(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263157
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】ハードディスク駆動装置及びピボットアッシー軸受装置
(51)【国際特許分類】
G11B 21/02 20060101AFI20180104BHJP
F16C 19/54 20060101ALI20180104BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20180104BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
G11B21/02 630D
F16C19/54
F16C33/80
F16J15/447
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-184133(P2015-184133)
(22)【出願日】2015年9月17日
(65)【公開番号】特開2017-59284(P2017-59284A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2016年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】特許業務法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】楊 偉紅
(72)【発明者】
【氏名】小林 大貴
【審査官】
中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−144783(JP,A)
【文献】
特開平05−205413(JP,A)
【文献】
特開平06−096570(JP,A)
【文献】
特開2004−092666(JP,A)
【文献】
特開2006−077924(JP,A)
【文献】
実開平06−068155(JP,U)
【文献】
米国特許第08547664(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 21/02
F16C 19/54
F16C 33/80
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪とを有する転がり軸受と、外周面に前記内輪が固定されたシャフトと、内周面に前記外輪が固定されたスリーブと、を有し、スイングアームを支持するピボットアッシー軸受装置を備えるハードディスク駆動装置であって、
前記ハードディスク駆動装置の上側に位置するカバー部材に形成され、該ハードディスク駆動装置の内部方向に突出すると共に前記シャフトの上端面に固定された円筒状の第1の凸部、及び/又は、
前記ハードディスク駆動装置の下側に位置するベース部材に形成され、該ハードディスク駆動装置の内部方向に突出すると共に前記シャフトの下端面に固定された円筒状の第2の凸部を備え、
前記スリーブは前記シャフトよりも長く、
前記第1の凸部の外周面及び/又は前記第2の凸部の外周面を前記スリーブの内周面と半径方向に対向させることによってラビリンス隙間を形成したことを特徴とするハードディスク駆動装置。
【請求項2】
上面が前記第1の凸部に対向配置され、下面が前記転がり軸受の内輪に対向配置され、内周面が前記シャフトの外周面に対向配置され、外周面が前記スリーブの内周面に固定された環状のシール部材を備えることを特徴とする請求項1に記載のハードディスク駆動装置。
【請求項3】
前記シール部材の上面と外周面との間に切欠き部を備えることを特徴とする請求項2に記載のハードディスク駆動装置。
【請求項4】
外輪と内輪とを有する転がり軸受と、外周面に前記内輪が固定されたシャフトと、を有し、スイングアームに形成された取付孔に嵌合されて該スイングアームを支持するピボットアッシー軸受装置を備えるハードディスク駆動装置であって、
前記ハードディスク駆動装置の上側に位置するカバー部材に形成され、該ハードディスク駆動装置の内部方向に突出すると共に前記シャフトの上端面に固定された円筒状の第1の凸部、及び/又は、
前記ハードディスク駆動装置の下側に位置するベース部材に形成され、該ハードディスク駆動装置の内部方向に突出すると共に前記シャフトの下端面に固定された円筒状の第2の凸部を備え、
前記カバー部材から前記ベース部材に向かう方向の前記スイングアームの取付孔の長さは、前記シャフトの長さよりも長く、
前記第1の凸部の外周面及び/又は前記第2の凸部の外周面を前記スイングアームの取付孔の内周面と半径方向に対向させることによってラビリンス隙間を形成したことを特徴とするハードディスク駆動装置。
【請求項5】
上面が前記第1の凸部に対向配置され、下面が前記転がり軸受に対向配置され、内周面が前記シャフトの外周面に対向配置され、外周面が固定された環状のシール部材を備えることを特徴とする請求項4に記載のハードディスク駆動装置。
【請求項6】
内周面が前記外輪に固定され、外周面が前記スイングアームの取付孔に嵌合され、上端面が前記第1の凸部に隙間を介して対向配置され、下端面が前記第2の凸部に隙間を介して対向配置された円筒状のスリーブを備え、前記シール部材の外周面がスリーブの内周面に固定されていることを特徴とする請求項5に記載のハードディスク駆動装置。
【請求項7】
前記シール部材の上面と外周面との間に切欠き部を備えることを特徴とする請求項5又は6に記載のハードディスク駆動装置。
【請求項8】
前記ラビリンス隙間は、前記スリーブの上端面と前記カバー部材とを対向させる、及び/又は、前記スリーブの下端面と前記ベース部材の内面とを対向させることによって形成される隙間を含むことを特徴とする請求項1〜3のうち、いずれか1項に記載のハードディスク駆動装置。
【請求項9】
前記ラビリンス隙間は、前記スイングアームの取付孔の上端面と前記カバー部材の内側面とを対向させる、及び/又は、前記スイングアームの取付孔の下端面と前記ベース部材の内面とを対向させることによって形成される隙間を含むことを特徴とする請求項4〜7のうち、いずれか1項に記載のハードディスク駆動装置。
【請求項10】
前記ラビリンス隙間はその出口付近において隙間幅が0.37mm未満であることを特徴とする請求項1〜9のうち、いずれか1項に記載のハードディスク駆動装置。
【請求項11】
ハードディスク駆動装置のスイングアームを揺動可能に支持するピボットアッシー軸受装置であって、下側にフランジ部を有するシャフトと、前記シャフトと同軸に配置された円筒状のスリーブと、前記シャフトと前記スリーブとの間に軸方向に離間して位置する一対の転がり軸受とを備え、前記スリーブは前記シャフトよりも長く、前記スリーブの上端面が前記シャフトの上端面よりも上側に位置し、下端面が前記フランジ部の下面よりも下側に位置することを特徴とするピボットアッシー軸受装置。
【請求項12】
前記シャフトの上側に配置された前記転がり軸受よりも上側の位置で前記スリーブに固定された環状のシール部材を有し、前記シール部材の上面は前記シャフトの上端面よりも下側に位置することを特徴とする請求項11に記載のピボットアッシー軸受装置。
【請求項13】
前記シール部材の上面と前記シール部材の外周面又は内周面との間に切欠き部を有することを特徴とする請求項12に記載のピボットアッシー軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピボットアッシー軸受装置を備えるハードディスク駆動装置及びピボットアッシー軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、信号を記録再生する磁気ヘッドを有するスイングアームをピボットアッシー軸受装置によって支持しているハードディスク駆動装置が知られている。
図12は、従来のピボットアッシー軸受装置の構成を示す断面図である。
図12に示すように、従来のピボットアッシー軸受装置100は、円筒状のスリーブ101が、軸方向に離間して配設された内輪102a、外輪102b、及び転動体102cを備える一対の転がり軸受102を介して、円筒状のシャフト103を相対回転自在に支持する構造を有している。そして、このような構成を有するピボットアッシー軸受装置100は、シャフト103をハードディスク駆動装置のベース部材に固定して、スイングアームに形成された取付孔104にスリーブ101を嵌合することによってスイングアームを揺動可能に支持することができる。
【0003】
近年、ハードディスク駆動装置の記録情報の大容量化と高密度化、及び処理速度の高速化に伴い、磁気ヘッドと磁気ディスクとの間の距離がますます縮小されて、従来は問題にならなかったサイズの微細な異物でもハードディスク駆動装置の故障を引き起こすようになった。したがって、ハードディスク駆動装置内部の清浄度を維持することは益々重要になってきている。このため、転がり軸受に用いられている潤滑剤が気化又は微粒子化することによって発生したアウトパーティクルによってハードディスク駆動装置の内部の清浄度が低下することを抑制可能な技術の提供が求められている。このような背景から、アウトパーティクルによってハードディスク駆動装置の内部の清浄度が低下することを抑制するピボットアッシー軸受装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。具体的には、
図12に示すように、スリーブ101の上端部にシール板105,106を配設することによってラビリンス隙間を形成することにより、アウトパーティクルがピボットアッシー軸受装置100の外部に拡散することを抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−48005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明の発明者らは、鋭意研究を重ねてきた結果、ピボットアッシー軸受装置単体の密封性を向上させたとしても、ピボットアッシー軸受装置の外部へのアウトパーティクルの拡散を効果的に抑制できないことを知見した。
図13は、従来のピボットアッシー軸受装置の周部における気流を示す模式図である。一般に、ハードディスク駆動装置の内部では、磁気ディスクの回転に伴い磁気ディスクの周囲に気流が発生する。ピボットアッシー軸受装置を通過する気流の一部は、
図13に矢印A1で示すように、ハードディスク駆動装置のカバー部材107とスリーブ101の軸方向端面との間の隙間からピボットアッシー軸受装置100の内部に流れ込む。そして、ピボットアッシー軸受装置100の内部に流れ込んだ気流は、
図13に矢印A2で示すように、ピボットアッシー軸受装置100の内部から外方に流出する。このため、ピボットアッシー軸受装置100の内部に滞留しているアウトパーティクルが、この気流によってピボットアッシー軸受装置100の外側に拡散され、拡散されたアウトパーティクルによってハードディスク駆動装置内部の清浄度が低下する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、アウトパーティクルによって内部の清浄度が低下することを抑制可能なハードディスク駆動装置及びピボットアッシー軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係るハードディスク駆動装置は、外輪と内輪とを有する転がり軸受と、外周面に前記内輪が固定されたシャフトと、内周面に前記外輪が固定されたスリーブと、を有し、スイングアームを支持するピボットアッシー軸受装置を備えるハードディスク駆動装置であって、前記ハードディスク駆動装置の上側に位置するカバー部材に形成され、該ハードディスク駆動装置の内部方向に突出すると共に前記シャフトの上端面に固定された円筒状の第1の凸部、及び/又は、前記ハードディスク駆動装置の下側に位置するベース部材に形成され、該ハードディスク駆動装置の内部方向に突出すると共に前記シャフトの下端面に固定された円筒状の第2の凸部を備え、
前記スリーブは前記シャフトよりも長く、前記第1の凸部の外周面及び/又は前記第2の凸部の外周面を前記スリーブの内周面と半径方向に対向させることによってラビリンス隙間を形成したことを特徴とする。
【0008】
本発明の第1の態様に係るハードディスク駆動装置は、上記発明において、上面が前記第1の凸部に対向配置され、下面が前記転がり軸受の内輪に対向配置され、内周面が前記シャフトの外周面に対向配置され、外周面が前記スリーブの内周面に固定された環状のシール部材を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の第1の態様に係るハードディスク駆動装置は、上記発明において、前記シール部材の上面と外周面との間に切欠き部を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の態様に係るハードディスク駆動装置は、外輪と内輪とを有する転がり軸受と、外周面に前記内輪が固定されたシャフトと、を有し、スイングアームに形成された取付孔に嵌合されて該スイングアームを支持するピボットアッシー軸受装置を備えるハードディスク駆動装置であって、前記ハードディスク駆動装置の上側に位置するカバー部材に形成され、該ハードディスク駆動装置の内部方向に突出すると共に前記シャフトの上端面に固定された円筒状の第1の凸部、及び/又は、前記ハードディスク駆動装置の下側に位置するベース部材に形成され、該ハードディスク駆動装置の内部方向に突出すると共に前記シャフトの下端面に固定された円筒状の第2の凸部を備え、
前記カバー部材から前記ベース部材に向かう方向の前記スイングアームの取付孔の長さは、前記シャフトの長さよりも長く、前記第1の凸部の外周面及び/又は前記第2の凸部の外周面を前記スイングアームの取付孔の内周面と半径方向に対向させることによってラビリンス隙間を形成したことを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の態様に係るハードディスク駆動装置は、上記発明において、上面が前記第1の凸部に対向配置され、下面が前記転がり軸受に対向配置され、内周面が前記シャフトの外周面に対向配置され、外周面が固定された環状のシール部材を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の第2の態様に係るハードディスク駆動装置は、上記発明において、内周面が前記外輪に固定され、外周面が前記スイングアームの取付孔に嵌合され、上端面が前記第1の凸部に隙間を介して対向配置され、下端面が前記第2の凸部に隙間を介して対向配置された円筒状のスリーブを備え、前記シール部材の外周面がスリーブの内周面に固定されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の態様に係るハードディスク駆動装置は、上記発明において、前記シール部材の上面と外周面との間に切欠き部を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の第1の態様に係るハードディスク駆動装置は、上記発明において、前記ラビリンス隙間は、前記スリーブの上端面と前記カバー部材とを対向させる、及び/又は、前記スリーブの下端面と前記ベース部材の内面とを対向させることによって形成される隙間を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の第2の態様に係るハードディスク駆動装置は、上記発明において、前記ラビリンス隙間は、前記スイングアームの取付孔の上端面と前記カバー部材の内側面とを対向させる、及び/又は、前記スイングアームの取付孔の下端面と前記ベース部材の内面とを対向させることによって形成される隙間を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の第1及び第2の態様に係るハードディスク駆動装置は、上記発明において、前記ラビリンス隙間はその出口付近において隙間幅が0.37mm未満であることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るピボットアッシー軸受装置は、ハードディスク駆動装置のスイングアームを揺動可能に支持するピボットアッシー軸受装置であって、下側にフランジ部を有するシャフトと、前記シャフトと同軸に配置された円筒状のスリーブと、前記シャフトと前記スリーブとの間に軸方向に離間して位置する一対の転がり軸受とを備え、前記スリーブは前記シャフトよりも長く、前記スリーブの上端面が前記シャフトの上端面よりも上側に位置し、下端面が前記フランジ部の下面よりも下側に位置することを特徴とする。
【0018】
本発明に係るピボットアッシー軸受装置は、上記発明において、前記シャフトの上側に配置された前記転がり軸受よりも上側の位置で前記スリーブに固定された環状のシール部材を有し、前記シール部材の上面は前記シャフトの上端面よりも下側に位置することを特徴とする。
【0019】
本発明に係るピボットアッシー軸受装置は、上記発明において、前記シール部材の上面と前記シール部材の外周面又は内周面との間に切欠き部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るハードディスク駆動装置及びピボットアッシー軸受装置によれば、アウトパーティクルによって内部の清浄度が低下することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態であるハードディスク駆動装置の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態であるピボットアッシー軸受装置の構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す転がり軸受の周部におけるピボットアッシー軸受装置の構成を示す部分拡大断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施形態であるピボットアッシー軸受装置の周部における気流を示す模式図である。
【
図5】
図5は、
図2に示すピボットアッシー軸受装置の変形例の構成を示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図3に示す切欠き部の変形例の構成を示す断面図である。
【
図7】
図7は、
図3に示す切欠き部の変形例の構成を示す断面図である。
【
図8】
図8は、
図3に示す切欠き部の変形例の構成を示す断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2の実施形態であるピボットアッシー軸受装置の構成を示す断面図である。
【
図10】
図10は、
図9に示すピボットアッシー軸受装置の変形例の構成を示す断面図である。
【
図11】
図11は、本発明及び従来のピボットアッシー軸受装置の出口側における気流の最大流速の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、従来のピボットアッシー軸受装置の構成を示す断面図である。
【
図13】
図13は、従来のピボットアッシー軸受装置の周部における気流を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態であるハードディスク駆動装置の構成及びその動作について説明する。なお、以下において、「上」、「下」等の用語は各図面内における方向を示すために用いられているだけであって、本発明におけるハードディスク駆動装置の位置に制限を加えるものではない。
【0023】
〔ハードディスク駆動装置の全体構成〕
始めに、
図1を参照して、本発明の一実施形態であるハードディスク駆動装置の全体構成について説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態であるハードディスク駆動装置の全体構成を示す斜視図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態であるハードディスク駆動装置1は、後述する取付孔に嵌合されたピボットアッシー軸受装置2によって揺動可能に支持されたスイングアーム3を備えている。このハードディスク駆動装置1では、スイングアーム3の先端に配置された磁気ヘッド4が回転している磁気ディスク5上を移動することによって、磁気ディスク5に情報を記録すると共に磁気ディスク5に記録されている情報を読み出すことができる。
【0025】
〔ピボットアッシー軸受装置の構成〕
〔第1の実施形態〕
次に、
図2から
図4を参照して、本発明の第1の実施形態であるピボットアッシー軸受装置の構成について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態であるピボットアッシー軸受装置の構成を示す断面図である。
図3は、
図2に示す転がり軸受の周部におけるピボットアッシー軸受装置の構成を示す部分拡大断面図である。
図4は、本発明の第1の実施形態であるピボットアッシー軸受装置の周部における気流を示す模式図である。
【0026】
図2に示すように、本発明の第1の実施形態であるピボットアッシー軸受装置2は、円筒状のシャフト21と円筒状のスリーブ22との間に上下一対で配置された転がり軸受23を備えている。転がり軸受23は、シャフト21の外周面21aに接着固定されている内輪23aと、スリーブ22の内周面22bに接着固定されている外輪23bと、内輪23aと外輪23bとの間に設けられた複数個の転動体23cと、それらの転動体23cを保持する環状の保持器23dと、を備えている。また、スリーブ22はシャフト21よりも長く、その上端面22fがシャフト21の上端面21fよりも上側に位置し、下端面22dが後述するシャフト21の外フランジ21bの下面よりも下側に位置するように配置されている。このような構成にすることによって、ピボットアッシー軸受装置2は、ハードディスク駆動装置に組み込まれた時に、後述するようなラビリンス隙間を形成することができる。
【0027】
シャフト21は、下端部に径方向に突出する外フランジ21bを有する円筒状部材であり、外フランジ21bの内周側の上面21b1には、軸方向下側に配置された転がり軸受23の内輪23aの下端面23a1が当接されている。これにより、軸方向下側に配置された転がり軸受23の内輪23aは、シャフト21に対して上下方向(軸線方向)に位置決めされている。外フランジ21bの外周面21b2は、スリーブ22の内周面22bに隙間を介して対向配置されている。外フランジ21bの外周側の上面には、軸方向下側に配置された転がり軸受23の外輪23bとの接触を避けるための環状の段差部21cが形成されている。
【0028】
外フランジ21bの下面21b3は、ハードディスク駆動装置1の下側に位置するベース部材11に形成され、ハードディスク駆動装置1の筐体の内部方向に突出する円筒状の凸部11a(第2の凸部)の上面(突出面)に固定されている。シャフト21の外周面21aの上下に配置された各転がり軸受23に対応する位置には、周方向に延在する環状の接着領域21dが形成されている。シャフト21の下端部の端面には、シャフト21に対して同軸上に配置されたボス21e及び貫通孔が設けられている。ボス21eは、凸部11aの内周面に嵌合されている。貫通孔の上端部と下端部にはネジ山が形成され、それぞれに図示しないネジが締め込まれる。これにより、ピボットアッシー軸受装置2は、凸部11aを介してハードディスク駆動装置1の下側のベース部材11に固定されると共に凸部12aを介してハードディスク装置の上側のカバー部材12に固定される。
【0029】
スリーブ22の外周面22aは、スイングアーム3(
図1参照)に形成された取付孔31の内周面31aに嵌合されて固定されている。固定方法としては接着、圧入、トレランスリングを介した方法等が挙げられるが、いずれの方法を用いても構わない。スリーブ22の内周面22bには、転がり軸受23の外輪23bが嵌合される上下一対の外輪嵌合部22cが形成され、上下一対の転がり軸受23の外輪23bはそれぞれが対応する外輪嵌合部22cに嵌合されている。これにより、一対の転がり軸受23は、スリーブ22に対して軸線方向(上下方向)に位置決めされ、上下の転がり軸受23間の軸方向距離(上下間隔)は予め定められた距離で保持される。なお、シャフト21の外フランジ21bの外径は、スリーブ22の外輪嵌合部22cの直径よりも小さく、且つ、転がり軸受23の外輪23bの内径よりも大きく設定されている。
【0030】
スリーブ22の下端面22dは、ベース部材11の内面11bと隙間を介して対向している。また、スリーブ22の下側内周面22eは、凸部11aの外周面11a1と隙間を介して対向している。これにより、外フランジ21bの外周面21b2及び凸部11aの外周面11a1とスリーブ22の下側内周面22eとの間、及びスリーブ22の下端面22dとベース部材11の内面11bとの間に複数の屈曲部を有するラビリンス隙間が形成されている。
【0031】
図3に示すように、シャフト21の外周面21aとスリーブ22の内周面22bとの間の空間において、上側の転がり軸受23の上部には、円環状のシール部材24が配置されている。シール部材24の上面24aと外周面の間の角部には傾斜面を形成することによって切欠き部24a1が設けられている。また、シール部材24の上面24aは、ハードディスク駆動装置1の上側に位置するカバー部材12に形成され、ハードディスク駆動装置1の内部方向に突出する凸部12a(第1の凸部の一例)の下面12a2(突出面)に隙間を介して対向配置されている。また、シール部材24の外周面は、スリーブ22の内周面22bに接着固定され、シール部材24の内周面24bは、隙間を介してシャフト21の外周面21aに対向配置されている。そして、シール部材24の下面は転がり軸受23の外輪23bに当接している。転がり軸受23には予圧が掛けられているので、内輪23aの端面は外輪23bの端面よりわずかに下方位置にある。そのため、シール部材24の下面と内輪の端面との間にはラビリンス隙間に連通する微小隙間が形成される。
【0032】
スリーブ22の内周面22bは、カバー部材12の凸部12aの外周面12a1と隙間を介して対向している。スリーブ22の上端面22fは、カバー部材12の内面12bと隙間を介して対向している。これにより、シャフト21の外周面21aとシール部材24の内周面24bとの間、凸部12aの下面12a2とシール部材24の上面24aとの間、スリーブ22の内周面22bと凸部12aの外周面12a1との間、及びスリーブ22の上端面22fとカバー部材12の内面12bとの間に複数の屈曲部を有するラビリンス隙間が形成されている。
【0033】
このような構成を有するハードディスク駆動装置1によれば、
図4に矢印A3で示すように、スリーブ22の内周面22bとカバー部材12の凸部12aとを対向させることによって形成された複数の屈曲部を有するラビリンス隙間によって、磁気ディスク5の回転に伴い磁気ディスク5の周囲に発生した気流がピボットアッシー軸受装置2の内部に流入することを抑制できる。また、気流がピボットアッシー軸受装置2の内部に流入したとしても、ラビリンス隙間は複数回屈曲していて隙間幅が狭いため、気流の速度を遅くすることができる。さらに、
図4に矢印A4で示すように、シャフト21、スリーブ22、シール部材24、及びカバー部材12によって形成されるラビリンス隙間によって気流の流出を抑制できるので、ピボットアッシー軸受装置2の内部から外方に流出する気流の流速をさらに遅くできる。また、シール部材24の上部に形成されている切欠き部24a1によってラビリンス隙間の中間部において拡大隙間部が形成される。この拡大隙間部において気流が減速することによって出口付近の気流の速度がさらに遅くなるので、ピボットアッシー軸受装置2の内部から外方に流出する気流の流速をさらに遅くできる。なお、本実施の形態では切欠き部24a1をシール部材24の上面24aと外周面との間に設けたが、切欠き部24a1をシール部材24の上面24aと内周面との間に設けてもよい。
【0034】
これにより、ピボットアッシー軸受装置2の内部に滞留しているアウトパーティクルが、気流によってピボットアッシー軸受装置2の外側に拡散することを抑制できるので、アウトパーティクルの拡散によってハードディスク駆動装置1内部の清浄度が低下することを抑制できる。なお、
図4では、ハードディスク駆動装置1の上部における気流についてのみ説明したが、ハードディスク駆動装置1の下部にもスリーブ22とベース部材11の凸部11aとによってラビリンス隙間が形成されている。このため、ハードディスク駆動装置1の下部においてもピボットアッシー軸受装置2の内部から外方に流出する気流の速度が遅くなり、アウトパーティクルが気流によってピボットアッシー軸受装置2の外側に拡散することを抑制できる。また、本実施形態では、ハードディスク駆動装置1の上部及び下部の両方にラビリンス隙間を形成したが、ハードディスク駆動装置1の上部及び下部のどちらか一方にのみラビリンス隙間を形成するようにしてもよい。
【0035】
〔変形例1〕
図5は、
図2に示すピボットアッシー軸受装置の変形例の構成を示す断面図である。上記実施形態においては、上側の転がり軸受23の上部に円環状のシール部材24を配置したが、
図5に示すように、シール部材24を省略し、上側の転がり軸受23の上端面をカバー部材12の凸部12aの下面12a2(突出面)に対向配置させてもよい。このような構成であっても、スリーブ22とカバー部材12との間にラビリンス隙間が形成されているので、ピボットアッシー軸受装置2の内部に滞留しているアウトパーティクルが、気流によってピボットアッシー軸受装置2の外側に拡散することが抑制できる。また、このような構成によれば、シール部材24の分だけ上側の転がり軸受23と下側の転がり軸受23との間の距離を長くすることができるので、ピボットアッシー軸受装置2の軸剛性を高めることができる。或いは、シール部材24の分だけスリーブ22の全長を短くできるので、ハードディスク駆動装置の薄型化に有利である。
【0036】
〔変形例2〕
図6から
図8は、
図3に示す切欠き部の変形例の構成を示す断面図である。上記実施形態においては、シール部材24の上面24aの角部に傾斜面を形成することによって切欠き部24a1を設けたが、
図6や
図7に示すように、シール部材24の上面24aの角部に曲面を形成することによって切欠き部24a2,24a3を形成してもよい。また、
図8に示すように、シール部材24の上面24aの角部に段差を形成することによって切欠き部24a4を形成してもよい。また、切欠き部は、シール部材24の内周面に形成されていてもよい。このように、切欠き部は、シール部材24の上面24a又は内周面に形成され、ラビリンス隙間の中間部に拡大隙間部を形成可能であって、拡大隙間部によって気流の速度を遅くする機能を発現するものであれば、どのような形状及び位置であっても構わない。
【0037】
〔第2の実施形態〕
次に、
図9を参照して、本発明の第2の実施形態であるピボットアッシー軸受装置の構成について説明する。
図9は、本発明の第2の実施形態であるピボットアッシー軸受装置の構成を示す断面図である。なお、本発明の第2の実施形態であるピボットアッシー軸受装置は、スリーブ22及びスイングアームの取付孔31の構成が第1の実施形態におけるそれと異なるだけであるので、以下では、スリーブ22及びスイングアームの取付孔31の構成についてのみ説明する。
【0038】
図9に示すように、本実施形態では、スリーブ22の下端面22dは、下側のベース部材11に形成された凸部11aの上面11a2(突出面)に隙間を介して対向配置され、スリーブ22の上端面22fは、上側のカバー部材12に形成された凸部12aの下面12a2(突出面)に隙間を介して対向配置されている。また、取付孔31の周囲の上端部31a及び下端部31bはそれぞれ、カバー部材12の内面12b及びベース部材11の内面11bに隙間を介して対向配置されている。また、取付孔31の上側内周面31c及び下側内周面31dはそれぞれ、凸部12aの外周面12a1及び凸部11aの外周面11a1に隙間を介して対向配置されている。
【0039】
このように、本実施形態では、ピボットアッシー軸受装置2の上方には、取付孔31の周囲の上端部31aとカバー部材12の内面12bとの間、取付孔31の上側内周面31cと凸部12aの外周面12a1との間、及びスリーブ22の上端面22fと凸部12aの下面12a2(突出面)との間にラビリンス隙間が形成されている。また、ピボットアッシー軸受装置2の下方には、取付孔31の周囲の下端部31bとベース部材11の内面11bとの間、取付孔31の下側内周面31dと凸部11aの外周面11a1との間、及びスリーブ22の下端面22dと凸部11aの上面11a2との間にラビリンス隙間が形成されている。
【0040】
これにより、本実施形態においても、ピボットアッシー軸受装置2の内部に滞留しているアウトパーティクルが、気流によってピボットアッシー軸受装置2の外側に拡散することを抑制できるので、アウトパーティクルによってハードディスク駆動装置1内部の清浄度が低下することを抑制できる。なお、本実施形態では、ハードディスク駆動装置1の上部及び下部の両方にラビリンス隙間を形成したが、ハードディスク駆動装置1の上部及び下部のどちらか一方にのみラビリンス隙間を形成するようにしてもよい。
【0041】
〔変形例3〕
図10は、
図9に示すピボットアッシー軸受装置の変形例の構成を示す断面図である。上記実施形態においては、シャフト21と取付孔31との間にスリーブ22を配置したが、
図10に示すように、スリーブ22を省略し、上下の転がり軸受23の間に転がり軸受23を位置決めするためのスペーサ部材26を配置してもよい。このような構成によれば、スリーブ22を省略した分だけシャフト21の外径を太くすることによって軸剛性を高めることができる、又は、シャフト21の外径を変えないでスリーブ22を省略した分だけ、ピボットアッシー軸受装置2を小型化できる。
【実施例】
【0042】
図2に示す第1の実施形態におけるピボットアッシー軸受装置(実施例)について、上部及び下部のラビリンス隙間の出口付近における、アキシャル隙間の隙間幅a及びラジアル隙間の隙間幅bを変化させた時の、上部のラビリンス隙間の出口付近における外部へ向かう気流及び下部のラビリンス隙間の出口付近における外部へ向かう気流の最大流速を流体解析により評価した。
図4に、上部のラビリンス隙間におけるアキシャル隙間の隙間幅a、ラジアル隙間の隙間幅b、及び外部へ向かう気流A4を示す。下部のラビリンス隙間におけるアキシャル隙間の隙間幅a、ラジアル隙間の隙間幅b、及び外部へ向かう気流も
図4と同様である。また、
図12に示す従来のピボットアッシー軸受装置についても流体解析によりピボットアッシー軸受装置の上部のラビリンス隙間の出口付近における外部へ向かう気流(
図13に示す気流A2)及び下部のラビリンス隙間の出口付近における外部へ向かう気流の最大流速を求めた。
図11に従来例と実施例の最大流速を比較した評価結果を示す。本評価では隙間幅a及び隙間幅bは下部および上部とも同じ値とした。なお、
図11における実施例の数値は、従来例における気流の最大流速に対する実施例における気流の最大流速の比率を示している。すなわち、
図11において、従来例の最大流速は100%に相当する。また、
図11において、上部出口とは、
図2に示すピボットアッシー軸受装置の上部に形成したラビリンス隙間のスリーブ上端面付近のラジアル隙間の領域を意味し、下部出口とは、
図2に示すピボットアッシー軸受装置の下部に形成したラビリンス隙間のスリーブ下端面付近のラジアル隙間の領域を意味する。
【0043】
図11に示すように、従来例に対して、実施例では、幅a,bの減少に伴い上部出口及び下部出口のいずれにおいても外方へ向かう気流の最大流速が減少した。このことから、実施例におけるピボットアッシー軸受装置によれば、ラビリンス隙間を形成することによって、ピボットアッシー軸受装置の出口側からの気流の流出を抑制し、ピボットアッシー軸受装置の内部に発生しているアウトパーティクルが外部に拡散することを抑制できることが確認された。また、
図11より、隙間幅が0.37mm以上になると実施例における下部出口の最大流速は従来例と同等になると予測される。したがって、アウトパーティクルが外部に拡散することを抑制するためには、上部及び下部のラビリンス隙間の出口付近における隙間幅は0.37mm未満であることがより望ましい。
【0044】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1 ハードディスク駆動装置
2 ピボットアッシー軸受装置
3 スイングアーム
4 磁気ヘッド
5 磁気ディスク
11 ベース部材
11a 凸部(第2の凸部)
12 カバー部材
12a 凸部(第1の凸部)
21 シャフト
22 スリーブ
23 転がり軸受
23a 内輪
23b 外輪
23c 転動体
23d 保持器
24 シール部材
24a1,24a2,24a3,24a4 切欠き部
26 スペーサ部材
31 取付孔