(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263191
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】ネオペンチルグリコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/141 20060101AFI20180104BHJP
C07C 31/20 20060101ALI20180104BHJP
B01J 23/86 20060101ALI20180104BHJP
B01J 23/889 20060101ALI20180104BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20180104BHJP
【FI】
C07C29/141
C07C31/20 Z
B01J23/86 Z
B01J23/889 Z
!C07B61/00 300
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-538313(P2015-538313)
(86)(22)【出願日】2013年9月28日
(65)【公表番号】特表2016-500693(P2016-500693A)
(43)【公表日】2016年1月14日
(86)【国際出願番号】EP2013002922
(87)【国際公開番号】WO2014067600
(87)【国際公開日】20140508
【審査請求日】2016年6月1日
(31)【優先権主張番号】102012021280.1
(32)【優先日】2012年10月29日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507254975
【氏名又は名称】オクセア・ゲゼルシャフト・ミト・べシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】アイゼナッハー・マティアス
(72)【発明者】
【氏名】シャーラプスキー・クルト
(72)【発明者】
【氏名】シュトルッツ・ハインツ
【審査官】
桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04855515(US,A)
【文献】
特表2004−517035(JP,A)
【文献】
特開平01−127042(JP,A)
【文献】
特開昭55−004396(JP,A)
【文献】
特表2011−527993(JP,A)
【文献】
米国特許第04122290(US,A)
【文献】
英国特許第02482887(GB,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/141
B01J 23/86
B01J 23/889
C07C 31/20
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒としての第三級アルキルアミンの存在下にイソブチルアルデヒドをホルムアルデヒドに付加することによってヒドロキシピバリンアルデヒドを得て、その後、80〜140℃の温度及び2〜18MPaの圧力で、液相で水素化することにより、ネオペンチルグリコールを製造する方法であって、活性剤のバリウム及びマンガンを含有する銅クロマイト触媒の存在下で前記水素化が遂行され、
その際、投入混合物中の有機部分に基づいて、15〜27重量%の量の脂肪族アルコールの存在下に前記水素化が行われることを特徴とする、上記の方法。
【請求項2】
110〜140℃の温度及び4〜15MPaの圧力において前記水素化が遂行されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第三級アルキルアミンとして、対称性の第三級アルキルアミンが使用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
対称性の第三級アルキルアミンとして、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン又はトリ−n−ブチルアミンが使用されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第三級アルキルアミンとして、非対称の第三級アルキルアミン又は複数のトリアルキルアミン官能基を有する化合物が使用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
脂肪族アルコールとして、1個〜5個の炭素原子を有する線状又は分岐状のアルコールが使用されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ネオペンチルグリコール又はそれらの混合物が使用されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
それぞれ銅、クロム、バリウム及びマンガンの全含有量に基づいて、前記銅クロマイト触媒が、0.5〜8重量%の量のバリウム、及び0.5〜8重量%の量のマンガンを含有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
それぞれ銅、クロム、バリウム及びマンガンの全含有量に基づいて、前記銅クロマイト触媒が、1〜4重量%の量のバリウム、及び3〜5重量%の量のマンガンを含有することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記水素化に使用される液相が、全使用量に基づいて15超〜25重量%の量の水を含有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
前記水素化が、内部装置も撹拌装置も備えていない管型反応装置中で遂行されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリウム及びマンガンをドープした銅クロマイト触媒による液相でのヒドロキシピバリンアルデヒドの水素化によってネオペンチルグリコールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル又はポリウレタン、合成樹脂塗料、滑剤及び軟化剤の製造するための縮合成分として、多価アルコール又はポリオールは経済的に重要である。この場合、そのような重要な多価アルコールは、ホルムアルデヒドとイソブチルアルデヒド又はn−ブチルアルデヒドとの混合アルドール付加によって得られる。ホルムアルデヒドと適当なブチルアルデヒドとの間のアルドール付加では、最初にアルデヒド化の中間体が形成され、これを引き続いて多価アルコールへ還元しなければならない。この方法に利用できる工業的に重要な多価アルコールは、ホルムアルデヒドとイソブチルアルデヒドとの混合アルドール化によるネオペンチルグリコール[NPG、2,2−ジメチルプロパンジオール−(1,3)]である。アルドール付加は、塩基性の触媒、例えば、アルカリヒドロキシド又は脂肪族アミンの存在下において遂行され、そして最初に分離可能な中間生成物であるヒドロキシピバリンアルデヒド(HPA)が形成される。この中間生成物は、引き続いて、過剰なホルムアルデヒドにより、カニッツァーロ反応により、当量のギ酸塩の形成下においてネオペンチルグリコールへの転化させることができる。そのため、この反応工程の形態では、ギ酸塩が付帯生成物として生じるため、この方法の効率は、ギ酸塩に対する市場の動向にも依存する。しかしながら、技術的には、気相及び液相におけるヒドロキシピバリンアルデヒドの触媒による水素化には、金属接触も包含される。適切な水素化触媒とは、欧州特許出願公開第0 278 106 A1号(特許文献1)により、ニッケル触媒であることが判明している。銅、亜鉛及びジルコニウムをベースとする触媒は、欧州特許出願公開第0 484 800 A2号(特許文献2)による方法において水素化工程で使用されている。
【0003】
銅クロマイト触媒もまた、ヒドロキシピバリンアルデヒドを水素化するのにしばしば使用されている。銅クロマイト触媒は、活性剤として、更なる金属、例えば、バリウム、カドミウム、マグネシウム、マンガン及び/又は希土類金属をもしばしば含有する。米国特許第4,855,515号明細書(特許文献3)によれば、ホルムアルデヒドのイソブチルアルデヒドとの転化によるアルドール化生成物の水素化の際に、マンガンをドープした銅クロマイト触媒が特に優れている。国際公開第98/29374 A1号パンフレット(特許文献4)は、メタノール系溶液中におけるヒドロキシピバリンアルデヒドの水素化のために、バリウムをドープした銅クロマイト触媒の使用を開示している。
【0004】
ドイツ国特許出願公開第1 518 784 A1号(特許文献5)の教示によれば、バリウムでドープされた銅クロマイト触媒の存在下において、ヒドロキシピバリンアルデヒド及び過剰のイソブチルアルデヒドからなる混合物が、ネオペンチルグリコール及びイソブタノールへ水素化される。欧州特許出願公開第0 006 460 A1号(特許文献6)による、粗製のヒドロキシピバリンアルデヒドからの二段階による高圧の水素化方法においてもまた、バリウムで活性化させた銅クロマイト触媒が使用されており、その際、該触媒は上昇する水素化温度で作用する。
【0005】
英国特許出願公開第2482 887A号(特許文献9)は、フルフラールの水素化のためのマンガン及びバリウムの両方をドープした銅クロマイト触媒の使用を開示している。水素化温度の選択に依存して、生成物の分布は、フルフラールアルコール又は2−メチルフランに向かって制御される。
【0006】
欧州特許出願公開第0 301 853 A1号(特許文献10)には、さらなる添加剤としてバリウムもマンガンも含有できる銅クロマイト触媒が記載されている。
【0007】
上記の知られている触媒は、アルデヒドの水素化に使用できる。
【0008】
従来技術から知られる銅クロマイト触媒は、比較的高い水素化温度で作用する。
【0009】
銅クロマイト触媒は、ヒドロキシピバリンアルデヒドをネオペンチルグリコールにする良好な水素化活性を有するだけでなく、同様に、イソブチルアルデヒドのホルムアルデヒドとのアルドール化の際に形成される副生成物を、水素化条件下で分解して副生成物に結合したネオペンチルグリコールを放出させるのに十分活性である。そのような副生成物、例えば、ネオペンチルグリコール−イソブチレート又は、ヒドロキシピバリンアルデヒドの不均化によって形成されたティシェンコエステルネオペンチルグリコールモノヒドロキシピバリン酸エステルである。銅クロマイト触媒の使用下におけるネオペンチルグリコールの製造由来の高沸点の副生成物の合目的的な水素化分解は、ドイツ国特許出願公開第10 2008 033163 A1号(特許文献7)に記載されている。
【0010】
欧州特許出願公開第0 522 368 A1号(特許文献8)からは、アルコール及び反応生成物の混合物に基づいて、少なくとも20重量%の低級アルコール、例えば、メタノール又はn−ブタノール、並びに、水、アルコール及び反応生成物の全量に基づいて、40重量%超の量の水を含有する溶液中でヒドロキシピバリンアルデヒドの水素化を行うことが知られている。水素化触媒として、銅クロマイト触媒が推奨されている。
【0011】
ネオペンチルグリコールは、工業的に製造される製品として大きな経済的意味を有しており、それ故、ネオペンチルグリコールの公知の製造方法について、より改善された製造収率、より改善されたプラント利用、あるいはより低減されたエネルギーの使用によって、該方法を改善することが常に必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0 278 106 A1号
【特許文献2】欧州特許出願公開第0 484 800 A2号
【特許文献3】米国特許第4,855,515号明細書
【特許文献4】国際公開第98/29374 A1号パンフレット
【特許文献5】ドイツ国特許出願公開第1 518 784 A1号
【特許文献6】欧州特許出願公開第0 006 460 A1号
【特許文献7】ドイツ国特許出願公開第10 2008 033163 A1号
【特許文献8】欧州特許出願公開第0 522 368 A1号
【特許文献9】英国特許出願公開第2482 887A号
【特許文献10】欧州特許出願公開第0 301 853 A1号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】H. Adkin, Org. React. 8, 1954, 1−27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
驚くことに、マンガン及びバリウムの両方をドープした銅クロマイト触媒の存在下において液相で水素化を遂行する場合、ヒドロキシピバリンアルデヒドの水素化によって、高い選択率及び高い空時収率でネオペンチルグリコールを製造できることが見出された。
【0015】
それ故、本発明は、触媒としての第三級アルキルアミンの存在下にイソブチルアルデヒドをホルムアルデヒドに付加することによってヒドロキシピバリンアルデヒドを得て、その後、80〜
140℃の温度及び2〜18MPaの圧力で、液相で水素化することにより、ネオペンチルアルコールを製造する方法であって、活性剤のバリウム及びマンガンを含有する銅クロマイト触媒の存在下で前記水素化が行われることを特徴とする、該方法に関する。
【0016】
驚くことに、活性剤としてバリウム及びマンガンの両方を含有する銅クロマイト触媒を使用することにより、明らかに低い温度においてさえ、ヒドロキシピバリンアルデヒドの完全な水素化が達成でき、かつ、その際に非常に高い空時収率が得られることが見出された。80〜
140℃、好ましく
は110〜140℃の水素化温度の設定により、ネオペンチルグリコールへの、ヒドロキシピバリンアルデヒドの選択的な水素化が高い空時収率で成功する。本発明により合目的的にドープした銅クロマイト触媒を使用することによって、そして、水素化温度を正確に選択することによって、従来の銅クロマイト触媒を使用し、そして80℃未満の水素化温度で処理する場合と比較して、水素化の間に高沸点物が形成するのを抑制することもできる。水素化温度が低すぎると、ヒドロキシピバリンアルデヒドは不完全にしか水素化されない。水素化温度が高すぎると、アルドール化触媒として使用される第三級アルキルアミンの分解が同様に増大して生じ、反応生成物の分離が困難となるため望ましくない。高沸点物は、当量のネオペンチルグリコールが結合しているエステル又は環状アセタールのような酸素を含有する化合物である。高沸点物中において、ネオペンチルグリコールのモノイソ酪酸エステル及びジイソ酪酸エステル並びにヒドロキシピバリンアルデヒドからティシェンコ反応によって形成した不均化生成物のネオペンチルグリコールモノヒドロキシピバリンエステルの割合は特に高い。
【0017】
イソブチルアルデヒド及び水性のホルムアルデヒド溶液のアルドール付加は、アルドール付加触媒としての、同一か又は異なるアルキル基を含有することができ、それ故、対称に又は非対称に構成され得る第三級アルキルアミンの存在下において、あるいは、複数のトリアルキルアミン官能基を有する第三級アルキルアミンの存在下において行われる。例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−イソプロピルアミン、メチル−ジエチルアミン、メチル−ジイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジメチル−tert−ブチルアミン又はN,N’−テトラメチルエチレンジアミンの存在下において処理される。特に適切な触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン及びトリ−n−ブチルアミンが考慮される。
【0018】
アルデヒドは、モル比で反応させることができるが、両方の反応相手を過剰量で使用することも可能である。慣用的にホルムアルデヒドが20〜50重量%である水溶液としてホルムアルデヒドが使用される。驚くことに、本発明で使用されるドープされた銅クロマイト触媒は、ホルムアルデヒドに対して高い耐性を有することが判明した。それ故、アルドール付加工程におけるホルムアルデヒドのイソブチルアルデヒドに対するモル比1:1は、ホルムアルデヒドに対して有利になるよう、一般には1.2:1まで、好ましくは1.1:1まで調整することができる。イソブチルアルデヒドの投入量を低減することにより、水素化工程におけるイソブタノールの形成が抑制されて、イソブチルアルデヒドの投入量に基づくネオペンチルグリコールの収量が高まる。
【0019】
イソブチルアルデヒドとホルムアルデヒドとの間の反応は、20〜100℃の温度で行われ、好都合には80〜95℃で行われる。一般には、反応は標準圧で遂行されるが、高められた圧力を使用することもできる。アルドール付加触媒として使用される第三級アルキルアミンは、イソブチルアルデヒドに基づいて、1〜20、好ましくは2〜12モル%の量で反応混合物中に含有される。
【0020】
ホルムアルデヒド水溶液及びホルムアルデヒド水溶液中にも含まれる低割合のメタノールからの水以外に、場合によっては、希釈剤としてイソブタノールが反応混合物に投入される。イソブタノールの投入は絶対に必要というわけではないが、イソブタノールを投入する場合には、反応混合物中におけるその量は、全反応混合物に基づいて、10〜20重量%の範囲内である。さらなる溶剤及び希釈剤は必要ではない。
【0021】
アルドール反応の実際の遂行は、撹拌容器、カスケード撹拌容器、又は反応管中で行われ、反応物をより良好に混合するために、パッキング又はその他の内部機器を設けることができる。転化は発熱性であり、加熱によって促進させることができる。
【0022】
アルドール付加によって生じる粗製混合物は、場合によっては、蒸留によって、水、メタノール、イソブタノール及び残量のホルムアルデヒド、イソブチルアルデヒドのような揮発成分、場合によっては、及びアルドール化触媒を分離するか、あるいは、事前にそれらの成分に分離することなく、又は個々の成分を分離させることなく、バリウム及びマンガンをドープした銅クロマイト触媒の存在下において接触水素添加する。
【0023】
好ましくは、アルドール化した粗製生成物と混合可能な脂肪族アルコールの存在下において水素化を行う。適切な脂肪族アルコールとしては、1〜5個の炭素原子を有する線状又は分岐状のアルコール、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ネオペンチルグリコール又はそれらの混合物が挙げられる。残存量のイソブチルアルデヒドをイソブタノールへ水素化させるため、イソブタノールが特に合目的的に使用される。イソブタノールがアルドール化工程においてすでに希釈剤として投入されており、そして蒸留によって事前に分離されなかった場合、それは水素化工程における溶媒として存在する。水性のホルムアルデヒド溶液によって持ち込まれた低量のメタノールも同様に存在する。有機溶媒又は希釈剤としてのその脂肪族アルコールの割合は、本発明の実施形態の場合、投入混合物中における有機部分に基づいて、15〜27重量%、好ましくは15〜23重量%である。希釈剤又は溶媒の使用によって、水素中の液相へのヒドロキシピバリンアルデヒドの十分な溶解性が保証され、さらには、ヒドロキシピバリンアルデヒドの沈殿が防止されて液相の均質性が確保される。アルコール含有量が高すぎると、貴重な反応装置の容積が不必要に占有されて利用できなくなる。
【0024】
本発明の方法の特に好ましい実施形態において、水素化に使用される液相は、脂肪族アルコール以外に、全投入量に基づいて、15〜25重量%、好ましくは18〜25重量%の量の水も含有する。水素化に使用される全投入混合物は均質であり、そしてそれ故、15〜25重量%の水を含有し、そして有機部分の100重量%までの残部として、さらに15〜27重量%の脂肪族アルコールを含有する。
【0025】
水の部分は有利な熱の分布を促進させ、そして水素化工程の際の反応熱を有利に排除し、かつ、局所的に温度ピークが発生する危険性を減少させる。
【0026】
得られたヒドロキシピバリンアルデヒドを含有する粗製混合物は、更なる精製工程及び加工工程を用いることなく水素化される。
【0027】
粗製のヒドロキシピバリンアルデヒドの水素化は、80〜
140℃、好ましくは110〜140℃の温度で、バリウム及びマンガンをドープした銅クロマイト触媒の存在下において液相で遂行される。反応圧力は、2〜18MPa、好ましくは4〜15MPaである。とりわけ、110〜140℃の反応温度及び4〜15MPaの反応圧力が実証されている。反応圧力がより低い場合、ヒドロキシピバリンアルデヒドの満足な水素化がもはや観察されない。
【0028】
ヒドロキシピバリンアルデヒドの水素化は、活性剤のバリウム及びマンガンを含有する銅クロマイト触媒の存在下に行われる。銅クロマイト触媒は、酸化銅及び銅クロマイトの等モル組成物としてH. Adkin, Org. React.
8, 1954, 1−27(非特許文献1)に記載されているが、銅クロマイトは必ずしも含有していない。触媒は、非担持触媒と呼ばれる担体物質のないものか、あるいは、例えば、粉末又はタブレット、星型、ひも状、環状又はその他の粒状の形態にある比較的表面積の大きい、珪藻土、シリカゲル又は酸化アルミニウムを有する担体物質を有するもののいずれも使用できる。
【0029】
製造するために、例えば、ペースト形態の銅、クロム、マンガン及びバリウムの不溶性の化合物を混合し、そして、ひも状又はタブレットのような好適な形状体に形成する。その形状体の形成後乾燥させ、500℃までか焼し、その際、固形分が圧縮され、存在する金属は場合によっては酸化物に転化する。
【0030】
同様に、水溶液から溶解物が沈殿するその水溶液で出発することも好都合である。ろ過後、その固形物を乾燥させ、そして、固体の混合物と同様に、500℃までか焼する。引き続いて、ギ酸、酢酸、プロピオン酸又はn−酪酸のような低級有機酸中で固形分を撹拌して、溶解性の成分を分離し、その後、酸性分がなくなるまで洗浄し、再び乾燥させ、そして500℃までか焼することが推奨され得る。
【0031】
グラファイト又はアルカリ金属石けん又はアルカリ土類金属石けんのような助剤の添加後、引き続いて、タブレット又はリングのような形成体を製造することができる。
【0032】
バリウム及びマンガンをドープした銅クロマイト触媒は、銅、クロム、バリウム及びマンガンの含有量全体に基づいて、0.5〜8重量%、好ましくは3〜5重量%のマンガン、及び0.5〜8重量%、好ましくは1〜4重量%のバリウムを含有する。とりわけ、それぞれ銅、クロム、バリウム及びマンガンの含有量全体に基づいて、1〜4重量%の範囲内のバリウム含有量、及び3〜5重量%の範囲内のマンガン含有量が実証されている。いわゆる活性剤以外に、場合によっては、さらなる活性剤、例えば、カドミウム、マグネシウム、ストロンチウム及び/又は希土類金属を添加することもできる。
【0033】
水素化は、液相において、連続的に又は非連続的に遂行され、例えば、ダウンフローモード又はアップフローモードによる固体床触媒により、あるいは懸濁水素化により遂行される。
【0034】
連続的な固体床法の場合、触媒充填量は、触媒の体積及び時間当たりの処理体積で表されるV/Vhは、0.2〜4.0h
−1、好ましくは、0.8〜2.0h
−1であるのが適切であると実証されている。
【0035】
非連続的な方法で遂行される場合、液体の使用生成物に基づいて、1〜20、好ましくは2〜15重量%の銅クロマイト触媒が使用される。
【0036】
出発化合物のヒドロキシピバリンアルデヒドがもはや完全に水素化されず、そして副生成物の形成が増大するのが観察されるため、銅クロマイト触媒の高過ぎる充填量は回避すべきである。
【0037】
水素化は、好ましくは固定して配置された触媒により管型反応器中において液相で遂行される。管型反応器は、密接に平行した複数の閉じた管の束であるとも理解される。使用される管型反応器は、同様に、例えば、ラシヒリング、サドル、ポールリング、フィルター板又はカラムトレイのようなパッキン又は内部機器を含むことができ、また、場合によっては、撹拌装置又は反応熱を除去するための装置を含むことができる。特に好ましい実施形態において、ヒドロキシピバリンアルデヒドの水素化は、固体床によるが、内部機器も撹拌装置も持たない管型反応器中で行われる。
【0038】
水素化は、好ましくは純粋な水素を用いて行われる。しかしながら、水素を含まず、水素化条件下で不活性なそれ以外の成分を含む混合物を使用することもできる。
【0039】
水素化された反応混合物から、後に続く連続的な蒸留法によって純粋なネオペンチルグリコールが得られる。その際、分離された溶媒又は希釈剤は、アルドール付加工程及び/又は水素化工程に再びフィードバックすることができる。
【0040】
本発明の水素化方法によれば、高い選択率による高い転化率で、かつ、高い空時収率でヒドロキシピバリンアルデヒドがネオペンチルグリコールに転化される。水素化後の高沸点物の割合が低いことが注目され、水素化工程中の高沸点物の形成を持続的に抑制することができる。第三級アルキルアミンは揮発性の窒素含有化合物に開裂し、これは、望ましくない不純物となり、そしてこれは、引き続く蒸留による処理において分離することが困難であり、そして、ネオペンチルグリコールの更なる処理の際に干渉するが、この開裂もまた抑制される。
【0041】
以下において、本発明の方法を例に基づいてより詳細に説明する。
【実施例】
【0042】
例1:バリウムをドープした銅クロマイト触媒の製造
28gの硝酸銅三水和物及び2.5gの硝酸バリウムを、200mlの水に55℃で溶解させた。それとは別に、26gの重クロム酸アンモニウムを、120mlの水及び40mlの25%濃度のアンモニア溶液中に溶解させた。その後、その重クロム酸アンモニウム溶液を硝酸銅溶液中にゆっくりと滴下した。その際、赤褐色の固形分が沈殿した。沈殿を完了させるために、さらに1時間、後撹拌し、そして室温まで冷却した。引き続いて、その固形分をろ過し、乾燥棚において110℃で乾燥させた。乾燥させた固形分を、350℃で4時間か焼し、その際の加熱速度は2℃/分であった。その固形分のか焼及び冷却後、10%濃度の酢酸200mlと一緒に撹拌した。その後、酸がなくなるまでその固形分を水で洗浄し、そして新たに110℃で乾燥させ、そして2℃/分の加熱速度により350℃で焼鈍した。得られた固形分は、その形態で触媒として使用できた。金属に基づいて、その触媒は次の組成を有していた: 42.1%銅、48.4%クロム、9.5%バリウム
【0043】
例2:マンガンをドープした銅クロマイト触媒の製造
50%濃度の希釈した硝酸溶液の形態の28gの硝酸銅三水和物及び5.0gの硝酸マンガンを、200mlの水に55℃で溶解させた。それとは別に、26gの重クロム酸アンモニウムを、120mlの水及び40mlの25%濃度のアンモニア溶液中に溶解させた。その後、その重クロム酸アンモニウム溶液を硝酸銅溶液中にゆっくりと滴下した。その際、赤褐色の固形分が沈殿した。沈殿を完了させるために、さらに1時間、後撹拌し、そして室温まで冷却した。引き続いて、その固形分をろ過し、乾燥棚において110℃で乾燥させた。乾燥させた固形分を、350℃で4時間か焼し、その際の加熱速度は2℃/分であった。その固形分のか焼及び冷却後、10%濃度の酢酸200mlと一緒に撹拌した。その後、酸がなくなるまでその固形分を水で洗浄し、そして新たに110℃で乾燥させ、そして2℃/分の加熱速度により350℃で焼鈍した。得られた固形分は、その形態で触媒として使用できた。金属に基づいて、その触媒は次の組成を有していた: 50.0%銅、45.8%クロム、4.2%マンガン
【0044】
例3:マンガン及びバリウムをドープした銅クロマイト触媒の製造
50%濃度の希釈した硝酸溶液の形態の、2.8kgの硝酸銅三水和物、400gの硝酸マンガン及び150gの硝酸バリウムを、20リットルの水に55℃で溶解させた。それとは別に、2.6kgの重クロム酸アンモニウムを、12リットルの水及び4リットルの25%濃度のアンモニア溶液中に溶解させた。その後、その重クロム酸アンモニウム溶液を硝酸銅溶液中にゆっくりと滴下した。その際、赤褐色の固形分が沈殿した。沈殿を完了させるために、さらに1時間、後撹拌し、そして室温まで冷却した。引き続いて、その固形分をろ過し、乾燥棚において110℃で乾燥させた。乾燥させた固形分を、350℃で4時間か焼し、その際の加熱速度は2℃/分であった。その固形分のか焼及び冷却後、10%濃度の酢酸20リットルと一緒に撹拌した。その後、酸がなくなるまでその固形分を水で洗浄し、そして新たに110℃で乾燥させ、そして2℃/分の加熱速度により350℃で焼鈍した。得られた固形分は、その形態で触媒として使用できた。金属に基づいて、その触媒は次の組成を有していた: 47.5%銅、46.5%クロム、4.0%マンガン、2.0%バリウム
【0045】
例4:例1〜3の触媒の触媒活性の比較
例1〜3によって製造した銅クロマイト触媒の触媒活性を試験するために、トリ−n−プロピルアミンの触媒下においてイソブチルアルデヒドとホルムアルデヒドとのアルドール反応によって製造した、粗製のヒドロキシピバリンアルデヒド溶液を使用した。これは、以下の組成を有していた。
有機分(ガスクロマトグラフィーにより測定。百分率で示す。)
【0046】
【表1】
【0047】
ティシェンコエステル:ネオペンチルグリコールモノヒドロキシピバリン酸エステル
粗製のヒドロキシピバリンアルデヒド溶液を水素化するために、それぞれ10質量パーセントの触媒を使用した。
【0048】
その水素化は、オートクレーブ中において130℃及び8MPaの水素圧で4時間かけて行った。転化率は、次の式を用いて計算した。
転化率(%)=((出発混合物中の物質量ヒドロキシピバリンアルデヒド−水素化物中の物質量ヒドロキシピバリンアルデヒド)/出発混合物中の物質量ヒドロキシピバリンアルデヒド)*100
【0049】
選択率は次の式を用いて計算した。
選択率(%)=(水素化物中の物質量ネオペンチルグリコール/(出発混合物中の物質量ヒドロキシピバリンアルデヒド−水素化物中の物質量ヒドロキシピバリンアルデヒド))*100
【0050】
この場合、次の結果が得られた。
【0051】
【表2】
【0052】
例5:水素化活性に対する第三級アミンの影響
例3の触媒10質量パーセントを、以下の粗製のヒドロキシピバリンアルデヒドを水素化するために使用した。
【0053】
【表3】
【0054】
水素化は、オートクレーブ中において130℃で、かつ、8MPaの水素圧で4時間かけて行った。
【0055】
この場合、以下の結果が得られた。
【0056】
【表4】
【0057】
例5及び例4/触媒3からの転化率及び特に選択率の値が示すように、粗製のヒドロキシピバリンアルデヒド中における第三級アミンの存在は、バリウム及びマンガンをドープした銅クロマイト触媒の水素化特性に有利に作用する。
【0058】
例6:固定床触媒としての例3からの触媒の使用
例3からの触媒を3%のグラファイトと混合し、そして、タブレット化した。得られた3×3mmタブレットを、2.2リットルの容積の管型反応器に装入した。引き続いて、該触媒を240℃で5時間、15モル%水素及び85モル%窒素を含有するガス流中で減圧により活性化した。このガス混合物を、200標準リットル/時で触媒を介して導入した。1標準リットルは、20℃の温度及び0.1MPaの圧力における1リットルのガス体積を意味する。例4の組成に相当する粗製のヒドロキシピバリンアルデヒド及び水素を、上記の管型反応器の底部から連続的に供給した。その管型反応器の頂部から水素化物を取り出し、高圧分離装置に誘導し、そしてレベルコントロールによって減圧容器中に誘導した。水素化温度及び触媒充填量は、以下の表1の条件に従って調整した。全ての試験設定において水素圧は8MPaであった。
【0059】
【表5】
【0060】
表1の結果からわかるように、触媒1リットル当たり1時間当たり1.2〜1.75リットルの水素化使用の高い触媒充填量及び時間に匹敵する転化率及び選択率の値、それ故に高い空時収率が120〜135℃の水素化温度において観察された。より高い温度及び触媒充填量においても、同様に、ほぼ完全な転化率が達成されるが、ネオペンチルグリコールへの選択率は低下する。それほど最適な実験設定ではないこの場合、アルドール化触媒として使用された第三級アミンの増強された開裂反応が予測される。
【0061】
例7(比較例)
3×3mmのタブレットの形態の市販の担持されたニッケル触媒を、2.2リットル容積の管型反応器に装入した。例4の組成に相当する粗製のヒドロキシピバリンアルデヒド及び水素を、上記の管型反応器の底部から連続的に供給した。その管型反応器の頂部から水素化物を取り出し、高圧分離装置に誘導し、そしてレベルコントロールによって減圧容器中に誘導した。水素化温度及び触媒充填量は、以下の表2の条件に従って調整した。全ての試験設定において水素圧は8MPaであった。
【0062】
【表6】
【0063】
表2の結果からわかるように、ニッケル触媒では、例3の触媒よりも明らかに低い空時収率しか得られない。さらに、ニッケル触媒によるネオペンチルグリコールへの選択率は、例3からの触媒のそれよりも低い。