特許第6263173号(P6263173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6263173繊維強化複合材料用組成物、プリプレグ、及び繊維強化複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263173
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料用組成物、プリプレグ、及び繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/68 20060101AFI20180104BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20180104BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20180104BHJP
   C08F 216/14 20060101ALI20180104BHJP
   C08F 220/20 20060101ALI20180104BHJP
   C08G 65/18 20060101ALI20180104BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   C08G59/68
   C08L63/00 C
   C08L33/14
   C08F216/14
   C08F220/20
   C08G65/18
   C08J5/24CEY
   C08J5/24CFC
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-518249(P2015-518249)
(86)(22)【出願日】2014年5月20日
(86)【国際出願番号】JP2014063295
(87)【国際公開番号】WO2014189029
(87)【国際公開日】20141127
【審査請求日】2017年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-110362(P2013-110362)
(32)【優先日】2013年5月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】角井 健
(72)【発明者】
【氏名】福井 敏文
(72)【発明者】
【氏名】圓尾 且也
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−197568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/68
C08F 216/14
C08F 220/20
C08G 65/18
C08J 5/24
C08L 33/14
C08L 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子中にラジカル重合性基を2個以上有するラジカル重合性化合物(A)、一分子中にカチオン重合性基を2個以上有するカチオン重合性化合物(B)、10時間半減期分解温度が85℃以上のラジカル重合開始剤(C)、及び示差走査型熱量測定装置(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定した際に、発熱開始温度が100℃以上となる酸発生剤(D)を含み、25℃における粘度が10000mPa・s以上の繊維強化複合材料用組成物であって、
前記カチオン重合性化合物(B)が環状構造を有する化合物である繊維強化複合材料用組成物。
【請求項2】
前記カチオン重合性化合物(B)が、エポキシ化合物、オキセタン化合物、及びビニルエーテル化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物である請求項1に記載の繊維強化複合材料用組成物。
【請求項3】
前記ラジカル重合性化合物(A)とカチオン重合性化合物(B)の割合(重量比)[(A)/(B)]が0/100より大きく且つ80/20以下である請求項1又は2に記載の繊維強化複合材料用組成物。
【請求項4】
前記ラジカル重合開始剤(C)の含有量が、ラジカル重合性化合物(A)とカチオン重合性化合物(B)の総量100重量部に対して、0.01〜10重量部である請求項1〜3のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料用組成物。
【請求項5】
前記酸発生剤(D)の含有量が、ラジカル重合性化合物(A)とカチオン重合性化合物(B)の総量100重量部に対して、0.1〜20重量部である請求項1〜4のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料用組成物。
【請求項6】
前記ラジカル重合性化合物(A)が環状構造を有する化合物である請求項1〜5のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料用組成物。
【請求項7】
前記ラジカル重合性化合物(A)がトリシクロデカン骨格を有する化合物である請求項1〜6のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料用組成物。
【請求項8】
前記カチオン重合性化合物(B)がトリシクロデカン骨格を有する化合物である請求項1〜のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料用組成物。
【請求項9】
25℃におけるポットライフ(粘度が初期粘度の2倍になる時間)が、14日以上である請求項1〜のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料用組成物。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料用組成物を強化繊維(E)に含浸させて形成されるプリプレグ。
【請求項11】
強化繊維(E)の繊維質量含有率(Wf)が50〜90重量%である請求項10に記載のプリプレグ。
【請求項12】
強化繊維(E)が、炭素繊維、ガラス繊維、及びアラミド繊維からなる群より選択される少なくとも一種である請求項10又は11に記載のプリプレグ。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか一項に記載のプリプレグを硬化させて得られる繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料用組成物、プリプレグ、及び繊維強化複合材料に関する。より詳しくは、炭素繊維やガラス繊維などの繊維(強化繊維)により強化された複合材料(繊維と樹脂の複合材料)を形成するための組成物、プリプレグ、及び該複合材料(繊維強化複合材料)に関する。本願は、2013年5月24日に日本に出願した、特願2013−110362号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、強化繊維と樹脂(マトリックス樹脂)とからなる複合材料であり、自動車部品、土木建築用品、風力発電機のブレード、スポーツ用品、航空機、船舶、ロボット、ケーブル材料等の分野で広く利用されている。上記繊維強化複合材料における強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維などが使用されている。また、上記繊維強化複合材料におけるマトリックス樹脂としては、強化繊維への含浸が容易な熱硬化性樹脂が使用されることが多い。このような熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などが用いられている。
【0003】
繊維強化複合材料を形成するための材料としては、例えば、グリシジルアミン型エポキシ樹脂と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物、及び酸無水物硬化剤を含む硬化性の樹脂組成物が知られている(特許文献1参照)。また、その他には、例えば、脂環式エポキシ樹脂と、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物を含む熱硬化性樹脂組成物、及び硬化剤を含む難燃性強化繊維を含む繊維強化複合材料用プリプレグが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−001767号公報
【特許文献2】特開2013−023554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エポキシ樹脂の硬化剤として、イミダゾール誘導体のようなアミンや無水メチルハイミック酸のような酸無水物が用いられてきた。しかし、これら硬化剤は温度応答範囲が広く、室温でも徐々に反応が進行するためポットライフが短く、使用直前に硬化剤を添加しなければならず、作業安定性に劣るという問題を有していた。
【0006】
このため、繊維強化複合材料を形成するための材料として、十分なポットライフを有しており作業安定性に優れ、硬化させる際には迅速に硬化反応を進行させることができる組成物(繊維強化複合材料用組成物)は未だ得られていないのが現状である。特に、近年、繊維強化複合材料の用途が拡大するに従い、該材料には高い耐熱性(例えば、200℃といった高温の環境下における使用に耐え得る耐熱性)が要求されるようになってきているが、このような高い耐熱性を有する繊維強化複合材料を形成でき、なおかつ、作業安定性に優れ、硬化速度の速い組成物は未だ得ることができていない。
【0007】
従って、本発明の目的は、ポットライフが長く、作業安定性に優れるとともに、高い耐熱性を有する繊維強化複合材料を形成できる繊維強化複合材料用組成物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記の繊維強化複合材料用組成物を強化繊維に含浸させて形成され、高い耐熱性を有する繊維強化複合材料を形成できるプリプレグを提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、高い耐熱性を有する繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を解決するため鋭意検討した結果、特定のラジカル重合性化合物、特定のカチオン重合性化合物、特定のラジカル重合開始剤、及び特定の酸発生剤を含む組成物が、ポットライフが長く、作業安定性に優れるとともに、高い耐熱性を有する繊維強化複合材料を形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、一分子中にラジカル重合性基を2個以上有するラジカル重合性化合物(A)、一分子中にカチオン重合性基を2個以上有するカチオン重合性化合物(B)、10時間半減期分解温度が85℃以上のラジカル重合開始剤(C)、及び示差走査型熱量測定装置(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定した際に、発熱開始温度が100℃以上となる酸発生剤(D)を含み、25℃における粘度が10000mPa・s以上の繊維強化複合材料用組成物を提供する。
【0010】
前記カチオン重合性化合物(B)は、エポキシ化合物、オキセタン化合物、及びビニルエーテル化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物であってもよい。
【0011】
前記ラジカル重合性化合物(A)とカチオン重合性化合物(B)の割合(重量比)[(A)/(B)]は、0/100より大きく且つ80/20以下であるのが好ましい。
【0012】
前記ラジカル重合開始剤(C)の含有量は、ラジカル重合性化合物(A)とカチオン重合性化合物(B)の総量100重量部に対して、例えば、0.01〜10重量部である。
【0013】
酸発生剤(D)の含有量は、ラジカル重合性化合物(A)とカチオン重合性化合物(B)の総量100重量部に対して、例えば、0.1〜20重量部である。
【0014】
前記ラジカル重合性化合物(A)は環状構造を有する化合物であるのが好ましい。また、前記ラジカル重合性化合物(A)はトリシクロデカン骨格を有する化合物であるのが好ましい。
【0015】
前記カチオン重合性化合物(B)は環状構造を有する化合物であるのが好ましい。また、前記カチオン重合性化合物(B)はトリシクロデカン骨格を有する化合物であるのが好ましい。
【0016】
前記繊維強化複合材料用組成物は、25℃におけるポットライフ(粘度が初期粘度の2倍になる時間)が、14日以上であるのが好ましい。
【0017】
本発明は、また、前記繊維強化複合材料用組成物を強化繊維(E)に含浸させて形成されるプリプレグを提供する。
【0018】
このプリプレグにおいては、強化繊維(E)の繊維質量含有率(Wf)は、50〜90重量%であるのが好ましい。
【0019】
前記強化繊維(E)は、炭素繊維、ガラス繊維、及びアラミド繊維からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0020】
本発明は、さらに、前記プリプレグを硬化させて得られる繊維強化複合材料を提供する。
【0021】
すなわち、本発明は以下に関する。
(1)一分子中にラジカル重合性基を2個以上有するラジカル重合性化合物(A)、一分子中にカチオン重合性基を2個以上有するカチオン重合性化合物(B)、10時間半減期分解温度が85℃以上のラジカル重合開始剤(C)、及び示差走査型熱量測定装置(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定した際に、発熱開始温度が100℃以上となる酸発生剤(D)を含み、25℃における粘度が10000mPa・s以上の繊維強化複合材料用組成物。
(2)前記カチオン重合性化合物(B)が、エポキシ化合物、オキセタン化合物、及びビニルエーテル化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物である(1)に記載の繊維強化複合材料用組成物。
(3)前記ラジカル重合性化合物(A)とカチオン重合性化合物(B)の割合(重量比)[(A)/(B)]が0/100より大きく且つ80/20以下である(1)又は(2)に記載の繊維強化複合材料用組成物。
(4)前記ラジカル重合性化合物(A)の含有量が、組成物の全量(100重量%)に対して、10〜75重量%である(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(5)前記カチオン重合性化合物(B)の含有量が、組成物の全量(100重量%)に対して、10〜75重量%である(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(6)前記ラジカル重合開始剤(C)の含有量が、ラジカル重合性化合物(A)とカチオン重合性化合物(B)の総量100重量部に対して、0.01〜10重量部である(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(7)前記酸発生剤(D)の含有量が、ラジカル重合性化合物(A)とカチオン重合性化合物(B)の総量100重量部に対して、0.1〜20重量部である(1)〜(6)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(8)前記ラジカル重合性化合物(A)が、一分子中に2個のラジカル重合性基を有し、且つ分子内に環状構造を有するラジカル重合性化合物(A−1)、及び一分子中に3個以上のラジカル重合性基を有するラジカル重合性化合物(A−2)からなる群より選択される少なくとも一種である(1)〜(7)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(9)前記ラジカル重合性化合物(A−1)のラジカル重合性化合物(A)全体に占める割合が30重量%以上である(8)に記載の繊維強化複合材料用組成物。
(10)前記ラジカル重合性化合物(A)が環状構造を有する化合物である(1)〜(9)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(11)前記ラジカル重合性化合物(A)がトリシクロデカン骨格を有する化合物である(1)〜(10)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(12)前記ラジカル重合性化合物(A)がジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、及びトリシクロデカンジオールジ(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種である(1)〜(11)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(13)ラジカル重合性化合物(A)のラジカル重合性基の官能基当量が、50〜300である(1)〜(12)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(14)前記カチオン重合性化合物(B)が環状構造を有する化合物である(1)〜(13)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(15)前記カチオン重合性化合物(B)がビスフェノール型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールアルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(トリシクロデカン骨格を有するエポキシ樹脂)、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物、ナフタレン骨格を有するエポキシ化合物、及びフルオレン骨格を有するエポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも一種である(1)〜(14)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(16)前記カチオン重合性化合物(B)がトリシクロデカン骨格を有する化合物である(1)〜(15)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(17)カチオン重合性化合物(B)のカチオン重合性基の官能基当量が、50〜400である(1)〜(16)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(18)ラジカル重合開始剤(C)が、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t−ブチルヒドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−m−トルオイルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2′−アゾビス(2−メチル−N−2−プロペニルプロパンアミド)、及び2,2′−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)からなる群より選択される少なくとも一種である(1)〜(17)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(19)酸発生剤(D)が、トリアリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、及びヨードニウム[4−(4−メチルフェニル−2−メチルプロピル)フェニル]ヘキサフルオロホスフェートからなる群より選択される少なくとも一種である(1)〜(18)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(20)25℃におけるポットライフ(粘度が初期粘度の2倍になる時間)が、14日以上である(1)〜(19)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物。
(21)(1)〜(20)のいずれかに記載の繊維強化複合材料用組成物を強化繊維(E)に含浸させて形成されるプリプレグ。
(22)強化繊維(E)の繊維質量含有率(Wf)が50〜90重量%である(21)に記載のプリプレグ。
(23)強化繊維(E)が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、高強度ポリエチレン繊維、タングステンカーバイド繊維、及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維(PBO繊維)からなる群より選択される少なくとも一種である(21)又は(22)に記載のプリプレグ。
(24)強化繊維(E)が、炭素繊維、ガラス繊維、及びアラミド繊維からなる群より選択される少なくとも一種である(21)〜(23)のいずれかに記載のプリプレグ。
(25)(21)〜(24)のいずれかに記載のプリプレグを硬化させて得られる繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0022】
本発明の繊維強化複合材料用組成物は上記構成を有するため、ポットライフが長く、作業安定性に優れる。しかも、硬化により高い耐熱性を有する繊維強化複合材料を形成することができる。このため、本発明の繊維強化複合材料用組成物又はプリプレグを硬化させて得られる繊維強化複合材料は、生産安定性に優れ、高い耐熱性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<繊維強化複合材料用組成物>
本発明の繊維強化複合材料用組成物(単に「本発明の組成物」と称する場合がある)は、一分子中にラジカル重合性基を2個以上有するラジカル重合性化合物(A)、一分子中にカチオン重合性基を2個以上有するカチオン重合性化合物(B)、10時間半減期分解温度が85℃以上のラジカル重合開始剤(C)、及び示差走査型熱量測定装置(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定した際に、発熱開始温度が100℃以上となる酸発生剤(D)を含み、25℃における粘度が10000mPa・s以上である。
【0024】
[ラジカル重合性化合物(A)]
本発明の組成物における前記ラジカル重合性化合物(A)は、一分子中に2個以上のラジカル重合性基を有する化合物である。
【0025】
上記ラジカル重合性化合物(A)が有するラジカル重合性基としては、ラジカル重合反応を生じ得る官能基であればよく、特に限定されないが、例えば、炭素−炭素不飽和二重結合を含む基などが挙げられ、具体的には、ビニル基、(メタ)アリル基、(メタ)アクリロイル基などが挙げられる。なお、ラジカル重合性化合物(A)が有する2個以上のラジカル重合性基は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0026】
ラジカル重合性化合物(A)が一分子中に有するラジカル重合性基の数は、2個以上であればよく特に限定されないが、2〜20個が好ましく、より好ましくは2〜15個、さらに好ましくは2〜10個である。
【0027】
ラジカル重合性化合物(A)としては、具体的には、例えば、ジビニルベンゼンなどのビニル化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエポキシジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート(=トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート)、トリシクロデカンジオールジ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(例えば、エトキシ化(エチレンオキサイド変性)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートなど)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、2,2,2−トリス(メタ)アクリロイロキシメチルエチルコハク酸、アルキレンオキサイド変性イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート(例えば、エトキシ化(エチレンオキサイド変性)イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレートなど)、ウレタン(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
【0028】
中でも、ラジカル重合性化合物(A)としては、一分子中に2個のラジカル重合性基を有し、且つ分子内に環状構造[ベンゼン環、ナフタレン環等の単環又は多環の芳香族環;シクロヘキサン環等の単環の脂環式骨格、トリシクロデカン環等の多環の脂環式骨格、単環又は多環の複素環など](特に、多環の環状構造)を有するラジカル重合性化合物(A−1)、一分子中に3個以上のラジカル重合性基を有するラジカル重合性化合物(A−2)が好ましい。上記化合物(A−1)としては、具体的には、ジビニルベンゼン、ビスフェノールAエポキシジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート(=トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート)、トリシクロデカンジオールジ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(例えば、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートなど)などのラジカル重合性化合物が挙げられる。また、上記化合物(A−2)としては、具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、2,2,2−トリス(メタ)アクリロイロキシメチルエチルコハク酸、アルキレンオキサイド変性イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート(例えば、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレートなど)、一分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記ラジカル重合性化合物(A−1)とラジカル重合性化合物(A−2)とを組み合わせて用いるのも好ましい。
【0029】
特に、組成物のポットライフを長くできる点、及び硬化物や繊維強化複合材料の耐熱性、弾性率の観点から、ラジカル重合性化合物(A)として、一分子中に2個のラジカル重合性基を有し、且つ分子内に環状構造(芳香族環、単環又は多環の脂肪族環、単環又は多環の複素環など)を有するラジカル重合性化合物(A−1)が好ましい。とりわけ、ラジカル重合性化合物(A)としては、一分子中に2個のラジカル重合性基を有し、且つ分子内に多環の脂肪族環骨格(特に、トリシクロデカン骨格)を有するラジカル重合性化合物(A−11)[例えば、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート(=トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート)、トリシクロデカンジオールジ(メタ)アクリレートなど]が好ましい。前記ラジカル重合性化合物(A−1)[又は(A−11)]が前記ラジカル重合性化合物(A)全体に占める割合は、好ましくは30重量%以上であり、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。
【0030】
ラジカル重合性化合物(A)のラジカル重合性基の官能基当量は、例えば、50〜300、好ましくは70〜280、より好ましくは80〜260である。上記官能基当量が50未満であると、硬化物や繊維強化複合材料の機械強度が低下しやすくなる。一方、上記官能基当量が300を超えると、硬化物や繊維強化複合材料の耐熱性や機械特性が低下しやすくなる。なお、ラジカル重合性化合物(A)のラジカル重合性基の官能基当量は、下記式により算出することができる。
[ラジカル重合性基の官能基当量]=[ラジカル重合性化合物(A)の分子量]/[ラジカル重合性化合物(A)が有するラジカル重合性基の数]
【0031】
なお、本発明の組成物においてラジカル重合性化合物(A)は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。また、上記ラジカル重合性化合物(A)としては、例えば、商品名「IRR214−K」(ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート(=トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)、ダイセル・サイテック社製)、商品名「A−BPE−4」(エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、新中村化学社製)、商品名「A−9300」(エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、新中村化学社製)、商品名「A−TMM−3」(ペンタエリスリトールトリアクリレート、新中村化学社製)、商品名「DPHA」(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ダイセル・サイテック社製)、KRM8452(脂肪族ウレタンアクリレート、ダイセル・サイテック社製)、商品名「EBECRYL 130」(トリシクロデカン骨格を有するジアクリレート)、ダイセル・サイテック社製)などの市販品を使用することもできる。
【0032】
本発明の組成物におけるラジカル重合性化合物(A)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、組成物の全量(100重量%)に対して、10〜75重量%が好ましく、より好ましくは30〜65重量%、さらに好ましくは35〜60重量%である。含有量が10重量%未満であると、硬化速度が低下したり、硬化物の耐熱性が低下する場合がある。一方、含有量が75重量%を超えると、硬化物と繊維の界面強度が低下する場合がある。なお、二種以上のラジカル重合性化合物(A)を併用する場合には、該ラジカル重合性化合物(A)の総量を上記範囲に制御することが好ましい。
【0033】
なお、本発明の組成物は、ラジカル重合性化合物(A)以外のラジカル重合性化合物を含んでいてもよい。ラジカル重合性化合物(A)以外のラジカル重合性化合物としては、一分子中にラジカル重合性基を1個有する化合物が挙げられる。一分子中にラジカル重合性基を1個有する化合物としては、例えば、スチレン、2−クロロスチレン、2−ブロモスチレン、メトキシスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレンなどのビニル化合物;2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、o−フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(例えば、1,2−プロパンジオール−1−(メタ)アクリレート)、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ペンタメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
【0034】
[カチオン重合性化合物(B)]
本発明の組成物における前記カチオン重合性化合物(B)は、一分子中にカチオン重合性基を2個以上有する化合物である。
【0035】
上記カチオン重合性化合物(B)が有するカチオン重合性基としては、カチオン重合反応を生じ得る官能基であればよく、特に限定されないが、例えば、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基などが挙げられる。なお、カチオン重合性化合物(B)は2個以上のカチオン重合性基を有するが、これらのカチオン重合性基はそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0036】
カチオン重合性化合物(B)が一分子中に有するカチオン重合性基の数は、2個以上であればよく特に限定されないが、好ましくは2〜20個、より好ましくは2〜15個、特に好ましくは2〜10個である。
【0037】
カチオン重合性化合物(B)としては、例えば、エポキシ化合物(一分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物等)、オキセタン化合物(一分子中に2個以上のオキセタニル基を有する化合物等)、ビニルエーテル化合物(一分子中に2個以上のビニルエーテル基を有する化合物等)などが挙げられる。
【0038】
上記エポキシ化合物としては、具体的には、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル等)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ビスフェノールFジグリシジルエーテル等)、ビスフェノールS型エポキシ樹脂(ビスフェノールSジグリシジルエーテル等)や、これらのハロゲン置換体(例えば、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル等の臭素化エポキシ樹脂など)、アルキル置換体、又は水添体(例えば、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル等)などのビスフェノール型エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールアルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(トリシクロデカン骨格を有するエポキシ樹脂;例えば、フェノール−ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アルキルフェノール−ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等)、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物(例えば、ビフェノールジグリシジルエーテル、テトラメチルビフェノールジグリシジルエーテルなど)、ナフタレン骨格を有するエポキシ化合物(例えば、ナフタレンジオールジグリシジルエーテルなど)、フルオレン骨格を有するエポキシ化合物(例えば、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスクレゾールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテルなど)などが挙げられる。
【0039】
上記オキセタン化合物としては、具体的には、例えば、3,3−ビス(クロロメチル)オキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、ビス{[1−エチル(3−オキセタニル)]メチル}エーテル、4,4′−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビシクロヘキシル、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]シクロヘキサン、1,4−ビス{〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕メチル}ベンゼン、3−エチル−3{〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕メチル)}オキセタン、キシリレンビスオキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタンなどが挙げられる。
【0040】
上記ビニルエーテル化合物としては、具体的には、例えば、3,3−ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、1,6−ヘキサンジオールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、1,3−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、1,2−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、p−キシレングリコールジビニルエーテル、m−キシレングリコールジビニルエーテル、o−キシレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ペンタエチレングリコールジビニルエーテル、オリゴエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールジビニルエーテル、テトラプロピレングリコールジビニルエーテル、ペンタプロピレングリコールジビニルエーテル、オリゴプロピレングリコールジビニルエーテル、ポリプロピレングリコールジビニルエーテル、イソソルバイドジビニルエーテル、オキサノルボルネンジビニルエーテル、ハイドロキノンジビニルエーテル、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルなどが挙げられる。
【0041】
中でも、カチオン重合性化合物(B)としては、組成物のポットライフを長くできる点、及び硬化速度、硬化物や繊維強化複合材料の耐熱性の観点から、一分子中に1以上の環状構造を有する化合物が好ましい。このような化合物として、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールアルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(トリシクロデカン骨格を有するエポキシ樹脂)、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物、ナフタレン骨格を有するエポキシ化合物、フルオレン骨格を有するエポキシ化合物などが挙げられる。特に、カチオン重合性化合物(B)としては、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等のトリシクロデカン骨格を有する化合物が好ましい。
【0042】
なお、ビスフェノール型エポキシ樹脂の市販品として、商品名「YD−128」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂;新日鉄住金化学社製)、「YD−170」(ビスフェノールF型エポキシ樹脂;新日鉄住金化学社製)などが挙げられる。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品として、商品名「N−655−EXP−S」、「N−662−EXP−S」、「N−665−EXP−S」、「N−670−EXP−S」、「N−685−EXP−S」(以上、DIC社製)などが挙げられる。フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品として、商品名「N−740」、「N−770」、「N−775」(以上、DIC社製)などが挙げられる。レゾルシノール型エポキシ樹脂の市販品として、商品名「EX−201」(ナガセケムテック社製)などが挙げられる。ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品として、商品名「HP−7200」、「HP−7200L」、「HP−7200H」(以上、DIC社製)などが挙げられる。ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物の市販品として、商品名「YX−4000」、「YX−4000H」(以上、三菱化学社製)などが挙げられる。前記オキセタン化合物の市販品として、商品名「OXT−221」(東亞合成社製)、商品名「OXT−121」(東亞合成社製)などが挙げられる。
【0043】
カチオン重合性化合物(B)のカチオン重合性基の官能基当量は、特に限定されないが、50〜400が好ましく、より好ましくは80〜350、さらに好ましくは100〜300である。上記官能基当量が50未満であると、硬化物や繊維強化複合材料の靭性が不十分となる場合がある。一方、上記官能基当量が400を超えると、硬化物や繊維強化複合材料の耐熱性や機械特性が低下する場合がある。なお、カチオン重合性化合物(B)のカチオン重合性基の官能基当量は、下記式により算出することができる。
[カチオン重合性基の官能基当量]=[カチオン重合性化合物(B)の分子量]/[カチオン重合性化合物(B)が有するカチオン重合性基の数]
【0044】
なお、本発明の組成物においてカチオン重合性化合物(B)は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0045】
本発明の組成物におけるカチオン重合性化合物(B)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、組成物の全量(100重量%)に対して、10〜75重量%が好ましく、より好ましくは30〜65重量%、さらに好ましくは35〜60重量%である。含有量が10重量%未満であると、硬化物と繊維の界面強度が低下したり、硬化物の耐熱性が低下する場合がある。一方、含有量が75重量%を超えると、組成物の硬化速度が低下したり、硬化物の耐熱性が低下する場合がある。なお、二種以上のカチオン重合性化合物(B)を併用する場合には、該カチオン重合性化合物(B)の総量を上記範囲に制御することが好ましい。
【0046】
なお、本発明の組成物は、前記カチオン重合性化合物(B)以外のカチオン重合性化合物を含んでいてもよい。カチオン重合性化合物(B)以外のカチオン重合性化合物としては、一分子中にカチオン重合性基を1個有する化合物が挙げられる。一分子中にカチオン重合性基を1個有する化合物としては、一分子中にエポキシ基を1個有するエポキシ化合物、一分子中にオキセタニル基を1個有するオキセタン化合物、一分子中にビニルエーテル基を1個有するビニルエーテル化合物などが挙げられる。
【0047】
上記エポキシ化合物として、例えば、シクロヘキセンオキサイド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアルコール、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類;フェノール、クレゾール、ブチルフェノールまたはこれらにアルキレンオキサイドを付加して得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテル類;高級脂肪酸のグリシジルエステル類などが挙げられる。
【0048】
上記オキセタン化合物として、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ヒドロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3−エチル−3−(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(クロロメチル)オキセタンなどが挙げられる。
【0049】
上記ビニルエーテル化合物として、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシイソプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、1−メチル−3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1−メチル−2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1−ヒドロキシメチルプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、1,6−ヘキサンジオールモノビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,3−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,2−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、p−キシレングリコールモノビニルエーテル、m−キシレングリコールモノビニルエーテル、o−キシレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、ペンタエチレングリコールモノビニルエーテル、オリゴエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、トリプロピレングリコールモノビニルエーテル、テトラプロピレングリコールモノビニルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノビニルエーテル、オリゴプロピレングリコールモノビニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0050】
本発明の組成物におけるラジカル重合性化合物(A)とカチオン重合性化合物(B)の割合(重量比)[ラジカル重合性化合物(A)/カチオン重合性化合物(B)]は、特に限定されないが、0/100より大きく且つ80/20以下が好ましく、より好ましくは10/90〜70/30、さらに好ましくは30/70〜60/40である。ラジカル重合性化合物(A)の割合[ラジカル重合性化合物(A)とカチオン重合性化合物(B)の総量(100重量%)に対する割合]が0重量%では、硬化速度が低下する。一方、ラジカル重合性化合物(A)の割合が80重量%を超えると、硬化物や繊維強化複合材料の機械強度が低下したり、硬化物と繊維との界面強度が低下する場合がある。
【0051】
[ラジカル重合開始剤(C)]
本発明の組成物におけるラジカル重合開始剤(C)は、10時間半減期分解温度(活性酸素量が10時間で元の半分になる温度)が85℃以上のラジカル重合開始剤である。前記ラジカル重合開始剤(C)の10時間半減期分解温度は、好ましくは88℃以上、より好ましくは90℃以上である。ラジカル重合開始剤(C)は、組成物における硬化性化合物の中でも、ラジカル重合性基を有する化合物(ラジカル重合性化合物(A))の重合反応(ラジカル重合反応)を開始させる働きをする。10時間半減期分解温度が85℃未満のラジカル重合開始剤を用いると、組成物のポットライフが短くなるので好ましくない。ラジカル重合開始剤(C)としては、10時間半減期分解温度が85℃以上のラジカル重合開始剤であれば特に限定されず、例えば、熱ラジカル重合開始剤などを使用できる。なお、ラジカル重合開始剤(C)において、前記10時間半減期分解温度の上限は、例えば180℃、より好ましくは150℃、特に好ましくは110℃である。
【0052】
上記熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物が挙げられる。上記有機過酸化物としては、例えば、ジアルキルパーオキサイド、アシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシエステル等を使用することができる。10時間半減期分解温度が85℃以上である有機過酸化物の具体例としては、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキシド、α,α\quote −ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t−ブチルヒドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−m−トルオイルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどが挙げられる。また、市販品として、商品名「パーヘキサC(S)」、「パーヘキシルD」、「パーメンタH」、「パーヘキシルI」(以上、日油社製)などを使用できる。
【0053】
上記熱ラジカル重合開始剤としては、上記有機過酸化物のほか、アゾ化合物を使用することもできる。10時間半減期分解温度が85℃以上であるアゾ化合物としては、例えば、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2′−アゾビス(2−メチル−N−2−プロペニルプロパンアミド)、2,2′−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)などが挙げられる。上記熱ラジカル重合開始剤としては、その他、過硫酸塩(例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなど)などの無機過酸化物を使用又は併用してもよい。
【0054】
なお、本発明の組成物においてラジカル重合開始剤(C)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0055】
本発明の組成物におけるラジカル重合開始剤(C)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、ラジカル重合性化合物(A)及びカチオン重合性化合物(B)の総量100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.05〜8重量部、さらに好ましくは0.1〜5重量部である。含有量が0.01重量部未満であると、硬化反応の進行が不十分となる場合がある。一方、含有量が10重量部を超えると、用途によっては、硬化物や繊維強化複合材料の耐熱性が不足する場合がある。なお、二種以上のラジカル重合開始剤(C)を併用する場合には、該ラジカル重合開始剤(C)の総量を上記範囲に制御することが好ましい。
【0056】
[酸発生剤(D)]
本発明の組成物における酸発生剤(D)は、示差走査型熱量測定装置(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定した際に、発熱開始温度が100℃以上(好ましくは、110℃以上、さらに好ましくは120℃以上)となる酸発生剤である。酸発生剤(D)は、組成物における硬化性化合物の中でも、カチオン重合性基を有する化合物(カチオン重合性化合物(B))の重合反応(カチオン重合反応)を開始させる働きをする。前記発熱開始温度が100℃未満の酸発生剤を用いると、組成物のポットライフが短くなるので好ましくない。酸発生剤(D)としては、示差走査型熱量測定装置(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定した際に、発熱開始温度が100℃以上となる酸発生剤であれば特に限定されないが、例えば、熱酸発生剤などが挙げられる。なお、酸発生剤(D)において、前記発熱開始温度の上限は、例えば200℃、より好ましくは150℃、特に好ましくは130℃である。
【0057】
酸発生剤(D)としては、加熱や活性エネルギー線の照射により酸を発生する化合物、具体的には、例えば、トリアリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート等のスルホニウム塩;ジアリールヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ヨードニウム[4−(4−メチルフェニル−2−メチルプロピル)フェニル]ヘキサフルオロホスフェート等のヨードニウム塩;テトラフルオロホスホニウムヘキサフルオロホスフェート等のホスホニウム塩;ピリジウム塩;ジアゾニウム塩;セレニウム塩;アンモニウム塩などが挙げられる。
【0058】
酸発生剤(D)の市販品として、例えば、商品名「サンエイドSI−100L」、商品名「サンエイドSI−100L」、商品名「サンエイドSI−110」、商品名「サンエイドSI−110L」、商品名「サンエイドSI−145」、商品名「サンエイドSI−150」、商品名「サンエイドSI−160」、商品名「サンエイドSI−180」、商品名「サンエイドSI−180L」(以上、三新化学工業社製)などが挙げられる。
【0059】
なお、本発明の組成物において酸発生剤(D)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0060】
本発明の組成物における酸発生剤(D)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、ラジカル重合性化合物(A)及びカチオン重合性化合物(B)の総量100重量部に対して、0.1〜20重量部が好ましく、より好ましくは0.2〜15重量部、さらに好ましくは0.3〜5重量部である。含有量が0.1重量部未満であると、硬化反応の進行が不十分となる場合がある。一方、含有量が20重量部を超えると、用途によっては、硬化物や繊維強化複合材料の耐熱性が不足する場合がある。なお、二種以上の酸発生剤(D)を併用する場合には、該酸発生剤(D)の総量を上記範囲に制御することが好ましい。
【0061】
本発明の組成物には、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の添加物を添加してもよい。他の添加物としては、例えば、硬化膨張性モノマー、光増感剤(アントラセン系増感剤等)、樹脂、密着性向上剤、補強剤、軟化剤、可塑剤、粘度調整剤、溶剤、無機又は有機粒子(ナノスケール粒子等)、フルオロシラン等の公知慣用の各種添加剤が挙げられる。
【0062】
本発明の組成物は、上述の各構成成分(ラジカル重合性化合物(A)、カチオン重合性化合物(B)、ラジカル重合開始剤(C)、酸発生剤(D)、添加剤など)を、所定の割合で配合し、均一に混合することによって製造することができる。上記各構成成分の混合は、公知乃至慣用の攪拌装置(混合装置)等を使用して実施することができ、特に限定されないが、例えば、自転公転型攪拌脱泡装置、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、3本ロールミル、ビーズミルなどの攪拌装置を使用して実施できる。
【0063】
本発明の組成物の25℃における粘度は、10000mPa・s以上であればよい。本発明の組成物の25℃における粘度は、取り扱い性や作業性の観点から、好ましくは10000〜50000mPa・s、より好ましくは10000〜45000mPa・s、さらに好ましくは11000〜40000mPa・sである。なお、組成物の25℃における粘度は、例えば、粘度測定装置(商品名「TV−22H」、東機産業社製)を用いて測定することができる(例えば、ローター:1°34'×R24、回転数:1.0rpm、測定温度:25℃)。
【0064】
本発明の組成物は、特に、作業安定性の観点で、調製直後の粘度(25℃)(調製後1時間以内で測定される粘度;「初期粘度」と称する場合がある)と、調製後25℃で14日間放置後の粘度(25℃)とが、ともに上述の範囲であることが好ましい。また、25℃におけるポットライフ(粘度が初期粘度の2倍になる時間)が14日以上であることが好ましい。特に、調製後25℃で14日間放置後の粘度(25℃)は、初期粘度の1.5倍以下(とりわけ1.3倍以下)であることが好ましい。例えば、調製直後の粘度が上述の範囲に制御されるが、調製後25℃で14日間放置後の粘度が初期粘度の2倍を超えるような場合には、保管中に硬化が進行している可能性があり、作業安定性が著しく低下したり、硬化物(特に、繊維強化複合材料)の品質が低下する場合がある。
【0065】
本発明の組成物におけるラジカル重合性化合物(A)及びカチオン重合性化合物(B)を重合(より具体的には、ラジカル重合及びカチオン重合)させることにより、本発明の組成物を硬化させ、硬化物(樹脂硬化物)を得ることができる。上記重合反応を開始させるための手段は、ラジカル重合開始剤(C)や酸発生剤(D)の種類や含有量などに応じて適宜選択することができ、特に限定されず、例えば、加熱や活性エネルギー線(例えば、紫外線、赤外線、可視光線、電子線など)の照射などが挙げられる。特に、上記重合反応は、ラジカル重合開始剤(C)として熱ラジカル重合開始剤を、酸発生剤(D)として熱酸発生剤を使用し、加熱により開始させることが好ましい。
【0066】
本発明の組成物を硬化させる際の条件は、ラジカル重合開始剤(C)や酸発生剤(D)の種類や含有量などに応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、例えば、加熱により硬化させる場合の条件として、加熱温度を60〜280℃とし、加熱時間を0.1〜5時間(より好ましくは0.5〜4時間、さらに好ましくは1〜3時間)とすることが好ましい。加熱温度が低すぎる場合や加熱時間が短すぎる場合には、硬化が不十分となり硬化物の耐熱性や機械物性などが低下する場合がある。一方、加熱温度が高すぎる場合や加熱時間が長すぎる場合には、組成物中の成分の分解や劣化などが生じる場合がある。
【0067】
加熱により硬化させる場合、温度条件を段階的に高くしてもよい。例えば、60〜185℃の温度で0.1〜3時間(好ましくは、0.5〜2時間)加熱する一次硬化工程(この工程においても、段階的に温度を上昇させてもよい)の後、185℃を超え且つ280℃以下の温度で0.1〜2時間(好ましくは、0.2〜1.5時間)加熱する二次硬化工程を経て硬化物を得てもよい。
【0068】
本発明の組成物を硬化させて得られる硬化物のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、100℃以上(例えば、100〜300℃)が好ましく、より好ましくは140℃以上(例えば、140〜300℃)、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは180℃以上である。ガラス転移温度が100℃未満であると、用途によっては繊維強化複合材料の耐熱性が不十分となる場合がある。なお、上記ガラス転移温度は、例えば、JIS K7244−4に準拠した測定、より詳しくは、動的粘弾性測定(例えば、昇温速度:5℃/分、測定温度:25〜350℃、変形モード:引っ張りモードの条件での動的粘弾性測定)において測定されるtanδ(損失正接)のピークトップの温度として求めることができる。
【0069】
[プリプレグ、繊維強化複合材料]
本発明の組成物を強化繊維(E)に含浸させることにより、プリプレグ(「本発明のプリプレグ」と称する場合がある)が形成される。即ち、本発明のプリプレグは、本発明の組成物と強化繊維(E)とを必須成分として含む。
【0070】
強化繊維(E)としては、特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、高強度ポリエチレン繊維、タングステンカーバイド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維(PBO繊維)などが挙げられる。上記炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維などが挙げられる。中でも、機械特性の観点で、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維が好ましい。なお、本発明のプリプレグにおいて強化繊維(E)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0071】
本発明のプリプレグにおける強化繊維(E)の形態は、特に限定されず、例えば、フィラメント(長繊維)の形態、トウの形態、トウを一方向に配列させた一方向材の形態、織物の形態、不織布の形態などが挙げられる。強化繊維(E)の織物としては、例えば、平織、綾織、朱子織、若しくはノンクリンプファブリックに代表される繊維束を一方向に引き揃えたシートや角度を変えて積層したようなシートをほぐれないようにステッチしたステッチングシートなどが挙げられる。
【0072】
本発明のプリプレグにおける強化繊維の(E)の含有量(「繊維質量含有率(Wf)」と称する場合がある)は、特に限定されないが、50〜90重量%が好ましく、より好ましくは60〜85重量%、さらに好ましくは65〜80重量%である。含有量が50重量%未満であると、用途によっては、繊維強化複合材料の機械強度や耐熱性が不十分となる場合がある。一方、含有量が90重量%を超えると、用途によっては、繊維強化複合材料の機械強度(例えば、靭性など)が不十分となる場合がある。
【0073】
本発明のプリプレグは、本発明の組成物を強化繊維(E)に含浸させた後、さらに、加熱や活性エネルギー線照射などを行って、組成物中の硬化性化合物の一部を硬化(即ち、半硬化)させたものであってもよい。
【0074】
強化繊維(E)に本発明の組成物を含浸させる方法は特に限定されず、公知乃至慣用のプリプレグの製造方法における含浸の方法により実施することができる。
【0075】
本発明のプリプレグを硬化させることにより、繊維強化複合材料が得られる。上記繊維強化複合材料は、強化繊維(E)により本発明の組成物の硬化物が強化されているため、非常に優れた機械強度、耐熱性を有する。本発明のプリプレグを硬化させる際の条件は、特に限定されないが、例えば、上述の本発明の組成物を硬化させる際の条件と同様の条件などを採用できる。
【0076】
本発明のプリプレグ及び繊維強化複合材料の製造方法としては、例えば、引き抜き成形法(引抜成形法)を採用できる。具体的には、強化繊維(E)を樹脂槽(本発明の組成物が充填された樹脂槽)に連続的に通すことによって強化繊維(E)に本発明の組成物を含浸させ、次いで、必要に応じてスクイズダイを通すことによってプリプレグ(本発明のプリプレグ)を形成し、その後、例えば、加熱金型を通して引張機によって連続的に引き抜き成形しつつ硬化させることによって、繊維強化複合材料を得ることができる。得られた繊維強化複合材料には、さらに、その後、オーブン等を使用してさらに加熱処理(ポストベーク)を施してもよい。
【0077】
本発明のプリプレグ及び繊維強化複合材料は、上述の成形法(引き抜き成形法)に限定されず、公知乃至慣用のプリプレグ及び繊維強化複合材料の製造方法、例えば、ハンドレイアップ法、プリプレグ法、RTM法、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法、スプレーアップ法などによっても製造できる。
【0078】
本発明の繊維強化複合材料は、各種の構造物の材料として使用することができ、特に限定されないが、例えば、航空機の胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドアなど;宇宙機のモーターケース、主翼など;人工衛星の構体;自動車のシャシーなどの自動車部品;鉄道車両の構体;自転車の構体;船舶の構体;風力発電のブレード;圧力容器;釣り竿;テニスラケット;ゴルフシャフト;ロボットアーム;ケーブル(例えば、ケーブルの芯材など)などの構造物の材料として好ましく使用することができる。
【0079】
本発明の繊維強化複合材料は、例えば、空中配線として使用される電線の芯材として好ましく使用できる。本発明の繊維強化複合材料により形成された芯材を有する電線を用いることにより、該複合材料が高い強度を有し、かつ軽量で線膨張係数が小さいため、鉄塔数の削減や送電容量の向上を図ることが可能となる。また、本発明の繊維強化複合材料は高い耐熱性を有するため、発熱が生じやすい高電圧の電線(高圧電線)用の芯材としても好ましく使用できる。上記芯材は、例えば、引き抜き成形法やより線成形法などの公知の方法により形成できる。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0081】
実施例1〜5、比較例1〜2
[繊維強化複合材料用組成物及び硬化物の製造]
表1に示す配合組成(単位:重量部)に従って、各成分を配合し、自転公転型ミキサーで攪拌・混合することにより、繊維強化複合材料用組成物を得た。
また、上記で得た繊維強化複合材料用組成物をガラス板に挟み込み、表1に記載の条件で加熱処理することにより、硬化物を得た。
【0082】
[評価]
実施例及び比較例で得られた繊維強化複合材料用組成物及び硬化物について、以下の評価を行った。
【0083】
(1)粘度
実施例及び比較例で得られた繊維強化複合材料用組成物の25℃における粘度(mPa・s)を、該組成物を調製した直後(調製後1時間以内)に測定した。結果を表1の「組成物の初期粘度」の欄に示す。
また、上記繊維強化複合材料用組成物を調製後、25℃の環境下で14日間保管した後、粘度(mPa・s)を測定した。結果を表1の「組成物の25℃ラ14日間保管後の粘度」の欄に示す。
なお、粘度の測定装置、測定条件は下記の通りである。
<測定装置及び測定条件>
測定装置:粘度測定装置(商品名「TV−22H」、東機産業社製)
測定温度:25℃
ローター:1°34'×R24
回転数:1.0rpm
【0084】
(2)硬化物のガラス転移温度
実施例及び比較例で得られた硬化物(厚み:0.5mm)を幅4mm、長さ3cmに切り出し、これをサンプルとして使用した。
上記で得たサンプルの動的粘弾性測定(DMA)を、下記の条件で実施した。
<測定装置及び測定条件>
測定装置:固体粘弾性測定装置(「RSAIII」、TA INSTRUMENTS社製)
雰囲気:窒素
温度範囲:25〜350℃
昇温温度:5℃/分
変形モード:引っ張りモード
上記動的粘弾性測定で測定されたtanδ(損失正接)のピークトップの温度を硬化物のガラス転移温度(Tg)として求めた。結果を表1の「Tg」の欄に示した。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示すように、本発明の繊維強化複合材料用組成物は、調製直後の粘度と25℃に14日間保管した後の粘度がほとんど変わらず、作業安定性に優れるものであった。これに対して、比較例の組成物は、調製直後の粘度と比較して、25℃で14日間保管した後の粘度は3倍以上にも増加し、作業安定性に劣るものであった。
また、本発明の繊維強化複合材料用組成物を硬化させて得られた硬化物は、高いガラス転移温度を有していた。
【0087】
なお、実施例、比較例で使用した成分は、以下の通りである。
[ラジカル重合性化合物(A)]
IRR214−K:ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート(ダイセル・サイテック社製、分子量:304、一分子中のアクリロイル基の数:2個、官能基当量:152)
EBECRYL 130:トリシクロデカン骨格を有するジアクリレート(ダイセル・サイテック社製)
[カチオン重合性化合物(B)]
N−670−EXP−S:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製、官能基当量:200−210)
HP−7200:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC社製、官能基当量:250−280)
YD−128:ビスフェノール型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学社製、官能基当量:184−194)
[ラジカル重合開始剤]
パーヘキサC(S):1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(日油社製;10時間半減期分解温度:90.7℃)(前記ラジカル重合開始剤(C)に該当する)
パーブチルO:tert−ブチル 2−エチルペルオキシヘキサノアート(日油社製;10時間半減期分解温度:72.1℃)
[酸発生剤]
サンエイドSI−100L:芳香族スルホニウム塩(三新化学工業社製;示差走査型熱量測定装置(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定した際の発熱開始温度:124.1℃)(前記酸発生剤(D)に該当する)
サンエイドSI−60L:芳香族スルホニウム塩(三新化学工業社製;示差走査型熱量測定装置(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定した際の発熱開始温度:97.6℃)
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の繊維強化複合材料用組成物は上記構成を有するため、ポットライフが長く、作業安定性に優れる。しかも、硬化により高い耐熱性を有する繊維強化複合材料を形成することができる。このため、本発明の繊維強化複合材料用組成物又はプリプレグを硬化させて得られる繊維強化複合材料は、生産安定性に優れ、高い耐熱性を有する。