特許第6263144号(P6263144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6263144製鋼スラグからカルシウムを含有する固体成分を回収する方法、および回収された固体成分
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263144
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】製鋼スラグからカルシウムを含有する固体成分を回収する方法、および回収された固体成分
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20180104BHJP
   C01F 11/18 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   C04B5/00 C
   C01F11/18 B
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-59468(P2015-59468)
(22)【出願日】2015年3月23日
(65)【公開番号】特開2016-179909(P2016-179909A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2017年7月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】福居 康
(72)【発明者】
【氏名】浅場 昭広
(72)【発明者】
【氏名】松尾 正一
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅也
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−100220(JP,A)
【文献】 韓国特許第2010−0998916(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00−32/02,
C04B40/00−40/06,
C04B103/00−111/94
C01F 11/18
C21C 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグからカルシウムを含有する固体成分を回収する方法であって
二酸化炭素を含有する水溶液に前記製鋼スラグを浸漬する第1工程と、
前記浸漬した製鋼スラグと前記水溶液とを分離する第2工程と、
前記製鋼スラグと分離した前記水溶液のpHを上げる第3工程と、
前記pHが上がった水溶液中に析出したカルシウムを含有する固体成分を回収する第4工程と、
前記第2工程と前記第3工程との間、前記第3工程と同時、または前記第3工程と前記第4工程との間に行われる、前記水溶液中の二酸化炭素の平衡圧力より低い二酸化炭素分圧を有する気体を前記水溶液中に導入して、前記水溶液から二酸化炭素を除去する第6工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記第3工程において、前記水溶液のpHを0.2以上上げる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第3工程は、前記水溶液にアルカリ性物質を投入する工程である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリ性物質を投入する工程は、製鋼スラグを水に浸漬して得られるスラグ浸出水を前記水溶液に添加する工程である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1工程の前に、前記製鋼スラグを水に浸漬してスラグ浸出水を得る第5工程をさらに含み、
前記スラグ浸出水は、前記第5工程で得たスラグ浸出水である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第6工程において、前記水溶液のpHが1.0上がる前に析出する固体成分を回収する第7工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
製鋼スラグからカルシウムを含有する固体成分を回収する方法であって
二酸化炭素を含有する水溶液に前記製鋼スラグを浸漬する第1工程と、
前記浸漬した製鋼スラグと前記水溶液とを分離する第2工程と、
炭酸カルシウムを含有する固体成分が析出するように、製鋼スラグを水に浸漬して得られるスラグ浸出水を前記水溶液に添加する第3工程と、
前記スラグ浸出水を添加した水溶液中に析出したカルシウムを含有する固体成分を回収する第4工程と、
を含む方法。
【請求項8】
前記第3工程において、前記スラグ浸出水は、添加した後の前記水溶液のpHが9.5以下となるように添加される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第2工程と前記第3工程との間、前記第3工程と同時、または前記第3工程と前記第4工程との間に行われる、前記水溶液中の二酸化炭素の平衡圧力より低い二酸化炭素分圧を有する気体を前記水溶液中に導入して、前記水溶液から二酸化炭素を除去する第6工程をさらに含む、請求項7または8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグからカルシウムを含有する固体成分を回収する方法、および前記回収方法によって回収される固体成分に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼工程で生じる製鋼スラグ(転炉スラグ、予備処理スラグ、二次精錬スラグ、電気炉スラグなど)には、リン(P)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)などの酸化物が含まれていることが知られている。具体的には、カルシウムは、製鋼スラグ中において、製鋼工程で投入される生石灰(CaO)がそのまま残存もしくは凝固過程で析出した遊離石灰として、または遊離石灰が空気中の水蒸気もしくは二酸化炭素と反応して生成した水酸化カルシウム(Ca(OH))もしくは炭酸カルシウム(CaCO)として存在している。
【0003】
製鋼スラグは、セメント材料、道路用路盤材、土木用材料および肥料を含む広い用途に用いられる(非特許文献1〜3参照)。しかし、製鋼スラグに含まれる遊離石灰は、水に触れたときに、製品を膨張させたり、高アルカリ水として溶出したりするため、取り扱いに注意が必要である(非特許文献1参照)。
【0004】
一方で、カルシウムは、炭酸カルシウムとして製鉄の焼結工程に使用される。また、カルシウムを焼成して得られる酸化カルシウムとして製鋼工程で使用される。また、酸化カルシウムに加水して得られる水酸化カルシウムは、排水工程で酸などの中和剤として使用される。したがって、製鉄工程で生じる製鋼スラグからカルシウムを回収することができれば、カルシウムの再利用が可能となり、製鉄のコストが削減できる。
【0005】
このため、以前から、製鋼スラグからカルシウムを回収する試みが行われている(特許文献1〜3参照)。
【0006】
特許文献1には、転炉スラグ中のカルシウムを溶出させた水溶液に二酸化炭素を吹き込んで、沈殿した炭酸カルシウムを回収する方法が記載されている。このとき、水への溶解性が高い炭酸水素カルシウムの生成を抑制するため、pHは下限値が10程度に維持される。特許文献1には、pHを10以上に維持する具体的な方法は記載されていないが、この方法を実施する際には、二酸化炭素の吹込み量を調整することでpHを10以上に維持するものと思われる。
【0007】
特許文献2には、破砕した製鋼スラグを鉄濃縮相およびリン濃縮相に分離し、リン濃縮相中のカルシウム成分を炭酸水素カルシウムとして二酸化炭素を溶解させた洗浄水に溶解させ、その後、洗浄水を50〜60℃程度に加熱して、洗浄水中の炭酸水素カルシウムを炭酸カルシウムとして沈殿させる方法が記載されている。
【0008】
特許文献3には、製鋼スラグからカルシウム化合物を複数回に分けて溶出させる方法が記載されている。この回収方法では、二酸化炭素を吹き込んだ水に製鋼スラグ(予備処理スラグ)を複数回浸漬することで、2CaO・SiO相およびこの相に固溶したリンが優先的に溶出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭55−100220号公報
【特許文献2】特開2010−270378号公報
【特許文献3】特開2013−142046号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】中川雅夫、「鉄鋼スラグの有効利用の状況」、第205・206回西山記念技術講座講演テキスト、一般社団法人 日本鉄鋼協会、2011年6月、p.25−56
【非特許文献2】「環境資材 鉄鋼スラグ」、鉄鋼スラグ協会、2014年1月
【非特許文献3】二塚貴之ら、「鉄鋼スラグから人工海水への成分溶出挙動」、鉄と鋼、Vol.89、No.4、2014年1月、p.382−387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、製鋼スラグからカルシウムを回収することによる利点は多いため、製鋼スラグからのカルシウムの回収率をより高めたいという要望は常に存在する。
【0012】
特許文献1に記載の方法では、二酸化炭素を多く吹込めばpHが10より低くなるし、逆に二酸化炭素の吹込み量を少なくすればカルシウムの析出量は減少する。そのため、カルシウムの回収率を高めようとすると、二酸化炭素の吹込み量を精密に調節する必要があるため、回収工程が煩雑となり、回収コストが高くなってしまう。
【0013】
特許文献2に記載の方法では、リン濃縮相中のカルシウムは回収できるが、鉄濃縮相中のカルシウムを回収できない。そのため、製鋼スラグからのカルシウムの回収率を高めようとすると、鉄濃縮相中のカルシウムを回収する工程が別に必要となり、回収工程が煩雑となり、回収コストが高くなってしまう。
【0014】
特許文献3に記載の方法では、カルシウムの回収率を高めようとすると、カルシウム化合物を溶解させる工程の回数をさらに増やす必要が生じる。そのため、回収工程および回収したカルシウム化合物を合一させる工程が煩雑となり、回収コストが高くなってしまう。
【0015】
このように、従来の方法では、カルシウムの回収率を高めようとすると、回収工程が煩雑となり、回収コストが高くなってしまうという問題があった。
【0016】
上記の問題に鑑み、本発明は、カルシウムの回収率を容易に高めることができる、製鋼スラグからカルシウムを含有する固体成分を回収する方法、およびこの回収方法により得られるカルシウムを含む固体成分を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1は、以下の固体成分を回収する方法に関する。
[1]製鋼スラグからカルシウムを含有する固体成分を回収する方法であって
二酸化炭素を含有する水溶液に前記製鋼スラグを浸漬する第1工程と、
前記浸漬した製鋼スラグと前記水溶液とを分離する第2工程と、
前記製鋼スラグと分離した前記水溶液のpHを上げる第3工程と、
前記pHが上がった水溶液中に析出した固体成分を回収する第4工程と、
を含む方法。
[2]前記第3工程において、前記カルシウムが溶出した水溶液のpHを0.2以上上げる、[1]に記載の方法。
[3]前記第3工程は、前記水溶液にアルカリ性物質を投入する工程である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記アルカリ性物質を投入する工程は、製鋼スラグを水に浸漬して得られるスラグ浸出水を前記水溶液に添加する工程である、[3]に記載の方法。
[5]前記第1工程の前に、前記製鋼スラグを水に浸漬してスラグ浸出水を得る第5工程をさらに含み、
前記スラグ浸出水は、前記第5工程で得たスラグ浸出水である、[4]に記載の方法。
[6]前記第2工程と前記第3工程との間、前記第3工程と同時、または前記第3工程と前記第4工程との間に、前記水溶液から二酸化炭素を除去する第6工程をさらに含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記第6工程は、前記水溶液中の二酸化炭素の平衡圧力より低い二酸化炭素分圧を有する気体を前記水溶液中に導入する工程である、[6]に記載の方法。
[8]前記第6工程は、前記水溶液を減圧環境下に置く工程である、[6]に記載の方法。
[9]前記第6工程は、前記水溶液を加熱する工程である、[6]に記載の方法。
[10]前記第6工程において、前記水溶液のpHが1.0上がる前に析出する固体成分を回収する第7工程をさらに含む、[6]〜[9]のいずれかに記載の方法。
【0018】
本発明の第2は、以下の固体成分に関する。
[11][1]〜[10]のいずれかに記載の方法によって回収される固体成分であって、
カルシウム原子を、固体成分の全質量に対して20質量%以上含有する、
固体成分。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、カルシウムの回収率が高く、かつ、容易に行えるため回収コストも低い、製鋼スラグからのカルシウムの回収方法が提供される。また、本発明によれば、この回収方法により得られるカルシウムを含む固体成分が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明における第1の回収方法のフローチャートである。
図2図2は、本発明における第2の回収方法のフローチャートである。
図3図3は、本発明における第3の回収方法のフローチャートである。
図4図4は、本発明における第4の回収方法のフローチャートである。
図5図5は、本発明における第5の回収方法のフローチャートである。
図6図6は、実施例10における水溶液3のpHおよびカルシウム溶解量の推移を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な回収方法の例を説明する。
【0022】
1.第1の回収方法
図1は、本発明の一実施の形態に係るカルシウムの回収方法(以下、「第1の回収方法」ともいう。)のフローチャートである。図1に示されるように、本実施の形態に係るカルシウムの回収方法は、二酸化炭素を含有する水溶液に製鋼スラグを浸漬する工程、前記浸漬した製鋼スラグと前記水溶液とを分離する工程、製鋼スラグと分離した前記水溶液のpHを上げる工程、および前記水溶液に析出した固体成分を回収する工程を含む。
【0023】
第1の回収方法によれば、従来よりも簡単な方法で、製鋼スラグ由来のカルシウムを多く含む固体成分を回収することができる。また、第1の回収方法に用いた後の水溶液は、カルシウム、マンガンおよびリン等の含有量が少ないため、排水処理を簡素化するかまたは不要にして、排水処理のコストを抑制することができる。
【0024】
[第1工程:二酸化炭素を含有する水溶液への製鋼スラグの浸漬]
本工程では、二酸化炭素を含有する水溶液(以下、単に「水溶液」ともいう。)に製鋼スラグを浸漬して、製鋼スラグ中のカルシウムを水溶液中に溶出させる(工程S110)。
【0025】
本工程において、あらかじめ二酸化炭素を溶解させた水に製鋼スラグを浸漬させてもよいし、製鋼スラグを水に浸漬した後に二酸化炭素を水に溶解させてもよい。なお、製鋼スラグを水溶液に浸漬している間は、反応性を高める観点から、これらを攪拌することが好ましい。
【0026】
二酸化炭素は、たとえば、二酸化炭素を含むガスのバブリング(吹込み)によって水に溶解させることができる。製鋼スラグからのカルシウムの溶出性を高める観点からは、水溶液には、30ppm以上の二酸化炭素が溶解していることが好ましい。
【0027】
前記二酸化炭素を含むガスは、純粋な二酸化炭素ガスでもよいし、二酸化炭素以外の成分(たとえば、酸素または窒素)を含むガスでもよい。前記二酸化炭素を含むガスの例には、燃焼後の排ガス、ならびに、二酸化炭素、空気および水蒸気の混合ガスが含まれる。水溶液中の二酸化炭素濃度を高めて、製鋼スラグから水溶液中へのカルシウム化合物(ケイ酸カルシウムなど)の溶出性を高める観点からは、前記二酸化炭素を含むガスは、二酸化炭素を高濃度(例えば、90%)で含むことが好ましい。
【0028】
なお、カルシウムが溶出する際に、カルシウムと二酸化炭素とが反応して水溶性の炭酸水素カルシウムが生成するため、カルシウムの溶解に伴い水溶液中の二酸化炭素は減少する。そのため、製鋼スラグを水溶液に浸漬した後も水溶液に二酸化炭素を供給し続けることが好ましい。
【0029】
製鋼スラグは、製鋼工程で排出されるスラグであればよい。製鋼スラグの例には、転炉スラグ、予備処理スラグ、二次精錬スラグおよび電気炉スラグが含まれる。
【0030】
製鋼スラグは、製鋼工程で排出されたものをそのまま使用してもよいが、排出された後に破砕したものを使用してもよい。本工程において製鋼スラグと水溶液との接触面積を大きくして、カルシウムを水溶液に溶出しやすくする観点からは、破砕された製鋼スラグの最大粒径は、1000μm以下であることが好ましい。製鋼スラグは、公知の破砕機によって上記範囲まで破砕することができる。製鋼スラグと水溶液との接触面積をより大きくする観点からは、さらに、最大粒径が100μm以下になるまで製鋼スラグを粉砕してもよい。製鋼スラグは、たとえば、ローラミルまたはボールミルによって上記範囲まで粉砕することができる。
【0031】
水溶液中への鉄の不要な溶出を防ぐ観点から、浸漬前に製鋼スラグから金属鉄を除去してもよい。金属鉄は、公知の磁力選別機によって製鋼スラグから除去することができる。金属鉄の除去効率を上げる観点からは、製鋼スラグを破砕した後に金属鉄を除去することが好ましく、製鋼スラグを粉砕した後に金属鉄を除去することがより好ましい。
【0032】
製鋼スラグ中のカルシウムを十分に溶出させる観点からは、水溶液中のスラグの量は1g/L以上100g/L以下であることが好ましく、2g/L以上40g/L以下であることがさらに好ましい。また、製鋼スラグ中のカルシウムを十分に溶出させる観点からは、浸漬は3分以上行うことが好ましく、5分以上行うことがより好ましい。
【0033】
[第2工程:製鋼スラグと水溶液との分離]
本工程では、リンおよびカルシウムが溶解した水溶液(上澄み液)と、製鋼スラグとを分離する(工程S120)。分離は、公知の方法で行うことができる。分離方法の例には、濾過、および水溶液を静置して製鋼スラグを沈殿させる方法が含まれる。スラグを沈殿させた場合、さらに上澄み液のみを回収してもよいし、後の工程で析出する固体成分が製鋼スラグと混じらない限りにおいて、上澄み液および沈殿した製鋼スラグを含む2成分系において、上澄み液に対してのみこれ以降の工程を行ってもよい。
【0034】
[第3工程:水溶液のpH上昇]
本工程では、製鋼スラグと分離した前記水溶液のpHを上げる(工程S150)。水溶液のpHを上げることで、カルシウムを含む固体成分が水溶液中に析出する。pHを上げると、水溶液中の水素イオン(H)量が減少するため、下記の平衡式(式1)において、炭酸水素イオン(HCO)が水素イオン(H)と炭酸イオン(CO2−)とに分離する方向に平衡が移動する。本工程では、こうして増加した炭酸イオンが、カルシウムイオンと結合して難溶性の炭酸カルシウム(CaCO)となることにより、カルシウムが析出すると考えられる。
HCO ⇔ H + CO2− (式1)
【0035】
カルシウムが析出しはじめると、炭酸カルシウムによる白濁が水溶液中に生じる。水溶液のpHは、目視でこの白濁が確認できる程度に上げれば十分である。カルシウムをより十分に析出させて、カルシウムの回収率をより高める観点からは、第2工程(工程S120)において製鋼スラグと分離した水溶液のpHに対して、pHを0.2以上上げることが好ましく、0.3以上上げることがより好ましく、1.0以上上げることがさらに好ましく、1.5以上上げることがさらに好ましく、2.0以上上げることがさらに好ましい。
【0036】
第3工程は、水溶液のpHを測定しながら行うことが好ましい。水溶液のpHは、公知のガラス電極法で測定することができる。
【0037】
水溶液のpHは、たとえば、水溶液にアルカリ性物質を投入することで、上げることができる。水溶液に投入することができるアルカリ性物質の例には、水酸化カルシウム、アンモニアおよび水酸化ナトリウムが含まれる。水酸化カルシウム、アンモニアまたは水酸化ナトリウムを投入するときは、これらの物質を水に溶解させた溶液を、前記水溶液に添加するとよい。水酸化カルシウム、アンモニアおよび水酸化ナトリウムは市販のものでもよいし、廃液その他の液体中に含まれるものでもよい。廃液中の水酸化カルシウムを投入する場合、たとえば、炭化カルシウム(カルシウムカーバイド)と水とを反応させてアセチレンを製造する際に生じる廃液を前記水溶液に添加することができる。また、水酸化カルシウムを投入する場合、製鋼スラグを水に浸漬させることで生じるスラグ浸出水を前記水溶液に投入してもよい。スラグ浸出水は、カルシウムを回収しようとしている製鋼スラグを、第1工程(工程S110)の前に水に浸漬して得てもよい(後述する第2の回収方法を参照。)し、別の製鋼スラグを水に浸漬して得てもよい。
【0038】
なお、後述する第6工程(工程S130)のように二酸化炭素を除去することによっても水溶液のpHは上がるが、本発明において、二酸化炭素の除去は第3工程には含まれない。本発明の第3工程においては、アルカリ性物質の投入等により水溶液中のpHを上昇させることで、二酸化炭素の除去よりもカルシウム回収率を高めることができる。
【0039】
水溶液のpHを上げると、水溶液に含まれる鉄、マンガンおよびリン等の元素も前記固体成分として析出する。そのため、本発明の方法によりカルシウムを回収した後の水溶液は、排水処理を簡素化するかまたは不要にして、排水処理のコストを抑制することができる。
【0040】
[第4工程:固体成分の回収]
本工程では、第3工程で析出した固体成分を回収する(工程S160)。析出した固体成分は、減圧濾過および加圧濾過を含む公知の方法により、回収することができる。この固体成分には、製鋼スラグ由来のカルシウムが含まれる。
【0041】
2.第2の回収方法
図2は、本発明の別の実施の形態に係るカルシウムの回収方法(以下、「第2の回収方法」ともいう。)のフローチャートである。第2の回収方法は、第1の回収方法において、第1工程(工程S110)の前に、製鋼スラグを水に浸漬してスラグ浸出水を得る第5工程をさらに含み、第5工程で得たスラグ浸出水を第4工程(工程S160)で水溶液に投入する。以下、第1の回収方法と重複する記載は省略する。
【0042】
第2の回収方法によれば、製鋼スラグからのカルシウムの回収率をより高めることができる。
【0043】
[第5工程:水への製鋼スラグの浸漬]
本工程では、製鋼スラグを水に浸漬して、カルシウムを水中に溶出させる(工程S100)。本工程において、製鋼スラグに含まれる遊離石灰が、水和反応により水酸化カルシウムとなって、水に溶出する。あらかじめ本工程において遊離石灰を溶出させることで、製鋼スラグからのカルシウムの回収率をより高めることができる。
【0044】
カルシウムが溶出したスラグ浸出水は、水酸化カルシウムを多く含むため、強いアルカリ性を示す。そのため、このスラグ浸出水は、第4工程(工程S160)において、水溶液のpHを上げるために水溶液に投入することができる。また、スラグ浸出水を第4工程において投入することで、排水処理が不要になるため、カルシウム回収のコストが軽減される。このとき、スラグ浸出水中のカルシウムイオンも、水溶液中の炭酸水素イオンと反応して生成する炭酸カルシウムとして、アルカリ性の条件下で析出する。この、スラグ浸出水に含まれていたカルシウムも、析出後に第4工程で回収されるため、製鋼スラグからのカルシウム回収率がより高まる。また、スラグ浸出水中のカルシウムと前記水溶液中のカルシウムを、同一の固体成分として一度に回収できるため、回収したカルシウム化合物を合一させる工程は必要とならない。
【0045】
水に浸漬する製鋼スラグは、第1工程(工程S110)で水溶液に浸漬する製鋼スラグと同一のものでもよいし、別の製鋼スラグでもよい。図2に示すように同一の製鋼スラグを用いることで、その製鋼スラグからのカルシウムの回収率をより高めることができる。別の製鋼スラグを用いることで、第5工程と他の工程とを同時に並行して行うことができ、作業効率をより高めることができる。
【0046】
3.第3の回収方法
図3は、本発明のさらに別の実施の形態に係るカルシウムの回収方法(以下、「第3の回収方法」ともいう。)のフローチャートである。第3の回収方法は、第1の回収方法において、第2工程(工程S120)と第4工程(工程S160)との間に、水溶液から二酸化炭素を除去する第6工程をさらに含む。以下、第1の回収方法と重複する記載は省略する。
【0047】
第3の回収方法によれば、アルカリ性物質の投入量を少なくすることができるため、カルシウムの回収がより容易かつ安価となる。
【0048】
[第6工程:二酸化炭素の除去]
本工程では、第2の工程(工程S120)で製鋼スラグと分離した水溶液から二酸化炭素を除去する(工程S130)。二酸化炭素を除去することで、第1の工程(工程S110)で水溶液中に溶出したカルシウムが析出する。そのため、二酸化炭素の除去(第6工程、工程S130)と水溶液のpHの上昇(第3工程、工程S150)とを組みあわせることで、カルシウムの回収率をより高めることができる。このとき析出されるカルシウム化合物の例には、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム水和物、および水酸化カルシウムが含まれる。
【0049】
水溶液から二酸化炭素を除去する方法は、特に限定されない。二酸化炭素を除去する方法の例には、(1)ガスの導入、(2)減圧および(3)加熱が含まれる。
【0050】
(1)ガスの導入
水溶液中の二酸化炭素の平衡圧力よりも低い二酸化炭素分圧を有するガスを水溶液中に導入することで、溶解している二酸化炭素と導入したガスとを置換もしくは導入したガスのバブル中に二酸化炭素を拡散(移行)させて、二酸化炭素を水溶液から除去することができる。水溶液中に導入するガスは、水との反応性が低いことが好ましく、水との反応性が低い限りにおいて、無機系ガスでもよく、有機系ガスでもよい。これらのうち、外部に漏れても燃焼や爆発の可能性が少ないことから、無機系ガスがより好ましい。無機系ガスの例には、空気、窒素、酸素、水素、アルゴンおよびヘリウムならびにこれらの混合ガスが含まれる。混合ガスには、窒素と酸素とをおおよそ4:1の割合で含む、本工程を実施する環境の空気が含まれる。有機系ガスの例には、メタン、エタン、エチレン、アセチレンおよびプロパンが含まれる。一方で、水と反応するガス(塩素ガス、亜硫酸ガスなど)は、水溶液中に導入することにより生成するイオン(塩素イオン、硫酸イオンなど)が、水中に溶出したカルシウムと塩を形成し、カルシウムの析出量を減少させるため、好ましくない。
【0051】
(2)減圧
1気圧(約100kPa)付近およびそれ以下の圧力環境下では、水溶液にかかる圧力が低くなると、二酸化炭素の溶解度が減少する。そのため、水溶液を減圧環境下に置くことで、二酸化炭素を水溶液から除去することができる。たとえば、水溶液を密閉容器に入れて、ポンプなどにより容器内の空気を排出(脱気)して、容器内を減圧雰囲気にすることにより、二酸化炭素を除去することができる。二酸化炭素の除去量をより多くする観点からは、減圧に加えて、水溶液への超音波の印加、または水溶液の攪拌を同時に行ってもよい。
【0052】
(3)加熱
1気圧(約100kPa)付近およびそれ以下の圧力環境下では、水溶液の温度が高くなると、二酸化炭素の溶解度が減少する。そのため、水溶液を加熱することにより、二酸化炭素を水溶液から除去することができる。このとき、加熱コストを低くする観点から、水の蒸気圧が雰囲気圧力を超えない範囲内の温度に加熱することが好ましい。たとえば、雰囲気圧力が1気圧の場合、加熱温度は、100℃未満であることが好ましい。水溶液を加熱すると、二酸化炭素が除去されるだけでなく、カルシウム化合物(炭酸カルシウム)の溶解度が低下するため、カルシウムがより析出しやすくなる。
【0053】
二酸化炭素の除去量をより多くする観点からは、上記(1)〜(3)を組み合わせて行ってもよい。なお、これらの組合せは、ガスや熱の供給体制、立地、工場内副生ガスの利用などを考慮して、最適な組合せを選べばよい。
【0054】
例えば、ガスを水溶液中に導入しながら、ガスの導入量以上に排気して、減圧雰囲気することにより、ガスの導入による二酸化炭素の除去の効果と撹拌効果、および水溶液の減圧による二酸化炭素の除去の効果が得られ、二酸化炭素を効率的に除去できる。このとき、さらに加熱することにより、二酸化炭素の除去の効果がさらに促進される。また、このとき、ガスの水溶液中への導入の効果と水溶液の減圧との相加効果により、二酸化炭素を容易に除去することができるため、加熱温度を高くする必要がなく、加熱コストを削減できる。
【0055】
第6工程(工程S130)は、第3工程の前(第2工程(工程S120)と第3工程(工程S150)との間)に行ってもよいし、第3工程(工程S150)と同時に行ってもよいし、第3工程の後(第3工程(工程S150)と第4工程(工程S160)との間)に行ってもよい。なお、スラグ浸出水は多量には得られないため、第1の回収方法または第2の回収方法において、第3工程(工程S150)でスラグ浸出水を投入しようとしても、カルシウムを十分に析出させることができる量のスラグ浸出水が入手できないことがある。しかし、第6工程(工程S130)を第3工程(工程S150)の前に行うことで、少量のスラグ浸出水を用いる場合でもカルシウムの回収率をより高めることができる。
【0056】
4.第4の回収方法
図4は、本発明のさらに別の実施の形態に係るカルシウムの回収方法(以下、「第4の回収方法」ともいう。)のフローチャートである。第4の回収方法は、第2の回収方法において、第2工程(工程S120)と第4工程(工程S160)との間に、水溶液から二酸化炭素を除去する第6工程(工程S130)をさらに含む。第6工程については、第3の回収方法と同様に行い得るため、重複する記載は省略する。
【0057】
第4の回収方法によれば、カルシウムの回収率がより高まるという第2の回収方法の効果と、カルシウムの回収がより容易かつ安価となるという第3の回収方法の効果とがいずれも奏される。
【0058】
5.第5の回収方法
図5は、本発明のさらに別の実施の形態に係るカルシウムの回収方法(以下、「第5の回収方法」ともいう。)のフローチャートである。第5の回収方法は、第3の回収方法または第4の回収方法において、第6工程(工程S130)の途中に固体成分の回収を行う第7工程をさらに含む。なお、図5は、第4の回収方法において、第7工程をさらに含む態様を示すが、第3の回収方法においても、第7工程を同様に含むことが可能である。以下、第3の回収方法または第4の回収方法と重複する記載は省略する。
【0059】
第5の回収方法によれば、リン化合物の含有量が多い固体成分と、リン化合物の含有量が少ない固体成分とを別個に得ることができる。
【0060】
[第7工程:固体成分の回収]
本工程では、第6工程において析出した固体成分を回収する(工程S140)。
【0061】
第6工程(工程S130)において水溶液から二酸化炭素を除去することにより、水溶液中のリンがカルシウムとともに析出する。析出されるリン化合物の例には、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウムおよびヒドロキシアパタイトが含まれる。
【0062】
このとき、リンはカルシウムよりも析出しやすいため、第6工程(工程S130)の初期に析出する固体成分(以下、「初期析出物」ともいう。)に含まれるリンの含有比はより高く、遅れて析出する固体成分(以下、「後期析出物」ともいう。)に含まれるリンの含有比はより低い。そのため、第6工程の途中で、初期析出物を回収することで、リンの比率がより高い固体成分(第7工程)とリンの比率がより低い固体成分(第4工程)とを分離して回収することができる。
【0063】
製鋼スラグから回収したリン化合物は、リン資源として再利用できる。よって、リン化合物の含有量が多い固体成分を回収すると、リンの再利用が容易となる。また、製鋼スラグから回収したカルシウム化合物は、製鉄原料として再利用できるが、この製鉄原料がリン化合物を含んでいると、鉄が脆くなる。よって、製鉄原料として再利用する固体成分には、リン化合物の含有量が少ないほうがよい。したがって、リンおよびカルシウムを含む水溶液から、リン化合物の含有量が多い固体成分と、リン化合物の含有量が少ない固体成分とを別個に得ると、回収した固体成分の精製が容易または不要になり、かつ、回収した固体成分を用いた製品の品質をより向上させることができる。
【0064】
前述したように、第6工程(工程S130)において、二酸化炭素の除去により水溶液のpHが上がる。このとき、リンは、水溶液のpHが1.0上がるまでにその大部分が析出する。そのため、初期析出物中のリンの含有比をより高め、かつ、後期析出物中のカルシウムの含有比をより高める観点からは、第7工程(工程S140)は、第6工程において、pHが1.0上がる以前に行うことが好ましく、0.6上がる以前に行うことがより好ましく、0.4上がる以前に行うことがさらに好ましい。
【0065】
6.回収した固体成分
本発明の第1の回収方法〜第5の回収方法のいずれかにおいて、第4工程(工程S160)によって回収される固体成分は、カルシウム原子を、固体成分の全質量に対して20質量%以上含有する。カルシウムは、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウムまたは水酸化カルシウムなどの形態で固体成分中に含まれている。固体成分中のカルシウムの含有量は、ICP発光分光分析法によって求めることができる。
【0066】
この固体成分は、カルシウムの含有量が多いため、その後のカルシウムの回収が容易である。また、この固体成分は、製鉄原料として好ましく再利用できる。
【0067】
特に、前記第5の回収方法において第7工程(工程S140)によって得られる初期析出物は、リンの含有量が多いため、その後のリンの回収が容易である。
【0068】
また、前記第5の回収方法において第4工程(工程S160)によって得られる後期析出物は、リンの含有量が少なく、かつ、カルシウムの含有量が多いため、その後のカルシウムの回収が容易である。また、この後期析出物は、製鉄原料として好ましく再利用できる。
【0069】
7.回収後の水溶液
本発明の第1の回収方法〜第5の回収方法のいずれかにおいて、第4工程(工程S160)によって固体成分を回収した後の水溶液は、カルシウム、リンおよびマンガンを含む金属イオンの含有量が少ない。特に、この水溶液は、残留カルシウム濃度が低いため、高アルカリ性を示すことによる環境への負荷が小さく、かつ、カルシウムの析出による配管の詰まり等が生じにくい。そのため、この水溶液は、排出しても環境への負荷が少なく、排水処理が不要であるか、または排水処理の負担が少なくてよい。また、この水溶液は、金属イオンの含有量が少ないため、回収して、工場内における洗浄水および冷却水を含む用途に安全に再利用することができる。
【0070】
以下、本発明について実施例を参照してより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明の範囲を以下に記載の具体的方法に限定するものではない。
【実施例】
【0071】
[実験1〜6]
実験1〜6では、二酸化炭素の除去および固体成分の回収をそれぞれ1回行った例を示す。
【0072】
表1に記載の成分比率を有する製鋼スラグを準備した。なお、製鋼スラグの成分は、ICP発光分光分析法によって測定した。最大粒径が200μmとなるように、ハンマーミルを用いてスラグを粉砕した。また、粉砕したスラグの最大粒径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置、および目開き200μmの篩を用いて確認した。
【0073】
【表1】
【0074】
1.二酸化炭素を含有する水溶液への製鋼スラグの浸漬
容器に充填された20Lの水に、粉砕したスラグ(0.1kg)を投入してスラグ懸濁液を調製した。次いで、調製したスラグ懸濁液内に、二酸化炭素を20L/minで吹込みながら、インペラを用いてスラグ懸濁液を30分間攪拌した。このときの二酸化炭素濃度は、30ppm以上であった。
【0075】
2.製鋼スラグと水溶液との分離
攪拌後のスラグ懸濁液を静置して、スラグを沈殿させた。その後、上澄み液を回収し、フィルターを用いた濾過によって浮遊物を除去した(この上澄み液を、以降、「水溶液1」とする。)。ICP発光分光分析法で測定した水溶液1が含有する成分および各成分の量を表2に示す。水溶液1のpHは6.4だった。
【0076】
【表2】
【0077】
3−1.カルシウムの析出(水溶液のpH上昇)
水溶液のpHをガラス電極法で測定しながら、(1)水酸化カルシウムの投入、または(2)スラグ浸出水の添加により、前記水溶液1のpHを上昇させ、カルシウムを含む固体成分を析出させた。
【0078】
(1)水酸化カルシウムの投入(実験No.1)
水酸化カルシウムを水に溶解させ、pHが12.5、Caイオン濃度が530mg/Lである水酸化カルシウム水溶液を調製した。2Lの前記水溶液1に対して、この水酸化カルシウム水溶液を添加した。このとき、水酸化カルシウム水溶液を4.3L添加すると、pHが2.1上昇して8.5となり、水酸化カルシウム水溶液を4.5L添加すると、pHが2.6上昇して9.0となった。
【0079】
(2)スラグ浸出水の添加(実験No.2)
別の製鋼スラグを水中で撹拌し、スラグ浸出水1を得た。スラグ浸出水1のpHは12.2だった。ICP分光分析法で測定したスラグ浸出水1が含有する成分および各成分の量を表3に示す。2Lの前記水溶液1に対して、スラグ浸出水1を添加した。このとき、スラグ浸出水1を6.9L添加すると、pHが2.1上昇して8.5となった。
【0080】
【表3】
【0081】
3−2.カルシウムの析出(二酸化炭素の除去)
比較のため、水溶液1のpHをガラス電極法で測定しながら、(3)空気の吹込み、(4)Nの吹込み、(5)減圧および撹拌、ならびに(6)加熱のいずれかの方法により、カルシウムを含む固体成分を析出させた。
【0082】
(3)空気の吹込み(実験No.3)
水溶液1に室内の空気を2L/minで吹込んだ。
【0083】
(4)Nの懸濁(実験No.4)
水溶液1を蓋付きの容器に入れ、その上部の水溶液1がない空間にNを1L/minで流し込んだ。このとき、Nが十分に懸濁するように、液面で水車を回転させた。
【0084】
(5)減圧および撹拌(実験No.5)
水溶液1を容器に投入し、密閉した。水溶液1の界面付近の空気がゲージ圧−0.08MPaとなるように容器を減圧し、同時にインペラを用いて水溶液1を攪拌した。
【0085】
(6)加熱(実験No.6)
水溶液1をヒーターで80℃に加熱した。
【0086】
4.固体成分の回収
上記1〜3−1または1〜3−2の工程を独立して複数回行い、pHが0.3、0.6、1.1、1.6、2.1または2.6上がった時点(それぞれ、水溶液のpHが6.7、7.0、7.5、8.0、8.5または9.0になった時点)で、フィルターを用いて、析出した固体成分を含む水溶液1を加圧濾過して、固体成分を回収した。なお、実験No.4で加熱した水溶液1については、液温が低下しないように加温しながら加圧濾過して、固体成分を回収した。
【0087】
5.固体成分に含まれるカルシウム回収率の算出
回収した固体成分中のカルシウム濃度を、ICP発光分光分析法により測定した。上記ICP発光分光分析法により測定されたカルシウム量を、水溶液1が含有していたカルシウム量で除算して、カルシウム回収率を求めた。なお、(1)水酸化カルシウムの投入(実験1)および(2)スラグ浸出水の添加(実験2)によるpH上昇では、添加した水酸化カルシウム水溶液およびスラグ浸出水1中に含まれていたカルシウムも上記ICP発光分光分析法によって測定されたカルシウム量に含まれる。そのため、実験1および実験2におけるカルシウム回収率は、上記ICP発光分光分析法により測定されたカルシウム量を、水溶液1が含有していたカルシウム量とスラグ浸出水1が含有していたカルシウム量との和で、除算した値とした。
【0088】
6.結果
カルシウム析出条件、固体成分回収時の水溶液1のpHおよびカルシウム回収率を表4に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
表4に示されるように、水溶液1のpHを上げることで、カルシウムを含有する固体成分が得られた。pHの上昇幅を大きくすると、90%以上という高い回収率を達成できた。特に、pHを0.6以上上げることで、35%以上のカルシウムを回収することができ、pHを1.1以上上げることで、75%以上のカルシウムを回収することができ、pHを1.6以上上げることで、90%以上のカルシウムを回収することができた。また、アルカリ性物質の投入によるカルシウムの回収率は、他の方法(二酸化炭素の除去)と同程度に高かった。
【0091】
また、水溶液のpHは、アルカリ性物質の投入量を増やすことで容易に上げることができた。
【0092】
参考のために、それぞれの方法で得られた代表的な固体成分について、回収したときのpHおよび組成を表5に示す。
【0093】
【表5】
【0094】
[実験7〜9]
実験7〜9では、二酸化炭素の除去およびpHの上昇を組みあわせて行った例を示す。
【0095】
1.二酸化炭素を含有する水溶液への製鋼スラグの浸漬
実験1と同様の手順により、二酸化炭素を含有する水溶液に製鋼スラグを浸漬した。
【0096】
2.製鋼スラグと水溶液との分離
実験1と同様の手順により、二酸化炭素を含有する水溶液と製鋼スラグとを分離して、上澄み液を回収し、フィルターを用いた濾過によって浮遊物を除去した水溶液(以降、「水溶液2」とする。)を回収した。ICP発光分光分析法で測定した水溶液2中が含有する成分および各成分の量を表6に示す。水溶液2のpHは6.3だった。
【0097】
【表6】
【0098】
3−1.カルシウムの析出1(実験No.7)
別の製鋼スラグを水中で撹拌し、スラグ浸出水2を得た。スラグ浸出水2のpHは11.9だった。ICP発光分光分析法で測定したスラグ浸出水2が含有する成分および各成分の量を表7に示す。
【0099】
【表7】
【0100】
容器に投入した2Lの水溶液2に室内の空気を2L/minで吹込んだ。pHが7.3になった時点で空気の吹込みを停止し、2Lの水溶液2に対してスラグ浸出水2を添加した。このとき、スラグ浸出水2を0.5L添加すると、pHが2.2上昇してpH8.5となった。
【0101】
3−2.カルシウムの析出2(実験No.8)
容器に充填した2Lの水溶液2に実験室内の空気を2L/minで吹込んだ。pHが6.7になった時点で、そのとき析出している固体成分をろ過により回収し、その後、さらに空気を20L/minで吹込んだ。pHが7.5になった時点で空気の吹込みを停止し、2Lの水溶液2にスラグ浸出水2を添加した。このとき、スラグ浸出水2を0.5L添加すると、pHが2.2上昇して8.5となった。
【0102】
3−3.カルシウムの析出3(実験No.9)
容器に充填した水溶液2を80℃に加熱した。pHが6.6になった時点で、そのとき析出している固体成分をろ過により回収し、その後、さらに空気を3L/minで吹込んだ。pHが7.5になった時点で空気の吹込みを停止し、2Lの水溶液2に対してスラグ浸出水2を添加した。このとき、0.4Lのスラグ浸出水2を添加すると、pHが2.2上昇して8.5となった。
【0103】
4.固体成分の回収
上記1〜3−1、1〜3−2または1〜3−3の工程を独立して複数回行い、各回の実験において、pHが0.3もしくは0.4、0.7、1.2、1.7または2.2上がった時点(それぞれ、水溶液のpHが6.6もしくは6.7、7.0、7.5、8.0または8.5になった時点)で、フィルターを用いて、析出した固体成分を含む水溶液2を減圧濾過して、固体成分を回収した。
【0104】
5.固体成分に含まれるカルシウム回収率の算出
回収した固体成分中のカルシウム濃度を、ICP発光分光分析法により測定した。上記ICP発光分光分析法により測定されたカルシウム量を、水溶液2が含有していたカルシウム量で除算して、カルシウム回収率を求めた。なお、実験7、8および実験9でスラグ浸出水を添加している場合におけるカルシウム回収率は、上記ICP発光分光分析法により測定されたカルシウム量を、水溶液2が含有していたカルシウム量とスラグ浸出水2が含有していたカルシウム量との和で、除算した値とした。また、実験8および実験9において、初期析出物と後期析出物とを2回に分けて回収したときの回収率は、初期析出物中のカルシウム濃度および後期析出物中のカルシウム濃度を合算した値をもとに算出した。
【0105】
6.結果1:カルシウムの回収率
カルシウム析出条件、固体成分回収時の水溶液2のpHおよびカルシウム回収率を表8に示す。
【0106】
【表8】
【0107】
表8に示されるように、異なるカルシウム析出方法を組み合わせても、高い回収率でカルシウムを回収することができた。
【0108】
7.結果2:リンを含まないカルシウムの回収
実験8のpH6.7で回収した固体成分および実験9のpH6.6で回収した固体成分(初期析出物)に含まれるリンの量と、実験7〜実験9のpH8.5で回収した固体成分(最終析出物)に含まれるリンの量とを、表9に示す。
【0109】
【表9】
【0110】
表9に示されるように、pHが1.0上がる以前に初期析出物を回収し、その後、さらにpHを上げてから後期析出物を回収することで、リンの含有量が多い固体成分とリンの含有量が少ない固体成分とを分離して回収することができた。
【0111】
[実験10]
実験10では、二酸化炭素の除去およびpHの上昇を組みあわせて分けて行った別の例を示す。
【0112】
1.製鋼スラグの水への浸漬
製鋼スラグを水中で十分に撹拌し、その後、ろ過により製鋼スラグを分離して、スラグ浸出水3を得た。スラグ浸出水3が含有する成分および各成分の量を、ICP発光分光分析法で測定した。
【0113】
2.二酸化炭素を含む水溶液への製鋼スラグの浸漬
実験1と同様の手順により、スラグ浸出水3から分離した製鋼スラグを、二酸化炭素を含有する水溶液に浸漬した。
【0114】
3.製鋼スラグと水溶液との分離
実験1と同様の手順により、二酸化炭素を含む水溶液と製鋼スラグとを分離して、上澄み液を回収し、フィルターを用いた濾過によって浮遊物を除去した水溶液(以降、「水溶液3」とする。)を回収した。水溶液3が含有する成分および各成分の量を、ICP発光分光分析法で測定した。
【0115】
4.カルシウムの析出
容器に投入した3Lの水溶液3に、pHをガラス電極法で測定しながら、室内の空気を3L/minで吹込んだ。15分空気を吹込んだ後、スラグ浸出水3を水溶液に添加した。空気吹込み開始から5分、10分、15分および30分経過後、ならびにスラグ浸出水の添加量が1Lの水溶液3に対して0.1L、0.24L、0.4Lおよび0.6Lになった時点で、水溶液3の一部を採取して、ICP発光分光分析法により水溶液3中のカルシウムの溶解量を測定した。
【0116】
図6は、上記採取した水溶液中のpHおよびカルシウムの溶解量を示すグラフである。空気の吹込みによる二酸化炭素の除去によりカルシウムが析出したため、カルシウムの溶解量は減少していった。その後、スラグ浸出水を添加することで、カルシウムがさらに析出し、カルシウムの溶解量は急激に減少した。
【0117】
ICP発光分光分析法で測定した、スラグ浸出水3、空気を吹込む前の水溶液3(表中、「析出前」と表す。)、および1Lの水溶液に対して0.6Lのスラグ浸出水を添加した後の水溶液3(表中、「析出後」と表す。)の、それぞれが含有する成分および各成分の量を表10に示す。
【0118】
【表10】
【0119】
本発明の方法により、製鋼スラグから溶出してスラグ浸出水3および析出前の水溶液3に含有されたカルシウムの多くを容易に析出させることができ、最終的にはカルシウムの94.5%(140+825−53)/(140+825)が析出した。また、析出後の水溶液3中の表10に示す各成分の含有量は、飲用井戸水程度であり、排水処理せずに再利用できる程度だった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明のカルシウムの回収方法は、製鋼スラグ中のカルシウムの回収率を容易に高めることができるため、例えば、製鉄におけるカルシウム資源の回収方法として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6