【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発/資源生産性を向上できる革新的プロセス及び化学品の開発(微生物触媒による創電型廃水処理基盤技術開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係る電極並びにそれを用いた燃料電池及び水処理装置について説明する。なお、以下で説明する実施形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態などは一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0013】
[第一実施形態]
(1−1.電極の構成)
まず、電極の構成について、詳細に説明する。本実施形態に係る電極は、例えば燃料電池の正極として適用可能であり、特に微生物燃料電池(MFC:Microbial Fuel Cell)の正極として適用される。そのため、本実施形態に係る電極を微生物燃料電池の正極として用いた場合について説明する。
【0014】
微生物燃料電池は、微生物を利用して、燃料としての有機物を電気エネルギーに変換する電池であり、主に、負極と、イオン移動層と、正極とから構成される。負極では、電解液中の有機物が微生物により酸化分解されるときに発生する電子を回収する。負極で回収された電子は正極に移動し、還元反応により消費される。この両極で起きる化学反応による酸化還元電位の勾配に従い、電子が流れる。負極の反応で副次的に生じる水素イオンは、イオン移動層を通過して正極に到達する。水素イオンは、正極で電子および酸素と反応して水を生じる。上記構成及び反応により、微生物燃料電池は、微生物により廃液を浄化しつつ電気エネルギーを出力することが可能となる。
【0015】
本実施形態に係る正極1は、例えば、上記微生物燃料電池の正極であり、空気中の酸素の供給を速やかに行うためのガス拡散電極として機能する。
【0016】
図1は、第一実施形態に係る正極の一例を示す斜視図である。同図に示すように、正極1は、第1の拡散層11と、導電層12と、第2の拡散層13とを備える。第2の拡散層13の表面には、触媒層30が担持されている。第1の拡散層11は気相側に配置され、第2の拡散層13は液相側に配置され、第1の拡散層11と第2の拡散層13との間に導電層12が配置されている。具体的には、正極1は、導電層12の一方の面12aに第1の拡散層11が接触するように配置されており、導電層12の一方の面12aと反対側の他方の面12bに第2の拡散層13が接触するように配置されている。ここで、気相とは、例えば、酸素を含有する大気である。また、液相とは、例えば、有機物及び微生物を含有する水溶液又は廃液である。
【0017】
第1の拡散層11は、気相に含まれる酸素を拡散させる層であり、撥水性を有する。第1の拡散層11の材質の好適な例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選ばれる少なくとも一つからなる不織布又はフィルムである。ここで、不織布とは、繊維状物質から形成されるシート材、つまり繊維布であり、繊維状物質を熱、機械的又は化学的な作用によって接着又は絡み合わせることで布となったものを指す。
【0018】
第1の拡散層11は、疎水性を有する材質からなる繊維状物質によって形成された不織布又はフィルムであるため、撥水性が付与されている。撥水性とは、水又は短鎖アルコール等の極性有機液体をはじく性質を指す。これにより、第1の拡散層11が、水素イオンや塩化物イオンなどの液相自体の成分、又は微生物により腐食されることを抑制しつつ、気相中の酸素を導電層12及び第2の拡散層13へ速やかに供給することが可能となる。また、第1の拡散層11が、気相に含まれる湿気により変質することを抑制できる。さらに、第1の拡散層11を介した液相側から気相側への漏水を抑制することができる。
【0019】
第1の拡散層11は、上述の不織布又はフィルムに対して、撥水助剤が塗布又は含浸されていてもよい。これにより、第1の拡散層11の撥水性をより高めることができる。撥水助剤の好適な例としては、フッ素系の高分子材料や、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーン系高分子材料などが挙げられる。
【0020】
導電層12は、第1の拡散層11と第2の拡散層13とにより挟持された平板状の層である。さらに、導電層12は、金属材料と酸素透過性材料とで形成されている。これにより、導電層12は、液相との間に第2の拡散層13が介在しているため、直接液相と接触していない。そのため、導電層12が、水素イオンや塩化物イオンなどの液相自体の成分又は微生物により腐食されることを抑制できる。また、導電層12は、
図1に示すように、酸素透過性材料に金属材料20が分散した構成を有しているため、導電層自体が酸素透過性を備えている。そのため、気相から第1の拡散層11を介して供給される酸素を第2の拡散層13へ高効率に透過させることができる。
【0021】
導電層12は、負極で生成した電子を導通し、気相から供給された酸素とイオン移動層を介して移動した水素イオンとの反応を促進する機能を有する。つまり、導電層12は金属材料を含有し、当該金属材料は導電層12の内部で電気的に接続されている。そのため、導電層12は、低抵抗による高い導電機能を発揮し、酸素の還元反応の効率を高めることが可能となる。
【0022】
図1に示すように、導電層12は、金属材料20を含有し、金属材料20は、例えば、粒子形状を有している。なお、導電層12の厚みは例えば1mm以下であることが好ましい。そのため、金属材料20の粒径は1mm以下であることが好ましい。金属材料20の粒径の下限値は特に限定されないが、例えば1μm以上であることが好ましい。なお、金属材料20の粒径及び導電層12の厚みは、導電層12を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。
【0023】
金属材料20の材質は、導電層12の導電性を高めることが可能な材料であれば特に限定されない。金属材料20の材質は、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケル及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種が好適である。
【0024】
導電層12は、酸素透過性材料を含有している。導電層12の酸素透過性材料は、例えば、シリコーンが好適である。シリコーンは、酸素透過性が高く、低コスト材料であり、取り扱い易い材料である。また、酸素透過性材料は、ポリジメチルシロキサン、エチルセルロース、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリブタジエン、ポリテトラフロロエチレン、及びブチルゴムからなる群より選ばれる少なくとも一種であることも好ましい。
【0025】
なお、導電層12が含有する金属材料は、粒子形状のほか、ワイヤー形状、フレーク形状、又はメッシュ形状であってもよい。ワイヤー形状とは、線状、又は線材が束ねられた形状であり、線材の太さは例えば1mm以下である。フレーク形状とは、シート状、又はシート材が重ねられた形状であり、シート材の厚みは例えば1mm以下である。メッシュ形状とは、シート材の平面上に多数の貫通孔が設けられた形状、又は線材が縦横に配列された格子形状である。酸素透過性材料との混成により均質な導電層12を形成するという調製容易性の観点から、金属材料は粒子形状であることが好ましい。なお、導電層12は、粒子形状、ワイヤー形状、フレーク形状、又はメッシュ形状の金属材料が単独で含有されていてもよい。また、導電層12は、粒子形状、ワイヤー形状、フレーク形状、又はメッシュ形状の金属材料が複数組み合わされて含有されていてもよい。
【0026】
なお、上述のように、導電層12の厚みは例えば1mm以下であることが好ましい。そのため、金属材料がワイヤー形状である場合、金属材料の太さは1mm以下であることが好ましい。なお、金属材料の太さの下限値は特に限定されないが、例えば1μm以上であることが好ましい。また、金属材料がフレーク形状又はメッシュ形状である場合、金属材料の厚みは1mm以下であることが好ましい。なお、金属材料の厚みの下限値は特に限定されないが、例えば1μm以上であることが好ましい。上述と同様に、金属材料の太さ及び厚みは、導電層12を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。
【0027】
また、導電層12は、電気抵抗率が2Ωm以下であることが好ましい。つまり、導電層12は、第1の拡散層11、導電層12及び第2の拡散層13の積層方向Yの電気抵抗率が2Ωm以下であることが好ましい。また、導電層12は、第1の拡散層11、導電層12及び第2の拡散層13の積層方向Yに垂直な方向X,Zの電気抵抗率も2Ωm以下であることが好ましい。導電層12の電気抵抗率が2Ωm以下の場合には、正極1の内部抵抗が低いため、電気エネルギーの出力低下を抑制することが可能となる。導電層12の電気抵抗率の下限は特に制限されないが、例えば0.10μΩ・m以上とすることができる。なお、上述の電気抵抗率は、例えば四探針法により測定することができる。
【0028】
導電層12は、酸素透過率が10000cc/m
2・24h・atm以上720000cc/m
2・24h・atm以下であることが好ましい。また、導電層12は、第1の拡散層11、導電層12及び第2の拡散層13の積層方向Yの酸素透過率が10000cc/m
2・24h・atm以上720000cc/m
2・24h・atm以下であることがより好ましい。酸素透過率が720000cc/m
2・24h・atm以下の場合には、導電層12を介して気相から液相へ酸素が多量に供給され、液相中に酸素が過剰に溶け込むことを抑制できる。そのため、液相中に存在する嫌気性微生物による、有機物分解活性の低下を防ぐことが可能となる。また、酸素透過率が10000cc/m
2・24h・atm以上の場合には、第2の拡散層13での還元反応の速度低下を抑制することが可能となる。なお、導電層12の酸素透過率は、JIS K7126−1(プラスチック−フィルム及びシート−ガス透過度試験方法−第1部:差圧法)、又はJIS K7126−2(プラスチック−フィルム及びシート−ガス透過度試験方法−第2部:等圧法)により求めることができる。
【0029】
導電層12は、液相との間に第2の拡散層13を介しており、直接液相と接触していない。ただ、導電層12は、撥水性を有していることが望ましい。なお、シリコーンなどの酸素透過性材料と金属材料20との混合により形成された導電層12は、撥水性を有している。これにより、第2の拡散層13を介した液相の浸潤により、導電層12が腐食することを高度に抑制できる。
【0030】
第2の拡散層13は、触媒層30を表面に担持し、有機物を含む液相に浸漬されている。第2の拡散層13は、第1の拡散層11及び導電層12から供給される酸素(O
2)、負極で回収され外部回路を経由して供給される電子(e
−)、及び、液相側から供給されるプロトン(H
+)による還元反応を高効率に促進させる。このため、第2の拡散層13の形状は、その表面に触媒層30に含まれる電極触媒が担持され得る形状であれば、特に限定されない。正極1における単位質量あたりの触媒活性をより高くする観点からは、第2の拡散層13は、単位質量当たりの比表面積が大きい繊維状物質の集合体であることが好ましい。つまり、一般に比表面積が大きいほど、広い担持面積を確保することができる。そのため、第2の拡散層が不織布などの繊維状物質の集合体である場合、第2の拡散層13の表面における触媒成分の分散性を高め、より多くの電極触媒をその表面に担持することが可能となる。なお、第2の拡散層13は、上記のように液相との接触面積を大きくして還元反応を促進させる必要があるため、第1の拡散層11と異なり、撥水性を有していない。
【0031】
第2の拡散層13の材質の好適な例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選ばれる少なくとも一つの材料からなる不織布又はフィルムである。あるいは、第2の拡散層13の材質としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトなどの炭素材料であってもよい。
【0032】
触媒層30は、所望の反応活性を有する電極触媒と、当該電極触媒を第2の拡散層13に結着するためのバインダーから成る。この触媒層30は、第2の拡散層13を挟んで導電層12と反対側に設けられている。つまり、導電層12、第2の拡散層13及び触媒層30は、この順に層状に設けられている。
【0033】
触媒層30に含まれる電極触媒としては、特に燃料電池に用いる際には酸素還元触媒を用いることが好ましい。酸素還元触媒の例としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム及びイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する白金族触媒が好ましい。また、白金族触媒は、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム及びイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を活性炭に担持したものであることも好ましい。また、触媒層30は、少なくとも一種の非金属原子と金属原子とがドープされた炭素粒子を含んでもよい。炭素粒子にドープされる原子は特に限定されないが、非金属原子としては、例えば、窒素原子、ホウ素原子、硫黄原子、リン原子などであってもよい。また、金属原子としては、例えば、鉄原子、銅原子などであってもよい。
【0034】
また、触媒層30に含まれるバインダーとしては、例えばイオン伝導性樹脂が用いられる。当該イオン伝導性樹脂は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。イオン伝導性樹脂は、当該イオン伝導性樹脂に用いられるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。フッ素系高分子電解質を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(デュポン株式会社製)、アシプレックス(旭化成株式会社製)、フレミオン(旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。
【0035】
上述のように、第2の拡散層13は、触媒層30を表面に担持している。具体的には、第2の拡散層13は、
図1に示すように、導電層12側の一方の面13aの反対側である他方の面13bに触媒層30を接着することができる。ただ、本実施形態はこのような層状の触媒層30を担持する態様に限定されない。例えば、触媒層を構成する電極触媒及び炭素粒子の少なくとも一方が、第2の拡散層13を構成する多孔質体の内部に付着されていてもよい。電極触媒及び炭素粒子の少なくとも一方が多孔質体の内部に付着されていても、酸素、電子及びプロトンによる還元反応を高効率に促進させることが可能となる。
【0036】
第1の拡散層11、導電層12及び第2の拡散層13を接着する手法としては、融着や樹脂等を用いた接着が挙げられる。この場合、耐久性の観点から、融着によって接着されることが好ましいが、導電層12が有するシリコーンなどの酸素透過性材料を接着樹脂として機能させることも可能である。
【0037】
以上の構成によれば、導電層12は、第1の拡散層11及び第2の拡散層13に挟まれており、直接液相と接触していない。よって、水素イオンや塩化物イオンなどの液相自体の成分又は微生物により腐食することを抑制できる。また、導電層12は、酸素透過性材料を含むことにより、気相から第1の拡散層11を介して供給される酸素を第2の拡散層13へ高効率に透過させることができる。また、導電層12は、負極で生成した電子を導通させ、さらに気相から供給された酸素とイオン移動層を介して移動した水素イオンとの反応を促進する機能を有する。そして、導電層12は、金属材料を含むことにより高導電性を有するので、酸素の還元反応の効率を高めることが可能となる。また、正極1をスケールアップさせても内部抵抗の増加を抑制でき、酸化還元反応により生産された電気エネルギーの低下を抑制することが可能となる。
【0038】
(1−2.電極(正極)の構成の変形例)
次に、本実施形態に係る電極の変形例について説明する。
図2は、第一実施形態に係る正極の他の例を表す斜視図である。
図2に示すように、正極2は、第1の拡散層11と、導電層15と、第2の拡散層13とを備える。本変形例に係る正極2は、第一実施形態に係る正極1と比較して、導電層15の構成のみが異なる。以下、正極1と同じ点は説明を省略し、異なる点を中心に説明する。
【0039】
導電層15は、金属材料21と炭素材料22とを含有している。金属材料21は、金属材料20と同様の材質であり、また粒子形状のほか、ワイヤー形状、フレーク形状又はメッシュ形状を有していてもよい。また、炭素材料22も粒子形状のほか、様々な形状を有していてもよい。本変形例では、金属材料21を含む層の両面に接触するように、炭素材料22が配置されている。
【0040】
導電層15は、さらに、金属材料21及び炭素材料22とともに、酸素透過性材料を含有している。具体的には、導電層15は、酸素透過性材料に金属材料21が分散した金属材料層16と、酸素透過性材料に炭素材料22が分散した炭素材料層17とを備えている。金属材料層16では、当該金属材料21が金属材料層16の内部で電気的に接続されている。また、炭素材料層17では、当該炭素材料22が炭素材料層17の内部で電気的に接続されている。そして、導電層15は、金属材料層16の両面が炭素材料層17により挟持された構成となっている。
【0041】
導電層15に含まれる酸素透過性材料は、第一実施形態に係る導電層12に含まれる酸素透過性材料と同様に、例えば、シリコーンが好適である。また、シリコーンのほか、ポリジメチルシロキサン、エチルセルロース、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリブタジエン、ポリテトラフロロエチレン、及びブチルゴムからなる群より選ばれる少なくとも一種であることも好ましい。炭素材料22は、例えば、グラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンブラック、炭素繊維、及び黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0042】
上記変形例の構成によれば、正極2での導電機能を有する導電層15は、直接液相と接触していない。よって、第一実施形態に係る導電層12と同様に、水素イオンや塩化物イオンなどの液相自体の成分又は微生物により腐食することを抑制できる。また、導電層15は、酸素透過性材料を含むことにより、気相から第1の拡散層11を介して供給される酸素を第2の拡散層13へ高効率に透過させることができる。また、導電層15は、負極で生成した電子を導通させ、さらに気相から供給された酸素とイオン移動層を介して移動した水素イオンとの反応を促進する機能を有する。そして、導電層15は、金属材料を含むことにより高導電性を有するので、酸素の還元反応の効率を高めることが可能となる。また、正極
2をスケールアップさせても内部抵抗の増加を抑制でき、酸化還元反応により生産された電気エネルギーの低下を抑制することが可能となる。
【0043】
本変形例では、導電層15は、金属材料21だけでなく炭素材料22を含有している。そのため、金属材料20だけで導電性を確保する正極1と比較して、材料入手の容易性、コスト、耐食性、耐久性等の観点で有利である。なお、上述のように、
図2の導電層15は、酸素透過性材料に金属材料21が分散した金属材料層16と、酸素透過性材料に炭素材料22が分散した炭素材料層17とが積層された構成となっている。しかしながら、本実施形態はこのような態様に限定されない。例えば、導電層15は、酸素透過性材料に金属材料21と炭素材料22が混合して分散した単層であってもよい。
【0044】
[第二実施形態]
本実施形態では、第一実施形態に係る電極を用いた燃料電池について説明する。
【0045】
上述のように、第一実施形態に係る電極は、燃料電池用の電極として用いることができる。燃料電池は、電気を放出することのできる一次電池であり、例えば、水素燃料電池や微生物燃料電池が挙げられる。水素燃料電池は、水の電気分解の逆動作に基づいて水素と酸素から電気エネルギーを得る燃料電池である。水素燃料電池としては、固体高分子形燃料電池(PEFC)、リン酸形燃料電池(PAFC)、アルカリ形燃料電池(AFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体電解質形燃料電池(SOFC)等が知られている。ただ、第一実施形態に係る電極は、特に微生物燃料電池用の電極として用いることが好ましいため、以下、微生物燃料電池について詳しく説明する。
【0046】
図3は、第二実施形態に係る微生物燃料電池の構成を示す概略斜視図である。
図4は、
図3のA−A’線に沿った断面図である。
図5は、
図3のB−B’線に沿った断面図である。
図6は、第二実施形態に係る微生物燃料電池の構成を示す平面図である。
図3〜
図6に示すように、微生物燃料電池100は、正極1と、負極3と、イオン移動層4と、カセット基材5と、電解液6と、容器8とを備える。また、正極1及びカセット基材5で囲まれた空間は気相7であり、例えば空気が充填されている。容器8は、入出口9を備えた廃水
槽であり、入出口9により廃液が容器8内に流入し、また容器8から排出される。廃液である電解液6には有機物が含まれている。電解液6は、微生物が保持された負極3の表面に接触しながら対流し、廃水処理される。
【0047】
(2−1.微生物燃料電池100の原理)
以下、微生物燃料電池100の原理について説明する。
【0048】
負極3では、以下の式1により、電解液6中の有機物が負極表面の微生物により酸化分解されるときに発生する電子を回収する。負極3で回収された電子は、負極及び正極に接続された外部回路を経由して正極1に移動する。
【0049】
有機物+水(H
2O)→電子(e
−)+プロトン(H
+)+二酸化炭素(CO
2) (式1)
【0050】
一方、正極1では、以下の式2により、気相7から供給される酸素と、負極3からイオン移動層4を透過してきたプロトンと、外部回路を経由して移動してきた電子とで水を生成する。
【0051】
酸素(O
2)+プロトン(H
+)+電子(e
−)→水(H
2O) (式2)
【0052】
負極3で起きる上記式1の化学反応と、正極1で起きる上記式2の化学反応とに基づく酸化還元電位の勾配に従い、正極及び負極間で電子が流れる。これにより、正極及び負極間の電位差と外部回路を流れる電流との積に相当する電気エネルギーが、外部回路において得られる。つまり、微生物燃料電池100は、電解液6中の廃水処理により汚泥発生量を低減しつつ発電することが可能となる。
【0053】
(2−2.微生物燃料電池100の構成)
微生物燃料電池100は、カセット基材5を挟むように正極1が配置されている。そして、
図3及び
図4に示すように、正極1の外側にイオン移動層4が配置され、イオン移動層4の外側に負極3が配置されている。
【0054】
このカセット基材5、正極1、イオン移動層4及び負極3からなるユニットが、容器8内の電解液6に浸漬されている。ここで、カセット基材5及び正極1で囲まれた空間は、電解液6とは接触しておらず、気相7となっている。なお、本実施形態では、正極1、イオン移動層4及び負極3の接合体は、カセット基材5の両側1組ずつ配置されているが、カセット基材5の片側のみに配置されていてもよい。
【0055】
正極1は第一実施形態に係る正極であり、イオン移動層4を介して負極3と隔てられている。正極1は、気相7中の酸素の供給を速やかに行うためのガス拡散電極である。また、正極1は、酸素還元反応により外部回路から電子が流入する電極である。なお、本実施形態に係る正極1は、第一実施形態の変形例に係る正極2であってもよい。
【0056】
負極3は、その表面において電解液6中の微生物を保持し、当該微生物の有機物分解反応により、外部回路に電子を流出する電極である。負極3に保持される微生物は嫌気性微生物であることが好ましく、例えば細胞外電子伝達機構を有する電気生産細菌であることが好ましい。具体的には、嫌気性微生物として、例えばGeobacter属細菌、Shewanella属細菌、Aeromonas属細菌、Geothrix属細菌、Saccharomyces属細菌が挙げられる。
【0057】
負極3の表面に微生物を保持するという観点から、負極3は、厚さ方向に対して連続した空間を有していることが好ましい。具体的には、負極3は、例えば、多孔質又はメッシュ状の導電体シートなど、空隙を有する導電体シートであってもよい。あるいは、負極3は、厚さ方向に複数の貫通孔を有する金属板であってもよい。負極3の材料としては、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケル、チタンなどの導電性金属、カーボンペーパー、カーボンフェルトのような炭素材料などを用いることができる。
【0058】
また、負極3には、例えば、電子伝達メディエーター分子が修飾されていてもよい。あるいは、容器8内の電解液6は、電子伝達メディエーター分子を含んでいてもよい。これにより、嫌気性微生物から負極3への電子移動を促進し、より効率的な液体処理を実現できる。
【0059】
具体的には、嫌気性微生物による代謝機構では、細胞内又は最終電子受容体との間で電子の授受が行われる。電解液6中にメディエーター分子を導入すると、メディエーター分子が代謝の最終電子受容体として作用し、かつ、受け取った電子を負極3へと受け渡す。この結果、電解液6における有機物などの酸化分解速度を高めることが可能になる。このような電子伝達メディエーター分子は、特に限定されないが、例えばニュートラルレッド、アントラキノン−2,6−ジスルホン酸(AQDS)、チオニン、フェリシアン化カリウム、及びメチルビオローゲンからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0060】
イオン移動層4は、負極3で発生したプロトンに対して透過性を有する膜である。一方、イオン移動層4は、正極1で保持されている酸素を負極3側に透過させないことが望ましい。この観点から、イオン移動層4は多孔質であることが好ましい。また、イオン移動層4の材質として、例えば、イオン交換膜、ガラス繊維膜、合成繊維膜、プラスチック不織布などが用いられる。なお、イオン移動層4は、プロトン透過性を有していればよく、プロトン以外の物質を透過してもよい。また、負極3から正極1への片方向透過でなくてもよく、双方向透過であってもよい。
【0061】
なお、正極1の第2の拡散層13はイオン移動層4と接触するが、プロトンを含む電解液6中の成分はイオン移動層4を介して第2の拡散層13に浸潤する。
【0062】
カセット基材5は、正極1、イオン移動層4及び負極3の接合体を固定するためのフレーム部材であり、また、正極1が接触する空間に気相7を確保するためのスペーサ部材である。具体的には、
図3及び
図4に示すように、カセット基材5は、正極1における第1の拡散層11の外周部に沿うU字状の枠部材であり、上部が開口している。つまり、カセット基材5は、2本の第一柱状部材5aの底面を第二柱状部材5bで連結した枠部材である。そして、カセット基材5の側面は、正極1の第1の拡散層11における導電層12とは反対側の面の外周部と接合されており、第1の拡散層11の外周部からカセット基材5の内部に、電解液6が漏出することを抑制できる。カセット基材5の材質としては、例えば、塩化ビニルが好適である。
【0063】
第二実施形態に係る構成によれば、正極1での集電機能を有する導電層12は、直接液相と接触していない。よって、液相自体の成分又は微生物により、導電層12中の金属材料20が腐食することを抑制できる。また、導電層12は、酸素透過性材料を含むことにより、気相から第1の拡散層11を介して供給される酸素を第2の拡散層13へ高効率に透過させることができる。また、導電層15は、負極で生成した電子を導通させ、さらに気相から供給された酸素とイオン移動層を介して移動した水素イオンとの反応を促進する機能を有する。そして、導電層15は、金属材料を含むことにより高導電性を有するので、酸素の還元反応の効率を高めることが可能となる。また、正極1をスケールアップさせても内部抵抗の増加を抑制でき、酸化還元反応により生産された電気エネルギーの低下を抑制することが可能となる。言い換えれば、導電特性及び酸素透過性のよい導電層を廃液に接触させないことで、スケールアップしても腐食を抑制して高出力を発揮できる微生物燃料電池100を実現できる。
【0064】
[効果]
第一実施形態に係る正極1は、撥水性を有し、酸素を拡散させる第1の拡散層11と、触媒層30を担持し、酸素を拡散させる第2の拡散層13とを備える。さらに正極1は、金属材料20と酸素透過性材料とを含み、第1の拡散層11と第2の拡散層13との間に配置された導電層12を備える。
【0065】
正極1での導電機能を有する導電層12は、第1の拡散層11及び第2の拡散層13に挟まれており、直接液相と接触しない。よって、液相自体の成分による腐食又は微生物による腐食を抑制できる。そのため、導電層12の高い導電能力を長期間に亘り維持でき、電池特性の低下を抑制することが可能となる。また、導電層12が金属材料20及び酸素透過性材料で形成されているので、正極1をスケールアップさせても内部抵抗の増加を抑制でき、酸化還元反応により生産された電気エネルギーの低下を抑制することが可能となる。
【0066】
また、導電層12の電気抵抗率が2Ωm以下の場合には、正極1の内部抵抗が増加を抑制し、電気エネルギー出力が低下してしまうことを防ぐことができる。さらに、酸素透過率が720000cc/m
2・24h・atm以下の場合には、導電層12を介して気相から液相へ酸素が多量に供給され、液相中に酸素が過剰に溶け込むことを抑制できる。そのため、液相中に存在する嫌気性微生物の有機物分解活性の低下を防ぐことが可能となる。また、酸素透過率が10000cc/m
2・24h・atm以上の場合には、第2の拡散層13での還元反応の速度低下を抑制することが可能となる。このため、導電層12において、電気抵抗率が2Ωm以下であり、かつ、酸素透過率が10000cc/m
2・24h・atm以上720000cc/m
2・24h・atm以下であることが好ましい。これにより、高出力を維持することが可能となる。
【0067】
また、酸素透過性材料は、シリコーンであることが好ましい。これにより、低コストかつ簡素化された工程により、酸素透過性を有する導電層12を形成することが可能となる。
【0068】
また、金属材料20は、粒子形状を有していてもよい。これにより、金属材料と酸素透過性材料との混合により導電層12を形成するに際
し、容易な材料調整で均質な導電層12を形成することが可能となる。
【0069】
また、金属材料は、フレーク形状又はワイヤー形状を有していてもよい。これにより、導電性及び酸素透過性を有する導電層を容易に形成することが可能となる。
【0070】
また、導電層15は、さらに炭素材料を含有していてもよい。これにより、金属材料だけで導電性を確保する正極と比較して、材料入手の容易性、コスト、耐食性、耐久性等の観点で有利である。
【0071】
また、第二実施形態に係る微生物燃料電池100は、微生物を保持する負極3と、負極3に対しプロトン透過性を有するイオン移動層4と、イオン移動層4を介して負極3と隔てられた、第一実施形態に係る正極1とを備える。
【0072】
これによれば、正極1での導電機能を有する導電層12は、直接液相と接触していない。よって、水素イオンや塩化物イオンなどの液相自体の成分又は微生物により、導電層12中の金属材料20が腐食することを抑制できる。これにより、正極1の高い集電能力を維持でき、電池特性の低下を抑制することが可能となる。また、集電機能を有する導電層12が金属材料及び酸素透過性材料で形成されているので、正極1をスケールアップさせても内部抵抗の増加を抑制でき、酸化還元反応により生産された電気エネルギーの低下を抑制することが可能となる。言い換えれば、導電特性及び酸素透過性のよい導電層を廃液に接触させないことで、スケールアップしても腐食を抑制して高出力を発揮できる燃料電池を実現できる。
【0073】
正極1の第1の拡散層11は、酸素を含む気体と接触するように設置されていてもよい。また、正極1の第2の拡散層13は、微生物を含有する電解液6と接触するように設置されていてもよい。
【0074】
電解液6は、有機物を含有していてもよい。これにより、電解液6中の有機物が微生物により酸化分解されることで、電解液6中の汚泥発生量を低減しつつ発電することが可能となる。
【0075】
負極3は、多孔質であってもよく、又はメッシュ状の導電体シートであってもよい。これにより、負極3は、微生物を高密度に保持することが可能となり、微生物による有機物の酸化分解反応を促進することが可能となる。
【0076】
イオン移動層4は、多孔質であってもよく、又は不織布であってもよい。これにより、負極3で発生したプロトンを正極へ透過させることが可能となる。
【0077】
以上、第一実施形態及び第二実施形態、並びにその変形例に係る電極及び燃料電池について説明したが、本発明は、これらの実施形態及び変形例に限定されるものではない。
【0078】
例えば、第一実施形態及び第二実施形態では、正極1、イオン移動層4及び負極3の形状をそれぞれ平板型としたが、電極形状はこれに限られない。例えば、正極1、イオン移動層4及び負極3の形状は、円筒状、ブロック状又はカセット状であってもよい。
【0079】
第二実施形態では、本実施形態に係る燃料電池の一例として、微生物燃料電池100を説明した。ただ、本実施形態に係る燃料電池は、MFC以外の構成、例えば水素燃料電池であってもよい。
【0080】
上述した正極1及び正極2は、微生物燃料電池100の正極に限らず、他の用途に用いてもよい。例えば、正極1及び正極2は、水を使用目的の水質にするための、又は周辺環境に影響を与えないよう排出させるための水処理装置の電極として用いられてもよい。
【0081】
上述した正極1及び正極2は、微生物燃料電池100の正極に限らず、種々の電気化学装置の電極として用いられてもよい。このような電気化学装置としては、水の電気分解装置、二酸化炭素透過装置、食塩電解装置、金属空気電池、金属リチウム空気電池等が挙げられる。
【0082】
また、正極1、イオン移動層4及び負極3からなる接合体が、水圧によってたわむ場合には、例えば、正極1に、当該接合体の形状を保持するためのスペーサを挿入することが好ましい。このようなスペーサの形状は、特に限定されないが、多孔質材料や多数のスリットを有する材料を用いることなどによって、第1の拡散層11及び第2の拡散層13に十分な酸素が供給されるようにする必要がある。
【0083】
特願2014−185340号(出願日:2014年9月11日)の全内容は、ここに援用される。
【0084】
以上、実施形態に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。