特許第6263201号(P6263201)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6263201コラーゲン合成能を有する新規なペプチド及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263201
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】コラーゲン合成能を有する新規なペプチド及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20060101AFI20180104BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20180104BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   A61K38/08ZNA
   A61K8/64
   A61Q19/08
   A61P17/00
【請求項の数】3
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-552557(P2015-552557)
(86)(22)【出願日】2013年1月8日
(65)【公表番号】特表2016-505626(P2016-505626A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】KR2013000122
(87)【国際公開番号】WO2014109417
(87)【国際公開日】20140717
【審査請求日】2015年8月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2012年10月29日 エルゼビア(Elsevier)発行のBiochemical and Biophysical Research Communications(www.elsevier.com/locate/ybbr)を通じて発表(YOO et al., Laminin peptide YIGSR induces collagen synthesis in Hs27 human dermal fibroblasts, Biochemical and Biophysical Research Communication, 2012, Vol.428, p.416−421)
(73)【特許権者】
【識別番号】515187098
【氏名又は名称】ノバセル テクノロジー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】リ、 テホン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジェ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン、 ジョン ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】キム ボム ジョン
【審査官】 新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101906140(CN,A)
【文献】 国際公開第2012/121695(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/071132(WO,A1)
【文献】 特開2007−091637(JP,A)
【文献】 特開2007−145845(JP,A)
【文献】 特表2007−536205(JP,A)
【文献】 特開2009−184986(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0063937(US,A1)
【文献】 特開2004−049921(JP,A)
【文献】 Current Medicinal Chemistry,2012年,Vol.19,p.1602-1618
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
A61K 41/00−45/00
A61K 48/00
A61K 50/00−51/12
A61P 17/00
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチド、又は前記ペプチドのN末端にパルミトイル基が付加されたペプチド誘導体を有効成分として含む、皮膚老化軽減用組成物。
【請求項2】
配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチド、又は前記ペプチドのN末端にパルミトイル基が付加されたペプチド誘導体を有効成分として含む、しわ改善用化粧料組成物。
【請求項3】
配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチド、又は前記ペプチドのN末端にパルミトイル基が付加されたペプチド誘導体を有効成分として含む、皮膚充填剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド及びその使用に関し、さらに詳細には、コラーゲン合成能を有する新規なペプチド及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人は、年を取りながら皮膚老化が起こるが、その代表的な症状がしわ(Wrinkle)である。しわは、年を表わす1つの現象であって、しわが生じる代表的な原因は、皮膚の真皮でマトリックスを形成するコラーゲンの分解に起因する。皮膚のコラーゲンは、老化が進行することによって生成が低下する。
【0003】
コラーゲン合成を促進する従来の物質としては、レチノイド(RE36068)、TGF−β(Transforming growth factor)、ベツリン酸(JP8−208424)、野生ヤマノイモ抽出物(大韓民国公開特許第2009−0055079号)等が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のコラーゲン合成増進剤は、その効率が低いか、組換えタンパク質としてコストが高く、天然抽出物の場合、再現性が低いという短所があった。
【0005】
本発明は、前記問題点を含む多様な問題点を解決するためのものであって、比較的コストが低く、効果的にコラーゲン合成を増進させることによって、皮膚老化軽減又はしわ改善用の化粧料組成物もしくは創傷治療剤等として使用可能な新規なペプチド及びその使用を提供することを目的とする。しかし、このような課題は、例示的なものであって、これにより、本発明の範囲が限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチドを有効成分として含む、皮膚老化軽減用組成物が提供される。
【0007】
本発明の他の一態様によれば、配列番号1で表わされるアミノ酸配列(YIGSR)を含むペプチド、又は前記ペプチドのN末端にパルミトイル基(palmitoyl group)が付加されたペプチド誘導体を有効成分として含む、しわ改善用化粧料組成物が提供される。
【0008】
本発明の他の一態様によれば、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチド、又は前記ペプチドのN末端にパルミトイル基が付加されたペプチド誘導体を有効成分として含有する、創傷治療剤が提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチド、又は前記ペプチドのN末端にパルミトイル基が付加されたペプチド誘導体を有効成分として含有する、皮膚充填剤が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、薬学的に有効な量の配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチド、又は前記ペプチドのN末端にパルミトイル基が付加されたペプチド誘導体を、創傷を有する個体に投与する段階を含む、創傷治療方法が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、創傷治療に利用するための、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチド、又は前記ペプチドのN末端にパルミトイル基が付加されたペプチド誘導体が提供される。
【0012】
本発明の他の一態様によれば、しわ改善用化粧料組成物の製造おける、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチド、又は前記ペプチドのN末端にパルミトイル基が付加されたペプチド誘導体の使用が提供される。
【発明の効果】
【0013】
前記のようになされた本発明の一実施形態によれば、コラーゲン合成能を有する新規なペプチドを実現することができる。もちろん、このような効果によって、本発明の範囲が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの処理によるHs27細胞におけるコラーゲン発現変化を、ウエスタンブロット分析及びリアルタイムRT−PCR分析により確認した結果を示す、YIGSRペプチドの処理濃度(0、10−2、10−1、1、10、10、10、10、10nM)によるI型コラーゲンタンパク質発現変化を確認したグラフである。
図1B】本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの処理によるHs27細胞におけるコラーゲン発現変化を、ウエスタンブロット分析及びリアルタイムRT−PCR分析により確認した結果を示す、YIGSRペプチド(10nM)の処理時間(0、0.5、6、12、及び24時間)によるI型コラーゲンタンパク質発現変化を確認したグラフである。
図1C】本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの処理によるHs27細胞におけるコラーゲン発現変化を、ウエスタンブロット分析及びリアルタイムRT−PCR分析により確認した結果を示す、YIGSRペプチドの処理濃度(0、10、10、10、10、10nM)によるI型コラーゲンmRNA発現変化を確認したグラフである。
図2A】本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの処理による細胞生存率変化を、MTT分析により確認した結果を示す、YIGSRペプチドの処理濃度(0、10、10、10、10、10nM)変化によるHs27細胞の生存率を確認したグラフである。
図2B】本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの処理による細胞生存率変化を、MTT分析により確認した結果を示す、YIGSRペプチド(10nM)の処理時間(0、0.1、0.25、0.5、1、3、6、12、及び24時間)によるHs27細胞の生存率を示すグラフである。
図3】本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの処理によるMMP−1加水分解酵素の発現変化を、ウエスタンブロット分析により確認した写真である。
図4A】本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドによるコラーゲン発現増加に関与するシグナル伝達機構を確認するために、ラミニン受容体の下位シグナルであるFAK、Pyk2、及びERKのリン酸化レベルを、ウエスタンブロット分析を用いて確認した結果を示す、ウエスタンブロット写真である。
図4B】本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドによるコラーゲン発現増加に関与するシグナル伝達機構を確認するために、ラミニン受容体の下位シグナルであるFAK、Pyk2、及びERKのリン酸化レベルを、ウエスタンブロット分析を用いて確認した結果を示す、ウエスタンブロットイメージを濃度分析したグラフである。
図5A】FAK又はERK抑制剤処理によって本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドにより誘導されるコラーゲン生成の抑制を確認したウエスタンブロット分析写真であり、FAK抑制剤であるPF573228処理時の結果を示す。
図5B】FAK又はERK抑制剤処理によって本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドにより誘導されるコラーゲン生成の抑制を確認したウエスタンブロット分析写真であり、ERK抑制剤であるPD98059処理時の結果を示す。
図6】本発明のYIGSRペプチド誘導体(Pal−YIGSR)の濃度依存的なコラーゲン合成活性を示す、免疫ブロッティング分析結果である。
図7】本発明のYIGSRペプチド誘導体(Pal−YIGSR)及び比較例のコラーゲン合成活性を比較する、免疫ブロッティング分析結果である。
図8】本発明のYIGSRペプチド誘導体(Pal−YIGSR)及び比較例のペプチドのERKリン酸化活性を比較した免疫ブロッティング分析結果である。
図9】本発明のYIGSRペプチド誘導体(Pal−YIGSR)の濃度依存的な皮膚線維芽細胞増殖活性を示すグラフである。
図10】本発明のYIGSRペプチド誘導体(Pal−YIGSR)及び比較例によるペプチドの露出時間によるコラーゲン合成活性を比較した免疫ブロッティング分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0016】
本発明の一態様によれば、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチド、又は前記ペプチドのN末端にパルミトイル基が付加されたペプチド誘導体を有効成分として含む、皮膚老化軽減用組成物が提供される。
【0017】
本発明の一実施形態に係る配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチドは、コラーゲンの発現を転写レベルで調節し、処理量及び処理時間依存的にI型コラーゲンの生成を増加させる効果をもたらす。この際、前記配列番号1で表わされるYIGSRペプチドは、10〜10nMの低濃度でI型コラーゲンの生成を有意に増加させ、前記ペプチド誘導体であるPal−YIGSRは、50〜100μMの高濃度でも、I型コラーゲンの生成を有意に増加させる効果をもたらすことを特徴とする。また、このようなコラーゲン生成増加効果は、コラーゲンを分解するMMP−1加水分解酵素発現の抑制によるものではなく、ラミニン受容体の下位シグナル伝達機構であるFAK、Pyk2、及びERKのリン酸化によるものである。したがって、I型コラーゲン含量の減少によって促進される皮膚老化を軽減させる組成物として利用され得る。
【0018】
前記皮膚老化軽減用組成物は、化粧料組成物の形態で提供され得る。
【0019】
本発明の一実施形態に係るペプチドが、化粧料組成物に使用される場合、その剤形において、特に限定されるものではなく、例えば、柔軟化粧水、栄養化粧水、マッサージクリーム、栄養クリーム、パック、ゲル、又は皮膚粘着タイプ化粧料の剤形を有する化粧料組成物であり、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、パッチ、又は噴霧剤のような経皮投与型剤形であり得る。
【0020】
本発明の組成物は、化粧品製造に通常使用される適切な担体、賦形剤、及び希釈剤をさらに含み得る。化粧品の剤形によって適切に選択され、ワセリン、流動パラフィン、ゲル化炭化水素(別名:プラスチベース)等の炭化水素類;中鎖脂肪酸トリグリセリド、ラード、ハードペット、カカオ脂等の動植物性オイル;セタノール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、パルミチン酸イソプロピル等の高級脂肪酸アルコール及び脂肪酸、並びにこれらのエステル類;マクロゴール(ポリエチレングリコール)、1,3−ブチレングリコール、グリセロール、ゼラチン、白糖、糖アルコール等の水溶性基剤;グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の乳化剤;アクリル酸エステル、アルギン酸ナトリウム等の粘着剤;液化石油ガス、二酸化炭素等の噴射剤;パラオキシ安息香酸エステル類等の防腐剤等が挙げられる。
【0021】
本発明の他の態様によれば、前記配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチド又は前記ペプチドのN末端にパルミトイル基が付加されたペプチド誘導体を有効成分として含む、しわ改善用化粧料組成物が提供される。
【0022】
この際、配列番号1でアミノ酸配列を有するYIGSRペプチドは、10〜10nMの低濃度でI型コラーゲンの生成を有意に増加させる効果をもたらす。
【0023】
本発明の他の態様によれば、前記配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチド又は前記ペプチドのN末端にパルミトイル基が付加されたペプチド誘導体を有効成分として含有する、創傷治療用薬学的組成物が提供される。
【0024】
もともと、YIGSRペプチドは、ラミニン(Laminin)等のコラーゲン結合タンパク質によく保存された部位であって、コラーゲン結合モチーフとして知られている。前記YIGSRペプチドは、白血病細胞の成長を抑制する等(Yoshidaet al.,(1999)Br.J.Cancer,80(12):1898−1904)、抗癌剤としての可能性が報告された(Graf et al.,(1987)Cell,48:989−996)。しかし、前記YIGSRペプチドのコラーゲン合成能に対しては報告されたことがなく、本発明者らは、コラーゲン合成能を増進させるペプチドを探すために鋭意努力した結果、YIGSRペプチド及びそのパルミトイル化誘導体であるYIGSRペプチドが向上したコラーゲン合成を有することを確認することによって、本発明を完成した。
【0025】
本発明の組成物におけるYIGSRペプチドの有効量は、患者の患部の種類、適用部位、処理回数、処理時間、剤形、患者の状態、補助剤の種類等によって変わる。使用量は、特に限定されるものではないが、1日当たり0.01μg/kg〜10mg/kgであり得る。前記1日量は、1日に1回、又は適当な間隔を置いて1日に2〜3回に分けて投与してもよく、数日間隔で間欠投与してもよい。
【0026】
本発明の組成物において、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチド、又は前記ペプチドのN末端にパルミトイル基が付加されたペプチド誘導体は、組成物の総重量に対して0.1〜100重量%で含有され得る。
【0027】
本発明の組成物は、薬学的組成物の製造に通常使用される適切な担体、賦形剤、及び希釈剤をさらに含み得る。また、薬学組成物の製造には、固体又は液体の製剤用添加物を使用することができる。製剤用添加物としては、有機又は無機のうちいずれのものでもよい。
【0028】
薬剤学上、許容される担体としては、その剤形によって異なるが、ワセリン、流動パラフィン、ゲル化炭化水素(別名:プラスチベース)等の炭化水素類;中鎖脂肪酸トリグリセリド、ラード、ハードペット、カカオ脂等の動植物性オイル;セタノール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、パルミチン酸イソプロピル等の高級脂肪酸アルコール及び脂肪酸、並びにこれらのエステル類;マクロゴール(ポリエチレングリコール)、1,3−ブチレングリコール、グリセロール、ゼラチン、白糖、糖アルコール等の水溶性基剤;グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の乳化剤;アクリル酸エステル、アルギン酸ナトリウム等の粘着剤;液化石油ガス、二酸化炭素等の噴射剤;パラオキシ安息香酸エステル類等の防腐剤等が挙げられ、本発明の外用剤は、これらを使って通常の方法によって製造することができる。また、これら以外にも、安定剤、香料、着色剤、pH調整剤、希釈剤、界面活性剤、保存剤、抗酸化剤等を必要に応じて配合することもできる。本発明の外用剤は、通常の方法によって局所創傷部に塗布されて使用され得る。
【0029】
賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、白糖、ブドウ糖、トウモロコシ澱粉(corn starch)、澱粉、タルク、ソルビット、結晶セルロース、デキストリン、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、トラガント(tragacanth)、ゼラチン、シェラック(shellac)、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン(pectin)等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油等が挙げられる。着色剤としては、通常医薬品に添加することが許可されているものであれば、いずれも使用することができる。これらの錠剤、顆粒剤は、糖衣、ゼラチンコーティング、その他の必要に応じて適切にコーティングすることができる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤等を添加することができる。
【0030】
本発明の薬学的組成物は、当業者に通常製造されるいずれの剤形でも製造され(例:文献Remington’s Pharmaceutical Science、最新版;Mack Publishing Company,Easton PA)、製剤の形態は、特に限定されるものではないが、望ましくは、外用剤であり得る。本発明の外用剤には、シート剤、液状塗布剤、噴霧剤、ローション剤、クリーム剤、パップ剤、粉剤、浸透パッド剤、噴霧剤、水和ゲルを含んだゲル剤、ペースト剤、リニメント剤、軟膏剤、エアロゾル、粉末剤、懸濁液剤、経皮吸収剤等の通常の外用剤の形態が含まれ得る。これら剤形は、あらゆる製薬化学に一般的に公知の処方書である文献Remington’s Pharmaceutical Science,15th Edition,1975,Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvania 18042(Chapter 87:Blaug,Seymour)に記述されている。
【0031】
本発明の一例として、前記組成物を皮膚又は創傷部位に直接適用可能である。すなわち、創傷部位に散布され得る。シートの形態である場合は、創傷部位に塗布するが、この際、塗布した部位に適切に包帯をして創傷を保護しながら、活性成分の治療効果の減少を防止する。包帯は、販売されているか、通常知られているいずれのものも使用可能である。市販の包帯の例としては、コムピール(Compeel)、デュオダーム(Duoderm)、テガダーム(Tagaderm)、及びオブサイト(Opsite)が挙げられる。また、これら以外にも、安定剤、香料、着色剤、pH調整剤、希釈剤、界面活性剤、保存剤、抗酸化剤等を必要に応じて配合することもできる。
【0032】
また、本発明による薬学的組成物は、通常の絆創膏の創傷剥離カバーのような固体支持体上に粘着されて使用される。本発明の様態として、固体支持体を先に粘着層で被覆して、固体支持体におけるペプチド誘導体の付着を向上させる。粘着剤の例としては、ポリアクリル酸及びシアノアクリル酸が含まれ得る。
【0033】
このような形態の剤形は、市販されているものが多く、例としては、穿孔されたプラスチックフィルム形態の非付着性創傷剥離カバーを有する絆創膏(Smith&Nephew Ltd.)、Johnson&Johnsonの薄いストリップ(strip)、パッチ(patch)、スポット(spot)、可塑性ストリップ形態のバンドエイド(BAND−AID);Colgate−Palmolive Co.(Kendall)のキュリティキュラド(Curity CURAD)、アウチレス(Ouchless)絆創膏;及びAmerican WhiteCross Laboratories,Inc.のスティックタイト(STIK−TITE)弾性ストリップ等が挙げられる。
【0034】
本発明の一例として、本発明に係る組成物は、前記ペプチド誘導体と生理食塩水とを一定の体積比で混合し、液状塗布剤の形態で剤形化され得る。本発明の一例として、本発明による薬学組成物は、前記本発明のペプチド誘導体と水溶性軟膏基剤とを混合し、これに生理食塩水を添加して軟膏剤の形態で剤形化され得る。
【0035】
しかし、本発明の薬剤学的組成物の前記使用量は、投与経路、患者の年齢、性別、体重、患者の重症度、創傷の種類、適用部位、処理回数、処理時間、剤形、患者の状態、補助剤の種類等の多様な関連因子に照らして決定されるものであるため、前記有効量は、如何なる側面でも、本発明の範囲を制限するものと理解されてはならない。
【0036】
本発明のさらに他の態様によれば、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチドを有効成分として含む皮膚充填剤が提供される。
【0037】
「皮膚充填剤(dermal filler)」又は「フィラー(filler)」は、皮膚組織と類似した成分であって、特定部位に挿入されて軟部組織を拡張させることによって、しわ改善や輪郭矯正等に使用される物質を意味する。軟組織拡張には、注射可能な物質としてコラーゲンがよく使用される。また、タンパク質、脂肪、ヒアルロン酸(HA)、ポリアルコール、及びカルボキシメチルセルロース、デキストランのようなその他のポリマーを含む、多様な他の物質が注射用皮膚充填物として使用されてきた。コラーゲンを主成分とする皮膚充填剤としては、豚コラーゲンを主成分とするEVOLENCE30(ColBar LifeScience社の皮膚充填剤の商標名)、牛コラーゲンを主成分とするZydermやZyplast(以上、Inamed社の皮膚充填剤の商標名)、ヒトコラーゲンを主成分とするCosmoDermやCosmoPlast(以上、Inamed社の皮膚充填剤の商標名)等が知られている。ヒアルロン酸を主成分とするものとしては、Rofilan(Rofil/Philoderm社の皮膚充填剤の商標名)、Perlane、Restylane(以上、Medicis/Q−Med AB社の皮膚充填剤の商標名)、Teosyal(Teoxane SA社の皮膚充填剤の商標名)、Surgiderm(Corneal Laboratoire社の皮膚充填剤の商標名)等がある。本発明の一実施形態に係る皮膚充填剤は、公知の皮膚充填剤に本発明の一実施形態に係るペプチドを適量積載するか、前記ペプチドを皮膚充填剤の骨格となる高分子に共有結合又は非共有結合によって結合させることで製造可能である。
【0038】
本発明の他の一態様によれば、薬学的に有効な量の配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチドを、創傷を有する個体に投与する段階を含む創傷治療方法が提供される。
【0039】
前記創傷に係る個体は、ヒトを除いた哺乳動物であり得る。
【0040】
本発明の他の一態様によれば、創傷治療に利用するための、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチドが提供される。
【0041】
本発明の他の一態様によれば、しわ改善用化粧料組成物の製造における、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するYIGSRペプチドの使用が提供される。
【実施例】
【0042】
以下、実施例、実験例、及び製造例により本発明を詳しく説明する。しかし、本発明は、以下で開示される実施例、実験例、及び製造例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態として実現されるものであって、以下の実施例、実験例、及び製造例は、本発明の開示を完全にし、当業者に発明の範囲を十分に理解させるために提供されるものである。
【0043】
実施例1:YIGSRの製造
YIGSRペプチド(配列番号1)をペプチド製造会社(Anygen社、韓国)に依頼して製造した。
【0044】
実施例2:palmitoyl−YIGSRの製造
前記実施例1のYIGSRペプチド(配列番号1)のN末端にパルミトイル基が付着されたペプチド誘導体(Pal−YIGSR、分子量:846)を、palmitoyl−tyrosineを用いて、実施例1の方法と同じ方法で製造した(Anygen社、韓国)。
【0045】
比較例1:Pal−RGDの製造
パルミトイル基がN末端に付着されたRGDペプチドを、palmitoyl−arginineを用いて、前記実施例1と同じ方法で製造した。RGDは、インテグリン結合活性を有したペプチドであって、細胞付着剤等として使用されている物質である。
【0046】
比較例2:oleyl−YIGSRの製造
パルミトイル基の代わりにオレイル基がN末端に付加されたYIGSRペプチドを、oleyl−tyrosineを用いて、前記実施例1と同じ方法で製造した。
【0047】
実施例3:Hs27細胞の培養
ヒト皮膚線維芽細胞であるHs27細胞(ATCC)を、10%FBS(Lonza、米国)を添加したDMEM培地(Lonza社、米国)を用いて、湿度95%、5%CO、37℃の条件で培養した。前記Hs27細胞は、5〜20世代継代培養された細胞を利用し、ペプチドを処理する前にFBSが含まれていないDMEM培地で24時間培養した後、処理した。
【0048】
実験例1:YIGSRペプチドによるI型コラーゲン発現の変化分析
1−1:ウエスタンブロットを利用したYIGSRペプチドによるI型コラーゲン発現の変化分析
本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの皮膚線維芽細胞に対する影響を確認するために、まず、前記実施例1のペプチドで濃度別にHs27細胞を処理した後、I型コラーゲン(collagen)タンパク質の発現レベルをウエスタンブロット分析により確認した。
【0049】
各濃度(0、10−2、10−1、1、10、10、10、10、及び10nM)のペプチドで24時間、前記実施例3のHs27皮膚線維芽細胞を処理した。その後、処理された細胞を溶解緩衝液[150mM NaCl、1% Triton X−100、10mM Tris、1mM EDTA、pH7.4]で超音波粉砕した後、遠心分離して上澄み液を分離して、ブラッドフォード法(Bradford assay)で定量した。同量のタンパク質を5×試料緩衝液と混合して、95℃で5分間加熱した後、6〜15%濃度勾配SDS−PAGE(SDS−Polyacrylamide gel electrophoresis)で電気泳動した後、ニトロセルロース(nitrocellulose)膜に吸着させた。抗−I型コラーゲン1次抗体(Rockland社、米国)及び抗−アクチン1次抗体(Santa Cruz社、米国)を、5%スキムミルク(skimmed milk)を含むTBST緩衝液(0.05% Tween 20含有トリス緩衝食塩水、pH7.6)に希釈して16時間反応させた後、TBSTで10分間6回洗浄した。その後、抗−マウスラビットペルオキシダーゼ−結合2次抗体(KPL社、米国)で処理し、室温で1時間反応させた後、再びTBSTで10分間6回洗浄し、ECL(enhanced chemiluminescent)溶液(Amersham社、米国)で発色させて確認した。また、ウエスタンブロット分析イメージを濃度分析(densitometric anaylsis)で定量的に比較し、イメージJプログラム(Ver1.38,http://rsbweb.nih.gov/ij/index.html)を利用した。
【0050】
その結果、図1に示されるように、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドにより、処理量依存的にI型コラーゲンタンパク質の発現が顕著に増加し、10nM YIGSRペプチド濃度でコラーゲン生成が最大となった。また、未処理のHs27細胞のI型コラーゲンの発現レベルと比較すると、I型コラーゲンが10nM YIGSRペプチドで処理した場合に6倍以上増加した。
【0051】
引き続き、本発明者は、YIGSRペプチド処理時間によるコラーゲン生成レベルをウエスタンブロット分析により確認した。1μM YIGSRペプチドで0、0.5、6、12、及び24時間、前記実施例1のHs27皮膚線維芽細胞を処理した後、処理された細胞について前記同様にウエスタンブロット分析を行った。また、ウエスタンブロット分析イメージについて、イメージJプログラム(Ver1.38,http://rsbweb.nih.gov/ij/index.html)を用いて定量的に発現量を比較した。
【0052】
その結果、図1Bに示されるように、YIGSRペプチドによる処理時間が長くなるほど、Hs27細胞でI型コラーゲンの発現が増加し、24時間処理した場合、YIGSRペプチドで未処理のHs27細胞に比べて、I型コラーゲンの発現レベルが約5倍程度増加した。
【0053】
1−2:定量的RT−PCRを利用したYIGSRペプチドによるI型コラーゲン発現の変化分析
引き続き、本発明者は、YIGSRペプチドのI型コラーゲン生成に及ぼす影響をmRNAレベルで確認した。各濃度(0、10、10、10、10、及び10nM)のペプチドで24時間、前記実施例3のHs27皮膚線維芽細胞を処理した後、処理された細胞をTRIzol試薬(Invitrogen Corp社、米国)を用いてトータルRNAを抽出し、前記抽出されたRNA 1μgをoligo(dT)プライマー及び白血病ウイルス逆転写酵素を用いて逆転写(reverse transcription)PCRを行った。その後、前記PCR増幅産物8μl、2×SYBR GreemIプリミックスExTaq(TAKARA社、日本)10μl、1μMの順方向及び逆方向プライマー混合物2μlを混合し、real−time qPCRをBio−Rad CFX96 Real−time PCR detection systemを用いて行った。この際、real−time qPCR条件は、95℃で1分間加熱した後、95℃で15秒(変性)、60℃で15秒(アニーリング)、72℃で30秒(増幅)を40サイクル繰り返して増幅させた。そして、Bio−Rad CFX96 Real−time PCR detection systemから提供された変性曲線(melting curve)を分析した。I型コラーゲンmRNAを確認するために使用したプライマーは、以下の通りである。
【0054】
順方向プライマー:5′−GAACGCGTGTCATCCCTTGT−3′(配列番号2);及び
逆方向プライマー:5′−GAACGAGGTAGTCTTTCAGCAACA−3′(配列番号3)。
【0055】
その結果、図1Cに示されるように、I型コラーゲンタンパク質の発現レベルと類似した傾向を示し、10nM YIGSRペプチドで処理した場合、I型コラーゲンのmRNAレベルが最も高かった(図1C参照)。前記結果は、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドが転写レベル(transcriptional level)でI型コラーゲンを調節するということを立証するものである。
【0056】
実験例2:YIGSRペプチドによる細胞生存率の変化分析
本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの細胞生存に及ぼす影響を確認するために、ペプチド処理濃度及び処理時間による細胞生存率をMTT分析により確認した。
【0057】
前記実施例3のHs27細胞を96ウェルプレートに1ウェル当たり1×10細胞の比率で播種した後、24時間培養し、その後、血清が含まれていない培地で24時間さらに培養した。そして、実施例1のYIGSRペプチドを0、10、10、10、10、及び10nMの濃度で処理し、24時間培養した。その後、培地を除去し、PBSに溶解した0.5mg/ml MTT(Sigma−Aldrichi社、米国)を添加し、37℃で3時間、CO細胞培養器で反応させた。その後、前記MTT溶液を除去し、100μl DMSO溶液をそれぞれのウェルに添加し、前記プレートを10分間ボルテックス(vortexing)し、540nmで溶液の吸光度を測定した。
【0058】
その結果、図2Aに示されるように、実施例1のYIGSRペプチドで未処理の対照群と比較した場合、YIGSRペプチドを処理した細胞の生存率は有意な差を示さず、YIGSRペプチド処理量依存的な細胞生存率の差も観察されなかった。
【0059】
引き続き、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの処理時間による細胞生存率を分析した。前記実施例2のHs27細胞を96ウェルプレートに1ウェル当たり1×10細胞の比率で播種した後、24時間培養し、その後、血清が含まれていない培地で24時間さらに培養した。そして、実施例1のYIGSRペプチドを10nMの濃度で処理し、0時間、0.1時間、0.25時間、0.5時間、1時間、3時間、6時間、12時間、及び24時間培養し、細胞生存率を分析した。
【0060】
その結果、図2Bに示されるように、実施例1のYIGSRペプチドを1μMで処理し、Hs27細胞の生存率を24時間観察した場合も、未処理の場合と有意な差を示さなかった(図2B参照)。このような結果は、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドが細胞生存に影響を及ぼさずに、転写レベルでI型コラーゲンの発現を調節するということを立証するものである。
【0061】
実験例3:YIGSRペプチドによるMMP−1発現の変化分析
MMP−1は、コラーゲンを分解するタンパク質分解酵素としてよく知られている。これにより、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現増加が、MMP−1の発現減少によるものであるか否かを確認するために、YIGSRペプチド処理時間によるMMP−1発現レベルをウエスタンブロット分析により確認した。前記実施例2のHs27細胞を培養しながら、血清が含まれていない培地で24時間さらに培養した後、実施例1のYIGSRペプチドを10nMの濃度で処理し、0時間、0.1時間、0.25時間、0.5時間、1時間、3時間、6時間、12時間、及び24時間培養した。その後、前記細胞について実験例1の記載と同じ条件でウエスタンブロットを行い、この際、1次抗体としてMMP−1(R&D systems社、米国)を利用した。また、ウエスタンブロット分析イメージについて、イメージJプログラム(Ver1.38,http://rsbweb.nih.gov/ij/index.html)を用いて定量的に発現量を比較した。
【0062】
その結果、図3に示されるように、YIGSRペプチドの処理時間によってMMP−1タンパク質の発現レベルに有意な差は観察されなかった(図3参照)。
【0063】
これは、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドの処理による細胞内コラーゲン発現の増加が、MMP−1発現減少によるものではなく、I型コラーゲン遺伝子発現を増加させるシグナル伝逹プロセスが活性化されることによって誘導されたものであるということを立証するものである。
【0064】
実験例4:YIGSRペプチドによるFAK、Pyk2、及びERKのリン酸化レベルの変化分析
I型コラーゲン発現を調節するシグナル伝達プロセスを解明するために、本発明者は、ラミニン受容体の下位シグナル伝達機構に焦点を合わせた。YIGSRペプチドは、ラミニン受容体と結合して細胞内シグナルを伝達することが知られており、例えば、このような細胞内シグナル伝逹としては、FAK及びPyk2のリン酸化が知られている。FAKは、チロシン(tyrosine)リン酸化酵素であって、細胞の付着(adhesion)及び延展(spreading)プロセスに関与することが知られている(J.T.Parsons et al.,Oncogene,19:5606−5613,2000)。FAKは、細胞間の局所付着(focal adhesion)に関与し、細胞移動及び生存に重要な役割を担うことが知られている(J.L.Guan et al.,Nature,358:690−692,1992)。Pyk2は、Gタンパク質共役受容体(G−protein−coupled receptor)及びMAPリン酸化酵素シグナル伝達機構プロセスを通じて細胞延展及び移動(migration)に重要な役割を担うことが知られている(H.Tang et al.,J.Biol.Chem.,277:5441−5447,2002)。これにより、本発明者は、YIGSRペプチド処理時間によるFAK、pyK2、及びERKのリン酸化レベルをウエスタンブロット分析により観察した。ウエスタンブロット分析は、前記実験例1の条件と同様に行い、1次抗体としてFAK(Cell signaling社、米国)、phospho−FAK(Tyr397、Cell signaling社、米国)、pyk2(Cell signaling社、米国)、phospho−pyk2(Tyr402、Cell signaling社、米国)、ERK(Santa Cruz Biotechnology社、米国)、及びphospho−ERK(Thr202/Tyr204、Abcam社、米国)を利用した。
【0065】
その結果、図4Aに示されるように、FAKのリン酸化(Tyr397)がYIGSRペプチド処理時間によって顕著に増加する傾向を示し、FAKのリン酸化レベルは、0.1時間(6分)で増加し始めて、24時間までリン酸化が持続した。また、このようなタンパク質発現レベルを濃度分析により定量的に比較した場合、YIGSRペプチド処理によって未処理の場合と比べて、約2倍程度増加し、このようなリン酸化レベルは、処理24時間まで保持された(図4B参照)。
【0066】
また、Pyk2リン酸化(Tyr402)は、FAKのリン酸化よりも遅い時点であるYIGSRペプチド処理6時間後から増加が観察され、濃度分析を比較した結果、12時間処理した場合には、未処理の場合と比べて、約1.5倍程度リン酸化が増加した(図4A及び図4B参照)。
【0067】
また、MAPK/ERKの場合、リン酸化レベルがYIGSRペプチドの処理後直ちに急激に、未処理の場合に比べて約2.5倍増加し、このようなリン酸化増加が24時間まで増加した(図4A及び図4B参照)。
【0068】
前記結果は、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドが、Hs27ヒト皮膚線維芽細胞でFAK、Pyk2、及びERKを含む下位シグナル伝達機構によりラミニン受容体のリン酸化を誘導するということを立証するものである。
【0069】
実験例5:FAK及びMEK抑制剤によるYIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲン発現の変化分析
本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現が、FAK及びMAPKによって媒介されるか否かを確認するために、FAK及びMEK抑制剤を利用した。
【0070】
前記実施例3のHs27細胞を24ウェルプレートで培養しながら、前記細胞を24時間血清がない状態で培養した。その後、前記細胞を、1μMのFAK特異的抑制剤PF573228(Tocris Bioscience社、英国)で24時間処理した。この際、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドによるI型コラーゲンの発現誘導が、FAKによって媒介されるか否かを確認するために、1μM YIGSRペプチドで共に処理し、又は未処理で、I型コラーゲンの発現をウエスタンブロット分析により分析した。
【0071】
その結果、図5Aに示されるように、FAK抑制剤であるPF573228で処理した場合に、YIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現が顕著に抑制された。このような結果は、YIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現がFAK活性によって媒介されるということを立証するものである(図5A参照)。
【0072】
また、MAPK/ERKシグナル伝達機構が、YIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現に関連しているかを確認するために、Hs27細胞にYIGSRペプチドとMAPK/ERK特異的な抑制剤であるPD98059(Tocris Bioscience,United Kingdom)とを処理し、前記FAK抑制剤処理の実験と同じ条件で実験を行った。
【0073】
その結果、図5Bに示されるように、MEK抑制剤であるPD98059で処理した場合に、YIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現が顕著に抑制された(図5B参照)。すなわち、前記結果は、YIGSRペプチドによって誘導されるI型コラーゲンの発現が、MAPK/ERKシグナル伝達機構によって媒介されるということを立証するものである(図5B参照)。
【0074】
実験例6:Pal−YIGSRペプチドによるコラーゲン合成及びERKリン酸化分析
前記実施例1及び実施例2、及び比較例2で製造したペプチド誘導体で培養中のHs27皮膚線維芽細胞を処理した後、前記細胞でのI型コラーゲン発現量を免疫ブロッティング分析法で測定した。前記Hs27皮膚線維芽細胞は、10%FBS(Lonza社、米国)を添加したDMEM培地(Lonza社、米国)を用いて、湿度95%、5%CO、37℃の条件で培養した。各濃度(0μM、2μM、25μM、50μM、及び100μM)のペプチドで24時間、あるいは100μMのペプチドで各時間(0時間、0.5時間、6時間、12時間、及び24時間)、前記Hs27皮膚線維芽細胞を処理した後、処理された細胞を溶解緩衝液(150mM NaCl、1% Triton X−100、10mM Tris、1mM EDTA、pH7.4)で超音波粉砕した後、遠心分離して上澄み液を分離して、ブラッドフォード法で定量した。同量のタンパク質を5×試料緩衝液に混合して、95℃で5分間加熱した後、6〜15%濃度勾配SDS−PAGEで電気泳動した後、ニトロセルロース膜に吸着させた。抗−I型コラーゲン1次抗体(Rockland社、米国)、抗−リン酸化−ERK1次抗体(Cell Signaling社、米国)、及び抗−アクチン1次抗体(Santa Cruz社、米国)を、5%スキームミルクを含むTBST緩衝液(0.05% Tween 20含有トリス緩衝食塩水、pH7.6)に希釈して、16時間反応させた後、TBSTで10分間6回洗浄した。その後、抗−マウスラビットペルオキシダーゼ−結合2次抗体(KPL社、米国)で処理し、室温で1時間反応させた後、再びTBSTで10分間6回洗浄し、ECL溶液(Amersham社、米国)で発色させて確認した。
【0075】
その結果、皮膚線維芽細胞においてPal−YIGSRがコラーゲン生成に及ぼす影響は、濃度が増加するほど、コラーゲン合成量が増加し、露出時間が増加するほど、コラーゲン合成量が増加する態様を示した(図6)。YIGSRも、Pal−YIGSRよりはその程度が弱いが、コラーゲン合成を増加させた。しかし、oleyl−YIGSRの場合には、コラーゲン合成の程度において、対照群と大きな差がなかった(図7)。
【0076】
それだけではなく、皮膚線維芽細胞においてPal−YIGSRによるERKリン酸化誘導も、観察することができた(図8)。しかし、YIGSR及びoleyl−YIGSRの場合、ERKリン酸化に及ぼす影響が微小であった。
【0077】
実験例7:パルミトイル基の影響分析
本発明者らは、Pal−YIGSRによるコラーゲン合成増加が純粋にパルミトイル基による影響であるか否かを確認するために、細胞付着能が知られているRGDペプチドを用いて実験を行った。
【0078】
具体的には、比較例1で製造したPal−RGDペプチドとパルミトイル基が付着されていないRGDペプチドとを用いて、前記実験例1と同様に実験を行った。
【0079】
その結果、RGDペプチド及びPal−RGDペプチドはいずれもコラーゲン合成の程度において、対照群と大きな差がなかった(図10)。これは、本発明のペプチド誘導体によるコラーゲン合成増加が、単にパルミトイル基自体の機能によるものではないことを示唆するものである。
【0080】
実験例8:Pal−YIGSRペプチドによる細胞増殖の測定
前記Hs27皮膚線維芽細胞を24ウェル培養容器に40,000個ずつ播種した後、5%のCO、37℃下で24時間培養して、細胞を培養容器の底に付着させた。翌日、FBSを含んだ培地に交換して、再び24時間を培養した後、前記実施例1及び実施例2、そして、比較例1及び比較例2のペプチド誘導体で濃度別に処理し、再び72時間培養して、クリスタルバイオレット法(crystal violet assay)で細胞の増殖を測定した。
【0081】
具体的には、まず、それぞれのウェルの培地を除去した後、1ウェル当たり500mlの0.1%クリスタルバイオレット溶液を添加して5分間染色した後、クリスタルバイオレット溶液を除去し、3次蒸留水でウェルが清浄になるまで4回洗浄した。洗浄される蒸留水が清浄になれば、蒸留水を除去し、95%エタノールを1ml添加して20分間撹拌しながら、細胞に染色されたクリスタルバイオレットを溶解する。この溶液を96ウェル容器に200mlずつ分注し、ELISAリーダーを用いて590nmで吸光度を測定した後、試験物質で処理していない群を対照群として、相対的な細胞増殖を計算した。
【0082】
その結果、Pal−YIGSRは、0.5〜50μM濃度範囲で細胞増殖が示され、特に、100μM及び500μM濃度範囲で、それぞれ13%及び23%の細胞増殖を示した(図9)。
【0083】
前述のように、本発明の一実施形態に係るPal−YIGSRペプチド誘導体は、培養した皮膚線維芽細胞でI型コラーゲン生成を増加させ、線維芽細胞の増殖を促進したが、これは、今後、抗老化及び傷再生製剤開発時に、本発明のペプチド誘導体が、有効物質として使用され得るということを立証するものである。
【0084】
製造例
製造例1:注射液剤
YIGSRペプチド誘導体10mgを含有する注射液剤は、次のような方法で製造した。
【0085】
YIGSRペプチド誘導体10mg、塩化ナトリウム0.6gを精製水に溶解して100mlとした。この溶液を0.2μmフィルターでフィルタリングして滅菌した。
【0086】
前記注射液剤の構成成分は、以下の通りである。
【0087】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
塩化ナトリウム 0.6
【0088】
製造例2:柔軟化粧水(スキンローション)
以下のように、YIGSRペプチドを含有する柔軟化粧水を通常の方法によって製造した。
【0089】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
ブチレングリコール 2.0
プロピレングリコール 2.0
カルボキシビニルポリマー 0.1
PEG−12ノニルフェニルエーテル 0.2
ポリソルベート80 0.4
エタノール 10.0
トリエタノールアミン 0.1
防腐剤、色素、香料 適量
【0090】
製造例3:栄養化粧水(ミルクローション)
以下のように、YIGSRペプチドを含有する栄養化粧水を通常の方法によって製造した。
【0091】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
蜜蝋 4.0
ポリソルベート60 1.5
セスキオレイン酸ソルビタン 1.5
流動パラフィン 0.5
カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド 5.0
グリセリン 3.0
ブチレングリコール 3.0
プロピレングリコール 3.0
カルボキシビニルポリマー 0.1
トリエタノールアミン 0.2
防腐剤、色素、香料 適量
【0092】
製造例4:栄養クリーム
以下のように、YIGSRペプチドを含有する栄養クリームを通常の方法によって製造した。
【0093】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
蜜蝋 10.0
ポリソルベート60 1.5
PEG−60硬化ヒマシ油 2.0
セスキオレイン酸ソルビタン 0.5
流動パラフィン 10.0
スクアラン 5.0
カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド 5.0
グリセリン 5.0
ブチレングリコール 3.0
プロピレングリコール 3.0
トリエタノールアミン 0.2
防腐剤、色素、香料 適量
【0094】
製造例5:マッサージクリーム
以下のように、YIGSRペプチドを含有するマッサージクリームを通常の方法によって製造した。
【0095】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
蜜蝋 10.0
ポリソルベート60 1.5
PEG−60硬化ヒマシ油 2.0
セスキオレイン酸ソルビタン 0.8
流動パラフィン 40.0
スクアラン 5.0
カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド 4.0
グリセリン 5.0
ブチレングリコール 3.0
プロピレングリコール 3.0
トリエタノールアミン 0.2
防腐剤、色素、香料 適量
【0096】
製造例6:パック
以下のように、YIGSRペプチドを含有するパックを通常の方法によって製造した。
【0097】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
ポリビニルアルコール 13.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.2
グリセリン 5.0
アラントイン 0.1
エタノール 6.0
PEG−12ノニルフェニルエーテル 0.3
ポリソルベート60 0.3
防腐剤、色素、香料 適量
【0098】
製造例7:皮膚充填剤
以下の表のように、YIGSRペプチドを含有する皮膚充填剤を通常の方法によって製造した。
【0099】
成分 含量(重量%)
精製水 100になるまで
YIGSRペプチド 0.01
ヒトコラーゲン 3.5
塩化カリウム(KCl) 0.02
第一リン酸カリウム(KHPO) 0.024
塩化ナトリウム(NaCl) 0.8
第二リン酸ナトリウム(NaHPO) 0.1145
防腐剤 適量
【0100】
前記実施例、実験例、及び製造例を参考にして本発明を説明したが、これは例示的なものに過ぎず、当業者ならば、これより多様な変形及び均等な他の実施形態が可能であるという点を理解できるであろう。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決定されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドは、転写レベルでI型コラーゲンの生成を増加させ、細胞の生存率に影響を及ぼさず、I型コラーゲンタンパク質を分解させるMMP−1タンパク質加水分解酵素の発現を減少させないことを確認することによって、コラーゲン生成を誘導することができるということを立証した。したがって、本発明の一実施形態に係るYIGSRペプチドは、コラーゲン減少によって誘発される皮膚老化及びしわ改善用の化粧料組成物、並びに創傷治療用薬学的組成物として有用に使用される。
【配列表フリーテキスト】
【0102】
配列番号1は、本発明の一実施形態に係るコラーゲン合成能がある配列を意味する。
【0103】
配列番号2は、I型コラーゲンmRNA増幅のための順方向プライマーを意味する。
【0104】
配列番号3は、I型コラーゲンmRNA増幅のための逆方向プライマーを意味する。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]