(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263149
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】粘弾性体の特性試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20180104BHJP
G01N 3/18 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
G01N3/00 K
G01N3/18
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-106910(P2015-106910)
(22)【出願日】2015年5月27日
(65)【公開番号】特開2016-223776(P2016-223776A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2016年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】392026121
【氏名又は名称】株式会社西野製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【弁理士】
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】板坂 重和
(72)【発明者】
【氏名】酒井 祐一
【審査官】
福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−126135(JP,A)
【文献】
特開平11−281546(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3182252(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3194701(JP,U)
【文献】
実開昭63−157644(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00〜3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
庫内温度の調節器を備えた収納箱と、試料の引張動作を行う引張モータと共に前記収納箱に収納可能な引張機と、試料の振動動作を行う加振モータと共に前記収納箱に収納可能な加振機と、前記収納箱の庫外に設置して前記収納箱に前記引張機が収納されたときは前記引張モータに電気的に接続され、当該収納箱に前記加振機が収納されたときは前記加振モータに電気的に接続される制御器とを備えている、粘弾性体の特性試験装置。
【請求項2】
前記収納箱が孵卵器である、請求項1記載の特性試験機。
【請求項3】
庫内温度の調節器を備えた収納箱と、
当該収納箱に収納された状態で、固定台と2本のボールねじに螺合する移動台との間に前記ボールねじと平行に試料を架け渡して一台のモータで前記2本のボールねじを同期回転する引張機と、
前記収納箱に収納された状態で、固定台と偏芯軸にリンクで連結された振動台との間にその振動方向と平行に試料を架け渡してモータで前記偏芯軸を回転する加振機と、
前記収納箱の庫外に設置され、庫内の前記引張機のモータ及び加振機のモータとケーブルで接続されてそれぞれのモータの回転角と出力トルクとを測定する制御器と
を備えている、粘弾性体の特性試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、弾性材や摩擦材として用いられるゴムその他の粘弾性体の特性を環境温度を変化させて測定する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高温環境下でゴムの劣化が激しいことがよく知られているように、粘弾性体の特性は、環境温度によって変化する。一方、粘弾性体は、摩擦材やクッション材として機械装置の部品に広く用いられており、用途によっては環境温度によるこれらの部品の特性の変化が機械装置の性能に影響を及ぼすことがある。
【0003】
摩擦材やクッション材として用いることができる粘弾性体には、非常に多くの種類がある。屋外で使用する機械装置では、冬期と夏期で機械装置の性能が変化するのを防止し、あるいは環境温度の変化による性能の変化を適切に調整できることが必要である。そのためには、部品として使用する粘弾性体の特性がどのように変化するかを試験して、適切な材料を選択する必要がある。
【0004】
環境温度の変化によって、粘弾性体の特性がどのように変化するかを示す資料は、各粘弾性体のメーカによって提供されているのが普通であるが、特殊な用途に使用する場合など、メーカから提供されている資料だけでは不十分な場合も多い。このような場合、機械装置のメーカは、製造しようとする機械装置に部品として使用する粘弾性体の特性を調べて、適切な材料を選択する必要が生ずる。このような場合、従来は適当と思われる材料をいくつか選んで、大学や試験場に粘弾性の測定を依頼している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大学や試験場は、高性能の制御器を備えているため、粘弾性体の試験においても高精度の測定を行うことができる。しかし、それほどの高精度の測定結果を必要とせず、より簡易に短時間で測定を行いたい場合も多い。常温で簡易に粘弾性を測定できる装置はあるが、環境温度によって特性がどのように変化するかを調べるためには、制御器が設置されている部屋の温度を変えて試験をしなければならず、通常の空調機では冬期と夏期の屋外の温度に相当するほど広い温度範囲で室内の温度を変えることができない。
【0006】
そこでこの発明は、広い温度範囲に環境温度を変えて粘弾性体の特性を簡易に計測できる装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明では、粘弾性の測定に必要な引張機2と加振機5とを庫内温度の調節器を備えた収納箱1に収納できる大きさとし、引張動作を行う引張モータ3及び振動動作を行う加振モータ6を収納箱1の外に設置した制御器8で制御すると共に、当該制御器でそれらのモータ3、6の回転角とトルクを検出して、引張機2及び加振機5に取り付けた粘弾性体の特性を測定するようにした。
【0008】
温度調節器を備えた収納箱1として市販の孵卵器を用いれば、小型で簡易な構造の引張機2と加振機5とを製作すればよいので、環境温度を変えて材料の粘弾性を簡易に測定することができる制御器を経済的に提供することができる。
【0009】
引張機2は、引張試料4の一端を係止する固定台21と、引張試料4の他端を係止する移動台27であって、固定台21に平行に軸支された2本のボールねじ23(23a、23b)に螺合する移動台27と、2本のボールねじ23を同期回転する引張モータ3とを備えた構造とすることで、市販の孵卵器にも収納可能な小型の引張機を安価に提供できる。
【0010】
加振機5は、加振試料7の一端を係止する基台51と、加振試料7の他端を係止するピストン54であって、基台51に設けた直線ガイド52に案内されれて偏芯軸61に連結ロッド62で連結された振動台と、偏芯軸61を回転する加振モータ6とを備えた構造とすることで、市販の孵卵器にも収納可能な小型の加振機を安価に提供できる。
【0011】
制御器8は、収納箱1の庫外に設置され、庫内に収納された引張機の引張モータ3及び加振機の加振モータ6とケーブル85で接続される。制御器8は、少なくとも加振モータ6の回転速度を可変するためのインバータその他のモータ速度調整器81と、モータ3、6のトルクを測定するための電流計などのトルク測定手段82と、モータ3、6の回転角を測定するパルスカウンタその他の回転角測定手段83とを備えたものとする。
【0012】
粘弾性体の引張試験を行うときは、試料4を引張機2の固定台21と移動台27との間に架け渡して収納箱1に入れ、引張モータ3の電源線と信号線とを収納箱の外に設置した制御器8に接続する。そして、収納箱1の庫内温度を試験温度とした後、引張モータ3を駆動してその回転角とトルクを測定する。
【0013】
粘弾性体の粘性試験を行うときは、加振試料7を加振機5の基台51とピストン54との間に架け渡して収納箱1に入れ、加振モータ6の電源線と信号線とを収納箱の外に設置した制御器8に接続する。そして、収納箱1の庫内温度を試験温度とした後、加振モータ6を駆動してその回転角とトルクを測定する。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、粘弾性体の特性を種々の環境温度で簡易に測定することができる特性試験機が得られる。この発明の特性試験機を用いれば、各種の機械装置の部品として使用される通常は比較的小型の粘弾性体の特性を、必要な時に必要な環境温度で速やかにかつ簡易に計測することが可能になるから、変化する環境温度の中でも安定した性能を発揮できる機械装置をより短時間で開発できるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照してこの発明の実施形態を説明する。実施例では収納箱1として市販されている孵卵器を用いている。収納箱1の庫内寸法は、幅360mm、高さ420mm、奥行き276mm(庫内容量41リットル)で、ペルチェ素子による冷却・加温装置を備え、3〜45℃まで1℃単位で温度制御可能な箱である。収納箱1は、前面に片開き式のドア11を備え、側面に収納した引張機2及び加振機5と制御器8とを電気的に接続するケーブル85を挿通するための貫通孔12を備えている。
【0017】
引張機2及び引張試料4は、
図2〜4に示されている。引張試料4は、
図2に示すように、中央が幅狭となるように加工して、両端に取付孔42、42を設けたゴム板41の取付孔42を設けた部分の両面にステンレス製の座金43を接着した構造である。
【0018】
引張試料4の引張試験を行う引張機2は、固定台21と門形のフレーム22との間に同期ベルト32(32a、32b)を介して1台の引張モータ3で同期駆動される2本のボールねじ23(23a、23b)を配し、固定台21とボールねじ23に螺合する移動台27との間に引張試料4を架け渡して引張モータ3を駆動することにより、移動台27を上昇させて引張試料4に引張力を与える構造である。引張試料4に与える引張力は、引張モータ3のトルクを検出することで測定でき、引張試料4の伸びは引張モータ3の回転数をカウントすることで測定できる。
【0019】
引張機2をより詳細に説明すると、収納箱1の床面に定置される固定台21に門形のフレーム22が立設されている。鉛直方向の2本のボールねじ23(23a、23b)が、固定台21とフレーム22の上部に軸受24(24a、24b)、25(25a、25b)を介して自由回転可能に軸支されている。それぞれのボールねじ23の下方の軸受24から更に下方に突出した部分にプーリ26(26a、26b)が固定されている。プーリ26aと26bとは、高さ方向にずれた位置に設けられている。
【0020】
固定台21には、平面視で2本のボールねじ23a、23bの軸心から等距離の位置に出力軸の軸心を位置させて、引張モータ3が装着されている。引張モータ3の出力軸31には、幅広のプーリ36が固定され、ボールねじ23a、23bのプーリ26a、26bと同期ベルト32a、32bで回転連結されている。移動台27は、両端に装着したボールナット28(28a、28b)で2本のボールねじ23a、23bに螺合している。
【0021】
固定台21と移動台27の2本のボールねじ23a、23bのちょうど中間の位置に、引張試料4の端部を挿入するスリットと当該スリットを直角方向に貫通するピン孔とを備えた取付板44、45が設けられている。引張試料4は、その両端を取付板44、45のスリットに挿入し、それぞれのピン孔に挿通したピン46、47を引張試料の取付孔42、42に挿通することによって、両端を固定台21と移動台27とに係止される。
【0022】
フレーム22には、移動台の下端位置と上限位置とを検出するリミットスイッチ48、49が設けられている。下端のリミットスイッチ48で移動台27が停止したときに、固定台の取付板44と移動台の取付板45との間隔が引張試料4の取付孔42、42の間隔と一致するように下端のリミットスイッチ48の位置を設定する。この下端の停止位置からの引張モータ3の回転数は、モータに取り付けたエンコーダで検出され、そのときのモータトルクは、モータを流れる電流値で検出される。
【0023】
粘性を測定するための加振機5及び加振試料7は、
図5、6に示されている。加振試料7は、円筒形のゴム71の両端にキャップ状のアダプタ72(72a、72b)を接着した構造で、アダプタ72の中心には、ねじ孔73(73a、73b)が設けられている。加振機に取り付けたときに下方となる下アダプタ72bのねじ孔73bには、予めスタッド74とその回り止めのロックナット75が装着されている。
【0024】
加振機5は、基台51に固定したガイド筒52に上下方向移動自在に案内されたピストン54と加振モータ6で回転するクランク軸61とを連結ロッド62で連結した構造で、加振モータ6の回転によってピストン54を上下振動させる構造である。加振試料7は、ガイド筒52の上部とピストン54の上端との間に装架され、加振モータ6の回転数に対応する周波数でピストン54を振動して、加振試料7を繰り返し圧縮する。
【0025】
加振機5をより詳細に説明すると、収納箱1の床面に定置される基台51に出力軸を水平にして加振モータ6が装着されている。基台51には、その上面に円筒形のガイド筒52が固定されており、ガイド筒52にピストン54が上下方向に移動自在に案内されている。
【0026】
ピストン54の下端は二股形状になっており、加振モータ6の出力軸の先端は、軸心を0.5mm偏芯させた偏芯軸61となっている。そして、ピストン54の二股部分を貫通するように挿通したピストンピン63とクランク軸61とが、軸受64、65を介して、連結ロッド62で連結されている。ピストン54の上端には、加振試料7のスタッド74をねじ込むための座ぐり付きのねじ孔76が設けられており、スタッドのロックナット75は、座ぐり部分77に収容されるようになっている。
【0027】
ガイド筒52の上端には、門形の上フレーム55が固定されている。上フレーム55を門形としているのは、その開口を通して引張試料4の装脱を行うことができるようにするためである。上フレーム55には、外周上部にねじを設けた押さえ筒56が挿通されている。上フレーム55の上端には、押さえ筒56のねじと螺合するナット部材57が載置され、ナット部材の上板58に挿通した長ボルト59が加振試料7の上アダプタ72aのねじ孔73aに螺入されるようになっている。
【0028】
加振試料7は、長ボルト59とを抜き取ってナット部材57と押さえ筒56を持ち上げた状態で、上フレーム55の開口(
図6の左右方向に開いている。)を通して挿入し、下アダプタ72bに取り付けたスタッド74をピストン54のねじ孔76に螺入して、下アダプタ72bをピストン54の上部に固定する。次に、ナット部材57を回して押さえ筒56を螺進退させて、押さえ筒56の下端で加振試料の上アダプタ72aを押し下げて、加振試料7が自然長から2mm圧縮された状態で固定されるように調整する。そして、上板58に長ボルト59を挿通して加振試料7の上アダプタ72aのねじ孔73aにねじ込んで締め付ける。この締め付けによって長ボルト59には引張力が作用し、押さえ筒56には圧縮力が作用して、加振試料7の上アダプタ72aが所定の高さで固定される。
【0029】
この状態で加振モータ6を回転させることにより、ピストン54が1mmのストロークで往復動し、加振試料7を繰り返し圧縮する。ピストン54の周期は、制御器8のインバータ81で加振モータ6の回転速度を制御することによって変更できる。
【0030】
試料7の粘性は、加振モータ6に取り付けたエンコーダで検出される加振モータ6の回転角と、加振モータ6に流れる電流機で計測される加振モータ6のトルクとを経時的に計測して、回転角カーブθとトルクカーブTとの時間差Δt(
図7)を検出することによって測定できる。
【0031】
モータ3、6に駆動電流を供給し、これらのモータの回転角及びトルクを測定する制御器8は、収納箱1の外に設置され、収納箱の貫通孔12に挿通したケーブル85で庫内のモータ3、6に接続される。ケーブル85は、庫内側の端部にコネクタを備えており、収納箱に引張機2が収納されたときは、引張モータ3に接続され、収納箱に加振機5が収納されたときには、加振モータ6に接続される。ケーブル85には、電源線と信号線とが含まれており、モータ3、6を駆動する電源線は、制御器のインバータ81に接続され、モータ3、6を流れる電流は、制御器の電流計82によって検出される。信号線は、モータ3、6に装着されたエンコーダに接続され、制御器側は制御器8に設けた回転角を検出するためのカウンタ83に接続される。
【0032】
上記の実施例から理解されるように、この発明の粘弾性体の特性試験装置は、庫内温度の設定器を備えた収納箱と、この収納箱に収容される引張機2と、同様に収納箱1に収納される加振機5と、収納箱1の外に設置して収容された引張機及び加振機のモータに接続されて駆動電源を供給すると共に、その回転角を検出するケーブルと、モータ3、6のトルク及び回転角を測定する制御器8を備えたものであり、この発明の特性試験装置によれば、環境温度の変化による粘弾性体の特性変化を簡易に測定することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 収納箱
2 引張機
4 引張試料
5 加振機
7 加振試料
8 制御器
21 固定台
23(23a、23b) ボールねじ
27 移動台
41 ゴム板
44、45 取付板
48 リミットスイッチ
51 基台
52 ガイド筒(直線ガイド)
54 ピストン
56 押さえ筒
57 ナット部材
61 クランク軸(偏芯軸)
62 連結ロッド
85 ケーブル