【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によって、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。本実施例における測定法は以下のとおりである。
【0032】
(1)血球性能及び圧力損失
7質量%となるように、ACD−A液(テルモ株式会社)を添加した豚血を調整し、血液分析装置(シスメックス株式会社 TX−1800i)により、カラム通過前の顆粒球、リンパ球及び血小板の各濃度を測定した。
豚血を37±1℃に加温して、血液ポンプにて50mL/minの流速で、2Lの加温した豚血をカラムに流し、カラム出口から流出した血液を全て捕集した。捕集した血液について、顆粒球、リンパ球及び血小板の各濃度を測定した。
カラム通過前後での各成分の除去率又は通過率を求めた。
2Lの血液を処理した時点のカラム入口圧とカラム出口圧を測定し、入口圧から出口圧を引いた値を圧力損失とした。
【0033】
(2)繊維状担体の総表面積
好中球除去カラムに充填された繊維状担体の総表面積は、繊維状担体の平均繊維径から算出される繊維状担体の比表面積と、充填される繊維状担体の重量との積の合計として算出した。複数種のフィルタ材を用いて繊維状担体としている場合には、各フィルタ材ごとに表面積を算出して、その総和を繊維状担体の総表面積とした。
繊維状担体の比表面積(m
2/g)は、平均繊維径をD(μm)、繊維状担体の基材密度をρとすると、4/(ρ×D)で算出した。繊維状担体の基材密度は、JIS Z 8807:2012に従って測定する。
【0034】
(3)親水性高分子のコート量
親水性高分子をコートした繊維状担体を、フィルタ材ごとに、一定量採取し、重量(W0)を測定した。
親水性高分子を溶解し、かつ基材を溶解しない溶媒に、重量測定後の繊維状担体を浸漬し5分間振盪撹拌した。撹拌後、溶媒を交換し、再度5分間振盪撹拌した。溶媒の交換と振盪撹拌を計3回繰り返した後、溶媒を廃棄し、繊維状担体を24時間50℃で真空乾燥した。乾燥後の重量(W1)を測定した。
コート量を(W1−W0)/W0により算出した。
【0035】
(4)平均繊維径
フィルタ材ごとに、走査電子顕微鏡を用いて拡大倍率2500倍で、合計本数が100本を超えるまで視野を変えながら繊維状担体の写真を撮影した。撮影した、それぞれの繊維の繊維軸に直角な繊維の幅を、その繊維の直径として測定した。測定した繊維の直径の総和を、直径を測定した繊維の総本数で割った値を平均繊維径として算出した。
【0036】
(5)CWST
繊維状担体をフィルタ材ごとに、100mm四方に切断した。表面張力が86dyn/cmから100dyn/cmの範囲で、2dyn/cmずつ異なる水酸化ナトリウム水溶液を表面張力が低いものから順番にフィルタ材上に10滴ずつ乗せ10分間放置した。10分放置後、10滴中9滴以上がフィルタ材に吸収された場合に湿潤状態であるとし、吸収が10滴中9滴未満である場合に非湿潤状態であるとして、湿潤状態であると観察された内で水酸化ナトリウム水溶液の最大の表面張力値と、非湿潤状態であると観察された内で水酸化ナトリウムの最小の表面張力値を平均し、繊維状担体のCWST値として測定した。
【0037】
(6)好中球画分の測定法
遠心チューブに血球分離溶液を入れ、同量の採取した血液を重層した。遠心し、多核顆粒球浮遊液を採取した。リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered
saline,PBS)を加えて混和し、再度遠心して、上清を除去し、残った多核顆粒球をPBSで懸濁して検体とした。
次に検体にPropidium iodide(PI)とFITC標識したAnnexin−Vを加えて反応、染色した。フローサイトメーターでPI及びAnnexin−Vともに陰性の細胞(PI及びAnnexin−Vのいずれでも染色されない細胞)の割合を測定し、それを生細胞率(viability)とした。
また、PI陰性且つAnnexin−V陽性の細胞を初期アポトーシス好中球、PI陽性且つAnnexin−V陰性の細胞をネクローシス好中球、PI及びAnnexin−Vともに陽性の細胞を後期アポトーシス好中球とした。
【0038】
(7)感染リスクの高い患者又は感染症を有している患者に対する好中球除去カラムの使用
好中球除去カラムをUC、大腸穿孔、食道癌、直腸癌開腹術後患者等感染リスクの高い患者や感染症を有している患者に対して施行し、患者好中球の機能を評価する非盲検試験を実施した。
感染リスクの高い患者又は感染症を有している患者とは、1)選択基準のいずれかに該当し、2)除外基準のいずれにも該当しない患者のことである。
1)選択基準
・UC、大腸穿孔、食道癌、直腸癌開腹術後患者の内、創分類クラス2以上の患者
・UC、大腸穿孔、食道癌、直腸癌開腹術後患者の内、栄養状態及び/又は全身状態が不良の患者
・UC、大腸穿孔、食道癌、直腸癌開腹術後患者の内、手術侵襲が高い患者
・感染症を有している患者
2)除外基準
・心疾患(発症後6ヶ月以内の急性心筋梗塞、虚血性心疾患、加療を要する不整脈)の患者
・脳梗塞・脳出血等の脳血管障害の合併、既往を有する患者
・低血圧症又は収縮期血圧80mmHg以下の患者
・妊娠中、授乳中の女性、妊娠している可能性のある女性
・認知症の患者
・体外循環治療中にショックの既往歴を有する患者
・アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を服用しており、体外循環施行に先立って服用中止が困難な患者
ここで創分類クラス2以上の患者とは、清潔創1段階以外の準清潔創(クラス2)、汚染創(クラス3)、感染・不潔創(クラス4)の患者を指す。
実施の選択は手術予定症例では術前、感染症発生症例では感染症治療実施中に本試験の説明を行い、好中球除去カラム使用の同意が得られた場合には実施群、使用には同意が得られないものの、好中球機能評価について同意が得られた場合には非実施群(対照群)とした。
施行時期は術直後とし、実施回数は1回とした。抗凝固剤としてはチトラミン(扶桑薬品工業株式会社)を用い、血流の6%で添加した。施行条件は血液流量30〜50mL/分、体外循環時間約60分、目標血液処理量3,000mLとした。
【0039】
<親水性高分子の合成>
2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とジメチルアミノエチルメタクリレート(DM)とをモル比で97:3の割合で混合し、エタノール中の総モノマー濃度を1.0モル/Lとして、1/200モル/Lのアゾビスイソブチロニトリルの重合開始剤の存在下、60℃で8時間、溶液ラジカル重合することによって親水性高分子(以下、HM−3と略称する)を合成した。
【0040】
<繊維状担体の作成>
HM−3濃度が0.4質量%となるように、HM−3を50%エタノール水溶液に溶解した。得られた溶液に、平均繊維径12μm、目付100g/m
2、厚み0.47mmのポリエチレンテレフタレート製不織布を浸漬し、余分な液を除去した後に、50℃で20分間乾燥して、フィルタ材(A)を得た。ポリエチレンテレフタレートの密度は、1.38g/cm
3であった。
フィルタ材(A)のCWST値は95dyn/cmであった。フィルタ材(A)の親水性高分子のコート量を、溶媒に50%エタノール水溶液を用いて測定したところ、繊維状担体1g当たり17mgであった。
【0041】
HM−3濃度が0.4質量%となるように、HM−3を50%エタノール水溶液に溶解した。得られた溶液に、平均繊維径12μm、目付30g/m
2、厚み0.20mmのポリエチレンテレフタレート製不織布を浸漬し、余分な液を除去した後に50℃で20分間乾燥して、フィルタ材(B)を得た。
フィルタ材(B)のCWST値は95dyn/cmであった。フィルタ材(B)の親水性高分子のコート量を、溶媒に50%エタノール水溶液を用いて測定したところ、繊維状担体1g当たり8mgであった。
【0042】
HM−3濃度が0.4質量%となるように、HM−3を50%エタノール水溶液に溶解した。得られた溶液に、平均繊維径2.3μm、目付60g/m
2、厚み0.30mmのポリエチレンテレフタレート製不織布を浸漬し、余分な液を除去した後に50℃で20分間乾燥して、フィルタ材(C)を得た。
フィルタ材(C)のCWST値は95dyn/cmであった。フィルタ材(C)の親水性高分子のコート量を、溶媒に50%エタノール水溶液を用いて測定したところ、繊維状担体1g当たり32mgであった。
【0043】
HM−3濃度が0.4質量%となるように、HM−3を50%エタノール水溶液に溶解した。得られた溶液に、平均繊維径1.4μm、目付66g/m
2、厚み0.40mmのポリエチレンテレフタレート製不織布を浸漬し、余分な液を除去した後に50℃で20分間乾燥して、フィルタ材(D)を得た。
フィルタ材(D)のCWST値は91dyn/cmであった。フィルタ材(D)の親水性高分子のコート量を、溶媒に50%エタノール水溶液を用いて測定したところ、繊維状担体1g当たり27mgであった。
【0044】
HM−3濃度が0.4質量%となるように、HM−3を50%エタノール水溶液に溶解した。得られた溶液に、平均繊維径1.1μm、目付40g/m
2、厚み0.24mmのポリエチレンテレフタレート製不織布を浸漬し、余分な液を除去した後に50℃で20分間乾燥して、フィルタ材(E)を得た。
フィルタ材(E)のCWST値は87dyn/cmであった。フィルタ材(E)の親水性高分子のコート量を、溶媒に50%エタノール水溶液を用いて測定したところ、繊維状担体1g当たり17mgであった。
【0045】
[実施例1]
フィルタ材(C)を18枚積層し、その上にフィルタ材(A)を9枚、フィルタ材(B)を4枚重ねてシート状フィルタを作成した。シート状フィルタを97mm四方に切断して、液体の第1出入口と第2出入口とをそれぞれ対向の頂角部に有する容量125mLの四角形状扁平型容器へ、フィルタ材(A)が第2出入口側になるように充填して、超音波溶着を行うことで扁平型のカラムを作製した。カラムを脱酸素剤(三菱瓦斯化学株式会社、エージレス(登録商標)SS200)と共にナイロン、アルミ、ポリエチレンの積層フィルムによって作られた包装袋に入れ、包装袋をヒートシールすることで密閉した。
包装袋内の酸素濃度を酸素濃度計(飯島電子工業株式会社、RO−102−SDP)を用いて測定し、酸素濃度が1%以下になった後、25kGyのγ線を照射し滅菌を行い、好中球除去カラムを得た。
【0046】
[実施例2]
フィルタ材(D)を18枚積層し、その上にフィルタ材(A)を9枚、フィルタ材(B)を4枚重ねてシート状フィルタを作成した。シート状フィルタを97mm四方に切断して、液体の第1出入口と第2出入口とをそれぞれ対向の頂角部に有する容量125mLの四角形状扁平型容器へ、フィルタ材(A)が第2出入口側になるように充填して、超音波溶着を行うことで扁平型のカラムを作製した。カラムを脱酸素剤(三菱瓦斯化学株式会社、エージレス(登録商標)SS200)と共にナイロン、アルミ、ポリエチレンの積層フィルムによって作られた包装袋に入れ、包装袋をヒートシールすることで密閉した。
包装袋内の酸素濃度を酸素濃度計(飯島電子工業株式会社、RO−102−SDP)を用いて測定し、酸素濃度が1%以下になった後、25kGyのγ線を照射し滅菌を行い、好中球除去カラムを得た。
【0047】
[実施例3]
フィルタ材(C)を13枚積層し、その上にフィルタ材(A)を9枚、フィルタ材(B)を4枚重ねてシート状フィルタを作成した。シート状フィルタを97mm四方に切断して、液体の第1出入口と第2出入口とをそれぞれ対向の頂角部に有する容量125mLの四角形状扁平型容器へ、フィルタ材(C)が第2出入口側になるように充填して、超音波溶着を行うことで扁平型のカラムを作製した。カラムを脱酸素剤(三菱瓦斯化学株式会社、エージレス(登録商標)SS200)と共にナイロン、アルミ、ポリエチレンの積層フィルムによって作られた包装袋に入れ、包装袋をヒートシールすることで密閉した。
包装袋内の酸素濃度を酸素濃度計(飯島電子工業株式会社、RO−102−SDP)を用いて測定し、酸素濃度が1%以下になった後、25kGyのγ線を照射し滅菌を行い、好中球除去カラムを得た。
【0048】
[実施例4]
フィルタ材(C)を18枚積層し、シート状フィルタを作成した。シート状フィルタを97mm四方に切断して、液体の第1出入口と第2出入口とをそれぞれ対向の頂角部に有する容量125mLの四角形状扁平型容器へ充填して、超音波溶着を行うことで扁平型のカラムを作製した。カラムを脱酸素剤(三菱瓦斯化学株式会社、エージレス(登録商標)SS200)と共にナイロン、アルミ、ポリエチレンの積層フィルムによって作られた包装袋に入れ、包装袋をヒートシールすることで密閉した。
包装袋内の酸素濃度を酸素濃度計(飯島電子工業株式会社、RO−102−SDP)を用いて測定し、酸素濃度が1%以下になった後、25kGyのγ線を照射し滅菌を行い、好中球除去カラムを得た。
【0049】
[実施例5]
フィルタ材(C)を27枚積層し、シート状フィルタを作成した。シート状フィルタを97mm四方に切断して、液体の第1出入口と第2出入口とをそれぞれ対向の頂角部に有する容量125mLの四角形状扁平型容器へ充填して、超音波溶着を行うことで扁平型のカラムを作製した。カラムを脱酸素剤(三菱瓦斯化学株式会社、エージレス(登録商標)SS200)と共にナイロン、アルミ、ポリエチレンの積層フィルムによって作られた包装袋に入れ、包装袋をヒートシールすることで密閉した。
包装袋内の酸素濃度を酸素濃度計(飯島電子工業株式会社、RO−102−SDP)を用いて測定し、酸素濃度が1%以下になった後、25kGyのγ線を照射し滅菌を行い、好中球除去カラムを得た。
【0050】
[実施例6]
フィルタ材(C)を18枚積層し、その上にフィルタ材(A)を9枚、フィルタ材(B)を4枚重ねてシート状フィルタを作成した。シート状フィルタを97mm四方に切断して、液体の第1出入口と第2出入口とをそれぞれ対向の頂角部に有する容量125mLの四角形状扁平型容器へ、フィルタ材(A)が第2出入口側になるように充填して、超音波溶着を行うことで扁平型のカラムを作製した。カラムをナイロン、アルミ、ポリエチレンの積層フィルムによって作られた包装袋に入れ、包装袋をヒートシールすることで密閉した。25kGyのγ線を照射し滅菌を行い、好中球除去カラムを得た。
【0051】
[比較例1]
フィルタ材(C)を12枚積層し、その上にフィルタ材(A)を9枚、フィルタ材(B)を4枚重ねてシート状フィルタを作成した。シート状フィルタを97mm四方に切断して、液体の第1出入口と第2出入口とをそれぞれ対向の頂角部に有する容量125mLの四角形状扁平型容器へ、フィルタ材(C)が第2出入口側になるように充填して、超音波溶着を行うことで扁平型のカラムを作製した。カラムを脱酸素剤(三菱瓦斯化学株式会社、エージレス(登録商標)SS200)と共にナイロン、アルミ、ポリエチレンの積層フィルムによって作られた包装袋に入れ、包装袋をヒートシールすることで密閉した。
包装袋内の酸素濃度を酸素濃度計(飯島電子工業株式会社、RO−102−SDP)を用いて測定し、酸素濃度が1%以下になった後、25kGyのγ線を照射し滅菌を行い、好中球除去カラムを得た。
【0052】
[比較例2]
平均繊維径2.3μm、目付60g/m
2、厚み0.30mmのポリエチレンテレフタレート製不織布を18枚積層し、その上に平均繊維径12μm、目付100g/m
2、厚み0.47mmのポリエチレンテレフタレート製不織布9枚、平均繊維径12μm、目付30g/m
2、厚み0.20mmのポリエチレンテレフタレート製不織布4枚を重ねてシート状フィルタを作成した。シート状フィルタを97mm四方に切断して、液体の第1出入口と第2出入口とをそれぞれ対向の頂角部に有する容量125mLの四角形状扁平型容器へ、平均繊維径2.3μmの不織布が第2出入口側になるように充填して、超音波溶着を行うことで扁平型のカラムを作製した。カラムを脱酸素剤(三菱瓦斯化学株式会社、エージレス(登録商標)SS200)と共にナイロン、アルミ、ポリエチレンの積層フィルムによって作られた包装袋に入れ、包装袋をヒートシールすることで密閉した。
包装袋内の酸素濃度を酸素濃度計(飯島電子工業株式会社、RO−102−SDP)を用いて測定し、酸素濃度が1%以下になった後、25kGyのγ線を照射し滅菌を行い、好中球除去カラムを得た。
【0053】
[比較例3]
フィルタ材(E)を18枚積層し、その上にフィルタ材(A)を9枚、フィルタ材(B)を4枚重ねてシート状フィルタを作成した。シート状フィルタを97mm四方に切断して、液体の第1出入口と第2出入口とをそれぞれ対向の頂角部に有する容量125mLの四角形状扁平型容器へ、フィルタ材(A)が第2出入口側になるように充填して、超音波溶着を行うことで扁平型のカラムを作製した。カラムを脱酸素剤(三菱瓦斯化学株式会社、エージレス(登録商標)SS200)と共にナイロン、アルミ、ポリエチレンの積層フィルムによって作られた包装袋に入れ、包装袋をヒートシールすることで密閉した。
包装袋内の酸素濃度を酸素濃度計(飯島電子工業株式会社、RO−102−SDP)を用いて測定し、酸素濃度が1%以下になった後、25kGyのγ線を照射し滅菌を行い、好中球除去カラムを得た。
【0054】
得られた好中球除去カラムの顆粒球/リンパ球の除去率、血小板の通過率、圧力損失を測定し、繊維状担体の総表面積を算出した。結果を表1に示す。
表1から、親水性高分子を表面に有し、総表面積が10.5m
2以上で平均繊維径が1.4μm以上のフィルタ材から構成される好中球除去カラムであれば、顆粒球の除去率が80%以上で血小板の通過率が75%以上となることがわかる。
【0055】
【表1】
【0056】
繊維状担体の総表面積と顆粒球の除去率との関係、繊維状担体の総表面積と血小板の通過率との関係、及び繊維状担体の総表面積とリンパ球の除去率との関係をそれぞれ
図1から
図3に示す。
図1から、顆粒球の除去率を80%以上にする観点から繊維状担体の総表面積は10.5m
2以上であることが好ましい。
白血球除去療法(LCAP)は、末梢血液中の炎症や免疫機能の悪循環を改善させる機能も有する。本機能を得るにはリンパ球の除去率を30%以上にする必要があり、リンパ球の除去率の機能からも繊維状担体の総表面積が10.5m
2以上であることが好ましい。
顆粒球の除去率及びリンパ球の除去率の観点から、親水性高分子を表面に有し、且つ平均繊維径が1.4μm以上からなる繊維状担体から構成される好中球除去カラムにおいては、繊維状担体の総表面積が10.5m
2以上である必要性が分かる。
また、
図2から、血小板の通過率を75%以上にする観点から繊維状担体の総表面積を21m
2以下にすることが好ましい。
【0057】
[実施例7]
40才男性、創分類クラス2、栄養状態良好、ASA分類1のクローン患者に対して、待機手術を行った。
ここで、ASA (American Society of. Anesthesiologists)分類とはアメリカ麻酔科学会における全身状態分類のことである。ASA分類1は、器質的、生理的、生化学的あるいは精神的な異常がなく、手術の対象となる疾患は局在的であって、全身的(系統的)な障害を惹き起こさないものである。ASA分類2は、軽度〜中程度の系統的な障害があるものをいう。その原因は、外科的治療の対象となった疾患、又は、それ以外の病態生理学的な原因によるものである。ASA分類3は、重症の系統的疾患があるものをいう。この場合,系統的な障害を起こす原因は何であってもよいし、はっきりした障害の程度を決められない場合でも差し支えない。ASA分類4は、それによって生命がおびやかされつつあるような高度の系統的疾患があって、手術をしたからといって、その病変を治療できるとは限らないものである。ASA分類5は、瀕死の状態の患者で助かる可能性は少ないが、手術をしなければならないものをいう。ASA分類6は脳死患者を指す。
手術は内視鏡下手術で、手術時間は439分であった。手術侵襲のやや高い患者であり、輸血は無かった。手術終了68分後に、実施例1で作製した好中球除去カラムを用いて好中球除去を開始した。抗凝固剤としてチトラミン(扶桑薬品工業株式会社)を使用し、血液処理量は3.0L、施行時間は79分であった。
好中球除去施行前後で末梢血を採取し、末梢血好中球の生細胞率、後期アポトーシス好中球、及び血小板数を測定した。
【0058】
[実施例8]
47才女性、創分類クラス2、栄養状態良好、ASA分類1のクローン患者に対して、待機手術を行った。手術時間は277分で、手術侵襲のやや高い患者であった。輸血は無かった。手術終了72分後に、実施例1で作製した好中球除去カラムを用いて好中球除去を開始した。抗凝固剤としてチトラミン(扶桑薬品工業株式会社)を使用し、血液処理量は3.0L、施行時間は60分であった。
好中球除去施行前後で末梢血を採取し、末梢血好中球の生細胞率、後期アポトーシス好中球、及び血小板数を測定した。
【0059】
[実施例9]
44才男性、創分類クラス3、栄養状態やや不良、ASA分類3の全大腸炎型UC患者に対して、待機手術を行った。手術時間は276分で、手術侵襲のやや高い患者であった。輸血はMAP4単位であった。手術終了77分後に、実施例1で作製した好中球除去カラムを用いて好中球除去を開始した。抗凝固剤としてチトラミン(扶桑薬品工業株式会社)を使用し、血液処理量は3.0L、施行時間は80分であった。
好中球除去施行前後で末梢血を採取し、末梢血好中球の生細胞率、後期アポトーシス好中球、及び血小板数を測定した。
【0060】
[実施例10]
53才男性、創分類クラス3、栄養状態良好、ASA分類2の腹腔内膿瘍患者に対して、待機手術を行った。手術時間は137分で、手術侵襲のやや高い患者であった。輸血は無かった。手術終了66分後に、実施例1で作製した好中球除去カラムを用いて好中球除去を開始した。抗凝固剤としてチトラミン(扶桑薬品工業株式会社)を使用し、血液処理量は3.0L、施行時間は75分であった。
好中球除去施行前後で末梢血を採取し、末梢血好中球の生細胞率、及び後期アポトーシス好中球を測定した。
【0061】
[実施例11]
30才女性、創分類クラス2、栄養状態良好、ASA分類2のUC患者に対して、待機手術を行った。手術時間は525分で、手術侵襲の高い患者であった。輸血は無かった。手術終了73分後に、実施例1で作製した好中球除去カラムを用いて好中球除去を開始した。抗凝固剤としてチトラミン(扶桑薬品工業株式会社)を使用し、血液処理量は3.0L、施行時間は67分であった。
好中球除去施行前後で末梢血を採取し、末梢血好中球の生細胞率、及び後期アポトーシス好中球を測定した。
【0062】
[比較例4]
49才男性、創分類クラス2、ASA分類1の全大腸炎型UC患者に対して、待機手術を行った。手術は内視鏡下手術で、手術時間は396分、手術侵襲のやや高い患者であった。輸血は無かった。
手術終了1時間後及び2時間後に末梢血を採取し、末梢血好中球の生細胞率、後期アポトーシス好中球、及び血小板数を測定した。
【0063】
[比較例5]
61才男性、創分類クラス2、ASA分類2の食道癌患者に対して、待機手術を行った。手術は内視鏡下手術で、手術時間は910分、手術侵襲の高い患者であった。輸血は無かった。
手術終了1時間後及び2時間後に末梢血を採取し、末梢血好中球の生細胞率、後期アポトーシス好中球、及び血小板数を測定した。
【0064】
以上の結果をまとめて表2に示す。
UC患者1例、クローン病患者2例の計3例で、好中球除去の施行後、好中球の生細胞率(viability)は増加し、後期アポトーシス好中球数は減少し、血小板数は術前の90%以上に維持されていた
好中球除去カラムを用いた好中球除去の施行により、患者末梢血中の血小板数は止血機能を維持する範囲にコントロールされつつ、好中球の生細胞率は増加することが示された。特に、施行前のviable好中球の割合が90%未満の症例では、好中球の生細胞率の増加が顕著であった。また、好中球除去の施行により、患者末梢血中の後期アポトーシス好中球の数が減少することも確認された。
【0065】
【表2】
【0066】
[実施例12]
74才男性、栄養状態良好の腹腔内膿瘍・腸腰筋膿瘍患者(手術は無し、感染症を有している)に対して、実施例1で作製した好中球除去カラムを用いて好中球除去を開始した。抗凝固剤としてチトラミン(扶桑薬品工業株式会社)を使用し、血液処理量は2.0L、施行時間は40分であった。
好中球除去施行前、及び好中球除去施行1日後に末梢血を採取し、末梢血中のviable好中球数、初期アポトーシス好中球数、ネクローシス好中球数、後期アポトーシス好中球数を測定した。結果を表3に示す。
【0067】
本症例は感染症を有している患者であり、好中球除去の施行前の末梢血中の初期アポトーシス好中球の割合は85%に達しており、viable好中球の割合はわずか9.1%であった。この割合が好中球除去の施行1日後に劇的に変化して、初期アポトーシス好中球の割合は0.8%、viable好中球の割合は95.2%となった。viable好中球の割合が低い(アポトーシス好中球の割合が高い)患者に好中球除去を施行すると、施行1日後にはviable好中球数が増え、アポトーシス好中球数が減少し、viable好中球/アポトーシス好中球の割合が顕著に増加することがわかった。
【0068】
【表3】
【0069】
本発明の好中球除去カラムを用いて感染リスクの高い患者の末梢血を体外循環処理すると、末梢血中の好中球の生細胞率が増加し、感染リスクを低下させることができる。また、本発明の好中球除去カラムを用いて既に感染の起こっている患者の末梢血を体外循環処理すると、末梢血中の好中球の生細胞率が増加し、感染菌の排除効率を著しく上げることができる。さらに、本発明の好中球除去カラムを用いると、血小板の通過率が高く、止血能を維持する範囲に体内循環血液中の血小板数をコントロールすることができる。
【0070】
本出願は、2014年6月20日出願の日本特許出願(特願2014−127710号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。