【実施例】
【0034】
以下、特定の具体的な実施例により本開示の実施方法を説明し、当業者は、本明細書に公開された内容に基づいて本開示の他の利点と効果を理解することができる。本開示は、他の異なる具体的な実施例により、実行または応用することができる。本明細書中の各細部は、異なる視点と応用に基づいて、本開示の精神に反しない限り、修飾と変更することができる。
【0035】
実施例1〜11 無機材料の製造
フッ化水素酸(HF)で廃棄LCDパネルガラス粉体を溶解した後、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP/AES)で、その組成及び成分割合を分析し、分析結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
廃棄LCDパネルガラスを使用してケイ酸塩粉体を製造し、異なる質量比で前記ケイ酸塩粉体及び金属化合物を混合し、異なる温度でケイ酸塩粉体及び金属化合物を反応させ、多孔質ケイ酸塩粒子を形成し、本開示の無機材料を得た。実施例1〜11の原料組成と反応温度を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)及びX線回折(XRD)で、LCDパネルガラス粉体と実施例の無機材料を分析した。
【0040】
図1Aは、廃棄LCDパネルガラス粉体のSEM画像図であり、
図1Bは、本開示の無機材料のSEM図である。
図2は、本開示の無機材料のTEM画像図である。
【0041】
図1Aは、廃棄LCDパネルガラス粉体は、孔の無い平坦な表面を有することを示し、
図1Bは、本開示の無機材料は、大量の孔を有する複雑な形貌であることを示す。
図2のTEM画像から、さらに、本開示の無機材料の孔がナノサイズであることが観察された。
【0042】
比表面積分析装置を使用して、BET法により無機材料の比表面積(相対圧力が0.058〜0.202の窒素ガス吸着等温線で測定)を測定し、BJH法により無機材料の孔径分布(窒素ガス脱着枝で測定)及び各孔の累積孔体積に占める割合(窒素ガス脱着等温線で測定)を測定した。表3は、各無機材料の比表面積(BET比表面積)、平均孔径(BJH脱着平均孔直径(4V/A))、及び孔径3〜50nmの孔体積割合(BJH脱着孔直径3〜50nmの脱着累積孔体積に占める割合)を示す。
【0043】
【表3】
【0044】
表3に示すように、廃棄LCDパネルガラス粉体は、孔を有せず、比表面積が0.4m
2/gであるが、本開示の無機材料は、ナノサイズの孔を有し、少なくとも60%の孔体積が3〜50nmのメソ孔孔径であり、また、無機材料の比表面積が65.2〜163.7m
2/gであり、廃棄LCDパネルガラス粉体の比表面積に比べて、約160〜410倍上昇した。
【0045】
HFで実施例3の無機材料を溶解した後、ICP/AESでその組成及び成分割合を分析し、分析結果を表4に示す。
【0046】
【表4】
【0047】
表4に示すように、無機材料の組成及び各成分の含有量は、表1に示すケイ酸塩粉体と異なり、特に、多孔質ケイ酸塩粒子における酸化ホウ素の質量比は、表1に示すケイ酸塩粉体における酸化ホウ素の質量比より顕著に低い。この差異は、LCDパネルガラス粉体における一部のホウ素成分を除去することにより生成された孔の孔径がナノサイズであることを示す。
【0048】
図3Aは、廃棄LCDパネルガラス粉体のX線回折(XRD)パターンであり、
図3Bは、本開示の無機材料のX線回折(XRD)パターンである。
【0049】
図3Aに示すように、廃棄LCDパネルガラス粉体は、25°の2θ位置にて非晶質(amorpHous)ガラス相を有する。
図3A及び3Bを比較して、本開示の無機材料は、同じ2θ位置(25°)にて、類似するパターン形態を有し、これは無機材料が変性前の廃棄LCDパネルガラス粉体のようなガラス相化学構造を保持していることを示す。このことから、本開示の無機材料は、LCDパネルガラスのような耐酸性を有することが可能であることがわかる。
【0050】
図4A〜4Cは、本開示の無機材料における多孔質ケイ酸塩粒子の表面構造を模式的に示す図である。
図4Aは、多孔質ケイ酸塩粒子の吸着態での表面構造を模式的に示す図であり、
図4Bは、多孔質ケイ酸塩粒子の脱着態での表面構造を模式的に示す図であり、
図4Cは、多孔質ケイ酸塩粒子の再生態での表面構造を模式的に示す図である。
【0051】
図4A〜4Cにおいて、Si−O−m
3+は、多孔質ケイ酸塩粒子の表面構造を表し、Si−O
-は、変異電荷部位(Variable−charge sites)を表し、Si−O
-−m
3+は、非対称電荷部位を表し、変異電荷部位及び非対称電荷部位のいずれも反応性を有する活性部位に属する。一般的には、ケイ酸塩無機材料の成分において、シリカとアルミナとの質量比(シリカ/アルミナ比とも略す)が2以下であり、シリカ/アルミナ比の高いケイ酸塩構造は、大量の非対称電荷部位を生成させ、溶液中のイオンを吸着することができる。本開示の多孔質ケイ酸塩粒子の成分において、シリカ/アルミナ比が2〜5であり、例えば、3〜4であるため、本開示の無機材料は、現存のケイアルミン酸塩の無機材料に比べて、より高いイオン吸着力を有する。
【0052】
図4Aにおいて、M
2+は、無機材料の変異電荷部位に吸着された重金属、例えば、2価正電荷を持つ重金属イオンを表すが、これに制限されない。
図4Bにおいて、Si−O−H
+は、酸性溶液で変異電荷部位の重金属を脱着して形成した表面ヒドロキシル基(surface hydroxyl group)を表す。
図4Cにおいて、M
+は、アルカリ性溶液で無機材料を再生して変異電荷部位に形成された活性金属イオン、例えば、アルカリ金属イオンを表すが、これに制限されない。前記活性金属イオンは、強酸性溶液において重金属とイオン交換することができる。
図4A〜4Cに示すように、本開示の無機材料の表面構造は、大量の表面電荷と高効率のカチオン交換能力を有する。
【0053】
以下、試験例によって、本開示の無機材料で重金属を吸着する及び工業廃水を処理する実施形態及び効用を詳しく説明する。
【0054】
試験例1 無機材料の表面電荷とカチオンの交換能力
実施例2及び3の無機材料並びに変性前の廃棄LCDパネルガラス粉体を選定し、界面動電位分析装置を使用して、電気泳動光散乱法(ElectropHoretic Light Scattering、すなわち、ELS)により、各無機材料の異なる酸・アルカリ条件での界面動電位(Zeta Potential)を測定し、界面動電位(mV)とpH値(pH0〜pH10)とでグラフにプロットし、無機材料及び変性前の廃棄LCDパネルガラス粉体の等電点(ZPC)を得た。
図5は、変性前の廃棄LCDパネルガラス粉体と本開示の無機材料の界面動電位とpHとの関係を示す図である。
【0055】
図5に示すように、変性前の廃棄LCDパネルガラス粉体の等電点(すなわち、界面動電位が1未満)がpH約8.0に現したという現象は、pH値8.0未満の環境下で、変性前の廃棄LCDパネルガラス粉体の正電荷の表面が、重金属イオンに対して斥力を生じるため、廃水中の重金属イオンを吸着できなくなることを示す。実施例2及び3の無機材料の等電点がpH約0.8に現したという現象は、たとえpH値が1〜5の強酸性環境下であっても、高いシリカ/アルミナ比の成分を有する無機材料の表面が依然として負電荷(negative charge)であるため、無機材料が表面負電荷により酸性溶液中の正電荷を持つ重金属イオンを吸着できることを示す。分析試験の結果、本開示の無機材料のカチオン交換能力(cation exchange capacity)は、27meq/100gに達することができる。
【0056】
試験例2 無機材料の単一金属イオンに対する最大吸着能力
実施例3の無機材料を用いて、それぞれ、銅、ニッケル、鉛、亜鉛、カドミウム、クロム等の6種類の重金属イオンに対して、単一重金属イオンの吸着能力試験を行った。単層吸着モデルであるラングミュアモデル(Langmuir model)で、無機材料1gあたりの単一重金属イオンを吸着する最大能力(mg/g)を算出した。各種類の重金属イオンを、各々に定量100mlの濃度5、8、10、15、20、25、40、60、80mg/Lの試験溶液を調製し、各試験溶液に0.1gの無機材料を添加し、酸度をpH3に調整して電気メッキ廃水及び土壌の酸洗浄を模擬し、24時間の吸着試験を行い、ろ過膜で試験溶液を濾取して、そのままICP/AESで吸着後の重金属イオン含有量を分析した。
【0057】
図6A〜6Fは、それぞれ、無機材料と各濃度の銅(Cu)、ニッケル(Ni)、カドミウム(Cd)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)の吸着との関係を示す図である。表5は、Langmuir modelで計算された無機材料の単一重金属イオンを吸着する最大能力を示す。表5は、無機材料の単一重金属イオンを吸着する最大能力を示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5に示すように、本開示の無機材料は、強酸(pH3)溶液において、重金属イオンを吸着する能力を有するのみならず、各種類の金属イオンに対する最大吸着能力が、それぞれ、Cu 50.0 (mg/g)、Ni 31.9 (mg/g)、Cd 52.6 (mg/g)、Cr 21.7(mg/g)、Zn 22.1 (mg/g)、Pb 50.2(mg/g)に達した。
【0060】
試験例3 無機材料のヒ素(As)含有廃水に対する吸着
初期濃度が110(mg/L)のAs含有試験溶液を調製し、定量体積200mlを取り、それぞれ2gの実施例3及び6の無機材料を添加し、室温下、振動器で180rpm、60分間往復振動し、0.45濾紙で試験溶液を濾取して、ICP/AESで吸着後のAs含有量を分析した。表6は、無機材料のヒ素(As)含有廃水を吸着する試験結果を示す。
【0061】
【表6】
【0062】
表6に示すように、異なる配合比率の金属化合物を混合溶融することにより製作された無機材料は、Asの除去効率を、45%から、84.8%に向上させることができる。
【0063】
試験例4 本開示の無機材料の実際の廃水を吸着する最大吸着量
実施例3、4及び5の無機材料を用いて、実際に工場に由来する電気メッキ廃水の複数種類の重金属に対する吸着実験を行うことにより、本開示の無機材料の複雑な成分を含有する電気メッキ廃水に対する吸着能力を確認した。Cr、Cu、NiやZn等の重金属イオンを含有する酸性またはアルカリ性の電気メッキ廃水100mlを取り、それぞれ、1%質量(1g)の実施例3、4及び5の無機材料を添加し、振動強度180rpm、吸着時間60分間、吸着温度25℃の試験条件で、吸着試験を行った。吸着試験終了後は、吸着後の電気メッキ廃水中の重金属イオン濃度をICP−AESで分析した。表7は、無機材料の電気メッキ廃水中の複数の重金属イオンに対する最大吸着量と除去率を示す。
【0064】
【表7】
【0065】
表7に示すように、異なる組成の無機材料は、酸性またはアルカリ性の電気メッキ廃水中の複数の重金属イオンに対して、いずれも吸着能力を有し、さらに、最大吸着量が11mg/g以上に安定に達した。
【0066】
以下、欧州連合(EPA)の放流水の有害物質の排出基準に基づいて、本開示の無機材料で各種類の廃水を処理する試験例を行った。
【0067】
試験例5 無機材料の模擬工業廃水に対する処理
実験室において、As、Pb、Cd、Cr、Ni、Cu、Znを含有する硝酸塩水溶液を調製し、複数の有害物質を含有する工業廃水を模擬し、各有害物質の本来の濃度をICP−AESで測定した。実施例1、2、9、10の無機材料各20gを、それぞれ200gの模擬工業廃水(無機材料の模擬工業廃水に対する質量百分率で計算すると、添加量が10%w/w)に添加し、振動強度180rpm、吸着時間30分間、吸着温度25℃の処理条件で振動吸着を行い、吸着後の模擬工業廃水中の各有害物質の濃度を表8に示す。
【0068】
【表8】
【0069】
表8に示すように、無機材料は、模擬工業廃水中の各種類の有害物質を吸着することができる。また、競争吸着の現象が観察され、各種類の有害物質に対する無機材料の競争吸着の順は、As>Pb>Cr>Ni>Cu>Zn>Cdであった。
【0070】
試験例6 実際の工場に由来するシアン系工業廃水を、無機材料で複数回処理すること
シアン系工業廃水の元のpH値は、2.37であった。そのpH値を調整しない条件で、10gの実施例3の無機材料を、200gのシアン系工業廃水(無機材料のシアン系工業廃水に対する質量百分率で計算すると、添加量が5%w/w)に添加し、振動強度180rpm、吸着時間30分間、吸着温度25℃の処理条件で複数回の振動吸着を行った。処理終了後、処理後のシアン系工業廃水の有害物質濃度(イオン濃度)ICP−AESで分析し、測定された有害物質濃度を表9に示す。
【0071】
【表9】
【0072】
表9に示すように、1回目の吸着前、Crの本来の濃度は、すでに排出基準より低かった。1回目の吸着後、Crの濃度は機器が検出し得る濃度以下に低下し、Cuの濃度は434ppmから61.7ppmまでに低下し、Pbの濃度は22.7ppmから0.20ppm(法定の排出基準<1ppmに適合する)までに低下し、Znの濃度は111ppmから103ppmまでに低下した。
【0073】
2回目の吸着後、Crの濃度は排出基準以下に維持し、無機材料の導入により有害物質の脱着を引き起こさず、Cuの濃度は61.7ppmから15.4ppmまでに低下し、Pbの濃度は0.20ppmから0.1ppm未満までに低下し、Znの濃度は103ppmから39.2ppmまでに低下した。
【0074】
3回目の吸着後、無機材料の導入により有害物質の脱着を引き起こさず、Cuの濃度は15.4ppmから0.1ppm未満までに低下し、Znの濃度は39.2ppmから0.11ppmまでに低下し、この両者はいずれも法定の排出基準に達した。
【0075】
表9のデータから、競争吸着の現象が観察され、このような組成を含有する工業廃水の競争吸着の順は、Pb>Cr>Cu>Znであった。1回目の吸着において、無機材料のCuに対する吸着性が、Znに対する吸着性より優れるため、1回目の吸着におけるZnの濃度変化は少なかった。2回目の吸着において、無機材料のZnに対する吸着性は大きく増幅した。3回目の吸着において、無機材料は主にZnを吸着し、また、3回目の吸着後のZn濃度は法定の排出基準に達することができる。
【0076】
また、1回目の吸着後のシアン系工業廃水のpH値は9.3であると測定され、2回目の吸着後のシアン系工業廃水のpH値は9.2であると測定され、3回目の吸着後のシアン系工業廃水のpH値は9.1であると測定された。本試験例において、吸着処理の前は、シアン系工業廃水のpH値(元pH値が約3)の調整をさらに行えず、処理後のシアン系工業廃水中の有害物質濃度が放流水の排出基準に達することができるのみならず、処理後のシアン系工業廃水のpH値も中性水基準(pH6〜9)に近くなった。
【0077】
試験例7 実際の工場に由来する酸性工業廃水を、無機材料で複数回処理すること
酸性工業廃水の元pH値は、3.54であった。そのpH値を調整しない条件下で、10gの実施例11の無機材料を200gの酸性工業廃水(無機材料の工業廃水に対する質量百分率で計算すると、添加量が5%w/w)に添加し、振動強度180rpm、吸着時間30分間、吸着温度25℃の処理条件で複数回の振動吸着を行った。処理終了後、処理後の酸性工業廃水の有害物質濃度(イオン濃度)をICP−AESで分析し、測定された有害物質濃度を表10に示す。
【0078】
【表10】
【0079】
表10に示すように、1回目の吸着前、Pbの本来の濃度は、すでに排出基準より低かった。1回目の吸着過程において、無機材料の導入により有害物質の脱着を引き起こさなかった。1回目の吸着後、有害物質Crの濃度は39.4ppmから0.1ppm未満(排出基準に適合する)までに低下し、Cuの濃度は35.5ppmから1.90ppm(排出基準に適合する)までに低下し、Znの濃度は30.0ppmから0.1ppm未満(法定の排出基準に適合する)までに低下した。表10に示す各種類の有害物質の除去率から、このような組成の酸性工業廃水は1回目の吸着後で大部分の有害物質が除去されたことが観察され、また、1回目の吸着後の酸性工業廃水は放流水基準に達した。さらに、1回目の吸着後の工業廃水のpH値は6.1であると測定され、2回目の吸着後の工業廃水のpH値は6.7であると測定され、処理後の酸性工業廃水のpH値も放流水の中性水基準(pH6〜9)に適合した。
【0080】
試験例8 無機材料の信頼性試験
酸性工業廃水中の重金属を飽和吸着した無機材料各3gを取り、5回の脱着−再生−吸着試験を行い、毎回の吸着量と脱着量を測定し、1回目の吸着量を基準として、無機材料の吸着能力維持率を算出し、無機材料の信頼性を得た。
【0081】
クエン酸、硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸を脱着劑として選出してもよく、酸性条件下で、無機材料の脱着を行った。本試験例において、硝酸で脱着劑を調製し、無機材料1gあたり脱着された重金属の質量に基づいて、無機材料の脱着量を測定した。脱着条件R1、R2、R3は表11に示す通り。
【0082】
脱着後の無機材料を、水が入れた再生槽(脱着後の無機材料と水との質量比が1:1)に加え、1M濃度の水酸化ナトリウム溶液を再生槽に加え、槽内溶液がアルカリ性(pH9)になった時、無機材料の再生が完成した。
【0083】
再生後の無機材料をさらに吸着−脱着を行い、毎回の再生後の無機材料の吸着量と脱着量を測定し、前記無機材料の1回目の吸着の時の吸着量を基準として、毎回の脱着と再生後の無機材料の重金属に対する吸着能力維持率を算出し、無機材料を循環使用する場合の信頼性が分かる。信頼性試験の結果は表12に示す。
【0084】
【表11】
【0085】
【表12】
【0086】
表12に示すように、本開示の無機材料は、複数回の吸着−脱着−再生を経っても、80%以上の吸着効能を維持できるため、本開示の無機材料は、確かに複数回の再生使用の能力を有する。
【0087】
上記試験例を総括すると、
図1B及び
図2からは、LCDパネルガラスが成分の再調整及び構造の再構築により生じた孔の形貌が観察され、試験例2からは、無機材料がLangmuir単層吸着モデルであることが分かり、
図3Bでは、無機材料が耐強酸性を有することが証明され、試験例3では、無機材料がAsを吸着する能力を有することが証明され、試験例4からは、無機材料の複数の有害物質に対する総吸着量が11.66mg/gより高いことが分かり、試験例5、6、7では、無機材料で各種類の工場廃水を処理する場合、いずれも法定の排出基準に適合することが確認され、試験例8の信頼性試験では、無機材料は、脱着及び再生により、複数回に循環使用できることが確認された。
【0088】
試験例9 従来の珪砂と実施例3の無機材料(以下、MCL材料と称する)のホウ素(B)含有廃水の吸着に対する比較
初期濃度200(mg/L)のホウ素含有廃水を配置し、流動床結晶廃水処理を行った。前記廃水と結晶先駆体(塩化バリウム)を管路11を経由して担体2を有する流動床反応器1に入れ、廃水中の有害物質を前記担体2に結晶させ、前記有害物質を回収し、管路12を経由して処理された廃水を出した。
【0089】
従来の珪砂とMCL材料をそれぞれ担体2として、廃水を入れる流速(15ml/min)、結晶先駆体(塩化バリウム、濃度0.37M)、及びpH値 (8.5〜11.5)全部同じ条件下で、評価した。二つの担体の充填量は、いずれも55gに固定し、従来の珪砂担体の床高は11.8cmであり、MCL材料担体の床高は密度が低くて体積が膨脹するため、担体の床高が28.1cmと高いことを見出した。また、従来の珪砂担体が必要とする還流動力の流速は約240 ml/minであり、MCL材料担体ではわずか40ml/minであり、MCL材料担体が必要とする還流動力は従来の珪砂担体の1/6であり、全体の還流動力のエネルギー消費は83%減少した。
【0090】
表13に示すように、MCL材料の密度が低く、担体とする場合は流動床反応器の還流動力を有効に低下でき、エネルギー消費及びコストを減少し、また、MCL材料の比表面積は従来の珪砂より大きくて、より大きい結晶表面を提供し、ホウ素結晶率とホウ素除去率を有効に向上できる。
【0091】
【表13】
【0092】
二つの担体の廃水処理の過程を観察すると、反応1日目では、従来の珪砂担体内には白色沈殿物が充満され、MCL材料担体内は透明溶液であることが分かった。反応5日目では、従来の珪砂担体の吐出口には白色沈殿物が充満され、MCL材料担体の吐出口は透明溶液であることが分かった。これにより、MCL材料を流動床反応器において担体とすることで、ホウ素含有廃水の汚泥の生成を低下でき、2回目の汚泥処理コストを大幅低下できることを証明できる。
【0093】
二つの担体により処理された廃水のホウ素結晶率とホウ素除去率を測定し、
図8に示すように、MCL材料担体は初期でホウ素結晶が存在し、5時間反応後、その結晶率は85%に達し、最高結晶率は92.3%に達し、反応5日目でも80%以上の結晶率を維持できる。それに対して、従来の珪砂担体は5日反応しても結晶が存在しない。
図9に示すように、MCL材料担体は従来の珪砂担体より、安定かつ高いホウ素除去率(92%以上)を維持でき、その原因は、従来の珪砂担体が反応5日目の際では何らかの結晶効果もなく、沈殿物を生成することのみによりホウ素を除去するので、その除去率が不安定で、大量な汚泥を生成し、出す時の吐出口が目詰りになり易く、操作する設備が損害し易い等の問題を引き起こす。MCL材料担体は汚泥を生成せず、汚泥処理に関する問題もない。また、従来の珪砂担体とMCL材料担体の微構造(SEM)鑑定を行った。反応前、
図10Aは従来の珪砂担体の表面が緻密で何らかの有孔性もないことを示し、
図10CはMCL材料担体の表面が均一の粗面で有孔性を有し、かつ、その結晶表面に交差する孔を有し、結晶体を次の段階へ成長させることを示す。反応5日目では、
図10Bは従来の珪砂担体の表面に反応沈殿物が積み上げられ、結晶状態が形成されていないことを示し、
図10DはMCL材料担体の表面に高結晶性結晶体が覆うことを示す。
【0094】
図11A〜
図11Dは、従来の珪砂材料担体の反応前、反応1日目、反応3日目、及び反応5日目のSEM断面図を示す。
図11Aは従来の珪砂材料担体の表面と内層が何らかの有孔性もないことを示し、
図11B〜
図11Dは反応1日目、反応3日目、及び反応5日目で珪砂材料担体の表面には沈殿物のみ、何らかのストリップ状結晶もないことを示す。
【0095】
図12A〜
図12Dは、従来のMCL材料担体の反応前、反応1日目、反応3日目、及び反応5日目のSEM断面図を示す。
図12AはMCL材料担体の表面と内層が有孔性を有することを示し、
図12Bは反応1日目でMCL材料担体の表面からトリップ状結晶が現れることを示し、
図12Cは反応3日目で結晶が内層へ徐々に成長することを示し、
図12Dは反応5日目でMCL材料担体のナノ孔が第一層結晶に満たされ、結晶が外層へ成長し、第二層結晶を形成した。
【0096】
これで、SEM鑑定により、従来の珪砂担体5日の反応を経ても結晶が生成されず、何らかの結晶もなく、MCL材料担体5日の反応を経て結晶体を生成させ、結晶体の表面で結晶し続け、高い結晶率を有することが証明された。
【0097】
試験例10 従来の珪砂担体とMCL材料担体の還流動力のエネルギー消費評価
従来の珪砂担体とMCL材料担体を実際に操作するために必要な還流動力(即ち、
図7においてポンプ4により回転速度を制御するために必要な動力)で、10mリフトの流動床反応器を操作するために必要なエネルギー消費を推測した。表14に示すMCL材料担体では、毎年必要な電力(エネルギー消費)は約5372KWのみ、従来の珪砂担体では必要な電力は約32228KWであり、これで、MCL材料担体の流動床反応器における還流動力は83.3%減少し、低いエネルギー消費という利点を有する。
【0098】
【表14】
【0099】
以上のように、本開示は、廃棄のLCDパネルガラスの成分組成と化学構造を金属化合物で再構築することにより、ガラス相構造を有する多孔質ケイ酸塩粒子を含む無機材料を得る。本開示の前記多孔質ケイ酸塩粒子を無機材料として使用することにより、強酸性廃水中の有害物質を処理することができ、処理後の強酸性廃水が排出基準に達することができるのみならず、有害物質を吸着した無機材料を脱着及び再生により循環使用することもできる。
【0100】
上記実施例は、例示的説明に過ぎず、本開示を制限するものではない。当業者は、本開示の精神及び範疇に反しない限り、上記実施例を修飾と変更できる。そのため、本開示の権利保護範囲は、特許請求の範囲の通りである。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕ガラス相構造を有する複数の多孔質ケイ酸塩粒子を含む、廃水中の有害物質を除去するための無機材料であって、
前記多孔質ケイ酸塩粒子の成分が、シリカ、アルミナ、酸化バリウム、酸化ストロンチウム及び酸化ホウ素を含み、
前記多孔質ケイ酸塩粒子の平均孔径が3〜50nmであり、
pH値が1〜5の環境下で、前記多孔質ケイ酸塩粒子の界面動電位が負の値であることを特徴とする、無機材料。
〔2〕前記多孔質ケイ酸塩粒子の比表面積が、65〜500m2/gである、前記〔1〕に記載の無機材料。
〔3〕前記多孔質ケイ酸塩粒子の少なくとも60%の孔体積の孔径が、3〜50nmである、前記〔1〕又は〔2〕に記載の無機材料。
〔4〕前記多孔質ケイ酸塩粒子の比重が、0.5〜0.8g/cm3である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の無機材料。
〔5〕前記多孔質ケイ酸塩粒子の成分において、前記シリカと前記アルミナとの質量比(シリカ/アルミナ)が2〜5である、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の無機材料。
〔6〕前記多孔質ケイ酸塩粒子のガラス相構造に吸着する活性金属をさらに含有する、前記〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の無機材料。
〔7〕前記活性金属が、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一つを含む、前記〔6〕に記載の無機材料。
〔8〕前記無機材料の質量に基づいて、前記活性金属の含有量が3〜21%である、前記〔6〕に記載の無機材料。
〔9〕前記無機材料1gあたりの重金属に対する吸着能力が、10mg/gより高い、前記〔1〕〜〔8〕のいずれか一項に記載の無機材料。
〔10〕前記重金属が、遷移金属及びヒ素からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む、前記〔9〕に記載の無機材料。
〔11〕前記多孔質ケイ酸塩粒子に結晶した有害物質の結晶をさらに含む、前記〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の無機材料。
〔12〕前記有害物質の結晶が、ヒ素結晶、ホウ素結晶、リン結晶、及びフッ素結晶からなる群から選ばれる少なくとも一つである、前記〔11〕に記載の無機材料。
〔13〕廃水中の有害物質を除去するための無機材料の製造方法であって、
ケイ酸塩粉体と金属化合物とを準備する工程、及び、
800〜1500℃の反応温度で、前記ケイ酸塩粉体と前記金属化合物を反応させ、ガラス相構造を有する複数の多孔質ケイ酸塩粒子を形成する工程
を含み、
前記ケイ酸塩粉体が、シリカ、アルミナ、酸化バリウム、酸化ストロンチウム及び酸化ホウ素を含み、
前記多孔質ケイ酸塩粒子の平均孔径が、3〜50nmであり、
pH値が1〜5の環境下で、前記多孔質ケイ酸塩粒子の界面動電位が負の値であり、
前記ケイ酸塩粉体と前記金属化合物との質量比(ケイ酸塩粉体:金属化合物)が、1:1〜1:20であることを特徴とする、製造方法。
〔14〕前記ケイ酸塩粉体が、LCDパネルガラスを原料として製造された、前記〔13〕に記載の製造方法。
〔15〕前記ケイ酸塩粉体の質量に基づいて、前記酸化ホウ素の含有量が5%より高く、
前記多孔質ケイ酸塩粒子の質量に基づいて、前記酸化ホウ素の含有量が5%以下である、前記〔13〕又は〔14〕に記載の製造方法。
〔16〕前記多孔質ケイ酸塩粒子の成分において、前記シリカと前記アルミナとの質量比(シリカ/アルミナ)が2〜5である、前記〔13〕〜〔15〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔17〕前記金属化合物が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一つである、前記〔13〕〜〔16〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔18〕前記多孔質ケイ酸塩粒子の比表面積が、65〜500m2/gである、前記〔13〕〜〔17〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔19〕廃水処理方法であって、
有害物質含有廃水を、担体を有する流動床反応器に入れ、前記廃水中の有害物質を前記担体に結晶させ、前記有害物質を除去して処理された廃水を得る工程、及び、
前記流動床反応器から前記処理された廃水を出す工程
を含み、
前記担体が、前記〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の廃水中の有害物質を除去するための無機材料を含むことを特徴とする、廃水処理方法。
〔20〕前記多孔質ケイ酸塩粒子の粒子径が、0.1〜0.4mmである、前記〔19〕に記載の廃水処理方法。