(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した特許文献1に記載の歯科用椅子では、レッグレストが座部の下部内側に折れ込むように構成されているため、患者は、歯科用椅子に乗降する際に、足の踵を座部の下方へ挿入することができる。このため、患者は、起立および着座が容易となり、歯科用椅子に対して乗降し易くなる。
【0006】
しかしながら、例えば小柄な女性のように大腿部が比較的短い患者が歯科用椅子に対して乗降する場合、膝裏に座部が干渉してしまうおそれがある。この場合、患者は、そのままでは膝を折り曲げて踵を座部の下方へ挿入することが困難であるため、座り直すなど体を移動させながら、歯科用椅子への乗降を行う必要がある。
【0007】
本発明は、前記した事情に鑑みてなされたものであり、患者の身体的特徴にかかわらず、より容易に乗降することができる歯科用椅子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、患者が着座する座部と、患者の脚部を支えるレッグレストと、を備える歯科用椅子であって、前記レッグレストは、前記座部の前端縁の近傍に設けられた回動軸の周りで回動可能に支持されているとともに、前記歯科用椅子への患者の乗降時において先端側が基端側よりも後方に入り込んで鉛直下方に対して傾斜するように構成されており、前記座部の前端縁は、該座部の前端縁に沿う方向である幅方向の中央部の方が前記幅方向の両端部よりも後方にえぐれて
おり、前記レッグレストの表面は、前記幅方向の中央部の方が前記幅方向の両端部よりも該レッグレストの裏面側に向けてへこむように湾曲していることを特徴とする。
【0009】
このような構成では、歯科用椅子への患者の乗降時においてレッグレストはその先端側が基端側よりも後方に入り込んでいるため、患者は、足の踵を座部の下方へ引いて挿入することができる。しかも、座部の前端縁の幅方向の中央部が後方にえぐれているため、例えば小柄な女性のように大腿部が比較的短い患者であっても、膝裏に座部が干渉してしまうことなく、膝を折り曲げて足の膝から先を後方に引くことができる。したがって、患者は、大腿部の長さにかかわらず、足の踵を膝よりも後方に引いてスムーズに体重移動することができ、起立および着座が容易となる。
すなわち、本発明によれば、患者の身体的特徴にかかわらず、より容易に乗降することができる歯科用椅子を提供できる。
また、患者が歯科用椅子上で診療を受ける際には、大腿部の長さにかかわらず、膝裏に座部が干渉することがないため、患者の足は歯科用椅子に良好にフィットする。したがって、患者は快適に診療を受けることができる。
また、歯科用椅子への患者の乗降時においてレッグレストの先端側を基端側よりも後方に入り込ませたとき、レッグレストの表面の幅方向の中央部が後方に向けてへこんだ状態となる。つまり、上方から見て、座部の前端縁と、レッグレストの表面とは、同じように幅方向の中央部が後方にえぐれたラインを描く。したがって、患者は、歯科用椅子に対する乗降時に、足の踵を座部の下方へ確実に引くことができるため、起立および着座がより容易となる。このため、歯科用椅子に対してより容易に乗降することが可能となる。
【0012】
前記歯科用椅子において、前記座部は、該座部の少なくとも前側において、前記幅方向の両端部が前記幅方向の中央部よりも高く設定されていることが好ましい。
【0013】
このような構成では、座部の少なくとも前側は、幅方向の両端部が中央部よりも高くなったいわゆるバケットシート形状を呈している。したがって、患者は、歯科用椅子上で診療を受ける際に、患者の大腿部から膝付近がバケットシート形状となった部分で支えられる。このため、患者の大腿部から膝付近を左右から包み込んで体を保持することが可能となり、特に女性の患者の場合には診療中に足が開くことを防ぐことができる。したがって、患者は快適に診療を受けることができる。
【0014】
前記歯科用椅子において、患者の腕部を支える一対のアームレストを備え、略水平な状態にある前記アームレストの先端は、前記座部の前端縁の中央部よりも前方に位置していることが好ましい。
【0015】
このような構成では、歯科用椅子への患者の乗降時の際に、患者は、アームレストの前方部分に手を置いて体重をかけることができるため、起立および着座がより容易となる。このため、歯科用椅子に対してより容易に乗降することが可能となる。
【0016】
前記歯科用椅子において、前記座部は、該座部の前側における前記幅方向の寸法が一対の前記アームレストの間の寸法よりも大きく設定されていることが好ましい。
【0017】
このような構成では、座部の前側の幅方向の寸法が大きくなっているため、例えば大柄な患者であっても、患者の大腿部から膝付近を十分に余裕を持って支えることができる。したがって、患者は快適に診療を受けることができる。
【0018】
前記歯科用椅子において、前記座部は、該座部の後側における前記幅方向の中央部に位置され患者の臀部を受ける臀部受け部を有し、前記座部の前記幅方向の中心を通る鉛直断面における該座部の表面の高さは、前記歯科用椅子への患者の乗降時において、前記臀部受け部から前方に向かって一旦高くなってから低くなるように設定されていることが好ましい。
【0019】
このような構成では、患者の臀部を臀部受け部において包み込んで保持するとともに、患者の大腿部から膝付近にかけて滑らかなラインに沿って支持することができる。したがって、患者は快適に診療を受けることができる。また、座部の表面の高さが前端部で低くなっているため、歯科用椅子に対してより容易に乗降することが可能となる。
【0020】
前記歯科用椅子において、前記レッグレストは、弾性体を含むクッション部と、前記クッション部が取り付けられているレッグレスト支持部と、前記歯科用椅子への患者の乗降時において前記レッグレスト支持部内に収納されているレッグアシストと、前記レッグレストの先端部が持ち上げられる運動に連動して前記レッグアシストを前記レッグレスト支持部の先端に設けられた開口部から進出させるレッグアシスト連動機構部と、を有することが好ましい。
【0021】
このような構成では、レッグレストの先端部が持ち上げられると、レッグアシスト連動機構部によってレッグアシストがレッグレスト支持部の先端に設けられた開口部から進出する。これにより、通常はレッグアシストをレッグレスト支持部内に収納してコンパクトな構成としつつ、レッグレストの先端部を持ち上げて該レッグレストで患者の脚部を支えるときには、レッグアシストを開口部から進出させて患者の踵を支えることができる。したがって、患者は快適に診療を受けることができる。
【0022】
前記歯科用椅子において、前記レッグアシスト連動機構部は、前記座部の下面側に対して一端側が回動可能に連結されたレッグアシスト用リンクと、前記レッグアシスト用リンクの他端側が回動可能に連結され前記レッグレスト支持部内で往復移動可能に支持されている移動体と、前記レッグレスト支持部の基端側に向かう前記移動体の移動を前記レッグレスト支持部の先端側に向かう前記レッグアシストの移動に変換する変換機構部と、前記レッグレスト支持部の基端側に向かう前記移動体の移動を規制するストッパと、を有し、前記座部の下面側に設けられたピンが、前記レッグアシスト用リンクの前記一端側に該レッグアシスト用リンクの長手方向に沿って形成された長孔に挿入されており、前記レッグアシスト用リンクを該レッグアシスト用リンクの前記一端側へ長手方向に沿って付勢する付勢手段が設けられていることが好ましい。
【0023】
このような構成では、レッグレストの回動にともなって、長孔にピンが挿入された状態で付勢部材によって長手方向にピン側へ付勢されたレッグアシスト用リンクを介して、移動体がレッグレスト支持部内で往復移動させられる。これにより、レッグアシストがレッグレスト支持部の開口部に対して進退移動させられる。
より詳細には、レッグレストの先端部が持ち上がるように該レッグレストが回動させられると、長孔にピンが挿入された状態で付勢部材によって長手方向にピン側へ付勢されたレッグアシスト用リンクに引っ張られることによって、移動体がレッグレスト支持部内で基端側に移動させられる。そして、移動体が基端側に移動させられると、変換機構部によって、レッグアシストがレッグレスト支持部の開口部から進出させられる。
一方、レッグレストの先端部が下がるように該レッグレストが回動させられると、レッグアシスト用リンクに押されることによって、移動体がレッグレスト支持部内で先端側に移動させられる。そして、移動体が先端側に移動させられると、変換機構部によって、レッグアシストがレッグレスト支持部内へ退避させられる。
ここで、レッグレストの先端側が基端側よりも後方に入り込んだ状態から持ち上げられて該レッグレストが最も寝た状態にまで回動する間、レッグアシストが進出し続けるとすれば、レッグアシストのストローク長はかなり長くなる。しかし、レッグアシストの長さはレイアウト上制限を受けるため、レッグアシストのストローク長は、それほど長くすることはできない。そこで、座部の下面側に設けられたピンが挿入されるレッグアシスト用リンクの孔を長孔としている。これにより、レッグアシストの進退移動に連動する移動体が基端側に移動してストッパに当接して停止した後には、レッグアシスト用リンクがレッグレストの回動にしたがって先端側に引っ張られ、長孔にピンが挿入された状態で長孔の部分がピンに対して先端側に移動する。つまり、レッグアシスト用リンクの一端側の孔を長孔とし、移動体がストッパに突き当たった後には長孔内でピンが相対的に移動することによって、レッグアシスト用リンクが先端側に引っ張られる際の変位を吸収することができる。
また、付勢部材によってレッグアシスト用リンクを長手方向にピン側へ付勢しているため、移動体がストッパに当接する前に長孔の部分がピンに対して先端側に移動してレッグアシストの進出を阻害してしまうことはない。したがって、レッグレストの回動にともなって、レッグアシストを効率良く迅速に進出させることができる。
このように、レッグアシストのストローク長にかかわらずレッグレストを最も寝た状態にまで回動させることができ、しかもレッグレストを寝かせる方向へ回動させ始めた時点からいち早くレッグアシストを進出させて患者の踵を素早く支持することができる。したがって、患者はより快適に診療を受けることができる。
【0024】
前記歯科用椅子において、前記変換機構部は、前記移動体に対して一端側が回動可能に連結された第1変換用リンクと、前記第1変換用リンクの他端側に対して一端側が回動可能に連結された第2変換用リンクと、前記第2変換用リンクの他端側に対して一端側が回動可能に連結された第3変換用リンクと、を有し、前記第2変換用リンクの一端側と他端側との間の部分が前記レッグレスト支持部に対して回動可能に連結されており、前記第3変換用リンクの他端側が前記レッグアシストに対して回動可能に連結されていることが好ましい。
【0025】
このような構成では、コンパクトで簡易な変換機構部の構成によって、レッグレスト支持部の基端側に向かう移動体の移動を、レッグレスト支持部の先端側に向かうレッグアシストの移動に変換することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、患者の身体的特徴にかかわらず、より容易に乗降することができる歯科用椅子を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を適宜省略する。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る歯科用椅子1を示す斜視図である。
図2は、
図1に示される歯科用椅子1の正面図である。
図3は、
図1に示される歯科用椅子1の側面図である。
図4は、
図1に示される歯科用椅子1の平面図である。
図5は、
図4のV−V線に沿う部分断面図である。ここで、各図において、歯科用椅子1に座った患者が向く正面側を「前」、患者の背面側を「後」、患者の左右方向を「幅方向」とする。
【0030】
図1〜
図4に示すように、本実施形態に係る歯科用椅子1は、歯科診療に用いられる椅子である。歯科用椅子1は、台座2と、該台座2に支持されるとともに患者が着座する座部3と、座部3に着座した患者の背部を支えるバックレスト4と、バックレスト4に支持されるとともに患者の頭部を支えるヘッドレスト5と、患者の脚部を支えるレッグレスト6と、を備えている。
【0031】
バックレスト4、座部3、およびレッグレスト6は、台座2内に配置された上台ベース2a(
図6(a)参照)に支持されている。上台ベース2aは、台座2内の上台ベース2aの下方に設けられた高さ調整機構部(図示せず)によって上下方向に移動させられるように構成されている。したがって、座部3は、高さ調整機構部の駆動手段によって駆動されて、台座2に対して上下方向で位置調整され得る。
【0032】
バックレスト4は、歯科用椅子1への患者の乗降時においてバックレスト4が最も起きた状態となる起き位置(
図1〜
図4、
図6参照)と、バックレスト4が最も寝た状態となる最寝位置(
図10参照)と、の間で連続的に傾動可能に構成されている。
【0033】
また、本実施形態では、後記する姿勢連動機構部7(
図6(a)参照)によって、バックレスト4の傾動に連動して、座部3およびレッグレスト6を傾動させることが可能に構成されている。
【0034】
図3に示すように、座部3は、クッション部31と、クッション部31が取り付けられている座部支持部32(
図6(a)参照)と、を有している。
【0035】
図5に示すように、クッション部31は、座部支持部32に固定されている芯材31aと、芯材31a上に配置されている発泡ウレタン等から構成されている弾性体31bと、弾性体31bを覆う表皮31cとを備えている。
【0036】
座部3は、該座部3の後側における幅方向の中央部に位置され患者の臀部を受ける臀部受け部33を有している。座部3の幅方向の中心を通る鉛直断面(
図5参照)における該座部3の表面の高さは、歯科用椅子1への患者の乗降時において、臀部受け部33から前方に向かって一旦高くなってから低くなるように設定されている。
【0037】
図4に示すように、座部3の前端縁34は、該座部3の前端縁34に沿う方向である幅方向の中央部の方が幅方向の両端部よりも後方に長さ寸法L1だけえぐれている。長さ寸法L1は、例えば50〜100mm程度であるが、これに限定されるものではない。前端縁34の中央部の後方へのえぐれによって、幅方向の中央部において、バックレスト4の下部前面から座部3の前端縁34までの長さ寸法L2は通常よりも短くなっている。このため、小柄な女性のように大腿部が比較的短い患者であっても、座部3に着座したときに膝裏が前端縁34よりも前方に位置することになる。
【0038】
また、歯科用椅子1は、患者の腕部を支える一対のアームレスト10を備えている。通常、一対のアームレスト10のうちの、患者出入り側の方のアームレストは、軸12(
図3も参照)の周りで、先端部が前方に向く略水平な状態(
図3、
図4に示す状態)から、先端部が上方に向く略直立状態まで回動可能となっており、他方のアームレストは、略水平な状態に固定されている。略水平な状態にあるアームレスト10の先端は、座部3の前端縁34の中央部よりも前方に位置している。座部3は、該座部3の前側における幅方向の寸法W1が一対のアームレストの間の寸法W2よりも大きく設定されている。
【0039】
図1〜
図2に示すように、座部3は、該座部3の前側において、幅方向の両端部が幅方向の中央部よりも高くなったいわゆるバケットシート形状を呈している。また、座部3の後側の臀部受け部33(
図4参照)付近においても、幅方向の両端部が幅方向の中央部よりも高くなったいわゆるバケットシート形状を呈している。
【0040】
図3に示すように、バックレスト4は、クッション部41と、クッション部41が取り付けられているバックレスト支持部42(
図6(a)も参照)と、を有している。ヘッドレスト5は、クッション部51と、クッション部51が取り付けられているヘッドレスト支持部52と、を有している。また、レッグレスト6は、クッション部61と、クッション部61が取り付けられているレッグレスト支持部62(
図6(a)も参照)と、を有している。クッション部41,51,61は、クッション部31と同様に、芯材と、芯材上に配置されている発泡ウレタン等から構成されている弾性体と、弾性体を覆う表皮とを備えている。
【0041】
レッグレスト6は、座部3の前端縁の近傍に設けられた回動軸11の周りで回動可能に支持されている。そして、レッグレスト6は、歯科用椅子1への患者の乗降時、すなわちバックレスト4の起き位置において、先端側が基端側よりも後方に入り込んで鉛直下方に対して傾斜するように構成されている。歯科用椅子1への患者の乗降時におけるレッグレスト6の鉛直下方に対する後方への傾斜角度αは、例えばα=2〜8度程度であるが、これに限定されるものではない。
【0042】
図1に示すように、レッグレスト6の表面は、幅方向の中央部の方が幅方向の両端部よりも該レッグレスト6の裏面側に向けてへこむように湾曲している。
【0043】
図6(a)は、姿勢連動機構部7およびレッグアシスト連動機構部8を説明するための起き位置における側面図、
図6(b)は、
図6(a)の正面図である。
図7は、姿勢連動機構部7およびレッグアシスト連動機構部8を説明するための中途位置における側面図である。
図8は、
図7の前側上方から見た図である。
図9は、
図7の右前側上方から見た斜視図である。
図10は、姿勢連動機構部7およびレッグアシスト連動機構部8を説明するための最寝位置における側面図である。なお、
図6〜
図10において、クッション部31,41,51,61の図示を省略している。また、
図6(b)では、レッグアシスト63を想像線(二点鎖線)で示し、レッグアシスト63の背後の部分を実線で示している。
【0044】
図6に示すように、台座2(
図1参照)内の上台ベース2aの後端部に対して、座部支持部32の後端下部が、回動軸13の周りで回動可能に連結されている。また、座部支持部32の後端上部に対して、バックレスト支持部42に設けられたアーム部42aの先端部が、回動軸14の周りで回動可能に連結されている。また、座部支持部32の前端部に対して、レッグレスト支持部62の基端部が、回動軸11の周りで回動可能に連結されている。
【0045】
姿勢連動機構部7は、バックレスト4の傾動に連動して座部3およびレッグレスト6を傾動させる機能を有している。
姿勢連動機構部7は、第1傾動用リンク71と、第2傾動用リンク72と、第3傾動用リンク73と、第4傾動用リンク74と、を有している。第1傾動用リンク71の後端部は、バックレスト支持部42の前端部に対して、回動軸15の周りで回動可能に連結されている。第2傾動用リンク72の上端後部は、第1傾動用リンク71の前端部に対して、回動軸16の周りで回動可能に連結されている。第2傾動用リンク72の下端部は、上台ベース2aの前端部に対して、回動軸17の周りで回動可能に連結されている。第3傾動用リンク73の後端部は、第2傾動用リンク72の上端前部に対して、回動軸18の周りで回動可能に連結されている。第3傾動用リンク73の前端部は、レッグレスト支持部62に対して、回動軸19の周りで回動可能に連結されている。第4傾動用リンク74の後端部は、第2傾動用リンク72の長手方向中途部に対して、回動軸20の周りで回動可能に連結されている。第4傾動用リンク74の前端部は、座部支持部32の前側に対して、回動軸21の周りで回動可能に連結されている。
【0046】
図8に示すように、姿勢連動機構部7は、バックレスト支持部42の前端部を前後方向に移動させることによってバックレスト4を傾動させる駆動手段75を有している。駆動手段75は、バックレスト支持部42の前端部に回動可能に連結されたナット部75aと、ナット部75aに螺合されたねじ軸75bと、駆動源としての電動モータ75cと、座部支持部32の前端部に回動可能に連結され電動モータ75cの回転力をねじ軸75bに伝達する動力伝達部75dとを有している。すなわち、駆動手段75は、バックレスト支持部42の前端部と座部支持部32の前端部との間の距離を調整する機能を有する。
【0047】
図6に示すように、レッグレスト6(
図3等参照、以下同様)は、歯科用椅子1(
図3等参照、以下同様)への患者の乗降時において有底箱状のレッグレスト支持部62内に収納されているレッグアシスト63を有している。また、レッグレスト6は、レッグレスト6の先端部が持ち上げられる運動に連動してレッグアシスト63をレッグレスト支持部62の先端に設けられた開口部64から進出させるレッグアシスト連動機構部8を有している。レッグアシスト63は、レッグレスト支持部62内で、一対のガイド棒65に案内されながら往復移動可能に支持されている。レッグアシスト63の表面は、幅方向の中央部の方が幅方向の両端部よりも該レッグアシスト63の裏面側に向けてへこむように湾曲している(
図9参照)。
【0048】
レッグアシスト連動機構部8は、レッグアシスト用リンク81と、移動体82と、変換機構部9と、ストッパ83(
図8も参照)と、を有している。レッグアシスト用リンク81の一端側は、座部3(
図3等参照、以下同様)の下面側に対して、座部支持部32に設けられたピン84の周りで、回動可能に連結されている。レッグアシスト用リンク81の他端側は、移動体82に対して、回動軸22の周りで回動可能に連結されている。移動体82は、レッグレスト支持部62内で、一対のガイド棒85に案内されながら往復移動可能に支持されている。変換機構部9は、レッグレスト支持部62の基端側に向かう移動体82の移動をレッグレスト支持部62の先端側に向かうレッグアシスト63の移動に変換する。また、変換機構部9は、レッグレスト支持部62の先端側に向かう移動体82の移動をレッグレスト支持部62の基端側に向かうレッグアシスト63の移動に変換する。ストッパ83は、レッグレスト支持部62の基端側に向かう移動体82の移動を規制する。ストッパ83は、ここでは、ガイド棒85の基端側の端部に設けられており、移動体82はストッパ83に当接することによって移動が停止される。
【0049】
レッグアシスト用リンク81の一端側には、該レッグアシスト用リンク81の長手方向に沿って長い長孔86が形成されている。長孔86には、座部3の下面側に設けられたピン84が挿入されている。そして、レッグアシスト用リンク81は、付勢手段としての引張コイルばね87によって、該レッグアシスト用リンク81の一端側、すなわちピン84側へ長手方向に沿って付勢されている。引張コイルばね87の両端部は、座部支持部32に設けられたピン84と、レッグアシスト用リンク81の他端側に設けられたピン88とに、それぞれ取り付けられている。
【0050】
変換機構部9は、第1変換用リンク91と、第2変換用リンク92と、第3変換用リンク93と、を有している。第1変換用リンク91の一端側は、移動体82に対して、回動軸23の周りで回動可能に連結されている。第2変換用リンク92の一端側は、第1変換用リンク91の他端側に対して、回動軸24の周りで回動可能に連結されている。第3変換用リンク93の一端側は、第2変換用リンク92の他端側に対して、回動軸25の周りで回動可能に連結されている。そして、第2変換用リンク92の一端側と他端側との間の部分が、レッグレスト支持部62に対して、回動軸26の周りで回動可能に連結されている。また、第3変換用リンク93の他端側が、レッグアシスト63に対して、回動軸27の周りで回動可能に連結されている。
【0051】
次に、前記したように構成された歯科用椅子1の作用について説明する。
図1〜
図6に示す起き位置からバックレスト4を寝かせる場合、駆動手段75を作動させることによって、
図7に示すようにバックレスト4が回動軸14の周りでA方向に回動される。これにより、バックレスト4は、後方に傾動して寝る。
【0052】
バックレスト4が寝ることによって、第1傾動用リンク71がB方向(前方)に押され、第2傾動用リンク72がC方向に回動される。そして、第2傾動用リンク72のC方向への回動にともなって、第3傾動用リンク73がD方向(前方)に押され、レッグレスト6の先端部がE方向に持ち上げられる。また、第2傾動用リンク72のC方向への回動にともなって、第4傾動用リンク74がF方向に回動され、座部3の前端部がG方向に持ち上げられる。
【0053】
このようにバックレスト4の傾動に連動して、座部3およびレッグレスト6が傾動する。バックレスト4は、
図10に示す最寝位置まで連続的に傾動し得る。一方、バックレスト4を最寝位置から起き位置へ起こす場合、前記した動作と逆の動作となる。
【0054】
また、
図9に示すように、レッグレスト6の先端部が持ち上がるように該レッグレスト6が回動させられると、長孔86にピン84が挿入された状態で引張コイルばね87によって長手方向にピン84側へ付勢されたレッグアシスト用リンク81に引っ張られることによって、移動体82がレッグレスト支持部62内で基端側に移動させられる。そして、移動体82が基端側に移動させられると、変換機構部9によって、レッグアシスト63がレッグレスト支持部62の開口部64から進出させられる。
一方、レッグレスト6の先端部が下がるように該レッグレスト6が回動させられると、レッグアシスト用リンク81に押されることによって、移動体82がレッグレスト支持部62内で先端側に移動させられる。そして、移動体82が先端側に移動させられると、変換機構部9によって、レッグアシスト63がレッグレスト支持部62内へ退避させられる。
【0055】
前記したように、本実施形態に係る歯科用椅子1では、レッグレスト6は、座部3の前端縁34の近傍に設けられた回動軸11の周りで回動可能に支持されているとともに、歯科用椅子1への患者の乗降時において先端側が基端側よりも後方に入り込んで鉛直下方に対して傾斜するように構成されている。また、座部3の前端縁34は、該座部3の前端縁34に沿う方向である幅方向の中央部の方が幅方向の両端部よりも後方にえぐれている。
【0056】
このような本実施形態では、歯科用椅子1への患者の乗降時においてレッグレスト6はその先端側が基端側よりも後方に入り込んでいるため、患者は、足の踵を座部3の下方へ引いて挿入することができる。しかも、座部3の前端縁34の幅方向の中央部が後方にえぐれているため、例えば小柄な女性のように大腿部が比較的短い患者であっても、膝裏に座部3が干渉してしまうことなく、膝を折り曲げて足の膝から先を後方に引くことができる。したがって、患者は、大腿部の長さにかかわらず、足の踵を膝よりも後方に引いてスムーズに体重移動することができ、起立および着座が容易となる。
すなわち、本発明によれば、患者の身体的特徴にかかわらず、より容易に乗降することができる歯科用椅子1を提供できる。
また、患者が歯科用椅子1上で診療を受ける際には、大腿部の長さにかかわらず、膝裏に座部3が干渉することがないため、患者の足は歯科用椅子1に良好にフィットする。したがって、患者は快適に診療を受けることができる。
【0057】
また、本実施形態では、レッグレスト6の表面は、幅方向の中央部の方が幅方向の両端部よりも該レッグレスト6の裏面側に向けてへこむように湾曲している。これにより、歯科用椅子1への患者の乗降時においてレッグレスト6の先端側を基端側よりも後方に入り込ませたとき、レッグレスト6の表面の幅方向の中央部が後方に向けてへこんだ状態となる。つまり、上方から見て、座部3の前端縁34と、レッグレスト6の表面とは、同じように幅方向の中央部が後方にえぐれたラインを描く。したがって、患者は、歯科用椅子1に対する乗降時に、足の踵を座部3の下方へ確実に引くことができるため、起立および着座がより容易となる。このため、歯科用椅子1に対してより容易に乗降することが可能となる。
【0058】
また、本実施形態では、座部3は、該座部3の少なくとも前側において、幅方向の両端部が幅方向の中央部よりも高く設定されている。このように、座部3の少なくとも前側は、幅方向の両端部が中央部よりも高くなったいわゆるバケットシート形状を呈している。したがって、患者は、歯科用椅子1上で診療を受ける際に、患者の大腿部から膝付近がバケットシート形状となった部分で支えられる。このため、患者の大腿部から膝付近を左右から包み込んで体を保持することが可能となり、特に女性の患者の場合には診療中に足が開くことを防ぐことができる。したがって、患者は快適に診療を受けることができる。
【0059】
また、本実施形態では、略水平な状態にあるアームレスト10の先端は、座部3の前端縁34の中央部よりも前方に位置している。これにより、歯科用椅子1への患者の乗降時の際に、患者は、アームレスト10の前方部分に手を置いて体重をかけることができるため、起立および着座がより容易となる。このため、歯科用椅子1に対してより容易に乗降することが可能となる。
【0060】
また、本実施形態では、座部3は、該座部3の前側における幅方向の寸法が一対のアームレストの間の寸法よりも大きく設定されている。このように座部3の前側の幅方向の寸法が大きくなっているため、例えば大柄な患者であっても、患者の大腿部から膝付近を十分に余裕を持って支えることができる。したがって、患者は快適に診療を受けることができる。
【0061】
また、本実施形態では、座部3の幅方向の中心を通る鉛直断面における該座部3の表面の高さは、歯科用椅子1への患者の乗降時において、臀部受け部33から前方に向かって一旦高くなってから低くなるように設定されている。これにより、患者の臀部を臀部受け部33において包み込んで保持するとともに、患者の大腿部から膝付近にかけて滑らかなラインに沿って支持することができる。したがって、患者は快適に診療を受けることができる。また、座部3の表面の高さが前端部で低くなっているため、歯科用椅子1に対してより容易に乗降することが可能となる。
【0062】
また、本実施形態では、レッグレスト6の先端部が持ち上げられると、レッグアシスト連動機構部8によってレッグアシスト63がレッグレスト支持部62の先端に設けられた開口部64から進出する。これにより、通常はレッグアシスト63をレッグレスト支持部62内に収納してコンパクトな構成としつつ、レッグレスト6の先端部を持ち上げて該レッグレスト6で患者の脚部を支えるときには、レッグアシスト63を開口部64から進出させて患者の踵を支えることができる。したがって、患者は快適に診療を受けることができる。
【0063】
また、本実施形態では、レッグレスト6の回動にともなって、長孔86にピン84が挿入された状態で引張コイルばね87によって長手方向にピン84側へ付勢されたレッグアシスト用リンク81を介して、移動体82がレッグレスト支持部62内で往復移動させられる。これにより、レッグアシスト63がレッグレスト支持部62の開口部64に対して進退移動させられる。
ここで、レッグレスト6の先端側が基端側よりも後方に入り込んだ状態から持ち上げられて該レッグレスト6が最も寝た状態にまで回動する間、レッグアシスト63が進出し続けるとすれば、レッグアシスト63のストローク長はかなり長くなる。しかし、レッグアシスト63の長さは、座部3の表面の高さ位置と歯科用椅子1が設置される床の高さ位置とからレイアウト上制限を受ける。このため、レッグアシスト63のストローク長は、それほど長くすることはできない。そこで、座部3の下面側に設けられたピン84が挿入されるレッグアシスト用リンク81の孔を長孔86としている。これにより、レッグアシスト63の進退移動に連動する移動体82が基端側に移動してストッパ83に当接して停止した後には、レッグアシスト用リンク81がレッグレスト6の回動にしたがって先端側に引っ張られ、長孔86にピン84が挿入された状態で長孔86の部分がピン84に対して先端側に移動する。
図7〜
図9は、移動体82がストッパ83に丁度当接した状態を示している。つまり、レッグアシスト用リンク81のピン84挿入用の孔を長孔86とし、移動体82がストッパ83に突き当たった後には長孔86内でピン84が相対的に移動することによって、レッグアシスト用リンク81が先端側に引っ張られる際の変位を吸収することができる。
また、引張コイルばね87によってレッグアシスト用リンク81を長手方向にピン84側へ付勢しているため、移動体82がストッパ83に当接する前に長孔86の部分がピン84に対して先端側に移動してレッグアシスト63の進出を阻害してしまうことはない。したがって、レッグレスト6の回動にともなって、レッグアシスト63を効率良く迅速に進出させることができる。
このように、レッグアシスト63のストローク長にかかわらずレッグレスト6を最も寝た状態にまで回動させることができ、しかもレッグレスト6を寝かせる方向へ回動させ始めた時点からいち早くレッグアシスト63を進出させて患者の踵を素早く支持することができる。したがって、患者はより快適に診療を受けることができる。
【0064】
また、本実施形態では、コンパクトで簡易な変換機構部9の構成によって、レッグレスト支持部62の基端側に向かう移動体82の移動を、レッグレスト支持部62の先端側に向かうレッグアシスト63の移動に変換することができる。
【0065】
以上、本発明について、実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、前記実施形態に記載した構成を適宜組み合わせ乃至選択することを含め、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。また、前記実施形態の構成の一部について、追加、削除、置換をすることができる。
【0066】
例えば、前記実施形態では、バックレスト4の傾動に連動して、座部3およびレッグレスト6を傾動させることが可能に構成されているが、これに限定されるものではない。例えば、バックレスト4、座部3、およびレッグレスト6は、それぞれ単独で傾動可能に構成されていてもよい。
【0067】
また、レッグアシスト連動機構部8は、前記した構成に必ずしも限定されるものではなく、レッグレスト6の先端部が持ち上げられる運動に連動してレッグアシスト63を進出させる機構であれば変更可能である。また、変換機構部9は、前記した構成に必ずしも限定されるものはなく、移動体82の移動をレッグアシスト63の移動に変換できる機構であれば変更可能である。
【0068】
また、前記実施形態では、バックレスト4を傾動させる駆動手段75の駆動源として、電動モータ75cが使用されているが、これに限定されるものではなく、流体圧シリンダ等の各種の駆動源が使用され得る。
【解決手段】歯科用椅子1において、レッグレスト6は、座部3の前端縁34の近傍に設けられた回動軸11の周りで回動可能に支持されているとともに、歯科用椅子1への患者の乗降時において先端側が基端側よりも後方に入り込んで鉛直下方に対して傾斜するように構成されている。また、座部3の前端縁34は、該座部3の前端縁34に沿う方向である幅方向の中央部の方が幅方向の両端部よりも後方にえぐれている。