(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263222
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】鋳造用消失模型の製造に用いる二液アクリル系接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 4/02 20060101AFI20180104BHJP
B22C 7/02 20060101ALI20180104BHJP
B22C 9/04 20060101ALI20180104BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
C09J4/02
B22C7/02 101
B22C9/04 L
C09J11/06
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-85423(P2016-85423)
(22)【出願日】2016年4月21日
(65)【公開番号】特開2017-193660(P2017-193660A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2016年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000168632
【氏名又は名称】高圧ガス工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000155366
【氏名又は名称】株式会社木村鋳造所
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】野杁 達也
(72)【発明者】
【氏名】山口 朗功
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】森山 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸司
【審査官】
松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−124414(JP,A)
【文献】
特開2006−122915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
B22C 7/02
B22C 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能(メタ)アクリレートと有機過酸化物を含むA液と、多官能(メタ)アクリレートと還元剤を含むB液とから構成される、鋳造用消失模型の製造に用いる二液アクリル系接着剤であって、
前記多官能(メタ)アクリレートの10重量%以上が、アルキレンオキサイド平均付加モル数が2〜12である、水素化ビスフェノールAまたは水素化ビスフェノールFのアルキレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートである、該二液アクリル系接着剤。
【請求項2】
前記多官能(メタ)アクリレートが、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート、およびテトラ(メタ)アクリレートから選択される、請求項1記載の二液アクリル系接着剤。
【請求項3】
前記多官能(メタ)アクリレートの残部が、アルキレンオキサイド変性物である、請求項1または2に記載の二液アクリル系接着剤。
【請求項4】
前記多官能(メタ)アクリレートの10重量%〜50重量%が、水素化ビスフェノールAまたは水素化ビスフェノールFのアルキレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の二液アクリル系接着剤。
【請求項5】
硬化物を、800℃、窒素雰囲気で燃焼させた時の燃焼残渣の重量が、燃焼前の硬化物の重量の6%以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二液アクリル系接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用消失模型の製造に用いる二液アクリル系接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物の鋳造方法として、従来の木型法に加えて近年、消失模型鋳造法(フルモールド鋳造法とも呼ばれる)が普及してきた。消失模型鋳造法は、合成樹脂発泡体を基材とする消失模型を作製し、鋳物砂中に埋設された消失模型に溶融金属(溶湯)を注湯し、消失模型を燃焼させて空洞を形成し、その空洞を鋳型としてその消失模型と同一形状の鋳造物を得る技術である。消失模型の基材である合成樹脂発泡体としては、ポリスチレン系樹脂発泡体(Expandable PolyStyrene、略してEPSと呼ばれる。)が一般的であるが、近年メタクリル系樹脂発泡体も用いられるようになってきた。
【0003】
合成樹脂発泡体は、その構造が複雑な場合、発泡体から成る複数の模型部品を作製し、その模型部品同士を接着剤を用いて接合することで作製されている。この接着剤には、以下のような性能が要求されている。
1)基材の合成樹脂発泡体を溶解する性質が弱いこと。
2)模型部品を室温短時間で強力に接合することができること。
3)接着剤硬化物の燃焼残渣が少ないこと。
4)低臭気であること。
【0004】
接着剤としては、従来、二液エポキシ系、一液ウレタン系および二液尿素系などの接着剤が使用されている。しかしながら、これらの接着剤は、上記の1)の合成樹脂発泡体を溶解する性質は弱く、上記の4)も問題ないが、上記の2)については、硬化速度が遅いため接着強度が発現するまでに時間を要するため、次工程に移るまでに接合物を静置しておく時間が必要であり、合成樹脂発泡体の製造に時間を要するという問題がある。例えば、二液エポキシ系接着剤は接着性に優れているが、硬化反応が付加重合型で進行するため、二液の正確な計量、混合に時間を要する。また、一液ウレタン系接着剤および二液尿素系接着剤はエポキシ系接着剤よりもさらに硬化速度が遅く、接着強度が発現するまでに時間をさらに要する。さらに、ウレタン系接着剤および尿素系接着剤は、接着強度も劣っているという問題がある。
【0005】
さらに、上記の従来の接着剤は、上記の3)に関し、燃焼残渣が多く残るという欠点を有している。燃焼残渣は鋳物の内部に侵入したり、表面に付着することで、鋳造欠陥を発生させる場合がある。その結果、鋳物の強度が低下したり、加工性が悪化するという問題があった。
【0006】
これに対して、1分子中に2個以上の炭素―炭素二重結合を有する多官能性化合物であるトリアリルイソシアヌレートなどのポリエンと1分子中に2個以上のチオール基を有する多官能性化合物のポリチオールを用いたポリエン/ポリチオール系接着剤(特許文献1)や、重合性(メタ)アクリレートを主成分とする二液アクリル系接着剤が提案されている(特許文献2,3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5405001号公報
【特許文献2】特許第4589692号公報
【特許文献3】特許第4681850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されているポリエン/ポリチオール系接着剤は、ポリチオールが過酸化物の存在下でチイルラジカルを生成し、これがポリエンにラジカル付加反応をして硬化するタイプである。特許文献1ではポリエンとして分子中に窒素原子を有するトリアリルイソシアヌレートを必須成分としているものの接着剤全体に占める割合が従来の接着剤に比べて少ないことから、その硬化物の燃焼残渣が低減されており、かつ被着体を溶解する性質が弱く、短時間で強力に接合できる特徴を有している。しかしながら、特許文献1の接着剤はポリチオールに起因する特有の臭気が作業環境に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
これに対し、特許文献2,3に記載されている二液アクリル系接着剤の硬化物の燃焼残渣は、従来の接着剤に比べて少なくなることや、速硬化性でラフな混合でも良好な接着性が得られることが記載されている。また、重合性(メタ)アクリレート成分の種類や配合、及び硬化触媒系に検討を加えて基材の合成樹脂発泡体を溶解する性質も改善していることが記載されている。また低臭気のため作業環境に悪影響を及ぼす可能性は低いものと考えられる。
【0010】
上記の通り、二液アクリル系接着剤は、従来の接着剤に比べて優れた特性を有しているが、燃焼残渣については、一層の低減が求められている。
【0011】
そこで、本発明は、燃焼残渣の一層の低減が可能な、鋳造用消失模型の製造に用いる二液アクリル系接着剤を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の、鋳造用消失模型の製造に用いる二液アクリル系接着剤は、多官能(メタ)アクリレートと有機過酸化物を含むA液と、多官能(メタ)アクリレートと還元剤を含むB液とから構成される、鋳造用消失模型の製造に用いる二液アクリル系接着剤であって、前記多官能(メタ)アクリレートの10重量%以上が、アルキレンオキサイド平均付加モル数が2〜12である、水素化ビスフェノールAまたは
水素化ビスフェノールFのアルキレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃焼残渣の一層の低減が可能で、かつ、基材の合成樹脂発泡体を溶解する性質が弱く、模型部品を室温短時間で強力に接合することができ、低臭気である、鋳造用消失模型の製造に用いる二液アクリル系接着剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の鋳造用消失模型の製造に用いる二液アクリル系接着剤は、多官能(メタ)アクリレートと有機過酸化物を含むA液と、多官能(メタ)アクリレートと還元剤を含むB液とから構成される、鋳造用消失模型の製造に用いる二液アクリル系接着剤であって、前記多官能(メタ)アクリレートの10重量%以上が、アルキレンオキサイド平均付加モル数が2〜12である、水素化ビスフェノールAまたはビスフェノールFのアルキレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートである。
【0015】
A液とB液に用いる、多官能(メタ)アクリレートは、2官能以上の(メタ)アクリレートであり、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート、テトラ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、およびアルキレンオキサイド変性テトラ(メタ)アクリレートの1種または複数種の組み合わせを挙げることができる。
【0016】
ジ(メタ)アクリレートとしては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。トリ(メタ)アクリレートとしては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。テトラ(メタ)アクリレートとしては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート,ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0017】
また、アルキレンオキサイド変性のジ(メタ)アクリレートとしては、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。アルキレンオキサイド変性ビスフェノールAまたはビスフェノールFジ(メタ)アクリレートの具体例としては、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド‐エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド‐エチレンオキサイド変性ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0018】
また、アルキレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレートとしては、エチレンオキサイド変性グリセリントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性グリセリントリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0019】
また、アルキレンオキサイド変性テトラ(メタ)アクリレートとしては、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0020】
多官能(メタ)アクリレートとしては、好ましくは、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、およびプロピレンオキサイド‐エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートである。
【0021】
さらに、本発明では、A液とB液の多官能(メタ)アクリレートの10重量%以上、好ましくは10重量%〜50重量%、より好ましくは10重量%〜30重量%が、水素化ビスフェノールAまたはビスフェノールFのアルキレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートである。水素化ビスフェノールAまたはビスフェノールFのアルキレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートを10重量%以上含むことで、燃焼残渣を減少させることが可能となる。水素化ビスフェノールAまたはビスフェノールFのアルキレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートのアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド、アルキレンオキサイドの平均付加モル数は2〜12、好ましくは3〜10である。水素化ビスフェノールAまたはビスフェノールFのアルキレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートのアルキレンオキサイドの具体例としては、エチレンオキサイド変性水素化ビスフェノールAジアクリレート(平均付加モル数4)、エチレンオキサイド変性水素化ビスフェノールAジメタクリレート(平均付加モル数10)等を挙げることができる。
【0022】
また、A液中に配合される有機過酸化物としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシデカノエートなどのパーオキシエステル類等を挙げることができるが、反応性の観点から、ハイドロパーオキサイド類が好ましい。有機過酸化物の配合量は、多官能(メタ)アクリレート100重量部に対して1〜10重量部、好ましくは2〜5重量部である。1重量部未満では十分な接着性能が得られず、また10重量部を超えるとA液の保存安定性に悪影響を及ぼす場合があり、また基材の合成樹脂発泡体を溶解する性質が強まるため好ましくない。
【0023】
また、B液は還元剤を含み、この還元剤はA液に含まれる有機過酸化物とレドックス触媒系を形成する。レドックス触媒系を用いる二液型のアクリル系接着剤は、室温において短時間で硬化し、また化学量論的な意味での二液の厳密な計量混合が不要であり、取り扱いが簡単であるという特徴を有する。
【0024】
還元剤としては、エチレンチオ尿素、トリメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、ベンゾイルチオ尿素、アセチルチオ尿素などのチオ尿素化合物、バナジウムアセチルアセトネート、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムイソプロポキシド、五酸化バナジウム、ステアリン酸バナジル等のバナジウム化合物、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、コバルトアセチルアセトネート等のコバルト化合物、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、p−トリルジエタノールアミン等の芳香族第3級アミン、アセチルフェニルヒドラジン、ホルミルフェニルヒドラジン等のフェニルヒドラジン誘導体、ブチルアルデヒドとアニリンの反応生成物のようなアルデヒド−アニリン反応生成物を単独または2種以上組み合わせて用いることができる。硬化速度の観点から、バナジウム化合物が好ましい。還元剤の配合量は、多官能(メタ)アクリレート100重量部に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部である。0.1重量部未満では十分な接着性能が得られず、また5重量部を超えるとB液の保存安定性に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0025】
また、本発明においては、接着剤の性能を向上させるため、必要に応じて、以下の化合物を添加することもできる。
【0026】
(硬化促進剤)
速硬化性と密着性を向上させるため、以下のような化合物を添加することができる。例えば、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等の酸性リン化合物をB液に添加することができる。また、ヒドロキシアセトン、ジヒドロキシアセトン、アセトイン、ベンゾイン、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸エチル等のα―ヒドロキシカルボニル化合物をA液に添加することができる。配合量は、多官能(メタ)アクリレート100重量部に対してそれぞれ0.1〜7重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。
【0027】
(重合禁止剤)
また、A液および/またはB液に以下のような重合禁止剤を添加することもできる。例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、キンヒドロン、p−ベンゾキノン、トルキノン、ナフトキノン、6−t−ブチル−2,4−キシレノ―ル、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2‘−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等を挙げることができる。配合量は、多官能(メタ)アクリレート100重量部に対して0.01〜3重量部、好ましくは0.05〜1重量部である。
【0028】
また、必要に応じてA液および/またはB液に、顔料や着色剤等を添加することもできる。
【0029】
本発明の二液アクリル系接着剤は、模型部品を室温短時間で強力に接合することができる。例えば、5〜35℃の温度条件で、A液とB液の混合開始から0.5〜3分の時間で硬化させることができる。ショアー硬度Aが80〜95の硬化物が得られる。
【0030】
また、本発明の二液アクリル系接着剤は、燃焼残渣が少なく、例えば、硬化物を、800℃、窒素雰囲気で燃焼させた時の燃焼残渣の重量が、燃焼前の硬化物の重量の6%以下、好ましくは、5%以下である。
【0031】
また、本発明の二液アクリル系接着剤は、合成樹脂発泡体を溶解する性質が弱く、例えば、A液とB液のそれぞれを被着体であるポリスチレン系樹脂発泡体またはメタクリル系樹脂発泡体の表面に塗布した時、60℃、1時間後の目視観察で、被着体の表面に実質的に変化が認められない。ここで、実質的に変化が認められないとは、被着体の表面に0.2mm以上の凹みが認められないことをいう。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。なお、各成分の使用量を示す部はすべて重量部を示す。
【0033】
(1)A液及びB液に用いたアルキレンオキサイド変性(メタ)アクリレートは、以下の通りである。
1−1:(新中村化学工業社製エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート(A−BPE−20と略す)(EO平均付加モル数:m+n=17)
1−2:第一工業製薬社製エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレート(BPE−4と略す)(EO平均付加モル数:m+n=4)
1−3:第一工業製薬社製水素化ビスフェノールAのエチレンオキサイド変性ジアクリレート(HBPE−4と略す)(EO平均付加モル数:m+n=4)
1−4:新中村化学工業社製エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレート(BPE−900と略す)(EO平均付加モル数:m+n=17)
1−5:新中村化学工業社製ポリエチレングリコールジアクリレート(A−600)(n=14)
1−6:新中村化学工業社製エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(ATM−35Eと略す)(EO平均付加モル数:l+m+n+o=35)
1−7:第一工業製薬社製フェノキシポリエチレングリコールモノアクリレート(PHE−2Dと略す)(n=2)
(2)A液に用いた有機過酸化物
クメンハイドロパーオキサイド(CHPと略す)
(3)B液に用いた還元剤
五酸化バナジウム16.2重量部を、ブチルアシッドホスフェート180重量部に110℃で2時間加熱溶解させて用いた(この溶液をVPと略す)。
(4)その他
硬化促進剤としてA液にグリコール酸(GAと略す)、重合禁止剤としてA液にp−ベンゾキノン(PBQと略す)、B液にハイドロキノン(HQと略す)を添加した。
【0034】
以下の実施例、比較例において合成樹脂発泡体に対する溶解性、接着強度、燃焼残渣は以下の条件で測定した。
【0035】
<溶解性>
ポリスチレン系樹脂発泡体(EPSと略す)およびメタクリル系樹脂発泡体(PMMAと略す)を被着材とし、23℃でA液またはB液を、被着材の表面に塗布し、60℃、1時間後の被着材の変化を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:被着材の表面に変化なし。
×:被着材の表面に凹みが見られた。
【0036】
<接着強度>
寸法が20×40×50mmのEPSおよびPMMAを用意した。23℃で、20×40mmの面の一方にA液を塗布し、他方の面にB液を塗布した後、こすり合わせて貼り合わせた。24時間後にJIS K7171に準拠して支点間距離70mm、試験速度20mm/分で三点曲げ接着強度試験を行った。試験後、接着強度(以下、接着性ともいう)を、以下の基準で評価した。
○:材料破壊率が60%以上
×:材料破壊率が60%未満
ここで、材料破壊率とは接着面積に対する材料の破壊面積の割合である。
【0037】
<燃焼残渣>
23℃でA液とB液の等量を混合して硬化物を作製し、JIS K7120に準拠して次の条件で示差熱分析を行って燃焼残渣の重量を測定した。
測定機器:島津製作所製 TGA−50/50H
試料 :5φ白金製オープン型試料容器に10mgにて測定
測定温度:20〜800℃、昇温スピード=10℃/分、800℃到達点で測定終了
窒素気流:50ml/分
【0038】
(結果)
表1にA液とB液の組成と評価結果を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
実施例1,2の接着剤は、(1)の重合性単量体のうち、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレートが90重量%及び70重量%に対して水素化ビスフェノールAのエチレンオキサイド変性ジアクリレート(HBPE−4)が10重量%(実施例1)および30重量%(実施例2)から構成される二液アクリル系接着剤である。一方、比較例1〜5の接着剤は、(1)の重合性単量体のうち、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレートが100重量%(比較例1)、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレートが70重量%に対して、ジアクリレート、テトラアクリレート、モノアクリレートが30重量%(比較例2〜5)から構成される二液アクリル系接着剤である。特に、比較例2はHBPE−4と同じエチレンオキサイドのモル数(m+n=4)であるエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート(BPE−4)を配合した接着剤である。
【0042】
実施例1,2の接着剤は、比較例1〜5の接着剤と比べて被着材に対する溶解性が低く、接着性に優れており、燃焼残渣も5%以下であった。それに対して比較例1、2および4は溶解性と接着性は良好であったが、燃焼残渣が5%を超えていた。比較例3は被着材に対する溶解性は低いが、EPSに対する接着性が悪く、燃焼残渣も5%を超えていた。さらに、比較例5は溶解性が大きく、また接着性も燃焼残渣も不良であった。
【0043】
また、実施例3,4の接着剤は、(1)の重合性単量体のうち、30重量%の水素化ビスフェノールAのエチレンオキサイドジアクリレート(HBPE−4)を配合したものである。一方、比較例6及び7はHBPE−4と同じエチレンオキサイドのモル数(m+n=4)であるエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート(BPE−4)を重合性単量体の30重量%配合した接着剤である。実施例3,4の接着剤は、被着材に対する溶解性が低く、接着性に優れており、燃焼残渣も5%以下であった。それに対して比較例6,7は溶解性と接着性は良好であったが、燃焼残渣が5%を超えていた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、高精度の鋳造用消失模型の製造に用いることができる、二液アクリル系接着剤を提供することができる。