特許第6263153号(P6263153)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263153
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】可溶性塗膜用塗布液
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20180104BHJP
   C09D 185/00 20060101ALI20180104BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   C09D1/00
   C09D185/00
   C09D183/04
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-149177(P2015-149177)
(22)【出願日】2015年7月29日
(65)【公開番号】特開2017-31237(P2017-31237A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2016年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊巳
(72)【発明者】
【氏名】三木 瞳
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−044835(JP,A)
【文献】 特開2012−031353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
C09C 1/00−3/12
C01B 13/14−13/36
C01F 7/00−7/76
C01G 15/00−35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素が第4族元素、第5族元素、第13族元素、第14族元素(ケイ素を除く)および第15族元素のうちのいずれか1種類以上の金属元素(M)である金属酸化物組成物を含有する塗布液において、前記金属酸化物組成物は、金属元素(M)が酸素原子(O)を介して結合した‘−M−O−M−O−’構造が2次元又は3次元でつながっている金属酸化物組成物であり、金属酸化物組成物中にC−Si−O−M結合(C:炭素元素、Si:ケイ素元素、O:酸素元素、M:金属元素)を有し、前記塗布液中にカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体を含有させて前記カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体が前記金属元素と下記化学式2で記載される配位構造を形成して存在し、前記金属酸化物組成物の粒径が1から5nmであり、再溶解可能な金属酸化物組成物含有塗膜が形成可能であることを特徴とする塗布液。
【化2】
【請求項2】
前記金属酸化物組成物中のケイ素元素(Si)の前記金属元素(M)に対する存在比率が0.5〜2モル倍であることを特徴とする請求項1に記載の塗布液。
【請求項3】
前記カルボン酸又は/及びカルボン酸誘導体量が前記金属元素(M)に対し0.5〜1.5モル倍であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塗布液。
【請求項4】
前記カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体のアシル基が炭素数3〜10であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗布液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
再溶解可能な金属酸化物組成物含有塗膜が形成用の塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物組成物を有機塗膜中に均質分散することは、有機塗膜の有する特性を大幅に変更し、新たな機能性発現のために重要である。しかし、一般的な金属酸化物組成物は金属塩又は金属酸化物粒子として供給されるため有機塗膜中への均質分散が難しく、特に散乱が問題となる光学的応用への適用が制限されている。
光学材料に適用可能となるような透明性を維持することができるナノサイズの無機酸化物粒子を合成することやナノ粒子の凝集粒径を小さくすることは、一般的に非常に困難であり、最大で数μmの厚さに形成して使用される反射防止膜やハードコート用の高屈折率材料を除いては、実用化されていないのが現状である。
【0003】
無機酸化物を用いる場合、使用可能なナノ粒子のサイズは小さくても10nm程度であり、レイリー散乱による透過率の低下を抑えることができない。このため、光学材料が厚くなると透明性を維持することができず、当該技術は、10μm程度までの厚さの光学材料への適用に限定される。
【0004】
有機組成物に対する分散性または相溶性を向上させるため各種の分散剤やシランカップリング剤(特許文献1、2など)を用いた表面処理が試みられている。分散剤を用いた場合、ナノ粒子への表面処理では完全な表面被覆のためには大量の分散剤添加が必要であり、複合化により発現すべきナノ粒子の特性を低減又は阻害する。シランカップリング剤を用いた場合でも、一個一個のナノ粒子の表面にSi−O−M(Mは金属元素)結合を導入することは困難である。また、ナノ粒子は粒子表面に存在する水酸基間の自己凝集力が強いため1次粒子まで解砕することが難しく、2次凝集した状態での表面処理となることが多く、結果として有機組成物中へのナノ粒子の分散不十分となり透明性の低下などの問題が生じる。
【0005】
金属アルコキシドを出発原料としたゾル−ゲル法により形成したナノ粒子はその合成条件によりシングルナノレベルの粒径と均質分散性が確保可能であり、成膜により溶剤が除かれると粒子表面に存在する水酸基間の自己凝集力により透明性を有する強固な膜を形成することが可能である(特許文献3、4など)。
【0006】
金属酸化物組成物分散有機塗膜の使用方法として恒久的塗膜を利用する場合と一時的な保護膜又は機能発現のための使用が考えられる。恒久的な利用については形成された膜の初期特性が大きく影響する。一方、一次的な利用の場合は形成した膜の剥離性も重要となる。
一般的なナノ粒子分散膜やゾル−ゲル膜は、容易に膜を再溶解するなどの方法により剥離することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2012−36430号公報
【特許文献2】特開2014−98091号公報
【特許文献3】特開2008−169372号公報
【特許文献4】特開2000−28802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光学的に透明で特定の溶媒で簡便に剥離可能な再溶解性を有する金属酸化物組成物分散有機塗膜を形成するための塗布液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、以下の技術的手段から構成される。
〔1〕 金属元素が第4族元素、第5族元素、第13族元素、第14族元素(ケイ素を除く)および第15族元素のうちのいずれか1種類以上の金属元素(M)である金属酸化物組成物を含有する塗布液において、前記金属酸化物組成物は、金属元素(M)が酸素原子(O)を介して結合した‘−M−O−M−O−’構造が2次元又は3次元でつながっている金属酸化物組成物であり、金属酸化物組成物中にC−Si−O−M結合(C:炭素元素、Si:ケイ素元素、O:酸素元素、M:金属元素)を有し、前記塗布液中にカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体を含有させて前記カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体が前記金属元素と下記化学式2で記載される配位構造を形成して存在し、前記金属酸化物組成物の粒径が1から5nmであり、再溶解可能な金属酸化物組成物含有塗膜が形成可能であることを特徴とする塗布液。
【化1】
〔2〕 前記金属酸化物組成物中のケイ素元素(Si)の前記金属元素(M)に対する存在比率が0.5〜2モル倍であることを特徴とする前記〔1〕に記載の塗布液。
〔3〕 前記カルボン酸又は/及びカルボン酸誘導体量が前記金属元素(M)に対し0.5〜1.5モル倍であることを特徴とする前記〔1〕又は前記〔2〕に記載の塗布液。
〔4〕 前記カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体のアシル基が炭素数3〜10であることを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の塗布液。


【発明の効果】
【0010】
本発明の塗布液は、金属酸化物組成物中に存在するC−Si−O−M結合と液中に共存するカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体が金属酸化物組成物表面で配位結合を形成することで粒径が1から5nmである金属酸化物組成物を液中に安定に存在させることが可能となる。
【0011】
塗布液中の金属酸化物組成物は、金属酸化物組成物中にC−Si−O−M結合を有し、存在するカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体と配位結合しており、成膜することでC−Si−O−M結合中のケイ素元素(Si)に結合したアルキル基、フェニル基又はビニル基(以下、総称して「R基」という。)やカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体が金属酸化物組成物界面に存在することでナノサイズの分散性を維持し、金属酸化物組成物を膜中に固定化し、透明な金属酸化物組成物分散有機塗膜を形成することが可能になる。
【0012】
ここで形成される膜中ではC−Si−O−M結合中のR基やカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体が分子鎖の絡み合いやファンデルワールス力などの分子間力により固定化されているため、金属酸化物組成物が均質分散可能な親溶剤により再溶解が可能である。C−Si−O−M結合やカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体の存在比率は再溶解性の付与に重要であり、金属酸化物組成物表面に存在する活性部位に配位する必要がある。
【0013】
一方、形成された膜に共有結合を形成可能なエネルギー(光又は熱)を与えることで、C−Si−O−M結合中のケイ素元素(Si)に結合した重合性の基を有するR基や共存する重合性の基を有するカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体が、共有結合を形成することにより形成された膜に部分的に不溶化処理を施すことも可能である。
【0014】
また、C−Si−O−M結合中のR基や共存するカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体の種類を変更することで金属酸化物組成物を均質分散可能な親溶剤を変更することができ、化学特性の異なる様々な有機高分子への均質添加と複合化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例4塗布液の29Si−NMRスペクトル
図2】実施例4塗布液の赤外吸収スペクトル
図3】実施例4の粒度分布
図4】実施例4と比較例1の塗布膜の赤外吸収スペクトル
図5】実施例4と比較例1の塗布膜の赤外吸収スペクトル(拡大)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の可溶性塗膜用塗布液は、金属元素が第4族元素、第5族元素、第13族元素、第14族元素(ケイ素を除く)および第15族元素のうちのいずれか1種類以上の金属元素である金属酸化物組成物を含有する塗布液において、前記金属酸化物組成物は、金属酸化物組成物中にC−Si−O−M結合(C:炭素元素、Si:ケイ素元素、O:酸素元素、M:金属元素)を有し、前記塗布液中にカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体を含有させて前記カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体が前記金属元素と配位構造を形成して存在し、前記金属酸化物組成物の粒径が1から5nmであり、再溶解可能な金属酸化物組成物含有塗膜が形成可能であることを特徴とする。
【0017】
本発明において金属酸化物組成物とは、金属塩や金属アルコキシドの加水分解により金属元素(M)が酸素原子(O)を介して結合した‘−M−O−M−O−’構造が2次元又は3次元でつながっている金属酸化物の表面部分に前記C−Si−O−M結合を有する金属酸化物である。
【0018】
本発明の塗布液に用いられる金属酸化物組成物を構成する金属種Mとして第4族元素、第5族元素、第13族元素、炭素及びケイ素を除く第14族元素、窒素を除く第15族元素が挙げられ、元素が有する屈折率、吸収端波長や色調などの透過特性など目的とする特性により選定される(本発明では便宜上半金属元素も金属元素と表記する。)。好ましくは、第4族元素としてZr、Ti、Hf、第5族元素としてV、Nb、Ta、第13族元素としてAl、Ga、第14族元素としてGe、Sn、第15族元素としてSb、Biが挙げられる。
【0019】
本発明の目的である再溶解性を付与するためには、金属酸化物組成物の活性を可能な限り低減する必要があり、金属酸化物組成物表面にアルコキシル基や水酸基が存在すると金属酸化物組成物表面の活性が高くなるため再溶解性が維持できない。そのため、金属酸化物組成物表面の活性を抑制するために、金属酸化物組成物中にC−Si−O−M結合を導入し、更に塗布液中にカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体を含有させ金属酸化物組成物が配位構造を形成している。
【0020】
本発明のC−Si−O−M結合は、金属酸化物組成物に対し結合が形成可能であればその存在量は限定されないが、好ましくは金属元素に対し0.5〜2.0モル倍である。0.5モル倍より少ない場合は、金属酸化物組成物に対する導入量が不十分であり化合物中に水酸基やアルコキシル基が残留するため、経時的な反応により重縮合が進行し十分な再溶解性を付与することができない。一方、2.0モル倍以上であれば塗布液中に未反応のアルコキシシラン化合物及びその重合体が残存することになるためこれより多くの添加する必要はない。より好ましくは、0.8〜1.2モル倍である。
【0021】
本発明の金属酸化物組成物中に存在するC−Si−O−M結合は、具体的には下記化学式1で記載される化学構造である。
【化1】
【0022】
その構造中のRは、炭素数1〜10の鎖式または分岐式のアルキル基、4〜8員環の環式または脂環式のアルキル基、フェニル基、ベンジル基等のフェニル基を含むアルキル基、さらには、ビニル基、アクリロキシプロピル基やメタクリロキシプロピル基等を含むビニル含有アルキル基、グリシジル基やエポキシシクロヘキシル基等を含むエポキシ基を含むアルキル基などの反応性官能基を含むアルキル基である。また、R’は、同一の置換基又は異種の置換基のどちらであっても良く、炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシル基が好ましく、その入手のしやすさや形態、溶解性等により適宜選定される。より好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシル基である。
【0023】
C−Si−O−M構造の存在は、29Si−NMRスペクトルや赤外線吸収スペクトル、ラマン(Raman)・スペクトルなどにより確認することができる。C−Si構造は、Mを含む酸化物ユニットの最表面に存在し、周りに存在する有機物に対する親和性やエネルギー付与による重合反応性を付与する。
【0024】
C−Si−O−M構造の形成の有無は、29Si−NMRスペクトルにより確認することが可能である。観察されるケミカルシフトの位置は、Siに結合するアルキル基およびアルコキシル基(総称して「R−」と適宜記載)の数、種類、加水分解の進行状態等により異なるが、C−Si−O−M構造の形成は、相当するR−Si−O−Siに帰属されるピークとのケミカルシフトの差により確認することができる。
【0025】
また、赤外吸収スペクトルまたはラマン・スペクトルにおいても、C−Si−O−M構造の存在を確認することが可能である。Mが結合することにより、相当するSi−O伸縮振動に帰属されるピークが低波数シフトする。併せて、相当するM−O伸縮振動に帰属されるピークシフトも観測される。ただし、同一振動領域に、他の官能基に帰属される振動ピークが重なる場合には、明確な帰属が困難になることがあり、先に述べた29Si−NMRスペクトルの結果と併せて判断することにより、C−Si−O−M構造の存在を確認することが可能である。
【0026】
カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体は特に限定されないが、炭素数3〜10のアシル基を有する化合物が好ましい。例えば、飽和脂肪族酸として酢酸、プロパン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、エナント酸、シクロプロパンカルボン酸、シクロブタンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸などが挙げられる。不飽和脂肪族酸としてアクリル酸、メタクリル酸、シクロプロペンカルボン酸、シクロペンテンカルボン酸、シクロヘキセンカルボン酸などが挙げられる。芳香族酸として安息香酸、ナフトエ酸、アントラセンカルボン酸、ビニル安息香酸などが挙げられる。また、前記カルボン酸のエステル、塩などが用いられる。
【0027】
本発明のカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体は、金属酸化物組成物に対し配位構造を形成可能であればその存在量は限定されないが、好ましくは金属元素に対し0.5〜1.5モル倍である。0.5モル倍より少ない場合は、金属酸化物組成物に対しる配位構造の形成量が不十分であり化合物中に水酸基やアルコキシル基が残留するため、経時的な反応により重縮合が進行し十分な再溶解性を付与することができない。一方、1.5モル倍以上であれば塗布液中に未反応のカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体が残存することになるためこれより多くの添加する必要はない。より好ましくは、0.8〜1.2モル倍である。
【0028】
本発明の塗布液中でのカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体の存在状態は、下記化学式2で記載される配位構造である。本発明では、例えば、赤外吸収スペクトルに於いて共存するカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体の吸収ピークが遊離カルボン酸の吸収ピーク(1700cm−1付近)としてではなく1550cm−1付近と1420cm−1付近にカルボニル基の吸収ピークが観察され場合を配位構造が形成したと考える。
【化2】
【0029】
また、本発明の塗布液を用いた膜には1550cm−1付近と1420cm−1付近にカルボニル基の吸収ピークが観察され、更には3000〜3600cm−1に観察される表面水酸基や水の吸着によるO−H伸縮振動の吸収がほとんど認められなくなる。
【0030】
本発明の塗布液中における金属酸化物組成物の粒径は、目的とする電磁波の波長よりも十分小さければ散乱が抑制されるので特に限定されないが、1から5nmであることが好ましい。本発明で示す粒径は、平均粒径又は粒度分布のピークトップとして表示される。また、粒度分布のピークトップは一つであることが好ましい。粒度分布の測定方法は特に限定されないが、本特許では溶液中での動的光散乱法により測定した平均粒径又は粒径分布ピークトップとして示した。
【0031】
粒径は5nmより大きくなると光の散乱が大きくなり実質的な光学材料として使用できないため好ましくない。1nmより小さくなるとイオンとしての特性となり、例えば屈折率などの目的とする酸化物組成物としての物性が発現しづらくなる。特に好ましくは、1〜3nmである。
【0032】
本発明の塗布液は、塗布することにより塗膜を形成する。
本発明の塗布液で形成した塗膜の再溶解性は、成膜後溶剤が十分に除去された後に、塗布液で用いた溶剤や他の適切な溶剤で溶解・剥離が可能であることを示す。塗膜の再溶解性は、形成された膜を溶剤中に浸漬、溶剤への浸漬後に超音波処理又は塗膜への溶剤の吹き付けなどで確認される。また、塗布液から溶剤を除去・乾固した後に、粒径の大幅な増加を伴わずに再度元の溶剤や適切な溶剤に再溶解することも本発明の特徴である。
【0033】
続いて、本発明の塗布液の製造方法について説明する。
本発明の塗布液の製造方法は、目的とする塗布液が形成可能であれば特に限定されない。例えば、(1)金属塩や金属アルコキシドの加水分解により形成した‘−M−O−M−O−’構造が2次元又は3次元でつながっている金属酸化物にアルキルシラン並びにカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体を反応させることで得られる。(2)金属塩や金属アルコキシドに予め所定量のカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体を反応させた後に加水分解し後にアルキルシランを反応することで得られる。(3)金属塩や金属アルコキシドに予め所定量のカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体を反応させた後にアルキルシランを反応させ、加水分解することで得られる。(4)アルキルシランと金属アルコキシドを反応させて目的の粒径を有する金属酸化物組成物とした後、カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体との反応により得られる。
その中でも、(4)アルキルシランと金属アルコキシドを反応させて目的の粒径を有する金属酸化物組成物とした後、カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体との反応により塗布液を形成する方法が好ましい。
【0034】
より好ましい前記(4)の方法を以下に更に詳しく説明する。
前記(4)の方法は、(a)化学式RxSi(OR)yで表わされるアルキルアルコキシシランの溶液を水と混合して加水分解する工程、(b)化学式M(OR)zで表される金属アルコキシドの溶液と(a)の工程で得られる加水分解物とを混合する工程とを経て、C−Si−O−M結合を有する金属酸化物組成物を製造する工程、さらに、(c)(b)の工程に続いて、溶液アルコキシドを追加した後にさらに水を添加して加水分解する工程を経て、C−Si−O−M結合を有する金属酸化物組成物を製造する工程を設けることが好ましい。(d)続いて、C−Si−O−M結合を有する金属酸化物組成物は、加水分解した後にカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体を加えて配位結合を形成する反応工程を経て、カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体が前記金属元素と配位構造を形成して存在する本発明の金属酸化物組成物を分散させた塗布液を生成することができる。
【0035】
前記(a)の工程で、アルキルアルコキシシランのアルコキシル基を加水分解するために、アルキルアルコキシシランの溶液に水が添加される。水の添加量は、Siに対し0.5モル倍〜4モル倍が好ましい。水の添加量が0.5モル倍より少ないと、R−O−M構造を形成するための水酸基の生成が不十分となり、一方、水の添加量を4モル倍より多くしても、その効果の向上が認められない。より好ましくは、水の添加量は0.8モル倍〜2モル倍である。
【0036】
加水分解反応の条件としては、室温〜100℃で0.1時間〜50時間程度の処理が好ましい。また、触媒を用いることも可能であり、その場合には、塩酸、硫酸、酢酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の酸性触媒や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミン、ピペリジン、ピリジン等の塩基性触媒を用いるようにすればよい。
【0037】
前記工程(a)では、化学式RxSi(OR)yで表わされるアルキルアルコキシシランが用いられる。アルキルアルコシキシランを示す上記化学式中、RおよびRはアルキル基であり、xおよびyは、x+y=4、1≦x≦3の自然数である。そして、Rは、炭素数1〜10の鎖式または分岐式のアルキル基、4〜8員環の環式または脂環式のアルキル基、フェニル基、ベンジル基等のフェニル基を含むアルキル基、さらには、ビニル基、アクリロキシプロピル基やメタクリロキシプロピル基等を含むビニル含有アルキル基、グリシジル基やエポキシシクロヘキシル基等を含むエポキシ基を含むアルキル基などの反応性官能基を含むアルキル基であり適宜選定される。また、Rは、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、Mの種類によりその入手のしやすさや形態、溶解性等により適宜選定される。より好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基である。
【0038】
鎖式アルキル基を含むアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等が例示され、環式アルキル基を含むアルコキシシランとしては、シクロペンチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン等が例示され、脂環式アルキル基を含むアルコキシシランとしては、2−ビシクロへプチルトリメトキシシラン、2−ビシクロへプチルジメチルメトキシシラン、アダマンチルエチルトリメトキシシラン等が例示される。また、フェニル基を含むアルコキシシランとしては、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルトリメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、ベンジルジメチルメトキシシラン等が例示され、ビニル基を含むアルコキシシランとしては、ビニルトリメトキシシラン、シクロヘキセンエチルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等が例示され、エポキシ基を含むアルコキシシランとしては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン等が例示される。
【0039】
前記(b)の工程では、加水分解されたアルコキシシランを、一般式M(OR)z(Mは金属元素であり、Rはアルキル基であり、zはMの価数によって決まる自然数である)で表されるアルコキシドと反応させ、C−Si−O−M構造を形成する。このときの反応条件は、Mの種類や反応濃度により適宜設定されるが、−80℃〜100℃の温度で反応させることが好ましい。より好ましくは、反応温度が0℃〜60℃である。
【0040】
ここで、反応させるSi/Mのモル比は、目的とするSiの金属元素に対する比率とする。さらに、必要に応じてアルコキシドを加えた後、水を添加し加水分解することにより、C−Si−O−M結合を有する金属酸化物組成物が形成される(前記工程(c))。
【0041】
予めアルコキシシランとアルコキシドを反応させることにより、C−Si−O−M構造が効率的に取り込まれ、中心部にMの酸化物、表面部にR−Siが偏在する構造が形成される。この構造により、各種有機液体への相溶性、分散性が付与される。
【0042】
金属アルコキシドのアルコキシル基の種類は特に限定されないが、炭素数1〜6のものが好ましく用いられる。特に好ましくは炭素数1〜4のアルコキシル基である。また、金属アルコキシドの金属元素は、前記した金属元素である。
【0043】
前記(d)の工程では、C−Si−O−M構造が導入された金属アルコキシドを加水分解するために水が添加される。添加量は、原料中に存在する全アルコキシル基の1モル倍〜4モル倍が好ましい。水の添加量が1モル倍未満であると、十分な加水分解・縮合反応が進行せずに、形成した金属酸化物組成物中に残留アルコキシル基量が多くなる。一方、4モル倍を超える量の水を添加しても、その効果に大きな変化は無いので、その必要性が無い。より好ましくは、全アルコキシル基の1.5モル倍〜3モル倍である。
【0044】
加水分解反応の条件としては、室温〜100℃で1分〜50時間程度の処理が好ましい。また、触媒を用いることも可能であり、その場合には、塩酸、硫酸、酢酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の酸性触媒や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミン、ピペリジン、ピリジン等の塩基性触媒が用いられる。
【0045】
上記した反応において使用する溶剤は、原料となるアルキルシラン、金属アルコキシドや加水分解・重縮合による形成物が可溶であれば特に限定されない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、n−ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素系溶剤、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶剤、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、ホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の多価アルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノールアセテートなどの多価アルコール誘導体などが好ましく用いられる。上記溶剤は単独で用いてもよいし、2種以上の溶剤を混合して用いてもよい。
【0046】
一般に、金属アルコキシドを出発原料として形成された金属酸化物組成物は、表面に多くの水酸基や残留アルコキシル基が存在する。この水酸基やアルコキシル基が存在することにより強い凝集性または反応性を示し、一旦溶剤を除去すると、再度溶剤に溶解させることが不可能となる。
【0047】
本発明では、C−Si−O−M構造を導入することで表面水酸基量や残留アルコキシル基量を低減させることが可能になるが、更にカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体を金属酸化物組成物溶液に添加することで、金属酸化物組成物表面に配位構造が形成され、表面水酸基量や残留アルコキシル基量を大幅に低減させることが可能になる。この結果として、有機液体への溶解性が得られるだけでなく、一旦溶剤を除去した後での再溶解性を付与することが可能となる。
【0048】
すなわち、前記(d)の工程において、C−Si−O−M結合を有する金属酸化物組成物を加水分解した後に、カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体を加えて配位結合を形成する反応工程を行う。カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体は、金属酸化物組成物溶液に添加後、室温〜溶剤の沸点までの温度で1分〜50時間の撹拌反応することが好ましい。
【0049】
カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体が金属酸化物組成物に対し配位構造を形成した溶液は、目的に応じて溶剤置換することが可能である。塗布液より除去した後に目的とする溶剤成分を添加することで得られる。溶剤の除去は、加熱蒸留、減圧除去などにより行われる。このように、一旦溶剤を除去した後に再度金属酸化物組成物の粒径が1から5nmの塗布液が形成可能であることが本発明の重要な特徴である。
【0050】
本発明の塗布液に用いられる溶剤は、目的とする塗布液が得られれば特に限定されず、その用途に応じて適時選定される。通常は、前記の塗布液の製造方法で示した溶剤でもってそのまま塗布液の溶剤とすることができる。
目的に応じて溶剤を置換して適時変更する場合は、先に記載した塗布液から溶剤を除去・乾固した後に粒径の大幅な増加を伴わずに再度適切な溶剤に再溶解することが重要となる。
【0051】
溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、n−ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素系溶剤、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶剤、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、2−ヘプタノン、シクロペンタノン、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、ホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の多価アルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノールアセテート、2−エトキシエタノールアセテート、3−エトキシプロピオン酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸−2−エトキシエチル、酢酸−2−(2−エトキシエトキシ)エチルなどの多価アルコール誘導体、などが好ましく用いられる。上記溶剤は単独で用いてもよいし、2種以上の溶剤を混合して用いてもよい。
【0052】
本発明の塗布液における溶剤の使用量は、所望の膜厚や使用目的、使用する部材等に応じて適宜調整可能であるが、一般的にはカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体が金属元素に配位結合した金属酸化物組成物(以下、「配位結合金属酸化物組成物」という場合がある。)の濃度が0.5〜50質量%、好ましくは1.0〜30質量%、より好ましくは2〜20質量%となるように調製される。
【0053】
次に、本発明の塗布液を用いて成膜して塗膜を形成する方法について説明する。
金属酸化物組成物含有塗膜の形成方法は、特に限定されず従来既知の方法により本発明の塗布液を基材に塗布することにより得られる。塗布液をそのまま基材へスピンコート塗布、浸漬塗布、スプレー塗布、泡塗布などのような既知の方法により塗布させ、室温又は加熱により乾燥する方法がある。また、塗布液を構成する溶剤で希釈して、浸漬塗布、スプレー塗布、泡塗布などのような既知の方法により、基材の表面に塗布後、室温又は加熱により乾燥する方法が採られる。
【実施例】
【0054】
〔実施例1〜19〕
メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを1−メトキシ−2−プロパノールに溶解後、シランの1.1倍モルの0.5MHCl水を加え30分室温で撹拌した。所定の金属アルコキシド溶剤に前記メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン加水分解物を添加した後、2時間室温で撹拌した。得られた反応液に金属アルコキシル基の数の0.5モル倍の水(必要に応じて触媒を添加)を添加して加水分解し、室温で2時間撹拌した。得られた反応液に所定量のカルボン酸を添加し、更に1時間撹拌することでC−Si−O−M構造を有し、カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体が配位構造を形成した本発明の金属酸化物組成物を含有する塗布液を得た。
【0055】
実施例及び比較例について、金属アルコキシドの金属種及びアルコキシル基、アルコキシシラン(メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)の金属アルコキシドに対するモル比率、溶媒の種類、金属酸化物濃度(配位結合金属酸化物組成物からアルキル基等の有機基および配位化合物を除外した計算値)、添加したカルボン酸の種類と量、金属酸化物組成物の粒径、C−Si−O−M構造の有無、配位構造の有無を表1にまとめる(表中のMPは1−メトキシ−2−プロパノール、IPAは2−プロパノールを示す)。
【0056】
得られた塗布液の粒度分布は動的光散乱法により測定した。また、C−Si−O−M構造の形成の有無を29Si−NMR分光法により確認した。C−Si−O−M構造が形成により、−50〜−55ppmと−58〜−63ppm付近にSi−O−Si結合では観察されない新たなピークの出現により確認した。実施例4の塗布液では、−50〜−55ppmと−58〜−63ppm付近明確なピークが確認された(図1)。塗布液の配位構造の形成有無を赤外吸収分光法(ATR法)により確認した。
メタクリル酸で存在する1700cm−1のC=O伸縮振動の吸収ピークが消失し、1550cm−1付近に配位構造に帰属されるC=O伸縮振動の吸収ピークの出現により確認した。実施例4の塗布液では、1550cm−1付近に配位構造に帰属されるC=O伸縮振動の吸収ピークが確認された(図2)。また、他の本発明の実施例に於いても同様の吸収ピークが確認された。
本発明の塗布液中には、1.3〜1.9nmに一つのピークトップ、1.6〜2.7nmに平均粒径を有する金属酸化物組成物が観察された。実施例4のピーク分布を図3に示す。
【0057】
得られた塗布液を用い、Si基板上にスピンコート法により成膜後、120℃で30分加熱処理を行い、塗布膜を形成した(実施例16のみ、溶剤をMPに溶剤置換後製膜)。得られた膜の外観観察を行うとともに、分光反射法により膜厚及び屈折率の測定を行った。本発明の塗布膜は全て透明な膜の形成が可能であった。形成した塗布膜の性状について、膜中金属酸化物濃度(配位結合金属酸化物組成物からアルキル基等の有機基および配位化合物を除外した計算値)並びに屈折率、膜厚、金属酸化物組成物の配位構造の有無及び剥離性の測定結果等を表2にまとめて示す。
【0058】
塗布膜の配位結合の形成状態を確認するため、赤外吸収分光法(ATR法)により確認した。実施例4の赤外吸収スペクトルでは、通常のナノ粒子分散体で3000〜3600cm−1に観察される表面水酸基や水の吸着による大きなO−H伸縮振動の吸収がほとんど認められない(図4)。塗膜中での配位構造の形成有無を1550cm−1付近と1420cm−1付近に配位構造に帰属されるC=O伸縮振動の吸収ピークにより確認された(図5)。また、C−Si−O−M構造の存在は、C−Si−O構造のSi−O伸縮振動に帰属される1000cm−1付近の吸収ピークにより確認された(図4、5)。これらは、C−Si−O−M構造の導入と配位構造の形成により通常のナノ粒子表面に存在する活性な表面水酸基がほとんど存在しないことを意味する。
得られた膜を塗布液として使用した溶剤に含浸後、超音波処理することで剥離性を確認した(表2)。本発明の塗布液より得られた塗膜は全て溶解剥離した。このような溶解剥離の容易な進行は、自己凝集力を有する表面水酸基が少なく、活性な反応を有する有機残基が少ないことに起因する。
【0059】
〔比較例1〕
ジルコニウムアルコキシドを用い実施例1と同じ方法で作成し、メタクリル酸を添加せずに塗布液とした。得られた塗布液を用い、Si基板上にスピンコート法により成膜後、120℃で30分加熱処理を行い、塗布膜を形成した。得られた塗布膜は透明で屈折率1.64であった。実施例と同じ方法で剥離試験を行ったが、膜の剥離は観察されなかった。
【0060】
〔比較例2〕
ジルコニウムアルコキシドを用い実施例1と同じ方法で作成し、メタクリル酸をジルコニウムに対し0.9モル倍添加し塗布液とした。得られた塗布液を用い、Si基板上にスピンコート法により成膜後、120℃で30分加熱処理を行い、塗布膜を形成した。得られた塗布膜は透明で屈折率1.63であった。実施例と同じ方法で剥離試験を行ったが、膜の剥離は観察されなかった。
【0061】
〔比較例3〕
テトラ−n−ブトキシジルコニウムをトルエンに溶解した後、メタクリル酸をジルコニウムに対し4モル倍添加し透明溶液を得た。得られた溶液を1時間放置すると白色の析出物が形成した。得られた析出物はトルエン、MPなどのアルコールなどへ不溶であった。赤外吸収スペクトルの測定より、ジルコニウムテトラメタクリレートの生成が確認された。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の塗布液は、光学的に高い透明性を有することより各種光学材料として適用が可能である。また、溶剤の選定により膜を形成した後に除去することが可能であり、脱離可能な保護膜としても適用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5