリング周波数fsに対して得られた周波数領域データに基づく周波数スペクトラムが示されている。横軸は周波数fを示し縦軸は各周波数成分値のレベルを示す。周波数軸上には、周波数0以上、最大周波数F1以下の周波数範囲に、fs/Nの周波数間隔で周波数成分値が上向きの矢印で示されている。最大周波数F1は、サンプリング周波数fsの半分である。
【0052】
図3(a−2)には、サンプリング周波数2fsに対して得られた周波数領域データに基づく周波数スペクトラムが示されている。周波数軸上には、周波数0以上、最大周波数F2=2F1以下の周波数範囲に、2fs/Nの周波数間隔で周波数成分値が上向きの矢印で示されている。
【0053】
図3(a−3)には、サンプリング周波数4fsに対して得られた周波数領域データに基づく周波数スペクトラムが示されている。周波数軸上には、周波数0以上、最大周波数F3=4F1以下の周波数範囲に、4fs/Nの周波数間隔で周波数成分値が上向きの矢印で示されている。
【0054】
一般的には、jを1以上の整数として、サンプリング周波数2j−1fsに対して、次のような周波数スペクトラムが示される。すなわち、周波数0以上、最大周波数Fj=2j−1F1での周波数範囲で、2j−1fs/Nの周波数間隔で周波数成分値が周波数軸上に示される。
【0055】
図1の合成部34は、0以上F1以下の周波数範囲については、サンプリング周波数fsに対して得られた周波数領域データに基づき周波数スペクトラムデータを生成する。また、F1を超えるF2以下の周波数範囲については、サンプリング周波数2fsに対して得られた周波数領域データに基づき周波数スペクトラムデータを生成する。さらに、合成部34は、F2を超えるF3以下の周波数範囲については、サンプリング周波数4fsに対して得られた周波数領域データに基づき周波数スペクトラムデータを生成する。すなわち、合成部34は、Fjを超えるF(j+1)以下の周波数範囲については、サンプリング周波数2fsに対して得られた周波数領域データに基づき周波数スペクトラムデータを生成する。
【0056】
このように、合成部34は、複数の周波数領域データにつき重複する周波数帯域について、サンプリング周波数が最も低いA/D変換器に対応して得られた周波数領域データに基づいて周波数スペクトラムデータを生成する。
【0057】
合成部34は、各周波数範囲に対して得られた周波数スペクトラムデータを表示部36に出力する。表示部36は、各周波数範囲を併せた周波数範囲で周波数スペクトラムを表示する。
【0058】
図4には、サンプリング周波数をfs、2fsおよび4fsとした場合の周波数スペクトラムが示されている。0以上F1以下の周波数範囲では、fs/Nの周波数間隔で周波数成分値が周波数軸上に並ぶ。また、F1を超えるF2以下の周波数範囲では、2fs/Nの周波数間隔で周波数成分値が周波数軸上に並ぶ。そして、F2を超えるF3以下の周波数範囲では、4fs/Nの周波数間隔で周波数成分値が周波数軸上に並ぶ。
【0059】
図4から明らかなように、サンプリング周波数2fs、・・・2fs、・・・2fsでサンプリングされた解析対象信号は、周波数帯域の低域側半分の成分が周波数スペクトラムに寄与しない。したがって、ローパスフィルタ16−2〜16−Pは、バンドパスフィルタに置き換えられてもよい。この場合、バンドパスフィルタの通過周波数帯域の上限は、例えば、バンドパスフィルタ後段のA/D変換器のサンプリング周波数の半分とし、通過周波数帯域の下限は、その上限の半分とする。
【0060】
周波数スペクトラムの周波数分解能は、周波数成分値が得られる周波数間隔によって定まる。そして、測定周波数の誤差は、周波数分解能を測定周波数で割った比として求められる。したがって、周波数成分値が得られる周波数間隔が一定であり、周波数分解能が一定である場合には、測定周波数が低い程、測定周波数の誤差が大きくなる。
【0061】
そこで、周波数解析装置10は、周波数領域データが重複して得られる周波数範囲については、サンプリング周波数が最も小さい条件で得られた周波数領域データに基づき周波数スペクトラムデータを生成する。これによって、一定のサンプリング周波数に対して得られた周波数スペクトラムデータに比べて、低域周波数帯での測定周波数の誤差が小さくなる。
【0062】
また、特許文献1に記載されている広帯域リアルタイム・デジタル・スペクトラム装置では、複数の周波数帯域について高速フーリエ変換を実行する複数のFFT演算部が必要である。そのため、装置の規模が大きくなるという問題が生じる。これに対し、周波数解析装置10では、複数の前段処理部14−1〜14−Pに対して共通の1つのFFT演算部24が用いられるため、装置の規模が小さくなる。
【符号の説明】
【0063】
10 周波数解析装置、12 入力ポート、14−1〜14−P 前段処理部、16−1〜16−P ローパスフィルタ、18−1〜18−P A/D変換器、20−1〜20−P サンプル値メモリ、22 前段セレクタ、24 FFT演算部、26 後段部、28 後段セレクタ、30−1〜30−P 周波数成分メモリ、32−2〜32−P 統合部、34 合成部、36 表示部。

図1
図2
図3
図4