特許第6263234号(P6263234)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6263234熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263234
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/06 20060101AFI20180104BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20180104BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   C08L51/06
   C08L25/12
   C08L33/06
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-128681(P2016-128681)
(22)【出願日】2016年6月29日
(62)【分割の表示】特願2014-543398(P2014-543398)の分割
【原出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2016-196656(P2016-196656A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2016年7月19日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0123722
(32)【優先日】2011年11月24日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516257888
【氏名又は名称】ロッテ アドバンスト マテリアルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】キム,イン−チョル
(72)【発明者】
【氏名】ホン,チャン−ミン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジ−ウン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,テク−ウォン
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−509048(JP,A)
【文献】 特表2008−514784(JP,A)
【文献】 特開2011−202155(JP,A)
【文献】 特開2002−047396(JP,A)
【文献】 特開2002−037989(JP,A)
【文献】 特開2011−132528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフトアクリル系共重合体(A);
芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B);および
ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)を含み、
前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)は、5〜25重量%のシアン化ビニル化合物から誘導されるユニットを含み、
前記グラフトアクリル系共重合体(A)は、アクリル系ゴム状重合体に、芳香族ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体、またはこれらの組み合わせがグラフト重合されてなる共重合体であり、
前記アクリル系ゴム状重合体は、二重層であるコア構造を有することを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記二重層は、アクリル系単量体および芳香族ビニル化合物を含む内部層とアクリル系単量体を含む外部層とを有する二重層であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物が、前記グラフトアクリル系共重合体(A)100重量部に対して、前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)50〜200重量部を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂組成物が、前記グラフトアクリル系共重合体(A)100重量部に対して、前記ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)50〜300重量部を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)および前記ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)の含有量の重量比が、6:4〜3:7であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体が、シアン化ビニル化合物を含み、前記シアン化ビニル化合物が、前記アクリル系ゴム状重合体にグラフト重合される単量体総量中、20〜30重量%の含有量で含まれていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)が、スチレンおよびアクリロニトリルの共重合体、α−メチルスチレンおよびアクリロニトリルの共重合体、またはスチレン、α−メチルスチレンおよびアクリロニトリルの共重合体であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)が、C1〜C10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートであって、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートまたはこれらの組み合わせの重合体であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂組成物が、染料、顔料、難燃剤、充填剤、安定剤、滑剤、抗菌剤、離型剤またはこれらの組み合わせを含む添加剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて製造されたことを特徴とする、成形品。
【請求項11】
ASTM D1003の基準によるヘイズ(haze)値が、5〜20であることを特徴とする、請求項10に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂は、耐衝撃性および加工性に
優れており、機械的強度、熱変形温度、光沢度などが良好で、電気・電子部品、事務用機
器などに広範囲に使用されている。しかし、LCD、PDPテレビ、オーディオなどのよ
うな高級家電用ハウジングに使用される場合、射出成形や使用中にスクラッチが発生しや
すく、また、高級質感のカラーの発現が困難で、製品価値が低下する問題がある。
【0003】
これを解決するために、ABS樹脂の射出品の表面にウレタンなどで塗装を含めたUV
コーティング処理をしたり、スクラッチ特性に優れたアクリル系樹脂をコーティングした
りしてきた。しかし、このような作業は、追加的な後加工工程の追加により、作業の複雑
性や不良率の増加などの生産性が低下する問題と、塗装による環境汚染問題が伴っている
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐候性に優れるASA樹脂は、建築資材用、自動車外装用途などに多様に使用される汎
用性樹脂であるものの、耐スクラッチ特性に優れておらず、これと共に、不透明な樹脂の
特性により着色性の限界を持つ。
【0005】
一方、ABS/PMMA樹脂は、透明性に優れていて、高着色、高光沢のカラー感の発
現や、PMMA処方による高い耐スクラッチ特性により無塗装用途の家電ハウジングに使
用できるが、耐候性が低下するという欠点がある。
【0006】
本発明の一実施形態は、耐候性および耐スクラッチ特性に優れる透明な熱可塑性樹脂組
成物を提供する。
【0007】
本発明の他の実施形態は、前記熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、グラフトアクリル系共重合体(A);芳香族ビニル−シアン化
ビニル系共重合体(B);およびポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)を含み、
前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)は、5〜25重量%のシアン化ビニ
ル化合物から誘導されるユニットを含む、熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0009】
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記グラフトアクリル系共重合体(A)100重量部に対
して、前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)50〜200重量部を含むこ
とができる。
【0010】
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記グラフトアクリル系共重合体(A)100重量部に対
して、前記ポリアルキル(メタ)アクリレート(C)50〜300重量部を含むことがで
きる。
【0011】
前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)および前記ポリアルキル(メタ)
アクリレート(C)の含有量の比は、6:4〜3:7であってもよい。
【0012】
前記グラフトアクリル系共重合体(A)は、アクリル系ゴム状重合体に、前記芳香族ビ
ニル系単量体、前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体またはこれらの組み合わ
せがグラフト重合された共重合体、またはこれらの2種以上の組み合わせであってもよい
【0013】
前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体は、シアン化ビニル化合物を含み、該
シアン化ビニル化合物は、前記アクリル系ゴム状重合体にグラフト重合される単量体総量
中、20〜30重量%の含有量で含むことができる。
【0014】
前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)は、スチレンおよびアクリロニト
リルの共重合体、α−メチルスチレンおよびアクリロニトリルの共重合体、またはスチレ
ン、α−メチルスチレンおよびアクリロニトリルの共重合体であってもよい。
【0015】
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)は、C1〜C10のアルキル基を有
するアルキル(メタ)アクリレートであって、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メ
タ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒ
ドロキシエチル(メタ)アクリレートまたはこれらの組み合わせの重合体であってもよい
【0016】
前記熱可塑性樹脂組成物は、染料、顔料、難燃剤、充填剤、安定剤、滑剤、抗菌剤、離
型剤またはこれらの組み合わせを含む添加剤をさらに含むことができる。
【0017】
本発明の他の実施形態は、前記熱可塑性樹脂組成物を用いて製造された、成形品を提供
する。
【0018】
前記成形品は、ASTM D1003の基準によるヘイズ(haze)値が5〜20で
あってもよい。
【0019】
その他の本発明の態様の具体的な事項は、以下の詳細な説明に含まれている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、前記熱可塑性樹脂組成物は、耐候性および耐スクラッチ特性に優れ、
かつ、高い透明特性を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、これは例として提示されるもので
あり、これによって本発明が制限されるわけではなく、本発明は後述する特許請求の範囲
の範疇によってのみ定義される。
【0022】
本明細書において、特別な言及がない限り、「置換」とは、化合物中の水素原子が、ハ
ロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ア
ジド基、アミジノ基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、カルボニル基、カルバミル基、チオ
ール基、エステル基、カルボキシル基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、リン酸
基またはその塩、C1〜C20のアルキル基、C2〜C20のアルケニル基、C2〜C2
0のアルキニル基、C1〜C20のアルコキシ基、C6〜C30のアリール基、C6〜C
30のアリールオキシ基、C3〜C30のシクロアルキル基、C3〜C30のシクロアル
ケニル基、C3〜C30のシクロアルキニル基、またはこれらの組み合わせの置換基で置
換されることを意味する。
【0023】
本明細書において、特別な言及がない限り、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリ
レート」および「メタクリレート」の両方を含むことを意味する。また、「(メタ)アク
リル酸アルキルエステル」とは、「アクリル酸アルキルエステル」および「メタクリル酸
アルキルエステル」の両方を含むことを意味し、「(メタ)アクリル酸エステル」は、「
アクリル酸エステル」および「メタクリル酸エステル」の両方を含むことを意味する。
【0024】
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、(A)グラフトアクリル系共重合体
、(B)芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体、および(C)ポリアルキル(メタ)
アクリレート樹脂を含む。前記熱可塑性樹脂組成物は、グラフトアクリル系共重合体を含
む汎用樹脂組成物であって、建築資材用、自動車用外装用などの多様な用途への適用が容
易であると共に、透明性を確保し、耐スクラッチ特性を向上させたものである。以下、前
記熱可塑性樹脂組成物に含まれる各成分について、具体的に説明する。
【0025】
(A)グラフトアクリル系共重合体
前記グラフトアクリル系共重合体(A)は、アクリル系ゴム状重合体に、芳香族ビニル
系単量体および/または前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体をグラフト重合
させた共重合体である。好ましくは、前記アクリル系ゴム状重合体がコアを形成し、前記
芳香族ビニル系単量体および/または前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体が
前記コアにグラフト重合されながらシェルを形成し、前記グラフトアクリル系共重合体(
A)はコア−シェル構造を形成することができる。
【0026】
前記アクリル系ゴム状重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アク
リル酸エステルまたはこれらの組み合わせなどを含んで重合されたものであってもよい。
前記アルキルは、C1〜C10のアルキルであってもよい。前記(メタ)アクリル酸アル
キルエステルの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート
、ブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、前記(メタ)アクリル酸エステルの例と
しては、(メタ)アクリレートなどのアクリル系単量体が挙げられるが、これらに限定さ
れない。
【0027】
前記アクリル系ゴム状重合体は、実現しようとする物性によって、単一層、二重層また
はこれらの組み合わせを含むコア構造を有することができる。具体的には、前記アクリル
系ゴム状重合体は、前記アクリル系単量体を含む単一層のゴムコアを含むことができる。
または、前記アクリル系ゴム状重合体は、前記アクリル系単量体および芳香族ビニル化合
物を含む内部層と、前記アクリル系単量体を含む外部層とを有する二重層のゴムコアを含
むことができる。二重層のゴムコアを使用することで、耐候性、耐衝撃性などを維持しな
がら、着色性と光沢性をより向上させることができ、例えば、光学特性の側面で優れた効
果を得るために、アクリル系単量体およびビニル化合物を含む内部層を有する二重層のゴ
ムコアを含むアクリル系ゴム状重合体を使用することができる。
【0028】
前述のように、前記二重層のゴムコアは、内部層と外部層とから構成できる。例えば、
前記内部層は、アクリル酸アルキルエステル化合物および芳香族ビニル化合物を含み、前
記外部層は、アクリル酸アルキルエステル化合物を含む。
【0029】
前記アクリル酸アルキルエステル化合物は、C1〜C10のアルキルアクリレートであ
ってもよく、例えば、メチルアクリレート、ブチルアクリレートなど、またはこれらの組
み合わせを使用することができる。
【0030】
前記芳香族ビニル化合物は、スチレン、C1〜C10のアルキル置換スチレン、ハロゲ
ン置換スチレンなど、またはこれらの組み合わせを使用することができる。前記アルキル
置換スチレンの例としては、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチ
レン、α−メチルスチレンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
前記内部層は、具体的には、前記アクリル酸アルキルエステル化合物および前記芳香族
ビニル化合物の共重合体であってもよい。前記内部層のアクリル酸アルキルエステル化合
物および芳香族ビニル化合物の重量比が95:5〜80:20であってもよく、この範囲
の重量比で含まれると、所定の用途に適した耐候性、耐衝撃性、光沢および着色性の側面
の性能の組み合わせを得ることができる。
【0032】
他の実施形態において、前記内部層および外部層の重量比は、20:80〜70:30
であってもよい。前記範囲の重量比であれば、所定の用途に適した物性バランスを得るこ
とができる。
【0033】
前記アクリル系ゴム状重合体は、前記単一層のゴムコアを含むアクリル系共重合体と、
前記二重層のゴムコアを含むアクリル系共重合体とを混合して使用することもできる。例
えば、前記単一層のゴムコアを含むアクリル系共重合体および前記二重層のゴムコアを含
むアクリル系共重合体は、20:80〜80:20の重量比で混合されてもよく、25:
75〜75:25の重量比で混合されると好ましい。前記比率範囲内で混合されると、ア
クリル系熱可塑性樹脂組成物は着色性に優れる。
【0034】
前記アクリル系ゴム状重合体にグラフト重合される単量体は、芳香族ビニル系単量体お
よび/または前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体を含む。前述のように、好
ましくは、前記芳香族ビニル系単量体および/または前記芳香族ビニル系単量体と共重合
可能な単量体は、前記アクリル系ゴム状重合体にグラフト重合されてシェルを形成するこ
とができる。
【0035】
前記芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、C1〜C10のアルキル置換スチレン
、ハロゲン置換スチレンなど、またはこれらの組み合わせを使用することができる。前記
アルキル置換スチレンの例としては、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エ
チルスチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。
【0036】
前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体として、シアン化ビニル化合物、ヘテ
ロ環化合物などが用いられる。
【0037】
前記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタク
リロニトリルなど、またはこれらの組み合わせが用いられる。
【0038】
前記ヘテロ環化合物としては、無水マレイン酸、アルキルまたはフェニルN−置換マレ
イミドなど、またはこれらの組み合わせが用いられる。
【0039】
前記芳香族ビニル系単量体および/または前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単
量体として、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、ヘテロ環化合物など、または
これらの組み合わせを使用することができ、これらのうち、好ましくは、芳香族ビニル化
合物およびシアン化ビニル化合物の混合物または共重合体を使用することができる。前記
芳香族ビニル化合物および前記シアン化ビニル化合物は、60〜90重量%および10〜
40重量%になると好ましい。例えば、前記アクリル系ゴム状重合体にグラフト重合され
る単量体総量中、前記シアン化ビニル化合物の含有量が20〜30重量%であると好まし
い。
【0040】
前記グラフトアクリル系共重合体(A)は、コア構造を形成できるアクリル系ゴム状重
合体70〜30重量%、およびシェル構造を形成できるグラフト重合可能な重合体30〜
70重量%を含むことができ、具体的には60〜40重量%のゴムコアおよび40〜60
重量%のシェルを含むグラフトアクリル系共重合体(A)であってもよい。前記グラフト
アクリル系共重合体(A)が前記含有量範囲内となると、前記熱可塑性樹脂組成物は着色
性に優れる。
【0041】
前記ゴムの平均粒径は、0.07〜0.30umであってもよい。前記アクリル系ゴム
状重合体は、ゴムの平均粒径と異なるアクリル系ゴム状重合体を混合したバイモーダル(
bi−modal)形態で使用されてもよい。例えば、ゴムの平均粒径0.4〜0.7μ
mの大粒径のアクリル系ゴム状重合体と、ゴムの平均粒径0.1〜0.3μmの小粒径の
アクリル系ゴム状重合体とを混合して使用することができる。このように、大粒径/小粒
径のアクリル系ゴム状重合体が混在したバイモーダル(bi−modal)形態で使用す
ると、大粒径のゴム粒子は衝撃を直接的に吸収する役割を果たし、小粒径のゴム粒子は大
粒径ゴムの間ごとに衝撃を分散させる役割を果たすことで、ゴムの粒径を1つの種類での
み使用するユニモーダル(uni−modal)タイプに比べて、実用的な衝撃を改善す
ることができる。
【0042】
前記グラフトアクリル系共重合体(A)は、乳化重合、懸濁重合、溶液重合または塊状
重合の方法で製造できる。
【0043】
(B)芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体
前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)は、芳香族ビニル化合物およびシ
アン化ビニル化合物の共重合体である。
【0044】
前記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、C1〜C10のアルキル置換スチレン、
ハロゲン置換スチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレンまたはこれらの組み合わせを
使用することができる。前記アルキル置換スチレンの具体例としては、α−メチルスチレ
ン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレ
ン、p−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレンなどが挙げられる。
【0045】
前記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタク
リロニトリルまたはこれらの組み合わせが用いられる。
【0046】
前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)の具体例としては、スチレンおよ
びアクリロニトリルの共重合体;α−メチルスチレンおよびアクリロニトリルの共重合体
;またはスチレン、α−メチルスチレンおよびアクリロニトリルの共重合体が挙げられ、
好ましくは、スチレンおよびアクリロニトリルの共重合体が挙げられる。
【0047】
前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)は、芳香族ビニル系化合物および
シアン化ビニル系化合物と共に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルをさらに含んで重
合されたものであってもよい。
【0048】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、炭素原子数1〜10のアルキル基を有す
る(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。例えば、メチルメタクリ
レート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ペン
チルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタ
クリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチル
アクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、
オクチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレートなど、またはこれらの組み合わせが
使用可能であるが、これらに制限されるわけではない。
【0049】
前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)内に含まれているシアン化ビニル
化合物から誘導されるユニット(unit)の含有量を比較的に低下させて、透明性の特
性を実現することができるが、耐薬品性などの他の物性の側面と相補的な関係(trad
e−off)にあるため、適当な含有量範囲で含まれなければならない。前記芳香族ビニ
ル−シアン化ビニル系共重合体(B)は、5〜25重量%のシアン化ビニル化合物から誘
導されるユニットを含むことができる。例えば、前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共
重合体は、15〜20重量%のシアン化ビニル化合物から誘導されるユニットを含むこと
ができる。前記範囲を満足するシアン化ビニル化合物から誘導されるユニットを含む熱可
塑性樹脂組成物は、全体含有量中、シアン化ビニル化合物から誘導されるユニットの含有
量が比較的に低く含まれることによって、透明性の特性を確保することができる。例えば
、前記範囲を満足する含有量のシアン化ビニル化合物から誘導されるユニットを含む芳香
族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)を含む熱可塑性樹脂組成物は、5〜20のヘ
イズ(haze)値を有するように実現できる。
【0050】
前記芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)は、重量平均分子量が60,00
0〜150,000の範囲を有することができる。
【0051】
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記グラフトアクリル系共重合体(A)100重量部に対
して、50〜200重量部の含有量の芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)を
含むことができる。
【0052】
(C)ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)は、加水分解に強く、熱可塑性樹脂
組成物の耐スクラッチ性を向上させることができる。
【0053】
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)は、アルキル(メタ)アクリレート
を含む原料単量体を、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などの公知の重合法によって
重合して得られる。
【0054】
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)の単量体であるアルキル(メタ)ア
クリレートは、C1〜C10のアルキル基を有するものであって、メチル(メタ)アクリ
レート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ
)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0055】
この時、前記アルキル(メタ)アクリレートは、前記ポリアルキル(メタ)アクリレー
ト樹脂(C)の総量に対して、50重量%以上含まれると好ましく、具体的には80〜9
9重量%で含まれると好ましい。前記含有量で含まれると、得られる成形品の耐熱性が向
上され、前述したグラフトアクリル系共重合体(A)および芳香族ビニル−シアン化ビニ
ル系共重合体(B)との分子間相互作用が増加して親和性が向上されるため、耐加水分解
性および耐スクラッチ性が改善される。
【0056】
前記原料単量体は、前記アルキル(メタ)アクリレートのほか、ビニル系単量体をさら
に含むことができる。前記ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p
−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルな
どの不飽和ニトリル単量体などを使用することができ、これらを単独または混合して使用
することができる。
【0057】
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)は、重量平均分子量が10,000
〜200,000g/molの範囲を有することができ、具体的には15,000〜15
0,000g/molの範囲を有することができる。ポリアルキル(メタ)アクリレート
樹脂(C)の重量平均分子量が前記範囲内の場合、前述したグラフトアクリル系共重合体
(A)および芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)との相溶性に優れ、耐加水
分解性、耐スクラッチ性、加工性などに優れる。
【0058】
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)は、芳香族ビニル−シアン化ビニル
系共重合体(B)との含有量の比を調節し、前記熱可塑性樹脂組成物の透明性の特性を維
持しながら、耐スクラッチ特性および耐候性のバランスを調節することができる。例えば
、前記熱可塑性樹脂組成物において、芳香族ビニル−シアン化ビニル系共重合体(B)お
よびポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)の重量比は、6:4〜3:7であるこ
とができ、好ましくは6:4〜4:6である。
【0059】
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記グラフトアクリル系共重合体(A)100重量部に対
して、50〜300重量部の含有量でポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂を含むこと
ができる。ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂を前記範囲以内で使用すると、加工性
、耐加水分解性、耐スクラッチ性などに優れる。
【0060】
(D)その他の添加剤
前記熱可塑性樹脂組成物は、射出成形性および物性バランスなどをさらに付与するため
に、追加的な添加剤(D)をさらに含むことができる。
【0061】
例えば、前記熱可塑性樹脂組成物は、染料、顔料、難燃剤、充填剤、安定剤、滑剤、抗
菌剤、離型剤などの添加剤をさらに含むことができ、これらは単独または2種以上を混合
して使用可能である。
【0062】
前記添加剤(D)は、前記熱可塑性樹脂組成物の物性を阻害しない範囲内で適切に含ま
れるとよく、具体的には、前記グラフトアクリル系共重合体(A)100重量部に対して
、40重量部以下で含まれてもよく、より具体的には0.1〜30重量部で含まれると好
ましい。
【0063】
以上、前記熱可塑性樹脂組成物に含まれる各構成成分について説明し、各構成成分の例
示的な含有量を記載したが、最終的に実現しようとする熱可塑性樹脂組成物の物性によっ
て、各構成成分の内在的な固有の特徴を考慮して適切に加減した含有量によって、熱可塑
性樹脂組成物を実現することができる。
【0064】
前記熱可塑性樹脂組成物は、樹脂組成物を製造する公知の方法で製造することができる
。例えば、一実施形態にかかる構成成分とその他の添加剤を同時に混合した後に、押出機
内で溶融押出して、ペレット形態で製造することができる。
【0065】
他の実施形態によれば、前述した熱可塑性樹脂組成物を成形して製造した成形品を提供
する。前記成形品は、具体的には、機械的物性、熱的特性および成形性が要求される、サ
イズが大きいか、複雑な構造であるか、厚さの薄い成形品が挙げられ、より具体的には、
自動車外装材などが挙げられる。
【0066】
以下、本発明の好ましい実施例を記載する。ただし、下記の実施例は本発明の好ましい
一実施形態に過ぎず、本発明が下記の実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
下記の実施例の熱可塑性樹脂組成物の製造に使用される各構成成分は次の通りである。
【0068】
(A−1)グラフトアクリル系共重合体:
ブチルアクリレートおよびスチレンが共重合された内部コアと、ブチルアクリレートゴ
ムからなる外部コアとで構成された二重コア構造のブチルアクリレートゴム50重量部に
対して、アクリロニトリル33重量%およびスチレン67重量%からなる単量体混合物5
0重量部を、グラフト乳化重合して製造された二重コア−シェル形態の、グラフトASA
樹脂。
【0069】
(A−2)(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分が含まれているコア−シェル構造
のグラフトMABS樹脂:
メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体であり、コ
ア−シェル構造であり、シェルは、内郭シェルと外郭シェルとからなり、組成としては、
ブタジエンゴム55重量部、メチルメタクリレート33重量部、アクリロニトリル3重量
部、スチレン9重量部からなる、グラフトMABS樹脂。
【0070】
(B−1)スチレン−アクリロニトリル共重合体:
アクリロニトリル含有量が20重量%およびスチレン含有量が80重量%であり、重量
平均分子量が100,000である、SAN樹脂。
【0071】
(B−2)メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリル共重合体:
アクリロニトリル含有量が20重量%、スチレン含有量が65重量%、およびメタクリ
レート含有量が15重量%であり、重量平均分子量が100,000である、MSAN樹
脂。
【0072】
(B−3)スチレン−アクリロニトリル共重合体:
アクリロニトリル含有量が15重量%およびスチレン含有量が85重量%であり、重量
平均分子量が120,000である、SAN樹脂。
【0073】
(B−4)スチレン−アクリロニトリル共重合体:
アクリロニトリル含有量が32重量%およびスチレン含有量が68重量%であり、重量
平均分子量が120,000である、SAN樹脂。
【0074】
(B−5)アルファメチルスチレン−アクリロニトリル共重合体:
アクリロニトリル含有量が30重量%およびアルファメチルスチレン含有量が70重量
%であり、重量平均分子量が120,000である、SAN樹脂。
【0075】
(C)ポリメチルメタクリレート:
メチルメタクリレートからなる、重量平均分子量が110,000である、PMMA樹
脂。
【0076】
実施例1〜6および比較例1〜5
前記言及された構成成分を用いて、下記の表1に示す組成により、各実施例1〜6およ
び比較例1〜7による熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0077】
下記の表1に示す組成の各熱可塑性樹脂組成物にその他の添加剤を投入し、押出/加工
して、ペレット形態の熱可塑性樹脂を製造した。押出は、L/D=29、直径45mmの
二軸押出機を用いており、バレル温度は230℃に設定した。製造されたペレットを80
℃で2時間乾燥後、6oz射出成形機を用いて、シリンダ温度240℃、金型温度60℃
に設定して、物性試験片および9cm×5cm×0.2cmの大きさの耐スクラッチ性、
光学特性および耐候性測定用試験片を製造した。
【0078】
試験例1:機械的物性の測定
前記製造された物性試験片は、下記の方法で物性を測定し、その結果を下記の表2に示
した。
【0079】
(1)透過率およびヘイズ(haze):ASTM D1003の基準によって測定し
た。
【0080】
(2)BSP(Ball type Scratch Profile)幅:Chei
l methodに準じて、直径0.7mmの、先端が円球形状のタングステンカーバイ
ドスタイラス(stylus)を用いて、それぞれ300g、500gおよび1000g
の荷重を付与し、75mm/minの速度で試験片にスクラッチを付与した後、表面粗度
測定器(surface profiler)を用いて、照度の観測およびスクラッチ幅
(scratch width)の測定を行った。
【0081】
(3)鉛筆硬度:硬度に応じた鉛筆で500gの重りを載せて、10mm/sの速度で
5回鉛筆を押してスクラッチが発生しない時の硬度値(JIS K5401で定める鉛筆
および鉛筆硬度測定)
(4)耐候性:SAE J1960に基づいて測定(3,000時間、ΔE)
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
前記実施例1〜6において、いずれも優れたヘイズ特性および耐スクラッチ特性を示し
ている。これに対して、比較例3以外の比較例は、透明性およびヘイズの特性が非常に低
下したことを確認することができ、比較例3は、透明性およびヘイズの特性を満足するも
のの、耐候性が大きく低下して物性バランスを維持することができなかった。
【0085】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造
可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的
思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施可能であることを理解する
ことができる。そのため、以上に述べた実施形態は、あらゆる面で例示的なものであり、
限定的ではないと理解しなければならない。