特許第6263257号(P6263257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6263257ブレーキマスタシリンダ推定内圧の決定のための方法及び装置、電気機械式ブレーキ倍力装置、ESP制御機構、及び自動車用ブレーキシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263257
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】ブレーキマスタシリンダ推定内圧の決定のための方法及び装置、電気機械式ブレーキ倍力装置、ESP制御機構、及び自動車用ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/172 20060101AFI20180104BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20180104BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   B60T8/172 Z
   B60T8/1755 Z
   B60T13/74 D
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-520383(P2016-520383)
(86)(22)【出願日】2014年6月12日
(65)【公表番号】特表2016-521658(P2016-521658A)
(43)【公表日】2016年7月25日
(86)【国際出願番号】EP2014062184
(87)【国際公開番号】WO2014206740
(87)【国際公開日】20141231
【審査請求日】2015年12月22日
(31)【優先権主張番号】102013212322.1
(32)【優先日】2013年6月26日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ブンク,ミヒャエル
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−323634(JP,A)
【文献】 特開2008−280028(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102011080431(DE,A1)
【文献】 特開2007−083814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 − 8/96
B60T 13/00 − 13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための方法において、
ブレーキシステムのブレーキマスタシリンダ(10)に配置されているブレーキ入力要素(12,14,22,24)の出発位置からの変位距離(s)を評価および/または測定するステップ(S1)と、
前記ブレーキマスタシリンダ(10)の第1の圧力室(10a)から出入する前記ブレーキシステムの液圧流体の第1の液圧流体体積流(qMC1)と、前記ブレーキマスタシリンダ(10)の第2の圧力室(10b)から出入する前記液圧流体の第2の液圧流体体積流(qMC2)とを評価および/または測定するステップ(S2)と、
少なくとも、評価および/または測定された前記変位距離(s)と、評価および/または測定された前記第1の液圧流体体積流(qMC1)と、評価および/または測定された前記第2の液圧流体体積流(qMC2)と用いて、前記ブレーキマスタシリンダ推定内圧(pMC(t))を決定するステップ(S3)と、
を含んでいる方法。
【請求項2】
前記ブレーキマスタシリンダ推定内圧(pMC(t))を、更に、少なくとも1つの測定されたブレーキマスタシリンダ圧力値および/または少なくとも1つの測定された予圧を用いて決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ブレーキマスタシリンダ推定内圧(pMC(t))を、更に、前記液圧流体の圧縮弾性率(K)、前記ブレーキ入力要素(12,14,22,24)がその出発位置にあるときの前記ブレーキマスタシリンダ(10)の出発体積(V0)、前記ブレーキマスタシリンダ(10)の内径(d)、および/または、前記ブレーキマスタシリンダ(10)の横断面積(A)を用いて決定する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための方法において、
ブレーキシステムのブレーキマスタシリンダ(10)に配置されているブレーキ入力要素(12,14,22,24)の出発位置からの変位距離(s)を評価および/または測定するステップ(S1)と、
前記ブレーキマスタシリンダ(10)の第1の圧力室(10a)から出入する前記ブレーキシステムの液圧流体の第1の液圧流体体積流(qMC1)と、前記ブレーキマスタシリンダ(10)の第2の圧力室(10b)から出入する前記液圧流体の第2の液圧流体体積流(qMC2)とを評価および/または測定するステップ(S2)と、
少なくとも、評価および/または測定された前記変位距離(s)と、評価および/または測定された前記第1の液圧流体体積流(qMC1)と、評価および/または測定された前記第2の液圧流体体積流(qMC2)とを考慮して、前記ブレーキマスタシリンダ推定内圧(pMC(t))を決定するステップ(S3)と、
を含んでおり、
前記ブレーキマスタシリンダ推定内圧(pMC(t))を、前記液圧流体の圧縮弾性率(K)、前記ブレーキ入力要素(12,14,22,24)がその出発位置にあるときの前記ブレーキマスタシリンダ(10)の出発体積(V0)、前記ブレーキマスタシリンダ(10)の内径(d)、および/または、前記ブレーキマスタシリンダ(10)の横断面積(A)を付加的に考慮して決定する方法。
【請求項5】
前記ブレーキマスタシリンダ推定内圧(pMC(t))を決定するため、次の数式を用いて圧力変化率(dpMC/dt)を連続的に決定し、
【数1】
ここでds/dtは前記ブレーキ入力要素(12,14,22,24)の前記変位距離(s)の評価または測定された変化率および/または前記ブレーキ入力要素(12,14,22,24)の評価または測定された変位速度である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記ブレーキマスタシリンダ推定内圧(pMC(t))を決定するため、次の数式を用いて圧力変化率(dpMC/dt)を連続的に決定し、
【数2】
ここでds/dtは前記ブレーキ入力要素(12,14,22,24)の前記変位距離(s)の評価または測定された変化率および/または前記ブレーキ入力要素(12,14,22,24)の評価または測定された変位速度である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項7】
前記ブレーキマスタシリンダ推定内圧(pMC(t))を前記圧力変化率(dpMC/dt)に関する積分として次の数式を用いて決定し、
【数3】
ここでpMC(to)は点tにおける推定値または検出値である、請求項またはに記載の方法。
【請求項8】
前記ブレーキマスタシリンダ推定内圧(pMC(t))を前記圧力変化率(dpMC/dt)に関する次の数式を用いて決定し、
【数4】
ここでpMC*(t’)は、時間(t’)に対して測定したブレーキマスタシリンダ圧力値、時間(t’)に対して測定した予圧、または時間(t’)に対して決定したブレーキマスタシリンダ推定内圧(pMC(t’))である、請求項またはに記載の方法。
【請求項9】
前記変位距離(s)を電気機械式ブレーキ倍力装置(20)の少なくとも1つの従属ユニットを用いて測定および/または評価する、請求項1からのいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
前記第1の液圧流体体積流(qMC1)および/または前記第2の液圧流体体積流(qMC2)をESP制御機構(18)の少なくとも1つの従属ユニットを用いて測定および/または評価する、請求項1からのいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための装置(16)において、
ブレーキシステムのブレーキマスタシリンダ(10)に配置されているブレーキ入力要素(12,14,22,24)の出発位置からの変位距離(s)に関して提供され、評価および/または測定された少なくとも1つの第1の量(s1)と、前記ブレーキマスタシリンダ(10)の第1の圧力室(10a)から出入する前記ブレーキシステムの液圧流体の第1の液圧流体体積流(qMC1)に関して提供され、評価および/または測定された第2の量(s2)と、前記ブレーキマスタシリンダ(10)の第2の圧力室(10b)から出入する前記液圧流体の第2の液圧流体体積流(qMC2)に関して提供され、評価および/または測定された第3の量(s3)と用いて前記ブレーキマスタシリンダ推定内圧(pMC(t))を決定し提供するように構成されている電子機構を備えた装置(16)。
【請求項12】
ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための装置(16)において、
ブレーキシステムのブレーキマスタシリンダ(10)に配置されているブレーキ入力要素(12,14,22,24)の出発位置からの変位距離(s)に関して提供され、評価および/または測定された少なくとも1つの第1の量(s1)と、前記ブレーキマスタシリンダ(10)の第1の圧力室(10a)から出入する前記ブレーキシステムの液圧流体の第1の液圧流体体積流(qMC1)に関して提供され、評価および/または測定された第2の量(s2)と、前記ブレーキマスタシリンダ(10)の第2の圧力室(10b)から出入する前記液圧流体の第2の液圧流体体積流(qMC2)に関して提供され、評価および/または測定された第3の量(s3)とを考慮して前記ブレーキマスタシリンダ推定内圧(pMC(t))を決定し提供するように構成されている電子機構を備えており、
前記ブレーキマスタシリンダ推定内圧(pMC(t))を、前記液圧流体の圧縮弾性率(K)、前記ブレーキ入力要素(12,14,22,24)がその出発位置にあるときの前記ブレーキマスタシリンダ(10)の出発体積(V0)、前記ブレーキマスタシリンダ(10)の内径(d)、および/または、前記ブレーキマスタシリンダ(10)の横断面積(A)を付加的に考慮して決定する装置(16)。
【請求項13】
請求項11または12に記載の装置(16)を備えた電気機械式ブレーキ倍力装置(20)。
【請求項14】
請求項11または12に記載の装置(16)を備えたESP制御機構(18)。
【請求項15】
請求項11または12に記載の装置(16)を備えた自動車用ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための方法に関するものである。また本発明は、ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための装置にも関する。さらに本発明は、電気機械式ブレーキ倍力装置、ESP制御機構および車両用ブレーキシステムにも関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両用ブレーキシステムが記載されている。このブレーキシステムは少なくとも1つの予圧センサを含み、該予圧センサを用いて、ブレーキマスタシリンダ内にある圧力を決定可能にすることを目的としている。
【0003】
図1aと図1bは、従来の態様で測定された予圧値と、技術水準に従って処理されたセンサ値と、ブレーキマスタシリンダ内にある圧力値との間のずれを説明するための座標系である。図1aおよび図1bの座標系の横軸は時間軸t(秒)であり、他方、図1aおよび図1bの座標系の縦軸は圧力(bar)を表わしている。
【0004】
図1aのグラフgは従来の態様で測定した予圧値を示し、他方図1aのグラフg0は(実際に)ブレーキマスタシリンダ内にある圧力値/実際の予圧値を記載している。これから認められるように、グラフgでは通常信号雑音が発生する。信号雑音はセンサ信号処理によって取り除くことができ、これによってグラフgから、技術水準に従って処理されたセンサ値を備えたグラフg’が得られる。むろん、適切なセンサ信号処理は少なくとも信号処理時間Δtの間継続する。しかしながら、信号処理時間Δtの間に、ブレーキマスタシリンダ内にある圧力/実際の予圧が圧力差Δpだけ変化することがある。
【0005】
図1bは、グラフg’の処理されたセンサ値p’と、グラフg’の処理されたセンサ値の勾配aとをベースにして、以下の数式(Gl0)に従って外挿法により推定予圧pを評価する実験を示している。
【0006】
【数1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第102011080431A1号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明は、請求項1の構成を備えたブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための方法、請求項10の構成を備えたブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための装置、請求項11の構成を備えた電気機械式ブレーキ倍力装置、請求項12の構成を備えたESP制御機構および請求項13の構成を備えた車両用ブレーキシステムを提供する。
【0009】
ブレーキマスタシリンダ推定内圧は、通常推定予圧とも考えられる。以下で「ブレーキマスタシリンダ推定内圧」という概念のみを使用するのは、単に明瞭性のためである。
【0010】
ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための装置としては、たとえばセンサ装置、分析装置および/または評価装置が考えられる。ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための装置は、少なくとも1つのブレーキシステム構成要素のための制御装置であってもよい。以下でより正確に述べるように、ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための装置は、特に電気機械式ブレーキ倍力装置の電子制御機構の少なくとも一部分として、および/または、ESP制御機構の少なくとも一部分として実施されていてもよい。
【0011】
本発明は、ブレーキマスタシリンダ推定内圧のより迅速および/またはより確実な決定/特定を可能にする。本発明に従って特定されるブレーキマスタシリンダ推定内圧の場合、信号雑音に起因する不正確性を懸念する必要はない。よって、本発明に従ってブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定する場合、従来のセンサ信号処理の必要性も省略される。それ故ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための装置は、センサ信号処理を実施するために適した費用のかかる電子分析装置をも必要としない。従って本発明による装置は比較的簡単に構成可能である。対応的に、ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための対応する方法は、コスト上好ましい、構成空間がわずかで済む構成要素を用いて実施することができる。
【0012】
さらに、本発明を利用する場合、センサ信号処理のために必要な信号処理時間によって決定が遅延するという従来の問題は生じない。従って、信号改善にはほとんど寄与しない、技術水準におけるような外挿/遅延時間補償を省略できる。従来の外挿は、たとえば逆送による予圧の頻繁な変動に反応することができないが、本発明の対象は、このケースでもブレーキマスタシリンダ推定内圧の確実な決定/特定を可能にする。本発明は、特にモデルをベースにしたブレーキマスタシリンダ推定内圧の特定、または、モデルをベースにしたブレーキマスタシリンダ内での圧力勾配の評価を提供し、この評価は勾配が時間とともに変化するブレーキマスタシリンダ内での圧力推移の場合でも、精度が改善されて確実な結果を提供する。
【0013】
本発明は、決定されたブレーキマスタシリンダ推定内圧が実際の予圧に追従/追随する恐れがほとんどないほど、とりわけ迅速に実施可能である。従って、たとえばドライバーがブレーキペダルを再び離したときのブレーキ操作の段階で、測定された予圧値が実際に支配している予圧よりも常に大きいという欠点も回避されている。
【0014】
本発明により決定されたブレーキマスタシリンダ推定内圧は、次に少なくとも1つのブレーキシステム構成要素の制御のために使用することができる。たとえば、本発明を用いて作動されるブレーキシステムのESP制御機構は、決定されたブレーキマスタシリンダ推定内圧を援用してブレーキシステムの少なくとも1つの液圧構成要素を制御し、たとえば特に車輪吸込み弁の制御のために援用することができる。これは、とりわけ、ブレーキシステムの少なくとも1つの液圧構成要素の目標量がブレーキマスタシリンダ推定内圧に関して最適化可能である場合に有利である。特にランニングタイム補償/ディレイタイム補償のために、決定されたブレーキマスタシリンダ推定内圧をESP制御機構によって援用することができる。同様に、電気機械式ブレーキ倍力装置の制御機構は、ブレーキマスタシリンダ推定内圧を該電気機械式ブレーキ倍力装置の合目的な予制御のために有利に使用することができる。従って、ブレーキマスタシリンダ推定内圧は本発明により迅速かつ確実に特定可能であるので、少なくともESP制御機構および/または電気機械式ブレーキ倍力装置の機能自体を、ブレーキマスタシリンダ内での強い圧力変動に対して整合させることができる。
【0015】
特にESP制御機構および/または電気機械式ブレーキ倍力装置の機能は、ブレーキマスタシリンダ内での圧力変動を緩衝可能/阻止可能であるように、最適化することができる。このようにしてブレーキシステム構成要素を、増大した機械的負荷(ブレーキマスタシリンダ内での強い圧力変動によって生じる)から保護することができる。従って、ブレーキシステム構成要素の寿命および機能性を改善できる。
【0016】
方法の有利な実施態様では、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を、少なくとも1つの測定されたブレーキマスタシリンダ圧力値および/または少なくとも1つの測定された予圧を付加的に考慮して決定する。従って、本発明は測定値の処理改善にも適している。
【0017】
有利には、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を、液圧流体の圧縮弾性率K、開始位置においてブレーキ入力要素が存在する場合のブレーキマスタシリンダの出発体積V、ブレーキマスタシリンダの内径d、および/または、ブレーキマスタシリンダの横断面積Aを付加的に考慮して決定する。ブレーキマスタシリンダの幾何学的形態で支持されるこのようなモデルを用いて、ブレーキマスタシリンダ推定内圧を、精度を高めて特定/決定することができる。
【0018】
更なる有利な実施態様では、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を決定するため、次の数式を用いて圧力変化率dpMC/dtを連続的に決定し、
【0019】
【数2】
【0020】
ここでds/dtはブレーキ入力要素の変位距離sの評価または測定された変化率および/またはブレーキ入力要素の評価または測定された変位速度である。圧力変化率は、次にブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するためにさらに分析することができる。さらに、ブレーキ構成要素の制御の際に圧力変化率も一緒に考慮することができる。
【0021】
これとは択一的に、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を決定するため、次の数式を用いて圧力変化率dpMC/dtを連続的に決定し、
【0022】
【数3】
【0023】
ここでds/dtはブレーキ入力要素の変位距離sの評価または測定された変化率および/またはブレーキ入力要素の評価または測定された変位速度である。この処置も前述の利点を保証する。
【0024】
好ましくは、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を圧力変化率dpMC/dtに関する積分として次の数式を用いて決定し、
【0025】
【数4】
【0026】
ここでpMC(to)は出力値または時点t0に対して検出した値である。このようにして、ブレーキマスタシリンダ推定内圧を比較的正確に求めることができる。
【0027】
同様に、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を圧力変化率dpMC/dtを介して次の数式を用いて決定し、
【0028】
【数5】
【0029】
ここでpMC(t’)は、時間t’に対して測定したブレーキマスタシリンダ圧力値、時間t’に対して測定した予圧、または、時間t’に対して決定したブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t’)である。このようにして信号伝播時間補償も実施できる。精度をさらに向上させるため、制御ループまたは他の学習アルゴリズムを用いた、ランニングタイムに対して重要なパラメータのパラメータ整合も可能である。
【0030】
有利な態様では、変位距離sを電気機械式ブレーキ倍力装置の少なくとも1つの従属ユニットを用いて測定および/または評価する。通常は適当なセンサを備えている電気機械式ブレーキ倍力装置のこの多機能性により、他のセンサを備えたブレーキシステムの構成を省略できる。
【0031】
更なる有利な実施態様では、第1の液圧流体体積流qMC1および/または第2の液圧流体体積流qMC2をESP電子制御機構の少なくとも1つの従属ユニットを用いて測定および/または評価する。ESP電子制御機構も従来のように既に液圧流体体積流を評価/測定するためのデータ/センサを有している。従って、このケースでは、ブレーキシステムにこのために適した他のセンサを備えさせる必要はない。
【0032】
上述の利点は、ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための対応する装置を用いても実現可能である。この装置は方法の実施態様に対応してさらに構成することができる。
【0033】
この種の装置を備えた電気機械式ブレーキ倍力装置も前記利点を実現する。電気機械式ブレーキ倍力装置に前記装置を備えさせることで、または、前記装置を電気機械式ブレーキ倍力装置の電子制御機構に組み込むことで、信号伝送が必要ないので、ブレーキマスタシリンダ推定内圧の決定と電子制御機構によるその考慮との間で時間遅延が生じないという利点がさらに提供される。
【0034】
同様に、ESP制御機構が対応する装置を備えていれば、前記利点が保証されている。前記装置をESP制御機構に組み込んでも、ESP制御機構によってブレーキマスタシリンダ推定内圧を考慮する前の信号伝送が省略される。
【0035】
さらに、前記装置、電気機械式ブレーキ倍力装置および/またはESP制御機構を備えた自動車用ブレーキシステムによっても前記利点が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
次に、本発明をいくつかの実施形態を用いて図面を参照して説明する。
図1a】従来の態様で測定された予圧値と、技術水準に従って処理されたセンサ値と、ブレーキマスタシリンダ内にある圧力値との間のずれを説明するための座標系である。
図1b】従来の態様で測定された予圧値と、技術水準に従って処理されたセンサ値と、ブレーキマスタシリンダ内にある圧力値との間のずれを説明するための座標系である。
図2a】フローチャートである。
図2b】ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定する方法の第1実施形態を説明するためのブレーキシステムのブレーキマスタシリンダの概略図である。
図3a】ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための装置の第1実施形態の概略図である。
図3b】ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための装置の第2実施形態の概略図である。
図3c】ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための装置の第3実施形態の概略図である。
図4a】ブレーキシステムの第1実施形態の概略図である。
図4b】ブレーキシステムの機能を説明するための座標系である。
図5a】ブレーキシステムの第2実施形態の概略図である。
図5b】ブレーキシステムの機能を説明するための座標系である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図2aと図2bとは、ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定する方法の第1実施形態を説明するための、フローチャートとブレーキシステムのブレーキマスタシリンダの概略図とを示している。
【0038】
方法ステップS1では、ブレーキマスタシリンダ10に配置されている(図示していない)ブレーキ入力要素の、その出発位置からの変位距離sを測定または評価する。ブレーキ入力要素とは、特にブレーキペダル、入力棒または出力棒である。変位距離sとはたとえばブレーキペダルの操作距離または棒変位距離である。好ましくは、変位距離sは入力棒の変位距離sである。しかしながら、ブレーキ入力要素の変位を表わす少なくとも1つの他の再生量を変位距離sとして測定または評価してもよいことを指摘しておく。
【0039】
変位距離sを測定するため、たとえば棒変位距離センサおよび/または距離差センサを使用することができる。同様に、変位距離sをブレーキペダルの操作距離、ドライバーブレーキ力および/またはドライバーブレーキ圧を考慮して評価してもよい。好ましくは、変位距離sを電気機械式ブレーキ倍力装置の少なくとも1つの従属ユニットを用いて測定および/または評価する。たとえば、電気機械式ブレーキ倍力装置内に組み込まれている、電気機械式ブレーキ倍力装置の入力棒の変位距離sを測定するためのセンサを使用することができる。同様に、変位距離sを評価するために電気機械式ブレーキ倍力装置の制御機構を使用してもよい。電気機械式ブレーキ倍力装置の少なくとも1つの従属ユニットのこのような多機能性により、変位距離sを測定および/または評価するための付加的な電子機器を節約することができる。さらに、このケースでは、測定および/または評価した変位距離sまたは変位距離sを考慮したブレーキマスタシリンダ推定内圧を電気機械式ブレーキ倍力装置の制御機構へ後で送るための時間浪費的な信号/データ伝送は必要ない。
【0040】
方法ステップS2では、ブレーキマスタシリンダ10の第1の圧力室10aへ出入するブレーキシステムの液圧流体の第1の液圧流体体積流qMC1を測定および/または評価する。同様に、方法ステップS2で、ブレーキマスタシリンダ10の第2の圧力室10bへ出入する液圧流体の第2の液圧流体体積流qMC2を測定および/または評価する。第1の圧力室10aはたとえばブレーキマスタシリンダ10の棒ピストン12によって画成されていてよく、他方第2の圧力室10はブレーキマスタシリンダ10のフロートピストン14によって画成される。
【0041】
方法ステップS2を実施するため、第1の液圧流体体積流qMC1および/または第2の液圧流体体積流qMC2をESP電気制御機構の少なくとも1つの従属ユニットを用いて測定および/または評価することができる。ESP電気制御機構内には、通常、液圧流体体積流qMC1と液圧流体体積流qMC2とに対し連続的に更新されるデータがすでに存在している。ESP電気制御機構の多機能性を用いても、液圧流体体積流qMC1と液圧流体体積流qMC2とを測定および/または評価するための付加的な電子機器を省略することができる。以下でより詳細に述べるように、このケースではESP電気制御機構への時間浪費的な信号/データ伝送も省略することができる。
【0042】
方法ステップS1とS2とは任意の順番でまたは同時に実施してよい。従って、番号付けは方法ステップS1とS2を実施するための時間的な順番を決定するものではない。
【0043】
次の方法ステップS3では、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を、少なくとも、評価および/または測定した変位距離sと、評価および/または測定した第一液圧流体体積流qMC1と、評価および/または測定した第二液圧流体体積流qMC2とを考慮して決定する。ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)のこのような決定は、上述した予圧値の測定および通常その後に必要なセンサ信号処理よりも迅速に実施可能である。従って、方法ステップS3を用いて決定したブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)は、ほとんどの場合、測定した予圧値およびその後のセンサ信号処理から得られる値よりも正確である。従って、ブレーキマスタシリンダ10内に現時点で実際に存在しているブレーキマスタシリンダ内圧をより正確に特定および/または評価することができる。さらに、方法ステップS3を用いて実現されるブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)のより迅速な決定により、現時点で存在しているブレーキマスタシリンダ内圧の変化に対してもより迅速に反応することができる。
【0044】
本方法の有利な実施形態では、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を、液圧流体の圧縮弾性率K、ブレーキ入力要素がその出発位置にあるときのブレーキマスタシリンダ10の出発体積V、ブレーキマスタシリンダ10の内径d、および/またはブレーキマスタシリンダ10の横断面積Aを付加的に考慮して決定することができる。たとえば、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を決定するために、数式(Gl1)に従って圧力変化率dpMC/dtを連続的に決定することができる。
【0045】
【数6】
【0046】
ここでds/dtはブレーキ入力要素の変位距離sの評価または測定された変化率および/またはブレーキ入力要素の評価または測定された変位速度である。
【0047】
しかしながら、ブレーキマスタシリンダ10が筒状の内部容積を有していない場合には、圧力変化率dpMC/dtを連続的に決定するために、少なくとも1つのピストン12と14の変位方向に対し垂直なブレーキマスタシリンダ10の横断面積Aも数式(Gl2)を用いて使用することができる。
【0048】
【数7】
【0049】
ここでds/dtはブレーキ入力要素の変位距離sの評価または測定された変化率および/またはブレーキ入力要素の評価または測定された変位速度である。
【0050】
両ケースとも、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)は、数式(Gl3)に従って圧力変化率dpMC/dtに関する積分として決定することができる。
【0051】
【数8】
【0052】
ここでpMC(to)は出力値または時点toに対して検出した値である。
【0053】
同様に、数式(Gl4)に従って、数式(Gl1)またはG(l2)を用いて決定した圧力変化率dpMC/dtを介してブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を決定することもできる。
【0054】
【数9】
【0055】
ここでpMC(t’)は、時間t’に対して測定したブレーキマスタシリンダ圧力値、時間t’に対して測定した予圧、または時間t’に対して決定したブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t’)である。他のケースでも、少なくとも1つの測定したブレーキマスタシリンダ圧力値および/または少なくとも1つの測定した予圧を付加的に考慮してブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を決定することができる。このように、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を測定したセンサ値と比較する多くの可能性がある。
【0056】
オプションの方法ステップS4では、少なくとも1つのブレーキシステム構成要素を制御する際のブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)が考慮される。たとえば、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)は少なくとも1つの液圧構成要素、特に車輪吸込み弁を制御する際に援用する。好ましくは、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を考慮して少なくとも1つの液圧構成要素の少なくとも1つの目標量を決定する。とりわけランニングタイム補償/ディレイタイム補償に対してブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を利用することができる。同様に、以下に詳細に説明するように、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を電気機械式ブレーキ倍力装置の所定のプレコントロールに対しても援用することができる。
【0057】
図3aないし図3cは、ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための装置の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態の概略図である。
【0058】
図3aないし図3cにそれぞれ概略を示した装置16は、(図示していない)電子機構を有し、該電子機構は、(装置16と協働するブレーキシステムのブレーキマスタシリンダ内の)ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を決定して提供するように構成されている。オプションの態様で、上述した圧力変化率dpMC/dtは装置16の電子機構を用いて決定可能かつ提供可能であってよい。少なくともブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)の決定は、ブレーキマスタシリンダに配置されているブレーキ入力要素のその出発位置からの変位距離sに関して提供され、評価および/または測定された少なくとも1つの第1の量s1と、ブレーキマスタシリンダの第1の圧力室に出入するブレーキシステムの液圧流体の液圧流体体積流qMC1に関して提供され、評価および/または測定された第2の量s2と、ブレーキマスタシリンダの第2の圧力室に出入する液圧流体の第2の液圧流体体積流qMC2に関して提供され、評価および/または測定された第3の量s3とを考慮して実施可能である。このために、たとえば上記した量および数式を援用することができる。
【0059】
図3aの実施形態では、装置16はESP制御機構18の従属ユニットであり、或いは、ESP制御機構18内に組み込まれている。第2の量s2と第3の量s3とはESP制御機構18自身によって測定および/または評価することができる。第1の量s1の測定および/または評価のためには、電気機械式ブレーキ倍力装置20を使用可能で、該電気機械式ブレーキ倍力装置は第1の量s1を引き続きESP制御機構18へ出力する。ESP制御機構18の従属ユニットとしての装置16によるブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)の決定には次のような利点があり、すなわちこのケースでは、ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を含んだ出力信号s4をESP制御機構18へ提供するための時間浪費的なデータ伝送が必要ないという利点がある。さらに、このケースでは、この種のデータ伝送による付加的な時間的遅延もない。
【0060】
たとえば、外部ユニットからESP制御機構18へのデータ伝送に対しては、100msの伝送時間が必要な場合がある。従って、予圧の圧力勾配が1000bar/sの場合には、外部ユニットからESP制御機構18へのデータ伝送中に予圧はすでに100bar変化する。これに対し、ESP制御機構に組み込まれている装置16によるブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)の決定/提供には20msしか要しない。従って、予圧の圧力勾配が1000bar/sという例の場合、予圧は決定されたブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)から20barしか変動しない。
【0061】
これにより、出力信号s4で提供されるブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)は、たとえば少なくとも1つの車輪吸込み弁を制御するためにESP制御機構18によって考慮している間に、現時点で存在しているブレーキマスタシリンダ内圧にかなりの程度正確に対応している。よって、ESP制御機構18の機能は現時点で存在しているブレーキマスタシリンダ内圧に有利に整合している。オプションの態様では、少なくともブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を含んでいる出力信号s4は、ESP制御機構18から電気機械式ブレーキ倍力装置20へも出力させることができる。従って、電気機械式ブレーキ倍力装置20も、以下でさらに説明するように、その機能を現時点で存在しているブレーキマスタシリンダ内圧に確実に整合させることができる。
【0062】
図3bの実施形態では、装置16は電気機械式ブレーキ倍力装置20の従属ユニットであり、或いは、電気機械式ブレーキ倍力装置20の制御機構内に組み込まれている。第1の量s1を測定および/または評価するため、有利な態様で電気機械式ブレーキ倍力装置20を使用可能である。第2の量s2と第3の量s3とはESP制御機構18によって測定および/または評価でき、次に電気機械式ブレーキ倍力装置20へ出力させることができる。電気機械式ブレーキ倍力装置20の従属ユニットとしての装置16を用いてブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を決定することにより、電気機械式ブレーキ倍力装置20はブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)をすでに決定直後に使用/考慮することができる。ブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を含んだ出力信号s4の、電気機械式ブレーキ倍力装置20への時間浪費的なデータ伝送は、このケースでも省略される。これとともに、電気機械式ブレーキ倍力装置20によるブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)の使用/考慮の際のこの種のデータ伝送による時間的遅延も留意する必要がない。よって、信号伝播時間補償は必要ない。このケースでも、少なくともブレーキマスタシリンダ推定内圧pMC(t)を含んだ出力信号s4を電気機械式ブレーキ倍力装置20からESP制御機構18へ出力させることができる。
【0063】
図3cの実施形態では、それぞれ1つの装置16がESP制御機構18と電気機械式ブレーキ倍力装置20とに組み込まれている。両装置16は、互いの通信/データ交換のために構成されていてよい。
【0064】
しかしながら、装置16のESP制御機構18および/または電気機械式ブレーキ倍力装置20への前述した組み込みは単に例として説明したにすぎないことを指摘しておく。装置16は固有の構成部材としてブレーキシステム内に配置してよい。
【0065】
図4aと図4bは、ブレーキシステムの第1実施形態の概略図と、その機能を説明するための座標系とを示している。
【0066】
図4aに概略を図示したブレーキシステムは、ブレーキマスタシリンダ10と、(図示していない)ESP制御機構および装置16とを備えている。ブレーキマスタシリンダ10には、ブレーキペダル22が少なくとも1つの入力棒24を介して結合されている。ブレーキペダル22には、オプションで、たとえば操作距離センサおよび/または棒変位距離センサのような(図示していない)センサが装着されていてよい。さらに、ブレーキペダル22とブレーキマスタシリンダ10との間には、真空ブレーキ倍力装置26が配置されている。ブレーキマスタシリンダ10には、液圧流体を提供するための制動媒体リザーバ28も結合されている。制動媒体リザーバ28は少なくとも1つの漏らし孔を介してブレーキマスタシリンダ10と結合されていてよい。
【0067】
ブレーキマスタシリンダ14は(見えない)2つの圧力室を含んでおり、これらの圧力室はそれぞれ1つの供給管30a,30bを介して、それぞれ1つのブレーキ回路32a,32bと流体結合/液圧結合されている。ブレーキ回路32aと32bのそれぞれは、2つの車輪ブレーキシリンダ34aと34b(好ましくは液圧操作可能なディスクブレーキ装置)を有している。ブレーキ回路32aと32bとは選択的にX型ブレーキ回路分割またはII型ブレーキ回路分割のために利用することができる。
【0068】
各車輪ブレーキシリンダ34a,34bには、それぞれ1つの車輪吸込み弁36a,36b(バイパス管内に配置される逆止弁を備えている)が付設されている。同様に、各車輪ブレーキシリンダ34a,34bにはそれぞれ車輪吐出し弁38a38bが付設されている。さらに、ブレーキ回路32a,32bのそれぞれは、切換え弁40a,40b(バイパス管内に配置される逆止弁を備えている)と、高圧切換え弁42a,42bと、逆送ポンプ44a,44bとを有し、この場合両逆送ポンプ44aと44bとはモータ48の共通の軸46に配置されていてよい。それぞれ1つのアキュムレータ室50aと50bは、好ましくは低圧アキュムレータ室50aと50bは、出口側を1つのブレーキ回路32a,32bの両車輪吐出し弁38a,38bに結合されている。1つのアキュムレータ室50a,50bと同じブレーキ回路32a,32bの逆送ポンプ44a,44bとの間には、好ましくはそれぞれ1つの圧力逃がし弁52a,52bが配置されている。オプションの態様では、ブレーキシステムは、さらに、たとえば予圧センサ54のような少なくとも1つの圧力センサを有している。
【0069】
ABSコントロール中に、車輪吐出し弁38aと38bとを用いて液圧流体(またはブレーキ液)を少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ34aと34bからアキュムレータ室50aと50bとに排出させることができる。次に、逆送ポンプ44aと44bとを用いて、液圧流体をアキュムレータ室50aと50bとからブレーキマスタシリンダ10内へ逆送させることができる。このようにしてABSコントロール中のブレーキ液消費量を補償可能である。よって、ABSコントロールを時間的に無制限に可能である。
【0070】
図4bの座標系は、従来、逆送中にブレーキマスタシリンダ10内に発生する圧力変動を示しており、図4bの座標系の横軸は時間軸(秒)を表わし、図4bの座標系の縦軸は圧力p(bar)を表わしている。グラフpは、ABS/ESPシステムによって車輪ブレーキシリンダ34aと34b内に生じる圧力推移(ブレーキ圧推移)を示している。グラフpMCにより、従来、逆送中に発生するブレーキマスタシリンダ10内での圧力推移が示されている。これから認められるように、従来では、逆送中にブレーキマスタシリンダ10内で圧力変動ΔpMCが発生することがある。
【0071】
しかしながら、装置16を用いると、逆送中であっても、ブレーキマスタシリンダ10内にあるブレーキマスタシリンダ推定内圧を迅速かつ確実に特定することができる。その際、特に、量s2およびs3または第1の液圧流体体積流qMC1および第2の液圧流体体積流qMC2に対するデータが通常は逆送中でもすでにESP制御機構内にあるという利点を利用できる。それ故、少なくとも装置16と協働する/を備えるESP制御機構は比較的迅速かつ確実に、ブレーキマスタシリンダ10内で発生した圧力変動ΔpMCに反応することができる。とりわけ、ブレーキシステムの構成要素(その目標量はブレーキマスタシリンダ推定内圧に依存している)を制御する場合には、装置16と協働する/を備えるESP制御機構は出力信号s4を考慮することができる。たとえば、出力信号s4はランニングタイム補償および/またはディレイタイム補償のために援用することができる。好ましくは、出力信号s4はとりわけ車輪吸込み弁36aと36bを制御する際にESP制御機構によって考慮される。ESP制御機構は、出力信号s4を考慮してその機能を特に次のように整合させることができ、すなわち逆送中にブレーキマスタシリンダ10内に発生する圧力変動ΔpMCが最小になるように、整合させることができる。
【0072】
図5aと図5bは、ブレーキシステムの第2実施形態の概略図と、その機能を説明するための座標系とを示している。
【0073】
図5aに概略を図示したブレーキシステムは、前記実施形態とは異なり、電気機械式ブレーキ倍力装置20を有している。電気機械式ブレーキ倍力装置20の実施可能性は特定のタイプのブレーキ倍力装置に限定されていない。図5aのブレーキシステムの他の構成要素に関しては、上記段落を参照してもらいたい。
【0074】
図5bの座標系には、従来この種のブレーキシステムにおいて逆送中にブレーキマスタシリンダ10内に発生する圧力変動が示され、図5bの座標系の横軸は時間軸(秒)を表わし、図4bの座標系の縦軸は圧力p(bar)を表わしている。新たに、グラフpはABS/ESPシステムによって車輪ブレーキシリンダ34aと34b内に生じる圧力推移(ブレーキ圧推移)を記載し、グラフpMCは従来逆送中にブレーキマスタシリンダ10内に発生する圧力推移を記載している。
【0075】
図5bの座標系のグラフp図4bの対応するグラフと一致しているにもかかわらず、従来では、逆送中に電気機械式ブレーキ倍力装置20を備えたブレーキシステムのブレーキマスタシリンダ20内では著しく大きな圧力変動ΔpMCが発生している。これは、ブレーキペダル22/ドライバーの足が電気機械式ブレーキ倍力装置20によりブレーキマスタシリンダから切り離されたからである。それ故、液圧流体の逆送は、ドライバー(すなわちドライバーの足)によってもたらされる力では食い止められず、または補償されない。従って、通常は、電気機械式ブレーキ倍力装置20を備えたブレーキシステムは、わずかな全弾性を有している。逆送中のブレーキマスタシリンダ10内の圧力変動ΔpMCに対して液圧流体が(ポンプ44aと44bとによって)反作用しない限りは、従来では、電気機械式ブレーキ倍力装置20を備えたブレーキシステム内に圧力変動がより強く発生することがある。
【0076】
しかしながら、図5bのブレーキシステムでは、(図示していない)ESP制御機構および/または電気機械式ブレーキ倍力装置20は装置16と協働することができる。特に、ESP制御機構および/または電気機械式ブレーキ倍力装置20は装置16を備えていてよい。すでに述べた、ESP制御機構による出力信号s4の有利な考慮に加えて、電気機械式ブレーキ倍力装置20の機能をも、前記装置を用いて特定されるブレーキマスタシリンダ推定内圧に適合させることができる。特に、ブレーキマスタシリンダ推定内圧を比較的迅速に決定/特定できるので、電気機械式ブレーキ倍力装置20は合目的に次のように制御/予制御することができ、すなわち(前述の)圧力最大の際に、電気機械式ブレーキ倍力装置20によりブレーキマスタシリンダ10のピストンに作用する増幅力が減少するように、制御/予制御することができる。従って、特に比較的多量の液圧流体がブレーキマスタシリンダ10内へ流れる場合に、増幅力を取り消すことができる。対応的に、電気機械式ブレーキ倍力装置20を合目的に予制御することによって、(前述の)圧力最小の際に該ブレーキ倍力装置の増幅力を増大させることができる。ブレーキマスタシリンダ10内への液圧流体の流入が比較的少ないケースに対しては、電気機械式ブレーキ倍力装置20は増幅力を増大させることでこれに反応することができる。
【0077】
従って、総括すると、ブレーキマスタシリンダ10内での圧力変動は、特にESP制御機構と電気機械式ブレーキ倍力装置20との協働により緩衝/抑圧することができる。このようにして、ブレーキマスタシリンダ10内の圧力変動により増大する機械的負荷からブレーキシステムの多くの構成要素を保護することができる。それ故、ブレーキシステム内で有利な装置16を使用することは、ブレーキシステムの多くの構成要素の機能性および寿命を向上させることができる。
【符号の説明】
【0078】
10 ブレーキマスタシリンダ
10a 第1の圧力室
10b 第2の圧力室
12 棒ピストン(ブレーキ入力要素)
14 フロートピストン(ブレーキ入力要素)
16 ブレーキマスタシリンダ推定内圧を決定するための装置
18 ESP制御機構
20 ブレーキ倍力装置
22 ブレーキペダル(ブレーキ入力要素)
24 入力棒(ブレーキ入力要素)
dpMC/dt 圧力変化率
K 圧縮弾性率
MC(t) ブレーキマスタシリンダ推定内圧
MC1 第1の液圧流体体積流
MC2 第2の液圧流体体積流
s 変位距離
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図5a
図5b