特許第6263168号(P6263168)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6263168金属フタロシアニンポリマー及びこれを用いた電極触媒並びにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263168
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】金属フタロシアニンポリマー及びこれを用いた電極触媒並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/32 20060101AFI20180104BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20180104BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20180104BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20180104BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20180104BHJP
【FI】
   C08G69/32
   H01M4/90 Y
   H01M4/90 X
   H01M4/88 K
   B01J31/22 Z
   !H01M8/10
【請求項の数】21
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-513677(P2015-513677)
(86)(22)【出願日】2014年4月11日
(86)【国際出願番号】JP2014060470
(87)【国際公開番号】WO2014175077
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2017年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2013-91173(P2013-91173)
(32)【優先日】2013年4月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000169
【氏名又は名称】クミアイ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】根本 修克
(72)【発明者】
【氏名】小林 以弦
(72)【発明者】
【氏名】梅津 一登
(72)【発明者】
【氏名】秋本 雅史
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−6283(JP,A)
【文献】 特表2011−516254(JP,A)
【文献】 特開平7−324170(JP,A)
【文献】 特開平2−255726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G69、C08L77、B01J31/22
H01M4/88−4/90、H01M8/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1a)で表される構造単位と、一般式(2a)で表される構造単位とがアミド結合した繰り返し構造単位を有することを特徴とする金属フタロシアニンポリマー。
【化1】
(一般式(1a)中、Lは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【化2】
(一般式(2a)中、Mは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【請求項2】
前記L及び前記Mはそれぞれ独立にCo2+、Ni2+、Fe2+からなる群より選択される金属イオンであることを特徴とする請求項1記載の金属フタロシアニンポリマー。
【請求項3】
前記L及び前記MはCo2+であることを特徴とする請求項1記載の金属フタロシアニンポリマー。
【請求項4】
前記LはCo2+であり、前記MはNi2+であることを特徴とする請求項1記載の金属フタロシアニンポリマー。
【請求項5】
前記LはCo2+であり、前記MはFe2+であることを特徴とする請求項1記載の金属フタロシアニンポリマー。
【請求項6】
一般式(1)で表される金属アミノフタロシアニン化合物と一般式(2)で表される金属カルボキシフタロシアニン化合物との縮合により製造されることを特徴とする金属フタロシアニンポリマー。
【化3】
(一般式(1)中、Lは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【化4】
(一般式(2)中、Mは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【請求項7】
前記L及び前記Mはそれぞれ独立にCo2+、Ni2+、Fe2+からなる群より選択される金属イオンであることを特徴とする請求項6記載の金属フタロシアニンポリマー。
【請求項8】
前記L及び前記MはCo2+であることを特徴とする請求項6記載の金属フタロシアニンポリマー。
【請求項9】
前記LはCo2+であり、前記MはNi2+であることを特徴とする請求項6記載の金属フタロシアニンポリマー。
【請求項10】
前記LはCo2+であり、前記MはFe2+であることを特徴とする請求項6記載の金属フタロシアニンポリマー。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属フタロシアニンポリマーを還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、650℃〜1500℃において焼成することにより製造されることを特徴とする電極触媒。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属フタロシアニンポリマーを還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、800℃〜1000℃において焼成することにより製造されることを特徴とする電極触媒。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属フタロシアニンポリマーを還元性ガス雰囲気下、800℃〜1000℃において焼成することにより製造されることを特徴とする電極触媒。
【請求項14】
一般式(1)で表される金属アミノフタロシアニン化合物と一般式(2)で表される金属カルボキシフタロシアニン化合物とを縮合することを特徴とする、一般式(1a)で表される構造単位と、一般式(2a)で表される構造単位とがアミド結合した繰り返し構造単位を有する金属フタロシアニンポリマーの製造方法。
【化5】
(一般式(1)中、Lは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【化6】
(一般式(2)中、Mは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【化7】
(一般式(1a)中、Lは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【化8】
(一般式(2a)中、Mは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【請求項15】
前記L及び前記Mはそれぞれ独立にCo2+、Ni2+、Fe2+からなる群より選択される金属イオンであることを特徴とする請求項14記載の金属フタロシアニンポリマーの製造方法。
【請求項16】
前記L及び前記MはCo2+であることを特徴とする請求項14記載の金属フタロシアニンポリマーの製造方法。
【請求項17】
前記LはCo2+であり、前記MはNi2+であることを特徴とする請求項14記載の金属フタロシアニンポリマーの製造方法。
【請求項18】
前記LはCo2+であり、前記MはFe2+であることを特徴とする請求項14記載の金属フタロシアニンポリマーの製造方法。
【請求項19】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属フタロシアニンポリマーを還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、650℃〜1500℃において焼成することを特徴とする電極触媒の製造方法。
【請求項20】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属フタロシアニンポリマーを還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、800℃〜1000℃において焼成することを特徴とする電極触媒の製造方法。
【請求項21】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属フタロシアニンポリマーを還元性ガス雰囲気下、800℃〜1000℃において焼成することを特徴とする電極触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒の原料などの合成高分子材料として有用な金属フタロシアニンポリマー及びこれを用いた電極触媒並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我々は主なエネルギー源として化石燃料を使用している。しかし、化石燃料は有限である。さらに、化石燃料はその使用時に生じる二酸化炭素が温室効果を進行させるという問題がある。したがって、化石燃料に代わるエネルギー源の開発が求められている。新たなエネルギー源の一つとして燃料電池が挙げられる。
【0003】
一次電池や二次電池と比べ、燃料電池は水素や酸素を燃料として供給し続けることにより、半永久的に利用可能な発電装置である。燃料電池は、使用する燃料の再利用が可能であることからも注目を集めている。その中でも、高分子電解質燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、低温で作動し、電解質が薄膜状であることから小型軽量化が可能であるため、家庭電化機器、携帯機器、自動車用バッテリー電池などへの応用が期待されている。PEFCは、カソード(正極)とアノード(負極)の2枚の電極で電解質膜を挟み込んだ構造である。PEFCでは、正極に酸素、負極に水素などの燃料を供給し、電極で生じる化学反応から電気エネルギーを得ることができる。
【0004】
燃料電池のカソードは、電極触媒を担持しており、酸素を水に還元する反応を触媒する。カソード側の酸素還元反応は、反応速度が比較的遅いため、これを効率よく作動させるための触媒が必要とされる。電極材料としては炭素系などが知られているが、燃料電池を効率よく作動させるための炭素系電極触媒としては、現在、白金含有触媒が最も有効とされている。しかし、白金は貴金属であるため、コスト面での問題が指摘されている。したがって、白金を用いない新規な触媒の創製が期待されている。
【0005】
ところで、炭素系電極触媒の創製において重要なことは、高い導電性と広い表面積を持つ分散性の良い炭素材料を創製し、その材料中に金属を細かく分散させることである。そのような炭素材料の素材の一つとして、フタロシアニンが知られている(例えば、特許文献1参照)。この文献に記載の炭素材料は、特定の繰り返し単位からなるハイパーブランチ金属フタロシアニンを不活性ガス雰囲気下で焼成して得られる。この繰り返し単位のフタロシアニンコアを構成する金属イオンは、Fe2+、Co2+、Ni2+からなる群より選択されるため、白金など高価な貴金属を使用しなくてもよい点を特徴としている。
【0006】
フタロシアニンは、金属を固定するための配位性元素を多く含むことが知られている。フタロシアニンは、その分子全体が共役二重結合系を形成した巨大な環状構造を持つことから、その構造及び結合が極めて安定であり、その分子の中心では遷移金属などの金属イオンに配位して、安定な金属フタロシアニン錯体を形成する。金属フタロシアニンを電極材料に用いる利点としては、金属を安定的に固定化できることが挙げられる、つまり、ナノレベルで金属配置が制御できることが示唆できる。さらに、金属担持型炭素材料の前駆体として金属フタロシアニンを用いる利点としては、炭素含有率が高いことが挙げられる。すなわち、フタロシアニンを焼成して炭素化物にしたときに、電極の炭素含有率を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−6283号公報(請求項1など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の触媒材料では、段落0023の式(I)に記載されているように、金属フタロシアニン以外にフェノール類に由来する構成単位を必要とする。しかしながら、特許文献1のハイパーブランチ金属フタロシアニンは、隣り合う金属フタロシアニンの間に、フェノール類に由来する構成単位が介在している結合(−O−Ar−O−)と、介在していない結合(−O−)が混在するため、金属配置の規則性に乏しい。また、工業化の観点からは、より単純な構成単位を持つことが好ましい。この点で、特許文献1に記載の化合物には改善の余地があった。
【0009】
加えて、異種金属の協同効果の探索により好適な方法としても、特許文献1に記載の発明は改善の余地があった。すなわち、特許文献1に記載のハイパーブランチ金属フタロシアニンは、1種類の金属フタロシアニンしか含まれておらず、2種類以上の金属の協同効果を探索するための前駆体化合物として使用できない。
【0010】
本発明の目的は、特に電極触媒材料の前駆体として好適に使用され、高価な白金を使用せず、単純な構成単位からなり金属が規則正しく配列しており、なおかつ必要に応じて異種金属の協同効果の探索にも好適に使用することができる、新規な金属フタロシアニンポリマーを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、高価な白金を使用せず、炭素含有率と金属分散性のいずれも高く、なおかつ必要に応じて異種金属を含有させることが可能な電極触媒を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、上記の特性を備えた金属フタロシアニンポリマー及び電極触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような状況に鑑み、本発明者らが電極触媒材料について鋭意研究した。その結果、本発明者らは、意外にも、後記一般式(1)で表される金属アミノフタロシアニン化合物と後記一般式(2)で表される金属カルボキシフタロシアニン化合物との縮合によりアミド構造を有する金属フタロシアニンポリマーが製造できることを見出した。さらに、本発明者らは、意外にも、当該金属フタロシアニンポリマーを特定の条件で焼成することにより得られた炭素材料が明確な酸素還元の触媒活性を有することを見だした。本発明者らは、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、一般式(1a)で表される構造単位と、一般式(2a)で表される構造単位とがアミド結合した繰り返し構造単位を有することを特徴とする金属フタロシアニンポリマーに関する。
【化1】
(一般式(1a)中、Lは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【化2】
(一般式(2a)中、Mは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【0013】
この場合、前記L及び前記Mはそれぞれ独立にCo2+、Ni2+、Fe2+からなる群より選択される金属イオンであることが好ましい。さらに、前記L及び前記MはCo2+であるか、前記LはCo2+であり、前記MはNi2+であるか、又は前記LはCo2+であり、前記MはFe2+であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、一般式(1)で表される金属アミノフタロシアニン化合物と一般式(2)で表される金属カルボキシフタロシアニン化合物との縮合により製造されることを特徴とする金属フタロシアニンポリマーである。
【化3】
(一般式(1)中、Lは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【化4】
(一般式(2)中、Mは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【0015】
この場合、前記L及び前記Mはそれぞれ独立にCo2+、Ni2+、Fe2+からなる群より選択される金属イオンであることが好ましい。さらに、前記L及び前記MはCo2+であるか、前記LはCo2+であり、前記MはNi2+であるか、又は前記LはCo2+であり、前記MはFe2+であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の金属フタロシアニンポリマーを還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、650℃〜1500℃において焼成することにより製造されることを特徴とする電極触媒である。
【0017】
あるいは、本発明は、上記のいずれかに記載の金属フタロシアニンポリマーを還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、800℃〜1000℃において焼成することにより製造されることを特徴とする電極触媒である。
【0018】
若しくは、本発明は、上記のいずれかに記載の金属フタロシアニンポリマーを還元性ガス雰囲気下、800℃〜1000℃において焼成することにより製造されることを特徴とする電極触媒である。
【0019】
また、本発明は、一般式(1)で表される金属アミノフタロシアニン化合物と一般式(2)で表される金属カルボキシフタロシアニン化合物とを縮合することを特徴とする、一般式(1a)で表される構造単位と、一般式(2a)で表される構造単位とがアミド結合した繰り返し構造単位を有する金属フタロシアニンポリマーの製造方法である。
【化5】
(一般式(1)中、Lは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【化6】
(一般式(2)中、Mは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【化7】
(一般式(1a)中、Lは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【化8】
(一般式(2a)中、Mは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【0020】
この場合、前記L及び前記Mはそれぞれ独立にCo2+、Ni2+、Fe2+からなる群より選択される金属イオンであることが好ましい。さらに、前記L及び前記MはCo2+であるか、前記LはCo2+であり、前記MはNi2+であるか、又は前記LはCo2+であり、前記MはFe2+であることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の金属フタロシアニンポリマーを還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、650℃〜1500℃において焼成することを特徴とする電極触媒の製造方法である。
【0022】
あるいは、本発明は、上記のいずれかに記載の金属フタロシアニンポリマーを還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、800℃〜1000℃において焼成することを特徴とする電極触媒の製造方法である。
【0023】
若しくは、本発明は、上記のいずれかに記載の金属フタロシアニンポリマーを還元性ガス雰囲気下、800℃〜1000℃において焼成することを特徴とする電極触媒の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、特に電極触媒材料の前駆体として好適に使用され、高価な白金を使用せず、単純な構成単位からなり金属が規則正しく配列しており、なおかつ必要に応じて異種金属の協同効果の探索にも好適に使用することができる、新規な金属フタロシアニンポリマーを提供することが可能となる。
また、本発明によれば、高価な白金を使用せず、炭素含有率及び金属分散性が高く、なおかつ必要に応じて異種金属を含有させることが可能な電極触媒を提供することが可能となる。
さらに、本発明によれば、上記の特性を備えた金属フタロシアニンポリマー及び電極触媒の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】TNCoPcのIRスペクトル図である。
図2】TACoPcのIRの(a):スペクトル図、(b):熱重量分析結果である。
図3】TAmCoPcのIRスペクトル図である。
図4】TCaCoPcの(a):IRスペクトル図、(b):熱重量分析結果である。
図5】Poly(TACoPc−TCaCoPc)の(a):IRスペクトル図、(b):熱重量分析結果である。
図6】焼成温度を変えて作製した電極をリニアスイープボルタンメトリー法で試験した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.金属フタロシアニンポリマー
本発明の金属フタロシアニンポリマー(以下、単に「金属フタロシアニンポリマー」という)は、一般式(1a)で表される構造単位と、一般式(2a)で表される構造単位とがアミド結合した繰り返し構造単位を有することを特徴とする金属フタロシアニンポリマーである。
【0027】
【化9】
(一般式(1a)中、Lは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【0028】
【化10】
(一般式(2a)中、Mは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【0029】
このように、金属フタロシアニンポリマーは、一般式(1a)の繰り返し単位と一般式(2a)の繰り返し単位が交互に繰り返し配列したハイパーブランチ構造を有している。したがって、それぞれの繰り返し単位に含まれるフタロシアニンコアMとLが交互に規則正しく配列されている。
【0030】
ここで、L及びMを構成する2価の金属イオンとしては、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Cd2+、Ni2+、Zn2+、Cu2+、Fe2+、Co2+、Sn2+、Mn2+などを挙げることができる。また、3価の金属イオンとしては、Al3+、Fe3+、Cr3+を挙げることができる。このように、本発明では白金などの貴金属を使用することがないため、安価な金属フタロシアニンポリマーを提供することが可能となる。
【0031】
これらのうち、L及びMは、それぞれ独立にCo+、Ni+、Fe+からなる群より選択される金属イオンであることが好ましい。これら3種類の金属イオンは、遷移金属であり、種々の配位子と錯体形成でき、さらに比較的に入手容易および安価であり、毒性が低く、これらの理由で他の金属イオンよりも優れているため好ましい。特に、L及びMがCo+であるか、LがCo+でありMがNi+であるか、LがCo+でありMがFe+であることが好ましい。このように、L及びMを異種金属とすることで、後述するように金属フタロシアニンポリマーを焼成して炭素電極材料としたときに、異種金属の協同効果を探索することが可能となる。また、電極触媒に異種金属を含有させることで、1種類の金属のみを含有させた場合と比較して、一般的に有機化学触媒反応で見られる異種金属の混合効果が得られるため好ましい。
【0032】
2.金属フタロシアニンポリマーの製造方法
金属フタロシアニンポリマーは、一般式(1)で表される金属アミノフタロシアニン化合物を合成し(工程1)、これと並行して、一般式(2)で表される金属カルボキシフタロシアニン化合物を合成し(工程2)、得られた金属アミノフタロシアニン化合物と金属カルボキシフタロシアニン化合物とを縮合すること(工程3)で製造することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0033】
【化11】
(一般式(1)中、Lは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【0034】
【化12】
(一般式(2)中、Mは長周期型周期表の第3〜第5周期に属する2価又は3価の金属イオンである。)
【0035】
(1)金属アミノフタロシアニン化合物の合成(工程1)
一般式(1)で示される金属アミノフタロシアニン化合物は、金属ニトロフタロシアニン化合物を合成し(工程1−1)、合成した金属ニトロフタロシアニン化合物のニトロ基をアミノ基に還元する(工程1−2)ことで合成することができる。以下、これらの工程を詳細に説明する。
【0036】
(1−1)金属ニトロフタロシアニン化合物の製造(工程1−1)
下記一般式(4)で示される金属ニトロフタロシアニン化合物は、下記一般式(3)で示される4−ニトロフタル酸、又はその酸無水物若しくはそのイミド等に、上記Lを含む金属塩、尿素、及び触媒を、必要に応じて溶媒の存在下で、反応させることにより製造することができる。上記Lを含む金属塩とは、例えば塩化コバルト(II)、塩化ニッケル(II)、塩化鉄(II)などを挙げることができる。触媒とは、例えばモリブデン酸アンモニウムなどを挙げることができる。溶媒とは、例えばニトロベンゼン、トリクロロベンゼン、トリグライムなどを挙げることができる。反応温度、反応時間は適宜設定することができるが、例えば150〜230℃、4〜12時間とすることができる。金属ニトロフタロシアニンの合成方法としては、例えば、特開平11−56989号公報、特開平10−101673号公報、特開昭53−75223号公報などを参照することができる。
【0037】
【化13】
【0038】
(1−2)金属アミノフタロシアニン化合物の製造(工程1−2)
下記一般式(1)で示される金属アミノフタロシアニンは、下記一般式(4)で示される金属ニトロフタロシアニンのニトロ基を還元することで製造することができる。還元は還元剤と適宜溶媒を用いて行うことができる。還元剤としては、例えば硫化ナトリウム(NaS、Naなど)、ナトリウムヒドロスルフィド、亜二チオン酸ナトリウム、硫化アンモニウムなどを挙げることができる。この場合、溶媒としては水を挙げることができ、ここで水はプロトン源を兼ねる。反応温度、反応時間は適宜設定することができるが、例えば50〜80℃、4〜12時間とすることができる。金属アミノフタロシアニンの合成方法としては、例えば、特開平11−56989号公報、「新実験化学講座 14 有機化合物の合成と反応III、1332−1335頁、(1978年)、丸善(株)」などを参照することができる。
【0039】
【化14】
【0040】
(2)金属カルボキシフタロシアニン化合物の合成(工程2)
一般式(2)で示される金属カルボキシフタロシアニン化合物は、金属カルボキサミドフタロシアニン化合物を合成し(工程2−1)、合成した金属カルボキサミドフタロシアニン化合物のカルボキサミド基を加水分解する(工程2−2)ことで合成することができる。以下、これらの工程を詳細に説明する。
【0041】
(2−1)金属カルボキサミドフタロシアニン化合物の製造(工程2−1)
下記一般式(6)で示される金属カルボキサミドフタロシアニン化合物は、下記一般式(5)で示されるトリメリット酸無水物に、上記Mを含む金属塩、尿素、及び触媒を、必要に応じて溶媒の存在下で、反応させることにより製造することができる。上記Mを含む金属塩とは、例えば塩化コバルト(II)、塩化ニッケル(II)、塩化鉄(II)などを挙げることができる。触媒とは、例えばモリブデン酸アンモニウムなどを挙げることができる。溶媒とは、例えばニトロベンゼン、トリクロロベンゼン、トリグライムなどを挙げることができる。反応温度、反応時間は適宜設定することができるが、例えば150〜230℃、4〜12時間とすることができる。金属カルボキサミドフタロシアニンの合成方法としては、例えば、特開平11−56989号公報、特開平10−101673号公報、特開昭53−75223号公報などを参照することができる。
【0042】
【化15】
【0043】
(2−2)金属カルボキシフタロシアニン化合物の製造(工程2−2)
下記一般式(2)で示される金属カルボキシフタロシアニン化合物は、下記一般式(6)で示される金属カルボキサミドフタロシアニンのカルボキサミド基を加水分解することで製造することができる。加水分解は、当業者が通常用いる方法によって行うことができる。加水分解は、例えば水酸化カリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液のようなアルカリ水溶液を用いて行うことができる。反応温度、反応時間は適宜設定することができるが、例えば80〜120℃、20〜30時間とすることができる。金属カルボキシフタロシアニンの合成方法としては、例えば、特開平11−56989号公報、「新実験化学講座 14 有機化合物の合成と反応II、943−947頁、(1977年)、丸善(株)」などを参照することができる。
【0044】
【化16】
【0045】
(3)金属フタロシアニンポリマーの製造(工程3)
下記一般式(7)で示される金属フタロシアニンポリマーは、下記一般式(1)で示される金属アミノフタロシアニン化合物のアミノ基と、下記一般式(2)で示される金属カルボキシフタロシアニン化合物のカルボキシル基を、アミド結合を形成させることで製造することができる。縮合反応は、縮合剤の存在下で行うことが好ましい。縮合剤としては、例えば亜リン酸トリフェニルが挙げられるが、これに限定されるものではない。縮合剤として亜リン酸トリフェニルを使用した場合、ピリジンを使用することが好ましい。さらに、縮合剤として亜リン酸トリフェニルを使用した場合、塩化リチウムや塩化カルシウムなどの金属塩を添加することができる。縮合反応は、溶媒の存在下に行うことができる。縮合反応に用いる溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)などを挙げることができる。
【0046】
下記一般式(1)で示される金属アミノフタロシアニン化合物と下記一般式(2)で示される金属カルボキシフタロシアニン化合物の使用割合は適宜設定することができるが、その使用割合としては、例えば、使用される金属アミノフタロシアニン化合物のモル数(a)と使用される金属カルボキシフタロシアニン化合物のモル数(b)の比(a)/(b)が0.8〜1.2、好ましくは0.9〜1.1、より好ましくは1である。縮合剤として亜リン酸トリフェニルを使用した場合、亜リン酸トリフェニルの使用量は適宜設定することができるが、亜リン酸トリフェニルの使用量としては、下記一般式(1)で示される金属アミノフタロシアニン化合物1molに対して、2〜40mol、好ましくは4〜30mol、より好ましくは10〜30mol、さらに好ましくは15〜25molの範囲を例示できる。縮合剤として亜リン酸トリフェニルを使用した場合、ピリジンの使用量は適宜設定することができるが、ピリジンの使用量としては、下記一般式(1)で示される金属アミノフタロシアニン化合物1molに対して、6〜120mol、好ましくは12〜90mol、より好ましくは30〜90mol、さらに好ましくは45〜75molの範囲を例示できる。また、ピリジンは、ここに例示の使用量と関係なく、溶媒を兼ねて使用できる。縮合剤として亜リン酸トリフェニルを使用した場合、塩化リチウムや塩化カルシウムなどの金属塩の使用量は適宜設定することができるが、その使用量としては、下記一般式(1)で示される金属アミノフタロシアニン化合物1molに対して、0〜50mol、好ましくは10〜40mol、より好ましくは20〜30molの範囲を例示できる。
【0047】
溶媒の使用量は適宜設定することができるが、溶媒の使用量としては、下記一般式(1)で示される金属アミノフタロシアニン化合物1molに対して、0.5〜100L(リットル)、好ましくは5〜50L、より好ましくは10〜30Lの範囲を例示できる。反応温度は適宜設定することができるが、反応温度としては、例えば、50〜180℃、好ましくは80〜150℃、より好ましくは80〜120℃の範囲とすることができる。反応時間は適宜設定することができるが、反応時間としては、例えば、1〜48時間、好ましくは1〜24時間、より好ましくは1〜12時間、さらに好ましくは2〜5時間とすることができる。縮合反応としては、例えば、“Journal of Organic Chemistry Vol.71, (2006) p.2874−2877”、“Organic Letters Vol.7, No.9, (2005) p.1737−1739”、「新実験化学講座 14 有機化合物の合成と反応II、1136−1141頁、(1977年)、丸善(株)」などを参照することができる。
【0048】
【化17】
【0049】
このようにして得られた金属フタロシアニンポリマーは、上述したように一般式(1a)で表される構造単位と、一般式(2a)で表される構造単位とがアミド結合した繰り返し構造単位を有するものであり、上記一般式(7)のような構造を持つ、つまりアミド構造を持つと推定される。
【0050】
3.電極触媒
本発明の電極触媒(以下、単に電極触媒という)は、上記の金属フタロシアニンポリマーを前駆体とし、これを炭素化することで得ることができる。電極触媒は、酸素還元活性を示し、燃料電池の電極材料として好適に使用することができる。上述したように金属フタロシアニンポリマーは白金を使用しないため、これを炭素化して得られる電極触媒も白金が含まれずに安価である。また、金属フタロシアニンポリマーは炭素含有率が高く、フタロシアニン骨格が規則正しく結合していることから、得られる電極触媒も炭素含有率が高く、金属の分散性が優れている。さらに、金属フタロシアニンポリマーの一方の金属Lと他方の金属Mを異種金属とすることで、電極触媒に2種類の金属を含有させて電極触媒の特性を多様化させることが可能となるため、より優れた特性の電極触媒を探索する際に有用である。
【0051】
4.電極触媒の製造方法
電極触媒は、金属フタロシアニンポリマーを焼成することで製造することができる。焼成の際の加熱温度としては、650〜1500℃であり、800〜1000℃が好ましく、850℃〜950℃が特に好ましい。焼成温度が650℃を下回ると、焼成が不十分で酸素還元活性が発現しにくくなるため好ましくない。また、焼成温度が1500℃を上回ると、焼成温度が高すぎるため、炭素の構造が破壊されて酸素還元活性が発現しにくくなるほか、収率低下の理由で好ましくない。焼成時間としては、0.1〜12時間を例示できるが、焼成時間は、0.5〜6時間であることが好ましく、1〜5時間であることがより好ましく、2〜4時間であることが特に好ましい。
【0052】
焼成は、還元性ガス雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、特に、焼成中に金属を還元できるとの理由から、還元性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素、硫化水素などを挙げることができる。また、不活性ガスとしては、窒素、アルゴンなどを挙げることができる。これらガス中の酸素濃度は、体積基準で100ppm以下であることが好ましく、20ppm以下であることがより好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。電極触媒の製造方法については、特開2011−6283号公報、特開2009−57314号公報などを参照することができる。
【0053】
焼成後の電極触媒は、グラッシーカーボンなどの電極材料の表面に塗布等することで、触媒担持電極とすることができる。電極触媒は、溶媒や分散剤の存在下、超音波などで分散させたのちに塗布することが好ましい。分散剤の濃度は、通常0.5〜20重量%程度であり、好ましくは1〜10重量%程度である。塗布の方法としては、単に分散溶液を滴下する方法のほか、スクリーン印刷機、ロールコーター、グラビアコーターなど公知の装置を用いた方法でもよい。塗布後は、常温又は高温下で数時間〜数日乾燥させる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。
【0055】
1.実施例1(ポリ(テトラアミノコバルトフタロシアニン−テトラカルボキシコバルトフタロシアニン)の合成)
(1)テトラニトロコバルトフタロシアニンの合成(一般式(4)の化合物)
500mlナスフラスコに4−ニトロフタル酸10.051g(0.05mol)、塩化コバルト4.001g(0.031mol)、尿素30.004g(0.500mol),モリブデン酸アンモニウム1.041g(0.005mol)、ニトロベンゼン150mlを加え、180℃で8時間撹拌した。反応終了後、メタノールを用いてろ過洗浄し、1N HCl水溶液(NaCl飽和)350mlで煮沸した。一晩放冷後、純水及びメタノールを用いてろ過洗浄し、減圧下80℃で乾燥した。この操作を二回繰り返した。得られた固体を純水200mlで煮沸し、放冷後、メタノールを用いてろ過洗浄し、減圧下80℃で乾燥を行った。この操作を二度繰り返し、濃青色の粉末であるテトラニトロコバルトフタロシアニン(TNCoPc)を得た。得られたTNCoPCの収量は9.640g、収率は60%であった。図1にTNCoPcのIRスペクトル図を示す。
【0056】
(2)テトラアミノコバルトフタロシアニンの合成(一般式(1)の化合物)
500mlナスフラスコ中で得られたTNCoPcを5.004g、硫化ナトリウム25.000g(0.104mol)、純水150mlを混合し、65℃で8時間撹拌を行った。反応終了後、純水及びメタノールを用いてろ過洗浄し、5%水酸化ナトリウム水溶液を用いて煮沸した。放冷後、純水及びメタノールを用いてろ過洗浄し、減圧下80℃で乾燥した。その後、得られたTACoPcを1N HClで溶解し、溶解液をろ過した。ろ過した溶液にKOH水溶液を加えpH8として煮沸した。放冷後、純水及びメタノールを用いてろ過洗浄をした。回収した固体を減圧下80℃で乾燥した。この操作を二度繰り返し、濃青色の固体であるテトラアミノコバルトフタロシアニン(TACoPc)を得た。得られたTACoPcの収量は1.493g、収率は29%であった。図2にTACoPcのIRスペクトル図と熱重量分析の結果を示す。
【0057】
(3)テトラカルボキサミドコバルトフタロシアニンの合成(一般式(6)の化合物)
500mlナスフラスコにトリメリット酸無水物10.004g(0.052mol)、塩化コバルト4.010g(0.031mol)、尿素30.032g(0.500mol)、モリブデン酸アンモニウム1.004g(0.005mol)、ニトロベンゼン150mlを加え、180℃で8時間撹拌した。反応終了後、沈殿物をメタノール,ジエチルエーテルでろ過洗浄し、1N HCl水溶液(NaCl飽和)で煮沸した。一晩放冷後、純水、エタノール、ジエチルエーテルでろ過洗浄を行った。得られた固体を減圧下60℃で乾燥した。この操作を二回繰り返し、青緑色の粉末であるテトラカルボキサミドコバルトフタロシアニン(TAmCoPc)を得た。得られたTAmCoPcの収量は9.6732g、収率は92%であった。図3にTAmCoPcのIRスペクトル図を示す。
【0058】
(4)テトラカルボキシコバルトフタロシアニンの合成(一般式(2)の化合物)
500mlナスフラスコにTAmCoPcを9.640g、KOH 60g、純水60mlを100℃で24時間撹拌した。反応終了後、純水100ml、濃HClを加えpH2としてろ過した。得られた固体を純水、エタノール、ジエチルエーテルでろ過洗浄し、純水200ml中に加え、0.1N KOH水溶液を用いてpH10とし、溶解物をろ過した。ろ液へ濃塩酸を加えpH2とし、純水、エタノール、ジエチルエーテルでろ過洗浄を行った。得られた固体を減圧下100℃で乾燥した。この操作を二度繰り返し、赤紫色の固体であるテトラカルボキシコバルトフタロシアニン(TCaCoPc)を得た。得られたTCaCoPcの収量は7.5740g、収率は75%であった。図4にTCaCoPcのIRスペクトル図と熱重量分析の結果を示す。
【0059】
(5)ポリ(テトラアミノコバルトフタロシアニン−テトラカルボキシコバルトフタロシアニン)の合成(一般式(7)の化合物)
50ml二口フラスコにTACoPc 0.3457g(0.5mmol)、TCaCoPc 0.4065g(0.5mmol)、亜リン酸トリフェニル2.618ml(10mmol)、塩化リチウム0.5034g(12mmol)、DMF10ml、ピリジン2.5mlを加え、アルゴン雰囲気下100℃で3時間撹拌した。生成物をろ過し、メタノール及びDMFで洗浄した。洗浄後、減圧下80℃で乾燥し、濃青色の固体であるポリ(テトラアミノコバルトフタロシアニン−テトラカルボキシコバルトフタロシアニン)(Poly(TACoPc−TCaCoPc))を得た。得られたPoly(TCoPc−TCaCoPc)の収量は0.7034gであった。図5にPoly(TACoPc−TCaCoPc)のIRスペクトル図と熱重量分析の結果を示す。
【0060】
(6)電極触媒の作製
電極の作製はOzakiらの方法(J.Ozaki et al./Carbon 45(2007)1847−1853)を準用した。まず、得られたPoly(TCoPc−TCaCoPc)をアルゴン気流中で一時間放置し、その後、水素気流中で三時間焼成を行った。焼成温度は、900℃(実施例1−1)、700℃(実施例1−2)、600℃(参考例1)の3つの条件とした。焼成終了後、アルゴン気流中で放冷し、残さ固体を回収した。回収したサンプルを、200meshの篩にかけ、粒径を30μm以下とした。サンプル5mgを秤取し、0.5mLマイクロチューブに入れ、5%ナフィオン分散溶液(和光純薬)50μLとエタノール150μL、純水150μLを加えて密閉し、30分間超音波にかけ分散させた。研磨した内径3φ(外径は6φ)のグラッシーカーボン電極(EC Frontier社)上に、作製したインク状の溶液1μLを滴下し、湿度100%の密閉容器で1昼夜乾燥させ、電極触媒とした。製造条件等を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
(b)電極触媒の評価
電解は0.5M HSO 10mL中で行い、補助電極に白金板、基準電極にAg/AgCl電極(+0.199V vs. SHE)を用いた。溶液は、測定前30分間、酸素又は窒素でバブリングを行なった。測定は、動作電極電位+900mVから−400mVまで100mV/secの走印速度でリニアスイープボルタンメトリー法を行なった。その結果を図6に示す。
【0063】
この図の結果から、焼成温度600℃では酸素還元の明確なピークが確認できなかったが、700℃では200mV付近にわずかなピークが確認でき、900℃では明確なピークが確認できた。したがって、焼成温度は600℃よりも高い温度が好ましいと考えられる。
【0064】
2.実施例2(ポリ(テトラアミノコバルトフタロシアニン−テトラカルボキシニッケルフタロシアニン)の合成)
実施例1の「(3)テトラカルボキサミドコバルトフタロシアニンの合成(一般式(6)の化合物)」において、塩化コバルトの代わりに塩化ニッケル(II)4.018g(0.031mol)を使用した以外は上記と同様にしてテトラカルボキサミドニッケルフタロシアニン(TAmNiPc)を合成した。得られた(TAmNiPc)を実施例1の「(4)テトラカルボキシコバルトフタロシアニンの合成(一般式(2)の化合物)」と同様の条件で加水分解し、テトラカルボキシニッケルフタロシアニン(TCaNiPc)を合成した。得られた(TCaNiPc)と、実施例1で得られたTACoPcを、実施例1の(5)と同様の条件で縮合し、ポリ(テトラアミノコバルトフタロシアニン−テトラカルボキシニッケルフタロシアニン)(Poly(TACoPc−TCaNiPc))を得た。得られたPoly(TACoPc−TCaNiPc)を使用し、「(6)電極触媒の作製」と同様の条件で電極触媒を作製した。製造条件等を表2に示す。
【0065】
3.実施例3(ポリ(テトラアミノコバルトフタロシアニン−テトラカルボキシ鉄フタロシアニン)の合成)
実施例1の「(3)テトラカルボキサミドコバルトフタロシアニンの合成(一般式(6)の化合物)」において、塩化コバルトの代わりに塩化鉄(II)4.943g(0.039mol)を使用した以外は上記と同様にしてテトラカルボキサミド鉄フタロシアニン(TAmFePc)を合成した。得られた(TAmFePc)を実施例1の「(4)テトラカルボキシコバルトフタロシアニンの合成(一般式(2)の化合物)」と同様の条件で加水分解し、テトラカルボキシ鉄フタロシアニン(TCaFePc)を合成した。得られた(TCaFePc)と、実施例1で得られたTACoPcを、実施例1の(5)と同様の条件で縮合し、ポリ(テトラアミノコバルトフタロシアニン−テトラカルボキシ鉄フタロシアニン)(Poly(TACoPc−TCaFePc))を得た。得られたPoly(TACoPc−TCaFePc)を使用し、「(6)電極触媒の作製」と同様の条件で電極触媒を作製した。製造条件等を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
以上のように、互いに異なる金属を含有する2種類の金属フタロシアニンを縮合することで、異種金属を含有した金属フタロシアニンポリマーを得ることができ、さらにこれを前駆体として焼成することで、異種金属を含有する電極触媒が得られることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6