【実施例】
【0042】
以下、実施例、実験例、及び製造例により本発明を詳しく説明する。しかし、本発明は、以下で開示される実施例、実験例、及び製造例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態として実現されるものであって、以下の実施例、実験例、及び製造例は、本発明の開示を完全にし、当業者に発明の範囲を十分に理解させるために提供されるものである。
【0043】
実施例1:YIGSRの製造
YIGSRペプチド(配列番号1)をペプチド製造会社(Anygen社、韓国)に依頼して製造した。
【0044】
実施例2:palmitoyl−YIGSRの製造
前記実施例1のYIGSRペプチド(配列番号1)のN末端にパルミトイル基が付着されたペプチド誘導体(Pal−YIGSR、分子量:846)を、palmitoyl−tyrosineを用いて、実施例1の方法と同じ方法で製造した(Anygen社、韓国)。
【0045】
比較例1:Pal−RGDの製造
パルミトイル基がN末端に付着されたRGDペプチドを、palmitoyl−arginineを用いて、前記実施例1と同じ方法で製造した。RGDは、インテグリン結合活性を有したペプチドであって、細胞付着剤等として使用されている物質である。
【0046】
比較例2:oleyl−YIGSRの製造
パルミトイル基の代わりにオレイル基がN末端に付加されたYIGSRペプチドを、oleyl−tyrosineを用いて、前記実施例1と同じ方法で製造した。
【0047】
実施例3:Hs27細胞の培養
ヒト皮膚線維芽細胞であるHs27細胞(ATCC)を、10%FBS(Lonza、米国)を添加したDMEM培地(Lonza社、米国)を用いて、湿度95%、5%CO
2、37℃の条件で培養した。前記Hs27細胞は、5〜20世代継代培養された細胞を利用し、ペプチドを処理する前にFBSが含まれていないDMEM培地で24時間培養した後、処理した。
【0048】
実験例1:YIGSRペプチドによるI型コラーゲン発現の変化分析
1−1:ウエスタンブロットを利用したYIGSRペプチドによるI型コラーゲン発現の変化分析
本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの皮膚線維芽細胞に対する影響を確認するために、まず、前記実施例1のペプチドで濃度別にHs27細胞を処理した後、I型コラーゲン(collagen)タンパク質の発現レベルをウエスタンブロット分析により確認した。
【0049】
各濃度(0、10
−2、10
−1、1、10、10
2、10
3、10
4、及び10
5nM)のペプチドで24時間、前記実施例3のHs27皮膚線維芽細胞を処理した。その後、処理された細胞を溶解緩衝液[150mM NaCl、1% Triton X−100、10mM Tris、1mM EDTA、pH7.4]で超音波粉砕した後、遠心分離して上澄み液を分離して、ブラッドフォード法(Bradford assay)で定量した。同量のタンパク質を5×試料緩衝液と混合して、95℃で5分間加熱した後、6〜15%濃度勾配SDS−PAGE(SDS−Polyacrylamide gel electrophoresis)で電気泳動した後、ニトロセルロース(nitrocellulose)膜に吸着させた。抗−I型コラーゲン1次抗体(Rockland社、米国)及び抗−アクチン1次抗体(Santa Cruz社、米国)を、5%スキムミルク(skimmed milk)を含むTBST緩衝液(0.05% Tween 20含有トリス緩衝食塩水、pH7.6)に希釈して16時間反応させた後、TBSTで10分間6回洗浄した。その後、抗−マウスラビットペルオキシダーゼ−結合2次抗体(KPL社、米国)で処理し、室温で1時間反応させた後、再びTBSTで10分間6回洗浄し、ECL(enhanced chemiluminescent)溶液(Amersham社、米国)で発色させて確認した。また、ウエスタンブロット分析イメージを濃度分析(densitometric anaylsis)で定量的に比較し、イメージJプログラム(Ver1.38,http://rsbweb.nih.gov/ij/index.html)を利用した。
【0050】
その結果、
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドにより、処理量依存的にI型コラーゲンタンパク質の発現が顕著に増加し、10
3nM YIGSRペプチド濃度でコラーゲン生成が最大となった。また、未処理のHs27細胞のI型コラーゲンの発現レベルと比較すると、I型コラーゲンが10
3nM YIGSRペプチドで処理した場合に6倍以上増加した。
【0051】
引き続き、本発明者は、YIGSRペプチド処理時間によるコラーゲン生成レベルをウエスタンブロット分析により確認した。1μM YIGSRペプチドで0、0.5、6、12、及び24時間、前記実施例1のHs27皮膚線維芽細胞を処理した後、処理された細胞について前記同様にウエスタンブロット分析を行った。また、ウエスタンブロット分析イメージについて、イメージJプログラム(Ver1.38,http://rsbweb.nih.gov/ij/index.html)を用いて定量的に発現量を比較した。
【0052】
その結果、
図1Bに示されるように、YIGSRペプチドによる処理時間が長くなるほど、Hs27細胞でI型コラーゲンの発現が増加し、24時間処理した場合、YIGSRペプチドで未処理のHs27細胞に比べて、I型コラーゲンの発現レベルが約5倍程度増加した。
【0053】
1−2:定量的RT−PCRを利用したYIGSRペプチドによるI型コラーゲン発現の変化分析
引き続き、本発明者は、YIGSRペプチドのI型コラーゲン生成に及ぼす影響をmRNAレベルで確認した。各濃度(0、10、10
2、10
3、10
4、及び10
5nM)のペプチドで24時間、前記実施例3のHs27皮膚線維芽細胞を処理した後、処理された細胞をTRIzol試薬(Invitrogen Corp社、米国)を用いてトータルRNAを抽出し、前記抽出されたRNA 1μgをoligo(dT)プライマー及び白血病ウイルス逆転写酵素を用いて逆転写(reverse transcription)PCRを行った。その後、前記PCR増幅産物8μl、2×SYBR GreemIプリミックスExTaq(TAKARA社、日本)10μl、1μMの順方向及び逆方向プライマー混合物2μlを混合し、real−time qPCRをBio−Rad CFX96 Real−time PCR detection systemを用いて行った。この際、real−time qPCR条件は、95℃で1分間加熱した後、95℃で15秒(変性)、60℃で15秒(アニーリング)、72℃で30秒(増幅)を40サイクル繰り返して増幅させた。そして、Bio−Rad CFX96 Real−time PCR detection systemから提供された変性曲線(melting curve)を分析した。I型コラーゲンmRNAを確認するために使用したプライマーは、以下の通りである。
【0054】
順方向プライマー:5′−GAACGCGTGTCATCCCTTGT−3′(配列番号2);及び
逆方向プライマー:5′−GAACGAGGTAGTCTTTCAGCAACA−3′(配列番号3)。
【0055】
その結果、
図1Cに示されるように、I型コラーゲンタンパク質の発現レベルと類似した傾向を示し、10
3nM YIGSRペプチドで処理した場合、I型コラーゲンのmRNAレベルが最も高かった(
図1C参照)。前記結果は、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドが転写レベル(transcriptional level)でI型コラーゲンを調節するということを立証するものである。
【0056】
実験例2:YIGSRペプチドによる細胞生存率の変化分析
本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの細胞生存に及ぼす影響を確認するために、ペプチド処理濃度及び処理時間による細胞生存率をMTT分析により確認した。
【0057】
前記実施例3のHs27細胞を96ウェルプレートに1ウェル当たり1×10
4細胞の比率で播種した後、24時間培養し、その後、血清が含まれていない培地で24時間さらに培養した。そして、実施例1のYIGSRペプチドを0、10、10
2、10
3、10
4、及び10
5nMの濃度で処理し、24時間培養した。その後、培地を除去し、PBSに溶解した0.5mg/ml MTT(Sigma−Aldrichi社、米国)を添加し、37℃で3時間、CO
2細胞培養器で反応させた。その後、前記MTT溶液を除去し、100μl DMSO溶液をそれぞれのウェルに添加し、前記プレートを10分間ボルテックス(vortexing)し、540nmで溶液の吸光度を測定した。
【0058】
その結果、
図2Aに示されるように、実施例1のYIGSRペプチドで未処理の対照群と比較した場合、YIGSRペプチドを処理した細胞の生存率は有意な差を示さず、YIGSRペプチド処理量依存的な細胞生存率の差も観察されなかった。
【0059】
引き続き、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの処理時間による細胞生存率を分析した。前記実施例2のHs27細胞を96ウェルプレートに1ウェル当たり1×10
4細胞の比率で播種した後、24時間培養し、その後、血清が含まれていない培地で24時間さらに培養した。そして、実施例1のYIGSRペプチドを10
3nMの濃度で処理し、0時間、0.1時間、0.25時間、0.5時間、1時間、3時間、6時間、12時間、及び24時間培養し、細胞生存率を分析した。
【0060】
その結果、
図2Bに示されるように、実施例1のYIGSRペプチドを1μMで処理し、Hs27細胞の生存率を24時間観察した場合も、未処理の場合と有意な差を示さなかった(
図2B参照)。このような結果は、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドが細胞生存に影響を及ぼさずに、転写レベルでI型コラーゲンの発現を調節するということを立証するものである。
【0061】
実験例3:YIGSRペプチドによるMMP−1発現の変化分析
MMP−1は、コラーゲンを分解するタンパク質分解酵素としてよく知られている。これにより、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現増加が、MMP−1の発現減少によるものであるか否かを確認するために、YIGSRペプチド処理時間によるMMP−1発現レベルをウエスタンブロット分析により確認した。前記実施例2のHs27細胞を培養しながら、血清が含まれていない培地で24時間さらに培養した後、実施例1のYIGSRペプチドを10
3nMの濃度で処理し、0時間、0.1時間、0.25時間、0.5時間、1時間、3時間、6時間、12時間、及び24時間培養した。その後、前記細胞について実験例1の記載と同じ条件でウエスタンブロットを行い、この際、1次抗体としてMMP−1(R&D systems社、米国)を利用した。また、ウエスタンブロット分析イメージについて、イメージJプログラム(Ver1.38,http://rsbweb.nih.gov/ij/index.html)を用いて定量的に発現量を比較した。
【0062】
その結果、
図3に示されるように、YIGSRペプチドの処理時間によってMMP−1タンパク質の発現レベルに有意な差は観察されなかった(
図3参照)。
【0063】
これは、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの処理による細胞内コラーゲン発現の増加が、MMP−1発現減少によるものではなく、I型コラーゲン遺伝子発現を増加させるシグナル伝逹プロセスが活性化されることによって誘導されたものであるということを立証するものである。
【0064】
実験例4:YIGSRペプチドによるFAK、Pyk2、及びERKのリン酸化レベルの変化分析
I型コラーゲン発現を調節するシグナル伝達プロセスを解明するために、本発明者は、ラミニン受容体の下位シグナル伝達機構に焦点を合わせた。YIGSRペプチドは、ラミニン受容体と結合して細胞内シグナルを伝達することが知られており、例えば、このような細胞内シグナル伝逹としては、FAK及びPyk2のリン酸化が知られている。FAKは、チロシン(tyrosine)リン酸化酵素であって、細胞の付着(adhesion)及び延展(spreading)プロセスに関与することが知られている(J.T.Parsons et al.,Oncogene,19:5606−5613,2000)。FAKは、細胞間の局所付着(focal adhesion)に関与し、細胞移動及び生存に重要な役割を担うことが知られている(J.L.Guan et al.,Nature,358:690−692,1992)。Pyk2は、Gタンパク質共役受容体(G−protein−coupled receptor)及びMAPリン酸化酵素シグナル伝達機構プロセスを通じて細胞延展及び移動(migration)に重要な役割を担うことが知られている(H.Tang et al.,J.Biol.Chem.,277:5441−5447,2002)。これにより、本発明者は、YIGSRペプチド処理時間によるFAK、pyK2、及びERKのリン酸化レベルをウエスタンブロット分析により観察した。ウエスタンブロット分析は、前記実験例1の条件と同様に行い、1次抗体としてFAK(Cell signaling社、米国)、phospho−FAK(Tyr397、Cell signaling社、米国)、pyk2(Cell signaling社、米国)、phospho−pyk2(Tyr402、Cell signaling社、米国)、ERK(Santa Cruz Biotechnology社、米国)、及びphospho−ERK(Thr202/Tyr204、Abcam社、米国)を利用した。
【0065】
その結果、
図4Aに示されるように、FAKのリン酸化(Tyr397)がYIGSRペプチド処理時間によって顕著に増加する傾向を示し、FAKのリン酸化レベルは、0.1時間(6分)で増加し始めて、24時間までリン酸化が持続した。また、このようなタンパク質発現レベルを濃度分析により定量的に比較した場合、YIGSRペプチド処理によって未処理の場合と比べて、約2倍程度増加し、このようなリン酸化レベルは、処理24時間まで保持された(
図4B参照)。
【0066】
また、Pyk2リン酸化(Tyr402)は、FAKのリン酸化よりも遅い時点であるYIGSRペプチド処理6時間後から増加が観察され、濃度分析を比較した結果、12時間処理した場合には、未処理の場合と比べて、約1.5倍程度リン酸化が増加した(
図4A及び
図4B参照)。
【0067】
また、MAPK/ERKの場合、リン酸化レベルがYIGSRペプチドの処理後直ちに急激に、未処理の場合に比べて約2.5倍増加し、このようなリン酸化増加が24時間まで増加した(
図4A及び
図4B参照)。
【0068】
前記結果は、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドが、Hs27ヒト皮膚線維芽細胞でFAK、Pyk2、及びERKを含む下位シグナル伝達機構によりラミニン受容体のリン酸化を誘導するということを立証するものである。
【0069】
実験例5:FAK及びMEK抑制剤によるYIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲン発現の変化分析
本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現が、FAK及びMAPKによって媒介されるか否かを確認するために、FAK及びMEK抑制剤を利用した。
【0070】
前記実施例3のHs27細胞を24ウェルプレートで培養しながら、前記細胞を24時間血清がない状態で培養した。その後、前記細胞を、1μMのFAK特異的抑制剤PF573228(Tocris Bioscience社、英国)で24時間処理した。この際、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドによるI型コラーゲンの発現誘導が、FAKによって媒介されるか否かを確認するために、1μM YIGSRペプチドで共に処理し、又は未処理で、I型コラーゲンの発現をウエスタンブロット分析により分析した。
【0071】
その結果、
図5Aに示されるように、FAK抑制剤であるPF573228で処理した場合に、YIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現が顕著に抑制された。このような結果は、YIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現がFAK活性によって媒介されるということを立証するものである(
図5A参照)。
【0072】
また、MAPK/ERKシグナル伝達機構が、YIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現に関連しているかを確認するために、Hs27細胞にYIGSRペプチドとMAPK/ERK特異的な抑制剤であるPD98059(Tocris Bioscience,United Kingdom)とを処理し、前記FAK抑制剤処理の実験と同じ条件で実験を行った。
【0073】
その結果、
図5Bに示されるように、MEK抑制剤であるPD98059で処理した場合に、YIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現が顕著に抑制された(
図5B参照)。すなわち、前記結果は、YIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現が、MAPK/ERKシグナル伝達機構によって媒介されるということを立証するものである(
図5B参照)。
【0074】
実験例6:Pal−YIGSRペプチドによるコラーゲン合成及びERKリン酸化分析
前記実施例1及び実施例2、及び比較例2で製造したペプチド誘導体で培養中のHs27皮膚線維芽細胞を処理した後、前記細胞でのI型コラーゲン発現量を免疫ブロッティング分析法で測定した。前記Hs27皮膚線維芽細胞は、10%FBS(Lonza社、米国)を添加したDMEM培地(Lonza社、米国)を用いて、湿度95%、5%CO
2、37℃の条件で培養した。各濃度(0μM、2μM、25μM、50μM、及び100μM)のペプチドで24時間、あるいは100μMのペプチドで各時間(0時間、0.5時間、6時間、12時間、及び24時間)、前記Hs27皮膚線維芽細胞を処理した後、処理された細胞を溶解緩衝液(150mM NaCl、1% Triton X−100、10mM Tris、1mM EDTA、pH7.4)で超音波粉砕した後、遠心分離して上澄み液を分離して、ブラッドフォード法で定量した。同量のタンパク質を5×試料緩衝液に混合して、95℃で5分間加熱した後、6〜15%濃度勾配SDS−PAGEで電気泳動した後、ニトロセルロース膜に吸着させた。抗−I型コラーゲン1次抗体(Rockland社、米国)、抗−リン酸化−ERK1次抗体(Cell Signaling社、米国)、及び抗−アクチン1次抗体(Santa Cruz社、米国)を、5%スキームミルクを含むTBST緩衝液(0.05% Tween 20含有トリス緩衝食塩水、pH7.6)に希釈して、16時間反応させた後、TBSTで10分間6回洗浄した。その後、抗−マウスラビットペルオキシダーゼ−結合2次抗体(KPL社、米国)で処理し、室温で1時間反応させた後、再びTBSTで10分間6回洗浄し、ECL溶液(Amersham社、米国)で発色させて確認した。
【0075】
その結果、皮膚線維芽細胞においてPal−YIGSRがコラーゲン生成に及ぼす影響は、濃度が増加するほど、コラーゲン合成量が増加し、露出時間が増加するほど、コラーゲン合成量が増加する態様を示した(
図6)。YIGSRも、Pal−YIGSRよりはその程度が弱いが、コラーゲン合成を増加させた。しかし、oleyl−YIGSRの場合には、コラーゲン合成の程度において、対照群と大きな差がなかった(
図7)。
【0076】
それだけではなく、皮膚線維芽細胞においてPal−YIGSRによるERKリン酸化誘導も、観察することができた(
図8)。しかし、YIGSR及びoleyl−YIGSRの場合、ERKリン酸化に及ぼす影響が微小であった。
【0077】
実験例7:パルミトイル基の影響分析
本発明者らは、Pal−YIGSRによるコラーゲン合成増加が純粋にパルミトイル基による影響であるか否かを確認するために、細胞付着能が知られているRGDペプチドを用いて実験を行った。
【0078】
具体的には、比較例1で製造したPal−RGDペプチドとパルミトイル基が付着されていないRGDペプチドとを用いて、前記実験例1と同様に実験を行った。
【0079】
その結果、RGDペプチド及びPal−RGDペプチドはいずれもコラーゲン合成の程度において、対照群と大きな差がなかった(
図10)。これは、本発明のペプチド誘導体によるコラーゲン合成増加が、単にパルミトイル基自体の機能によるものではないことを示唆するものである。
【0080】
実験例8:Pal−YIGSRペプチドによる細胞増殖の測定
前記Hs27皮膚線維芽細胞を24ウェル培養容器に40,000個ずつ播種した後、5%のCO
2、37℃下で24時間培養して、細胞を培養容器の底に付着させた。翌日、FBSを含んだ培地に交換して、再び24時間を培養した後、前記実施例1及び実施例2、そして、比較例1及び比較例2のペプチド誘導体で濃度別に処理し、再び72時間培養して、クリスタルバイオレット法(crystal violet assay)で細胞の増殖を測定した。
【0081】
具体的には、まず、それぞれのウェルの培地を除去した後、1ウェル当たり500mlの0.1%クリスタルバイオレット溶液を添加して5分間染色した後、クリスタルバイオレット溶液を除去し、3次蒸留水でウェルが清浄になるまで4回洗浄した。洗浄される蒸留水が清浄になれば、蒸留水を除去し、95%エタノールを1ml添加して20分間撹拌しながら、細胞に染色されたクリスタルバイオレットを溶解する。この溶液を96ウェル容器に200mlずつ分注し、ELISAリーダーを用いて590nmで吸光度を測定した後、試験物質で処理していない群を対照群として、相対的な細胞増殖を計算した。
【0082】
その結果、Pal−YIGSRは、0.5〜50μM濃度範囲で細胞増殖が示され、特に、100μM及び500μM濃度範囲で、それぞれ13%及び23%の細胞増殖を示した(
図9)。
【0083】
前述のように、本発明の一実施形態に係るPal−YIGSRペプチド誘導体は、培養した皮膚線維芽細胞でI型コラーゲン生成を増加させ、線維芽細胞の増殖を促進したが、これは、今後、抗老化及び傷再生製剤開発時に、本発明のペプチド誘導体が、有効物質として使用され得るということを立証するものである。
【0084】
製造例
製造例1:注射液剤
YIGSRペプチド誘導体10mgを含有する注射液剤は、次のような方法で製造した。
【0085】
YIGSRペプチド誘導体10mg、塩化ナトリウム0.6gを精製水に溶解して100mlとした。この溶液を0.2μmフィルターでフィルタリングして滅菌した。
【0086】
前記注射液剤の構成成分は、以下の通りである。
【0087】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
塩化ナトリウム 0.6
【0088】
製造例2:柔軟化粧水(スキンローション)
以下のように、YIGSRペプチドを含有する柔軟化粧水を通常の方法によって製造した。
【0089】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
ブチレングリコール 2.0
プロピレングリコール 2.0
カルボキシビニルポリマー 0.1
PEG−12ノニルフェニルエーテル 0.2
ポリソルベート80 0.4
エタノール 10.0
トリエタノールアミン 0.1
防腐剤、色素、香料 適量
【0090】
製造例3:栄養化粧水(ミルクローション)
以下のように、YIGSRペプチドを含有する栄養化粧水を通常の方法によって製造した。
【0091】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
蜜蝋 4.0
ポリソルベート60 1.5
セスキオレイン酸ソルビタン 1.5
流動パラフィン 0.5
カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド 5.0
グリセリン 3.0
ブチレングリコール 3.0
プロピレングリコール 3.0
カルボキシビニルポリマー 0.1
トリエタノールアミン 0.2
防腐剤、色素、香料 適量
【0092】
製造例4:栄養クリーム
以下のように、YIGSRペプチドを含有する栄養クリームを通常の方法によって製造した。
【0093】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
蜜蝋 10.0
ポリソルベート60 1.5
PEG−60硬化ヒマシ油 2.0
セスキオレイン酸ソルビタン 0.5
流動パラフィン 10.0
スクアラン 5.0
カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド 5.0
グリセリン 5.0
ブチレングリコール 3.0
プロピレングリコール 3.0
トリエタノールアミン 0.2
防腐剤、色素、香料 適量
【0094】
製造例5:マッサージクリーム
以下のように、YIGSRペプチドを含有するマッサージクリームを通常の方法によって製造した。
【0095】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
蜜蝋 10.0
ポリソルベート60 1.5
PEG−60硬化ヒマシ油 2.0
セスキオレイン酸ソルビタン 0.8
流動パラフィン 40.0
スクアラン 5.0
カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド 4.0
グリセリン 5.0
ブチレングリコール 3.0
プロピレングリコール 3.0
トリエタノールアミン 0.2
防腐剤、色素、香料 適量
【0096】
製造例6:パック
以下のように、YIGSRペプチドを含有するパックを通常の方法によって製造した。
【0097】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
ポリビニルアルコール 13.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.2
グリセリン 5.0
アラントイン 0.1
エタノール 6.0
PEG−12ノニルフェニルエーテル 0.3
ポリソルベート60 0.3
防腐剤、色素、香料 適量
【0098】
製造例7:皮膚充填剤
以下の表のように、YIGSRペプチドを含有する皮膚充填剤を通常の方法によって製造した。
【0099】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
ヒトコラーゲン 3.5
塩化カリウム(KCl) 0.02
第一リン酸カリウム(KH
2PO
4) 0.024
塩化ナトリウム(NaCl) 0.8
第二リン酸ナトリウム(Na
2HPO
4) 0.1145
防腐剤 適量
【0100】
前記実施例、実験例、及び製造例を参考にして本発明を説明したが、これは例示的なものに過ぎず、当業者ならば、これより多様な変形及び均等な他の実施形態が可能であるという点を理解できるであろう。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決定されるべきである。