(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263184
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】固相合成のための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/04 20060101AFI20180104BHJP
B01J 8/10 20060101ALI20180104BHJP
C07B 61/00 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
C07K1/04
B01J8/10 311
C07B61/00 C
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-529042(P2015-529042)
(86)(22)【出願日】2013年9月2日
(65)【公表番号】特表2015-535810(P2015-535810A)
(43)【公表日】2015年12月17日
(86)【国際出願番号】EP2013068097
(87)【国際公開番号】WO2014033297
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年6月16日
(31)【優先権主張番号】12182642.4
(32)【優先日】2012年8月31日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/695,536
(32)【優先日】2012年8月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504371561
【氏名又は名称】バイオタージ アクチボラゲット
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェスマン、アンデルス
(72)【発明者】
【氏名】ストランデル、アクセル
【審査官】
中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−110977(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0095181(US,A1)
【文献】
特開2010−116418(JP,A)
【文献】
特開昭56−128592(JP,A)
【文献】
特開平04−308600(JP,A)
【文献】
特表2002−542927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
B01J 8/00− 8/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体溶媒と混合された固相樹脂ビーズを使用するマイクロ波アシスト固相合成のための装置であって、
マイクロ波透過材料で作製され、中心軸を有する略円筒形の反応器(1)であって、入口(5)及び出口(6)を有する前記反応器(1)と、
前記反応器(1)の前記出口(6)に付随した多孔質フリットであって、前記反応器からのビーズの放出を防止し且つ前記溶媒の放出を可能にする前記多孔質フリットと、
時計回り方向及び反時計回り方向交互の、前記中心軸を中心とする前記反応器の同心回転のための手段(4)と
を含む、装置。
【請求項2】
前記フリットは、真空の適用により前記出口への溶媒の放出を可能にするようになされている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記フリットは約1μmから約50μmまでの細孔径を有する、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記フリットは約5μmから約30μmまでの細孔径を有する、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記フリットは疎水性材料で作製されている、請求項1から4までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記フリットはPTFEで作製されている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
マイクロ波アシスト固相合成のための方法であって、
請求項1から6までのいずれか一項に記載の装置を設けるステップであって、前記反応器(1)は官能性樹脂ビーズ、溶媒、及び反応物を含む前記設けるステップと、
前記反応器(1)をマイクロ波加熱するステップと、
時計回り方向及び反時計回り方向交互に、前記中心軸を中心に前記反応器を回転させることにより前記反応器(1)の内容物を混合するステップと
を含む、方法。
【請求項8】
前記固相合成は固相ペプチド合成である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記反応器(1)は基本的に垂直に配置される、請求項1から6までのいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固相合成に関し、より詳細には、混合が改良されたマイクロ波アシスト固相合成のための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、固相ペプチド合成(SPPS:solid−phase peptide synthesis)が、合成的に製造所でペプチド及びタンパク質を作り出す容認された方法である。小さい多孔質固体ビーズ(通常は樹脂)が、ペプチド鎖が構築され得る機能単位、又はリンカーで処理される。ペプチドは、トリフルオロ酢酸などの試薬によりビーズから開裂されるまで、ビーズに共有結合したままである。
【0003】
固相ペプチド合成の一般原理は、カップリング・ステップ、洗浄ステップ、脱保護ステップ、及び洗浄ステップのサイクルの繰返しを含む(Chan及びWhite、「Fmoc solid phase peptide synthesis: A practical approach」、Oxford University Press、Oxford、England、2000年)。固相上に結合されているペプチドの遊離N末端アミンは、単一N保護アミノ酸単位にカップリングする。形成された単位は次に脱保護され、更なるアミノ酸が結合され得る新しいN末端アミンを暴露する。この技法の優位性は、部分的に、各反応後に洗浄サイクルを実施して、不溶性ビーズに共有結合したままである成長する対象のペプチドの全てに関して過剰な試薬を除去する能力にある。
【0004】
ペプチド合成におけるマイクロ波照射の使用は、カップリング反応時間を実質的に短縮し、また、高度の収率及び低度のラセミ化での長いペプチド配列の調製を可能にした(Pederson, S. L.ら、Microwave heating in solid-phase peptide synthesis、Chem. Soc. Rev.、2012年、41、1826〜1844頁)。
【0005】
固相合成では、樹脂ビーズの周囲の物質移動は非常に重要である。これを達成するために、今日の固相ペプチド合成機器では、例えば(可変振動ミキサ(variable oscillating mixer)と記載されることもある)ボルテックス・ミキサ、N
2泡立て、再循環及び反転ミキサを含む、様々な種類の混合技法が使用されている。
【0006】
ペプチド合成のためのマイクロ波ベースの機器では、機器のマイクロ波空洞部は、反応バイアルの最大サイズを決定する限られた容積を有し、その充填度は用いられる混合技法により決定される。
【0007】
混合するために磁気撹拌器、パドル又は何らかの他の機械デバイスを使用することはペプチド合成樹脂ビーズにダメージを与えると考えられるので、工業用機器では、通常、ボルテックス混合が使用されてきた。
【0008】
国際公開第99/56863号パンフレットが、液体及び/又は固体を混合する混合デバイスを開示しており、ホルダ内に受容されている容器、通常は円筒形槽が、駆動機構により、容器の軸を中心に、時計回り方向に且つ反時計回り方向に交互に回転することができる。容器の角変位は制御ユニットにより調節される。効果的な混合を実現することに加えて、当該デバイスは、殆ど完全に充填された槽内でも閉鎖することなく混合が可能であるように、メニスカス撓み(meniscus deflection)が小さく保たれることを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第99/56863号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Chan及びWhite、「Fmoc solid phase peptide synthesis: A practical approach」、Oxford University Press、Oxford、England、2000年
【非特許文献2】Pederson, S. L.ら、Microwave heating in solid-phase peptide synthesis、Chem. Soc. Rev.、2012年、41、1826〜1844頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ボルテックス・ミキサの場合、樹脂ビーズ用のバイアルは、バイアルの直径よりずっと広い空間、及び休止時の試薬/樹脂の溶媒ミックスの高さよりずっと高いバイアルを必要とする円運動で、急速に振動する。従って、所定のマイクロ波空洞部内で加熱し混合することができる最大樹脂/液体体積は実質的に減少する。
【0012】
本発明の目的は、時計回り回転及び反時計回り回転を交互に行うことにより混合し、それにより、先行技術によるボルテックス混合の場合より大きな反応バイアル及び加熱され得るその中のより大きな容積の使用を可能にすることにより、改良されたマイクロ波アシスト固相合成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の且つ他の目的は、
−マイクロ波透過材料で作製され、中心軸を有する略円筒形の反応器であって、入口及び出口を有する、反応器と、
−反応器の出口に付随した多孔質フリットであり、反応器からのビーズの放出を防止し且つ溶媒の放出を可能にする多孔質フリットと、
−時計回り方向及び反時計回り方向交互の、中心軸を中心とする反応器の同心回転のための手段と
を含む、液体溶媒と混合された固相樹脂ビーズを使用するマイクロ波アシスト固相合成のための装置により達成される。
【0014】
別の態様では、本発明は、
−前段で定められている通りに装置を設けるステップであって、反応器は官能性樹脂ビーズ、溶媒、及び反応物を含む、設けるステップと、
−交互の方向に中心軸を中心に反応器を回転させることにより反応器の内容物によって混合すると同時に、反応器をマイクロ波加熱するステップと
を含む、マイクロ波アシスト固相合成のための方法に関する。
【0015】
反応器はその中心軸を中心に回転するだけであり、ボルテックスされていたらそうであったように振り動かされないので、反応器はマイクロ波空洞部と殆ど同じ大きさの直径を有し得る。更に、バイアルをスピンさせるだけでボルテックスしないことにより、表面の乱流が非常に小さいので、反応器の高さをより効果的に利用することが可能になる。即ち、ボルテックス式ミキサを使用する場合より、バイアル容積のより大きな割合を充填することができる。
【0016】
本発明の上記装置態様及び方法態様の好適な実施例が、従属クレームに記載されている。
【0017】
以下では、添付図面を参照し、単に例としてその非限定的実施例に関して、本発明がより詳細に記載されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明によるマイクロ波アシスト固相合成のための装置の実施例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前述の通り、本発明は、ペプチド合成、オリゴヌクレオチド合成、又は他の有機合成などのマイクロ波アシスト固相合成のための装置に関する。
【0020】
図1は、マイクロ波アシスト固相合成のためのシステムの一部である装置の実施例を示し、当該システムの残部は当該図に示されていない。
図1を参照すると、樹脂ビーズ及び溶媒液体で満たされる反応器バイアル1が、支持部3により支持されており、且つミキサ・モータ4に接続されている、回転可能な管状シャフト2に取り付けられる。マイクロ波透過材料、例えばポリプロピレン(PP)で作製されている反応器バイアル1は、最上部入口5と底部出口6とを有する。出口6は、樹脂ビーズ及び液体を反応器内に保持するために、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の又は類似の疎水性材料のフリット(図示せず)により閉鎖されている。当該フリットは、一般に、約1μmと約50μmの間の、好ましくは約5μmと約30μmの間の、細孔径を有する。管状シャフト2を介して、反応器出口6は排水口7に接続されている。反応器1から出口7への液体の排水は、通常、例えば真空ポンプ(図示せず)による、吸引により達成される。
【0021】
反応器バイアル内の樹脂ビーズのマイクロ波加熱のためのそのマイクロ波空洞部内に反応器バイアル1が受容されるように、支持部3は、マイクロ波アシスト固相合成のためのシステム内に取り付けられている。
【0022】
ミキサ・モータ4は、モータの所望の角変位及び回転速度を設定することができる制御ユニット(図示せず)により制御される。混合装置の動作は以下の通りである。
【0023】
制御ユニットの制御により、ミキサ・モータ4は、非継続的に、その中心軸を中心に、反応器バイアル1をスピンさせる。スピンしている反応器バイアルは、樹脂及び試薬といったその内容物も回転させ始める。所定の時間の後、反応器バイアル1の回転方向が反転し、それにより、樹脂/試薬ミックスが反応器バイアルの動きに再度追いつく前に樹脂/試薬ミックスに乱流を引き起こす。次いで、この手順が繰り返される。回転方向の繰り返される反転に起因するこの乱流は混合効果を有する。
【0024】
従来のボルテックス混合と比較して、交互の方向の、中心軸を中心とする回転の2つの主要な利益、即ち(i)より大きな反応器を使用することができる(マイクロ波空洞部のより効率的な使用)、及び(ii)より大きな作業容積が可能になる(実質的に減少した表面の乱流及び跳ね返り)、がある。反応器バイアル1は、本質的に垂直に配置されることが好ましく、また、回転可能な管状シャフト2に本質的に平行であることが好ましく、その結果、最大作業容積が可能になる。
【0025】
固相ペプチド合成におけるアミノ酸添加サイクルのための典型的なワークフローは以下の通りである。
−官能性樹脂ビーズを反応器内に配置し(例えばポリスチレンの各ビーズが、少なくとも1つの保護アミノ酸又はアミノ酸配列を支持している)、溶媒で満たし、ミキサ・モータ(4)を作動させることにより混合する。
−シリンジの出口(7)経由で、真空を用いて排出する。
−溶媒で脱保護し、ミキサ・モータ(4)を作動させることにより混合する。
−シリンジの出口(7)経由で、真空を用いて排出する。
−マイクロ波加熱中にアミノ酸をカップリングし、ミキサ・モータ(4)を作動させることにより混合する。
−シリンジの出口(7)経由で、真空を用いて排出する。
−溶媒で洗浄し、ミキサ・モータ(4)を作動させることにより混合する。
−シリンジの出口(7)経由で、真空を用いて排出する。
−必要に応じて、洗浄を繰り返す。
【0026】
反応器バイアルをマイクロ波で照射して、所望の合成ステップにおいて且つ/又は同心時計回り回転及び同心反時計回り回転中に、反応混合物を加熱してもよい。
【0027】
典型的な反応器バイアル(1)の容積は、約10から30mLまでの範囲内である。
【0028】
典型的な回転角が約720°であり、例示的頻度が1秒当たり約0.5〜1サイクルである。
【0029】
随意に、時計回り方向の回転角(角度偏位)は、反時計回り方向の回転角とは異なる。
【0030】
本発明は前述の好適な実施例に限定されない。種々の代替案、修正、及び同等物が使用されてもよい。従って、上記の実施例は、添付の特許請求の範囲により定められる本発明の範囲を限定していると見なされるべきではない。